- 1二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:18:11
モエトレは手放した、名誉も地位も、今までの人生さえも彼にとっては目の前の輝きに勝るものなど存在しなかった。
彼は優秀だった。生まれてから今まで常に一番で、尊敬され、有名な大学を出た後は一流企業から引く手あまたなところを全て断り、起業したかと思えばあっというまにその分野で彼の会社は誰もが知る一流企業となった。
そんな彼だが、実は人生に少し退屈していた。金も地位も名誉もあり、顔も家柄も悪くないため望めば大抵のものは手に入ったが、そのどれもが彼の興味を引くところではなかった。
以前は唯一と言っていい楽しみがあった。カレンチャンというウマ娘がレースに出るところを見るのが彼の唯一の楽しみだった。しかしそのカレンチャンも担当トレーナーであるお姉ちゃんと結婚し、レースを引退してしまった。今はウマスタでそのカワイイを少し浴びるくらいしか彼の楽しみはなかった。
彼は思っていた。カレンチャンを超えるカワイイを究めんとするウマ娘は現れないものかと。しかしながらカレンチャンの後に続こうとするウマ娘は、そのカワイイに目を焼かれてそれを模倣するに過ぎないか、あるいはライバル心が行き過ぎて若干アンチ寄りになっているウマ娘ばかりだった。
彼は悲しんだ。どこかにカレンチャンを愛し、カレンチャンを理解し──その上でカレンチャンを超えんとするウマ娘は現れないものか、と。 - 2二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:18:23
そんなある日の夜、彼は夜道を一人歩いていた。都会の煌めきもカレンチャンの輝きには遠く及ばない──そんなことを思いながらふと、空を見上げると、今日はどうにも星が近くに感じられた。訝しげに目を細めると、その中でもひときわ大きな星辰の光が一層燦然と輝き、ブルリ──とまるで身じろぎでもしたように見えた。
彼はなんとも表現し難い感情とめまいに襲われ、足早に帰路につくとそのままベッドに倒れ伏した。そして次の朝、目が覚めると我が目を疑うようなことが起こっていた。カレンチャンのウマスタアカウントが消えていたのである。いやウマスタアカウントだけではなかった。カレンチャンの写真集が、CMが、レース結果が、この世から消失してしまっていたのである──まるで最初から存在しなかったかのように。
彼は発狂した。自分の頭がおかしくなってしまったのかと思った。自分の書き綴ったブログにも、ツイッターにも、起業した際のインタビューにもカレンチャンの痕跡はなかった。本棚からは写真集が消え、代わりにとくに目新しい内容すらない経済学の本が置かれていた。
彼は──走った。ウマ娘の全てが集まると言っても過言ではないトレセン学園にである。内心発狂しながらもスマホでトレセン学園関係者にアポを取り付け、トレセン学園に堂々と正面から入り込んだのである。
そこで彼は四方八方駆けずり回って様々な記録を調べたが、トレセン学園にすらカレンチャンの記載は一切残っていなかった。最後に許可を取って入室した資料室でもまったく手がかりを得られず、床に膝をついて一人静かにむせび泣いた。
そんな彼に声をかけるもの達がいた、たまたま出くわしたアグネスタキオンのトレーナーと、マンハッタンカフェのトレーナーである。彼らは泣き崩れていた彼の話を聞いてくれた。ウマ娘が痕跡もなく人々の記憶と記録から消え去ることに、最初は訝しげな表情をしていた2人だが、彼が嘘を言っているようには見えないこと、彼もまたウマ娘を愛する者であることは十分に伝わったため、一人心当たりがありそうなウマ娘の場所を彼に教えてくれた。
彼はお礼を言って近場にあった自販機で購入した飲み物を──光るカフェトレに紅茶を、何やら謎の気配を連れているタキトレにコーヒーを差し入れし、その示されたウマ娘のところに走り出した。 - 3二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:18:37
彼はまた走った。そして学園の外れにある大きな木の木陰で読書をしているウマ娘に声をかけた。
彼女は大きなとんがり帽子を被り、名をエアシャカールと名乗った。事情を話すとエアシャカールはしばし考えこんだあと言った。「マジカルじゃねェ……魔法陣も触媒もナシに人ひとり消すなんざ、普通の存在には不可能だ。つまりお前の相手は、とんでもなく大きな存在かもしれねェ」
彼女は問うた。その大いなる存在が何を考えてそんなことをしたのかはわからない、しかしこの出来事にこれ以上首をつっこめば、何が起きるかわからない──何もかも失うかもしれないと。
