問おう!あなたが私のマスターか!?

  • 1二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:24:45

     

     憧れの文言での登場である。

     掛けるべき相手を間違えて恥をかいたライダーが居ると聞いたことがあり、少々心配ではあったが、この召喚は聖杯戦争。現界時の目の前の人物が、マスターで間違いないはず。

     裏切るかどうかは、もう少し様子を見てからで───


     「……マスター?ごめんなさい、誰のことか存じないのだけれど……あ、私は───」


     目の前には、幼いながらも利発そうな少女が、尻もちをついて座り込んでいた。おお、これまた例の流行りの──

     いや、違う。この返答、今は確認すべきことがあるでしょう。


     右手には令呪。やはりマスターで間違いはない。仙力……魔力の供給も問題なし。召喚陣らしきものもないが、これは───


     巻き込まれたということだろうか。しかし彼女、目を閉じているので視線が合わない。この呂布の逞しい偉丈に恐れを?何しろあの三國無双、人にして人にあらず、呂布奉先の体なのですか───


     「よろしければ貴方の名前を……あ、いえ、違うわ。そもそもここは私の家よ。どうやって入って──」


     しまった。この呂布としたことが。


     「ヒヒン。これは失礼。私は呂…………。………ライダー。ライダーです。マスター、あなたのサーヴァントです。」


     普段のように、力で試す気は起きなかった。呂布殿の御息女に重ねたからだろうか。

     彼女はあの後、どうなったのだろう。どうにも記憶がはっきりしない。徐州での包囲戦のあとわたしは──

     まあいいか。今は関係ないでしょう。


     新しい主人は状況が飲み込めてない様子。であれば、説明から入るべきでしょう。


     「天下無双の我が身、これよりあなたの力となりましょう。」


     つい振り落とさないように、主人のこともよく知らなければ。

  • 2二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:25:09
  • 3二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:25:31

    がんばって!

  • 4二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:25:49

    彼女についてわかってきた。

     まず目が光を失っている。目を合わせてくれなかったのは、恐れをなしたからではなかったようだ。
     親もおらず、家には一人。魔術的なものも無し──
     いや、この呂布の触覚は誤魔化せません。精霊…いや、妖精だろうか。何やらが住み着き、家事などを手伝っているのに気がついた。
     なぜ主は目が見えないのか──というより眼球そのものが無いのか、薄々わかってきた。

     「おしゃべり相手ができて、私嬉しいわ。ねえライダー、貴方はどこから来たの?」
     
     「人参がたらふく食えるところです」
     
     「ライダー、貴方はどんな顔をしているの?きっとその綺麗な   声みたいに、貴方も素敵なのでしょうね」

     「ありがとうございます」

     呂布ですから。

     「ライダー、貴方のお馬さんの毛並みもきれいね。触っていて気持ちいい…」

     「ええ、はい、保湿がですね───」

     聖杯戦争の事を伝える気が薄れてしまった。彼女を殺し合いの中に巻き込む?冗談ではありません。
     この呂布、頑張って彼女に何も知らせることなく、この戦いを終わらせるべきなのでは?
     できるだろうか──いやできますね。呂布ですから。

     「ねぇライダー、よかったらその、お馬さんに乗らせてもらってもいいかしら」

     「すいません、マスター。彼は気性が荒く、乗せる人を選びますので…」

  • 5二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:26:19

    別に嫌だったわけではない。
     けれど私の背中に乗った方は皆、渦中にて亡くなられたから。
     つい先程、巻き込まないと決めたから。
     

     何日かして、干し草の仕込みをしていた夜、襲撃された。
     髑髏の仮面をつけたアサシンであった。髪が伸びてきたときは面食らったが、ここはやはり武芸百般(馬)。炎を吐き、難を逃れた。
     撤退しようとしていたところを追いかけ、首を撥ねた。
     やはり呂布。呂布であることは全てを解決する……。

