【閲覧注意🎲⚓SS】ロー中心ハートの海賊団をホラーな目に遭わせる Part3

  • 1◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:28:33

    お盆だけどきせいするばしょがないので、ローやハートのひとたちにちょっかいを出そうと思うPart3(お盆過ぎたけどな!)


    皆にも遊んでほしいのでTRPG風(あくまで風)にする

    簡単に言うとスレ民自身が怪異となって、スレ主が語り手をしていくという感じだ


    Part1↓

    【閲覧注意🎲/参加型の物語】ロー中心にホラーな目に遭わせる|あにまん掲示板お盆だけどきせいするばしょがないので、ローやハートのひとたちにちょっかいを出そうと思う皆にも遊んでほしいのでTRPG風(あくまで風)にする簡単に言うとスレ民自身が怪異となって、スレ主が語り手をしていく…bbs.animanch.com

    Part2↓

    【閲覧注意🎲⚓SS】ロー中心ハートの海賊団をホラーな目に遭わせる Part2|あにまん掲示板お盆だけどきせいするばしょがないので、ローやハートのひとたちにちょっかいを出そうと思うPart2(お盆過ぎたけどな!)皆にも遊んでほしいのでTRPG風(あくまで風)にする簡単に言うとスレ民自身が怪異と…bbs.animanch.com
  • 2二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 21:30:16

    来たわね!

  • 3◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:32:22

    【注意&お願い事】
    ・物語の途中でアンカーを付けることがある。その都度内容を決めてくれ
    ※キャラに沿わない荒唐無稽なもの、恋愛・下品なものなど、場合によっては再アンカー
    ※怪異としてのサラダ表現はOK(鏡に映るとか)

    ・恐怖展開になった際、SAN値(正気度)を削るダイスロールをする

    ・アイデアロールやその他技能などのダイスは無し

    ・グロ表現は控えめ(とはいえホラースレなので各々注意)

    ・時系列はワノ国の後

  • 4◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:32:36

    【現状とSAN値】
    連れ戻し係:ペンギン 46(発狂・恐慌状態まであと26)
    品物係:シャチ 49(一時発狂済)
    身体守る係:ベポ 43(一時発狂まであと3)
    連れ戻される係:ロー 38→35に削ったところ(発狂・恐慌状態まであと3)

    ※SAN値を使用しているがCoCとは別物と考えてくれ

    ※怪奇現象は1d3前後、大切な人やモノに関わることなら1d6前後でSANを切削中

    ※出目の大小により、キャラの冷静さ・状況も変化する
    (1d6で6を引く→混乱 1を引く→冷静に対処 など)

    ※廃人にならなければヘーキヘーキ!ただし0に近いぶん精神的重症となり尾を引く
    (エース殺されて暴れてたルフィがSAN20~25くらいのイメージ)

    SANを削って反応を楽しむスレだからガンガン削るぞ
    スレ民次第だが市にはしない予定だ

    ダメだと思ったらブラバしてくれ 他におもろいスレはたくさんある

    生かすもトラウマ刺激するも発狂させるもスレ民次第
    よろしくな!

  • 5◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:32:48

    ちなみに安価が外れててもアイデアを盛り込むことがある 愉悦のために
    ただ、出したいキャラや作りたい流れがあるなら安価が確実だ

    SAN切削、まだまだ楽しんでいってくれ

  • 6◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:35:37

    (ロー SAN値38-5=33)(発狂・恐慌状態まであと3)

    ひゅ、とローの喉が鳴る。
    これまですべて"景色"のなかだけだった。記憶を操作されるのは。
    だとしたら、この三人は?

    か細くなる呼吸に反比例して動悸が大きくなるのを自覚しながら、ローは膝をつく。
    一目見ただけで命はすでに無いとわかる状態の"それら"へ手を伸ばす。首、口元、手首、胸元。ぴくりとも動くことはない。穴の開いた身体からはもう血さえ流れず、ただツナギの赤黒い面積をじわじわと、そしてひたひたと伸ばすだけ。

    「……ッ、なんで、」

    呼吸がばらばらに乱れ、意識が追いつかない。寒さに似た感覚が全身を襲い、身体の制御が効かなくなってゆく。

    「違ェ……ここは、この空間はっ……能力者が、」

    いくらなんでも不自然すぎる、と目の前に転がる身体を認めようとはしなかった。だが正反対に、撫ぜるように触れた体毛も、皮膚も、死者特有の固さと冷たさをもってここが現実だとローへ知らしめる。
    床に転がる顔は、無理に笑んだかたちで固められていた。その顔は最期までローを心配させまいとするようで。

    ―つい先ほども感じた、記憶にない"なにか"とぶれて、重なった。

    どうしてこの三人は自分の元へ? そもそもなぜこいつらはこんなにおれを慕う? どうして一緒に行動している? どうして出会った? オペオペの実を食べたのはいつだ、ドンキホーテファミリーを離れたのはなぜだ、どうして自分はドレスローザを、なんのために海賊団を。

  • 7二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 21:36:03

    このレスは削除されています

  • 8二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 21:36:33

    このレスは削除されています

  • 9二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 21:36:46

    このレスは削除されています

  • 10◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:38:15

    >7の「分からない」誤字ってるなすまん

  • 11◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:43:48

    「ぐ、あ"っ……あ、あ、ああああああああっ!!!」


    亡骸たちから、そして知らない"なにか"から向けられている深い情に心がぎしぎしと音を立てて擦り切れる。
    これまで蓋をしてきた疑問が怒涛の如く噴出し、頭のなかの記憶を、思考を、真っ白に焼き切ってゆくのを感じていた。


    「(おれは、誰だ……なんなんだ……どうして、此処にいる……!!)」


    震えが止まらず、割れるように痛む頭を抱え込む。
    もう、何もかもが分からない。
    激しい耳鳴りと眩暈がローを襲い、意識を保つことすら許そうとしなかった。





    「おにいちゃん」

    遠退きそうになる意識。
    必死に抗うローの耳へ、幼い少女の呼ぶ声が届いたような気がした。

  • 12◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:44:30

    (side ペンギン)

    「……ここは…船長室?」

    「そう、おなじ! ろーのための、たからばこ!」

    ぐんと手を引っ張られる感触に任せて辿り着いたのは、目を閉じたときとまったく同じ場所。ただし、ここがその"精神世界"らしい。ロー自身を宝とは言い得て妙だ、とペンギンはふと笑みが漏れる。

    「だが、こんな不可解な場所でゆっくり過ごすような人でもないだろう」

    時計は過ぎ去ったはずのAM2:00をさしたまま止まっている。扉の向こうは漆黒なうえに閉じ込めていたというのなら尚更だ。閉じ込めたら勝手に出て行くし、やめようと言ってもやるし、こうと決めたら妥協はしない。それが我らの船長だ。
    だからこそ置いていかれるときも多いし勝手に人質になったりする訳だが、と、まだ痛む傷を抉ろうとしてやめた。今は自傷している暇はない。

    「ねかしつけようとしたんだけど。あのこ、たからばこをでていっちゃった」

    「……そうだな。あの人は、自由だから」

    「つらくない? てをはなしたら、きっとらくになれるのに」

    その言葉に、ペンギンは子供と視線を合わせて言う。

    「辛い時もある。特に待つ必要があったり、自分が足手纏いになったりした時は。だが俺たちは、ローの帰るところで在り続けたいんだ」

    「それが、ぺんぎんの、みんなのやりたいこと?」

    クルーたちは全員、それぞれの事情を抱えつつもローを慕い、命を懸けて守ると誓い、生涯をかけてついていくと決めている。ペンギンは皆を代表するように力強く頷いた。

  • 13◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:48:54

    「ああ。だからこれからも、何があってもおれ達は船長についていく。……凧の糸が切れたみたいな人だからな、大変だけど」

    ペンギンの苦笑へ、子供は満足そうな笑顔で返す。

    「うん、そうだね。なにがあっても、みんなでまもろうね」

    よし、じゃあ行くかと体をほぐすペンギン。精神世界だというのにしっかりと質量や感覚が生きている。ひやりと冷たい扉のノブを回して扉を開けると、常夜灯があるはずの廊下は闇に染まっていた。
    まるで視界が効かない、完全なる暗い世界。

    「ろーといっしょに、もどってきて。ぼく、ここをまもりながらまってるからね」

    「船長がどこに居そうだとかは分からないか?」

    「わかんない」

    「この部屋に戻ってくるための目印とかは?」

    「ないよ」

    無慈悲な言葉だが、ペンギンはそれでも肩を落とさない。大仕事になることは分かりきっていた。だからこそ、万が一自分に何かあった場合を考慮してシャチやベポを船内に残している。
    失敗した時のことは考えたくないが、もしものときはローだけでも頼んだぞ、と心の中で呟いた。

    「ちかくまできたら、わかる。すこしだけならぼくもでられるから、かえってきたらむかえにいくよ」

    「分かった」

    そうしてペンギンは"たからばこ"を背に暗闇のなかを一歩、踏み出した。

  • 14◆Pxx1Kifjy223/08/26(土) 21:50:38

    悪い、誤字が気になりすぎて一連を投稿し直した
    じゃあまた明日

  • 15二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 21:55:14

    乙
    怒涛の更新に興奮した
    ローいろいろと持ってかれてアイデンティティー崩壊の危機だな

  • 16二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 22:14:45

    乙です

    おにいさま!おにいさま!

  • 17二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 00:10:20

    めちゃくちゃ楽しいわ
    読み応えあるねー

  • 18二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 01:55:47

    良すぎて一気見してしまった…
    いいねこの緊迫感ホラーって感じする

  • 19二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 05:34:27

    「おれはあの人の本懐を遂げる為 今日まで 生きて来たんだよ!!!!」と言い切る程の

    その根幹部分が空白になってしまったらこうもなろう


    >大事なことっていうのはわかるのにコラさん関連のの記憶が消えていく


    良い仕事をなさいましたな

  • 20◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 07:48:50

    (side ベポ) SAN値43(一時発狂まであと3)

    しんと静まり返った船長室。
    そのベッドの上でベポはローを抱きしめていた。胎児のように丸まらせて、抱きしめ、その上から毛布を被る。湯たんぽも熱源もないこの部屋でできる、ベポが考えた装備だった。
    それでも段々とローの身体は冷えてゆく。

    「(キャプテン、氷になっちゃう)」

    ぎゅ、と寄せた頬は体温が移っているようには思えない。冬場よくそうしているように手を取り肉球ではさんで擦ったり息を吹きかけたりしてみても、効果はなかった。
    そればかりか段々とローの呼吸は細く、より存在感のないものになっている。

    「どうしよう、おれ、どうしたらいい? キャプテン……!」

    と、そのときベポの優秀な耳が"あるはずのないもの"を捉えてぴくりと動く。

    それは、状況を報告し合うクルー達の話し声。

    計器を弄る音。

    戦闘訓練の打ち合いの音。

    笑い声。

    聴力が格別に良いミンク族のベポには、普段艦内で何が起きているのかおおよそ把握することができる。しかしいまは、夜中。有るはずのない、普段と変わりない賑やかな生活音や会話達へ息を呑む。

  • 21◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 07:52:03

    「そのときキャプテンがさあ」

       「いやそれはお前が」

    「誰か焼き菓子の試作品食べる奴~」

     「この靴下誰の?」


    至る所から聞こえてくるそれらに呆然としていると、船長室へコンコンとノックの音が落とされた。


    「キャプテン~! 整備のチェック表と備品リスト持ってきましたよー」


    「あと焼き菓子も!」


    扉一枚隔てた先のキャッキャとはしゃぐ声は、ウニとイッカクだ。けれど何もかもが不自然すぎて、ベポはベッドの上で固まることしか出来なかった。敵の罠、幻聴、何でもいいが反応すべきじゃないと、ローを抱いたまま耳を塞いで目を閉じる。

    しかし扉の外の声は止む事無く続く。


    「あ、あは、あは、ベポ、ねえ、ベポもそそそそそこにいるんでしょ」


    「ア”ー……ひひ、備品、の、りすととと、ホラ、イるだろ、コれ、ダイジなりすと、あけ、あけ、開けテ、」


    軋み、変質してゆく仲間の声はベポの背筋に怖気を走らせる。

    トントン、と扉を叩いていたはずの音はやがてカリカリ、カリカリ、と引っ掻く音へ変わっていた。


    空恐ろしさに身を縮ませたその瞬間、廊下のほうから激しい音がいくつも重なった。金属同士がぶつかる激しい音にベポが顔を上げる。

    扉の外から聞こえるおそろしい声。刃を振るう音。

    それらに対して、もしかして、と血の気が引いてゆく。


    「シャチ……!?」


    ベポSAN値チェック

    dice1d3=1 (1)

  • 22二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 08:29:45

    いいそいいぞ
    こういう時に聞く日常の音って却って怖いな

  • 23◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 08:31:29

    シャチの透明化のときといい、クルー同士の事だと全然削れないのマジでなんなんだよ

  • 24◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 10:04:58

    (ベポ SAN値43-1=42)(一時発狂まであと2)

    廊下から聞こえる歪な声と、戦闘音らしい金属の音。

    瞬間的に立ち上がりかけたベポだが、ベッドの上に戻りローを抱え直す。


    「(ダメだ……おれが今行ったら、キャプテンもペンギンも危険にさせちゃう)」


    せめてシャチも声さえ聞こえれば状況が分かるのに。そう思いつつベポはひたすらローへ体温を分け与える。

    そうして廊下へ出てようすを確認したい衝動を耐えていると、廊下から一際大きい、ギィンと刃を突き立てるような音が聞こえて静かになった。決着がついたのだろうか、逃げたのか。

    扉を引っ掻いていた音も、声も、いつの間にか消えていた。


    「(シャチ……ペンギン……キャプテン……! みんな、みんなはやく帰ってきて……!)」


    毛布のなかでぎゅうと目を瞑る。

    ただひたすら皆の無事と帰還を祈りつつ岩のように固まっていると、ふと脳裏に声が響いた。


    『ベポ』


    それは、優しく、太く、力強い声。幼い頃に生き別れて以来、それでも忘れることのない声だった。


    「……にいちゃん?」


    そっと瞼を開けたベポの頭に、ふわりと暖かな重みが乗せられる。


    『お前は良い子だ。よく頑張ってる。だがあまり無理はするんじゃあねェぞ』


    現実味のうすい感覚は夢か現か、自分を慰めるため脳内で作り出した都合の良い妄想か。ベポはそのふわふわとした居心地のよさに目を閉じる。



    >>26 ベポはどうする?

