(SS注意)ヴェニュスパークに届け物をする話

  • 1二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:04:10

     誰もが夢見る舞台、凱旋門賞まで残り数週間と迫っている時期。

     俺はパリで────とあるマンションの部屋の前に立っていた。

     ここまで来ておいて、本当に良いのだろうかと自問自答してしまう。
     見るからに広大な外観、洗練された内装、厳重なセキュリティ体制。
     そして、相手が相手である。
     日本の新人トレーナーでしかない、しかも男性の俺が訪ねて良い相手なのだろうか。
     やっぱ帰ろうかなと一瞬思うが、手の中にあるノートと『彼女』の言葉がそれを阻止する。

     ────必ず、手渡してくれたまえ、あの娘にも良い薬になるだろう。

     いまいち意図が掴めないものの、彼女からの頼みを放棄する度胸が俺にはない。
     何よりも、きっとこのノートの持ち主が、困ってしまうだろうから。
     大切に使い古されていて、表紙に可愛らしいフランス語の文字が書かれた、一冊のノート。
     トレーナーとして担当ウマ娘と様々な努力をしてきたからこそ、このノートに込められた熱意は痛いほどわかる。
     深呼吸を一つ、俺は意を決して部屋のインターホンを押した。
     無機質な電子音が鳴り響いて、しばらくした後に、中からドタドタと足音が聞こえて来る。
     ……って待て、カメラとか会話とかで相手を確認しないのか?
     焦りが過ぎり、心の中で右往左往としてしまうが、こちらからはどうしようもない。
     無情にもドアはガチャリと開かれて、部屋の主が姿を現した。

    「『ありがとうございます、師匠! それにしても随分と時間がかか……り……』」

     透き通るような蒼い瞳は相手を認識した瞬間、大きく見開かれる。
     栗毛の柔らかそうな髪はところどころピョンと跳ねていて、今まで寝ていたのだと理解できた。
     服装は年季の入ったTシャツ一枚と、俺でも持ってそうな飾り気のないデザインの短パン一枚。
     それでも、その姿からは愛らしさ、清楚さ、そして強さが伝わってくるのは、流石というか。

     目の前のウマ娘────ヴェニュスパークは、固まったまま俺と目を合わせていた。

  • 2二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:04:37

     話の発端は、予想外の出会いからだった。
     フォワ賞を終えた後、その日はレースの疲れを癒すためにトレーニングはお休みだった。
     担当ウマ娘は、仲間達と一緒に朝からお出かけに行っていた。

     ────たまにはトレーナー業から解放されて羽を伸ばして欲しい、とは彼女の言葉。

     大変ありがたい気遣いであり、しっかりと俺も英気を養うべきだろう。
     しかし、何もしないでいると、どうしても凱旋門賞のことばかりを考えてしまう。
     当然だろう、ただでさえ偉大な舞台なのに、今回はあの大物の参加表明もあったのだから。
     『欧州の至宝』リガントーナと『フランスのレジェンド』モンジューの、電撃参戦。
     一人でさえ恐ろしいというのに、二人同時の参戦だというのだから、衝撃は大きかった。
     休もうにもレースのことばかりが頭を過ぎり、気づけばレース研究をしようと身体が動いている。
     これではいけないと街へと散策に出たものの、どうにも気分が落ち着かない。
     ……やっぱり、戻って対策を考えた方が建設的かな。
     そう思い、踵を返そうとした、その時だった。

    「────君は確かプロジェクトL’Arcに参加しているトレーナーだったかな?」

     背後から、まるで突き抜けるように凛とした声。
     反射的に振り返れば、そこには一人のウマ娘の姿があった。
     サングラスや深めの帽子などで素性を隠しているようだが────何故か、一目でわかった。
     その高貴な立ち振る舞い、そして何よりも服装程度では隠しきれない圧倒的なオーラ。
     気づけば、俺はその相手の名前を口から零してしまっていた。

    「モッ、モンジュー……?」
    「……おや、ご存知だったかな。君とは面識はなかったはずだけれど」

     そこにいたのはフランスのレジェンド、モンジューその人であった。

  • 3二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:04:58

    「驚かせてしまってすまなかった。たまたま見かけたものだから」
    「えっと、俺のことを知っているんですか?」
    「ああ、フォワ賞は私も見ていたからね。それに、あの娘が君のことを話していたから」
    「……あの娘?」
    「君が直接、いやデジタル上で話したことがあるヴェニュスパークは、私の弟子のようなものでね」

     その名前を口にした瞬間、モンジューの表情がほんの少しだけ緩んだ気がした。
     ────ヴェニュスパーク、その名前は頭に刻み付けられていた。
     去年の凱旋門賞、そして4月の代表交流戦で競い合った、フランスのウマ娘。
     その立ち姿はまるで聖女のような、さりとてその走る姿は戦女神のような。
     トレーナーとしてみれば敵に当たる人物だが、思わず見惚れてしまったのを覚えている。

    「彼女が嬉しそうに話していたよ、君からは一際の『愛』を感じた、と」
    「あっ、あい?」
    「彼女にとって、最上級の褒め言葉だと思ってくれて構わないさ」
    「そう、なんですか」

     ……ヴェニュスパークから褒められた、という事実は正直かなり嬉しかった。
     さすがにあまり態度に出すのもアレなので、一応あまり気にしてない風を装ってはおくけれど。
     やがて、モンジューは少しだけ興味深そうに顎に手を当てた。

    「ところで、君は何をしていたのかな? 何か、物思いに耽っているようだったけれど」
    「本当は、気分転換に散策をしていたんですが」
    「……失礼ながら、あまりそういう雰囲気には見えなかった」
    「そうですね────凱旋門賞のこと、凱旋門賞にどうやって勝つかばかり考えてました」

     俺の言葉にモンジューは一瞬だけ固まって、やがて少し俯いて、肩を震わせた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:05:30

    「フフフッ、流石だな、私を前にして『私達』に勝つことではなく、『レース』に勝つことを考えていたと」
    「えっ、あっ、いや、それは」
    「いや、君は正しい、私もリガントーナも、ヴェニュスパークも君のウマ娘も、参加者の一人にしか過ぎないのだから」
    「…………そうですね、そうだからこそ、歴史に、記憶に刻まれるレースになる」
    「……なるほど、あの娘が君を気に入った理由を、理解できた気がするよ」

     モンジューは深く納得したように、そして満足したように頷いた。
     正直生きた心地がしなかったが、言葉そのものは驚くほどすらすらと出て来た……まあ、二度とは御免だけれど。
     そして彼女はふと何かを思いついたように、両手を軽く合わせた。

    「ところで、散策中ということは今日は自由の身ということで間違いないだろうか?」
    「まあ、それはそうですね」
    「それならば一つ頼み事をしても良いだろうか、サンドリヨンにガラスの靴を届けて欲しくてね」

     そう言うとモンジューは一冊のノートを取り出した。
     あまり彼女のイメージには合わない、古ぼけた、その辺で買えそうな普通のノート。
     口ぶりからして別の誰かのものなのだろう、そして、その相手はなんとなく予想が出来た。

    「……もしかしてヴェニュスパークですか?」
    「世界広しといえども、私を配達員に使うのはあの娘くらいだろうな」
    「あっ、あはは、ちょっと意外ですね」

     他人に自分の落とし物を持ってこさせるようなタイプには見えなかったが。
     そんな俺の感想に、モンジューは実に楽しそうな笑顔を浮かべて、言葉を紡いだ。

    「その途中だったのだが、急用を思い出してね。場所も教えるから、是非にお願いしたい」
    「…………良いんですか、色々と問題があるような気がしますが」
    「人を見る目には自信があってね、あの娘が気に入り、君の担当が慕う人物が、何かするとは思えないな」
    「それは、まあ当然、悪いようにはしませんけど」
    「ああ、ただ万が一、あの娘に何かがあった場合だが」

  • 5二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:05:55

     そう言ってモンジューは俺の肩を軽く掴んで、少しだけ力を加えた。
     そして、瞳から暖かさが消え去って、突き刺すような冷気がその場を支配する。
     押しつぶされるような空気の中、彼女は静かに、ただ一言、無感情に呟いた。

    「生きて母国の地を踏めると思うなよ────なんてね、冗談さ」

     腰が抜けそうになるのを何とか耐える俺を尻目に、モンジューは表情を崩した。
     本場のフレンチジョークって凄いなあ、全然笑えない、足がまだちょっと震えてる。
     流石にやり過ぎたと気づいたのか、彼女も少しバツの悪そうな表情を浮かべていた。
     …………何とも言えない空気と静寂が流れる。
     その状況を打破するべく、俺は引き吊った表情で、手を差し出した。

    「……えーっと、わかりました、その依頼、謹んでお引き受けします」
    「ああ、すまない、助かるよ……本当に、すまない」
    「これをヴェニュスパークに届ければ良いんですね?」
    「必ず、手渡してくれたまえ、あの娘にも良い薬になるだろうから」

     謎の追加注文と共に、俺はノートを受け取った。
     そしてモンジューは神妙な表情で俺を射抜くように見つめて、口を開く。

    「言い忘れていたな……フォワ賞おめでとう、素晴らしいレースだった」
    「ありがとうございます、あの娘もきっと喜びます」
    「凱旋門賞、楽しみにしている────歴史に残る、至高のレースにしよう」

     そう言って、モンジューは手を差し出して、俺は彼女と握手をしたのだった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:06:21

     そして、現在に至る。

     ダルダルの姿を晒したヴェニュスパークは、俺に気づいたのかみるみる顔を赤く染める。
     そしてバタン! と勢いよく扉を閉ざすと、泣き出しような声色のフランス語が聞こえて来た。
     フランス語に関しては勉強の成果もあって聞き取りだけなら出来るようになっていた。

    「『なっ、なんで貴方がここに!? それも私のノートを持って! 師匠はどうしたの!?』」
    「……その師匠、モンジューから頼まれたんだ、手渡してくれてって」
    「『うう~~っ! 師匠め~~……っ!』」
    「えっと、ノート置いて、退散した方が良いかな?」
    「…………Attendez、少しだけ時間をショモウ、します、良いですか?」

     微かに開けた扉からぴょこんと恥ずかしそうに顔を出して、ヴェニュスパークは小さな声で告げた。
     そして、十数分後、どこか自身の勝負服を思わせる色合いのワンピースに身を包んだ彼女が出て来る。
     ……どう見ても真新しくて、あまり着慣れていない感が出ているのは、気のせいだろう。

    「……ノート、ありがと、です。それとフォワ賞、Félicitations」
    「どういたしまして、それとこちらこそ、ありがとう」
    「ふふっ、こうして直接会うのは初めて、ですね? VRよりも優しそうに見える、ます」

     ヴェニュスパークは嬉しそうに、まるで天使のような微笑を浮かべる。
     あまりに近く、そして素直に向けられた言葉に恥ずかしくなって、俺は少し目を逸らしながらノートを渡す。
     すると彼女は、それを大切そうに抱きかかえた。

    「これは私のトレーニングノート、私の記録で、シショーとの思い出、なんです」
    「へえ、そんな興味深いものだったんだ」
    「……私に、興味シンシン、してますか?」
    「いやいやいやいや!?」
    「ふふっ、ジョーダンです」

  • 7二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:06:48

     くすくすと、意地悪な表情をヴェニュスパークは見せて来る。
     師弟共々心臓に悪いフレンチジョークをかましてくるのは止めて欲しい。
     ……さてと、とりあえずミッションはコンプリート。
     マンションの玄関先で話しているのは迷惑になりそうだし、そろそろ帰った方が良いだろう。

    「それじゃあ俺はもう行くよ、今度は凱旋門賞で」
    「いえ、オモテナシもせずに帰すのは淑女がナオレ、部屋に────」

     そう言った途端、ヴェニュスパークは何を思い出したように固まった。
     冷や汗を流し、泳ぎまくっている目から察するに、部屋の状況がまあアレなのだろう。
     ……モンジューが良い薬になる、と言った理由がわかってきた。
     やがて、彼女は妙案を思いついたように両手をパンと合わせる、割と仕草が似てるなこの師弟。

    「déjeuner、まだですよね? 近くにオススメあります、一緒に、ドウゾ?」

     尻尾をぶんぶん揺らして、きらきらと目を輝かせて、お誘いを告げるヴェニュスパーク。
     その目には断られるかもしれないなんて疑いは一切なく、ただ純粋にこちらへ向けられていた。
     無論、俺に断る術などは存在せず、彼女のお誘いに乗ることとなったのである。

  • 8二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:07:16

    「おいしい……!」
    「『知る人ぞ知る、隠れた名店なんですよ、特にクロックムッシュが絶品で!』」

     思わず率直な感想を漏らした俺に、ヴェニュスパークは嬉しそうに微笑んだ。
     余程嬉しいのか、熱の入った語り口はいつの間にかフランス語になっている。
     彼女が連れて来てくれたのは、近くにあったこじんまりとした一軒のカフェ。
     なんとなくお高いお店を好みそうなイメージがあったので、少し意外だった。
     しかし、その味覚は確か。
     分厚いハムとたっぷりのチーズが入ったホットサンドは、ストレートに美味しい。
     付け合わせのサラダ一つとっても絶品で、是非是非他のメニューも食べたくなってしまう。
     それにしても、と俺はちらりと彼女を見やる。

    「あむ……はむ……んー! délicieux!」

     ……めっちゃワンパクに食べるなこの娘。
     まさか両手にサンドイッチ持って食べるタイプだったとは思わなかった。
     その姿はとても可愛らしく感じられて、思わず俺はその様子をじっと眺めてしまう。
     しばらくすると、俺の視線に気づき、何を勘違いしたのか手にもったサンドイッチをこちらに向けた。

    「こっちも美味しいをしてますよ、めしあがれ、あーん」
    「…………えっと」

     ずいっとサンドイッチを俺の口元に押し付けるように寄せた。
     躊躇したものの、全くの自然体な様子で笑顔を向けるヴェニュスパークを見て、俺は諦めて口を開く。
     ……美味しい、と思う、多分美味しいのだろう、正直緊張して味が分からない。
     こくりと飲み込んで、礼を伝えようとすると、彼女はじっとサンドイッチを差し出した手を見つめていた。

  • 9二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:07:37

    「……男の人に食べさせる、したは初めて、です」
    「そうなのか」
    「これは、セキニンをとる、しないとですね?」
    「そうなのか!?」
    「ふふっ、ジョーダンです……『なんだか貴方はからかいたくなりますね?』」
    「ちゃんと聞こえてるからねそれ!?」
    「ジョーダン、ジョーダンです♪」

     鼻歌を奏でるかのようにヴェニュスパークは言った。
     楽しそうに笑う彼女を見ていると、なんだからこっちまで楽しくなってきてしまう。
     思えば彼女と歩いている間に声をかけてきた人達も、皆そうだった気がする。
     いるだけで周りの人達を笑顔にする、そういった魅力を持っているのかもしれない。

    「────『ニュース驚いたでしょう? 私の師匠がごめんなさい、ああいう人なんです』」

     食後のエスプレッソを飲みながら、唐突にヴェニュスパークは真面目な表情をした。
     こちらが聞き取りだけなら出来ることを知って、話に齟齬を出したくなかったのかフランス語で言葉で紡ぐ。
     何故かそわりと悪戯心が急に湧き出して、俺は苦笑しながら日本語で言葉を返した。

    「まあ、今日のことの方がよっぽどサプライズだったけど」
    「『……っ! いつもはああではないんですよ? 違いますからね!?』」
    「…………ウンソウダネ」
    「『ち~が~い~ま~す~か~ら~!』」

     ヴェニュスパークは真剣に抗議の声をあげるが、状況証拠的にいつもああなのだろう。
     それはさて置き、彼女の師匠、モンジューについての話だったか。
     俺はあのレジェンド達の参戦について話をするべく、エスプレッソを味わって、口の中を濡らした。

  • 10二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:08:25

    「驚いたは驚いたよ、もしかして君もギリギリまで知らなかったのかな」
    「『私もニュースで知りました……知っていたら、もっと事前に対策を練っていたのに』」
    「だからこそ、なんだろうね。少し話しただけだけど、そういう人なのはわかったよ」
    「『ふふっ、本当に良くわかってるみたいですね、それで、どう思いましたか?』」
    「……どう、とは?」
    「『去年よりも大きな壁が立ちはだかることについて、貴方の正直な感想を聞いてみたいです』」

     宝石のような蒼い目で、じっとヴェニュスパークは俺を射抜いた。
     嘘をついてもすぐに見抜かれてしまうのだろうな、そう確信出来るほど澄んだ瞳。
     ……きっと、俺や世間の人以上に、彼女はモンジューの強さというものを知っている。
     そんな彼女に言うのは憚られるのだが、それを望んでいないようだから、率直な感想を口にした。

    「そうだね、正直に言えば恐ろしいとか、厄介だなとか、そういう感想もあるよ」
    「『…………そういう感想“も”ある?』」
    「うんそれ以上に、これはあの娘にも少し悪いんだけど────ワクワクしたな」
    「……ワクワク?」
    「えっと、胸が躍る、楽しみになって心臓が高鳴ってきたってこと」
    「…………」
    「だってあの凱旋門賞で、君も含めて二度とないくらいの面子が揃うんだ! それはきっと!」
     
     ────それはきっと、歴史に刻まれる、伝説のレースになるに違いないよ!
     気が付けば、俺は立ち上がって、声を荒げて熱弁を振るっていた。
     ヴェニュスパークはきょとんした表情でこちらを見上げ、やがて破顔し、声を出して笑い始めた。
     楽しくて楽しくて仕方がないと、歳相応の女の子のように。
     それを見て、自分が場違いに盛り上がっていたことに気づいて、席に着き小さくなってしまう。

  • 11二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:08:57

    「あは、あはは、あはははは!」
    「…………ごめん、テンション上がり過ぎた」
    「『いっ、いえ、私こそごめんなさい、その、あまりに同じだったものだから、ついおかしくって』」
    「同じ?」
    「ワクワク、わかります。少なくとも、私にとって今回のPrix de l’Arc de Triompheは」

     最高の舞台になりました────そう言ってヴェニュスパークは自信に満ち溢れた笑みを浮かべる。
     モンジューも、リガントーナも、俺の担当も全て打ち倒して、自分が伝説になると言わんばかり。
     その笑顔は今まで俺が見た、彼女のどの表情よりも魅力的に感じられて、思わず見惚れてしまう。
     そうして、彼女は手を差し出す。

    「良いレース、とびっきりしましょう。今度は、胸を貸す、しませんからね」
    「……ああ、望むところだよ、最高のレースにしよう、そして勝つのは俺達だ」

     宣戦布告を叩きつけながら、俺はヴェニュスパークと固い握手をした。
     そしてその言葉に、彼女は満足そうに頷いた。

  • 12二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:09:57

    「ノート、本当にありがとう、です」
    「こちらこそ、美味しい昼食をありがとう、良い時間を過ごせたよ」
    「ふふっ、おそろ、ですね? では、今度はロンシャンで会う、しましょう、えっと」

     食事を終えて、名残惜しいと思いつつも、別れる頃合い。
     ヴェニュスパークは最後の挨拶で急に言葉に詰まって、困ったように首を傾げた。

    「……どうかしたの?」
    「貴方のことをなんて呼ぼうか、考える、してなかったです」
    「ああ、まあ好きに呼んでくれて構わないよ」
    「トレーナーさん……うーん、それはあの娘に悪い、ですね。お兄さん? それもおかしい、します」

     しばらくの間、ヴェニュスパークは真剣に考え込んでいた。
     ……多分、そんな呼ぶ機会もないだろうから、気にしなくても良いような気もするけれど。
     やがて、尻尾と耳とピンと立てて、両手をパンと合わせた。
     端正な顔に浮かぶは、素晴らしい案を思いついたという、会心の笑顔。
     そして、彼女は覚えていてくれたらしい、俺のフルネームを口にした。

    「お名前、合ってる、です?」
    「ああ、間違いないよ、君のような娘に覚えてもらえるなんて、光栄だね」
    「ふふっ、オジョーズ、ですね? それで日本はファミリーネームが最初……non?」
    「うん、そうだね」
    「ナルホド、です」
     
     確認を終えたヴェニュスパークは軽やかな足取りで、踊るように近づいて来る。
     こちらが反応するよりも遥かに早く、彼女は俺の耳元に顔を近づけて、そっと囁いた。

    「────さん、コンゴトモヨロシク、です」

  • 13二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:10:50

     日本ですら血縁者や一部の親友以外からは滅多に呼ばれることとない、俺の下の名前。
     それをヴェニュスパークの、鈴の鳴るような声で聞かされて、思わずドキリとしてしまう。
     ……いや落ち着け、確かこっちではファーストネーム呼びは友人関係なら珍しくないはずだ。
     彼女はステップを踏みながら離れると、なんかを思い出したように、言った

    「『……日本では家族以外の異性のファーストネーム呼びは特別、なんでしたっけ?』」
    「あっ、ああ、まあ基本的には苗字、ファミリーネームで呼ぶことが多いかな」
    「困る、しましたね、誤解する、されてしまうかも、です」

     ヴェニュスパークはまるで困ってないような様子を見せていた。
     そして立てた人差し指を口に当てて、天使のような小悪魔のような、妖艶な笑みを浮かべる。
     彼女は頬を少しだけ茜色に染め上げながら、悪戯っぽく言い放った。
     
    「これはセキニン────ですね?」

  • 14二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:11:56

    お わ り
    ヴェニュスパークちゃんカワイイ!
    ただ下振れた育成のクラシック凱旋門で分からせするのはやめてもろて

  • 15二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:26:22

    乙です
    このトレーナーは人生の墓場に入れられて二度と日本の地を踏めませんね…

  • 16二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:28:00

    いきなり超大作を投げるのは心臓に悪いけどもっとやってくれ

  • 17二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:37:20

    ヴェニュスパークちゃんの潜在能力を確かに活かした作品
    誇らしくないの?おっつ乙!