     しかしなぜアサシンなのに主を狙わず、サーヴァントを直接狙ったのか。その時ようやく気づいたが、周囲には妖精たちの結界が貼られていた。罪滅ぼしのつもりか、情が湧いたのか。妖精の考えることはよくわからない。

     その結界も、戦いの余波で家の一部ごと壊してしまった。秘匿性も無くなっただろう。
     妖精たちの気配も消えた。それとも隠れたのか───

  • 6二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:26:58

    「ライダー!」
     
     主がおぼつかない足取りで家から出てきた。

     「申し訳ありません、マスター。ここに居られなくなりました。どこか安全なところへ逃げなければ…」
     
     「いえ、貴方は大丈夫なの!?何か焦げ臭いけれど…」

     「失礼、私の息です」
     
     ブルルッ

     「そう…」

     すぐにでも他の陣営に見つかるだろう。この体はとても目立つ──
     いや、何をしているのだ私は。干し草などにかまけて周囲の警戒を怠ったから──
     いやでも干し草は何者にも代えがたく…。

     「お乗りください、マスター」

     「え、でも…」

     「お馬さんは、マスターのことを乗せてもいいと言っています。ほら、早く」

  • 7二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:27:01

    やったぜ!支援‼︎

  • 8二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:27:19

     小さい体を抱き上げる。呂布殿と、袁術のところに御息女をお送りしようとしたときの事を思い出す。あのときは失敗したが、もしうまく行っていれば、主の結末も変わっただろうか…。
     
     守らねば。

     「このライダー、一生の不覚です…。振り落とされないように、しっかり掴まっていてください」

     もはや隠し切ることはできないだろう。あと私にできることは、彼女を平和な世界に戻すことだけだ。

     幸い、周囲は山である。黄巾賊の対ゲリラ戦の経験で、隠れやすい場所は予想が付いた。

  • 9二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:27:39

     道中、小さな鉄の玉が飛んできた。敵サーヴァントだろう。銃というものは聖杯から教えられている。アーチャーか?
     呂布でなければ、主に当たっていたかもしれない。ヒヒン。
     ……待ち伏せ?家の場所がバレていたのだろうか。

     厄介だ。主を守りながらの戦闘は、あまりしたことがない。

     「マスター、ここで待っていてくれますか。大丈夫、もう少しで付きますよ。」

     クワッ

     人を笑顔にさせるには、やはり笑顔でしょう。いや、見えないのだったか。むぅ……
     
     「……ええ、……わかったわ…」

     飛ばしたからか、主はひどく疲れていた。何かと、慣れないことだらけだ。陳宮に、サーヴァント失格と言われても仕方ない───
     
     「ライダー、まだお話したいことがたくさんあるの……。早く、帰ってきてね」

     

  • 10二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:28:06

     森の中であれば、相手に利があるのは明らかだった。
     相手は背丈7尺ほど。対してこちらは高さ十尺、横十四尺。木の後ろに隠れることもできない。今ばかりは、この偉丈夫が煩わしい。
     
     であれば──

     隠れていると思わしき木に向かって突撃する。山の中なので速度は落ちるが、それでも2秒とかからない。何であれ飛び道具であれば撃つのに時間が───

     「イタヒイン!!」

     撃つのが早い!そして弾も速い!
     
