- 1二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 18:55:51
- 2二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 19:11:45
このレスは削除されています
- 3二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 19:23:06
このレスは削除されています
- 4建て主23/09/28(木) 19:28:27
今まで更新が遅かった分ぼくはやるよ、かなりやる
~バーヴァン・シーサイド~
ベビーベッドの中で、ぼうやはすやすや眠っている。
「なあ、リツカ」
それを穏やかな目で見下ろしながら、バーヴァン・シーは義父に話しかけた。
なんだろ、とリツカは同じくらい凪いだ心地で見つめ返した。
「私、女王になったらこいつがのびのび生きられる環境を作って見せる。騎士にも学者にも、なんにだってなれる國を作ってこいつにプレゼントする」
「こいつ、じゃなくて弟と呼んであげてくださーい。オレ泣いちゃうぞ」
「うっせー、バカヤロ。・・・妖精も人間も分け隔てなく暮らせる社会を作ってきたお母様の背中に追いつくのはすごく難しい。きっと間違えることも多いだろう。だけど、お前と一緒のお母様が支えてくれるんならどんな間違いをしてもきっと大丈夫だわ」
「・・・オレがモルガンと、その、そういうことしたの、怒らないの?」
「話は聞いてるぜぇ?お前が子どもを作る側だったんだろ」
バーヴァン・シーはにやっと笑った。リツカは真っ赤になってうつむいた。
「・・・全部聞いたの?」
「どうしても聞きたいっつったらな。お前、さんざん鳴かされて次の日は声も出なかったんだって?」
「この話やめません?」
「とりあえず全部筒抜けだと思うといいよ?」
「スルーですか?」
「やだああおんなのこになっちゃううう(笑)」
「あの、あの、あの、マナンの寝顔かわいいね?」
リツカは話をそらした。いたずらっぽい表情を浮かべていたバーヴァン・シーは、柔らかな目で視線を落とした。
「・・・ああ。マジかわいい」 - 5建て主23/09/28(木) 19:52:07
マナンは妖精と人の合いの子だ。
薄く寝ぼけ眼を開くと、藍色と淡い水色の瞳が見えた。
妖精は子を残せない。自らの子は自らだからだ。
ではどうやって子を作ったのか?簡単である。お互いの魂を分けて、混ぜて、リツカの胎に打ち込んだのだ。
人間の認識にあるような痛みを伴う妊娠出産は行われなかった。その風景は生命の神秘を感じさせる、幻想的なものであったとだけ言及しておこう。褥で自分が見せた痴態を何度も思い出させるのはリツカにはあまりに酷であったからだ。
「きもちよさそーに寝てら・・・」
まろい頬を突っつくと、むにゅむにゅと柔らかい。
ふふっと笑って、バーヴァン・シーは眼鏡をかけた。『姉』になった日からかけるようになったものだ。
「この子がもう少し大きくなったら、乱暴な言葉遣いも封印だね」
バーヴァン・シーは元来善良で大人しい妖精だ。
そのとびぬけた善性を母モルガンに見込まれ彼女の娘になったのだ。
妖精たちに嘗められないよう、そしてなにより、偉大な母のようにあろうと喋り方を荒っぽくしていたが、お姉ちゃんとなるからにはかつてモルガンがヴィヴィアンであったころのようにおしとやかであるべきだ、と、リツカは主張したいのだろうか?
「なんだよそれー、私の口調が乱暴だってか?」
「乱暴じゃん、女の子は『だぜ』なんて言わないよ?」
「うっわ、私の義理のオヤジ差別主義者かよ。ないわー」
言葉こそ荒っぽかったが、そこには家族にしかない気安さがあった。
バーヴァン・シーはいまだに彼を父と呼べてない。恥ずかしいのだ。それにリツカは気づいていたが、あえてなにもいうことはせず、彼女の好きなようにさせていた。 - 6建て主23/09/28(木) 20:49:07
「二人とも、内緒話なんてずるいですよ」
モルガンがやってきて、淡く微笑んだ。
「お母様。・・・弟を見てたの」
「まだこの子がやってきてくれたのが信じられなくて、さ」
「奇遇ですね、私もなんです」
ベビーベッドに三人分の影が落ちる。モルガンのプラチナブロンドに天井から吊り下げた太陽と月の飾りが当たって、しゃらしゃらと音を立てた。
「この子がいなくなっちゃうんじゃないかって思ったら目を離せなくて」
「マナンはいつ歩けるようになるかしら」
「妖精の子ですからね、きっとすぐ立って歩いて、一緒にお茶ができるようになりますよ」
「ほんと、奇跡みたいだ。きっとモルガンに似て賢い子に育つよ」
「リツカに似て花を愛する優しい子に育つかも」
「あるいは、その両方か」
バーヴァン・シーがもったいぶって言う。その口ぶりがおかしくて、モルガンとリツカは顔を見合わせてくすくすと笑った。
「さあ、もう寝ましょう二人とも。明日からまた忙しくなりますよ」
ん、とうなずきあい、三人は部屋の灯りを絞るとしずかに扉を開け、閉めた。
あとには、ぼうやだけが残される。 - 7建て主23/09/28(木) 20:52:20
眠いので今日はここまで。スレが落ちたらここを消して書いた分の文章コピーして再建てるよん。
- 8二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 21:09:31
てぇてぇ
スレ落ちたからどうなることかと思っていたけど建て直したようでなにより - 9二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 22:14:26
保守
- 10二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 07:33:10
ほ
- 11二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 18:34:23
結婚するところまでいったのはいいけど、子供作るのそんな方法なんかい!
- 12二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 22:10:44
ほ
- 13二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 08:10:37
子供が生まれるとこまでいったか
- 14二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 17:35:09
んほ~
- 15建て主23/09/30(土) 19:19:01
それから数ヶ月後、モルガンは婚姻を結んだことを國に広めた。
妖精も人間も、この知らせを喜んだ。ブリテンが國として成り立って以降から働き続けてきた女王がついに虹を掴んだことを我がことのように喜んだ。
噂話が飛び交う。誰だ、誰だ、女王陛下が掴んだ星は誰なのだ!?
