- 1二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:46:43
「カフェ、誕生日おめでとう……少し遅れちゃったけど」
「ありがとうございます……アナタも…………忙しい身ですからね」
そう言って俺達はカツン、とグラスを合わせる。
トゥインクルシリーズをカフェと共に駆け抜けて、数年が経過していた。
彼女が卒業してからも定期的会っているが、その成長ぶりには驚かされるばかり。
漆黒の長髪は当時そのままの艶を残しつつ、体つきは女性らしく成長し、身長も少し伸びた。
少し幼さがあった顔立ちもすっかり大人びて、目が覚めるような美人になっている。
「……どうかしましたか? 私のことを……じっと見つめて…………」
「……あっ、いや、学生だった君もついに二十歳かって思ってさ」
「ふふっ…………そうですね……あの頃が…………つい昨日のことのよう」
昔を懐かしみながら微笑むカフェの顔に、思わずドキリとしてしまう。
思えば、元担当とはいえこんな美人とサシで飲む機会なんて、一度もなかった。
ウマ娘と接することには慣れているが、大人の女性と接するのには未だ慣れない。
落ち着こう────今日、彼女は頼れる先達として、俺を選んでくれたのだから。
「……というか、本当に俺と二人で良かったのか?」
「もちろん……タキオンさんやポッケさん、ユキノさん達には……別に祝ってもらってますから」
「いや、初めての『お酒』を飲む機会に関してだけど」
「…………それは……初めてはアナタとが…………良かったんです」
そう言って、カフェは恥ずかしそうにはにかむ。
……美人の一挙一動は大変心臓に悪い。
今日は、少し遅れたカフェの誕生日祝いであり、初めてのお酒デビューの日でもあった。
『あの……お酒を飲みに…………連れて行ってくれませんか?』 - 2二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:46:59
誕生日当日に祝いの電話を入れた時、彼女から頼まれたこと。
無論、友人のアグネスタキオンやジャングルポケットはまだ誕生日を迎えていない、という理由はあるだろう。
けれど、過去の担当トレーナーでしかない自分を選んでくれたことが、とても嬉しかった。
だから────カフェにとっての初めてのお酒が、良い思い出になるようにしたい。
そのためには、まずは俺も楽しまなければいけないな。
すっと、肩の力が抜けて、自身の表情筋が柔らかくなるのを感じる。
「じゃあ、そろそろ始めようか、乾杯、はさっきしたけど」
「……では…………いただきます…………でしょうか?」
カフェはグラスを持ったまま、首を傾げる。
その様子がどこかおかしくて、俺達は二人揃って笑い声をあげてしまった。
そんな感じで飲み会はスタートしたのだけれど。
「んっ……これも飲みやすいですね…………コーヒーを使ったカクテル?」
「あっ、ああ、このお店は種類が結構あって、それで選んだんだ」
「ふふっ……それなら…………堪能しないといけませんね……?」
「うん、それは良いんだけど、もうちょっとペースを落とした方が良いんじゃないかな」
「まだまだ……大丈夫です…………それにしても……少し熱いような」
少し頬を上気させたカフェは襟ぐりを少し引っ張って、空気を取り込んだ。
その胸元からは、豊かとはいえないものの確かな谷間が見えて、慌てて目を逸らす。
……カフェの飲むペースが、明らかに早い。
度数低めのカクテルとはいえ、俺の倍くらいのペースで飲んでいる。
美味しそうに飲んでいて、実際平気だったから止めなかったが、大丈夫だろうか。 - 3二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:47:15
「あっ……ごめんなさい…………やっぱり……少し酔いが回ったかもしれませんね……」
「おっ、おう、無理はしないでね、残しそうなら俺が処理するからさ」
「……間接キス狙いですか?」
「違うよ!?」
「ふふっ…………冗談ですよ……♪」
カフェは俺に身体を押し付けるようにしなだれかかり、耳元で囁きかけた。
低めの、それでもどこか甘い響きを含んだ声が、俺の鼓膜を優しく揺らす。
ぞくぞくと背筋が凍り付くものの、密着した彼女の体温が、それを瞬時に溶かしてしまう。
契約していた当時にはなかった、柔らかくて暖かい、生々しい感触。
さらには、アルコールと珈琲、汗の匂いの混じったカフェの香りが、理性を刺激する。
いやいやいや、個室とはいえちょっと距離が近すぎる。
最初は対面で飲んでいたはずなのに、何でいつの間にか隣にいるのだろう。
信頼してくれているのは良いが、お互いにもう成人、節度を持って接するべきである。
大変心苦しいが、俺は心を鬼にして、カフェへ毅然とした対応をするのだった。
「あの、その、カフェ、さん、ちょっと、ちょーっと、くっつき過ぎじゃないかな……?」
「…………いや、でしょうか?」
「…………嫌じゃないです」
「……ふふっ」
上目遣いで悲しそうに見つめて来るカフェに、俺の鋼の意思はドロドロに融解してしまった。
……こういうところだけは当時から全く変わっていない。
彼女はぴこぴこと耳を動かして俺の顔をくすぐりながら、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。 - 4二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:47:29
「ふぅ…………美味しい…………これ……好きです」
「へぇ、そうなんだ、俺も後で頼んでみようかな」
先ほど話題に出していたコーヒーを使ったカクテルを口にして、息をついた。
どうやら相当お気に召したようで、尻尾が楽しそうに揺れ動いている。
俺もあることは知っていたものの、飲んだことはなかったので少し興味湧いて来た。
「…………アナタも……味が気になりますか?」
「うん、君がそこまで絶賛しているからね」
「そうですか……それなら…………口も少し寂しくなってきましたし……」
「口が寂しい? ああ、おつまみ追加注文しよう、か……!?」
カフェの顔が音もなく眼前に近づいて来て、言葉が詰まる。
お互いの浅い呼吸すら顔にかかってしまいそうな距離で、彼女は妖しく嗤っていた。
心臓が止まりそうになりながらも、どうしたの、と声を出そうとした、その瞬間。
俺の口は塞がれる────カフェの唇によって。
「むっ……!?」
「……ちゅっ……んんっ…………れろっ…………んむっ……んっ……」
少しだけ長いカフェの舌が俺の口内に入り込んで、蹂躙を開始した。
その舌先だけ別の生物なのかと思うほどに巧みに、滑らかに彼女の舌が俺の舌を絡めとっていく。
口の中にコーヒーのほろ苦さ、ウイスキーの香ばしさ、蕩けるような甘さと焼けるような熱さが広がった。
最後の二つが、カクテル由来なのか、カフェ由来なのかは、のぼせた脳では判断できない。
顔を離そうにもがっちりと彼女の両手で顔を抑えられて、身動きは取れなかった。
それから、文字通り、筆舌に尽くしがたい行為は続けられて。
「ぷは…………はぁ…………はぁ…………お味は…………どうでしたか?」 - 5二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:47:44
何分、何十分かもわからない時間が経過した後、俺は解放された。
離れていくカフェの舌先から、ねっとりと絡み合った唾液の橋がかかり、てらてらと光る。
