【SS注意】妖精女王モルガンの夫ぐだ概念【妄想】

  • 1二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:37:14

    そこは誰もが楽しく遊ぶ妖精國。天を衝く大樹の見下ろす、少しだけ心優しい妖精たちと傷ついた人間たちの理想郷。
    少しだけ心の優しい女王には、一人の夫がいるそうな。
    凡庸なれども凡夫でないその少年の、美しい青き瞳は棺の中。
    小さな勇者が剣を掲げるその時、小さな奇跡が起きる___

    (夏映画系なんかいい感じのBGM)(青空をバックに浮かび上がる明朝体フォントのタイトル)

  • 2二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 16:38:29

    >>1

    ヴィヴィアンを名乗ってそうな妻だ

  • 3建て主23/08/29(火) 16:52:08

    ・基本設定・

    ・この国の異聞帯の妖精國や汎人類史の妖精とは異なり、善性にやや傾いている。人間からは純粋で騙されやすいが心優しいという評価。
    ・人間と妖精の関係はツーカー。仲良く暮らしてもいれば同時にライバル同士として睨み合っている関係もある。
    ・『悪い王様』のオベロン・ヴォーディガーンがたまに手下のモースを送り込んでくる。モースは人間や妖精の兵士が力を合わせて倒し、たまの『大戦争』の際にはモルガン率いるガースー黒光りモルガン軍団が総出で倒しにかかる。
    ・女王モルガンが厳しくも優しくみんなを導く。穏やかな雨の魔女トネリコ時代とえらい大違いだがこれは『嘗められないように』というかつて彼女が淡い恋心を抱いていた幼馴染のウーサーからのアドバイスがもとになっている。
    ・異邦の魔術師がモルガンを巡ってライネックと起こした『オークニーの決闘』は語り草。
    ・バーヴァン・シーはみんなの人気者。憧れのお母様を真似て男勝りな言動をとる。

  • 4建て主23/08/29(火) 16:54:00

    落ちないように気を付けますが落ちるかも・・・!その時はまた立て直します。
    あと、パッションに駆られるまま書いてるので矛盾やキャラ崩壊が起きます!絶対!
    こまけえこたぁいいんだよ!って人だけ読んでください!

  • 5建て主23/08/29(火) 17:05:00

    「聞いて、ランスロット。最近、人間の魔術師がコーンウォールにいるのですって」
    その異邦の魔術師のうわさが最初に入ったのは、人間と妖精が仲良く暮らすソールズベリーであった。
    そこの領主、オーロラは流行りものに目がなく、トレンドには耳ざとく、下級妖精たちの憧れの的だ。
    彼女は虹色に輝く翅の持ち主である。金糸の睫毛が物憂げな瞳をいろどるさまはまさに人間が思い描く妖精そのものだ。
    オーロラは今日も美しい、きっと明日も美しいぞ、と妖精騎士ランスロットは思った。
    「魔術を使う人間がいるのはそんなに珍しいことじゃないよ、オーロラ。
     ・・・ああ、ひょっとしてきみは、人間がコーンウォールにいるのが心配なのかな?」
    『この』妖精國では人間がたまに流れ着いてくることがある。そんな中には魔術を使う者もおり、珍しがられる。
    (妖精は本気を出せばたいがいのことはなんとかなるので、珍しがられるだけだが)
    コーンウォールは危ないところだというのが人間と妖精共通の意見だ。
    あそこは滞在するものの記憶を奪う濃霧に覆われ、集落は数える程度しかない。目的を見失った傷心の妖精か、捨て鉢になった人間くらいしか、自らあそこに住みたがりはしないだろう。
    暗い沼にいた自分を引き上げてくれた彼女は心優しく、優れた為政者として評判だ。
    人間と妖精がいがみあわないように力を尽くし、身寄りのない孤児も進んで自らの経営する孤児院に引き取ってくれる。
    少しだけ無邪気で、目立ちたがり屋なところに目をつむれば、彼女ほどソールズベリーの統治者として優れた妖精はいるまいというのがランスロットの見解だった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 17:06:30

    >>4

    夏イベで公式が教えてくれたのは、「無限の可能性」があるということ、「創作」とはパッションであるということだ

    気にせず綴りたまえ

  • 7二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 17:12:36

     面白いから応援します。

  • 8二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 17:17:21

    >モルガン率いるガースー黒光りモルガン軍団

    !?

  • 9建て主23/08/29(火) 17:32:04

    「まあ、ランスロットったら。ええ、その通りよ。
     あそこは最近、モースが多く発生するようになったわ。また悪いヴォーディガーンの仕業でしょうね。
     か弱い人間があんな危ないところにいると考えるだけで、私の翅は曇ってしまうの」
    私室の中、オーロラは心配そうに目元を曇らせた。この部屋にオーロラ以外で立ち入ることを許されているのは側近のコーラルと自分だけ。それがランスロットの密かな自慢だった。
    閑話休題。
    「わかったよ。ようは、僕にその魔術使いの様子を見に行けというんだろう?
     任せて。恋人の頼みともあらば、断る理由はどこにもないしね」
    そう言うと、オーロラは本心から安心したようにほうと息をついた。

    ~コーンウォール上空~

    風を切る音が耳に心地いい。
    コーンウォールの濃霧も届かない高い空は人間にとっては身も凍るような寒さであるが、ランスロットにとっては涼風も同然だ。
    「・・・」
    濃霧に目をこらしていると、ガキィン、キィン、と刃が打ち合うかすかな音が耳に届いた。ドラゴンイヤーは地獄耳である。
    「あそこか」
    目に力をこめると、確かに霧の隙間でなにかがうごめいている。人間を極端に単純化したようなモースの群れが、なにものかにずんばらりとチーズめいて切り裂かれているのが見えた。
    霧に触れないように高度を落として、より観察する。人影は二人。一人は男であったが、金色に輝く剣を振り回し、もう片方の年下の少年は少し離れたところでそれを援護しているように見える。

    ~立香サイド~

    しばらくして、戦いは終わった。
    倒れたモースたちが、まるで糸がほどけるように霧散していくのを見ながら、白磁の肌の魔術師は剣を鞘に納めた。
    「マイロード、ケガはないかい?」
    声をかけられる。荒い息を鎮めていた魔術師ははっと我に返った。
    「ああ、うん。心配してくれてありがとう、・・・」
    お互いに、服に縫い付けられたへたくそなアップリケを注視する。そこには、あまりうまくない字で「マーリン」「フジマルリツカ」と書いてあった。

  • 10二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 17:36:04

    ありそうでなかったなこういうの

  • 11二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 17:47:10

    もうわくわくしてるぜ

  • 12建て主23/08/29(火) 17:49:43

    「・・・大丈夫だよ、マーリン」
    「ここの暮らしは慣れないね、リツカ」
    二人はここの近くにある集落、ティンタジェルのお世話になっている。身を寄せ合って暮らす戦闘能力のない妖精や人間たちの代わりに、彼らはモース退治を引き受けているのだ。
    もちろん、理由はそれだけではないが。
    「・・・ここの花畑もやられたね」
    マーリンが淡く微笑みを__よく見ればそれは苦み走ったものであるとわかる__浮かべて、しゃがみこむ。
    足元には、かつての輝きが見る影もない枯れた花々が、哀れに首を垂れていた。
    「ここも、もうだめか・・・」
    彼らは花を守っていた。モースが多くはびこるこの地域ではモース毒に地面が侵され、まともに花が咲く地域はごく限られている。このあたりの土地が数少なく毒に侵されていない所で、努力の結果高値で買い求めた花が咲くようになった___それなのに。
    「やっぱり大本を絶たなくちゃ・・・」
    モースは、『悪い王様』ヴォーディガーンが送り込んでくる。ブリテンに強い憎しみを抱くヴォーディガーンは、こうして『悪い妖精』のモースを送り込んでブリテンの国土をじわじわと侵食しているのだ。
    都会は女王モルガンによって守られているが、コーンウォールといった末端の場所はそうはいかない。
    もちろん、このブリテンがとてつもなく広大な島であるのが原因であり、女王に非はないのだが。
    リツカは薄茶色にくすんだ花々の前にしゃがみこむ。
    「・・・ごめんね・・・」
    魔術の行使で荒れた指先が、壊れ物を触るような優しさでしおれた花に触れた。

    ~ランスロットサイド~

    「さて、僕はどうするか」
    ランスロットは空中で悩む。
    二人を見た瞬間『視えた』ものは、およそ看過できないものだった。今すぐにでも二人を連れてキャメロットへ向かうのが最善と言えよう。
    しかし霧の中に入って彼らに話しかけるのは簡単だが、コーンウォールの濃霧は彼女にも効き目がある。
    ランスロットは厳密には妖精ではないが、妖精騎士の名を冠する以上目的を見失ったリスクは看過できない。
    そして彼女にとって、『オーロラ』という目的を失うのは死も同然であった。
    悩んで、決めた。
    「・・・明日は早起きして、女王陛下に事情を伝えよう」

  • 13建て主23/08/29(火) 18:07:20

    とにかくこういうときは報・連・相。別の歴史から持ち込まれたこの文化を優しくも厳しい女王は喜んで取り入れた。
    ランスロットは早起きは苦手である。社会活動もそうだ。だがしかし、視えたものは『もっと寝ていたいなぁ』という欲望を上書きするほどの衝撃的な未来だった。愛するオーロラが危険に巻き込まれるというのなら、なおさらだ。
    ランスロットは空中で踵(?)を返した。

    ~モルガンサイド~

    「報告ご苦労。もう下がってかまわぬ」
    その翌日、休日でありながら寝ぼけ眼をこすり、こすり、やってきたランスロットの報告を聞いて、その場にいた妖精騎士ガウェイン、トリスタンが少なからず動揺する中で、女王モルガンのみが平静を保っていた。
    「(黄金の剣を振るう魔術師・・・もしやそれは、かの『エクスカリバー』ではないのかしら)」
    ガウェインは動揺していた。憧れる騎士王伝説の中に登場する聖剣と酷似した剣を、その魔術師が振るっていたのだから。
    「(メリュジーヌの野郎、シラフで言ってんのかよ・・・!?世界で一番すごい魔女のお母様に仕えていながら『厄災』の到来を予言するなんざ、エインセルにでもなったつもりか!?)」
    トリスタンも動揺していた。最愛なりし女王モルガンの治めるこの妖精國が、近いうちに大嵐に見舞われるという話を聞いて、その心中は大嵐であった。
    ___『厄災』とは、かつて鏡の氏族長エインセルが予言した、ブリテンを襲う嵐の総称である。
    しかし彼女を驚かせたのはそれだけではない。むしろ厄災の予言は些細なことだった。トリスタンにとって、己の実力への自負と敬愛する母への信頼はそれだけのものであったのだ。
    「お前、正気で言ってんのかよ!?女王陛下とその人間が、けけけ結婚する未来が見えただァ!?」

