【閲覧注意SS】ターボと悪いおじさんの話

  • 1◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:43:29

    「君、乗ってかない?」

    訳あって駅まで買い物に来ていたウマ娘、ツインターボはこう声をかけられた。

    「オジさんだれ?ターボ知らない人にはついて行っちゃ駄目って言われてるよ!」

    頭頂部の禿げた頭に黒縁のメガネ、服はスーツを着ているこの中年の男に、ターボは一切面識など無かった。
    デビューもまだしていないターボにファンが居るはずも無い。
    ターボが警戒するのも当然の事だった。
    そんな状況で中年の男は少し困ったように目を細めると1枚の免許証を出してきた。

    "○○電気株式会社 ゴトウヒロシ"

    至って普通の名前。
    偽名を疑う程に引っかかる部分も無い。

    「……警戒するのは、分かるよ。
    いきなり声をかけてごめんね。
    車に乗ってる間それを預けておくよ……
    僕の事を不審に感じたならその情報を警察に伝えてくれて構わないから……」

  • 2◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:44:03

    困ったような笑みを浮かべる中年の男に悪意があるようには、ターボには見えなかった。

    「う〜ん……まあいっか!
    それじゃトレセンまで送ってオジさん!」

    ターボは元気よく中年の男に承諾の言葉をかけた後、車に乗り込んだ。
    中年の男の運転する黒いワンボックスが自動で扉を締めると、緩やかに駅のロータリーを走り出した。

  • 3◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:44:39

    ───────

    「いきなり声をかけてごめんね。」

    車に乗ってから殆ど喋らなかった男が、信号の停車の時に切り出した。

    「身内でも無いおじさんに声をかけられてさ。ちょっといやだったんじゃないかな?」

    「うーん……ちょっと怖かった!でも嫌な事しなさそうだったし乗っても良いかなって!」

    車内には昼の情報番組の音声が流れている。臭いは全くしなかった。
    煙草の臭いも、芳香剤の臭いも、目の前の"おじさん"の体臭も。
    無臭だった。
    生活臭がしない感じがして、ターボは少しだけ引っかかった。
    が、おじさんが綺麗好きなのだと考えておくことにした。

    「ハハハッ!正直な子だなぁ!そりゃあ怖いよねぇ……悪かったよ。」

    「ま〜あんな変な言い方したらおじさん悪い人だと思われると思うよ〜?
    ターボだから良いけどさ。」

  • 4◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:45:56

    「……そうか。優しいね君は……
    そうだねぇおじさんもちょっと気をつけなきゃだね。ありがとう」

    車はうぉぉんというタイヤの音を響かせながら、立体道路を横目に駆けている。
    車内はこざっぱりとして新車のように見える程だった。それでもウインドウの細かい傷や陽の光で褪せた座席が、この車の経た月日を感じさせる。
    だからなのか、ターボはこの車に乗っている間、妙な懐かしさのような物を感じていた。

  • 5◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:47:58

    ───────

    「そっかそっか!ターボちゃんはレースに向けてトレーニングしてるんだね。」

    「そうだよ!大変だしキツいけどね!
    ターボ勝つために頑張ってるんだ!」

    トレセンまで残り数キロ。
    おじさんとターボの会話はそれなりに盛り上がっていた。
    年の功なのか、おじさんは中々に聞き上手だったのだ。
    ターボの話を面白そうに相槌を打ちながら聞いて、それに好意を示してくれる。
    話しやすい相手だったのだ。

    「へぇ〜凄いじゃないか!そんなに頑張っているならトレーナーさんとかも付くんじゃないかい?」

    「それがね〜?ターボのトレーナーになってくれる人が中々居なくてさ〜。
    困っちゃってるんだよ!
    ターボこんなに頑張ってるのにさ!」

  • 6◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:49:33

    サイレンススズカ。
    マルゼンスキー。
    いずれも逃げの適正を持った強豪。
    ターボのレースでの適正も逃げ。
    それも大逃げだ。
    しかし逃げの択を取れる者はそう多くないのが現状だ。
    色々な理由があるが、一番は先頭を走り切るスタミナが必要不可欠な点。
    ターボの場合、そのスタミナ以上にペース配分が上手く出来なかったのだ。
    車はトンネルに入った。

    「ふふふ……そっか。
    ……良いトレーナーが見つかると良いね……」

    「うん!ターボを勝たせてくれる凄いトレーナー!そんな人が良いな!」

    「…………もっと大事な事があるよ。」

  • 7◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:50:10

    暗い道路の中、不意におじさんの声が低くなった。

    「君の事を守ってくれる人だよ。」

    「……守ってくれる人?」

    「うん。守ってくれる人。
    君を一人の生徒として守ってくれる人。自分の立場より君を選んでくれる人。
    ……君を食い物にしたりしない人。」

    おじさんの声が強まった。
    一言一言、噛みしめるような言い方。

    「……う〜ん……よく分かんないけどターボの事大事にしてくれる人?」

    「……うん!そういう事。
    ……ごめんね。いきなり変な事言っちゃって……」

    「ううん。今のお父さんみたいだった!サンコーになった!ありがとうおじさん!」

    「…………お父さんみたい……か。
    ……ありがとうね。
    ちょっとだけ……嬉しくなったよ。」

    窓の外にトレセンの表示板が出てきた。
    そろそろ降りる時間だ。

    「お父さん……そういえばおじさんって子供居るの?」

  • 8◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:50:38

    「………………居たよ。
    優しくて頑張り屋な娘だった。
    君みたいにスポーツに打ち込んでいてね〜。そりゃ凄かったんだ。
    ……今はちょっと会えないけどさ。」

