- 1二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 11:25:50
前スレ
麦わらの一味 占い師 マチカネフクキタル 140スレ目(再)|あにまん掲示板現行の140スレ目が何故か消えていたので立て直しました前スレhttps://bbs.animanch.com/board/197696/SSまとめ&キャラ紹介https://w.atwiki.jp/l…bbs.animanch.comSSまとめ&キャラ紹介
麦わらの一味 占い師 マチカネフクキタル SSまとめwiki【9/9更新】麦わら海賊団 占い師 マチカネフクキタル SSまとめwikiへようこそ SSまとめ(元スレ1~10) SSまとめ(元スレ11~20) SSまとめ(元スレ21~) 以下元スレです。 まとめにはもしかしな...w.atwiki.jpワンピ、ウマ娘双方へのリスペクトを忘れずに。
相手の存在しない記憶は極力否定ではなく、より強力な存在しない記憶で殴り返しましょう。
基本的により厳格な設定を考える場ではなく、より面白い記憶で殴り合う場所なので思いついた幻覚は流れ無視して気兼ねなく投げてok。
スレが荒れて来たらバスターコール発動(フクを変な声で鳴かす)。
荒れるからルドルフ夫とルドルフの年齢のことはモンジョン構文で話す
荒れるから原作でまだわかってない部分・未実装キャラの話はなるべく避ける
SS書き様は神。
次スレはが>>190が立ててください。
- 2二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 11:29:09
よくやった古参の大将
- 3二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 11:53:59
もう古参かぁ…
- 4二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 11:59:08
はいっマチカネスレキタルです!
前スレ埋めもお忘れなく! - 5二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:22:42
ふと思ったけどローライスって両親ガチャSSRコンビだな……
なお - 6二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:23:02
古参の大将乙です
- 7二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:27:21
古参の大将乙です。
エピソード・オブ・テイオー。正確には3D2Yの時間軸で、以前自分が書いたテイオー×カノープスの続編となりますが、投稿します。 - 8二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:28:00
プロローグ
「取り消せよ……!!! 今の言葉ァ…!!!」
マリンフォード頂上戦争。偉大なる『父』と愛すべき『弟』と『妹』、その『友人』たちの死力を尽くした尽力で、ポートガス・D・エースは処刑台より解放された。
しかし、
―――“白ひげ”は所詮… 先の時代の“敗北者”じゃけェ…!!!
海軍大将<赤犬>サカズキに、負け惜しみ染みた言葉で敬愛する『父』を侮辱されたエースは足を止めてしまった。
「エース!」
義兄を救うため、無理をした反動で動けなくなった義弟、モンキー・D・ルフィに肩を貸し支え、かばいながら前を塞ぐ海兵たち―――、数時間前までの同僚たちを薙ぎ払って退路を拓いていた海軍中将―――。否、元海軍中将トウカイテイオーもまた、唐突な、そして義兄『らしい』行動に足を止めてしまう。
「テイオーさん!」
世界が震える。空間をかき混ぜる『波』がテイオーに襲い掛かる。
咄嗟にルフィを突き飛ばして『波』の効果範囲より逃し、自身は自慢の脚を使って逃れる。
ブレブレの実。その能力を手に入れた者は、強力な振動波を放射し空間ごとダイナミックに破砕することも、固有振動数をチューニングしてスマートに粉砕することもできる、『破壊のスペシャリスト』と化す。
海軍本部で厳重に保管されていたその実を食し、ブレブレの能力者になったのは、
「――――――、キタちゃん」
「テイオーさん、あなたは私が止めます!」
- 9二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:28:26
強い決意を湛えた後輩、キタサンブラックに相対し、テイオーは余裕を装った表情の下で臍をかんでいた。
背後では、まだ立ち上がる事も出来ないルフィをかばいながら、エースがサカズキを相手取っている。
海軍大将<赤犬>のサカズキは、マグマグの実の能力者である。<火拳>のエースが宿すメラメラの能力の上位存在であり、生きた炎であるエースを文字通り『焼き殺せる』、唯一の存在であった。
時間がない。
強力な能力者に前と後ろを塞がれて、暫定、自由に動けるのは自分ひとり。この窮地を脱する手段は、速やかに前方の『脅威(キタサンブラック)』を排除しエースに加勢する事。
故に、テイオーは口を開いた。
「キタちゃん―――、どいてくれる?」
「嫌です!」
即答の拒絶。そして予想通り、キタサンブラックは会話を繋いだ。
「テイオーさん! どうして?!」
「―――、キタちゃんの幼馴染で親友の、なんて言ったっけ―――、鹿毛で、あのディープインパクトの血をひいてるっていう―――」
「……ダイヤちゃんの事―――ですか?」
「そう、ダイヤちゃん」
「ダイヤちゃんは今関係ないです! 話を逸らすのは―――!」
「そのダイヤちゃんが、『ディープインパクトの血筋だから』って理由で、見世物のように殺されそうになったら―――、キタちゃんならどうする?」
「―――ッ?!」
ポートガス・D・エースは海賊だ。世を騒がせる犯罪者を捕縛することは社会正義にかなっており、故に海軍は正義だ。
しかし、『ゴールド・ロジャーの隠し子だから』と言う理由で公開処刑にすることは、信賞必罰の原則に反してはいないか? エース自身の罪を越える量刑は公平ではない。それは社会正義に悖るのではないのか?
それこそ、世界政府にとって都合の悪い存在には『祖先の悪行』でもなんでも『悪』の名前を張り付けて殺してしまえばいい。と、そんな暴論に繋がりうる。
それは―――『正義』なのか? ひいては、そこに所属する自分自身は―――、
キタサンブラックは聡明で純心な少女だ。『みんなの笑顔を守る正義』を背負い海軍の門を叩いた彼女には、テイオーの言葉は簡単には咀嚼できず―――、
その動揺の隙に、テイオーの『叉突捷』が突き刺さった。
- 10二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:28:56
「テイオー、さん……?」
『サツキショウ』は、ウマ娘空手の中で最速の技だ。しかし、反面重さに欠ける。それでも敏捷性に長けるテイオーが放つ『叉突捷』ならば、避ける事も防ぐこともできない最強最速の攻撃となる。しかし、キタサンブラックほどの実力者を相手取るには、速度を生かした乱打(ラッシュ)で圧倒するか、攻撃時の無防備なタイミングを後の先で抑える交叉(カウンター)を狙うのが常道だ。
しかし、正面から打ち倒す時間も、ブレブレの能力を相手に、立ち合いの中で隙を見出す時間もない。テイオーは先の先、立ち合い前に相手の気を逸らし、その無防備な隙を狙うことを決め、純心に自分を慕ってくれていた後輩の心に、無遠慮に踏み込んだ。
「ごめんね」
崩れ落ちる後輩を横たえ、劣勢ながらもサカズキと渡り合うエースを振り返る。
―― まだ、間に合う!
全力で大地を蹴り、トップスピードに乗る。能力の相性で優勢に立っているサカズキには、優勢ゆえの隙がある。そこが、ぶち抜くためのルートだ。
―――『究極! テイオーステップ』!
臥竜、雲を蹴り天に昇る。最も自信のある足運びで、義兄と拳を交える海軍大将に迫るトウカイテイオー。
しかし、戦場に吹いた風が、地に膝をつくルフィの麦わら帽子を撫で、小さな紙片が零れ落ちる。
それは、エースのビブルカード。ルフィにエースの危機を知らせ、此処まで導いてきた紙片の動きに、ルフィは導かれるように義兄と敵から気を逸らし――。
その隙を逃さなかったサカズキのマグマの拳が、致命的に迫っていた。
「―――っ!!!」
目の前が真っ赤になる。時間の感覚が引き延ばされる。一度は回避された、兄弟を喪う恐怖がテイオーの心に荒れ狂う。
10年前に味わった、あの絶望を、苦しみを、二度も味わってたまるものか。
- 11二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:29:26
「ッ!」
一瞬、息をつく。取り込んだ酸素を血流に載せて筋肉に運び、全身全霊で大地を踏みしめる。
加速。更に加速。既に全速力だったが、さらに速度を上げるべく奔る。今までの人生すべてを竈にくべ燃やし尽くし、その熱量を全て敵にぶつける様に、テイオーは奥義の体勢に入る。
『ニホンダービー』
ウマ娘空手の二つ目の奥義にして、ウマ娘の潜在能力を全て引き出してそれをぶつける技。習得には長い修業を要し、その難易度から、修めた者は『最も運がいいウマ娘』ともいわれる『特別』な技。
かつてトレセン諸島でワカタカが編み出して以降、トキノミノル、シンザン、ミスターシービー、スペシャルウィークなどの名だたるウマ娘が修めたこの奥義を、トウカイテイオーもまた修めていた。
秘中の秘。切り札の中の切り札を切って、勝負に出る。
―――そして、脚の砕ける音を聞いた。
失速する。身体バランスを失い目に見えて速度が落ちる。
そもそも、ウマ娘の骨格はその全速力に耐える様にはできていない。筋力に対して、骨の強度がまるで足りていない。
故に、己の全ての力を極限まで振り絞る『ニホンダービー』は、ウマ娘と相性が悪い。致命傷を負わずに習得できるのはまさに『運が良い』ことで、習得したとしても『幸運は二度も続かない』―――。『一度きりの奥義』なのである。
テイオーは転倒する。砂塵を巻きあげ地面を滑り、それでもルフィに手を伸ばして、迫るマグマの拳から少しでも遠ざけようと足掻く。
それでも――、届かない。
サカズキの拳は、二人をまとめて焼き尽くさんと迫り、
割り込んできたエースの背中から腹までを貫通し、ハラワタから二人の兄を焼き焦がしていた。
何が起きたのかがわからない。
ルフィは、崩れ落ちる兄を受け止める。1,000℃を超える高熱に、皮膚も肉も焼かれて内臓は爛れ、血液は沸騰していた。
- 12二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:29:53
- 13二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:30:42
第1幕
―――ゴールド・ロジャーにもし子供が居たらァ?
―――そりゃあ打ち首だ。
―――世界中の人間の、ロジャーへの恨みの数だけ、針を刺すってのはどうだ。
―――火あぶりにしてよ、笑いものにするんだ。
―――遺言は、こう言い残してほしいねェ
―――生まれてきて、すみません、ゴミなのに。
―――ぎゃはははははは……!
* * *
空の青を写し取ったかのような海。風一つない穏やかな波に揺れるだけの海面は、どこまでも広く、大きく、銀の鏡のように輝いていた。
まっすぐに―――
ウマ娘が二人乗った小舟を曳いて、駆けるウマ娘の白い航跡が青い海に刻まれていく。
舟上のウマ娘であるのは、ゼンノロブロイとマーベラスサンデー。乗船が嵐に巻き込まれ沈没し脱出用の小舟で漂流しているところに、折よく、海の上を走るウマ娘が通りがかるという偶然にも程がある経緯―――マーベラスサンデーに言わせれば、とってもマーベラスな出来事―――を経て彼女らは、凪の帯(カームベルト)を駆け抜けていた。
―――マーベラス☆!!
青い空を、歓喜の声が貫いた。
「テイオー、大丈夫? 疲れてない?」
「ん。大丈夫だよ、マーベラス。
ただ―――、ちょっとこの感触は、海王類の群れかな? これ」
船を曳き、海面を駆けるトウカイテイオーの見聞色は、自らが蹴る波の奥、海中に蠢く生き物たちの息遣いを捉えていた。
「どうしましょうテイオーさん。コースを変えた方が良いでしょうか?」
- 14二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:31:36
「んー。まぁ結局、凪の帯はどこもかしこも海王類だらけだからね、どっち行っても似たり寄ったりじゃないかな?」
100%安全なルートなどどこにもない。見聞色を頼りにかわしながら進む他ないと、テイオーは足を止めない。
「じゃあテイオーが集中できるように、キラキラマーベラスに歌で盛り上げよう!」
「ヘ?!」
さすがに予想外過ぎて、片膝まで海に沈んだ。
「ワン、ツー、スリー、フォー!」
――ヨホホホ~ ヨホホホ~♪
――ヨホホホ~ ヨホホホ~♪
「シカモビンクスノサケ?!」
「ほら、ロブロイもテイオーも!」
「ボクモ!!??」
「私もですか!?」
――ヨホホホ~ ヨホホホ~♪
――ヨホホホ~ ヨホホホ~♪
有無を言わさず歌い続けるマーベラス。
「び、びんくすっのさっけを、とっどけにいくよ~」
「ロブロイ?!」
「海風 気まかせ 波まかせ~」
「「潮の向こうで 夕日も騒ぐ~ 空にゃ 輪をかく鳥の唄~」」
「アアモウ! ワカッタヨ!! さよなら港 つむぎの里よ~」
「「「ドンと一丁唄お 船出の唄~」」」
「「「金波銀波も しぶきにかえて おれ達ゃゆくぞ 海の限り~」」」
――ビンクスの酒を 届けにゆくよ~
――我ら海賊 海割ってく~
- 15二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:32:05
広い海に、高い空に、三人の歌声が広がっていく。
――波を枕に 寝ぐらは船よ~
――帆に旗に 蹴立てるはドクロ~
慣れ親しんだリズムが体に染み込む。知らず、曲のリズムと足を運ぶリズムがシンクロする。
――嵐がきたぞ 千里の空に
――波がおどるよ ドラムならせ
蹴立てる波の――、その波を作る、水中を泳ぐ生き物たちの動きの緩急までもが、リズムとしてテイオーの体を揺らす。
――おくびょう風に 吹かれりゃ最後
――明日の朝日が ないじゃなし
鏡の海面を突き破り、巨大な鎌首がもたげられた。その質量の移動が、巨大な波を生みテイオー達に襲い掛かる。果たして――、最初から決まった振り付けを踊る様に、トウカイテイオーは波に乗り、その牙を避ける。
――ヨホホホ ヨホホホ
巨大な爪が振るわれ行く手を塞ぎ、煽る愚風にのって爪の隙間を縫うようにテイオーは走る。
――ヨホホホ ヨホホホ
撓る尾が海面を割り、その波に載ってテイオーは跳ぶ。
――ヨホホホ ヨホホホ
- 16二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:32:30
海水ごと飲み込もうと大渦を生む口を、渦の勢いで加速し逃れ去る。
――ヨホホホ ヨホホホ
縄張りに入り込んだ不遜な獲物を仕留めようと、いきり立った巨大な海洋生物の群れが、矢継ぎ早に襲い掛かる。襲い掛かって、いるはずである。
それはダンスであった。或いはライブであった。そしてライブであるのならば、共演者のアドリブや突発的なトラブルごときで狼狽える素人に、ステージに立つ資格は無い。
次から次に襲い来る海王類を軽々かわしていくテイオーの姿は、ゼンノロブロイに、かつて故郷で見たウイニングライブを思い起こさせた。
勝者も敗者も、観客すら一体になって歌い踊る、ウマ娘の宴。
凪いだ海の上、テイオーも、ロブロイも、マーベラスも、海王類ですらこの画を創る主役であり、脇役であった。皆が観客で皆が道化、参加する者すべてが歓喜の光に包まれる、栄光の場所。
光の下、3人のウマ娘は海と歌い、風と踊っていた。
――ヨホホホ ヨホホホ
――ヨホホホ ヨホホホ
――ヨホホホ ヨホホホ
――ヨホホホ ヨホホホ
かつて、ウマ娘は神に捧げるために走り、舞ったという。
神とは海だ。時に恵みを、時には死を。ウマ娘の与り知らぬところで命を生み出し、育み、奪う。気まぐれで理不尽な、強大な力。
海に近づき、海と通じ、海と共に生きるもの。
「神通―――」
図らずも海王類すら共演者にしてしまった自分達の現状に、知らず原始ウマ娘の姿を重ねたゼンノロブロイは小さく呟き、
- 17二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:32:56
「うわっ。なんか凄いもの見せられたね……?!」
海王類が逃げ去り急速に静寂を取り戻した海で、その原因である帆船ほどもある巨大なマダラオオトカゲと、その頭に立つ一人のウマ娘に出会った。
「どちら様?」
巨大トカゲに進路を塞がれ、トンボをきって舟に飛び乗ったテイオーは、いつでも即座に動けるよう適度にリラックスする。
その警戒を隠そうともしない姿に、トカゲ上のウマ娘はにやりと凄絶に笑った。
「いい目つきだ―――。アタシとタイマンはってみるかい? トウカイテイオー」
「! へぇ……。ボク、強いよ?」
「そいつぁ良い」
テイオーは小舟の舳先で牽引ロープを解き、いつでも舟を後ろに蹴り逃がせる体制で待ち構える。
相手はトカゲの上で半身に構え、腰を落とす。肩の高さに掲げられた右手では、五指を鉤爪の様に湾曲させ、まっすぐテイオーの心臓を狙っている。
「あわわわわわ―――」
舟尾では、ゼンノロブロイが慄いていた。
目の前のウマ娘の正体は、彼女には心当たりを通り越して確信があった。根拠はその姿と左耳のシュシュの模様。何より、マダラオオトカゲを乗騎として凪の帯を渡るウマ娘など、一人しかいない。
彼女は、その武勲を物語に謳われる、生ける伝説そのものだ。
そんな彼女が、ロブロイの新しい友人と一触即発である現状。凪いだ海面に、急速に覆い積み重なっていく敵意。思考は混乱の途をひた走り、恐怖が意識を空白に飛ばしかけていた。
「とめよう、ロブロイ」
もう一人の友人であるマーベラスサンデーの声が、寸でのところで思考を現実につなぎとめる。
「そ、そうですね! ―――待ってください『ヒシアマゾン』さん!」
トカゲ上のウマ娘が、目を見開く。
「私たちは、アマゾン・リリーと敵対しに来たわけじゃないんです! ただ、シルバーズ・レイリーさんとモンキー・D・ルフィさんに会いたいだけなんです! 信じてください!」
- 18二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:33:20
アマゾン・リリー所属の海賊ウマ娘、『女傑』ヒシアマゾン。かつて偉大なる航路を駆けた彼女の逸話は、様々な物語として語り継がれている。
彼女は、名乗ってもいない本名を言い当てた小さなウマ娘に注視した。
「あんた、名前は?」
視線の迫力に、恐怖で縮み上がりながらも、
「ろ、ロブロイです! ゼンノロブロイ! 海賊の! ゴール・D・ロジャーの研究をしています!」
「ほぉ……。だから、レイ公に会いたいってか―――」
「はい!」
「私は、マーベラスサンデー! ロブロイとテイオーの友達!」
星を映す瞳で、マーベラスな挨拶をするマーベラスサンデー。
ジロリと、ヒシアマゾンは視線をテイオーに戻す。ロブロイとマーベラスに毒気を抜かれていた彼女は、素直に口を開いた。
「姉が弟に会いに行くのって、そんなに可笑しい?」
肩をすくめながらの返答に、ヒシアマゾンはフムと一つ頷き。
「悪いけど、お引き取り願うよ」
「―――!! 理由……。聞いていい?」
ロブロイの勇気に一度は霧散させた敵意を、再び漂わせるテイオー。
「レイ公はともかく麦坊―――、アンタの兄弟は留守にしてる」
動じる素振りも無く、ヒシアマゾンは答える
「留守? どこにさ?」
「ソニ嬢とマリ嬢を攫って行ったバカがいてね。麦坊はハン嬢と一緒に、二人を取り返すために闘いに行って、別件で留守だったアタシも、いまそこに向かってる最中」
そのバカの名は、バーンディ・ワールド。インベルダウンLEVEL6に収監されていた、30年前の大海賊だ。
地獄の大砦から這い出した亡霊は、天竜人の外遊船を護衛の海軍艦3隻と共に撃沈し、世界政府に宣戦を布告。その鎮圧のため、ヒシアマゾンの主人である海賊女帝ボア・ハンコックを含んだ王下七武海が招集される―――が、その矢先に事件は起こった。
ワールドは、ルスカイナ島で修行中のルフィに、ハンコックからの差し入れを届けに行った帝妹のサンダーソニアとマリーゴールドを襲撃、割って入ったルフィを撃退し、二人を人質にハンコックの身柄を要求してきた。
そうして、海賊女帝は盗まれた妹を奪還に、ルフィは世話になった恩人を救出するため、ご丁寧にも残されたバーンディ・ワールドのビブルカードの反応を頼りに、即座にかき集められただけの僅かな手勢と共に戦いを挑みに行ったということだ。
- 19二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:33:42
「……なるほど、ルフィらしい―――」
弟の決断に納得のため息を一つ。テイオーは逡巡していた。
ルフィを助けに行く。それはもう決定事項だ。頂上戦争に続いて、また一人兄弟を失ってたまるものか。ヒシアマゾンに断られようが、このトカゲの後を走っていけばいい。
問題は、ロブロイとマーベラスをどうするかだ。
今はヒシアマゾンのマダラオオトカゲを恐れ逃げ散ってはいるが、そもそもここは海王類の巣。小舟一つを置き去りにするのはただの死刑宣告で、しかし、船をつけられる陸地などこの辺りにはないし、探している時間もない。
友と弟、どちらも守りたいが一人では無理だ。
板挟みの現実からテイオーを救ったのは、ロブロイの一言だった。
「私もつれて行ってください!」
「?! ロブロイ!?」
それは無茶だ。テイオーとしては有難い限りだが、テイオーとヒシアマゾンの視殺戦に中てられ、意識を失いかけていた彼女に、本物の戦場は危険すぎる。
しかし、そこには恐怖に震える小さなウマ娘の姿はなかった。
「だって、ワールド海賊団のバーンディ・ワールドですよ! <世界の破壊者>と謳われた、海賊王と同年代の生きた伝説! 海賊の研究者として見逃せません!!」
「……あんた、正気でいってんのかい?」
眼鏡の下の、好奇心に冒された目を隠そうともしないロブロイに、ヒシアマゾンが問いかけた。
「そんなもの、ゴール・D・ロジャーの研究を始めて海に出た時に投げ捨てました!」
あまりにも潔すぎるロブロイのセリフに、テイオーもヒシアマゾンもしばし言葉を失う。ただ一人、マーベラスサンデーだけが舟のなかで笑い転げていた。
「仕方ないね―――。ジャングラー!」
ヒシアマゾンの一声で、マダラオオトカゲは海面を割って腕を伸ばし、テイオー達の小舟を掴み上げると自らの背に載せる。
「ちょっと揺れるから、振り落とされるんじゃないよ!」
言うが早いか、雲が空に溶けるような速度でヒシアマゾンの乗騎―――マダラオオトカゲの『ジャングラー』は、凪いだ海面を切り裂いていった。
- 20二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:38:25
- 21二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 12:40:01
面白かったです!