  • 14建て主23/08/29(火) 18:07:57

    エインセルがなぜか禁止ワードされたので半角カナにしました。くそがぁ。

  • 15建て主23/08/29(火) 18:31:26

    「そうだよ。それがなにか?」
    「バカヤロウ、重要な話だろそれは!!『厄災』は私たちが力を合わせればどうにかなるだろうがよ、おっ、お母様がどこにでもいる人間なんかと結婚なんざするわけねーだろ!!寝言だってまだ整合性があんぞ!!」
    そう、寝言の方がまだまともなことを言っている。
    女王を讃える言葉は、どれだけ並べても足りないくらいだ。誰よりも優れた魔術の使い手で、気高く、優しく、厳格で、公平で、品行方正で。思うだけで胸が尊敬と愛情ではちきれそうになる自慢の母親、それがモルガン女王だった。
    そんな彼女がどこの誰ともつかない人間と婚姻を結ぶ?酔っ払いのたわごとのほうがまだましだ。
    「口を慎め、トリスタン。女王陛下の御前だぞ」
    ガウェインが平素を装いながら口をはさむ。しかし興奮したトリスタンの勢いは止まらない。
    「だいたいな、お前の予知なんか今まで『たまたま』当たってきただけで私は信用なんかこれっぽっちも___」
    「バーヴァン・シー」
    モルガンの一声に、トリスタンは反射的に「はいっ!」可憐な声で答えた。
    彼女がいずれ女王になる立場として嘗められないように、言葉遣いが男勝りになる前の名残を微笑ましく思いながら、
    「なぜお前はそうなのだバーヴァン・シー・・・私はエインセルと同じようにランスロットの予知を重宝している。
     人の気持ちを勝手にわかったような気持ちになって勝手に熱くなったり傷ついたりするのはお前の悪い癖だ」
    「でも・・・!」
    「なにより、個人の恋愛事情はその者の勝手。お前の気持ち一つで決めることではない」
    「う・・・」
    トリスタンも黙るしかない。その叱られた仔犬のようなたたずまいにモルガンの心は一筋血を流したが、ここは心を鬼にせねばなるまいと気を引き締めた。
    「みなのもの、心を鎮めよ。私は誰とも婚姻を結ぶつもりなどない。
     なぜならばこのブリテンは小石一つまで私の所有物。自らの物であると証を立てる必要などどこにもないからだ。
     ガウェイン、コーンウォールに向かってもらおうか」
    「は。ただちに我が兵に女王陛下がお作りあそばされた『霧』を防ぐ魔術礼装を備えさせ、民の避難誘導を行います。その人間の魔術師はどうされますか」
    「人間の魔術使いなど珍しくもないが興味が湧いた。その剣使いともども保護し、連れてくるように」
    「は」
    「ちょっとお母様!」

  • 16建て主23/08/29(火) 18:45:01

    「ひかえよ、バーヴァン・シー。もとよりコーンウォールにはいずれ我が手を入れねばならぬと考えていた。
     その人間には興味が湧いただけ。何者か調べた後はソールズベリーにでも送るとも」
    「あのー・・・」
    トリスタンがなおも反論しようとしたとき、眠たげな声が空気を撫でた。
    見ると、ランスロットが今にも眠ってしまいそうな雰囲気でそこにいる。
    「・・・僕帰ってもいい?」

    ~トリスタンサイド~

    「ちぇっ。ちぇっ。なにが結婚だよ、メリュジーヌのホラふきが」
    自室でトリスタンは荒れていた。
    最愛の母が結婚するかもしれないという情報が、彼女の心の中で大嵐になって吹き荒れていた。
    「ニュースペーパーの内容も最近じゃつまんねぇヤツばっかだし、あーあ、今日は厄日だぜ」
    ベッドにばふんと身を預ける。取り替え(チェンジリング)で流れ着いてきた青色のナマコめいた動物のぬいぐるみは、彼女のいっとうお気に入りだ。
    「なー聞いた?ヌオー。お母様がどこの馬の骨とも取れねぇ人間と指輪を交わすかもしれないんだって。
     ふざけてるよな。私がそういう運命にあるってんなら運命ごとぎたぎたにして踏みつけてやるのに」
    そして、そんな『彼』に誰にも言えない悩みを打ち明けるのが、トリスタンの習慣だった。
    「・・・私、どうしたらいいんだろ。ほんとのところはわからないの。
     あんな弱っちい人間なんかにお母様を取られるのはシャクに触るわ。
     でもお母様が幸せなら万事オーケーでもあるの。どうしよう、どうしたらいい?」
    思わず素が出てくるバーヴァン・シーに、ヌオーは答えない。真面目で彼女の悩みを笑わず、いつも真摯に話を聞いてくれる彼は、口が重いのが玉に瑕だ。
    トリスタンはしばらくもだもだしていたが、やがて飛び起きた。
    「うだうだしてんのは私の性に合わねー。よし、直接見に行ってやる!
     そいでもって、もしどうしようもないクズとかだったらぶちのめしてやりゃあいいもんな!」
    即断即決、ワガママ・気まぐれ・残酷な妖精騎士トリスタンらしい発想である。
    トリスタンはベッドから飛び降りて三歩歩き、「ぎゃふんっ!」とすっ転んだ。
    「・・・ほんとに厄日だぜ」
    ひねった足をかばいながら、彼女はそう毒づいた。

  • 17建て主23/08/29(火) 19:12:59

    テーピングした足をかばいながら、兵の一人からぶんどった魔術礼装を身に着けて『霧』の中を進む。
    手を伸ばせばたちまち灰の霧に飲み込まれ、礼装で護られているにも関わらず気を抜けば自分が誰なのかあいまいになってしまいそう。
    「相変わらず陰気なところだよな・・・」
    『水鏡』でティンタジェルにはすぐたどり着いた。ガウェインがこちらを見ながら苦々しく言う。
    「モルガン陛下からの許可もいただいたゆえに貴様の同行を許したが、荒事は起こすなよ?
     一時の感情に身をゆだねて後で泣きを見るのはトリスタン、貴様なのだからな」
    「はいはい、わかってんだよそんなことはよ」
    陰気な霧の中にいるのは華やかを好むトリスタンにとっては苦痛である。兵士たちに見守られながら『水鏡』にとぼとぼと吸い込まれていく人と妖精を見送りながら、彼女はさっさと件の魔術師が出てきてくれるよう祈った。
    「あ・・・?」
    その時、青を見た。薄暗い濃霧の中にいてもなお美しい、透き通った青色。
    そこにいたのは、平凡な顔立ちをした少年だった。誠実そうな、醜いわけでも、整ってるわけでもない凡庸な顔にはめ込まれた二つの青い瞳が、そこだけ宝石のように輝いていた。
    一瞬、時が止まる。
    「やあ、きれいなお嬢さんが二人もやってきてこの村の民を避難させてくれるとはまさに僥倖。
     よかったらLINE交換しない?」
    「んだよ、お前」
    その背中からひょいと出てきた長身の男に、トリスタンは呆れた声を出した。
    こっちは少年と違って美しい__自分たちの同類だとわかる__顔をしていたが、ふんにゃりと緩んだ表情には男にあるべき精悍さといったものが一かけらもない。こんな奴らが、とトリスタンは内心拍子抜けした。
    ガウェインがつかつかと歩み寄り、握手を求めた。
    「私は妖精騎士ガウェイン。女王モルガンの命によりこの村の住民の保護に来た。
     長らくこの村を我らに代わって守ってくれたこと、感謝する」
    「おやおや、かの誇り高き妖精騎士から直接お褒めの言葉にあずかるとはうれしいな。
     よければどう?この後お茶でも」
    「マーリン、今はそんな場合じゃないでしょ」
    少年がたしなめた。こちらを少し警戒している目をしながら、
    「・・・キャメロットを守る妖精騎士が二人も、どうしてこの村へ?住民の保護と言っていますが、あまりにも急では」

  • 18建て主23/08/29(火) 19:13:23

    「ああ、それは___」
    「あーもう面倒くせえ。いちいち遠回しに話してもしょうがねーだろバーゲスト?
     お前に用事があったんだよ人間。縛り上げられたくなきゃあおとなしく私らについてきな」
    トリスタンは少年をにらみつけた。すると少年もきっとにらみかえしてきた。
    「ふぅ~ん?クソザコのくせにプライドだけは一丁前にあんのかよ。おもしれーな、泣かされたいか?」
    「トリスタン、やめろ。喧嘩をしに来たのではないのだぞ」
    ガウェインは、全く、お前ときたらすぐに雰囲気を険悪にしようとする・・・と言って、少年に向き直った。
    「我が同士がいらぬことを言ったこと、こちらから詫びさせてもらう。
     ・・・私たちは女王陛下がお前を調べたいと命じられ、ここへ来た。ともに陛下の下へ来てもらおうか」
    「人間相手にずいぶんおおげさなんですね」
    皮肉を言うように少年は口元を歪め___胸の前で握りしめていた小さな麻袋を見つめた。
    少年はそれを了承し、フジマルリツカと己の名を名乗った。


    おっかぁにもうやめろと言われたので今日はここまで

  • 19二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 19:22:30

    応援してる

  • 20二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 03:53:33

    保守
    これはいい概念

  • 21二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 04:51:41

    滅茶苦茶最高だった‥応援してます頑張ってください‥素晴らしい概念だ‥

  • 22建て主23/08/30(水) 07:48:47

    ~モルガンサイド~

    「遠方よりはるばるご苦労。下がって構わぬ」
    さて、と、モルガンは兵士に守られていた異邦の魔術師を見た。
    「おもてを上げよ」
    その言葉に、少年は顔を上げた。まじまじと観察すると、彼は恰好こそ質素でどこか疲れた表情を浮かべてはいるが、目つきはまっすぐで怯えがない。それにあの青く美しい瞳、まるで、ウー・・・
    「長らくコーンウォールにおいてモース退治の任に携わっていたこと、私の口から感謝を述べよう。
     お前たちが異邦の魔術師でかまわないな?」
    彼に影のように付き添う白磁の肌の魔術師__おそらく『奴』だ__はこちらを見て微笑んだまま。それがイエスだという意味なのは理解できた。
    「・・・自分でやりたいと思ってやってたことですから」
    少年は迷いながらもそう口にした。
    「コーンウォールにおけるモース被害は、私も看過できないものとしてみなしていた。
     たった二人で
     褒美を取らせよう。なにがいい?あまり大きなものは贈れないが、安全に暮らせる家か、おいしい食事か、それとも富、名誉か」
    モルガンの言葉に、少年はしばし目を伏せて考えた。
    そして答える。
    「少しの」

  • 23建て主23/08/30(水) 08:08:31

    ぐおお!!途中投稿!!

