ウィンター・シチー

  • 11ー21/12/24(金) 12:26:40

    「……さっむ」

    ㅤ12月下旬。もうすっかり真冬と言っていい気温となり、街行く人々が来る年末年始に向けていつも以上に活気づく季節。
    ㅤそんな寒空の下を尾花栗毛のウマ娘、ゴールドシチーは寒さに悪態をつきながら歩いていた。

    (……この寒さなら別にアイツの言う通り家で待ってても良かったけど…どうせ仕事長引くだろうし、ぼーっと待ってるだけってのもアレだよね)

    ㅤ──今日は、クリスマス・イブ。

    ㅤシチーも何の気なしに担当トレーナーの予定を事前に聞いてみたりしたのだが、当の本人は『イブも当日も仕事』の一点張り。
    ㅤとはいえ、順調にいけばイブの昼頃には全て片付くとのことなので、これ幸いとシチーはイブの夕暮れ頃から約束を取り付けていた。

    ㅤ以前から受け取っていた合鍵を使って家の中で待っていてほしい、とも言われたが、せっかくのオフにただ待っているだけというのも退屈なので、彼の居る学園のトレーナー室に向かうことにしたのだ。

  • 21ー21/12/24(金) 12:28:33

    「……トレーナー?居ないの?」

    ㅤ休暇中ではあるが、今日も変わらず生徒達の声で賑わうトレセン学園。その喧騒には目もくれず、いつもの見慣れたトレーナー室に真っ直ぐ歩いてきたが、扉をノックしても中からの返事がない。

    (あれ、開いてる……けど誰も居ない。返事無かったしそりゃそうか)

    ㅤ試しに手をかけてみたところ、鍵がかかっていなかったらしく何の抵抗も無く扉が開いた。
    ㅤ学園には来ているが今はトレーナー室を留守にしているようだ。

    「……ま、外で待ったりあちこち行って入れ違うよりはマシでしょ」

    ㅤそう呟き、誰も居ないトレーナー室に入りトレーナーを待つことにする。

    「誰も居ないから当たり前だけど…やっぱちょっと肌寒いな」

    ㅤしんと静まりかえったトレーナー室を見渡し独り言ちる。
    ㅤ普段ならトレーナーが座って事務作業を怒っているデスクも、来客用のソファーも、ミーティング用の机も、シチーの定位置である回転椅子ももぬけの殻であり、一抹の寂しさを覚える。

    (……トレーナーのデスクなら、日当たるし多少マシかな)

    ㅤ窓から射し込む陽光を見やり、トレーナーの使っているデスクへ腰掛ける。
    ㅤいつもは彼が座っているので当然だが、シチー自身はこのデスクには座ったことがない。

    (……椅子、かった。アイツこんなとこで仕事してたの?)

    ㅤ座った途端に違和感を覚える程度には硬い椅子の感触に思わず驚く。
    ㅤあれだけのハードワークなのにこんな椅子に座っていて辛くないのだろうか。シチーの回転椅子も決して上等とは言えないが、ある程度柔らかく腰を痛めない造りになっているのに。

  • 31ー21/12/24(金) 12:29:29

    (……これがアイツのいつも見てる景色か)

    ㅤふとデスクから目を離し、自身のいる位置から改めてトレーナー室全体を見渡してみる。
    ㅤ部屋の奥に位置している為当然だが、ある一点を除いて隅々までしっかりよく見える。

    (仮眠スペースだけ見えないようになってる。……ふふっ。変なとこちゃんと気使ってるんだ)

    ㅤモデル業との掛け持ちをしている都合上、どうしても他のウマ娘達よりもコンディションの管理が大変なシチーの為に、トレーナーが急拵えでセットアップしたシチー用の仮眠スペース。
    ㅤ実際に使ったのは数回程だが、そのスペースだけはトレーナーのデスクからちょうど死角になっていた。

    (……てか、やば。陽当たりすぎでしょ。……ちょっと眠くなってきた)

