【CP・R-18・現パロ注意】インド兄弟サンドイッチぐだ子

  • 1二次元好きの匿名さん23/09/19(火) 19:46:31

    仕事がクソ忙しいのに建ててしまった。
    Hな展開あり〼(希望的観測)
    よいこのみんなは見ないでね!

  • 2建て主23/09/19(火) 20:22:46

    ~立香サイド~

    ___その夏は、熱したフライパンの上にいる方がまだマシというありさまだった。
    ぷしゅー、と気の抜けた音を立てて扉が閉まる。そのままぶろろろろ、とバスが遠ざかっていくのを背中にしながら、わたしはあらかじめ持ってきていた住所のメモに目を通した。
    「たしか、この先・・・だよね?」
    華やかな住宅街には、白く美しい建物ばかりが並んでいて、アイロンをかけてはいるがどこにでもありそうなワンピースに麦わら帽子姿の、いかにも中流階級の小娘然としたわたしは場違いな気がした。
    「ま、勝手知ったる仲だし馬鹿にはされないでしょう。もしも恰好を笑ってきたら平手打ちしてやればいいし」
    心細さをごまかすようにそう己を鼓舞して、整然と並んだ住宅の海に飛び込んだ。
    肌を焦がすような南風が吹いて、わたしの前髪を巻き上げる。

    ___わたし、藤丸立香は十八歳。わけあって、年上の幼馴染の家に行くところ。

    「めったに会えなかったけど、カルナちゃんとアルジュナちゃんは好きだったな」
    もうずいぶん顔を見てないけど、さぞや美人に育ったに違いない。
    カルナちゃんは色の白い女の子で、腰まで届く同じ色の髪の毛がシルクみたいですごくきれいだった。アルビノっていうのかな?けど目は翠に近かったような・・・
    口が重かったけど引っ込み思案と言うわけでは全然なくて、むしろ人の本質を見抜く力に優れていて、しかもそれをひけきらかさない。今にして思っても、妙に大物な女の子だったと思う。

  • 3建て主23/09/19(火) 20:43:59

    アルジュナちゃんも・・・そうだなぁ。やっぱりめちゃくちゃ髪の毛を伸ばしてた(女の子なんだから当然?いやいや、髪を短くしたい女の子だっているでしょうよ)。
    カルナちゃんとはあべこべに黒い肌と髪の毛で、目力が強かったので遠目から見ると黒猫に見えなくもなかった。
    誰にでも礼儀正しくて、なんでもできる優等生___のように見せかけて、ほんとのところは天然で抜けてるところもあるかわいい子。根底にそういう性格があるからたくさんの人に好かれたんだろう。物凄い努力でそれを隠していたので、知っていたのは彼女の姉のカルナちゃんと、あとはわたしくらいかな。
    二人とは小学生の頃知り合って、とにかく気が合ってたくさん遊んだ。わたしの方が二人より二つ年下なのに、お姉さんぶって髪を梳いたりもしてたっけな。思い出せばわたしのおねだりにも嫌な顔一つしなかったあたり、年上の余裕を感じる。
    そうそう、特筆するべきはアルジュナちゃんの誕生日。わたしたちも呼ばれて、ごちそうに舌鼓を打ち、わたしはささやかなプレゼントとして紙で作った首飾りを送ったんだけど、トップに星飾りがあったらもっと素敵だと思い、作ってる最中に指を切り落として大騒ぎになったんだっけか。
    「らしいんだけど全部お父さんに言われたことなんだよね。実際どうだったのかは知らないけど、結局星飾りはできたのかな」

  • 4建て主23/09/19(火) 21:04:05

    と、見えてきた。華美な家々の中でも、とりわけどっしりとたたずむ、屋敷と見紛うほど立派な家を見る。
    継ぎ目一つないコンクリートの先にはちっちゃいながらも中庭があって、誰かがそこで水を撒いていた。
    その人はぴっちりしたシャツを着て、頭にはつばの広いストローハットをかぶっていた。わたしを見て、園芸シャワーの蛇口をひねる。シャワーの勢いが弱まり、止まった。
    脱色しただけでは決してできない美しい白髪が、日光を柔らかく反射する。
    「・・・」
    思わず後ずさるが、大股で距離を詰められる。。
    イケメンだった。そこにいるのはとんでもないイケメンだった。切れ長の目に、薄い唇。白くて長い首筋に浮かぶ汗粒が、彼が彫刻ではなく人間であると教えてくる。
    淡い色をした瞳は無感情そうに見えて、わたしの顔越しになにかを探しているように見えた。
    やがて口を開く。
    「怯えるな。オレはお前に害意を持っていない」
    「・・・」
    「久しぶりだな、リツカ。まあこれは言うまでもないことだが」
    「・・・・・・・・・」
    なんとなく想像はついていた。表情がどっか寡黙だったあの子に似てるよなーとか。でもこんなハンサムに成長するとはこのリツカの目をもってしても。
    「あの、えと、わたし」
    「戸惑うのも無理はない。昔話に花を咲かせたいところだが、この暑さではな」
    カルナちゃん___だった人はわたしの手を取った。わたしより体温の低い、ひんやりとした男の人の手。
    彼はわたしの手を引いて、家の呼び鈴を鳴らした。
    「アルジュナ。リツカが来たぞ」
    声をかけてすぐ、ぱたぱたと足音が聞こえてきた。まさかと思うが、アルジュナちゃんもひょっとして___

    「こんにちは、リツカ。時間どおりですね」
    うん、ですよねー。
    「・・・おや?カルナ、彼女になにかあったのか。驚いた顔をしているが」
    そりゃあ驚くよなぁ。
    昔馴染みの美人姉妹が実はイケメン兄弟だったなんて考えもしなかったのである。

  • 5建て主23/09/19(火) 21:22:13

    おばあちゃんが存命なら烈火のごとく怒り狂っていたことだろう。
    男の家に身一つで上がり込んでいるのだから。
    見るっからに高そーなガラスコップにとぽとぽと麦茶が注がれる。水流にかき混ぜられた氷が、からころと音を立てた。
    「あの、わたしまさかお二人が男だったなんて想像もしてなくて・・・」
    「まあ誤解するのも無理はありません。あの頃の私たちは国のしきたりで女装をしていましたからね」
    アルジュナさんはぐいっと麦茶を呷った。その姿すらなんかのCMみたいで様になっている。
    しかしつまみはポテチ。いやこのモデル級の二人がポテチつまんでるのもまたサマになってるんだけども。
    「お前の父親はオレの父インドラとガラパゴスへ共同研究。母はパタンナーの研修で二ヶ月フランス。
     自分で言うのもどうかと思うが、お互い身勝手な親もいるものだな」
    そういう割にはカルナさんの口元には優しいほほえみが浮かんでいて、彼の両親に対する感情がどのようなものかがうかがえた。
    「まったくです。帰ってきたら家族会議を開かなくては」
    アルジュナさんがいたずらっぽく言うので、思わず微笑んだ。そうするとにっこり笑い返されて、照れくさくなる。
    「リツカ」
    「はい」
    「人としての生活は順調か?」
    「・・・?はい、まあ」
    へんな質問が飛んできた。左手が右手かどうかより奇妙な質問に思える。
    カルナさんはわたしの目をじっと見つめてきたと思うと、
    「・・・アルジュナ、どうやらリツカはピンと来ていないようだ。”あれ”を見せた方がいいのではないのか」
    「奇遇ですね、私もそう思っていました」
    アルジュナさんは席を立つと、奥の部屋からなにかを持ってやってきた。
    渡された額縁の中には、紙でできた首飾りが入っていた。古びているが色あせないよう丁寧に扱われてきたのがわかる。
    「うわーっ。まだこんなもの持ってたの?なつかしいなあ、なんだ結局星は作れなかったんだ」
    指を天井に透かす。
    「指も元通りに治ってるしてっきり夢かと」

  • 6建て主23/09/19(火) 21:32:57

    「切り落とした指は差し木にしましてね」
    アルジュナさんは片手を上げた。

    ___ひゅう、と、開け放った窓から風が一陣吹き込んだ。なにか、不吉な知らせを呼び込むような。

    「こうして私の指になっているわけです」
    彼の手は、指が一本多かった。

  • 7建て主23/09/19(火) 21:36:20

    今日はここまで!続けられるようだったら続けるよ~

  • 8二次元好きの匿名さん23/09/19(火) 21:38:33

    ぴぇ〜〜〜!!!ときめきとホラーでグッピーが死ぬ〜〜〜〜〜!!!
    文才スレ主頑張って〜〜!!