  • 18二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:58:18

    これでヴェニュスパークが師匠にこの日のことを話しちゃってトレーナーの墓がフランスに刻まれるまで見えた

  • 19123/08/28(月) 14:33:16

    感想ありがとうございます

    >>15

    国際問題不可避

    >>16

    急に書きたくなかったから……

    >>17

    書いててもっと情報が欲しいって思いました

    >>18

    国際問題不可避(二回目

  • 20二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 14:38:56

    これは担当ちゃん、気が気でないですね…

  • 21二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 14:40:57

    文才溢れる素晴らしいSSだった。続きはどこで読めますか(掛かり)

  • 22二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 15:07:53

    担当ちゃんにとっても凱旋門賞が負けられない戦いになりましたねこれは…

  • 23123/08/28(月) 17:33:55

    感想ありがとうございます

    >>20

    良かれと思って送り出したトレーナーさんが他の女の匂いをつけて帰ってきた

    >>21

    一応続き的なのを書くつもりではありますがそのうち

    >>22

    突然別方向から強力なライバルが現れた担当の心境はいかに

  • 24二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 18:46:31

    いいSSありがとうございました
    生意気妹属性外国ズボラ美少女、さすがに盛りすぎじゃないサイゲ...?

  • 25二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 18:58:19

    おつおつ。月曜からいいものを読めました!

    担当との取り合い?まさかの留学?国際結婚?
    いろいろ続きが楽しみすぎてやる気と希望がムンムンわいてくるじゃあねーーかッ!

  • 26二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 19:04:31

    このことをパークちゃんがモンジューに言ったらトレーナーはどうなってしまうんです?

  • 27123/08/28(月) 20:08:24

    感想ありがとうございます

    >>24

    可愛いはいくら盛っても許されるからね……

    >>25

    まあいつになるかもわからないのであまり期待し過ぎないでお待ちくださいませ

    >>26

    気ぶりモンジューさんが見れるかもしれない

  • 28二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 21:47:09

    ヴェニュスパークちゃんいいよね……育成させろとは言わないからせめてもうちょっとでも出番増やしてほしい

  • 29123/08/28(月) 22:43:35

    >>28

    ひとコマとかの追加に期待したいですねえ

  • 30二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 22:52:17

    ワンパクパクパクくっそ可愛いんですけどォ!?

    夜にこっそりウマレーター使って密会する2人が見られると聞きました

  • 31123/08/28(月) 23:58:48

    >>30

    やるかやらないかで言えばやるかなって……

    VR国際交流はロマンありますねえ

  • 32二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 00:57:41

    VR逢瀬とか良い発想だな…

    来年は物理的にしまショウ?とかいって唇をとがらせるんだ

  • 33二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 00:58:56

    次会う時はクロックムッシュの味の再現に成功してそう

  • 34二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 01:37:02

    明るい子は好きだよ

  • 35二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 02:27:23

    >>34

    みえ……みえ…………

  • 36二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 02:37:59

    >>34

    ありがてぇ

  • 37123/08/29(火) 07:36:20

    感想ありがとうございます

    >>32

    ロマンに溢れてますね

    実際あのVRどこまでのことが出来るのでしょうか……

    >>33

    ズボラ設定ではありますが多分やれば何でも出来るタイプですよねこの子

    >>34

    エッ! なんだそのけしからん胸元は

    素敵なイラストありがとうございます! カワイイカワイイ

  • 38二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 18:34:53

    続き待機

  • 39二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 19:47:45

    見てぇ〜!ヴェニュスパークから下の名前で呼ばれてるのを聞かれて担当の子に詰められるトレーナーが見てぇ〜!

  • 40123/08/29(火) 23:12:16

    >>38

    このスレで続き書けるかどうかも怪しいのでどうか気長に……

    >>39

    修羅場良いよね……

  • 41123/08/30(水) 02:28:01

     もはや、この世のものとは思えないほどに、美しい走りだった。
     
     彼女にとってその走りは、本気の一欠けらも出してはいないだろう。
     けれど、風のように早くしなやかで、雷のように鋭く激しい。
     なによりも、とても綺麗で、瞬きをする一瞬すら惜しいと思ってしまうほど。
     トラックを一周した彼女は、まるで息を乱すこともなく、散歩の後のような気安さで俺の下に来る。

    「日本の芝も良き、です……私の走りはどう、しましたか?」

     栗毛の柔らかそうな髪に、青い瞳。
     学園のジャージに身を包んでなお、隠しきれない高貴さと清らかさ。
     尻尾を振り回しながら、期待に満ち溢れた目を少女はこちらに向けていた。

    「とても、綺麗だった、まるで天使か何かかと思ったくらい」
    「……えっ、えっと」
    「……ごめん、正直見惚れていて、指導とか出来そうにないな」
    「……っ! ふふっ、それは嬉しいと残念、フクザツな心、してしまいますね」

     はにかんだ笑顔を見せる彼女は、まるでどこにでもいるような普通の女の子。
     しかし、その小さな身体に秘めた実力は、このトレセン学園でも屈指のものである。
     彼女は一歩踏み出すと、軽く注意をするように、俺の口に人差し指を当てた。

    「でも、それはダメ、困る、します──今は貴方が私のトレーナーさん、ですから、ね?」

     ヴェニュスパークはぱちりとウインクを飛ばしながら、そう言った。
     フランスのレジェントの弟子、凱旋門賞で凄まじい走りを見せた異国のウマ娘。
     そんな彼女は、今現在、日本のトレセン学園にいるのであった。

  • 42123/08/30(水) 02:28:18

     今も、目を閉じれば、あの時の熱狂と興奮が蘇るようだった。

     日本のウマ娘による凱旋門賞制覇。
     ずっと昔から色んな人達が夢に見て、夢に挑み、夢に破れて来た、大きな目標。
     俺だってその夢追い人達に魅せられて、憧れて、トレーナーを志したようなもの。
     まさか、自分自身がそれを成し遂げる一助となるだなんて、思ってもみなかった。 

     ヴェニュスパークを、モンジューを、リガントーナをも打ち破り。
     俺の担当が一番にゴールへと辿り着き、日本の悲願を、ついに終わらせたのだった。
     
     これは、俺と彼女だけの栄誉ではない。
     理事長やメイさん達のプロジェクトL’Arcに参加してくれた人達。
     そしてこのプロジェクトを支援してくれたファンの皆。
     色んな人達に支えられて、背中を押されて、それでやっと掴むことの栄誉なのだ。
     だからこそ俺達は驕ることなく、その栄誉に相応しい成果を、これからも見せなければならない。

     そんな、俺は日本へと戻り────暇を持て余していた。

     ……無論、担当から契約を切られたとか、そういう話ではない。
     今、俺の担当ウマ娘は、日本中の様々なメディアに引っ張りだことなっていた。
     そもそも、このプロジェクトは様々なファンやスポンサーに支えられたプロジェクト。
     故に支援してくれた人達への還元も、大切なことではあった。
     本来であれば俺も担当に着いていくところだか、今の彼女にはメイさんが一緒にいる。
     プロジェクトの責任者で、メディア対応も俺よりかは専門、あの娘とも付き合いが長く信頼されている。
     今の彼女にはまさしくぴったりな人選というべきだろう。
     また、本人からも「今度こそ誰にも邪魔されずにゆっくりと羽を伸ばして欲しい」と言われた。
     そんなわけで約一週間ほど、俺はトレセン学園に一人でお留守番をしているわけなのだが。

  • 43123/08/30(水) 02:28:37

    「…………どうも、やる気が出ないな」

     どこか、心が浮ついてしまっている。
     レースの研究をするでもなく、他のウマ娘の視察をするでもない。
     ただボーっとしてしまい、何かやると思えば、凱旋門賞のレース映像を見返すくらい。
     困ったことに、どうやら俺の心は未だ、あのロンシャンのターフに置き去りになっているようだ。
     それこそ、あの娘ががいればケツを叩いてくれるのだろうけど。

    「こんなんじゃ、ヴェニュスパークにも呆れられちゃうな」

     ────凱旋門賞で悔し涙を流しながら、俺達を称えてくれた彼女を思い出す。
     涙で崩れた顔は、それでもなお、気高く、誇り高く、その魅力を一片足りとも損ねることはなかった。
     勝利を収めたとはいえ、ハナ差の大接戦。あと僅か天秤が振れれば勝者は違っていただろう。
     これからもロマンを求め続ける俺達の前に、きっと彼女は立ちはだかるだろう。
     僅かであったとはいえ交流した時間を思い出して、俺は両頬を叩く。
     そんな気合を入れた直後────コンコンと、ドアがノックされる。
     今日は来客の予定はない、となればたづなさんだろうか。
     少しだけ身嗜みを整えてから、かかっていたドアの鍵を解除して、開ける。
     
    「はい、なんでしょう……か……」

     そこには、滅茶苦茶怪しい人がいた。
     頭をすっぽりと覆い隠すニット帽、サイズの合ってない大きなサングラスとマスク。
     全身はロングコートに包まれていて、外見からの一切の情報をシャットダウンしていた。
     ただ栗毛の耳と尻尾は飛び出ているため、かろうじて相手がウマ娘なのはわかった。
     ────ふと、直感が煌めいた。
     理屈はわからない、気配なのか、匂いなのか、所作なのか、あるいはその全てか。
     もしかしたら、願望なのかもしれない。
     気づいたら、その直感を、俺は口から出していた。

  • 44123/08/30(水) 02:28:58

    「……ヴェニュスパーク?」

     刹那、目の前のウマ娘の耳と尻尾がピンと勢い良く立ち上がる。
     慌てるようにわたわたとマスクやサングラスを外していき、その顔が晒される。
     栗毛の柔らかそうな髪、透き通るような蒼い瞳。
     そして、彼女はどこからか取り出した赤いリボンを左耳に装着させた。
     少しだけ暑かったのか、一筋の汗が額に流れる彼女の顔には、満面に輝く笑顔。
     
    「C’est vrai! すばらし、です!」

     ヴェニュスパークは拍手をしながら、正解者を称えてくれた。
     見抜けたことの嬉しさ、再会できたことの喜びに、俺も顔を綻ばせてしまう。
     ────そして冷静になる、えっ、なんでいんの?
     フリーズしている俺を尻目に、彼女は身体を傾けさせて、トレーナー室を覗き込む。

    「……あの娘はいる、してないですか?」
    「えっ、あっ、ああ、彼女だったら一週間ほど学園には戻ってこないよ」
    「oh là là……ゆっくり、いっぱい、お話したい、でしたのに、残念です」
    「ああ、ちょっとタイミングが悪かったね……ってかそもそも何で日本に」

     問いかけている最中、スマホの着信音が鳴り響く。
     無視しようかとも考えたが、ヴェニュスパークがドウゾと促したので確認することにした。
     相手は、なんとトレセン学園理事長その人。
     突然のヴェニュスパーク襲来に、突然の理事長からの電話。
     なんとなく繋がってしまったような気がしながらも、俺は通話ボタンをぽちりと押した。

    「緊急っ! お忍びで来日中のヴェニュスパークが行方不明になったっ!」

     ちらりと目の前の少女を見ると、少しだけバツの悪そうな顔で目を逸らしていた。

  • 45123/08/30(水) 02:29:20

     速攻でたづなさんがやってきて、俺共々確保されて事情を説明された。
     今回の来日は、ヴェニュスパークの実に私的な、プライベートな休暇らしい。
     本来であればトレセン学園が関わることはないが、彼女は国際的にも有名なウマ娘。
     また海外旅行の経験も少なく、師匠であるモンジューもおいそれと動ける人物ではない。
     プロジェクトL’Arcで協力してもらった恩もあるので、学園で滞在をバックアップすることとなった、とのことである。
     ……まあ、まさか秒で単独行動をし始めるとは予想してなかっただろうが。
     
    「────それで、本当に良いんでしょうか?」

     たづなさんはとても申し訳なさそうな表情で、そう尋ねる。
     理事長室に連行されて、今回の話を聞いた後、俺は一つの提案を彼女達に出した。
     それを聞いたヴェニュスパークはとても嬉しそうな表情を見せて、たづなさんと理事長はとても驚いた顔をした。
     あの顔は見物だったな、と思いつつ、俺はたづなさんに言葉を返した。

    「ええ、彼女のフォローは俺がしますよ。担当のいないトレーナーなんて暇ですからね」

     自分がある程度面倒見ましょうか────と提案したのである。
     彼女に何かがあれば国際問題になりかねないし、多少なりとも交流のある俺が空いてるのも何かの縁だろう。
     何より、正直に言えば、もっと彼女と話してみたかった、というのもある。
     そんなこんなで、俺はヴェニュスパークが滞在する4日間、彼女と行動をすることとなった。

    「お話出来ればオンノジ、と思った、ですが一緒にいられるのは、やたっ、ですね」
    「そう言って貰えると嬉しいよ、楽しい滞在に出来るように、俺も頑張る」
    「はい、期待をする、してますよ……あー、あの呼び方は目立つ、してしまいますか?」

     あの呼び方、その言葉に凱旋門賞前のヴェニュスパークとの交流が思い出される。
     別れ際に伝えてくれた呼び方は、確かに日本だと、少しばかり目立ってしまうかもしれない。
     その旨を伝えると、彼女はとても残念そうに、そしてちょっとだけ嬉しそうな顔をした。

  • 46123/08/30(水) 02:29:43

    「ザンネン、です。それじゃあ、少しだけ、あの娘の呼び方を借りる、しましょう」

     そう言うと、ヴェニュスパークは俺の手をぎゅっと両手で握った。
     悪戯が成功した子どもが浮かべるような、無邪気な笑顔がとても可愛らしかった。

    「これからよろしく、です…………トレーナーさん♪」

  • 47123/08/30(水) 02:30:03

     ヴェニュスパークが最初に所望したことは、日本のターフを走りたい、だった。
     とはいえ、今回は彼女にとって休暇。
     師匠からもハードなトレーニングは固く、禁じられているようである。
     俺としても彼女のトレーニング関係のデータは持ってないので、そこまでは流石に見れない。
     軽く流す程度の走りなら大丈夫とのことだったので、人の少ない時間を狙って走らせたのだが。

     ────やはり、そこらのウマ娘とはモノが違う。

     彼女にとっては遊び半分の走りだったとしても、周囲の視線を集めるには十分だった。
     学園のウマ娘やトレーナーのことだ、ヴェニュスパークと気づけば併走なり質問なりしてくるだろう。
     俺は慌てて彼女を退避させて説明をすると、渋々納得してくれた。

    「……正直走り足りない、してますが、仕方ないですね」
    「ごめんね、やっぱり、君の走りは皆の注目を集めてしまうみたいで」
    「それじゃあ、トレセン学園を案内、してくれますか? 貴方達の過ごす場所、知りたい、です」
    「うん、それだったらお安い御用だよ」

     そして、数時間後。
     ヴェニュスパークはアストンマーチャンの人形を抱きしめながら興奮した様子でフランス語を捲し立てた。

    「『凄い、凄いです! 日本のトレセン学園はまるでテーマパークですね! 着ぐるみが人形を配って歩いてたり、突然ミュージカルが開演したり、人が突然七色に輝いたり、ラップ音が鳴り響いたり、ササバリ? を突然薦められたり! 少し歩いていただけのにこんな盛り沢山だなんて! あの娘達から大きな愛を感じたのも納得です!』」
    「……うん、いつもはあんな一気にエンカウントしないんだけどね」

     とんでもない誤解を与えてしまった気もするが、喜んでいるので良しとしよう。
     その後、ヴェニュスパークをホテルまで送り届けて、初日は終了と相成った。
     翌日は近場で見たい場所があるとのことなので、学園前で待ち合わせを約束をして別れた。

  • 48123/08/30(水) 02:30:32

    「……来ない」

     二日目、時計を見れば、すでに待ち合わせの時間から一時間が経とうとしていた。
     道に迷ったのだろうか、何度か連絡をしてはみたものの、一切の反応が返ってこない。
     ……これは、マズいかもしれない。
     万が一の可能性を考えて、俺はまずたづなさんへと連絡をとる。
     するとたづなさんは────呆れたような様子で、大きくため息をついた。

    「はあ、まさか二日目から早速、必要になるだなんて」
    「……何かご存知なんですか?」
    「まず、ヴェニュスパークさんはホテルに居ますので、ご安心ください」
    「そうなんですか? というか何故知ってるんです?」
    「その辺りの説明と、貴方にお渡ししたいものがあるので、理事長室まで来てもらえますか?」

     結論から話せば、この状況を予想して、師匠であるモンジューが色々と手を回していたらしい。
     ヴェニュスパークは私生活において、ズボラというか、そういう面がある。
     俺はフランスで彼女を尋ねた時も、昼前くらいまで寝ていたわけなのだから、朝は弱いのだろう。
     まず、彼女が泊っているホテルだがURAと関わりが深い施設らしく『色々』と融通が利く。
     例えば特定顧客の外出状況をリアルタイムで確認したり、あるいは────。

    「これ、ヴェニュスパークさんの部屋のカードキーです、フロントには私の名前を出してください」
    「うわあ」

     正直に言えば、ちょっと引いた。
     今後、URAに宿泊施設の世話をしてもらう時は身の回りに気を付けようと思う。
     俺の内心を察したのか、たづなさんはにこやかに笑ってみせた。

  • 49123/08/30(水) 02:31:11

    「今回は先方の要望もあって特例の特例です、心配しないでください」
    「あっ、はい、ところで、この鍵って俺が受け取って良いんですか?」
    「……本来は私が用いる予定だったのですが、モンジューさんに確認をしたところ、貴方に渡すようにと」

     すっと、たづなさんの顔から笑顔が消える。
     否、表情に変化はない、いつも通りの穏やかな微笑みのまま。
     しかし、それは笑顔なんかではないと、本能がそう警告を出しているのである。
     彼女はあからさまにトーンを落とした抑揚のない声で、淡々と問いかけた。

    「────貴方は、彼女のあられのない姿を一度見てるから大丈夫、だそうで」

     俺はカードキーを受け取ってさっさと退室した。
     確かに間違ってはいないけども!
     というか、あのレジェンド絶対にワザとやっているだろ……!

