シュークリームの悲劇?

  • 1二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 19:18:24

    「美味しいれす〜……トレーナーさん〜……」

    「ふふ……そうか、良かったよ」

     ミーティング終わりの夕暮れ時。あたしは幸せに包まれていた。
     何故かというと、あたしが今食べているもの。手のひらくらいの大きさのシュークリームにある。
     ふわふわの生地で……口いっぱいに広がるクリーム……いくらでも食べられそうなしっかりとした甘さ……。
     うん!いくらでもペロリといけそう!耳と尻尾も大きく動いてしまう。

    「トレーナーさんありがとうございます!あたしのためにシュークリームを買ってくれて!」

    「気にしないでくれキタサン。いつも頑張ってる君へのご褒美だよ」

     そう言ってこちらに向けて微笑みを返してくれた。
     トレーナーさんの言った通り、これはあたしのために用意してくれたシュークリームだ。
     なんでもクラスでも噂になってるくらい有名で、いつも行列が出来てるんだって聞いた。
     今なら当然だと思える。そのくらい美味しいんだもん。

    「でもトレーナーさん。これを手に入れるの大変だったんじゃないですか?クラスでも中々手に入らないって聞きましたよ?」

    「う~ん……並ぶのは大変だったけど、ちゃんと買えたからそうでもなかったよ」

    「そうですか……」

     何でもないように言うトレーナーさん。だけど、あたしには何となくわかってしまう。あたしの喜ぶ姿を見たくて、朝早くから並んだということが。
     あたしだって、もう何年もトレーナーさんと一緒にいるんだ。優しい性格なのも、それを言わないヒトなのも、何もかも知っている。

  • 2二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 19:18:46

    「だから遠慮しないで全部食べてくれ」

     変わらない笑顔を見せるトレーナーさん。それを見てあたしは考える。
     トレーナーさんの言うとおりだ。遠慮するほうが申し訳ない。だからしっかり味わうことこそが一番いい。あたしの笑顔がトレーナーさんにとって、何よりのお返しになるんだ。
     だけど、それはトレーナーさんにとってのはずだ。あたしにとっての一番のお返しはもう思い浮かんでいる。
     そう思い、机に置かれた箱からシュークリームを一つ取り出す。それを持ってトレーナーさんのところまで急いで駆け出した。 

    「キタサン?シュークリームを持ってどうしたんだ?」

    「トレーナーさんも一緒に食べましょう!」

    「え?でもそれは君に……」

     あたしが差し出したシュークリームを見て、困惑してしまった。
     まぁ、あたしが同じことされても同じ反応をするとは思う。だけど……ううん。だからこそだ。
     譲ることなく真っ直ぐとトレーナーさんを見て、あたしの気持ちを話すことにした。

    「このシュークリーム、本当に凄く美味しいです!その美味しさを貴方と一緒に味わいたいんです!だって分け合えたら幸せですから!」

    「キタサン……」

    「三個も買ってくれたんですよ!一つくらい食べてもいいじゃないですか!」

     想いの丈を詰め込んで、シュークリームをトレーナーさんに差し出し続ける。ただ真っ直ぐに伝わってほしいから。
     だけど不安に思う時間もなく、その想いはすぐに届いた。
     トレーナーさんは参ったとでも言うような顔で、ゆっくりとシュークリームに手を伸ばしてくれた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 19:19:06

    「ありがとうキタサン。嬉しい気持ちのお裾分け、喜んで受け取るよ」

    「トレーナーさん……ありがとうございます!あたし凄く嬉しいです!」

     トレーナーさんからの言葉を聞いて、あたしの中の喜びが一杯に広がっていく。それだけで十分なはずなのに、もっともっとと求めてしまう。
     一緒に食べたい……隣でもっと居たい……。
     その想いがあたしを前に進ませてくれた。

    「せっかくだからソファーで一緒に食べましょう!その方がもっと美味しくなりますよ、絶対に!早くいきましょう!こっちですよ!」

    「あはは……分かった分かった。すぐに行くから少しだけ待ってくれ」

     裾を引っ張りながら一緒に行くことを促すと、トレーナーさんは少しだけ苦笑いしながら立ち上がる。
     その姿を確認してからゆっくりと歩き出した。
     ソファーまでの距離は短い。だけど、足音が重なりながら歩ける。それだけでも今は嬉しかった。

     ソファーには先についたあたしから座り、その後に隣にトレーナーさんが座ることになった。

    「それじゃあ改めて、いただきます!」

    「いただきます」

     掛け声とともにシュークリームを食べ始める。あたしは二個目でトレーナーさんは一個目。これでシュークリームは無くなった。だけど、そんなことはもうどうでも良かった。
     隣で一緒に食べられる。あたしはこっちのほうが何よりも嬉しいのだ。

