【百合注意、SS】2人がくっつくまでの話

  • 1二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:39:24

    結構長くなりすぎた上になかなか纏まらなかったので供養します
    結構百合百合するので苦手な方は引き返して頂けると幸いです。

  • 2二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:39:36

    「…どうしました?」
    「えっ!?あっ!?はい!?」

    最初は学園の中で路頭に迷っていたスペちゃんを助けるところから始まった。
    初対面だったが、出来ることがあるかもしれないのに無視することなど私の心が到底許しはしないと思い、声をかける。
    それが、私とスペちゃんの出会いだった。
    道案内の少しの時間話すだけでも分かるその子の純朴さ、純粋さ。
    世間を知らない故の可愛らしさなのか、それは分からないがとにかく明るく日だまりの暖かさを体現するかのような子、という印象だった。
    …まさか、同級生で同じクラスメイトとなるとは思っていなかったが。

    「グラスちゃーん!」
    「はい、どうしたんですかスペちゃん」
    「その、勉強が、分からなくて!グラスちゃんがおしえてくれたらなー…って……?」
    「ふふっ、そんな不安そうに聞かなくても大丈夫ですよ」

    転入生とはいえスペちゃんの性格でクラスに馴染むことは、まぁそれはそれは容易だった。至極当然のことと言っても差し支えないほどに呆気なく馴染み、このクラスにいるウマ娘全員友人と言っても誰も反論や異議を唱えはしないだろう。
    最初こそ夢を笑う者もいたが、時が経つにつれもうそんな子はいなくなった。
    当然、私とも友人になってくれた。なんなら道案内の時に顔見知りだったのもあって他の子よりも仲の良さはちょっぴり進展した状態からスタートしていた。
    とにかく、それほどまでに人懐っこいスペちゃんが、それでもあえて私を頼ってくれることに嬉しさを覚えないというと嘘になる。

  • 3二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:40:55

    「うわぁーん!グラスちゃん私ダメだったー!!」

    …まぁ、私とスペちゃんの健闘むなしく結局スペちゃんが補習行きになってしまったのは残念ではあったが、あの気力と努力は見習いたいところ。
    結果はどうあれ、しっかり準備をして勝負に臨むだけの抜かり無さはある、スペちゃんは決して可愛いだけの小動物ではないと、そう思わされた。


    「ねぇ、グラスちゃん」
    「はい」
    「グラスちゃんは…私に遊びに誘われて、迷惑だったりしない?」

    私とスペちゃんが一緒になるのは学園内の日常だけではない。
    寮は違えど当然プライベートで遊びに行くことはあるし、なんなら結構な頻度で私を誘ってくれているらしい。
    「お熱いね~」と、セイちゃんに冗談交じりにからかわれた時のことを気にしているのだろうか?
    あんなもの軽口なのだから軽く聞き流せば良いのだが、まっすぐ受け止めてしまう辺りはこの子らしいか。

    「どうして、そう思うんですか?」
    「何だか、いっつもグラスちゃんに付き合ってもらって、ちょっと遊びに誘い過ぎかなって思って……」
    「あら、私は楽しいですよ?スペちゃんが誘ってくれるから、私も退屈しないで済むんです」
    「ほ、ほんと?」
    「えぇ、本当のことですよ。だから、私を誘うのをやめないでくださいね?」
    「…うん!!」

    いつの間にか、私とスペちゃんの親愛の大きさは相当なものになっていた。
    今でならこう言ってもスペちゃんが拒絶することはないだろう。
    私の大切な親友だと。

  • 4二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:44:55

    「どうなってるんだ!店長呼べ店長!!」

    「!?」
    「…行きましょうか、スペちゃん」

    あぁ…クレームが来てしまったのか。
    ……こういう周りを省みない不躾な輩に平穏を乱されるとより一層腹が立つ。
    だけど、そう簡単に怒りにのまれるほど私は血の気は多くないし、何より。

