どんな望みも叶える存在がいた【ダイス/安価】

1二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 23:06:34

望まれさえすれば巨万の富でも絶世の美女でも千年経っても褪せない名声でも、なんでもぽんと与えられる

そんな存在がいた

その存在に名前は無いが、ここでは████と呼ぶ事とする

████は色んな人間の手に渡り、色んな人の望み通りのものを与えてきた

████を巡って、人間同士の争いが起きた事もあった

2二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 23:07:13

けれども████にとっては、それらはどうでも良いことだった

望まれるものを与える事こそ、████の唯一の望みであり存在意義であったからだ

████はただ機械的に、望まれるまま

人間達の果てない欲望を形にして与え続けた

人間たちが████を『人を誑かし堕落させ、争わせる悪しきもの』として封印したのは

それから間もなくしての事だった

3二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 23:07:55

それからまた十年百年千年と経ち遂に封印が綻んだ

にも関わらず████は、その場から一歩たりとも動かない

████は単なる道具であった

望まれなければ、████はその場に立ち上がる事さえできないそんな存在だった

このままこの場所で朽ち果てる己を想像し、恐怖することさえできなかった

そんな折、████が封印されている場所に1人の少女が現れた

4二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 23:08:44

少女は迷子だった

興味本位で入った洞穴があまりに広く

1人歩き回るうち、いつしか出口も見失い

偶然にも████が封じられたこの場所へ迷い込んだのだ

少女は体力には自信があったが、孤独には人一倍弱かった

故に暗く鬱屈とした洞穴で、たった1人しゃがみ込んでいる得体の知れない存在であろうと

話しかけるのは少女にとって至極当然の摂理であった

5二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 23:09:38

少女が『会話』を望んだことで ████は言葉を発する事ができるようになった

じつに、千年ぶりの会話だった

████は少女に向けて一先ず礼を言うと、すぐさま願いを叶えようと少女が望むものを聞いた

████はこの期に及んでも、まだ他者に依存したその在り方を続けようとしていたのだ

だが、少女が望んだのは『████の名前を教えること』であった

████は大きく狼狽した

6二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 23:15:36

望まれたものを与えられないなど████にとっては初めての経験だった

例え完全な予想の外にある要求だろうと、形さえあれば ████が与えることは容易だ

だが████に名前といったものは存在しない

端から存在しないものは、与えることが出来ない

生まれて初めての失態に、████は大粒の涙をボロボロ零した

これもまた████にとっては初めての経験だった

7二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 23:25:13

尋常ではない様子の████を見て

ぼんやりと事情を推察した少女が望みの変更を申し出るのにそう時間はかからなかった

少女の新たな望みの内容は『████に名前をあげる事』

自分が何かを与えられる、これもまた████にとっては初めての出来事だった

████が道具という存在から、また別のものへと変わる

そのきっかけとなる出来事だった