- 1二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 23:54:36
- 2二次元好きの匿名さん23/09/23(土) 23:56:42
お爺ちゃん孝行してやれ
- 3二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 00:13:23
おじいちゃんが危篤なんです!!!!だれか!!!!
- 4二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 00:27:01
うっかり怪異に遭遇しちゃう生徒って誰がいるかな?
百鬼夜行勢はなんとなくそれっぽそうだけど - 5二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 00:29:03
自分でかけ
- 6二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 01:45:06
- 7二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 01:45:16
- 8二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 02:19:18
スレ! アクセラレーション!
- 9二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 02:25:48
アコ
- 10二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 02:37:48
ミサキ
- 11二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 03:00:32
「……そんなの、居る訳ないし」
「……別に、深夜の街を歩くなんて、今更。先生に心配されるようなことじゃ無いから」
「先生こそ、あんまり根を詰め過ぎない方が良いんじゃないの?」
そう言って、先生の言を退ける。
”あ、ちょっと、ミサキ──”
引き留めるような先生の言葉を遠ざける様にシャーレを出た。
夜風が、染みる様に涼しかった。 - 12二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 03:19:38
みんなの所への帰還ルートを脳裏に浮かべる。
今のタイミング、時期、移動場所。効率的に戻るのであれば。
「こっちの道が最短なんだけど……」
先ほどの先生の忠告が少しだけ思考の隅を掠めた。けれど、別に。そんなの気にするような性格はしていない。
そもそも”幽霊”に怯えるのであれば聖徒会の行使なんて出来てないんだから。
ほんの気まぐれでシャーレに来ただけで、本来なら就寝している時間。正直、結構眠気が回っても来ていた。
本当に肉体の枷なんて不便。こんなの無くなってしまえば。
──ああ。だから私は少し見てみたかったのかもしれない。そんな思いがあったのは、今思い返せば否定できない。
そんな思いもあったのか、思考を占めたのは「先生の冗談」、という考え。
そう自分に言い聞かせて、進む進路を定めた。
───この道を通るんじゃなかった。
素直にそう思ったのは、全てが終わってからの話だった。 - 13二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 03:24:30
- 14二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 03:26:11
乙
なんだか唐突にハイクオリティなSSが出てきてびっくり
このまま続けてどうぞ - 15二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 14:19:13
路地裏、先生の言う「〇〇通りの路地裏」に一歩足を踏み入れた。
そのままあたりを見回しながら歩を進める。どこを見回しても、別に幽霊どころか猫の影すら見当たらない。
ほら、やっぱり先生の冗談だった。
そう思いながら、時刻を見るために端末を付ける。現在時刻が「1:59」。モモトークには未読が数件。確認がてら端末を操作している最中、時刻が。2:00を回る。
瞬間。
夥しい程の視線が私に突き刺さる。
「……ッ!?」
慌てて周囲を見渡すけど、先程まで明るい画面を見ていたせいか暗順応が全く機能してなくて何も見えない。見えないのに、見えないからこそ、強く強く視線を感じる。
廃ビルの屋上から。廃屋の弊から。電信柱の陰から。草むらから。
その他ありとあらゆる場所という場所から全方位360度、その肉に「嚙みついて食い散らかしてやる」という、強力な意思を伝える視線がもはや数えきれない程。
思わずよろめいて後ずさり。何かにぶつかった。無機物ではない、確かに生物のような柔らかさを感じるのに。冷たい。そう、体温が無い。
そして私の背後から耳元へと生臭い吐息と、声が。普段の生活では耳にすることはない、獣の怨念とでも言うべき鳴き声が耳朶を震わせる。
まずい。このままこの場に留まるのは最悪の選択だ。私の直感がそう告げる。
両足に渾身の力を込めて私は──
1.シャーレへの道を全力で駆け抜けた
2.アジトへの道を全力で駆け抜けた。
>>15~>>20で1か2か多数決を取りますぅ!危篤なのはおじいちゃんではなく(ベアトリーチェ)おばあちゃんにしとけばよかったと思いました!
- 16二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 14:20:38
ま、まさかニャン天丸の……
2で - 17二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 14:20:42
- 18二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 15:10:40
ここは1を選ぶぜ
- 19二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 15:11:51
あえて1
- 20二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 15:27:38
1
- 21二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 15:27:48
2で
- 22二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 15:28:08
とりあえず1
- 23二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 16:07:54
ベアおばだと勝手に地獄に行けってなって逆効果そう
範囲内なら1 - 24二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 16:39:35
(16-22で集計して1が多かったので選択肢1で行きます……えへへ……ご迷惑をおかけします、すみません……)
久しく出していない本気の走り。作戦行動中とは違う、体力の後先を全く考えていない「逃げ」。
その必死さが功を奏したのか、気づけば路地裏を抜けてシャーレの建物前まで戻ってこれたようだった。エンジェル24の光が明るく、周辺を照らしている。
ようやく、抜け出せた……?
ぜえはあといまだ乱れる息を強引に整えようとして、マスクが汗で口元に張り付いてるのに気づいた。手前に引っ張って強引にむしり取る。汗でぐしゃぐしゃになってもう付けられない。
最早先生が冗談を言っていた、なんていう考えは頭のどこを探しても残っていない。それ程までに先ほどの体験は心底恐ろしかった。
あれがなんなのか、私は一体何に遭ったのか、先生なら知ってる筈。それを確かめないと怖くて怖くて眠れそうにない。無意識の内にもそう考えていたからアジトではなくシャーレに逃げてきたのだろう。
「……先生に合う前に、代わりのマスク買おう」
そう思いエンジェル24の扉をくぐろうと目を向けて。整っていない筈の息が止まる。
扉の奥。商品棚の陰。コーヒーマシンの隙間。時計と壁の間。「その他ありとあらゆる場所という場所から」。
獣の──猫の。眼が。私を視ている。
「ひっ……」
同時に路地裏での光景がフラッシュバックする。思わず店員を見やっても、至って暇そうにあくびをしながら手元で何か弄っているだけ。
ダメだ。あの”猫”は私にしか視えていないし、私しか視ていない。
踵を返し、シャーレへと足を向ける。
音で来店に気付いたのか、店内に入ろうとしながらいきなり走り去った私の姿を見て、金髪の店員が首を傾げているような気がした。
そして私は──
1.非常口から階段でシャーレの執務室へ向かった。
2.エレベーターを使ってシャーレの執務室へ向かった。
- 25二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 16:41:37
多少なりとも逃げ場がありそうな1で
- 26二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 16:47:56
1
閉所はそもそもミサキ苦手なので - 27二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 16:50:05
あえての2
- 28二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 16:51:01
折角だから
2 - 29二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 16:55:38
2が怖そうな予感がするので……
- 30二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 18:49:24
(みなさんもっと苦しい方を選ぶんですね……どんどん辛くなるんでしょうけど……仕方ないですね……えへへへ。)
エンジェル24を後にしてシャーレの執務室に向かう為、階段を使おうとして気づく。……足が上がらない。
ただ走っただけでなく「逃げた」、その行動は否応なく私の体力を削っていた。
普段なら何の気なしに階段を使ってたどり着ける執務室への階層が、今はただひたすらに遠い。
ちら、とエレベーターに目を向ける。このままこの場に留まる選択肢は無い。いつまた”眼”が私を捕らえるか分かったものではないのだから。
今すべきは一刻も早く先生の元へと向かう事。ゆっくりゆっくり階段を上って行って、その間にまた視られるかもしれない。それは、怖い。
それにこの時間ならだれもエレベーターを使っていない。なら途中で止まることも無い。
エレベーターを呼んで。扉を開き。乗る。ボタンを押して。運ばれて。扉を開いて。降りる。
それなら、乗っている時間は1分にも満たない筈。それくらいの短時間なら耐えられる……。そう自分に言い聞かせる。
「……うん。大丈夫」
意を決してエレベーターを呼ぶ。元々1階にいたのか、扉は直ぐに開いた。
ひとつ息を吸い、箱の中へ体を滑り込ませる。階層ボタンを押して、続けて閉ボタンを押す。
指示の通りに作動し、扉が閉じる。動き出して、直後。
照明の点滅。案内パネルの表示がバグり始めて。そして。今までで一番近い距離で。”眼”が。私を視る。
──間違えた。ゆっくりでも良い、階段を使うべきだった!なんで私は自ら閉所に……!
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。そう思う間もなく。私を獲物に見据えた猫たちがこの小さい箱に群がってくる。
下で視たよりも多く。無数の目が私を捕らえ。同時に”鳴き声”が私の耳元で……違う。この箱の中の至る所から。十重二十重と重なってこの小さなエレベーターの箱ごと揺らしている。
「~~~ッッ!!」
呻き声の不快感、視られている恐怖、全てがないまぜになって思わず耳を塞ぎ、目を閉じて蹲る。しかし。音は変わらず私の耳に届く。視線が体に突き刺さる。鳴き声の中に僅かな嘲笑さえ混ざった気がした。
- 31二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 19:06:08
早く、早く……!まだ着かないの……!?
既に私に出来る対抗策は無い。唯一の手段の逃走は自らの手で潰してしまったから。
後はただただ待つしか出来ない。最早耳をつんざくような呻き声で揺れているのか、私自身が恐怖で震えているのかさえ分かりはしない。
──目を塞いでいても分かる程、すぐ近くに。いや。これはもう私を食べようと。
そんな気配。鼻が曲がるような生臭い吐息が、私の頭上から発せられていることを。膝を抱えてる私の嗅覚が捉える。
「痛ッ……!」
耳を塞いでいる私の右手、その手首に鋭い痛みが走る。爪を立てられた?なら、もう。猶予は。
チーン。
そう思った時、そんな間抜けな音が聞こえた。同時に生臭さの中に一筋だけ感じられる、アロマ……?のような香り。
あれほど無数にいた”猫”も。私に噛みつこうとしていた”猫”も。もうこのエレベーター、いや、周りからいなくなっているのが感覚で分かった。
扉が開く。時間としては一瞬だったのに、やけに懐かしく感じられる人工的な明かりが目を刺す。そして耳に届くのは。
”大丈夫?ミサキ。”
先生の声。 - 32二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 19:30:12
「先生……?どうしてここに……何をしてるの??」
元々先生に会いに来たんだから当然と言えば当然なんだけど。まるで私が来ることが分かっているかのようにエレベーターの前で待っているし。それに左手にタバコ?のようなものを燻らせている。先生が吸う人だとは知らなかった。少なくとも今までで一度も見たことは無い。
私の視線に気づいたのか、先生は左手を私の前に掲げる。同時に気付く。あのアロマのような香りはここから薫っていた事に。
”これはね、タバコじゃなくて、護摩だよ。お守りというか……儀式というか。まあそんな用途で使うもの”
「お守り……?儀式……?」
猫に襲われていた時とは違う混乱で私の頭が満たされる。質問したい事が多すぎてまとまらない。
”じゃあ、行こうか”
「ちょっと……。説明して。それに外に出たら……!」
先程の光景を思い出して、思わず肩が震える。けど先生は、いっそいつもの様子からすると強情と言える位に、私を外へと促す。
”もう大丈夫。猫に視られることは無いよ。それに、聞きたい事多いでしょ?道すがら話すよ”
そう言って先生の右手が私の左手を掴む。
そうして私は。やっとの思いでたどり着いたシャーレの執務室に。足を踏み入れる事すらなく取って返してビルを出た。 - 33二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 20:27:50
このレスは削除されています
- 34二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 20:30:24
(うわぁん!感慨深いを誤用しました!こうなったら再投稿です!)
「ありがとうございましたー!」
エンジェル24で猫の餌(子猫用)、ついでにマスク(私用)を買い、深夜だというのに張り切った声を背にしながら店を出る。
”正体と言うべき……なのかな。とにかく、ミサキを襲ってきた猫は「仔猫」だね”
「子猫?そうなの……?そんなに幼くは見えなかったし獰猛だった気がするんだけど」
”子猫じゃなくて、にんべんに子供の子。人に捨てられて、可愛がられて、そしてまた見捨てられた子猫の幽霊、の今回は集合体だけど。だから仔猫”
そう話しながら私と先生は歩き続ける。向かう場所は聞いてないけど方向で分かる。
〇〇通りの裏路地だ。先生が近くにいるから……違う。おそらく焚かれている護摩のおかげだ。もう視線は感じない。
というか、幽霊?このキヴォトスで?そんなくだらない……と疑おうとした所で自らの経験が否定する。
「正直、……少し、混乱してる。けど、まあそれはいいや。……ただの捨て猫じゃないの?」
"元々はね。あの、今向かってる「〇〇通りの路地裏」だけど。猫の捨てられやすいスポットだったんだよ”
昔の話だけどね。
そう言って先生は少し悲し気な顔をして。短くなった護摩に気付くと胸ポケットから新しい護摩に火を付け、古いものを消す。その一連の手つきがやけに手馴れてるというか、精錬されてるというか。体に染みついてる動作って感じ。
”ほら、よくあるじゃない?子供が捨て猫を拾ってきて捨てて来なさい!って叱られて、友達同士で隠してこっそり飼う、なんて話"
”創作の中ならその後飼い主を見つけられるものだけど……現実だとそう甘くないからね。そして子供の興味も大抵は長く続くものじゃあない”
”最初は4人で面倒を見てた。三日後には3人。一週間後には2人。そうして細々と面倒を見てた子供たちも他に楽しいことが出来たり、勉強が忙しくなったり”
”また、叱られたり”
”そうして、世話の足が遠のく”
- 35二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 20:41:51
……そうすれば当然。子猫は死んでしまう。それも一度生きる希望を与えられて取り上げられる、そういう形で。
野生の生き物には全ては虚しいもの……なんて考え。流石に無いだろうから。
”子猫が先にあったのか、噂が立ったから猫が捨てられるようになったのか。順番は分らないけどとにかく。”
”子猫が捨てられ、世話をされて希望を持ち、けれど叶うことは無く死んでいった猫たち。そして年月が経って噂さえも風化したけれど”
”「仔猫」たちは依然あの場に留まっている”
「……だからって。あんなのが頻繁に起こってたら流石に噂が再燃するでしょ?」
それも「猫が捨てられているスポット」ではなく「何かに襲われる」スポットとして。
”そうだね。まあでも、普段はここまでこじれた事態にならないんだよ”
”今回は時期と時間と……相性が悪かった”
「……時期、時間、相性?」
”うん。まず時期は……夏が終わって秋が近づいてっていう季節の変わり目でしょ?そもそも気候の変化に対応しきれずに死ぬ生き物って多くてさ。だから単純に「よく猫たちが死んだ時期」”
”次に時間だけど。ミサキがシャーレを出た時間を考えると……丁度午前2時ころに路地裏に入ったんじゃない?”