  • 25二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 10:12:01

    『にいちゃんあのね』と脳内で話しかける
    口には実際出してないから一線引けてる、大丈夫幻覚だと分かってる、という言い訳的な感覚

  • 26二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 10:17:51

    意識を身に任せて1時間くらいしてから我に返る

  • 27◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 10:25:47

    おっとこれはガッツリ削れそうなのがきたな
    フレーバーとして25を混ぜつついかせてもらう

  • 28◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 11:40:34

    ゾウで真実を知ってしまった。だからいまここで、兄の声が聞こえるはずがない。
    そう思いつつも、ベポは無意識に懐かしい声へ耳を傾ける。なにせ二度と聞くことはないと、呼ばれることもないと思っていた声。何かを促すでもなく、攻撃するでもなく、ひたすらに優しくベポを気遣うその声に熱いものが込み上げてゆく。

    『ベポ……、ああ、こんなに大きくなったんだなあ。あんなにチビだったってのに』

    『航海術を学んで、世間を騒がすルーキーの船に乗ってるなんて。ベポは頑張り屋だ。兄ちゃん鼻が高ェぞ』

    『いつかお前と酒を酌み交わすのが夢だった……』

    甘やかす声はまるで子守歌のようだった。
    これは幻聴だ。そうと分かっていても、うんうんと頷かずにはいられない。
    ベポは目を閉じたまま、相変わらず体温が移らないローを抱きしめてその存在を確かめた。

    「(大丈夫、キャプテンはここにいる。兄ちゃんも、励ましてくれてる。だから、おれは……おれは…………)」

    そうしてベポの意識は、すっと闇のなかへ溶けていった。




    「おい、ベポ!! ベポ!!!」

    怒声と、身体が揺さぶられる感覚にベポは飛び起きた。鬼気迫る表情のシャチとペンギンが揃ってベポを覗き込んでいる。

    「お前ッ……! 船長はどこだ!!?」

    「シャチ、ペンギンも、帰ってきたの!? キャプテンならここに、」

    言いながら腕のなかへ視線を落とす。そこにはローと同じ体躯をした土の人形がくたりと横たわり、裂けた口でにんまりと笑んでベポを見上げていた。

  • 29二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 12:13:43

    あーこれは怖い

  • 30二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 12:44:25

    ベポ視点じゃこれが夢かもわからないもんな
    めっちゃ怖い

  • 31二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 14:31:44

    これシャチ視点だと自分が刺したローは本物かもってなるね
    ぎゃーこわい

  • 32◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 18:03:55

    「ひっ!」

    思わず仰け反ると、かろうじて形を保っていた土人形がぼろぼろと崩れ落ちる。

    「この大事な時に寝ちまってたのかよ!!?」

    「やめろシャチ、船長を探すのが先だ!!」

    飛び交う声と、腕のなかの冷たい土塊。そこでベポはようやく取り返しのつかない失態を理解し戦慄いた。どうして、さっきまで、だって、といくつもの言い訳めいた言葉が浮かんでは消えてゆく。

    「っくそ! こっちのモノは揃ってるってのに肝心の身体がねェんじゃ意味がねえ!!」

    シャチが吠えながら部屋中の至る所を確認するが、そもそも人が入れそうな隙間などベッドの下や洋服棚程度である。ペンギンが肩で息をしながら首を振った。

    「このままじゃダメだ、全員招集してローラー作戦でいくぞ」

    それは確認というより決定事項だった。シャチが頷くよりも前に、伝声管の蓋を開け伝令を飛ばす。

    「全員起床!! 船長が敵の手に堕ちた可能性がある!! 昨日のツーマンセルで手分けして艦内を捜索しろッ!!!」

    各所で起きている人間をメインに了があるのを確認し、伝達を終えたペンギンはぐしゃりと髪を搔き乱す。呼吸は乱れ、全身が震えていた。

    「畜生…どうして、こんな……船長……!!」

    「おれらも行くぞ。まだ遅くはねぇ、諦めんな」

    ばし、と力なくペンギンの肩を叩き、廊下へと促すシャチ。

  • 33◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 18:05:27

    「ぁ……、お、おれ…おれ……!!」

    ベポも立ち上がり捜索の手に加わろうと思うが、喪失の大きさに身体も言葉も震えて思うように動かない。ぬるつく土塊がにちゃりと粘度と悪意をもってベポにまとわりついていた。
    震えるベポへ、船長室を出ようとしたシャチが振り返る。

    「……っ、」

    その表情は、憤りを越えた失望だった。

    何か言いたげに口を開け、唇を噛み締めて、飲み込む。

    握りしめている拳からは血が垂れていた。

    「……シャチ、行くぞ」

    廊下の向こうから声がかかり、結局、ペンギンもシャチも言葉を掛ける事なく船長室を出て行った。
    ベポは未だこの事態を現実であると受け入れられず、浅い息を繰り返す。ぽっかりと空いた腕のなかの存在も、身体中の血が引くつめたい感覚も、喉の熱さも自分のものだというのに、心が追い付かない。

    「きゃぷてんが、いなく、なっちゃう……! おれの、おれのせいだ…おれのせいで……!!」

    守るという約束を違えたというのか。

    一体どうして、こんなことに。

    確かに抱きしめていたはずなのに。

    疑問と自責の念に胸が引き裂かれそうだった。
    そうこうしている間にも艦内が騒がしくなってくる。このままではいられないと、ようやく足を引き摺るように体を起こしたベポは腕に残っていた土塊を落としながら床に立つ。

    ふと顔を上げると、開けっ放しになっていた扉の前にはローが立っていた。

  • 34◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 18:07:42

    「きゃ、キャプテン……!」

    あれだけ切望し、皆で捜索を始めた存在がすぐ手の届くところに居る。

    「みんな、皆探したんだよ、どこに行ってたの、おれ、キャプテンを温めてたら、それで、」

    息急き切って言葉をかけるが、ローは壁に凭れて月色の瞳をぼんやりと宙に向けたままだった。
    その異様なようすに、ベポは思わず唾を嚥下する。

    「キャプテン……?」

    掛けられた声に、ゆるりとローが頭を傾けてベポを見る。
    しかしその目は、"ベポ"を見ていない。



    「 コ の ヵ ラ だ 、
      ほシ かっ タ 」



    口から出るのは、ベポが好きな落ち着いた声ではなくカタコトの出鱈目な"音"だった。虚ろな表情と壊れた声。そして、ニィ、と歪に唇の端が吊り上げられる。
    この世のモノとは思えない異質さにベポの全身の毛が逆立った。

    キャプテン、と叫ぼうとしたベポを前に"ローの肉体を借りたもの"は、ゆるりとした動作で人差し指を唇に当てる。その、他者を圧倒する威圧感に恐怖が体内を駆け巡り、身動きひとつとれなくなる。


    そしてローは、

    否、"ローの肉体を借りたもの"は、その場から跡形もなく消え失せた。

  • 35二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 18:29:50

    ベポ可哀そう!
    だいぶ削られたろうな

  • 36二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 18:30:38

    愉悦!!楽しいね!!!

  • 37二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 19:08:19

    『第三者になんか怖いことやられた』よりも『自分が何かやらかしてしまったかもしれない』って状況の方が肝冷えるよな……ベポ乙

  • 38二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 19:30:10

    あーこれはキッツい...

  • 39◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 20:17:56

     


     

    「これは、みちゃだめ。このさきは、だれものぞんでいないから」



    聞き覚えのある子供の声。


    次いで、バンッと乾いた破裂音にベポは跳ね起きた。




    ―腕のなかには、氷のように冷たいローの身体がくたりと横たわっている。




    ベポSAN値チェック

    dice1d10=9 (9)

  • 40二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 20:36:50

    >>39

    わおぅ…当たり前だがめっちゃ削れた…

  • 41二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 20:37:35

    ベポ一時発狂か

  • 42二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 20:39:49

    ほぼ最大値じゃん

  • 43二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 20:55:23

    自分のミスで船長失った上に付き合いの長いペンシャチに失望されたとなったらそりゃ旗揚げ組末っ子のベポは特に削れるよな…

  • 44◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 21:09:50

    (ベポ SAN値42-9=33)(40を下回ったため一時発狂)


    「……キャプテン?」

    先ず口元に手を。そして首筋、手首、胸元へと肉球をあてていく。
    時折苦しそうに吐かれる息がベポの白い毛を撫ぜた。

    ―生きている。

    「(……ほんとうに?)」

    何度も、何度も確かめる。
    肌は冷たいが柔らかい。月色の瞳は瞼に遮られていて見えないが、しっかりと形を保ったままの身体は土塊のように崩れはしなかった。すんとニオイをかぐと、消毒液と薬草が入り交じったような、普段のローのにおいがベポの鼻腔を安心させた。同時に、いつの間にか溜まっていた涙がほろりほろりと頬を伝って落ちてゆく。

    「(ほんとうに、いきてる、ここにいる……!)」

    確かな生体反応と存在感に、ベポは胸を詰まらせ強く強く、ガルチューをする。
    盗られてもいないし、消えてもいない。
    どこからが夢だったのかは分からないが、きっと心配と不安が過ぎたから変なものを聞いたり、見たりしてしまったのだろう。ベポはそう結論付けてローを抱いたままふらりと立ち上がる。このままではいけないという危機感と責任感、そして先ほど体感した夢の残滓がベポの不安を強く掻き立てた。


    「こ、このままじゃ、だめだ……。ごめんねキャプテン。ごめんね、シャチ、ペンギン。心配させちゃったね。おれ、ちゃんとできるから。キャプテン、ここにいたら、またねらわれちゃう。そうだ、きっとこのへやがダメなんだ、だってこんなにキャプテンのにおいがするもんここにいますよっていってるようなものだもん、もっとあんぜんなところにいかなくちゃ、もっとせまくて、だれもこなくて、もっとあたためられて、ふかふかなばしょへいかなくちゃ、おれが、おれがまもらなきゃ、ここから、そうだ、ここからにげなくちゃ、」

    ぶつぶつと口のなかで呟くベポは最善を尽くすべく、ローを片手で抱え直し、ペンギンを小脇に抱える。
    そうして二人を抱えたまま、不確かな足取りで船長室を後にした。

  • 45二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 21:34:47

    部屋から出て大丈夫か?
    あとこんな時にごめんだけど肉球ぽふぽふ当てて体温測ったりガルチューしてるベポ想像したらかわいかった

  • 46二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 22:06:36

    ほぼ最大値引いちゃったから仕方ないけども、船長室から出ちまった……!!