  • 50123/08/30(水) 02:31:55

     どうやって今度誤解を解こうかと考えながら、ホテルへと到着した。
     フロントにたづなさんの名前を出したら、顔を青くして部屋へと案内をしてくれた。
     …………うん、あまり深くは考えないでおこう。
     案内してくれたホテルマンが脱兎の如く立ち去るのを見届けてから、俺は扉を叩く。
     ────反応なし。
     藁をも掴む思いでもう一度連絡を取ってみるものの、やはり反応はない。
     俺は大きなため息をついて、部屋のカードキーを取り出した。

    「……恨まないでくれよ」

     いっそ開かなきゃ良いのに思いながらカードキーをかざす。
     無情にも、ガチャリと開錠される音があっさりと鼓膜を揺らし、俺はもう一度ため息をついた。
     
    「ヴェニュスパーク、入るよ」

     他のお客さんもいるのであまり大声を出すわけにもいかず、普通に声をかけながら扉を開ける。
     そしてまず、その広さに驚かされた。
     俺が今見ているのはリビングのみだが、そこだけで俺が普段利用するホテルの数倍の広さ。
     ……まあ、そりゃあ、俺が使うようなホテルに、彼女を泊めるわけはないだろうが。
     思わずきょろきょろと見回しながら、歩みを進めて、ベットルームに辿り着き。

    「うわあ」

     本日二回目となる、引いた声を出してしまうのであった。

  • 51123/08/30(水) 02:32:18

     部屋の状況を一言で表現すれば、散乱、だった。
     化粧品やらノートやらペットボトルやらが、とにかく所狭しと散らばっている。
     衣服などはどうやら片付いているらしいのが不幸中の幸いだろうか。
     そしてベットの上には。

    「『う~ん……師匠……私もっと食べられますよぉ……』」

     謎の寝言を口走る、ヴェニュスパークその人がいた。
     何時ぞや見たTシャツ短パンのだるだるスタイル。
     寝苦しかったのか布団を蹴っ飛ばし、シャツも大きく乱れている。
     ほっそりとした綺麗なお腹が惜しみなく晒されていて、まあその、目に毒だった。
     とりあえず本人の無事が確認できたので、ほっと肩の力を抜く。
     …………状況は、まだ何一つ解決していないのだけれど。
     
    「……とりあえず、起こすか」

     穏便な起こし方考えながら、ゆっくりと彼女の元へ近づいていく。
     ベットの手前まで迫った時────自分の身体がぐらりと、大きく前方に傾いた。

    「あぶな……っ!」

     どうやら床に落ちていたペットボトルか何かを踏んだようである。
     すでに倒れ始めている身体は、もはや堪えることが出来なかった。
     このままでは寝ている彼女を下敷きにして、怪我をさせてしまうかもしれない。
     反射的に両腕を前に開いて、完全に転倒しないことを祈りながら、目を閉じた。
     …………衝撃は来ない、手には布団の感触のみ。
     とりあえず、ヴェニュスパークと正面衝突、という事故は避けられたようである。
     俺は大きく息を吐きながら、目を開いた。

  • 52123/08/30(水) 02:33:02

    「……っ!? …………!!? ………………!?!?」

     文字通り、目と鼻の先に、顔を真っ赤にしたヴェニュスパークの顔があった。

     大事故も良いところである。
     彼女は何が起きてるのか理解できないらしく、耳がぴこぴこと忙しなく動いていた。
     その両目は限界まで見開き、口を何度も開閉しているが、声は出てこない。

     ────ヴェニュスパークが口をパークパークさせている。

     ……何故、人はピンチになると、くだらないことを考えてしまうのだろう。 
     というか、俺も頭がまともに働いてない、まず何をすべきかが全く分からない。
     一秒で無数の思考を走らせて、まずやるべき行動を導き出す。

    「……おっ、おはよう」

     言ってから、多分違うんじゃないかなあ、と思った。
     直後、絹を裂くような悲鳴が、部屋に響き渡る。
     この部屋の防音がしっかりしていて、本当に良かったと心から思った。

  • 53123/08/30(水) 02:33:25

    「『……事情はわかりました、あの、寝坊してしまって、ごめんなさい』」
    「うん、俺もその、なんかごめん」

     俺達は何故か、お互い床に座りながら、向かい合っていた。
     俺は正座、ヴェニュスパークは布団で身を包みながら、少し落ち込んだ様子で。
     正直なところ俺が謝る理由はない気もするが、謝らずにいられなかった。
     お互い同時に、ぺこりと頭を下げていたことに気づいて、二人揃って苦笑する。
     ……しかし、なんだろうか、何か違和感を感じる。
     事前にモンジューが根回ししていた辺り、寝坊する癖があるのは事実だろう。
     しかし、こういう約束に関しては外さないイメージが、俺の中ではあった。

    「『師匠からも良く注意をされるんですけど、なかなか直らなくて』」

     自嘲するように、頬をかきながらヴェニュスパークは言う。
     きっと嘘ではない、けれど、何か事実を隠しているという直感があった。
     ちらりとベットを見る、枕元にはスマホ、リモコン、本、アルバム、以前届けたノート。
     改めて、彼女を見ると、なんとなく、いつもの爛漫さを感じられない。
     それと、目元が少し変というか、これは。

    「もしかして────夜、寝れてないんじゃないか?」

     思ったことを、そのまま口に出していた。
     その言葉に、ヴェニュスパークはピコンと耳を反応させてしまう。
     しばらく誤魔化すかのように目を泳がすが、諦めたようにため息をついた。

    「……バレバレ、しましたか?」
    「いや、俺も何でわかったのかわからない。君のこと良く見てたからからな」
    「……っ」
    「もしかして部屋が合わないとか? 何かあれば対応を」
    「いえ! ホテルはすばらし、してると思います! ただ────」

  • 54123/08/30(水) 02:33:56

     ただ────少し、寂しい、してしまって。

     ヴェニュスパークは自分が情けないとばかりに、そして言葉通り寂しそうに、呟いた。
     そんな弱々しい彼女の姿に、俺は、己の不明を恥じた。
     それはそうだろう、ここは彼女にとって遠い異国の地。
     プロジェクトL’Arcの仲間達と一緒にフランスに滞在した俺達でさえ、心細さがあった。
     一人で日本に来た彼女にとって、その心細さは俺の比ではなかったはずだ。
     何か力になってあげたい、どう心の底から思ってしまう。
     過去の経験や、担当との日々をヒントに、彼女を元気づける術を考える。
     そして、俺は一つの提案を、彼女に持ちかけた。
     
    「……話し相手になるよ」
    「えっ?」
    「夜さ、寂しくなったら電話してよ、話くらい、いくらでも付き合うからさ」
    「……本当に良い、してますか?」
    「むしろこっちからお願いしたいくらいだよ」
    「……毎日、かける、するかもですよ? 夜、眠る、出来ないかもですよ?」
    「徹夜には慣れてるから、任せてくれ」
    「…………ふふっ」

     ヴェニュスパークは、ふにゃりと表情を緩めて、笑い声を漏らした。
     何故か久しぶりに見た気がする、彼女の本来の、周りを元気づける笑顔。
     それが見れただけで、今日の苦労が、全てどうでも良くなってきてしまった。

    「merci、私達でお話、とびっきり、しましょうね? トレーナーさん♪」

  • 55123/08/30(水) 02:34:45

     その後、二人で少しだけ部屋の片付けを済ませた。
     これから出かけるとしても、ヴェニュスパークにも色々と準備が必要だろう。
     しばらく外で待ってるね、と声をかけて退室しようとしたら────くいっと服を引かれた。
     振り向けば、恥ずかしそうに服の裾を掴む、彼女の姿。

    「あの、今日はもう遅い、してますので、ここでゆっくり、ダメ……ですか?」
    「……仰せの通りに、お姫様」
    「…………シショーの方が、格好良い、してますね」
    「…………モンジューと比べられたらなあ」
    「でも、トレーナーさんの方が可愛い、思います」
    「褒められてるのかな、それ」

     というわけで、今日の予定はキャンセルして、ホテルでのんびり過ごすこととなった。
     一緒に食事を取ったり、ホテルの中を廻ってみたり、テレビを見たり、レースの話をしたり。
     出来ることは限られたはずなのに、時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。
     そして日が落ちた頃、俺は帰宅することとなった。
     その、別れ際、ヴェニュスパークはもじもじと、何か言いたげにしていた。

    「そろそろ帰るけど、何かある?」
    「…………二つお願い、良い、してますか?」
    「……内容による、かな、言ってみて」
    「一つは、その、明日も起こす、して欲しい、デス……」

     その言葉は徐々に小さくなって、最後には顔を朱色にしたまま俯いてしまった。
     ……正直心配だったから言われなくても迎えに来るつもりだったのは秘密だ。

    「ああ、大丈夫、今日の待ち合わせの30分前で良いかな?」
    「……oui! お願いする、します!」
    「わかった、それで、もう一つはなんだい、ヴェニュスパーク」
    「…………それ、です」

  • 56123/08/30(水) 02:35:10

     ヴェニュスパークは小さく、拗ねるように、呟いた。
     それ、とはなんだろうか。
     彼女の言いたいことがさっぱり理解出来ず、俺は首を傾げてしまう。
     そんな俺に痺れを切らしたのか、口を尖らせて、彼女は言った。

    「呼び方、他人ギョーギです。今は私のトレーナーさん、してる、ですから」
    「……いや、そんなこと言われても、なんて呼べば」
    「パークです」
    「えっ」
    「親しい人みんな、パーク呼びます、トレーナーさんにも、して欲しいです」

     そう主張する彼女の目には、呼ぶまで絶対に退かない、という強い意志が見えた。
     まあ、呼び方くらいは良いかな。
     俺はそう考えて、笑みを浮かべながら、彼女に応える。

    「わかったよ、それじゃあまた明日……いやまた後でね、パーク」
    「……! à toute! 電話! する! しますから!」

     ヴェニュスパークは、いや、パークは目を輝かせて、花のような笑顔を咲かせる。
     そして俺が寮に帰ってからも、彼女とのお話は、彼女が寝落ちするまで続いたのであった。

  • 57123/08/30(水) 02:35:45

     三日目、その日は特にトラブルもなく、お出かけすることが出来た。
     ……いや、起こしに行ったらパークがベットから落ちたまま寝てたのは驚いたけども。
     シャツどころか短パンすらズレていて、かなり際どい状態であった。
     もう少し警戒心を持ってもらいたい。
     そして、彼女が行きたいというスポットに連れて行ったわけなのだが。

    「…………本当に、ここで良いのか?」
    「voilà、日本のお店を見てみたい、だったんです」
    「いやまあ日本のお店には違いないけどさ」

     そこはトレセン学園の近くにある、商店街であった。
     ……いや本当にここで良いのか? 明日は帰るわけで、今日が実質最終日だぞ?
     そんな疑問を覚えつつも、パーク本人が喜んでいるようなので、俺には何も言えない。

    「この辺りは、トレーニング用品ある、してますか?」
    「消耗品に関しては殆ど揃うかな、後は駅の方に大きなお店がある感じ」
    「ナルホド、です…………えと、食べ物は?」
    「……さっきから君が視線で追ってる通り、色々と取り揃えてるよ」
    「…………トレーナーさん」
    「はいはい、クロックムッシュのお返しで、食べ歩きはいかがですか?」
    「C'est clair ! 『さあ、行きましょう、トレーナーさん!』」

     よっぽどお腹が空いているのか、彼女は俺の手を掴んで、引っ張るように駆け出す。
     さっきまで抱いていた疑問は、いつの間にかどこかへと吹き飛んでいた。

  • 58123/08/30(水) 02:36:14

    「『んー♪ ハムカツ、とってもサクサクで美味しいです! 人参カレーにチーズパスタ、お好み焼きも絶品でした! フルーツサンドにいちご大福、試食させてもらったりんごジュースやお漬物もどれも素晴らしい! 後このラムネも……ラムネ!?』」

     どうやらテンションが上がり過ぎて、自分が何を買ったか把握し切れてなかった模様。
     パークは夕方になるまで食べ歩きを続けて、まだまだいけるようだったが流石にストップをかけた。
     ウマ娘の食欲はやはり万国共通のようだ。
     彼女は残念そうにしながらも、素直に俺の言葉に従ってくれた。
     そして今、腹ごなしも兼ねながら、俺達は河川敷を共に歩いている。
     何故かずっと手を繋いだままだったが、不思議と恥ずかしいとは思わなかった。
     彼女はラムネを口の中で転がしながら、先ほどまでの記憶を懐かしむように言う。

    「商店街、凄い、だったです。着ぐるみ、ウマドルライブ、ハスカップ、ナイスネイチャ、学園と同じくらい、イベントいっぱいでした」
    「うん、普段はこんなエンカウントしな……いや案外するな」

     思い返すと来る度に見かけているような気がする。特に着ぐるみ。
     ……しかし、本当に良かったのだろうか。
     パークは明日にはフランスへの飛行機に乗ってしまう、最後の思い出がこれで良かったのか。
     せっかく来た日本に、心残りはないのだろうか。
     心がどうしても騒めいて、茜色の差す彼女を、じっと見つめてしまう。

    「……どうか、しましたか?」

     俺の視線に気づいたのか、パークは不思議そうに首を傾げる。
     彼女の蒼い目には何の心残りも、後悔も、感じることは出来なかった。
     その透き通るように綺麗な瞳に反射して映る、俺自身の影を見て、気づいたのだった。

     ああ、心残りがあるのは、俺の方だったんだ。

     もっとパークを色んなところへ連れていきたい。
     楽しませてあげたい、色んな思い出を作ってあげたいと、俺が思っていたんだ。

  • 59123/08/30(水) 02:36:44

    「パーク」
    「はい?」
    「次、日本に来る時はちゃんと教えてね、もっとしっかりエスコートするからさ」
    「…………ふふっ、ゲンチ、ですね? キタイ、しちゃいますよ、トレーナーさん?」
    「ああ、任せてよ」
    「……えへへ、嬉しっ、です」

     夕焼けに照らされる彼女の笑顔は、とても綺麗で、綺麗すぎて、直視出来なかった。
     俺は思わず目を逸らし、恥ずかしさを誤魔化すように、無理矢理話を変える。

    「こほん、それで明日は、空港直行なのか?」
    「いえ、その前に行くところ、あるです」
    「……行きたい、じゃないのか」
    「ここは事前にメイやリジチョーに、話つける、してます」

     そう語るパークの表情は、真剣そのもの。
     まるでレース直前の気迫のようなものすら感じられた。
     つまるところ、そこだけは外せない場所、ということなのだろう。
     恐らくは、今回日本に来た、最大の目的ともいえる場所。
     
    「トレーナーさんも、一緒、良いですか?」

     そう尋ねるパークの目は、当然来ますよね? と書かれていた。
     俺は苦笑しながらも、こくりと頷く。

    「……君が良ければ、もちろん」
    「ふふっ、アリガトウ、です」

     その後、そのまま彼女をホテルに送り届けて、その日は解散となった。
     最後となるであろう夜の電話も翌日に備えて、ほどほどで終わりを告げた。

  • 60123/08/30(水) 02:37:07

     四日目、最終日。
     その日も俺は迎えに来たのだが、その時にはすでにパークの準備は完了していた。
     部屋もきちんと片付けられた状態になっていて、俺がすることなど全くなかった。
     ……多分、やれば何でもできるタイプなんだろうな、この子。
     そして、俺達は、彼女の最後の目的地に向かう。
     
    「『……すごい、ここが日本の最高峰のウマ娘達が、駆ける場所』」

     誰もいない観客席、誰もいないターフ。
     しかし、そこは間違いなく、日本のウマ娘達の夢が集う場所。

     東京レース場────俺達はそこに立っていた。

     本来であれば、この時間に入ることは出来ないが、そこは理事長達の力添えなのだろう。
     
    「『トレーナーさん、この観客席は、大きなレースでは埋め尽くされるんですか?』」
    「……それどころか溢れるといっても良いだろうね、歓声も割れんばかりだよ」
    「『そう、ですか』」

     パークはその場に佇んで、目を閉じた。
     今の彼女はズボラな少女でも、食べるのが好きな少女でも、寂しがり屋な少女でもない。
     幾多の勝利を重ねて、凱旋門賞を駆け抜けて、その頂きに限りなく近づいたウマ娘。

     誇り高きフランスのウマ娘、ヴェニュスパークがそこにいた。

     彼女は今、想像しているのだろう。
     客席を埋め尽くす大歓声のターフに立つ、自分の姿を。
     幾多の綺羅星のようなウマ娘と共に、ゲートから飛び出る自分の姿を。
     そして────その星々を全てを置き去りにして、一番星となる自分の姿を。

  • 61123/08/30(水) 02:37:27

     ああ、これはいけない。
     俺自身も、パークが勝利を掴み取る姿を、想像してしまった。
     自分の担当ウマ娘ではなく、ライバルといっても良いウマ娘の勝利を、想像してしまった。
     思わず頭を抱える、これはあの娘にバレたら大目玉である。
     
    「……トレーナーさん?」

     ハッとなり顔を上げれば、パークがこちらを覗き込むように見ている。
     先程までの張り詰めた空気はどこへやら、今の彼女はどこにでもいる少女のようだった。

    「あっ、すまない、えっと、もう良いのか?」
    「もうダイジョーブ、します。後の楽しみは、取っておく、しないとですから」
    「そっか、まだ結構時間あるし、どこか行けるけど」
    「……惜しい、ですが、やめる、しておきます」

     その瞬間、ぶるりと背筋が震えた。
     どこにでもいる少女のようだった、なんて大嘘だった。
     パークは何とか理性で衝動を抑えてるだけで、その牙を隠し切れていない。

    「今は走る、したくて、したくて、仕方ない、ですから」

     ああ、これはいけない。
     パークはきっと、俺達の前に立ちはだかるだろう。
     凱旋門賞の時など比べ物にならないほど、高い高い壁となって。
     それが────楽しみで楽しみで仕方がないと、思ってしまう自分がいた。

  • 62123/08/30(水) 02:38:05

     空港の展望デッキ。
     かなり予定を繰り上げてしまったため、パークの搭乗予定時刻までは大分時間があった。
     その間も食事をしたり、お土産を見繕ったりしていたが、まだ余裕がある。
     そこで俺達は展望デッキまで出て来て、二人で話をしていた。
     今回の来日、彼女にとってはとても満足行くものになったようで、楽しそうにしている。
     ただ、一つだけ、残念だったことはあるようで。

    「……あの娘と直接お話、出来るすれば、イウコトナシだったですが」
    「こればっかりはなあ、どうも向こうもてんやわんやみたいだし」

     一応何度か連絡を取ってみたものの、まともに返事をする余裕もないようだ。
     佐岳さんの方には連絡がとれていて、何とか頑張っていることは確認できているのだが。
     ……戻ってきたら労わってあげないとなあ。
     ふと、妙案が思いつく、
     あの娘もパークのことは大分意識していたみたいだし、一石二鳥かもしれない。

    「パーク、なんかメッセージでも残さないか?」
    「メッセージ、ですか?」
    「なんというか、動画撮って、ビデオレター的な感じでさ、あの娘も喜ぶと思うよ」
    「………………イイですね、ゼヒ、やる、しましょう」

     パークはニヤリと、何かを企むような笑みを浮かべた。
     ちょっと、かなり、大分嫌な予感がしたものの、まあ大丈夫だろう、多分。

  • 63123/08/30(水) 02:38:52

    「『────、こんにちは、ヴェニュスパークです』」

     スマホのカメラを構える俺の前で、パークは担当ウマ娘の名前を呼びかけて、手を振るう。
     ……というかフランス語なのか、まああの娘も聞き取りに関しては問題ないから、良いけども。

    「『まずはお借りしていた貴女の“トレーナーさん”をお返ししますね?』」

     ああ、便宜上の呼び方とはいえ、そういう話だった気がする。
     わざわざ言わなくてもわかりはしないのに、律儀だなあ、パークも。

    「『────さんには、とても優しく、親身に、愛してもらいました、ありがとうございます』」

     パークは俺の下の名前を呼びながら、爆弾発言をかます。
     ……と何も知らなければ思うのだが、彼女にとって『愛』は最上級の褒め言葉。
     要するにとても良くしてもらった、程度の意味合いしかないのである。
     まあ、なんか妙に勝ち誇った笑みを浮かべているのが、少し気になるけれど。

    「『凱旋門賞、素晴らしいレースでした。あのレースで共に走れたことを、誇りに思います』」

     胸に手を当てて、当時のことを思い出す様に、彼女は言う。
     それはまるで、戦いの勝者を称える女神のように、清楚で、清らかな姿。
     しかし────その心の内がそんなものではないことを、俺は知っている。

    「『ですがそれ以上に、悔しくて悔しくて堪らない、私が、私が勝ちたかった……っ!』」

     泣き出しそうなほどに、表情を歪めるパーク。
     しかし、彼女の気高さが、誇り高さが、この場で涙を流すことを許さない。
     彼女は一呼吸を入れて、ぎらりと目を輝かせて、カメラを射抜く。

    「『あのレース以来、私には欲しい物が出来ました────貴女に対する“勝利”です』」

  • 64123/08/30(水) 02:39:28

     ただの勝利ではない。
     自分を打ち負かした、貴女に勝ちたいと、彼女はそう宣言する。
     これはもはやメッセージなどという生易しいものではなく、宣戦布告に等しいものだった。

    「『今回、日本に来たのも、それを成し遂げるための、道程の一つです』」

     そんな衝撃的な告白に対して俺は、まあ、だろうな、と思った。
     ただの日本観光にしては明らかにトレセン学園、すなわち東京レース場周辺しか見ていない。
     加えて彼女の師匠のことを考えれば、その目標は明白。
     東京レース場で行われるG1レース、国際招待競走の一つ、ジャパンカップ。
     トレーナーの本能が疼いてしまう。
     見たい、あの娘とパークが、今度は日本で鎬を削る姿が、見たい。
     しかし、お互いとはいえかなりの強行スケジュールだ、本人の意思も無視できない。

    「『……それだけのはずだったんですけど、困ったことに、もう一つ欲しいものが出来ました』」

     そう言って、パークは少しだけカメラから視線を逸らす。
     カメラの後ろ、すなわち、俺の方をじっと見つめているようにも見えた。

    「『私、こう見えて欲張りなんです』」

     そう言いながらパークはこちらに近づいて、カメラに顔が入らないくらい近づいて。
     気が付けば、整った顔と蒼い瞳が、息がかかりそうな距離にあった。
     思わず硬直してしまう俺は尻目に、彼女は自身の唇を俺の頬に近づける。
     ────そして、唇で音を鳴らすと共に、ほんの一瞬だけ、そっと触れた。

    「パッ、パーク!?」
    「ふふっ、感謝のビズ、です。触れる、してないです、アンシ~ン、ですね?」

     変なこと覚えるなという想いと、完全に触れていたという想いが混ぜこぜで混乱する。

  • 65123/08/30(水) 02:39:54

     そして、パークは俺からスマホを奪い取ると、自撮りのような形で映り始めた。
     スマホで隠れて彼女の顔は良く見えないけれど、その頬が微かに赤くなっているのはわかる。
     しかし、そんなことは関係ないと言わんばかり、彼女は言葉を続けた。

    「『だから、全部獲りに行きますので、貴女もそのつもりで』」

     そのまま流れるように、スマホを俺に返して、正面から向き直る。
     これはあの娘と俺に言っているんだと、そんな明確な意思を込めて、パークは叩きつける。
     先程俺が感じたものなど、児戯にも等しかった、これこそがまさしく。

    「これが私の────センセン、フコクです!」

     パークがそう宣言した直後、ぴこんと録画終了を知らせる音が鳴り響いた。
     一瞬の静寂の後、俺達は、揃って声を上げて笑ってしまう。
     さっきから他の客の視線が凄かったけれど、正直、あまり気にもならない。
     二人して息が苦しくなるくらいに笑い続けて、数分後、ようやく落ち着いた。

    「はー、おかしい、というか、これ全部話して良かったのか? モンジューに怒られない?」
    「『貴方だってわかってたでしょうに、師匠だって見抜かれることくらい織り込み済みでしょう』」
    「それもそうか……でも、あの娘が出るかわからないぞ? そりゃあ見たいけどさ」
    「……来ます、ゼッタイ」
    「どこから来るんだよその自信」
    「au moins、私ならここまでする、されて黙る、出来ません」

     そこまでかなあ、と俺は疑問に思わざるを得なかった。
     まあ、もしかしたらウマ娘同士でなければ分からない、何かがあるのかもしれない。

    「……あの娘もクロウ、してるですね」

     そう言って、パークは何故か大きくため息をついたのであった。

  • 66123/08/30(水) 02:40:44

    お わ り
    やりたいこと全部ねじ込んだら無駄に長くなりましたすいません
    担当ちゃんが何したってんだ

  • 67二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 02:42:46

    おいおいおい、いきなりこの量は

  • 68二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 02:43:44

    なぜ深夜2時にこんな超ド級の大作を投下した!言え!!