彼女はぺろりと美味しそうに唇を舐めとって、質問を投げかけて来た。
しかし、元ステイヤーの圧倒的なスタミナに押しつぶされた俺は、呼吸を整えるのに必死で何も喋れない。
「もしかして…………わからなかった…………でしょうか?」
俺はその質問に、こくりと頷く。
実際、味とかそんなことを考えている余裕などはなかった。
そんな俺の態度を見て、カフェはわざとらしく驚いた表情を見せる。
「あら…………それは残念……………………じゃあ」
カフェは、残っていたカクテルを一気にあおる。
カツンとテーブルにグラスを叩きつけるように置いて、じっとこちらを見つめて来た。
「もう一度…………味わってもらわないと」
言葉を紡ぐ口から見える真っ赤な舌は、艶めかしく揺れ動く。
少し乱れた漆黒の髪の間から除く金色の瞳は、狂気の混ざった熱を湛えていた。 - 6二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:48:03
「最近、彼…………元トレーナーさんが余所余所しくて……何故でしょうか?」
「私に聞かれてもねえ……そういえば、初めてのお酒はどうだったんだい?」
「……最後の方は…………潰れてしまって記憶が…………ないのですが」
「ふむ、カフェは意外とお酒は弱いのかな」
「そうかもしれませんね…………ただ…………」
「ただ?」
「…………とても美味しくて…………とても幸せだったのは…………覚えています」
「ほう! それは好奇心が刺激されるな! 私の時にはカフェに付き合ってもらうよ!」
「……はあ…………アナタの相手は骨が折れそうなので……ポッケさんにも来てもらいましょう」
「はっはっはっは! せっかくだからスズカ君も呼んで盛大にやろうじゃないか!」
「…………本当に仕方のない人ですね」
「……おや、君に言われたくないという気持ちが急に湧いて来たぞ?」 - 7二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:48:53
- 8二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:49:46
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- 9二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:50:01
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- 10二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:50:22
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- 11二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:51:22
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- 12二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:53:02
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- 13二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:53:53
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- 14二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:54:24
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- 15二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:55:06
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- 16二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:55:57
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- 17二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:56:00
- 18二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:56:25
SSスレってホントにこんなの湧いてくるんだな…って感心してる
- 19二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:56:47
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- 20二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:57:03
心折れてないいで管理しなさい
- 21二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:57:09
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- 22二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:57:45
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- 23二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 22:58:26
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- 24二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:02:57
SSに親でも殺されたのかな?って感じのスレ
- 25123/09/20(水) 23:03:52
※ ちなみにスレ主はレスをまだ一度も削除してません
- 26二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:04:43
自演で荒らして全部自分で削除して荒廃アピールしてるってこと?たまげたなぁ
- 27二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:05:20
俺は初めて見たが単なる幸運だったらしい
- 28二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:05:40
- 29二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:06:22
うわぁ…こんな荒らしって本当に湧くんだ…
とりあえず、トレカフェめっちゃ好きだし本当に出力してくれてありがとう!