……そういえば、確かに。確か端末を見てたから時間は覚えてる。時刻は2:00。それまでは何ともなかったのに、2:00を回った瞬間に「視られた」。
「……でもその時間の何が問題なの?」
”ほら、「丑三つ時」だよ。その時間。正確には2:00-2:30だね”
「……言葉としては知っていたけど。丑三つ時ってその時間だったんだ……」
”まあ普通意識しないもんね。とにかく時間は「幽霊の出やすい」時間だったってこと”
「……とりあえず、時期と時間はわかった。そして、相性って言うのは?」 - 36二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 20:49:01
期待
- 37二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 20:52:52
猫たちが少し違うかもだけどアリウスを彷彿させるな…
希望を与えられないのと一度与えて取り上げるの - 38二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 20:58:09
「……あんまり詳しくないけど。そういうのって大体酷い目に合わせた人を祟るって言うのが筋?なんじゃないの?私、猫に恨まれるようなことした覚え無いんだけど」
小さい頃に猫を世話した事なんて無い。そもそもそんな余裕は無かった。猫に食事を与えるくらいなら私達の腹に収める。そういう暮らしだったし。それに今だって別に猫見かけたからって蹴っ飛ばしたり、いじめたりなんてしていない。それはさすがにあまりにも虚しいが過ぎる。本当の本当に虚しすぎて考えたことも無い。
”これは多分直前に私が猫の話をしちゃったのが悪かったと思うんだよね……ミサキ、私の話を聞いた時”
可哀想と思われて、哀れに思われて。腹が立ったって事?でも私は別に。
「ああ。可哀そうとか憐れんだりって?知ってるでしょ。私はそんなの──」
どうでもいい。そう続けようとした言葉は先生のセリフに遮られた。
”──うん。そうだよね。ミサキはそうは思わないし。仔猫たちだってそういう思いにはずっと晒されてるからね。いわば慣れっこなんだ。でも”
”羨ましい”
”そう思ったんじゃない?幽霊……っていうか体が無い、そういう「状態」に対して” - 39二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 21:41:21
「……」
むぐ。と思わず口を噤む。的外れな考えだったからでは無く。むしろあまりにも的を得ていたから。
そんな私の表情を護摩に付けられた火が照らして、先生の目に入る。
”やっぱり。ミサキなら考えるんじゃないかって思ったんだ。アタリだね”
くすっと笑う先生。なんだか無性に恥ずかしくなって、誤魔化すように話の続きを促す。
”仔猫たちからしたら溜まったもんじゃないって感じかな。飼って捨てて飼って捨てて。その果てに死んでさ。その状態を作った奴らに哀れまれるじゃ飽き足らずに嫉まれる……自分勝手にも程がある、ふざけるなって”
”だから仔猫は怒ってミサキを視た。そしてヒートアップして「同じ目に遭わせてやろうか」って襲ってきたんだ”
”逆恨みで虎の尾を踏んでしまった状態だったんだ、ミサキは。いや、虎っていうか猫だけど。”
”そもそも仔猫に人の区別なんてつかないからね。ミサキじゃなくてもそういった「羨望」を向けると襲って来るんだけど……”
「普通は哀れみが先に来るから被害は生まれないって事だね」
”そう。察しが良いね。それに丑三つ時に現れたって事は、丑三つ時にしか出てこれないって意味でもある”
”元々が子猫だからね。力も本来はそこまで強くないんだ。だから仔猫に遭う時間もかなり限定されるし”
”そんな時間にあの通りを歩く人の数がそもそも少ないから、この条件も殆ど満たされない”
”よって、仔猫に遭う人は。ほぼいない”
ふぅ。と深く息をつき。一応の理解を得ることは出来た。……私が仔猫に視られた理由に対しては。不本意だけど。
「……それで、先生。私達は何しに行くの?」 - 40二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 22:09:57
話し込んでいて気が付かなかったが、ふと周囲を見ればあの路地裏まで戻って来ていた。
あと数歩進めば、最初に猫──仔猫に視られた所だ。
そしてここまでくれば分かる。
居る。視られている。依然として変わらず。視線が突き刺さる。けれど先ほどのように襲ってきたりはしない。おそらく、私達の周りの護摩の煙の効果なんだろう。
それでも視線に身が竦み、思わず左手を強く握りしめる。穏やかに感じる先生の体温が、私を安心させてくれた。
”何って。それはもちろん謝るんだよ。誠心誠意、心を込めて。お詫びの品も付けてね”
”今回踏み込んでしまったのは私達だから”
”謝罪の内容は「この場に踏み込んだ事」。そしてあくまで「刺激した事」に対して。間違っても”
「仔猫の境遇や状況へは言及しない……それであってる?」
”うん。ばっちり。じゃあ、行くよ”
その言葉を合図に私達は「〇〇通りの路地裏」へと。──仔猫達の領域へと足を踏み入れた。
一段と視線が強くなる。それでも襲ってはこない。
その様子に一つ頷いた先生は、買って来た子猫用の餌を取り出し、左手の護摩の煙を一周させる。
それが済むと餌を廃ビルの壁に立てかける様に置き、その横に新たに護摩を取り出し、火を付けて置いた。
”これでお詫びの品は大丈夫。次は謝罪のターンだよ。大丈夫。特に形式とか、そういうのは要らない。ただ心の中で考えるだけでいい”
その先生の言葉を聞きながら。私は子猫達へ思いを巡らせた。 - 41二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 22:34:19
しばらく思いを巡らせ、体感で2-3分くらいたった頃だろうか。急激に視線の圧が軽く、いやこれは。無くなってる。
ふと思い端末を取り出して時間を見る。……現在時刻は2:31。そうか、もう。
”丑三つ時は終わったからね。同時に仔猫が遊ぶ時間も終わったんだよ”
同時に先生が口を開いた。
言葉を続けながら、手際よく設置した猫の餌と火の付いた護摩を回収していく先生。
「それ。持って行っちゃっていいの?」
”ああ、うん。そもそも仔猫達が物理的にこれを食べることは不可能だし……。置いておいてもゴミになってしまう。火の付いた護摩は火災の原因になっちゃうし”
”なによりああいうのは実体より儀礼的なものが大事だからね”
いまいちピンとは来なかったが。私より場慣れしている先生がそう言うのだから多分そういうものなのだろう。ならとやかく言う意味は無い。
先生は袋に餌と火を消した護摩を入れ、私を促す。
”さ、帰ろうかミサキ。流石に今日はもう遅いし。シャーレの空き部屋使っていきなよ”
「うん、そうする。ありがとう、先生」
そう返して、先生と一緒に。ようやく、本当にようやくシャーレへの──日常への帰り道を進んでいく。
道すがら「ニャーオ」という、まるで甘えたような猫の鳴き声が聞こえた気がした。 - 42二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 22:55:21
その後の事は特に語ることも無く。
シャーレで仮眠を取って、みんなのいるアジトへ戻った。多少心配はされたけど、別行動をとることは珍しくも無い。
その内に日常へ戻っていった。
まるであの日の事は夢だったのではないか。そう思える程に。
けれど右腕についた縦の傷跡が、あれが現実だったのだと教えてくる。
そしてその傷跡も薄くなり、いよいよ実感がわかなくなる程に時間がたったある日。
現在の拠点に──一匹の猫。
抱きかかえていたアツコ曰く。どうやらこの拠点に迷い込んでしまったらしい。ただ、見る限り首輪付き─飼い猫の様だからしばらく散歩でもしたら出ていくのではないか、との事。
「うわぁ!?ね、猫ですか!?……えへへへ、かわいいです。……この子、家猫なんですね……私たちはいまだ定住先なんて見つかってないのに。……やっぱり人生は……」
「うん。気が済むまで散歩させてあげよう。きっとその内。おうちに帰るから」
そうアツコとヒヨリが話している時も忙しなくあちこちをうろついていた猫が。「なーお」と随分可愛らしい声を上げて私へとジャンプしてきたのが見えた。
「わ。サっちゃんすごい懐かれてる」
猫との距離が近づくにつれ、受け止めようかどうしようかと思考を回して。ふと違和感が。鼻に。
鼻がむず痒い。いや、これは……!この感じ……!?
「へっくし、はっくしゅん!!!」
「ひゃあ!?ご、ごめんなさいぃ!!??」
どうやら私はあの一件を経て。猫に懐かれやすくなり。さらに──猫アレルギーにも罹患してしまったらしい。
それこそがあのいつかの30分の出来事が現実だと私に知らしめる、唯一にして最大の痕跡になったのだった。 - 43二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 23:00:58
- 44二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 23:02:54
とてもよかった
…それはそれとしてお前が始めた物語だルルォ!?新作あくしろよォ! - 45二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 23:05:03
サッちゃん?妙だな……猫がジャンプしてきたのはミサキのはず……
- 46二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 23:10:05
- 47二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 23:16:30
乙
素晴らしいSSでした - 48二次元好きの匿名さん23/09/24(日) 23:28:14
お疲れ様です。SSの内容、とても素敵でした。
なんかここの先生、前職は物語シリーズの怪異の専門家みたいなことして悩める子供たちを助けてそうだな。 - 49二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 00:57:37
楽しませて貰ったし自分でも何か書いてみたくはあるけど
私の筆力じゃTさんコピペくらいしか書けんのだ…
とりあえず今日はもう眠い - 50二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 01:45:59
乙
分岐別の選ぶとどうなってたん? - 51二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 08:51:19
普通に魅入っちまっていたぜ……
いや面白かった 元ネタあるのか分からないけど、「仔猫」の設定もよく出来てたし純粋なホラー物としても楽しめたと思う - 52二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 10:19:09
解説や説明が必要ですか!?それなら私にお任せください!
展開は書きながら考えてたのでそこまで構想があった訳ではありませんが
アジトへ逃げる→その場では逃げられるが日常生活ではその辺の野良猫から一方的に敵視される&AM2:00-2:30の間は仔猫に狙われて慢性的な睡眠不足、その生活を2、3日続けた後に先生の元へ
階段を使う→仔猫に襲われる展開は同じ、ただし閉所ではないので心持ちに少しだけ余裕ができる&ゆっくりとだが逃走が効くので右手へのひっかき傷は負わない
位を考えていました!
このスレ立てる前にホラー物読んで、自分でも書きたいなと思ってた所でもあったのでホラーとしても楽しんで貰えたのなら何よりです!
仔猫に関しては、>>34を書いていた時に「こねこ」の変換で「仔猫」の文字が出てきた所から設定を考えたので多分オリジナルになっていると思います!
- 53二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 12:20:26
良かった……
それはそうと、怪異とか幽霊とかいる世界線ならアルちゃんが幽霊と気付かずに依頼受諾して完遂した結果怪異幽霊からの信頼度を爆上げしてしまって気付けば便利屋68からオカルト屋68にジョブチェンジしちゃってた話とか読みたいですよね - 54二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 16:35:10
「ほほォ…あんた様が巷で噂の『先生』でごぜェますか。いやはや私のような化け物とは縁遠いものと思っていやしたが、なんと数奇なものでございますでしょうねェ?神様(かんさま)か仏様か知らねェですが、この縁の運の命を結んだやっこさんの面を是非に見てェものでございます」
"…その子に何をした、化け物"
「契約でごぜェますよ先生様。「あしなき坊主の足占い」「ことのはさがし」「」、子供自身がどこで聞いた知った認知したかも分からないちっぽけな怪奇怪談話が偶々偶然数奇な不運な運命に絡まって、私と契約を結んで結果代償として身体を差し出した。えェ、えェ、ただそれだけでごぜェます、あんた様ならよーく…知っていることでござんしョう?」
"…そうだね。そして、そういった話をなんとかする方法もね。だから私の生徒を返してもらうよ、化け物が"
「くくく…、それは怖いものですねェ?化け物ですのに恐怖で体が震えてしまいそうでごぜェますなァ。…おっと、そういえば今はあんた様の大事な大事な生徒さんの身体でごぜェましたね?くかか、それなら当然といったものでごぜェましょうか?」
"………。"
"……『お帰りなさい』"
「ハイッ!!ただいま戻りましたっ!!…って、へ?先生?あの…私いつの間にシャーレに来てたんでしょうか?居眠りとかじゃないですよね!?あぁ…!もしそうならと考えるだけでヤバいヤバいストレスで胃が捻じ切れそう……!!」
"大丈夫、落ち着いて"
"一回休憩室に行っておいで'
「…そうですね、お言葉に甘えさせていただきます。それでは先生、休憩室お借りしますね……」
"………二度と遊び半分で私の生徒に関わるな、化け物"
(おォ、おォ、これはなんとも恐ろしいものでございますねェ?いやはや恐ろしい恐ろしい、それではちっぽけな化け物は、ここいらで退散させていただきましョうかねェ)
「…?今なにか言いました?」
"大丈夫。なんでもないよ"
▽駄文ですがどうぞ… - 55二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 18:20:44
- 56二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 18:42:57
過労 ヒナ
- 57二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 18:51:23
すまし顔 アル
- 58二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 18:56:00
ついてくる ヒヨリ
- 59二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 18:57:19
足音 アヤネ
- 60二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 18:59:03
蛇 ワカモ
- 61二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 19:32:47
これの解説編or究明編をください、友人が危篤になりそうなんです
- 62二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 19:55:52
実体験式怪談噺方式で進めてもいいのか、これは?
