- 1建て主23/09/29(金) 21:20:29
ヨダぐだが思ってたんと違うデキになったので無理せず上げなおし。
こんなん書いてます↓
完結↓
【CP・R-18・現パロ注意】インド兄弟サンドイッチぐだ子|あにまん掲示板仕事がクソ忙しいのに建ててしまった。Hな展開あり〼(希望的観測)よいこのみんなは見ないでね!bbs.animanch.comまだ書いてる↓
【SS注意・R-15注意】妖精女王モルガンの夫概念|あにまん掲示板スレが落ちていたので建て直し。モルガン女王の夫概念ぐだです。bbs.animanch.com - 2二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 21:33:57
よかった...いきなりスレが無くなったので
めちゃくちゃ慌てた...
乙です。 - 3建て主23/09/29(金) 21:53:51
~アルジュナサイド~
「お父さんが、おばけっていってた」
リツカはぽつりとつぶやいて、かたっぽの目から着古したメイド服に涙をひとしずくこぼした。
木漏れ日が降って、その濡れた睫毛を照らした。白い髪をしたアルジュナはただ一言、
「私はすきです」
「わたしはやだよ・・・すぐ治るっていわれたってさ。救急車がもうちょっと早くやってきてくれたらよかったのにっておかあさんがしつじさんと話してた」
彼とまるで同じ顔をした、黒い髪のアルジュナは、
「あなたはあなたでしょう。そんな言葉、気にしないでよろしい」
「そんなこと言われたってきになるよ。ってか、二人ともゆうしゅうなのにそんなへんなしゅみじゃ彼女できないよ。あたっ」
左右から同時に耳たぶを引っ張られる。リツカはふと気づいて口を開いた。
「そうだ、いまのわたし、珍しいでしょ?何点?」
彼女よりすこぅし背が高い、二人のアルジュナは、ただ黙って汗をぬぐった。
あついあつい、なつのひる。 - 4建て主23/09/29(金) 22:19:32
___わたし、藤丸立香は十八歳。かつて仕えた主人に呼び出され、ただ一人のメイドとして引っ越そうとしてる。
「立香ちゃん、迎えの車が来ていますよ。準備はできているの?」
おばさんの呼ぶ声がする。
「はぁい、ただいま」
それに返事を返して、かつて自分のものだった部屋に両手を合わせた。
「それじゃ、五年の間ありがとうね。わたし元気にやるから、きみも元気でやるんだぞ」
ぱんぱんと柏手を打って、わたしは五年間寝起きしていた部屋に背を向けた。
「立香ちゃん」
玄関先で振り返る。
順子おばさんはさびしそうな目をして立っていた。
「・・・おばさん、そんな顔しないでよ。わたしなら大丈夫、あっちでも楽しくやってきますから」
「そうは言われても、話があんまりにも急だったから、ね。心の整理がついてないの。あなたは元気で賢い子だけど、ぼっちゃまと三人きりで暮らしていけるか心配だわ」
おばさんの心配はわからないでもない。あの二人とは仲がよかったけれど、五年もたてば人は変わるものだ。おばさんくらいの歳になると、そういうタイプの男の人と一緒に暮らすのは恐怖でしかないだろうけど。
だからこそ、わたしは明るく笑って見せた。
「平気だよ、アルジュナたちとはきょうだいみたいなもんです。五年も離れていたって、距離はすぐ埋まりますって」
「立香ちゃん・・・」
「とにかく、心配ごむよう!おばさんこそ毎日元気に暮らすんだよ。病気にでもなったら、わたし泣いちゃうから」
「・・・そうね。あなたは昔からどこでも楽しく生きていける子だったものね」
「それじゃ行ってきます。おばさん、さっきも言ったけど、どうかお元気で」
そう言ってわたしは、おばさんに背を向け、慣れ親しんだ家を後にした。 - 5二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 22:59:05
早いかもしれないけど保守支援をば
SSスレを複数並行するのすごい…… - 6二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:01:36
このおばさんは良い人なんだなきっと…
大人が優しいと安心する - 7二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:02:18
どれも好きだ 応援してます
- 8二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:05:49
ジュナぐだ好きなのでほっしゅほっしゅ
- 9二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:28:31
ぐだ子が5年前の何かで珍しいことになって