今からもう続きが楽しみになってきました!
ヒシ「アマゾン」の相棒で「マダラオオトカゲ」の「ジャングラー」で思わずニヤリとしてしまいました(笑) - 22二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 14:02:42
- 23二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 20:03:06
小ネタ:えへへ、ローくんと討ち入り
捕まっちゃった時はどうなるかと思ったけど逃げられてよかったよ……ドレークさんには感謝だね
ホーキンスさんがローくんに酷いことしたのは許せないけど、ローくんに念入りにバラバラにされてたから怒る気も失せちゃった……。ローくん、凄く怒ってたな……やっぱり許せないよね、十年以上の付き合いのベポ先輩たちを人質に取られたんだもん……
ハプニングはたくさんあったけど作戦通り乗り込めそうでよかったね。ワノ国に来て色んなことがあったなぁ……サンジさんのおそばすごくおいしかった……
でも本番はここからなんだよね……ライス、ローくんの役に立てるかな……立てるといいな……。そしてライスはローくんと一緒にお城のような建物に……きゅぅ - 24二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 20:08:12
そこマリージョアだろ
- 25二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 22:47:24
しまった、城/塞ライスのパロディなのにお米ジョーク入れ忘れてた……不覚
- 26二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 23:31:04
鬼ヶ島は城みたいなもんだし
- 27二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 01:32:50
きゅう言うとる場合じゃない!
- 28二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 02:57:28
ドレスローザ編見てて思ったがバッファローってあっさりやられ過ぎてるしどうにか再利用出来ねえかなぁ
- 29二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 07:51:28
- 30二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 10:59:00
- 31二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 10:59:33
第2幕
王下七武海、<道化>のバギー。懸賞金6000万ベリーの小悪党でありながら、『元ロジャー海賊団の一員』『「四皇」赤髪のシャンクスの兄弟分』『伝説の住人から生ける伝説へ』と、輝かしい肩書を持つ新進気鋭の王下七武海の一人である。
七武海となって初の招集に浮かれ、のんきに早朝のグランドラインを航行している時、見張り台から部下が呼ぶ声が響いた。
「キャプテン! キャプテン大変だぁ!」
「どうしたぁ揉め事かぁ!」
見張り台まで駆け付け、望遠鏡をのぞくバキーは、即座にド派手な驚愕顔を晒す。
「なんじゃこりゃあ!」
彼の船に、巨大な影が近づいていた。
* * *
<グローセアデ号>。
ワールド海賊団の乗船にして根城。キュブキュブの実の能力を持つ船大工ガイラムが30年かけて建造した、ちょっとした小島程の威容を誇る潜水艦である。
その奥まった一室。船長のワールドが知らぬ一角で、右角の折れたバイキングヘルムをかぶり、点滴台を引きずった老人がソレを見つめていた。
バーンディ・ビョージャック。バーンディ・ワールドの兄であり、一味の頭脳担当である彼の意識は、数年前を回想していた。
―― いや、確かに私は肉体改造の権威であるつもりだが…。君の注文は無理だ。
―― 単純に年齢の問題だよ。君は年老い過ぎている。
とある冬島で、老婆の医者と二足歩行のトナカイに七色に光る謎の男と暮らしていたそのウマ娘は、はっきりと事実を告げた。
- 32二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:00:03
―― 『次』は家族を見捨てない。そのための力を求める姿勢に思う所はあるが、無理なモノは無理だ。生き物は機械ではない。
消沈し、その場を去ろうとするビョージャックに、しかし彼女は一通の封書を渡した。
―― 何、既に変革するには手遅れである君でも、君自身が変わる事だけが回答ではないだろう。
―― ソイツに会いたまえ。なにがしかの足しにはなると思う。
そうして、ビョージャックは封書により紹介されたその人物に出合い、目の前の『力』を受け取った。そしてもう一つ―――。
「こちらに居られましたか、マスター」
過去に向けられていた意識が現代に引き戻される。彼を呼んだのは、一人のウマ娘であった。
「ブルボン、何の用じゃ?」
「船長がお呼びです。至急ブリッジにと」
ですのでお迎えに上がりました。と、白い衣装に、発光器官を備えた鎧とも呼べない銀の装飾を纏ったウマ娘は、ビョージャックを担ぎ上げる。
彼女こそ、ビョージャックに『力』と共に与えられたウマ娘『ミホノブルボン』であった。
「すまんな」
「いえ。これがドクターより与えられたオーダーですので」
にこりともせずに、彼女は通路に靴音を響かせる。
「ブルボン」
「何でしょう?」
「おまえは、どう思う?」
「ステータス『困惑』を検知。コマンドは明確に入力してください」
「この船と、設えられた巨大砲、そしてワールドの能力があればマリージョアを吹き飛ばすことは出来るじゃろう―――」
「肯定。十分に可能であると計算結果が出ています」
- 33二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:00:29
「―――それで、良いのじゃろうか?」
「ステータス『疑念』を検知。船長の目的は『復讐』。その目的を果たすためのプロセスであることは明白です」
「その後は―――、ただの戦争と、滅びが待っておる。この船は、わしらの自由の象徴であったはず。自滅の道をひた走る事は、本当に自由と言えるのじゃろうか?」
「肯定。自由とは『自らを由とする事』。即ち、自ら考え、自ら決定し、自ら行動し、自ら責任を負うことに他なりません」
「自分で決めたことの結果、滅ぶのなら受け入れろと……そういうことじゃな」
「肯定」
「すまんな、ブルボン。わしらの滅びに付き合わせてしもうて」
「発言の意図が不明。ドクター・ベガパンクに従うと、自ら決めたのは私です」
「そうか……。すまん」
「発言の意図が不明」
二人の会話は、指令室(もくてきち)についたことで、終わりを迎えた。
指令室の扉をくぐったブルボン達に、左の角が折れたバイキングヘルムをかぶった大男の、鋭い視線が向けられる。
「遅いぞブルボン。1秒の遅刻だ」
「否定。遅刻は0コンマ31。誤差の範囲内です、船長」
ざわり。と、空気が揺らぐ。
この大男こそ『バーンディ・ワールド』。情け容赦のない海賊らしい性格の海賊であり、先だって天竜人の外遊船を沈めた際は、自らが課したタイムリミットを超過したもの、自らに反抗し逃げ出すものを容赦なく殺害した。
そんな冷酷無比な男に、正面切って口答えするウマ娘。彼の恐ろしさを刻みこまれている部下の海賊たちは、条件反射で身を固くする。
しかし、
「ふん。無駄口をたたいている間に、もう10秒経ったぞ。速く持ち場につけ」
「承知しました。船長」
何事もなく、ミホノブルボンが所定の場所に立った。
――バーンディ・ワールドは、もしかして、意外と甘い男なのではなかろうか?
- 34二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:00:59
そんな疑念を浮かべる者は、一人もいない。
「船長、九蛇の船が見えたぞ!」
電伝虫から、見張り台に居るガイラムの声が響く。
「海賊女帝のお出ましだ。出迎えてこい」
「ステータス『武者震い』を検知。お任せください」
壁が開き床が動く。暗い室内に光が差しこみ、吹き込む風が荒れ狂う。
キュブキュブの能力で組み上げられた<グローセアデ号>は、創造者であるガイラムの意思一つで容易に形を変える。
指令室は今や、ブルボンを射出するためのカタパルトに変わっていた。
「ミホノブルボン。行きます」
彼女の腰に輝く発光体が展開し、紫の燐光を発する。
ガイラムのキューブが足元でうごめき、火花の煌線を描く。腰を深く落とし、急加速を乗りこなしたブルボンは飛翔し、
―――クラシック奥義『刹起衝』
紫光の尾を引いて、九蛇海賊船の甲板に立つ<海賊女帝>ボア・ハンコックに、弾丸の蹴りを打ち込んだ。
「あぶねぇ!」
すんでのところで、ゴムの能力によって攻撃に割り込む<麦わら>のルフィ。超人系悪魔の実、ゴムゴムの実を食べたゴム人間のルフィには、単純な打撃は通用しない。
空気をため込み、体を膨張させるその技は『ゴムゴムの風船』と名付けられ、砲撃にも破られることのない堅固なる防壁であった。
弾き飛ばされた襲撃者は、空中で体勢を立て直し甲板に着地する。
- 35二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:01:21
「忘れていました。あなたが居たのですね。モンキー・D・ルフィ」
「キサマ! わらわの愛しい人を足蹴にしようとは何たる不遜!」
怒りの声と共に、ハートの嵐を巻き起こすハンコック。
―――『メロメロ甘風』
見たもの全てを石化する魅力の嵐は、しかし、誰もいない空間を薙いだだけであった。
「なんじゃと!?」
「速えぇ!」
驚愕の声が上がる。敵はウマ娘だ。その事を忘れていたわけではない。しかし敵の速度は、仲間であり同じウマ娘のマチカネフクキタルを見慣れているルフィであっても、驚きを禁じ得ない。
「奴はどこに行きおった!」
ハンコックの絶叫に答えたのは、悲鳴であった。
悲鳴の場所は、九蛇海賊船の居住スペース。悲鳴の主は、ハンコックが手勢として引き連れてきた、アマゾン・リリーの戦士たち。
一方的に打ちのめされ気絶した戦士たちが、次々と甲板へと放り出される。
そして敵は、眉一つ動かさず悠々と、船室より再びルフィたちの眼前へと現れた。
「てめぇ! 何しやがる!」
「まずは数を減らす。戦闘の定石だと思いますが?」
柳に風と、知人を傷つけられたルフィの怒りに淡々と返答する白と銀のウマ娘。
「では、改めまして自己紹介を。私はミホノブルボン。現在はバーンティ・ワールド麾下のウマ娘です」
「攫ってった二人はどこだ!」
- 36二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:01:52
ルフィの怒号に、流れるような仕草で<グローセアデ号>の一角を指差すブルボン。
船体外殻の一部が解放され、その奥の船内ホールの光景が晒される。そこには、鳥籠の様な折がぶら下げられており中にはサンダーソニアとマリーゴールドが囚われていた。
「さて、無駄な抵抗は止めてご同行願いましょう。ボア・ハンコック」
「貴様ぁ、わらわに指図するか!」
「ええ。それが船長、バーンディ・ワールドのオーダーですので」
ハンコックを見ようともせず、一方的に告げるだけ。その不遜な態度を崩さない敵に、海賊女帝の怒りは頂点に達し、再びの『メロメロ甘風』を放つ。しかしその時には、またしても敵は視界より消え去り、
―――クラシック奥義『弐奔打尾』
鞭のように撓る拳の連撃を、ルフィに叩きこんでいた。
「?!」
かろうじて反応、ブロック。しかしルフィは腕で受けた打撃の感触に違和感を覚える。
「武装色!? やべぇ!」
武装色の覇気。現在ルフィが習得のために修行を重ねている戦闘技法。
それは、絶対なる意志の力により、本来触れられないものを捉える手段。自らを炎や光と化す自然系悪魔の実の能力者を、唯一殴り飛ばすことのできる力である。
それはゴム人間のルフィとて例外ではない。覇気を用いた攻撃はゴムの特性だけでは防ぎきれない。
当然の帰結として、ルフィは吹き飛ばされ、海へ落ちた。
「ルフィ……! サロメよ!」
動揺したハンコックは、何時も首に巻いている大蛇をルフィ救出に向かわせる。だが、白いウマ娘が片手を上げると、
――銃声
- 37二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:02:20
グローセアデ号から、雨あられの様に打ち出される弾丸が、大蛇の動きを阻みルフィ救出を阻害する。
「おのれ! よくもわらわの愛しい人を二度もぶちおったな!」
「私を見ている場合ですか?」
「貴様っ!」
「おとなしく投降するのなら、銃撃を止めさせましょう」
「―――――ッ~~~~~!!」
徹底的にハンコックを眼中に入れず、取引を持ち掛ける。
悪魔の実の能力者は海に嫌われ、体が水につかると行動不能になる。海に落ちれば溺死は必至。
ハンコックが助けに行くことも出来ない。ハンコックもまた、メロメロの実の能力者である。ルフィを追って海に飛び込んだところで、それはただの後追い自殺だ。
矢継ぎ早に進行する状況、目の前の敵の眼中にもないという屈辱、愛する人の危機への焦燥に、ハンコックが次の挙動を迷ったその一瞬。
―――ウマ娘空手『瞬杭脚(スプリングステークス)!』
敵の脚が、サロメを捉え甲板に沈める。
これで積みだ。ハンコックが、『メロメロ甘風』で銃撃を黙らせ、サロメの行動の自由を確保する手もあった。だが、そのサロメが沈んでしまえばだれも、ルフィを助けに行けない。
ハンコックの愛する人を救う手があるとすればそれは―――
「もう一度言います、投降して下さい。そうすれば、モンキー・D・ルフィの命を助けます」
―――<サイボーグ>ミホノブルボン。
彼女が、なぜワールドから特別扱いを受けているのか、その答えは単純明快。
十把ひとからげの雑兵は言うに及ばず、下手をすればすでに年老いた幹部たちよりも、彼女が『使える』からに他ならない。
- 38二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:03:47
進退窮まったハンコックは、焦燥の中でそれでも敵を打ち倒し、愛しいルフィを救う方法を見つけようと思考を巡らせる。
しかし、時間がない。暗い海中では、刻一刻と死神の鎌がルフィに迫っている。だからこそ考えねばならないしかし考えるだけではただでさえ少ない残り時間が―――、
「……彼は―――。後何秒、息を止めていられるんでしょうね」
その言葉が、極限まで精神を削り取った。
唇がわななく、手が震える、膝が笑って崩れ落ちそうになる。
ルフィが死ぬ。愛する人が死ぬ。もう二度と、会うことも、言葉を交わすことも出来なくなる―――。
恐怖。
「―――――――!!!!」
轟音。
天を仰いだ声なきハンコックの悲鳴に答えるかのように、上空から斬撃の衝撃波が降り注ぎ―――、長い髪をなびかせた影が甲板に降り立った。
「悪いね。―――遅くなった」
ハンコックを護るようにブルボンとの間に割り込んだのは、白と青の衣装から小麦色の肌を晒す、黒鹿毛をなびかせた一人のウマ娘。
彼女の名はヒシアマゾン。
かつて、アマゾン・リリーより誘拐された3姉妹を追って偉大なる航路を暴れまわり、数々の伝説を打ち立てたハンコックの教育係であり、現在ではアマゾン・リリーの戦士を鍛え上げる鬼教官である。
「データ照合。……。確認。<女傑>ヒシアマゾンと認定。―――お目にかかれて、光栄です」
「そいつぁどうも。しかしまぁ―――ハン嬢を泣かしてくれるとは、よくもやってくれたね」
ブルボンとアマゾンがにらみ合う。
「何をしておるかヒシアマ! コヤツなぞどうでもよい! ルフィを! 早うルフィを助けんか!」
- 39二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:05:52
火花散らす視殺戦など気にも留めず、喚き倒すハンコック。
ヒシアマゾンは焦ることなく、
「安心しな―――。ヒシア姐さんに手抜かりはないよ」
その瞬間、海面が爆発した。
帆船ほどの巨大なトカゲが、海面を割り出て水柱を建てる。
ヒシアマゾンの乗騎、マダラオオトカゲのジャングラー。その巨体が押しのけた海水は、津波の様にグローセアデ号の表面を洗い、銃を構えた雑兵共を押し流す。
大波に揺れる海賊船の上で、ハンコックはジャングラーの頭部にすくい上げられたルフィの姿を見つけ―――、
「わらわのルフィに何をしておる!」
トカゲの頭の上で、ルフィに肩を貸し親しげに言葉を交わすウマ娘に、罵声を投げつけた。
- 40二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:09:44
- 41二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:16:24
乙またブルボンが増えてて草、あとはまあハンコックが動かしにくいのはしゃーない王下七武海だしな
- 42二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 11:27:29
「海軍マヤノ!」
「フランキー一家マヤノ!」
「海軍ブルボン!」
「ジェルマブルボン!」
「ドンキホーテファミリーブルボン!」
「「「「「我ら!!!!!」」」」」 - 43二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 12:07:42
- 44二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 12:55:29
シュガー気絶で人間に戻ったキュロスに首絞められて窓の外に投げられて退場だったな
- 45二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 15:41:50
このレスは削除されています
- 46二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 15:43:01
- 47二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 15:50:08
- 48二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 20:45:47
エル「キャプテン!枕投げしましょう!」
っていうのがふと浮かんだ
今でもやってそう(偏見) - 49二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 21:20:24
そして後から混じるカバジとモージ、そしてリッチー、その次にアルビダが混ざり、その様子を呆れた様に見てるが自分のところにも枕が飛んできたことがキッカケで最後に 3兄さんが参加すると
- 50二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 22:33:04
俺はトレセン諸島の一般ヒト息子、初めて外の男の人を見たけど外の男はみんな腕が伸びたりウマムスメ達より力持ちなのか?
- 51二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 22:58:57
以前デリンジャーでも同じような話題があったな、フクキタルの動きがグリーンビット以降どうなるかだな
- 52二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 23:23:57
- 53二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 03:46:24
BNWはトレセン出身なのか?
- 54二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 06:09:20
寧ろ地方にしろ中央にしろトレセン出身じゃないウマムスメのが少ないんじゃないかな
出自がまだはっきりしてない黄金世代と北の海出身のライスくらいじゃない?
カレンチャンだって西の海を訪れたことがあるだけで出身自体はトレセンだった筈 - 55二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:10:56
- 56二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:11:41
第3幕
――― おれたちは絶対にくいが無いように生きるんだ!
兄は、弟妹に告げた。
――― おう!
――― うん!
三人になった兄妹は誓った。
――― 誰よりも自由に!