- 63二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 20:04:57
- 64二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 20:06:17
お題が人間怖いに通じ…無いなキヴォトスでは
怪談だ - 65二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 20:12:10
- 66二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:27:54
保守しとこっと……
- 67二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:54:37
実話式つったけど、書けてねえや!
すまない…ネタないセイアですまない…… - 68二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 00:17:36
「わ、私は対策委員会のみんなに嫌われてしまったんでしょうか……!!??」
”ちょ、ちょっとアヤネ!?一体どうしたの!?”
某月某日。時刻は15時。
私はシャーレの執務室に駆け込むなり開口一番、先生にそう告げた。
──
────
”少し落ち着いた?”
「は、はい……すみません。取り乱してしまいました……」
”まあ、いきなりは驚いたけど……それにしても、何かあったんだね?今日はアヤネには当番をお願いしてなかったし……”
給湯室から先生の、少し距離を挟んだ声。今先生は私の為に飲み物を準備してくれている。
「そうなんです……。私、みんなに……」
ぐすん。
思い返すと涙が出て来そうになってしまう。
”大丈夫だよ。落ち着いて。順番に事情を聞かせて?”
先生はそう言って、私の前にあったかいココアを出してくれる。ありがたく受け取って、一口すする。そうすると、不思議と気持ちが……落ち着く、と自分に言い聞かせる。そして。
すぅー。はぁー。と深呼吸一つ。意を決して口を開く。
「は、はい。事の起こりは──」 - 69二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 00:20:53
- 70二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 00:48:22
──事の起こりは二日前……だと思います。
いつもの通り起床した私は、ほんの少しだけ体調が悪いのかも……と感じました。頭痛と言うほどでもなく、熱があるでもなく。でもどことなく体のだるさを感じました。
季節の代わり目と言う事もあり、もし私が風邪を引いていたとしたらみんなにうつす訳にも行かないと思い……マスクを着けて登校したんです。
そして学校についてからはいつもの通りでした。
「おはよーアヤネちゃん。あれー?イメチェン?うへぇ~おじさんには難しそう~。ほら、おじさんもう年だから、紙が肌に合わないとチクチクしちゃってさぁ~」
「あはは……おはようございます、ホシノ先輩」
……なんて少しからかわれもしましたが。
その後もノノミ先輩、シロコ先輩、セリカちゃんに挨拶をして。午前中はBDで授業を受け。お昼御飯を食べて、午後も同じくBDで授業を。
少し変に思ったのは、その日の放課後からです。なにかみんなの言動に違和感があるというか……、おかしさ、みたいなものが生まれ始めたんです。
いつものように対策委員会の部室に集まって、借金返済のための対策会議を行っていたんですが……その中で。
──最初はホシノ先輩でした。 - 71二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 01:18:09
「……うんうん。それで今週は動いてみようか。ああでも、アヤネちゃんには関係のないスケジュールだねぇ~」
「──うへぇ~、なーんて、嘘だよー?」
……。
………え?
……誤解のない様に先にお話ししておきますが、みんなで建てたスケジュールには当然対策委員会全員の予定が入っていましたし、当然私の予定もその中に入っています。だから、私に関係ないなんて、そんなことある訳ないんです。
普段あまり行動にやる気を見せないし、冗談ばっかり言っててその言動にセリカちゃんがぷりぷり怒ってたりするホシノ先輩ですが、それでもあまり言わないタイプの冗談でした。
その後は……ノノミ先輩。
「うんうん!今週はその予定で行きましょう!」
「あ、景気づけの為に私、スイーツ買って来たんです!これを食べて今週も頑張っていきましょう!……あ、でも当然」
「アヤネちゃんの分はありませんよ?」
「──なーんて。冗談ですよ!」
「あ、あはは……」
……。
…………。
そうしたノノミ先輩の宣言と共に置かれたスイーツ……どうやら新発売のプリンの様でしたが、確かに5人分……私の分もあったんです。
でも、ノノミ先輩はそういうことを言うタイプじゃなくて。でも、その段階だとまだ理解が追い付いていなかったから。
……普段言わない冗談を、その、柄にもなく言ってみたのかなって解釈するようにしてました。 - 72二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 01:24:21
これはきつい…
- 73二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 01:37:40
ウホッ...怖...
- 74二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 02:02:01
このレスは削除されています
- 75二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 02:05:11
このレスは削除されています
- 76二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 02:10:31
(うわぁん!なんで推敲してるのに誤字が出てきてしまうんでしょうか……誤字を直して再投稿です!……きっとこの時間なら気づかれない筈ですから……)
その次は……シロコ先輩。
「ん、分かった。計画表に沿って動く。でも私は別途に銀行を襲う計画を立てた。こっちを使うなら今回のスケジュールの何十倍の稼ぎが─」
「─うへぇ~……シロコちゃ~ん?」
「……分かってる。銀行は襲撃しない」
「うんうん!シロコちゃんはそうでないと!」
「ああ、でもどちらにせよ。アヤネの協力は必要──」
──嘘。最初から当てになんてしていない。
……。
…………。
その、そう言ったシロコ先輩の表情が。あまりにもいつも通りで。なのに、言動だけが違和感があって。そして……なにより。他のみんなの様子に何も変わりが無くて。それ以上、顔を上げていられませんでした。
最後は、セリカちゃん。
「分かったわ!今週はバイトも調整効くから、この通りにやってみるわね!……サボったりしないでよホシノ先輩!」
「うへぇ~、わかってるよぉセリカちゃん」
「全く……しっかりしてよね!そして……アヤネちゃん!」
「……。……!は、はい!?なんでしょうセリカちゃん!?」
──何もしないでね。迷惑だから……なーんて、嘘よ。そんな顔しないでってば。
そう言って笑うセリカちゃんの顔には、何も変わった所が無くて。いつもの、委員会のために頑張って、たまにホシノ先輩に怒っている表情と。何も変わるところはありませんでした。
…………それを聞いてから。私は。
何も言う事が出来なくて。この時間が早く過ぎてくれないかって。
耳に残る談笑の中。頭を巡るのは、ただそれだけでした。
- 77二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 02:12:32
アヤネ辛い…トドメがセリカってのがまた……
- 78二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 02:13:43
- 79二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 07:48:41
うわぁーん!怖いですぅ!
- 80二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 16:06:29
備えますわね……
- 81二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 18:16:08
この訳の分からない気持ち悪さがいいな…
- 82二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 18:34:42
一口怪談【視覚の美食】
私の眼前にあるは、一皿のスープ。
出来立て湯気立つ、一皿のスープ。
真っ赤な真っ赤な、一皿のスープ。
それが私が求め続けた究極の美食であると何故か確信でき、そして今にでも礼儀作法を投げ捨て皿を持ち、咽せることを厭わず喉を掻き鳴らしたいと食欲が異常なほどに沸き立って仕方がない。
だけどどうしてでしょうか、私はそれを実行せずただただお皿を掴むだけで、器から見える真っ赤なスープを眺めるだけにとどまっています。
なにか汚泥のような粘り絡みつく感覚を触覚が、表現し難くも日常的に嗅いでいる臭いが混ざったような悪臭を嗅覚が、その臭いが奥へと舌へと広がり腐敗物を食したときのような感覚に味覚が、ぐちゃぐちゃとぐちゅぐちゅと形を保てなくなった動物性の有機物が崩壊していくような音に対して聴覚が、そして私の手が真っ赤なスープが入ったお皿を両手で掴み光景が視覚に。
不自然なことは何一つないはずなのに、私の身体は脳に抗い停止を選択し要求し続けるのです。ですが、ついに私は身体の抵抗をねじ伏せ、両手で掴んだお皿を傾けーーー
「ちょっとなにしてるの!?」
フウカさんの声が聞こえた瞬間、私の眼前にあったのは私の両手で掴まれた腐った血肉を滴らせる烏の骸でした。 - 83二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 19:46:07
ありがとうございます!おじいちゃんが息を吹き返してきました!
おばあちゃんは……なんか「アアアアアア……!」って言ってます……苦しそうですね、えへへ……。
それはそれとして一レス内で起承転結させるまとめ方、参考にしたいです……!
一度そこで言葉を切り、頂いたココアを一口。そこまでの量を話した訳ではなかったのに、思いのほか喉が渇いていたことに気づきました。
”……。それは。大変だったね”
先生は私の話を真剣に聞いてくれました。普段のみんなの人柄を知っている先生なら私の話を一笑に付してもおかしくはない。心のどこかでそう考えていたのに。
”生徒が、アヤネが真剣に相談しに来ているのに。そんなことする訳ないよ”
そう言って、私の緊張をほぐすかのように笑みを向けてくれます。
”でも、話はそれじゃあ終わらないんだよね?……それだけなら、誰かに相談するのはもっと早い筈だから”
「……はい。おっしゃる通りです。まだ、終わりじゃないんです」
喋りながらだんだんと冷静さを取り戻してきた私。シャーレに来たときはパニックになってしまって取り乱していたけど、思考を回せばみんなの「おかしさ」に目が止まる様になって来ていた。
「はい、もっと違和感が湧いてきたのは──」
もっとも。そう分析できるのは今この時だからこそ。渦中の私は、ただただ状況に翻弄されるだけだったけれど。
- 84二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 20:20:40
──会議は続いていましたが、私の耳は音を右から左へと通すだけで。具体的な内容は何一つ入ってきていませんでした。
ホシノ先輩がふざけて、シロコ先輩が乗っかって。セリカちゃんはそれに怒って、ノノミ先輩が朗らかに笑う。皆の様子はいつも通り。
ただ、私への言動だけが違う。表情も行動も変わらない。言葉だけが、私に棘を突き立てるような。そんな針の筵の様な時間でした。
そうして話を素通りさせながら下を向いていると、気づけば会議はお開きとなったようで。思い思いに帰り支度を始めて居ました。
そんな皆の背を見ながら、「ああ、もう帰る時間か」とぼんやりと考え。私ものろのろと帰路に付きます。
……正直に言うと少しだけホッとしていました。先輩達の、セリカちゃんの。言葉を聞くのが……怖くなってきていたので。
教室を出て、階段を降り。靴を履き替えて外へと。皆の輪と思わず距離取りながら歩みを進めていき、校門を出た所で。セリカちゃんが口を開きました。
「じゃあ私バイトだからこっち!じゃあね先輩達!あ、そうだ──……ん?」
──ちゃん?
─ネちゃん?
「アヤネちゃん?」
「ひっ……あっ……はい、なんでしょうセリカちゃん……」
今日の事が頭をぐるぐると周り思考が飛んでいたせいか、呼びかけられていた事に気づけず反応が遅れてしまっていたんです。……さっきまでのセリカちゃんなら。多分、また何か言って来るのではないか……そう身構えたのですが。
「何って、今日ずっと体調悪そうにしてたから。あんまり無理しないでね!……ほら!先輩達を止めるの私ひとりじゃ大変だし!」
恥ずかしいのか少し顔を赤くして話す彼女の姿に。先程まで私に辛辣な言葉を吐いては、
「嘘よ」
「冗談だってば」
と、そう告げていた面影はありませんでした。 - 85二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 20:50:44
会議中とは全く別の恐怖が、私の背筋を震わせました。セリカちゃんがいつも通りな様子が、怖かったんです。
辛辣な言葉を投げかけられるだけなら、私が何かしてしまったのか。私が何か気に障るようなことをしてしまったのか。
……私の事を嫌いになってしまったから、あんなに冷たい事を言っていたのか。
でもそれならまだ、悲しいですが納得は出来た筈なんです。少なくともセリカちゃんの、対策委員会のみんなの私に対する言動に。嫌いだから冷たくする。それは理屈が通っていますから。
しかし。帰りがけには私を心配するかのような言葉。行動……いえ、言動があまりに食い違っていることが。
その事実にセリカちゃん自身は全く気付いていないような態度であることが。その時の私は嫌われてしまったのではないかと、そればっかりに集中してしまっていましたが……、
それが、今思い返せば強烈な違和感でした。
え?その時の私がどう感じたか……ですか?……私の行動のどこが悪かったのか、そう考えてばっかりいたような気がします。……実はあんまり覚えていないんです。
その後は言葉少なに先輩たちに別れの挨拶を告げ、帰宅しました。
体以上に心が疲れてしまった私は、すぐに布団に入りました。……すぐに眠りに落ちて、夢さえも見ない程泥のように眠れたのは不幸中の幸いでした。
……?先輩達は挨拶を返してきたのか、ですか?