  • 9二次元好きの匿名さん23/09/19(火) 21:46:07

    もしかしてスレ主アンケート取ってた人?
    続きが気になる保守

  • 10二次元好きの匿名さん23/09/19(火) 21:55:48

    楽しみ保守

  • 11二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 02:58:43

    続き気になりすぎるので保守

  • 12二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 08:14:35

  • 13二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 11:05:56

    ほしゅほしゅ

  • 14二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 11:19:40

    切り落とす?皮膚が切れて血が滲んだではなく?と思ってたら文字通り落とされていたとは思わず小さく悲鳴を上げてしまった
    ここからどうしたらHな展開になるんです?????

  • 15二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 13:29:22

    このレスは削除されています

  • 16建て主23/09/20(水) 13:45:51

    「聞いてると思いますが私の父は代々植物の万能性に着目し、とりわけその高い生命力を人体に活かせないか研究を行っていましてね。
     人体に活用できるか技術研究を進めているときにあなた・・・というよりあなたの『先代』は亡くなりました。未熟児だったそうです」
    そんな、
    「我が父の一人スーリヤがお前の父に受けた恩は計り知れない。日本になじめなかった頃とても親切にしてくれた相手だからな。お前の親はどうしても娘をよみがえらせたいと」
    およそ信じがたいことを、ふたりは。
    「成功したとしても生まれたものは決してあなたたちの娘ではない。父たちはそう忠告したそうですよ。
     作るのはとても大変だったとも。精子と卵子をもとに皮膚の役割を果たす細胞壁を作るのには成功したのですがそのあとが」
    「ねぇ、


     なんの話?」
    静寂。
    「風呂はあちらです。洗面台も同じ場所に。今飲んでるお茶を飲み終わったら部屋の案内をしましょうね。カルナ、積もる話はあるだろうがそれでかまわないな?」
    「ああ」
    「ねえ!それどころじゃない話だと思うんだけど!」
    「・・・弱る。アルジュナ、リツカは何も知らないようだぞ」
    「参りましたね、成人前には打ち明けるという約束はどうしたのでしょうか。忘れたのかわざとなのか」
    「あの、アルジュナさん、ちょっ」
    立ち上がったアルジュナの後を追いかける。
    綺麗に掃除された洗面台、一点の汚れのない鏡にわたしの顔が映った。
    「かいつまんで言うとあなたの見かけは人ですが」

  • 17建て主23/09/20(水) 14:06:28

    「白い」
    そう指摘されたのは、学校の部活でトマトの剪定をしているときだった。
    振り向くと、後輩がわたしを指さしていた。
    「色が白くなってますよ、先輩。日陰に入った方がいいのでは」
    「緑っぽくはない?」
    「えっ?ぜんぜん」
    「なら平気」
    摘まれた枝がこんもり積もったざるを持って、後輩の横を通り過ぎる。平気なんですか?という彼女の視線がいつまでもわたしを追っている気がした。
    それからは授業も昼休みのおしゃべりもろくに頭に入ってこなかった。
    下校した後はペットボトルをぶらぶらさせながらぼんやりしたままバスを待ち、ぼんやりしたまま下宿中の家に戻った。
    庭用の小さな鎌を片手に中庭の掃除をしていたカルナが立ち上がる。
    「ただいま帰りました」
    「ああ、おかえり。バスは遠いようだが大丈夫か」
    「前より一時間くらい差があるけど、まあ慣れると思う。それより」
    「より」
    「日に当たりすぎではとか、水飲みすぎて足元から腐り出したらとか、植物が一斉に環境破壊について叫び出して来たらどうしようとか、もう色々考えすぎて苦しい」
    「なるほど、どうやら斜め上に適応力の高い人間に成長したようだ」
    汗をぬぐい、濡れ縁に腰かける。
    「そう簡単に植物が人間になるはずないだろう、あれは全部ウソ」
    「ウソッ」
    「ということにならないかと思っている。お前にとっては急だったな、すまない」
    がっくりとうなだれる。
    自分が人間じゃないだなんて信じられない。園芸はさみは問題なく使えるしピアノだって弾けるし今まで謎めいた研究施設で人体実験めいたことをされた記憶もないから嘘なら嘘と早く___
    「まあそんなに深刻に受け止めなくてもよろしい」
    アルジュナさんがクソデカ爽健美茶のボトルを持ってやってきた。
    「私が言うのですから大丈夫ですよ。これでも八百屋でも花屋でもばれたことはないんですよ」

    ___わたし、藤丸立香は十八歳。自分が植物人間だと教えられて、人生に迷ってる真っ最中。

  • 18建て主23/09/20(水) 15:54:44

    そうだ。
    玉ねぎを剥いているわたしの横で、にんじんを刻んでいるアルジュナの、すらりと伸びた指を見る。
    彼はわたしの指を移植した。
    「ってことで合ってるんだよね?」
    恐る恐る訊いてみる。
    カルナ以上に表情のわかりづらいアルジュナは、またどこかに行くと今度は中古のビデオカメラを持ってきた。
    「これが撮影された移植直後から現在に至るまでの」
    わたしが吐き気を催してトイレに駆け込んだので言葉は途中までしか聞けなかった。

    「リツカはナンは苦手だったか」
    「いや、ナンも好きだよ。カルナたちって晩御飯はカレー派なの?」
    「そうだな。カ”リ”ーの方が好きだったが、日本に来てからはカ”レー”も気に入った。ジャワが一番気に入っている」
    「リツカ、さっき顔を真っ青にして手洗いから出てきたのだから無理して食べる必要はないのでは」
    「そりゃあ心の準備もなしにあんなもん見せられりゃねえ!」
    わいわいと騒ぎながらテーブルにドライカレーとナンを並べ、自然と両手を合わせる。
    カルナとアルジュナもそれを見て、わたしに倣うように手を合わせた。
    カリーとカレーの違いはよくわからないけど、日本の食べ物を好きになってくれたのなら日本人としてこんなにうれしいことはない。
    と、カルナはビデオカメラを持ってわたしたちの食べる様子を撮っているようだった。
    「・・・なにしてるの?」
    「いや、お前たちの気にするところではない。単に興味深かっただけだ。おもしろい、食べる順番が同じだ」
    「カルナ・・・撮影も構わないが今は食事の場だということを忘れるな。お前のことだ、冷めたカレーも『これはこれで良し』と言うのだろうがな。単純に行儀が悪いぞ」
    「そうか、すまん」
    その時カルナが、あっ・・・とつぶやいた。
    「どうした」
    「しまった、フィルムがデイライトだ。写ってないやもしれん」
    「・・・はあ。やっとリツカに会えたのだから気分が上がるのはわかるが、もう少し落ち着いて食事を摂れんものか」
    「そう?わたしは騒がしいの結構好きだよ」
    にっこり笑う。