  • 69123/08/30(水) 07:03:11

    >>67

    何故か倍くらいになったんですよね……

    >>68

    なんか聞き終わったから……

  • 70二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 08:21:24

    すげェ名作これェ···

    所で担当ウマ娘は誰なんです?担当の子によっては修羅場が···

  • 71二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 08:24:51

    一番の被害者は担当でもトレーナーでもなく
    常に八方にらみ発動したウマ娘2人と走らされるほかの出走メンバー

  • 72二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 11:58:55

    大丈夫?JC当日は重バ場にならない?

  • 73二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 12:11:04

    >>72

    実況「血の雨降り注ぐ東京競馬場。馬場状態の発表は不良馬場となっております」

  • 74二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 18:48:26

    こんな動画見せられたら担当ちゃんの脳が破壊されちゃう

  • 75二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 19:03:55

    ゔお゛ッッッすきっっっっ

  • 76二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 19:35:38

    フランスの誇りと恋する乙女とワンパクパクパクパークちゃんのトリプルコンボとか耐えられる訳ないだろ!
    いいものを見た。ありがとう

  • 77123/08/30(水) 20:36:29

    感想ありがとうございます

    >>70

    担当ウマ娘に関しては話の構成上どうしても扱いが悪いので既存の名在りウマ娘をイメージしてません

    多少設定は妄想してますが現状は「日本で初めて凱旋門賞を制覇しただけのモブ」ですね、なんやそれ

    >>71

    何故かレース前からバチバチにやりあってる二人を見た他メンバーの心境はいかに

    >>72

    >>73

    どっちもヒートアップしてるからきっと良バ場ですよ

    >>74

    凱旋門賞ウマ娘の脳はこれくらいじゃ破壊されないからセーフセーフ

    >>75

    そう言っていただけると嬉しいです

    >>76

    言葉を切り替えながら色んな面を見せられる(現状で台詞が多くないのもありますが)のは書いてて結構楽しいですね

  • 78二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 21:01:56

    当然の如く現れるマーチャン着ぐるみと一般通過ネイチャさんに笑ってしまう

  • 79123/08/30(水) 21:27:10

    >>78

    マーチャン着ぐるみとネイチャさんはあの町の風物詩だから仕方ないね

  • 80二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 21:46:33
  • 81二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 21:51:29

    いざ本番近くなってもトレーナーがほわほわしてたらお説教コースですねこれは

  • 82123/08/30(水) 22:48:28

    >>80

    担当が「野郎ぶっ殺してやらあ!」って迎え撃つんだよね……

    >>81

    最終的に二人にフクロにされそう

  • 83二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 23:26:44

    追加供給たすかる……
    ありがとう……ありがとう……

  • 84123/08/31(木) 00:03:19

    >>83

    もう少し書きたいんですけど時間がないのでとりまここまでになります

  • 85二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 01:30:01

    素晴らしい!

  • 86123/08/31(木) 07:05:07

    >>85

    ありがとうございます

    そう言っていただけると嬉しいです

  • 87二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 08:08:14

    続きに気付いてやっと追いついた
    あぁ……これはスゴい……パークちゃん情熱的で可愛いです……

  • 88二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 08:53:36

    ヴェニュスパークの魅力がこれでもかというほどに詰まった傑作ですな…

    ほんとかわいいよ…そして中々やり手だよ…

    クロックムッシュをあーんしてくれる場面で感情が爆発しました


    >>52

    ────ヴェニュスパークが口をパークパークさせている。


    ここほんと笑った

  • 89二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 09:54:47

    あげ

  • 90123/08/31(木) 20:47:45

    感想ありがとうございます

    >>87

    継続して読んでいただきありがとうございます

    割と感情的に動くタイプではあるよなあと思ってます

    >>88

    甘え上手だしお姉さんキャラも合うイメージがありますね

    実は例の台詞は書いてる時に急に思いついて無理矢理ねじ込みました

  • 91二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 20:56:01

    >>90

    内なる会長がご開帳した訳か

  • 92二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 03:49:54

    何度呼んでも凄く良いな……
    情熱的で語学込みで一生懸命なところにズボラだったり意外に年相応の女の子してるギャップがヴェニュスパークの魅力で
    その要素を余すことなく調理して素晴らしい作品を作り上げてくれた主に感謝。ありがとう

    またいつか違うお話を書き上げる機会があったらぜひ読ませて頂きたいものです

  • 93123/09/01(金) 07:18:44

    >>91

    それに関しては肯定せざるを得ないですね会長だけに

    >>92

    情報量がまだまだ少ないキャラなので魅力を出せるか不安だったのでそう言って貰えると嬉しいです

  • 94二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 07:49:39

    はぇ~すっごい名文…
    担当ウマ娘ちゃんとは出走前からバチバチの煽り合い発生しそう

  • 95二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 11:53:31

    まだ伸びてる感想の量凄いなとか思ってたら…なんかとんでもない名作が投下されてた…
    パークちゃんかわいいね♡凱旋門は渡さねえからな(宣戦布告
    それはそれとして、こんな明るくて可愛い子とお出かけできたらさぞ楽しいだろうなあ

  • 96123/09/01(金) 19:08:27

    >>94

    お互い丁寧な言葉でバチバチやり合ってそうですよね

    >>95

    二本目の文量がひたすら長くなりましたからね……

    育成実装は諦めるから凱旋門賞の時期にウマさんぽフランス版作って……

  • 97二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:44:09

     何かの音が聞こえてきた。
     暗闇から目を開けると、そこは見慣れぬ天井だった。
     頭の中がふわふわとしていて状況が理解出来ていない。
     何か、いつもとは全く違う場所にいるような、そんな感じがした。
     ぼやけた頭でぼーっと虚空を見つめていると、ふわりと流れて来るリラの香りが鼻先をくすぐる。
     直後、ひょいっと視界に割り込んでくる一人の少女。
     柔らかそうな髪、透き通るような蒼い目。
     そして彼女の顔には、まるで赤ん坊を見つめるような、慈愛に満ちた笑顔が浮かんでいた。

    「Bonjour、気持ち良く眠る、出来ましたか?」

     撫でるように優しい声色は逆に微睡みを誘うよう。
     相手の顔を見て、俺はようやく状況を理解し、意識を覚醒させようとする。
     しかし、そっと目元を暖かな手のひらで蓋をされた。

    「もう少しスヤスヤ良いですよ? まだ早い、してますから」
    「…………いや、起きるよ、君との朝食も楽しみたいからね」
    「ふふっ、そうですか、嬉しくて、少しザンネンです。十分ではある、ですけどね」

     手のひらの目隠しが外されて、視界に光が差し込んでくる。
     起き上がれば、彼女は俺の眠るベットの上に腰かけて微笑んでいた。
     何が残念、十分なのだろう、と少し考えながらも、まずしなくてはいけないことを行う。

    「おはよう、パーク」
    「はい、オハヨウゴザイマス♪」

     ヴェニュスパークは歌うように言葉を返す。
     そう、俺は今フランスで────何故か彼女と共に生活をしているのであった。

  • 98二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:44:26

     竜虎相搏つ、会見がもはやプロレスのそれ、レースを見ていた子どもが泣いた────。
     迫力だけなら間違いなく過去最大と言われた伝説のジャパンカップから、更に時間が過ぎ去って。
     少しだけ夏の暑さがマシになってきたころ、俺と担当はフランスへ行く予定になっていた。
     無論、目的は凱旋門賞。
     連覇という偉業もさることながら、あの娘はヴェニュスパークと決着を付けようと躍起だ。
     当然だろう、去年こそこちらが勝ったものの、その前年はパークに持っていかれている。
     ロンシャンの地においては一勝一敗、ならば次で白黒つけたいとは、誰もが思うだろう。
     ……なんかそれ以上の熱意を感じるが、モチベが高い分には問題はない。

     ただし、今年からは俺達はプロジェクトL’Arcのメンバーからは外れている。

     理由としては後進に枠を譲る、という形。
     凱旋門賞以来、俺達は海外のレースをメインに動いていた。
     正確にはあの娘が相手にパークがいると普段以上の実力を出すようになったため、そういうレースを狙った結果、海外のレースを主戦場として戦うことになった、という流れだったりする。。
     そんなこともあり、プロジェクトとは別の陣営として挑戦することとなった。
     まあ、プロジェクトから外れたとはいえ、サポートやバックアップは十分に貰っている。
     ただ便宜以上、一部の手続きなどは俺達自身でこなす必要があり、少し早めに渡航する予定だったのだが。

    「……まさかあの娘が直前で夏風邪とはなあ」

     彼女は、今まで一度も風邪を引いたことがないと良く自慢していた。
     それ故に彼女自身、風邪というものが理解出来ず、気づかないまま悪化したのが原因だ。
     …………俺も初期症状を見逃して出張に出てしまい、帰ってきた頃には寝込んでしまっていた。
     間違いなく俺の管理責任である、本当に悪いことをしたと思う。
     ただ、病は気からとか言って勝手に滝行に行ったあの娘にも少し問題があった、と主張したい。
     本来はならば、完治するまで一緒に居てあげるべきなのだが。

  • 99二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:44:39

    「色々と手続きも大変だぞ? あの娘なら私達が連れて行くから、君だけでも先に行ったらどうだ?」

     と、佐岳さんから言われて、一晩悩んだ。
     確かに、去年は佐岳さん達にしてもらった各種手続きを自分でしなくてはならず、時間は惜しい。
     風邪自体は深刻ではなく、少し時間をかけて治癒すれば、影響が残るようなものではない。
     日本に居たところで、あの娘が早く完治するわけではなく、ならば先に行ってあの娘が過ごしやすい環境を整えてあげるべきかもしれない。
     また、あちらでの『協力者』を待たせてしまっている、という点もあった。
     当の本人は「危険だから行かない方が良いと思う」「釣りに行って餌だけ海に叩き込む行為」「トレーナーさんはサバンナでは生きていけない」という謎の警告を発した上で、最終的には渋々ながら行くべきだと言ってくれた。
     
     ────そんなわけで後ろ髪を引かれつつも、俺は一人フランスへと旅立った。

     半日以上のフライトの後、空港へ降り立つ。
     午前中の便で旅立ったはずなのに、外はまだ夕方。
     ……一度経験しているとはいえ、やっぱり違和感を感じるなあ。
     少しだけ身体をほぐしながら、俺は『協力者』の姿を探す。
     しばらくスーツケースを引きながら歩いていると、こちらに向けて大きく手を振るウマ娘を見つけた。
     『協力者』であるウマ娘────ヴェニュスパークは小走りでこちらに近づいてきて、花咲くような笑顔を見せた。

    「Bienvenue en France! VR以外ではオヒサシブリ、ですね!」
    「パーク、久しぶり、会えて嬉しいよ」
    「je suis d'accord! ……あの娘は気の毒、しましたね」
    「……うん、俺のせいで、悪いことをしてしまった」
    「……ふふっ」
    「……パーク?」
    「二人とも、同じこと言ってる、してます、仲良しですね?」

  • 100二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:44:53

     パークは、少しだけ揶揄うようにニヤニヤしながら、そう告げる。
     ジャパンカップの後、俺は彼女との約束通り、日本の観光案内をした。
     その時は同じレースに出た俺の担当も当然空いていたため、その観光では共に行動している。
     最初こそはあの娘の方がパークに対して威嚇する猫のようであったが、次第に打ち解けて、その日が終わる頃には姉妹のように仲良くなっていた。
     それ以降は、二人は定期的に連絡を取り合っているようである。
     ……で、パークの言葉から察するに、まあそういうことなのだろう。

    「……気にしなくて良いのになあ、滝行以外は」
    「タキギョー? de toute façon、お互い様、だと思う、します」
    「…………ありがとう、少し気は楽になったよ」
    「それは良かった、します! ……アー、『それと、私からも少しお話が』」

     パークは緩んでいた目尻や口角を引き締めて、フランス語で喋り始める。
     表情には真剣さと、申し訳なさ。
     これは何かあったみたいだなと察して、俺は襟を正した。
     
    「『実は、泊る予定だったホテルの予約が、急にキャンセルになってしまったんです』」

     その後、俺達はタクシーに揺られながら、パークから今回の事情を聞いた。
     モンジューが手配していたはずのホテルが急なトラブルで、急に部屋が用意できなくなって、急な事情だったものだから、緊急で別の部屋を用意することも出来ず、特急で別の宿泊施設を準備してくれたとのこと。
     ……なんか急という文字が多すぎないか?
     というか、あのモンジューがそんな不手際する気がしないんだけど。
     パークもその辺りには違和感を持っているようで、話しながら少しばかり首を傾げていた。
     まあ考えたところで予定していたホテルに泊まれない、という現実が残るだけ。
     幸い、あの娘が他の面子と一緒に来る頃には大丈夫らしいので、それで良しとしよう。

  • 101二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:45:08

     空港からパリに向けて一時間ほどタクシーを走らせて。
     辿り着いた先は宿泊施設────というか、家だった。

    「『師匠が所有している家で、余ってるから自由に使って良いそうです』」
    「へえー、家って余るもんなんだあ」

     流石はフランスのレジェンド、スケールが違う。
     見たところ新築というほどではないが、古さも感じない、上品な造りの家。
     周辺の家を少し見ると、運転中に絶対近づきたくない類の車がたくさん並んでいる。
     正直、場違いも良いところな気がするが、ここに泊まる以外選択肢はない。
     パークは慣れているのか、軽い足取りで家の玄関へと向かい、くるりと振り向いた。

    「さあ、ドウゾドウゾ! 家の中を案内、するです!」

     彼女が日本に来た時とは正反対だな、と思いながら頷いて、付いて行く。
     家の中は掃除が行き届いていて、しっかりと管理されているのがわかった。
     そしてパークは部屋を一つ一つ丁寧に案内し、説明してくれる。
     リビング、キッチン、トイレ、バスルーム、小さいながらもトレーニングルームもある。
     そして二階には複数の部屋があり、そこが寝室のようだ。

    「貴方はこの部屋を使う、してください、私はその隣の部屋に、あの娘が来たら向かいの」
    「うん、ちょっと待って?」

     流石にもうツッコミを入れないといけない。
     再会した時から何でパークまでスーツケース持ってるのかなとは思ったんだ。
     俺の制止に彼女はこてんと首を傾げる。

    「どうかしましたか……?」
    「えっと、なんで君がここの部屋を使うことになってるんだ?」

  • 102二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:45:23

     以前行ったパークの家は、ここからそう遠くなかったはず。
     そのため、彼女の力を借りる時は適時連絡をとって都合の良いタイミングで合流すれば良い。
     少なくともこの家に彼女が滞在する必要性は薄いと思うのだけれど。
     そのことを指摘すると、彼女な胸に手を当てて、懐かしむように言った。

    「今まで、貴方からはたくさんの愛、もらう、しました」
    「……いや、まあ確かにお世話してあげたことはあるけどさ」
    「だから今回は、私が貴方に、愛を返す番です」
    「それは手続きとかに協力してくれるだけで十分だよ」
    「それだけでは私の気が、スミマセン」

     パークの表情は真剣そのもの。
     今まで受けた恩を、ここで返すと本気で言っている。
     この時点で俺は察した────もう彼女を止めることは出来ないだろう、と。
     誇り高い彼女が、他人に受けた恩をそのままにしておくなんて、出来るわけがない。
     そして、バ群を突き破るような強引さが、今の彼女にはあった。
     
    「だから私が、貴方をいっぱいオセワ、しちゃいますね?」

     パチリとウインクを飛ばすパークに、俺は苦笑しながら降参とばかりに両手を上げた。
     その姿を見て彼女は嬉しそうに尻尾を振り、そして何かを思い出したように耳とピンと立てる。

    「そういえば、シショーが最後に、貴方へ伝える伝言、ありました」
    「……モンジューが?」
    「『母国の地を踏まない覚悟が出来たら好きにして良い』……なんのことデショウ?」
    「…………」

     やっぱワザとじゃないかあのレジェンド!

