- 1二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:14:19
「あ! おーい! ガイフー!!」
「トウカイテイオー? こんにちは。
……あのな、俺は凱風って名前じゃなくてな」
声をかけられたのはヤマニンゼファーのトレーナー。
ゼファーが彼を指して「凱風な方」と表現するのが何かツボに入ったらしく、テイオーはそう呼んでいた。たまにケイフーになる。
──シンボリクリスエスが彼を「ガイフー・中田」だと誤解していることは2人ともまだ知らない。
「ゼファー見なかった?」
「こっちには来てないよ。電話は?」
「ここ。併走に誘おうと思ったのに、授業終わった途端スマホどころかカバンごと置きっぱなしでどっか行っちゃってさー」
呆れ顔のテイオーがネクタイさん──もといシジュウカラが映るスマホを渡す。
身軽を好むゼファーはあまり多くの荷物を持たないが、鞄や連絡機器まで放置する程ではない。
なにか普段と違うことが起きたのか……と眉間に皺を寄せた愁顔を、ひゅうと爽籟が撫ぜた。
空は晴れ、太陽に少し雲がかかっている。肌を刺す日光は和らぎ、細く並んだ薄雲が流れて風がよく見える。
(ゼファー好みの空模様だ)
ここ数日湿った弱い風ばかり吹いていたので、久しぶりの心地よい風に誘われたのだろう。
「今日はいい律の風だし、どこかに浴びに行ってるのかも」
「律? うわ……ガイフー、ゼファーに染められてってない?」
「そうかも……」 - 2二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:14:38
満更でもなさそうな苦笑いに専属トレーナーってミンナコウダヨネー、とじめっとした視線を向けながら、テイオーも耳をぴんと立てて秋めいてきた風を受ける。
「じゃあ、風上の方?」
「まだ敷地内から出てなければだけど。風上で屋上が開放されてるのは……高等部棟かな」
「行ってみよっか!」
👑)))
「カイチョーいるかな〜?」
「本題忘れてないよね……?」
涼やかな和風が来る北側へ向かい、高等部の生徒が授業を終えてやや騒がしい校舎の中を通り抜ける。
近道だとテイオーに引っ張り込まれてしまい、トレーナーは普段通る事のない廊下を肩身狭く歩く。
お目当て……ではない筈のシンボリルドルフは見当たらなかった。忙しい彼女は既に生徒会室にでも向かってしまったのだろう。
北口を開けて、涼風に歓迎されながら振り返って見上げると、果たして。
朝晩が肌寒くなってきても構わず風を受ける薄紫の夏の制服。
櫟のような淡い栗毛がふわふわと揺れている。
ヤマニンゼファーが、屋上でめいっぱい秋風を受けていた。
見上げたその顔貌はとても幸せそうで。
「「わーすっごいだらしない顔」」
ぽっぴんひゃん。
目を細め、何故か得意げに眉を上げ、お口は半開き。
緩みに緩んだその顔は、身も蓋もない表現をすると──すっごいアホっぽい顔だった。 - 3二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:15:10
(どうしよう声かけづらい)
(女の子が見せちゃいけないカオして……あっやば、気づかれた)
端然とした彼女らしからぬ様子に声をかけられないでいる内に、ゼファーが先に視線に気づいてしまった。
いつもの穏やかな表情でテイオーに応えようとして、隣に立つ彼女の恵風を見とめた途端──その顔は一気に紅に染まった。
細めていた目はまん丸に見開かれ。
耳は伸び上がっては伏せてを繰り返し。
わたわたと両手を所在なく上げ下げした末に……猛然と踵を返し、見上げた視界から消えてしまった。
「あ、ゼファー!?」
ガタンバタンと扉が荒っぽく開け閉めされる音の後、沈黙だけが秋晴れに残された。
「ダメじゃんガイフー、女の子の秘密を勝手に見たら」
「これ俺が悪いの……?」 - 4二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:15:35
2人が抜けて来た北勝手口は、屋上に直通している。追うより待ちを選択し、トレーナーが何故かテイオーに責められていると。
静かに扉が開き、ゼファーが耳を垂らして顔を半分覗かせた。
「……………………違うんです……………………」
「ええと、ゼファー?」
「私、普段からあんな……だらしない顔で風を受けては……」
今にも蒸発して消えそうな程顔を赤く染め、尻すぼみに弁明するゼファー。
(あ、風の語彙が出てこな──痛った)
相当に動揺してるな、と変に冷静に様子を見る彼の膝裏をテイオーのしっぽが「さっさとフォローしなよ」と強かにはたいた。
「……うん、今日は久しぶりに良い風だったからね」
「………………はい」
「ここ1週間ぐらい、ずっとジメジメしてて涼しい風が恋しかったよな」
「……微風が良くないという訳ではありませんが……」
「せっかく秋に入ったのに、いつまで経っても湿風と凪ばっかりで……待ちかねてたからな」