    「小さな庭のある家が欲しいです。
     レンガでできて、大きな暖炉のついた赤い屋根の家が。
     モース毒に侵されていない場所ならどこでもかまいません」
    「どこでもよいのか」
    「はい」
    小さな願いだ、と思った。その辺にあるような家を建てるのなら人間たちと力を合わせれば簡単にできる。
    モルガンは家が欲しいと言われた場合、都会のどこかに大きく立派なものを贈ってあげようと考えていた。
    自らの所有物たるブリテンの一部であるコーンウォールに手が出したくても出せなかった歯がゆさは、それだけのものだったのだ。
    しかしそれも理解できると考える。あまり目立つやり方で褒美を取らせるとほかの者からやっかみを受ける可能性も否めない。この少年は、それを想定してささやかな願いにしたのだろう。
    「いいだろう。明日からでもソールズベリーに建築を始めよう。それまでの間、お前にはこの城で賓客として過ごしてもらう」
    「はい」
    「そこの『キャスター』。お前には少し話がある。なに、悪いようにはせぬ」
    「わかったよ」
    「ではゆけ」
    少年は男の方を心配そうに振り返り振り返り、兵士に添われて謁見の間から去る。
    あとには、魔術師と女王のみが残された。
    「・・・いつから気づいていたのかな?」
    「看破されないと思っていたのか、戯け」
    モルガンは吐き捨てた。彼__マーリンはモルガンにとって複雑この上ない感情をかきたてる存在の一つだ。
    記憶の中では魔術の師匠であり、かつての恋人。縁を切ったはずの元カレがまるで当たり前のように自分のテリトリーにいたという事実の前に、なんともいえない胸中にならない女がいるだろうか?いやいない。
    「我がブリテンに乗り込んでどういう魂胆だ。あのような無垢な少年をたぶらかして何の狙いがある」
    「とんでもない。終わった物語を読み返すのは楽しいけれど、人間関係はそうはいかないだろ?」
    あ、それを言うなら妖精関係か、ところころ笑う姿には一見邪気がまるで無く、とっつきやすい人柄に見えるだろう。
    だが彼はキングメイカーにして大の物語好き。ハッピーエンドを好むがそれ以外には興味がなく、その思考回路は人間と言うより昆虫に近い。油断して近づけば大やけどをするのが、マーリンと言う男だ。

  • 24建て主23/08/30(水) 08:30:27

    その精神構造は変わってないようだな、とモルガンは内心嘆息した。
    「んー、『この』ブリテンに手をつける気はないさ。君は頑張ってると思うよ」
    「貴様に褒められても鳥肌が立つだけだ」
    「ははは、相変わらず容赦ないなぁ。私はあれだよ、カレのファンっていうだけさ。
     ファンとして推しを温かく見守るのは当然のことだろう?」
    そう言って、彼は笑った。マーリンらしからぬ、華やかな笑みだった。

    ~ガウェインサイド~(いっちばんキャラ崩壊してるかも!)

    それから少し後、ガウェインは住所の書かれたメモを握りしめ、緊張した面持ちでその家の前にいた。
    レンガの壁に、赤い屋根。『異邦の魔術師』が住む家だ。
    ちょっと前まで、新たな住人に喜んだ妖精たちがいったり来たりしてずいぶん騒がしかったが、今はどっしりと静かな面持ちだ。
    迷惑にならないようにアポは取った。アドニスの体調に合わせてスケジュールも調整した。邪魔するものはなにもない、のだが。
    ごくんと生唾を飲み込む。こめかみに汗がにじむ。
    ぎゅ、とつないだ手__アドニスの手を握る。そうすると彼のか細くて骨ばった指が優しく握り返してくれた。
    「・・・バーゲスト。かれこれもう一分はそうしているよ。そろそろノックしてもいい頃合いじゃないのかな」
    アドニスに告げられ、はっと我に返った。
    「い、いえアドニス。わたくしは決して緊張しているわけでは」
    「ふふ。バーゲストったら嘘が下手なんだ。ほら、いつもの勇気にあふれる妖精騎士はどこに行っちゃったのかな?」
    「もう、あなたって人は・・・!」
    「きみが気後れするのなら僕が行くよ。一度でいいからこうやって人の家に上がってみたかったんだ」
    「あ、アドニス・・・!」
    アドニスは杖を頼りにドアの前まで行くと、コンコンとその赤茶けた扉を拳の節で叩いた。
    バーゲストはかたずをのんでいる。
    しばらくして、ドアが開いた。
    装いも新たに出てきた少年__リツカは少しの間いぶかしげな表情をしていたが、

  • 25建て主23/08/30(水) 08:41:14

    「・・・ひょっとして、きみがアドニス?」
    「そうです。僕がアドニスです。はじめまして」
    「ああ、ありがとう来てくれて。さあさあ、上がって、どうぞ」
    アドニスと握手を交わして、ちらとバーゲストのほうを見る。
    「ガウェインさんも上がって上がって。おいしいハーブティーを淹れますから」
    その言葉に安心して、バーゲストは家の中に入った。

    仕事が近いのでここまで!

  • 26二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 17:22:05

    >>16

     妖精の國だから、このヌオーのぬいぐるみがいつか「ヌオー」って返答する日が来そう。

    しかしヌオーに愚痴をこぼす、バーヴァン・シーはかわいいなあ。

  • 27建て主23/08/30(水) 17:29:45

    ジャスミンの香りがふんわりと漂っている。
    バーゲストとマーリンが歓談にふけるのをちらりと眺めながら、リツカとアドニスは濡れ縁で顔を見合わせた。
    「バーゲストはアーサー王伝説が大好きなんだ。マーリンさんに会えたこと、心から喜んでる。
     あんなにうれしそうなバーゲストを見るのは初めてかも」
    「そっかぁ。マーリンはアルトリアさんの伝説の生き字引だからね、きっと満足してもらえると思うよ」
    「アルトリア・・・?」
    「あっ、そっか。ここじゃ違うんだね。隠すことでもないし教えようか」
    リツカは『自分の知っている』アーサー王について話した。
    女の子で、自分より年下なのにとても真面目で立派な人であること。
    剣を振るう姿がすごくかっこいいこと。
    けっこうな大食い体質で食堂に入り浸っているのだということ。
    頭に触覚が一本ついていて、それを抜くと別人になるのだということ。
    それら全てにアドニスは目を輝かせて耳を傾けた。
    「すごいや、実際に会って話をしたなんて。僕ももっと頑丈な体だったらなぁ。
     そうすればモルガン陛下にお願いして、きみが来た歴史にある博物館に行けたのに」
    傍らの杖を撫でながら、アドニスはうらやましそうに言った。
    「アドニスならいつか必ず会いに行けるよ。俺が保証する。なんてったってアドニスにはかの妖精騎士バーゲストがついてるんだからね」
    「そうか・・・そうだよね」
    アドニスはちょっぴり頬を染めた。
    バーゲストとアドニスは恋人同士である。人間の中でも虚弱に生まれ、杖なしでは歩くこともままならなかったアドニスを哀れみも笑いもしないで、彼の好奇心旺盛で強い心を持っているところをありのまま見てくれたバーゲストのことをアドニスは愛しているし、お互いにいいところも駄目なところも心得た仲だ。
    彼女と一緒ならどんな試練も乗り越えられるし、彼女になら何をされても怖くないとアドニスは本心から考えている。
    「ねえリツカ。きみは花が好きなんだって?」
    庭に咲き誇る花々を見つめながら、アドニスは話題を変えた。
    「まあ・・・ね」
    「それなら、さ。ほら、これを持ってきたんだ。
     僕の家でも花を育てていてね、花の種ならいっぱいあるんだよ。楽しい話をしてくれたきみにおすそわけ」
    「ありがとう」
    花の種が入った小袋を受け取って、リツカははにかんだ。

  • 28建て主23/08/30(水) 17:50:02

    ~モルガンサイド~(ある人物のキャラが崩壊しています!)

    それからはこれと言って話題になるようなこともなく、平穏な日々が続いた。
    モースが増加したり、凶悪になったりすることも、ランスロットが『視た』という不吉な未来が現実になる兆候もなく。
    「ご苦労。下がってかまわぬ」
    配下を下がらせて、モルガンはふぅと一息ついた。
    書類仕事が終わって、忙しさの隙間にできた暇な時間。
    こういう時はもっぱらに準備した魔術礼装から各地域の状況を確認するのが彼女のルーチンワークになっているのだが、
    今日はそういう気が起きなかった。
    心の中にあるのはただ一つ。
    「・・・フジマルリツカ、か」
    あの青い目を思い出すと心がざわつく。いやな感覚だ。本当ならブリテンと最愛なるバーヴァン・シーのことで頭をいっぱいにしておきたいのに、異邦の人間など山ほどいるというのに、その灰色の群れの中で彼の姿だけが鮮やかに浮かび上がって見える。
    「・・・この気持ちは、いったいなんなのだ」
    リツカのことを考えると頭がカッとなって、心が苦しく燃える。天上におわす月に、喉も裂けよと叫びたくなるのだ。そういう気持ちは、『彼』を失ったときに一緒になくなったものだと思っていたのに。
    「・・・」
    モルガンは考える。こんなバグのような感情を呼び起こす彼に、どうしても会いたいと。会って話して、どこにでもいるつまらない人間ならそれでいいだろう。だがそうでなければ?彼が『彼』のように、自分の海より広く深い欲望を満たしてくれるような存在であればどうしたらいい?
    女王は考えた末、各地方に住んでいる友人に向かって自身の胸のうちを綴った手紙を送った。誰が読んでも怪しまないように、彼女と友情を結んだ者にしか読めない秘密の崩し文字を使って。
    そんなに悩むのなら会ってみるといいと返事が返されたのは、三日後のことだった。

  • 29建て主23/08/30(水) 18:09:57

    ~リツカサイド~(このモルガン、一言足りすぎである)

    晴天に、小さな雨が虹を作っている。
    少年は鼻歌を歌いながら、じょうろで花畑に水を撒いていた。
    早朝のソールズベリー。妖精も人間も眠りについていて、コーンウォールのそれとは異なる、朝の匂いがするほの白い霧が通りにたちこめている。
    花と一緒に植えた野菜に水を与え、キャベツの葉っぱにくっついた毛虫に思わず笑いかける。
    「___?あなたは」
    その視線が、玄関口にたたずんでいたローブの人間に吸い寄せられる。人間だ、と思ったのは、その人物の背に妖精特有の翅が備わっていなかったからだ。
    「朝から楽しそうですね。私も混ぜてはもらえませんか?」
    穏やかで、無機質そうに響く聞き覚えのある声に少年__リツカははっとして、すぐに膝を折るとじょうろを置いた。
    「そんなにかしこまらなくてもよい。私はあなたに会いに来ただけなのですから」
    「は、はぁ」
    「そこで育てているのは・・・キャベツにトマト。ええ、両方とも医者を遠ざける野菜としてかの排熱大公も好んでいます。よいものを選びましたね」
    __排熱大公とは、今はオックスフォードに住まいを構える妖精だ。隠居した今でも牙の氏族の中で随一の実力を誇り、年に一度開かれるモルガン祭においても常勝無敗である。
    「・・・あの、そんなところにいないで、こっちに来たらいかがですか?」
    「ええ、そうさせてもらいます」
    ローブ__モルガンは会釈して、庭に入ってきた。濡れ縁に腰かけ、
    「あなたは毎日庭の世話を?」
    「まあ、はい」
    「庭の世話は魔女のつとめ。よい心がけですね」
    「はあ」
    __やりづらい、とリツカは考える。
    謁見の間で見せた威厳はどこへやら、女王と言う肩書をローブで隠してしまえば、そこにいるのは知的で穏やかな光を両眼に湛えた少女、といった雰囲気である。もちろんいい意味であるが。