普段はクールで割とドライ気味なカフェが、お酒を飲むとどんどんと甘えん坊かつちょっと悪戯っ子な本性が見えて来るの本当に好き。クリスマスの時から距離感バグ勢ではあったけど、酒入って更に距離感がバグるの本当に良い。
そしてステイヤーはキスが長い概念、いい…(語彙力喪失)
そうだよね、ステイヤーは肺活量もあるから息長いよね、キスもめちゃくちゃ長くなりそうだよね。ついでに言えばSS…じゃなくてお友達の史実を考えたらカフェもそこら辺の欲強そうだし、お酒入って「口寂しい」と感じちゃうのは解釈一致。
………ちなみにタキオンとかはこの酒で獣になるカフェと飲んで大丈夫?餌食にならない?
改めて、いいSSでした。もっと見たいです。トレーナーとギクシャクする所とか見たいなー、書いてくれないかなー - 30二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:07:13
- 31123/09/20(水) 23:07:37
少し待ってから消すつもりだったんですけど勝手に綺麗に消えましたね……
- 32二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:07:40
今日はなんか荒らし多い感じだからねぇ
何か嫌なことでもあったんかねぇ
お酒飲んで寝ようぜ? - 33二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:09:09
ぶっちゃけ荒らしが凄い勢いでスレ伸ばしてくれたおかげでこのSSスレに目が止まったからそこ「だけ」は感謝してるのが俺なんだよね
- 34二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:11:22
攻め攻めなカフェ……いいですねぇ
- 35二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:15:10
すごいな、上の荒らし見た感じ、30-50秒に一回のペースで投下してるからマジで一人でやってるぞ。
まだ平日の折り返しなのに、暇そうで羨ましいなぁ - 36二次元好きの匿名さん23/09/20(水) 23:22:05
だいぶ荒らされてるけどそのおかげで上がってきたのか
寝る前にいいもん見させてもらいました - 37二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 00:01:07
自らの強みを最大限に活かすカフェは心に良い
とても素敵だと思いました - 38二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 00:08:35
- 39二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 00:54:03
タキポッケが犠牲になるのも見てみたい、いいね…。
- 40二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 08:03:32
酔って潰れたカフェとロングキスされて酸欠で動けないトレーナーか…
インモラルでえっちだ…でも卒業後で成人してるんだから合法だぞ早く抱け!