生きる事を。
10年後、兄は処刑台に立った。弟妹の目の前で。
* * *
ジャングラー頭部。
「マッタクルフィハジンブガオヨゲナイッテコトワスレテルンジャナイノ!」
「ゲホッ……。うるせぇ……耳元で騒ぐな……」
「ウルサイッテナニサ! シンパイスルボクノミニモナッテヨネ!!!」
海から引き揚げられたばかりで苦しい息の下から声を絞り出すルフィと、ジャングラーと共に海中よりルフィを引き上げたトウカイテイオー。
せき込み、気管に残った海水を吐き出して、ルフィはテイオーに向きなおった。
- 57二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:12:58
「サンキュ、助かった、テイオー」
「―――。どういたしまして。ま、ボクはお姉さんだからね、弟を助けるのは当然さ」
「おい―――」
「ええい! わらわのルフィから離れんか貴様ァ!」
怒号一発。染み一つない輝かんばかりの美脚がテイオーを襲う。
「ウワッ! イキナリナニヲッテ、スッゴイビジン!?」
激情のまま、ジャングラーの頭まで跳んできたハンコック(恋する乙女)。しかし、
「まってくれ、ハンコック」
「はい! あなた♡」
「ワーオ、ブレーキセイノウタカーイ。って、ハンコック?! キミが例の<海賊女帝>?!」
「先ほどから頭が高いぞ、貴様。わらわを誰と心得る! そもそもルフィと親しげにしおって、何様のつもりじゃ!」
「ウワー、ミクダシスギギャクニテミアゲテルヨ……。ってそっか、自己紹介がまだだったね」
テイオーは、軽く佇まいを正すと、
「初めまして、ボクはトウカイテイオー。ルフィの姉だよ」
何時も弟がお世話になっています。と頭を下げた。
「ルフィの姉とはいえ、わらわの許しなくルフィに近づく……。姉とな?! つまり、わらわの義姉であると?! これが噂に聞く小姑の嫁いびり?!」
「ボクガイツキミヲイビッタノサ!」
姦しい声を遮ってルフィが口を開く
「おいテイオー」
「ナニ?!」
「いつお前が姉になったんだよ! 俺が兄貴だ!」
「チョッ! タダンノモリデノカリショウブデキマッタデショ! ボクガサンバンメ! キミガスエッコ!」
「アレは俺の勝ちだっただろ!」
「ボクノカチダッタ!」
「いーや俺だ!」
「ボク!」
- 58二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:13:35
「うぬぬぬぬぬ」
「ヌヌヌヌヌヌ」
「えーい! どうでもよいわ! 身内とはいえルフィにくっつき過ぎじゃぞ!」
至近距離で角を突き合わせる二人の間に、たまらずハンコックが割って入った。瞬間だった。
鈍い打撃音が、大気を揺らす。
ミホノブルボンが3人の頭上を吹き飛び、<グローセアデ号>の甲板に体制を立て直して着地する。一瞬の勝負を制してブルボンを吹き飛ばしたヒシアマゾンは、ジャングラーを足場にしてその後を追った。
「いつまで油売ってんだい、ソニ嬢とマリ嬢を助けに行くよ!」
『あ……。』
ルフィたち3人も、慌てて敵艦へと飛び移った。
<グローセアデ号>の甲板に逃げ戻ったブルボンは、大きく肩で息をしていた。
彼女が得意とするウマ娘空手は『二蹴』、常に攻勢に立ち続け相手を圧倒する戦いを得意とする。反面、体力の消耗は尋常ではなくスタミナ切れまでに相手を制圧できるか否か、それを見極める目が何より重要であった。
つまるところ―――、
『苦戦してるみてぇじゃねぇか、ブルボン』
彼女の装備する銀の装飾の一つ―――主の手により品種改良された新種の音貝(トーンダイアル)の試作品、頭に装備された電伝虫との相互通信機能を持ち合わせた指向音貝(ウィスパーダイアル)から、からかうような声が届く。
「肯定。読み負けました。恐るべしは『女傑』ヒシアマゾンです」
声の主、海賊団幹部である巨魚人セバスチャンは感心したように唸る。
『さすが、二桁以上の国で大暴れした奴は違うね』
「肯定。さらに、元海軍中将トウカイテイオーも合流した様子。船長に意見具申を行いたいのですが」
『ああ、その船長からの命令だ。俺も出る』
「了解しました」
通話が終わるのと同じタイミングで、ヒシアマゾンが、そのすぐ後に、ルフィ、ハンコック、テイオーが<グローセアデ号>に飛び移った。
甲板上で4人と1人は対峙する。
- 59二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:14:20
「ステータス『戦慄』が発生。億越えルーキー、生ける伝説、王下七武海、元海軍中将、そうそうたる顔ぶれですね」
ミホノブルボンが口火を切った。
「そうかい。アタシとしてはそう思うんなら、とっとと二人を返してほしいんだけどねぇ?」
「それならば海賊女帝の身柄と交換です。それが船長のオーダーですので」
「ウワー……」
この状況下で一歩も引かないブルボンに、テイオーは思わず感嘆の声を上げる。
「ミタメニヨラズツラノカワガアツインダネェ、キミ」
「ステータス『誇らしい』が発生。ドクターからは『お前は、相変わらず鉄面皮だな』と、たびたび褒められております」
「ホメテナイヨ! ソレ!……キミ、ワリトテンネン?」
「<サイボーグ>などと言う異名をいただいておりますが、私の肉体にインプラントの類は一つもありません。ですので『割と』ではなく『100%』天然が正しいです」
「……コノボケカタハ、ルフィトイイショウブカモ……」
「???? ボケてるのか? アイツ」
「アーウンソレデイイヨモウ」
「テイオーに麦坊。ハン嬢がやきもち妬くからそのへんにしてやってくれ」
「何を言うかヒシアマ!」
「随分楽しそうじゃねぇか、俺たちも混ぜてくれや」
割り込む声。いつの間にやら巨魚人セバスチャンを筆頭に、ワールドの手下が十重二十重と4人を取り囲んでいた。
「ブルボン、時間稼ぎ御苦労」
「ステータス『誇らしい』が再度発生」
セバスチャンに向け、サムズアップをしてみせるミホノブルボン。
サムズアップを交わす二人のはるか後ろにそびえたつ<グローセアデ号>の司令塔。髭のドクロに角兜の海賊旗の下、一人の男が塔外に姿を現した。
「ようこそ俺の船に。歓迎するぞ<海賊女帝>」
バーンディ・ワールド。<世界の破壊者>の登場であった。
- 60二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:14:50
「女帝よ! 大人しく俺に降れ!」
小さな兄を肩に乗せたワールドは、ハンコックに命じる。彼女たちを囲む雑兵どもは、悪魔の実の能力を封じる海桜石の手錠を用意していた。
ハンコックは敵の船長をにらみ返すと―――、艶っぽい仕草で甲板に手をついた。前かがみの姿勢で胸元が強調されると、反則的な色気に海賊の男どもは鼻の下を伸ばす。
それが命取り。
―――<芳香脚>!
長い脚でケリを放つと、雑兵どもは石くれに成り下がった。
「降れじゃと……? わらわのルフィに危害を加えておいてなんたる言い草―――。その罪の重さと深さ、海の水と比してもなお勝ると知るがよい……ッ!」
激しい怒りをむき出しにした視線が、ワールドを貫く。彼は眉をしかめると―――、
「構わねぇ、その女を殺してしまえ」
その命令で、石化を免れた部下たちが一斉に襲い掛かった。
ワールドの号令一下、四人に襲いかかる<ワールド海賊団>の雑兵ども。
対してハンコックは、自然に美しい所作でハートサインを作る。
―――『メロメロ甘風』
輝き吹き抜けるハート色の風。匂いたつほどの色香にさらされた雑兵どもは、石になって沈黙した。
「うわぁ。メロメロの能力って決まるとこうなるんだ、怖っ」
- 61二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:15:35
―――『杭脚・篝火花(シクラメンステークス)』!
テイオーのウマ娘空手が雑兵を捉える。蹴り飛ばされ、他を巻き込み海へと堕ちた。
「どうだいテイオー? うちの皇帝の実力は!」
―――『敬聖拝・猿掻乱撃(アドレイション・モンキーアタック)』!
鋭利さなどない人の指で、ズタズタに人体を抉り引き千切るヒシアマゾン。
「『この親ばかめ!』っていいたいけど流石七武海って感じ。ルフィの味方で良かった!
でも―――、君たちどこで知り合ったのさ!」
「くまにぶっ飛ばされた!」
―――『ゴムゴムの鞭』!!
回し蹴りの遠心力で伸びる脚。ルフィの鍛え上げられた筋力をゴムの柔軟性が増幅し、雑兵どもを薙ぎ払う。
「くまって……、まさかバーソロミュー・くま?! クロコダイルといいキミ、七武海と縁がありすぎない?!」
「ええい! 身内とはいえわらわを差し置いてルフィと楽しげに会話するなど100年早いわ!」
―――『虜の矢(スレイブアロー)』!!
ハンコックの投げキッスから生まれた巨大なハートがハートの矢をばらまき、更に大量の石像を生み出した。
乱戦の様相を呈す甲板で、背中合わせに敵兵を叩きのめし、掻き抉り、蹴り伏せ、石にする4人。
「さっきからぺらぺらと、余裕のつもりかい!」
魚巨人セバスチャンが、棘付きこん棒を振り下ろす。
散開し、回避する4人。
飛び退り着地した瞬間、乱戦の中、紫銀の光を曳いて死角よりルフィに襲い掛かるブルボン。
- 62二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:16:02
―――クラシック奥義『刹起衝』
覇気を込めた一撃を、不意を打ってぶち込めば如何にゴム人間と言えど、行動不能になる。
―――クラシック奥義『叉突捷』
同じくテイオーの覇気を纏った奥義に、阻まれさえしなければ。
「まぁ当然。ルフィを狙ってくるよね」
この場の最高戦力であるハンコックへの人質として、一番価値があるのは他ならぬモンキー・D・ルフィだ。
交叉のカウンターを入れて下がらせた相手に、読んでいたよとテイオーは追撃の蹴りを放つ。それを回避し、ブルボンは雑兵の森に身を潜め、再び迫りくる雑兵を薙ぎ払うルフィの死角より襲い掛かる。
鈍い音。そして再び、テイオーに阻まれる。
ミホノブルボンはその鉄面皮の下で驚きを禁じ得なかった。二度も攻撃を阻まれたとなれば、それは偶然ではない。
「―――何故私の動きを読めるのか。聞いても宜しいですか?」
内心に戦慄を感じながら、口を開く。
「悪いけど、『逃亡者』のやり口は嫌ってほど知っててね―――」
極まった『二蹴』使いを『逃亡者』と呼ぶ。その速度は、敵の視線はおろか味方の視線すら容易に振り切る。それが『消えた』と錯覚させ、実の所死角に入り込んでおり一方的に攻撃を加える。
故に『逃亡者』。
意識の死角にすら潜り込む秀でたスピード。そして、そのスピードを何より強く印象付けることで駆け引きの材料として戦術に組み込む頭脳こそが、攻勢に立ち続け相手を圧倒する『二蹴』の真骨頂。
『先攻』型のテイオーがそれを知るのはほんの一月まえ、カノープス海賊団の世話になっているときに、リハビリの一環としてそこの『二蹴』使いツインターボと、散々組手をやられた影響である。
「―――ッ」
- 63二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:16:42
鉄面皮のブルボンは標的をテイオーに変える。セバスチャンはハンコックとヒシアマゾンの相手が精一杯。ルフィを捕らえハンコックを無力化するには、トウカイテイオーを無視することはできない。
最も自信のある足さばきでテイオーに迫るブルボン。『逃亡者』の面目躍如、その一撃はテイオーの反射速度を上回り、遅れて動き出したその鈍さをあざ笑うかのように吸い込まれる。直前―――、異様な急加速をしてみせたテイオーの拳が、逆に無防備な体に突き刺さった。
^―――ァ……!!
肺から空気を絞り出される苦痛。驚愕を張り付けた彼女は、薄れる意識の中でテイオーの声を聴く。
「それと―――。時間稼ぎをしたかったのは、こっちも同じでね」
ミホノブルボンが沈んだ。
その様を司令塔より認めたワールドは、小さく舌打ちをする。
「使えねぇ……」
平板な声には、凍てつく程の殺意が載せられていた。
「まてワールド! さっきからやりすぎじゃ! 女帝は囮にするんだろう」
「やかましいぞビョージャック。死体を吊るせば囮は事足りる。それよりも弾をよこせ」
肩に乗せた兄から、銃弾を受け取り指に挟む。
モアモアの実を食べたワールドは、自身並びに触れている物体の速度と質量を100倍まで増加させられる。
故にその手で投げただけの鉛玉は、大砲すら凌ぐ威力を発揮する。
下で戦う部下ごと、海賊女帝を殺そうと振りかぶり―――
刹那、<グローセアデ号>のあちらこちらで、断続的な爆発が起こった。
「何事じゃ!?」
泡を喰ってわめきたてるビョージャックを無視して、ワールドは伝電虫でガイラムを呼び出した。
- 64二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:17:23
『スマン船長!! 弾薬庫だ! 敵が紛れ込んでやがった!』
慌てふためく声が、伝電虫から発せられる。
「巨大砲は無事か!?」
『あ、ああ。だが、火砲の大半は使用不能だ!』
「――――ッ。使えねぇ」
吐き捨てて、ワールドは船内に戻る。
「全員まとめて俺がやる。中に入れてやれ」
『わ、わかった』
「無茶じゃワールド! いくらお前でも!」
ワールドの肩でビョージャックは声を上げる。弟の身を案じる兄の諫言に、弟は大きな手を小さな兄に伸ばし―――。
「お前は人質でも見張ってろ」
肉親の情は愚か、ゴミを放るような動きで投げ捨てた。
時は少し遡り―――。
王下七武海、<道化>のバギー。懸賞金6000万ベリーの小悪党でありながら、『元ロジャー海賊団の一員』『「四皇」赤髪のシャンクスの兄弟分』『伝説の住人から生ける伝説へ』と、輝かしい肩書を持つ新進気鋭の王下七武海の一人である。
彼らバギー海賊団は、先んじてヒシアマゾンと接触し協力体制に入り、テイオーとアマゾンを囮に破壊工作を行っていた。
道化のバギー麾下には、二人の大きな戦力が居る。
その一人は、頭に数字の3を乗せたような髪形の男で、名をギャルディーノ。かつてアバラスタの地で大暴れをした犯罪組織<バロックワークス>の上級幹部にしてMr.3の異名を持つ悪魔の実の能力者だ。
頂上戦争前のインベルダウン脱獄の一幕でバギーと組み、それ以降盟友として行動を共にしている頭脳面でのバギー海賊団No.2である。
<グローセアデ号>内部にて、ドルドルの実の能力で乾けば鋼鉄の強度を持つ反面、火薬以上の可燃性をもつ蝋を体から絞り出せる彼は、現在せっせと破壊活動にいそしんでいた。
そのMr.3の頭の3に火がともり、彼の腕から溶けた蝋が床に滴り落ち線を引く。その白いラインを他の方向に伸びた別のラインと交わらせる。
- 65二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:18:36
床の隅、海賊潜水艦の通路の隅に目立たないように配置されたラインは蜘蛛の巣のような広がりを見せていた。
作業中のMr.3を守り、周囲を警戒するのは3人のウマ娘。それはボディラインも露わな黒と橙のレスリングスーツの様な服とマスクを着用した黒鹿毛のウマ娘の他、残りの二人は、なんとゼンノロブロイとマーベラスサンデーであった。
そしてMr.3は、その二人にある種の驚嘆を覚えていた。
『巨大潜水艦内で弾薬庫を見つけ、そこにドルドルの蝋で導火線をひいて一斉爆破、船内を混乱させバーンティ・ワールドを倒すチャンスを作る』
作戦としては至極単純なものだ。しかし、敵艦への潜入を担当するのは頭数の揃っているバギー海賊団であり、敵中に孤立するリスクにキャプテンであるバギーは渋った。もちろんMr.3も反対の立場である(賛成していたのはお気楽極楽な、バギーのもう一人の腹心ぐらいのものだ)。
そこからが、この小さなウマ娘ゼンノロブロイの独壇場だった。海賊の研究家であるという彼女は、バギーの来歴をこれでもかと言うほどに美化し褒めたたえた(少なくともMr.3の視点ではだ)。
もちろんバギーは単純な男だからいい気にはなったが、それだけでは無用なリスクを許容する愚かな男ではない。これに炊きつけられたのはバギー海賊団のクルーたちだ。もともとバギーのカリスマ性の様なナニカに惹かれて集まってきた連中である。ロブロイの並べた美辞麗句に、場の空気はバギーの活躍を求める方向に最高潮を迎えた。
そしてトドメとなったのが、ゴール・D・ロジャーの件だ。海賊の中でも特にゴール・D・ロジャーの研究をしているロブロイは、いずれ研究結果を何らかの形で世に出したいという。その事が、バギーに妙な欲を掻き立てさせた。
バギーがロジャーの船<オーロ・ジャクソン号>のクルーであった事は、すでに周知の事実であった。とはいえ、現状バギーは新米の七武海である。ところが、来歴を同じくする赤髪のシャンクスは押しも押されもせぬ『四皇』―――海賊たちのトップに君臨している。もちろん、ロブロイはその事も学んでおり、彼女の発表するであろう研究結果に少なくないページが裂かれるのは自明の理。もしかすれば、バギーのページよりも多くなるかもしれない。
―――『面白くねぇ』
- 66二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:19:15
ここでシャンクスへの対抗意識をくすぐられ、バギーの首が縦に振られるまであと半歩と言うところまで来た。その最後のひと押しをしたのは、お気楽極楽なバギーのもう一人の腹心だった。
彼女もまた、<オーロ・ジャクソン号>のクルーであり、『黄金世代』と謳われた5人の海賊ウマ娘の一人。
故にロジャーの名を出された以上、黙ってはいられない。そもそも、プロレスかぶれのお気楽女だ(少なくともMr.3視点では)。
―――『ファンの期待は裏切れないデース!』
この一言で、バギーの腹は決まった。
―――『野郎ども! ドハデにぶちかますぞ!』
熱狂に包まれる船のなかで、東の海でバギーが暴れていたころからの部下、モージとカバジが
―――『姐さんが来てから、キャプテン余計に見栄っ張りになって無いか?』
―――『なぁ』
などと呟いていたのが、やたらと耳に残っているMr.3であった。
「よし、終わったガネ!」
つらつらと考えつつも作業は進み、Mr.3の声に、周囲を警戒していた3人のウマ娘が駆け寄ってくる。
「急ぎましょう!」
ロブロイはライターを取り出すと、着火し蝋の導火線へと近づけた。
- 67二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:20:03
導火線は、敵艦内で分散したバギーが遺族団のクルーたちの手によって、各々が発見した弾薬庫にまで伸ばされており、その中心点に火をともせば、一気に爆発が起こるはずだ。
その間、甲板で大きな戦闘が起こっているとはいえ、ワールド海賊団のクルーと接触することもあった。しかし、僅かな偽装のみで見逃されている。
ロブロイとマーベラスはその事も読んでいた。
かつてのワールド海賊団は、バーンティ・ワールドの恐怖によって統制されていた集団だ。そこに、仲間同士の連帯感はなく、故にサイファーポールの分断工作によって壊滅させられた。
現行のワールド海賊団も集団として同じ脆弱性を持っているはずだとロブロイは告げた。そもそも、ワールドが脱獄してまだ半年も経っていない、その間に集められた烏合の衆。さらに、この島と見間違えんばかりの巨大な船を動かすのに必要な人員数を考えれば、『通路で顔を知らないクルーに出くわすことに疑問を抱くクルーに出くわす』のは、どれほどの確率になるか。
―――『出会えたら、とってもマーベラスだと思うよ!』
マーベラス☆と補足する友の言葉と共に、ロブロイは堂々と行動していれば、同じ海賊同士疑われる事はまずないだろうと予測し、それは現実になった。
少なからず驚愕と称賛の籠ったMr.3の視線に気づくことなく、ロブロイの火は、バギー海賊団の尽力で設置された導火線に―――。
「そうそう、上手くいくと思ったか?」
―――キュー・ブレイク
その男が現れた瞬間、<グローセアデ号>の床がキューブ状に分解、導火線が破断する。
「流石に、幹部を騙すのは無理だったみたいだガネ」
船大工ガイラム。すべてを四角く切り取るキュブキュブの実のキューブ人間。通路で顔を知らないクルーに出くわさない、僅かなクルーの内の一人の登場だった。
「ガイララララララ! このガイラムが仕上げた船に、こんな落書きをくれるたぁいい度胸じゃねぇか、え?」
千切れた導火線が、燃え盛りながら散らばり花火の様に周囲を照らし出す。
「おいたにはオシオキをしてやらねぇとなぁ」
- 68二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:20:28
―――キュー・ブースター!!
ガイラムが手にしたハンマーを一振りすれば、分解したキューブがさらに分割され、一辺10cmほどの小さなキューブが数千、燃え盛るドルドルの蝋を纏って、弾丸の速さで突っ込んでくる。
飛び退るMr.3。ところがマーベラスサンデーとゼンノロブロイは、逃げようとして二人まとめて転び、床に転がった。動けない二人に向かって炎の弾丸は邁進する。
刹那、割り込んできた黒鹿毛が吼えた。
「コンドル咆哮破ァ!」
気合一発。
腰を入れた綺麗な正拳突きが大気を揺らす。音速を超え発生した衝撃波が、炎のキューブを吹き飛ばし、軌道を捻じ曲げる。
「へぇ……やるじゃねぇか、何もんだ、お前」
ガイラムが問う。
そう、彼女こそ―――
「強靭! 無敵! 世界最強! エェエエエエエエルクォンドル、パサァアアアアア! 推参!」
周囲に着弾した攻撃により、爆発的に舞い上がった粉塵を背に、高らかに名乗り上げるバギー海賊団武力面のNo.2。
―――<怪鳥>エルコンドルパサー!
「エルたちのファンを傷つけようだなんて、このエルの目が黒いうちは絶対に許さないデース! オシオキの必要があるようデスね!」
「ふん、口先だけは立派だな。だったらやって見せな」
―――エア・キュー・ブースター!!
- 69二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:20:57
キューブ状に固められた空気が圧縮され、不可視の弾丸と化す。
しかして―――、エルコンドルパサーは目を閉じ、ことごとくを回避する。
破壊された残骸が跳ね跳ぶ中、<怪鳥>は不敵な笑みを浮かべたまま、無傷で健在であった。
「て・・・めぇ―――、見聞色か!?」
「チッチッチッ―――。コンドルがなぜ自由自在に飛べるかご存じデスかー? それは『風』を読んでいるからに他なりまセーン……」
攻撃は、いかなる武器であろうと肉体であろうと、3次元空間に存在する物質によるものならば、敵により放たれたのちこの身に到達する過程で、必ず大気を押しのける。
その大気の疎密の『波』、空気の流れ、即ち『風』を感じ取り動きに同調できるのならば、あらゆる攻撃を回避することは可能である。
「―――これぞ、波と遊び風と歌う、古代ウマ娘武術の神髄! つまぁり! エルにあなたの攻撃は通じまセェン!!」
「……ハン! ちぃっとばっか逃げるのが上手いだけでエラそうに! 避けてるだけじゃ勝てねぇぞ!」
ハンマーを掲げ威嚇する敵幹部に、捕食者(もうきんるい)の笑みで答える<怪鳥>。
「ノー! あなたは既に負けていマース!」
なにを―――と、ガイラムが反駁する寸前、断続的な爆発が<グローセアデ号>を襲った。
「なんだこれは!?」
「エルたちが仕掛けた爆弾に決まってマス!」
「ばかな! 導火線は――」
泡食って頭を巡らすガイラムは、小さなウマ娘2人が、船を構成する『とあるキューブ群』の傍に火をもって佇んでいるのを発見した。
「テメェら! なんでそこに居やがる!」
そのキューブ群は、この<グローセアデ号>の『竜骨』ともいうべきもので、巨大なこの構造物の基本の骨組みとなるためおいそれと動かすことのできない部分だ。
そこに導火線を這わせ、それが弾薬庫にまで伸ばされていたのなら、たしかに、この巨大な潜水艦の弾薬庫を一斉に破壊することも可能だろう。しかし、それを的確に見抜き、仕掛けを施すなどまずありえない。
「驚きましたか! それを見抜いたのは彼女たちデェエス!」
ロブロイとマーベラスを、ビシッと指し示すエルコンドルパサー。
- 70二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:21:41
「この餓鬼ども!!」
怒り心頭に発するガイラム。
しかし、耳に飛び込んできた電伝虫の声に一気に冷却された。
『何が起こった!』
「スマン船長!! 弾薬庫だ! 敵が紛れ込んでやがった!」
慌てふためきながらも、伝電虫の向こうにいるワールドへ答える。
『巨大砲は無事か!?』
「あ、ああ。だが、火砲の大半は使用不能だ!」
能力を使って損傷個所を把握し、報告を重ねる。
『――――ッ。使えねぇ……全員まとめて俺がやる。中に入れてやれ』
「わ、わかった」
冷酷に響く声に気圧されながら。ガイラムは伝電虫を切り、敵に向きなおる。
「船長にはああ言ったが、てめぇらはここで俺が殺ってやる!」
ハンマーを振りかざし、キューブを生み出そうとするガイラムに対し、エルは唇の前に人差し指を立てた。
予想外の行動にガイラムが躊躇した隙に、エルは言葉滑り込ませた。
「聞こえませんか? この声が。
地獄から這い出た男の、この声が」
「今度は何だ!」
ガイラムの大声が揺らす空気を切り裂いて、小さい何かが飛んでくる。
風切り音を響かせたそれは、ガイラムをかすめ空中で結合、人型を作った。
「王下七武海<道化>のバギー様だ! ドハデに出迎えやがれ!!」
自らのプライドの為、千両役者が参戦した。
- 71二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 07:29:59
- 72二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 12:04:25
- 73二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 17:08:55
- 74二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 17:30:07
- 75二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 20:45:00
タマモクロス実装との事件で
これはWCIの妄想が膨らみますかな - 76二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 20:46:33
タマきたわね!!!!