  • 30建て主23/08/30(水) 18:31:26

    「あのー、魔女って言ってますが、俺、男・・・」
    「?魔女と呼びはしますがそういったモノに性別の違いはありませんよ」
    「そ、そうなんですか。トマト食べます?」
    リツカは野菜に逃げた。モルガンがうなずいたのを見て、畑に実ったトマトの中で、お手頃サイズかつ真っ赤に熟れたものをもぎる。
    「本当なら昼間のあったかい時間帯に食べるのがいちばんいいんですけどね。
     なまぬるいんですけど土の味わいが移ってなんともおいしいんですよ、これが」
    しょせんアマチュアの育てた野菜。美食の都であるオックスフォードで栽培されてるそれと比べるまでもないが、我が家の野菜は自慢の野菜と胸を張る。
    モルガンはトマトにむしゃぶりついて、もぐもぐ、もぐもぐ、
    ごく、ん・・・
    そうすると白い喉がフードの陰でつややかに上下する。リツカはどうしてだか、そこから目を離すことができなかった。
    「・・・甘い。そして酸っぱい。美味なものですね」
    「ありがとうございます」
    「この國は小石一つまで私の所有物。つまりはあまねくすべてに価値があるということ。しょせんなどと己を卑下してはいけませんよ」
    「・・・はい」
    リツカは手を両手の前で組んで、照れくさそうに答えた。
    「マーリンに会いますか?よければ起こしますけど」
    「結構です。彼とは馬が合いませんので」
    だいぶオブラートにくるんだ言葉を放って、モルガンは立ち上がる。
    「民たちが起き出す前に私は帰りましょう。分身に仕事を任せ続けるわけにもいかない」
    「そんなことが・・・」
    「・・・また明日も、ここに来ていいですか?リツカ」
    名を呼ばれ、しばらくの間呆然としていた。
    「・・・はい!」
    そこでようやく、モルガンは表情を変えた。それが彼女にとって満面の笑みであることに、気づかないリツカではなかった。

  • 31建て主23/08/30(水) 18:43:52

    「ふあ~あ。眠い眠い・・・おや?なんだかうれしそうだね、マイロード。
     なにかいいことでもあったのかな」
    わざとらしくあくびをしながら、マーリンが裏口から出てきた。まるで今しがたそういう形に整えてきたように、寝癖がはねている。
    リツカは苦笑した。
    「・・・マーリン、起きてたでしょ」
    「さあ、なんのことかな?」

    ~トリスタンサイド~

    【〇月〇日
     お母様が時々どこかに出かけているのに気付いているのはどうやら私だけみたいだ。
     どこに行っているのかはうすうすわかってる。きっとあの人間のところだ。
     お母様を取られたみたいでなんかむかむかする。明日は休日だし、私もあいつのところに行って、お母様に変なことしないようヤキを入れておこうか】
    【〇月×日
     人間の家に行くのは初めてだ。友達の家に遊びに行くことはたまにあったけど、他人の、それも人間の家に上がるのは別。
     どこを切り取ってもケチのつけようがない女王の後継者として気合いを入れていたら、裏口から人間が出てきて、
     シーツを洗って干していた。なんか見てて危なっかしい手つきだったから邪魔してやった。
     そしたらあいつ「ありがとう」だって!馬鹿じゃねーの、マジ。
     ・・・馬鹿馬鹿しくなってきたから寝よう。明日はあいつの持ってねーような高価なモンやって「女王の娘はこんな贅沢が許されるのか・・・!」って悔しがらせよう】

    今日はここまで。

  • 32二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 06:05:12

    保守
    陛下がかわいい

  • 33建て主23/08/31(木) 07:31:10

    【〇月△日
     あいつは変なやつだ。
     たっかいカバンをよこせば「大根入るかなー・・・」って悩み、とびっきりきれいな指輪を見せたら「ばっちゃが縁日で買ってくれたおもちゃにそっくりだ」って懐かしがる。
     嫉妬もうらやみもしねぇ。変な奴。いじめがいがねー】
    バーヴァン・シーはペンを置いた。テーブルの端には薄紅色のコスモスが、細い花瓶にちょこなんと活けられていた。リツカからおすそわけしてもらったものだ。
    「・・・ほんと、変な奴」
    ぼそっとつぶやいた。

  • 34建て主23/08/31(木) 07:55:39

    ~リツカサイド~

    女王が、自分も花を育ててみたい、と言い出したのは、彼女がリツカの家に通い出してひと月ほど経ったころのことだった。
    そのころにはリツカもだいぶモルガンと打ち解け、マーリンのいない時間を見計らってお茶を飲み交わしたりする仲になっていた。
    モルガンによると、かつての『大戦争』で荒廃したダーリントンをニュー・ダーリントンとして新生させる際に、そこに建築する予定の闘技場を花で彩りたいというのだった。
    「なぜゆえ?妖精なら、花なんてぱっと咲かせられるでしょう」
    「こういうのは自らやることで意味を成すのです」
    「まあかまいませんけれど・・・しかし俺のやり方で陛下を満足させられるかなぁ」
    それから、リツカはモルガンに園芸の手ほどきを始めた。
    通気性、吸水性のいい鉢植えを選ぶこと。
    株を植えるときは適度に離して植えること。
    土を入れる前に必ず鉢底石を入れること。
    「それから、この虫を・・・」
    「げ」
    リツカがガラスケースの腐葉土に飼っていたものを見て、モルガンは目の前で大砲がいちどきにぶっ放たれてもしないような表情をした。
    「なんですかそれは」
    「なにって、ミミズですよ。土をよいものにしてくれるいい子たちです」
    リツカは陶器皿に乗せたミミズを向けようとした。
    「近寄るな・・・・・・」
    モルガンは叫びながら、一目散に庭から逃げて行った。

    リツカの手ほどきを受けたモルガンは、さっそくバーヴァン・シーやモノづくりが目的な妖精たちと共にニュー・ダーリントンの建設を始めた。
    久しぶりの母との共同作業、あるいはやりがいのある仕事に、バーヴァン・シーや配下たちは目を輝かせて取り組んだ。
    妖精は、本来欲しいものをなんでも作り出すことができる存在である。しかし彼らは生まれながらに様々な『目的』を帯びており、それができないことは彼らにとっては死も同然である。
    なのでこうして額に汗して働く仕事を提供してやるのが女王の務めだ、とレンガを積みながらモルガンは思った。
    彼らの働きもあって、ニュー・ダーリントンは三日で出来上がった。そしてそこにはスミレやチューリップ、実に色とりどりな花々が植えられた。

  • 35建て主23/08/31(木) 08:14:57

    そろそろ仕事なので今はここまで。

  • 36建て主23/08/31(木) 13:47:51

    それから一か月後。
    「立派だよねぇ」
    ほくほくの芋を片手に、もう片方の手に双眼鏡を持ちながら、マーリンはしきりに感心する。
    彼とリツカ__二人が見上げる先にはニュー・ダーリントン名物の国立遊戯劇場。
    腕っぷしに自信のある人間たちが集い、同じく腕自慢の妖精たちと戦って一番を目指すのだ。
    強くない妖精たちのために市民プールや軽く汗を流せるアクティビティも完備されてて、強さこそすべての牙の氏族たちにいっとう人気である。今も耳を澄ませば、ワーワーと騒ぐ声が聞こえてくる。
    もちろん人気なのはそれだけではない。隣接された植物園には数多くの人間世界から流れ着いた植物や花々が植えられ、民たちの心を和ませる。ガラスでできた廊下で遊戯劇場とつながっているので、ひと汗かいた帰りに花や木に心を癒すものたちも少なくない。
    「ごらんよ、マイロード。君の教えたものをもとに、あんなに立派な施設が建ったんだよ。誇らしくない?」
    「よせやい///」
    照れを隠すように揚げ芋にかぶりつく。からっと揚げられた芋は塩加減が絶妙で、隠し味のコンソメの香りが心憎い。
    「りつかも喜んでくれるかな・・・」
    無意識に言葉が滑り出た。かつて二人で夢見ていた植物園をつくるという夢が、やや遠回しなやり方とはいえ叶った。彼女が見たら、なんとコメントするだろうか。
    マーリンはなにも言わず、リツカの頭をわしわし撫でた。

  • 37二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 01:45:15

    保守
    続き楽しみ

  • 38二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 08:42:25

    それからは、リツカとマーリンにとって夢のような日々が続いた。
    半妖精であるマーリンは毎日朝早く起きてリツカと朝食をともにした後どこかへ行き、リツカは買い物をするか庭の手入れをし、時々ご近所さんと話をする。
    妖精國生まれのご近所さんたちはリツカに『べつのせかい』の話をせがみ、リツカの語り口はあまり滑らかなものではなかったものの、素朴で語らない少年の語りは彼らを喜ばせた。
    「そうなんだ、妖精って飲み食いしなくっても平気なんだ」
    「そうなのサー。でも飲んだり食べたりしないと死んじゃうキミらのコトがちょっぴりうらやましいかも。
     フベンなのにアコガれるって、ボク、ヘンなのカナー」
    「あは。でも不便なものに興味があるって気持ちわかるよ。俺も昔はタイプライターなんかに心がときめいたりしてたもの」
    パンにレタスとポテトサラダを挟んでわしわし食べながら、ある日とある妖精とリツカは話し込んだ。
    「リツカ、ヨウセイコクは好きー?」
    「好きだよ、それがどうかした?」
    「んふふ、このクニを好きだって言われると、ボクもうれしー。モルガンさまも喜んでるヨー」
    「それはなにより」
    「ボク、マンチェスターの出なのサー。だから今度のモルガン祭にも出ようって考えててネー」
    「うんうん」
    「こんどのモルガン祭には、なんと、かのライネックさまが出るんだっテー。ボク、勝てるかナー?」
    ・・・ライネックとは、排熱大公の本名である。
    「勝てるって。絶対いける。自分を信じなよ」
    「・・・えへへー、信じられるってこんなにくすぐったいんだネー」
    と、通りが騒がしい。
    なんだろ、と首をかしげていると、カバンを抱えてあわただしく走っていた人間が、ぼんやりしている二人を見て生垣に飛びついて話しかけてきた。
    「おいっ。お前らも早く来いっ!」
    「なにがあったんです?」
    「ヴォーディガーンだよ!ヴォーディガーンがモースの群れを引き連れてコーンウォールに出現したんだってよ!」
    二人は思わず顔を見合わせた。

