(SS注意)ヒシミラクルとしぼうの神

  • 1二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:47:25
  • 2二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:47:54

     あるトレセン学園に、ヒシミラクルという普通のウマ娘がいたそうな。
     彼女は年頃の女の子らしく、甘いものや美味しいものに興味津々。
     今日も食堂の限定スイーツをじぃーっと涎をたらしながら見つめていた。
     けれど彼女も一流のアスリート、むやみな暴食なんてもっての外。
     大きなため息をついてから、スイーツに背を向ける。

    「はあ……好きなものを好きなだけ食べられないなんてぇ……」

     とぼとぼと歩く中、ヒシミラクルは自分自身を哀れんでいた。
     ウマ娘によってはいくら食べても太らない体質の子もいる。
     しかし、ヒシミラクルはその逆で、少しばかり脂肪の付きやすい体質であった。
     ────ああ! わたしはなんて可哀相なウマ娘なんでしょう!
     彼女は心の中でキラキラと輝く、宝石のような涙を流す。

    「きっとわたしには死神が……いや、脂肪の神がついてるんだろうなぁ」
    『おや、あなたにもこの油風が見えるのですね?』
    「ひゃあっ!?」

     ヒシミラクルの背後から流れる、そよ風のような声。
     慌てて振り向いてみれば、少し朧気な雰囲気を持ったウマ娘の姿。
     後ろで二つ結びにした茶色の長い髪、正面にはふんわりと大きな流星。
     直接話をしたことはなかったが、ヒシミラクルは相手の姿に覚えがあった。

    「あなたは確か、中等部のヤマニンゼ」
    『私は脂肪の神です』
    「えぇ……」

     ドヤ顔で胸を張るヤマニンゼファー、ではなく脂肪の神。
     そんな彼女に対して、色々と言いたいことはあったがヒシミラクルは沈黙を貫くことにした。

  • 3二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:48:11

    『ここで話せたのも何かの時つ風、貴女に金風を届けましょう』
    「えっとー、何かくれるってことかな?」
    『饗の風を楽しむ際、お腹いっぱい食べるかどうか迷い風となる時がありませんか?』
    「あーあるある、ポジティブ思考な時は迷わず食べちゃうんだけどねー」
    『でも、同じ穀風を取り込んでいるのに、太り気味になったりならなかったりしませんか?』
    「そーそー! 前大丈夫だったからーって思って食べたら、大変なことになっちゃって」
    『その異風の発端が、これです』

     そう言うと、脂肪の神は手のひらから大きな脂の塊のようなものを出す。
     ヒシミラクルの目にはかなりあやふやな存在に見えていて、現実の物とは思えなかった。
     だが同時に、それが確かな力を持っているのだということも、何故か理解出来た。

    『1kgの脂肪です』
    「まさか、それがあの太り気味の原い」
    『1kgの脂肪です』
    「いやあ、だからそれのせいで同じ量を食べても結果にブレが」
    『1kgの脂肪です』
    「えっと……」
    『……最近は厄事法が煽風でして、具体的なことを言うのは黒南風なんです』
    「はあ……神様の世界も世知辛いんですねー」

     ヒシミラクルは呆れたような、感心したような表情を浮かべる。

    『今の貴女は、大風のように食べる際、この脂肪が視えるようになっています』
    「えっ、地味にかなりイヤなんですけど」
    『これが貴女の背後に見えた場合、凪いでください、絶対に太り気味になります』
    「この脂肪が背後に見える時は、食べちゃダメ、と」
    『ただこれが前に見えた時は、涼風のように呪文を唱えてください』
    「呪文?」
    『ハチミーヤワウスメシボリレモン、です』

  • 4二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:48:30

    「あっ、なぜか得意な気がするー……ハチミーヤワウスメシボリレモン?」

     そうヒシミラクルが呟くと、脂肪の神の手にあった1kgの脂肪が忽然と消えた。
     
    『この呪文を唱えることで、1kgの脂肪を風に撒くことが出来るんです』
    「すごー! つまり、絶対に太り気味にならない選択が……!」
    『1kgの脂肪です』
    「……それはもういいですー」