  • 47◆Pxx1Kifjy223/08/27(日) 22:08:25

    感想等ありがとな!ベポも内容通りに削れて愉快愉快


    さて、少し気が早いがペンギン(連れ戻し係)の怪異を募集する

    例によって闇のなかだから割と何でもアリだ

    >>50



    愉悦アイデアを待ちつつまた明日 おやすみ

  • 48二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 22:42:30

    船長(偽物)(擬態が上手)を見つけて一緒に帰ろうとする

  • 49二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 22:45:24

    両親を失った時のように、ローを海に奪われて追いつけない幻覚を見る

  • 50二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 22:46:09

    手足がだんだん消えていくように感じる
    感覚も無くなる

  • 51二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 22:57:23

    殺意マシマシの発狂船長(偽でも本物でも可)に攻撃される

  • 52二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 23:07:23

    溺れているように息ができなくなる

  • 53二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 23:14:35

    みんながローのことを知らないポーラータング号の日常に放り込まれる

  • 54二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 23:20:08

    完全に安価は過ぎてても流れと好意によりフレーバーとして取り入れてくれるスレ主に甘えてしまうなw
    ということでノベルロー設定になるが両親を失った後の奴隷化時代の折檻(暗闇だし狭い部屋とか箱とかに閉じ込められるとか?)がフラッシュバックして
    ロー達と出会って海賊やってたのは長い夢で今も自分達は奴隷をやってて今も折檻の最中だったという感覚に陥るとか?(安価はすぎてるので可能であれば)

  • 55二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 07:43:42

    船長だったものが転がってる

  • 56二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 07:55:38

    クラちゃんほんと頼りになる!
    クラちゃんは「身体も持っていかれた後のロー」のイメージは絶対に避けたいのかな 
    ベポが泣かされるのはいいんだ(ゼポ持ち出した怪異であるおれが何か言ってます)
    ペンギンがんばれー

  • 57二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 11:25:02

    クラさんが「この先」があるような口振りなのは、
    これもまた在り得た√のひとつということかな
    愉悦部完勝badendってとこ?

  • 58◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 12:23:40

    怪異めっちゃ湧いてて草

    しかしどれもおもしれー
    50はマストとして、あとはダイス次第か? ロー側の出目にもよるな

    拾えないものもあるだろうが楽しみに待っててくれ

  • 59◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 12:24:09

    (side ロー)(SAN値33/発狂・恐慌状態まであと3)

    懐かしさすら感じる幼い声が聞こえて、ローは目を覚ます。いつの間にか気を失っていたらしい。ゆっくりと体を起こして立ち上がる。

    「くそ……、何だったんだ……」

    あれほど酷かったいくつかの症状は何も残っていない。そのせいか妙に頭がすっきりしているような、と直前の出来事を思い出そうとするローの耳に再び子供の声が届く。

    『おにいちゃん』

    それは、遠い記憶のなかの声。

    白い街で、家族が仲良く暮らしていた頃の。

    かけがえのない、妹の。

    「…………ラ、ミ…?」

    少し舌足らずで、甘えん坊な声。長い間聞いてはいないし、これからも聞くことがないと思っていた声だが違えるはずがない。どうして、なぜ、という疑問と共にじわりと広がる郷愁に蓋をして、ローは周囲を見回した。

    「(この空間……あの世とこの世の境目だと、誰かが……いや、待て、誰がそんなことを言って、)」

    『おにいちゃん』

    呼び声に思考を絶たれ、ローは顔を上げる。同時に、ぶわりと吹いた熱風が身体を撫ぜた。

    「―ッ!?」

  • 60◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 12:25:17

    何の前触れもなくごうごうと炎が立ち上がってゆく。あたり一面に広がる炎の海は容赦なくローを取り囲んだ。
    この状況にも、思考にも、そしてこの妹と思しき少女の声にも、すべてに違和感を覚えるが、いまのローにそれを気にする余裕はなかった。

    「く、そっ……! なんなんだこれは……!」


    『いやだ、熱いよおにいちゃん…ッ!!』


    響き渡る声に、ローの喉がひゅっと細く鳴る。
    それは覚えのある、助けを求める声だった。
    燃え盛る炎の熱と音、派手な銃声、大勢の足音、悲鳴と叫び声。硝煙と、"さまざまなもの"が焼ける臭い。倒れてゆく人々。

    『感染しない病なんだ!!きっと治す方法が…!』

    『ラミと一緒に、どうか逃げて…!』

    『ああ、神様…!』

    『痛い、身体が痛いぃい!!』

    炎のなか、次々と折り重なって倒れてゆく姿は見覚えのあるものばかりだった。白くなりつつある肌を焼かれている、在りし日の父や母、シスターや同級生たち。地獄のような光景に凍り付き顔色を失うローへ、炎のなかのそれらは腹に穴を開けたまま、あるいは四肢や胴を千切れさせたまま、彼の足元へとにじり寄る。

  • 61◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 12:25:41

    優しく聡明だった父と母が、恨みがましい目でローを見る。穏やかなシスターが大量の血を流して、力の限りローを睨みつける。身体を砕かれ、四肢がもげ、或いは生首となって口々に責め立てる友達たち。


    『うあああ!!痛いよ、助けてよおお!』


    『医者が、治せる医者が…!』


    『ロー、たすけて、助けてくれよ!!』


    『お前は俺たちを見殺しにしたんだ…!』


    『どうしてラミを助けなかったの…!』


    『お前だけが生き延びやがったんだ!!!』


    恨みと非難の声に、ローの呼吸が引き攣ってゆく。

    逃げ場はない。

    そしてそのなかで一際大きく渦巻く炎と、耳を劈く絶叫。



    『あ"あ"あ"あ"あ"!!! 熱いよ、痛いよおお!!、助けて、た"す"け"て"お"兄"ち"ゃ"ん"!!!!』





    ローSAN値チェック

    dice1d6=4 (4)

  • 62◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 12:29:43

    気付けそうだったけど気付く余裕が無かったって感じだな
    という訳で発狂・恐慌状態へシュウウウーーッ!! 超!エキサイティンッ!!

  • 63二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 12:46:01

    このレスは削除されています

  • 64二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 13:25:25

    >>62

    狂気のバトルドームで笑う

    ペンギンと恐慌エンカウント避けれるといいね…

    でもそれはそれでいいかもしれない()

  • 65◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 13:28:37

    >>63 すまん表記間違えたから消した

    (ロー SAN値33-4=29)(30を下回ったため発狂・恐慌状態)


    「ちがう……ちがう、ラミは、おれのことを、いつも"お兄さま"って、」


    震えた小さな否定の声は、あたりに轟く怨嗟の声に掻き消される。


    「ちがう、だから、これは、……おれは、」


    目前でごうごうとうねり、容赦なく大切な人たちを焼いてゆく炎にローはただ立ち竦むしかできなかった。


    "あのとき"と同じだった。

    政府に駆除された両親と、焼かれる妹。

    救われないシスター。

    希望も未来も奪われた友人たち。

    そして、病院を前にただ泣き叫ぶことしかできない、無力で憐れで、殺してやりたいほど憎い自分。



    ―あのころから、なにもかわっていない。



    守りたいものも守れず、


    それどころか大切なものたちに守られ、


    失い、独りきり。



    もう動く気力も、何かを口にするほどの心も、ローのなかには残っていない。

    相次ぐ喪失感と虚無感へ、ただ立ち尽くすのみだった。

  • 66二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 19:02:51

    ペンギン見つけたげてー
    とうとうローさんがくじけちゃったよ!

  • 67二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 20:05:49

    >>62

    めちゃくちゃ懐かしいなそのフレーズw

    しかし怪異はガチでキツくて笑う

  • 68◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 20:14:08

    (side ペンギン)(発狂・恐慌状態まであと26)


    「船長! どこだ、船長ー!!」


    トラファルガー・ローという人物は思考がぶっ飛んでいると思われがちだし実際の行動も破天荒だが、根の部分ではかなり論理的だ。だからこそ、この暗闇のなかでむやみやたらに歩き回ることはしないだろう。そう思いペンギンは出た道を真っすぐに走る。

    どこまでも続き、足元さえ飲み込むほどの闇。自分がいま、目を開けているかどうかも疑わしくなってペンギンは時折意識的に瞼を閉じた。


    「(平衡感覚が狂いそうだ)」


    実際、きちんと真っすぐに走れていないだろうそれでも声を出せばどこかには届くはず、とペンギンはローを呼び続ける。


    「くそ、どこまで広いんだ!」


    建物も目印も何もない辺りを見回し、一度立ち止まって息を整える。闇雲に探してもダメか、しかし左右に動いて自分が"船長室"へ戻れなくなるのも、と頬に伝う汗を拭ったそのとき、ふと違和感に気付いて目を瞬いた。


    ―指先が、うっすらと消えている。


    まるで闇が侵食するように、自身が霧散するかのように"向こう側"が見えかかっている。慌てて全身を確認すれば、両の手指だけが半透明になっていた。靴のなかを確認する余裕はない。

    念のためそっと触れてみたが、完全に消えている爪先の感覚は無くなっていた。半透明な部分は、鈍いが感覚は残っている。そしてその間も、じわりじわりと己が消えていた。


    「な…んだこれ…どうなってんだ……ッ!」



    ペンギンSAN値チェック

    dice1d3=2 (2)

  • 69◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 20:31:51

    (ペンギン SAN値46-2=44)(発狂・恐慌状態まであと24)



    ペンギンの背を、ぞくりと嫌な予感が伝う。

    シャチの場合は、確か幽霊のような特性が交換されていると言っていた。だが、今回の自分は?意識体となっている己が消えたら本体のほうはどうなるのか。楽観的に見ても戻れる可能性は限りなくゼロに近い。


    「(いや、そんなことはどうでもいい)」


    自分が戻れなくても、どうなっても、まずは船長を見付けなければ。

    話はそれからだ、と両頬を打って気合を入れ直す。


    とにかく何か手がかりだけでも見つけなければ、と再び走り出したその瞬間、遠くの方に小さな灯りが見えてブレーキをかける。目を眇めても、何かまでは分からない。

    橙色の光が、ちらちら、ちらちらと夜空に浮かぶ星のように瞬いている。


    ―罠か、それとも、手掛かりか?


    真っすぐ来たと思しきこの場所から逸れてしまうし、もしかしたら光源はかなり遠いものかもしれない。行って戻れなかったら、それこそ船長を助けるどころじゃなくなるかもしれないな、と選択が生死へ直結する予感へ決断を躊躇う。

    しかし今は船長のことも、自分の失いかけている身体のこともあり、悩んでいる時間すら惜しい。



    >>70 ペンギンはどうする?

  • 70二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 20:32:51

    なにか目印(最悪ツナギとか)を置いてから向かってみる

  • 71◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 20:37:47

    パンイチで捜索するペンギンの図が思い浮かんでしまった
    発狂中のローとの再会が別の意味で愉快なものになる

  • 72二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 20:41:24

    >>71

    流石にツナギの下はインナーとか着てるんじゃないかな

  • 73二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 21:00:59

    パンイチクソワロw身内のクトゥルフなら面白さ重視でキャラに脱がせてたなww
    マジレスすると帽子でも槍でも何でもいいんだろうが

  • 74二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 21:02:11

    縄やらワイヤーやら元々の服に仕込んでた場合今の意識体にも反映されているんだろうか

  • 75◆Pxx1Kifjy223/08/28(㜈) 21:10:46

    闇ばかりのなかでようやく見つけた"異変"だ。手掛かりになる可能性は高い。

    「行くか、」

    溜息交じりに、誰に言う訳でもなく呟く。足元の視界さえ覚束ない漆黒ではあるが、もしものことを考えて目印を置いておくかと、太腿に仕込んでいる鉄棒を取り出した。軽く、伸縮性のそれを何度か蹴りつけ圧し折り、方向を指し示すように床へ置く。

    「衣服に仕込んであるのが有ってよかったな……下手したらツナギを脱ぐか破るかするところだった」

    何気なく取り出したあとで"持っている"ことに気付いたペンギンは改めて自身の手持ちを確認する。ダガーやスティンガー、靴に仕込んだナイフ。シャチより数は少ないほうだ。槍術をメインとする身からするとできれば鉄棒はこのまま持っていきたかったが、目印として役目を果たすなら悪くない。

    今度は光源という目的があるため、走りやすかった。
    一刻も早くと地面を蹴り続ければ案外光は近かったようで、段々とその姿が見えてくる。遠くにあったのではなく、光源そのものが小さかったのだと判明したのは"それ"がランタンだったと分かったときだった。

    「このランタンは、船長のか?」

    手に取れば、それは見覚えのあるものだった。
    船長室だけでなく、ポーラータングの標準装備にしている各所備え付けのランタンだ。最小限まで絞っていたからか、光は絶えることなくちらちらと揺れ続けている。敵が用意した罠という可能性を除けば、ローは此処を通ったということになるだろう。

    「(ここでランタンを置かざるを得ない何かがあったのか……!?)」

    慌てて名を呼ぶが、やはり返事はない。
    ここを中心に範囲を広げてみるか、と改めてゆっくりと周囲を見渡せば、少し離れた場所へ灯るように"景色"があらわれた。ポストカードほどの大きさの"どこかの景色"が、暗闇の中で浮いている。
    急に現れた"景色"は、ペンギンに覚えのある場所だった。

    「これは……絵、か……?」

    ポーラータングの、食堂。そこでクルー達が和気藹々と雑談に興じているような"景色"。つい昨夜似た光景を見たばかりの"それ"へ、ペンギンはふらりと引き寄せられるように近付いた。

  • 76二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 21:27:01

    呼ばれてるなぁ

  • 77二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 21:27:05

    自分がどうなっても船長を助けに行くペンギンは覚悟キマッてて応援したくなる
    がんばえー(愉悦)

  • 78二次元好きの匿名さん23/08/28(㜈) 21:41:34

    帽子あるやんけ…と思ったけどアイデンティティ無くなるから駄目か

  • 79二次元好きの匿名さん23/08/29(灍) 00:00:47

    ローも発狂したし続きが楽しみだ

  • 80二次元好きの匿名さん23/08/29(灍) 10:23:37

    キャプテン怪奇にまで愛されちゃって大変だね
    みんなが無事ハートに帰れますように!