ええ、確か皆さん口々にじゃーね、また明日、などと返して貰ったような気がします。……はい。普段通りの、先輩達でした。──セリカちゃんと同じく、です。 - 86二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 21:23:00
- 87二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 21:30:32
シンプルにこわいです……。どうやって先生に電話してるんですか……?スマホ放り投げてるのに。
……あっ、おじいちゃんが息し始めてます!いい傾向かもしれません!みなさんありがとうございます……、えへへ。
次の日、つまり昨日も結論から言ってしまうと同じような形でした。
ほんの少しだけだるさのある体を起こし。みんなにうつす訳には行かないのでマスクを着け。学校へ行き。挨拶を交わして。BDで授業を──……え?その時挨拶を返してくれたのは……確かノノミ先輩だったはず、です。……ええと、またノノミ先輩に何か言われたら……と、そう怯えてしまっていたのであんまり記憶にないのですが……その、二日前の「冗談」は言われてなかったと思います。
お昼ごはんは自分の教室でセリカちゃんと一緒に。……はい、その時のことは覚えています。
「……でね!昨日のバイトったら本当にひどかったの!私達は真面目に働いてたのにさあ、いきなり外から「ここの地下水脈を発見したー!」なんて声が聞こえてきて!……ってごめんね、」
「私の話、アヤネちゃんに関係ないし」
「……あ、あの」
「──なーんて、嘘よ」
と、そう。まるで二日前の会議の時間と同じ様子で私に話しかけてきてましたから。
その後は、日中から放課後に至るまで私から何かを発言することはありませんでした。……すみません。周りの様子もほとんど覚えていません……何も考えたくなくて。早く一日が終わらないかと。そう願っていたような気がします。
そして放課後。
幸か不幸か、この日は対策委員会の部室に集まる予定は立っていなかったので、私はチャイムの音と同時に、逃げる様に帰宅しました。
いえ、ように、ではなく。逃げました。
正直、もう、限界でした。
- 88二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 21:34:32
侵蝕される日常……こりゃあきついわ
- 89二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 22:15:00
………確信してしまったんだと思います。
私はみんなに嫌われてしまったのだと。もうそれだけが頭を占めていて、今覚えている違和感はかけらも抱いていませんでした。
でも、どうしても否定したくて。せめて理由を聞きたくて。体を引きずるようにして登校したんです。昨日と同じように準備をして。
頑張って登校したんですけどね。本当は放課後に、対策会議の部室に集合した時にと思ってたんですけど。
……話は変わりますが。先生、アビドスの体育の授業形態ってご存じですか?……あはは、すみません。知らなくて当然です。
全校生徒でやるんですよ。なにせ人数が少ないですから。
ええと、さっきの時間は体育だったんです。……その、私が放課後ではなくこの時間に駆け込んできた理由です。
あの、さっき、言われたんです。アビドスの全校生徒、つまり対策委員会のみんなから。
まるで示し合わせたかのように。明確に私に向けて。一斉に私の目を見て。
「「「「今日の体育、頑張ろうね」」」」
「「「「ん?いつまで居るのアヤネ(ちゃん)」」」」
「「「「だって、居る意味ないじゃん」」」」
「「「「──ま、嘘だけど」」」」 - 90二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 22:38:01
その言葉が決壊のきっかけでした。私はパニックになって、耐えきれなくなって、ここに来たんです。
脳裏に浮かべた途端に背筋を震わせてくる疑問をようやく、再度先生にぶつけることができた。
「わ、私は対策委員会のみんなに嫌われてしまったんでしょうか……?」
そこまで話してようやく、一息つこうとしたけど先生が
”いや。そんなことは絶対に無い。ある訳が無い。大丈夫。必ずみんなは元に戻る。──私の秘蔵コレクションを賭けたって良い”
なんて最後だけ冗談めかしてはいたけれど、食い気味に宣言してくれた。
そのあまりに自信に満ちた声色に。
──そうか。私が嫌われた訳じゃなかったんだ。
二日前から心の底から欲してた確信が与えられたと同時に、目から涙が零れてきて。
まだ何も解決していないし理由も分かっていない。それでも。……多分私は、私じゃない他の人から言ってほしかったんだ。誰も私を嫌っていないと。そうやって。
今一番欲しかった言葉を貰って。この二日間で初めて私は安心を抱くことができた。 - 91二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 22:57:47
とりあえず持ち直したか。けど続きが気になりすぎる……
ヒヨリ口調に反してお出しされるSSのクオリティが高すぎるんだよ!!! - 92二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 23:21:06
”はい、これ。まずは……大変だったね。話してくれてありがとう”
そう言って先生はハンカチを渡してくれた。ありがたく受け取り、眼鏡を外して涙を拭う。
うん。大丈夫。やっと本当の意味で冷静さを取り戻すことができた。そして、怖さしか抱けなかったみんなの様子にきちんと向き合うことができる。
「それで、先生。先ほど……その、私が嫌われているから冷たい態度を取られている訳ではないと、なぜか確信的に言い切っておられましたが……。なにか根拠があるんでしょうか?」
私がぶつけた疑問に、先生は難しそうな顔をして唸っている。……もしかして本当は……。
ぐすん。
思わずまた涙が──
”──ああいや!違う違う!そうじゃなくてね、どこから説明すれば理解しやすいかって考えてたんだ”
先生はそのままひとしきり悩んだ後で、大きく頷いて話し始めた。
”まずは……そうだね。今回の話に必要なポイントはこの三つなんだ。先に要点に絞って説明していくから疑問点は後から質問してくれると助かるかな”
言いながら先生は立ち上がり。執務室に備え付けられたホワイトボードに近寄ると書き込みを始めた。しばらく待つと、完成したのか先生はボードをこちらに向けてくれて、そこにはこう書かれていた。
1.みんなの言動がおかしくなった訳
2.1を招いた原因
3.解決策
”別段の希望が無ければ1から説明していくけど、アヤネは大丈夫?”
「……あっ。はい、大丈夫です。説明お願いします」
……ここに来た時には、正直具体的な案があって駆け込んで来た訳ではなかった。ただあのままアビドスにいることが耐えられなくて、いわば逃避先としてここに来たのに。今は光明どころか解決策?とやらまで提示されている。その現状に驚きながら、説明を求めた。
”OK。じゃあまず1から。”
”今回の原因は幽霊、おそらくポルターガイストに近いもの……いや、まあ。アヤネがそういう顔をするのは最もなんだけども。……そうだね、逆にこう考えて欲しい”
”「あの」対策委員会の面々の様子を一晩で変えられる物なんて幽霊、もしくは超常現象くらいのもんじゃない?って” - 93二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 23:49:20
この先生アロハシャツとか着てそうだな
- 94二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 00:11:03
私がどんな顔をしていたのかは残念ながら鏡が無くて確かめることは出来なかったけど。多分相応に驚いた表情をしていた事だろう……でも、同時にどこか腑に落ちてもいた。あんなに、その……個性的なみんなが、たった数日でおかしくなるなんて普通じゃ考えられないから。
一癖も二癖もある……とは先生は口にしなかったけれど。「あの」に含まれた言外のニュアンスがそう物語っていた。
”細かい事を言うとポルターガイストに近いんだけど……まあそこは大した問題じゃない。”
”重要なのは、どんな幽霊に「つかれた」のかって事。”
……思わず息を飲む。いわばこの二日間の私の心労の、恐怖の原因そのものなのだから。
”今回原因になったのは「つっつき」、そう呼ばれている”
「つっつき……?」
私はそこまでオカルト話に詳しい訳ではないからかもしれないが……聞いたことが無い。
”「くちへん」に「つちへん」の吐く。それに祟られた、なんて時に使う「憑く」。合わせて「吐憑(つっつき)」。……まあ訛って「とつき」って言い方になったりもするけどね。ほら嘘を吐(つ)くなんて言うでしょ?だからそれを人に憑いて強制的に、嘘をつかせる幽霊。”
”対策委員会のみんなは幽霊に憑かれて。そしてアヤネは”
”幽霊にじゃなくて、ずっと嘘に、吐かれ──憑かれ続けてた”
”それが今回の事の原因。そして多分二日前と言わず、もっと前から” - 95二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 01:27:47
二日前……より前?でも、みんなの言動がおかしくなったのは二日前からの筈。……?
私の顔に浮かんだ疑問に答える様に、先生が言葉を重ねた。
"今までの話が1.2に関わっていた話で、ここからは2.3に関わる話になるんだけど。例によって、アビドス高校の倉庫からなにか発掘しなかった?"
そう言われて……記憶を巡る。しばらく逡巡して。あ、と一つ思い至る。でもあれは、あれ?
「……ッ!?」
さらに深く思い返そうとした時に頭痛が走った。その日は珍しく対策委員会のみんなで倉庫内を探索していて、何かを見つけたような……気がする。ただそんな気がするだけで上手く記憶の想起が出来ない。何日前だったのか、何を見つけたのか、肝心なところに靄がかかっている。
”やっぱりね。多分その時に見つけた何かが原因だよ。そしてこれは3の話だけど、その何かを壊せば今回の件は全部解決する”
私の目を見ながら、先生はそう断言した。
”じゃあ上記三つが分かった所で、時系列順に整理していこう”
”まず何日か前、対策委員会のみんなが倉庫内の「お宝探し」を敢行し、何かを発見した。そして発見した「それ」を、保管した。多分……部室、なんだと思う”
”「それ」にはつっつきが住み着いていて、その場の全員に憑いて影響を及ぼした。嘘を吐く様に。でも、なにがしかの理由でアヤネはその影響下を抜け出した”
”あとはアヤネが覚えている通りだね。憑かれたみんなと憑かれていないアヤネ……つっつき達はこれ幸いとアヤネをターゲットにして悪戯を始めた”
”つまり、アヤネに対してだけ嘘を吐くように”
”噓の内容は推測だけど……アヤネが無理しない様にって言葉が歪んだんじゃないかな?”
”ほら、アヤネってここ最近マスク付けてるって話だったし、体がちょっとだるかったって言ってたから。「無理しないでね」の意が思ってもいない形に変換されて無理やり嘘にされてたんだと思うよ”
そう言われて思い返せば、みんなの言っていた棘のある言葉は大体私を排除しようとする物。極端に言って、その言に従えば私は何も動く必要はない、との解釈もできる。
少し極端だがそうした色眼鏡を意識的に自分にかけ、ここ二日間のみんなの言動を思い返す。 - 96二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 01:46:43
対策委員会のスケジュールから遠ざける。休めと。
スイーツに関しては……多分「アヤネちゃんの分もありますよ☆!」以上の意図は無くて。
体育の授業では体調の悪化を防ぐように。見学していて欲しいと。
銀行襲撃計画は……そもそも元からホシノ先輩に止められることを前提に立ててたなら私は(というか誰も)要らない。
迷惑だから何もするなと言うのは多分、「ゆっくり休んでね」、にセリカちゃん流の翻訳がなされた上でおかしくなった。
「この話は関係ない」と言うのも……私が居ない場所で起きた話を、聞かれてないのに話してしまって自分で自分が恥ずかしくなってしまった……という事になるのだろうか?
とっつきがあくまで嘘を吐かせるだけ、と言うのなら私を叩いたり物を隠したりなんてせずに言動だけが変だったのにも納得がいく。
幽霊だのなんだのと飲み込み難い大前提を除けば、今の説明は随分と腑に落ちる感覚があった。
”じゃあ、夜になったらアビドスに向かおう。その原因になった何かを探して壊さないと。みんないつまでもおかしいまま、自分じゃそれに気づけない”
「な、なんで夜なんですか?別に今からでも……」
なるべく早く、そんないわくつきのモノは壊してしまいたいのに。
”今から行くと、多分まだみんな学校に残ってる時間でしょ?……あんまりない可能性だと思うんだけどね。憑いている他の対策委員のみんなが万が一、「体を張って」破壊を止める為に向かってきたら……さ?”
言われるがまま、その風景を想像する。
ホシノ先輩が盾を掲げて前進し、セリカちゃんとシロコ先輩が中衛、ノノミ先輩が最下段からミニガンをぶっ放し、その標準の先に居るのは──。
慌ててかぶりを振って浮かんだ光景をかき消した。……私と先生の二人組で阻止できるような戦力ではない。 - 97二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 02:22:31
「は、はい!私も夜に学校に行くのが良いと思います!」
”う、うん……理解して貰えたようでなにより……”
先生も心なしか顔を青くして私の言葉に賛同を示した。多分想像した光景は一緒だったのでは……。
そんな冗談を考えられるくらいには私の心も持ち直してきていた。
シャーレに駆け込んで来たさっきまでは、途方に暮れていたも同然の状態だったのに。
そして余裕が出てきた頭で少しばかり寄り道した思考が走り。一つの疑問、今まで何故思い浮かばなかったのか不思議なくらいの疑問が浮かんできた。
「あの……先生。私も「つっつき」の影響を受けていた……んですよね?その、倉庫から発見した何かを忘れている訳ですし」
”うん。そうだね。なんというのか、「自分に嘘を吐くような状態」って感じかな?つっつき自身に危害が向かない様に住み着いている「元」の記憶を隠したんだんだね……ほかのみんなも今はその状態だと思うよ”
”アヤネにきつい態度を取った自分にも嘘を吐かされている筈”
やっぱりそうだ。それなら私の記憶のつじつまの合わなさに合点がいく。
「では、なぜ私は。他の対策委員会のみんなのように、嘘を吐く側ではなく、嘘を吐かれる側に回ってしまったのでしょうか?」
”ああ。簡単だよ。つっつきって「口から入って」、「嘘と共に口から出る」ものなんだ。ほら、漢字で書くと「嘘」も「吐憑」も「口」が一番左にあるのに出口が無いでしょ?なら入った口から出るしかない。だけどアヤネは──自分で塞いだから”
つい、と先生が指を刺した先には。私のマスクが。
あ、そういえば私は。体調が悪くなったから、みんなにうつさない様にって思って……マスクを付けた。それが二日前の朝の事。
”こういうのは概念的な意味が大きいからね。アヤネの口が塞がれたからつっつきが入る余地が無くなり……同時にその影響から解放されて、かつ嘘を一方的に吐かれるようになってしまったんだ” - 98二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 02:33:43
”……大体疑問点は解決した?”
