「イブにわざわざ誘う意味、分かってんのかよ……」

1オーヴェロン21/12/25(土) 00:25:44

「さて、と……」

クリスマスイブの夜。モデルの仕事が終わってから、アタシは学園に居た。理由は単純、クリスマスイブに遅くまで仕事をしてるバカヤロウを連れ出すため。

「……やっぱり」

案の定、トレーナー室は明かりが点いてた。仕事熱心なのは彼の長所だけど、こんな時にまでそれか……と呆れる。

2オーヴェロン21/12/25(土) 00:26:13

「おはよ……仕事終わった？」

「ああ、シチーか。もうすぐ終わるから、そこ座って待っててくれ」

促されて、定位置の丸椅子に座る。頻繁にトレーナー室に出入りするようになってから用意してもらった指定席。ここからだといい感じに横顔が見れる。これがアタシの見たかった景色……なんちゃって。

「ねえ、約束忘れてないよね？」

「勿論。ちゃんと腹は空かせておいたぞ」

「そういう事じゃねーよ、食いしん坊」

「ははっ、怒られちゃったな」

軽口を叩きながらも、仕事を片付けていくトレーナー。普段からは想像も出来ないくらい器用な事をする。トレーナーになるような人は皆こうなのかな。

3オーヴェロン21/12/25(土) 00:26:38

「“世間はクリスマスだってのに、働き者はいるもんだ” って感じ？何かレースと直接関係無いような事までやってっけどさ、それそんな面白いわけ？」

「シチーもしかして、ウチのDVD見たな？……まあ、そうだな。面白いって感じとは少し違うんだ」

「へえ」

「当然の事っていうか、まあトレーナーの義務みたいなもんだな。どんな些細な事でも、シチー達ウマ娘が走る助けになれれば良いなって思ってるよ」

若干ニヤニヤしながら答えてきた。ムカつく、ちょっと嫌味言ってやれ。

「……それでこんな時間まで長引いちゃったって？」

「うーん、それを言われると弱いんだよな……。本当にもうすぐだから、何食べたいか決めておいてくれ」

「はーい」

躱されちゃった。何か対応にも慣れられてきたし……コイツ今日が何の日か本当に分かってんのかな？
……やっぱムカつく。

4オーヴェロン21/12/25(土) 00:26:58

「焼肉」

「……ん？」

「あ、聞こえなかった？……焼肉」

「いや、バッチリ聞こえたぞ。本当にそれでいいのか？もっと特別なところでも――」

「良いんだよ焼肉で。普段は行かないって意味じゃ適してると思うけど」

アタシはデートのつもりで待ってたのに、コイツは親戚の子供と夕飯食べに行くくらいのテンションでいるらしい。……多分、きっと。

「焼肉屋ならさ、皆わざわざ他の卓とか見てないから目立たなくて良いじゃん。落ち着いて過ごせるよ」

「シチーが良いなら俺は構わないけど……」

「それにこういう時のご飯ってさ、値段とか格式じゃないと思うんだ」

「誰と食べるか……って事か」

「そう、分かってんじゃん」

と、丁度話の区切りが付いたところでトレーナーがパソコンを畳んだ。やっと終わったらしい。

5オーヴェロン21/12/25(土) 00:27:18

「よし、終わったよ。行こうか」

「うん。……あ、そうだ」

「何だ、どうかしたか？」

「アタシ今日外泊届け出したんだった。って事で、今夜はアンタん家に泊まるから」

「聞いてないぞ！？」

「今言ったばっかだし。……迷惑なら取り下げてくるけど」

クリスマスイブにわざわざこんな事を言う意味、分かってくれるはず。

「…………迷惑じゃないよ。ウチで良ければ是非」

「おっけー、決まりね。じゃ、行こ」

「ああ。焼肉屋は良いとこを知ってるから、任せてくれ」

「マジで？めっちゃ楽しみ」

まずはゆっくりご飯。それからの事は……そうなってから考えればいいや。
イブの夜は、まだまだ長いからさ…………。