  • 19建て主23/09/20(水) 16:11:05


    カーテンの隙間から伸びる陽射しが、わたしの顔に白くかかる。
    もう少し寝ていたかったけど、カーテンを閉める動作をしているあいだに眠気は覚めてしまうだろう。
    わたしはそう思って、潔く起きることにした。
    クローゼットを開けて、着替えを済ませる。この時のわたしは、なぜクローゼットの中の衣服がサイズぴったりなのか考えてもいなかった。
    「おはよう。休みだというのに早いな」
    いつもの恰好をしたカルナが、階段を下りるわたしを出迎えてくる。ひと作業終えた後なのか、流しから水を出してコップに注いでいるところだった。
    「カルナこそ、毎日毎日草むしりして」
    「夏だからな。放っておくとあっという間にひざ丈まで伸びてくる。オレの知り合いに年中ぐうたらしているのがいるのだが、彼女にやる気を少し分けてほしいくらいだ」
    「あはは、ごもっとも」
    わたしは冷蔵庫から食パンを一切れ出して、トースターに入れた。
    「フライパン使ってもいい?目玉焼き焼きたいんだ」
    「使った後洗ってくれるなら。カレーの残りがあるから、よければそれも食べるがいい」
    「うん、ありがとう。でも、パンにはジャムを付ける派なんだ」
    「そうか」
    カルナは気を悪くした素振りも見せなかった。いや、これくらいで機嫌を損ねたらどんだけ心の狭い人間だよって話だけど。
    「学校は楽しいか?」
    「学校は、うん楽しいよ。あれ、カルナは違ったの?」
    「オレの子ども時代は誘拐のリスクを踏まえて信頼のおける家庭教師を雇っていたからな。
     学校独特の雰囲気にずっと憧れていたのかもしれない」
    「そうなの。・・・ふふふ」
    「どうした?朝からごきげんだな」
    「いや、カルナって昔はすごく口が重かったのに、今じゃだいぶ自分の気持ちを伝えるのが上手になったんだなーって」
    「・・・そうだろうか。そう、だろうか・・・」
    おいおい、真剣な目をして考え込み始めちゃったよ。わたしそこまで深刻なこと言ったつもりなかったのになぁ。
    でもこの成長ぶりには立香さんは感心してるよ?なんてったって、昔はまともに友達もいなかったしねー。

  • 20建て主23/09/20(水) 16:23:24

    「なあ、リツカ」
    「はい、なんでしょう」
    「心臓移植をした女の話は知っているか?」
    「へ?」
    そんなこと考えてたらいきなり変化球投げてきたよ。変化球すぎて話の内容がわかりません。
    「ある女が事故に遭い、心臓を移植することになる。すると女はその心臓を提供してきた人物にだんだん性格が似てきて、食事の好みも変わってくる。少し恐ろしい話だと思わないか」
    「・・・わたしの指を移植したアルジュナも人が変わってくるかもしれないから怖いってこと?あー、カルナに怖いものがあったなんて知らなかったけど」
    この心臓に針金が生えてそうなカルナになにかを恐れる心があったなんて驚きだ、と思っていると、
    「半分当たりで、半分外れだ」
    「わかりやすく言ってくださーい」
    「お前の指を我が物にしたアルジュナは、もしかしたらお前に性格が似るやもしれん。
     だがそれを恐れているわけではない。お前の心があれに移るのならば、それはそれで良しというものだ」
    「・・・そう」
    要はそういうことなのか。そうそう、彼って口を開けば開いたでわけわからんくらい遠回しなことを言ってくる子だったよなあ。
    「あれは驚くほどお前に似てきた。よく笑うようになり、よく食べるようになった。それでいて芯が通っているのも、リツカ、お前にそっくりだ」
    「ほう。なんか過大評価だと思うけど。でもわたしから見たら全然似てないよ?めちゃくちゃしっかりしてるし、料理もできて」
    「そうだろうか。地に足のついていないとよく評価されるオレの世話を率先しているうちにああなったのだと思っているが。こんなにいい天気の日だ、どこかに遊びに出かけたいと考えているだろう」
    「そうだろうねえ。例えば___」

    「「「公園とか」」」
    アルジュナとわたし、そしてカルナの声がかぶる。
    ・・・しゃかっ、と、こんがり焼けたパンがトースターから飛び出した。

  • 21建て主23/09/20(水) 18:33:30

    じゃわじゃわとセミが鳴く。
    焦げるような暑さに負けじと、ヒマワリの群れが天へ頭を伸ばしている。
    近所にある自然公園。手をつないで歩く老夫婦。噴水でびしょびしょになりながら遊ぶ子供。その両親らしき男女が、半ばあきらめたまなざしでそれを見つめている。
    「お待たせしました」
    売店から戻ってきたアルジュナが、わたしにソフトクリームを手渡してきた。その横ではカルナがラベンダー色のソフトクリームに舌鼓を打っていた。
    「ありがと。わたしも大人になって、お金を稼げるようになったらお礼するからね」
    「おやおや。十日で五割利息をつけても?」
    「うっわ、悪徳!」
    けらけら笑いながら木陰のベンチに座った。
    さっそく苛烈な陽射しにとろけだしている表面に舌を這わせると、ミルクの優しい甘さが花開く。微細な氷粒が歯の間でしゃりしゃり砕けていく感覚が楽しい。うーむ、あの店は当たりだったようだ。
    『んお?そんなとこでなにやってんだ、カルナ』
    聞き覚えのない声。独特の抑揚がある。
    視線を左に向けると、燃えるような赤毛にいかした帽子をかぶってスケボーを持った、いかにもストリートなファッションの男の人がいた。
    カルナは、次の瞬間多分彼の母国の言葉で話し出した。
    『アシュヴァッターマンか。奇遇だな』
    『それにアルジュナと、そこのチビスケは・・・ああ、そーゆーことな。念願叶ったってわけだ』
    『ドゥリーヨダナはどうした』
    『旦那ならビーマと喧嘩して、看板ぶら下げて反省中だってよ』
    『また兄とですか・・・まったく飽きませんね』
    「はは、旦那とお前の兄貴は一周回って仲がいいってぐらいだからなぁ」
    むう。わたしを抜きにして話に花を咲かせられるとアウェー感がすごい。
    『それにしても、そいつはまだ乳くせえ子どもじゃねえか。ちょっと気の毒だな』
    『これでも私たちより二つ年下なだけですよ?それに故郷に比べれば自由でしょう』
    『ま、向こうはまだ見合い結婚が主流だからな。一応聞くが、選択肢は与えてるんだろうな?』
    『ええ、最後には彼女に選ばせるつもりです』
    カルナとアルジュナ、アシュなんたらさんはしばらくあれこれとくっちゃべっていた。
    やがてひと段落したのか、アシュうんたらさんはわたしに軽く手を振ると、スケボーを駆って去った。
    結構いい人なのかな。もしまた会う機会があるなら話をしたいし、ヒンドゥー語を勉強しようかしら。

  • 22二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 19:14:00

    このレスは削除されています

  • 23建て主23/09/20(水) 19:44:17

    日が暮れた。
    昼間のうだる暑さは波のように引いて、冷たい夜のベールが中庭を包んでいる。
    わたしは濡れ縁にこしかけて、月が染める芝生をぼーっと眺めていた。
    アルジュナがやってきて、断りを入れてからわたしの隣にかけた。
    「風呂は止めてくれましたか?兄はシャワーだけなんです」
    「うん」
    「今日は楽しかったですね。やはりカルナはあなたと一緒にいるととても楽しそうだ」
    「そうだね」
    うぬぼれと言ったらおしまいだけど、カルナはすごく楽しそうに見えた。楽しくなければ友達とあんなに話し込むこともないだろうし。
    「リツカも楽しかったですか?」
    「うん」
    「それはよかった。
     またどこかに行きましょう。夏が真ん中にさしかかったらどこに行きたいですか?」
    「海かな。おすすめのところを知ってるんだ。静かで、穴場スポットみたいな感じなんだよ」
    「私もそう思いました、奇遇ですね。・・・リツカ」
    「はい」
    アルジュナは言葉を切り、真剣な目をして見つめてくる。
    「もしも秋や冬もこうして三人一緒にいられるとしたら、あなたならどこへ行こうと考えますか?」
    少し考えて答える。
    「大学附属のバラ園?」
    「やっぱり。こうも同じことを考えるだなんて、私たち運命の双子かもしれませんね」
    「冬はどこにも行かないで、かまくらを作ってその中であつあつの甘酒を飲もうよ。温かい甘酒って、燃える星の味がするんだよ」
    「いいですね。では約束を」
    すい、と薬指を伸ばしてくる。
    「・・・普通小指じゃない?」
    「いいじゃないですか、細かいところは」
    おずおずと指を絡めると、細いけど筋張って、確かに男の人だとわかる感触が伝わる。
    うそついたら、はりせんぼん、のーます、と、子どものように約束を交わした。
    別にひどいことをされたわけでもないのに、ひりひりとその感触が指の腹に焦げ付いて離れなかった。