     弓と同じと考えてはいけなかった。矢であればそのまま弾いて進めたはずだが…。耐久EXなのに……。なるほど、これが銃か。

     「じゃない!」

     消えた。どこだ、どこに──

     「しまッ」

     主との距離が空きすぎた。

     再び先程の爆発音。
     
     ───二度目だからか、今度は見切った。主に飛んでいく鉄の玉に向かい、全力で駆ける。

  • 11二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:28:37

     槍で弾き、そのまま振り向きざまに弓に掛ける。が、魔力が足りない。あまり使いたくはなかったが───

     「マスター、ご無事で!?」

     「え、ええ」

     「マスター、右手に力を込めて、私に命令を。『撃て』、とお願いします」

     主は、二度の爆音ですっかり怯えきっていた。
     しかし、流石は私の主だった。
     
     「…ライダー」

     再び一発。即座に撃ち落とす。もう当たりはしない。

     主は震える右手を上げながら、
     
     「撃って!」

     魔力が漲る。これなら──
     

  • 12二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:28:58

     「御意、我が主よ。


      ──宝具種別、対軍宝具に設定。
      
      真名開放──『偽・軍神五兵』!」

     森の前方二百尺が吹き飛んだ。

     これで仕留めただろう。居場所がわからないなら広域を吹き飛ばせば当たるだろうとは、呂布殿の言葉だったか陳宮殿だったか…。

     「…行きましょう」

     主も消耗が激しい。
     とりあえず、できるだけ遠くに移動せねば。

     

     話しながら歩いた。聖杯戦争のことを包み隠さず。

     雨が降ってきたので、洞窟に駆け込んだ。本当はもっと隠れるのに適切な場所が良かったが──

  • 13二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:29:48

     「ねえライダー、貴方は、どこから来たの?」
        
     焚き木を挟んで、主と話す。生前も何度か似たような状況があった。
     
     「……後漢という、とても古い国からです。そこで色々な方にお仕えしました。中でも呂布という方が──」

     「ライダー、その、貴方の顔に触っても良い?」

     「もちろんですとも」

     「……?…ふさふさしていて、長いのね………?」

     しまったか。

     「ふふふ、でもやっぱり髪の毛もとてもふさふさしている。羨ましいわ。今度、美容院というものに連れて行ってね、ライダー」

     「ええ、必ずや」
     
     穏やかな時間であった。

     「ライダー、貴方はその、願いを叶えてくれるお椀で、何をしたいの?」

     「…私は、黄金の飼い葉桶でもあれば十分です。マスターは、何か願いはありますか?」

     「何でもいいの?」

  • 14二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:30:05

     「何でもです」

     主は少し恥ずかしそうに、

     「───やっぱり、海が見てみたいの。妖精さんたちにも、もう一度会いたい。あ、太陽も見てみたい。昔見た記憶はあって……ふふ、ちょっと恥ずかしいわね」

     「良い望みです。流石は私のマスターです。であればこの呂──」
     
     「それとねライダー、その…………貴方の顔を知りたい。自分の目で見てみたい……」

     良かった、聖杯ならば容易であろう。
     誓うべきものもシンプルだ。

     「マスター、いつか共に駆けましょう。千里、二千里、三千里。──海と言わず、この世の果てまでも」

  • 15二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:30:30

     二日ほど洞窟ですごした。主のためにも人里に降りるべきなのだろうが、主は目が見えず、私もまた呂布であり、馬である。
     主を一人行かせるわけにもいかないし、この姿のまま町に出て、ぬけぬけと敵に居場所を教えるわけにもいかない。今ほど、この体を恨んだこともなかった。

     主はこのところ、森の果物しか口にしていない。動物でも獲って食べて貰わねば。しかし私は草食性、好物は人参、そういうことにはてんで疎かった。呂布殿はどうしていただろうかと記憶を掘り返していたところ──

     「───ええ、確かにこの方向に気配はしますが…というか、呂将軍、貴方でしょう。懐かしい声が聞こえた、などと仰ったのは」 

     「■■■…」

     何やら聞き慣れた声がしますが…

     サーヴァントの気配、しかも二騎。残る四騎は恐らくセイバー、ランサー、キャスター、バーサーカー。今来られると厄介なのは───いや今、呂将軍って?

