（SS注意）私のトレーナーさんは友達が多い

1二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 00:15:21

　私のトレーナーさんは友達が多い。

　まずはなんといっても、佐岳メイさん。
　私達も参加しているプロジェクトＬ’Ａｒｃのトップ。
　凱旋門賞制覇を目指して、様々な計画を立案し、実行してきた人だ。
　その行動力には驚かされて、憧れすら感じてしまうほど。
　噂によるとプロジェクトに参加している人達の中で、私のトレーナーさんへ特に目をかけてくれているらしい。
　彼女は理事長とも親しいそうで、トレーナーさんも含めて三人で食事に行ったこともあるとか。
　もしかして、私のトレーナーさんって将来は学園の上層部とかになっちゃうのかな。

　私のトレーナーさんは友達が多い。

　トレセン学園に居る以上外すことが出来ないのが、駿川たづなさん。
　言わずと知れた、トレセン学園理事長秘書。
　まさにキャリアウーマンという格好良い女性で、私も将来はああなりたいと思う。
　彼女の世話になってないトレーナーはまずいないというが、トレーナーさんも同じ。
　ただ、トレーナーさんの場合は、時より二人でラーメンを食べに行く関係だったりする。
　とても美味しかった、と語ってくれたものだ、私も今度連れて行ってもらおうっと。
　ただ、その、朝帰りは、ちょっとどうかなって。当時すごい噂になったし。

　私のトレーナーさんは友達が多い。

　そんなトレーナーさんの同期の中で、一番仲が良いのが桐生院葵さん。
　ハッピーミークちゃんの担当トレーナーでもあり、共々仲良くさせてもらっている。
　どうも有名なトレーナー一家の娘さんだそうで、その知識にはトレーナーさんも舌を巻くほど。
　まっ、私のトレーナーさんだって負けてないけどね。
　でも運動神経は完敗である。油断すると私すら迫ってくるんだからあの人ちょっとおかしい。
　後、二人は私やミークちゃんのためにカラオケで研究をしたりしているらしい。
　……本当に私達のためなんだろうか。

2二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 00:15:47

　私のトレーナーさんは友達が多い。

　ちょっと厳しくて怖そうな理事長代理、樫本理子さんも友人の一人。
　徹底管理をモットーとし、規律を重んじるトレーナー。
　私の好きなようにやらせてくれるトレーナーさんとはまるっきり正反対のタイプである。
　ただその腕前は随一で、担当しているリトルココンさんやビターグラッセさんはＧ１クラスの実力者。
　それに、知らない人達からは誤解されがちだけど、ウマ娘を想う気持ちは本物。
　そうじゃなかったら、あのちょっとクセのある担当二人があんなに慕うわけないもんね。
　トレーナーさん曰く、結構可愛いところもあるとか。すっごい気になる。

　私のトレーナーさんは友達が多い。

　これは友達というべきかは微妙だけど、三女神の皆さんも気にかけてくれている。
　ＡＩウマ娘、とは言うものの話しているとコンピューター上の存在だとはとても思えない。
　まるで長い年月で蓄積されたかのような経験で、悩む私達にずばりとアドバイスをくれる。
　ＶＲウマレーターはプロジェクトＬ’Ａｒｃでも使っているので、接する機会は結構多い。
　私にとっても、トレーナーさんにとってもとても頼りになる存在だ。
　ちなみに私は良くバイアリータークさんにアドバイスを求める、なんか持久力がつきそうな気がして。

　私のトレーナーさんは友達が多い。

　ライトハローさんもその一人で、彼女は…………────。
　……あれ、この人って何者なんだろう？

3二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 00:16:07

　なんかさも当然のようにトレーニングに居合わせていたけど、誰なのこの人？
　トレセン学園の関係者……？　いやでもトレーニング以外では見かけたことないな。
　ウマ娘なので学園のＯＧ、なのかな？　いやでもＯＧって関係者とは言い難い気が……？
　…………。
　えっと、トレーナーさんに確認したら、学園ＯＧで今はイベントのプロデューサーをやってる人らしい。
　一応ライブイベントのプロデュースもしているらしいから、関係者、なのかな。
　トレーナーさんとは個人的な知り合いで、アイドルのライブに一緒に見に行く仲だとか何とか。
　……今考えると私、この人と接する機会あんまりなかった気がする。
　後、すごく大きい、どことは言わないけれどすごい大きい。
　通りすがりの高等部の魔性の美貌を持つ先輩が『１．３マックイーンね……』とクラスメートの名前に数字を付け加えて、つまらなそうに去っていったことを良く覚えている。
　……あの歳でイベント責任者ということは凄いのだろう、多分、きっと。

4二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 00:16:35

　────私達は、そんな彼女達と共に凱旋門賞を目指し走り始めた。

　なんかすごい勢いで踏み外している気がするけど、きっと気のせいだと思う。
　一年目はメイクデビューのみで、プロジェクトの活性化に専念。
　おかげで私達に期待してくれるファンの数は、すごい勢いで増えていった。
　年末の代表交流戦を終えて、プロジェクトの成果をファンの人達に届けた、その後。