  • 24建て主23/09/20(水) 20:08:38

    「あの、アルジュナ」
    「ああ、もうこんな時間だ」
    アルジュナは立ち上がると、自分の部屋へ戻っていく。
    「それでは、おやすみなさいリツカ。よい夢を」

    ベッドに入っても、指に触れた温かな感覚をいやに思い出して寝付けなかった。
    天井に薬指を掲げ、見つめる。
    「うやうやしくソフトクリームを渡してきたのも、気軽にあのお友達の肩を叩いていたのも、わたしの指だった」
    ___わたしのものだったんだ。

  • 25建て主23/09/20(水) 21:12:11


    わたしはピアノの心得が手習い程度にある。
    あるといっても、簡単なのをいくつか知ってる程度だ。
    そしてリビングには、ピアノが一台ある。
    というわけで(いやいや、なにが「というわけで」なの?)、夏休みを祝してわたしは一曲弾くことと相成った。
    「では、夏休みを祝いまして・・・『トロイメライ』」
    控えめな拍手の音を耳にしながら、わたしは鍵盤に指を滑らせた。
    四小音が昇り、下り、ゆるやかなメロディに変わっていく。
    まるで音楽がひとりでに色を持って、微風にただよい流れているような錯覚を覚える。
    物覚えの悪いわたしが数少なくこの曲を覚えているのは、きっとこの心地よい旋律が好きなんだからだろう。
    演奏は三分ちょっとで終わった。ぱちぱちと、再び拍手が聞こえてくる。
    「・・・おそまつ」
    「粗末ではない。お前の演奏には心がこもっている」
    「えー///、そう思うー?///」
    「確かに。月末になったらまた演奏会を開きましょうか」
    「やめてよー、月の終わりにまた緊張すんのやだよ・・・」
    ほんとにやめてくれ、と思いながらアルジュナの顔を恨みがましく見上げる。彼はくすっと笑った。
    「あなたの指を私の物にしてしまったの、失敗だったかもしれませんね」
    「どういう意味?」
    「だって、指が六本もあればもっと素晴らしい演奏が聴けるかもしれないではないですか」
    「いやだよー、苦手だからピアノ長続きしなかったんだってば」
    「でも、覚えているのでしょう?」
    「むう」
    そこを突かれると弱いな。
    カルナがさりげなくカラムーチョの袋を開けようとしたのを見つけ、取り上げた。
    「おやつは三時と決まっているのだから、そんなに食べたら太ってしまうぞ。まったくあるだけ食べてしまうのだから」

  • 26建て主23/09/20(水) 21:20:30

    「お前には歌を習わせるべきだったか?」
    「話を逸らすな!」
    「カルナ、お稽古もいいけどさー。せっかくの夏だしどっか遊びに行かない?」
    「・・・いいだろう。どの道オレたちも暇だ。どこがいい」
    「それならもう打ち合わせ済みだよ。ねっ、アルジュナ」
    「ええ」
    アルジュナの関心がわたしに向いた隙に、カルナはぱっとカラムーチョの袋を取ると素早く開けた。

    潮騒。磯の香りを強く感じるのに不快に思わないのだから、海にはなにか魔力がある。
    吹きだす汗を潮風が冷やす。こういう時こそカメラを回すべきだろうに、二人はまた母国語で話し込んでいるようだった。
    「・・・リツカ?」
    その一幅の絵画のような姿を目を細めて眺めていると、ふいに後ろから声がした。
    振り向くと、陽射しが彼のゆるくまとめたホワイトブロンドをおだやかに縁取っているのが目に映る。
    「あれ、オベロンじゃーん」
    「きみもここに来たのか。やだなぁ、きみと同じ趣味だなんて考えただけでぞっとするよ」
    と、この暑さでもオベロンは平常運転。笑顔でひっでえことを言ってくる。
    普通の女子なら即おビンタコースだが、この立香さんはそんなくらいでキレやしませんよ。
    「アルトリアはどこいったの?いつも近くの海の家の手伝いをしてるから、会えると思ったのに」
    「彼女なら夏風邪だってさ。どっかの誰かと違って頭がいいから、風邪を引きやすいんだろうね」
    「ふぅん。そういうオベロンもアイスばっかり食べて、そのお腹も服と同じくらいだるだるになってるんじゃないですかー」
    「ばかだなー、おやつを食べた分運動で消費してるさ。大食いのくせに動かずやせようとするきみと違って、ね」
    「あらまあ、言うじゃないのオベロン。うふふふふ」
    「ふふふふふ」
    ・・・前言撤回、奥歯ガタガタ言わしたる。
    袖をまくって握り拳を作っていると、肩にぽんと手を置かれた。
    「カルナ、アルジュナ・・・」
    「そろそろ帰るぞ。帽子をかぶってきたとはいえ、この直射日光はあまりよくない」
    「でも、ここに来てからまだ十分も経ってないよ」
    「大人の言うことは聞くものです。体を壊してからじゃ遅いのですからね」
    「・・・おやおや、どうやら邪魔が入ってしまったみたいだね」

  • 27建て主23/09/20(水) 21:33:51

    オベロンは食べ終わったアイスをポリ袋に入れると、ひょいひょいと岩場を飛び跳ねて去っていく。
    「じゃあねー、リツカ。今度会う時はそのでっぷりした胸をどうにかするんだよー」
    「なっ?!これはでっぷりじゃなくて豊かだっつーの!!ふざけんなあ、このっ・・・」
    妖精のように姿を消したオベロンに拳を振り回しながら、ぷりぷりと踵を返す。まったく、いい気分で観光してたのに台無しだよチクショウ。
    その心が共鳴したのか、カルナとアルジュナは彼が消えた後を凄味のある目でにらんでるように見えた。

    夕食を終えた後、カルナがいいものを作ると言って台所に立った。
    数分して、なにか飲み物の入ったカップを三人分持ってきた。湯気がスパイスの甘い香りを運んでくる。
    わたしは思わず笑みこぼした。
    「あっ。これ、チャイでしょ」
    「アルジュナと海で話をしていたらなつかしくなってな。台所に立つのは久しぶりだが、体は覚えているものだ」
    「お前は食べるのは好きだが作るとなるとてんでだめだからな」
    「飲んでいい?」
    「ああ。そのために淹れたのだから」
    そうっとカップの縁に口を付け、傾ける。香りが強く立って、最初に感じたのは熱。その後甘みが舌の上で花開く。
    「おいしい・・・」
    「そうか」
    カルナは相変わらず無表情だったけど、声色にかすかに喜色がにじんでいた。
    アルジュナもおいしそうにチャイを飲んでいる。
    「う・・・ん・・・」
    昼間涼しいところにいたからだろうか。体が温まると眠気が急激に押し寄せてくる。
    なんだかとても気持ちがいい。このまま、眠ってしまいそうな___
    「眠いか」
    「うん・・・すごく」
    「なら眠ってしまえばよろしい」
    「でも・・・お風呂入ってない・・・」
    「明日入ればいいでしょう。今日一日くらいシャワーを抜かしても、ばちは当たりますまい」
    「一日くらいって、アルジュナねえ___」
    一日風呂に入れないのは、女の子にとって一年分寿命が縮むのと同じなのだと言いたかったが、寝てもいいという免罪符を手に入れたわたしの瞼は勝手に下りていく。
    混濁した意識の中で、二人の顔は、とても満足そうに見えた。

  • 28建て主23/09/20(水) 21:38:00

    今日はここまで。

  • 29二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:00:20

    一見穏やかなんだけど端々がすごく不穏

  • 30二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 06:54:28

    ウワーッほのぼのと不穏の温度差で風邪ひく!