  • 16二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:31:24

     「ヒヒン!」

     

     迂闊ではあったが、喜び勇んで駆け出してしまった。


     「■■■!?」


     おお、あの勇ましい触覚はやはり!!反射的に繰り出された将軍の檄を槍で受け流す。


     「やはり呂布殿に陳宮殿!!お久しぶりです!呂布です!!!」


     「…■■?」


     「………?落ち着きなさい、赤─」 

     

     喜びのあまり、二人の周りを駆け回る。



     「主よ!今こそ、真なる人馬一体、エクサレッド・フォームとなって残りの敵を倒しに─」


     「■■■■■■(おい赤兎、あそこに人参が──)」


     長らく人参など食べていなかったので、これは条件反射である。駆け出そうとしたところを、呂布殿に取り押さえられた。ぬうう…。

  • 17二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:31:51

     「まさかライダーが赤兎だとは……。
     お久しぶりですね赤兎。この地で再びこの三人が出会えたのもなにかの縁でしょう。どうです、また私達と共に来ませんか?」

     「呂布ですが。しかし陳宮、共にと言いますが、貴方はこの聖杯戦争に何を求めるのですか?」

     「無論、自分の国、呂布殿との国、すなわち理想の社会にて。理想の主君は今回、呂布殿がおられますから既に叶っております。
     我らのマスターの懐柔に手間取り、他陣営に遅れは取りましたが、赤兎も加わればそれこそ百人力でしょう」
     
     魅力的な提案であった。また、この三人で戦場を駆けられる──張遼殿と高順殿が居られないのが残念だが。

     しかし今回は別の目的ができてしまった。

     「いやはや、しかし大変でした。マスター二人で協力し、生前より縁があり相性が良いサーヴァント二騎で勝利を掴む。そこまではよろしいが、なにせ態度がよくなかった。呂布殿が思わず首を跳ねるのを止めなければ、すぐに魔力切れで退去していたでしょう。
     延命は多少は効きますが、関係ない人を巻き込むのは本意ではありません。マスターらには今少々幻覚を見てもらっていて───」

  • 18二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:32:15

     「──すいません、陳宮殿。今回私は、お二人については行けません。やるべきことがありますので」
     
     「おや珍しい。人参最優先の貴方が、それほどまでに固執するものがあるとは。これは、裏切りと見なしても宜しいですか?」

     陳宮殿が冗談めかした口調で言う。我ら呂布軍ほど、裏切りがデリケートな意味を持つ集団もないでしょうに。
     しかし、普段は相手にされないのに、この真剣に受け取ってくれるとは…元より、この馬面の表情にもよく気が付かれる人でしたが。

     「帰りましょう、呂将殿。赤兎を倒す道理もメリットもありません。敵が減った、と喜びましょう。
     敵は恐らく残り二騎。我らの力を持ってすれば楽勝でしょう。
     いやしかし、流石に魂が足りないか…」

     お二人は、では、と踵を返した。元々そこら辺ドライな集団ではあったし、自分もそこに心地よさを感じていたものだが、流石にあっさりとし過ぎでは?

  • 19二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:32:38

     「一般人の…いや、それはダメでしょう。それでは曹操と同じ──」

     「お待ちを、陳宮。頼みがあります。こう、義眼のようなものは作れませんか?仙力で動くもので良いのですが…」

     「…義眼、ですか?すいません、無理です。私は基本的に兵器専門ですので。
     
     ───それと、入れ込みすぎるのはおやめなさい。別れが辛くなりますよ。
     
     では、またどこかで会いましょう。呂布殿が良い酒場を見つけたと喜んでいました」
     
     「あ、なら飛行機能だけでも─」

     「無理です」

     今度こそ、お二人は立ち去ってしまった。

     軍師殿に隠し事は無理であったか。
     やはり聖杯か……。
     今ようやく気がついたが、となると、お二人に勝たなくてはならないのでは?