微笑ましい疑念の目があちらこちらに向けられた。
ある者は隣人がそうではないかと疑った。流れる星の髪を持つ彼女はソールズベリー一の器量よしであったからだ。
ある者は父親がもしかしたらと考えた。学者肌で家をよく空ける父は、オークニーでも指折りの天才であったのだ。
ある者はあの妖精ではと信じこんだ。エディンバラ一番のチョコ職人の彼ならば、女王の心を掴んでやまない贈り物を作ってもおかしくないと疑って疑わなかった。
ある者は最近引っ越してきた人間の魔術師に、かの賢く美しい女王と契った幸せ者は誰だろうと問いかけた。彼はそれに、あいまいな笑みで応えた。
喜びの嵐がブリテンに吹き荒れた。このどんな流行よりもまばゆい話にはやりものにうるさい妖精たちは目を輝かせ、人間たちは女王へのせめてもの感謝としてさまざまな捧げものを作った。
・・・そうして、数年の時が経った! - 16二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 21:31:37
保守
- 17二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 22:16:10
いつの間にか大分話が進んでいた
- 18二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 22:17:10
前スレ貼らないの?
- 19二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 22:17:30
- 20建て主23/10/01(日) 07:56:00
- 21二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 07:59:31
コンセプト好きだったからありがてぇ
こういうssスレ見るといつも「pixivかハーメルンに載せて欲しいな」って思う読者としての我儘 - 22二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 17:03:36
ほしゅ
- 23二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 20:37:50
幸せな話だ
続きを待ってる - 24二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 05:23:12
ほしゅ
- 25二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 17:00:00
ええはなしや
- 26二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:55:21
数年が流れた!?
- 27二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 06:13:45
ほしゅ
- 28二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 16:21:08
続きを待ってます
- 29二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 17:16:27
保守
- 30二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 21:32:13
ほ
- 31二次元好きの匿名さん23/10/04(水) 08:27:22
しゅ
- 32二次元好きの匿名さん23/10/04(水) 08:31:20
ほしゅ
- 33建て主23/10/04(水) 18:38:07
~モルガンサイド~
「おとうさまー!」
花束を小さな腕で目いっぱい抱えた、あどけない少年が花畑を駆ける。
「おやマナン、いっぱい摘んできたね」
ピクニックの準備をしていたリツカは、その小さな体をひょいっと持ち上げた。
そのままくるりとあぐらのなかに閉じ込め、ピクニックシートに並べた花たちのマーチを指さした。
「お花のお名前、言えるかな?」
「マナンわかる!こすもす、ちゅーりっぷ、まーがれっと、すみれ!」
「正解!天才!」
「あたまいい!やった!」
「そうですね、将来はお父様に似てキャメロット一のお花の先生」
「もしくは、お母様にそっくりな素晴らしい魔術師かしら?」
バスケットの中身を並べながら、バーヴァン・シーとモルガンはほほえんだ。
その日、モルガン達は街はずれの森へピクニックにでかけていた。
モルガンがほとんど休暇を取っていないことを見破った臣下たちからの進言で、久しぶりに家族水入らずの時を過ごすことにしたのだ。
マーリンはいなかった。家庭平和を重んじた彼はあえて誘いを断ったのである。
「マナン、もっとお花つんでくるー!」
「こらこら、取りすぎちゃだめだぞー。モルガン、一緒に行っていいかな?」
「あまり離れないでくださいね。モースが現れるやもしれませんから」
と言うものの、緊急時用の携帯水鏡はきちんと人数分持たせている。
モースも最近は現れていなかったし、彼女はあまり心配していなかった。
「リツカぁ、すぐに戻って来いよ。お母様と私、ふたりぼっちでサンドイッチを食べさせたくなけりゃな」
「心得ております、お姫様」
きざったらしくお辞儀をして、リツカはマナンを抱えると森の奥へ消えていく。
それを優しい目で見送りながら、モルガンはスミレに鼻を近づけた。
甘い香りが優しく鼻を撫でる。
妖精との合いの子なだけに、マナンはリツカの目から見て驚くべき速度で成長していく。このまま大きくなれば、父親の背中を越すのもすぐだろうというのがモルガンの見解だ。
彼は自分とリツカのよいところを引き継いで生まれてくれた。聡明で、心優しく、弱いものを気遣うことができる。
きっと将来は立派な騎士か魔術師、学者に育ってくれると信じていた。バーヴァン・シーも、リツカも同じ気持ちだった。四人の幸福は、誰にも侵せないように思えた。 - 34二次元好きの匿名さん23/10/04(水) 21:51:29
ほ
- 35二次元好きの匿名さん23/10/05(木) 07:28:21
不穏だ・・・
- 36二次元好きの匿名さん23/10/05(木) 11:38:12
変なところで終わるない
怖いだろうが - 37二次元好きの匿名さん23/10/05(木) 19:13:31
続きを待つ
- 38建て主23/10/05(木) 20:27:13
~リツカサイド~
「おとうさま、りんごある!」
「食べたい?」
「たべたい!」
「じゃ、取ってあげる。モルガンとバーヴァン・シーのぶんも、真っ赤に熟れたやつを」
リツカは木にするすると登る。木登りももう慣れたものだ。
りんごをむしって、服のポケットにしまう。妖精たちに教えた汎人類史における現代ファッションはすっかり浸透し、今やあちこちでパーカーやジャケット、カーゴパンツを着こなした人たちが歩いている。そのさまはかつてリツカが取り戻したいと切望していた故郷とよく似ていた。