- 77二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 20:57:36
あとはイナリだけだな、ワノ国編も終わりが見えてきたから出て来い
- 78二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 22:22:00
- 79二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 22:28:27
見てたとは思うけどその権利書は偽造品かと思われます
- 80二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 22:33:52
おお、ついにタマ実装か
個人的にはWCI編終盤の洋上でのVSスムージーの掘り下げがされることを期待 - 81二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 23:03:06
スムージー側の掘り下げが……
- 82二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 23:29:39
そういやオグタマクリークは一度麦わら達と離れて革命軍本部と合流したあとルフィ達を呼ぶんだかで会う目的でワノ国に来て共闘するんだっけ
- 83二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 23:32:35
タマがジンベエ救援でWCIにやってきて
ジンベエに付き合ってタマが殿に残り
オグリらはルフィと一緒にワノ国ってネタもあったね - 84二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 23:32:46
イナリがいるからそっちの手伝いじゃないか
- 85二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 23:40:52
タマの固有演出チラ見せされてるけど思いっきり電撃系でビリビリの能力っぽさがすごい
- 86二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 23:47:25
私、ナミがゼウス手に入れて強化した雷による充電でタマがパワーアップしたり、その特性からナミにロボットみたく扱われる描写すこ
ところでもしオグリもそう(>>83)だけど、タマやクリークが序盤からワノ国入るなら衣装とか展開はどうなるのかな?
- 87二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 23:55:21
クリークはサンジの蕎麦屋に行きそうだな、タマはタコ焼きでも売りながらイナリ探しか
- 88二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 00:10:11
ワノ国マジでキャラ多いから実際にSS書いたりするの骨が折れそう……
個人的には世紀末海賊団再集結はなんとなく浮かぶけどオグタマクリークはどうしたもんかなってなっちゃう - 89二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 00:12:55
きびだんごの寝返り減らしてギフターズと戦うとか
滝下のマム組と戦うとか(こっちは原作の扱い次第ではあるけど) - 90二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 00:14:52
ワノ国編の今後待ちだな、政府が乗り込んでくるならそっちと戦うことも出来そうだし場合によっては滝の下のビッグマム海賊団とオグタマクリークと政府の三つ巴とかビッグマム海賊団と共闘とかもありそうだし
- 91二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 04:13:25
以前出てたシングレ海外勢とかもあるな
- 92二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:24:07
- 93二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:24:46
第4章
―――走る。
<グローセアデ号>が爆発に襲われた前後、ミホノブルボンに続いて巨魚人セバスチャンが、ヒシアマゾンに沈められた。
時を置かず、ルフィたち4人が爆発で吹き飛んだ火砲の跡より船内に侵入しようと駆けだした瞬間、甲板に綺麗な四角形の穴が開いた。
顔を見合わせる暇もなく、4人は<グローセアデ号>の船内へと落下した。
「どうなってんだこの船? いきなり床が抜けたぞ?」
「どうにも、まともな船じゃなさそうだね……」
視界の先にはやけに入り組んだ通路が続いていた。
―――そして、4人は薄暗い通路を駆け抜ける。
船内はやはりおかしかった。行くものを迷わせるために入り組んでいるとしか思えない構造である。
先陣をきるのはトウカイテイオー。その後にルフィ、ハンコックと続き殿を行くのはヒシアマゾンだ。
「絶対まともな通路じゃないよねこれ! 間違いなくどこかに誘われてる!」
警戒をあらわにするテイオー。
「十中八九罠だろうさ! そもそも敵の懐中だからね! バギー海賊団とロブロイたちが上手くやってくれてる事も信じるしかないよ!」
答えて返すヒシアマゾン。
―――狭い通路に、床を蹴る音が反響する。
先頭を走り続けるテイオーの横にルフィが並ぶ。
「テイオー……おまえ、ちゃんと走れるんだな」
状況にそぐわず、どことなく安堵の色が混ざった声音に、
「どうした、急に―――って、そっか。あの時は、お互いボロボロだったっけ―――」
マリンフォード頂上戦争―――。二人にとって苦い過去。兄を救おうと戦いを挑み、無様に敗北した記憶がよみがえる。
「――――――。あの後、しばらく走れなかったけどね……」
赤犬に追いつめられるルフィとエースを救うため。放とうとした二つ目のクラシック奥義の負荷に、テイオーの脚は耐えられなかった。
- 94二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:25:25
戦場から助け出された後、エースの死を認めたくなくてがむしゃらに逃げだして、そんな、惨めな自分自身の象徴そのものである折れた脚を抱えて、ゴミための様なスラムの片隅で、同じようにゴミになるのだと思っていた。
「でもさ―――、ボクは一人じゃなかった。ボク以上に、ボクの事を考えてくれているみんながいた。キミもそうでしょ? ルフィ」
兄妹の言葉に、ルフィは強くうなずいた。
「ああ――」
あの時―――、エースを失い、それでも多くの人に助けられた。
ハンコックによって女ヶ島に匿われ、心と体を癒す時間が与えられた。
けれどもそのすべてが重荷だった。合わせる顔が無かった。
兄を失ったことで自暴自棄になり、悔しさと、惨めさと、恥ずかしさから、ルフィは自分で自分の心と体を痛めつけた。
―――失ったものばかり数えるな!
―――ないものは無い! 確認せい! お前に、まだ残っているものは何じゃ!
荒れ狂うココロに打ち込まれた、叱咤の言葉に思い起こされたのは、
『ルフィ……』
何もかも失ったと思っていた。それでも脳裏に浮かぶ、ゾロの、ナミの、ウソップの、サンジの、チョッパーの、ロビンの、フランキーの、ブルックの、そして―――、かけがえのない大切な人たちの笑顔と声。
兄を失った絶望の中でも、思い浮かぶ姿があった。それは―――、確かな福音だった。
「仲間がいる! 俺は、あいつらを守りてェ……! あいつらの夢を守れる男になりてェ……!」
「……、そっか―――。だったらルフィも、もう、大丈夫だね……」
やっと、開けた場所に出た。
- 95二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:25:56
円形のホールだ。通路はさらにいくつもの方向にわかれている。
「なんだ? ここ」
「考えていても仕方がない、ルフィ、こっちへ」
ハンコックとヒシアマゾンが通路の一つに駆け込む。ルフィたちもその後を追い、通路に入りかけた瞬間―――
重い音をたて、天井がキューブ塊になって落下。道を塞ぐ。
4人は分断されてしまった。
「ルフィ! 無事か!?」
「テイオー! 生きてるかい?!」
キューブ壁の向こうから、ハンコック達が叫ぶ。
その時、ルフィとテイオーは落ちてきた天井の上に立つ男とにらみ合っていた。
「バロロロ……! 女帝を潰すところだった」
バーンティ・ワールドだった。
ガイラムに命ずれば、彼は自由自在に船の中を動き回ることが出来る。まさに神出鬼没であった。
「ハンコック! ヒシアマ! 先に妹たちの所へ行け!」
「じゃが……!」
「いいから! 行け!」
「! わかった……!」
「ヒシアマ?!」
「麦坊の思いを無駄にすんな、行くよ!」
「――――っ、気を付けるのじゃぞルフィ! テイオーとやら、ルフィを必ず守れ! よいな!」
- 96二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:26:31
二人の気配が遠ざかっていく。
『―――ワールド! 気を付けい!』
くぐもった声が聞こえた。ワールドの持つ伝電虫への通信だ。
『そ奴らをなめてかかるのは危険じゃ! その二人は、先だって兄ポートガス・D・エースを助ける為に海軍本部に乗り込み大立ち回りを演じた兄妹! 海賊モンキー・D・ルフィと海軍中将トウカイテイオーじゃ!』
「モンキー・D・・・・・・」
『海軍の! ガープの孫じゃ! そしてトウカイテイオーは、URAのルナの子じゃ!』
「! あのゲンコツ野郎とライオン小娘のか……!」
目の前の二人に、30年前の宿敵の面影を見出すワールド。
「……こんな餓鬼どもに、あのセンゴクが仕切る海軍本部がかきまわされたというのか」
「!」
「で? お前ら、その兄貴は助けられたのか?」
傷口に、触れられる。
その痛みに平静を保てない。
先ほど、安易に話題に出したのがまずかった。
目の前で見せつけられた兄弟の死の衝撃は、いまだ癒し切れたものではなかった。
安い挑発だと分かりきっているのに、受け流すことすら出来ない。
感情の高ぶりが―――抑えられない。
二人は、ニヤリと嗤うワールドに何も言い返せない。
「―――だろうな」
二人の反応から察したワールドは嘲笑う。
「お前ら程度のチカラでは、だれも助け―――」
「黙れェ!」
激昂。激発したルフィの拳を軽々とかわし、
- 97二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:26:54
―――『究極テイオーステップ』
「?!?」
静かな殺意に充ちたテイオーの一撃を、武装色の防御で受け止めるワールド。
「いくよ、ルフィ」
「応ッ!」
テイオーが駆ける。恐ろしい速度で、ワールドに迫る。
本気のウマ娘の疾走は、只人に届く領域にはない。
然れども―――
「モアモア十倍速!」
モアモアの実を食べたワールドは只人ではない。自身と触れたものの速度、質量を100倍にまで増幅するモアモアの能力は、あらゆるものを置き去りにする隔絶したチカラだ。
いくらウマ娘、いくら海軍中将、いくら海賊ルナの娘とはいえ、追随などできるはずがない。ワールドは必殺の確信をもって、武装色の拳を振り抜き―――、空を切った。
驚愕する暇もあろうか。
鞭のように首を狩りに来る蹴り脚を寸ででかわし、距離を取ろうと更なるモアモアの加速で床を蹴る。―――果たして、テイオーはそれにすら追随して見せた。
内心の混乱を打ち消すように、ワールドは再度攻撃を仕掛ける。敵は速いが既に見切った。モアモアで加速する拳はテイオーを捉えるに十分な速度、威力で打ち出される。
再度、空を切った。
続くテイオーの反撃を防ぎ、ワールドは目の前で起きている現象に混乱を隠せなかった。
その初動は速い。しかし、捉えきれないものではない。
―――2歩目だ! 奴は2歩目から異常な加速を見せる!
- 98二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:27:40
そして3歩目はさらに速度を上げてくる。
別に可笑しくはない。速度ゼロから加速する以上、当然の事だ。
問題なのは、ワールドがどれだけモアモアで加速しようが、その2歩目で必ず追いついてくること。
ウマ娘とはいえ脚で地面を蹴って加速する以上、その速度には脚力という限界がある、無ければおかしい。道理に反する。物理をひっくり返す悪魔の実の能力者でないことは、海の中から現れたことから証明されている。それなのに何故! どれだけ加速しようと、こいつを捉えられないのか!
目の前の不条理を飲み込めぬワールドは、無意識に攻撃をかなぐり捨て、モアモアの能力で大きく間合いを開く。
懐から砂利を取り出し、モアモアで速度質量を拡大、避ける隙間もない面制圧を図るワールド。
振りかぶって投げる間に、加速の為、深く踏み込み重心を下げたテイオーの頭上を、馬跳びの様に越えて突撃する影が一つ。
モンキー・D・ルフィ。
地に足つかず。テイオーの肩を掴んだゴムの両腕が、加速の慣性に置き去りにされ、空中で伸び切るほどに。テイオーの速力を両腕に弾性として保存するルフィは、ウマ娘の速度とゴム人間の伸縮力を貪りつくし、一撃必倒の砲弾となって発射される。
―――『ゴムゴムの帝王投射砲(カイザーマンゴネル)!!』
かつて―――、彼と彼女が幼少期に編み出し、数々の猛獣を仕留めた、合体必殺技である。
しかし、ルフィは未だに覇気の完全なる習得に至ってはいない。この攻撃にも武装色の覇気は載っておらず、故に覇気を扱うワールドの敵たりえない。
相手にもせず、モアモアで速度質量を拡大した散弾を投げつけようとして、
「――――ッ?!」
彼の見聞色が警鐘をかき鳴らす。
衝動の様なソレに突き動かされ、その場を離脱。結果、人間砲弾を避け、その影でルフィを風よけに更なる加速を見せたテイオーの拳が、斟酌の間にまで迫っていた。
ルフィとテイオーの合体技は、二人分のエネルギーを湛えるルフィの突撃と、その激突で倒れない敵へのテイオーによる追撃で構成される。
故に―――必殺。
- 99二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:28:21
『仁奔―――……!』
激突音。
テイオーの勢いは止まらない。ワールドですら目を見張るほどの速度で―――、殴られ壁を突き破っていった。
「?!ッ!? テイオーッッ!!??」
ルフィの驚愕が響く。
銀色の金属光沢。ワールドを守る様に現れ、不意打ちでテイオーを殴り飛ばした鉄の巨体。
その巨躯を、ルフィは忘れてはいない。忘れることなど出来はしない。
「お前っ、くま?! なんでココに居るんだ!」
バーソロミュー・くま。シャボンティ諸島で、麦わら海賊団を壊滅させた男からはしかし、聞き覚えの無い声が発せられた。
「ワールド! 無事か?!」
「……ビョージャック? ソレの中に居るのか? なんだ、ソレは」
「パシフィスタという兵器の試作品を、乗り込み式に改造したものじゃ! ルナの子はわしに任せろ!」
言うが早いかテイオーの体が破壊した壁を、更なる破壊で拡張し、銀色のくまは姿を消す。
「まてっ!?」
後を追おうとするルフィ。しかし、彼の未熟な見聞色が背後の殺気を捉えた。
すでに、武装色を纏ったワールドの拳が、間近に迫っていた。
ゴム鞠のようにルフィは跳ね飛ばされ、壁に体を打ち付ける。
- 100二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:29:18
「ビョージャックの野郎……、あんなもんを隠していやがって―――」
兄が消えた壁の奥を見やって、ワールドは独り言ちる。
その間に、ルフィは苦しい息を押し殺して立ち上がっていた。
「バロロロロ……! たよれる兄妹はどっかに行っちまったなぁ? お前ひとりで何ができる、小僧!」
「うるせぇ! そこをどけぇ!」
―――ゴムゴムのJET銃乱打(ガトリング)!!
怒号と共に、ルフィの拳が乱打される。
ギア2。
走るウマ娘のように、ゴムの脹脛を第2の心臓として、ポンプのように使い血流を加速、全身から蒸気を吹き出す強化形態。
ソレより放つ、ルフィの放つことのできる現状最速のラッシュは―――、まるでハエが止まると言わんばかりに、ワールドにあしらわれた。
湿った嫌な音を立てて、武装硬化されたワールドの拳が、ルフィの腹に突き刺さる。
吹き飛ばされたテイオーのように、彼女とは反対側の壁を突き破った。
床に投げ出され痛みに苛まれる中、ルフィはワールドの嘲笑を聞いた。
「バロロロ! 良いざまだなぁ! 一人っきりになった瞬間これだ! そんなんだから、兄貴一人も助けられず、これから妹を見殺すんだよ!」
その言葉に―――、ガチン。と、頭の中で撃鉄が墜ちた感触がした。
エースは死んだ。ルフィは兄を救えなかった。それどころか、命を救われた。救おうとした、兄の命と引き換えに。
ずっと昔に死んだ、もう一人の兄の様に、エースにはもう二度と会えない。戻らない。
そして、奴はなんて言った? 妹も死ぬ? テイオーが死ぬ? そうだ。テイオーのところへはくまが行った。ゾロを、ナミを、ウソップを、サンジを、チョッパーを、ロビンを、フランキーを、ブルックを―――、ルフィの仲間たちを消し去り一味を壊滅に追い込んだやつが、テイオーもまた消そうとしている―――!
- 101二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:30:40
「死なせてたまるかぁア!」
決意を胸に拳を握る。体から噴き出す蒸気がさらに密度を増す。
―――『ゴムゴムのJET銃(ピストル)』!
黒く武装強化された拳が、油断しきっていたワールドの頬を掠め、一筋、血が垂れた。
「掴んだ!」
武装色の手ごたえをつかんだルフィを、ワールドはねめつける。
「調子に乗るなよ……! 覇気も満足に扱えねぇ小僧が……!」
「俺はテイオーを死なせねぇ!! だからどけ!!」
「そんなチカラじゃ何も守れねぇって、教えてやるよ!」
カラダから濛々と立ち上る蒸気に包まれたルフィは駆け出し、兄妹を救うために、道を塞ぐ障害に向けて拳を振りぬいた。
* * *
自分の体で砕かれた瓦礫の上で、テイオーは息を吐いた。
咽るような咳に、血の味が混じる。
突然の出来事を、まだ頭が飲み込めていない。それでも、体が痛みと言う形でがなり立ててくる。
――― 如何にもボクは、いきなり割り込んできた銀色の塊に見事にぶっ飛ばされたらしい。
状況把握の為に、なんとか落ち着けた頭が結論を出す。と、同時に激烈な痛みが脳髄を抉った。
- 102二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:31:07
――― 不味い、また『やった』!
痛みの発生源は右脚。頂上戦争で折れて、回復してきていた脚の骨。その傷が、再び開いていた。
「―――、ッッッッ~~~~~~」
痛みにあえぐ声を押し殺す、
脳を貫く痛みに脂汗が滲む。
そもそも、ウマ娘の骨格はその全力疾走に耐える様にはできていない。故障はレースをするウマ娘ならばある種の日常茶飯事だ。それは、テイオーの様な戦うウマ娘も例外ではない。
それでも普段ならば、自壊ギリギリのスペックで自分の体を使いこなすことが出来る。
しかし、怒りで目が眩んだ。激情に駆られ、運任せの奥義を再び使おうとする程に、そして突然の奇襲に反応できないまでに、他人の無遠慮な手で、出来て間もない傷を―――エースの死という傷口をまさぐられた痛みと不快感は、体の悲鳴が聞こえない程に、テイオーを『掛からせ』た。
――― まずい、落ち着け、イクノに教えられたとおりに―――、まずは把握だ
痛みの発生源に視線を向ける。皮膚の下が不自然に盛り上がり、内出血を起こし変色している。
――― 骨を、戻さないと……
折れてずれた骨が、皮膚を押し上げる部分に指を伸ばし、圧しこむ。
触るだけで激痛が走り、力を入れただけで痛みが爆発する。
悲鳴すら上げられない。
それでも血の気が引いていく脳を無理矢理つなぎ止め―――、力づくで、ズレた骨をまっすぐ整える。
「!!!!!!~~~~~~~~~~~~っっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」
- 103二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:31:46
みしりと言う音と共に、脳味噌を貫きかき回す苦痛。
テイオーは声もなく絶叫した。
しかし、まだ骨を接いだだけだ。患部を固定しなければ立つこともできない。
苦痛の波を何とか乗りこなした思考が、漸く次へとつながる。
――― 落ち着け。ネイチャの言っていた事を思い出せ
『いい、こうイメージして? アンタの脚には見えないギプスがまかれてる。でも、このギプスはよく撓ってアンタの動きを妨げない―――』
――― 覇気とは、意志という名の心に灯る道しるべ。夢、信念、情熱、全て意志――
『だから、大丈夫。テイオーの脚は、もう絶対に折れないよ』
友の言葉を支えにして―――、
「ボクは……まだ、『走る』!」
独りじゃないから。
添え木代わりに武装色の覇気をまとい、トウカイテイオーは震える脚で、それでも立ち上がった。
それを待っていたかのように、壁の穴をさらに拡げて、テイオーをぶっ飛ばした銀色の塊が姿を現した。
「……。バーソロミュー・くま?」
返答は、銃口だった。
右腕が分割し、現れた機関銃が雪崩のように鉛玉を吐き出す。
見聞色で殺気を捉え、先んじて回避に入ったテイオーの後を、着弾の火花が追いかける。
毎分500発の銃弾をばらまく右腕の機関銃は、しかし負傷したテイオーの影すら捉えられない。
流れ弾が照明を砕き、室内は暗闇に落ちる。しかしその闇に乗じれば、応急処置をしただけの脚でも十分。自慢の俊敏性を存分に発揮して弾幕のスキマを縫い、テイオーは間合い詰める。
- 104二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:32:50
されどいかなる絡繰か、テイオーの走る先を狙って、機械音を発てて左腕から長銃身のライフルが現れる。
発砲。
激しいマズルフラッシュが、闇にくっきりとくまの面影を浮かび上がらせる。音速を超える大口径の弾丸が、まっすぐにテイオーの眉間に突き進む。
鈍い音。
「―――ッ」
武装色によって保護しているとはいえ、疾走中に正面から額で弾丸を受けるのは、流石に痛かった。
間合いが詰まる。
歯を食いしばり、拳を握りしめ、テイオーは疾走の勢いと重心移動の力を載せて殴りつける。
―――クラシック奥義『叉突捷』
拳が突き刺さる寸前、銀のパシフィスタは爆散、否、爆散したかのような勢いで前面装甲を展開。地獄めいた針山が、テイオーを抱擁せんと晒された。
拳が、突き刺さる。
「―――ッ~~~~!!!!」
苦悶の声が漏れる。
無数の針に拳をとられ、動きを止めてしまったテイオーを、銃を格納した腕が掴み上げる。
「ルナの子! トウカイテイオー! ワールドのもとへは行かせん!」
トゲが発射される。
至近距離からの着弾と爆発の衝撃に晒されたテイオーは、武装色の防御で必死に意識を繋ぎとめる。しかし、バーンディ・ビョージャックは彼女を昏い部屋の奥へと投げつけた。
- 105二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 06:40:50
- 106二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 11:04:49
このレスは削除されています
- 107二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 12:06:40
- 108二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 14:33:40
投下お疲れ様です
- 109二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 17:54:48
- 110二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 21:52:34
明日はついにタマ実装か……
- 111二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 22:55:23
マルゼン「ドフラミンゴがインペルダウンで執筆生活満喫してるから私も何か書くわ!!」
マルゼン「手っ取り早くくっついたとこらから始まるシャンスペラブラブ本でいいかしら!!」
スペ「おばあちゃん!!!!」 - 112二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 23:39:52
ルドルフ「私が海賊時代の自伝を書いて匿名で販売してると嫌疑をかけられたんだが、何か知ってるかな? "トーカイテイオー中将"」
テイオー「エーボクナンノコトカワカンナイヨーママー」(フュュー、ヒュー) - 113二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 23:54:38
これがルドルフの背ですか
- 114二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 04:16:46
怪文書やんけ
- 115二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 07:09:41
おはよう御座います。
エピソードオブテイオー第5章投稿させて頂きます。
乙ありです! 自分のイメージとしては、ルドルフは頂上戦争では45歳ぐらい。25歳ぐらいで自首するロジャーを海軍本部に送り届けた辺りの事情で、裏取引込みで海軍に転向。30ぐらいで海軍内で頭角を現して、35ぐらいで4人目の大将に…と言う話がオペラオーの天竜人殴打事件の影響で流れ、今回のテイオー離反で海軍自体を引責辞任みたいなイメージでいます。王下七武海概念はちょっとスケジュールがタイトで、経歴に組み込めてない感じです。
ありがとうございます!