     ────それからというもの、ヒシミラクルの生活は潤いに満ちたものとなった。

     今までは兎にも角にも我慢の日々だったが、その苦痛からは解放された。
     どんなにお腹いっぱい食べても太らない食事を、好き放題選べるようになった。
     友人やトレーナーからも、何故太らないのか疑問に持たれるほど。
     しかし、欲望とは尽きぬもの。
     ある日、ヒシミラクルはトレーナーとお好み焼きを食べに行った。
     ハードトレーニングを逃げず、サボらず、やり遂げたゴホウビである。
     席に案内された瞬間────にんまりとした笑顔の店員から、突然拍手を送られた。

    「おめでとうございます! お二人で丁度、十万人目のお客様なんですよ!」
    「ええっ!? そうなんですかー!?」
    「はいっ! ですので今回は記念として、どれだけ食べてもお会計は頂きませんッ!」
    「ほあ!?」
    「あはは、流石はミラクルだね」
    「もう、トレーナーさんもミラクルなんですから! えへへ、どれを食べようかな……っ!?」

     ヒシミラクルが鼻歌混じりでメニューをめくると、ぞわりと背筋が走る。
     恐る恐る後ろを見てみれば、そこは1kgの脂肪がゆらゆらと佇んでいた。

  • 5二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:48:50

     ヒシミラクルは、悩んだ。

     食べれば確実に太り気味になる、けれどこんな二度とない絶好の機会。
     むしろお腹いっぱい食べなければ、このお店にも失礼というべき事態。
     それに目の前で楽しそうに見ているトレーナーの顔を曇らせたくはない。
     けれど、太り気味になれば更に彼を曇らせてしまうのではないか。
     しばらくの間メニューで顔を隠しながら思案し────やがて妙案が浮かんだ。

    「トッ、トレーナーさん! 一緒にメニュー選びましょー!」
    「えっ、いやメニュー二つあるけど、うわっ」
    「よいしょー!」

     ヒシミラクルは普段のズブさからは想像できない俊敏さで、対面のトレーナーの隣に飛び込む。
     そして、その速さに追いつくことが出来ない1kgの脂肪を、視界の正面に捉えて彼女は言った。

    「ハチミーヤワウスメシボリレモン!」
    「えっ、そんなメニューあったっけ?」

     困惑するトレーナーを他所に、1kgの脂肪は呪文を聞いて、パッと消滅する。
     ────うん、これで思う存分、食べられる!
     ヒシミラクルは満足そうに頷いて、席はそのままでトレーナーにくっつきながらメニュー選びを再開する。
     そんな彼女たちに、店員が近づいた。

    「お待たせしました、はちみー柔らかめ薄め絞りレモントッピングです」
    『あるの!?』

  • 6二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:49:14

     ヒシミラクルは心行くまでお好み焼きを楽しみ、トレーナーと別れ、お腹をさすりながら帰路についた。
     帰ったらすぐ横になろう、そんなことを考えながら、ゆっくりと寮へと足を進めている。
     その刹那。

    『良くも仇の風を吹かせてくれましたね……』
    「ひえっ!?」

     突然、少しだけ低い響きの声が聞こえて来る。
     先ほどまで誰もいなかったはずの、ヒシミラクルの正面に、突如として脂肪の神が現れた。
     その目はジトっとした感じで、とりあえず怒っていることがわかる。

    「ええとー、わたし、何かしちゃったかな?」
    『お好み焼き屋さんで、1kgの脂肪に逆風を叩きつけましたよね?』
    「うっ、それは」
    『あのせいで凱風はたま風となってしまい、私は一週間お出かけ禁止になってしまいました』
    「あー、それはごめんなさい……怒ってる?」
    『あからしまビュンビュン丸です』
    「それ怒ってるの?」
    『とにかく、共に追風となってください。貴女に見せないといけないものがあります』

     そう言うと脂肪の神はヒシミラクルの手を引いて、ぴゅうっと風のように駆け出す。。
     自分が最初に騙す形となってしまった手前、ヒシミラクルも素直に脂肪の神へと付いて行くこととした。

