- 1二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:18:00
- 2二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:18:22
───許されない。
「お前みたいな弱っちい奴なんか………!」
その先を言いたくない。
けれど、これは過去の記憶。既に結果は確定していること。故に、抗えない。
「大っ嫌いだ!!!!!」
………貴女の絶望と悲しさに塗れた表情が、瞼の裏に鮮明に焼き付いていた。
ジリリリリリリリリ………
大きな目覚ましの音で、私は現実に引き戻される。
「っ………また、この夢か…」
幼き頃の私の夢。暴れん坊で、自己中心的で。自らの思い通りにならないとすぐに拗ね、また暴れる。そんな、幼き頃の消えない記憶。
………起き上がり鏡台の前に行き、自らのトレードマークとも言える…─最も、『彼女』も同じ特徴を持っているのだが─額の大きな流星を整える。鏡に映る自らの顔を眺めているうちに、どこか自分によく似た『彼女』のことを思い出す。
「………バンブーさん」
昨日トレーニングの時に会ったのが最後なのだが、私の中ではついさっき会ったような感覚が抜けきらない。それもその筈、夢の中に出てきた貴女が、幼き頃のバンブーさんなのだから。
「…弱っちい奴なんて、か」
あの時本当に『弱っちい』状態だったのはどちらだろうか。自らを制御することも叶わず暴れまわっていた私と、弱い自分を受け入れ前向きに鍛錬を重ねていたバンブーさん。
…そんな思考に耽りながら朝の支度を整え、学園へと向かったのだった。 - 3二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:18:36
「おはようございますッ!!!」
「おはよーございまーす、朝から張り切ってますねー風紀委員長」
「はいッ!朝の挨拶は一日を気持ちよく始めるための、大事な要素っスからね!」
今日もバンブーさんは朝から挨拶活動をしている。流石というべきだろう。私は、今朝の夢の影響もあるだろうか、少し目を逸らして通り過ぎようとする。
「あっ、ヤエノ!おはようございますッ!!!」
…見つかった。
「………おはようございます、風紀委員長殿。今朝も気合が入っていますね」
「あ…はい!ヤエノ、今日も一日頑張りましょうね!」
「…はい」
………何だったのだろうか。今一瞬、彼女の表情が歪んだ気がした。それこそ、夢で見たあの表情のような。…ああ、そうか。
「………やはり私は、許されない」 - 4二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:18:55
思えば当たり前だろう。あの時の私が言い放った言葉は凶器。彼女の心を、きっと深く深く抉ってしまった。
私は彼女に許されるだなんて思うべきではない。幼いころからお互いを知っている、彼女は私の醜いところも全て知っている。むしろ、それにより最も被害を受けてきた。
その日の授業は、まともに受けられなかった。いつも見ていた夢。いつもの挨拶。いつもと違うのは、私が気づいてしまったこと。
許されないことに。
どこかふわふわと、ふらふらとした足取りで廊下を歩いていると、一人のウマ娘が呼びかけをしているのを見かけた。
「今年も『リーニュ・ドロワッド』の季節がやってきましたよ~!参加の方はお早めに~!」
「…ドロワ、か」
私には無縁のものだろう。そもそも今でこそ止水の心を手に入れて、表面上は誤魔化しているものの。本性、根っこは未だ変わらずにいる私。誰かと踊る資格なんて、誰かとペアとなる資格なんて、きっと───
「あーっ、ヤエノいた!!!」
「…!?」
大きな声に思わずびくりと肩を震わせる。そこにいたのはバンブーさん。今は顔を見るのがつらいのだが…何か用事だろうか?何にしても、ここで逃げてしまっては明らかに不自然だし、これ以上罪を重ねたくなかった。
「は、はい。ヤエノムテキです。どうかしましたか?」
「どうしたもこうしたも何もないっスよ!時期が時期っスもん、ドロワっスよドロワ!一緒にやりましょう!」
「…はい?」
耳を疑う。それ以上に彼女を疑う。何なのだろう、私は過去に彼女に嫌われることをたくさん重ねてきた。なのに何故、私とドロワなどと………そもそも、この誘いは本当に私宛なのだろうか。
「…私、ヤエノムテキと、風紀委員長殿で、ですか?」
「はい!」