  • 81◆Pxx1Kifjy223/08/29(灍) 10:49:33

    触れる意図は無かった。ただ、船長奪還のためのヒントになるかとよく見ようとしただけだった。しかし数歩近寄ったそのとき、急に周囲の闇色が引き潮のように"引き上がる"。

    「!?」

    "幕が上がる"という表現のほうが適切だろうか。ペンギンの周囲へ重く漂っていた闇が上へ消えてゆくと、そこはポーラータングの通路だった。ごうんごうんと唸る船の心臓音、微かに聞こえる計器類の音、それから目前にある扉の向こうから聞こえてくるクルー達の笑い声。扉の上のプレートは食堂と記載されている。
    間違いなく、ポーラータング号のなかだった。

    「ここは…どうして…」

    きょろきょろとあたりを見回すペンギン。床を踏み、壁をコツコツと叩き、明かりを確認する。慣れた閉鎖空間の感覚はペンギンへ此処が現実だと訴えた。ふと自分の指先を見れば、透過などしておらず爪の先までしっかりと見えている。感覚も、生きている。

    が、ここが現実であるはずがない。確かに自分は先ほどまで暗闇の中、船長を探していたはずなのだから。

    「(もしや……敵の本拠地か?)」

    どう転んでも慎重に動いたほうがいいかと考え、食堂の扉にある丸窓を覗き込もうとする。が、その瞬間扉が勢いよく開く。出てきたのは、さきほど別れたはずのシャチだった。

    「さっきからどうしたんだよ、ドアの前でうろうろしちゃってさ」

    思わず身構えようとするが、シャチはペンギンの事を気にせず食堂の中へ戻ってゆく。

    「いま皆とも話してたんだ、いよいよかーって。あ、なんか飲むか? 今ならシャチ特製ブレンドが飲めるぜ」

    こちらの警戒心をよそに、その態度は普段と変わりない。それどころか食堂を覗き込んだ先にはウニやハクガン、ベポが机に集まって和気藹々と何事かを話し合っている。こちらを見ても、おおいと手を挙げるだけで攻撃してくる気配はない。

    「(敵陣だとしても、船長につながる何かが分かるかもしれない)」

    そうしてペンギンは、シャチに招かれた食堂へ"足を踏み入れた"。

  • 82◆Pxx1Kifjy223/08/29(灍) 10:51:18

    食堂ではやたらとテンションが高いベポが、ペンギンペンギンと笑顔で呼びかける。

    「楽しみだね、おれずっとこの日を待ってたんだ!」

    「いやー、長かったな。ようやくって感じだ」

    一体何のことだろうかと思案する。年に一度、船長の誕生日に似たはしゃぎ方だがそれにしてはどこかこざっぱりした、けれど感慨深い話し方だ。とりあえず話を合わせておくべきだろうと数歩近寄ってみせる。逃走経路は確保し、皆と並んで座ることはしないまま。

    「ああ…おまえずっと楽しみにしてたもんな」

    「うん! 兄ちゃん、帰ってきてるといいなあ。それにおれ、もうゾウのことあんまり覚えてないから楽しみだ!」

    「ゾウ!!?」

    思わず声が飛び出した。ゾウは襲撃を受け、麦わらの一味に助けられつつ窮地を脱して既に出航した場所だ。今更どうしてその名前が、と驚きを隠せない。

    「? そうだよ、どうしたのペンギン。おれの故郷だよ?」

    「つ、つまり今ここに船長は居ないのか!? また船長は一人でパンクハザードに!?」

    捕えられている可能性を考えて尋ねるのを控えていたが、この状況が過去を模しているのならここにローは居ない。それとも"そう"と見せかけて監禁でもしているのか。様子をうかがう計画をかなぐり捨てて、疑問が口をついて出る。
    しかしペンギンの言葉は、一拍の間を置いたのち、食堂に爆笑の渦を巻き起こした。

    「あっははは、なに、ペンギン寝惚けてるの!?」

    「ははははは! ははっははは!」

    「今もうそのギャグ流行ってねーんだよ、いつのだよ!!」

    ちらほらと食堂に居たイッカクやジャンバール、クリオネ達もげらげらと笑う。その異様さにペンギンは一歩、後退った。

  • 83◆Pxx1Kifjy223/08/29(灍) 10:52:16

    「なんで…どういう……!」

    「いやー、懐かしいなそれ。最後いつだっけ、置き去り事件」

    「置き去り!? 船長をか!?」

    「あの頃、ほぼ毎回のようにしてたじゃんおれら」

    「毎回のように!?!?」

    ペンギンの驚愕に、シャチがくつくつと笑いながら珈琲を持ってくる。

    「そんでもう、いっそ乗ってても乗ってなくても『船長を置き去りにしてきたー!』て出航後に騒ぐのがお決まりになってたよな~……あれもう何年前だ?」

    「えー、でも最近も無かったっけ? ドジって海軍の船に乗ってたの」

    「あったあった。ある意味芸術的だよなあ…そろそろとっ捕まらねーかヒヤヒヤするぜ」

    「あっははは、言えてる!」

    知らない話が次々と展開されてゆくと同時に、ドッと広がる笑い声。
    自分たちが船長を置き去りにしたり、捕まるかもしれないと笑い話にしたり、あり得ない仲間の様子に背筋が凍ってゆく。

    ―誰だ、こいつらは誰の話をしている。

    「……じゃあ…じゃあ、船長は、ローはいま、部屋にいるんだな?」

    たとえ偽物でもいい。手掛かりを求めて尋ねれば、途端、その場に居た全員の表情がすとんと無に落ちた。

    「ローって、だれ」

  • 84◆Pxx1Kifjy223/08/29(灍) 11:44:01

    「なんで……お前たち、何を言って、」


    「いやいやそれはこっちの台詞だろ」


    「誰だよローって」


    ははは、と面白みのなさそうな笑い声があちこちから上がる。反比例してペンギンの顔は引き攣っていった。


    「やめろ……冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ……! トラファルガー・ロー!! おれたちの大事な船長だろうが!!」


    思わず声を張り上げるが、胡乱な視線と声が返ってくるだけだった。


    「……なァ、お前マジで寝惚けてんじゃねーの?」


    「そうだよ、昨日も見張り長かったし疲れてるんじゃない?」


    「ペンギンってたまに変な夢みるよねー」


    口々に告げられ、迫られ、ペンギンはまた一歩後退る。


    「(違う、此処は、違う。自分はワノ国を出て、見張りが終わったあとに妙な現象に巻き込まれて。そうだ、それで船長が風呂場で…、いや違う、あれは幻で。ローは今も生きてて……本当に? 本当に船長は生きていた? あんなに血が流れて、いや、大丈夫。だからいまこうしておれが……おれが……おれは、夢を?)」


    縷々と溢れ流れる考えはペンギンの脳内を掻き回す。

    どこからどこまでが本当で、嘘で、幻で、本物か。境界線が曖昧になってゆくのを感じていた。



    ペンギンSAN値チェック

    dice1d3=3 (3)

  • 85二次元好きの匿名さん23/08/29(灍) 12:15:25

    キャプテン関係マジで削れるなぁ

  • 86二次元好きの匿名さん23/08/29(灍) 13:05:43

    順調に削れるなぁ
    もしかして此処ではコラさんが船長になってる?

  • 87二次元好きの匿名さん23/08/29(灍) 13:55:24

    この世界ではコラさんが船長かつ海軍で、仲間には内緒で海兵としての活動をしてる?
    だからしょっちゅう離れたり海軍の船に乗ってるところを目撃されたりしてる?

  • 88◆Pxx1Kifjy223/08/29(灍) 19:15:13

    (ペンギン SAN値44-3=41)(発狂・恐慌状態まであと21)

    皆が不審な目をペンギンに向けるなか、食堂の扉が重く開く。

    「なんだァ? 何か騒がしくねェか?」

    聞いたことのない声に、ペンギンは息を呑む。

    「あっ船長」

    「よしちゃんと乗ってた」

    「乗ってるつーの!」

    はははと笑いが漏れ、皆の視線が出入り口へ向くのと同時にゆっくりと振り返れば、そこには見たことのない大男が扉を潜って食堂に入ってきていた。3m近い巨体に、特徴的な道化の化粧。ハート柄の散りばめられたシャツを着ている、派手な容姿の――見たことのない、男だった。
    ひゅ、とペンギンの喉が鳴る。脳内が警報音を認識したと同時に地を蹴り、その巨体へ蹴りを入れていた。

    「お前が!!! 船長を!!!」

    当然のように容易く足首を掴む大男は、そのままぶんと壁へ投げ返そうとする。直前に体を折り曲げ、襟首を掴んで顔面へ拳を入れようとしたペンギンだったがその激情は、もう片方の手で受け止められた。

    「びっ…くりした~! なんだよペンギン、急に! どした!?」

    「それが、なんか今日こいつ変なんすよ」

    「ロー?が居ないとかなんとか…」

    戸惑うようすの大男とペンギンの気迫に息を潜めるクルー達。だが、ペンギンはそんな周囲に構ってはいられなかった。

    「お前なんか知らない…つまりお前がこの騒ぎの、この幻の元凶だろう!! 船長は、おれ達のローはどこにやった!! おれ達から船長を奪うなんて夢でも胸糞悪ィ!!! そこは、ローの居場所だ!!!」

  • 89◆Pxx1Kifjy223/08/29(灍) 19:15:38

    尚も攻撃を繰り出すペンギンに、大男は周囲への被害を警戒しながら子供の癇癪をあやすようにいなしてゆく。

    「おいおい、何の話だ! ちょっとは落ち着け!!」

    放り投げられ、食堂のテーブルに着地するペンギンは呼吸を荒くして大男を睨め付ける。

    「急に訳分かんねェことを……お前おかしいぞ!?」

    「おかしいのはこの状況だ!! お前たちも、船長だとかいうこの男も、この場所も!! 何もかも!!!」

    ペンギンの激昂とは対照的な温度差で、大男は顎へ手を当てて考える。

    「いいや、おれ達からしたらおかしいのはお前さ、ペンギン。……もしかして、操られてたり、妙な幻覚見させられたりしてねェか? どんな勘違いをしていやがる。落ち着いて言ってみろ」

    ―場合によっちゃあ敵が取り憑いた、或いは離反だと捉えるぜ。

    大男の凄みに、シャチがペンギンの名を小さく呼んだ。心配、不安、疑念、さまざまな視線がペンギンへと集まってゆく。まるでこの空間を乱す異物だと言わんばかりである。
    なまじ相手が理性的であるが故に、ペンギンは自身の足場がぐらりと揺れるのを感じていた。

    「……違う。違うだろう。此処はなにもかもが、違う。夢、幻覚、……おれはさっきまで船長、ローを探して暗闇のなかを歩いてたんだ。おれ達の船長はローだけなのに、お前が!!」

    「だからローって誰だよ」

    「やっぱ催眠か何かにかけられてんじゃねーの…?」

    シャチやウニの訝しむ呟きは、ペンギンの心を苛んでゆく。
    どうして、おかしいのはこいつらの方だと思えば思うほど自身が異分子となっていた。

    「―あァ、なるほど。分かった分かった」

  • 90◆Pxx1Kifjy223/08/29(灍) 19:16:40

    大男がぽんと手を打った。

    「つまり、ペンギン……いや、"お前"は、ココが夢のなか…あるいは幻とでも言うんだな?」

    見定めるように、しかし笑顔で気安く近付いてくる大男に、ペンギンは再び戦闘態勢を取る。

    「そうだ、そして"船長"に成り代わってるお前が、一番怪しいんだよッ!!!」

    間合いを一歩踏み越えてきた大男へ殴り掛かるペンギンだったが、その何倍もの速度で避け、逆にペンギンの腕を取りテーブルの上へ叩きつける。激しい衝撃音と食器の派手な金属音があたりに散らばった。
    大男はペンギンを押さえつけ馬乗りになる。

    「"お前"の言い分はよーく分かったぜ」

    先ほどまで心配そうにペンギンを伺っていた笑顔が、すとんと消え落ちた。
    後に残るは、殺意のみ。


    「そんなに言うなら、"お前"の"現実"を見せてやる」


    「――ッ!!」
    鋭く、低く、鈍い音が響く。
    がら空きとなっている腹へ強烈な一撃を入れられたペンギンは、急速に暗転する世界へ身を任せることしか出来なかった。

  • 91二次元好きの匿名さん23/08/29(灍) 21:41:57

    いい感じに面白くなってきたな続きが気になる

  • 92二次元好きの匿名さん23/08/29(灍) 22:01:50

    容赦ないコラさん(偽)滅茶苦茶怖いな!!

  • 93二次元好きの匿名さん23/08/29(灍) 22:03:10

    コラさん怖いよぉ!