  • 103二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:45:37

     その後、荷物を整理してから俺達はレストランで夕食を摂った。
     ドレスコートとか必要な店に連れて行かれたらどうしようと思ったが、手頃なお店でまずは安心。
     ……以前のカフェといい、割と嗜好自体は俺達と近いのかもしれない。
     その日はフライトの疲れもあり、翌日に備えて、お互い早めに就寝した。

     そして、次の日の朝、俺はパークに起こされた。

     正直ちょっと意外ではあった。
     彼女の家を訪ねた時や日本に滞在していた時も、起こすのはこっちの役割だったのに。
     ただ同時に、納得をしている自分もいた。
     彼女がお忍びで日本に来た時の最終日、全ての準備を終わらせて出迎えてくれた姿。
     つまるところ、ここぞという時には卒なくこなして見せるのだろう。
     安心したような、少し残念だったような。
     複雑な心境になりながらもベットから起き上がり、背伸びを一つ。

    「あー、ところでパーク…………って何しているの?」

     パークをちらりと見ると、スマホを操作していた。
     手の動きから見て、メッセージを入力しているようにも見える。
     俺の声を聞いた彼女はスマホを仕舞い込み、改めて俺の方に顔を向けた。

    「少し、ゲンキヅケ? ゲキレー? をLANEしていました」
    「ふーん……? それでさ、俺ちょっと着替えたいんだけど」
    「はい、ドウゾ」
    「ドウゾ、じゃないんだわ」
    「…………私は、気にしません、ですよ?」
    「俺が気にするんだよ、はいはい、出てった出ってた」
    「むぅ、イケズ、ですね」
    「どこで覚えて来るのそういうの……」

  • 104二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:45:56

     粘るパークを何とか追い出して着替えを済ませて、リビングに向かう。
     そこではテーブルいっぱいに料理を広げて、パークが待ってくれていた。
     
    「腕にヨリ、かけました! Bon appetit!」
    「あっ、ああ、いや正直驚いたよ、パークは料理も得意なんだな」

     席につきながら、料理の数々を眺める。
     ツナやアンチョビ、オリーブなどを使ったボリュームたっぷりなサラダ。
     良い香りがこちらまで漂ってくる、温かそうなポタージュスープ。
     どれも目移りしてしまいそうなほどの出来栄えだが、一つだけ特に目を引くものがあった。
     分厚いハムとたっぷりのチーズが入ったホットサンド。
     一年前のフランスで、パークと一緒に食べた、メニューの一つだ。

    「クロックムッシュ、だったかな?」
    「はい、懐かしい、しますね」
    「そうだね、あの時から君との付き合いが始まったようなものだから、思い出深いよ」

     実際にはそれよりも早く出会ってはいたが、大きなターニングポイントだった気がする。
     俺はパークに、いただきますと伝えてから、クロックムッシュを頬張った。
     ああ、濃厚なチーズとソースにハムの塩味が効いて、まるであの時食べた味のよう。

     ────いや完全に同じ味だこれ、今滅茶苦茶思い出した。

    「……これ、買ってきたの?」
    「私が作る、しましたよ?」
    「いやあ、なんか前に食べたのと、味がそっくり同じだったから」
    「貴方が美味しそう、していたので、研究、しましたっ!」
    「そうなんだ」

  • 105二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:46:21

     ……なんか爛漫ぶりばっか見てるから忘れてたけど、そもそも天才肌なんだよなパーク。
     しかし、ここまで完コピ出来るものなのか、流石というか、なんというか。
     彼女の料理に舌鼓を打ちながら、俺達は昔話に花を咲かせる。

    「貴方にあーん、してあげる、ました」
    「……そうだったかな?」
    「むぅ、トボケル、ダメですよ? ちゃんと覚える、してますから」
    「あはは、ごめんごめん、ちゃんと覚えてるよ、むしろ忘れられるわけがないね」
    「…………嘘つきには罰、必要ですね?」

     一瞬、にやりと笑みをこぼしたパークは次の瞬間、俺に向けて口を開いた。
     てらてらと輝いた真っ赤な口内と舌が見えて、何故かどきりとしてしまう。
     なんだか見てはいけないものを見ているような、背徳感を覚える。

    「あー……♪」

     そのままパークはぴこぴこと耳や尻尾を動かしながら、期待するようにこちらを見る。
     ……やれってことだよなあ、コレ。
     躊躇するものの、やらないとずっと口を開けているという確信があった。
     とりあえず、クロックムッシュを小さくちぎって、彼女の口の中へとゆっくりと入れる。

    「あむ……っ」

     パークの閉じた唇が、指先をわずかに巻き込む。
     生々しい感触と温さが指先から脳へと伝わって、背筋がぞくりと走ってしまう。
     そして彼女は何を考えながら、口をモグモグ動かして、こくりと飲み込むと。

  • 106二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:46:44

    「…………んあ」

     目を閉じて、もう一度口を開けた。
     まさかのおかわり要求である。
     背徳感と保護欲と心の奥底を擦るように刺激して、俺は再度、ちぎる。
     二度、三度、四度、と彼女の口に運び入れていくと、徐々に指先が湿っていく。
     やがて皿の上のクロックムッシュがなくなり、ようやく自分のしていることに気づいた。
     思わず顔が熱くなり、慌てて終了を告げる。

    「…………おっ、おわり! もうないから!」
    「oh là là、貴方の分まで食べる、しちゃいましたね」
    「大丈夫、大丈夫だから、ね!?」
    「はい♪ ありがとうございます、でした♪」

     パークはにこやかな表情でお礼を告げる。
     そしてペロリと、その舌で唇と一度だけ舐めた。
     濡れそぼった指を妙に意識してしまい、誤魔化すようにナプキンで手を拭う。
     それを見ながら、パークは小さな声で呟いた。

    「『……癖になりそうです』」

     その言葉は、聞こえなかったフリをした。

  • 107123/09/02(土) 06:48:07

    ち ゅ う だ ん
    纏まった時間がとれないので保守がてら見切り発車でだらだら投下
    ちゃんと書ききれればいいなあ

  • 108二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:55:46

    担当かわいそう...信じて送り出したトレーナーさんが外国のウマ娘に...
    まだ続けるのですね、楽しみに待ってます!

  • 109二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 06:59:15

    うわぁ続き!やったぜ

  • 110二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 07:37:06

    続き助かる…いやマジで助かる

  • 111二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 07:53:24

    おのれ、卑怯なモンジュー...
    弟子の恋路の為なら手段を選ばないか!

  • 112二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 09:38:13

    「家って余るもんなんだあ」でダメだった

    まだ続けてくれるの助かる、あーんしてもらってるのかわいいね……

  • 113二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 09:59:46

    担当ちゃんが何をしたって言うんだ……
    いいぞもっとやれ(豹変)

  • 114二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 19:39:44

    つまり師匠公認だな、ヨシ!

  • 115二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:19:40

    いかんパークちゃんのこと好きになってしまう
    甘々すぎる…
    そういえばこういう片言のウマ娘ってあんまいなかったよな(「○○デース」は片言とは違うし)

  • 116二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 23:09:00

    トレーナーの寝顔写して担当ちゃんに送りつけてますねこれは

  • 117二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 00:17:47

    助けて、俺の愛バ!
    この娘の事が大好きになっちゃう!

  • 118二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 06:22:52

    久々に戻ってきたらまた続きが……嬉しい……

  • 119123/09/03(日) 07:30:13

    「料理は普段から良くするのか?」
    「いえ、時々、ですね。自分だけの時はあまり、です」
    「そうなんだ、あの娘も同じような言ってたな」

     食後のコーヒーを飲みながら、会話に興じる。
     あの娘の場合は寮生活というのも関係しているのだけど。
     昔の話を思い出していると、何やらパークは微かに難しそうな表情をしていた。

    「あの娘の料理、食べたですか?」
    「ん? ああ、何度だけどご馳走してもらったことがあるよ」

     仕事が立て込んでいる時に、差し入れと言って作ってくれたのである。
     おにぎりに唐揚げ、玉子焼き、スープジャーに入った味噌汁。
     お手本のような出来栄えで、とても嬉しかったのを良く覚えている。
     ……ふと、パークを見ると、どことなく悔しそうな顔でこちらを見ていた。

    「……先越される、しましたね」
    「いや、別に早いもの勝ちとかじゃないし」
    「食べさせるは、してないですか?」
    「………………してないよ?」
    「……また嘘つきの目」
    「まあ、なんだ、あれは食べさせるというか、給餌してるというか」

     あの娘の癖だが、ハードなトレーニングやレース後にはしばらく動く気力をなくすことがあった。
     着替えることもせず、ただボーっと寝転がり、あれやこれやと俺に命令をする。
     やれ飲み物を取って来て欲しいだの、雑誌を読みたいだの、お菓子食べたいだの。
     まあ頑張った後だし、命令も可愛いの範疇なので、そういう時は素直に従っている。
     そして、お菓子を持ってくると口をパカパカ開けてくるので、そこに放り投げていくのが日常だった。

  • 120123/09/03(日) 07:30:35

    「なんかそういうゲームみたいで割と楽しくて……ってパーク?」
    「むぅ」

     気づけばパークはぷくっと頬を膨らませて、不満げにしている。
     何か気に障ること言っただろうか、全く心当たりはないのだけれど。
     やがて彼女は小さくため息をついて、気を取り直すように表情を緩めた。

    「これから、これからですね」
    「……おっ、おう?」
    「ササッ、これから滞在中の手続きする、ですよね?」
    「…………ああ、多分時間がかかるから、何日かに分けてやる感じかな」

     パークからの、急な話題の転換。
     正直気になるところはあるが、まずは本来の目的するべきだろう。
     彼女にサポートしてもらうとはいえ、俺にとっては慣れない場所っでの作業。
     佐岳さん達ですら数日かかったらしいことを考えれて、一週間くらいを見積もっている。

    「早く終われば、のんびり、出来るです! 頑張る、しましょう!」
    「ああ、あの娘が来る前には終わらせておきたいな」

     俺達のためにここまで気合を入れてくれるなんて、なんて良い子なんだろう。
     改めて彼女という知己を得たことは本当に幸運だったと思うのであった。

  • 121123/09/03(日) 07:30:58

     ────なんか手続きは一日で終わった。
     パークがついているとはいえ、明らかにスムーズに行き過ぎていた。
     予め書類が用意されていたり、順番待ちがなかったり、係の人が妙に親切だったり。
     正直違和感すら覚えるレベルでトントン拍子に進み、夕方には全てが終わっていた。

    「ふふっ、良かった、しましたね?」
    「あっ、ああ、助かったよ、助かり過ぎた気がするけど」

     帰り道、彼女の提案もありセーヌ川沿いの道を俺達は歩いていた。
     パークは先導するようにこちらを笑顔で見ながら歩き、機嫌良さそうにしている。
     ……まあ、早く終わったならそれに越したことはないか。
     あの顔を見ていると難しく考える気が失せてきた。
     夕焼けに照らされて共に歩く彼女に、俺は既視感を覚える。
     茜色に照らされたセーヌ川に視線を向けると、学園近くの川の姿が重なった。

    「なんか懐かしいな、君が初めて日本に来た時も、こうやって歩いたっけ?」
    「……そうですね、ショーテンガイの食べ物が美味しいを、覚えてます」
    「はは、美味しそうに食べてたもんね、また一緒に行けたらいいな」
    「…………『行けたらいいな、ですか』」

     ぽそりと、パークは呟く。
     フランス語の、どこか切なさの混じる声色で、消え入りそうなほどに小さく。
     思わず彼女を見つめ直すも、そこには先ほどの声が嘘のように明るい顔。
     
    「早く帰りましょう! 今日は夜も、私がオモテナシ、しますから!」
    「……うん、楽しみにしているよ」

     もしかして、気のせいだったのかな。
     俺はそう判断して、小走りで先に進む彼女の後ろ姿を追いかける。
     ────気のせいだったはずの呟きは、何故か妙に耳に残った。

  • 122123/09/03(日) 07:31:15

     夕食は、フルコースのようなメニューだった。
     とはいえレストランのようなものではなく、家庭料理の組み合わせみたいな感じ。
     どれもどこか素朴で、高級料理に縁がない俺でも肩の力を抜いて食べられる、そんな料理だ。
     ……しかし米が野菜って概念は未だに慣れないなあ。
     そう、慣れないといえば。

    「あー……♪」
    「……はい」

     こっちも全く慣れそうにない。
     食べさせたり、食べさせたり、食べさせられたり、食べさせたり。
     明らかに余計な時間をかけながら夕食を食べ終わり、一休みした後。

    「オフロ頂く、しますね?」
    「ああ、どうぞ、ごゆっくり」
    「……覗く、ダメですよ?」
    「ちょっと君の中での俺への認識について話し合おうか」

     抗議の言葉に対して、パークは悪戯のバレた子どものように笑いながら逃げていく。
     彼女はフランスでは珍しく、夜に入浴をする。
     日本に来た時、温泉にドハマりしたらしくそれ以来、習慣になっているらしい。
     すると、しばらくの間は手持ち無沙汰になるわけで。

    「……昨日の続きでもやるか」

     タブレットとノートパソコンを取り出して、仕事の準備。
     あの娘のトレーニングメニューの見直しやスケジュールの調整、前哨戦や凱旋門賞に出て来るウマ娘の調査などやることはいくらでもあるので時間を潰す手段には事欠かない。
     トレーニングに関してはあの娘が来ないことには始まらないので、ウマ娘の調査から。
     調べてみると今年の凱旋門賞も煌めく星々のような面子が揃いそうである、そしてプロジェクトL’Arcの面々も決して侮れる相手ではない。もちろんパークやモンジュー、リガントーナもこの一年で更なる領域へと至っていて、本番のレースを想像するだけで今からワクワクが止まらなくなってしまう。どういうレース展開になるだろうか、あの娘が勝つための必要な要素とは何か、フランスにいる間やるべきこととはなんなのか、そして────。

  • 123123/09/03(日) 07:31:49

    「………………夜までお仕事、ゴクロウサマです」

     両肩に温かい手がポンと置かれて、上から声が降ってきた。
     見上げれば、風呂上りで湯気の残るパークが、ジトっとした目でこちらを見下ろしている。

    「あの娘の言う通り、してますね、貴方は放っておくとすぐにザンギョーすると」
    「……おっ、お帰りパーク、いや今はたまたま手が空いてたからで」
    「昨日の夜も、でしたよね?」
    「…………」

     バレてた。
     昨日の夜は、早めに就寝した。
     したものの、結局途中で起きてしまい仕事をしていた。
     結局そっちに熱が入ってしまい、パークに起こされる形になったのは失敗だったが。
     彼女は大きくため息をついて、手を置いた俺の肩をもみもみとほぐし始めた。
     力加減は絶妙に心地良いものだったが、突然の出来事に思わず身体を捩らせてしまう。
     一言ずつ、小さな子に言い含めるように、はっきりと彼女は言葉を落とした。 

    「とりあえず、オフロ、行ってください」
    「うおお……行く、行くから一旦離れて……!」
    「オフロ出る、したら、私の部屋来てください、必ずですよ」
    「えっと、それはいいけど、なんのため……?」

     俺が問いかけると、パークは一旦手を離してくれた。 
     そして、どーすんのと言わんばかりのドヤ顔を披露しつつ彼女は告げる。

    「オセワ、です────とびっきりイヤシ、しますから」

  • 124123/09/03(日) 07:32:26

    ち ゅ う だ ん
    感想ありがとうございます
    亀のような進みになっていますが気長に見ていただけると幸いです

  • 125二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 07:48:06

    追いついた

    とにかくヴェニュスパークの解像度が高くて素晴らしい。彼女が何を考えているのか、行間でも伝わってくる
    さらにトレーナーもしっかり社会人らしさと、鋼の意志(半壊)を感じられて素晴らしい。もっと揺らげ。担当ちゃんに心配かけろ
    担当ちゃんはメディアに出張って外堀埋め埋めしてたら本丸にミサイルぶち込まれた気分かな? 素晴らしいね。もっとお前さんの焦る姿が見たいんだ。それとは別に早く元気になれ

    結論、すごくすごい素晴らしいです

  • 126二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 09:06:51

    こんな可愛い子が恐らく育成実装されないとかそんな残酷を受け入れられねえ……

  • 127二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 10:21:34

    まだまだ続きが投下される……嬉しい……もう永遠に続きを読んでいたい……

  • 128二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 10:57:38

    また夜中に仕事しないよう一緒の部屋で監視しよう

  • 129二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 19:43:57

    貴方の続きで助かる命があります

  • 130二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:37:09

    このトレーナーの担当ってヒシミラクル感すごくない?気のせい?

  • 131二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 00:31:49

    供給たすかる……これで明日も生きていられる
    お風呂上がりヴェニュスパークちゃん……かわいいね

  • 132二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 10:06:35

    ヴェニュスパークちゃん可愛い……供給助かる……

  • 133二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 10:11:57

    担当結構可愛いことするんだね

  • 134二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 18:17:30

    すき…

  • 135123/09/04(月) 20:08:24

     イヤシ、とは一体なんだろうか。
     そんなことを考えながら風呂から出て、パークの部屋へと向かう。
     ドアの前に立つと何故か緊張してしまうが、深呼吸をして自分を誤魔化してドアを叩く。

    「ドウゾ、入る、良いですよ」

     パークの導きに従ってドアを開けた。
     ふわりと、甘い香りが漂う。一日とはいえ、住む人間が違えばここまで変わるのか。
     にこりと出迎えるパークはベットの上で何やら道具を広げていた。
     ウェットタオル、ティッシュ、蝋燭、綿棒……いや、なんか変なの混じってなかったか。
     その中でひときわ特徴的なアイテムが、これからの展開を予想させる。
     それは匙のついた、小さな竹製の棒のようなもの。
     他の道具はともかく、その道具の用途は一つしか思いつかなかった。

    「……パークさ、もしかして、なんだけど」
    「動画で見るしました、日本の男性はこれでイヤシ、されると」
    「うん、ちょっと見てる動画が限定的過ぎるんじゃないかな?」
    「ユカタ、ないですが、ヒザマクラだったら、ばっちりあります」
    「ちょっと見てる動画が限定的過ぎるんじゃないかな!?」

     そういう店があるとは聞いたことがあるけども。
     ベットの上で女の子座りをしているパークは、自身の足をぽんぽんと叩いた。
     そして竹製の棒、いわゆる耳かきをペン回しの要領でくるくるしながら笑顔で言う。

    「今日は、貴方の耳のオセワを、します」

  • 136123/09/04(月) 20:08:47

     ……ではあの蝋燭は一体?
     その疑問は一旦横に置いておき、俺はパークへの対応を優先した。
     流石にそこまでしてもらうのは、いくら何でも良くないと思ったからだ。

    「……パーク、気持ちは嬉しいけど、そこまでは」
    「これは監視も含む、です。あの娘からも見張るようにオネガイされてますから」
    「うぐ、いやでも、ほら、フランスじゃ耳掃除はあんましないだろうし、大変でしょ?」
    「ベンキョーしました、イヤシ、できますよ?」
    「まあ君ならやってのけそうだけど……」
    「…………イヤ、ですか?」

     パークは目を潤ませながら、こちらをじっと見つめて来る。
     ……狙ってやっているのはわかっているが、どうしても言葉に詰まってしまう。
     そうこうしている間にも、彼女はその視線の圧を強めていく。
     思わず、目を逸らしてしまうのだが。

    「……じーっ」

     お前を見ているぞ、と言わんばかりに擬音が聞こえてきた。
     ……まあ彼女の部屋にホイホイ来てしまった時点で逃げ場はなかったか。
     俺は降参のポーズを示して、口を開いた。なんかこのポーズ何回もしてる気がする。
     
    「わかったよ、お願いするから、ただし今日だけだからね」
    「はい、わかってるです。耳掃除をいっぱいは、キケン、ですからね」
    「そういう意味じゃないんだよ」

     わかってるのかわかってないのか、明るい笑顔で頷くパーク。
     早まったかなと思いながら、俺はため息をついた。

  • 137123/09/04(月) 20:09:01

    「では、私のヒザ……? モモ? にドウゾ!」

     ベットの上のパークは言葉の表現に戸惑いながらも、再度自身の太腿をぽんぽんと叩いた。
     ……俺もしかしてこの子の膝枕だけじゃなくて、この子のベットにも寝転がるのか?
     …………まあ、今更か。毒食わば皿まで、俺は思考を放棄しながら、彼女の指示に従う。
     一旦ベットの上に腰かけてから、彼女の太腿に目掛けて、ゆっくり身体を傾けた。
     柔らかくてハリのある肉感と、温かな体温、そして甘い花の香りが頭を包む。 

    「んっ……もっと体重かけても、ヘーキ、ですよ?」

     緊張がバレているのか、パークは子どもをあやすように頭を撫でつけた。
     かなり恥ずかしかったけれど、一つ、二つと触れられていく毎に、確かに気持ちは和らいでいく。
     しばらくすると、すっかり力は抜けて、彼女も太腿へ頭を完全に預ける形となっていた。
     気づけば頭の中はふわふわと浮いて、意識が遠のいていく感覚。

    「…………ふぅー」

     ────刹那、耳元に風が吹き抜けて、全身がびくりと震えて、変な声が出る。

    「ふふっ、可愛い反応、してますね? まだ眠る、ダメですよ?」

     耳元から脳に直接囁きかけてくるかのような、パークの声。
     自分の頭に血が上るのを感じた、多分、耳も真っ赤になっているのだろう。
     彼女の小さな笑い声に混じりながら、シュッと紙を引き抜くような音。
     そして細い指先が耳にそっと触れ、彼女の言葉が落ちて来た。

    「耳を揉みながら、耳の裏を拭く、します……冷たいしているので、気を付けて」

  • 138123/09/04(月) 20:09:23

     次の瞬間、耳全体がひんやりとした感触に包まれる。
     先程まで耳が熱くなっていたせいか、とてもその冷たさが心地よく感じた。
     そしてそのまま耳の裏を拭きとりながら、各所を指で圧されていく。
     ウエットタオルが擦れる音と、耳を揉まれる音。
     程よい痛みと快感、そして普段触れられない耳の裏からのこそばゆさ。
     聴覚と触覚が程よく刺激されて、またしても意識が夢の世界に誘われる。
     ……思ったより、疲れているのかもしれない。
     
    「あっまたですか、もう……ふぅー…………?」

     再びそよ風のような吐息が耳の中を通り過ぎる。
     けれど、二度目だからだろうか、先ほどのように身体は敏感に反応せず、頭のもやは晴れない。
     ああ、パークには悪いけれど、このまま落ちてしまおうか。
     瞼が完全に落ちて、視界は暗闇に包まれて、思考が真っ白になりかけた、その時。