乙ありです!
しまったぁ! フクキタルの事完全に忘れてました! 参考資料(原作)を読んで荒ぶる感情のままに書いたところがあるので、すっかり抜け落ち置てました。
すまん、フク。
多分ローグタウン辺りから一味に居ます。なんなら、現在構想中の、このシリーズの後の話でメインを張る予定でもあります。
- 116二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 07:10:09
第5章
ワールド海賊団は完全に混乱に陥っていた。
船の弾薬庫が破壊され、修繕に当たるべき船大工のガイラムはバギー海賊団と交戦中。甲板では大量の雑兵が蹴散らされ、幹部の巨魚人セバスチャンと<サイボーグ>ミホノブルボンが敗北。船長のバーンティ・ワールドは招いきれた麦わらのルフィを、参謀のバーンティ・ビョージャックはトウカイテイオーを相手取っている。
情報を統制し、指示を出すべき船長や幹部のほとんどが戦闘にかまけているのだから、集団としては壊滅しているに等しかった。
そもそも、ワールドの圧倒的暴力を背景に繋がっていた程度の集団がワールド海賊団である。組織としての強靭さなどは、最初から存在しなかったのかもしれない。
そして―――、
船内ホール。人質の檻。
囚われの身であるアマゾン・リリーの帝妹たちは、現在の状況に疑念を抱いていた。
「やけに静かね、マリー」
「ええ。おかしいわね、ソニア姉さま」
人質として、ハンコック達の目にさらされてからそれなりの時間がたった。大きな爆発が轟いた後、しばらくは騒がしかった船内は、今は逆に不気味な静けさに沈んでいた。
「あね様とルフィに、ヒシアマ姐さんも合流していたみたいだから、めったなことはないでしょうけれど……」
「こんな石くれ如きで無力化されるこの身が、今は口惜しいわね」
海桜石の手錠に繋がれ、力を少しも発揮できない彼女たちは、ただ、ただ助けを待つほかない。
無聊を託ち、無為な時間を過ごす二人のもとに、転機がやってきて来たのは数分後だった。
遠く。足音のような音が聞こえる。
音に反応し意識をそちらに向ける二人の耳に、その音はだんだんと大きく届きだした。
- 117二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 07:10:43
軽快さに、しかし強く地面を蹴る重さを兼ね備えた独特な足音。
そんな足音を立てて走る生き物の心当たりは、彼女たちには一つしかなかった。
『ヒシアマ姐さん?』
同じ人物を思い浮かべる二人だったが、 通路の奥から現れた足音の主は彼女らの予想を裏切って、小さな二人の見知らぬウマ娘だった。
「―――。ボア・サンダーソニア―――さんと、ボア・マリーゴールドさん―――ですね?」
息を整える間も惜しいと、眼鏡のウマ娘が口を開く。
ソニアとマリーは九蛇の帝妹ではあるものの、王下七武海ハンコックの妹でしかない自分たちを名指しする相手に驚いたが、続く言葉にさらに目が丸くなった、
「助けに来ました!」
『は?』
ソニアとマリーは虜囚の身とはいえ九蛇の戦士である。それをこんな頼り無さそうなウマ娘に助けに来たと言われても、現実を認識するまでに少し時間を要してしまう。
その間に、もう一人の瞳に星を写した分厚いツインテールのウマ娘が、檻の鍵を開けて中に入り込み瞬く間に海桜石の手錠まで外してしまった。
あれよあれよと解放された急展開をいまいち飲み込めず、ソニアとマリーは小さなウマ娘たちに問いかけた。
「あんたたちは、ヒシアマ姐さんの知り合いなのかしら?」
「はい! すべて話すと長くなるのでかいつまみますと、あなたたちを助けに向かっているヒシアマさんと知り合いまして、同行することになって、ヒシアマさんたちが暴れている間に、協力体制になったバギー海賊団と別動隊として行動していました!」
そのバギー海賊団が、キャプテンバギ―とその右腕エルコンドルパサーが、ワールド海賊団の幹部船大工ガイラムとの戦闘にはいったこと観客モードになってしまい、ロブロイとマーベラスだけが先行してきたということだ。
- 118二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 07:11:43
「なるほど―――。ええっと」
「ロブロイです、ゼンノロブロイ。あちらはマーベラスサンデー」
「マーベラス☆★」
「お礼を言っておくわ、ありがとう。ロブロイ、サンデー」
状況を把握したソニアとマリーは、開放感にぐーっと背伸びを一つ。
「それで? あなた達はこれからどうするつもりなの?」
「指令室に行って、命令系統を完全に抑えます。お二人は、ヒシアマさんとお姉さんに合流して脱出してください」
ロブロイの返答に、ニヤリと蛇の目を細め、蛇舌を揺らすサンダーソニア。
「どう思う、マリー?」
「ええ、ソニア姉さま。私も同じ考えです」
「?」
首をかしげるロブロイに、ニヤリと爬虫類(ほしょくしゃ)の笑みを浮かべて
「私たちも付き合うわ」
「やられっぱなしで黙っているなど、九蛇の名折れ!」
「ヒヒヒッ。元気のいい奴らダス」
はじかれるように、声の方へ身構える。
そこには、だぶだぶの服を纏った老婆が、数十人の手勢を引き連れて立ちはだかっていた。
「船医ナイチン! どうしてここに!」
ロブロイの驚愕の声が響き、彼女をかばうようにマーベラスサンデーが前に出る。
- 119二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 07:12:16
「お前らの目的を考えれば、簡単なことダス」
しかし、と漢方医師は言葉を切り、
「海賊女帝と相まみえる心算が、こんなちびっ子とはねぇ……ガイラムはやられてしまったドスか」
この船を自由自在に操る事の出来るガイラムが、ハンコックを誘導する手はずだったが、現実はそうはならなかった。だとすれば、それはつまりそういうことだ。
しばし瞑目し、そして開いた目は、四人をにらみつける。
「さて、おとなしく4人そろって檻に入ってもらうダス! お前たち。やってしまうドス!」
号令により、手下たちが4人に襲いかかる
――― 『蛇髪憑き 八岐大蛇』
――― 『蛇髪憑き 炎の蛇神』
鎧袖一触。
髪より変じた大蛇の群れが、雑兵どもを食い散らかす。
「ナイチン―――だっけ? 感謝するわ」
「うっぷん晴らしにはちょうどいいわね」
ヘビヘビの実、『モデル<アナコンダ>』と『モデル<キングコブラ>』。悪魔の実の能力を発動した姉妹は、巨大な蛇女の姿に変わっていた。
『かかって来なさい』
「おお……。これが九蛇の帝妹の能力!」
好奇心にキラキラと輝くロブロイの目には、神話の怪物もかくやと暴れまわる姉妹の姿が写る。
- 120二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 07:12:56
「ヒヒヒッ! さすがは九蛇の戦士、一筋縄ではいかないダスなぁ」
老婆とは思えぬ身体能力で飛び上がったナイチンは、取り出した薬瓶を煽り、
――― 漢方毒霧!
色のついた霧を吐き出す。
姉妹は咄嗟に腕でかばい、悲鳴が上がる。
「なによ! これ!」
「姉さま! 落ち着いて!」
霧に触れた途端、姉妹の衣服が溶け始めた。
「恥ずかしさで動けまい!」
途端に、動きに精彩を欠き始めた姉妹に勝ち誇り、手下へ蹂躙の指示を出すナイチン。
背中合わせに身構える姉妹に、海賊どもの手が伸びようとした瞬間
「マーベラァアアアス☆★☆!!!!!」
―――――――――。
―――――――――、―――――――――。
――――――――――――――――――、―――――――――。
―――――――――。
―――――――――、―――――――――――――――――――――――――――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!
「はっ?! いきなり大声を出すからびっくりしたダス!」
意表を突かれた手下たちも、『一瞬の』自失より回復し、改めて四人に襲い掛かり、
- 121二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 07:13:47
――― 『メロメロ甘風』!
咽返るような色香の嵐に呑まれ、物言わぬ石くれに成り下がる。
そこには、緑なす黒髪を打ち振るい、威風堂々と<海賊女帝>ボア・ハンコックが佇んでいた。
「?!!? いつの間に! しかし、わたしにはメロメロ封じの秘策が―――!」
「いや。んなヒマは無いよ」
声の主を見る事も出来ず、正面から頭を鷲掴まれて視界を奪われる。振りほどこうともがく暇すら与えず、しわがれた首筋に白い歯が食い込み、食いちぎった。
「―――、――ッア?」
頸動脈を食い破られ、船医ナイチンはぐるりと白目をむき、まき散らした鮮血の海に沈む。
―――『薔薇杭歯・豹咬衝撃(ローズステークス・ジャガークラッシュ)』
「うえっぷ、薬臭っ」
噛みちぎった肉片をぺっと吐き出して、ヒシアマゾンは口元の血を拭った。
『姉様! ヒシアマ姐さん!』
「ソニア、マリー、無事なようじゃな。ではルフィを助けに行くぞ!」
「おう、二人とも無事かい!! ロブロイもマーベラスもご苦労さん!」
ソニアとマリーの破れた衣服を、どこから取り出したのか芋虫やウミウシのワッペンで繕いながら、ヒシアマゾンは二人のウマ娘に水を向けた。
「はい! ヒシアマさんもご無事で何よりです。それで、テイオーさんは?!」
- 122二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 07:14:12
- 123二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 07:18:39
- 124二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 12:02:59
- 125二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 15:32:32
イナリの勝負服原案から大分変わったわね
めちゃくちゃワノ国衣装っぽい - 126二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 18:06:04
タマはさすがに印象変わらんかったな
- 127二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 18:45:44
イナリの勝負服、これ原案では腰に巻いてたやつの花柄を少し小さくして羽織ってる感じ?
とにかくワノ国での活躍もだいぶ濃くなってきたな
そういえば2年前にフォクシーのとこで一時食客になってた話は自然消滅したんだっけ? - 128二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 19:02:35
- 129二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 19:11:05
なるほど、確か前に見たオグリ海賊団の年表みたいなやつではフォクシー海賊団で用事が終わった後に頂上戦争のドサクサに紛れて百獣海賊団の船に潜入してそのまま2年間ワノ国に潜入してるってあったけど
今後はフォクシー海賊団で用事のところを、トレセン諸島編終盤でオグリ海賊団の一員として登場でもいいかもね
- 130二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 19:23:36
フォクシーにいるのが出た頃はオグリ一味の設定もワノ国も無かった時期だったからな、2年前は原案の方の衣装でワノ国編からは新しい方って使い分け出来そう
- 131二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 22:54:18
ライス「ローくん大変!また世界経済新聞にどう見てもライス達がモデルになってる小説が載ってるの!」
ロー「ドフラミンゴ……!あの野郎投獄されてからも迷惑かけやがって……!」
ライス「で、でも、今回のは作者さんの名前が違うみたいなの。文体も違うから別の人じゃないかな……」
ロー「なんだと?なんて作者だ」
ライス「Ms.チョベリグさん……だって」 - 132二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 23:50:27
元々シングレで主役級張ってら上にキャラ立ってたからなぁ
- 133二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 00:50:22
今どんなブルボンの概念があるのか教えてくれる親切な方はいませんか?ブルボン好きなんだがしばらくスレ離れてたからわからなくなっちまった。
- 134二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:03:44
ジェルマブルボン
海軍ブルボン
ドンキホーテファミリーブルボン
ワールド海賊団ブルボン
ってところかな - 135二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:08:00
- 136二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:43:28ミホノブルボン - 麦わらの一味 占い師 マチカネフクキタル SSまとめwikiミホノブルボン 【所属】海軍本部科学部隊(Aパターン) ジェルマ66(Bパターン) 【階級・役職】軍曹(A)、No3(B) 【能力】鍛えた肉体(A) レイドスーツ(超加速装置)(B) 【年齢】20→2...w.atwiki.jp
ジェルマと海軍のはこのページを、ワールド海賊団のはこのスレの最初の方から始まってるSSが初出なのでそれを見るのが分かりやすいと思う。
ドンキホーテファミリーのはヴェルゴの部下でライスの友人だけどドレスローザで敵対するブルボン
と、コラソンを継いだライスの部下でドレスローザでは共闘するブルボンで別れてる。
能力は基本的に全部共通で悪魔の実は無しで鍛えた身体と覇気が武器、ジェルマブルボンだけはそれに加えてレイドスーツがある
- 137二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 04:25:40
ブルボンは増えるからな
- 138二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:15:25
- 139二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:16:23
第6章
銃弾が飛ぶ。
テイオーが駆ける。
流れ弾で灯りを失った室内を、明滅する銃火が断続的に照らし出す。
明度不足にて、吐き出される弾丸はテイオーを捉えられず、テイオーの拳は見聞色をもって銀色のくまに吸い込まれるが、速度が足らず装甲を抜くことが出来ない。
よって互いに決定打は無く、千日手の様相を呈していた。
いや、時間をかければかけるほど、テイオーはジリ貧だ。彼女が守るべき弟のルフィは、現在一人でバーンティ・ワールドに対峙している。いまだ覇気に目覚めぬ彼一人を、覇気を扱うワールドの前に立たせ続けるのはあまりにも危険すぎる。
だから急いで助けに行きたいというのに、それでもこの銀色のバーソロミュー・くまを突破できない。
ルフィの元へと繋がる、壁に開いた穴の前に陣取り火器を乱射するだけの敵は、最悪なことに、今のテイオーには相性が悪い。
さっさと吹き飛ばしてしまいたいのに、負傷した脚の影響もあって、そこまでの速力=火力を発揮できない。
「くそっ、何なんだよ! お前は!!」
テイオーの罵倒を、眉一つ動かさずに跳ね飛ばす銀色のくま――――海軍の秘密兵器パシフィスタの試作品の一つ、武装評価、内蔵火器の重量バランス調整のための試験機に、最低限の駆動メカニズムと操縦系統を組み込んだデカブツの中で、それを操るバーンティ・ビョージャックは、血を吐くように同じ言葉を繰り返していた。
「今度こそ―――、今度こそ――――」
30年前、サイファーポールの分断工作でかつてのワールド海賊団は壊滅した。そして、再起の芽を摘まぬために、重傷を負ったワールドを残して、その場を逃げ出すほかなかった。
兄である自分を、必ず守ると約束してくれた弟を残して!
だからこそ、ビョージャックは力を求めた。この病弱な体を弟なみとはいかずとも人並みに強くする方法を。それが叶わないのなら、脆弱さを補うための武器を。
それこそが、この銀色の『試験型パシフィスタ』であった。
しかし、そもそも病弱で脆弱、更には既に年老いているその身に、重火器発砲の振動ですら重荷であった。自身の攻撃の反動で朦朧とする意識を何とかつなぎとめているのは、もはや妄執ともいうべき、30年前の後悔に他ならない。
- 140二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:17:01
「今度こそ、今度こそ、ワールドを見捨てはせんぞ……。ワールドを守るのだ……。ワールドもとへは行かせんぞ、ルナの子め・・・・・・」
とはいえ、発砲だけで死にかているビョージャックに、パシフィスタの機動力を駆使し、敵を葬る事は負担が重すぎる。故に、出入り口をその巨体でふさぎ、内蔵された火器を乱射する以外に戦法はない。
ビョージャックには知る由もないが、その選択は今のテイオーの精神をおいつめる最適解であった。
――― 急げ。
動かない敵、打破できない状況に焦れ、幾度目かの突撃を敢行するテイオー。銃弾の雨を避け、武装色で防ぎ、パシフィスタを殴りつける。
――― ルフィの所へ行く、今度こそ。今度こそ兄弟を守って見せる。
しかし、その攻撃は装甲に阻まれる。衝撃で機体が揺らぐが決定打にはならず。
――― 喪う恐怖が体を突き動かす
反撃が来る。それまでにもう一発打ち込むが、装甲は破れず。
――― からだが軋む。こころが、焦げる。
銀の腕を掻い潜り、距離をとり、状況は振出しに戻る。
――― 昏く黒く煙る空、鈍く輝く熔岩の灼。低く垂れ込む暗雲。ひび割れ焼け焦げた大地。
再度、攻撃に移る。速度を求めて加速、武装色に任せて弾丸の雨を無視、
――― 折れた脚を抱え、兄弟のもとへ行こうと焦る。
- 141二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:17:32
装甲がへこむ。だがソレだけだ。
――― あの時の光景が、さっきから頭の中を駆け巡っている。兄を失った瞬間が、頭の中心に焼き付いている。
武装色越しであろうと、鉄火の打撲を受けた体の痛みを無視して、更に硬くこぶしを握り締める
――― 赤犬のマグマの拳に、体を貫かれ絶命するエースの姿が、ワールドに殺されるルフィに入れ替わる。
「ッ、ァアアアアアアアアア!!!!!」
気がふれたかのような絶叫をあげて、逆の拳を叩きつけた。
しかし助走の無い拳では装甲を響かせることすら出来ず、ならばと同一個所に『叉突捷』のラッシュを叩きこむ。果たしてテイオーは、装甲の凹みを広げた程度で、パシフィスタの腕に弾き飛ばされ、床を転がった。
膝をつき体を起こそうとするテイオーに、またもや銃口を向けるビョージャック。
―――変化が訪れたのは、その時だった。
「コンドル猛撃波ァ!!!」
割れる天井。砕け散るキューブを貫いて、青い閃光が床に突き刺さる。
雷鳴のように、黒鹿毛をたなびかせる一人のウマ娘は上階の床をぶち抜き、対峙するテイオーとビョージャックの中ほどにクレーターを生み出した。
「迅速! 俊足! 世界最強! エールクォンドルパサァアア! だぁい勝利デース!!!」
スポットライトのように、割れた天井から差し込む光に照らされハイテンションな勝鬨が室内にこだまする。
その足元に転がる人影を認め、ビョージャックは驚きの声を上げた。
「ガイラム?!」
- 142二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:17:56
クレーターの底に横たわるのは船大工ガイラム。船に侵入し破壊活動を行っていたバギー海賊団を相手取っていた筈の一味の幹部は、抉られた床の底で、意識を手放していた。
「なかなか楽しかったデスよ? 流石は悪名高き、ワールド海賊団の幹部でした。
でも、船を操る片手間でエルたちの相手をしようというのは、さすがに傲慢が過ぎましたね」
「おぉいエルー! 無事かぁ!?」
天井の裂け目から声が降ってきた。
「心配ご無用デース! 後で追いかけますからキャプテンは先に行って下サイ! エルはちょっと子守りの必要がありそうデス!」
了承の返事と共に上階の気配が走り去ると、エルは膝をつくテイオーに手を差し出した。
「大丈夫デス? 立てます? 生まれたての仔馬みたいにプルプルしてマスけど、お姉さんが痛いの痛いの飛んでいけしてあげましょうか?」
「………………、子守りってそういうことッ!?」
発破をかけるにしてももう少し言い様ってもんがあるでしょ!