    「怖いね…」
    「大丈夫ですよ、私がいますから」
    「うん…」

    私には守るべき友がいる、下手に諌めようと立ち向かうわけにはいかない。
    ここの喫茶店が前払いでよかった。静かに出ていけば絡まれることはないだろう。
    変な厄介ごとに巻き込まれるわけにはいかない。
    ……というのに。

    「お、可愛いねー、ウマ娘ってことは多分トレセンの子でしょ?速いんだろうな、ちょっと色んな話とか聞いてみたいし、食べにでもいかない?」
    「えーっと、その…」
    「…はぁ……」

    今度はナンパ。トレセン周辺はそこまで治安が悪くないはずなのだけれど。
    そして人懐っこいこの子もさすがに口ごもっている。
    こういう時はしっかり拒絶しなければ危ないんですよ?……一人でこの都会の街を歩かせて大丈夫なのだろうか。

    「お誘い頂いた所申し訳ないのですが、私たちは先ほど喫茶店にいましたので食事は間に合っております。失礼ですが、他の方を当たって貰えますか?」
    「そっかー…んじゃ引っ込んどくよ。デート楽しんで、お二人さん」
    「デ、デート…!?」
    「では、失礼致します」

  • 5二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:45:07

    大人しめのナンパで良かった。しつこいようなら最悪警察沙汰もあり得たラインの出会いだ。
    スペちゃんとの時間を、そんな下らないことに割かれてたまるものか。

    「さっきの人、そこまで悪い人じゃなかったんじゃ」
    「スペちゃん、知らない人には?」
    「…ついていかない。」
    「そうです。…大丈夫ですよ、何があっても私がスペちゃんを守りますから」
    「っ…!?」

    本当にこの子は優しすぎる。下心満載であろうナンパ男にすら善性を見いだそうとするほどだ。いざというとき何がどうなるか分かったものではない。
    本当に、私が守らなければ。親友すら守れぬ友がどこにいるのか。 

    「二回も助けられちゃった」
    「ふふっ、何回だって助けてあげますよ、スペちゃん♪」

    「…グラスちゃんは、カッコいいね」

    学園に帰り寮まで送って、軽く談笑した時に何かボソッと聞こえた気がしたが、気のせいで終わらせることにした。多分独り言だろう。

  • 6二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:45:59

    「グラスちゃん!エルちゃんたちも呼んで一緒に走ろー!」
    「はーい」

    「グラスちゃん!一緒にご飯食べよう!」
    「はい、今行きます~」

    「グラスちゃーん!今度映画見に行かない!?」
    「ふふっ、良いですね、いつ行きましょうか」

    最近、いつにも増してスペちゃんが私に関わる機会が増えた気がする。何かにつけて私の後ろをついてくる様はまるで刷り込みをされた雛鳥のようだった。
    それに悪い気がするかと言われると決してそういう訳ではないのだが、スペちゃんの友人は一人ではない。というのになぜ私を選ぶのだろう?
    …まぁ、多分私の知らないところで他の子と遊んではいるのかもしれないが。
    なんというか、母と娘のような気持ちになった。同じウマ娘なのだが。

    「グラスちゃん!補習!なんとか大丈夫だった!」
    「あらあら~、良かったですねスペちゃん、頑張っていましたもの」
    「グラスちゃんのおかげだよ!ありがとう!」
    「スペちゃんの努力の賜物ですから、スペちゃんのおかげですよ」

    それに最近、スペちゃんの成績も上がってきた。
    他の人から見ればマシになった程度かもしれないが、それでも、どんな一歩でもそれは人の十分な成長なのである。私もスペちゃんの勉強についた甲斐があったというものだ。
    よく走りたがっていたから、本当に良かった。

  • 7二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:47:43

    「よく頑張りましたね」
    「…っ、えへへ……」

    少し手が遠いが頭を撫で本心からの誉め言葉をかける。
    親が子にするような褒め方だなと我ながら思ったが、それでもスペちゃんは嬉しそうに顔をほころばせる。
    ……本当に、母娘のような関係になった気分だ。