  • 39二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 09:24:17

    荷物をしょった、不安そうな顔をした市民たちが『水鏡』を通っていく。
    その中ですらりと背の高い魔術師がいた。
    「マーリン・・・」
    「やあリツカ。大変なことになったね」
    この緊急事態にあっても、マーリンはいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
    「マーリンは?」
    「私はキャメロットとエディンバラの合同兵団と一緒に行くことになったよ。やー、不安だなー。私なんかがお役に立てるかどうか」
    「マーリンが役に立たない場面なんてないと思うけど・・・大丈夫なの?」
    「私が一度くらいやられても平気なのは知っているだろう?いいから行きなさい。
     ・・・きみを守るのがボクの役目さ。心配しなくても大丈夫」
    兵士に「そろそろ」と声を掛けられる。リツカはいつになく真剣な顔をして『水鏡』をくぐった。

    キャメロットの避難所は人と妖精でみっちりとしていた。
    一人一杯ずつ温かい飲み物が配られ、市民たちはそれをちびちびとすすりながら、不安と戦っていた。
    「あんた、リツカ・・・」
    贔屓にしているパン屋のおかみさんが、リツカに話しかける。
    カップを両手でくるむように持ったリツカは顔を上げ、
    「おかみさん、どうしました」
    「どうしたもこうしたもないよ・・・マーリンさんが戦地に連れてかれたって聞いて、こちとら居ても立っても居られないんだから。気をしっかり持つんだよ、女王陛下の兵隊が負けるわけないんだからね」
    「心配してくれるんですか?」
    「当たり前のじゃん!あんたらはあたしの店のごひいきさんだからね。心配するのは当然だよ」
    リツカは青白い顔で、それでも笑みを浮かべて見せた。
    「ありがとうございます。でも、きっと大丈夫です・・・マーリンは強いですから」
    「ううむ、たしかにね・・・マンチェスターで妖精たちに戦いを挑まれたときも、かるーくあしらって見せたって噂だし」
    その時、避難所の扉が開かれ、黒色を基調とした衣装に身を包んだ女が、赤毛の少女をともなって現れた。
    「人間ども、そして妖精ども。首を垂れなさい。女王モルガンの御前だぜ?」
    「これは・・・モルガン陛下!そして誉れ高きトリスタン様!」
    「おか・・・陛下じゃなくて私を褒めるセンスのなさはあとで追及するとして、だ。
     陛下からお言葉があるぜ。耳をかっぽじってよぅく聞きな」

  • 40二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 09:30:30

    トリスタンは女王の後ろに下がった。モルガンはベールを上げると、口を開いた。
    そしてそれは、民衆にとってこの上なくうれしい報告だった。
    「観測兵からの報告だ。現時刻をもって、ヴォーディガーンは討伐された。
     被害規模はコーンウォールのみ。犠牲者は一人も出ず、これは奇跡的な勝利である。
     適切かつ迅速に避難に応じてくれたお前たちと、命も惜しまず戦った我が兵士。そのすべてに私は感謝を捧げよう」
    おお、と歓声が上がった。おかみさんは「ね?だから言ったろ」と自慢げにうなずいた。
    「みなのもの、恨んではならぬ。怒ってはよい。だが憎んではならぬ。
     これはブリテンという島に与えられた試練であるとみなして、許す努力をするのだ」
    憎むとか恨むとかとんでもない、そういうのは疲れるだけだ、とあっちこっちで声が聞こえた。
    モルガンはわずかに__身内にしかわからないほどほんとうにわずかに__ほほえんだ。
    コーンウォールを故郷としたものはあとで来るよう言いつけて、民たちに帰宅の許可を出すとモルガン陛下は背を向けた。トリスタンがうっかり口を滑らした兵士の首根っこを掴んでずるずる引きずっていく。
    「いやぁ、あのヴォーディガーンが倒されるなんてねえ!先代の仇を討ったって気持ちだよ!
     さっすが、あたしたちのモルガン陛下だ!」
    「おかみさんは、オークニー出身なんでしたっけ」
    オークニーはモルガンがまだ幼名のヴィヴィアンと呼ばれていたころ、親代わりの雨の氏族と暮らしていた街の名である。かつては静かなれども過ごしやすいところであったが、妖精暦四千年に起きた『大戦争』のせいで氏族ともども滅んでしまい、今では住む人は誰もいない。

  • 41二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 14:31:35

    なかなかのボリュームですごいなスレ主

  • 42二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 20:00:30

    読んでてすごく楽しいし癒される!!!
    続きが気になるな

  • 43二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 05:20:25

    保守

  • 44建て主23/09/02(土) 12:17:54

    寝過ごしましたすんません
    あとお褒めの言葉ありがとうございます毎日読んでます


    「オークニーはあたしの生まれ故郷!そこをめちゃくちゃにしやがったヴォーディガーンのアホタレは憎んでも憎み足りないくらいさ。だからよかったよ、あたしと同じ思いをするやつがいなくって」
    本心からの言葉をおかみさんは言った。心なしか、背中の翅がまぶしい気がして、リツカは目を細めた。

    ~モルガンサイド~

    さて、それからさらに数ヶ月後。
    いつも通りモルガンはリツカの家に来て、縁側で彼お手製のハーブティーをいただいた。
    「平和ですね」
    「そうですね」
    「平和なのは良いことです」
    「そうですね」
    他愛のない会話。そんなものすら貴重だったころをなつかしむようにリツカは黄昏た空を仰いでいた。
    得意の幻術でモルガン軍を支援したマーリンと、その友人であるリツカにはたくさんの褒美が与えられた。
    一生遊び暮らしても余るくらいのお金、繊細な細工の施された装飾品。千年物の樫の木でできた豪奢な家具は、小さな家のどこに置けばいいだろうとリツカとマーリンは首をかしげた。宴の誘いも受けたが、あまり騒がしいのが好きではない少年は謹んで断った。
    「リツカ。あなたは、これからどうするつもりですか?」
    モルガンは問うた。
    「・・・そうですね」
    リツカはぽつりぽつりと語った。
    しょせん異世界人であるが帰るすべもない。
    どの道大事な人が一人もいないあちらに帰りたいとも思わない。
    ここでこうして、花や野菜を育てながら静かに暮らそうかと思っている。
    「リツカ」
    モルガンはずずいと迫った。
    「はい」
    そして発射する。

  • 45建て主23/09/02(土) 12:18:35

    「私と結婚しませんか?」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
    モルガンの手から木のカップが滑り落ちて、からころっと音を立てた。
    「いえ、その、いや、あの、こういうのは理屈じゃないといいますか、あなたを一目見たときからビビッと来たといいますか、だから、その。・・・・わ、わ、私の夫になってくださぃ」
    言いたかった言葉は頭の中で爆散し、すっかりしどろもどろになりながらモルガンは言い終わった。
    リツカは動揺しながら、答える。
    「え、えぇ。いいですよ」
    俺でよければ。
    モルガンは爆発四散した。

  • 46二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 12:41:30

    良き…良き

  • 47二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 19:51:19

    いいぞ 続けて?

  • 48二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 21:50:49

    素晴らしいです すべて(ぐだモル)を理解していきます

  • 49二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 03:41:50

    まじでこのスレ好きだ…ありがとう本当に‥

  • 50建て主23/09/03(日) 08:37:02

    ~ライネックサイド~(ライネックのキャラは完全に作者の捏造です!)

    「修行をつけてほしい、と」
    ライネックはワインを傾けた。少年は、はいとうなずいた。
    目の前の緊張した面持ちの少年は、ライネックがやろうと思えば本気を出すまでもなく文字通り一ひねりにできてしまえそうな印象を受ける。首も腕も、半年にわたるソールズベリーでの暮らしで多少肉付きは良くなったとはいえ、牙の氏族の価値観で言えばまだまだ棒切れのよう。大きな青い目だけが、期待と不安をないまぜにして爛々と光っている。
    「・・・まず聞きたいのだが、君はモルガンと結婚したいと言っていたね」
    「はい」
    「それで、彼女に釣り合う男になりたいので体を鍛えてほしいと」
    首が振られる。
    「もう一つ訊くが、このことはトネリコには?」
    「・・・言ってないです」
    トネリコと言うのは、まだモルガンがかつての恋人と仲睦まじかったころの名前である。
    はあ、とため息をつく。
    「私からの余計なおせっかいだが、そういうのは本人にも了解を得た方がいいと思うぞ、君」
    「・・・」
    「なにより具体案がない。修行で体を鍛えたいというが、どんなものがいいのだ」
    「あ・・・」
    それは考えてなかった、と言うように少年がうつむく。

  • 51建て主23/09/03(日) 18:46:29

    やがて、細々と少年は打ち明けた。
    「・・・俺、自分が弱いせいで守れなかった人がたくさんいるんです。友達はそのままでいいって言ってくれるんですけど、それでも強くなりたいんです。最低でも、陛下のそばにいて物笑いの種にならないくらいには」
    「・・・」
    「具体的なビジョンは何一つないんですが、動機だけははっきりあるんです。
     ・・・でも、笑われたくないから強くなりたいって動機じゃ、だめでしょうか」
    ライネックはしばし物思いにふけった。
    少年はかたずをのんでいる。
    ワインを飲み干して、ことっとテーブルに置く。
    「『あの子に好かれたい』『あいつを見返してやりたい』。
     牙の氏族の中でも、そういった気持ちで修行をする者も少なからず、いる。
     強くなりたい動機はいくら不純でもいい。根底にある強さを渇望する気持ちだけは純粋であるからね」
    「・・・!」
    「トネリコに釣り合う男になりたい、というのならば、老いた狼たるオレの爪と牙でよければいくらでも貸そう。
     オレは怖いぞ」
    「____」
    少年は___リツカは、緊張と期待で頬を紅潮させ、力強くうなずいた。

  • 52二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 03:43:12

    良い…良い…

  • 53二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 07:55:59

    素晴らしい
    続きを楽しみにしています

  • 54二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 13:17:22

    なんだこの尊いssは…

  • 55二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 21:27:16

    尊さが高まる…あふれるぅ…!