     「…無理ですね」

     呂布ともあろうものが、途方に暮れてしまった。

  • 20二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:33:06

     「呂布殿、お待たせしました。赤兎が空を飛びたいなどとほざくのでつい…」

     「■■■■■■■(赤兎の気持ちもわかるだろう。空中移動、浪漫である)」

     「…ハハハハ、真ですな。
     ところで我が主君よ。一騎の欠けならまあ何とかなるような気もしておりましたが、二騎分の魂が集まらないとなると、聖杯による国取りは厳しいものになりますぞ」

     「■■■■■■■■■■■(是非も無し。我は呂布なり。…願望器無しでの覇道、なし得てこその我が武勇と知れ)」

     「流石は飛将、呂奉先!その胆力感服いたします。この陳宮、此度はどこまでも貴方の軍師として仕えましょう」

     「■■■■■(では、我にも飛行機能を─)」

     「無理です」
     
     「■■■■■■■■!(そうか、無理か!冷静な判断、流石陳宮!)」

     聖杯などに頼らないと決めはしたが、それでも残るセイバーとランサーは、目的の障害となり得るだろう。何より、二人は根っからの戦闘狂であった。現界して以来ようやく初めてのサーヴァント同士の戦いに、ワクワクが止まらない面立ちである。
     赤兎馬が協力してくれなかったことは残念であるが、だからといって敵だとは考えない。呂布軍は(基本的に)身内には甘い。
     やれ酒がどうこう、自爆がどうこうと楽しそうに笑いながら、降って湧いた夢の続きを追い求める陽気な主従は、マスターらの待つ拠点へと戻っていった。

  • 21二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:33:26

     さて、どうしたものかと思案に拭ける。
     冷静に考えれば、私は聖杯から知識は得ているが、聖杯戦争そのものについてあまり知らなかった。リタイアはできるのか、立会人はいるのか───
     この時代にも、陳宮のような不思議な道具を作る人物がいればその人を頼るのも悪くはないが…
     流石にわたしにも、人馬一体の偉丈夫が街を歩くわけにはいかないことはわかっていた。

     「ヒヒン…」
     
     思わず草を食べる手が止まった。

     「ライダー、大丈夫?元気ないの?」

     主は意外と目ざとく私の様子に気づいてくれる。目が見えなくても戦うのを辞めなかった兵はたくさん見たが、別の感覚で補っているのだろうか。

     「マスター、その………聖杯がですね…」

     「別に良いのよ、そんなの。
     何より貴方と出会えて、わたし今、やっぱりとても嬉しいの。わたしほら、お父さんとかお母さんのことあんまり良く覚えてないから……
     ……これからも、ずっと、一緒に居てくれると嬉しいわ!」
     
     「…御意に」

     陳宮殿の言葉が、今になって形を帯びてきた。

  • 22二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:33:57

     その晩、もう一度よく考えた。
     今の私は人理の影法師、元より仮初の存在である。その上、こんなよくわからない生き物と共に、光もないまま過ごすのと、万が一でも自分の目で世界を見て、自分の脚で世界を駆けられる可能性。その二つを天秤に掛けた。
     保険もある。彼らならば、無視はしないだろう。無視できないだろう。特に解決はしないかもしれないが、私といるよりはできることの幅が違う。
     弱みに、というかトラウマだろうか、漬け込む形になって申し訳なくも思うが。

  • 23二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:34:20

     三日後、遠くで大きな音がするので来てみれば、浜辺で呂将殿とセイバーと思しきサーヴァントが戦っていた。

     「そこで自爆です」

     決着。

     たまに背中の上で爆発されたものだから、あれの恐ろしさはよくわかっていた。
     
     ──やるなら今だ。呂布殿は今、自爆の反動で弱っている。陳宮殿の顔を見るに、恐らくランサーも既に討っている。今奇襲をかければ──

     なんてね。これでも呂布軍の一員である。軍師殿の策ならば奇襲でも闇討ちでも従うが、そうでなければ武人として振る舞わねば。

     「ヒヒーン!!!」

     雄叫びを挙げ、跳び、二人の前に立ち塞がる。

     「………我は呂布なり!
     呂布殿、陳宮殿、申し訳ありませんが、私、裏切ります。私は聖杯を手にしなければならない」

     陳宮はまあそうでしょうな、と言った顔。
     呂布殿は表情一つ変えなかった。

  • 24二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:34:48

     「■■■■■(欲しいものがあるのだな?)」

     「はい」

     「■■■■■■■■■■■(であれば、我らに止める権利もなし。良いな、陳宮)」
     
     「ええ、まあ。私達もそのように、好きに生きてきまし。特に赤兎、貴方のことを随分と振り回しました。裏切られるのは正直苦手ですが、好きになさい。呵責無く、でよろしいですね」