からかうようなニヤケ面から飛び出したあまりにもな名物言いに、テイオーは差し出された手をはたいて自力で立ち上がる。
右脚をかばうようなその挙動に違和感を覚えたエルは、ニヤケ面を引っ込め、
「……脚。治ってないの?」
「またやっただけ。問題ないよ」
「―――。ハァ、この程度の相手に何を苦戦しているのかと思えば……」
「うるさいな。ちょっと速度が足りてないだけだよ」
「しかも動かずに弾をばらまいてくるだけだから、相手の『波』も利用できないと―――」
「………悪かったね」
わざとらしく肩をすくめるエルに渋面を作るテイオー。
「まだまだデスねぇ……。よし、ここはエルがお手本を見せてあげましょう!」
「……どういうつもり?」
「『黄金世代』。先を行くものとして、後に続くダレカに、次元の違いを見せたい気分なんデスよ」
- 143二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:18:25
言って、エルは今まで沈黙を守ってきたパシフィスタに向き直る。
そこで漸く、ビョージャックは銃口を向けた。
「貴様ら、よくも、よくもわしらの仲間を!」
「素人デスねぇ」
「なに?!」
「さっきからエルがテイオーと無駄におしゃべりをしていたというのに、そんなレッドラインよりも大きな隙を見逃すなんて、やる気あるんデスか? あなた」
「……なっ……にを―――?」
「ほら、今だってそう、無駄なお喋りをしている暇があれば、さっさと引き金を引けばいいんデス」
黄金のマスクの奥から、心底馬鹿にしきった目を見せて
「さっさと敵を殲滅する気概も無しに仲間がどうこうとか、どのお口で言ってるんデス?」
「………」
「口先だけで、『仲間』がどうこうとか止めてくれマス? それ、そんなに軽い言葉じゃないんデスから」
返答は銃撃だった。
30年の積み重ねを侮辱され、脳味噌の言語野までも怒りに支配されたビョージャックは、異常に凪いだ心で引き金を引いていた。
だから、その光景をつぶさに見てしまった。
エルコンドルパサーは走っていた。
何もない空中―――、否、ビョージャックの怒り、毎分500発の連射される弾丸の濁流の真上を、一歩進むごとに加速しながら、遡るかのように一直線にパシフィスタに迫っていった。
即座に、逆の腕に仕込まれたライフルを撃つ。
大気を捩じりながら進む弾丸を、まるで風に乗る鳥ような動きでかわした瞬間、更に加速して見せたエルコンドルパサーは何一つのしがらみもなく、パシフィスタの装甲を蹴り破った。
―――『コンドル猛撃波ァ!!!』
- 144二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:19:06
無数のキューブを弾丸のように操る船大工ガイラムを、クレーターの底に沈めた時と同じく、エルの足刀蹴りは鋼鉄の塊である試験型パシフィスタを蹴り飛ばした。
「ほら、御覧の通りデース」
スポットライトを浴びて、エルはテイオーを振り返った。
空気の流れ――即ち風、気圧の不均衡が生み出す疎密の『波』。銃弾が生み出す衝撃波を月歩で捉えて加速する。エルコンドルパサーがやって見せたのは、そういう芸当だ
「……次元が違うって、そういうこと……」
「ブエノ! 物事は平面で考えてはいけまセーン! 世界は空間なのデース!」
啓蒙。テイオーは、差し込む光の中に歩を進める。
エルは、沈黙した鉄の塊をどかそうとパシフィスタに歩み寄り、
「ケ?!」
弾けた装甲の下から、顔を出した無数のトゲ砲弾に目を丸くする。
「貴様らはわしが倒す! ワールドをやらせはせんぞ!」
喀血を撒き散らしてビョージャックが叫ぶ。
弱い体は、既に断末魔の様な悲鳴を上げている。しかし、30年前の後悔がある限り、死んでも死にきれない。病弱な老人は、ただただ積み重ねてきた執念だけで、意識を繋いでいた。
発射。
装甲の下に隠された鋭い棘は、発射されれば目標を追尾し食い込み炸裂する。能力者でない二人には効果がないが、海桜石で造られたトゲの弾頭は、能力者を相手どった場合の切り札であった。
- 145二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:19:52
至近距離にいたエルは、爆発に巻き込まれる。
そしてテイオーは、
――― 奔った。
折れた脚を動かし、痛みを押し殺し、爆風という空間を揺らす『波』に乗る。
高温で膨張し、爆音となって耳朶を撃つ大気を蹴って、恐らくは、ウマ娘の中でも屈指の柔軟性を誇る、ゴム人間のルフィと正面から対抗できる体質を最大限に生かして爆音のリズムを全身で乗りこなし―――、敵の攻撃エネルギーを最大限に利用して―――
極限に達した躰に、炎が宿る。
―――『闘鏡祐瞬・仁奔荼毘!!』
ウマ娘空手、二つ目の奥義。あの頂上戦争で、兄弟の危機にあって逆に自らの脚を砕いた未完成の奥義は、自由自在に敵のチカラを利用するという形で、遂にここに完成を見た。
テイオーの奥義を受けて、パシフィスタは背にした壁ごと粉砕され、バーンティ・ビョージャックは鉄くずと共に床にぶちまけられる。
ぶち抜いた壁から差し込む光の中で、テイオーは深く息を吐いた。数舜経ち、はっと気づいて爆発にさらされたエルを振り返れば、
「きゅ~」
部屋の真ん中でぐるぐると目を回していた。
「テメェ、エルゥ! 何気絶してんだお前ェ!」
上階より、バギーの声と共に腕が降ってきて、気絶したエルコンドルパサーを抱えて引っ張り上げた。
目を回したまますーっと上がっていくその姿を見送って、息を整えたテイオーは、パシフィスタごとぶち抜いた壁の穴をくぐる。
その先には、黒い拳を振り抜いてワールドを殴り倒す、ルフィの姿があった。
- 146二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:20:37
※ ※ ※
武装色を纏った拳がゴムの体を捉え、捻じ曲げる。
それに飽き足らず、モアモアの加速でもって執拗に、拳を叩きこまれ続けたゴム人間は玩具のように翻弄され、床に転がった、
モンキー・D・ルフィを這いつくばらせたバーンティ・ワールドは、荒げていた息を整えて吐き捨てる。
「餓鬼が―――。しつこいんだよ―――」
―――拳で空中にかちあげ、落下までに散々に殴りつけ、床に張り付けてさらに殴りつけた。
―――ルフィは拘束を破り、起き上がった。
―――投げつけた砂利の速度質量を拡大し動きをとめ、更に小石を拡大して投げつけた。
―――覇気の礫に撃たれ床に崩れたルフィは、しかし腕を伸ばしワールドの脚を捕まえる。
―――足を掴まれたまま蹴り飛ばし、ゴムで戻ってくる玩具のように何度も何度も蹴りつけ、50倍の速度で床にたたきつけた。
―――ただ叩きつけただけではゴムの防御を破れず、「ギア、サード!」巨人のように膨らんだ腕に引っ張られバランスを崩す。
―――巨大化した拳が迫るが、武装色硬化した腕で受け止める。重金属の擦れるような鈍い音が室内に響き渡った。
―――ルフィも腕を武装色硬化し、最速の乱打「JET銃乱打」を放つ。
―――モアモアで加速し、変幻自在の乱打をかわし切ったワールドは、ルフィの息が切れた時には既に撃尺の間に迫っていた。
―――武装色の覇気同士が奏でる異様に重い激突音の果て、防御の上から殴り飛ばされたルフィは、執拗に拳を叩きこまれ今度こそ床に沈んだ。
「―――大したチカラもない癖に、梃子摺らせてんじゃねぇ……その程度で、だれかを守ろうなんざ烏滸がましいんだよ」
何度も何度も、叩きのめしても起き上がってきた少年に吐き捨てるワールド。しかし次の瞬間、部屋の壁が破裂し、キューブ状の瓦礫と鉄くずに混ざって、バーンティ・ビョージャックが床に転がった。
「………。使えねぇ」
そしてワールドが敗北明らかな兄に視線を向けた時、船内の電伝電虫が一斉に喚き始めた。
- 147二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:21:37
『この船は、王下七武海、<道化>のバギーが制圧しました! 無駄な抵抗は止めて降伏しなさい!』
指令室の伝電虫からの一斉放送だ。歳若い女の声は続ける。
『既に、<サイボーグ>ミホノブルボン、巨魚人セバスチャン、船医ナイチン、船大工ガイラムと主だった幹部は我々が撃破しました!』
さらに言えば、既に船の頭脳である指令室は既に占拠されている。理由付けは十分だ。これ幸いにと雑兵どもは逃亡するだろう。ワールド『海賊団』は、壊滅したも同然だ。
「本当に使えねぇ……」
「……ワールド、すまん……」
苦しい息の下から絞り出された兄の言葉を受けて、
「兄貴……。いまさら、何を謝る事がある」
―――最初から、お前らに期待なんてしてねぇよ。
道端のゴミを見るかのような、無感情で静まり返った瞳が、ビョージャックを写していた。
「ワールド……?」
ガラス玉の様なその目を見て、遂にビョージャックは悟ってしまった。
――― 自分のたった一人の肉親は30年前、自分が置き去りにして逃げたその時に、死んだのだ。
――― 兄である自分を、必ず守ると約束してくれた弟は、もうどこにも居ないのだ。
「お前らは道具だ。使えるか、使えないか。その程度の違いしかねぇ」
- 148二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:23:19
言ってワールドは悠然と足元の瓦礫を掴んだ。
「使えるんなら使ってやる。使えねぇんなら―――。いらねぇんだよ、兄貴」
覇気と殺意を込めた散弾が、絶望の底にいる兄に向けられた。
鈍い音。
覇気と覇気がぶつかった金属質な重い音が響き渡る。
割り込んだのはルフィだ。武装硬化した両腕で散弾を弾くと、ワールドを睨みつける。
「仲間が、道具だと? 兄弟を、殺すだと?」
「……貴様」
とうに、倒したはずだ。
一度ならず、二度、三度と立ち上がる少年に、ワールドは驚きを隠せない。
「巫山戯るなァアアアアア!」
黒い拳が、ワールドの側頭部を捉える。片角のバイキングヘルムが吹き飛ぶ。ワールドはモアモアの加速で避けることすら出来ず、どうぅっと背中から倒れ込んだ。
ルフィは一度、深く息を吸い、肺を酸素で満たし、それを吐き出す。
頭が冷える。同時にワールドへの敵意が、さらに強く鎌首をもたげる。
ハンコックの妹を攫ったから。テイオーを助けに行くのに邪魔だから―――。それだけではない。倒さなければならない。この男を認めてはならい。屈してはならない。
「ルフィ!」
聞こえた声に振り向くと、壁の穴をくぐってテイオーが姿を現した。
負傷はしていても、隣に並ぶ妹の無事を確認すると、ルフィは告げる。
「テイオー。こいつは、俺が、ぶっ倒す!」
「ルフィ?」
- 149二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:23:50
今、問われているのはルフィの覚悟であった。己とはまるで真逆、その存在そのものがルフィのこれまでを否定するこの男を、己の信念のもとに打ち砕けるのか否か、それこそが問題であった。
「……何を熱くなってやがる」
上体を起こして、ワールドが言う。
「俺の何が気に入らない、使えねぇ奴は処分するだけだ。お前も、海軍なんぞにつかまった間抜けな兄貴を見殺しにしたんだろうが!」
「―――っ!」
そのセリフに、動揺するルフィ、掛りそうになるテイオーの機先を制し、爆発的なワールドの拳が襲い掛かる。
金属が軋む音。
テイオーの前に体を晒し、殴られたルフィが後じさる。
「何度でも言ってやる! お前は、兄妹も、仲間も、だれも守れねェ!」
「そうだ……」
ルフィは過去(キズ)に向き合った。
「……?」
「俺はエースを助けられなかった……けれど! 俺にはまだ待ってくれている仲間がいる! 同じ痛みに苦しんで、怒ってくれる兄妹がいる!」
「まだいうか!」
武装色を纏った二人は激突する。
殴り、殴られ、何時しか二人の攻防は拮抗を始める。
――― 仲間を守る
――― 海賊王になるんだ
- 150二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:24:22
激突するルフィの闘志を、テイオーはつぶさに感じ取っていた。
海賊王とは、世界で一番自由な男だ。自由の意味を知る男だ。何者にも屈さず大切なものを守れる男だ。
テイオーは静かに見守り、しかしもう一人この場に居る人物―――。バーンディ・ビョージャックは、パシフィスタの残骸から銃器を引っ張り出していた。
どれだけ拒絶されても、ワールドは弟だ。そして、今度こそ弟を見捨てないと決めた。自分自身の決断と行動に責任を持つ。たとえ命を落としても。それこそが今のビョージャックに残された唯一の自由だ。
死にかけの老人は、執念でルフィに向けた機関銃を、
「邪魔しないで」
いつの間にか近寄っていたテイオーに、蹴り飛ばされていた。
「これは、ルフィとキミの弟の戦いだ。信じて、見守ったらどう?」
テイオーの碧眼に写る、ワールドとルフィの戦いは加速の一途をたどる。
モアモアの加速を使っても振り切れないルフィに、ワールドは焦りを隠せない。
そして攻守は逆転する。
「ッ!」
ついに、ルフィの渾身の一撃が、ワールドを捉えた。巨体が床に激突し、武装色の強化が解ける。
「おれは、お前をぶっ飛ばす!」
「若造がぁ!!」
―――『ゴムゴムのJET銃乱打!』
―――『モアモア百倍速・覇王拳!』
- 151二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:25:55
目にもとまらぬラッシュが展開される。
最高速まで加速したワールドを、目には見えない”百倍速”を、観る。目を閉じて、ルフィの見聞色は一部の隙も無く標的を補足していた。
ワールドの拳がルフィをとらえ、ルフィの拳もワールドを捉える。
クロスカウンター。正面からの激突を制したのは、ワールド。ルフィの体は大きく吹き飛ばされる。否、ワールドに叩き込まれたルフィの拳は、いつの間にかその胸ぐらを掴んで放さなかった。
結果、ルフィのゴムの左腕は、限界まで伸びてワールドの拳の威力を弾性として保存。その左腕の先で、ルフィは右腕を超高速で後ろに伸ばす。
右腕と左腕、敵の攻撃すら利用して両腕にため込んだ限界ギリギリのエネルギーを、ルフィは一気に開放する!
超高速の拳が、大気摩擦によって炎をともす。ワールドが驚愕する間も無く。
―――『ゴムゴムのォ……火葬拳銃(ダービーレッドホーク)ッ!』
信念―――。仲間への思い、兄妹への思いを込めた劫火の拳。
武装色の防御を貫かれ、ワールドは壁にめり込むほどに吹き飛ばされる。そして、長い生涯で一度も上げた事の無かった、断末魔の様な悲鳴を上げた。
ルフィは勝利し、ワールドは敗北した。
その結末に、兄姉はそれぞれの弟に駆け寄る。
テイオーは消耗したルフィに肩を貸し支え、その場を後にする。
残されたビョージャックは、呆然と敗北した弟を眺めやり、ただ一人、終わりを告げるその足音を聞いていた。
- 152二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:31:30
- 153二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 12:13:40
- 154二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 18:14:05
- 155二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 22:35:39
ハヤヒデの初登場って黄猿に合わせてシャボンディ諸島になるのかな……とふと思った
- 156二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 00:32:06
黄猿が突入した後の戦桃丸からの連絡を受け取る姿が初登場かね
- 157二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 02:41:26
このレスは削除されています
- 158二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 02:42:22
当時ハヤヒデは大佐か…まあそこまで脅威じゃないな
- 159二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:24:16
- 160二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:25:17
第7章
二日後。 <グローセアデ号>内部にて。
ワールド海賊団が誇る巨大海賊潜水戦艦は、王下七武海<道化>のバギー率いるバギー海賊団と<海賊女帝>ボア・ハンコックの九蛇海賊団の手により制圧され、逃走できず降伏したクルーともども海軍に引き渡された。
現在、海軍の手によって調査、検分が進められており、その任に当たっているのは別の任務で近場を航行していた、<ダイヤモンドペルセウス号>―――、メジロマックイーン麾下のクルーたちであった。
そして海賊潜水戦艦の一角では、先日のワールド海賊団との激闘が嘘のように、やたらとエレガントな光景が広がっていた。
ちょっとした島程の大きさを誇る船体の半ば以上を、まっすぐ貫くトンネルのような空間で、黒い上品な衣装に背中に正義の海軍コートを羽織った葦毛のウマ娘は、アフタヌーンティースタイルで菓子と紅茶のポットを並べた高級感あふれるテーブルで、手にしたノートをパタンと閉じた。
「やはり、おかしいですわね」
「いや、おかしいのはアンタだよ」
心底あきれ返ったツッコミを入れたのは、同じテーブルに頬杖をついている海軍ウマ娘の、ナリタタイシン中佐であった。
言われた葦毛のウマ娘、メジロマックイーン中将はマカロンを手に首を傾げた。
「あら? わたくし何かしでかしまして?」
「なんで、こんなところにまでテーブルとかカトラリーとか持ち込んでるのかって言うのは、もぉー突っ込むのも嫌だからなんにも言わないけど―――、アンタ、それ何個目よ」
つまんでいるマカロンを示されて、マックイーンはしばし動きを止め、ひょいぱくと口に放り込んだ。
「10個目ですわね」
口にものを入れたまま喋るなどと言う不作法はしない。モグモグごっくんと咀嚼と嚥下を終わらせてから、返答する。
「……。見てるだけで胸焼けしてきた―――」
「タイシンさん、海兵は体が資本ですわよ? 食が細いのは頂けませんわね?」
「……アンタまでハヤヒデみたいなこと言わないでよ……」
反論する気もそがれたと、天を仰ぐタイシン。勢いあまって背後まで達した視野に、見慣れた葦毛が写り込んだ。
「私がどうかしたか?」
上下反転した視界の中で疑問符を浮かべる親友に、何でもないよとタイシンは力なく答える。
「???」
- 161二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:26:57
「あらハヤヒデさん、随分と早いですわね。ここで発見した遺体の検分はもう終わりましたの?」
「ああ。間違いなく、バーンディ・ワールドだったよ。主な損傷個所は腹部と背面全体の打撲。特に腹部は赤熱した金属塊でつけられたような傷だった」
「それが致命傷ですか?」
「いや、致命的だったのは頸部の傷だ。まるで、首筋に根を張った木を無理矢理引き抜いたような奇妙な傷跡でな、凶器の特定にはまだ至っていない。ただ、上階のホールに残された戦闘痕から考えて、高熱を帯びた打撃を腹部に受けて吹き飛ばされ、壁にめり込んだ後に息を吹き返し、ボロボロの体でここまで来て、首に致命傷を貰ったと見るべきだろう」
「そこまで時間的なズレがあるのなら、ワールドと戦って殴り飛ばした人物と、とどめを刺した人物は別人と考えるべきべきですわね」
ハヤヒデさんはどなただと思います? マックイーンに問われ、眼鏡をくいっと上げる。
「さてね。檻の前で遺体が見つかった船医ナイチン、海軍に捕縛された船大工ガイラムと巨魚人セバスチャンも含めると、主だった幹部で行方が知れないのは、バーンディ・ビョージャックだけだが……。ワールドの兄だぞ?」
「なるほど……。それはそうと、チケットさんが捕縛した海賊から訊き出した『ミホノブルボン』というウマ娘の痕跡はありましたか?」
「いいや。不自然なほどに、無い」
「そうですの……。例の破片の分析は?」
「完膚なきまでに破壊されていて、今の所、重武装の兵器の破片ではないか? と言うことしか―――」
これではまるで証拠隠滅だ。と、ハヤヒデは自分の印象を口にした。
「証拠隠滅……ですか」
11個目のマカロンを手に、黙考するマックイーン。しかし空間に充ちた静寂は、わずか数秒でやたらと元気な声にぶち壊された。
「ハヤヒデー! タイシーン! マックイーン!! 判ったよー!」
駆けこんできたのは、ウィニングチケット中佐だ。
「うるさっ」
テンションの高すぎる親友から目を逸らし、タイシンはマカロンを手に取るが、それに目ざとく反応したチケットが更なる大音声を響かせた。
「あー! タイシン! 自分だけ食べてるー! アタシにも頂戴!」
「~~~~~っ! うっさい! いちいち叫ぶんじゃないっての! それにマックイーンだって食べてんでしょうが!」
- 162二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:28:21
「えー、マックイーンがスイーツ食べて太るのって、いつもの事じゃん!」
わざわざいうことじゃ無くない? と、どストレートにぶちかますチケットに、さすがのマックイーンも咽る。
「ちょっとソレどういう意味ですのチケットさん!」
「? そのまんまだよ? 体重増えてるのによく体型変わらないなーって、私たち毎回感心してるし。ねぇハヤヒデ?」
正直すぎる親友のキラーパスを受けたビワハヤヒデ少将は、マックイーンの追求の目を、視線を逸らすことで誤魔化す。
一筋の冷や汗を垂らしているあたり、誤魔化し切れていないのはご愛敬だ。
「で? チケット、何が判ったのよ」
マックイーンの口に12個目のマカロンを押し込んで黙らせつつ、タイシンが水を向ける。
「うん! バギー海賊団に聞いたんだけどやっぱりルフィとテイオーが一緒に戦ってたみたい! あと、ゼンノロブロイとマーベラスサンデーってウマ娘もいたらしいよ!」
「ゼンノロブロイ……だと?」
呻くようなハヤヒデのセリフにチケットが反応する。
「知ってるの!?」
「ああ。思想犯として賞金首になっているウマ娘だ。一説には、『あの』オハラの流れを汲んで歴史の本文を読むことが出来るという話もある」
「えー?! そんな危ない人がテイオーと一緒にいるのぉ!?」
「………。いつの間に、なんつー奴とつるんでるのよ、アイツは―――!」
「もう一人、マーベラスサンデーという名は聞き覚えが無いが……、不味いな」
「テイオー………。これじゃあ完全に反逆者だよ―――」
「………ッ、何を今更! アイツは、アタシら仲間や自分の母親より、海賊の兄貴を選んだ! もう判り切ってる事でしょ!」
「タイシンさんの言う通りですわね。まぁ、テイオーの事はこの際置いておきましょう」
考えても仕方がありませんし。
上品にマカロンを飲み込んで、マックイーンは続ける。
「チケットさんの情報で、疑問の一つは解消されました。ワールドを下したのは<道化>でも<海賊女帝>でもなく<麦わら>のルフィだったようですわね」