    「……あむ」

     ────耳が、生温かい、湿った肉感に挟まれた。
     脳に雷でも落ちたかのような衝撃が走り、意識が一気に覚醒した、
     先程の感触はたった一瞬、慌ててパークを見るが、すでに素知らぬ顔で目を逸らしている。
     しかしその頬は微かに赤く、手で口元を隠していた。
     何より、耳に残っている感触は、今日の朝、指先に感じたそれと同じ。
     けれど証拠は何もなく、俺はそれを指摘することは出来ない。
     やがて彼女は手の中で、小さく言葉を紡ぐ。
     本来ならば聞こえないような小さな声だったが、敏感になっていた俺の耳はそれを拾い上げてしまった。

    「『……やっぱり癖になっちゃいそうです』」

     疑念は確信となった。

  • 139123/09/04(月) 20:09:38

    「さっ、さあ、ここからがホンバン、しますね!」

     珍しく慌てながら、パークは誤魔化すように、声を大にした。
     色々と言いたいことはあるが、今は黙って指示に従う。
     彼女が耳を軽く引っ張ると、むぅ、と唸り声を一つあげた。

    「……耳の中のお手入れは、オロソカ、ですね?」

     ヒトの耳はそんなもんだよ、俺はパークに伝えた。
     ウマ娘の耳はレースにおいても重要な器官であり、俺も手入れの勉強をしている。
     自分の耳に関しては…………そういえば耳掃除をまともにした記憶がない。
     想像以上にひどい惨状になってるかもなと思い、大変そう? と声をかけてしまう。
     
    「いえ、やりがいある、ですよ……では、Commençons」

     パークの声が鼓膜を揺らした直後、耳介の部分に耳かきが触れる。
     ごくごく弱い力でスーっと耳の溝に匙を走らせて、そのまま広げたティッシュにトントンと落とす。
     あまり意識していなかったが外側もそれなりに汚れているらしく、しばらくそれが繰り返された。
     丁寧に、優しく、耳の外側の掃除は進んでいく。
     うん、若干不安もあったけど、なかなか、どうして。

    「すぅーとかくだけで、いっぱい、とれる、しますね? 痛い、してませんか?」

     甘やかすような高いトーンでパークが囁く。
     大丈夫、気持ち良いよと、俺は素直に感想を伝えた。
     すると彼女は合図をするように、耳に耳かきを当てながらコンコンとタッピングする。

    「それはよき、です。そろそろ中もカリカリ、しますよ?」

  • 140123/09/04(月) 20:09:52

     パークがそう告げると外側を掃除していた耳かきが、耳の中への侵入する。
     瞬間、バリバリとノイズが起こり、ぞわりと背筋が痺れて、微かな痒みが走った。
     思わず身体が反応しそうになるのを、拳を握って何とか耐える。

    「ふふっ……動く危ないですから、頑張る、してくださいね」

     その言葉と共に、優しく頭を撫でられる。
     相変わらず恥ずかしくなるけれど、どこか安心するのもまた事実だった。
     パークは大物を確認しても力は入れず、軽く、細かく、ゆっくりとかいていく。

    「カリ……カリ……気持ち良い…………してますか?」

     耳かきの動きに合わせて、パークの口から奏でられるオトマトペ。
     それを聞いているだけで、身を捩りたくなるようなこそばゆさが、少しだけ和らぐような気がした。
     時折パリッと剥がれるような音を響かせながら、少しずつ耳掃除は進んでいく。
     
    「少し…………小刻みに……カリカリカリ……」

     大物が貼り付いているのか、パークは耳かきの動きを少しだけ早くする。
     ジャリジャリと耳の中で大きい何かが動く感覚、耳の中の痒みが更に激しくなった。
     いっそひと思いに強くやって欲しいが、彼女は違い方向から匙を入れていく。
     
    「カリ……カリ……カリ……ふふっ、ガマン、ガマンですよ♪」

     悶えている俺の姿を愉しんでいるかのように、パークは笑みを零す。
     しばらくの間、もどかしい時間が続き、やがてバリバリと一際大きな音が響いた。
     大きな何かが剥がれるような感覚。
     その瞬間、先程まで苦しめられていた痒みが、清々しいまでの快感へと反転する。
     思わず息を吐いてしまうほど気持ち良さが、そこにはあった。
     大物はゆっくりと耳の中から外へと運び出されて、とんとんとティッシュに落とされる。

  • 141123/09/04(月) 20:10:06

    「おっきいの……取れるしましたね…………イイコイイコ、です」

     またしてもパークに頭を撫でられる。
     完全に子ども扱いになっているが、先ほどまでの消耗で反抗する気力は起きない。
     そしてことんと耳かきが置かれて、今度は柔らかで、丸みを帯びた感触が耳に入る。
     
    「後は綿棒で……すりすり…………すりすり……」

     残った細かい耳垢を処理しているのか、小さな快感が何度も響く。
     それに伴って再度睡魔が襲い掛かってきた。
     またさっきのようになるわけにはいかないと、必死に耐え続ける。
     何度か意識を飛ばして、戻すを繰り返して、やがて夢と現実の境が曖昧になった頃。

    「ガンバル、しましたね…………ごろん……してください」

     どこからともなく囁かれるパークの声。
     俺はなんの抵抗もなく、言われるがままに身体をごろりと転がした。
     甘い花の香りがより強く、濃厚に、鼻先から脳へと届き、パークに包まれるような錯覚。
     
    「ヨクデキマシタ……もうスヤスヤ……良いですよ♪」

     ああ、そっか、もういいんだ。
     さっきまで、あんなにねむらないようがんばっていたのに。
     かのじょのひとことだけで、おれはあっさりといしきをてばなした。

  • 142123/09/04(月) 20:10:29

    「────はっ!?」

     目を開けると、そこには船を漕いでいるパークの顔があった。
     年相応のあどけない寝顔がゆらゆらと揺れていて、ずっと眺めていたくなるくらい。
     だが、自分が未だ膝枕をされていることに気づいて、とりあえず離れた。
     時計を見れば日が変わる直前。
     何とかこのまま寝かせてあげられないかなと思う、そっと肩に触れた。
     しかし、俺の願いも虚しく、彼女はぴくりと反応してしまう。

    「んっ……」
    「あっ、ごめん、やっぱ起こしちゃったか」
    「ふあ……貴方の寝顔眺める、していたら、私までスヤスヤ、でしたね?」
    「そうみたいだね……耳掃除ありがとう、世界が変わったみたいだよ」
    「ふふっ、それはよき、でした」

     その言葉に嘘はない。
     実際、かなりクリアに物音が聞こえているような気がして、少し頭も軽い。
     今後は少しくらい耳の手入れに気を遣うべきだなと考えを改めてしまうほどだった。
     さて、もう時間も時間だし、俺も部屋に戻るとしよう。

    「じゃあ今日はもう寝るから、おやすみパーク」
    「あっ……」

     部屋から出るべく、彼女のベットから立ち上がったその時。
     くいっ、と服が引っ張られる。
     振り向けば、どこか寂しそうに、服の裾を掴むパークの姿。
     その姿が何時ぞやの光景を思い出させたから、俺は微笑んで、彼女に告げた。

    「……やっぱりすぐ寝れそうになるから、夜風でも浴びないか?」
    「…………はいっ! 行く、行きますっ!」

  • 143123/09/04(月) 20:10:50

     目を輝かせながら、尻尾をブンブンと振り回すパーク。
     何かこの反応も懐かしいな、そう思いながら俺は彼女の手を取った。
     そしてふと思い出したように、彼女は問いかける。

    「……そういえば、耳掃除はあの娘にやってもらったこと、あるですか?」
    「……いや流石にないよ」
    「膝枕は?」
    「それもない」
    「耳はむはむも?」
    「今まで二つがなくてそれがあるってどういう関係なんだ……?」
    「ふふっ、それじゃあ」

     パークは立ち上がり、俺の耳元に顔を近づける。
     先程手入れされたばかりの耳が過敏に反応してしまい、背筋がぞくりと走る。
     そのまま彼女は、小さな声でひっそりと囁いた。

    「ぜーんぶ、私がハジメテ、ですね?」

     すぐに離れたパークの顔には嬉しそうな、少しはにかんだ笑み。
     地味に証拠がなかった行為を自白されたような気もしたが、追及する気にはなれなかった。
     
    「ああ……そういえばあの蝋燭ってなんだったの?」
    「イヤーキャンドルです、耳に火のついた蝋燭立てるして、耳掃除します」
    「なにそれこわい」

     耳に蝋燭を立てられた自分を想像し、どっかの民族の度胸試しかなと思った。

  • 144123/09/04(月) 20:11:09

     その日の夜風は、ひんやりとしていた。
     されど寒いというほどではなく、涼しいという言葉が合う気温。
     天気が良いせいなのか、今日は星が妙に綺麗に見える気がした。

    「パリの星空、一年振りだな」
    「ふふっ、どうですか?」
    「相変わらず綺麗だよ、また見れて良かった、来年も見れるといいな」
    「…………『見れると、いいな』」
    「……パーク?」

     俺としては、何気ない会話のつもりだった。
     ちょっとした相槌が、パークから返ってくるものだとばかり思っていた。
     しかし返ってきたのは、消え入りそうな、小さなフランス語。
     今度は気のせいなんかではない、確かに、はっきりと聞こえた。
     見れば彼女は俯いて、指を揉みながら、何か考え込むようにしている。
     しばらくの間、宵闇の沈黙に晒されて、やがて彼女は顔を上げた。

    「────さん」

     パークは俺の下の名前を呼びつけて、真剣な、本気の表情を見せる。
     いや、少し違うか。
     今の彼女の表情は、真剣というよりは、どこか思いつめているように見えた。

    「『一つ、大事なお話があります』」
    「……なにかな?」

     空港の時とはまた別の、ただならぬ雰囲気を感じて、俺は口元を引き締める。
     そして彼女はらしくない躊躇で時間を浪費してから、ようやく意を決したように言った。
     
    「『私の、トレーナーになりませんか?』」

  • 145123/09/04(月) 20:11:29

    「……は?」

     余りにも予想外な言葉に、不躾な言葉が漏れてしまう。
     しかし、パークは一切動じない。ただじっとこちらを見つめたままだった。
     師匠譲りの笑えないフランスジョーク、というわけではなさそうだ。
     
    「待ってくれパーク、今の君のトレーナーは、モンジューだったよな?」
    「『はい、師匠に小さい頃から面倒見てもらって、成長してから正式に契約しました』」

     モンジューは現役のウマ娘でありながら、トレーナー資格を所持している。
     走りそのものに関しては言うまでもないが、その指導についてもかなりのもの。
     その証明が、丁度、俺の目の前にいる。
     パークはモンジューを師匠として慕い、尊敬し、そして越えたいと強く思っている。
     少なくとも、契約を解除するような関係とは思えないのだが。

    「『私が、師匠の足枷になっているのではないかと思って』」

     パークはぽつりと、そう告げる。
     現役ウマ娘とトレーナーを兼任している人物は、モンジューを含めてごくわずかだ。
     自身が世界有数のウマ娘で、かつ担当もまた同じレベルとなれば彼女しかいないだろう。
     自分で言うのもアレだが、トレーナーとはそれなりに重い仕事である。
     誰もが誰も、二足の草鞋を履けるのならば、俺達の需要はもっと少ないものになっていただろう。
     故に、パークの言いたいことも、理解出来なくはない。

    「『私は枷のない本気の師匠と戦いたい、そのためのトレーナーは貴方が良いと思っています』」

     真っすぐる投げられる、真剣な言葉。
     だけど何故か、その蒼い瞳は真っ直ぐこちらを見てはいない、そんな気がした。

  • 146123/09/04(月) 20:12:27

     そもそも、このことをモンジューは知っているのだろうか。
     トレーナー契約は基本的に片方の一存のみでは解除できない、それはフランスも共通のはず。
     ────母国の地を踏まない覚悟が出来たら好きにして良い。 
     頭に過る伝言、ああ、そういうことか。
     パズルのピースがハマったような感覚があった。
     このタイミングでの、突然の話。
     言葉は真剣なのに、何故か視線が揺らいでいるパーク。
     大切なことを言っているのに、どこか言葉の響きが軽いモンジュー。

    「ごめんねパーク、俺は君のトレーナーにはなれない」
    「『……ですよね』」

     わかっていた、とばかりにパークは苦笑する。
     恐らくモンジューも俺が引き受けるとは全く思っていなかったのだろう。
     少なくとも二人からは担当ウマ娘を投げ出すような男とは思われてなくて、安心する。
     ふと思い出すのは、妙にスムーズに進んだ今日一日の手続き。
     ……もしかしたら、引き抜き的な話だったのかもしれない。実績だけは立派だからな、俺。

    「それに、モンジューだって、君がいるくらいで枷になるようなウマ娘じゃないよ」

     言いながら、数か月前のことを思い出す。
     遠征中の現地でモンジューと遭遇して、あの娘と模擬レースをしてくれたことがあった。
     結果は────こちらの惨敗である。
     あの娘が本番じゃないとスイッチが入りづらい点を考慮しても、はっきりとした差があった。
     フランスのレジェンドは健在、ますます盛んになっていると実感したものである。

    「『そうですね、心にもないことを言ってしまいました』」

     今度師匠に謝らないと、と彼女は困ったように笑う。
     その笑顔は、顔に張り付いたように、無理矢理作っているようにも見えた。

  • 147123/09/04(月) 20:12:42

    「『もし……もしも、ですけど、今の貴方にあの娘がいなかったら……』」

     パークは一度下を向いて、もう一度こちらに顔を向けた。
     その顔には先ほどの作られた笑顔はなく、泣きそうな、縋るような表情。
     しばらく押し黙り、言うべきか言わないべきか迷って、ついに彼女は問いかける。

    「『私のトレーナーに、なってくれましたか?』」

     うん、と答えれば、この場では丸く収まるだろう。
     無理な願いだったとはいえ、彼女の誘いを断った身だ、わざわざ余計なことを言う必要はない。
     だけど、何故だろうか。
     ここで誤魔化したり、御為ごかしをすれば、一生後悔すると、そんな確信があった。
     最悪、彼女との縁が途切れてしまう可能性だってあるけれど。
     パークに対して、そんな上辺だけのことを言いたくないという気持ちが確かにあった。
     二度とフランスの、彼女の母国の地を踏めなくなる覚悟で、俺は言葉を紡いだ。

    「……いや、きっと今の俺がフリーだったとしても、君のトレーナーにはなってないよ」

     パークの表情が凍り付く、
     言葉を失って、視線が揺らぐ。
     その様子を見て、俺も胸が痛くなるが、下手な言葉を出さないよう唇を噛んだ。
     やがて、震えるような声が、彼女の口から零れる。

    「『……なっ、なんでですか?』」
    「君の走りはとても綺麗で、美しくて、俺にとって理想的な走りなんだ」
    「『それだったら……!』」
    「だからこそ、君のトレーナーにはなれないよ、理想のその先を想像出来ないから」

  • 148123/09/04(月) 20:12:56

     実際のところ、あの娘の担当をしながら、パークを担当することも出来るだろう。
     あらゆる手段を使って、あらゆるコネを頼れば、そうすることは多分不可能ではない。
     むしろ、それがパークのためになるのであれば、是が非でもそうするべきだ。
     彼女のためになるのならば、だが。
     
    「理想には何も言えないからね、そしてレースは理想なだけじゃ勝てない」

     例えば、あの娘の走りは、俺の理想とは程遠い走りだといって良い。
     粗削りで、がむしゃらで、勢い任せで、綺麗とか美しいとかとは縁遠い、泥臭い走りだ。
     そこに俺の理想が混ざり合って、俺とあの娘にしか出来ない、唯一無二の走りが出来上がる。

     それは世界にも届いた、理想を越えた、その先だった。

     以前、パークがトレセン学園で走った時、俺は何も言うことが出来なかった。
     なんてことはない────何も言うことがなかったのだ。
     指導なんて出来そうにない、というのは謙遜でもお世辞でもなく、ただの事実。
     きっとパークの理想の先は、広い世界を知るモンジューとでしか、到達できない領域なのだろう。
     パークは俺の言葉に、少し納得したように、けれどそれを認めたくなさそうに、自嘲する。

    「『そうですか、私はどうあっても、貴方の隣には立てないんですね』」
    「逆だよ、俺が君の隣に立てないんだ」
    「『……同じですよ』」

     パークは少し寂しそうに、そう言い捨てる。
     この子にこんな表情をさせてしまうなんて、なんて情けないのだろう。
     そして────俺はもっと情けない、身勝手なお願いを口にしなければならない。

    「だからさ、パークには俺達の、いや、俺の前に立っていて欲しいんだ」

  • 149123/09/04(月) 20:13:23

    「……えっ?」

     俺の言葉に、パークはぽかんとした顔をする。
     それはそうだろう、自分でもちょっと何を言ってるのか良く分からないし。
     けれど、これは正直な俺の気持ちで、心の底からの俺の願望だった。
     俺は近づいて、彼女の両肩をそっと手を当てて、視線を彼女の高さに合わせた。
     
    「パークには理想として、前を走り続けて欲しい、そうしたら俺はずっと挑み続けるから」

     俺は、ヴェニュスパークのトレーナーにはなれない。
     だけど、俺達の前に立ちはだかる彼女に挑むことは、何度だって出来る。
     聖女のような清らかさを持つ彼女に。
     女神のような気高さを持つ彼女に。
     少しだけズボラで案外親しみやすい彼女に。
     そして、ちょっとだけ人より、寂しがり屋な彼女に、何度だって会いに行ける。

    「君が前にいる限り────」

     ああ、ダメだ、上手く言葉が纏まらない、もっと簡潔に、しっかりと伝えたいのに。
     だからとりあえず、パークの言葉を借りて、伝えるとする。

    「────君に何度だって、愛を届けに行くからさ」

     ……あれ、なんかとんでもないこと口にしてないか、俺。
     冷や汗が一筋流れて、やらかしてしまったことに気づくが、すでに言葉は旅立った後。
     パークは、耳と尻尾を限界まで逆立てて、目をいっぱいに見開いて、顔を真っ赤にしていた。
     やがて、呆れたように、諦めたように、大きなため息をつく。

    「『……貴方も意外と欲張りですね、すごい勝手なこと言ってますよ』」
    「知らないのか、トレーナーってのは皆そういうもんなんだよ」

  • 150123/09/04(月) 20:13:51

     誰もが担当ウマ娘のことを英雄にしたいと思っているし。
     その栄冠を手にした次の日には、もう新しいプラチナを探し求めている。
     トレーナーという生き物は、実のところウマ娘以上に貪欲な生き物なのだ。
     その言葉を聞いて、パークはさっき以上に大きなため息をついて両手を伸ばす。
     そっと俺の両頬に手を当てて、じっと見つめてきた。

    「『仕方ないですね、わかりました、私は貴方の前に立ち続けてあげます』」

     そう言うと、パークは更に顔を近づける。
     彼女の端正な顔立ちと甘い香りと、熱い吐息を肌に感じるような距離。
     そしてそのまま、彼女は目を鋭くさせた。

    「『でも勘違いしないでくださいね? 貴方の理想なんかに、甘んじる気はありません』」

     これはお前への宣戦布告だと、そう言わんばかりに、蒼い瞳は俺を射抜いて来る。

    「『誰にも抜かせず、貴方の前に立ち続けて、いずれ私しか目に入らなくなってもらいますから』」

     そう告げた後、パークは微笑んだ。
     それは彼女が持つ本来の、天真爛漫な、周りも楽しくなってしまうような笑顔。
     その笑みを浮かべたまま、パチリと彼女はウインクを打ち出す。

    「────カクゴする、してくださいね?」

  • 151123/09/04(月) 20:14:06

     二日後の朝、俺とパークは空港へと足を運んでいた。
     目的は、とある人物をお出迎えである。その人物とは────。

    「まさかあの娘がこんな早く完治して強行してくるとはね」
    「クスリが効いた、したんでしょう」
    「それにしたって……まあ早く治る分には良いけどさ」

     風邪で寝込んでいるはずの担当ウマ娘が予想よりも早く快癒し、渡航することになったのである。
     佐岳さんも止めたようだが、医者の診断結果と本人の強い希望により実現してしまったらしい。
     本人曰く、乙女としての本能とウマ娘としての意地がが免疫系を活性化し病原菌を焼き尽くしたとこのこと。
     何を言ってるかはわからないが、とにかく元気なら宜しい。
     迎えなら俺だけでも良かったが、パークも行きたいと言ったので二人で出迎えることとなった。
     それは、まあ、良いのだけど。
     俺は周囲の視線が気になって、目の前にある彼女の耳にぼそりと言った。

