- 1二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:27:02
「ね、ねぇ、先輩嫌いな食べ物とかあるのかな?」
「先輩に聞けよ」
「聞けないよ先輩の連絡先知らないし!」
「じゃあ直接会った時とかに聞いておけばよかっただろ」
「無理だよ~!先輩と面と向かって話すってことでしょ!?」
「お前これ何の準備してるんだよ」
小学校を卒業し、中学一年の夏休み。
特段やることの無い俺と違って忙しいトレセン生のはずのミラ子は自宅の台所で右往左往していた。
本格化しているわけでもなければ選抜レースでスカウトされたわけでもないらしく、こうして夏休みに帰ってくることもできるらしい。
で、彼女が帰ってきた理由だが
「とにかく、普段の私のご飯みたいな茶色オンパレードじゃだめだ。可愛いお弁当にしないと」
「男からの意見だが、ぶっちゃけ茶色いほうがありがたいぞ?」、
小学校の頃から好きだった先輩が部活の大会に出るという情報を聞きつけたらしく、観戦&手作り弁当を渡すのが目的らしかった。
その弁当作りの手伝いとして、隣の家で朝っぱらからすることもなく適当に二度寝しようとしていた俺が駆り出された。母親とやれ。
とはいえコイツがその先輩と話してるところなど小学校時代含めて数回しかみたことない。
しかも、同じ学校だからわかるがその先輩の弁当ギャラリーは割と多い。ハイエナのような目をした女子生徒達が虎視眈々と先輩を見つめている光景を何度も見た。
そんな狼の群れにこんな羊が突っ込んだところで何ができるだろうか?
「うさぎさんの形にカットして~」
そんな俺の心配は他所に、当の羊はメニューが決まったことでさっきとは真逆のテンションになっていた。
「先輩ね~とっても足が速いんだよ~」
「お前のほうが速いだろが」
「あとね、力も強いんだって。投げたボールがビュンって飛んでいくんだって」
「お前のほうが強いだろが」
「私のことはどうでもいいの」
割とどうでもよくないと思うぞ。
連絡先聞けないくらいの親しさの先輩を好きになった理由が足の速さとか力の強さで、それが自分未満っていうのは。
それ、「好き」じゃなくて「憧れ」っていうんじゃないのか? - 2二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:27:17
我が母校のグラウンドが会場にも関わらず、割と大きめの大会だったようで、弁当ガールもいつもより多かった。
中には他校の女子までいた。
まあ俺の横で顔を赤くしながらずっと下を向いてるウマ娘も他校の女子なんだが。
その手に持ってる弁当が完成した時の威勢はどこ行った?
「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!」
試合が終わった。
弁当ガールズの戦いはここからはじまる。
彼女らは試合が終わるとマウンドにいる先輩のもとへ我先にと駆け出し、最初に辿り着けた者が見事弁当を手渡す権利を得る。
勝負は一瞬。
常にスタートダッシュは遅いが逆に言えばそれを解決すればウマ娘のスピードで無双できるはずのミラ子の背中を押そうとしたその瞬間
「マネージャァァァ!!」
マウンドの先輩がデカい声で自チームのマネージャーの名を叫んだ。
「試合勝ちました!約束通り、あなたを全国に連れて行くことができました!!俺と!!!付き合ってください!!!」
マネージャーが小さく「はい」と言った。
歓声が沸いた。グラウンドは熱気に包まれた。
その一方で、観客席の気温は真逆だった。
走り出していた弁当ガールズ達は完全に硬直していた。
そして、ミラ子は
「あ!おいミラ子!」
無言で逆方向に走り出していた。 - 3二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:28:07
ウマ娘の脚に追いつくことは難しい。というか不可能だ。
そんな生き物に全力疾走でどっか行かれたら、探すのに鬼手間かかる。
「………」
もうすぐ日が沈むような時間になって、俺は公園で一人でブランコに乗ったミラ子を見つけた。
渡せなかった弁当を、膝に乗せて。
「ここにいたか」
空いていたミラ子の隣のブランコに腰かける。
ふと横を見ると、弁当の包みには大粒の染みがいくつも出来ていて、そっと目を逸らした。
「あのマネージャーの人、先輩と同じクラスにいたね」
「あぁ。よく考えたら割と一緒にいたな」
「そういう噂とか、立ってなかったの…?」
「中学ではクラス違ったらしいから」
「そっか……」
子供たちが帰った後であろう公園で、ミラ子の呟きが寂しそうにこだました。 - 4二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:28:26
「……弁当寄越せ」
「え?」
ミラ子の膝から弁当を取り、包みと蓋を取っ払い、中の物を手づかみで食べる。
「ちょっと何で食べてるの!?」
「俺が作ったものでもあるんだ。俺が食って何が悪い」
「何その理屈!?」
戸惑うミラ子を無視して弁当をかっこむ。
「あの先輩はさ、多分自分の道を支える人を選んだんだよ」
顔つきのおにぎりもをかっこむ。
「けどお前が選んだ道は違うだろ?」
ピンを刺したミートボールをかっこむ。
「お前の道は、お前が主役になるための道だ」
花の形のゆで卵もをかっこむ。
「だから」
最期にりんごの兎を口に放り込む。
「今度は、お前を支えてくれる奴にでも作ってやれ」
空の弁当箱をミラ子に突きつける。冷めてるのに、どれも美味かった。
「ごちそうさん。悪い、お前の分は無くなった」
「………うん」
弁当箱を受け取るミラ子は、驚きすぎたのかもう涙を流していなかった。
「さ、帰るぞ」
よかった。コイツのそういう顔はあまり見たくなかったから。 - 5二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:29:59
終わり
よく見る展開ですが、暖かい目で見てくれれば幸いです…… - 6二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:38:21
お前が支えるんだろうが!
- 7二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:40:11
ミラ子がトレセン行かなかった世界線の話?
- 8二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:45:16
トレセン生って1に書いてある
- 9二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 21:52:13
アニメの映像が浮かんできた
- 10二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 22:00:16
本当にミラ子が普通の子なんだよな…命短くなくても恋してくれ乙女
良き - 11二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 22:00:50
割と好きよこういうベタなの
- 12二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 22:04:43
この幼なじみもしかしなくてもミラ子のこと好きだろ
- 13二次元好きの匿名さん23/09/25(月) 22:47:13
切なくて甘酸っぱくて堪らないじゃない
- 14二次元好きの匿名さん23/09/26(火) 08:57:43
ここから憧れを卒業して本当の恋を知っていくんだよね……