小ぶりなりんごをおさめて、ずっしりと重くなったポケットをひと撫でして木を降りて、マナンの名を呼んだ。
ところが息子はどこにもおらず、木の葉をかすかにかきたてた跡を残して、森のさらなる奥へと消えていた。
「ちょーちょ、ちょーちょ、ちょーちょさん」
でたらめな歌を口ずさみながら、ひらひらと舞う蝶のあとを追う。
茂みに咲いた花に留まった蝶に手を伸ばしたマナンの頭上に、大きな影が覆いかぶさった。
顔を上げる。
そこには、星の冠を戴いた灰色の髪の男が立っていた。少年と呼ぶには大人すぎて、大人と呼ぶには丸い顔立ちをしている。両の瞳が、無機質な光を宿してマナンを見下ろしていた。
___空気が淀む。頬を撫でた風は、冬のそれだった。
「見つけた。マナン、どうしたの」
リツカが駆け寄って、その男の顔を見るなりはっと表情をこわばらせた。
マナンの手を引いて、背中にかばう。
「・・・お前、」
彼が何事か口を開いたその時、ごぼごぼと地面が泡立ったかと思うと黒い影坊主が次々現れ、リツカたちを取り囲んだ。
「うっ」
リツカは口を抑え、地面に這いつくばった。 - 39建て主23/10/05(木) 20:59:21
ごぱっ、とその口から血がこぼれて、赤黒く地面を濡らした。
「うっ、うぐあっ・・・」
「おとうさま!」
黒い塊が迫ってくる。
「やめろ。こいつらは敵じゃない、お前たちは下がってろ!」
男は苛立たし気にそれらに向かって怒鳴った。
マナンは眦を吊り上げ、きっと男をにらんだ。
「おまえっ!おとうさまになにをした!おとうさまをいじめたらっ・・・おっ、おかあさまにいいつけてやるんだからな!」
男は黙ったまま、バッタのように飛び下がった。
次の瞬間、さっきまで男のいた地面がずさっと切り裂かれ、裂かれた木の葉が空を舞った。
「おねえさま!」
「マナン!大丈夫か!?」
フェイルノートを構えたバーヴァン・シーが、二人と男の前に立ちふさがった。
「大丈夫か!?くそっ、モース毒にやられたのか・・・!」
リツカの体を抱え上げ、ぎりりと歯噛みする。
「もう少し私が早く来ていれば・・・!」 - 40二次元好きの匿名さん23/10/05(木) 21:25:35
保守
- 41二次元好きの匿名さん23/10/06(金) 00:36:02
来たぞ、僕らの闇の精霊王
- 42二次元好きの匿名さん23/10/06(金) 07:11:01
ほsぃゆ
- 43二次元好きの匿名さん23/10/06(金) 12:21:32
物語も佳境かな
- 44二次元好きの匿名さん23/10/06(金) 21:32:48
まってるぜ
- 45二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 07:30:56
ほしゅ
- 46二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 15:30:39
保守
- 47建て主23/10/07(土) 19:14:32
足元が煌々と光り始めたかと思うと、三人の姿は地面に染み込むように消えた。
ざわめきが聞こえる。
気づけば、そこはキャメロットの謁見の間だった。
「り___リツカ___!りつか___!」
口元を赤く汚してうずくまるリツカの、蒼白な頬にモルガンの指が触れた。
「ゲホッ・・・に、逃げてモルガン・・・」
「なにを言ってるのです!ここは王都、あなたと民を置いて逃げるはずがないでしょう!?気をしっかり、必ず治しますリツカ___!」
モルガンはリツカの胸に手を触れ、謝罪するように一心に念じる。
その手が燐光を帯びると、なにか黒い靄のようなものが腕を登ってモルガンの胸に移った。
モルガンのほの赤い唇から血が伝う。それと同時にリツカの呼吸がいささか和らいだ。
「お前ら、ぼさっとしてないで救護班を呼べ!女王陛下がしたのは応急処置だ!それから兵も動員しろ!西の森にヴォーディガーンがモースを伴って出現した!」
動揺が波紋のように広がったが、鍛えられた兵士や従者たちの行動は速かった。
バーヴァン・シーの着ていた、上品な緑色のドレスが赤い騎士の装いに変わる。
キリリと眉を引き締め、混乱している弟の手を取った。
「マナン、わけがわからなくて、泣きそうだと思うだろうが、まずは落ち着くんだ。私たちがついてるからよ。男の子だろ?」
マナンは今にも泣きそうな真っ青な顔で、それでも歯を食いしばるとこくりとうなずいた。
「いい子。あとでほしいものをなんでも買ってやるからな」
頭を撫でて、バーヴァン・シーは兵士たちと共に出撃した。
担架を抱えた医者たちがやってきて、リツカの体をそこに横たえる。
「うー、おとうさま、まっかっか・・・」
「これはわるものの血で赤いんだから大丈夫だよ。それよりマナン、お付きの人と一緒にお部屋でじっとしててね。ちゃーんといい子にしてたら、おとうさまがとっておきのプレゼントをあげるからね。おねえちゃんの約束、守れるよね」
「ん」
「いい子だよ・・・マジ天使・・・」
リツカはそれっきり、かくんと気を失った。 - 48二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:31:02
話が動いてきたな…
- 49二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 21:39:32
ほ
- 50二次元好きの匿名さん23/10/08(日) 07:32:00
ほ
- 51二次元好きの匿名さん23/10/08(日) 18:06:48
とりあえず引き続き続きを待つぜ
- 52二次元好きの匿名さん23/10/08(日) 21:48:49
ほsぃゆ
- 53二次元好きの匿名さん23/10/08(日) 22:09:06
これは普通に保守だけで許されるスレ
- 54二次元好きの匿名さん23/10/09(月) 08:04:44
ほ
- 55二次元好きの匿名さん23/10/09(月) 18:32:27
保守
- 56二次元好きの匿名さん23/10/09(月) 21:36:05
ほっしゅ
- 57二次元好きの匿名さん23/10/10(火) 07:35:10
不穏
- 58二次元好きの匿名さん23/10/10(火) 18:54:56
保守します
- 59二次元好きの匿名さん23/10/10(火) 19:03:44
保守
- 60建て主23/10/10(火) 20:43:28
~バーヴァン・シーサイド~
「ヴォーディガーン___!」
ざ、と枯れた大地を踏む。
佇んで枯葉をもてあそぶヴォーディガーンの姿は、影法師のように濁って見える。
手に汗がにじむ。油断してはいけない、あんな細身だが奴は大勢のモースを統率してブリテンを脅かす魔王だ。別の歴史で言うなれば、蝗や病魔に指向性を与えるというだけでその脅威が理解できるだろう。あのかぎ爪を見ろ、心根の優しいものが、あんな恐ろしい指をしているものか。