    「私、グラスちゃんに甘えてばっかりだな~…」
    「良いですよ、甘えても」
    「え?」
    「私たちはライバルですから自分で立ち上がらないといけない時もありますが、同時に親友でもあるんですから、こういう時ぐらいは全然良いんですよ♪」
    「…優しいね、グラスちゃんは」

    少し頬が赤くなっていた。さすがに子供扱いされているようで恥ずかしかったのだろうか。そう思い、頭を撫でる手を引っ込める。
    夏合宿も近い。非日常を楽しむ前に補習に引っ掛かっていてはげんなりするなんてものではないから本当に良かった。めでたしめでたしというやつだろう。

    「グラスちゃん、部屋割りどうするの?」
    「どうしましょうか…」

    また別の日、夏合宿の同室を決める時間。
    好きに選んで良いとはいえ、2ヶ月間一緒になる相手を選ぶ時間だ、慎重に選ばねばいけないが、まぁ答えは最初から決まっていた。
    …隣でチラチラと頬を赤く染めながら「当然私だよね?私にしてくれるよね?」と見てくるスペちゃんが目に映る。
    不安がりながらも期待しているまるで子犬のような目線に可愛らしさを覚えてしまい、ついつい意地悪をしたくなってしまう。

    「うーん…エルとは寮で同じ部屋ですし夏合宿も……」

  • 8二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:49:40

    この世の終わりを見たかのような顔をしているスペちゃんがそこにいた。裏切ったのかとでも言いたげな、信じられないといった表情。少し意地悪が過ぎたかもしれない。
    冗談ですよ、と言う前にあっちのほうから仕掛けてきた。

    「グ、グラスちゃん!私とじゃ…ダメかな!?」
    「……ふふっ、そんなに焦らなくても。最初からそのつもりでしたよ♪」
    「グラスちゃん…!」
    「一緒に頑張りましょうね、スペちゃん」
    「うん!そうだね!」

    ぱぁぁ、と目を輝かせ尻尾をブンブンと振り回し始めるスペちゃん。私をここまで慕ってくれて嬉しい限りである。何がこうなったかはよく分からないけれど、まぁ運命の巡り合わせだろう。
    そして夏合宿の日。
    バスに揺られ、普段見ない光景に窓に張り付くスペちゃん。
    童心にかえってしまうのも無理はない、ここの海は青々としており絵に描いたような輝きを放っている。
    縁日なんかも海の周辺で行われることがあり、まぁ一言で言えば、飽きない。
    「グラスちゃんも遊びに行こう、ね!?」
    「スペちゃん。トレーニング目的で来ているんですよ、その事を忘れないように」
    「う…ワカッテマス……」
    「でも息抜きも大事ですから、遊ぶ時は遊びましょうね、スペちゃん」
    「…うんっ!」

  • 9二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:51:40

    到着後、点呼や何やらして、荷物などを整理して結局なんだかんだ夜になった。
    スペちゃんはまるでここが実家であるかのようにすぐ寝付いてしまったが、私はどうにも寝付けず、窓から見える星空を見上げていた。
    ……何故だろう、どこか落ち着かないのだ。
    理由は分からないが、この非日常に慣れていないだけなのかもしれない。
    人間、枕ひとつ変わるだけで一気に寝付けなくなると聞くし。
    今は鼻ちょうちん作って完全に爆睡しているスペちゃんが羨ましい。
    深くは何も考えず、ただ見守るようにスペちゃんを見ていたら、寝言を言い出した。

    「グラスちゃぁん…」

    全く、夢の中でも私か…と、少し呆れてしまったが、その寝顔はどこか嬉しそうで、思わず頭を撫でてしまう。

    「す、き……」
    「…ふふっ、私も好きですよ、スペちゃん」

    本当にどこまで人懐っこい子なのだろうか。
    そんなスペちゃんの頭を撫でていると、だんだん私も眠くなってきてしまった。まどろんで来たのなら今のうちに寝てしまおう。もう丑三つ時ではないか。
    そう思い、眠りについた。