    「えっと、あの、この体勢はどうにかならないのかな?」
    「貴方が前にいろ、言いましたから」
    「……いやそんな物理的な話じゃ、まあはい、言いましたけど」

     真下から楽しそうに俺を見上げるパークに、俺は何も言えなくなってしまう。
     あの夜以来────彼女は俺に後ろから抱き締めることを要求することが多くなった。
     待ち時間などに突然背中から突っ込んで来たり、座ってるといきなり膝の上に乗って来たり。
     耳や尻尾が顔に当たってくすぐったいので、正直控えて欲しいのだけれど。

    「あっ、そろそろ出て来る、しますよ!」
    「そうだね、あの娘小柄だからなあ、すぐに見つけられると良いんだけど」

     到着口から人が流れ出してくる。
     俺がフランスに来た時くらいの、まばらではないが、混雑というほどではない人波。

  • 152123/09/04(月) 20:14:28

     その人波が────突如、真っ二つに割れた。
     場内は一瞬の騒めきの後、痛いほどの静寂に支配される。
     割れた人波の、一番奥。
     そこには一人の小柄なウマ娘が、杖を携えて、俯きながら佇んでいた。
     さながら神話におけるモーセの如く、しかし神々しさはなく、見えるのは恐怖だけ。
     周囲の人達が無意識に道を開けてしまうほどの威圧感、彼女はシューコーと排熱するように大きく息を吐いた。
     厳重に封印されていたのにもかかわらず不慮の事故によって解放されてしまった禁断の古代兵器のような────そんな俺の担当ウマ娘は顔を上げる。
     そしてすぐに俺達を視認したのか、グポォンと音を立てて赤く目を輝かせた。
     訂正、もしかしたら担当ウマ娘みたいな古代兵器だったかもしれない。
     彼女は持っていた杖を何故かかじりながら、一歩、また一歩と近づいて来る。
     ……いや杖じゃないなアレ、ちょっと長めのフランスパンだ、わざわざ機内に持ち込んだのかな。
     その光景を前に、パークは目を点にしていた。

    「『……えっと、あれはどういう意図があるのでしょうか?』」
    「君達をフランスパンに見立てて、お前らなんて喰らってやるみたいな、あの娘なりの宣戦布告なんだと思う」
    「『なんでフランスパンなんですか?』」
    「フランスといえばフランスパンだからね、後、多分お腹が空いていたから、でも安心したよ」
    「『えっ?』」
    「病気で気持ちが弱ってるかもと思ってたけど、そんな心配は杞憂だったね」
    「『……これってそういう感想を抱く場面なんですか?』」

  • 153123/09/04(月) 20:14:46

     あの娘が持っていたフランスパンがなくなる頃、彼女は俺達の前に辿り着いた。
     怒っているような、申し訳なさそうな、何か言いたそうな、複雑な表情でじっとこちらを見る。
     やがて、唐突にスマホを取り出して────それをこちらにポイっと投げつけた。

    「うわ、危ない! どうしたの急……に…………?」

     何とか投げられた彼女のスマホをキャッチして、注意しようと彼女を見る。
     すると、俺が目を離した一瞬で距離を詰めた彼女が、訴えかけるように頬を膨らませて睨みつけていた。
     担当トレーナーとしてそれなりに長い付き合いのため、何を言いたいかはわかった。

     『それ』はなんだ、そして『これ』はなんだ。

     『それ』は多分スマホのことだろう、『これ』は良くわからない。
     とりあえず一つずつ質問に答えるため、俺は投げられたスマホの画面を確認する。
     
     ────ベットで眠る俺とピースで写るパークとのツーショット画像があった。

     …………いや、何なんでしょうねえ、これ。
     下を見ると、パークが顔を伏せながら、声を堪えるように肩を震わせている。
     どうやら救援は見込めない模様、大きくため息一つ。
     これから賑やかになりそうだなあ────そんな感想を抱きつつ、目の前の担当を鎮める方法を考えるのであった。

  • 154二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 20:16:06

    また新作が投下された
    あと10分は生きられるな

  • 155123/09/04(月) 20:16:08

    お わ り
    書きたいこと優先した結果ひたすらにとっちらかった話になりました申し訳ありません
    途中途中での感想ありがとうございました

  • 156二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 20:23:26

    外堀を埋めたところに更に盛り、壁を建ててその内側に篭もるかのようなパークの行動力
    好きです

  • 157二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 20:28:07

    みみぴょいは卑怯だってパーク…

  • 158二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 20:35:56

    あー、コレはセンシティブですわ〜

  • 159二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 20:46:57

    終わり…ええ…?終わり…?
    ああ、残念だけど良い物読めたなあ…
    ありがとうございます、お疲れ様でした!

  • 160二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 20:49:25

    癒やしのあとには絶望(?)が来るんですね素晴らしい

    トレーナー君、随分とお楽しみだったようだねぇ
    鋼の意思(大破)は随分とヴェニュスパークに溶かされて、もう使い物にならなさそうだからその辺に捨て置くと良い
    一方君の方も蕩けながら彼女の心を深く穿ったようだね。君はアレかな。スラッグ弾かな?
    相手のホームグラウンドで斯様な所業、もう助からないぞ? 素晴らしいね

    そして担当ちゃん、ようこそ。無事に治ってよかったよ
    ノーマークから急接近を許し、脅威を認識したあとで体調体調不良、むざむざトレーナー君の隣を明け渡すことになった。その心持ちはどうだろう? 病原体も焼き切れるほどだったんじゃないかな。素晴らしい熱量だ
    なぁに、君とトレーナーの間には今まで過ごした年月がある。きっと逃げ切れるさ

    ……そういえば昨年の凱旋門賞、日本の逃げウマ「タイトルホルダー」は、結局最後に捕まって差し切られたっけ
    ああ、こっちの話だよ

    何が言いたいかというと――続き、待っています

  • 161二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 20:54:28

    担当ちゃんもパークちゃんも気をつけなさい
    そいつこの期に及んでなお君たちのどちらもそういう目で見てないよ

  • 162二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 21:27:42

    イヤシも好きだけどトレーナーの


    >「理想には何も言えないからね、そしてレースは理想なだけじゃ勝てない」


    っていう台詞とその周辺がすごくすごい好きだわ……

  • 163二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 21:33:32

    いや、すごかったですね、トレーナーの心の強さ
    次回作に期待してますよ(掛かり)

  • 164二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 22:16:05

    >>161

    その気がないと分かるやいなや和睦して2人でアプローチしそう

  • 165二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:42:17

    最初から最後まで、ヴェニュスパークちゃんの魅力が詰まっていて最高でした
    ありがとう、本当にありがとう……

  • 166二次元好きの匿名さん23/09/05(火) 03:21:54

    めいさく

    ありがとうございました

  • 167123/09/05(火) 09:07:23

    感想ありがとうございます

    >>156

    アクティブな子はいいですよね

    >>157

    どうしても書きたかったんですよね……

    >>158

    耳かきは実質医療行為だからセーフ

    >>159

    パークちゃん自体はともかくこの設定の話は一旦終わりかなあと思ってます

    >>160

    まさかの名文ありがとうございます

    担当ちゃんはどうなってしまうんやろなあ

    >>161

    彼もちゃんと人気投票でどっちを一位にするか迷うくらいには大好きですよ

    >>162

    パークちゃんのトレーナーに何故なれないのかがちょっとしたテーマの一つだったりします

    >>163

    鋼の意思……いやこれ鋼の意思なのかな……

    >>165

    パークちゃんの魅力を出せているか不安だったのでそう言っていただけると嬉しいです

    >>166

    こちらこそ読んでいただきありがとうございます

  • 168二次元好きの匿名さん23/09/05(火) 20:13:15

    保守

  • 169二次元好きの匿名さん23/09/05(火) 22:34:39

    げに素晴らしきもん読ましてもらいました……ありがたや……

  • 170123/09/06(水) 00:55:19

    >>169

    こちらこそ読んでいただきありがとうございました

  • 171123/09/06(水) 00:55:35

     初めてはっきりとあの子を意識したのは、一度目の凱旋門賞の時。
     もちろん、フランスの有力なウマ娘の一人だとは知っていた。
     でも、それは情報だけで、あの子自身を見ていたわけではなかったのだろう。
     フォルスストレートからの最終コーナー、私は先頭で抜け出した。
     目の前に広がる長い直線、早めのスパートだったけれど脚はまだ十分残ってる。
     残っている力を振り絞り全力で前へ、前へと駆けていく。
     場内のどよめき、徐々に遠のいていく後ろからの足音、五月蠅いくらいの胸の鼓動。
     ゴールまで後僅か、勝利の二文字を意識した、その刹那。

     ────閃光が、真横を通り過ぎた。

     それは一瞬の出来事、吹き抜ける風の如く、一人のウマ娘が私を交わす。
     はためく青いマント、栗毛の髪と尻尾────フランスの無敗のウマ娘、ヴェニュスパーク。
     その姿を見た時、絶望や驚愕よりも先に、私は見惚れてしまった。
     ああ、なんて綺麗な走りなんだろう、と。
     それはまるで私の理想の姿、あんな走りが出来ればと、夢想してしまう走り。
     直後、場内が歓喜の叫びに包まれる。

     その時になって、私はようやく気が付いた、負けたんだ、と。

     荒れた呼吸を整えながら、私は祝福と称賛の声に包まれるあの子を見る。
     激走の後だというのに、それを感じさせない女神のような笑顔で、彼女は手を振るう。
     もう少しだった、後一歩だったけど、その一歩果てしなく遠い。
     ああ、なんて、なんて世界は広いのだろうか。

     これだから────レースは面白い! たまらない! やめられない!

     胸が躍る、尻尾が荒ぶる、脚が疼く、口元が歪む、手が震える。
     これが世界の最高峰、レースの頂点の一つ、凱旋門賞。
     きっと、この場所に、私達が夢見た最高のレースがあるのだと、確信を得たのだった。

  • 172123/09/06(水) 00:55:52

     私は、小さい頃からレースを見るのが好きだった。
     走るのも当然好きだったけど、もっと早い、激しいレースを見る方が好きだった。
     だから、もっと凄いレースを見たい、知りたいと、ずっと思っていた。
     トレセン学園に入学したのはそんな理由である。
     その後、実力の差に叩きのめされたが、元々の目的が目的だったのであまり気にならなかった。
     模擬レースの結果も出せず、このままくすぶって終わりかなと思っていた。
     運命が明確に変わったのは────とある日の本屋。
     その日は購読している雑誌の発売日で、所用で普段より少し遅れて本屋へ向かった。
     マイナーなウマ娘のレース雑誌。
     読者からのコメントを多く取り上げるのが特徴で、その内容は割と厳しめの物が多い。
     ウマ娘やトレーナー、その関係者からの評判は当然良いものではなく、学園での読者はほぼいない。
     だけどファンからの遠慮のないコメントが、生の声に感じられて、私は好きだった。
     ……しかし、この本屋、この雑誌をいつも二冊入荷してるんだよね、私しか買わないと思うけど。
     ふと疑問に感じながら棚に手を伸ばして────横から伸びて来た手に触れてしまう。

    「あっ、すいません」
    「ああ、ごめんね」

     声を揃えたような謝罪、私は慌てて相手を見る。
     そこには若い男性の姿、首元には見覚えのあるマークが輝いていて、学園のトレーナーだとわかる。
     彼はお先にどうぞと促してくれて、私もそれに従って、雑誌を手に取った。
     そういえば、この人も同じ雑誌に手を伸ばしていたような気がする。
     もしかしてと思い、私は衝動的に聞いてしまった。

    「貴方も、この雑誌を読むんですか?」

     そして、お互いに意気投合した。
     マイナー雑誌故に同行の士は少ないので、話し相手が欲しかったのだ。
     彼自身もレースが大好きなタイプで、嗜好が一致していたのも大きいのだろう。
     これが────私と、私のトレーナーさんとの出会いだった。

  • 173123/09/06(水) 00:56:07

     彼との会話の中、私は小さい頃から思っていた疑問を口にした。

    「最高のレースって、どうすれば見られるんでしょうか?」

     我ながらふわっとした問いかけだけど、どうしても知りたいことだった。
     素晴らしいレースはいくらでも言える、でも、最高のレースというものにはまだ出会えていない。
     どうすれば、私が納得する最高のレースに出会えるのかを、知りたかった。
     彼は少しだけ考えて、言葉を紡ぐ。

    「そうだね、理想とするメンバー、場、展開が揃えるのが条件だとすれば」

     一つだけ、その確率を上げる方法があるよ、と彼は言う。
     正直、まさか答えが返ってくると思わなかったので、私は背筋を伸ばして聞いてしまう。
     彼はそんな私の姿に苦笑しながらも、言葉を続ける。
     
    「君自身が理想の参加者になることだよ」

     ────目から鱗だった。
     むしろ何で今まで気づかなかったのだろうと思うほどに、明快な答え。
     それはそうだ、私自身で条件の一つを埋められれば、最高にはぐっと近づく。
     気づいた瞬間、今までの時間が急に勿体なく感じるようになった。
     走りたい、強くなりたいと、未だかつてないほどの衝動が、心の底から湧いて来る。
     きっと、この考え方こそが、ウマ娘として私に足りなかったピースの一つなのだろう。
     様子がおかしくなった私を、彼は心配そうに声をかける。
     そんな彼の手を取って、私は言い放った。

    「私のトレーナーさんになってくれませんか!?」

     今思うと、正直ちょっと掛かり過ぎていたなと思った。

  • 174123/09/06(水) 00:56:25

     その後、模擬レースを経て、なんやかんやで彼とトレーナー契約を結んだ。
     何を目指していこうか考えていた矢先、発表されたのがプロジェクトL’Arcだった。
     ざっくり言えば日本のウマ娘による凱旋門賞の勝利を目指す計画。
     凱旋門賞といえば、世界におけるレースの最高峰の一つ。

     ────すなわち、最高の場の一つ、ということになる。

     私とトレーナーさんは即座に参加を決めて、私は長い付き合いとなる佐岳メイさんと出会った。
     正直に言えば、最初の頃はあまり良い印象は持っていなかった。
     浪漫を追い求める姿勢、それを実現させる行動力と実行力は、確かに認める。
     けれど、トレーニングを見に来ておいて、挨拶もしないで帰ってしまう態度は気に入らなかった。
     でも、それは誤解だとすぐに気づいた。
     一度だけメイさんのスケジュールを見たことがある。
     分刻みで記された、一目見ただけでもわかるほどの過密スケジュール。
     そんな多忙な彼女が私達のトレーニングを見に来るのが、どれだけ負担になっているか。
     彼女はプロジェクトメンバー全員を見て回っていて、挨拶出来ないのも仕方ないだろう。
     仲良くなってから彼女の行動を見ると、二人いるんじゃないかと思うほどに動き回っている。

     そして、何よりも────このプロジェクトの成果だ。

     元々はダート専門のスプリンターだと思っていた私を、ダービーに勝てるくらいに育ててくれた。
     勿論それにはトレーナーさんの力もあったけれど、プロジェクトの支援が大きかっただろう。
     トレーナーさんとメイさん、そしてプロジェクト参加者の皆。
     全員の協力があって、凱旋門賞の舞台に挑戦する資格を手にしたのである。
     現地の空気に慣れるため早期にフランスへと渡り、充実した練習を送り、ニエル賞を勝って。

     そして私は、凱旋門賞でヴェニュスパークに負けたのである。

  • 175123/09/06(水) 00:56:49

     負けたは負けたが、自分でも驚くほどに気落ちはしていなかった。
     自分が目指す最高のレース、その一端をこの手で掴むことが出来たのだから。
     そして日本へと戻り、私は次の凱旋門賞に向けて意気揚々と────。

    「トレーナーさん、お菓子とってー、あとジュースもー、雑誌買ってありますー?」
    「ああ、用意してあるよ、お菓子はチョコで良い?」
    「……あーん」
    「はいはい」

     おい待てカメラ止めろ。
     …………まあ日本に戻った直後はちょっと調子を崩したけど、すぐ復調した。
     交流戦ではあのヴェニュスパークも参加して、何度か共に走った。
     あっちが私達のことを覚えてくれたのは意外だったな、トレーナーさんとも結構話をしていた。
     日本語を普通に喋っていたことにも驚かされた、天才という評判は伊達ではないらしい。
     まだこの時点では、凱旋門賞で相対するであろう、大きな壁という印象だった。
     ……この後に、その壁が二枚ほど増えることとなるのだけど。

    「たまにはトレーナーさんも羽を伸ばして欲しいなって」

     フォワ賞を勝った後の、お休みの日。
     お出かけに付いて来てくれようとしたトレーナーさんに、私はそう告げた。
     ────『欧州の至宝』リガントーナと『フランスのレジェンド』モンジューの電撃参戦。
     この一報に、私達は本音でいえばワクワクした。
     最高の場に想像以上の最高のメンバーが揃いつつあることに、気持ちが高ぶっている。
     けれどトレーナーさんにとって大きな負担になっているのも事実で、一度ゆっくり休んで欲しかった。
     その言葉に彼は少し驚きながらも、ありがとう、と承諾してくれる。
     ……でも素直に休んでくれるかなと、少し不安を感じた。

     この時の判断が後に大きな影響を与えるとは────私は思いもしなかった。

  • 176123/09/06(水) 00:57:08

     お出かけの後、私はお土産のパンを持ってトレーナーさんの部屋に向かった。
     ノックしてから扉を開けると、そこにはレース映像を見る彼の姿。
     けれどその顔からは少し疲れと力が抜けていて、私はほっと息を吐いた。

    「ただいま、トレーナーさん。これ、美味しかったからお夜食にでもどうぞ」
    「ああ、ありがとう、お出かけ楽しかった?」
    「うん、知らないAIから連絡あったりしたけど楽しかった……ん?」

     ふわりと微かに漂う、甘い花の香り。
     私とも、メイさんとも、他のプロジェクトメンバーとも違う匂い。
     それなのにどこかで嗅いだことのある、妙に印象に残っている匂いだった。

    「……トレーナーさん、誰かと会ったりした?」
    「えっ、わかるのか?」
    「うん、少しだけだけど、匂いがする」
    「そっか、いや、少し散歩をしていたら偶然なんだけど」

     そしてトレーナーさんは楽しそうにその日の思い出を話し始めた。
     なんと街中で偶然、あのモンジューと遭遇したらしい。
     そして彼女から頼まれごとをしてヴェニュスパークと会い、食事を共にしたそうだ。
     ……なんか重要なことを伏せられてる気がする。
     あの子との出来事を、私に一つ一つ生き生きと話してくれるトレーナーさんの顔。
     とても楽しそうで、穏やかで、きっと充実した時間を過ごしてくれたんだなと思う。
     ────でも、なんだか、ちょっとモヤっとして。

    「私もレース映像見て良い? パンも少し食べたくなっちゃった」
    「それはいいけど……って隣に座るの?」
    「……ダメ?」

     少し困った顔でいいけど、という彼の背中に、私は尻尾を微かに擦らせた。

  • 177123/09/06(水) 00:59:35

     フォルスストレートからの最終コーナー、私は先頭で抜け出した。
     目の前に広がる長い直線、早めのスパートだったけれど脚はまだ十分残ってる。
     残っている力を振り絞り全力で前へ、前へと駆けていく。
     場内のどよめき、凄い勢いで後ろから迫ってくる足音、五月蠅いくらいの胸の鼓動。
     ゴールまで後僅か、勝利の二文字を意識した、その刹那。

     ────閃光が、真横を通り過ぎた。

     それは一瞬の出来事、吹き抜ける風の如く、一人のウマ娘が私を交わす。
     はためく青いマント、栗毛の髪と尻尾────フランスの無敗のウマ娘、ヴェニュスパーク。
     その姿を見た時、私は、舐めるなと思った。
     去年届かなかった後一歩、その一歩を埋めるため、何千、何万と歩みを続けてきた。
     それはきっとあの子だって、モンジューだって、リガントーナも同じだ。
     けれど私にはトレーナーさんが、メイさんが、プロジェクトのメンバーが、ファンの皆がいるんだ。
     たくさんの人と共に歩んだ、私“達”の歩みは、何億、何兆、何京もの歩みになっているんだ。
     だから、去年みたいに、行くと思うな────!
     もう力なんて残ってはいないけれど、気合と根性と意地で、無理矢理、前へと踏み出していく。
     一瞬だけこちらを見たヴェニュスパークが目を見開く。
     そして私は、彼女の、一歩先に出た。
     それはほんの僅かな一歩だったけれど、歴史を変える、大きな一歩だった。