じり、じり、と兵士たちは一定の距離を保ちながらヴォーディガーンを包囲する。兵たちはバーヴァン・シーの指示で組織した、ヴォーディガーンと交戦した経験のある選りすぐりの者たちばかりだ。
髪の毛が焦げ付くような敵意に突き刺されながらも、ヴォーディガーンは余裕に満ちた笑みを浮かべた。
「お出迎えだな。妖精舞踏会(フェアリウム)のご招待かな?」
「招待じゃなくて昇天させようってんだよ。地獄の底は嫌いだったか?」
「いやぁ、無間地獄もなかなか悪かなかったが、なんせ孤独は辛いもんで」
冷笑が深くなる。バーヴァン・シーは苛立たし気に歯を鳴らした。
「答えろ、なんでリツカを攻撃した」
「なけなしの名誉のために言っておくが、俺がやったんじゃないぜ?俺は誰彼構わず殺したがる節操無しとは違うんだからよ」
「お前がモースを連れてこなければリツカは傷つくことは無かった」
「はいはいはいはい。いいよ、わかったよ。俺がみんな悪いんだろ?オマエがむかつくから殴りたい。それだけでいいだろ。いちいちオブラートに包むんじゃねぇよ、気持ち悪いな」
ポロン、と竪琴が鳴り、ヴォーディガーンの立っていた地点に真空の刃が吹き荒れる。
ふわりと木の葉のように地面に降り立ったヴォーディガーンは、カラカラと笑った。
「危ない危ない。きみはもうちょっとしとやかさを学んだ方がいいな」
バーヴァン・シーは舌打ちした。 - 61二次元好きの匿名さん23/10/11(水) 08:03:02
保守守
- 62二次元好きの匿名さん23/10/11(水) 19:18:50
保守
- 63二次元好きの匿名さん23/10/11(水) 21:33:12
ほ
- 64二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 07:39:45
ちょっとバトルになってきたのこわいな…
- 65二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 09:28:43
ほしゅ
- 66建て主23/10/12(木) 19:51:11
「俺を潰すのに愛娘を送ってよこすとは、妖精女王の懐事情はよほどひっ迫していると見える」
「うるせえな、ベラベラ回る舌から先に三枚おろしにしてやろうか?ゴミ」
おお、こわ、とオベロンは肩をすくめた。
「困ったときはゴミかカスと言えばたいがいの奴は傷つくとでも思ってるのかな?だいたい、モルガンの金魚の糞一人なんか小指の先で簡単に___」
「ひとりではない。ここに私がいる限り」
高らかに声が響いたかと思うと、妖精馬に乗ったバーゲストが援軍を引き連れて現れた。
思わず微笑むバーヴァン・シー。
「声がデケェんだよ、ガウェイン。相変わらず、ワンワンと吠えやがって」
「私語は慎めトリスタン。ここはすでに鉄火場だぞ」
バーヴァン・シーは笑みをかみ殺して、ヴォーディガーンに向き直った。
「・・・おい、ヴォーディガーン。命が惜しいなら退くよう言いたかったがよ、言ったな?私を『モルガンの金魚の糞』だってよ。・・・汚らわしい口で女王の名を語った上にこの私をコケにするたァ命知らず。
ザンコクにサイアクに殺してやるから覚悟しろ」
触れれば切れそうな闘志をむき出しにするバーヴァン・シーを、ヴォーディガーンはつかのま無表情で見つめた。
「ま、ここは退かせてもらうよ。あの水精もどきの小娘がやってきたらやっかいだし、第一『今回』は視察に来ただけだしね」
「それは、どういう・・・?」
思わず投げかけた問いかけに無言で応じたヴォーディガーンは、薄笑いを顔に貼り付けたまま片手をかかげた。
地面がぼこぼこと泡立ったかと思うと、無数のモースが湧き出る。
空気がキリキリと引き絞られる。兵たちは身構えた。
「行け」
王の号令を受けて、モースたちは放たれた矢のように全方位に向けて飛び出した。
「ひるむな、者ども!一匹につき二人で対処すれば恐れるに足らずだ!トリスタン、遅れるな!」
バーゲストは指示を叫ぶと、勢いよく拍車をかけた。
「わぁーってんだよそんなこと!」
バーヴァン・シーは竪琴をかき鳴らした。 - 67二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 05:55:57
ほ
- 68二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 07:32:43
ナニしてんだオベロン
- 69二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 10:43:18
ほしゅ
- 70二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 19:13:59
保守
- 71二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 23:13:33
ほ
- 72二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 08:13:06
ほ
- 73二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 19:46:21
保守します
- 74建て主23/10/14(土) 19:51:24
立ちはだかるモースの群れが、麦穂のように薙ぎ払われて霧散する。
息を止めて、毒の霧を羽のようにまといながらバーゲストは突撃する。
「ヴォーディガーン____!」
対するヴォーディガーンは、欠片とも動じず鷹揚な笑みで敵対者を迎えた。
「そんじゃ、ばいばい」
___突き立てた剣が軽い。ヴォーディガーンは、無数の欠けた翅を煙のように、残して・・・
「・・・くそっ」
跡形もなく姿をくらましていた。
バーゲストは悔しそうに唇を引き結んで、うつむいた。
歯を食いしばる。砕けんばかりに。
次の瞬間には、彼女は表情を一点の隙も無い戦士のそれに切り替え、モースたちの群れに切り込んだ。
▼
・・・それから、数ヶ月が経った。
ヴォーディガーンはそれきり姿を見せなかったが、女王は厳戒態勢を敷き、ヴォーディガーンを見かけたとしても決して戦いを挑まず、すぐにその場から逃げるよう民たちに伝えた。
民たちは魔王の再来に恐怖し、商人などを除いては街の外を出歩くものはいなくなった。
「報告は以上です。女王陛下」
「そうか。下がって構わぬ」
メリュジーヌが顔を上げ、謁見の間を去る。
両目の下にかすかに隈を作ったモルガンは、誰にも聞こえないくらい小さなため息をついた。
「しばし休む。何かあれば、連絡用の『水鏡』に伝えるように」
「は」
モルガンは重い腰を上げ、立ち去った。 - 75二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 21:21:29
保守
- 76二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 21:23:04
オベロンだけ元の世界からとか、そういうやつか…?