彼は答えた。自分の望み、カレンチャンを理解し超えるウマ娘を見るためには、カレンチャンがそもそも存在していなければならない。そのためなら何を失っても構わない、と。
その答えにエアシャカールは大きくため息をつき、彼に奇妙なアラベスク模様に表面が覆われた、長さが5インチ近くある大きな銀の鍵を渡した。曰く、それと強い願いがあれば、あるいはカレンチャン、あるいは彼の夢を見つけられるかもしれない、と。
エアシャカールにお礼を言い、また彼は走り出した。その鍵を受け取ったときから、彼の身体は何かに突き動かされるような衝動に襲われていた。気がつくと彼はトレセン学園の大通り──ちょうど校舎からトレーニングコースの間を走っていた。そうせずにはいられなかった。
するとたちまち彼は強いめまいと頭痛がした。ちょうど彼の世界からカレンチャンが失われたときのようなめまいだった。彼は直感した、ここに答えがある──めまいに耐え彼は何かを掴むように空に手を伸ばした。すると彼の目の前には、不思議なことにトレセン学園の模擬レースの様子が映し出されていた。
そこで走るのはなんと──カレンチャンの娘、カレンモエだという。 彼は衝撃を受けたが、その髪、その顔は紛れもなくカレンチャンの娘であることを示していた。動揺しつつもその光景を観察すると、どうやらカレンチャンの娘が走ると選抜レースを見にトレーナー達も集まっているようだ。気がつくと彼はその中のトレーナーのひとりとして存在していた。まるで現実感のない夢のようだった。 - 4二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:18:50
しかし選抜レースのカレンモエちゃんの走りは精彩を欠いていた。トレーナー達はカレンチャンにそっくりな走り方で無様を晒すカレンモエちゃんにがっかりしたり、走りを度外視でスカウトを始めたりしていた。
しかしカレンチャンの走りを見続けたカレンファンの彼には、その走り方はたしかに母親に似た走りではあるが、その走り方にはどこか違和感があるように見えた。
その違和感が気になった彼は放課後一人で練習コースを走るカレンモエちゃんに疑問をぶつけた。最初はカレンチャンのことをよく知っている彼に対して、どうせママのファンなんでしょ?という態度であったカレンモエちゃんであったが、走りでの違和感──わざと無理してフォームを変えようとしているのではないか?と指摘され、動揺しながらもポツリポツリとそのワケをカレンモエちゃんは語ってくれた。
自由に走っても誰も自分の走りを見てくれない、カレンチャンそっくりな走り方で走ると皆喜び、褒めてくれる。昔はそれで喜んでいたが、いつしか周りの人間が見ているのはカレンモエではなく「カレンチャンの娘」なのだと気がついた。
しかし長年カレンチャンを意識して走り続けた結果、そのフォームを無理やり意識して崩す走りは(それでもモブトレーナーからすればカレンチャンそっくりな走り方なのだが)本人のポテンシャルを全く生かしてはくれず、改善のために助言を求めてもむしろカレンチャンとしての走り方を完成させるほうのアドバイスばかりなのだという。
それを聞いた彼は、レースの内容からカレンモエにアドバイスを送った。それは、カレンチャンの走り方とは似ていないものだった
自分ではカレンチャンの走りを再現したくないと言いつつも、実際にカレンチャンと異なる走り方を示唆されると途端に戸惑うカレンモエ。 - 5二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:18:58
ママの走り方じゃなくていいの?だってあなたはママのファンなんでしょ?と聞くカレンモエに彼は答えた。
「カレンチャンのファンだからこそ、君の走りがカレンチャンと違うということがわかる、擦り切れるほどレースも見ていたし、君とカレンチャンは思ったより似ていない」と。
カレンチャンに似ていないと言われて、カレンチャンの娘として見られたくない気持ちと、大好きな母親に似ていないと言われショックを受けるカレンモエ。彼女は彼に問うた。
「じゃあやっぱり変じゃない、ママのファンなんだからママに似てたほうが嬉しいでしょ、ママに似てない私になんでそんなに構うの!」と。
彼は言った。
「キミは、自分に似ていたから」
「キミは、カレンチャンが大好きだ」
そう言ってのける彼に、あっけにとられるカレンモエ。
「好きな相手に勝ちたいと思うのはいけないことか?」
そう、彼はカレンチャンが大好きだった。そしてその上でトレーナーとしてカレンチャンを超えるウマ娘を見ることが彼の夢だった。
そこにカレンモエが現れた。カレンチャンを愛し、その上でカレンチャンを越えたいと思うウマ娘が──。
「……変な人、でも──」
私のことをママそっくりとも言わなくて、でもママのことが嫌いじゃない人なら、モエのトレーナーにしてあげても、いいかもね?
