- 1二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:20:43
「これは?」
薄青色の瞳が漆塗りの輝くかんざしを不思議そうに見つめていた
『それは、かんざし。俺の故郷だと女性が髪を飾る時に使うやつ』
「なぜそれを私に?」
『ほら、"妻"って文字はかんざしで髪を整え飾る女の人から来てるから……って昔国語の先生が言ってた』
妙に照れくさくなり、言葉尻が窄んでいく。いかに多くの局地を乗り越えようとその根底は未だ年端もいかぬ少年。こういう一つ上の男女付き合いには照れというものが隠せなかった
「…つまり、私にこれをつけて欲しいと」
『いや、嫌ならいいんだ。ただなんとなく昔を思い出して、懐かしいなーって思って衝動的に……』
「我が夫よ、その記憶は貴方にとって大切なモノなのですか?」
モルガンがその白い指でかんざしを撫でながら、その動機にあたる記憶の価値を問いてきた
『大切というか…多分こういう何気ない思い出が、いつか全てが終わった時に俺の帰り道になってくれると思うから…そういう意味では大切かな』
質問に対し、はにかみながらも答える。何気ない思い出とか、帰り道とか、よくある言葉なのに自分が使うとどうにもこそばゆくて、答える口と視線が下を向きがちになる
「……わかりました。これはありがたく頂戴します。…それと」
『?』
モルガン「その思い出達は大切にしまっておきなさい。帰り道がわからなくて道の途中で泣かないように」
そっと、細く、少し冷たい白い指先が髪を撫でる。その昔、母がしてくれた暖かいものでも、父がしてくれた豪快なものでもない。師走の空から降ってきた雪が頭の上に溶け落ちるような、そんな不快感とも違う冷たくて優しい感触。それを少し、ほんの少し─もしかしたらちょっと長い間、ただ受け入れ続けた - 2二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:22:19
いいぞその調子だ
もっとやってくれ - 3二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:23:16
とても良きSS
ただCPネタなら最近難癖付けてくる奴がいるから出来ればスレタイに表記しといたほうが良いぞ - 4123/08/29(火) 16:25:16
- 5二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:25:58
八周年公式絵の着物妻に似合いそう
- 6二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:41:10
縁日でプレゼントされた指輪が生涯の宝物になるという比喩表現
あまりにも好き - 7二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:42:40
さらっとデートみたいなことしてるところで言ってるといいよね
- 8二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:46:53
こういうやりとりを一つ一つ積み重ねていくことによって言葉通りの夫婦関係つまりバレンタインの新婚モードに突入するんだろうなと思う
- 9二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:49:04
ムッッッッッ
故郷の品物をプレゼントするのいいね - 10二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 17:12:58
最後に取り戻した世界で、一緒に夫婦として過ごす中で改めてモルガンの髪についている…そんな展開、いいと思います
- 11二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 17:20:26
『うわぁ〜!縁日だ!』
朝起きて眠い目を擦りながらモルガンに手を引かれるままに歩いていると、石畳の階段の先に懐かしい縁日の光景が広がっていた
『凄い!これモルガンがやったの!?』
「えぇ、これくらい造作もありません。そんなに喜んでもらえるのなら今度はビーチでも作りましょうか?」
目をキラキラと輝かせる立香。しかし、その景色のあまりの"既視感"に少し疑問を覚え始めた
まるでここに一度来たことがあるような、そんな気になっていた。その疑問にモルガンは答える
「この景色は、マスターの記憶から再現したものです」
『俺の……記憶…』
「以前あなたは言いました。何気ない思い出がいつか帰り道になる。…私はその何気ない思い出がどれほどのものか、表す言葉は持ち合わせていません…ですから、形にしてみたのです」
「さぁ、今宵の祭りは2人きり。楽しみましょう」
縁日には多くの出店が並んでいた