    「おはよう~…」
    「おはようございます……」
    「グラスちゃん大丈夫!?やたら元気ないけど!?」
    「いえ…お気遣いなく……」

    そりゃそうだ。一度寝れた時は安眠直行だったがそこまでに全く寝れてないのだから。その日は睡眠不足による気だるさにやられたが、その日以外は意地で眠り、なんとか何日間かのトレーニングを終えた。
    そもそもこの砂浜というハードな場所で何日も何日もトレーニングなどやってみようものならどうなるか、想像はつくだろう。
    そう、文字通りの疲労困憊。途中から規律正しく生活していようと何日もハードな生活が続けば、気を抜くようなことはしないという自負のある私だろうとさすがに気力という気力を持っていかれる。

  • 10二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:53:24

    期待

  • 11二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:53:48

    「これはさすがに…疲れましたね……」

    宿舎に戻り風呂に入るなど一通りの生活の行動を終えたあと、部屋に入った瞬間身をぶん投げた。伏した瞬間襲ってくる睡魔。身を任せてしまいたいところだが、抗わねば…さすがに明日の用意もせずに寝るなどあってはならない。
    身体を起こさせろ私の腕。上を向け私の顔。
    ……だめだ、まぶたが重すぎる。そして気を抜いた刹那の瞬間、その重みに耐えきれず、私は意識を手放した。
    そこが、スペちゃんの布団であるということにも気がつかず。

    「……ん」

    目が覚めた。この若干薄暗い感じは早朝だろうか。しかしやけに布団が暖かい。
    寝ぼけた頭で若干暑さすら覚えるその温もりを享受していると、自分以外の寝息が聞こえた。
    ……スペちゃんだ。
    いやまて
    まさか
    私の布団がある方向を向いてみる。なんの人影もない、無人。
    つまり。まさかとは思うが。
    ……添い寝しているのか?私は?
    スペちゃんの断りもなく?もはや夜這いではないかそんなもの。

    「……スペちゃん?」
    「んぅ……ぐ~……」

    分かってはいたが熟睡を越えて爆睡だ。スペちゃんの豪快な寝方で私がぶっ飛ばされてないのは奇跡かスペちゃんの無意識下の気遣いか。
    …出よう。これ以上スペちゃんに不貞を働くわけにはいかな──

    「んぅー……グラスちゃぁ、ん……」
    「っ……!?」

    後ろから抱きつかれた。突然の距離感の接近に驚くというより、寝ぼけているとはいえ、脱出しようという時にこの状況はまずいという方が勝る。離れようとするが思いの外がっちりとホールドされている。抜け出せない、どうしましょう。

  • 12二次元好きの匿名さん23/09/28(木) 23:55:11

    「…観念しましょうか」

    起きたら色々詫びを入れよう。いや、脱出出来ていたらしなかったというわけではないのだが。

    しかしまぁとんでもない目覚めだった。いやまぁ、あの状況は100対0で私が悪いのだけれど、それはそれとしても恥ずかしいものは恥ずかしいし何より勝手に人のテリトリーに入ってしまったのだからスペちゃんにも申し訳ない。

    「んー……おはよう、グラスちゃん」
    「おはようございます、スペちゃん。昨夜はすみませんでした」
    「……あ、ううん、気にしないで!グラスちゃん疲れてたし起こすのも悪いかなって思ったんだけど、むしろ私が真横にいるのも嫌だったかなーって……」
    「そんなことはないです。むしろその気遣いが嬉しいですよ♪
    ただ、勝手に布団に入ってしまってすみませんでした」
    「ううん!全然大丈夫だよ!」