- 77二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 08:12:41
保守
- 78二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 10:15:32
ほ
- 79建て主23/10/15(日) 20:22:06
道すがら、バーヴァン・シーとすれ違った。
「おはよう、我が娘バーヴァン・シー」
「おはよう、お母・・・」
モルガンの顔を見たバーヴァン・シーが、一瞬目を伏せた。
・・・彼女が何を言いたいのかはわかってる。
けれど、それは改善したくてもおよそできない相談だった。
「・・・今日も見回りに行くわ。マナンをよろしく」
「ええ、わかりました」
秘密のまじないで鍵を開け、扉を閉めると、モルガンは肺いっぱいにたまった空気を吐き出すようにため息をついた。
民も、我が子たちも愛している。だけどもう、ここでしか真に落ち着く場所がない。
しんと静まり返った部屋。マナンが大きくなったら、秘密基地にしようと褥で話し合った小さな部屋。
いまは、棺はそこにある。ちょうど小柄な男一人分なら簡単に納められるような青いガラスの棺。
いまは、彼はそこに眠っている。着せられた白いシャツとズボンより白い肌。血の気のない唇。
「リツカ・・・またモースが出ました。それも、キャメロットの真ん中に」
話しかける。
「すぐに対処しましたが、やつらはまるでこの城に向かうように進んでいました。私は・・・私はですね、あなたとなんらかの因果があるのではないのかと思えてしようがないのです。考えすぎだとはわかっていますが、あなたはどう思いますか?」
返事はない。
それくらい、わかっているのに。 - 80建て主23/10/15(日) 20:26:29
「___また、あなたと話がしたい」
リツカは、あの日以来眠ったきりだ。
どうやっても、どんな手段を尽くしても、モルガンが、あのモルガンが生まれて初めて捧げた祈りですらも、リツカの瞼を開けさせることはできなかった。
「あなたの意見を聞きたい。励ましてほしい。またくだらない話がしたい。一人では、息をしているのかもわからない」
声が滲んでいく。ぽた、ぽた、と、ガラスの棺に涙が落ちる。
「どうやったらあなたにかかった魔法が解けてくれるのですか・・・?」
青い瞳は棺の中。いまだ、閉ざされたまま。 - 81二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 21:46:14
うわああ無理しんどい
- 82二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 08:08:08
ほしゅ
- 83二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:31:16
ほしゅ
- 84二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 22:31:48
hoixyu
- 85二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 08:21:01
ぐだは昏睡状態で、モルガンは仕事に忙殺されてるのか
これトリ子が一番つらい立場なんじゃないか? - 86二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 18:37:03
保守
- 87建て主23/10/17(火) 19:23:21
~バーヴァン・シー~
靴を作り上げて、バーヴァン・シーは汗をぬぐった。
モースの群れが頻繁に現れるようになってからは、こうして趣味に没頭できる時間も少なくなった。
できあがったのは弟に履かせる靴だ。男物の靴を仕立てるなんて生まれて初めてだが、丹精込めて作った甲斐もあってかなかなか上出来だ。
コンコン、と扉がノックされる。バーヴァン・シーは片眉をぴくっと上げて、ドアノブを握った。
「マナン・・・」
「おねえさん、おこうちゃもってきたよ。おやつたべよ」
ティーポットをお盆に乗せたマナンがにっこり笑う。
「ありがとよ、ちょうど休憩したいと思ってたんだ。ちょっと待ってな」
笑い返して、バーヴァン・シーは散らかった部屋をざっと片付けた。
「おいしいわ。このマカロンもお前が作ったの?」
お茶請けのマカロンをかじりながら聞くと、マナンは恥ずかしそうに首を振った。
「けっこうやんじゃねえか。おいしいぜ」
優雅な時間。
昔はもっと賑やかであったのだが。
「・・・おねえさん」
うかがうような声をかけられる。なにが言いたいのかはわかっていたが、それに賛同することはできなかった。
「『自分もモース退治に行きたい』だろ?だめだめ。お前は子どもなんだ」
「ぼく、もう大人だよ」
「どこが大人だ、バーカ。少なくとも私よりでかくなんねえとモース狩りに行かせるなんて無理無理」
「でも・・・」
「お前なあ、大人になったってんならもっとテメーを客観視しろよな」
バーヴァン・シーは回り込むと、マナンのほっぺたをもにっと引っ張った。
「いたい!」
「お前は私に何かあった時、このブリテンを受け継ぐ大事な後継者なんだ!国をいずれ継ぐ立場の子どもが二人そろって危険な場所に足を運んで、なにかあったらどうすんだよ?それにマナンは本ばっかり読むもやしっ子だ!そんな骨っぽい体でどうやって戦うんだよ」
「ぼくはおねえさんよりやせてるからみがるだよ・・・いたたたた」
バーヴァン・シーはぱっと手を放す。
「とにかく、マナンに危ないことは絶対させない!私の気持ちを動かすのは岩を斬るより難しいぜ」 - 88建て主23/10/17(火) 19:26:48
マナンは、目を怒らせてまくしたてた。
「でも、ぼくだっておとこのこだもん!ねーなんかないの?すぐに強くなれるすごいぶきとかさ!ぼく、はやくリッパなきしになって、わるいまおうをやっつけたいんだ!」
バーヴァン・シーは、一瞬凍り付いた。が、すぐに取り繕うように笑った。
「お前みてーなヨワムシにできっかよ!そーれこちょこちょこちょ!」
「わー!やーめーてーよー!」 - 89二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 07:26:50
ほsぃゆ
- 90二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 18:48:19
姉弟いい…
- 91二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 22:50:53
ほ
- 92二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 07:33:15
ほ
- 93二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 18:49:28
