- 1オーセンティック23/08/27(日) 11:39:18
母さんは昔からいつも口癖のように言っていた。『レースに勝つ上で一番重要なのは健康よ』と。
母さん自身が脚の故障でクラシックに出られなかったから気にしているのは分かるけど、神経質だなと思っていた。
ただ、今年ばかりはその意見に賛同せざるを得ない。今日もマスクを付け、手を洗い、うがいをする。正直慣れないマスクは外したくてたまらないが、走る時以外は我慢するしかない。明日がいよいよ本番。万が一があったら私の夢が絶たれてしまうのだから。
サンフェリペを無敗のまま勝った時、私は若干図に乗っていた。このままの勢いでサンタアニアダービーを制し、ケンタッキーダービーの栄冠を制するのだと。
ところがちょうどその翌週からレースの無観客開催が決定。そのまま開催中止になって、すったもんだの末にサンタアニアダービーは6月、ケンタッキーは9月になってしまった。
そのせいですっかり興を削がれて、トレーニングにも身が入らない日々が続いた。そのせいか、サンタアニアではサンフェリペでは勝ったあの娘に負けてしまった。
‥‥‥負け犬になることがこんなにも屈辱的なことだなんて知らなかった。そして同時に、『健康』とは身体と心の両方のことなんだと思い知った。
私は一念発起。トレーニングも感染対策も真面目にやることにした。あの娘もケンタッキーに出る。絶対に負けられない。
ハスケルインビテーショナルでギリギリ勝って自信を取り戻した私は、遂にケンタッキーダービーに挑む。
一度はお客さんを入れると聞いて喜んだけど、やっぱり無しになったらしい。ただ母さんは特別に入れて貰えるそうで、『完全武装で行くわ』と言っていた。
きっと、今回のレースは歴史に残る。
祖国が危機に陥る中で、みんなの健康のために少しでも役に立てるなら、走りがいと踊りがいがあるというものだ。
あ、もちろんセンターでね。
【その後、マスク二枚重ねの状態で興奮しすぎた母さんが過呼吸になりかけたのはまた別の話。】 - 2二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 11:41:20