本当だった。 - 5二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:19:13
「………まあ、断る理由はありませんが」
「本当っスか!?やったやった、よろしくお願いします!!!」
………ああ、引き受けてしまった。何故私は…なんだかもうよくわからないが、やり遂げるしかないのだろう。
この日から、『ベストデート』に向けての練習が始まった。
とりあえず衣装の発注などはまだ先にすることにして、練習を始めることにした。
私がリードとなり、彼女の手を引き、ゆっくりとステップを踏んでゆく。
「…へへっ」
「………」
彼女が時折見せる満足そうな笑顔。理由はわからない。ただわかることは、その笑顔を見て私もまた少し幸せになるということだった。…そんな資格はないのに。
「…風紀委員長殿。そろそろ水分補給をしましょう」
「………はい!」
だけれど、何故だろうか。彼女はそれでも時々悲しそうな顔をする。法則には薄々感づいていた。が、認めたくない自分がいた。
それでも、もうそれしか答えは残っていないのだろう。
(…風紀委員長殿、と呼ぶたび)
彼女の表情が、陰っている気がする。 - 6二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:19:29
バンブーさん、と名前で呼ぶことをしない理由はただのエゴだった。ただ彼女とまた距離を縮めたくないだけ。また彼女に私が心を許して、醜い部分を晒したくなかった。
彼女は私を嫌っているかもしれないが、私は彼女を好いている。故に、近づきたくない。さらに嫌われるのは嫌だから。
…けれど。彼女が風紀委員長殿と呼ばれることで不快になっているのなら、それは本望ではない。
「…それでは練習を再開しましょうか、『バンブーさん』」
「………!はいッ!!!!!」
満足そうな、元気で溌剌とした笑顔を浮かべて駆け寄ってくる彼女。どうやらこれで正解だったらしい。…しかし、わからない。いや、わかりたくない。
これによって、一つの可能性を思い浮かべてしまった。あまりにも自分にとって都合が良くて、あまりにも結末として都合が良すぎる可能性を。
(…嫌われてるわけでは、ないのだろうか)
そんな、自らにとって都合の良すぎる可能性を思い浮かべた自分を嫌悪しつつ、その日はダンス練習に打ち込んだ。
───泣き声が聞こえる。
また記憶の中、夢の中に私はいる。目の前の彼女は泣いている。優しい言葉の一つもかけられず、私はただ見つめている。
彼女がこちらに気付く。手を伸ばしてくる。『弱っちい』やつが助けを求めている。
今の私ならその手を躊躇なく取るだろう。だが、私は………その手を払った。
「お前みたいな弱っちい奴なんて知るか!自分でどうにかしろ!!!」
………ああ、私はなんて…なんて、浅ましいのだろう。
自らに向けられた手の一つも取れないで……… - 7二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:19:44
そうしてまた、目覚ましの音で現実に引き戻される。
今日もまた、一日が始まってしまう。
…ああ、今日もダンス練習をするのだろうか。当たり前だ、ベストデートを目指すのだから。私はどこか、憂鬱だった。
「ヤエノ、今日もよろしくお願いしますッ!!!」
「はい、よろしくお願いします、バンブーさん」
そっと彼女の手を引いて………夢を想起する。
彼女の手を引ける幸福。彼女の手を握っても許されるという幸福。それを私は噛みしめていた。…本当に私は、許されるのかもしれない。嫌われてはおらず、過去の所業も許されて、また友人として歩めるのかもしれな───
「………ぁ、?」
視界が歪む。目の前の彼女が居なくなる…否、幼いころのように、縮んでいて。その眼は私を恨めしく見つめていた。
「………ああ」
何を考えていたんだ、私は。許されるはずなんてなくて。私は過去の十字架を一生背負って生きるしかないのに。
「…エノ…ヤエノー?」
「………」
彼女の声が聞こえる。彼女の声ではない、しかし声色は同じ声も同時に聞こえた。
「…なんでこんなひどいことするの?」
それはいつの日か確かに言われた言葉。私は彼女に「ひどいこと」を続けてきた。今更、許されるはずなんて………
「ヤエノッ!!!しっかりしてほしいっス!!!」
「………ごめん、なさい」
「ん?」 - 8二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:20:00