~メリュジーヌサイド~
ブリテンを覆う黄昏色の空は相変わらずだ。
空の下から眺める妖精國はいつもと変わらずのどかで、ヴォーディガーンがこの地を狙ってモースを差し向け続けているとは到底思えない。
そう、思えない。生物さえいれば無制限に生み出せるとはいえ、倒されるとわかっててモースを送り込むような真似をするだろうか。
「・・・」
メリュジーヌの中には一つの疑問があった。長命な竜種の視点だからこそ気づくこと。けれどそれには多くの妖精たちはたどり着いてもいないし、女王陛下もここ最近働きづめで気が立ってないわけがない。こんな時に士気を下げるようなことは、とてもじゃないが面前とは言えない。
「___ヴォーディガーンは、ほんとうにこのブリテンが目当てなのか?」
疑問に答えるものは、誰もいない。
「・・・ん?」
そのとき、優れた視界の端にあるものが映った。それは剣を振り回し、戦っているように見えた。
「あれは・・・」
彼には見覚えがあった。いつも女王の夫と寄り添っていた、淡い色の髪をした魔術師___
メリュジーヌは姿勢を変え、そこへと急降下した。
▼
~マーリンサイド~
ふわ、と音もなくそれは魔術師の眼前に降り立った。
「キミは」
「妖精騎士ランスロット。義を以てきみに助太刀するよ」
「それはうれしい。キミのような美しい騎士に助太刀されるなんて私もなかなか__」
「失礼」
優雅に微笑むマーリンの頭上へ、メリュジーヌはアロンダイトを突き出した。
小猿のように機敏なモースが顔面をぶち抜かれて霧散する。
「無駄口を叩いてないで剣を振るうんだ。きみも腕に自信があるんでしょ?」
「・・・そうだね」
マーリンは懲りずににへらと笑って、それから前を向いた。 - 94二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 22:04:20
マーリンもいるんかい
- 95二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 07:48:01
保守
- 96二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 08:08:05
ほ
- 97二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 19:22:15
ハッピーエンドになるんでしょうね…?
- 98建て主23/10/20(金) 19:36:56
なりますぜ
- 99二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 22:05:36
マジでか
- 100二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 07:47:15
保守します
- 101二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 19:16:13
ほしゅ
- 102二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 06:03:03
ほ
- 103二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 15:05:04
ほしゅ
- 104建て主23/10/22(日) 18:48:11
戦いは潮騒のように一瞬だった。
「それで、何の用かな?」
「とぼけないで。一目見てわかっていたよ、きみが僕と同じ・・・いや、僕に似た『眼』の持ち主だって事」
マーリンはばつが悪そうに舌を出して笑った。
「ばれちゃう?まあ隠す気はなかったんだけどね」
「僕は限定されたものならば未来を視ることができる。そしてきみも、僕と同じように未来を視ることができる。それも僕よりはるかに詳しく知ることができる。・・・違うかい?」
「否定はしないよ」
「否定しないのなら教えて。なんでブリテンがヴォーディガーンに襲われる未来を予言しなかったの?そうしたなら、回避できる未来はいくつもあったのに」
「・・・」
マーリンは黙った。言うべきだろうか。
ちらと少女騎士を見る。組んだ腕にとんとんと人差し指を当て、見るからにいらついているようだ。
マーリンは口を開いた。
「呪いをかけられたからさ。ヴォーディガーン直々に」
「は?」
「言えば霊基が砕ける呪いをかけられた。あまりにも深く絡みつきすぎて、私でも解呪できないレベルさ」 - 105二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 19:14:11
こっちの世界のヴォーディガーンか
- 106二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 20:35:43
ほしゅ
- 107二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 06:52:56
保守
- 108二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 16:54:04
ほしゅ
- 109二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 22:09:40
ほ
- 110二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 23:28:33
夫とハッピーエンドを果たして迎えられるか否か…
ちょっと不安な道行きだが - 111二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 23:48:45
子供が生まれてるじてんでなかなか見ないレベルで話は進んでいるんだけどねこのぐだモル
- 112二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 08:43:18
ほしゅ
- 113二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 19:44:14
保守
- 114建て主23/10/24(火) 19:51:38
「ふむ・・・」
メリュジーヌはつかの間物思いにふけった。
ヴォーディガーンの呪いである、のならばキーワードを発言すればモース化するものであるのだろうか?
そうであると仮定したとして、対処方法は限られる。
モースの呪いは深刻だ。草木を枯らせ、土は毒に変わり、感染が進み切ってしまったものは殺すか、魔術や氏族長の力を用いて誰かに呪いを転写するしかない。
そうして、この國において魔術に最も秀でた女王陛下でさえ、そういった対症療法しかできないと言えば、その呪いの強さがわかるだろうか?