    「……うん。確かにこれは並んで食べるのも分かるな」

    「ふふ……ですよね!これもトレーナーさんが並んだからこそなんですよ!」

  • 4二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 19:19:26

     美味しそうにシュークリームを食べ続けてくれるトレーナーさん。それを見ながらあたしももう一口。
     うん!さっきよりも何倍も美味しい!
     心が飛び跳ねるように食べ進めてしまう。ゆっくり食べようにも、気持ちがドンドンと高鳴ってしまう。クリームがどこに付くのも気にならなかった。

    「はむはむ……♪」

    「……?あっ」

     幸せでこころが天に登ってしまい、目を瞑ってしまう。何かをトレーナーさんが言ったような気がするけど、それを気にすることが出来なかった。
     うん……本当に幸せだ……これ以上の幸せはないよね……。このまま眠ってしまってもいいくらいだよ……。
     だけどそれではシュークリームは無くならない。幸せから意識を覚醒させることを億劫に思いながら、もう一度目を開ける。
     気づいたらトレーナーさんの顔が目の前に迫っていた。

    「……?」

    「…………」

     あれ?何でトレーナーさんが目の前に?隣でシュークリーム食べてたよね?あ、そっか。さっき意識が飛んでたから夢見てるんだね。なるほどそれか。もう一回目を閉じよう。
     スッ……と目を閉じて、ゆっくりと目を開ける。
     変わりなくトレーナーさんがそこにいた。いや、よく見たら手があたしのほっぺたに伸びていた。

  • 5二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 19:19:48

    「!?!?!?!」

     ふえあ!?何かさっきと違う状況になってる!?トレーナーさんの手が近づいていってる!?待って待ってこれもう少しでほっぺたに手がついちゃうよ!と、トレーナーさんあたしに一体何をしようというの!?
     ふるふると震えながら、トレーナーさんの目を見つめる。真剣な表情であたしのほっぺたを見ていて、視線が交わることはない。何をするのかも分からない。
     交わらない視線への恐怖とちょっとだけ感じる謎の期待感で、思わず再度目を閉じてしまう。そして……トレーナーさんの指が……あたしのほっぺたに……触れた。
     指が触れたくすぐったさに身を捩らせる。
     そのまま……手が触れる……のかな……?それから……それから……?高揚感で尻尾が震えてくる。
     
    「……よし、取れたな」

     そして……それで終わった。

    「……?」

     あたしはゆっくりと目を開ける。
     トレーナーさんは指元についた何かをティッシュで拭き取っていた。
     …………えっと?指で撫でられただけ?何で?
     頭にハテナが浮かびつつも、トレーナーさんを見つめ続ける。こっちの視線に気づくと、申し訳無さそうな顔になっていた。

    「すまないキタサン。君の頬にクリームが付いてたから取ってたんだ。声を掛けたんだけど返事がなかって……。とにかくすまない」

    「あ、あ〜……なるほど……なるほど……」

     トレーナーさんの言葉で、何をされていたのか理解した。
     つまりあたしのほっぺたにクリームが付いてて、それを取るために顔を近づけて指で取ったってことか……。なるほどなぁ……。

  • 6二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 19:20:12

     理解した時、あたしはさっきまで考えていたことを思い出してしまった。
     あ、あたし何を考えてたの?何をされると思ったの?指でほっぺたを撫でられて何を感じてたの?それを……嬉しいと思ってしまった?あたしは……あたしは……う……うわ……わわわ……。
     徐々に頭から指先まで血液が高速で巡っていき、全身からブワッと熱が溢れそうになる。

    「ぁぅ……ぅぅ……」

    「キタサン?」

     気持ちを落ち着かせるために、残り少ないシュークリームを一気に口に入れて呑み込んだ。さっきまでの美味しさは何一つ感じることが出来ない。それよりも、ほっぺたに感じた感触とあたしの考えていたことが頭を巡り続け出す。
     目が回りだしてきた。手が震えてきた。耳がピコピコ動き出して止まらない。
     あたしは……もう……ダメだ……!
     頭に思い浮かぶ弁明の言葉を必死に口に出していく。
     
    「ち、違うんです誤解です!あたしそんな事考えてないです!ほっぺた触られてくすぐったいとしか思ってないです!」

    「キタサン?落ち着いてくれ?何があったんだ?」

    「ほっぺた撫で撫でされたら嬉しいなとか思ってないです!あたしは一緒にシュークリーム食べられて嬉しかったです!あたしは……変なことは考えてないですごめんなさい!」

    「キタサン本当に落ち着いてくれ!?」

     トレーナーさんの声が遠くになっていく。頭の中が真っ白になっていく。
     なんだか……意識が……ぼんやり……して……。

    「キュウ……」

    「キタサーン!?」

     トレーナーさんの声が何も分からない。何も考えられないまま、あたしの意識は闇に落ちていった。

  • 7123/08/19(土) 19:21:57

    イチャイチャ書きたいな……と思って書きました。

    イチャイチャしてるのかな?すいません、自分ではわからないです。

    照れキタちゃんは書けたから満足してます。

  • 8二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 20:18:36

    可愛い…微笑ましいね

  • 9123/08/19(土) 20:29:40

    >>8

    ありがとうございます。

    可愛くて書けていたなら幸いです。

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