【SS】久しぶりに走るウマ娘お婆ちゃん

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 23:30:53
  • 2二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 23:31:32

    「少し、走りたい気分になりました」

    帰路につく自分の隣で、彼女はそう言った。
    その言葉を聞くのは、何年ぶりだろう。何十年だったかもしれない。
    ウマ娘、ヒトを超えた身体能力と走りへの本能を持つ種族。但しそれも生物故に若い頃が最盛期であり、老化による衰えは免れない。年を取り、腕も足も細くなった彼女は、すっかり皺だらけになったその体に相応しい力しか有していない。
    要するに老後のウマ娘は、人並みになる。

    「それはまた唐突だね。滾るレースを見てきたからかな?」
    「そうですね、またとない大勝負でした、あの子たちの姿を見て年甲斐もなく興奮してしまって。少し先の公園でいいですか?」

    彼女もトレセン学園のウマ娘だった。新人だった自分が担当になり、三年間をともに歩んだ。
    もう、ずっと前のことだ。そしてあの時の出会いから今まで、ずっと変わらず側にいる。

    「さぁ、そこで立ってないで、あなたも一緒に構えてください」
    「……ん? んん、私も走るのかい?」
    「運動不足のおばあちゃんがみっともなく走るんです。一人だけじゃ、恥ずかしいじゃないですか」
    「……そうだね、私もすっかり運動してなかったな。最後に走ったのは……孫の運動会の時だったか?」
    「あの時のように格好付けて転けないでくださいね……転んだのは私も、ですけれど」
    「ふふ、早く忘れたいものだ」
    「お互い、物忘れになるのは、まだもう少し先みたい」

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 23:36:31

    構え、走る。公園の外周を一周。彼女が現役に走ったコースとは比べるべくもない。
    そしてそこにヒトの自分が並走している。あの時なら、考えもしなかったことだ。それだけ身体的な差は縮まっている。彼女が、自分に近づくことによって。

    何度見ても飽きない。むしろ見るたびに好きになる。
    彼女の走る姿を見ていると、胸の内が熱くなる。

    (嗚呼、やっぱり君の──とても綺麗だ)

    脳裏に過る。
    彼女の走りに見惚れて始まった出会い。
    そして、今のこの情景もあの時と同じ。その輝きはくすんでいない。どれだけ自分の記憶が混濁しようとも。忘れはしない。

    ──彼女の走りが、好きだということを。



    息を切らして一周、まけたくないなと、最後の意地を見せた、お互いに。

    「初めて近くで見続けられた。君の走る姿を」
    「若い頃は、いつもあなたを追い抜いてばかりでしたからね」

    これだけ長く付き添っていても、お互いの全ては分からない。今こうして数十年ぶりの発見があったように。
    それを知るたびに彼女をもっと愛せるような気がする。今でも深められる。

    ウマ娘は誰かに夢を、煌めきを見せてくれる。いつだってそれは変わらない。

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 23:38:16

    現役の時から走るの楽しくてしょうがなかった感じしてめちゃくちゃいい

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 23:39:40

    ええや……

オススメ

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