先生がそう聞いてくれば、私の返答は決まっている。
「はい、大方。そして……非常に勿体ないですが私達が発掘した何某かは壊すのが最善だと思います……」
”うん。私も同じ考え。一緒だね”
そんな風に私に笑いかける先生に持ち直した心で微笑みを返して……本当に久しぶりに、心から笑みを浮かべる事が出来た。
次は、対策委員会のみんなと。心から笑えるように。
そのままシャーレで夜を待つ。
それが、私が日常へと戻る最初の一歩だった。 - 99二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 02:50:30
その後の事は特に語ることも無く。
無事にアビドスにたどり着いた私達は、部室内のロッカーの上に置いてあった木彫りの鳥……のような物──恐らく私達が物理的に手を出しずらい位置に置かされていたのだろう──を先生が燃やして。燃えカスを先生が持っていき。
あれほど私を恐怖に陥れた三日間(体感)はあっけなく終わりを迎えたのだった。
そして迎えた翌日。
もう大丈夫だと、緊張を抱えつつ校内に足を踏み入れ。そして。
「おはようアヤネちゃん。うへ~、なんか今日は一段と元気いっぱいじゃない?おじさんはもう付いていけないよぉ~」
「あ、おはようございますアヤネちゃん!体調も戻ったみたいで嬉しいです!」
「おはようアヤネ。……あとでホシノ先輩には内緒で「シロコちゃーん?」……なんでもなくなった」
「おはようアヤネちゃん!……もう体は大丈夫なの?」
そんなみんなの「普通」の挨拶を聞いて。私を気遣う一言を聞けて。歓喜のあまりみんなの所へ飛び込んだのだった。
──一人残らずみんなからあやされて頭を撫でられて、年不相応な扱いをされてしまったけれど。今の私には全く些細な問題だった。 - 100二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 03:01:43
うわぁん!これにて「生徒:アヤネさん お題:つ(吐)かれてる」完了です!
今回の話は昨日書ききるべきでした!日を跨いだせいで取っ散らかってしまったし冗長になってしまったしでみんなが豹変してたあたりがピークです!でも明日明後日は会社の飲み会で絶対に書けないので今日中に無理やり終わらせました!やっぱり社会は苦しい事で一杯です……。
こうなったら会社のお金でたっかいお酒を頼むしかないじゃないですか!
えへへ……ありがとうございます……。あなたの苦しみの0.1%でも取り除けたのならよかったです……結局、99.9%は苦しいままなんですけどね……。
曲がりなりにもホラー怪奇物を書いてみて分かりました……化物語のフォーマットの優秀さに……。
現象、理由、対策、結果、オチを順番に当てはめていけばそれっぽくなるんだなっていう便利さ……。特に「対策」があるので1話完結に持っていきやすいのが助かります……!擦り倒してしまいそうです!
- 101二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 07:54:44
一口怪談【月が綺麗な夢】
……先生、月が綺麗ですね。
ここからなら手を伸ばして、掴めてしまいそうなほどに。
……ここ最近はこうしてゆっくりと、落ち着いた時間を過ごすことができて……。
……先生と出会った頃から、かもしれません。
……先生。よろしければこれからも、一緒にいていただけますでしょうか。
私はいつも、つまらないことばかり口にしてしまうかもしれませんが……。
ですがあなたと、一緒にゆきたいのです。
"ごめんね。それはできないや"
"もしその差し出された手を握ったら、生徒のみんなに迷惑をかけちゃうことになるから"
"…それに、自分だけの表現で伝えられなかったのもあるかな"
……手厳しいですね、先生。ですが…そうですね。それでは少しだけ、朝日があなたを照らし目を覚まさせようとする数瞬の間だけ、こうしていさせてください。 - 102二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 12:13:12
- 103二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 19:01:39
先生以外にも怪異ガチ勢とかいたりするのかしら?
- 104二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 19:30:29
- 105二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 22:11:44
おばあちゃんが断末魔の叫びを上げれるくらいになったってことだな!
ヨシ! - 106二次元好きの匿名さん23/09/27(水) 22:53:57
なるほど、フォーマットを使うのか!
- 107二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 03:41:43
ここが「百物語をするヒヨリ」概念ですか
- 108二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 07:18:11
このレスは削除されています
- 109二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 07:53:18
- 110二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 08:36:43
やぁい カンナ
- 111二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 08:39:26
カワズ ヒヨリ
- 112二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 08:40:08
捧げる フウカ
- 113二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 09:45:53
背後霊 セリナ
- 114二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 09:59:12
混ざる ノア
- 115二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 10:15:25
蛇 チセ
- 116二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 12:42:37
- 117二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 12:58:35
- 118二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 16:35:32
やぁいの謎がホラーを加速するのだ・・・多分
- 119二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 17:50:18
訳分からんのがこわいなあ…
- 120二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 19:51:21
キヴォトスって怪異の種はそこらかしこに眠ってそうよな……
- 121二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 20:02:14
やぁいに引っ張られてるけど当たってるの蛇なんだよな……
- 122二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 20:49:58
- 123二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:12:59
便利な物語プロットと蛇であの子が浮かんだのは自分だけじゃないはず
- 124二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:21:04
ヒヨリじゃなくてアツコだったらもう完全に…
- 125二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 01:59:26
(夜中に読まない方が良いタイプのホラーでした、ありがとうございます……。なんだか映像で出力されたらより怖そうです……)
(前回の反省を生かしてちょこちょこプロットなるモノを作ってますが、やはり取り掛かれるのは土曜日です……。なぜ私は私が辛く苦しい目に遭う途中経過を報告しているんでしょうか!?)
- 126二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 03:25:23
ヒヨリちゃんstorage外し忘れてるよ…
- 127二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 11:33:27
- 128二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 13:18:07
- 129二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 13:34:50
主人公が何とか怪異を追い払った後に、利用していた悪人が怪異によって殺される又は憑りつかれるっていう話なら割とある気はするがどうだろう
- 130二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 14:36:05
呪い返しとかあるしアリでは
- 131二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 19:19:16
イメージは「報復措置みたいなノリで放り込まれる怪異爆弾」的なノリ
どっちかというとscp的な印象が強い… - 132二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 19:49:07
- 133二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 20:44:31
- 134二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 22:01:54
SSを書こうとしている錠前サオリだ。
ガチホラーというよりも、仁義なき怪奇戦争になりそうなネタが思いついている……
SCPではないか? - 135123/09/29(金) 22:06:23
(リーダー!?是非是非書いてください!)
(それにしてもプロット立て始めたら今度は「もっと良くなるんじゃないか」の疑念が沸き上がって来て全然書き始められません……何事も一長一短だと学びました……)
- 136二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:22:58
- 137二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:25:36
- 138二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:25:42
SSを一旦書いた錠前サオリだ。
正直なところ、レギュレーション違反になりそうだと思う……
明星ヒマリ、大いに怒る「フフフっ……ならば、戦争と行きましょう!」大いに肩を震わせたヒマリは滅多に出さない大声で己の怒りを表現していた。
「……部長。血圧上がるよ?」
エイミは若干引き気味に様子を伺っている。こんなにも怒り狂ったヒマリの表情を見るのは稀なのだ。
「……ふぅ。少し落ち着きましょう。淡く儚くな病弱美少女ですから、アンガーマネジメントに長けていないといけません……」
自己美麗ですら、若干意味が分からないのだから相当カッカしているらしい。エイミはより引いた。
「さて。何があったかと言いますと」と何事もなかったかのように話し始める。
「私たちが前に回収したモノ、覚えていますか?」
一つ考えてから、あぁと言葉が出た。
「確か、ジャンプスケアをしてくるマネキンの首だった?」
「そうです! いや、そうじゃあないのですが……」
息を切らしながら、ヒマリは続ける。
「単刀直入に言います。攻撃を受けました」
そう言って、一枚の紙を置いた。記号めいた文字が書かれたはがきだ。四方が焼け焦げている。
「これを攻撃って言うのは無理がない?」
とエイミが言ったところで、ヒマリはホログラムを出した。
「これは呪文です。恐らく呪術的でかつ、悪意のモノ……」…telegra.ph - 139二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:26:09
────
よく晴れた青空と、どこまでも広がる草原。気持ちの良い風が吹き抜けていて。ふと目を向けると私達が、なぜか今よりも幾分か幼い姿でそこに居ました。
眩しい太陽の下おいかけっこをしたり、花を摘んだり。虫に驚いたり、川で遊んだり。元気よく外を駆け回って転んで、それでも楽しそうに笑うリーダー……いえ、サオリ姉さん。アツコちゃん。アズサちゃん。そして私。
……一体この光景を見ている私はどの視点から見ているのでしょうか?そんなとりとめのない思考がぼんやりと流れていきます。
私の目に映っている光景は。
辛くなくて、苦しくなくて。なにより虚しくない。
楽しくて、嬉しくて、幸せそうな「私達」。
──こんな時間、私達には存在していない。だからこれはとても幸せな夢。まどろみの中、私はそう確信しました。
──── - 140二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:30:29
- 141二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:33:54
どんな時でもシリアスに成り切らないのがヒヨリの持ち味だけどさてはて
- 142二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 00:04:24
『ヒヨリが目覚めない?』
電波を探して、アジトから幾分か離れた廃墟。どうにか繋がった電話の先、先生はそう返した。
電話越しには多少の雑音。おそらくシャーレの執務室ではなく、外に出ている。
『とにかく、そっちに向かうね。事情は……このまま聞かせて欲しいな』
「うん、ありがとう。三日前の昼……くらいだったと思うんだけど」
さらなる説明をすべく、私は口を開いた。
前日の深夜の不寝番がヒヨリだったから、私が目覚めた時には既に眠そうな顔をしていた。
「あ、おはようございますミサキさん」
「お……はようヒヨリ……不寝番ありがとうね……」
「いえ、私は別に……。確かに寝てなくて若干辛いですが、この程度は別に……それにローテーションですしね、えへへへ……」
そう二言三言挨拶を交わした記憶がある。
後は姫とヒヨリと朝の雑事を済ませて。朝10時頃だったかな。
ヒヨリは仮眠の為に簡易ベット……そう言えるほど上等な寝床でもないけど、とにかく。
ベッドに向かっていって、そのまま就寝した。
最初は、いつものヒヨリの寝坊かと思ってた。
決めた時間になっても起きて来ない。耳を澄ますまでも無くヒヨリが設定したのであろうアラームが徐々に大きくなっているのが分かった。
普段ならアラームを止めて、慌てて私達への謝罪を口にしながら起きてくるタイミング。
「ねえミサキ。ヒヨリって体調悪かったりしたっけ?」
「いや……特にそんな様子は見られなかったけど」
姫──アツコと顔を見合わせながら、思わずそう話していた。相変わらずアラームが止まる気配も、ヒヨリが起きてくる気配も無かった。 - 143二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 00:29:30
疲れが溜まっていたのかも。私とアツコはそう結論付けて、そのまま眠らせておくことにした。
全員が全員体調が良い事なんてそうそう無いし、体調不良者がいる、そういう想定の動き方も私達には叩き込まれているから。そこまで問題視はしていなかった。
それでも、22時を回っても変わらずヒヨリが起きてくる気配が無くて。
流石におかしいと思ってヒヨリに声を掛けて見たんだけど……反応が無い。
声だけじゃなくて体を揺すって見たり、頬を叩いてみたり。でもいずれも──反応が無い。
これは……
「アツコ、」
「──うん。私薬取ってくるね」
アツコには薬を取りにって貰って、その間にも私はヒヨリの様子を伺って見たんだけど。
額に手を当てても熱がある訳でも無く、咳が出る訳でも無く。まったくもって普通に眠っているようにしか見えなかった。
目が覚めない。その一点を除いて。 - 144二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 00:31:34
こりゃヘビーな話だぜ…
- 145二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 01:24:56
このレスは削除されています
- 146二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 01:29:07
「今の所……在庫は市販の風邪薬くらいかな。抗生物質とかあれば…」
そう言いながら戻って来たアツコは数個の風邪薬を抱えていた。
──同時に、遠くから人の気配。少し探ってみれば、どうやら私達を探している訳では無さそうだったけど。
「アツコ」
「うん……ここには留まれないね、移動しないと」
私達は指名手配中の身。姿を隠せないまま一か所に留まると捕まるリスクが高まってしまう。
迅速に荷物をまとめ、その分をアツコが。眠ったままのヒヨリを私が担ぎ。出来る限り迅速にその場を後にした……多少の荷物は放棄せざるを得なかった。
…………
…………
「その後は……緊急用のアジトに一時避難するような形になったんだ」
『そして……そこに居る間も、ヒヨリは目覚めなかった。そういう事だね?』
「……。そう。出来る範囲では色々手を尽くしたんだけど……私達病院にも行けないから。対して何もできなくて……他に頼れる宛も無くて、先生に」
別に先生は医者じゃない、それくらいは分ってる。でもアツコも私も他にどうしようなくて、こうして助けを求める事しか出来なかった。
──それに私には、うすぼんやりとした予感が。もう記憶からも遠くなっているけど、右手首の包帯の下……横向きの多数の傷を縦断するように付いた、引っかかれた様な傷跡が少しだけうずいた気がした。 - 147二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 02:51:37
『事情は分かった……なら、医療に詳しい人間が必要だね。私に心当たりがあるから』
「あ……いや、それは」
『──大丈夫。不用意に秘密をバラしたりする生徒じゃないし、口の堅さは保証するよ。それになりより、診てもらう必要があるでしょ?ヒヨリの事』
その通りだ。私達が持ち合わせている応急手当程度の知識ではもう限界だった。それに。仲間を見捨てる選択肢は、今までならいざ知らず。あの事件を経た私達には存在しない。──その程度には、変わった自覚がある。
ちらり、と端末越しに姫と目を合わせる。こくんと頷くのが見えた。……私達の意思は決まった。
「うん、お願い、先生」
『了解。じゃあ電話を切ったら座標をモモトークで送って。多分現地に集合する形が一番早いと思う。それじゃあ、また後でね』
そう言って先生は電話を切った。
一息ついて、ふとヒヨリの姿を見た。……電話を掛ける前と、いや、もっと前から姿勢も一切変わっていないまま、規則正しく寝息を立てている。寝姿「だけ」なら何もおかしい所はない。
──早くどうにかしないと。そんな焦燥感を抱いたままの私とアツコの元に先生が駆けつけてくるのは、それから一時間程度後の事だった。 - 148二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 02:52:34
あの抽象的なお題からよくもこんなお話をひねり出せるもんだとスレ主には感心する他ない
おやすみなさい - 149二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 12:14:45
すっげえクオリティ…
- 150二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 12:20:47
このスレ眺めてたら唐突に妖怪すねこすりと仲良くイオリの足に纏わりつく先生が振ってきたけどこれどっちが怪異か分からんな
- 151二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 12:51:29
- 152二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 13:09:44
わざとだ......