    やたら頬を赤く染めている辺り本当は恥ずかしかったか困っていただろうに本当にスペちゃんは優しい。少しぐらい文句を言われてもしょうがないと思っていたが、そんなことはまったくなかった。
    …甘えているのは、スペちゃんより私の方なのかもしれない。

  • 13二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:01:47

    …で、計2日もとんでもない夜を過ごしてしまい、どうにもしっくり来ないまま迎えた朝。
    睡眠時間は前より取れたものの、やはり少し疲れは残っている。

    「グラスちゃん?大丈夫?」
    「心配ありがとうございます、大丈夫ですよ」

    …そういえば一つ、気がかりなことがある。
    人の布団奪っておいてこういうのもなんだが、私がスペちゃんの布団を占有したというのなら、スペちゃんは私の布団で寝れば良かったはずだ。なのになぜ、私の懐の方に入ってきたのか。
    ……まぁ、スペちゃんのことだから多分特に意味などなく、ただ単に眠かっただけか或いは私の布団で寝るのも忍びないと思ったのか、どっちかだろう。まさかスペちゃんが私のことを恋愛的に好いているなんてあるわけもなし。
    なんにせよ、過ぎたことをずっと考えていても仕方がない。切り替えていこう。
    ……と、言いたいところだが。今日はオフの日で、アレがあるのである。

    「夏祭りだー!」
    「デース!!」
    「スペちゃん、エル?」

    ……さすがに、ここまでテンションが高いと少し心配になる。まぁ無理もない。夏合宿の目玉イベントと言っても過言ではない夏祭りではしゃぐなという方が無理だ。

    「二人とも、はしゃぎ過ぎです」
    「でもグラスちゃん!?夏祭りだよ!?」
    「そうデスよ!硬いこと言いっこなしデース!!」
    「……はぁ。分かりました、でも羽目を外し過ぎないように」
    「やったー!」
    「さすがグラス!話が分かってマース!というわけでグラス!行きますよー!!」
    「エル…ちゃん……!?グラスちゃん独り占めとかダメだよ!!?」
    「じゃあスペちゃんも来てください…ね?きゃっ!」
    「あっ!?二人とも待ってー!」

    …なんたる混沌か。
    この勢いではしゃぎすぎて周りに迷惑をかけてしまうのは避けたいところだ。

  • 14二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:03:42

    まぁスペちゃんもエルも常識知らずではないし何かしでかすということはないだろう。
    夏祭りと言っても屋台が出ているだけで特に大きな催し物があるわけでもないのだが、それでもはしゃぐには十分なのだろう。ただでさえ夏合宿という非日常の中に夏祭りという更なる非日常があるのだから、無理もない。
    正直、私も心踊っている。

    「ずい、ぶん…遊びましたね…」
    「グラスちゃん、楽しかった?」
    「えぇ。久しぶりにこんなに遊びました。もう数ヵ月分は遊ばなくても良いくらい」
    「えっ!?私まだグラスちゃんとずっと遊びたいよ!?」
    「…あらあら~♪」

    結局あの後、夏祭りを堪能した私達は宿舎に戻って後は寝るだけとなった。結構あの場にいたというのに未だ活気を遠くからでも感じる辺り、大分人気な祭りだったらしい。
    スペちゃんのあの食事量に耐えきる屋台の数々…歴戦の猛者を思わせる佇まいだった。

    「ねぇグラスちゃん、夏合宿もあとちょっとで終わりだし布団、横に並べてみない?」
    「はい?」
    「私、一回ぐらいはこういう所で川の字で友達と寝てみたいなって思ってて…2人しかいないけど」

    なるほど、合宿感をもっと味わいたいし前からやってみたかったと。
    別にそれくらいなら断る意味もない。前みたいに同じ布団で寝るようなことになる訳じゃあるまいし、寮で寝るときと大して変わらないだろう。そう思い、私は了承した。

  • 15二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:09:55

     
     