  • 31二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 15:17:13

    気になるのでほっしゅ

  • 32二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 16:30:17

    めちゃくちゃいいな・・・

  • 33建て主23/09/21(木) 18:07:41

    ↓R-15↓

    淫夢(R-15)それは例えるなら、水たまりにごく浅く手のひらを触れさせては離すような。

    おおきなケモノがわたしにのしかかって、わたしを食べている。わたしの体を舌で舐め回して、指先を口に含んで飴みたいにこりりっと噛む。どこもかしこも、よだれでべとべとだ。

    体の奥底からあふれてくる、熱くて、甘くて、腰から下がトロトロに溶けてしまうような感覚。天地が逆さになったような痛みに、あぁっ・・・と大人のようなため息をこぼすと、柔らかく唇を塞がれる。舌先を弱く吸われて、吐息を分かち合うようにつながりをより深く絡めあった。

    体温を吸ってぬくもった敷布が背中にこすれる。熱い空気は昏く、汗と唾液の匂いでみっちりとしていた。ああ、秘密の匂いだ。

    これは夢だ。絡めた指の熱さが作り出した淫夢。そうじゃなきゃ、今頃わたしは骨も残っていない。

    ケモノは鼻先を動かして、なにかを探すようにいつまでも舌を這わせ続ける。夢だからいつまで食べても無くならない。無くならないのが切なくて、目尻を涙が伝った。

    ケモノは目を細めて、わたしの涙をなめとった。まるで甘露であるかのように喉を鳴らし、わたしの体を持ち上げる。

    体がより深くつながって、わたしの中のケモノが大きくなっ…
    telegra.ph
  • 34二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 18:29:20

    >>33

    これでR-15ってマ?

  • 35建て主23/09/21(木) 20:49:31

    ※デリケートなネタがあるので苦手な人は注意!※

    目が覚めた。
    シーツはまるでおろしたてのようにひんやりしてる。珍しく昨晩のわたしは寝相がよかったらしい。
    時計を見て、ちょうど正午だということに気づく。あわてて着替えてリビングに降りると、カルナとアルジュナがそろって昼食を摂っていた。
    「おはようございます。それともこんにちは、がいいのでしょうか?」
    「ごめんごめん、久しぶりだなー寝坊したの。平日なら死んでた」
    「お前の分も作ってある。半熟ハムエッグは苦手だったか」
    「ううん。人の作ってくれたものにケチつけるほど偉くはありません」
    テーブルについて、箸を動かす。
    と、股の間を誰かの指が撫でたような感覚と共に、どろっとしたものが伝う。
    「・・・あっ、やだ」
    とっさに立ち上がる。自覚した瞬間、内臓を絞っているような淡い疼痛が下腹部を苛みだした。
    「どうした」
    「あ、ああ気にしないで。わたしちょっと野暮用が」
    「困りごとがあるのなら遠慮しないでください。水臭いですよ」
    わたしは熟考した末、隠したら逆に困るなと重い口を開いた。
    「・・・たぶん、月のものが来たんだと思う。わたし周期がぶれがちで、もうちょっと先だと考えてたんだけどね」
    なるほど、と二人はうなずいて、さっそく行動に移った。
    カルナがわたしに了解を取ってから、血がにじんだ下着を持って洗面所に行った。わたしは、こんなこともあろうかと、とアルジュナが持ってきた生理用ナプキンをつけた下着を通して、湯たんぽを抱えた。
    「なんかごめんね、洗うのとかわたしがやることなのに」
    「気にしなくてよろしい。こういうこともあるだろうと想定していてよかったです。痛み止めを飲みますか?」
    「ううん。湯たんぽがあったかいからまだ平気。それに元から軽い方なんだ、わたし」
    「なら、いいのですが」
    「それにしてもおかしいなぁ。まだ先だと思ってたのになぁ」
    しばらくの間、じゃー、という水の流れる音を聞く。
    わたしの体はどこもかしこも植物でできているというのに、こういうのだけ律儀に再現されていると思うと妙な気持ちになる。例えるなら、産むこともできないのにそういうことをする機能を備えたロボットを見ているような。

  • 36二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 23:34:04

    植物人間(仮)に生理ですか……

  • 37二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 07:20:10

    これオベロンやアルキャスが知ってるぐだ子はもう植物状態だったってことか?

  • 38二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 17:52:56

    本当にこれ生理かー?

  • 39建て主23/09/22(金) 19:09:05

    「奇妙に思いますか?」
    アルジュナがわたしの目を覗き込んでいた。
    「うん、だいぶ。さつきやつつじに似てるよね」
    「どうして?」
    「だって切れても治るでしょ?」
    「ああー、たしかに」
    「イタタタ。やっぱ痛み止めいるかも」
    「わかりました。持ってきましょう」
    無くした分補充が必要だし、それからなにか甘いものが欲しいというわたしのおねだりを聞き入れて、二人は買い出しにでかけた。
    わたしはリビングで安静にしていた。
    どでかいソファの上で寝っ転がっていたが、目を開ける。
    ・・・やっぱり気になる。だって早すぎる。周期がぶれると言ってもこんなに早く来たら体に障る。
    自分の体のことなんだからいつなにがあってもおかしくないというけど、腹の中を苛む痛みもなんか変だ。
    まるで膣の中に、なにか固いものが出入りしたような痛み___
    考えれば考えるほど、あの二人への疑念がわいてくる!わたしは、なにをされた?
    気づくと、わたしの足はアルジュナの部屋へたどり着いていて。
    やめといたほうがいい、という意思に反して指はドアノブを回し、
    彼の部屋とわたしの部屋は作りがまったく一緒だ。だから視線は、勝手に鏡台に寄せられて。

  • 40建て主23/09/22(金) 19:45:41

    テーブルに並ぶそのいくつもの小さな四角い窓の中には、中には、中には。
    わたしが、写っていた。
    小学生のわたし。中学生のわたし。ごく最近のわたし。写真は黄ばんで古びたものからつやつやと新しいものまである。
    精を出してイチゴ摘みをするわたし。ピクニックシートの上で満面の笑みのわたし。桜が舞い散る中、校門の前で泣き笑いを浮かべたわたし。ほかの誰かは一人としていない。その小さな窓の中には、何人ものわたしがいた。
    硬直していると、がちゃ、と小さな音がきこえた。
    わたしははっとして、部屋から飛び出してソファに飛び乗った。とにかくそこにいたくなかった。のどがからからだ。恐怖と言う言葉ではこの感情を表現できない。あの写真を、あれらをアルジュナたちが眺めているんだと想像すると、ひたすらにグロテスクで。湯たんぽを抱きしめる。壊れそうなくらい強く。海に投げ出されたように、すがるものが欲しかった。
    アルジュナたちを迎えたわたしの顔がどうだったかはわからない。ひどい顔をしていたと思う。
    二人は顔を見合わせ、どこか悟ったような目つきをしていた。