    ㅤその後ものんびりとトレーナー室を見渡していたシチーだったが、背中にずっと陽光を浴びているせいか、徐々に睡魔に襲われ始めてきた。

    (さっきまで震えてたし、そりゃ急にぽかぽかしたら眠いか……)

    ㅤそう思うが早いか、シチーは数刻後にはデスクに突っ伏せ、すやすやと寝息を立て始めるのだった。

  • 41ー21/12/24(金) 12:30:25

    「…………あれ、なんだろこの匂い」

    ㅤトレーナー室にて居眠りをしていたシチーの鼻腔を満たす何かの匂い。
    ㅤそれに反応しゆっくりと身体を起こすと、

    「あ、ごめんシチー。起こしちゃったか?」

    「トレー…ナー…?」

    ㅤバツが悪そうにこちらを振り返り微笑む男。シチーの担当トレーナーが流し台の前に立っていた。
    ㅤ謎の匂いの正体は彼の手元にあった。

    「……ココアか。道理で甘い匂いすると思った」

    「気持ち良さそうに寝てたから、起こしちゃ悪いかなと思ってそっとしておいてたんだけど…流石にウマ娘の嗅覚は鋭いな」

    ㅤ反省反省、とこちらに向け笑みを飛ばすトレーナー。
    ㅤ……なんだか若干犬みたいな言い方をされているのは気に食わないが、今はある程度機嫌がいいので不問とする。

    「いいよ、別に。勝手に寝てたアタシが悪いし。……てか、これ」

    「ああ、俺のジャケットだよ」

    ㅤ話の途中で、自身の肩に何かが掛けられていることに気付き言及するシチー。それを見てトレーナーはまた微笑む。

    「起こすのは忍びないとはいえ、流石にこんなとこでそのまま寝かせて、風邪なんか引かせるわけにはいかないからさ。邪魔だったら退けといていいよ」

    「……アンタのジャケット」

    ㅤ状況を理解し、少し気恥ずかしくなり目を逸らすシチー。トレーナーはその様子に苦笑した。

  • 51ー21/12/24(金) 12:32:29

    「それよりシチー…仕事終わるまで家で待ってていいって言っといたけど…結局学園まで来てくれたんだ」

    「……ん。アンタん家、何もないし。待ってるより学園来た方が有意義かなって。……仕事の邪魔だったら帰るけど」

    「邪魔なんてことないよ。まぁ正直俺も1人で黙々と仕事してるのもアレだったし、シチーが来てくれて良かったかな。せっかくのイブだし少しでも長くシチーと過ごせるのは嬉しいからさ。ちょっとやる気出てきたよ」

    「……っ!」
    ㅤこの男はまた、いけしゃあしゃあと小っ恥ずかしいことを言う。つい反射的に皮肉を飛ばしたのが居た堪れなくなり、顔を背けてしまう。

    「ま、まぁモチベ上がったんならアタシも来た甲斐があったかな。………アタシも1人で待ってるとか嫌だし」

    「シチー……」

    ㅤいつも以上に優しげなトレーナーの声が脳に響いてくる。自分が今どんな顔しているのか分からず、恥ずかしくて彼の方を向けない。彼の顔を直視できない。

    「まぁ、言ってる間に全部片付くからさ。夜からはフリーだし、明日は一日丸々空けれるからのんびり待っててくれ。……あと、ココア飲むか?」

    「………ん、もらう」

    ㅤそう言って淹れたばかりのココアが入ったシチー用の赤いマグカップを手渡してくるトレーナー。それを受け取りまたおずおずと顔を背ける。

    「っていうかそうだ。仮眠スペースの毛布あるし、寒いんだったらそっち被っとくか?」

    「いや、いい」

    ㅤ思い出したように投げかけてくるトレーナーの提案を突っぱね、何の気なしにトレーナーのジャケットに袖を通すシチー。
    ㅤそのまま手元のココアに口を付け、

    「…………今はこっちの方が、あったかいから」
    ㅤ──いつも以上に甘い気がするココアの風味を感じながら、そう笑いかけた。

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:34:27

    甘いベー!!!!このココア甘いべーーーっl!!!!!!!!