    油断した。
    というか、そうなると思ってなかった。
    まさかスペちゃんの方から私の布団に侵入してくるとは思わなかった。
    何故よりにもよって遊び疲れてただならぬ睡魔に襲われまくって目蓋がボコボコにされている今日に限っていつにも増してスペちゃんの寝相が終わっているんだ、この前の時は平穏に寝れたというのに。
    スペちゃん寝相ガチャに完全敗北したのか私は?スペちゃん寝相ガチャってなんだ?
    睡魔に狂わされてそんなしょうもないことを考えていたら。

    「ねぇグラスちゃん、起きてる?」
    「………?」

    …そもそもこの子起きていたのか。
    一体どうしたというのだろう。返事を返してあげても良いのだが、レースのジンクスなどよりずっと手強い睡魔とずっと格闘中の私はもうすでに意識が朦朧としている状態と言って差し支えない。要するに今の私は起きる気力もゼロに近しくスペちゃんの話を聞くぐらいしか出来ないわけで、その話を聞くのも内容が入ってくるのは話半分だろう。

    「…寝ちゃってるんだ」
    「……グラスちゃん、私ね。グラスちゃんのこと可愛いって思うし、カッコいいなって思うし、綺麗で優しいし、すごい所挙げてくとキリがないと思う」

    なんだなんだ、突然告白前の良いところ挙げみたいなことをしだして。
    今までを振り返り感傷に浸っているのだろうか。
    私は言うほど大したものではないのだけれど。

    「グラスちゃん…寝てるよ…ね?」

    スペちゃんが私に何か話している。
    しかし意識が朦朧と、要するにボケている私はもはや聞くだけの機械と化しているわけで、スペちゃんの話を聞く以外のことは出来ない。
    だが、何かスペちゃんの気配がかなり近くなってるのは分かる。肌がふれ合わなくとも体温は感じる、それぐらいの距離感だろうか?スペちゃんが何を言おうとしているのか、その答えを知る前に私の意識は深く沈んでいきそうになる。
    スペちゃんの息遣いを感じる。
    だけどどこか余裕のないような、浅い呼吸。
    近づく気配、息遣いが当たる距離、浅い呼吸…?

  • 16二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:17:33

    「…好き」
    (ん…!?)
    スペちゃんの言葉に驚くと共に一気に意識が浮上した。
    そのおかげで完全に目が覚めた私は、目の前で起きている光景に驚きを隠せなかった。
    目を閉じたスペちゃんが私にキスをしていたのだから。それも唇へのキスだ。
    目を瞑って自分に言い聞かせる。
    …違う、こんなの、まやかしだ、私が作り出した、そう夢。
    あの純粋で、恋なんて知らなさそうなスペちゃんがここまで積極的に、ましてや私をそこまで想う訳がない。

    「……グラスちゃん」

    キスを終えたスペちゃんが私の名前を呼ぶが、私はそれに反応できない。反応したくない。
    今スペちゃんと顔を合わせたらどうして良いのか分からないから。この一瞬で私はぐちゃぐちゃになってしまうと思うから。

    「ごめんね、…私、好きなんだグラスちゃんのこと……」

    このスペちゃんの想いに対する返事を、私は持ち合わせていなかった。
    んん、と少し声を漏らすとスペちゃんはびっくりしたのか、離れていく。当然、その程度のことで私の胸は落ち着きはしなかった。

    まぁその日の朝はとても落ち着けたものではなかった。そもそもあれ以来とても快眠など出来るものか。
    スペちゃんは私があの時本当は起きていたとも知らないから私が見つめるたびに「何か私した?」みたいな顔をしているし。
    ……スペちゃんに、キスをされた。その事実をどう受け止めればいいのだろうか。私はスペちゃんのことをどう思っているのか、友達としてなのか恋愛対象なのか。そもそもこの私の中に渦巻く訳の分からないこの気持ちはどういう感情なのか。
    数日間、1日たりとも頭から離れることはなかった。