「わかった。きみの言うことを信用するよ」
「そうしてもらえると助かるよ。まるで普段の私は信じられないみたいな言い草なのは聞こえないことにするけどね!それから、君に一つ頼みたいことがあるんだけど」
「なに?」
「私をキャメロットに連れて行ってもらえるだろうか。女王に伝えられる限りの情報を譲渡しておきたいからね」
「おいおい・・・きみは秘密を話すとどうにかなってしまうんだろう?吐いた唾も呑まないで」
「私は”誰にも話すな”と呪われたけれど”なにかに話すな”とは一度も言われてないからね!」
メリュジーヌは思わず微笑んだ。屁理屈も同然だが、案外抜け目がないらしい。 - 115二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 21:31:50
出てくるとなんとでもなるマーリン
ただレべルで言えばモルガンも同じくらい有能だろうからな… - 116二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 21:31:52
ほゅ
- 117二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 08:16:31
保守
- 118二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 18:58:46
保守します
- 119二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 23:21:04
保守守
- 120二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 08:40:21
保守
- 121建て主23/10/26(木) 19:12:43
_____
書き記し終わったマーリンは、それを召使の妖精に委ねた。
厳重に呪い除けの礼装をまとった召使は、しずしずとマーリンにあてがわれた部屋から出て行く。
「これで対策は打てた。あとは___」
マーリンは杖を構え、意識を研ぎ澄ませる。
精神を『滑らせ』、女王が___モルガンが家族以外の誰にも明かしていない秘密の場所に潜り込む。
(やっぱりね。今のマイロードはヴォーディガーンによって厳重に精神をロックされている。『閉じる』ことに特化した呪いだから、外側から開くのは不可能に近いだろう。おそらくこれ以上深入りすればボクも危ない。となれば本人が気づくほかに打開策は見つからない、が___)
やがて目を開く。
「内側から壊してあげよう、ヴォーディガーン。キミが気持ち悪いと断じた男は、キミが思っているよりタフなんだよ___」
むせて、手を口で覆った。
赤黒いい血が、指の隙間からこぼれた。
___書き記すだけでも、凄まじい力で霊基が締め付けられる。幻術で覆い隠したがずいぶん吐血してしまった。取り繕うのは楽だが、耐えるとなるとなかなか苦労する。
「なんのこれしき。キミが耐え抜いた苦しみに比べれば、蚊に刺されたようなものだよ」
しかしマーリンは、その苦労ごと鉄臭い血を飲み込んだ。
「ボクはキミのファンだ。キミが少しでも幸せになれる道を切り開くのが、ファンとして当然の行いだろ?」
強がるように笑う。その横顔は、彼が憧れた星にそっくりだった。 - 122二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 02:50:56
ほしゅ
- 123二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 09:14:09
保守
- 124建て主23/10/27(金) 19:10:21
~バーゲストサイド~
「さあ、お粥を持ってきましたよアドニス。卵をふんだんに使っていますから栄養たっぷりです。はい、あーん」
「ふふ、昔を思い出すね。あーん」
バーゲストは匙に盛った粥に息を吹きかけ、そっとアドニスの口に差し込んだ。
まだ彼が今より元気だったころ、あこがれていた恋人のやり取りを真似て、こうして食べさせたものだ。
アドニスがそれを長いこと掛けて嚥下するのを見て、もうひと匙。
___結局その夜は、皿を半分減らしたところでアドニスはお腹いっぱいだと告げた。
「バーゲスト?」
アドニスの心配そうな声が聞こえる。
バーゲストはとっさにへたくそな笑顔を取り繕って、皿をしまった。
「アドニス、大事なことを伝えねばなりません。
明日から本格的にヴォーディガーンの討伐が始まります。具体的には、ヴォーディガーンの本拠地に向かい、本体を叩くのです」
「___」
「厳しいお役目になるでしょう。ですが心配なさらないでください。わたくしは必ず生きて帰りますから。
・・・さあ、怖い話はもうおしまい。歯磨きの前にまたご本でも読みましょうか。今日はなににしますか?またアーサー王伝説?」
「___・・・それよりも、したいことがあるな」
「なにを?」
「バーゲスト、身をかがめてくれるかい」
バーゲストは不思議そうに身をかがめた。
アドニスは咳き込みながらも膝立ちになって、彼女の逞しい体をそっと抱きしめた。
「誇り高く誰よりも優しいきみ、自分も騙せない嘘は周りを傷つけるだけなんだよ。僕はきみの本当の気持ちを知りたいな」
小さく息を呑む気配。
「僕はこの通り、なんにもできないけれど、だからこそきみの支えになりたいんだ。きみがしたいと思うことならなんでもしてあげたい。だから___」
だから、無理しないで。 - 125建て主23/10/27(金) 19:14:23
バーゲストは、悲し気に息をついた。
折れてしまいそうなくらい細い体に、太い腕が回る。
そのままアドニスは、バーゲストが寝入ってしまうまで彼女を抱きしめていた。 - 126二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 21:34:50
ほしゅ
- 127二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 07:34:02
ほしゅ
- 128二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 16:42:03
何気にこっちで一番ハッピーなのがバゲ子とアドニスかもしれない
- 129二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 23:47:29
のしん
- 130二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 09:08:45
ほしゅ
- 131二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 19:35:12
続きを変わらず楽しみにしてます
- 132二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 20:37:54
ほしゅ
- 133二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 07:38:21
保守
- 134二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 19:28:56
ほしゅ
- 135二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 22:10:33
hosixu
- 136二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 09:17:58
ほしゅ
- 137建て主23/10/31(火) 20:00:15
~メリュジーヌサイド~
そして、その日になった。
メリュジーヌはいつも通り、鏡の前で準備を済ませた。
この國で最も美しい妖精の姿を形どった彼女は、どんな時でもキレイでいなくてはいけない。美への責任は、メリュジーヌ自身がよく理解している。
「メリュジーヌ?」
扉がノックされる。メリュジーヌが答えると、オーロラが入ってきた。
「どうしたの、オーロラ。王子様がお城へ向かってしまうのが心配かな?」
「まさか。あなたのことなんか少しだって心配してないわ」
からかうようにオーロラは笑って、ややあってからばつが悪そうに舌を出した。
「・・・うそ。本当はちょっとだけ心配しているわ」 - 138二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 07:34:46
こっちサイドが仲良いのはすごいな
- 139二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 19:13:14