気が付けば目の前の幼い彼女は消えていた。きっとただの幻覚、白昼夢。だけれど、調子に乗り驕った私に現実をもう一度見せるには十分だった。
消えぬ罪の意識はいつまでも夢を見せる。この夢から逃れられる日はきっと来ない、なにより私は許されてはいけない。
「ごめんなさいっ………!」
「ちょっ、ヤエノ!?どこ行くんスかー!?」
気が付けば脚は部屋の外へと向かっている。文字通り私は逃げ出した。その場所から、私の罪の象徴である彼女の前から。
………ただ。
「えっちょっと、速………」
「捕まえたっス!!!なんでどっか行こうとしちゃうんスか?まだ練習中っスよ!!!」
スプリンターである彼女に、瞬発力でかなうはずが無かった。
「…なんで、私なんですか」
「え?」
「オグリさんだって、シチーさんだって、バクシンオーさんだって。貴女にはたくさんの友人がいるのに…なんで、私なんですか?」
「なんで、って…」
「聞き方を変えます。…なんで、恨むべき相手を選んだんですか?」
「え?」
さっきから彼女は素っ頓狂な声しかあげていない。すべてを全く理解していない様子である。
………もっと、直接的に聞くべきだろうか。
「…私は、貴女に幼少から乱暴を続けてきました。貴女に暴言を浴びせた。貴女の助けを求める手を振り払った。ええ、ひどいことばかりしていました」
「………」
「無理しないで良いんですよ。嫌っていて良いんですよ。私なんか…」
「やめてください!」
急に彼女が大きな声を上げる。 - 9二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:20:16
「アタシの大切な友達を『なんか』っていうのは本人でも許さないっスよ!!!」
「…たいせつな、ともだち?」
わけがわからない。幼馴染ではある。同じ学園の生徒でもある。だが、それだけ。友人だった時期もあっただろう。だが、それは歪んだ関係性。少なくとも今この瞬間、彼女から友達扱いされるとは思ってもいなかった。
「…なんで、私を嫌わないんですか」
気が付けば一粒、涙が零れていた。それは悲しみか、喜びか、はたまた整理のつかない感情を涙という形で外に出しただけなのか。自分でもわからなかった。
「…確かに小さい頃のヤエノは怖かったっスよ。でも」
彼女は一呼吸おいて続ける。
「でもヤエノは、そんな自分を変えようと努力を続けていた。それはアタシが一番よく知ってる。今こうして冷静に話せるようになるまで、きっとすごい時間かかったんスよね。アタシ、昔のヤエノも怖かっただけで嫌いじゃないし、今のヤエノは大好きっスよ!!!大事な幼馴染で、大事な友達っス!」
………良いのだろうか。
「…こんなに、幸せで」
「ん?」
「………何でもありません。大変な無礼を働き申し訳ございませんでした。さあ、練習に戻りましょう!」
「!…はい!」 - 10二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:20:34
それから数日間。練習は何も滞ることなく進んでいた。が、ある日。
「ごめんなさいヤエノ、今日の練習休んでも大丈夫っスか?」
「?…ええ、大丈夫ですが。やはり私に何か問題が………」
「あっ!?いやあの違って!全然違うんで安心してほしいっス!」
慌てて否定の意思を全身を使って表す彼女。その様子がどこか可愛らしくて、私はくすり、と笑みを溢した。
「………あ」
「ん…?」
「ヤエノ、笑ってくれましたね」
彼女は私の何十倍も嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った。…私がただ少し笑っただけで、ここまで喜んでくれるのか。そう言えば、ずっと彼女の前で笑顔なんて見せていなかった気がする。
「…それで、なにか用事でもあるのですか?」
なんだか気恥ずかしくて。それを隠すように、話題を逸らすように私はそう問いかける。
「ああはい、なんでも勝負服が届いたみたいで!今日はそれを試着して走ってみようと思ってるんスよ!」
「おお、そうなのですか。それはめでたいですね!」
勝負服。私達ウマ娘にとって、特別な服。G1レース、名誉あるレースに出走する時のみ着用できる正装。それを初めて試着し、身に纏うとなれば、その喜びは計り知れないだろう。
…彼女は一体どんな勝負服を身に着けるのだろうか。私は気になった。
「…傍で、見ていてもよろしいでしょうか」
「えっ、見ててくれるんスか!むしろ大歓迎っスよ!!!」