「トレーナーさん、あけましておめでとうございます」
「うん、あけましておめでとう、今年もよろしくね」

　年明け最初のミーティング、トレーナーさんは優しく微笑んでくれる。
　…………元旦、遠回しに初詣に誘ったのだけど、トレーナーさんは気づいてくれなかった。
　仕方ない、そういう人だと知ってて直接誘わなかった私が悪い。
　ふと、気になって私は問いかけた。

「そういえば、トレーナーさんはお正月はどう過ごしたんですか？」
「ん？　桐生院さんと少し遅めの初詣に行って、次の日に樫本さんと初詣に行って、松の内が過ぎた頃にたづなさんの初詣に行ってその帰りに酔っぱらったライトハローさんに絡まれて、学園に戻った後佐岳さんと一緒に書初めやって、三女神に呼び出されてＶＲでもう一回初詣に行ったくらいで大したことはなかったよ」
「……そっすか」

　私は学んだ。
　人を誘う時には先行のコツを活かしつつ、シンパシーを得ながら、尻尾上がりに距離を詰めて、直線巧者のように真っ直ぐ駆け抜けて、ラストスパートは快速に突き抜けて、ラッキーセブンを求めるべきなのだと。

5二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 00:17:10

　トレーナーさんと理事長代理が牧場見学に行ったことが発覚してココンさんに詰められたり、トレーナーさんがライトハローさんと遊園地に行ったことが発覚したり、メイさんと二人でフランスＶＲデートを楽しんでいたことがバレたり、私がダービーに勝ったりして、ついにフランス遠征の時期となった。
　メイさんはプロジェクトのメンバーとして、率先して行動を起こしている。
　三女神もＡＩという特徴を活かして、トレーニングの映像を見てアドバイスを送ってくれるらしい。
　たづなさんも共にフランスに来て……あれ、凱旋門賞当日スタンドで見てるとか言ってた気が。
　それにサポートとして桐生院さんや理事長代理も来ている。
　……うん？　プロジェクトのメンバーにミークちゃんやココンさん達の名前はないんだけど。
　…………まさか、三カ月間担当ウマ娘置いてフランスに滞在するってことはないよね。
　………………うん、きっと、ちょっとの間だけ滞在して、日本に戻るのだろう。
　そして、当然の権利のようにライトハローさんもいた。

　いやちょっと待って？

　流石に海外のライブのプロデュースするわけないし、ライトハローさんは完全に部外者ですよね？
　自腹？　自腹でわざわざフランスまで付いて来てるんですか？　私達の応援のために？　仕事放置で？
　まあ、いるから迷惑ってことはないし、知り合いが多いに越したことはないのだけれど。
　実際彼女達がいるとトレーニングは捗り、負担も軽減されている気がするのも事実だ。

　────そういえば日本にいた頃から不思議に思っていたことがある。

　この人達、何故かトレーニング中に鉢合わせしたことが一度もない。
　理事長や記者の人と一緒になることはあるのだが、それ以外とは絶対に一緒にならないのである。
　実はこの人達、全員連絡先交換して、バッティングしないようにしてるのかな？
　後、トレーナーさんが精神力の適正を上げるのは罠って言ってたけど、どういうことなんだろ？
　……まあいいか！　まずは目の前のレース、凱旋門賞だ！
　
　そして私は、なんやかんやでニエル賞を勝ち、更には凱旋門賞に勝利したのであった。

6二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 00:17:49

　光陰矢の如し。
　凱旋門賞制覇の夢を果たした後、次なる夢、凱旋門賞連覇を目指し、私は再度フランスの地に降り立った。

　この一年、色々とあった。

　帰国後にミークちゃんやココンさん達との関係がしばらく気まずいものになったり。
　メイさんとトレーナーさんが二人っきりでバーベキュー場を貸し切っていたのがバレたり。
　理事長代理とトレーナーさんが温泉旅行に行ったことが発覚してココンさんの目が更に厳しくなったり。
　ライトハローさんがトレーナーさんを実家に連れ込んだり。
　三女神とトレーナーさんがＶＲ温泉デートをしていたり。
　桐生院さんとトレーナーさんが遊園地デートに行ったり……これはライトハローさんもしてたな。
　たづなさんがトレーナーさんとラーメン食べに行ったり。いつもラーメン食べてるなあの人。

　まあ兎にも角にも色々とあった。
　……あっれー？　おかしいなあ、私のイベントは全然ないのにトレーナーさんばっかりイベントが発生している。
　トゥインクルシリーズはトレーナーとウマ娘の二人三脚の日々だったはずなのに、どういうことだろう。
　私だって、バレンタインやクリスマスで絆を深めたり、くじ引き回したりしたかったのに。
　…………いやいやいや。
　ウマ娘の本分はレース、ましてや挑むは頂点の一つ、凱旋門賞の連覇。
　今はそんなことに気持ちを逸らしている余裕なんてないのだ。
　それにきっと、この遠征が終わればひと区切り。
　トレーナーさんとゆっくり過ごすことの出来る時間が来るに違いない。