「まぁ、ワールドの遺体が石化もせず五体満足の状態な辺り、<海賊女帝>の仕業ではないのは明白だったが……」
「バギーの手下にはインベルダウンから脱獄した連中もいるでしょ? そいつらだとは思わないの?」
- 163二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:30:12
タイシンの指摘に、マックイーンはその可能性もありますが、それは考慮せずともよい可能性でしょう。と続けた。
「なぜならば、バギー海賊団の損耗が少なすぎますわ」
ワールドは<世界の破壊者>とも恐れられた大海賊だ。同じくインベルダウンに収監されていた元囚人を配下に加えているとはいえ、LEVEL6に収監されていた危険人物相手に正面からぶつかればただでは済まない。
「―――ですので、何かしらの隠れた真相があると踏んでましたが………。本当にいろんなところに顔を出しますわね、彼は」
「んー? じゃあどうなるの? ワールドはルフィに倒されたんでしょ?」
「どうにもなりませんわよ? LEVEL6も秘密ならワールドの脱獄も、外遊船を沈められたことも秘密。その上で革命家ドラゴンの息子、<麦わら>のルフィにワールドを討伐してもらいました。なんて、サカズキ次期元帥が発表できるとお思いで?」
「……まぁ、無理だね」
「次期元帥に一番近しいタイシンさんもこうおっしゃっていますし、隠すところは隠して『王下七武海<道化>のバギー大活躍』と言ったところで納めるでしょう」
「俺様を呼んだかお前らぁ!」
広い空間にチケットに負けない大音声が響いた。
ピエロメイクに、キャプテンハット、暖色系の派手なマントがかすむ程、ドハデに目立つ真っ赤な鼻。
その声の主に、半眼を向ける野性味あふれる褐色のウマ娘が、さらに後ろから現れる。
「声がでかいよアンタ、デカいのはその赤ッ鼻だけにしときな」
「だぁれがデカッ鼻だァアア!! ドハデにぶっとばすぞォ!」
「お、タイマンするかい? アタシはいつでも受けてたつよ?」
バチバチと視線で火花を散らしあう、<道化>のバギーと<女傑>ヒシアマゾン。実況見分の為、いまだこの海域に留まっている王下七武海と王下七武海(ボア・ハンコック)のスポークスウーマンである。
「噂をすれば影とはこのことですわね。別に呼んではいませんが、なにか御用ですの?」
意にも介さぬマックイーンに興が削がれたのか、海賊たちは互いに人を殺せそうな視線を引っ込めた。
「いつまで俺の船で好き勝手してるつもりだ? いい加減にしねぇと、レンタル料を請求すんぞ」
バギーのいう俺の船とは、もちろんこの<グローセアデ号>の事だ。
「……別にアンタの船じゃないでしょ?」
- 164二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:31:06
ぼそりと呟いたタイシンを、ジロリとバギーが睨みつける。
「あんだぁ。このおチビちゃんは、まぁだモノの道理というもンが判んねぇみてぇだなぁ?」
「誰がチビだって!?」
「いいか? 俺は海賊だぞ? 戦って奪ったものは俺のモン、つまりこの船は俺のモンってわけだ!」
声を荒げるタイシンを無視して、「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの~」胸を張って主張するバギー。確かに王下七武海の特権として、世界政府の敵からの略奪強奪の自由が保障されてはいる。しかし―――、
「それならば、公式記録では共動討伐に当たった九蛇海賊団にも権利が発生すると思われますが?」
ハヤヒデの語る通り、ワールド海賊団を討伐したのは、バギーと共同戦線を張ったハンコックと言うことになっている。同じ七武海同士、バギーの言い分だけが通る道理はない。
「かーっ! ご立派な理屈をこねやがって、これだから頭でっかちは!」
「な……っ?! わ、私の頭はデカくないぞ! 普通だ!」
「んなもんとっくにこっちの九蛇の船長代理と、話がついてんだよ!」
なぁ! と、なれなれしいバギーのセリフを受けて
「ああ。九蛇としては、ウチの皇帝が仕事をしたって事実とその代償が保障されるなら、こんなガラクタはどうでもいいからね」
ヒシアマゾンは胸を張っていう
「そういうわけで、ワールド討伐の手柄は、丸っとすべて俺様のものってこった! 」
ぎゃはははは! 「俺のものは俺のものパートトゥ!」と景気よく笑うバギーの姿にマックイーンは苦笑を浮かべ、
「残念ながら、そう上手く行きそうにもないですわね―――」
言うと、上機嫌がそのまま反転していきり立つバギーから視線を外して巡らせ、
「ねぇ? ガイラムさん」
芝居がかった仕草で海軍の名優は、暗がりに潜む<グローセアデ号>の船大工を名指しした。
「……いつ、俺が抜けだしたと気づいた」
姿を現したガイラムは、いぶかしげにマックイーンに問いかける。
「貴方が、捕虜隔離スペースから抜け出してすぐに、タイシンさんから報告をいただきましたわ。海桜石の手錠を腕ごと切り落として逃走した、と。下手に追いかけまわすよりは、最重要区画であったであろうここで待っていれば、お会いできると思っていましたが間違ってはいなかったようですわね」
- 165二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:31:42
「……」
「目的は、船ごと我々と心中する事でしょうか?」
切り落とし既に存在しない両手首から先を、能力で造った空気のキューブで塞いだガイラムは、鬼のような形相で周囲をねめつける。
「そうだ! 船長がやられちまった以上、仇をとってやらにゃあ如何にもならん! もうそれしか、俺が船長にしてやれることはねぇんだよ!」
―――『エア・キューブースター!』
空気のキューブを巨大な砲弾にして、発射する。狙うはマックイーンのテーブルの下。丁度そこが、<グローセアデ号>のキングストン弁である。
不可視の空気の弾丸であるのなら、実力者が集うこの場であってもすべてを薙ぎ払い本懐を遂げられる。そんな計算の上で放たれた攻撃。
しかし、ヒシアマゾンが動く。彼女の見聞色は目に見えぬ害意を明確にとらえ、迎撃を開始していた。
「タイマン上等!」
ふり抜いた拳は、不可視の攻撃を正確に捉え、粉砕した。
驚愕する暇もあろうものか。
―――『紗尽掌』
―――『二歩陀琵』
―――『訊禍衝』
『鞍疾駆・参貫覇!!』
動いたのはヒシアマゾンだけではない。突貫したタイシン、チケット、ハヤヒデの合体奥義が周囲三方向からガイラムに叩き込まれる。
逃げ場なく、奥義の衝撃に包み込まれ、成すすべなくガイラムは血反吐をブチ撒ける。
巨体はうつぶせに倒れ伏し、もはや指先一つ動かない。
<船大工>ガイラムの、己が担ぎ上げた船長への最期の忠勤は、海軍ウマ娘たちの手によって此処に阻まれ―――、
「脅かしやがってこのヤロウ!」
- 166二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:33:35
バギーが喚く。ヒシアマゾンは軽く肩をすくめた。
「しっかし、幹部には随分と慕われてたんだね、ワールドって野郎は」
「慕われているというには、少し後ろ暗いものを感じましたが……」
―――状況修了と、誰もが思い緊張を解いたその瞬間。
―――キュー・ブレイク
辺りの床がキューブ状に分解され、砕けた穴から噴き出した海水が、マックイーンをずぶ濡れにした。
「ギャー!」
真っ先にバギーが喚く。「水も滴るいオトコォ!!! ギャー!!!」悪魔の実の能力者である彼に海水は死活問題だ。そして、
『タイシン!』
「アタシは大丈夫! マックイーン! どうなってんのこれ!」
「まだ意識があっただなんて……。貴女たちBNWの奥義を受けて沈まないとは、流石に予想外でしたわ……」
海水に濡れた髪を打ち振るい、水も滴るメジロマックイーンは、既に海中に没したガイラムに驚愕と称賛の混じった視線を向けた。
「執念の、為せる業と言うべきでしょうか」
何であれ、キングストン弁を破壊された<グローセアデ号>は、もはや沈む運命を避けられない。マックイーンは、懐より取り出した伝電虫で、船中に散っている部下たちに退避を命じる。
「ヒシアマゾンさん。お早く女ヶ島に戻られた方がよいでしょう。彼らの目的がバーンティ・ワールドの仇討ちなら、此処にあったナニカを持ち出して狙われるのはおそらく、モンキー・D・ルフィですわ」
「アンタが何でアタシにそれを言うのかはわからないけど、もう、ここに居る理由もないのは同感だ」
ヒシアマゾンは駆け出し、マックイーンとBNWもその後を追う。
「おおい! 俺様を置いて行くなぁ!」
- 167二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:34:01
ひとしきり喚いて、泡食ったバギーは駆けつけてきたエルコンドルパサーに救出され、潜水戦艦諸共海の藻屑になる運命を回避した「あー。ひどい目に遭った」。
* * *
ルスカイナ島。
凪の帯の片隅、巨大な猛獣たちが生息し、週替わりで季節が変わる過酷な環境に、住人が全て滅ぼされた島。そして、女ヶ島に程近くモンキー・D・ルフィが再起の為に、自らを鍛え上げている無人島であった。
その島に、現在存在する人影は5つ。ルフィとその義姉(あるいは義妹)トウカイテイオー。テイオーの友人であるゼンノロブロイとマーベラスサンデー。
そして、ルフィを鍛え上げる師匠である<冥王>シルバーズ・レイリー。海賊王の右腕であった男は、弟子とその身内、その友人たちと焚火を囲み、熱弁を振るうゴール・D・ロジャーの研究家を名乗るウマ娘の話に耳を傾けていた。
- 168二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:36:19
「……つまり、ゴール・D・ロジャーは、そのカリスマ性で死に際に一般市民を扇動し海に駆り立てましたが、それはその扇動を受け入れるだけの下地、既存の秩序への不満が既に市民たちの間に醸成されていたことに他なりません。実際にローグタウンでロジャーの処刑を目の当たりにした人物の中には、大海賊時代に大きな影響を与えている人物が多数存在します。しかし、ロジャーに扇動されても、海にも出ず普通に陸(おか)で暮らしている人々がいる事もまた事実です。この大海賊時代は、ゴール・D・ロジャーが拓いた無法者の時代とも言われますが、見方を変えれば、陸の秩序になじめない無法者あるいはその予備軍が、ロジャーの扇動にこれ幸いと乗っかって、自分勝手に暴れまわっている時代ともいえるでしょう。
では、もしも仮にゴール・D・ロジャーの扇動が無ければ、この世界はどうなっていたのか? 海賊など存在しない平和な海で、陸に住む善良な人々の平凡な暮らしが脅かされる事はなかったのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。ロジャーが台頭する以前から、先日遭遇した<ワールド海賊団>、それ以前にルフィさんが壊滅させた<金獅子海賊団>、悪名高き<ロックス海賊団>と、現在、海で暴れている海賊たちよりもなお、人々の脅威となる危険な海賊が海には跋扈していました。ルフィさんのお爺さんであるモンキー・D・ガープ中将が一躍勇名を打ち立てたのも、<ロックス海賊団>との闘いで活躍をされたからです。
すなわち、『善良な人々が、陸の秩序に馴染めない無法者たちの脅威におびえる世界』は、ゴール・D・ロジャーの扇動以前から存在していたのです。もちろん、『大海賊時代』などと呼ばれるほど海賊が増え、そして比例して海賊による被害が増えたのは、彼の扇動のあとですが、それは潜在的に世界が抱えており、それでいて一般市民全てが目を背けてきた、『陸の秩序になじめない無法者』の存在という現実に直面させられた結果と言えるでしょう。
陸の秩序とは、現在の世界政府の体制の事になります。どんな秩序であれ、それに馴染めない『ならず者』は確実に存在します。全世界の多種多様万人万色の人々すべてが諸手を挙げて賛成できる社会システムなどありえません。
- 169二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:36:45
しかし、その秩序が世界の人々の実情により合致していればいる程、必然として『秩序に馴染めない』人間は反比例的に減る筈です。ところが、ロジャーが蓋を開けた程度で世界中にならず者が溢れ出すなど、『大海賊時代の幕開け』自体が世界政府の秩序が今の人々の実情に合っていないことの証明と言えましょう。ここで、ロジャーの扇動はある種のガス抜きの効果を生み出したとみることも出来ます。故に彼の扇動が無ければ、いずれ溜まり溜まって限界を超えた不満が爆発し、大海賊時代以上の混乱の時代が訪れていたことは、想像に難くありません。尤も、それはロジャーの扇動で海賊が増え、その被害が増えた事の反証ではあります。我々の故郷トレセン諸島もそうですが、偉大なる航路の島々は、ほぼ毎日海賊の襲撃をうけることもあります。しかし、世界の海は偉大なる航路だけではありません。東西南北の四つの海がありますが、ルフィさんの<麦わら海賊団>もそうですが、強い海賊ほど偉大なる航路に集まります。海賊のトップである四皇、<赤髪>のシャンクス、<ビッグマム>シャーロット・リンリン、<百獣>のカイドウ、<白ひげ>エドワード・ニューゲートや、四皇の地位ごと支配地域を簒奪した<黒ひげ>マーシャル・D・ティーチ。彼らは全て偉大なる航路に集っています。
偉大なる航路など世界のほんの一部にすぎません。海賊がエモノにする善良な一般市民も、四つの海の方がよほど人数が居ますし、偉大なる航路には寄港した海賊を住民が襲撃して財宝を強奪する、どっち賊なのか判らなくなるような島もあれば、このルスカイナ島の様に人が駆逐されてしまって略奪のしようもない島まであります。支配するにしろ奪うにしろ、他の四つの海の方が、よほど実入りが良いでしょうし、仮に四皇がそれぞれの海に居たならば、海軍は活動範囲が広大に過ぎて、対応できたものではありません。今以上のやりたい放題です。それでも、海賊のトップ4は、偉大なる航路を根城としています。
- 170二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:37:18
それはなぜか? もちろん答えは一つ、ゴール・D・ロジャーが死に際に語った『ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)』に他なりません。『海賊王の宝』が誘蛾灯のように海賊たちを偉大なる航路に招き寄せ、海軍はマリンフォードで網を張っていれば、獲物が向こうからやって来てくれるため、キャパシティを超えず世界のバランスが保たれる。いまの社会が崩壊せずに済んでいるこの構造は、ロジャーが生み出したものです。
現時点の結論として、ゴール・D・ロジャーは、世界に潜在していた脅威をつまびらかにし、大きな混乱を生みましたが、それと同時に世界の混乱を最小限に抑えた功労者ともいえます。世に不都合な真実を知らしめた鬼は同時に、世界を救った英雄でもあるのです!」
ロブロイの熱弁が終わる。
沈黙を挟んで、静かな声でルフィが口を開いた。
「………つまり、エースは鬼の子なんかじゃなかったって事か?」
「私はそう思います。ゴール・D・ロジャーに関しては、意図的に負の側面のみを取り沙汰されて、不当に貶められているように思えてなりません。少なくとも、世間で言われているほど悪辣な人物ではなかったことは、確実だと思います」
「そっか……」
静かに、空に輝く星々を見上げ、絞り出すようにルフィは、言葉を続けた。
「……ロブロイ、だっけ? お前の話、エースにも聞かせてやりたかった……」
- 171二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:38:03
海賊王の遺児であったエースは、常に世界からの悪意を浴びていた。
『鬼の子』、『ゴミ』、『生まれる価値もない』。無自覚な悪意は刃となって、常に彼を傷つけ続けた。
そんな中で、たった一人であっても、ゴール・D・ロジャーの身内でも何でもないのに、ロジャーに悪意を抱かず、引いてはその子であるエースを貶めないダレカ。その存在は、大きな慰めになったであろう。
―――やっぱり、ロブロイをルフィに会わせて良かった。
テイオーは独り言ちる。海の上で漂流中の彼女らに出合い、ゴール・D・ロジャーの研究をしていると聞いた時は、大衆と同じようにロジャーの悪辣さをあげつらうようなことをしているのだと思った。しかし話を聞けば、その予想はいい方向に裏切られた。そして、テイオーは決めたのだ。必ず彼女をルフィに、自分と同じくエースの死に苦しんでいるであろう弟に会わせなければならないと。
「ほんとうに、マーベラスな出合いだったよ」
その小さな呟きに、マーベラスを聞き取ったマーベラスサンデーは、星を写す瞳をにんまりと微笑みのカタチに変えたのだった。
- 172二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:38:33
「奴の事をそこまで好意的に見てくれるのは、私としては面映い面もあるが、研究者としては少し中立性に欠けるのではないかね」
レイリーが口を開く。
「はい。世に溢れているゴール・D・ロジャーの情報が世界政府よりのものが多すぎますので、その反動があるのは否めません。ですので、ロジャーに近しい方のお話を伺いたと常々思っていたんです! ですからシルバーズ・レイリーさん! 海賊王の腹心から見たゴール・D・ロジャーの航海のお話を聞かせて頂けませんか!!」
「―――はは、元気がいいな、君は……」
語るうちに、再びヒートアップし詰め寄ってくるロブロイの勢いに、流石の<冥王>レイリーもタジタジとなる。そんな穏やかな光景が、焚火の周りに広がっていた、
――― 夜風が、ひやりと背筋を冷やした。
「――――。――――ハァ……」
ため息一つ、テイオーは立ち上がる。
その空気に不穏なものを感じ取ったのか、ルフィが呼び止める。
「テイオー……」
「お花摘みに行くだけだから、心配いらないよ」
軽く手を上げてその場を立ち去ろうとするテイオーに、声をかけるレイリー。
「トウカイテイオー君。『覇気』とは何かね?」
「……。『覇気』とは―――、意志という名の心に灯る道しるべ。夢、信念、情熱、全て意志」
「そう―――、『疑わない事』。それが『強さ』だ」
「……。ありがと……。お願いするね」
- 173二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:39:00
そして、テイオーは夜の森に消える。
―――その様子を、少し離れた場所から見下ろす目があった。
白い衣装に、発光器官を備えた鎧とも呼べない銀の装飾。栗毛に碧眼。岩場の上からミホノブルボンは、無機質な視線をただルフィにのみ注ぎ、金串のように長い、針のようなものを指で弄んで。
ソレは奇妙な針だった。引き抜いたリンゴの若木の様な―――、果実らしき彫金が施された寄生植物を、引き伸ばして針にしたかのような悍ましいナニカであった。
テイオーの気配が十分に遠ざかる。
ゆっくりと針を棒手裏剣の様に構え、ルフィを狙い、打つ―――。
「マーベラス★」
傍らから伸びてきた小さな手に阻まれる。
「ステータス『驚愕』が二度発生。補足されているとは思いませんでしたし、いつの間にここまで」
その手の主は、つい先ほどまで離れた場所でモンキー・D・ルフィと焚火を囲んでいたはずだ。
「うん、上手く隠れてたけど、世界はマーベラスに充ちているから☆ 白と銀と金と黒。どろどろべとべとにすっきりさっぱりで、見つけるのは簡単だったよ☆★」
「発言の意図が不明。矛盾だらけの擬音ばかりで、何を言いたいのかが伝わりません」
「うん! すっきりさっぱりなマーベラスだね!☆」
にこやかな声、にこやかな貌。ところが、その小さな手は見た目にそぐわぬ膂力で、手枷の様にブルボンの腕を捉えて離さない。
「………放して、頂けませんか?」
「マーベラス★ なんだか面白そうなものを持ってるね☆ 能力ごと魂を捕まえちゃうなんてスゴイスゴイ!」
「! ………。それもマーベラスと言うもので判ったのですか?」
「テイオーが居なくなってから動き出したし、私やロブロイ、レイリーを狙うとも思えないから、狙いはルフィかな?☆」
「ええ。ドクターからのオーダーで、死んでしまう前に『ヒトヒトの実<モデル”モンキー・D・ルフィ”』を作ることが出来るか、追加のデータ採集を行います」
「やめてほしいなぁ☆。これからルフィの周りにはマーベラスな事がいっぱい起こりそうだし☆☆。私はそれを見たいし★★★★」
- 174二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:39:34
―――それに、レイリーだってこっちに気づいてるし☆★☆。
付け加える声に、ずっと向こうに居る<冥王>の視線が、しっかりとこちらを捉えているのにブルボンは気づいた。
「……。やはり恐ろしい人物ですね――――海賊王の右腕」
「諦めた方が良いと思うけど☆」
「そうでもありません。まだチャンスはあります」
「……君も危ないよ☆?」
「私が自分で決めた事ですから」
上手く行けばこれから十数秒後、<冥王>レイリーは、ルフィを守るために手が塞がる。それを逃さず、即座にダッシュを駆けられるようブルボンは腰を落として、機に備える。
そして、夜を砕く号砲が轟いた。
* * *
夜の森を行く。
鳥の声一つなく、静まり返った森。この島の支配者たる猛獣も、異様な気配を感じ取り沈黙を保っていた。
静けさが支配者となった森を抜け、トウカイテイオーは砂浜に出た。
彼女を出迎えたのは、波の音と潮風、そして。
常識外れに強大な、大砲の筒口だった。
距離感が狂いそうになる。大砲など見慣れたものだが、だからこそ見慣れたものが異常なオーバースケールで存在していては、逆に把握に時間がかかる。
帆船ほどの台船に設えられ、なお納まりきらない巨大砲。それは<グローセアデ号>の最重要区画に格納されていた、かの船の主砲。モアモアの能力を上乗せし、速度を百倍、質量を百の三乗倍に拡大すれば、隕石落下もかくや天変地異の如き破壊力を発揮する。すでに、ワールドによる復讐のデモンストレーションとして、島を一つ根こそぎ消し飛ばしている代物であった。
- 175二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:40:07
そんな事情、テイオーには知る由もないが、ただその無機質で巨大な存在感こそが、態々、そんなものを引っ張り出してきた相手の抱く殺意の大きさを、如実に物語る。
殺意の主を、テイオーの見聞色は克明に捉えていた。
「バーンディ・ワールド……」
巨大砲の照準がテイオーを捉える。立ち上る殺意に、肌が粟立つ。
あんなものを受けたら、間違いなくテイオーは死ぬ。それだけには留まらない。ロブロイもマーベラスも、ルフィも―――死ぬ。おそらくはレイリーもルフィたちを守るために尽力はしてくれるだろうが、<海賊王の右腕>とはいえこれだけの暴力相手にどこまで太刀打ちできるのか。
兄弟(ルフィ)が―――、死ぬ。
そう意識した瞬間、現実が急速に遠ざかる。
心臓が早鐘を撃ち、呼吸が加速する。反面、黒く冷たく頭の芯が冷めていく。
――― 昏く黒く煙る空、鈍く輝く熔岩の灼。
――― 低く垂れ込む暗雲。ひび割れ焼け焦げた大地。
絶望の光景が、目の前を塗りつぶす。
―――呑まれるな!