ニコニコと嬉しそうに、楽しそうに笑って。彼女は快く承諾してくれた。 - 11二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:20:51
ダッ───
地面を蹴る音が聞こえる。
「はっ、はっ、はっ………」
栗色の尾を靡かせて、黒いジャケットは風を受けて広がり、白いブーツで地面を蹴る。勝負服を纏った彼女は、美しかった。
「………っ」
言葉も、失うほどに。
あの日私が虐げていた『弱っちい』少女はこんなにも強く、美しく成長していた。
「ふぅっ!どうだったっスか、ヤエノ!?」
「…綺麗でしたよ」
「ほんとっスか!!!へへ、照れくさいけど…嬉しいっスね!」
黒い3本のベルトを締めた白い手袋越しに、言葉通り照れ臭そうに頬を掻く彼女を、走ってるうちにすっかり落ちた夕陽が照らしていた。
「少し、私も走りたくなってしまいますね」
「おっ!それなら一緒に走るっスか!?」
「えっ、いや………」
試着とはいえ、勝負服を纏ったらそこは神聖な場。こんなジャージ一枚で並ぶなど烏滸がましい。
そういった気持ちを、素直に伝える。 - 12二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:21:08
「なるほど、なるほど…じゃあヤエノも勝負服着て走りましょう!確かこないだ届いたって言ってたっスよね?」
「っ!?た、確かに届いているのですが…その」
夕陽に照らされ輝くようにすら見える彼女に並ぶのが、どこか許されないことのような気がしていて…
「遠慮とかはしないで良いっスからね!さあさ、着替えてきてください!」
…彼女の意思を無碍にするのも嫌だったので、着替えてくることにした。
「おぉっ…ヤエノ綺麗っスね!なんだか惚れ惚れしちゃうっスよ」
「そ、そんな…無理に褒めずとも…」
「むっ、お世辞じゃないっス!」
確かにこの勝負服は美しい。だが、纏う私がそれに足る人物とは未だ思えておらず。故に、綺麗なのだとしたら私ではなくこの衣装がだろう。
「とりあえず併走するっスか!?アタシ準備万端っスよ!!!」
「…では、走りますか」
私達は並び、走った。聞こえる己の息遣い、それ以上に感じる相手の息遣い。相手が一歩大地を蹴るごとに感じる振動。ちらりと相手を見ればばちりと合う視線。私たちは共に走っている、それを全身で感じていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁあああ………!!!」
「ふっ、ふぅっ、はぁ、あははははッ!!!」
彼女が途中で笑いだす。楽しいのだろう。私も楽しい。
「…ふふっ」
併走はずっと横一線に並んだまま、ゴールインした。 - 13二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:21:25
「っくぁーーー!!!沁みるっスね!!!」
併走が終わってしばらく。彼女はスポーツドリンクを一気飲みして、手の甲で汗を拭おうと…
「あ、バンブーさん。手袋が汚れてしまいます、ハンカチを今貸すので…」
「はっ、手袋…!そうだった!ありがとっス!!!」
にしても、と。私は今の心境を整理していた。
「………一緒にこうして対等に走れる日が来るとは。素晴らしいものですね」
「本当っスよね!なんだかお互いを認め合ってる感じでアツいっス!!!」
お互いを認め合う。少し前の私なら考えられないことだった。誰かに、それもバンブーさんに認められるだなんて許されないことだと思っていたから。
「…この暖かな感情は、忘れずにいたいです」
「そうっスねぇ………」
二人でベンチに座って、少しだけ見え始めた星を眺める。
「………あ」
「ん?どうかしたんスか?」
「いえ…」
「今度のドロワについて、一つ思いついたことがありまして」 - 14二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:21:43
(ついに、この日が)
爛々と輝いている照明。今か今かと流れる時を待つ音楽。どこかあつい熱気の中、私は佇んでいる。
白い手袋越しに自らの心臓にあたる位置を抑える。鼓動を感じる。
(この時間が、やってきた)
深緑のスーツに身を包み、白いブーツの底を鳴らして一歩前に出る。
その先には彼女が、バンブーさんがいる。
(今日まで積み重ねてきた練習は無駄にならない)
彼女は白と黒を基調にしたドレスを、赤と青のリボンで彩り身に纏っている。
あの日思いついたこと、それはお互いの勝負服をモチーフにした衣装で踊ること。