このスレ唯一の不満点は荒らしが湧いた事とIP規制で感想も報告も出来なかった事だけだ… - 41二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 08:12:44
- 42二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 08:15:25
so good……
- 43二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 11:31:19
毅然としてない対応例:ハグを断ったら子犬のような目でプルプルとトレーナーの方を見始めたので負けて自らハグしに行っちゃうタイキトレ
- 44二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 15:51:32
目が覚めたら、私は簀巻きにされていた。
どうやらかなり頑丈に縛られているらしく、ウマ娘の力でも解くことが出来ない。
視界の中には、気だるそうに散らかった部屋の片づけをするタキオンさんの姿があった。
突然な理不尽で不条理な展開、どこか学生時代を思い出してしまう。
ため息一つ、私は目つきを少しだけ鋭く尖らせて、彼女に声をかけた。
「タキオンさん…………これはどういうことですか…………?」
「おっ、おはようカフェ、まあ、待ちたまえよ、すぐに外すから」
私の声を聞いた瞬間、タキオンさんはびくりと震え、引き吊った表情を見せる。
その後、驚くほど素直に私の拘束を外して、自由の身にしてくれた。
昔みたいに変な実験をされるものだと思っていた私は、少し拍子抜けしてしまう。
身体を軽く伸ばしながら、部屋の中を見回す。
転がったお酒の缶や瓶、ケーキが入っていたと思われる空き箱、おつまみの残るお皿。
……思い出した、昨日はタキオンさんの誕生日。
彼女の誕生日兼飲酒解禁祝いとして、ポッケさん達と彼女の家に集まってパーティをしたのだ。
「……他の皆さんは?」
「色々とあって先に帰ってもらったよ……そう、色々とね」
タキオンさんは明後日の方向を見ながら、そう語る。
これは何かを隠しているな、とすぐに確信出来るほどあからさまな態度だった。
問いかけようと思った瞬間、彼女はポンと手を叩く。
「カフェ、少しお茶にしないか? 久しぶりに自分で片付けをしてるから疲れてしまってね」
「…………アナタはあの人に頼り過ぎるのを……少し控えた方が良いと思います」
「アッハッハ、耳が痛いねえ、ところでカフェも紅茶で良いかい?」
「出来れば……珈琲で…………お願いします」
「そうか、期待しないで待っててくれたまえよ」 - 45123/09/21(木) 15:51:53
私は部屋の片付けをしながら、タキオンさんの準備を待つ。
テーブルの上が綺麗になった頃、彼女はちょっとしたお菓子と共にカップを持って現れた。
コトンと置かれたカップの中には赤い色の液体。
……まあ、予想はしていましたけどね、用意するのも大変でしょうし。
私の視線に気づいたのか、彼女は少し芝居がかった調子で言葉を紡ぐ。
「いやいや、最初は私もコーヒーを準備しようと思ったんだ」
「…………そうですか」
「だが、突然現れた商人達が『茶税法反対』と叫びながらポットに茶葉を次々に投げ入れてしまって」
「なるほど…………これは貴重な歴史の一杯……ということですね」
タキオンさんの与太話を適当に受け流しながら、私は紅茶に口をつける。
珈琲を好むのは事実だけれど、紅茶が嫌いというわけではない。
それに彼女が淹れてくれる紅茶はとても美味しく、たまには飲みたいと思っていたところだ。
……飲んでから、彼女が用意したものをすんなり口にしてしまった自分に気づく。
それくらい、あの日々が過去になったんだなと、思い知らされる。
彼女は私の思考を見抜いたかのようにニヤリと笑みを零した。
「ささっ、お菓子も食べたまえよ、今日は何も入れてないから安心して良い」
「……まったく……アナタという人は」
軽くため息をつきながら、私はお皿の上のクッキーを一枚かじる。
さくっとした心地良い食感と、ふわっと香るバターの風味と優しい甘さ。
……うん、紅茶に良く合っていて、美味しい。
朝ごはんを食べていないせいか、ついつい手が進んでしまう。
あまり健康には良くないかもしれないけれど、たまにはこういう朝も良いと思った。 - 46123/09/21(木) 15:52:17
正直ここで和やかに終わっておきたいところだけれど、現実を見ないといけない。
お菓子を食べて、紅茶を飲み、その片付けを手伝った後、私は改めてタキオンさんと向き合う。