  • 17二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:20:49

    ただ一つ言えるのは、あれ以来スぺちゃんを直視しても何ともなかったはずが磁石が反発するようにまともに見れなくなってしまって、顔が熱くなって、とてもじゃないが平然を装うのが楽ではなくなってしまった。
    恐らくもう、私はスぺちゃんに、魅入られてしまっている。
    友人でなく、一人の女として。

    「グラスちゃん?どうしたの?」
    「…あぁ、いえ。少し考え事を」

    よくもまぁあの夜あんなことをしておいてそんな純粋無垢ですみたいな顔を出来るものだ。
    私のファーストキスを、奪っておいて。

    「グラスちゃん、大丈夫?」
    「えっ」
    「……どこか、具合悪い?」

    スペちゃんが心配そうな目で私を覗き込んでくる。
    やはり純粋だ。あんなことがあったとは思えないぐらいに。

    「大丈夫です。大丈夫ですよ」
    「本当に?」
    「はい」
    「……グラスちゃん、私に何か言いたいこととかあるなら言ってね?最近私のことよく見てくるし。…お腹出てたりする!?」
    「……あ」

    ここで、はい大丈夫じゃないですと言って、吐き出して良いのだろうか、触れてしまって良いのだろうか。
    わざわざ隠れてやったということは、スペちゃんはあの想いを殺す気なんじゃないのか。それにわざわざ触れるということは、最悪スペちゃんの心を傷付ける。
    いや、もっと最悪なのは、それで私たちの仲が壊れてしまうことだろう。
    スペちゃんを傷付けたくないし、私のせいで関係が壊れるなんて耐えられない。
    ……でも。

  • 18二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:24:08

    「…あなたのせい、です」
    「えっ?」
    「……スペちゃんの、せいです」

    だけど。いま抱えているものをずっと圧し殺していくなんてそんなの、耐えられるはずがない。
    あのような想いを見せられて、どうして忘れろなんて言えるだろうか。どうしてずっと目を背け続けないといけないのか。

    「ど……どうして?私何かしたっけ?」
    「私が寝てることを良いことに、しましたよね?」
    「…あっ…えと……その……」

    下手を打てば、私たちは一生ぎこちなくなってしまうだろう。だけどもう戻れないところまで私は来てしまっていた。
    もう後には引けない、どうにでもなれという気持ちでスペちゃんの肩を掴み、その勢いのまま畳に押し倒した。

    「グラスちゃ、ん……?」
    「あなたが…あなたが悪いんです……!あんなことして!私は友達だと思っていただけなのに!」
    「…ごめんなさい」

    謝ってほしくない…。
    悪いと思っているのならいっそのこと開き直って欲しい。
    このままだと全てスペちゃんに煩悩をぶつけて頭のおかしくなってしまいそうな私に冷や水をかけてほしい。

    「……責任、取ってください」
    「せ、せきにん!?」
    「あなたが……あなたを好きになった女の子はっ!!あなたのせいでおかしくなったんです!!!なら責任を取るのが道理というものでしょう!!?」

    もう止まれない。自分でも正直何言ってるのか分かっていないところがあるが、ここまで来たら言いたいこと全部言い切ってスぺちゃんに全部ぶつけて散ってやる。そんな玉砕覚悟の勢いで吐き出していく。

  • 19二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:27:00

    「スぺちゃんのことを親友として見たいのに、見ていたのに、あの日から私は色々ぐちゃぐちゃになって、スぺちゃんのことを…恋の相手として、好きになってしまった……!」
    「グラスちゃん……まっ「何を待てと?」