  • 94二次元好きの匿名さん23/08/29(灍) 22:56:51

    最初の方で偽コラさん出てきたの思い出してゾワッとした…

  • 95二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 00:01:58

    これはドフラミンゴの弟

  • 96二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 07:15:18

    続きが楽しみ

  • 97二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 07:40:28

    ワクワク

  • 98二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 13:10:16

    殺意マシマシコラソン船長、美味い…食べた事の無い味がする…

  • 99二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 20:22:51

    食べた事無い味で笑ってしまった 愉悦愉悦

  • 100◆Pxx1Kifjy223/08/30(ć°´) 21:14:00

    食っとるわろた

    ちょっとペンギンのターン長いが我慢してくれ ボスラッシュ(?)なんだ
    もうちょい地の文を簡潔にしたいんだが毎回書きすぎるのがなー

  • 101◆Pxx1Kifjy223/08/30(ć°´) 21:14:24

    ざばっという水が地面を打つ音、そしてその刺すような冷たさにペンギンは跳ね起きた。

    「おいペンギン!! いつまで寝てやがる、この役立たずが!!」

    次いで降ってくる酒焼けした壮年の男の怒鳴り声。意識のはっきりしない頭で周囲を見渡せば、荒れ果てた納屋か何かのようだった。座下には不衛生な襤褸切れが寄せられていて、まるで粗末な鳥の巣だ。

    「起きたんならさっさと稼ぎに行け! 分かってんだろうな、今月分の家賃10万ベリーの期限は今日なんだぞ!!」

    稼ぎ、家賃、期限。
    朦朧とする頭でぼんやりと言葉を飲み込もうとするペンギンを他所に、男は唾を吐いて出て行った。

    ―此処は、何だ。

    ペンギンは改めて周囲の状況を把握しようと立ち上がるが、途端足に力が入らずふらついた。慌てて壁へしがみつく。薄暗く饐えた臭いの、狭い納屋。廃材や布でなんとか確保された寝床。そしてこの、身体の芯から凍えさせるような冷気。

    あまりにいう事をきかない身体を見下ろせば、貧相で小汚い薄布に身を包んだ痩せぎすの肉体がそこにあった。着慣れたツナギはどこにもなく、鍛えた身体はまるで別物だ。
    そして気付く。

    「(右腕が……ない)」

    昔ローに能力で治してもらったはずの腕が途切れたまま、喪失を主張している。

    「どういう、ことだ……」

    出した声は掠れていた。腹は空腹と腹痛を同時に訴え、残った手と足はろくに力が入らず立っているのがやっとの状況。貧血、栄養失調、骨折後の歪な癒着、肺炎を起こしかけているのか、時折漏れる妙な咳。

  • 102◆Pxx1Kifjy223/08/30(ć°´) 21:14:38

    まさか、という思いと違う、という思いがせめぎ合う。だが先ほどの男は明確にこちらを"ペンギン"と呼んでいた。うまく回らない頭で考えながらも状況を把握できず立ち竦んでいると、再び扉が勢いよく開く。先ほどの男が蹴破ったらしくズカズカと入り込んでくる。

    「オイ、まだ居やがんのか!」

    「こ、ここは……」

    「あ"? まだ寝惚けてやがんのか、クソ野郎!! 起きやがれ!!」

    男は小屋へ入るなり、ペンギンの頭を鷲掴みにして壁へ打ち付ける。二度、三度。普段のペンギンならば簡単に躱して腕を捻り上げ地に叩き伏せることができる愚鈍な動き。だが、どういう訳か抵抗の力が入らない。

    「ガキの頃から面倒見てやってるってのに、恩を仇で返しやがって! 金だ、何でもいいから金を持ってこい!!」

    その台詞に、ペンギンは頭が真っ白になる。
    幼い頃に死んだ両親。己を引き取った叔父。暴力と犯罪の強要。生きる意味が分からなかった"あの頃"の延長線が、"此処"にあった。

    「ぅ、そだ……」

    意識が朦朧とするなかで呟いた言葉は壮年の男、叔父には届かなかった。

    「しゃ、シャチ……は、」

    声をあげると叔父はペンギンの腹を蹴り上げ、倒れた身体を勢いよく踏みつける。もう吐けるだけの息は残っておらず、ペンギンの意識は酸欠で霞んでゆく。

    「あ"? シャチ? 昔爆発で死んだ餓鬼がそんな名前だったか。それが何だってんだ、いいから早く金を持ってこい!! 次おれが来たときまだ居やがったら首のモン爆破するからな!!!」

  • 103◆Pxx1Kifjy223/08/30(ć°´) 21:15:10

    倒れた身体へ唾を吐きつけ、男は足音を響かせ出て行った。嵐が過ぎ、ペンギンはようやく短い息を繰り返す。

    「これは……なんだ……? おれは、夢をみているのか……?」

    途端、脳裏に過ぎるのはこれまでの生活の記憶だった。

    それは、艦内ではなく"この街で生き抜いてきた日常"。

    窃盗、暴力、殺人、指示されたことは何でもやった。男を楽しませるために、薬も女も言われるがままだった。その方が、早く事態が過ぎるからだ。大人になればと思っていた反抗心は、爆薬付の首輪で根こそぎ奪われた。シャチが死んだのち放心状態だった自分に着けられた、幼い頃からの足枷。
    昨日、一昨日、一週間前。思い出せる現実感のある"日常"はこの町での屈辱と虚無と痛みしかない。

    生き抜くことに必死だった。

    その先には、何もないのに。

    「(違う…ちがう、おれはハートの海賊団で、)」

    しかし艦内での生活は思い出そうとすればするほどするすると消えてゆく。確かにそこにあったはずの感覚や記憶のすべてが、昨日見た夢のようだった。

    「(……シャチ、ベポ、……ロー……)」

    消えないでくれと記憶を、そして名前を繋ぎとめようとしたそのとき、ふと倒れ伏した目線の先にあるくしゃくしゃに汚れた新聞が目につき息を呑む。そこには会いたいと願ってやまない、トラファルガー・ローの顔が大きく印刷されていた。
    縋る気持ちで残った力を振り絞って左手を伸ばし、そのくしゃくしゃに汚れた新聞を手繰り寄せる。

  • 104◆Pxx1Kifjy223/08/30(ć°´) 21:15:23

    難しい単語が読めなくなっている。しかし、大きな写真と単語だけでペンギンが内容を理解するのには充分だった。


    「(一匹狼、七武海、トラファルガー・ロー……麦わら…海賊……同盟、)」


    それを認識した瞬間、ペンギンは心に残っていた微かな希望がきしきしと音を立て、崩れ落ちていくのを感じていた。



    ―現実が辛すぎて、夢を見ていた。


    ―海賊になり、たくさんのことを学び、いくつもの敵船を沈め、皆で笑い合い、生活してきたものすべてが。



    「ゆめ……おれは、ずっと、冒険している、夢を……」


    シャチは死に、

    ベポや皆と出会わず、

    暗く鋭い表情を落とす写真のなかの船長とは言葉を交わすこともなく。


    死にゆくだけの、人生。




    なにもかもに手が届かない"現実"だけが、"此処"にある。





    ペンギンSAN値チェック

    dice1d10=8 (8)

  • 105二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 21:23:00

    うわきっつ…

  • 106二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 21:24:45

    ちょっと遊びすぎた

  • 107二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 21:42:14

    ゴリゴリに削れていくぅ…

  • 108二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 21:43:22

    納得のほぼ最大値
    これはつらい…

  • 109二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 21:45:02

    なまじ最初の頃硬かったばかりにペン虐すさまじいな(最高ですありがとう)

  • 110◆Pxx1Kifjy223/08/30(ć°´) 21:54:10

    (ペンギン SAN値41-8=33)(発狂・恐慌状態まであと13)

    「あ、うあ、あ、ああああああ"あ"あ"あ"っ!!!」

    掠れた慟哭が響き渡り、身体中の水分が抜けるように涙となって落ちてゆく。もはや身体は熱いのか寒いのかすら分からない。何もかもが受け入れがたく、残った左手で頭を掻き毟りその場にのたうち回る。

    今ここで、死んでもいい。
    こんな人生には何の意味もない。
    喚き、叫び、そうしてそれを聞きつけた叔父が来て、爆弾のスイッチを押せばいい。

    「殺せ!! おれを、殺せよッ……!!!」

    ハートの海賊団として生きられないなら、終わらせろ。

    ここには、誰も、何もない。


    「はやく……、おれをッ……!」








    「―――ペンギン!!!」

    突如、耳元へ響いた大声にペンギンの体がびくりと跳ねた。
    闇で覆われている視界。力強く揺さぶられる身体。耳に馴染む"声"。追いつかない情報にゆるゆると視線を動かせば、そこには必死な形相でペンギンの肩を掴むトラファルガー・ローの姿があった。

  • 111◆Pxx1Kifjy223/08/30(ć°´) 21:54:43

    スレ民がドン引いててこっちはこっちで愉悦

    ありがとな!また明日!

  • 112二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 22:02:46

    シャチ叔父のもとで奴隷継続してるだけでなく右腕失ってシャチに至っては亡くなってるとか
    スレ民が提案した怪異現象よりはるかに悪化してて鬼畜っぷりに笑った

  • 113二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 22:39:05

    このローは本物なのか

  • 114二次元好きの匿名さん23/08/30(ć°´) 23:05:48

    スレ主おつ!!
    続きが怖楽しみだ!

  • 115二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 06:47:32

    面白い!
    続き楽しみ!!!

  • 116二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 09:38:39

    ローが本物なら熱いし、偽者ならまたも鬼畜で面白い

  • 117二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 09:45:26

    吹っ切れたので偽物だといいな

  • 118◆Pxx1Kifjy223/08/31(㜍) 12:08:46

    (side シャチ)(SAN値49/発狂・恐慌状態まであと24)
    ※廊下で無限回廊&キャプテン刺殺する幻覚に遭遇済


    「(そういえば、おれの身体いつ元に戻んだろ)」

    シャチは食堂へ走りながら自身の身体を見下ろした。自分には自分の姿が見えているが、他人からは見えない触れないという不思議な感覚。"あの子供"はペンギンを精神世界へ案内したら戻ってくると言っていたが、そろそろだろうかと考える。

    「(まあ、モノには触れるから塩とか酒とかは問題ねェけど)」

    食堂に明かりは付いていなかった。ペンギンと入ったときに奇襲を受けたことを思い出し、一瞬入室を躊躇う。とはいえ目的の物があるのだから、それさえ手に入れば襲われても逃げきれば良いはずだ。
    そっと扉を開けて中の様子を伺うと、整然としている普段の深夜の食堂だった。散らばっている、或いは扉に突き刺さっているはずのカトラリーをはじめ調理器具などは一切見当たらない。まるで幻だったかのように消えてしまっている。

    「誰かが掃除した……わけねぇよなあ」

    あのとき必死で応戦していたシャチには、手や足に当たる金属の感触や頬を霞めたナイフによる出血などが残っている。幻覚とは思い難かったが、こうして攻撃の跡形もない部屋を目にすると自信が無くなってきてしまう。

    「ま、いーや。塩と酒、塩と酒…っと」

    考えていても仕方がないなと首を振る。念のため入口が閉まらないようストッパーでロックをかけて、キッチンへと向かった。
    結局警戒するようなことは何もなく、難なく辿り着いて手慣れた流れで塩壺と酒の瓶を手に取った。ワノ国で仕入れた米の酒だ。数や種類は少ないがグランドラインの一般的な島でも流通しており、初めて皆で飲んだ時にローが「飲みやすいから開けすぎるなよ。体質的に合わねェ奴もいるだろうから無理せず氷や水で割れ」と言っていたことを思い出す。

    「……キャプテン、」

    こんなことで失ってたまるか、と緑の瓶を握りしめたその時だった。食堂の入り口から声が聞こえたのは。

    「あれっ、誰よドア開けっ放しなの…ったくもう」

    野郎ばかりのポーラータング号において間違えるはずもない唯一の高い声。イッカクだ。

  • 119◆Pxx1Kifjy223/08/31(㜍) 12:09:09

    面倒臭いことになった、とシャチは思わず息を呑む。
    大方なにか飲み物を取りに来たというところだろう。室内灯は付けないらしく、そのままキッチンへ向かってくる足音に慌ててしゃがみ込む。とにかく酒瓶と塩壺がイッカクの視界に入らないように此処を出ればいい、と気を取り直した。
    もし偽物だったら応戦せざるを得ないが、本物だとしてもこの透明な身体でエンカウントしないに越したことはない。姿は見えないというのに、面倒事になる未来は見えてしまっている。

    「ふぁあ……カモミールってまだあったかな~」

    欠伸交じりに戸棚を漁るイッカクの後ろを慎重に通り過ぎて小さく息ついた、その時だった。
    ちょうどキッチンの入り口、イッカクのいる場所から死角となっているところに"あの子供"が立っている。無事にペンギンを送ってきたらしいその姿に気持ちが上向いた。

