【SS】ブライトって

  • 1二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 22:47:40

    「ブライトって、よっぽどトレーナーさんのことが好きなんだね!」
    「ほわ?」
    ライアンお姉さまの一言に、わたくしは目を丸くした。

    「だって、いつもトレーナーさんに『あーん』ってしてもらってるんでしょ?」
    「はい〜。トレーナーさまからいただくと、いっそう美味しい気がいたしますの〜」

    「ハグもしてるよね?」
    「はい〜。トレーナーさまとぎゅ〜っとすると、あたたかくて心がほこほこいたしますの〜」

    「膝枕もしてあげてるよね?」
    「はい〜。お膝のトレーナーさまの寝顔がかわいらしくて胸がぽかぽかいたしますの~」


    「…それってやっぱり、好きってことじゃない?」
    「ほわ?」
    そう言われても、よくわからない。そんな風に考えたことがなかったから。けげんな顔をするわたくしに、ライアンお姉さまが苦笑した。

  • 2二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 22:49:15

    「ほら、これなんだけどさ!よかったら見てみて!」
    渡された漫画をパラパラとめくる。ライアンお姉さまの好きな少女漫画だ。

    『あーん』と食べさせあう二人の男女。『間接キスだね』と照れながらヒロインが言い、そのまま流れるように殿方と直接キスをした。
    「ほ…」

    固く抱きしめあった二人の男女が、お互いの首に腕を回してキスをしている。
    「ほっ……」

    ヒロインが殿方を膝枕しながら、『大好きだよ』と言って覆いかぶさるようにキスをしている。
    「ほわ………!」

    こんな、こんなことを…?わたくしは、トレーナーさまと…?


    「大胸筋がキュンキュンしちゃうよね!あたしもこんな恋してみたいなぁ!ブライトもこんなことしてるからてっきりトレーナーさんのこと好きで」

    「ほわ!!!」
    「ブライト?どうしたの大きな声出して?」

    「ほっ、ほわあぁぁぁぁぁ!!!!ほわっ!!ほわぁーーー!!!」
    「ちょ、ちょっとブライト!しっかりして!!」

    「ほっわーん! ほ、ほーっ、ほわわーッ!! ほわーッ!!」
    「どうしたの、何事!?」
    「ドーベル!どうしようブライトが沸騰しちゃった!」
    「ええ!?」

  • 3二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 22:50:53

    ────それから─────

    「ブライト、お昼一緒に行かないか?」
    「ほわあぁぁ!!生コンクリートを混ぜるのを眺める用事がありますので失礼いたしますわ〜!」

    「ブライト、お茶を」
    「ふわあぁぁぁぁ!!アオダイショウの脱皮を見る予定がありますので失礼いたしますわ〜!」

    「ブr」
    「ほぴゃあぁぁぁぁぁぁ!!!失礼いたしますわ〜〜!!」

    それ以来、トレーナーさまの顔をまっすぐ見られなくなった。トレーニングは辛うじてできても、これまでみたいにのんびりおしゃべりしたり、お茶をしようとするだけで胸がどきどきして、顔がかぁっと熱くなって、トレーナーさまの顔を直視できない。

    それどころか意味不明なことを口走って逃げ出してしまう始末。寝ても覚めても、あの時ライアンお姉さまが見せてくれた漫画のシーンが頭から離れない。二人の男女が、き、キスをして…!

    「わたくし、どうしてしまったのでしょうか…」

  • 4二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 22:53:14

    ────少し後─────
    「距離感見つめ直したほうがいいんじゃないか?」
    世話になっているベテラントレーナーからのアドバイスに、俺は目を丸くした。

    「担当…メジロブライトに最近避けられてるんだろ?」
    「はい…」
    「近すぎるんじゃないかな。少し引いてみるとか、試してみなよ」
    「引いてみる、ですか」
    「これは推測だが、結構前はスキンシップしてたんじゃないか?」
    「スキンシップ…、あ」
    言われてみれば、お互い抱き合ったり食べさせあったり、膝枕もしてもらっていた。固まった俺を見てそれを見たトレーナーがため息をつく。