- 153二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 17:21:21
このレスは削除されています
- 154二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 17:26:49
(セリナって羽生えてたっけ?)
- 155二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 17:29:28
- 156二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 17:32:01
- 157二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 17:33:58
- 158二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 17:36:57
(流石に外見描写ミスは見過ごせないので改稿文を再投稿)
”おまたせ、二人とも”
しばらく待っていたら、そう遠くから声が聞こえた。そちらを見れば、先生が一人でこちらに歩いてきている。
「いいや、そこまで待っては無いけど……一人なの?」
現地集合なんていうから、ここへは医療関係の生徒……?と合流してから来ると思ったのに。
”私はね……でも、もう来てると思うよ”
「……?」
その言葉につられて渡りを見渡すと。
──すみません、お待たせしました!
私達の背後から、言葉を掛けられた。
「「……!?」」
慌てて振り向くと、見慣れない人物……生徒が。白を基調にした制服と、顔に覗かせる羽から察するにトリニティ所属か。そうあたりを付けていると、続けて声を掛けてきた。
「トリニティ総合学園、救護騎士団所属。二年、鷲見セリナです!事情は先生から伺っています。……眠り続けて目覚めない生徒さんの診療ですね?」
「え、?ああ、うん、そう。その……お願いします。私はミサキ。こっちは」
「秤アツコ。よろしくね、セリナ」
そうやって挨拶を交わす。……トリニティ出身、その言葉に少しだけ思う所はある。私も、アツコも。
でもそれは今全く関係が無い。彼女、セリナにはより一層。そして今大事なことは「そこ」じゃない。
気持ちの整理を付ける為に少しだけ逡巡の時間。その間に、先生とセリナが耳に入って来た。
「はい、よろしくお願いします。……その、先生、私でよかったんですか?より知識が必要なら私ではなくミネ団長の方が……」
”うん、彼女たち、色々訳アリでね。……多分二人の生活を鑑みるとヒヨリ、ああ、今回お願いしたい生徒の事ね。彼女の診察だけじゃなくて、ミサキとアツコも問答無用で殴り倒して病院に送っちゃうから”
……耳を疑うほど物騒な会話が聞こえてきた。え?私達病院に送られるの?
「なるほど……それはそうですね。少なくとも見渡した限りから伺える食糧事情だけでも、ミネ団長の救護の対象になるかと」
”でしょ。それはさすがにちょっとね。……万が一やるにしてもあの二人に了承を得てからでないと”
「はい!お話は分かりました。では私は私ができることを全力で行いますね!」
……先生に助けを求めて本当に良かったんだろうか。思わず冷や汗が流れた。 - 159二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 18:31:19
「ミサキさん、アツコさん。それで、ヒヨリさんはどちらに?」
「うん、こっち。付いてきて」
アツコがセリナと先生を先導して先を歩く。私は最後尾からヒヨリの元へ。
てきぱきと機材を揃え、瞬く間に診察する環境を整えていく。
脇に体温計を差し、瞳孔を見て、喉の様子を確認。そこからは私の知識では診察をしている、という事しか分からなかった。
流石に救護騎士団所属という事もあってか、一連の動作はかなり精錬されている。私達は戦闘のための訓練を受けて、彼女は救護の、人を救うための訓練、それに類するものを受けたのだろうと推察できる様子だった。
一通り診察を終えて、私たちの方に振り向く。その表情から、明るい情報は無いのだと推察できた。
「まず断りを入れておきますと、機材も環境も病院には及ばない環境での診察ですから、信頼性は落ちると思ってください。本当に細部まで診るなら病院が確実です。その上で」
そこまで言って言葉を切り、私とアツコの方を見る。一瞬だけ視線を合わせ、頷く。
「はい、では申し上げます。診察の結果、何の異状も見られませんでした。──だからこそ、その結果が「異状がある」ことの証明です」 - 160二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 19:19:50
「熱、咳等の一般的な体調不良に伴う症状は無し。その他の診察を持っても睡眠中である、以上の反応は見受けられませんでした。いたって通常の睡眠状態です。
ここからは問診ですが……この三日間、ヒヨリさんに生理的な反応はありましたか?……食事、発汗、その他ありとあらゆる、身体を生かす為の機能。私の見立てですと、おそらく」
しばらく記憶を探る。
「いや、一切無かった筈。看病の為に汗を拭ってはいたけど、本当に汗をかいていた訳じゃなかった……と思う」
「うん。私が見てた分でも、そういった様子は無かったよ」
「そうだと思います。だから、そこがおかしいんです。数時間の睡眠であれば、環境によってはあり得る話ですが……三日間という長期間において一切反応が見られないのは異常です。そして、そういった反応を示さず「ただの就寝中」という結果を返す身体、ひいてはこの状態こそが普通ではあり得ません」
そう、セリナが診察結果を教えてくれた。
「「異常が無い事が異常」、今この場で分かる結果としてはそう判断せざるを得ません。……私としては病院にかかることをおすすめします」
その言葉を聞いて、瞬間。ヒヨリへ目を向ける。
──セリナの言葉を裏付ける様な、規則正しい寝息が耳に届いた。 - 161二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 21:25:55
なんかきな臭い感じするなァ……
- 162二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 22:01:01
「確認しますが……みなさん食事は同じものを食されていましたか?就寝場所なども同じ場所を?お二人に身体異常が見られないのでこちらの線からの解明は望み薄ではありますが……念の為」
「うん。基本的には同じもの、同じ場所。ただ……木の実とかを採取して食事にしていたことも多いから、全部が全部同じとは断言できない」
「分かりました。では、一週間前から三日前までのおおよそで構いません、滞在場所を伺えますか?もしかしたら採取した食べ物や、環境による虫さされからなどの毒の可能性もありますから」
「分かった、ちょっと待ってて。アツコ……覚えてる?」
「うーん……アジトの場所としては記録を付けてるけど、食事の内容までは。その日その日に採取できるか自体結構運だから」
勿論私達だって毒の無い、体に異常が出ないものを選んで食べている。けど万が一という事も考えて、なるべくぬけの無い様に列挙していく。
なるべく丁寧に一週間前からさかのぼり、滞在場所や食事内容を思い出す。
そして4日前、つまりヒヨリが寝てしまう前の最後の場所。そこの話になった。
「〇〇地区の〇〇神社跡……ですか」
「神社なのか寺なのか良く分かって無いけど……そこってもう何十年前に廃墟になったのか分からないくらい寂れてるんだよね。だから私達が潜伏するにはうってつけで。人の手が入ってないせいか動物も植物も多くて、食べ物にも困らないからよく使ってるんだ」
それに木も生え放題の割に周囲の警戒しやすいんだよね……地形が良いのかな?とアツコが説明する。
「ああそういえば。おなか一杯になるって程じゃないんだけど。ちょっとだけ甘いものが取れるから気に入ってるんだ、私。ミサキもそうじゃない?」
「……別に。何食べたって変わらない。それに、そんな甘い木の実なんてとれたっけ?」
「またまた。ちょっと嬉しそうに食べてるの知ってるよ?──蛇苺、美味しいよね」
そうアツコが発言した時、先生が強くこちらに視線を向けてきた。 - 163二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 22:02:16
蛇……!
- 164二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 22:40:09
先生に顔を向けると、いつになく険しく。青ざめてるといっても良い程。声にかなりの焦りをにじませながら口を開いた。
”ごめん、さっきの場所、正確な座標を教えてもらっていい?”
「え?うん、大丈夫だよ。えっと場所は──」
そうアツコが教える端からマップに座標を打ち込み、表示させていく。手を動かしながらも、先生は質問を止めなかった。
”他に何かいつもと変わった所は無かった?天候、空気、植物、動物……なんでもいいから”
そう言われ、違和感を思い出すように記憶を探っていく。……関係があるか分からないけど、印象に残っている場面が一つ思い当たった。
「そう言えば、三人で食事をとってた時。……それこそ、デザート気分でアツコとヒヨリが楽しそうに蛇苺を食べてた時」
言外に私は違うとにじませながら、記憶をなぞっていく。
アツコが私の言葉を引き取って後を続けた。
「後ろからの物音でビックリしてたよね、ヒヨリ。別に蛇なんて驚くほどの事じゃないのに」
”…………”
険しい様子を崩さず、先生は私達にマップを見せてきた。真上からのアングルで良く分からなかったけど、先程の話と合わせれば件の神社跡だと容易に想像がついた。
少しの間眺めて、アツコが「警戒しやすい」そういった理由に思い至る。そんな私の表情から察知したのか、先生が口を開いた。
”ミサキは気づいた?この神社跡の周り、円みたいになってるでしょ”
林、それよりも木が多くもはや森と呼べる程。それが無造作にではなく。整えられたような円。
「……本当ですね」
「あ、本当だ。まん丸だね」
先程よりも焦りと、そして確信を強めた顔で。先生が言葉を続けた。
”これで検討がついた。ヒヨリは蛇に丸呑みにされたんだ。──最早、一刻の猶予も無い” - 165二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 22:44:17
蛇の口に呑まれた、ってこと?
- 166二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 00:01:15
先生がそう告げる。説明を求めようと口を開こうとした時、セリナから慌てたような声。
「ヒ、ヒヨリさんの様子が……!?」
慌ててそちらを見ると、一見変わりなく寝ているように見えるヒヨリ。セリナが額に手を当て、離す。手を閉じて、開く。その動作を数度繰り返す。開いた掌をよく見るとほんのかすかだけど……湿っている?汗ならむしろ正常な反応な筈なのに、それにしてはセリナの反応が。
「汗ではありません。汗にしては粘度があります。むしろこれは……アルカリ性の薬品を誤って触ってしまった時のような」
その言葉で、嫌な想像が頭を過る。そしてそれを裏付ける、セリナの言葉。
──皮膚が、溶けているのかと。
息を飲む。遅れて「一刻の猶予も無い」、その意味を理解する。
"……ッ!セリナはこのままヒヨリの容態を見て。逐一私に報告をお願い。アツコはヒヨリに声を掛けてあげて。そしてミサキ"
先生と視線を合わせる。
「……分かった。私は先生と行動すればいい?」
”うん、お願い。私に付いてきて”
その言葉にうなずきだけを返す。
そして、私と先生はアジトを飛び出した。 - 167二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 00:02:28
ヒエッ……消化されかかっとる……
- 168二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 00:56:05
先生が大急ぎでタクシーを捕まえ、一緒に乗り込んだ。行先は当然、神社跡。
移動中も先生はどこかに電話をしていた。私の耳にも話の内容が聞こえてくる。……盗み聞きって訳じゃない。距離が近いから耳に入る。それだけ。
”お疲れ、ヒマリ。少しお願いしたいことがあるんだけど……”
意識的に会話の内容をシャットアウトすること数分。先生はまだ会話を続けているようだったけど、突然、電話口を手で押さえて私に話を振って来た。
”あ、そうだミサキ。ハンドガンって使える?”
「……?うん。銃なら一通り扱うための訓練は受けてるから、ハンドガンも使えるけど」
”そっか、ならよかった。……もしもし?うん、それで大丈夫。今から送る……”
何の確認をされたんだろう。まだ先生と電話の相手との会話は続いていて、それを聞くことは出来なかった。
”お願いね。じゃあまた”
更に数分経って、先生は電話を切った。……この事態の最中に連絡を取るという事は、少なからず事情を知っている相手なのだろうか?