  • 56建て主23/09/05(火) 07:16:39

    ~バーヴァン・シーサイド~

    一方そのころ。
    「我が娘バーヴァン・シー」
    「どうかしたの?お母様」
    「父親ができると聞いたら、あなたは拒みますか?」
    「えっ」
    ぼとっとフォークが落ちた。
    「バーヴァン・シー?」
    うかがうような声も耳に入らない。
    バーヴァン・シーの脳内では、破滅を告げるラッパが高らかに吹き鳴らされていた。
    「おっ・・・お母様・・・まさか相手って・・・」
    母はうなずいた。
    くらっ・・・とめまいがする。

  • 57二次元好きの匿名さん23/09/05(火) 19:08:13

    とてもいい…続き楽しみに待ってます

  • 58建て主23/09/05(火) 19:14:37

    喉には綿が詰まったようで、言葉が出ない。
    「お母様・・・誰とも結婚しないって言ったはずじゃ・・・」
    モルガンはうつむいた。それはいつもの毅然とした母からは想像もつかないほど、しおらしい姿だった。
    「あ、あんなもやしのどこがいいの?だいたいお母様、忘れられない人がいるんじゃ」
    「ええ」
    「考え直すってことはないの」
    「今の・・・ところは」
    バーヴァン・シーは唇をかんだ。
    「お母様・・・ウーサー様のことは、もうどうでもいいの?」
    彼女の絞り出した言葉に、モルガンは、心臓を突かれたように目を見開いた。

  • 59建て主23/09/05(火) 19:59:46

    ウーサーとは、かつての『大戦争』で誰よりも勇敢に戦い、誰よりも先に死んでいった少年の名。
    モルガンがまだトネリコだった時代、二人寄り添う姿はなによりお似合いの恋人同士にしか見えず、きっと結婚し、永遠を共に生きていくのだろうとみんな思っていた。
    バーヴァン・シーは知っている。人も妖精もみな泣き腫らした慰霊の場において、毅然と戦死者をとむらったモルガンが、自室で泣き崩れていたことを。
    バーヴァン・シーは知っている。母がその後、飲まず食わずで激務に明け暮れていた理由も。
    モルガンにとって、ウーサーがどれだけ大事な存在であるのかくらいよくわかっている。軽率に口にしていいものではないのも。しかし、だからこそ、自分の父親になるはずだった彼の名を言わずにはいられない。
    「・・・そうですね。言い訳がましいですが、私は、ウーサーのことを忘れたことは一度もありません」
    「でしょ?だから、一時の気持ちに左右されるなんて、お母様らしくないっていうか・・・」
    自分でも言語化できない気持ちに、うううとバーヴァン・シーはうなった。
    「バーヴァン・シー。あなたはどう思うのです」
    「そ、そりゃ、この國で一番頑張ってるお母様にはしあわせになってほしいけど・・・」
    「・・・ねえ、バーヴァン・シー。私、どうしたらいいんでしょうね。こんなに強く誰かを思ったことはウーサー以来です。あの人を亡くしてからは、誰のことも夫にしたいと望むことは無いだろうと考えていたのに。
     ねえ、バーヴァン・シー。死んだ人の魂はどこにいるのでしょうね・・・」
    ウーサー、許してくれるかな・・・
    か細く言って、顔を上げる。
    腫らした目から熱い涙をほろほろとこぼして、彼女は笑った。

  • 60二次元好きの匿名さん23/09/05(火) 21:11:42

    せ、せつねえ…………
    トリ子がずっとお母様のこと真っ当に心配してるの良い
    スレ主ゆっくりでいいから全部書き切ってくれ

  • 61建て主23/09/06(水) 06:55:58

    >>60

    応援ありがとうございます

  • 62二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 16:46:17

    保守

  • 63建て主23/09/06(水) 17:38:18

    「お母様」
    呼ぶと、彼女は子供のように首を傾けた。
    「お母様は、彼と話すと楽しいの?」
    「・・・楽しいです。すごく。こんなに楽しいのは、ウーサーだけだと思っていました・・・」
    最初は好奇心だった。彼とよく似た青い瞳をした少年。それが珍しくて話しかけた。
    その好奇心が熱を帯び始めたのはいつからだったのだろう?楽しかった。彼と庭や花に関して他愛のない話をするのは、責務でいつもどこか荒れていた彼女の心に穏やかな波を打った。砂浜が決して同じ形でいられないのと同じように、彼女の心は少しづつ、かつてと違う形に変わっていった。妖精は、決して変わることができないのに。
    ウーサーを喪ってからの今まで、確かに決して誰ともつがうつもりはないと誓っていた。彼との思い出は、今も玉のように輝いている。
    さみしい夜毎、胸の内で磨いているからだろうか。
    ウーサー、
    ウー、サー・・・
    ぽん、と背中に当てられる、温かな感触。
    「私・・・私ね、今すっごく複雑。でもね、やっぱりお母様の気持ちを一番に考えたい」
    「バーヴァン・シー・・・」
    「お母様がなにを決断しても、私は味方でいる。誓うわ」
    「・・・」
    「だから泣かないで、お母様。そんなに泣いたら、いつもの魅力が十五割がた落ちよ」
    すすりあげるように息を吸い、モルガンは笑って見せた。
    「一割とは確か十%の割合でしたね?パーセンテージで換算すると百五十%も魅力が落ちたなんて、あなたという子は」
    「だって、目ぇ真っ赤だもん!白ウサギみたい」
    わざとおどける。するとモルガンはぎゅっとバーヴァン・シーを抱きしめ、
    「小娘がっ!」
    と、かつてを思い出す笑顔を見せた。

  • 64二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 19:44:59

    ~リツカサイド~

    「イヤーッ!」
    「声が小さい!!生娘かお前は!!」
    「イヤーーッ!!」
    「もっとだ!もっとよこせリツカ!!」
    「イヤーーーーッ!!!」
    「そうだ!やればできるんだ、ならやれ!!」
    「オーーーーーーッス!!!!」
    半ば罵倒に近い檄と、模造剣の振るわれる音。
    ここ、ニュー・ダーリントンのアミューズメント施設は、牙の氏族でも満足できるように訓練場も充実しており、昼間から大声を張り上げるのも檄を飛ばすのも珍しいことではない。
    ただ、その組み合わせが奇特だ。その場にいる人々は、ちらちらと彼らに視線をよこしていた。
    檄を飛ばす者___ライネックはそのことに気づいていたものの、素知らぬふりをしている。
    素振りに打ち込む者___リツカはそもそも気づいていない。
    リツカが打ち明けた、体を鍛えたいというふんわりした要望に、ライネックは誠実に応えた。
    具体的には朝のランニングと、それからニュー・ダーリントンでの素振りだ。
    いささかあっさりしているようにも思えるが、強くなるにはなにごとも基礎から、というのがライネックの考えだった。いくら強くても、それを維持し続けるだけの体力がなければなんの意味もない。土台がしっかりしていれば建築物は何年でも建ち続けていられる立派なものになるのと同じだ。
    「ハア・・・ハア・・・(彼岸島)」
    十分後。すっかり息が上がってへたりこんだリツカの顔を、ライネックはのぞきこんだ。
    「きついかね?」
    うなずかれる。
    「まだ君は若く、肉も骨も未熟だ。まずは基本の部分を鍛えねばなるまい。今はまだ厳しいかもしれないが、いつしか騎士の鎧が似合うようになる日も来るとも」
    「それって、いつになりますか」

  • 65二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 20:08:48

    「十年はあとになるな」
    彼は嘘をつかなかった。リツカはじろりとその顔をねめつけるが、顔面汗まみれな上元からあまり強面ではないので迫力がない。ライネックは喉を鳴らして笑った。
    「ふ。まぁそんな顔をするな。私ほどの歳にもなればな、十年なんてあっという間だぞ?毎日よく食べて、今日のような訓練を続ければいつしか心も体も大きくなるとも」
    そのとき、「おーい」と力の抜ける声が二人の耳に届いた。
    「おや、マーリン殿」
    「や。がんばってるみたいだねぇ。今日の訓練はもうおしまいかな?」
    「そうなりますな」
    「じゃあリツカ君を借りるよ」
    「ええ、どうぞ」
    マーリンはリツカを助け起こすと、彼と二人で表へ出た。
    一人残されたライネックに、稽古をつけてほしい者たちが集った。

  • 66二次元好きの匿名さん23/09/07(木) 02:52:50

    このスレ好き……

  • 67二次元好きの匿名さん23/09/07(木) 08:49:31

    素晴らしいSSだ・・・

  • 68二次元好きの匿名さん23/09/07(木) 18:59:40

    応援してる

  • 69二次元好きの匿名さん23/09/07(木) 19:10:03

    よすぎる

  • 70二次元好きの匿名さん23/09/07(木) 21:27:12

    ゆっくりでいいから完走させてほしい

  • 71二次元好きの匿名さん23/09/08(金) 07:46:16

    保守!毎日楽しみにしてる

  • 72建て主23/09/08(金) 08:35:07

    いつも応援ありがとうございます、毎日メッセージ読んでます。

  • 73建て主23/09/08(金) 08:55:45

    「妖精國(ここ)での暮らしは慣れたかい?」
    リツカは渡された飲み物をすすりながらうなずいた。
    ライムを絞って砂糖で味付けした清涼飲料水。口の中がさっぱりする。
    「そうか、そうか。私もすっかりここが気に入っちゃったよ。
     ご飯はおいしいわ、お風呂はあるわ、女の子はかわいいわ」
    「女の子に気軽に手を出すくせは直した方がよくない?」
    苦笑する。
    「そーだねー」
    「・・・あのさっ、マーリン」
    なにかなと視線を送られる。リツカは唇をなめて、
    「俺もここでの暮らしが板についてきたし、生活の基盤も整った。
     ・・・もう一人立ちできると思うんだ。だからマーリンはもう、俺のことは気にしないで行きたいところに___」
    「リツカ」
    いつもと変わらないが、どこか有無を言わせぬ圧がある声。
    マーリンはリツカの頬に両手を添えて、真剣な目をして見つめてくる。
    「ここに来るときも言ったと思うけど、そういうのは言いっこなしじゃないか。
     ボクは君が幸せな最期を遂げるまで一緒にいるって決めたんだ。
     行きたいところも何も、ボクはここが一番気に入ってるんだけどね」
    マーリンは、本来リツカのそばにはいられない存在である。
    だが自分が死ぬまで傍にいようと、その人生が幸せなものであってほしいと願ってくれる。
    彼の心は人と言うより虫に近い。種を明かせば彼にとって最も美しいものが人の幸せであるというだけだが。
    その心づかいが、リツカにはうれしかった。
    「・・・ありがとう」
    はにかむ。そして少しの間黙って、にぎわうニュー・ダーリントンの通りを眺めた。

  • 74建て主23/09/08(金) 09:07:14

    輪っかを倒さないように転がす遊びに夢中な妖精と人間の子ども。
    それを微笑まし気に眺める老人たち。
    闘技場から出てきた牙の氏族と人間の男が、互いの健闘をたたえ合っている。
    心から分かり合い、差別なく共存する人と妖精たち。
    かつて妹(りつか)が夢見て望んで、でもできなかった景色が目の前にある。
    「・・・あれ」
    ぽとっ、と膝に温かいものが落ちた。
    いつのまにかリツカは涙を流していた。
    「・・・リツカ」
    マーリンの声に、リツカは泣き笑いを浮かべながら応えた。
    「マーリン。
     俺、モルガン陛下に結婚してほしいって告白されたんだ。
     あんときは二つ返事でOKしたけどさー、どうしよう?
     あの人と一緒になるの、きっとすごく幸せなことだと思うんだ。俺なんかが幸せになっていいのかな」
    殺し続けた罰を受けてここに来た。
    リツカには罪の償い方がわからない。
    だから残りの一生を、奪ってしまったものの分花を植えて費やしていくのだと考えていた。
    ・・・その当たり前が、崩れ始めたのはいつからだろう・・・?
    楽しかった。モルガンと他愛のない会話を交わして過ごす時間は楽しかった。
    たとえそのあと、罪悪感で心が押し潰れそうになったとしても、その時間は捨てがたいほど愛おしかった。
    ひっくと子どものようにしゃくりあげる。
    「りつか、許してくれるかな・・・」
    あちらに置いてきてしまった最愛の名を口にする。
    あたりも憚らず泣き崩れたリツカの細身を、マーリンは何も言わずに抱きしめた。

