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  • 1二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:23:21

    あるところに怪物の少女がおりました。
    その少女は大きなお城に一人で住んでいました。
    近くには小人の町がありましたが、自分が怪物であることを知っている少女はそこに行こうとは思いませんでした。
    それは少女が優しいからという訳ではなく、そう教わったからです。
    彼等と自分は違うものである。
    彼等とは矮小である、儚いものである、愚かである、ずる賢いものである。
    怪物の中でもお姫さまとして育った少女はそう教わりました。
    だから思ったのです。
    ――ああ、関わってもいいことはないのでしょう、と。
    そうして怪物の少女は部屋に鍵をかけました。
    窓から見える小人達の喧騒が聴こえないように、関わりなど持たなくてもいいように。
    お城の門を固く閉ざしたのです。

  • 2二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:24:01

    そんなある日のこと。
    少女の部屋に予期せぬ来客がありました。
    ――はじめまして!
    そう挨拶したのは少女が避けていた小人でした。
    どういう訳かこの小人の少年は、鍵をかけていたはずの部屋に入ってきていたのです。
    どうやって入ってきたのか? そんな疑問に目をパチクリとしている間に少年は自分の名前を教えたり、少女について訊ねてきたりします。
    驚きつつも、少年と幾度か会話をする少女。
    まるで友人にでも語るかのような、明るく朗らかな口調の少年との会話は、長い間ひとりぼっちだった少女には新鮮な体験でした。
    気付けば日は暮れていました。
    ――あ、帰らないと!
    そうして小人は現れた時と同様、唐突に姿を消したのでした。
    消したといっても透明になった訳ではありません。あまりに小さかったので、素早く動かれると見失ってしまうのです。
    そうして、またひとりになった少女は先程までの喧騒を思い返すように目を瞑りました。

  • 3二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:24:47

    ――こんにちは!
    次の日も小人はやってきました。
    その姿に呆れつつ、どうやってお城に入ったのかを訊きます。門にも部屋にも厳重に鍵をかけているというのに、少年はどうやってここまでやってきたのか?
    そんな疑問にと小人はあっけなく答えました。
    ――壁に割れ目があったからね、そこを通ってきたよ!
    ……なんということでしょう。
    小人であるが故に本来なら気にしなくてもいい小さな隙間すらも通れるという事実に少女は目眩を覚えました。
    ……いえ、ですが、もうひとつ気になる疑問がありました。
    ――私は怪物ですよ? 怖くないのですか?
    ――そうなの!? 確かに大きいなとは思ってたけど、そうだったんだ。
    その疑問を口にすると、小人は驚きつつも特に気にした様子もなく、寧ろ『そうだったんだ』と納得すらしています。
    怪物の話は小人も知らされていたようですが、この前にいる少女がそうだとは思っていなかったようです。
    それを知ったことで小人は怖がってしまうかと思いましたが、そんな素振りを見せることなく談笑を続けるのでした。

  • 4二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:25:29

    それからも、小人は毎日の様に足繁く少女の元に通いました。
    話のネタは色々で、他愛のないものから興味深いもの、趣味の話まで幅広く、いつもいつも日が暮れるまで語り合っていたのです。

  • 5二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:26:00

    そうして、ある日のこと。
    ぱたりと小人は姿を現さなくなりました。
    少女は何故だろうと考え、やはり自分が怪物だから怖くなってしまったのでは? と思い至りました。
    泣きこそしませんでしたが、少女は哀しい気持ちになりました。
    日が暮れるまで……いいえ、日が暮れた後も少女は小人を待ち続けました。

  • 6二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:26:34

    それからまた時間は流れました。
    いったいどれだけの時間が流れたのかはわかりません。怪物である少女は他の生き物と生きる時の流れが違います。
    彼女にとっての『この前』はあるものにとっては『数年前』かもしれない。またあるものにとっては『数十年』かもしれない。
    だからもう小人は自分のことを忘れているかもしれないし、ヨボヨボの老人になっているかもしれない。
    もしかしたら、もうこの世からいなくなっているかもしれない。
    その『もしも』を考えると怖くなってしまうのです。
    誰かと共に過ごす楽しみを知ってしまった怪物は、またひとりぼっちになってしまいました。

  • 7二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:27:06

    ひとりぼっちに戻ってからどれほど時間が経ったのか。
    ただ少女は以前と同様……いえ、以前よりも『外』との関わりを断とうとしました。
    門や窓には鍵だけでなく鎖が巻かれています。
    もう誰とも会いたくないと思っていたのでしょう。
    ですが、
    ――ひさしぶり! 元気だった!
    そんな少女の拒絶/願い/怖れとは裏腹に小人はいつか見た姿のまま、また忽然と現れたのです。

  • 8二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:28:14

    ……………………?
    ――ふと、疑問を抱いた私は一旦筆を止め、静かに置きました。
    …………あ、思考を戻さないといけませんね。
    登場人物の思考や感情を思い描くというのは意外と難しい……。
    しかし、どういうことでしょう……何故私はこういう展開に……。