「今の電話って」
”ん?ああ、ミレニアム、特異現象捜査部部長のヒマリだよ。元々オカルト的なあれそれにはかなり詳しくてさ。それに部活も相まって「こういう」事情の時にはたまに協力を仰いでいるんだ”
「ふーん、そうなんだ。……まあそれについては別にいいや。それより」
一番大事なことは、私達が向かう先に一体何があるのか。そして、私たちは何をしなければいけないのか。
”うん。到着までまだあるし。詳しい説明、必要だよね”
先生の言う「蛇」。それについて理解しない事には、ヒヨリを助ける手がかりさえ掴めない。 - 169二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 02:21:36
”元々はお呪い……いや、それよりも質の悪い、「願掛け」の方が正しいかな。あんまり生徒に聞かせたい話じゃないんだけど……まあ仕方ない”
先生は本当に嫌そうな顔をしている。いつもなら別に言いたくない事を無理に聞かないし聞く必要なんてないけど、今はそういう訳には行かない。
”分かってる、話すよ。元々は──”
──自殺の為の願掛けなんだ。
先生はそう話した。
まだ、目的地へはたどり着かない。
”睡眠薬を多く飲むタイプの自殺、あるでしょ。その薬の中に木の実を、「蛇苺」を一粒入れ。合わせて飲み下す。そうすると、「必ず幸せな夢が見られる」。そういう願掛け”
”首が絞まり息が苦しくても、高い所から飛び降りても。水を肺まで飲み込んで溺れている時にも。最期に幸せな夢だけを抱いて”
”そういう類の、お呪い。願掛け。……ね?先生としては生徒に聞かせたい話じゃないでしょ?” - 170二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 02:24:35
うわあ…よりによってミサキにその話をするのか…
- 171二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 12:42:07
蛇の消化時間って大きさにもよるけど大体1週間ぐらいだったかな
眠ってから3日目だとそろそろヤバいくらいの時間か - 172二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 13:27:03
- 173二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 18:31:15
……生徒に聞かせたくない、先生はそう言った。もちろんそれは嘘じゃないと思う。でもおそらくは「私」に伝えたくなかったんだろうと、そう思わせる表情だった。
自らの首元に──包帯の下の傷跡に、無意識に手を伸ばしていた。
「……願掛けの内容は分った。でもなんでそれでヒヨリが?だってヒヨリは別にそう言った願いなんて持ってないし、睡眠薬だって飲んでない。それになんで蛇苺?」
車内に流れる沈黙が嫌で。先生のその表情を見ているのが嫌で。疑問を次々取り出して先生にぶつけた。
”元々蛇って怪談、呪い、そういう話には事欠かないからさ。それらが色々混ざって出来上がっていったんだと思うんだけど……本題はそこじゃないから後回しにするとして”
”今回ヒヨリが目覚めなくなってしまった原因は、意図せず願掛けの動作を行ってしまったこと。願掛けの肝は蛇苺を飲む。噛まずに、丸呑みする”
”蛇苺はつまり「ヘビの実」、もしくは「ヘビの身」。それを飲む。──転じて「蛇呑(へびのみ)」の願掛け……いかにもって感じでしょ?” - 174二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 18:32:10
「でもそれなら私達も条件は同じな筈だけど……」
話の内容は相変わらずだけど、それでも沈黙よりはマシ。そうどこかで考えながら、あの日の事を思い出す。
アツコの言う通り確かに私達はデザート代わりに蛇苺を食べてて、ヒヨリも当然蛇苺を口に運んで、背後からの蛇に驚いて。……あ。
「……そうか。ヒヨリは驚いて思わず、噛まずに飲んで、丸呑みにした?」
”そうだと思うよ。そこが二人が起きてて、ヒヨリが眠ってしまった最大の違い。後は、場所。「こういうの」って場所が問題になるってのはミサキはもう知ってるでしょ?”
「……まあ、それは。身を持って知ってる」
”裏を取る時間は無かったけど、その日に拠点にしていた神社跡って多分蛇を祀ってた神社なんだよね。しかもただの蛇じゃなくて、「自らの尾を呑む蛇」を祀っていた神社。そしてその蛇は今もそこにいる”
”答えから計算式を埋めていくって言うのかな。普通に蛇苺を食べただけじゃこうはならない。なら願掛けを呪いに昇華した原因がある筈。そして、これ見よがしに神社跡があって、ダメ押しは──”
そう言って先生は端末へ、神社跡のマップを表示した。
”この円は、多分、蛇の這いずり跡。”
「蛇行している跡じゃなくて、円の形をしているから。だから普通の蛇じゃなくて……輪になっている蛇が、「自らの尾を呑む蛇」が祀られていた。そういう推論」
”そういうこと。つまり。「蛇呑(へびのみ)」の願掛けを、「自らの尾を呑む蛇」が祀られている所で行った。結果、「幸せな夢を見る」願掛けが歪んだ形で成就して昏睡状態。そして尾と一緒に吞み込まれ、蛇の腹の中で溶かされ始めている”
なんとなくは理解できた。要するにヒヨリは運とタイミングがこれ以上なく悪かったんだ。……ヒヨリらしいといえばヒヨリらしい。 - 175二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 19:14:45
”全部状況証拠からの推察でしかないから、念の為ヒマリには裏取りをお願いしてる。他の可能性を当たっている暇はないから、この推論に沿って私達は動く。それでいいかな?”
そう問いかけてくる先生。聞くまでも無い事なのに。
「元々、先生にリードは渡してる。シャーレに来た時、そう伝えたと思うんだけど」
”そう……だったね。じゃあ改めて。お願い、ミサキ”
なぜか少しだけ気恥ずかしさが湧いてきて。先程とは違う意味で沈黙が嫌になって。強引に会話を続けた。
「……とにかく。原因は分かったけど、具体的に私達はどう動くの?仔猫の時みたいに謝るとか?」
”時間に猶予があればね。呪いをかける方法があれば、呪いを解く方法もある。それこそ、謝って勘弁して貰うのもそれに該当する……だけど、今回は元々は願掛け、つまりお願い事だから。決まった解く方法って無いんだよ”
一度叶えて貰ったけどやっぱ無し。そういうのは筋が通らない。多分そういう話。
”もちろん願掛けから変質して呪いじみた効果になった以上、解く方法も探せば見つかると思う。だけど。ヒヨリが、正確には精神だけが飲まれてから三日。そして現実の体に影響が出始めた以上、手段は選んでいられない”
「……つまり?」
”蛇の腹を掻っ捌いて、強引に引っ張りだす。速さを求めるならこれしかない” - 176二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 23:01:13
普段の先生からはかけ離れた物騒な発言。
「だいぶ危険なような気がするけど……そうしないといけない程ひっ迫してるって事だよね」
”うん。一般知識をどこまで適用して良いかは分からないけど、蛇が消化にかける時間はおおよそ一週間。そしてもう既に三日経過してる”
普通の蛇でも、既に消化が終わる日数までの折り返しに入ってきている。ましてや、その常識に当てはまらない相手なら。
「……作戦は?」
”そこまで凝った作戦は考えついてないよ。いたってシンプル。純銀のナイフで蛇の腹を裂いてヒヨリを救出。蛇の腹を裂くのは私がやるから。ミサキには索敵と防御をお願いして、終わったら直ぐに逃げ帰る”
相手は仔猫の時より強い相手。あの時の事を思い出し、恐怖で身が竦みそうなる。だから、作戦。
その言葉を使えば。私はアリウススクワッドの構成員として冷静に動ける。
そうして恐怖を心の片隅に追いやって、作戦に意識を集中させた。
先生も流石に普段よりはぎこちなかったけれど。それでも私に笑みを向けて。
”大丈夫。すぐ終わらせて、ヒヨリを連れて帰ろう”
その言葉と共にタクシーが止まる。神社跡はもう目の前だった。 - 177二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 01:26:06
タクシーを降りて、神社跡へ向かいしばらく歩く。そうすると、木の陰に隠れてミレニアム製のドローン止まっていた。
”お、ちゃんと届いてるね”
そう言いながら先生がドローンに近づいて開封し、中身を取り出していく。出てくるのは数枚のお札とナイフと……ハンドガン?
”はい、ミサキ”
先生が手渡してきたのはその内のお札。そして拳銃。作りはごく一般的なもので、ミレニアムでの流通品。
「これは?……タクシーの中で手配してた応援ってこれの事?」
”そう。ヒマリにお願いしてたアイテム群。急いでたせいで碌に準備も出来なかったから、それを補う為の。そのお札は防御用だから常に身から離さないで。出来れば内ポケットが望ましいかな。そして、こっち純銀の弾丸を撃てるミレニアム謹製のハンドガン。ただ、急いだからワンマガジン分しかストックが無い。撃つ判断はミサキに任せるね”
見たところ、先生はドローンに入っていたものはナイフ以外全て私に寄越してきた。これだと銃はともかく防御用の品が、先生に何も残ってないように見える。
「これ……いつかの護摩?みたいな効果があるんでしょ?全部渡してきて、先生の分はどうするの?」 - 178二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 01:26:25
”ん?ああ、私は常備してある分が入ってるからね。こっちは大丈夫。心配してくれてありがとう”
そう言って胸のあたりを数回叩いた。きっと胸ポケットにでも入っているのだろう。
「作戦のおさらいだけど。このまままっすぐ神社跡……境内まで歩いて行って、蛇の本体までたどり着く。そうしたら先生がナイフで腹を切り開いて、ヒヨリを引っ張り出す。終われば一目散に逃げる。それであってる?」
”うん。後は、ミサキにはヒヨリへ声を掛け続けて欲しいんだ。今どの位置にいるのか、少しでも情報が欲しい。もしかしたら、返事が返ってくるかもしれないし”
「了解。……こっちの位置がばれるけど、それはいいの?」
”どうせ腹を裂く段階ですぐにばれるからね。ここまでやった所で結局明確な対策は打てないから。なら、こっちの強みだけを押し付けた方が良い”
「分かった」
先生の声に返事を返しながら、銃を一通り点検する。マガジンもスライドにも特に問題は無し。一度くらい試射して使用感を確かめたいところだけど、そんな時間も弾も無い。
……こんな時だけど、少しおかしくなってしまう。劣悪な環境での作戦実行。つまり、いつもと変わりない。そう思えば、少し冷静になることができた。
そうして一つ息を整え、先生の号令に合わせる。
”じゃあ、作戦開始”
その言葉に頷きを返して、神社跡の境内へ──蛇の元へと歩き出した。 - 179二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 02:37:04
一歩一歩と歩みを進めるごとに、見られていると感じる。ここを拠点にしていた時には感じなかったことが不思議な程。
仔猫の時にも似た、蛇からの視線。ただし、今私達を見ているのは普通の蛇だ。感覚で分かる。自分でも不可解だが、視線が「生きている感じがする」。
あの時より正確に視線を意識できるのはなぜなんだろう。あの時の私は知らない世界があって、今の私は知っている。その違いなんだろうか。
蛇たちは動き回っているのか、体と地面をこする音がそこかしこから聞こえてくる。私達を……警戒している?
安全装置を外したまま、引き金に指をかけたまま慎重に歩く。横を見れば、先生も緊張を隠せない面持ちだった。前の時には、もっと余裕があったように見えたのに。
しばらく境内へと続く階段を上る。その間にも至る所からの蛇の視線は止むことがない。まるで、いつでも飛び掛かる準備が出来ている、そう告げるような視線。
「ヒヨリ」
名前を呼ぶ。一段と視線が強まるが、別に声を出す前からこちらを見られていた。つまり、さっきまでと何も変わらない。そう自分に言い聞かせて、歩みは止めない。進み続け、本来なら鳥居があったであろう位置の一歩手前まで。
更に名前を呼ぶ。
「ヒヨリっ」
更に視線が強くなる。そして普通の蛇でない、言うなれば「生きている感じがしない」視線が纏わりついてくるのを感じた。おそらくこれが、ヒヨリを飲み込んだ蛇の視線。構わない。元から、隠れてなんていない。
普段の声量ではあり得ないな。自分でもそう思う程大きな声で名前を呼んだ。
「ヒヨリっ!!」
同時に、鳥居を──境界線を超えた。 - 180二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 03:48:05
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- 181二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 03:58:07
瞬間。
空気が変わった。同じだ。「〇〇通りの路地裏」に踏み入れた時と。ここが「蛇の巣」。本能がそう叫ぶ。
ヒヨリを飲み込んだ蛇の視線も、「生きている感じがする」ものに変化している。多分、私が鳥居の先へ足を踏み入れたから。
視線も、気配も強く意識して無視し、声を掛けたヒヨリの反応を探す。……ダメだ。無視してもしきれない程、蛇の気配が大きすぎる。先生の方を見ると、周囲に忙しなく視線を向けていた。私と同じくヒヨリの居場所を探っていたのだろう。成果は芳しくないようだけど。私も先生も決定打を打てていない。一秒ごとに緊張が高まっていく。私もいつまで冷静でいられるか。
焦りが思考を支配する前に。そんな思いで口を開く。
「先生!蛇の注意を引いて!」
できるかどうかは分からない。でも、きっと先生ならやってくれる。……大人を信頼するなんて。本当に自分は変わったんだな、どこか他人事の脳の一部分が自分にそう囁いている。
私の言葉を聞いて、先生は直ぐに動いた。懐にしまっていたナイフ──輝きを見るに、あれも純銀製だ──を取り出し、順手に構え、切っ先を蛇の視線の出所へと。近接格闘の初歩の初歩さえ学んでないことが丸分かりの、素人同然の構え。
それでも一斉に、私へ纏わりついていた視線が無くなった。違う。先生の方へ向いた。自分を攻撃しようとする意志、動作に反応したんだ。
一瞬のチャンス。ここを逃す訳には行かない。
「ヒヨリっ!!」 - 182二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 04:46:36
全神経を研ぎ澄まして、ヒヨリの気配を探る。つまり、蛇から発せられることのない人特有の衣擦れ、呼吸音、視線。そういった諸々の位置。それを探した。
……。
…………。
あった。ヒヨリの気配。
右斜め前5メートル地点の、「空間」。何もない筈の中空から、蛇のモノでない気配、つまり今の場合は息づかい。人の寝息。それをほんの僅かに感じる。
「先生!そこ!」
少し、けれど確かに感じた感覚を頼りに指を指す。私の声を聴いた先生もその地点に向かって走り出し、ナイフを振り被る。
蛇の気配が殺気に変わる。今にも自分への脅威を……先生を排除するという、そういう殺気。でも先生は、多少の恐怖こそ表情に浮かべはしつつも、全く驚きも慌てもしていない。予想していたかの様にそれを受け止めていた。
まさか。先生は予めこうなることが分かっていた?役割分担は私に危険なことをさせない為のカモフラージュ?