     呂布なら一騎打ちからは逃げない、逃げられない。最高の武将であろうとするのなら、軍を率いるときはまた別だが、逃げる選択肢を持ってはならない。

     日の出が近づき紫がかった空の下、海を横目に、かつての主と相対する。
     思えば、海を見るのは初めてであった。鼻もあまり聞かず、鬣もベタつく。
     思えば、この主とは、戦うために向かい合ったこともなかった。
     思えば、爆発したあとの主を、しっかりと見つめたこともなかった。

     ───傷ついていても、こんなにも勇ましいものだったのか。

  • 25二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:35:15

     脚が震えたりはしない。あまりにも初めてのことが多すぎて、そこだけが多少不安だが───

     それに対応できなくて、何が武芸百般か

     
     浜を駆け、瞬時に距離を詰める。
     
     槍と、戟が交わった。
     ───重い。が、食らいつける。全体的に大雑把だ。

     「狂化の影響ですか?」
     
     「■■■■■■(どうにも、振り方を思い出せん。まさしく呪いだ)」
     
     「武人には、辛い仕打ちですね」

     だからといって簡単に勝てるほど三國無双は甘くはない。体に染み付いてるのであろう、滑らかな動きで圧倒される。体から迸る雷のせいで近づくのにもリスクがある。

  • 26二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:35:42

     二十合、三十合打ち合っても勝負がつかない。技量は狂化を加味してこちらが上、力ならばあちらが上。
     一撃でも受けたらすぐに崩れ───

     「そこで自爆です」
     「ヒヒンッ!?」「■■(陳宮、待t)」

     もろに爆発を浴びてしまった。
     頑丈さは取り柄なので生きてはいるが、腕が一本吹き飛んだ。
     呂布殿は二度の爆発で立ってはいるが、動けないようだ。
     なぜこの方はあの爆発の中心にいて、立っていられるのだろうか……

     「■■■(陳宮…お前…ッ)」
     
     「主の勝利を信じきれず、返す言葉もございません。後で如何様にも罰は受けましょう。
     が、あのままではスタミナ差で負けていた。 
     貴方が生きてさえいれば、如何様にでも立て直せますので」

     双剣を抜きながら、こちらに向かってくる。
     そうだ、この男は割と好戦的…

     「赤兎、まだやりますか?」

     「…無論」

     片手で槍を振る。私より小柄な陳宮は、間を縫うように双剣でいなしながら近づいてくる。片手とはいえ当たらない。この軍師、ここまで強かったか──

     ダメだ、やはりこの二人は強い。冷却が終わったのか、呂布殿も再び動き始めた。

  • 27二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:37:43

     詰みか──
     断じて諦めるつもりもないが。

     斬られる覚悟で踏み込んで────

          ────ごめんなさい──
     
     声が聞こえた。陳宮にも聞こえたのか、一瞬動きが鈍る。が、双方止まりはしなかった。


      ──悲しませるつもりは、なかったの───
        ──私達も、世界を見たくて──
      ──人の目で、世界を見てみたくって──
        ──だからちょっとの間だけ借りるつもりで──