    「詳しくは聞かないけど、その様子だと図星みたいだな」
    「で、でも急にですよ?こないだまでは向こうから来てくれるくらいで」
    「いやいや、多感な時期の女の子だぞ?気をつけすぎるに越したことはないさ。何がきっかけで態度が変わるかわからないよ」
    「そういうものですか」
    「そうだよ!うちの娘だってついこないだまでパパ、パパってくっついてきてたのに最近は洗濯物一緒にするなって…!ぐすっ、ヒック…」
    「ちょっ、泣かないでくださいよ!」
    急に泣き出したベテラントレーナーを慰めているうちに昼休みの終了を告げるベルが鳴ったので、慌てて定食のトレーを片づける。

    別れ際に、ベテラントレーナーが肩を叩いてきた。
    「とはいったものの、一人として同じウマ娘はいない。ベストな対応は千差万別。それを忘れるなよ」
    「はぁ…」

    歩きながら考える。たしかに最近は疲れているとブライトと触れ合っていた。こちらの様子をよく察してくれる彼女からの申し出とはいえ、
    「ちょっと馴れ馴れしすぎたよな…」
    ブライトは思春期の女の子。大人の男と触れ合うのが嫌になるのもわかる。

    憚らずに言えば寂しくはあるが、ブライトが距離を見つめ直したい、距離を置きたいならそうするのがトレーナーの務めだ。
    「よし」

  • 5二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 22:54:48

    ────また少し後─────

    「ブライト、大事な話があるんだ」
    久しぶりにミーティングのためにトレーナー室に訪れたわたくしを出迎えたのは、改まった様子のトレーナーさまだった。

    まだ目を合わせて話せないけれど、促されるままに椅子に腰を下ろした。
    「ブライト、少し距離を置いてみないか?」
    「え」
    トレーナーさま、今、なんと?

    「最近、目も合わせてくれないし、話してもくれないし、さ。もしかしたら、膝枕させたりハグさせたり、男の人にそういうことさせられるの、嫌だったかなって」
    「え、あ……」
    「配慮が足らなくてごめんな。嫌だって言い出せなかったんだよね。ごめん、これからはもうしない」
    妙に早口なトレーナーさまの言葉を聞きながら頭の芯が冷えていく。わたくしを取り残してトレーナーさまがそれに、と続ける。

    「なんなら、契約解除してもらっても構わない」
    「そ、んな…」
    「担当を外れるのは心苦しいけど、ブライトがアスリートとして結果を出せるのが一番だから。君にとってベストだと思うなら、それも選択肢だよ」
    違う、違う。そんなつもりじゃないのに。つっかえたように言葉が出てこない。

    「もちろん、すぐに結論を出せとは言わないけど、考えておいて」
    固まったわたくしを残して、トレーナーさまが扉に手をかけた。
    「ハハ、だめだな。この話しようと思ったら昨日眠れなくって。ごめん、ちょっと保健室で仮眠取ってくるね。部屋そのまま使ってていいよ」
    軽い口調とは裏腹に、トレーナーさまの表情は見たことないくらい寂しそうで、このまま行かせてはいけないと、その腕を無意識のうちにつかんでいた。

  • 6二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 22:57:20

    「ブライト?」
    うつむいた表情からは何も読み取れないが、掴まれた手には痛いくらいに力が入っていて、けして離すまいという意思の強さが伝わった。

    「ええと、何か、話したいことがある?」
    ふるふる、とブライトが首を振った。

    「じゃあ、何かしてほしいことがある?」
    ふるふる。

    「なら、したいことがある?」
    こくこく。

    頷いたブライトは何も話さないまま俺をぐいぐいとソファベッドに引っ張っていく。ソファ付近で俺の手を放すと、端の方にちょこんと座った。そして、こっちを向いて膝をぽんぽんと叩く。
    「…えーと、膝に、こいと?」
    こくこく。

    「いいの?」
    こくこくこく。

    ようやく顔を上げて俺を見つめるブライトの顔は真っ赤で、目が潤んで今にも泣き出しそうだ。その表情を見て、この間ベテラントレーナーから言われたことを思い出した。
    『ベストな対応は千差万別。それを忘れるなよ』

    "これ"がブライトにとってのベストなのかもしれない。

  • 7二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 23:01:56

    「お、お邪魔します」
    いつもより少し遠慮がちに、ブライトの膝に頭を乗せる。

    そのまま見上げると、相変わらず真っ赤な顔でこちらを心配そうに覗き込むブライトと目があった。が、すぐにそらされてしまう。
    「えーと、嫌だったらすぐにどくよ?」
    というと、首をぶんぶん振って否定される。とりあえず嫌ではないようで、安堵する自分がいた。

    とはいえ目のやり場に困って瞳を閉じると、視覚が遮断された分、他の情報に感覚がアンテナを向けた。

    制服のスカート越しに、たしかな腿の質感がある。肌のハリ感、程よい肉付きの柔らかさ、芯にある筋肉の三者がハーモニーを奏でてまさにベストバランス。
    別に膝枕経験が豊富なわけでもないが、きっとそういうコンテストがあれば間違いなく上位を狙えるだろう。

    軽く開いた窓から風が入り、彼女の髪からふわりと甘やかな香りが鼻腔に届いた。いつもの、ブライトらしい柔らかくて安心するような匂い。

    改めて担当に抱く感想じゃないと自嘲しつつも、この体勢が妙にしっくりくるのも事実だった。

    ここ最近ブライトとの関係に悩んでいて寝不足だったことともあり、俺はすぐに眠気に意識を明け渡した。

  • 8二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 23:03:49

    「すぅ…すぅ…」
    半ばむりやり膝にお招きしたトレーナーさまは、最初こそ緊張していた様子だったけれど、目を閉じるとすぐに寝息を立て始めた。

    よくみたら、目の下に隈ができている。きっとわたくしのために昼も夜もなく行動してくれたのだろう。わたくしの稚拙な振る舞いのせいで心労をかけてしまったのだろう。

    少しでも癒してあげたくて、眠るトレーナーさまの頭を軽く撫でる。短く切りそろえた髪の毛のつんつんした感触が久しぶりで、心地よかった。

    「んぅ…」
    くすぐったいのか、トレーナーさまが声を漏らす。その安心しきった反応を見て、胸が締め付けられるような気持ちになった。大声で叫びながら走り出してしまいたいような、それでいてトレーナーさまをぎゅうっと抱きしめてしまいたいような、不思議な気持ち。

    「トレーナーさま」
    頭によぎるのは、ライアンお姉さまの貸してくれた漫画の一コマ。膝枕した殿方に、女性がかけた言葉を思い浮かべる。

    規則正しく寝息を立てる唇に狙いを定めて、体ごと近づく。その言葉を直接伝える勇気はまだないけれど、せめてあなたの知らない間に口にすることを許してください。


    「────、ですわ」

  • 9二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 23:05:29

    「はぁ……」
    軽く、本当に軽く触れただけなのに、唇から熱が身体中に回って、どうにかなってしまいそう。

    幸い、寝入っているトレーナーさまはわたくしの気持ちに気づくよしもない。だって顔色もこんなに真っ赤で……


    ん?真っ赤??


    「…トレーナーさま」
    声をかけるとトレーナーの体がぎくりと音を立てたみたいに硬直した。
    「も、もしかして、起きていらしたのですか〜?」
    「…グ、グーグー、ネテルヨー」
    裏声で棒読みとしか形容しようのない、寝言にもなっていないセリフ。

    …つまり、
    ……今の、
    ………ぜんぶ、
    聞かれていた……!?

    「ほわ…」



    「ほっ、ほわあぁぁぁぁぁ!!!!ほわっ!!ほわぁーーー!!!」
    「うわぁぁブライトが沸騰したぁ!?」

  • 10二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 23:07:09

    おしまいですわ〜

    あるスレの概念が気に入ったので、わたくし、の~んびり書いていましたの〜
    そうしたらスレが落ちてしまわれたので供養ですわ〜

  • 11二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 23:08:06

    ほわぁ……

  • 12二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 23:13:23

    ありよりのありすぎる…!
    ブライトのこういうゆったりとしたところが…あー!いけませんわ!(褒め言葉)

  • 13二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 23:21:47

    推せる〜。
    こういうハジけたラブも好きです。

  • 14二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 23:22:45

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