　────この時の私は、そんな悠長なことを考えていたのだった。

7二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 00:18:08

　────これからの活躍も、しっかり見守らせていただきますね。
　────……以前よりも、ちょっとだけお傍で♪

　私は、何を見せられているのだろうか。
　なんやかんやで凱旋門賞を連覇したある日。
　たづなさんからレース場に呼び出された私は、イチャついてるところを見せつけられた。
　その後は合流したのだが、多分私の顔には『無』の表情が貼り付いていたことだろう。
　……えっ、マジでなんで私呼び出されたの？　ちょっと意味がわからないんですけど？

　────またアンタのトレーナーと樫本トレーナーが逢引していたんだけど。
　────ハッハッハッハ、まさに大人の語らいといったところだったね！

　ココンさんとグラッセさんから、別の日に受けた報告。
　突然いなくなったと思ったら、あの二人が何やら大事な話をしていた、とのこと。
　それはそれは仲睦まじい様子だった、とココンさんは不満げに、だけど満更ではないように語った。
　ちょっと前までは私のトレーナーさんなんて認めない、くらいの雰囲気だったはずなのに。
　ちゃんと最後まで粘って欲しい。

　────…………トレーナー、貴方のトレーナーさんと温泉に行ったって。
　────…………生涯の関係、なんだって。

　普段無表情なミークちゃんには珍しく、嬉しそうに微笑んでそう言った。
　温泉旅行（半年ぶり三回目）に行ったというのは聞いていたが、桐生院さんと一緒だったとは。
　ミークちゃんは桐生院さんが大好きだから、彼女が幸せになることが何より嬉しいのだろう。
　まあ、目の前の友人は気が気じゃないんですけどね！　ミークちゃん！

8二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 00:18:30

　────約３年。あるトレーナーさんを見てきました。
　────私が倒れそうなときには、この手を取ってくれた。
　────これからは手を取ってもらうんじゃない。肩を並べて一緒に走るんだって。

　以上、全国に向けてテレビ放映されたライトハローさんのインタビューの一幕である。
　……テレビ見たけどあの人あんな忙しいのに、わざわざトレーニング来て、フランス来たの？
　というかなんだこの匂わせインタビューは。
　あと、学園関係者には誰のこと言ってるかモロバレなんですけど。

　────新たな“想い”が芽生えたのだからな。
　────そしてトレーナーさん、あなたの力が必要なの。
　────俺達の気持ちを感じてもらえたなら……嬉しい。

　数日前、ウマレーターから検知したトレーナーさんと三女神の会話の抜粋。
　ちょっとばかり断片的過ぎるようだけど、こんな会話が行われたのは事実みたい。
　三女神は私達を見守ってくれる存在だと、思っていたのに。
　
　────聞いた！？　海外研修の話！
　────聞いた聞いた！　メイさんと二人きりでパリデートしたトレーナーがいるんでしょ！？
　────ねえねえ、あなたはそのトレーナーのこと知らない！？

　ええ、知ってますとも、私のトレーナーさんだもの。
　信じて研修に送り出したトレーナーがメイさんとのツーショット写真を送って来たからよく知っている。
　あの時ばかりは、メイさんお前もか、と思ったものである。
　
　ああ、そっか、そうだったんだ。
　私はこのフルコースを脳にしっかりと受け止めて、ようやく気付いた。
　私は、皆からの教えを、何も活かせていなかったのだと。

9二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 00:18:52

「へえ、ずいぶんと緑豊かな場所なんだね」
「うん、凱旋門連覇祝いにクラスメートのライトハさんが使わせてくれたんだ」
「……えっ誰それ」
「ああ、ごめんなさい、メジロマックイーンさん」

　実は、半分だけ嘘。
　私の方から無理を言って、使わせてもらっただけ。
　ただ涼しい顔で、即了承してくれたのは、流石メジロ家だと言わざるを得ない。
　
「スマホの電波も届かないくらい自然豊かな、メジロの保養所なんだって」
「はあ、流石はメジロ家だね」
「うん、流石はメジロ家だよね」

　街からは少しだけ離れていて、移動手段も車くらいしか存在しない。
　そして、建物自体は大きいものの、最低限の管理をする人員しか基本手配されていない。
　なるほど────流石はメジロ家である。
　きっと、マックイーンさんは私の目を見て、何かを察してくれたのだろう。

「最近はずっと賑やかだったから、たまには二人で静かに過ごすのも良いね」
「うん、私ね、トレーナーさんに伝えたいことがあるんだ」
「伝えたいこと？」
「この三年間で、私が皆から学んだこと……着いたら、じっくり、ゆっくり話すから」
「……そっか、楽しみにしている」

　トレーナーさんは、そう言って微笑んだ。
　私も、彼に微笑みを返した。