  • 75二次元好きの匿名さん23/09/08(金) 20:23:04

    ちょっとずつハッピーエンドに近づいていってるな…

  • 76建て主23/09/08(金) 21:18:00

    ~トトロットサイド~

    頬をマカロンでもひもひと一杯にする桃色の装束を着た少女は、子リスのようでとても愛らしい。
    「この庭も、トネリコのおムコさんになってくれる人に教えられて作ったんだって?」
    「はい。長年植物園を作りたいと思っていたので」
    ほほ笑みながらモルガンは菓子を齧り、紅茶を含む。
    甘いマカロンは、ストレートの紅茶に驚くほど合う。
    「みんなにはほんとに知らせないでいいの?
     ボク、結婚式を開くならぱぁっとみんなで祝った方がいいと思うのになー」
    「私の夫になってくれると言った人は、あまり派手なのを好みませんから」
    モルガンは結婚の手配を極秘に行った。
    民の妖精たちはこの知らせを喜ぶだろうが、そうなれば山のような贈り物が届けられるだろう。モルガンはともかくそれではリツカのあまり広いと言えない家が圧迫されてしまう。
    なので結婚式は知人友人を集めただけの小さなものにしたい。そう説明すると、モルガンの千年来の親友__トトロットは納得した。
    「そういうコトかぁ。ま、そういう花嫁さんのささやかな幸せを守ってあげるのもボクの役目だしねー。押し付けはしないよ。それで~?このトトロットさんを呼んだのはおムコさんの自慢をしたいだけじゃないんだろ~?
     いいよいいよ、なんでも言って」
    「ええ、そのことなのですが」
    モルガンはちょっと赤くなりながら、当日に着る予定の衣装__つまるところ自分が着たいウェディングドレスの説明を始めた。
    彼女よりずっと小柄なトトロットは、まるで年上のお姉さんのようなませたしぐさでうんうんと相槌を打ってみせる。
    トトロットと言えば、花嫁を夢見る乙女の間では知らぬものは一人もいない有名人(妖精?)だ。
    糸紡ぎの精。花嫁の味方。最高のブライダルフェアリー。彼女が手掛けた花嫁衣装はそれは美しく、かの妖精騎士バーゲストもアドニスとの結婚の際お世話になったその道のベテランだ。
    「ほうほう。シンプルなAラインで、レースと透かしを目いっぱい使って、でも派手すぎない・・・」
    夢見る乙女と言うのはいつだってわがままなものである。よって寄せられる要望もいつも難しいものばかり。
    しかしトトロットはひるむどころか、うれしそうにメモを取る。
    花嫁が喜ぶ姿が生きがいの彼女にとって、

  • 77建て主23/09/08(金) 21:25:15

    ぐおわあ!また途中投稿!!それからトトロットのエクター呼びなんか違うかも!!

    花嫁が喜ぶ姿が生きがいのトトロットにとって、難しい注文はむしろ彼女たちの期待を一身に背負っているのだと彼女を奮い立たせるのだ。
    「オッケー、後で寸法を測らせてね。当日までに仕立てるから!」
    「そうしていただくと幸いです」
    それからモルガンは、少しはにかみながらあるものを取り出した。
    「あっ!それってひょっとして、エクターが作ってくれた?」
    陽射しを受けてきらりと光るティアラに、トトロットは目を輝かせた。
    エクターはトトロットの服飾の師にしてモルガンの仲間。頑固なおやじといった気質だが、今回の一件を受けてモルガンにウェディングドレスのベールを支えるためのティアラを作ってくれたのだ。

  • 78二次元好きの匿名さん23/09/09(土) 08:06:39

    ありがとう毎日楽しく読ませてもらってます……!!

  • 79二次元好きの匿名さん23/09/09(土) 17:34:29

    保守

  • 80二次元好きの匿名さん23/09/09(土) 17:34:44

    エクターやトトロットがのびのびと暮らしているの尊い。これがアヴァロンか・・・

  • 81二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 03:32:23

    ほしゅ

  • 82二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 12:11:53

    保守

  • 83二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 20:29:22

    あのオーロラまできれいになってるのなんか感慨深い
    いやオーロラは良くも悪くももとからきれいだったけど

  • 84二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 07:19:38

    保守

  • 85建て主23/09/11(月) 07:38:06

    繊細かつ丁寧な装飾の施されたティアラには、エクターのぶっきらぼうながらあたたかな人柄がにじみ出ている。
    「エクターからはなんて?」
    「・・・手紙にはただ一言、こう書いてありました」
    幸せに、と。
    そうつぶやくモルガンの表情は本当に幸せそうで__

  • 86二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 19:31:00

    ほしゅ

  • 87二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 19:35:53

    これカルデアの藤丸ではないのかな

  • 88二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 22:22:34

    >>87

    カルデアから流れ着いたタイプかもしれない

  • 89二次元好きの匿名さん23/09/12(火) 07:29:27

    これはいいSS

  • 90建て主23/09/12(火) 08:10:12

    ~メリュジーヌサイド~

    線の細い少年と、國一番に気高い心を備えた妖精騎士。
    そんな二人が手と手を取ってソールズベリーを散歩する姿は大変仲睦まじく、見る者に自然と好意的な笑みをもたらす。
    「おや」
    それは、仕事漬けのオーロラをどうにか休みに誘いだし、新しくできたカフェで今流行りの『たぴおか』を楽しんでいるところだった。
    「あら、どうしたのメリュジーヌ」
    「ごらんよオーロラ、バーゲストがあんなところに」
    指さす先には、杖をついた少年を見守りながら、彼に歩調を合わせて通りを歩く長身の妖精の姿があった。
    髪型を変え、サングラスや清楚なワンピースで偽装しているつもりなのだろうが、輝かんばかりのブロンドとなによりも額から伸びる角を隠せていないあたり、なんともかわいらしい。
    「まあほんとう。どうしたのかしら」
    「また異邦の魔術師のところに行く気なのかな」
    「どうしてそう思うの?」
    「だって、彼はマーリンと一緒にいるもの。バーゲスト、騎士王の物語が好きだそうだからね」
    「そうなの・・・」
    なるほど二人の姿は赤い屋根の小さな家の中に消えた。オーロラがうれしそうに言う。
    「すてきね、好きなものがあるのって」
    「目の前にいるじゃないか、きみの好きなものが」
    「まあ、メリュジーヌったら」
    オーロラは照れくさそうにメリュジーヌの額を小突いた。
    「さあ、休日を楽しもうよオーロラ。次の妖精舞踏会に向けてきみを彩るシューズやドレスを買わなくっちゃね」
    「そうね。私は賛美眼が備わってないから、エスコートを期待するわよ、王子様?」
    「いやだなぁ、きみが一番好きなものを選べばいいじゃないか」
    二人はたぴおかに舌鼓を打ちながら、にこにこと笑い合った。

  • 91建て主23/09/12(火) 17:15:47

    ~バーゲストサイド~

    「今日も楽しかった?」
    夕食を食べ終わったアドニスは、バーゲストに問うた。
    彼女は、嬉しそうに答える。
    「ええ、すごく楽しかったです。なぜそのようなことを?」
    「僕も楽しかったよ。だから、きみも楽しかったならいいなーって」
    「・・・そうですね。わたくしも同じ気持ちです」
    アドニスははにかんだ。
    それに笑い返して、バーゲストは彼が眠るまで話をした。
    マーリンが来てからのバーゲストは、とても生き生きとしているというのがアドニスの感想だった。
    騎士王の物語の中には悲しい話もあった。あきれる馬鹿話もあった。けれどそれらは楽しく、バーゲストに円卓の騎士たちをとても身近に感じさせた。
    アドニスも楽し気だった。リツカから聞く異邦の話は彼を元気づけた。今まで本の中でしか知らなかった『よその世界』の物語は悲喜こもごもであったものの、決して悲しい結末ばかりではなかった。
    バーゲストは彼が眠ったのを見届けてから、夕食の乗ったお盆を持って部屋から出て行った。
    半分も減っていない食事を見下ろして、ひそかにため息をつく。
    元からアドニスは体が弱かったが、最近では誰かが一緒にいないとすぐめまいを起こして倒れてしまうほどだ。
    体の強さは心の強さに比例するというが、彼はその例に漏れるようだ。
    ・・・アドニスの体力は日増しに落ちていっている。

  • 92二次元好きの匿名さん23/09/12(火) 21:25:52

    どのへんが作者にとって終わりなんだろ。
    随分レス進んでるけど

  • 93二次元好きの匿名さん23/09/12(火) 21:26:12

    みんな幸せ時空でいいね

  • 94二次元好きの匿名さん23/09/12(火) 22:46:21

    >>92

    個人的にはぐだとモルガン様が幸せ生活してるところまで見たいけどな

    スレ主応援してるよ

  • 95建て主23/09/13(水) 07:58:07

    アドニスが病弱なのは、彼の母親がモース毒に侵されてしまったからだ。
    モースに襲われたせいでアドニスの母は寝たきりになってしまい、母親の胎の中にいたアドニスもその影響を受けてひどくか弱い体に生まれてしまったのである。
    できるかぎり彼に付き添う時間を増やしてやりたいが、自分は妖精騎士として、モースの残党狩りに行かねばならない。
    ヴォーディガーンの亡きあとも残党たちは残っている。
    一匹いればネズミ算式に増えていくのだ。
    ブリテンに真の意味での平和が訪れるまで、バーゲストはガウェインとして粉骨砕身働かねばならない。
    「・・・アドニス」
    それでも。
    彼に楽しい時間を与えてやりたいというのは、わがままなのだろうか___