「…………それで……昨日は……何があったのでしょうか?」
「…………聞きたいかい? 出来れば私としても忘れたいんだが」
私が簀巻きにされていた理由について。
もしもタキオンさんが何かを画策していたのならば、素直に解く理由はないだろう。
私が声をかけた時に見せた、あの何かを恐れるような反応。
そして、ぽっかりと空いてしまっている、昨日の夜の記憶。
信じたくはないが────私が酔って暴れたために、拘束したのではないだろうか。
タキオンさんは心底嫌そうな顔で、私に念押しをする。
「本当に知りたいのかい? 正直知らないままにしておくのをオススメするよ」
「……もしも誰かを傷つけたらな…………償いを……しないといけませんから」
「まあ、傷が残ったのは事実かもしれないが……わかったよ、ポッケ君が撮った映像がある」
「えっ」
「……なんだいその反応は」
「いえ…………映像が残っているとは……思ってなくて」
「彼女が面白がって撮ったんだよ、まあすぐに笑ってなんていられなくなったが」
先ほどまでの決心が徐々に鈍っていくのを感じる。
やはりやめておこうかな、という逃げ腰の考えがどうしても顔を出してしまう。
……ここは先に何をしたのかを聞いて、それから映像を見ることにしよう。
「タキオンさん……先に教えてください…………私は一体何をしたんですか?」
「酔った勢いで、その場にいる全員に対してキスして回った」
聞かなければ良かった、と心から思った。
先に聞いた方が、動画を見るハードルが上がるなんて思うわけないじゃないですか……! - 47123/09/21(木) 15:52:42
『カッ、カフェ? そんな風にされると、身動きが取れないんだが……?』
画面に映る、長い黒髪の女性はタキオンさんに対してマウントポジションをとっていた。
そして、何も語らずに上気した頬のまま、ゆっくりとタキオンさんに顔を近づける。
『ちょっ、近い! 近いカフェ! 何か怒っているのかい────んむっ!?』
こんな状況でも饒舌なタキオンさんの口を、黒髪の女性は自らの口で黙らせる。
周りからは色めくような騒めきと、ポッケさんの五月蠅いくらいの笑い声。
特に後者は、きっと大口を開けて、涙が出そうなほどに大笑いしてるのだろうとわかるくらい。
しかしその楽し気な喧騒も、やがて恐怖の静寂に変わる。
『んあ……かふぇ……いきが……むぐ!? あっ……れろっ……んんっ! んーっ!』
黒髪の女性はタキオンさんにがっつり舌を絡ませながら、濃厚なキスを続ける。
最初は抵抗していたタキオンさんも、やがて体力が尽きたのかぐったりしつつ、時折ビクビク跳ねるだけ。
数分後、満足したのか黒髪の女性はタキオンさんから顔を離す。
満足そうに口元の、混ざり合った唾液を袖で拭いとる黒髪の女性。
目尻に涙を溜めて、ぐちゃぐちゃになった顔で、ひゅーひゅーと虫の息の吐くタキオンさん。
そしてぐるりと、黒髪の女性の金色の瞳が、こちらを向いた。
『ひっ……!?』
『噓でしょ、急に呼び出されたと思ったひどい惨状に巻き込まれてる……!?』
黒髪の女性が画面にゆっくりと近づいて────映像はそこで途切れた。 - 48123/09/21(木) 15:53:06
「…………だれですかこのおんな」
「気持ちはわかるが現実を見たまえ、誰よりも良く知っているだろう?」
「ああ……“おともだち”ですね…………なんだかひさしぶりにあえたきがします……」
「お友だちも良い迷惑だろうねえ、残念ながらマンハッタンカフェその人だよ」
タキオンさんは顔を赤くしながら、呆れたようにそう言った。
……彼女の言う通り、現実を見なくてはいけない。
彼女だってあまり見られたくないだろうに、わざわざ見せてくれたのだから。
「まあ、私は構わない。君の酔った様子が見たいと言って誘ったのだから自業自得さ」
「……それは」
「他の面子には後で謝罪しておくと良い、なあに、皆、怒るよりは心配してたよ」
私と違って君には日頃の信頼があるからね、とタキオンさんは笑ってみせた。
その笑顔を見て、少しだけ肩の荷が軽くなる。
勿論、反省はしないといけないし、誠心誠意謝る必要もあるけれど。
取り返しのつかないことではないと、なんとなく思うことが出来たから。
やがて、彼女はとても言いづらそうに、話題を変え始めた。
「あー……ところでなんだが」
「……どうしましたか?」
「カフェは初めてのお酒を、元トレーナーと一緒に飲んだ、で間違いないかい?」
「はい」
「……そうか、それで最後の方の記憶はない、と?」
「そうですね……まるで昨日みたいにすっぽりと────」
昨日、みたいに?