    「お、戻ってきたのか!……って、ちょっと待てよ、今はやめろあそこに」

    イッカクが、と言おうとしたが遅かった。
    "子供"は悪戯を思いついたようなにまにまと笑みを湛えた顔で歩み寄り、一歩二歩後退りするシャチにポンと手を触れる。同時に、すっと"子供"の姿が見えなくなってゆく。


    『これでもう、だいじょうぶ』


    「わざとだろお前!!!」

    微かに空気が震える"音"が聞こえた気がして、シャチは"そこに居るであろう空間"に向かって叫ぶ。
    瞬間、ガランと金属のマグカップが落ちる音がした。咄嗟に振り返れば、目を見開いたイッカクが震えなながら身を竦ませている。

    「キャ―――ッ!!?」

    「あ"――――ッ!!!」

    傍迷惑な深夜の二重奏が食堂に響く。
    一人だと思っていたら急に仲間が現れたイッカクの驚愕は推して知るべし。そして気遣いのすべてが台無しになったシャチのヤケクソな叫びもまた、さもありなんというものだった。

  • 120二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 13:34:44

    突然のギャグパートww

  • 121二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 14:01:01

    悪戯好きのクラちゃん草
    そりゃずっとポータータングにいたんだもんな
    悪戯したくもなる

  • 122二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 14:43:52

    シャチがこういう弄りされるの分かる

  • 123◆Pxx1Kifjy223/08/31(㜍) 21:13:46

    「あんた今どっから湧いたのよ!?」

    「えっ、あ、いやその」

    双方、ばくばくと鳴る心臓を落ち着かせながらイッカクが非難する。しかしシャチとしては馬鹿正直に「ちょっとワケあって透明になってて」など言えるはずもない。かといって良い言い訳も思いつかず口籠っていると、イッカクは胡乱な目でシャチを訝しむ。

    「しかもなんか、誰かと喋ってなかった? まだ誰か居るの? ペンギン??」

    「いや、ちょっとな、ハハハ……」

    口を割りそうにないようすにイッカクは追及を諦め呆れた溜息を吐く。茶葉を用意している途中だったらしく、私物のホーロー製ポットを置いたコンロに火をつけた。

    「どうせワノ国のニンジャのジョークグッズか何かでしょ。次やったらキャプテンに言いつけるからね!」

    「まァそんなとこ…もうやらねぇって」

    どうやら都合よく解釈してくれたようで、シャチは心のなかでガッツポーズをしつつ表面上は反省の意を示す。

    「今日見張りだったんじゃないの? さっさと寝れば? それとも何か飲む??」

    普段と変わりない会話や反応、そしてさり気ない気遣いに肩の力を抜きそうになるが、このイッカクは敵の可能性もあることを今更ながら思い出す。そうでなくとも怪奇現象に巻き込む恐れがあるのだから、下手に刺激せず退散したほうが良いだろう。

    「いんや、ちょっと塩と酒取りに来ただけ。なんか良いメニュー閃きそうだから味みたくてさ」

    「ああ、ワノ国の料理独特で美味しかったよね。再現期待してるから!」

    驚き、怒り、心配、そして笑顔。くるくると表情を変えるイッカクに敵の影は見当たらない。シャチは任せとけ、と塩壺と酒を持つ手を軽く上げて踵を返そうとした。
    が、背後から襟首を掴まれシャチの喉がぐえと鳴る。

  • 124◆Pxx1Kifjy223/08/31(㜍) 21:14:13

    慌てて振り返れば、存外近くに表情のないイッカクの顔がありシャチは飛びのいた。
    やはりこのイッカクも怪奇現象かと身を固くする。

    「ンだよ!?」

    しかし、イッカクの視線はシャチの手――正確には塩の壺から、離れない。

    「……」

    「なんだよ……何か言えよ」

    「あんたさ…

    それ、




    砂糖だよ」


    手元に視線を落とせば、その壺は暗闇に混じって濃い色をしていてパッと見てどちらともとれる色をしていた。壺のかたちは同じだがそれぞれ塩は青色の壺、砂糖は赤色の壺に入れている。シャチは無言で、ゆっくりと常夜灯へ壺を翳す。その色は、赤い。

    「……ほんとだ♡」

    「あっはははは! マジでうけるんだけど! いまどき塩と砂糖間違える奴いる!?」

    「急いでんだよしょーがねェだろ!?」

    「明日みんなに言ってやろー! さっきビビらせてくれたお返しだ!」

  • 125◆Pxx1Kifjy223/08/31(㜍) 21:14:38

    身体をくの字に曲げて爆笑を続けるイッカクに、シャチは別の意味でここから逃げ去りたい気持ちでいっぱいだった。言い返す言葉が見つからない。料理は得意分野に入るし、調味料を間違えたことなど一度もないのにと気恥ずかしい思いでそそくさと棚を開けて砂糖と塩の壺を持ち替える。念のため蓋をあけて粒を確認する姿に、再びイッカクの笑いが飛んだ。


    「あぁもう笑いすぎだっての! じゃあな!」


    「はいはいおやすみ~」


    何はともあれ目的のものは手に入った。挨拶を交わし足早に食堂の扉を出たシャチだったが、ふと足を止める。このままイッカクを一人で部屋に戻しても大丈夫だろうかという不安が胸に募ってゆく。

    こちらも時間がないため付き添う事はできないが、せめて一言怪異についてそれとなく声をかけておくべきかと食堂へ身体を戻す。


    「イッカク、もしかしたら部屋戻るとき変なのに遭遇するかもしれねェけど、」



    しかし、そこにイッカクの姿は無い。



    出していた茶葉の缶も、


    コンロにかけていたポットも、


    用意していたマグカップも、


    何もない。




    物静かな、暗闇を湛えた深夜の食堂のままだった。



    シャチSAN値チェック

    dice1d3=1 (1)

  • 126二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 21:43:02

    怖いお話だったんですか!?!?!?!?

  • 127二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 21:56:02

    怪異と思ったら怪異じゃないと思ったら怪異だった

  • 128二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 22:14:33

    うわマジかよ他三人に対する怪異がキツすぎたから急遽ギャグ挟んだんだなと油断してたのに

  • 129二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 22:20:42

    ヒョァェァ……

  • 130二次元好きの匿名さん23/08/31(㜍) 23:03:55

    油断してたわ…

  • 131二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 07:42:25

    続き楽しみ!!

  • 132二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 08:26:11

    こんなんテンションの温度差で風邪ひくって…
    (訳:読めない展開めっちゃ楽しい!愉悦!愉悦!)

  • 133二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 09:46:57

    なんて優秀な怪異!

  • 134二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 13:11:33

    間違い指摘してくれたしクラちゃんみたいなタイプの可能性

  • 135◆Pxx1Kifjy223/09/01(金) 16:00:17

    (シャチ SAN値49-1=48)(発狂・恐慌状態まであと23)

    つい先ほどまで話していた姿が、忽然と消えている。シャチの背筋に一瞬怖気が走るも冷静だった。なにせペンギンと一緒に来た際に襲われた形跡が跡形もなく消えているのだ。きっとあの会話を交わしたイッカクも偽物だったのだろうと結論付けて踵を返し、船長室へと駆け出した。
    本物の安否が気にならない訳ではない。けれど自分たちの最優先はキャプテンの命である。それだけは間違えてはならない、とシャチは拳を握り締めた。

    「(……にしても、)」

    偽のイッカクに指摘された、塩と砂糖のことが気になった。
    あのまま放置されれば、自分は砂糖を持って行ってタイムロスやもしもの事態を引き起こしていたかもしれない。最悪、キャプテン奪還に間に合わなかった可能性もある。通路で遭遇したばかりの、心臓が止まったローの姿を思い出してシャチはぶるりと身を震わせた。

    「(もしや、あのイッカクはイイヤツだったのか…? そもそも悪い奴ならあの"子供"が何とかしてただろうしな…)」

    悪戯交じりに「交替」しに来たとき、あの子供もイッカクを本物と思い込んでいたのか、偽物だけどイイヤツだと分かっていたのか。

    あるいは偽物でも本物でも、どちらでも良かったのか。

    さまざまなパターンがあるが、これ以上はいくら考えても無駄だろう。

    "あいつら"の気まぐれだろうが何だろうが、助かったことに変わりはない。


    ―たくさんいるから。ぜんぶおなじじゃない。


    船長室で話し合ったとき、"子供"がそう言っていたことを思い出す。"たくさんいる"なら、こちらを応援するような奴が居てもおかしくないのかもしれない。しかしどうにも釈然としなかった。

    「そんなら最初っからキャプテンに手ェ出してくんじゃねェ!」

    塩と砂糖を間違えていた自分を棚に上げつつ、シャチは心のなかで中指を突き立てた。

  • 136◆Pxx1Kifjy223/09/01(金) 16:00:48

    「ベポ、戻ったぞ!!」


    勢いよく船長室の扉を開けるシャチ。

    しかしそこに出迎えの言葉も姿もない。


    「な……!? おい、ベポ!? どこ行った!?」


    慌てて広くはない室内をあちこち探すが、ベポもローも、ペンギンの姿もどこにもない。

    一瞬、イッカク同様あれもすべて幻だったのかと呼吸を止めるが、ベッドには床へ降りたらしいシーツの皺がある。そのほかは部屋を出たときと変わらず周囲に戦闘の痕はない。自主的に移動したのか、幻覚で連れ出されたか。とはいえ少ない情報で推察していても意味が無い。


    くそ、とシャチは臍を噛む。

    島に停泊中ではないのが救いだろう。艦内をくまなく探せばすぐに見つかるはずだと塩と酒を片手に再び船長室を飛び出した。




    >>137

    >>138

    シャチはどこを探す?

  • 137二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 16:04:31

    発令室でモニターチェック

  • 138二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 16:06:17

    とりあえずついでに清めとこうと変な船長見かけた風呂場に行く

  • 139二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 17:01:45

    たくさんいるから本当にゼポお兄ちゃんとかが助けに来てくれてたら感動なんだけどなぁ……(白目)

  • 140◆Pxx1Kifjy223/09/01(金) 18:27:19

    探しに行こうと扉を出た瞬間、シャチはぴたりと足を止める。

    「待てよ、おれ今はもう見えるし聞こえるんだっけ」

    "居ないもの"として扱われることに慣れつつあったが身体が元に戻っていることを思い出す。伝声管だって使えるはずだ。そして、発令室にはハクガンが居る。

    「(行くより早ェ、連絡とってみるか)」

    本日何度目かのUターンで船長室のなかの伝声管を開けた。

    「こちらシャチ、発令室にハクガン居るか?」

    『アイアイ、いるぜ! 本物か?』

    「本物だ本物! お前が入ってきた経緯も面の意味も好きな雑誌もこの前オネショしたことも全部知ってるっつの!」

    『最後はしてねェよ!! どさくさに紛れて妙な噂立てようとすんな!! ベポはどうした、合言葉決めてあるんだぜ?』

    此方を怪しむ言葉に、シャチは合流時にベポがそんなことを言っていたなと思い出す。ただし肝心の言葉は聞いていないので意味が無い。合言葉の存在を示すのならハクガンが偽物である可能性は低いうえ、下手に誤魔化すよりも正直に現状を伝えたほうが話が早そうだと口を開く。

    「その肝心のベポがいねェんだ。ちょっと色々あって意識のないキャプテンもペンギンも一緒だ。今から手あたり次第探すけどそっちからも探してほしい」

    ぐ、と言葉が飲み込む音がシャチの耳に届く。本物かどうかの判別もつかず、キャプテンやペンギンの意識がないと言われ、聞きたい事や言いたい事も多いだろう。しかしハクガンはポーラータング号の操舵手で、作るべき道を知る男だった。感情を抑え、状況は情報として捉えるに留めてみせる。

    『もしお前が偽物だったら、逆にオネショの噂をばら撒いてやっからな』

    「そのあと本物を海王類の餌にしてくれてもいいぜ」

    『……わかった。とりあえず外には引き続きソナーかけてっけど、中は全体連絡をするかだな。全員起こすか?』

  • 141◆Pxx1Kifjy223/09/01(金) 18:30:04

    その言葉にシャチは一瞬躊躇する。早く見つけたい気持ちはある。しかしこの場で子細の説明をしている時間がない以上、被害を拡大させるのはよくないだろうと首を振った。


    『いや、使ってない部屋にコレで"声"を入れて、応答があれば引き留めといてくれ。異常や怪奇現象があれば各自対処して報告な。おれは居住区を見回ってからすぐまたお前に掛け直す!』


    アイアイ、と鋭い返事に頼んだぜと伝えて蓋を閉める。

    そうしてシャチは、こういうとき自身に見聞色の覇気があったり、各部屋に映像電伝虫があったりすれば確認も容易いのになともどかしい気持ちを抱えながら部屋を後にした。




    居住区で見て回れる部屋の数は多くない。まずは船長室に近い場所からだと薬品庫や手術室、ベポの部屋を見て回るが皆の姿はどこにもない。自分のように姿そのものを消されていたら手の打ちようがなくなるな、と最悪の予感を振り払うようにして走る。

    ばたばたと資料室や図書室も見回り、シャワー室のある階に辿り着いたときだった。


    「(水の音……?)」


    微かに通路へ響く、ちゃぷ、という重たい水の音。シャワーのような細く叩きつける音ではないそれに、シャチは眉を寄せる。風呂へお湯を張る日は節約のため希望交代制で入浴するのが決まりとなっている。だからこそ深夜にこんな音が聞こえるはずはない。


    ―ベポか、またしても幻か。


    確かめない訳にはいかず、シャチは洗面場への扉を開けた。

    ちゃぷん、ちゃぷん、と音は大きくなる。やはり浴槽付のシャワー室に何か、あるいは誰かが居るのだろう。くぐもって聞き取れないが、ぼそぼそとした話し声がする。念のため洗面台へ塩と酒を避難させておき、シャチは意を決して扉を開けた。


    そして、その先に見えた光景へ絶句する。


    ひやりと冷気が漂う浴室で、意識のないペンギンが座らされている。水を張った浴槽にはローを包むように抱き締めるベポ。大きな身を縮ませて、しきりにローへ頬擦りをしながら虚ろな目で、しかし必死に言葉を紡いでいた。


    「だいじょうぶ、キャプテンもペンギンもおれがまもるからね、はなさないからね。おれもうぜったいにねむったりしないから、おれをおいていかないでキャプテン、おねがいだからここにいて、にいちゃんみたいにおいていかないで、おれもっとがんばるから、おねがいだから……」



    シャチSAN値チェック

    dice1d3=2 (2)

  • 142二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 18:32:44

    もうみんな精神ズタボロだよぉ!