    その晩は風呂にも入らず、夕食もそこそこにベッドにもぐりこんだ。彼らがいる家の中で裸になる瞬間を作るのが怖かった。頭の中は冴え冴えとして、いっこうに眠れない。またチャイをすすめられたが、謹んで断った。
    『なにか、いやなことでもありましたか?』
    アルジュナが首をかしげて聞いてきたのを思い出す。平気そうなふりをして、答えた。
    『なにって、なにが?』
    『いや、さっきからへんな目をしていますから』
    『そう見える?・・・へん、かなぁ』
    ドアノブが、ゆっくりと回る音が聞こえた。扉がきぃぃと、罪人を恐れるような声を上げる。わかっていた、わかっていたんだ。気づいてしまった以上こうなることくらい。
    ぎし、ぃ・・・と、二人分の体重を受け止めて、寝台がきしむ。わたしはまるで生け作りにされる魚の気分だった。まな板に上げられ、これから死ぬよりひどい仕打ちを受けることがわかった、真っ黒な気持ち。

  • 41建て主23/09/22(金) 20:15:38

    「ねえ・・・」
    薄い布団の上からわたしの体を撫でさする影に声をかけた。
    薄く開けたカーテンから月光がさぁっと射し込んで、影の___アルジュナの振り子のように揺れる黒い瞳を照らした。
    「なんで、わたしなの?」
    彼は答えず、布越しにわたしの胸に顔を寄せた。わたしの心音が伝わってるはずだ。
    「子どもの頃から・・・」
    かすれた声が届いた。
    「子どもの頃から、ずっとあなただけを見ていました。
     私は大きな屋敷の中にいたのに、いつも閉じ込められた鳥の心地で。
     だけどあなたが、私を陽の当たる場所に引っ張り出してくれた。
     私を誉めそやす色のない人々の中で、あなたの姿だけが光り輝いて見えたのです」
    「アルジュナ」
    「あなたを穢した非礼を今更詫びても、無くしてしまった信頼は永遠に戻りますまい。
     嫌ならいやだと、はっきり言ってください。二度とあなたには触れません。話しかけることも、触れることもしませんから。だから、せめて今宵だけは___」
    「いやだったらとっくに悲鳴を上げてる。アルジュナ、聞いて」
    崩れ落ちそうな声にかぶせるように一息に告げると、わたしは起き上がって彼の手を取った。
    こんなにも乱暴で、兄以上に言葉の足りないアルジュナの熱い手。その一本多い指に、おのれのそれをそうっと絡める。
    「ほら、わたしの手はこんなにも熱いよ。嫌がっているなら、冷たいはずだよね」
    「リツカ・・・」
    「あなたの気持ちに応えられるかわからない。あなたのこと、だいぶひどい人だと思ってる。でもね、あなたの興奮とわたしの興奮は同じなんだと思う」
    お互いのこうしてあわてる鼓動が、こうして繋いだ手を通して聞こえてきそう。
    恐怖と発情の境界は、滲んだようにあいまいだ。
    アルジュナはなにも言わなかった。その半開きになった唇に、わたしは食らいついた。
    数秒の凪の後、嵐のような口づけが返ってくる。そして、そのまま。

  • 42建て主23/09/22(金) 21:41:31

    ↓!!ぬるいけどR-18注意!!↓

    情事(R-18)絡みつく舌は、次第に激しさを増していくようだった。

    わたしは嵐に揺られる葦の心地で、その愛撫になんとかついていこうとした。けれど二年の年季の差は、ウサギと亀みたいに決して埋まらない。

    背骨から溶けてしまいそうな感覚に襲われて小さく悲鳴を上げると、アルジュナはわたしの背中をさすり、さすり、ゆっくりと体重をかけてくる。

    少し乱暴にベッドへ押し付けられる。布団が邪魔そうにのけられて床に儚い音を立てて落ちた。

    わたしにのしかかった形のアルジュナは、ふぅっとため息をつくと、己の服に手をかけた。

    若く、つやつやした浅黒い肌があらわになる。彼の体は図鑑で見た野生の黒豹みたいに痩せて、引き締まっていた。黒い両眼が、ぎらぎらと光っている。

    「___いいです、よね」

    まるで初めて情交に及ぶような強張った声がちょっと笑えた。湿った指がわたしのパジャマを滑り、下に着ていたタンクトップに触れる。

    「んっ____!」

    電流が走るような疼痛。わたしはぶるりと身を震わせて、

    「い、いよ・・・自分で、できる、から・・・」

    彼に負けないくらい緊張した声を上げて、もう一度体を起こす。何度も同じ仕草をしているのが互いの怯えを表してるようだ。

    震え…
    telegra.ph

    初めて書くので要領がつかめん・・・満足させられっかな

  • 43建て主23/09/22(金) 21:41:52

    今日はここまで!

  • 44二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 00:19:34

    えちちが詩的でときめいた…
    続き気になる…

  • 45二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 06:13:15

    これが初書き?マジ?

  • 46二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 08:47:24

    下品ですけど・・・その・・・フフ・・・

  • 47二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 12:41:17

    いっぱい出た

  • 48二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 20:38:37

    ほしゅほしゅ

  • 49建て主23/09/23(土) 20:49:22


    目が覚めた。
    なんのけなしに横を見て、うつぶせになって眠るアルジュナを見つけてびっくりした。
    体はきれいに清められていた。胸にある虫刺されみたいな吸い付かれた跡が、昨日のことが夢でなかったのだと教えてくれる。
    全身がけだるくて思うように動かないと思ったら、彼の腕が体に絡みついていた。
    不思議と屈辱はわいてこなかった。寝顔があまりにも安らかで幸せそうだったからだろうか。
    少なくとも、思っていたほどわたしは彼に不快感は抱いていなかった。絆された、とはこういうことを言うのだろうか。
    腕をほどいてクローゼットに立つと、嗅いだことのない新芽のような匂いが体から香った。
    これが、おんな、の匂いなんだろうか。生臭くって、湿っている。
    胸が見えづらい服を選んで着替えて、リビングに下りるといつも通りカルナがいた。
    おはよう、といつも通り挨拶をして、いつも通り朝食を摂る。
    しばらくしてからアルジュナも出てきた。目を真っ赤に腫らしていたのだから気づかないわけがなかったろうに、カルナは何も言わなかった。
    奇妙な沈黙が部屋の中にあった気がする。みんな黙ってるけど、気まずくない。長年隠し続けていた秘密をついに分かち合った気分を共有している確信があった。
    アルジュナは一足早く朝食を終えると、電話で誰かに呼び出されて出て行った。
    「カルナ」
    「なんだ?」
    「わたしも草刈りの手伝いがしたい」
    「そういえば、いつか夕食の席で園芸部に入っていたと言っていたな。鎌でも買うか?」
    「うん、お願い」
    アルジュナにも声をかけたが、やんわりと断られた。
    そこでわたしたちだけでホーマックに行くことにした。

  • 50建て主23/09/23(土) 21:28:52

    店の中を歩くカルナは橙の花のようで、とにかく衆目を集めた。すれちがったいい匂いのするお姉さんがわたしをちらりと見てけげんそうな顔をする。燦然と咲くカルナに比べれば、わたしはたんぽぽみたいなものだろう。
    「リツカ」
    その声はあまりにも小さくて、わたしにしか聞こえなかった。『初心者におすすめ!握りやすいグリップ付き!』とポップが下がった鎌を手に取りながら、わたしは「なに?」と聞き返した。
    「少しドライブしないか。お前が以前紹介してくれた海、あそこに行きたい」
    「・・・いいよ」