「ふぅっ!」
テイオーは強く息を吐いた。
ルフィは、エースを喪ったという傷を乗り越えた。ならばテイオーは、彼の姉を名乗る自分が、いつまでもここで立ち止まっているわけにはいかない。目の前に広がる荒野こそが絶望の姿ならば、その地の果てまでも駆け抜けてやる。
深く息を吸い呼吸を整える。矢継ぎ早に血流を送り出す心臓が、静かに冴えわたる脳髄に十分な酸素を供給し、クリアな思考で敵を見据える。
- 176二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:40:43
号砲の様に、静寂を焼き焦がす轟音が、闇夜を打ち砕く砲火が、世界を貫いた。
テイオーは走る。
発射された砲弾は、巨大で高速だった。その上さらに、速度を百倍、質量を百の三乗倍に拡大され、流星の如き破壊力を湛えていた。
テイオーの体を、武装色の覇気が覆う。
――― 『覇気』とは、意志という名の心に灯る道しるべ。夢、信念、情熱、全て意志!
砲弾が迫る。巨大な運動質量にはじかれる空気が、衝撃波となってテイオーを襲う。
テイオーは奔る。僅か一歩踏み込むのが精いっぱい。しかし、そこがベストポジション。踏み込んだ左足は地面を掴み、突貫の勢いを乗せて、右脚を蹴り上げる。上半身は、衝撃波に逆らわず仰け反るように天を仰ぎ、蹴り上げる右脚に更なる威力を追加する。
――― 『強くなりたい』
それがなんだというのか。
僅かばかりの小手先の技術で、蹴りの威力を引き上げた程度で、島一つを消し飛ばす天変地異の如き暴力に対しては無駄に等しい。それが道理だ。
――― 『海賊王になりたい』
されど、『覇気』とは意志の力だ。友達を守る。兄弟を守る。そう強く思うココロだ。
『疑わない事』。それが『強さ』だと、世界の真実にたどり着いた男は語った。
故に―――。
――― 『大切な人を守りたい』
『斬勁・逢坂祓!!!」
- 177二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:41:14
叫ぶ。
蹴り脚が砲弾と接触する。
百億倍の運動質量を加えられた災害じみた砲弾と、ちっぽけなウマ娘が激突し、
――― 『最強の意志を持つ者は、すべての道理を蹴り飛ばす!』
流星の砲弾は、逆しまの箒星となって、遠い夜空を切り裂いた。
* * *
発射と同時に固定部分(ロックボルト)がはじけ飛び、反動に弄ばれた巨大砲は跳ねあがって、遠く、昏い海へと没した。
ガイラムに頼みこみ、巨大砲を運ぶためだけの船を<グローセアデ号>から削り出したキューブの台船。問題は無い。もともと一発撃てればいいもので、一発撃てば事足りる。モアモアの能力を加えた一撃は、無謀な抵抗を見せたトウカイテイオーごと後ろの島を消し飛ばすはずだ。
天変地異の威力を秘めた砲撃は、まっすぐ島を蹂躙する軌道を描く。
大気を押しのけ海を歪め、猛獣の支配する島を粉みじんに粉砕する―――、ことなく、橙の尾を引いて夜空の先へと駆け上がる。
『モアモア100倍砲』は、ルスカイナ島の砂粒一つ破壊できず、夜闇の彼方へと消えていった。
愕然とする脳髄に、海水を蹴る足音が届く。
近づいてくる音を視線で追えば、海から台船に飛び乗るトウカイテイオーの姿があった。
島ごと彼女たちの命を奪おうとした相手の姿を認めた瞳に、困惑の色が浮かんだのが、星明かりの下に見て取れた。
「……。どうなってんの? ソレ」
「……ルナの子、トウカイテイオー……」
テイオーの目前に『ある』大男は、絞り出すように憎悪にまみれた声で彼女の名を呼んだ。
- 178二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:41:41
「貴様だけは、貴様だけは許さん。貴様だけは!!」
「キミ、バーンディ兄弟の兄のほうだよね……。ちょっと意味わかんないんだけど―――」
全身のあちらこちらにパシフィスタの部品を埋め込み、右角の折れたバイキングヘルムを被った『大男(バーンディ・ワールド)』、“バーンディ・ビョージャック”は、凄絶に笑う。
「知りたいか?」
「別にいいよ。何聞いたところで、『キミってろくでもないよね?』以上の感想が出てくるとは思えないから」
「そうかの。なら一言だけ言うてやる―――」
――― 一つになったワシら兄弟に、勝てると思うな。
「モアモア10倍速!」
サイボーグ化された弟の肉体で、弟の技を行使するビョージャックには数日前の死にかけの老人の面影は既にない。
常人の目には、残像のような影しか映らない超高速の攻撃がテイオーに迫る。
―――クラシック奥義『叉突捷』!
テイオーはウマ娘空手最速のラッシュで対抗する。常人ならばいざ知らず、見聞色と武装色を十全に扱うテイオーにとって、対抗できない速度でも威力でもない。
そしてそれは、ビョージャックも織り込み済みだ。
―――モアモア50倍速!
倍速を引き上げる。予備動作なく速度が激増しては、その急激な変化についてこられるものは無い。その一撃はテイオーの反射速度を上回り、遅れて動き出したその鈍さをあざ笑うかのように吸い込まれる。直前―――、異様な急加速をしてみせたテイオーのカウンターが、ビョージャックの体を捉えた、
- 179二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:42:10
「ぐぉおっ?!」
反撃にうめく隙を逃さず追撃をかける。鞭のように撓った蹴りが、強かにビョージャックを打ち据えた。
―――モアモア100倍速!
ビョージャックはテイオーの拳から逃れようと、最大限に倍速する。
10倍の段階でもすでに影しか追えない速度であった。そのさらに10倍の速度。弟がそうであったように、だれも今のビョージャックに追いつけはしない。
それなのに、テイオーは軽々とビョージャックに追いつき更に蹴り倒した。100倍速の転倒は、その衝撃で台船を大きく軋ませ、歪ませた。
「何故じゃ?! 何故!?」
バーンディ・ワールドは、ビョージャックの弟は最強の筈だ。その最強のチカラがなぜ通用しない、なぜ目の前の小娘に、児戯のようにあしらわれねばならんのか!?
「何故も何もないよ」
心底あきれ返った貌で、テイオーはわめく老人を眺めやる。
「そんな単調な付け焼刃が通用するとおもってたんなら、そっち方がどうかしてる」
「だまれぇ!」
――― モアモア百倍速・覇王拳!
付け焼刃であるはずがない、悪魔の実になったワールドを食した時に、チカラだけでなくその記憶も手に入れた、モアモアの使い方も知り尽くした!
だから、弟の最強技もこの通りに使える! それこそが、バーンディ兄弟が二度と離れ離れにはならない一心同体となった証!
「消えろ! トウカイテイオー!!」
- 180二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:42:36
100倍に倍速されたラッシュは、夜気をささらの様に切り裂いて、テイオーに迫る。
ただの一つも、かすりもしなかった。
紙一重で、まるで子供の癇癪をあしらうかのように攻撃をさばかれる。悪夢のような光景を見せつけられ、ビョージャックは呻くような悲鳴を上げた。
「嘘じゃ!」
距離をとるテイオーを追い振り抜くモアモアの拳は、髪の毛一筋程もテイオーに届かない。
「嘘じゃ! 嘘じゃ!」
ワシはワールドになった筈じゃ! ワシらは一つになった筈じゃ! もう二度と離れ離れにならず、かつて夢見た自由の海で、兄弟二人の旅をこれからも続けるのじゃ! 世界一周の旅を! その前にモンキー・D・ルフィを! トウカイテイオーを、斃してケジメをつけねば、新たな門出を迎えることなどできぬというのに!
目の前の現実を受け入れられないビョージャックの思いを、テイオーの見聞色は捉えていた。
ワールドと戦うルフィの思いが伝わった時の様に、弟を見捨てざるを得ず、弟に捨てられた老人の絶望と妄執、その目の前で、兄妹を見捨てず、姉弟と共に生き残ったテイオーとルフィへの、嫉妬めいた憎悪の深さもまた―――。
「キサマ! 貴様だけは!」
「……わかったよ」
テイオーは足を止め、正面から向き直る。
迫りくる、モアモア100倍速の攻撃に相対し、テイオーは―――、『波』に乗る。
それは、未だ荒れ狂う巨大砲発射の余『波』だけではない。敵の攻撃が大気を押しのける『風』に乗り、敵の踏み込みが生み出す地面の『振動』に、乗る。
テイオー自身の力だけで踏み込むよりも、『風』に逆らわず煽られた体はより強く地面を踏みしめ、敵の踏み込みに『震える』地面は、テイオーの脚力のみが生むより強い反作用で、その体を前へと打ち出す。
- 181二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:43:09
テイオーの筋力には、テイオー自身の骨格が耐えられない。全力で大地を踏みしめては、そのたびに自滅する。―――ならばどうするか。
―――答えは一つ、筋力以外の力を利用すればいい。
それは、<グローセアデ号>の中でエルコンドルパサーの啓蒙と、海王類の巣でロブロイ、マーベラスと共に歌い、海の王者と踊った経験によって、開眼した境地。
敵の振り回す力が大きければ大きいほど、速ければ速いほど、テイオーは小さな負担、小さな消耗で、全力以上の力を発揮することが出来る。
空間を降らす数多の『波』を乗りこなし利用する、神業めいたステップワークから繰り出される最速の拳が、ビョージャックを捉える。
―――『叉突捷』
対応できず、ビョージャックはたたらを踏む。しかし、それでもモアモアの速度を振りかざし、テイオーの命を奪うべく、更なる攻撃を重ねる。
それが、ベストタイミング。
一つ目の奥義を牽制に使い、敵が踏み込む―――『波』を生むタイミングを調整する。テイオーのプランニング通りにビョージャックは動き、最高の『波』に乗ったテイオーは、全身全霊の奥義を放った。
―――『闘鏡祐瞬・仁奔荼毘』
凶悪なモアモアのエネルギーを利用して、極限までの加速を成す。さらにそこから放たれる奥義の速度(いりょく)は、試験型パシフィスタを砕いた時とは比べ物にならない。
振り抜く拳に圧縮された大気は―――、爆発的に発火した。
――― 炎の一撃が、ビョージャックを貫く。
「これがボクの、『弐貫覇』だ―――!」
奇しくも、弟と同じく劫火の拳を受けたビョージャックは、成すすべもなく崩れ落ちる。
老人の妄執はここに滅び、彼の旅は、終わりを迎えた。
- 182二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:43:36
エピローグ
―――<世界の破壊者>バーンディ・ワールドを撃破!
お手柄! 新七武海のバギー!
後日―――、大方の予想通り、次期海軍元帥サカズキの意向を大いに反映して、真実の大半が伏せられた情報が新聞に踊った。
もっぱら、弱体化が懸念された海軍の健在を伝えるため新七武海バギーの箔付けをする紙面の片隅に、
―――ワールド海賊団の残党を拿捕!
大活躍の<海軍の名優>メジロマックイーン中将とBNW!
そんな見出しを見つけて、トウカイテイオーは道を違えた親友と後輩の様子に顔をほころばせた。
「ウン。ミンナゲンキソウデナニヨリダ」
遮るもののない強い日差しの下に薫る草いきれの中、胡坐をかいて新聞を広げる。テイオーに声がかかった。
「テイオー! 随分とヒマそうだね!」
「ヒシアマ? ヒマデハナイケドヤルコトナイカナ? ミンナノビチャッタシ」
のんびりと新聞を広げるテイオーの周りには、意識を失ったアマゾン・リリーの戦士たちが死屍累々と倒れていた。
「シンデナイケドネ」
バーンディ・ビョージャックの襲撃の後、ルフィは修行の続きを、ロブロイとマーベラスはレイリーを質問ぜめするために、ルスカイナ島へと残った。
そしてテイオーは―――、
「……まぁ、コイツらが束になってもアンタに勝てるとは思ってなかったけどさ、こんなに早く全滅するとはねぇ……」
- 183二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:44:01
テイオーのリハビリ兼、アマゾネス戦士たちの戦闘経験蓄積の為に、双方をかち合わせた張本人は、ちょっと最近シゴキがヌルかったかねェ? などと、倒れている戦士たちの意識があれば、顔面蒼白となって震えがるようなセリフを吐く。
「ソウデモナイヨ? シュウダンセンデテキノナミヲリヨウスルイイレンシュウニナッタシ―――」
よっ。と新聞をたたんで立ち上がるテイオー、地べたに座り込んでいたスカートの汚れを払いつつ、
「デ? ナンノヨウ? マタミライノギマイドノガ、チイサイトキノルフィノハナシヲゴショモウナノ?」
「それは飯時だろうね。今回は別。港に船が着いたからね、荷運びを手伝ってもらうよ」
「エー、ソレタダノザツヨウジャン」
「筋力トレーニングだと思いな! 暮らしの中にこそ修行ありだよ!」
「アーモゥ、ワカッタヨ……!」
畳んだ新聞を傍らの切り株に置いて、テイオーはその場を立ち去った。
気絶した戦士たちが目を覚ますのには、もう少し時間がかかるだろう。
遮るものの無い日差しを受ける新聞記事の写真の中には、拿捕した海賊を監獄に引き渡すメジロマックイーンの姿があった。
* * *
「出ろ」
看守の不愛想な言葉と共に鉄格子が開かれ、囚人服を纏った彼女は外に出た。
会話の一つも無く、無機質な廊下を進んだ先では、彼女を粗末な鉄の扉が出迎えた。
「入れ」
言われるがままに扉を開ける。中には、粗末な机とその上に置かれた箱の中に、彼女の衣服が入っていた。
「着替えろ。すぐに迎えが来る」
- 184二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:45:04
彼女が入室したのを確認して、それだけ言い捨てると看守はバタン! と、外から扉を閉める。
慣れた手つきで囚人服を脱ぐと、衣服―――白いレオタードにミニスカート、オーバーニーの白いソックス、銀色のアームカバーを身に着けていく。
蛍光ピンクのネクタイを締め、最期に、発光器官を備えた鎧とも呼べない銀の装飾品を手に取ったタイミングで扉がノックされる。
「どうぞ」
扉を開けて入室する人物を、主により品種改良された新種の音貝(トーンダイアル)の試作品、電伝虫との相互通信機能を持ち合わせた指向音貝(ウィスパーダイアル)を身につけながら出迎える。
「時間通り、コンマ5秒も狂いの無い到着ですね、戦桃丸さん」
真っ赤な前掛けに、おかっぱの黒髪の彼は、そんなブルボンを見て口元を緩めた。
「派手にやられたと聞いたが、いつも通りの様だな」
「ええ。監獄で充分に休ませていただいたので、コンディションはオールグリーンまで回復いたしました」
「そうかい。そいつぁ重畳。っとそうだ、一応お前さんは、潜入捜査として<ワールド海賊団>に居たことになってるからな」
「了解です。今後は、そのカバーストーリーをもとに言動を組み立てます」
「ああ。それで、博士の発明は上手く行ったのか? 一応、バーンディ・ビョージャックの身柄はこちらで引き受ける手はずにはなってるが……」
ブルボンと同様、九蛇海賊団経由でメジロマックイーンに引き渡された、<ワールド海賊団>の残党の様子を思い浮かべる。
「そうですか、マスター……いえ、ビョージャック氏の様子は如何ですか」
ブルボンの質問に、どうもこうもねェなと肩をすくめる。
「ありゃもう廃人だ。『プラント』で手に入れた弟の肉体をまだ維持しちゃあいるが、自力で呼吸一つ出来やしねェ。一応人工呼吸器に繋がれてるからまだ生きてはいるが、1週間保てばいい方だな」
「ならば博士は、近々『ヒトヒトの実<モデル”バーンディ兄弟”>として、『モアモアの実』を封印できるかどうかの実験を行うおつもりですね?」
「だろうな」
- 185二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:46:44
悪魔の実は、能力者が命を失うとまた別の所に生えてくる性質を持つ。強力な能力であるのなら、たとえ悪用するものの命を奪ったところで、再びそれが別の悪党の手に渡る危険性がある。
その危険性を少しでも減らすために、彼らの上司が発明したのが『プラント』―――能力者の魂ごと悪魔の実の能力を『実』のカタチに封印する、ブルボンが瀕死のワールドに差し『ヒトヒトの実<モデル”バーンディ・ワールド”>を生み出し、ルフィにも刺して実験をしようとした、引き抜いたリンゴの若木の様な、果実らしき彫金が施された金色の針である。
「了解しました。報告事項は以上ですか?」
「おう。そんだけだ」
「ありがとう御座います。では、戻りましょうか」
そういって、部屋の外に出るブルボンに戦桃丸は続く。
そんな、いつもと変わらない同僚の様子に戦桃丸はつい、その話題を舌にのせてしまった。
「しっかし、指向音貝から送られてきたログを解析したが、ブルボン、お前はあのマーベラスマーベラス言うやつに、ナニをされたんだ?」
記録によれば、ミホノブルボンはそのウマ娘に敗北し、海賊として海軍に引き渡されることになったのだったが、記録が不鮮明で詳細の解析は不可能であった。
ピタリ。と、ミホノブルボンは動きを止める。
「……ブルボン?」
よくよく見れば、うっすらと汗がにじんでいるのが見て取れる。
「中々に、強烈な体験でした―――、」
「おい?」
「巨大砲の砲撃が逸らされたことに、動揺した瞬間―――彼女に腕を引かれうっかりその瞳をのぞき込んでしまいました」
感情の読めない平坦な声が続く。
「お、おう……?」
「星を写すあの瞳が、見つめているものは星ではありませんでした。星ではなく星々の浮かぶ夜の空、いえ、闇夜の先の、その闇よりもなお昏く、その夜よりもなお深いナニカ。人智の及ばぬ先の先―――」
ブルボンの感情表出が平坦なのはいつもの事だが、今は輪をかけて感情が読めない。
一種異様なモノを感じとった戦桃丸は、ブルボンの肩を掴んだ。
- 186二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:47:10
「おい、ブルボン?―――ッ!?」
『無』。
覗き込んだ、彼女の碧眼が写していたのは、ソレだった。
異様なその『色』に慄き、細い肩を握る手に力が籠る。
しかして、その感触で彼女の瞳に正気が戻った。
「? ステータス『困惑』が発生。どうかされましたか? 戦桃丸さん」
「どうしたってお前ェ……、それはワイのセリフだ」
「……失礼しました。あの時の衝撃はまだ薄れていなかったようです。
私には、彼女が理解不能でした。けれど、確実に言えることは、彼女が見ているものを余すところなく知ってしまえば、きっと私は、『私』でいられなくなっていることでしょう」
『震えている』
ミホノブルボン『海軍本部科学部隊・副隊長』。
機械染みて感情を表に出さないその少女が、その体験を思い出しただけで恐怖に慄いている。
「うへェ……。おっかねェ―――」
戦桃丸『海軍本部科学部隊・隊長』は、そうつぶやくのが精いっぱいだった。
to be continued
- 187二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 06:54:40
- 188二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 08:37:39
お疲れさんまでしたすげー面白かったです
- 189二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 10:25:40
完走お疲れ様でした
かなりの密度で練られた内容を楽しませていただきました - 190二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 10:37:27
- 191二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:22:27
- 192二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:37:33
- 193二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:38:45
- 194二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:39:50
お疲れ様でした
マーベラスは一体何者なんだ… - 195二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:42:12
200ならチケゾーのバストが削れる
- 196二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 13:10:56
アニメかな?
- 197二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 13:20:08
200ならわたフクキタルにみんなが優しくなります!!特にゾロさんが!!
- 198二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 13:20:59
- 199二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 13:22:21
- 200二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 13:24:49
あーあアイアンクローだよ