そう言って笑いながら手を差し出す彼女、彼は気がついていた。この手を取れば元の世界に帰れはしないと。
わかってはいた、しかし彼に既にためらいなどなかった。
モエトレは──手放した、名誉も地位も、今までの人生さえも彼にとっては目の前の輝きに勝るものなど存在しなかった。決別のときは今、全てを手放し、彼は夢<モエ>を手に入れた。
- 6121/12/23(木) 01:20:10
自分の世界線ではモエちゃんにメッシュはないので画像は仕様です。
(他の世界線ならメッシュがある世界線もあるとは思いますがこちらの世界線ではメッシュなしなのでご了承ください) - 7二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:27:23
モエトレが異世界人になってる…
- 8二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:28:49
モエトレ元世界だとモルモット君とカフェトレが(というか担当のウマ娘の好みが)入れ替わっててその上エアシャカールはマジカル派なのかよ
- 9二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:35:22
これ絶対カレンチャンがモエトレ世界から消えたのお姉ちゃんの何かじゃない?
- 10二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:36:39
もっと人目に付く時間に投稿して欲しい……
- 11二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:37:46
このレスは削除されています
- 12二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:40:10
シャカールさんなんでそんなもんもっとんのすか……
- 13二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:43:22
クトゥルフはマジカルなのか…?
- 14二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:45:09
マジカルマーシャルアーツがあるので…
- 15二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:46:21
めいさく
世界線が混雑しとる〜 - 16二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 01:47:51
マジカルじゃねぇは笑った
- 17二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 03:02:53
カレンチャンが居ない世界なのでシャカールはスイープっぽくなってるし
モルモット君に👻が憑いてて紅茶派のカフェトレが光る - 18二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 07:24:32
おは怪文書
- 19二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 07:27:55
突然マジカルシャカールをぶち込んでくるのは吹くからやめい
- 20二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 07:28:57
反転世界みたいなところにすんでる……
- 21二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 07:30:27
ボケるタマにツッコミするオグリ、赤ちゃんになるクリーク 標準語でしおらしいイナリ
- 22二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 07:35:06
でもカレンチャンはカワイイのままだったのか
- 23121/12/23(木) 07:49:23
おはよう
マジカルじゃねえの元ネタはこれ、昔見かけてめちゃくちゃ笑ったのと異世界人っぽかったので採用
ここだけシャカールが「マジカルじゃねぇ」て言ってる世界|あにまん掲示板マジカルじゃねぇbbs.animanch.comあとお姉ちゃんが人外?なのはお姉ちゃんスレの影響
それ以外のカレンモエ周り(トレーナーとの出会いとか)は昔自分が書いたやつをリサイクルしました
だから昔のモエスレで見たことがある人もいるかもね
- 24二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:04:21
モエトレがモエと出会った原因はいろんな意味でお姉ちゃんなのに、お姉ちゃんのほうは「モエの写真がある!」で見え見えの自分が仕掛けた罠にかかるとかいうポンコツムーブしてるとかいう
- 25二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:36:19
ずれた世界って感じがしてよかった
- 26二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:50:58
マジカルじゃねえ一発で異世界だと納得させられて草
- 27二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 09:36:20
銀の鍵はやべーですわよ!
- 28二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 19:45:47
色々ずれてる世界おもしろい
- 29二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 01:22:47
ハッピーエンド?
- 30二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 01:28:31
モエトレにとってはハッピーエンドだな