    ペットボトルを後ろ手にぶら下げて水平線を眺めていると、カルナがカメラを回しているのに気付いた。
    「どしたの?」
    「些細なことでも記録するのをくせにしている」
    「初耳だけど」
    「そうだろうな」
    わたしは一呼吸おいてから切り出した。
    「・・・昨日の夜、なにがあったか知ってる?」
    「知っている」
    「そう、なら話は早いや。・・・海を見ていた時、二人ともなにか話し込んでたけど何の話だったの?」
    「どちらが、先にお前にそういうことをするか話し合っていた」
    ぶはっと飲んでいた水を噴き出した。そういうことって、そういうことだよね。
    思いのほか冷静にその言葉を受け入れている自分に驚きながら、続きをうながした。
    カルナは目を伏せたまま、彼らしからぬ滔々とした口ぶりで続けた。
    「オレは唯一、きょうだいのなかで父親違いの子ということもあってか遠巻きにされるか過保護にされるかのことが多かった。肉親ですら早熟だったオレにどこかぎこちなく接する中で、リツカ、お前だけが」
    「アルジュナも似たようなこと言ってたよね、わたしってそんなに特別だったかな」
    恥ずかしくなって、会話を中断するように大声でかぶせる。そうすると、カルナは目を細めた。

  • 51建て主23/09/23(土) 21:51:00

    「特別ではない。お前がただ普通の花であったからこそ惹かれたのかもしれない」
    「普通って、カルナねえ。そういうこと素直に言うから彼女できないんだよ」
    「お前でないのなら、オレは一生独り身でいい」
    かぁっと顔が熱くなる。・・・なんか、すごいドストレートな告白を聞いた。
    「わたしでないならって言うけど、わたし、もう処女じゃないんだよ?いいのかな」
    「オレたちが決めたのは順番だ、どちらが譲るかは決めてない。生来、あれとは競い合う仲であるゆえにな」
    「それって、男の人向けの言葉で言う・・・穴・・・」
    恥じらいを捨てたらなにも無くなってしまうので、あわてて言葉を飲み込んだ。
    「それだけが言いたかった。帰るぞ、海はお前の体によくない」
    「なんでさ。海に誘ったのカルナでしょー?」
    「そうだな。だがお前は特別製でも繊細だから、潮風がお前の肌に噛みつかないか心配だ」
    「そんなの世界でわたしだけだね。・・・わたしね、今からなら間に合うと思うんだ」
    「間に合うとは、なにが」
    「また昔みたいな、ともだちの関係にさ。庭を走り回って遊んだあの頃にさ。ふつうの増え方しないわたしなら、きっとどんな役もできると思うんだ。だからそうやって、昔みたいな友達の仲に戻れたならうれしいなって___」
    「お前のことを愛したいから」
    今度はわたしの声に、彼の言葉がおおいかぶさった。黒翼を広げた不吉な鴉のように、おおきな雲が彼のいるとこにだけ影を落とした。
    「友達には戻れないよ」
    ざばぁっと波が打った。わたしはにっこりと笑って、
    「なにー、波がうるさくて全然聞こえないのー」
    そう言った。

  • 52二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 02:11:02

    ヒェッ……好き

  • 53二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 07:30:44

    これ少なくとも最初にぐだ子をこんな風にしたのはインド兄弟じゃなくて藤丸夫妻の愛情と
    インド父の純粋な恩返しだったの芸術点が高い

  • 54建て主23/09/24(日) 17:48:32

    その日は夏の終わりと言うこともあって、昼間でも涼しく、太陽は雲に隠れていたので麦わら帽子はいらなかった。
    わたしはカルナと分担して草刈りをしていた。
    さく、さく、さく、さく。
    草を束ねて鎌の刃を滑らせる。面白いくらいよく切れる。やっぱり、この鎌を選んで正解だったみたいだ。
    さく、さく、さく、さく。
    「楽しいか?」
    「そだね、仲間を刈るのは気が引けるけど」
    「手伝おうか?」
    「ううん、もうすぐ終わるとこなんだ」
    ___ひゅう、と、なまぬるい風が一陣吹き込んだ。なにか、不吉な知らせを報せるような。
    「ねえ、カルナ。枝と根とどっちがいい?」
    「枝だろうか、どうして」
    わたしは立ち上がって、二の腕に鎌を走らせた。
    思っていた通り、鎌は私の皮膚に食い込み、肉を裂いて、骨を断って抜けた。
    痛くはなかった。
    ぼとっと腕が地面に落ちた。
    「ほんとうは聞こえてたんだ。海での話」
    わたしは腕を拾い上げると、カルナを見た。
    「どうしたらいいのかずっと悩んでた。カルナもアルジュナも、わたしにとっては大事な男の子だよ」
    カルナの手に、自分の手を握らせる。色素の薄い、五本指の手。
    「でもわたし、両方愛するなんて器用な真似はできないんだよ。先に花を摘んだ相手が、わたしの愛するひとなんだと思う」
    ___ずっと昔に作った星飾りはアルジュナのものだったみたい。彼の胸が落ち着くの。
    「だからわたしも、あなたのことを思って切ってみたんだ。きっとカルナをうんと好きになる子に育つと思う」
    ___ほんのささいな一輪だけど。
    「どうぞ」
    足元が奈落になったような疲労感に襲われて、目を開けていられなくなった。
    がくんと膝から力が抜ける。
    崩れ落ちるわたしを、芝生よりもっとあたたかな何かが包み込んだ。

  • 55建て主23/09/24(日) 18:03:27

    ~アルジュナサイド~
    切り落とされた腕はとりあえず清潔な容器に活けた。
    ただでさえ浮世離れしていたカルナはあれ以来、暇になるたび中庭の芝生に転がるようになった。
    残暑がきついのに、水すら飲まないで。
    「なにしてる」
    「オレはもうだめだ。ここで干からびて死ぬ」
    「枯死は溺死に次いで苦しい死に方だぞ、苦行でもあるまいしそんな真似をしなくてもよかろう」
    「とにかくダメだ。オレはここで死ぬ」
    「時間がかかるぞ」
    中庭に下りた。カルナはうつぶせのまま、もごもごと言ってくる。
    「オレは生まれて初めて誰かに”譲った”ことを後悔している」
    「・・・だが色よい返事ではあったろう?あえなく袖にされるよりはまだましだ」
    「先に摘まれたほうのものになるなど、律儀にもほどがある」
    「確かに。・・・やらんぞ?」
    「知っている、お前は頑固だからな。昔からそうだった」
    カルナが起き上がる。
    「前向きに考えろ。お前はリツカに『分けて』もらえたのだ。さっき言った通り袖にされるよりは救いがあろう?あれを第二のリツカと考え、愛していけばいいではないか」
    「ショックという言葉ではこの感情は表現できん。しばらく落ち込む」
    「落ち込むのは彼女の方だろう。”施術”を終えたあとの自分の姿を見た暁には、自死を選ぶやもしれん」
    「そうならないようにしなくてはな」
    「まったくだ」
    芝生に裸足を投げ出して、高い高い青空を見た。

  • 56建て主23/09/24(日) 18:21:57

    カルナが、ごろんと仰向けになる。
    「なつかしいな。カルナ、お前とリツカと三人、こうして空を飽きもせずに眺めたこともあった」
    「ああ」
    「マンゴーをくすねて食べたこともあったか。あっけなくばれて、仲良く拳骨をもらった」
    「そうだな」
    「あの頃は私たちを本気で女だと思い込んで、姉ぶって髪を梳いてもくれていたな。・・・微笑ましかった」
    「その通りだ」
    「覚えているか?首飾りを贈られたとき、私がそれよりもリツカが欲しいと口に出したことを」
    「子どもながらにストレートな告白だと思っていたが、リツカは何を思ってか星を作ろうとして大騒ぎになったな」
    「カルナ。”俺”はな、ずっと彼女が欲しかった。あの髪も目も、なにもかも俺のものにしたくて頑張ってきた」
    「お前の努力はオレも認めている。努力家だからな、お前は」
    「選択肢を与えた、というのは傲慢だったかもしれない。それでも彼女は俺を受け入れてくれた。なによりも嬉しかったとも」
    「理解できる」
    「二人で分け合うなど、兄たちのようにはいかないものだ。彼女は結局ああなった。・・・行動に移ったことを後悔してはいないがな」
    「オレたちは共犯者だ。一人の娘の人生を狂わせ、己が手中に収めた悪辣な男だ」
    「・・・そうだな」
    「リツカは一ヶ月ほどでふさがるが、お前はしばらくかかりそうだな」
    「放っておけば千手観音のようになるのでどの道剪定は必要だった、とはいえな」
    「挿し木の世話は任せるぞ」
    「ああ。誠心誠意世話をしよう」
    陽射しが白かった。天気予報によると、明日からまた涼しくなるらしい。