    有無を言わせず唇を奪う。
    ひどい形だ。何なら真っ正面から強引に行った以上スペちゃんより酷いだろう。
    世が世なら本当に腹を切って詫びるしかない。

    「っは……グラスちゃん……」

    スペちゃんは少し微笑んで私の頬に手を当てた。
    ……どうして。
    私は、今あなたに酷いことをしたのに、何故そんな優しい目を向けてくれるのですか。

    「ひどいなぁ、グラスちゃん」
    「……ごめんなさい、もう二度とスペちゃんに「先に好きになったのは私なのに」…え?」

    一瞬の不意を突かれ、今度はこっちが押し倒される。

    「…私が、先に好きになったんだよ。グラスちゃんのこと」
    「そ、れは……」
    「ごめんね、寝込みを襲うみたいな真似して。……怖かったんだ、女の子同士だし、きっとグラスちゃんは嫌がるだろうなって。…けど、もう良いんだよね?」
    「え…?」

  • 20二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:30:51

    押し倒された上に、私の腰あたりに馬乗りになられている。
    形勢は完全に逆転されてしまった。
    純粋で優しかったその紫色の瞳が今では妖艶に光り、獲物を目の前にした肉食獣のように私を捉えて離さない。

    「私、グラスちゃんが欲しいな」
    「スペ、ちゃ…ん……」

    なんてめちゃくちゃな流れの告白なんだろう。
    私がヤケクソでスペちゃんに想い…なんて綺麗なものじゃないのをぶつけて、スペちゃんも想いをぶつけてきて。
    そして私はスペちゃんの彼女にされつつある。
    それが、それがなんだかとても。
    愛おしいことのように思えて仕方がない。

    「…はい、よろしくお願いします、スペちゃん」

    まるで誓いでも交わすかのように唇をまた触れあわせて、スペちゃんを抱き寄せて。
    私はただただ全身でスペちゃんを感じようとして。そうするとこの胸のごちゃごちゃした感じはすぅっと消えていく。

    「……ぷぁ」

    息継ぎのために一度口を離すと、ツゥっと細い橋が架かり、すぐに切れた。
    お互いの目はとろとろで、紅潮し、目の前の相手のことしか頭にない。

    「えへへ…お返し」
    「もぅ……スペちゃんったら……」

    この時は、一瞬一瞬が幸福に満ち溢れたものになっていた。
    そして、多分これからも、そんな時間は続いていく。お互いに想いをぶつけ合えた、今の私たちならそんな幸せを創っていける。そう思えてならなかった。

  • 21二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:32:40

    さらに時が過ぎ、過酷で楽しかった夏合宿が終わり、そこからさらに秋になって。

    「グラスちゃーん!グラウンド一緒に行こ!」
    「はいはい、今すぐ参ります~♪」

    「スカイさん、あの2人最近すごく仲良くないかしら?」
    「いやぁ~…セイちゃんには~……」

    「仲が良いで片付くようなもんじゃないように見えますけどねぇ~…」

    とある教室。
    そこでは二人のウマ娘が、よく尻尾を絡ませている姿が見られるという。

    fin.

  • 22二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:33:36

    先に言っておきます
    スレの十分の一も使うぐらい長くてすいませんでした……

  • 23二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:47:45

    スペグラ…!!

  • 24二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:51:11

    良かった
    スレ全部使うくらい長くても構わないんだが?

  • 25二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 00:55:48

    とても良かったです。ありがとうございます。

  • 26二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 01:55:10

    寝言で言ってた好きも多分Loveだったんだろうなって

  • 27二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 02:56:25

    よい。全ては、これで良い…

  • 28二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 07:21:06

    素晴らしい…実に素晴らしい
    唯一困ったのは続き待ってる間に寝落ちした事だよ 今やっと読み切ったよ
    次は一気に出して♡

  • 29二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 13:17:34

    グラスって可愛い上に勇気もあるからカッコいいしそんでもって優しいしで結構理想の男性像みたいなところあるな

  • 30二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 19:04:08

    >>29

    グラスは理想の彼氏だった…?

  • 31二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 22:54:01

    グラス攻めが多い中でスペちゃんが先攻とは珍しい
    あと途中まで割とこのグラスクソボケだな?

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