  • 7二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:49:37

     ヒシミラクルが連れてこられたのは、トレセン学園地下の、薄暗い洞窟であった。
     薄気味の悪い通路を抜けて辿りついた先は────無数の1kgの脂肪が並んでいる空間。
     彼女達が見ていた1kgの脂肪と違う点は、それぞれに一本の火のついた蝋燭が刺さっていることだった。
     ヒシミラクルはとても危険なものを見てる気がして、ぶるりと震える。

    「こっ、これは……?」
    『トレセン学園に所属するウマ娘の『太り気味』の灯火です』
    「なにそれぇ」
    『この火がまことの風に吹き消されてしまうと、そのウマ娘は』
    「……太り気味になる、ってこと?」
    『1kgの脂肪です』

     若干イラっとしながらヒシミラクルは辺りを見回す。
     自分とてトレセン学園のウマ娘の端くれ、ならばこの場に自分の蝋燭もあるはず。
     そう考えるヒシミラクルを嘲笑うかのように、脂肪の神は一つの1kgの脂肪を取り出した。
     刺さっている蝋燭は、今にも燃え尽きそうなほどに、短い。

    「まさか……!」
    『はい、ヒシミラクルさんのです、先の一件で燃え進んでしまい、ふふっ、もう風前の灯火ですね』
    「もしかしてそれが言いたかっただけ……じゃない! どっ、どどどどーすんのぉ!?」
    『……ほんの至軽風のような救いですが、新しい蝋燭に火を継げば、風炎となれるかもしれません』
    「かっ、貸してくださーいっ! 太り気味になったらまた鬼トレーナーからプールに……!」

  • 8二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:50:00

     ヒシミラクルは引っ手繰るように脂肪の神から蝋燭を受け取る。
     今にも消えてしまいそうな、1kgの脂肪に刺さった蝋燭を持って火を移そうとするが、上手くいかない。
     焦りのせいか手が震えて、失敗すればするほど焦りが出る、負のスパイラル。
     だが、なんとか火をつけられそうになった、その瞬間である。
     ピコンというスマートフォンの通知音。
     脂肪の神が、いつの間にか奪っていたヒシミラクルのスマホの画面を見せて来る。
     そこには彼女のトレーナーのメッセージがあった。
     ────急でごめん、今日までのスイーツバイキングの無料券が出て来たんだけど、すぐ来れる?

    「ああ、ふとる……♪」

     ヒシミラクルは1kgの脂肪と蝋燭を放り出して、駆けだしていった。 

     パワーが5上がった。
     スキルPtが10上がった。
     『太り気味』になってしまった。

  • 9二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:50:32

    お わ り
    テーマでなんとか書いてみましたがまあうん

  • 10二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 21:58:53

    何だかんだ運動して消費しようと考えない辺り実にミラ子
    それにこのゼf…脂肪の神の可愛さ、もしや風SSの方ですか

  • 11二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 22:13:33

    死神の落語からこれが出力されるの草
    世知辛い脂肪の神がかわいいぞ
    ミラ子が食べても太らないから安易にスイーツバイキングに誘っちゃうミラトレ好き

  • 12二次元好きの匿名さん23/09/22(金) 22:17:15


    >>11

    太ってほしくないだけで食べて幸せになってくれるならその方がいいってのがいいよね…

  • 13123/09/22(金) 23:16:16

    感想ありがとうございます

    >>10

    ゼファーのSSは何個か書かせていただいてます

    いやまあ脂肪の神とは何の関係もありませんが

    >>11

    死神までいくと扱いづらいなあ(電車の広告を見る)脂肪の神でええか!

    というノリでしたね

    面白いお題である反面なかなか難しいお題で酢

    >>12

    本当なら好きに食べさせてあげたいでしょうからねえ

  • 14二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 07:55:10

    1kgの脂肪のゴリ押しでダメだった

  • 15123/09/23(土) 12:26:35

    >>14

    ちゃんと事実のみを説明しないといけないから……

  • 16二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 23:25:13

    >>3

    ミラ子と脂肪の神がひたすら可愛いな

    あと>厄事法 地味にツボった

  • 17123/09/24(日) 07:29:54

    >>16

    厄事法は投下中に思いついて変えたところなのでそう言ってもらえると嬉しいです

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