「ずっと風招きをして……今日が、初秋風でしたから」
顔半分から上半身だけ、一歩外へ出て体半分。
半開きのドアからゼファーが少しずつ、姿を見せてゆく。
「秋の風の香りだーって、鼻から口へ抜けさせると気持ちよくてさ」
「秋桜の香り、ひーよさんの声……金風が運んでくれます」
なんとかフォローを続ける内にゼファーもすっかり姿を見せ、穏やかに風を語りはじめた。 - 5二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:16:09
(なーんか警戒してる野性のリスを写真家が宥めて手懐けてるみたいなんだよねー)
そしてイマイチ理解しきれないテイオーは、蚊帳の外で友人を小動物扱いしていた。
(でもゼファーって警戒心無さすぎて心配になっちゃう……あ、そーいえば)
「屋上行くなら気をつけなよゼファー。
下からパンツ見られちゃうよ」
「えっ」
ぴしり、と風がやんだ。 - 6二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:17:00
「え?君らスパッツ履いてるんじゃないの?」
「あ、じゃあ見てなかったんだ。紳士じゃーん。
冗談じょーだ…………あっ」
イタズラポニーの表情が引きつった。
視線を追ってトレーナーも向き直ると、そこには──
微かに涙目になったゼファーが、スカートを押さえて震えていた。
実際彼女はスパッツを着用しているのだが……再びだらしなさを指摘され、忘れかけていた恥を上塗りされた今。
そんな事実は頭から吹き飛んでいた。
「ぜ、ゼファー?」
「違い、ま……わたし、かぜ……っっっ!!!」
「あ!ちょっ……!?」
バタン、と。不意の色なき風が背後の扉を強く閉める音を号砲にして、脱兎の如く走り去ってしまった。
「…………今のは君が悪いのでは」
「や、やっちゃった!?どどどどどーすんの どーーすんの!!?」
「俺が行ったら二重にダメなのは確か!」
「お、追っかけてくる!スタミナならボクのが上っ!」
「頼んだ!捕まえたらはちみー集合!」
「やったーオゴリだーっ!!!」
「おい!?」
野分を追って豆台風が飛び出して行く。
この後のフォローどうしたもんかと、凪いだ秋の空に溜め息が溶けていった。 - 7二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:17:47
以上になります。
こちらのぽっぴんひゃんスレにて、「強めの風に当たってる時こんな顔しそう」というレスがツボりました。対戦ありがとうございます。
いいよね、ぽっぴんひゃん顔|あにまん掲示板すごいアホっぽくてbbs.animanch.com - 8二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:18:19
- 9二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:33:29
テイオーがゼファトレをガイフーって呼ぶのなんか好き
- 10二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 21:41:20
トレセン音頭にゼファーの歌唱あるの本当すこ
- 11二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 22:27:36
扉の影からちょっとずつ寄って来るゼファーが完全に好奇心の強い野生動物で好風
- 12二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 22:57:04
一通り読んで満足したあと一レス目まで戻ったらガイフー中田に腹筋をやられた……笑
もうクリスエスが「──ガイフー、中田……忘れ物だ──」って真面目な顔で話しかけてくる絵面しか頭に浮かばん - 13二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 23:46:07
いいガイフーだった…
- 14二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 00:07:33
ガイフー呼びなんか好き
スカートを押さえるゼファー……ベリーキュート - 15二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 02:28:38
- 16二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 02:30:31
トレセン音頭上手く使ってて良き
そして神絵師まで降臨しててなお良き - 17二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 03:17:13
トレーナーがゼファーの恥ずかしい姿を見たって話が尾鰭ついてゼファーを恥ずかしい姿にしたって噂になってそう