脳裏に最悪の予測が過ぎる。
思えばあれ以来、余所余所しい彼の顔は、今のタキオンさんのようにほんのり赤くなかっただろうか。
それに、やたら、くちびるを、きにしていたような。 - 49123/09/21(木) 15:53:25
「本当に……申し訳ありませんでした…………!」
「かっ、顔を上げてよカフェ、俺も君のお酒を止められなかったから……!」
タキオンさんの誕生日から数日後。
とある喫茶店で待ち合わせをした彼に、私はテーブルに突っ伏すように深々と頭を下げていた。
ポッケさん達への謝罪の後、私は彼に電話で問いかけた。
あの日何があったのか、何をしてしまったのか、を。
最初は私のためを思ってはぐらかしていたが、昔からこの人は嘘が苦手。
しばらく押し問答を繰り広げた後、ついに彼の方が折れて、全てを語ってくれた。
予想通り、いや予想以上の、筆舌に尽くしがたい、獣のような蛮行。
もはや、タキオンさん達にしたのが児戯に等しいと思えるほど。
口づけやキスなどという言葉では生温い、貪るという言葉が相応しい行為だった。
……頭が上げられないのは、申し訳なさだけではない。
顔が炎のように熱くなってしまって、彼に顔を見せられないのである。
────優しい声色が、撫でるように耳と揺らした。
「最初はどれだけ飲めるかわからないんだから、失敗は君だけのせいじゃないよ」
「……ですが、私は、アナタを」
「むしろ最初が俺で良かったよ、他の人を巻き込まないで済んだんだし」
「………………そうですね」
「……もしかして手遅れだった? だったら尚更俺のせいだよ、ごめん」
かたんと、テーブルが揺れる音。
それはきっと、彼が私と同じように深く頭を下げているのだと、何故かわかった。
しばらく、沈黙が場を支配する。
私はそれに耐えきれなくなって、ちらりと視線を上げた。
すると全く同じタイミングで、彼もこちらを見ていて、ぱっちりと目が合う。
それがなんだかとてもおかしくて、二人同時に吹き出して、笑い合ってしまった。 - 50123/09/21(木) 15:53:40
「…………私は……お酒はやめておいた方が良いですね」
「外で飲むのは控えた方が良いかもしれないね、でも完全に禁止するのは勿体ないよ」
注文した珈琲を飲みながら呟いた言葉に、彼は反論を告げた。
私は目を丸くしてしまう、当然、同意されるものだと思っていたから。
現役時代そのままの、優しくて、心地良くて、ずっと見ていたくなる笑顔を彼は浮かべる。
「お酒、美味しかったんだよね? 楽しかったんだよね?」
「それは…………そうですけど」
「だったら適量を認識すれば大丈夫だよ、カフェは節度を持って楽しめる子でしょ?」
そう言う彼の目には、一点の疑いも持たない、純粋な信頼があった。
────ぞわぞわと、心の奥底から騒めくような感覚がする。
ふと、忘れていたはずの記憶が、蘇る。
否、忘れていたわけではない、身体にはずっと刻まれていたのだ。
少しだけ乾いた唇の感触、熱くて甘い彼の舌の味、籠った体温から発せられた彼の匂い。
とろりと蕩けた涙目の顔、荒く吐きかけられる激しい呼吸の音。
五感全てが刺激されて、狂ってしまいそうなほどの多幸感に包まれた、あの瞬間。
「…………あの……お願いがあります」
「うん、何でも言ってよ」
彼の口から、赤い口内が見える。
その綺麗な赤さが、今の私には瑞々しい、とても魅力的な林檎の見えていた。
それは楽園を追い出される知恵の実か、それとも永遠の眠りに誘う毒リンゴか。
イケないことだとわかっていても────どうしても欲しくなってしまう。
「…………また……一緒にお酒飲んでもらっても……良いですか?」
高鳴る胸の鼓動を隠しながら、私は彼にそう聞いた。 - 51123/09/21(木) 15:54:03
お わ り
ちょっとした追加話です - 52二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 16:02:55
いいSSが上がってると思ったら追加のSSも上がってた 最高
- 53二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 18:17:15
少量で抑えたはいいものの度数をミスって再びトレーナーの口を貪る√、待ってます
- 54二次元好きの匿名さん23/09/21(木) 18:36:25
- 55123/09/22(金) 00:50:47
色々とありましたが感想ありがとうございました
あれは身を守るためだからセーフセーフ
ステイヤーのキスが長いのは人類普遍の概念ですね
続きっぽいものを書きましたので良ければどうぞ
抱き着くような姿勢を取ると耳が相手の顎辺りに来るのかなあというところから想像しました
酒が入ってさらに攻め攻めになるの良いですよね……
こちらこそ読んでくださりありがとうございました
大体そんな感じの続きを書きましたので宜しければどうぞ
せつどをもったたいおうをこころがけないといけないからしかたないね
多分何があってもカフェには強く言えないタイプだと思います
thnak you…
- 56123/09/22(金) 00:52:13