     陳宮の短剣が、私の霊核を貫いた。
           
         ────でも、あの子は今、悲しんでる──  
      ──私達のせいで、悲しんでる──
         ──このままだと、まにあわない──

     「……陳宮殿、お見事です」

     ──だから、返します──
        ──元の場所に、返します──

  • 28二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:38:07

     「…赤兎、彼らは………」
      
     「……妖精とはそういうものです。気まぐれで、影響を受けやすい……」


     しかし、それなら───

     「………ライダーーー!……………ライダーーーーーー!!」

     主の声が聞こえた。なぜだ、彼女が歩いてこれる距離では───

     「ライダー!」

     しっかしとした足取りでこちらに走ってくる。出迎えねば。今にも崩れそうな体を引きずり、主の元へと駆け寄った。

     「ライダー!」
     
     主が胸に飛び込んできた。
     危ない!今胸には刃物が……いや、それより…

     「マスター、なぜここに?それに、目が………」

  • 29二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:38:27

     「だってライダー、いつもの鼻息がしないなと思って起きたら、どこにも居ないんですもの。心配でライダーの音がする方に行こうとしたの。
     そしたら、ごめんなさい、って妖精さんの声が聞こえて、気づいたらここに……
     そう、それでね!目が!

     …………ねえライダー…?その、胸のは何…?」

     「申し訳ありません、貴方からの命令を、このライダー、もはや果たせません。どうかお許しを」

     「………ねぇそれって」

     「本当に申し訳ござ───」

     「そんなの、嫌よ。…嫌よ嫌!だって、貴方に会えたのに!ライダー、ずっと一緒だって、言ったのに!もう一人じゃないって思ったのに!やっと顔が見れたのに!
     ………やっと、やっと貴方に、会えたのに!!!」

     「マスター……」

     何よりも、申し訳無さが募った。陳宮殿の言葉が、より深く、心に刺さった。ああそうか、辛いのは私ではなく───

  • 30二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:38:53

     「………赤兎、誇りなさい。彼女の願いを叶えたのは、貴方の無謀さと、貴方の献身です。 
     先日聖杯を調べましたが、あれではダメです。使っていれば、取り返しがつかないことになっていたかもしれません」

     「陳宮殿………いえ、ありがとう、陳宮。貴方が同僚で良かった」
     
     「いえ」
     
     陳宮はいつにも増して、冷徹な顔つきで答えた。
     
     「まだやるべきことがあるのでしょう?
     …私はこれで。またどこかで会うことを楽しみにしています」
      
     彼にはどこまで見透かされているのだろうか。
     確かにやるべきことがある。
     そうだ、やっと会えたのだ。

     

     「……はじめまして。

     私は赤兎馬。此度はライダーとして現界いたしました。

     これより、貴方の脚となり、貴方と共に駆けましょう。

     
     …………あなたが、私のマスターですか?」

  • 31二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:39:18

     「………?…………!……………はい、……はい!貴方のマスター、です。
     ……はじめまして、ライダー!
     
     やっぱり、声と同じでカッコいいのね…!」

     彼女と出会ってから一週間。
     初めて、互いに目が合った。 



     マスターを背に乗せ、砂浜を走る。片腕だし、霊核も崩れかけだしでひどく不安定だが、耐久EXで抑え込む。馬なので頑丈さが違うのだ。

     「これが海……気持ちいい………」

     「たーのしー!!!!」

     思わず、口から出てしまった。

     「ふふふ、ええ、楽しいわね、ライダー!」

     ああ、その言葉で力が抜けた。そろそろ限界だろう。
     振り落とさないように、ゆっくり減速して、膝を折る。

  • 32二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:40:19

     「…………ねえ、ほんとに消えちゃうの、ライダー?」

     「…はい、この呂布、一生の不覚です。

     …………マスター、一つお願いが」

     「………なに、ライダー?」
     
     「ぜひとも、ご自身の目で、色んな物を見てください。貴方が失った年月分を。私では、貴方を運べないようなところから」

     「……わからないわ、ライダー……。そういえば私、何も知らない!世界について何も………。怖いの!
     どこから、何を見ればいいの?教えてライダー!」

     「それもまた自分で見つけるのです、マスター。例えば空から見れば、何か別のものも見えるかも…ふふふ」

     駄目だ、思考がまとまらない。適当なことを言ってないだろうか……。

     「ライダー、飛べないの?」

     「いえ飛べますが。呂布たるもの、空中飛行の一つや二つできますとも!ヒヒン!」

  • 33二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:41:47

     「ほらやっぱり!ライダーならできるわよね!」

     そろそろか…

     「じゃあ、約束ですよ」

     「ええ、約束ね」

     それにしても、よく笑うようになった。陳宮の言うように、今は誇ってもいいだろうか。

     ──最後に一度だげ、嘶こうかな。

     体が光になり、消えた。

     