  • 71ー21/12/24(金) 12:35:30

    せっかくのクリスマスイブってことでいつもより長めの幻覚でした

    俺はフル残業なんで家帰る頃にはもうすぐ日付け変わっちゃうけどね……
    脳内のシチーに元気もらいながら頑張ります…

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:38:50

    はぁ……好き……
    好きな人のジャケット羽織ってんだからそりゃあったけぇでしょ……

  • 9二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:41:52

    毛布とは温もりが段違いだわな…
    イブを名目にイチャつきやがってこの野郎

  • 10二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:42:55

    口から砂糖出そう
    好き

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:47:24

    イブでこれなら当日はどんだけイチャつくんだお前ら…

  • 12二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:48:17

    良かった…タイトル的にソルジャーにならなくて…

  • 13二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:50:15

    なんでこんな良いものをあにまんなんかに投稿してしまうのですか
    どうして……
    でもありがとう…

  • 14二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:53:07

    可愛すぎてキレそうだべ
    昼休憩になんてもの見せンですか

  • 15二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:54:49

    こんなイチャついてるのにまだ仕事中という恐怖
    終わったあとはどうなっちまうんだ…

  • 16二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 12:56:46

    怠慢ッ!
    仕事の途中でイチャつくなど何事か!
    ……尊いので良し!!!

  • 17二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 13:06:00

    甘っまい!甘っっっまい!!! 

  • 18二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 15:04:53

    俺もシチーさんとココア飲みてぇ…

  • 19二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 15:07:32

    このまま半日ぐらいジャケット返してくれなさそう

  • 20二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 16:36:15

    ジャケット返してもらう頃にはシチーの体温が移ってて暖かいんだろ!!!!俺は詳しいんだ!!!!

  • 21二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 17:17:32

    はーもう…
    イブだからって存分にイチャつきおってからに… 末永く爆発しろ!

  • 22二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 19:35:23

    >>16

    お言葉ですが理事長

    トレーナーの仕事なんて3割ぐらいウマ娘とイチャつくことが含まれてると思います

  • 23二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 19:55:19

    続きは…続きはどこで読めますか…

  • 24二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 20:00:55

    このままトレーナーのジャケット羽織ったままデート行ってほしい

  • 25二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 20:08:56

    >>19

    トレーナーの仕事が終わって2人で家帰った後も全然脱ごうとしないんだよね…

  • 26二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 20:14:07

    乙女なシチーさんはとっても健康にいい
    イブの日に良い物を見せてくれてありがとう…

  • 27二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 20:41:27

    学園来てるし制服の上にトレーナーのぶっかぶかなジャケット羽織ってるってことでいいのかな
    めっちゃ可愛いじゃん……

  • 28二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 20:41:56

    オアアアアアアアアッ!!!!!
    天国への扉が見える…

  • 29二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 22:53:00

    2人でココア飲みながらまったりしててほしい…
    でも早く仕事終わらせて存分にイチャイチャしててほしい気持ちもある…
    心が二つある……

  • 301ー21/12/25(土) 07:37:05

    >>13

    こういう長いやつは普段はTwitterで出してるんだけどイブだからたまにはこっちに出すのもいいかなって…

    文字数制限のせいで投稿する時の手直しが地味に面倒だけどこういう時ぐらいは良いかもね


    >>16

    俺個人としてはせっかくのイブなんだしもう有給使わせてあげてほしいですね!

    これはこれで尊いからいいけど!!


    >>19

    2人ともジャケットのことド忘れしてそのまま持って帰っちゃってほしい

    (……これ、どうしよ)って固まってるシチーが見たい


    >>23

    途中まで書いてたんだけどどうしても甘すぎるってことでボツになっちまった

    という訳でイブの続きは無いんじゃ…

    想像力で補ってくれ…


    >>24 >>27

    (あれゴールドシチーじゃね?)(わートレセンの制服着てるー!かわいいー!)(上に着てるジャケットぶかぶかじゃーん)みたいに噂されててほしい…

オススメ

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