     瞬間、レース場は大きな歓声に包まれる。

     一瞬なにが起こったのかを理解出来ず、トレーナーさんやメイさんの歓喜の声でようやく気付いた。
     ああ、私、勝ったんだ。
     瞬間、全身を震わせるような多幸感、達成感が脳を刺激する。
     トレーナーさん、私、最高のレースにとって、一番重要な要素がわかっちゃった。
     最高のメンバー、最高の場、最高の展開、そしてそれ以上に。

     やっぱり自分が勝つということが────何より重要なのだと。

  • 178123/09/06(水) 01:00:00

     ゲームならここでエンディングといったところだが、人生はまだまだ続く。
     凱旋門賞を終えてしばらくはゆっくり、とは行かなかった。
     日本のウマ娘初の、凱旋門賞制覇という快挙。
     その大きな名誉に対して、様々なメディア対応を私が行う必要があった。
     もちろん私だけの功績だなんて思っていないけれど、私が代表になるのは仕方ないだろう。
     最初はトレーナーさんも付いて来るつもりだったのだけど。

    「今度こそ、誰にも邪魔されずにゆっくりと羽を伸ばして欲しいな」

     そう言って、私はトレーナーさんにお休みを取ってもらった。
     流石に私一人だったら無理だったけど、メイさんが一緒に行動をしてくれる。
     彼女はメディア対応にも慣れていて、こういうのが苦手な私のフォローもばっちり。
     
     そして約一週間ほど日本全国を廻り────へろへろになって学園へと戻った。

     帰ってきた私はふらふらと一目散にトレーナー室へと向かった。
     そしてノックもせずに入室して、挨拶もほどほどに長椅子へ寝転がる。
     そんな私の姿を見て、トレーナーさんはただ微笑んで、寄って来てくれた。

    「……あーん」
    「お帰り、ちょっと良いチョコ用意したから」
    「むぐ……ジュース」
    「はいどうぞ、ストローでいいよね…………お疲れ様」
    「ちゅう……ただいま、トレーナーさん……あーん」

     だらけまくる私に、トレーナーさんは何も言わないで甘やかしてくれる。
     ああ、やっと日本に帰ってきたんだなあ、と私は思った。
     そんな安心感の中、私はひっそりと意識を落とした。

  • 179123/09/06(水) 01:00:21

     ぱちりと目を覚ますと、すでに空には赤みが差していた。
     身体には毛布がかけられていて、少しだけトレーナーさんの匂いがする。
     ちょっとだけ顔を埋める私に、声が届く。

    「あっ、起きた?」
    「……毛布、ありがとう」
    「どういたしまして、それでさ、実は君にとある有名人からメッセージがあるんだよ」
    「有名人? 嘉門達夫?」
    「……有名人って言われて一人目に出るのがその人なの? まあ、とりあえず見てよ」

     そう言って、トレーナーさんはスマホを私の正面に置いた。
     動画の再生ボタンをぽちりと押すと、そこには一人のウマ娘の姿があった。

    《『────、こんにちは、ヴェニュスパークです』》

     ……えっ、ヴェニュスパーク? 背景が日本の空港っぽいけど、日本に来てたの?
     そんな私の困惑を、当然ながら無視しながら動画のあの子は話を続ける。

    《『まずはお借りしていた貴女の“トレーナーさん”をお返ししますね?』》

     ああ、多分暇していたトレーナーさんが、彼女の面倒を見ていたのだろう。
     少しだけモヤモヤっとした気持ちが湧き上がるものの、まあ理解は出来る。

    《『────さんには、優しく、親身に、いっぱい愛してもらいました、ありがとうございます』》

     んん? 何かいきなりジャブかまして来たんですけど?
     というか何でトレーナーさんのこと普通に名前呼びしてるんですか? 愛してもらったって何?
     画面のヴェニュスパークの勝ち誇った笑みとトレーナーさんの穏やかな笑みを見比べる。
     ……そういえばこの子、褒め言葉として『愛』って言うんだっけ。
     じゃあ、まあ、多分、深い意味はないんだろう、うん、きっと、恐らく、めいびー。

  • 180123/09/06(水) 01:00:55

    《『凱旋門賞、素晴らしいレースでした。あのレースで共に走れたことを、誇りに思います』》

     胸に手を当てて、当時のことを誇るように、ヴェニュスパークは言う。
     それはまるで勝者を称える女神のようだったけど、本心はそんなもんじゃないだろう。
     私は良く知っている、一昨年の私がそうだったのだから。

    《『ですがそれ以上に、悔しくて悔しくて堪らない、私が、私が勝ちたかった……っ!』》

     悔しそうに彼女は表情を歪ませる。
     そして一呼吸おいてから、ぎらりと目を輝かせてこちらを射抜く。
     ああ、この子もそういう目、出来るんだ。

    《『あのレース以来、私には欲しい物が出来ました────貴女に対する“勝利”です』》

     ただの勝利ではない。
     自分を打ち負かした、私に勝ちたいと、彼女はそう宣言する。
     それを聞いて、私は思わず口角を上げる、上等だと、心の中で告げる。

    《『今回、日本に来たのも、それを成し遂げるための、道程の一つです』》

     ──そういえば、昨日、ヴェニュスパークのジャパンカップ参戦のニュースがあった。
     なるほど、この来日はその下見、というわけだろう。
     ジャパンカップかあ、この子も来るというなら是非出たいけど、どうだろう。
     そんなことを考えていると、画面の彼女の様子が、少し変わった。

    《『……それだけのはずだったんですけど、困ったことに、もう一つ欲しいものが出来ました』》

     そう言う彼女は、カメラからその視線を逸らして、カメラの後ろに向ける。
     何故だろう、反射的に私の中で警戒レベルが一気に最大まで引き上げられた。

  • 181123/09/06(水) 01:01:13

    《『私、こう見えて欲張りなんです』》

     そう言って彼女は画面に近づいて、カメラに彼女の服しか映らなくてなって。
     ちゅっ、という音が、聞こえて来た。
     …………は?

    《パッ、パーク!?》
    《ふふっ、感謝のビズ、です。触れる、してないです、アンシ~ン、ですね?》

     …………は??

    《『だから、全部獲りに行きますので、貴女もそのつもりで』》

     …………は???

    《これが私の────センセン、フコクです!》

     その言葉を最後に、動画の再生は終了した。
     一瞬、私は何を見せられたんだろうと思ったが、ふつふつの感情が湧きたってきた。
     もはやモヤモヤはメラメラと燃える炎となって、脳を焼き尽くさんばかり。
     そしてどこか楽しそうな笑みを浮かべるトレーナーさんは、私に問いかける。

    「それでな」
    「出ます」
    「……まだ何も言ってないんだけど」
    「ジャパンカップでしょ? 出る、絶対に出る、絶対に───勝つ」
    「おっ、おう、そっか、じゃあ手続きは進めておくね」
    「後トレーナーさんはこれから一週間甘やかしの刑だから、拒否権ないから」
    「なんで!?」

  • 182123/09/06(水) 01:01:49

     あの衝撃しかなかったメッセージ動画を見てからしばらくして。
     ヴェニュスパークは再度来日して、世間は沸き立った。
     もしかしたらトレーナーさんに会いに来るかもと警戒したが、流石にそれはなかった。
     ジャパンカップが終わるまではあくまで敵同士、ということなのだろう。
     ただし、メディアは放っておいてはくれなかった。
     凱旋門賞ウマ娘同士のマッチアップ、おまけに直前で戦ったばかり。
     これを見逃す手はなく、本番直前には私とヴェニュスパークの異例の合同会見が組まれた。
     この手の会見は苦手だが、凱旋門賞直後の一週間で大分鍛えられた。
     特に、メイさんが教えてくれたコツが役に立っている。

    「とりあえずは当たり障りのないことを言えば良い、だけどそれだけだとテンプレートの発言だと伝わってしまうから、最後に自分の本音を一言入れるんだ。それだけでその言葉は君自身の言葉に聞こえるようになる」

     このコツは実際役立って、あの全国行脚を支えてくれた。
     だから今回も同じようにしよう。
     会見本番、たくさんのカメラやマイクが向けられる中、私はジャパンカップのコメントを求められる。

    「海外から参戦してくださったウマ娘達は勿論、日本のウマ娘の皆さんも綺羅星のような実力者揃いで、皆とても侮れるような相手ではありません。私も全力を尽くし、凱旋門賞ウマ娘の名前に恥じないようなレースをしたいと思います。ヴェニュスパークには絶対に負けません」

     噛まないでちゃんと喋れた、と心の中で一息つくと、会場がどよめきとフラッシュに包まれる。
     ……なんか変なこと言っただろうか、トレーナーさんもヴェニュスパークも目を丸くしていた。
     しかし、直後ヴェニュスパークはニヤリと笑みを浮かべた、そうこなくては、と言わんばかり。
     そして、今度はあの子の番。

    「『日本のウマ娘の強さはプロジェクトL’Arcに関わらせていただいたことで、十分に知っています。きっと今回のレースも素晴らしい愛を感じるものになるでしょう。私も祖国の名前に恥じない走りを見せたいと思います。凱旋門賞の借りは必ず返します』」

     ……へえ、フレンチジョークって会長のダジャレよりは面白いんだね。
     私はヴェニュスパークに視線を向けると、彼女もまたこちらを強く見ていた。
     きっと、お互いに思っていることは一緒だろう。
     この勝負、絶対に譲れない。

  • 183123/09/06(水) 01:02:41

     天気は大雨、重バ場となったジャパンカップ。
     私とヴェニュスパークの間の枠入った子が気絶するとかいうアクシデントはあったものの、レースは開催された。

     その結果は────私とヴェニュスパークの、同着というものであった。

     そんな架空の小説みたいな展開があるのか、と考えながら私は心の底から思った。
     とても、とても悔しいと。
     見てる側だったら熱い展開だと思うけど、走ってる方としてみれば不完全燃焼極まりない。
     後ちょっと展開が違えば、後ちょっと前に出れれば、勝ち切れていたはずなのに。
     ちらりと、あの子の方を見る。
     彼女も悔しそうにその端正な顔を歪めていて、そしてちらりとこちらを見る。
     きっと鏡映しのようだったのだろう────二人揃って、同時に吹き出した。

    「……ケッチャクは、持ち越し、ですね?」
    「うん、一勝一敗一分、次は絶対に私が勝つから」
    「はい、ノゾムトコロ、します」
    「……変な日本語知ってるんだね、誰から教わったの?」
    「ふふっ、貴方のトレーナーさんです……♪」
    「………………ちっ」
    「『今舌打ちしました?』」

     一瞬下がりかけた警戒レベルが最大を越えてアラームが鳴り響く。
     冷たい大雨の中、私の体温は上がり続けていき、身体からは湯気が立ち上るのであった。

  • 184123/09/06(水) 01:03:08

     後日、私とヴェニュスパークはすぐに再会することとなった。
     どうやら、今度日本に来る時は、観光地を案内するとトレーナーさんが約束していたらしい。
     何で知っているかというとお手製のしおりをいそいそと作っていたからである、小学生か。
     そして、当日、私とトレーナーさんはヴェニュスパークと合流する。
     彼女の勝負服を思わせるような、清楚なワンピース姿。
     ……可愛くて綺麗だなあ、きっと私生活もしっかりしていて、部屋も整理整頓されてるんだろうな。
     さて、会話したことは何度もあるけど、こういう場での挨拶は初めて。
     天敵とはいえ、しっかりとしないといけない。

    「ふしゃー! がるるるる……!(こんにちは、今日は日本を楽しんでくださいね)」
    「挨拶出来て偉いな、次は人間の言葉で話してみようか」
    「ふふっ、コンニチハ、です。私服もカワイイ、してますね?」

     花が咲くような、天真爛漫な笑顔でヴェニュスパークは手を差し出した。
     警戒しまくっている自分が馬鹿らしくなるほどに、純粋で、真っ直ぐな笑顔。
     …………ああ、ダメだ、敵だけど、ライバルだけど、この子のこと嫌いになれそうにない。
     私も手を差し出して、握手をした。
     更に顔を明るく、楽しそうにする彼女に、思わず私も顔を綻ばせてしまった。

    「じゃあ早速、On y va!」
    「えっ、ちょっとパーク……!」
    「……は?」

     ヴェニュスパークはトレーナーさんに身体を押し付けるように腕を組み、進んでいく。
     それを見た私は慌てて付いて行き、反対方向の腕に抱き着くのであった。
     なお、すぐトレーナーさんに怒られて、両方とも少し離れて歩くこととなった模様。
     二人揃って唇を尖らせて、それを見てお互いに揃って笑ってしまった。

  • 185123/09/06(水) 01:03:42

     ほんの数日ではあったけれど、パークと過ごした日々は、とても楽しかった。
     あの子は日本のちょっとしたことに目を輝かせて、いつも楽しそうにしている。
     それを見た私やトレーナーさんも、思わず笑顔になってしまうほど。
     いるだけで周りの人を笑顔にしてしまう────それが彼女の魅力なのだろう。
     彼女がフランスに戻る時には、寂しくて、お互いに泣きそうになるほど仲良くなっていた。
     そして、来年の凱旋門賞でも会おうと約束して、私達は別れた。

     …………まあ、結局のところ、その間にも何度かレースで会うのだけど。

     ジャパンカップ以降、私達は海外のレースを中心に走っていくこととなった。
     一つは更なる最高のレースを求めていくため。
     そして、もう一つは、パークを私自身が強く意識してしまっているためだ。
     私の走りは、自分の気の持ちようが良くも悪くも、強く影響してしまう。
     そして、その影響が最大限にプラスに出るのがパークがいるレースだと、トレーナーさんが判断した。
     ……まあ納得しかない、私にとっては天敵で、ライバルで、友人なのだから。
     そんなわけで凱旋門賞に至る間も、勝ったり、負けたり、揃って捻られたりして。

     あっという間に一年が経って、再度遠征に行く時期になったのだが。

    「うっ……うーん……」
    「何で調子悪いのに滝行なんてしたの……?」
    「病は気からって……言うから……」

     私は生まれて初めての風邪にかかり、寝込んでしまっていた。

     今年からはプロジェクトを外れて、自分達で色々しないといけないのに、なんて不覚。
     滞在中に協力してくれるパークにも、悪いことをしてしまった。
     遠征する予定だった日の直前、トレーナーさんは難しい表情でお見舞いに来てくれた。
     美味しそうなフルーツに、お高そうなチョコと、雑誌。
     それを置きながら、彼は言った。

  • 186123/09/06(水) 01:04:07

    「実は……俺だけでも先に行った方が良いかなって思ってるんだ」

     少し驚いたけど、納得はあった。
     フランスでやることはたくさんある。
     トレーナーさんに私の風邪を早く治す方法はなく、国内でやることはない。
     プロジェクトから外れたとはいえ、メイさん達との関係はちゃんと残っている。
     風邪そのものは大したものではないので私は完治してからメイさん達と行けば良いし、先にトレーナーさんに行ってもらって手続きを進めてもらう方が効率的だろう。
     ────それはわかってるんのだけど、どうしてもパークの顔がちらつく。

    「危険だから……行かない方が良いと思う」
    「いや危険って、ほら、向こうにはパークもいるし」
    「……トレーナーさんは釣りに行って餌だけ海に叩き込むの?」
    「どういう例えなんだそれは」
    「トレーナーさんはサバンナじゃ生きていけないよ……!」
    「自分なら生きていけると言わんばかりだな……いや大丈夫そうだけども」

     色々と我儘は言うものの、心のどこかでは仕方ない、と思う自分がいる。
     しばらくの間はごねてみたけれど、最終的には、トレーナーさんの渡航に渋々了解した。
     先に行くといってもほんの一週間もないはずだ。
     そのくらいの間ではパークだって何も……いやどうだろう……ちょっと自信なくなってきた。

     そして、彼が日本を発って、次の日の夕方。

     パークからLANEのメッセージが届いた。
     ……この時間ならフランスでは早朝といえる時刻だったはずである。
     トレーナーさんと無事合流したのは今日の深夜に聞いたし、どうしたのだろう。

    《『今大丈夫ですか? 元気の出る画像を送ろうかと?』》

  • 187123/09/06(水) 01:04:42

     ……あの子ったら。
     私はそんな心遣いに嬉しくなりながら、大丈夫だよ、とメッセージを返す。
     でも元気の出る画像ってなんだろう、去年の凱旋門賞ゴール前の写真とかかな。
     ピコン、と画像が送信される。

     気持ち良さそうに眠るトレーナーさんと笑顔でピースをするパークのツーショット写真だった。

     私は激怒した。必ず、かの放蕩淫乱の雌を除けねばならぬと決意した。
     私には事情がわからぬ。風邪をひき、床に臥せって暮らしてきた。
     けれどトレーナーさんに対しては人一倍敏感であった。
     次の日の朝、私は学園を出発し、海を越え、空を越え、二千五百里離れた此のフランスの地にやってきた。
     
     風邪? 写真みた瞬間一瞬で治ったよ! ああ、元気出たね! パークありがとう!
     お医者さんに無理矢理許可もらって、メイさんに勢いで納得してもらって、私は日本を発った。
     途中、パークへの宣戦布告用と非常食用にフランスパンを買うのも忘れずに。
     そして半日以上のフライトの後、私はフランスの地に辿り着いたのであった。
     到着口に辿りつくと、私はすぐにトレーナーさんとパークを見つけることが出来た。

     ……なんかあすなろ抱きしてるんだけど、何やってんの?

     トレーナーさんはそんなことをは全く意識せず、能天気な顔をしている。
     私は大きなため息をつく、なんというか相変わらずで安心した。
     そして、少しだけ目頭が熱くなる。
     会えなかったのは数日なのに、いつから私は寂しがり屋になったんだろう。
     安心したせいか、くぅ、とお腹が小さく鳴ったので持っていたフランスパンを少し齧る。
     食べながらゆっくり歩いていき、トレーナーさんとパークの前にたった。
     少し困惑しているパークと、感心しているようなトレーナーさん。
     ……ああ、この顔だ。
     相手の気持ちを細やかに理解しながら、変なところでズレていることを考えている顔。
     つまるところ、いつものトレーナーさんが、そこにいた。

  • 188123/09/06(水) 01:05:25

     ……ああ、何を言おうかな。
     何しているのか、だろうか。
     それとも、風邪を引いてごめんなさい、だろうか。
     話したいこと、言いたいこと、怒りたいことで胸がいっぱいで言葉が出ない。
     だからまずは目で訴えて、一つ一つ問い詰めていくことにしよう。
     私はパークから送られた写真をスマホに表示させて、トレーナーさんに投げつけた。
     彼は慌ててキャッチして、パークは何かを察したように顔を伏せて密かに笑う。
     そして、私は顔を近づけて、目で訴えかける。
     その写真は何、そしてそのあすなろ抱きは何。

     それと────ただいま。

     最後は、多分伝わってないんだろうなあ、そんな気がした。

  • 189123/09/06(水) 01:05:48

    お わ り
    散々扱いが悪かったので最後くらいこの子の話でええやろ……。
    これで完全に終わりになります、読んでいただきありがとうございました。

  • 190素晴らしい物を見せてもらった23/09/06(水) 01:11:06

    >>私は激怒した。必ず、かの放蕩淫乱の雌を除けねばならぬと決意した。

     私には事情がわからぬ。風邪をひき、床に臥せって暮らしてきた。

     けれどトレーナーさんに対しては人一倍敏感であった。

     次の日の朝、私は学園を出発し、海を越え、空を越え、二千五百里離れた此のフランスの地にやってきた。


    この子の名前に「メロス」の単語入ってる説

  • 191二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 01:17:55

    もう続きはないと思っていたのに

  • 192二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 01:33:56

    担当が思ってたより野生児で草
    これからもトレーナーさんを取り合いつつパークとバチバチやっててほしいね

    めっちゃ面白かった、ありがとう

  • 193二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 02:17:39

    よくよくみたらメイさんの下りでトレーナー諸君の私怨入ってないかい?

  • 194二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 02:44:29

    挨拶もしないメイさんと知らないAI 草
    というか、これが寝取られ視点か、いきなり出てくる外国美少女に奪われるの怖すぎだろ...

  • 195二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 06:25:12

    ブラボー!おお…ブラボー

  • 196二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 06:43:15

    担当ちゃん視点助かる…ありがとう

  • 197二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 07:19:44

    担当側の掘り下げ嬉しい

  • 198二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 07:40:04

    担当ちゃん視点の話のおかげでなんか凄く担当ちゃんに感情移入しちゃった
    トレーナーに多分そういう気はどっちにもないんだろうけどなんとも後味が苦い

  • 199二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 08:52:38

    こいつっ……最後の最後にとんでもねえモン叩き込んで来やがった!
    ありがとう!
    三人のこれからが幸せであるように!

  • 200二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 08:53:08

    おしまい!

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