全身で、互いを認め合っていることを表現すること。
少し恥ずかし気な彼女。今日は私が支える日だ。
(何より、積み重ねた信頼は無駄にならない)
そして、今日は信頼にこたえる日だ。
今日の私は………
「『貴女にとって最高のパートナー(リード)』を務めて見せます。さあ」
一呼吸おいて、力強く手を差し伸べて。 - 15二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:22:01
「この手を取ってください、バンブーさん」
これが私の信頼の返し方だ。
「…はい!」
彼女はその手に彼女自身の手を重ねてくれた。
リーニュ・ドロワッド。本番が始まる。 - 16二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:22:16
音楽が流れだすと同時に私たちはステップを踏み出す。お互いの足を踏むことはない。練習もしたし、お互いの癖も呼吸も知っている。私達は分かり合えた。
彼女の手を強く引き、同時に彼女がジャンプし宙を舞う。纏ったドレスのリボンが靡いて美しい。だが、何より美しいのは汗を流しながらも真剣に私に向き合ってくれている彼女だった。
彼女に力強く微笑みかけ相図を。それに気づいた彼女もまた笑顔で返し、くるりと舞う。
おおむね練習通り、予想外なんて発生しない、はずだったけど。一つだけ予想外があったとするなら。
(………ぇ)
曲ももう終わるかというときに。彼女は涙を流していた。けれど、また私が自分を責めることはなかった。
その表情は、幸せそうな笑顔だったから。
天気雨の様相を示す彼女の表情に、ただ吸い込まれそうになっていたら。
気が付けば、音楽は鳴りやんでいた。 - 17二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:22:32
「はぁっ………はぁっ………」
「はっ、はぁっ…!サイコーだぁ…!ありがとぉ、ヤエノ…!」
「………大丈夫、ですか?」
「大丈夫っス!ただ、うれしくて…」
「ヤエノが、こうしてアタシと踊ってくれたのが…」
「………貴女が、あんな私を嫌わず傍にいてくれたからですよ」
「…へへっ。嫌うわけないじゃないっスか。そもそもたまに当たられることもあったけど、基本仲良くしてくれてたし…」
「…え?あ、ああ…」
よくよく記憶を掘り返すと、確かに仲良く遊んでいるときもあったはずだ。忘れていたわけではなかった。なのに、自分が傷つけた景色ばかり思い出していた。
…それほどまでに私は罪の意識に苛まれ、視野を狭めていたのか。
「…これからもよろしくっス、ヤエノ!」
「はい、よろしくお願いします…バンブーさん」 - 18二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:22:46
ドロワの季節はすっかり終わった。また日常が始まった。
前とは違うのは悪夢を見なくなったこと、バンブーさんを堂々と友人と呼称できるようになったこと。
「ふッ…!ヤエノー、タイムどうだったっスか!?」
「更新です…!流石ですね」
今日も共にトレーニングに励んでいる。そういえばバンブーさんはもうすぐデビューだったか。
「応援していますよ」
「押忍!ありがとうございますッ!」
お互いがデビューして、その先でいつか、併走ではなくG1レースで勝負服で競えることがあったなら。
その時はこの言葉を伝えよう。
「親愛なる強者、バンブーメモリー」
「サイコーのライバル、ヤエノムテキ」
「「………ん?」」
同時に小さな声を漏らした声はお互いに届かなかった。
いつかその声が届く日が来るまで、私達はきっと走り続ける。 - 19二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:23:10
おしまいです
ここまで読んでくれた方は長々とお付き合いいただきありがとうございました - 20二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:31:54
凄い好きな概念
何よりヤエバンは供給も二次創作も少なめだから見れて嬉しい - 21二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 17:42:28
軽く覗いてみたら本編ばりに濃いのが流れてきて私は死んだ
なんて素晴らしいストーリーを書かれるんだ