思えばよ…アヴァロンでもしモルガン(分身)が勝って、彼女がぐだ男を幽閉して…ってシチュを思い出したんだが
中村・オーロラ(メリュ子)…etcが復讐を食らうと思っているのだがそれは一旦置いておいて…
単純に魔女モルガンが旅を諦めないぐだ男に関心しているから椅子に縛り付けて、
ジワジワと体力や思考の段階を奪う鎖で段々と永遠のアヴァロン生活に誘い込むってのはありか? - 140二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 06:56:52
保守
- 141二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 07:20:10
hosixyui
- 142二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 18:46:51
ほゅ
- 143二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 23:42:01
続きを待ちます
- 144二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 08:33:19
保守
- 145建て主23/11/03(金) 19:37:14
「心配って、なにが」
「あなたがブリテンに残ったと聞いて、ほっとしてる半分、それでも心配半分、ね。あなたは私の騎士なんだから、死ぬなんてことありえないってことぐらいよくわかっていますけれど」
オーロラは椅子を引いて、腰かけた。
「最強の僕が見張りに徹するなんてどうなの?とは思うけどねえ。そういうことなら続戦能力の高いバーゲストの方が適任なのに」
「あなたは誰よりも速いから、島に侵入しようとするモースがいたらすぐに報告できるからではなくて?水鏡もあるけれど、女王陛下が本気で結界を張るとなったらやはりそちらにリソースが割かれてしまうもの」
「むう、それは確かに」 - 146二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 06:45:47
保守
- 147二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 08:34:21
ほしゅ
- 148二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 18:37:31
メリュ子は機動力最強だからな…
- 149建て主23/11/04(土) 21:25:22
おもむろにオーロラが立ち上がる。
どうかしたのかと腰が浮いて、そのままでと手振りで伝えられる。
そのまま彼女は、メリュジーヌの細い体を柔く抱きしめた。
メリュジーヌは一瞬目を見開いたが、安らかにまぶたを閉じた。
「こうしている間も思い出すわ。何度も何度も目に浮かぶ。
暗い沼に沈んでいたあなた。私に掬い上げられて、嗚咽していたあなた。
ねえメリュジーヌ、あのとき私は生まれて初めて善いことをしたと感じたの。ずっと誰よりも輝いていることしか考えられなかった私は、あのとき自分以外のことを考えて微笑んだのよ」
「僕だってそうさ。きみに救われなければ、得られないものがたくさんあった」
「メリュジーヌ、私の騎士。どうか死なないで。あなたが私を心の希望にしているように、私にとってもあなたは希望」
「もちろんさ。僕がきみを裏切るなんてことある?」
メリュジーヌは椅子の上に立って、オーロラのほほに口づけを落とした。 - 150二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 08:33:35
いい・・・
- 151二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 10:56:56
こっちはこっちでパーフェクトコミュニケーションしとるやん
- 152二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 19:14:51
ほしゅ
- 153二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 21:35:33
ほしゅ
- 154二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 02:38:48
保守!
- 155二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 07:22:04
ほしゅほしゅ
- 156二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 19:04:04
続きを待ってます
- 157二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 03:47:42
ほしゅ
- 158二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 07:22:15
ほしゅ
- 159二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 19:04:35
ほしゅ
- 160二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 21:54:40
保守
- 161二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 02:21:50
保守
- 162二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 08:38:19
保守
- 163建て主23/11/08(水) 18:26:28
~マナンサイド~
誰かに頭を撫でられた感覚に、マナンははっと目を覚ました。
辺りはまるで夜更けのように薄暗く、まるで彼が触れるのを待っているかのように蛍火が佇んでいる。
手を伸ばすと、ふっとその光は手をすり抜け、誘うように部屋の外へ消えた。
マナンはごくりと喉を鳴らすと、その後を追った。 - 164二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 03:57:17
保守
- 165二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 07:13:37
ほしゅ
- 166二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 18:32:43
保守です
- 167二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 21:32:54
ほしゅ
- 168二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 08:07:19
保守
- 169二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 08:49:06
ほしゅ
- 170建て主23/11/10(金) 18:50:06
蛍火はどこかへと飛んでいく。
静かな廊下を走っていく。
その灯りは、やがて豪奢な扉の前で止まった。
探検しているとき一番気になって、けれど兵士に阻まれて入れなかった場所だ。
両横で、その兵士たちが眠りこけている。肩をゆすぶったが起きる気配はない。
恐る恐る扉に指を触れさせると、音もなく扉が開いていく。
その中に体を滑り込ませる。
うずたかく積まれた金貨の山や、きらきらと輝く装飾品の森を潜り抜けて、蛍火を追っていく。
部屋の中央に、台座に突き刺さった剣があった。
灯りは、まるで触れろ、触れろというようにその周りを飛び交っている。
マナンはそれに、そうっと指を回した。
どくんと体中に力がみなぎる感覚。
骨や肉がみしみしと音を立てるおぞましい痛みにううっとうずくまった。
あまりの苦痛に悲鳴は出なかった。開かれた口の中から、何本も歯がぼとぼとと落ちた。
両手両足が伸びていく。足の指が音を立てて靴を突き破る。
「___マナン!?」
母の声が聞こえた。
それっきり、マナンの意識は断絶した。 - 171二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 22:17:27
これってもしや
- 172二次元好きの匿名さん23/11/11(土) 08:52:33
ほしゅ
- 173二次元好きの匿名さん23/11/11(土) 19:25:01
ほゅ