  • 57建て主23/09/24(日) 18:59:21

    ~立香サイド~
    退院してまずやったのは、すっかり秋の匂いに染まった空気を腹いっぱい吸い込むことだった。
    医者はすべて知っていたのか、わたしの状態を説明するときも特に驚いたりすることはしなかった。
    ___それから、どうなったのかというと。
    わたしは幼児になった。比喩ではなくほんとうに。
    なんでも、剪定するときに使ったのが雑草を刈っていた鎌だったのがいけなかったみたい。
    わたしの体には雑菌が入って、それを取り除くためあれもこれもとすいた結果、わたしの体は小さくなってしまった。
    調べた結果記憶もいくつか抜け落ちてるようで、以前の知り合いの顔も思い出せなくなった。まあ覚えてないってことは特に重要でもないことだろうが。今までの自分が全部無くなったわけではないことでよしとしよう。
    わたしは転校した。信頼できる小学校に移って、そこで新しく関係を構築することになった。
    それらすべてが自分の寝ている間に起きたので、わたしはひたすら流し込まれる情報を処理するのに必死だった。
    「体はうまく動きますか?」
    「だいぶね。リハビリ時代に比べればちょろい、ちょろい」
    「荷物を持とう」
    「ありがとう、カルナ」
    「リツカ、あなたのご両親から電話が入りました。帰ってくる日にちが延びたと」
    「___あのさ、隠さなくていいよ?うすうす感づいてたんだ、わたし売られたんだって。あの人たち、借金抱えてたからさ」

  • 58建て主23/09/24(日) 19:32:29

    家に帰って、学校に行くためのものをそろえるのは明日にしようと話し合った。
    退院を祝うためにアルジュナは買い出しにでかけて、わたしとカルナ二人きり残った。
    わたしの切った腕が見たいと言うと、見せてくれた。ガラスの器の中に、わたしの長かったころの腕が水に揺られていた。
    眠ってるうちにおもちゃのピアノを買ったと言ってカルナが部屋から去った。
    手持無沙汰に部屋を見回していたわたしの目に、あるものが映った。
    それはわたしの背丈ではずいぶん高い場所に置いてあるもの。愛し合った男と女をつなげるもの。
    脳裏で光が閃いた。わたしの服がサイズぴったりだった理由。お友達と話し込んでた理由。お父さんとお母さんが、わたしをあの二人に預けた理由。
    「なんだ、選択肢なんかなかったんじゃん」
    机の上できらめく三つの指輪を見上げながら、わたしはひとりごちた。

  • 59建て主23/09/24(日) 19:36:18

    「涼しいね。水の中は寒いかな?でももう少しの辛抱だからね。
     ・・・いつかあなたが大きくなったら、連弾でも教えるからね」
    カルナに見守られながらピアノを弾いた。胎教だ。いつか二組の夫婦が暮らすことになる家で、夢を弾いた。



    「今度は何を弾く?」
    「海の曲がいいですね」
    「じゃあドビュッシーの『海』にしよう」
    「アルジュナ、シャンパンを開けても?」
    「仕方ないですね、今日だけですよ」

  • 60建て主23/09/24(日) 19:38:08

    ここまでお読み下すったみなさん、お疲れさまでした~!!
    三人のお話はこれでおしまいです。
    みなさんの反応がよければ、明日にでもうっすらオベ→ぐだの蛇足余談を書こうと思ってます!!

  • 61建て主23/09/24(日) 19:38:36

    >>60

    あとカル×ぐだの濡れ場を期待してたみんな、ごめんネ!!

  • 62二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 21:10:41

    (完走してくれて)ありがとう・・・それしか言葉が見つからない・・・

  • 63二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 22:39:02

    完結お疲れ様でした
    個人的に、アルジュナとカルナの仄暗い執心というか恋慕が少しホラーじみた展開(世界観?)も相まってめちゃくちゃ良いと思いました
    「なんだ、選択肢なんかなかったんじゃん」
    からの最後のレスの文章の怖さが、今日の涼しい晩夏の夜に響く気がする……涼しさよりも少し寒気を感じるような……

  • 64二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 06:47:55

    Hシーンも実用的だったしストーリーも大変好みだった・・・余談待ってます

  • 65二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 16:21:17

    ほしゅ

  • 66二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 18:19:23

    なんだかこう、甘酸っぱいとかよりも「怖い」が先に来たって感じの話でしたね
    面白かったです!

  • 67建て主23/09/25(月) 22:07:34

    ~以下余談の短い話~

    オベロンがその少女を見かけたのは秋も終わりかけの街中だった。
    着ぶくれた人混みの隙間、見慣れた橙を見た。彼女はキュロットパンツにタイツを履いて、いつかお気に入りなのだと笑っていた、おおきなシュシュで髪の毛を留めていた。
    「りっ」
    振り向いた、そして声をかけようとした。
    だが、
    「アルジュナー、明日はなにする?」
    「そうですね、月末ですしまたピアノを聞かせてください」
    「わかったぁ。カルナは?」
    「ああ。オレも久しぶりに聞きたい」
    「飽きないね、二人ともー」
    だが、見てしまった。その仲睦まじい姿を。およそ親子と呼ぶにはあまりにも異なる色をした三人の背中を。
    だから、やめた。
    告げることのできなかった思いは、結局無いのと同じなので、ぐっと飲み込んだ。

  • 68二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 07:49:13

    アルキャス!こいつの背中蹴飛ばしてやれ!
    いやでもここで首突っ込んでもぐだ子の体質問題解決する訳じゃないんだよな

  • 69建て主23/09/26(火) 18:46:45

    なにより、目に入ってしまったのだ。
    少女が時折立ち止まって、ベビーカーを覗き込んでいたのを。
    「・・・そういうことね。一足遅かったってわけか」
    「オベロン、どうしたの?」
    AAが近づいてくる。オベロンは彼女に向かって、力なく首を振った。
    幸せならそれでいいが、血眼になって探した自分がまるで道化のようだ、と、彼は白い息を吐いた。

    おしまい

  • 70二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 19:21:16

    オベロンとアルキャスの事も忘れちゃったの……?

  • 71二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 01:35:00

    完結お疲れ様です!
    青春ではなく恐怖のような3人の関係、世界観がとても面白かったです。
    最後は切り落とした腕が成長したのかな…

  • 72二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 07:24:46

    世にも奇妙な物語少女漫画出張版みたいな感じ

  • 73二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 16:58:58

    一応ぐだ子の親にも愛情はあったと思いたい
    娘の見合いを強行したのもこの体質を借金持ちの自分らじゃ幸せにできないと思ったから
    金もあって事情を知ってる家に嫁がせた方いいみたいな発想もあったと信じたい

  • 74二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 19:34:21

    欠損した量ごとに記憶を失うって宝石の国みたいやな…
    二人の執着がえぐい

  • 75二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 22:25:58

    >>74

    あながち外れてはいない

    おそらくこの話の元ネタは、

    「宝石の国」の著者

    市川春子氏の短編漫画「星の恋人」だと思う。

    オマージュが巧みでした。

    良い作品をありがとうございます。

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