ほんの一瞬の間なのに、驚くほど思考が回る。一度気づき始めると、他の違和感も顔を出す。
──私達のアジトに駆け付けた時には蛇、というか「こういう類の話」という扱いはしていなかった。
──碌に準備ができていないと、ドローンの物資を分担している時にそう言った。
──胸ポケットを叩いた時、実際にお札を取り出しはしなかった。
全て憶測だ。根拠としては薄い。索敵と防御役が私に適任なのも、救出役は先生が行った方が効率的なのも事実。
思い過ごしならそれでいい。でも予想が当たっていたら?先生が。蛇に殺される。それはダメだ。
──殺すつもりだったくせに。それを許容したくせに。引き金を引いたのは私じゃないなんて、言い訳としてすら烏滸がましい。そんな自分がどの面を下げて。
頭の中が滅茶苦茶だ。でも。先生には死んで欲しくない。あの時とは違う。こんな私達でも変われるのだと、変わっていいのだと教えて貰ったんだ。
変化の途中だけど。根本に抱く思いは、いまだ変えられていないけど。それでも。確かに私は変わっている。
そんな混沌とした思考を全て吐き出すように。ヒヨリを助けて、先生も死なせない。その思いの丈を全て言葉に込めて。
……今後の人生でこんな大声は二度と出せない。間違いなくそう思えるほどの声で叫んだ。
「ヒヨリっ!!起きて!!」 - 183二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 04:49:28
- 184二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 05:06:20
────
幸せそうな私達を眺めながらまどろみの中にいて、一体どれほど経ったでしょうか。
辛くなくて、苦しくなくて。なにより虚しくない。
楽しくて、嬉しくて、幸せそうな「私達」。
私としては珍しく微笑んですらいたと思います。だって、こんなにも幸せな光景なんて、現実では見られないんですから。
そんなことをつらつらと考えていたら、「私達」の中の一人がずんずんと私へ近寄ってきました。はて。私は私自身がどこにいるかも良く分かってないのに。そんな風に依然ぼんやりとしていました。……そんなことはお構いなしと駆け寄ってきたのは……ミサキさん?
──ヒヨリっ!!起きて!!
そんな普段では考えられない程の大声量に、私のまどろみは一気に吹き飛ばされました。
……ああっ!私一体いつまで寝てしまっていたんでしょうか!?いくら不寝番の翌日とはいえここまで寝坊したら流石に怒られます!というか今実際に怒られました!
「すっ、すみません!すぐ起きます!昼ごはんも準備しますから!!」
いつまでも夢に浸っている訳には行かなくなりました。さあ、すぐに起きて謝らないと。こういう時、意外と姫ちゃんの方がじわじわ突っついてきて辛いんです……。ミサキさんはスパっと済ましてくれるんですが。
やっぱり、現実は辛くて苦しい事ばかりです……まあ、今回は100%寝坊した私が悪いんですけどね、えへへへ。
若干の名残惜しさも感じつつ、私は目を覚まします。
いつかまた。こんな夢を見れたらいいなと思いながら。
──── - 185二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 05:08:34
- 186二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 05:10:53
- 187二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 05:29:33
とりあえず乙
- 188二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 07:01:00
凄い夢中で読んでしもた…
- 189二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 17:13:03
何とかなりそうで良かったが、問題は助けた後だよな
蛇の神様は執念深い - 190二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 17:41:29
霊的な格の高いものと本人の一部(髪とか)を使って精巧な似姿の式神を作ってそれを身代わりの贄として捧げる、とかがありそうな方向性だけどどうだろうね
- 191二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 00:08:39
──しゅみませぇぇん……すぐぉきますぅぅう……ひゅりごはんもじゅんびしますうぅぅ……
「………………」
”………………”
……なんだかものすごくふにゃにゃしたのヒヨリの声が、私の指差した先。変わらず右斜め前5メートル地点。その中空から響く。
実際の声が聞こえている訳ではない。ヒヨリ自身はアジトで寝ているのだから。それでも空間に聞こえたあの声は確実にヒヨリだった。
寝起きの。
”………………”
「………………」
思わず先生と目を見合わせる。振り被っていたナイフもいつの間にか降ろしていた。
……さっきまではもっと緊迫した雰囲気だったのに。先生が死んでしまうとか、ヒヨリを助ける事とか。そういったあれこれで頭の中がぐちゃぐちゃになっていたのに。そういったのが全部どこかに行ってしまっていた。
私達の、特に先生の敵意と攻撃動作が無くなったせいか、蛇からの殺気もかなり落ち着いている。依然視線は感じたまま。
”……あー、そういう事か……。いや、ちょっと考えれば分かることではあった。ちょっと焦りすぎてたなぁ……”
「え?何?どういう事?ヒヨリの救出は?」
”うん。もう大丈夫。ミサキが上手くやってくれたから。ほら、すぐに分かるよ”
「……私が?」
ヒヨリを探すために声を張り上げていただけだと思うんだけど。……混乱を抱えたまま、先生の言葉の続きを待つ。 - 192二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 01:26:47
十秒か二十秒か。数えればその程度の時間経過。中空にあったヒヨリの気配が段々と薄くなって、違う。これは多分、移動している。方向は私……いやその後ろ、「私達が来た道」へ進んでいる。
そのまま進んでいき、鳥居を超えたあたりで気配は完全に辿れなくなった。
「もしかしてアジトに……帰った?結局何がどうなったの?先生は納得がいっているみたいだけど、私はさっぱり。出来れば説明が欲しい」
そんな疑問に先生は、いっそ笑いを堪え切れない様子で返した。……まだ私達は蛇の巣にいて、ほんの一分前には蛇に今にも嚙みつかれんばかりの敵意を向けられていたのに。もうほとんど気にしていないみたい。
”ミサキの言う通りだと思うよ。ま、場所も場所だし。説明は帰りながら……あ、そうだミサキ。さっき預けたお札、一枚貰える?”
その言葉で、さっきまでの思考を取り戻した。何をするかは知らないけど、私にそれを要求するって事は。自分の推理に確信を持つ。あれは正しかったんだ。先生は自分の身を守る術をすべて私に回していた。──あのままなら先生は恐らく。 - 193二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 01:27:25
そんな考えが顔に出ていたのか、先生を半分睨みつけるような視線になっていたと思う。……先生はなぜ睨まれているのか分かっていないようだけど。懐から一枚取り出し先生に渡す。
「……別にいいよ。元々私のモノじゃないから。それで、何に使うの?」
”ありがとう。身代わりというか、そんなもの。ヒヨリは私達が連れて……自分で帰ったけどとにかく。経緯はどうあれこの場にあるモノを私達が連れて行く訳だから。それ相応の代わりは置いて行かないと”
お札を受け取りながら、同時に全く自然な動作で手に持ったナイフを左手の人差し指に当て、そのまま裂いた。
止める間もない程滑らかな動き。鮮血が零れ落ちる前にお札に指をあてがい。なにやら書かれている文字の上から、自らの血文字で上書きしていく。
”まあこんなもんかな。後は置く場所を……”
そう言って先生はしばらく視線を動かし、ある一点で止めた。その視線を辿った先には神社の本殿。正確には本殿跡と言うべきか。「廃れる」の言葉通り、何かの屋根の名残程度が残っている場所へ、そのお札を置いた。
お札を置き、手を離した瞬間。蛇たちの視線が私達から外れる。もちろん全てではないけど、ここに来た当初と比較しても雲泥の差といえる量まで減っている。
"じゃあやることもやったし帰ろうか。長居してこれ以上彼らを刺激しても良い事ないからね"
そう言って先生は来た道を引き返していく。そのまま鳥居を跨ぐ一歩手前で止まり、振り向く。私を待っているんだ。
「……了解。帰ろう、先生」
依然として状況に取り残されてはいるけど、ヒヨリが無事だった以上確かにこの場に残る必要はない。
先生の後を追う。追い付き、並び、二人同時に鳥居を──境界線を跨いだ。
蛇の絡みつくような視線は、そこで途切れた。 - 194二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 03:07:57
鳥居を跨いだ瞬間、空気が変わったことを肌で感じる。戻ってこれた。その確信が胸中に広がり、深く息を吐く。
先生と二人、肩を並べて。来た時よりは速く。でも心持ちは穏やかに階段を下る。
「で?結局何がどうなったの?……後半、作戦通りの事が一つも起きなかったんだけど」
帰り道の最中、先生に説明を求める。私が分かっているのはヒヨリが助かった事だけ。後は状況に流されるがままだった。
”ん?ああ、簡単な話だよ。蛇の腹を裂くだなんて物騒で危険なことをしなくても良かった。ほら、願掛けの内容って覚えてる?”
そう言われて、タクシー内での会話を思い出す。確か。「必ず幸せな夢が見られる」。そういう願掛け。色々と歪曲はしたけれど、元はその願い。
”「幸せな夢を見る」ってつまり──寝てるって事でしょ?だから、ただ起こせば良かった”
……それだけ?でもそれならアジトで散々……あ。そうか。アジトにはいわば体しか無かった。だからヒヨリには聞こえなくて。ここに、神社跡に。直接起こしに来る必要があった。
”来る時に話したじゃない?「呪いを解く方法もある」って。今回で言うと「直接起こす」のがそれだったんだよ。私は焦って検討すら出来なかった呪いを解く方法。それをミサキはダイレクトに引き当ててくれたんだ”
……なるほど、と思わなくもない。寝ているなら起こす。遠くから声を掛け、起きないなら近くで直接。
整理してみれば実に簡単な話。
あはは、と先生はバツが悪そうに笑っている。まるで危険な方法を取ったことを後悔するように。その顔を見ているのが、なぜか嫌で。笑い声を遮るように口を開いた。
「──検討しなかったのは時間が無かったから。確実性が無い事に時間を浪費するより、危険でも必ずヒヨリを助けられる方法を選んだ。それだけ。私が正解を引けたのは……ただの結果論」
だから、自分が悪かったなんて顔はして欲しくない。
後半の言葉は口から出せずに。自分の内に留めた。
”……そうだね。そう言ってくれると助かるよ”
丁度会話に一区切りがついたあたりで周りを見回すと、タクシーを降りた場所。
同時に先生の端末が鳴り、先生が直ぐに取る。電話越しに漏れ聞こえるセリナの声色から、内容はすぐに察しがついた。
”ヒヨリが目を覚ましたって!”
「そう。ならよかった」
こうして私達は帰路に付く。道中、蛇を見かけることは無かった。 - 195二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 04:03:57
その後の事は特に語ることも無く。
寝すぎたせいか、いまだに寝ぼけた顔をしているヒヨリと。抱き着いて喜ぶアツコ。セリナだけは病状を記録したりと油断を見せない様子だったけど。それでも。浮かべる表情からヒヨリの無事を喜んでくれている事が分かった。
……先生は直ぐに左手の切り傷がセリナに見つかって、怒られながら手当をされていた。それも一通り済めば。
「では!私は次の現場がありますので!」
そんな快活な挨拶を残して去っていった。……何故か先生も引きずられていったけど。
──
──
「えぇ!?私三日も寝過ごしてたんですか!?……ご迷惑をおかけしてすみません……あ、でも久々に一杯眠れてよかったです……えへへへ」
改めて話を聞けば、ヒヨリはどうやらこの三日間の事はあまり覚えていないようだった。……寝てたのだから当たり前と言えば当たり前か。
「別にいいよ。その分働いてもらうから」
「あっはい……仕方ないですよね。……サボりの反動がすごく辛いですが、大丈夫です。慣れてますので……」
何の気なしの発言だったんだけど、どうやらいつもの様に重く捉えたようだった。……何も変わるところのない、普段通りのヒヨリだった。その姿に安心を覚えていると。
ヒヨリの背後から、アツコが顔を出してきて、会話に混ざってくる。
「あんまりいじめちゃダメだよミサキ。はいヒヨリ」
「アツコちゃん……?私にプレゼントをくれるなんて……すみません……」
「うん。快気祝いのスイーツ」
そう言ってヒヨリの手を掴み、何かを乗せた。
「みんな大好き蛇苺!……なんちゃって、ただの飴──」
「うわぁん!私これのせいで寝過ごしたってみなさん言っていたじゃないですか!?流石にもう食べたくありません!!」
そんな会話を背に、哨戒の為に外に出た。いつも通りの周辺への警戒。
そして、一抹の。蛇への警戒を残しながら。 - 196二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 04:25:17
うわぁん!これにてようやく「生徒:ヒヨリ お題:蛇」完了です!
前回はつらつらと書き連ねるだけだったので、今回は読みやすさを意識しようとしたら途端に執筆速度が落ちました!両立は難しかったです!
あとどうしても195までで書ききりたかったので後半滅茶苦茶削りました!漫画などで「削ったページ」がたまにオマケで載せられる理由が分かりました……入れたくても入れられない事ってあるんですね……
そして今回の話の間は合間合間で私を出さないって決めていたのでリーダーの書いた>>138の話と、そして>>151に乗せられた話に反応できませんでした!書いていただいてありがとうございます!レギュなんて無いです!なんでもありありのバーリトゥードです!!
おかげさまでおじいちゃんもご飯が食べられるくらいには回復してきてます!ベアトリーチェおばあちゃんは……なんか「キエエキエエセンセエ」うるさくなってきたので後で蛇イチゴを与えておきますね……
極めつけは導入(>>139)でミサキさんをまさかの描写忘れというありえないミスやらかしました!……これが正直一番辛いです……
何はともあれここまでたくさんの怪談、怪異譚を書いて頂いてありがとうございます!おかげさまでおじいちゃんは快復に向かっている事でしょう!
またおじいちゃんの容態が悪くなったらスレ立てするので、その際は怪談、怪異譚を投稿して頂けると助かるおじいちゃんが居ます!おばあちゃんは捨て置いていいです!
ありがとうございました!
- 197二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 04:31:30
乙
とっても面白かった! - 198二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 04:57:40
ありがとう怪談をするヒヨリちゃん
- 199二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 06:04:13
お疲れ様でした
面白かったです - 200二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 08:57:14
おつ!
いいSSだった!