  • 143二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 18:33:37

    シャチがんばれー!

  • 144二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 18:40:07

    このレスは削除されています

  • 145二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 18:41:28

    ロー夢の20台なのやばくねえか?

  • 146◆Pxx1Kifjy223/09/01(金) 18:42:29

    安価少しだけ改変させてもろたすまんな



    【現状とSAN値メモ】

    連れ戻し係:ペンギン 33(発狂・恐慌状態まであと13)

    品物係:シャチ46 (発狂・恐慌状態まであと21)

    身体守る係:ベポ 33(発狂・恐慌状態まであと23)

    連れ戻される係:ロー 29(発狂・恐慌状態中/廃人まであと29)


    お、ペンギンとベポのSAN値が仲良しだな!ヨシ!

    (>>144 表記間違えたから削除)

  • 147二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 20:07:22

    ベポごべーん!
    ゼポ怪異が謝っている

  • 148二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 20:42:38

    ワ〜〜!怖い!!
    このぺぼは本物…?ぽいよな
    続き期待

  • 149二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 22:05:54

    続き楽しみ!

  • 150二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 23:21:04

    ベポが本物っぽくてひと安心
    油断できないけど

  • 151二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:58:43

    ベポかわいいね

  • 152二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 08:59:27

    にいちゃんみたいに置いていかないで

    これローが聞いたらまた4ポイントぐらい削れちゃうんじゃあ・・・わあ素敵な地獄(怪異がなんか言ってるよ)

  • 153◆Pxx1Kifjy223/09/02(土) 12:19:15

    (side ペンギン)


    「せん、ちょう……」


    ペンギンはゆるりと目を瞬いた。納屋で叫び、絶望した名残の涙がぼろぼろと落ちてゆく。滲む視界には願ってやまない姿がはっきりと映っていた。


    「大丈夫か?」


    心配そうに差し出される声と手に反応が追い付かず、がたがたと震える身体を落ち着けるので精一杯だった。意識して呼吸を整えようとするペンギンの脳裏には納屋での絶望感がこびり付いている。


    「ほんとに……、船長、なのか」


    「おれ以外に誰がいるんだよ」


    「だ、だって、おれは、あの生活を、ちがう嫌だ、あんな生活は、シャチも、ベポも、船長もいない生活は、……たえられない……ッ!」


    「おい落ち着け、余計なことを考えるんじゃねェ」


    矢次早に言葉を紡ぐペンギンの思考を遮るロー。ゆっくりと上半身を起こして顔を突き合わせる。


    「いいか、おれの目を見てゆっくり10秒数えろ。いち……、に……、」


    言われた通り、ペンギンは目前の金色と数字数える声のみに意識を傾ける。

    夜の静寂のような柔らかな声。肩を掴む手の力強さ。帽子の下から覗く意志の強い瞳。その確かな存在感にペンギンの肩の力はゆるゆると抜けてゆく。


    風呂場で力なく血を流していた亡骸や、存在を抹消された世界。そして、自分がローに出会わなかった未来。見聞きし現実のように感じていたすべてのものが遠ざかってゆく。

    いつの間にか、呼吸の速度と数えられてゆく数字が重なっていた。十を数える頃には落ち着きを取り戻し、胸中を吹きすさんでいた嵐は穏やかなものとなっていた。


    ペンギンSAN値チェック(回復)

    dice1d3=2 (2)

  • 154二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 13:44:23

    良かった回復した...

  • 155二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 16:53:30

    本物だった

  • 156二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 17:01:17

    このローさん、擬態上手な偽物なんじゃあ・・・

  • 157二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 17:18:47

    本物だよね…そうだよねっ?!

  • 158二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 17:24:46

    >>156 回復までしてるのに擬態は流石にないと信じたいが……

  • 159二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 17:42:45

    本物か偽物かは安価にかかってる……

  • 160二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 17:52:36

    前安価のフレーバー候補に擬態上手の偽船長がいるからまだ油断出来ないんだよなあ

  • 161◆Pxx1Kifjy223/09/02(土) 21:12:45

    (ペンギン SAN値33+2=35)(発狂・恐慌状態まであと15)

    「……どうだ、落ち着いたか」

    「はい……すいません、おれ……」

    ペンギンは改めて自身の身体を見下ろした。あの襤褸切れを纏った骨と皮だけのような身体はどこにもない。しっかりと筋肉のついた、いつものツナギ姿がそこにあった。手指を翳せば、指先から指の付け根にかけてグラデーションのように消えている。この世界に来た時から始まっているその現象は、皮肉にもペンギンへ"戻ってきた"ことを訴えているようだった。

    「その指は?」

    「不思議現象のひとつだと思いますけど……って、いやほんとに船長ですか!? 偽物とかじゃなく!?」

    もう何日も会っていないような気がしてペンギンは思わずローの両頬に手を当てる。怪我はないか、本物か、あちこちを検分しようとするが、それより早く頭をバシリとはたかれた。

    「人を勝手にニセモノ呼ばわりすんじゃねェ!」

    「だ、だって……」

    頭を擦りながら女々しい声を出せば、ローはふんとひとつ鼻を鳴らして立ち上がる。もう"診察"は終わりらしい。

    「ああ、妙な幻覚ばっか見せてきやがる。……記憶や精神への干渉が得意らしいな。おれはずっとこのあたりを調べて歩いてたんだが、敵がイマイチ掴めねェ」

    「いや歩き回らんでくださいよ! おれたちずっと、ずっと船長を探してたんですよ!?」

    憮然とした表情で悪態を吐くローに、ペンギンは思わずツッコミを入れる。だいたい、この人が歩き回りさえしなければコトはもっと簡単だったのだ。心のなかのブーイングは相手に届かない。

    「おれ"たち"って……他にも居るのか? この空間はどうなってる」

  • 162◆Pxx1Kifjy223/09/02(土) 21:13:43

    再会の衝撃でおざなりになっていたが、ようやく本来の使命を思い出したペンギンは立ち上がり、事態を端的に説明する。

    此処は海域や時間が作用する"得体の知れないなにか"の縄張りであり、現実ではないこと。ローの身体が狙われているということ。シャチとベポが侵されつつある身体を清めている最中だということ。そしてペンギンがふらふらと出歩く船長を迎えに来たということ。


    「なるほどな。おれの身体が乗っ取られようとしてるってことか」


    呑み込みが早い船長で助かる、とペンギンが頷いた。しかしローの表情は晴れないまま、神妙な顔つきで何事かを考え込んでいる。


    「……ペンギン、お前を危険に晒したくねェから敢えて言う。実は、おれの記憶はいま所々抜けている」


    「記憶が……!?」


    「お前たちの事は覚えちゃいるが、いつ出会ったのか分からねえ。海賊になった理由も、家族のことも、……さっきはニセモノ呼ばわりすんなとは言ったが、今のおれには"おれ"が本物かどうかすら疑わしい」


    こちらが精神攻撃を受けている以上、船長も無傷ではすまないだろうと考えてはいた。しかしこんなにも不安定になるほど追い詰められていようとは。ペンギンは助けに来るのが遅すぎた、と己の不甲斐なさに奥歯を噛み締める。

    不安が巣食っているのだろう。ローはペンギンの視線を逃れるように帽子の鍔をぐいと下げる。そのまま闇に溶け消えてしまいそうな姿に、ペンギンは思わず手を伸ばした。


    「船長、おれは、」


    「だからペンギン、お前が決めていい」


    呼ぶ声を遮り、ローが呟いた。




    「『おれ』を連れて帰るかどうか。……お前が、決めろ」




    ペンギンはどうする?

    >>167

  • 163二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:19:59

    連れて帰る

  • 164二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:23:46

    置いて行く

  • 165二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:28:34

    途中まで一緒に行くけどニセモノかもしれないからおいていく

  • 166二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:29:21

    連れて帰る!!

  • 167二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:29:32

    連れてく

  • 168二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:31:25

    連れて帰るけど途中でフッワっと消えてしまう(ペンギンが)
    わくわく

  • 169二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:31:26

    連れて行ってほしい
    ……が、ローが決断を部下に委ねるタイプだろうか

  • 170二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:32:14

    とりあえず決める前にお互いの出会った怪異について情報共有するとか?
    特にペンギンが知らない船長について

  • 171二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:36:26

    連れて帰る
    けど体に戻れるのかな
    ぺぼ出てっちゃったし…戻れるよね?

  • 172◆Pxx1Kifjy223/09/02(土) 21:57:16

    朝までに決まればいいかと思ってたらはええ
    即断即決ペンギン

    感想考察保守等ありがとな!続きはまた明日
    皆もはよ寝ろよ おやすみ

  • 173二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 23:53:50

    ウワー乗り遅れた!
    船長連れて帰って欲しいけどローさんがあの状態からどうやって持ち直したか気になりすぎる

  • 174二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 00:04:29

    ローは自分が襲われてる怪異がいると知ったならクルーを巻き込むのを極力避けるタイプだから
    「一人で帰らせる」がローだと思う……

  • 175二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 07:25:51

    さっさと大事なことを告げる誠実さはローっぽい気がするんだよな
    それにローはどっちかと言うと頼られたり守ったりすることで逆に精神が安定する、守られるタイプっぽいから仲間が危機に陥ることであの発狂状態を抜け出したと言うのもそれっぽい

    難しい判断だわ

  • 176◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 11:39:34

    それぞれのロー観が聞けて面白いな

    誰かの見方を否定せず「自分はこうだと思う」「こういう〇〇いいよな」をぽつぽつと語れるのはスレ民が精神的に大人だからだろうな ありがたい
    思った味と違うことがあるかもしれんがのんびり愉悦を啜っていってくれ

  • 177◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 11:39:52

    幻だったとはいえその命を喪った感覚が残っているからか、ロー自ら一線引くようすに不安を感じたからか。あるいは、船長のいない世界や自分の手が届かない存在となった世界など、今宵の現象全てが焦燥感を煽ったか。ペンギンは一も二もなくローの手を取った。

    「一緒に帰るに決まってるだろうが!!」

    透明になりつつある指では、親指と手の甲を使って握るしかない。そんな弱い拘束となってしまったがローは振りほどくことなく目を見開きペンギンを見る。

    「……お前、」

    「おれはもう二度と失いたくない! あんなのは、もうごめんだ……!」

    今度はペンギンがローの台詞を遮る番だった。悲痛な叫びに、ローは沈黙で返す。

    「きっと今頃ベポとシャチがうまくやってる。おれたちは"あの部屋"に戻ればいい。それでこの、"あいつら"の縄張りだか何だかを出ておしまいだ。もう嫌だ、船長が死ぬ姿なんて、いない世界なんて耐えられる訳ないだろう…おれたちの心臓なんだ、奪われてたまるか……ッ!」

    もはや怨嗟に近い独り言となっていた。
    ペンギンは反論は聞かないとばかりに黙り込み、素早く辺りを見回した。遠くに小さな銀色が見える。目印にと置いてきた仕込み棒だろう、忌々しい悪夢から起こされたこの場所が"景色"に手を伸ばした場所と同じで良かったと安堵する。啖呵を切っておいて帰り道が分からなくなるところだった。
    そうしてずんずんと暗闇の中を突き進む。繋いだ手は固く握りしめたまま。