    「どうした、真祖の姫。筆が止まっているようだが?」

  • 9二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:29:39

    …………アンデルセン。

    「なんだ行き詰まったか? なら取っておきの解決法を教えてやろう。風呂上がりに裸になって散歩してみろ、俺もよくやるがなかなかの清涼感だ」

    現代ではそういうのを強要するのはハラスメントになると聴きましたが……もしそうなら貴方には相応の罰を与えなければいけませんね。

    「強要はしていない、あくまで提案だ。それで、どうかしたか。先程まで水に流されるかのようにすらすらと書けていただろう」

    はい。貴方の助言もあり、想定通りに進んでいました。

    「それは重畳。わざわざ指南した甲斐があるというものだ。まったく、サバフェスが終わった後に『本を描きたい』と言われるとはな。おまけにこの俺に書き方を教わるなぞ正気か?」

    ……? 私に本を読むよう提案したのは貴方です。なにより、この方面では貴方に一家言あるでしょう。

    「袖振り合うも多生の縁と言うやつか。まさか『鑑定』の代金を今になって払わされるとはな」

    真祖の姫の内面を覗き見たのです。寧ろ破格の安さだと思いますが?

    「……まあ過ぎたことを言っても始まらんか。それで、そんな俺がわざわざ手を貸してやったというのに何故止まっている?」

  • 10二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:30:36

    ……それは……。

    「いや、言葉を変えよう。詰まった原因はなんだ? プロットに不備があったか、急なアドリブを入れたか、はたまた作品以外に気になる要因が他にできたか」

    …………恐らくは、アドリブなのでしょうか。

    「――ほう」

    ……自分でもわからないのです。途中まではプロット通りに書けていたはずなのですが、何故か気付いたらプロットから外れたものを書いていたのです。

    「どれ、見せてみろ。…………なるほど。当初の予定ではこの怪物の姫と小人はある日を境にぱったりと交流が絶たれ、そのまま二度と会うことなく姫は城の中に籠もり続けるというものだったな」

    ……はい。

    「改めて思い返しても辛気臭い結末だ。まあ俺が言えた義理ではないだろうがな」

    ………………。

    「だが、これを読む限り本来ならもう会えなくなったはずの小人が出てきているな、それで違和感を覚え、筆を置いたと」

    ………………はい。

    「――いいぞ。そうでなくては面白くない」

    え……?

  • 11二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:31:33

    「物語において想定(プロット)通りにいくのは理想ではあるが完遂させるのは難しい。これはプロだろうとアマだろうと同じことだ」

    ……そう、なのですか?

    「ああ、なにせ人間というのは常に『より良い方へと』考えてしまう生き物だ。生活を向上させたり、趣味に傾向したり、美味い物を作ったりな。その方が自らにとって『より良い方』だと感じ、魅力的だと思っているからだ。創作も変わらん。結局の所、自らが望む展開が都度変わるからに他ならん。現代では完全な商品として客需要を考慮した結果、作家ではなく客に合わせるのがニーズらしいが……まあおまえが見せたい読者(相手)なぞ一人しかいないだろうからそこは気にするな」

    …………つまり、私はどうしたら?

    「好きにしろということだ。そもそも前に言ったはずだ、想定ではなく想像しろ、と」

    ――――!?

    「一度想定から外れたのなら後は好きに想像しろ。想定していた結末が変わるのは創作に限らずよくある話だからな。アドリブのやり過ぎもまた問題だが、おまえに関しては抑えつけるのは反って悪手だろうよ。
    ――ああ、それとも、気分転換がてら“小人”にでも会いにいくか?」

    ……いえ、今はまだ……。
    それはそうと、ありがとうございます、アンデルセン。
    おかげで迷いが晴れました。

    「ふん。礼はいい、それよりさっさと筆を進めろ。真祖の姫が本を作るなぞ最高に愉快なネタだ。完成させる瞬間をこの目で拝ませろ」

    ……ふふ、本当に素直ではないのですね、貴方は。
    ですが……はい。取り組んだ以上はちゃんと完成させましょう。
    言葉ではなく、その行動が、なによりの貴方への感謝の気持ちでしょうから。

  • 12二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:32:42

    >>7

    ――どうして?

    そう少女が口にすることはありません。

    何故なら、窓も扉も門も虫一匹入れないような堅く閉ざしたにも関わらず、壁の隙間だけはそのままにしていたのです。

    それは、いつかまた小人が来てくれると期待していたから。

    それは、ひとりぼっちは寂しいと気付いた少女の未練なのです。

    壁の隙間は少女の心を表していました。

    いいえ、このお城そのものが少女だったのでしょう。

    だから一見堅く閉ざされているように見えて、意外な所から入れてしまう。

    寂しいと気付くこともできなかった少女の無意識の現れです。

  • 13二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:33:27

    ――ごめんね、しばらく来れなくて。
    それに応えるように現れた小人は、謝りました。
    少女は首を傾げます。
    小人にまた会えた彼女は嬉しくて、小人が姿を消していた理由など何処かに飛んでいたからです。
    そんな少女に対して、小人は語りました。
    今日の話のネタとして、今までこれなかった理由と経緯について。