     そこには一人の少女が、涙を拭い、目を見開き、登りゆく太陽を見つめていた。

  • 34二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:44:00

    以上です
    一連の騒動、大変ご迷惑をおかけしました
    きれいな形で残したいと思い、もう一度あげさせていただきました

  • 35二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:44:48

    乙、災難だったね
    改めてありがとう

  • 36二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:45:38

    乙、感謝します

  • 37二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:46:04

    改めて良いものをありがとう

  • 38二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:46:26

    俺1のこと好きだよ
    多分良い人だからね

  • 39二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:46:31

    前スレは消しといた方がいいかな

  • 40二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:46:53

    やっぱいい文章!好き!

  • 41二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:48:30

    良いものをありがとう😊

  • 42二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:48:32

    おつおつ、大変だったね
    内容がまずめっちゃよかったし文章すっきりまとまってて読みやすかった。素敵なSSをありがとう

  • 43二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:49:43

    お疲れ様です
    改めてお気に入り登録させていただきます

  • 44二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:52:18

    とても美しい物を読ませていただきました
    この先元盲目の少女に素晴らしい未来があることを祈っています
    しかしこの馬やっぱ強いな!?

  • 45二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:52:56

    このレスは削除されています

  • 46二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 23:01:50

    なんだこの文章は……
    あにまんに投げるにはあまりにもったいない…
    ところでなにかあったの?荒れたの?

  • 47二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 23:02:50

    >>46

    簡単に言うと規約違反✖️規約違反をして荒らされた

  • 48二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 23:05:31

    >>46

    なんかしつこい荒らしが来た

  • 49二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 23:06:38

    >>46

    猥談系のスレから出てきた輩が荒らした

  • 5023/08/25(金) 23:08:41

    追記
    赤兎馬の考えてることなんて多分誰にもわからないので、あくまで妄想の類です
    あと最終的にやばい二人組が野に解き放たれましたが、多分そのうち自爆して自滅するので大丈夫です

  • 51二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 23:12:44

    すっご、大作だぁ…

    そしてあの2人のヲチしっかりあるの草

  • 52二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 23:12:57

    アフターケアまでしっかりしてる追記に笑っちゃうんだよな

  • 53二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 23:21:03

    あの二人なら、ま、なるわな…
    時代と地域をボカしてあるの良いですね
    中国寄りでも良いし、西洋系でも赤兎馬なら絵になるし…

  • 54二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 23:32:16

    赤兎馬はかっこいいなぁ…

    >ここはやはり武芸百般(馬)。炎を吐いて、難を逃れた。

    >いつもの鼻息がしないなと

    いやちょっと待てよ

  • 55二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 23:47:30

    すご、すげーよ

  • 56二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 00:09:15

    また上げてくれてありがとうございます😊
    赤兎馬いいですね!

  • 57二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 00:21:32

    この馬無駄にいい声だしちょっとこれボイスドラマで実装されてほしいわ…

  • 58二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 01:18:45

    赤兎馬推しだから上げ直してくれてほんと助かる...
    素敵な小説をありがとう...ありがとう...!!

  • 59二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 08:31:33

    このレスは削除されています

  • 60二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 08:39:06

    ほんといい話だわ…
    ありがとう…

  • 61二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 14:06:14

    このレスは削除されています

  • 62二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 14:08:01

    上げ直しありがとう!!本当に嬉しい

  • 63二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 23:25:26

    主もしかしてpixivあげた?

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています