- 1二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:52:32
太陽も徐々に沈んでいき、辺り一面が茜色に染まっいる。そんな空の下で、あたしことキタサンブラックとトレーナーさんはお互いに片手に袋を持って歩いていく。
目的地はトレセン学園。要するに帰り道というわけだ。
「悪いなキタサン。買い物に付き合ってもらった上に、荷物持ちまでしてくれて」
「気にしないでくださいトレーナーさん!困っている時はあたしにお任せあれです!」
申し訳無さそうな顔をしながら、あたしの顔を見るトレーナーさん。あたしはそれを何でもない顔で笑ってみせた。
とはいえ、トレーナーさんの気持ちはあたしも分かる。こうなったのは偶然だもんね。
今日は元々トレーニングはお休み。あたしは商店街を何をするでもなく歩いていた。その時に偶々トレーナーさんを見かけたので声を掛けると、お買い物をする途中だったからそれをあたしがお助けしたというわけだ。
「それでもだよ。何も返さないのは性に合わないんだ。今度甘いものを奢るよ」
「ふふ……本当に気にしなくていいのに。でもお言葉に甘えますね♪」
こういう時の好意は遠慮なく受け取るべき。受け取らないほうが相手を傷つける。無償は美学だが、時として良くはないのだ。……なんて言ってみたりして。
本当は完全に断るのがいいかもだけど、なんだかんだでその誘惑を断ち切れない。こういうところがあたしの幼さなのかも。
それはそれとしてだ。
甘いものは大好きなあたしとしては、楽しみで仕方ない。心がウキウキしてきた。
何奢ってもらおうかな♪たい焼き♪シュークリーム♪プリン♪
頭の中は甘いもので埋まっているあたしを、ふたつの小さな風が通り過ぎていった。
タタタと駆け抜けていった風の正体。それは。 - 2二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:53:35
「おとと……ふぅ、袋が当たらなくて良かったです」
「そうだな。あんなに元気そうな子達を怪我なんかさせたくないしな」
ふたりして笑いながら遠くなった風――小さなウマ娘とその子より少しだけ大きな男の子を見送った。
一瞬だけ見えたその子達の手は握られていて、仲が良いだろうことが伺えた。
「……ふふ、今の子達見てると小さい頃を思い出します」
「小さい頃?……そうか、確か君には弟さんがいるんだったな。ふふ……キタサンが弟さんを引っ張ってる姿が目に浮かぶよ」
さっきよりもゆっくりと歩きながら、ポロリと口から言葉が溢れる。トレーナーさんもあたしの小さい頃を思い浮かべているようだ。
チラリと横顔を見ていると、小さく笑っているのが分かった。
あたしの小さい頃を思い浮かべてるのはちょっと気恥ずかしい。でも……それ以上に気になる言葉が聞こえてきた。
「むぅ……確かにあたしは弟を引っ張ることも多かったですけど……。引っ張られる側の可能性もあるじゃないですか……」
「いや、それだけは想像できないかな」
「むぅ!あたしだって引っ張ってもらうことくらい出来ます!スイープさんとかダイヤちゃんとか!」
「……それは怒りながら言う事なのか?」
トレーナーさんの失礼なもの言いに思わず、袋を持っていない手で怒りを表してみる。と言っても、手を挙げただけだけど。
トレーナーさんの方はというと、少し困った顔ながらも笑い続けたままだった。 - 3二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:53:51
「それに!あたしはお弟子さんの家族とも過ごしててて、凄く可愛がってもらってたんですよ!だから、小さい頃だって引っ張ってもらってますもん!」
「可愛がられることと引っ張られることは同じなのかな?そう言えば、キタサンはお弟子さんにお嬢って呼ばれてたっけ」
「はい!昔からそう呼ばれてました。父さんの娘だからだとは思うんですけどね」
あははと笑いながら、トレーナーさんにそう呟いた。
そうなのだ。父さんのお弟子さんも家族のようなもので、合わせると30人家族だったあたし。
お弟子さん達はあたしのことをよく見てくれて、褒めてもらったりお菓子をもらったりしていた。
「なるほどな、キタサンにとっては、お弟子さん達がお兄さんみたいなものだったんだね」
「えっ?……確かにそうなるのかな」
トレーナーさんの言葉で聞いて少し考えてみる。
お兄さんか……。確かにお弟子さん達はあたしよりも年上。そしていっぱい可愛がってくれた。それは間違いなくお兄さんと言える存在と言えるだろう。
「……うん、トレーナーさんの言う通りかも。あたしにとってはお弟子さん達がお兄さん代わりだったんですね」
「沢山の兄弟がいるっていうのはそれって何だか羨ましいな」
そう言ってトレーナーさんは、何でもないような顔で少しだけ遠くを見ていた。その横顔は何だか寂しげに思えた。
あれ?この表情はもしかして。すぐにピンときてしまった。 - 4二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:54:09
「トレーナーさんには兄弟はいないんですか」
「まぁ……そうだな。ひとりっ子だったよ。だから子供の頃は寂しかったのを覚えているよ。まぁ今はそんな事ないけどな」
はははと笑いながら、トレーナーさんは優しくあたしを見てくれた。
多分それは本当のことだろう。ある程度は割り切れるようになったからこそ、今のトレーナーさんがいるわけだし。だからこの話はこれでおしまいだ。
それを聞いたのがあたしじゃなければ……だけどね。
今の話を聞いたことで、ある考えがあたしの中で渦巻いている。それを言うのはちょっと勇気がいるけれど……。
うん、何とかなる。あたしはキタサンブラック。やってやれないことはない。
「……トレーナーさん」
「どうしたんだキタサン?」
「トレーナーさんのこと、お兄さんって呼んでいいですか?」
「……本当にどうしたんだキタサン?」
あたしの言葉はあまりにも荒唐無稽だったようだ。
トレーナーさんは困惑した様子であたしの方を何度も見ている。
こうなることは予想してた。とりあえずあたしの考えを伝えよう。
そう思って、力強くトレーナーさんに向き合う。 - 5二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:54:27
「さっきのトレーナーさんの顔、何だか寂しそうでした」
「そっか……そんなつもりじゃなかったけど、やっぱり思うところがあったのかな……?気を遣わせてゴメンな」
「謝らないで下さい!トレーナーさんのその気持ちを解決するためのお兄さん呼びなんですから!」
「やっぱり意味は分からない……」
頭にハテナが浮かんだままのトレーナーさん。
しまった……これじゃ意味が伝わらない……。えっと……そうだな……う~ん……。
「ご、ごめんなさい……これじゃダメですよね……。その……トレーナーさんがあたしのことを妹みたいに接してくれたら、兄妹がいる気持ちが味わえるかなって……」
「あ、あ~……なるほど……。兄妹みたいに接したいってことか……」
トレーナーさんの言葉であたしは足を止める。
それは驚きで足を止めたのではなく嬉しくてだ。
だって……あたしの言いたいことが伝わったのだから!
その気持ちのまま、体全体をグルっとトレーナーさんに向ける。何故かトレーナーさんはビクッとしている。
「そう!それです!流石トレーナーさん!では……どうぞ!」
「いやどうぞと言われても……」
「あたしを妹と思って……さぁ!さぁさぁ!」
「勢い!勢いが凄い!分かった!分かったから!」
徐々に徐々にトレーナーさんへと近づいていく。
そんなあたしを片手で何とか止めようとしているトレーナーさん。 - 6二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:54:46
その行動で少しだけ気持ちが落ち着いた。気づけば鼻と鼻がぶつかりそうなくらい近づいていたみたいだ。……いや、近すぎだよあたし!
いけないいけない!落ち着かなきゃだよね!とりあえず深呼吸だ!
すぅ……はぁ……よし!オッケー!
「ごめんなさいトレーナーさん……つい……嬉しくて……」
「気にしないで。キタサンにそういう所あるのは知ってたから大丈夫だ」
「良かった……。……?えっ?トレーナーさんそれって一体?」
あたしってどう思われてるんだろう……。ちょっとだけ怖くなってきた。
いや考えるのはやめよう。そんなことよりも今はお兄さんのことだ。
気持ちを切り替えて気合を入れ直した。
「まぁいいです……。ではいきますね!」
「よし、どんとこい」
「はい!お兄さん!」
勢いのままトレーナーさんをお兄さんと呼んでみた。
うん、なんだろう。言うまでは不安だったけど、言ってみると大したことないや。お兄さん呼び自体は割りとしてるよねあたし。
「どうですかお兄さん!結構いい感じですよねお兄さん!」
「…………」
「お兄さん!……お兄さん?」
あれ?トレーナーさんの反応が全くない。もしかして照れてるとか?そう思って表情を伺ってみる。……あれ?ほっぺた赤くないや。というか……ちょっと困ってる顔のような? - 7二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:55:02
「……思ったんだけどさ」
「はい」
「これ言い方が違うだけでいつものキタサンと何が違うんだろう?」
「…………確かに」
トレーナーさんの一言はあたしの心にグサリと刺さった。
うん、その通りだ。確かに呼び方変えただけでいつものあたしと変わりない。あたしの妹としても心構えが足りなかった。そうだよ、変えるなら徹底的に……だよね!
あたしのに火がついた。
「ごめんなさいトレーナー……お兄さん!あたし心構えが足りませんでした!」
「心構え……?」
「次はちゃんとしま……するよ!だからトレ……お兄さんもあたしを妹として見て欲しいで……欲しいの!」
「なるほど……なるほど?」
困惑しつつも何とか納得してくれた……みたい?
思うところはお互いにありつつも、そのまま続けることにした。
「お兄さんいつもありがとう!お兄さんのお陰であたしはここまでやれるんだよ!」
「あ、ああ……ありがとう……キタサン」
「むぅ……もっとあたしに気安く話して欲しいな」
「難しいなこれ……。俺の方は、き……お前への接し方が変わるわけではないからな……」 - 8二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:55:21
今の一言があたしの中のなにかに刺さった。
君ではなくお前。何となくぶっきらぼうな感じがそれっぽい!気がする!
「!……それだよそれ!そんな感じだよ!お兄さん!」
「な、なるほど……こんな感じか……!」
どうやらトレーナーさんも何かをつかんだ感じだ。よ~し……このまま突き進もう!
「その感じのままあたしを撫でてみて!」
「よし、任せろ!」
あたしはそのまま頭をトレーナーさんに突き出した。……別に欲望を出してるとかそんなことはない。兄妹って多分こうするよね?知らないけど。
トレーナーさんもあたしの言葉をそのまま受け取って、勢いのまま手を伸ばしてくれた。
「えっと……こんな感じかな?」
「!……えへへ♪」
トレーナーさんは少しだけガシガシとするような感じであたしを撫でてくれた。
うん……これいいな……。ぴょこぴょこと耳が動き、ブンブンと尻尾が揺れる。
いつものような優しい感じもいいけれど、遠慮がない感じもいい……。それでありながら痛くないように気遣いがある。何だかふわふわする感じ……。もっともっと欲しい……。
「お兄さんお願い……もう少し頂戴……」
「いくらでもやってやるからな」
そんなワガママもトレーナーさんは受け入れてくれた。
今の言い方はいつものトレーナーさんと同じです。減点なんですからね。そんな建前は言葉に出ることはなかった。 - 9二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:55:40
不意に撫でる手が止まった。
さっきまでのふわふわは消えてしまい、ちょっとだけ心が寒くなった気がする。
「あれ……なんでやめるの……?」
「ごめんな、流石にこれ以上は帰りが遅くなりそうだから」
「えっ?」
トレーナーさんの言葉に意識が返ってくる。手に置かれた手を抑えたまま、空を見上げてみる。
本当だ……茜色の空が徐々に闇に染まってきてる。
そうだった……元々買い物の帰り道だっけ。気持ち良すぎて忘れてた。
そっか……それじゃあ帰らなきゃだよね。
「ご、ごめんなさいお兄……トレーナーさん……あたしなりきり過ぎてました……」
「いや、俺もやりすぎたからお互い様だ」
そんな感じで謝りあう。
だけど、気になることはある。それを聞かないといけない。
「トレーナーさん……その……分かりましたか……?」
「えっ……?」
「その……兄妹のこととか……」
「あ、ああ……そう言えばそれがキッカケだったな……。う~ん……そうだな……」 - 10二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 18:55:57
元々の発端を聞いてみる。
トレーナーさんはあたしの頭に手を置いたまま、目を瞑って考え込んでいる。だけど、トレーナーさんの考えは何となく分かる。
そう思っていると、トレーナーさんはすぐに目を開けた。考えはまとまったみたいだ。
「……ごめん。良く分からなかったよ」
「……そうですか」
だよね……。あの短い時間で分かることってあんまりないよね……。小さく肩を下ろす。
それとは反対にトレーナーさんの表情は残念そうなものではなくて、晴れ晴れとしたものだった。
「だけど、楽しかったよ。本当にありがとうキタサン」
「あっ……。ふふ……♪」
あたしの頭に置かれた手が動き出す。言葉は元のままだけどぶっきらぼうな撫で方。
今のあたしにとって一番欲しいもの。
「君のような妹がいたらきっと甘やかすんだろうな」
「この感じだとそうだと思いますよ♪ふふ……また妹キタちゃんやりますね……お兄さん♪」
「あはは……その時はよろしくな妹さん!」
「うわわ!やめてよお兄さん♪」
髪が乱れるくらいに強くなるトレーナーさんの手。
あたしは口では嫌がりながらも、それが欲しくて頭を強く擦り付ける。
今日はもうあんまりする時間はないけど、またやってもらおっと♪
そんなことを考えながら、今はこの気持ちよさに流されることにした。 - 11123/09/11(月) 18:58:16
書いてみてなんですけど、ちょっと危ない感じな気がするのは気の所為……ですよね?
それはそれとしてキタちゃんってお姉ちゃんなのに何となく妹感が強いのは何故でしょうか? - 12二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 19:00:58
- 13123/09/11(月) 19:05:59
- 14二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 19:18:17
まぁたふわふわいちゃついてる……
カワイイね…… - 15123/09/12(火) 07:07:22