  • 14二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:34:10

    話はそう難しいものではありませんでした。
    小人の親や親しい者達に怪物と会っていたことを知られてしまったというのです。
    怪物の実態を知らず、ただ『怪物』であるという言い伝えだけを知っている者達は小人を大層心配したそうです。
    呪われていないか?
    魅入られていないか?
    既に何処かを喰われているのではないか?
    そんな不安と焦燥により、小人はしばらく家から出ることが許されなかったそうです。

  • 15二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:34:43

    ことが大きくなった後は小人も慎重にならざるを得なかったそうです。
    それでも、怪物の少女と友達になった小人は彼女を放っておけなかったようで……色々と苦労したようですが、親や親しい者達を説得できたと語ります。

  • 16二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:35:21

    ――これでまた一緒に話せるよ!
    そう嬉しそうに語る小人の笑顔に、少女は知らず知らず涙を零していました。
    何故泣いているのか少女にはわかりません。
    ひとりぼっちじゃなくなったからか。
    小人が自分の元に戻ってくれたからか。
    それとも自分と会ったせいで小人に迷惑をかけてしまったからか。
    理由などわかりません。
    ひとりぼっちだった少女に、それを教えてくれる者はいなかったのですから。

    ですが、もう少女はひとりぼっちではなくなります。
    だからいつかその答えにたどり着くことができるのでしょう。

    小さな友人と語り合う、そんな日々を過ごせば、いつの日かきっと――。

  • 17二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:36:36

    …………どうでしょうか?
    アンデルセンの手を借りたとはいえ、初めて物語を紡いだので、勝手がわからなかったのは事実。
    多くの同人誌を読んできた貴方から見れば拙いものではあるのかもしれませんが……。
    …………え? 面白かった? 賛否あるかもしれないけど、自分はこの終わり方は良いと思う?
    …………そうですか。それは良かった。
    今になって作った意味ですか?
    サバフェス中は貴方は大変そうでしたから。それにこれは頒布するつもりはありません。そもそも、私は最初は作る気がなかったのですが、アルクェイドが……。
    いえ、アルクェイドの発案というより、彼女がとあるサークルの同人誌を読んだ結果私も試したみたらどうか、と。
    ……そのサークルですか? 確か、梁山泊……だったかと。ジャンルはラブコメでしたか? 私にはまだ理解の出来ないところがありましたが、一応読みました。
    内容はともかく、自分をモデルにするとは意外な着眼点でした。それならば私もできるのではと――
    コホン、失礼しました。なんでもありません。

  • 18二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:37:30

    ……ところで何故『小人』なのか、ですか?
    領域規格(スケール)のことも指しているのですが……やはり一番の理由は『可愛らしいから』でしょうか。
    そう思いませんか? 小さくて、少しでも目を離したらいなくなりそうで、ちょっとでも力加減を間違えたらうっかり潰してしまいそうで……。
    ……はい。だから『小人』と表したのです。
    ええ、ですので、題名(タイトル)は――。

  • 19二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:38:26

    『私の小人』

    解説

    アーキタイプ:アースが(アンデルセンの手を借りたとはいえ)個人で作り上げた一冊。
    ある城に住む怪物の姫と小人の少年のお話。ファンタジーというよりは寓話的な内容に仕上がっている。
    アースの初めての創作本ということもあり、ところどころ粗い箇所が幾つかあるが、それでも手に取ったある読者の心には響いた模様。
    サバフェスで頒布されたものではなく、ある一人にのみ贈られた完全な一点物。欲しければその所有者と交渉するしかないが、彼曰く「絶対手放さない」とのこと。

    ちなみに、その本の内容を所有者以外で唯一知る童話作家は「月にも花は咲くらしい」と愉快に笑っていたとか。

  • 20二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:51:43

    ナチュラルにうっかり潰してしまいそうとか言っちゃうの好き

  • 21二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 23:55:11

    素晴らしいものを読んだ
    ありがとう

  • 22二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 08:21:42

    神作がすぎる…ありがとう…

  • 23二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 20:19:28

    良すぎて死んじゃう…本当にありがとう…

  • 24二次元好きの匿名さん23/09/05(火) 02:22:48

    めちゃくちゃ好き…ありがとう…

  • 25二次元好きの匿名さん23/09/05(火) 13:17:29

    ぐさアースシリーズ更新嬉しい・・ほんとありがとう

  • 26二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 01:13:46

    >>25

    ごめん誤字してた。ぐだアースシリーズ更新ありがてぇ……本当にありがてぇ…

  • 27二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 01:21:28

    好き

  • 28二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 08:12:35

    すげぇ…

  • 29二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 11:34:41

    美しいものを見ました…ありがとうございます

  • 30二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 13:09:22

    神SS本当にありがとう…

  • 31二次元好きの匿名さん23/09/07(木) 00:56:31

    ありがとう‥ありがとう‥

  • 32二次元好きの匿名さん23/09/07(木) 12:06:20

    なんだこの神SS!!ありがとう!!

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