    「あー……部屋ってのはあの場所のことか」

    「何か気になることでも?」

    「……妙な奴に襲われた。布を被ったような…、」

    「ああ、それは多分大丈夫です」

    「だと良いんだがな」

    「大丈夫ですって、もし何かあってもおれが守ります」

  • 178◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 11:40:10

    「さっきまでびーびー泣いてたのはどこのどいつだか」

    「あれはっ…! いろいろ限界突破したっていうか! ……いや、やめましょ思い出したくもない」

    ぽつりぽつりと会話を交わしながら歩けば、くの字に曲がった仕込み棒まで辿り着く。あとは曲げた持ち手の方向に向かってまっすぐ進むだけだろう。最後まで気を抜くなという自戒と船長が生きてここにいるという安心感が混ざり、ペンギンは小さく息を吐く。

    「また何が出るか分かりませんから。急ぎましょう、もうすぐです」

    「……ああ」

    ローの手を引く指先や手のひらの感覚はだんだんと薄くなっていた。目視はしていないが、おそらく足も消えているのだろう。指先の感覚がなく歩きにくい。しかしそんなことは今のペンギンにとって些細な事だった。あの部屋に戻れば、何もかもが元通り。ただそれだけをよすがにして歩を進める。

    闇に包まれているこの空間では歩けば歩くほど時間の感覚も方向感覚も、そして距離感も麻痺してゆく。先導して闇を征くペンギンの足は焦りに比例しだんだんと早くなっていた。
    ふと子供の頃を思い出す。むかし四人で暮らしていたときのことだ。スワロー島付近は雪が多く夜になるのも早い。日が落ちて真っ暗な道をはぐれないように、そして暖を取るために皆で手を繋いで帰路を急いだ懐かしい記憶。珀鉛を取り除いたあともよく熱を出していた小さなローの身体が冷えないよう、雪に足を取られながら早く早くと歩いていた思い出が現状とリンクする。
    一刻も早く、帰らなければ。"部屋"はまだかと繋いだ手に再度力を込め直した瞬間、不意にその"音"が耳に届いた。

    『ぺんぎん』

    それは老若男女、何の声ともつかない"音"だった。いっそ懐かしさすら感じるその"音"へ、ペンギンは顔を上げ必死に叫ぶ。

    「連れてきた!! やっと、やっとだ! これでもう大丈夫だろう!? ベポは、シャチはうまくやってるのか!? もう戻れるんだろう!?」

    「おい、」

    「大丈夫だから! 船長は黙っててください!」

    得体の知れない相手を警戒してか、ローが身を引こうとする。しかしペンギンはその手を逆にぐいと引いて離さない。
    "声"は踊るように、うたうように紡がれる。

    『おかえり、ぺんぎん。こわかったね、がんばったんだね、みつけたんだね。……あは。そう、そっか、そうなんだあ。

  • 179二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 12:08:39

    最後の方のクラちゃんなんかこわいよ!

  • 180二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 12:11:36

    これは……愉悦の悪寒

  • 181二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 12:15:59

    最後不穏すぎて怖い
    その音本当にクラちゃんですか?

  • 182二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 12:28:20

    ペンギン頑張れ
    たとえ罠だったとしても意地見せろ
    海賊歴10年の古株だろ

  • 183二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 16:35:56

    凄惨な体験(?)をした直後だから仕方ないといえばそうなんだが
    ペンギンの妄信っぷりがなんだかあやうい、怖い

    ローの真偽に誘導しといて実はペンギンが…なんてことを想像してしまった(数値付きでそれはないか)

  • 184二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 19:57:51

    ローが無事に体に帰れる確率 dice1d100=20 (20)


    ほしゅ

  • 185二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 20:17:23

    思いっきり怪異の思惑通り進んでる……

  • 186◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 21:02:57

    ホーキンスが保守しにきててわろた

  • 187◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 21:04:40

    ぐんと引っ張られる感覚へ身を任せるようにしてペンギンは跳ね起きた。ばくばくと鼓動を打つ心臓と、若干冷えた末端に血が通ってゆく。慌てて周囲を見渡せば、船長室だった。意識を失ったときと同じくベッドへ凭れていた身体を慌てて捻る。

    「船長は!!?」

    「おわビックリしたあ!!」

    「ペンギン、起きたんだね!?」

    突如這うようにベッドへ乗り上げたペンギンに驚いたのは、すぐそばに立っているシャチと、ベッドの上でローを抱えているベポだ。なぜか二人、否、ローを含めると三人ともがぐっしょりと水に濡れている。
    しかしそこに言及する余裕はないと言わんばかりに、ペンギンは痺れが残る腕をローに向けて伸ばす。

    「落ち着けよペンギン、大丈夫だ! キャプテンの身体暖かくなってきてるから! きっとそのうち目を」

    醒ますさ、というシャチの言葉はローの小さな身動ぎによって飲み込まれた。途端に皆が息を詰めてローの顔を覗き込む。目が開くのを今か今かと待ち続ける時間は永遠のように感じられるが、今はただ祈る事しか出来やしない。
    そして数秒か、あるいは数分か。ローの身体がびくりと引き攣った。

    「ン……、ぐ、……げほっ、」

    「キャプテン!!」

    「げほっ、げほ、っ……、ハァ、……ぁ?……此処は……おれの……部屋か?」

    幾度かの咳ののち、ゆるりと持ち上がった瞼。その奥に金色の瞳を認めて全員が胸の内を歓喜に染める。

    「う"ぁ"あ"あ"あ"ーーーーッ!! キャプテン、キャプテン、おれ心配したよおーーーっ」

    「あああもうほんとに良かった、良かったあああ~~」

    べそべそと涙を溢れさせぎゅうぎゅうと抱き着きガルチューをするベポ。安堵で立っていられなくなりへなへなと座り込むシャチ。その一方、ペンギンは半信半疑の形相で唇を戦慄かせながらローの腕を掴む。

  • 188◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 21:04:56

    「せ、船長、なのか……本当に、生きて、」

    「……ったく、揃いも揃って情けねェツラしやがって」

    全員を見回しふと漏らすシニカルな笑みは、いつものトラファルガー・ローそのものだった。ようやくペンギンにもじわじわと"戻ってきた"実感が訪れ目頭が熱くなってゆく。

    「う、うああ、よか、良かった……! 戻ってきてくれて、ほんとうに…!!!」

    居ても立っても居られず勢いに任せてペンギンがベポごとローへ抱き着けば、その上からシャチが抱き着き三人と一匹の団子が出来上がる。あまりに追い詰められたようすに、普段なら鬱陶しいと引き剝がすローも今回ばかりはされるがままだった。それどころかあやすように、労わるようにぽんぽんと肩や背を撫でている。

    「手間、かけさせたな」

    「そんなのっ……いい、んです、」

    柔らかな声、とくりとくりと動く心臓、体温、呼吸。そのひとつひとつに此処に"生"があることを感じペンギンは言葉に詰まってゆく。

    「そうだよ、キャプテンが無事に帰ってきてくれたんだ! もうそれだけでおれ、何にもいらないから!!」

    「あとでみっちり俺たちの話、聞いてもらいますからね!!」

    そう言って、シャチが鼻を啜りながら立ち上がる。

    「おれ、ハクガンに連絡します。この時間とか海域がヤベェらしくて。早く移動しちゃいましょう」

    「ああ……そうだな。とりあえず予定通りの進路で潜航だ」

    「アイアイ、キャプテン!」

    嬉しそうに敬礼ひとつ、伝声管へ駆け寄ってゆく。その後しばらくしてゆるりと艦が動き始める音と感覚があたりを包むが、誰一人としてローの傍を離れようとしなかった。

  • 189◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 21:05:32

    しばらく歓談をしていた。命を確認するように。取り戻したことを意識するように。
    ベポも、シャチも、ペンギンも、誰もが自身の身に起きたこと、見た悪夢を紡ぐことはない。過ぎたこととはいえ思い出すことすら憚られる内容だ。時折言葉に詰まり涙を堪える二人と堪えきれていない一匹に、それでもローは問い詰めることなく静かな相槌を打っていた。
    ペンギンだけは記憶の件を尋ねたかったが、ベポやシャチの泣き濡れた顔に出しかけた話題を引っ込める。歓喜で包まれたこの場でシャチとベポを再び不安にさせることはない。あとでゆっくり聞こうと大人しく口を閉ざす。

    そうしてどのくらいの時が過ぎただろうか。ふと会話が途切れた拍子に、発令室から連絡の声が飛び込んだ。

    『キャプテン、無事でよかった! ひとまずだいぶ進んだんすけど今夜でどこまで行きます?』

    ハクガンの声に、ローが顔を上げる。何事か考えるように、そして透かすように宙を見つめて、頷いた。

    「そうだな……もうそろそろ良いだろ」

    されるがままになっていたベポの腕から緩慢な動作で身体を抜き取り、床に立つ。

    「キャプテン、まだ身体、本調子じゃないんだから気を付けて」

    ベポがはらはらと追いかけるように手を伸ばすが、それより先にローは伝声管へ近付いた。
    そうして、く、と喉を引き攣らせる。

    『……ぁ"、ァ"はっ……、
       あ"は、
           ふふ、
      アハハッ! 
         ヒヒヒヒヒ! 』

    瞬時に船長室が凍り付く。壊れたオモチャのように四肢を揺らし、けたけたと笑う狂った姿。
    地獄の底に叩きつけられるような絶望感に、どっと嫌な汗が噴き出して血の気が引いてゆく。


    ――これは、誰だ。

  • 190◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 21:06:06

    「せ、んちょう……」

    ペンギンは喉が張り付き、声が出なかった。シャチも、ベポも、同様だった。ハクガンの息を呑む音が伝声管を振動させる。部屋には不気味な笑い声だけがただただ広がっていた。それだけで、三人の脳はどれだけ現実を拒否しても判断してしまう。

    "盗られた"のだと。

    「あ"は、はは、ヒヒヒッ……ナァ、ナァ! "おれ"は上手くやっタだろう!? バカみたいに真面目に記憶をトレースしときゃいい! ちょっトくらい違和感あってもそれっぽい顔して頷いておけば問題ねェ!! ああ、アイツは折角のところで呼び方を間違えタ、アイツはあっちに味方しやがった、その点"おれ"は成功シたのさ、だから此処にいる、コの身体を使ってる!! ヒヒヒヒヒッ、こんなに愉快な事はネェ!!」

    げらげらとひたすら笑い続け、口走る言葉は独り言のようで語り掛けているようでもあった。
    自分たちの船長が、どこにも居ない。

    「おい…おい、うそだろ……、キャプテンを…キャプテンをどこにやったんだよ……ッ!!」

    シャチの震えた声に、"ローの身体を使うなにか"は口元を笑みのかたちに歪めたまま振り返る。

    「ギ、ヒヒ、もう居ないさ、もう終わったさ。あノ時間と海に残してきたのさ、お前ラは!! 大事な大事な船長サンを置いてけぼりにした!! 時間は"閉じ"た!! 魂の性質がおれらとは違うんだ、今頃きっと消滅だ!!! は、はは、あははははっ!!」

    「う、うそ、だ、」

    ペンギンの振り絞る声に"それ"はこきりと首を鳴らしてズカズカと歩み寄る。その手にはいつの間にか、拒否をするように震える鬼哭が握られていた。

    「なァんだ、お前。お前が"招いてくれた"癖によく言うナァ!! いいゼェ、楽しいことがしたかったんだ、至高のショーを魅せテやる!!!!」

    すらりと鞘から伸びた刀身があてられるのは、自身の、ローの"首"。
    これ以上ないと思っていた絶望が追い討ちをかけるようにペンギンを嘲笑う。

    「やめっ……、」

    そこから先はまるでスローモーションのようだった。
    伸ばした手は間に合う事はなくローの首が刎ねられる。噴出した鮮血が、ペンギンの視界に広がった。

  • 191◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 21:06:17

    ―……ってことになっちゃうよ。ねえ、いいの? あは。ねえ、ぺんぎんは、ほんとうにそれでいい?』





    聞き覚えのある"音"がペンギンの脳を揺さぶった。



    バンッという乾いた破裂音に、鮮血で濡れた視界が閉じられる。







    気が付けばペンギンは、"それ"の手を握りしめたまま暗闇のなかで呆然と立ち尽くしていた。









    ペンギンSAN値チェック

    dice1d10=7 (7)

  • 192二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 21:10:15

    うわぁ

    うわぁ…

  • 193二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 21:11:56

    怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

  • 194二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 21:15:06

    ギリギリのところでブレーキかけてくれるスレ主(クラちゃん)ありがとう
    スレ民は泣いてる

  • 195二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 21:16:49

    愉悦愉悦最高

  • 196二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 21:26:28

    上げて落とすじゃん…スレ民の情緒ジェットコースターだよ

  • 197二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 21:42:33

    >>196

    今回はむしろ落としてからまだ大丈夫間に合うぞと上げてくれたのでは?

  • 198二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 21:49:02

    擬態上手の偽物の方だったか…

  • 199◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 21:52:25
  • 200◆Pxx1Kifjy223/09/03(日) 21:53:54

    恒例のスレ主SAN値切削チャレンジ

    dice1d100=71 (71)

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