    角をまがって、トレセンが見えてきた。
    あと数分で着くだろう。

    「……嫌だなぁ。いかにも中年みたいな話しちゃったよ……辛気臭いな……ハハ……」

    おじさんの声が酷く濁った。

    「そっか〜凄かったんだねその娘さん。ターボも頑張んないとだね!
    ありがとうおじさん!」

    「ふふふ……ありがとう。」

    黒いワンボックスは、トレセンの目の前に止まった。少し暗くなった夕暮れの学園に、生徒はまばらだった。

    「また会えると良いね!娘さん!」

    シートベルトを外しながらターボは言う。おじさんは深いシワを目元に浮かべながら、目を伏せた。

    「……無理だよ。
     会えたとしても、多分僕は許されないよ……きっと……」

  • 9◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:51:08

    「そう?おじさん悪い人に見えないけどな〜」

    「……どうして?」

    「だってターボの話ずっと楽しそうに聞いてたもん!そんなに優しそうにしてるんだから絶対悪い人じゃないよ!娘さんだって許してくれると思う!」

    「……酷いな〜……優しくなんかないよ?僕……でもありがとう。」

    「もっと自信持った方が良いよ!ターボみたいに!この免許証も悪い人じゃないし席に置いとくね!それじゃ!」

    「…………バイバイ。」

    ドアを絞めるとターボは学園に走り出した。おじさんはその姿を優しそうに、眩しそうに眺めていた。

  • 10◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:52:01

    ──────


    「あれ〜?ネイチャ、イクノ、何見てるの〜?」

    おじさんから送ってもらって1週間程したある日の事。ターボは脱衣所に居るナイスネイチャとイクノディクタスに聞いた。

    「あ〜……これね、節約動画。
    見たいなら良いけど見ないでしょ?」

    「うぇ〜……ターボにはまだ分かんないし良いや……トレーニング行ってくる〜。」

    「はいは〜い。」

    「行ってらっしゃいターボさん。」

  • 11◆tsGpSwX8mo23/09/09(土) 22:52:27

    がちゃん、と扉が閉まった。
    ターボが行ったのを確認してからネイチャが携帯の画面を切り替える。

    「うわ〜……怖〜……皆バラバラにしちゃったんでしょ?」

    「それも酷く痛めつけてから……相当の恨みがあったんでしょうか……。」

    「いやぁ〜ターボには悪いけどさ。
    こんなの見せられないよね〜……ちょっとさ……」

    ニュースは伝えていた。

    とある高校の元男子生徒と男性教員、運動部のコーチが廃ビルで遺体となって発見された事。

    遺体は死後1ヶ月は経過していた事。

    全員の生殖器が切り裂かれていた事。

    犯人が自主してきた事。



    犯人の名前はゴトウヒロシと言う事を。


    fin.

  • 12二次元好きの匿名さん23/09/09(土) 22:59:31

    食い物にしないような人って、そういう事か…。
    復讐とは言えども手を汚してしまったことに対しての罪滅ぼしが、ターボの送迎だったんだ

  • 13二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 09:27:32

    会ったのがターボで良かったな、ヒロシ

  • 14二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 09:59:32

    ターボはウマ娘の嗅覚で血の臭いとか感じなかったのかな

  • 15二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 10:08:07

    本当に悪いおじさんでびっくりした

  • 16二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 10:16:48

    自首したのはターボとお話できたおかげなのかな

  • 17二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 10:20:56

    >>14

    ・日が開いてる

    ・ターボが違和感を覚える無臭

    気合い入れて痕跡消したんやろなあ

  • 18二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 11:32:19

    人間暴れると血が飛び散って臭いが拡散し、それで犯行がばれる。
    最初に頸動脈切って頭を下にして血抜きをすれば、臭いはだいぶ抑えられる。
    内臓はさっさと下水に流すか、あるいは腹を開かなきゃ数日は臭いはしない。

    服装はビニールガッパとキッチン用の厚手のビニール手袋で限りなく露出と染み込みを抑える。
    (ゴアテックスのはダメ、血が染みるので臭いのもとになる)
    使用後はビニール袋に密閉し、白いレジ袋に入れてコンビニのごみ箱に捨てる。
    (回収・廃棄が速いし、食べ残しや食品容器が多く臭いをごまかせる。
     またコンビニのバイトは中身をいちいち確かめないため、バレにくい)

  • 19二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 14:29:49

    >>15

    行為が悪い事であっても精神性が悪いと言いきれるだろうか…愛する者の復讐、やれるならやるのは平凡な発想ではないかな

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