  • 96二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 19:06:48

    こっちでもアドニスの体調芳しくないのしんどい

  • 97二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 03:05:16

    保守

  • 98二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 13:10:01

    オーロラまで綺麗になってるのすげぇ

  • 99二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 21:51:23

    ほしゅ

  • 100二次元好きの匿名さん23/09/15(金) 06:53:10

  • 101二次元好きの匿名さん23/09/15(金) 15:51:17

    うああアドニスこっちでも体調悪くなってるのかあああ
    バーゲストの『発作』が起きてないのが気になるね

  • 102二次元好きの匿名さん23/09/15(金) 21:06:26

    自室に戻り、ふところから手紙を出す。
    それは、結婚式への招待状だった。
    長年モルガンのために身を尽くしてくれたことへの例と、アドニスの体調がよければ出席してもらえないかと言う旨が書いてある。
    「・・・」
    行きたいのが本音だ。敬愛する女王からの誘いは受けたい。だがここ最近のアドニスの体の具合を鑑みると、とてもではないが行けそうにない。
    自分は、モルガンの騎士として民たちを守らなくてはならないし、一人の妻としてアドニスを見ていなければならないのだ。
    コンコンと扉がノックされ、バーゲストは顔を上げて、暗い表情を明るいものにつくろった。
    「どうしました、アドニス」
    「寝苦しくってさ。久しぶりにバーゲストのベッドで寝ようかなーって」
    「・・・いいですよ」
    アドニスはベッドに入ると、月明かりが照らす妻の顔を見た。
    「なにか悩みのある顔をしているね、バーゲスト」
    「そう、見えますか?」
    「僕に何でも言ってよ。妻の悩みを聞いてあげるのも、夫の仕事だからさ」
    「・・・あなたは過労気味だと思いますが」
    「そう?全然苦じゃないよ」
    ウィットに富んでいるんだかいないんだかわからない会話にひっそり笑う。__やはり、彼には隠し事はできない。
    バーゲストはぽつぽつと語り始めた。アドニスは眠たげな目をもっと細めて、それをすべて聞き終わった。
    「僕、行きたいな。女王陛下の結婚式」
    「でも、あなたの体は・・・」
    「わかってる。でも体がついてきてくれないからこそ、今できることを大事にしたいんだ。
     自分でもわかるんだ、だんだん動けなくなってることくらい」
    「なら」
    「聞いてバーゲスト。僕は、きれいなもの、幸せなもので心の中をいっぱいにしたい。
     きみの笑顔や、おいしいパン。よく干されたシーツだったり、夜中に飲むマシュマロを入れたココアの味みたいな、あたたかいもので胸の内をいっぱいにしたいんだ。それなら死ぬ間際だって、怖くないじゃないか」

  • 103二次元好きの匿名さん23/09/15(金) 21:09:50

    「・・・アドニス」
    「だから、連れて行って。僕、きみと一緒に幸せなものを見たいんだ。あぁ、僕の素敵な騎士。お願い」
    言ってて怖くなったのか、線が細くて、けれど芯の強そうなアドニスの頬を、つぅっと涙が伝った。
    バーゲストは息を呑んで、なにかを決意した者の目をしてうなずいた。
    「アドニスが眠れるようになるまで、本を読んであげます。・・・・今晩は『ガウェインと緑の騎士』にしましょうか」
    バーゲストは本を開いて、よく通る声で読み始めた。
    それは、アドニスの目が安心したように閉じて、安らかな寝息が聞こえてくるようになるまで続いた。

  • 104二次元好きの匿名さん23/09/16(土) 04:42:02

  • 105二次元好きの匿名さん23/09/16(土) 14:21:11

    このレスは削除されています

  • 106二次元好きの匿名さん23/09/16(土) 21:15:04

    ほしゅ

  • 107二次元好きの匿名さん23/09/17(日) 02:53:51

  • 108二次元好きの匿名さん23/09/17(日) 12:47:59

    ほんとアドニスいいやつ

  • 109二次元好きの匿名さん23/09/17(日) 20:49:09

    ほしゅ

  • 110二次元好きの匿名さん23/09/18(月) 04:52:51

    hosyu

  • 111二次元好きの匿名さん23/09/18(月) 13:35:39

    ほしゅ

  • 112建て主23/09/18(月) 21:31:27

    ※お知らせ
    最近仕事が忙しくなってきたので更新がゆっくりになります。報告遅れて申し訳ない
    落ちないようにだけは気を使いますので、みなさん保守などのご支援よろしくお願いします。

  • 113二次元好きの匿名さん23/09/19(火) 07:17:48

    >>112

    りょ

  • 114二次元好きの匿名さん23/09/19(火) 18:09:27

    ゆっくりでいいから完結してほしい

  • 115建て主23/09/19(火) 19:44:27

    ~リツカサイド~

    誰かが誰かに倒され、ワオオーッと歓声がひときわ大きく響く。
    通路の暗がりに溶け込みながら、リツカは唇を舐めた。
    口の中がからからだ。だけどこれ以上水を飲んで、戦ってる最中に催そうものなら目も当てられない。
    そう、自分は戦いに出るのだ。それもかつてのようにサーヴァントを介したものではなく、互いの体を張った戦闘だ。
    我ながら馬鹿げてる。この國における戦いの師範であると同時に、一番の武芸者のライネックと戦おうなどと。
    『やめたほうがいい。私と戦うなど、はっきり言って死にに行くようなものだ。
     戦いともなれば私は手加減ができないんだぞ、君になにかあったら、それこそトネリコに顔向けができない』
    そう、リツカはライネック本人にも止められた。
    いくら命懸けでなくとも、相手は亜鈴返りの排熱大公。こっちはどこにでもいるただの人間。実力差なんて考えるだけ虚しいほどだ。
    なにかの事故で死んでしまうかもしれない。もう少しで結婚という幸福を掴めるのに、それを自らフイにするような真似はよせと。
    ___証が欲しいのだ。
    自分は、多くの過ちを犯してきた。仕方なかった、自分も被害者だった、なんて言い訳は考えるだけで反吐が出るほど、多く。
    だから、自分は幸せになってもいいのだという証が欲しい。自分を許せる強い自分になりたい。
    そう言うと、彼は思案するように目を伏せ、
    『・・・君は十二分に強いと思うのだがな・・・』
    そう、つぶやいたのを覚えている。
    選手入場のアナウンスと、高らかなラッパの音。
    リツカは回想の海から戻ると、重い鎧兜に負けないように一歩を刻んだ。

  • 116二次元好きの匿名さん23/09/19(火) 20:45:22

    保守

  • 117二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 07:13:28

  • 118二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 17:30:47

    この世界のぐだも罪の意識持ってんのか・・・おまんのせいじゃなか

  • 119二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 20:35:20

    ケジメか

  • 120二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 06:54:46

    せつないなあ

  • 121二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 17:11:05

    ほしゅ

  • 122建て主23/09/21(木) 20:25:28

    「それでそのケガですか」
    「うん、結局負けちゃって・・・でもすっきりしたよ。吹っ切れた」
    「まったく、殿方の気持ちは時々理解できないことがありますね。さあ、患部を見せてください」
    「治してくれるの?」
    「結婚式の場で片腕の上がらない新郎など決まりませんからね。それとも、あなたは私のベールをほかの誰かに持ち上げさせる気ですか?」
    「・・・へへ」
    「・・・ふふ」

  • 123二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 08:05:17

  • 124建て主23/09/22(金) 18:20:20

    ~モルガンサイド~

    「鏡見て、トネリコ。すごくきれいだ」
    トトロットが姿見を運んできた。
    そこには、見違えるような自分が映っていた。細かいレースやオーガンジーをたっぷりと使い、それでいて下品でなく、彼女の元から備えた美を引き立てている。
    モルガンはしばしじっと己の姿を見つめ、薄く口紅を引いた口角を上げた。
    「・・・素晴らしいです。最高の仕事をありがとう、トトロット」
    「ふふっ。大親友のきみから任せられた仕事なら、いつもの二倍、いや三倍は力が入るってものさ」
    「お母様、入ってもいい?」
    コンコンとノックの音。ドアを開けたバーヴァン・シーは、佇むモルガンの姿を見て息を呑んだ。
    「すごく・・・すごくきれいだぜ、お母様」
    バーヴァン・シーは、己の語彙力の無さを恨んだ。愛する母の美を讃えたいというのに、口からはありきたりな言葉しか出てこない。だがその素朴な称賛は、母に届いてくれたようだ。
    「私もそう思います。トトロットは見事に働いてくれました」
    「へへっ、よせやい」
    トトロットは鼻を掻くと、背の高い椅子にぴょんと登ってモルガンの細い肩にそっと手を添えた。
    「さあ、バージンロードを歩こう、トネリコ。きみの最愛が待ってるよ」
    トトロットにとって、異邦の魔術師の手を取る決断をしたトネリコの姿は喜ばしかった。ウーサーのことはもちろん好きだったが、女の子はいくらだって恋をしていい。そして。好きな人と一緒になりたいという気持ちは、決して罪ではないのだ。

  • 125建て主23/09/22(金) 18:37:34

    式場は小さく、シンプルなのを選んだ。
    神父はおどろき とまどったが、敬愛する女王の決めたことにケチをつけるような無粋な真似はしなかった。その人柄をモルガンは気に入ったのだ。
    バーヴァン・シーに手を引かれ、真っ赤なバージンロードを歩む。
    式場には、彼女を知る友人や腹心たちが集った。見て、バーゲストがアドニスによりそってこちらに微笑みかけている。メリュジーヌとオーロラがほほ笑みながらこちらを見てる。
    何人かは式に参列しなかったが、モルガンはあえてその理由を考えることはしなかった。ほら、マーリンが満面の笑みで拍手をしている。
    道の先に、彼はいた。ほら、まぶしいほど白いスーツを着て、胸にバラの花を挿している。腕を後ろで組んで、決して涙はこぼすまいと下唇を噛みしめている。
    「・・・リツカ・・・」
    彼の前にたどり着いたモルガンのベールを、リツカはうやうやしく持ち上げる。
    「なんだよ、そんな顔して。せっかくの晴れ姿が台無しだぞ~?」
    リツカは笑った。笑ったが、泣いてもいた。
    「リツカだって、すごい、顔」
    モルガンは泣きながら笑みを浮かべた。
    病めるときも健やかな時も、共にありたいと願い合い、
    死がふたりを分かつまで、共にいたいとここにある。
    ちょっと頬を赤らめながら、リツカは少し背の低い妻の唇に、そっと己のそれを重ねる。
    祝福に包まれながら、二人は口づけをかわした。

  • 126二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:42:08

    お幸せに

  • 127二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 06:12:44

    ほしゅ

  • 128二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 17:38:33

    ついに結婚までいったか…!

  • 129二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 20:01:11

    ほっしゅ

  • 130二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 21:51:47

    うおおおおおめでとおおおおおお

  • 131二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 07:23:47

    ほしゅほしゅ

  • 132二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 17:09:54

    保守

  • 133二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 21:12:37

    やっと結婚にこぎつけたか・・・!
    まだまだ続きそうだが

  • 134二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 06:51:05

  • 135二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 17:42:34

    このレスは削除されています

  • 136建て主23/09/25(月) 19:43:09

    「そうして産まれたのがお前だ、私の弟。・・・お姉ちゃん、がんばるからね」

  • 137二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 22:07:57

    話が飛びすぎだァー!!

  • 138二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 07:13:23

    >そうして産まれたのがお前だ、私の弟。

    !?!?!?

  • 139二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 18:03:49

    どういうことなの・・・

  • 140二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 21:33:40

    ほゆ

  • 141二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 02:37:44

    おめでとう

  • 142二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 13:08:13

    おめでたやないかい

  • 143二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 21:32:29

    と、とりあえず続きを待ちます…

  • 144二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 06:19:42

オススメ

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