鉄板の上でソースが焦げるニオイが鼻腔をくすぐる焼きそば屋、子供達が列を作る綿飴屋、当たるかどうかも怪しいくじ引き屋、店主が暇そうに欠伸をかいている金魚掬い屋
祭囃子に急かされて馳せる気持ちを抑えながら、思い出の陰の人混みを進む。いつのまにか着替えていた浴衣の雪駄のならず音が妙に響く。隣を歩くモルガンとはぐれないように時折振り向いては、その度に少し上がった口角に顔が熱くなる
一通り見て回った二人の手の中にはいちご飴とりんご飴が握られていた
流石に食べ物を持って人混みの中を進む気はおこらず、二人は境内に設置された仮設のベンチに腰掛けて夜風に吹かれ涼んでいた
3段重ねのいちご飴の1段目を食べ終わった時、モルガンがそれに視線を向けていることに気づいた - 12二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 17:22:00
『食べる?』
「…それでは、一口だけ」
その小さな口で飴を噛み砕き、イチゴの果肉を咀嚼する様子を見てなんだか小動物みたいだなと感じていると、モルガンからりんご飴を差し出された
「私だけが一方的に与えられるのは不公平です。ほら、マスターも」
貰えるならばありがたい限りではあるが、いささか問題もあった。モルガンがこちらに差し出してきたのはモルガンの齧った跡のある方なのだ。これでは…
『ちょっ…モルガンこれじゃ関節キッス……』
「何か問題でも?」
この妻、一歩も引く気は無いようである。となれば拒み続けるのもできないわけで、ついに折れてモルガンの噛み跡の上を齧るようにりんご飴を咀嚼する
口内で棘のように突き刺さる特有の飴の感触と、しゃりしゃりと食感の楽しいリンゴを楽しんでいると、モルガンが不意に口を開く
「りんごの花言葉を知っていますか?」
『ふぇ?』
「りんごの花には「優先」や「好み」という意味があります。そして果実の花言葉は「誘惑」」
そういうと、彼女は少しサディスティックな笑みを浮かべた。いつものモルガンっぽく無い笑みと、誘惑という言葉に心臓が早鐘を打つ。ギャップ萌えというやつだろうか、危うく見惚れるところであった。しかも、モルガンは贈ったかんざしまでつけていて、なんだかお祭りに来たカップルみたいだと余計にドキドキが止まらない - 13二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 17:22:13
「それと、いちごにも花言葉があるのですよ」
「いちごの花言葉は「尊重と相性」、それと「幸せな家庭」」
『あ、いや!そんなつもりじゃ無いんだよ!そういうつもりじゃ…』
「そんな…とは?どんなことを考えていたのですか?」
墓穴を掘ってしまった。やはり、妖精の女王。変な事を考えているとすぐに見破られてしまうようだ
『あー…えーと、それじゃぁさ!今度はバーヴァン・シーも連れてこようよ!ほら、やっぱりお祭りで食べるって美味しいしさ!きっと喜んでくれると思う…し…』
焦って話題を逸らそうとするが、やっぱりこちらに微笑みかけて見つめてくるモルガンの謎のオーラで言葉は尻すぼみになってしまう
それに、彼女は「今宵は2人で」と言ったのだ。いくら娘とはいえ名前を出すのは不味かっただろうか…
「…いいですね」
『本当?じゃぁ、今度は3人で来ようか』
意外と大丈夫そうだった。むしろ喜んでいる?ように見えて、我ながら土壇場の対応力には光るものがあるなと、心の中で自画自賛する
「えぇ、次は"家族3人"で来ましょうか」
とても優しく穏やかな母の笑みを浮かべてそう言った - 14二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 18:42:47
強か…
- 15二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 18:50:02
幸せ家族を思い浮かべて優しい気分の妻すき
- 16二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 05:24:08
素晴らしいSSを見た‥
- 17二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 12:13:58
妻がいるなら、家族(子供)が増えるのも当然…
- 18二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 12:15:19
幸せ家族計画立てなきゃ
- 19二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 23:59:52
これはもう家族だ‥
- 20二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 06:16:56
これは次の次には弟か妹がいる