救急車がくれば対処できる内容だった? - 10二次元好きの匿名さん23/09/29(金) 23:33:53
現代時空で今18歳ってことは下手するとリアル中学生の時にメイド服着てた可能性かあ
- 11二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 08:21:27
ほっしゅ
- 12建て主23/09/30(土) 08:46:42
家の前で待っていた車に乗り込むと、扉は勝手に閉まり音もなく発車する。
遠ざかる古びた建物の入り口で、おばさんはその姿が見えなくなるまで手を振っていた。
順子おばさんの気持ちもわからんでもない。
これからわたしが引っ越そうという家は、家なんて単語でひとくくりにするべきではないほどの時代錯誤なお屋敷だからだ。
家も立派なら家柄も立派という名家であり、いくつかの大きな会社の株主であるらしい。
くわえて言うのなら、わたしがメイドとして長年暮らしていた大恩あるお屋敷でもある。
そこのぼっちゃまとは、身分の差を越えた友情を築いていたものだ。
二人は確か、二人ともアルジュナと呼ばれていた。一卵性双生児だそうだったけど、もう一人の方は何故か髪が白かったので厳密には二卵性だと思う。
白い方が兄だったらしいが、おぼろげな記憶の中でも彼はぼうっとした人で(純朴ともいう)、生真面目な弟が彼を引っ張っていた気がする。
兄のアルジュナはどういうわけかわたしによくなついて、仕事の合間を縫ってよく遊びに誘ってくれたものだ。
『リツカ、遊びましょう』
そんなことを言って、庭に成ってるすっぱいリンゴを食べたり、かくれんぼをしたりして遊んだ。懐かしい思い出だ。
「___はあ」
とはいえ、だ。
五年も離れていたのだからそんな関係が今もなお続いているとは到底思えない。そんな長い期間を挟めば人は変わるもので。三つ年の離れた異性のいる家に義理とはいえ自分の娘を送り出すおばさんの心境、察するに余りある。 - 13建て主23/09/30(土) 09:12:20
___五年前。
わたしは大事故に遭って、死んでもおかしくない重傷を負った。傷は事故の現場を目の当たりにした二人のアルジュナにも及んで、食事もろくに喉を通らないありさまだった。日に日にやつれおとろえていく二人を見ていたので、それははっきりと覚えている。
いったん距離を置かせようと判断した屋敷の主人、つまりアルジュナたちの父親は仕事に復帰したばかりのわたしに直接事情を話して、しばらくの間この屋敷から離れてほしいとの旨を伝え、そして暮らすなら実家か、信用のおける親戚の家かどちらがいいと聞いてきた。
当然、後者に首を振った。父親との仲はその時すでに冷え切っていて、あの人と同じ屋根の下で暮らすのなんか想像しただけでぞっとした。
そういうわけでわたしは親戚の藤丸に姓を移して、そこで優しくて繊細なおばさん、本が好きなおじさん、年下の姉に揉まれながら過ごした。
そんな日々が一年、二年、三年と続き、気が付けばわたしは、アルジュナたちとの思い出をよく思い出せないくらい長く離れてしまっていたのだ。
信じられないほど広い庭と、それにふさわしい大きくどっしりとした建物。
その屋敷は、なるほどかすれた思い出の中にあった姿そのままだった。
遠ざかる車のエンジン音を背中にしながら、恐る恐る呼び鈴に指を当てる。
ピンポーン、という、立派な造りに似つかわしくない気の抜ける音がした。
一歩離れて待っていると、目の前の大きな大きな扉が、ぎぃぃ、と大袈裟な音を立てて開いた。
「・・・お久しぶりです」
「・・・うん、久しぶり」
二人のアルジュナは、見違えるようだった。 - 14二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 17:29:26
ほっしゅ
- 15建て主23/09/30(土) 17:45:54
背丈は相変わらずわたしより高く、顔立ちはずっと精悍になって、体は細いながらも筋肉がついていた。
黙る。伸びあがるようにわたしを見下ろしている白髪のアルジュナが、わたしを真似て首をかしげた。
「・・・どうしました?」
黒髪のアルジュナがたずねてきた。
「いや、アルジュナ、そんなイケメンだったっけ」
言葉の意味を理解するのに時間がかかったのか、彼は数秒の間のあとふはっと吹き出した。
「鍛えているんですよ。当主というのは案外体力がいる仕事ですので」
「そらそうか」
「まあとりあえず上がってください。部屋も準備してあるので」 - 16建て主23/09/30(土) 18:12:06
~アルジュナサイド~
リツカは、見違えるようになっていた。
相変わらず背丈は私より低いまま。なだらかだった体は女性らしい丸みを帯び、飾り気のないメイド服を着ていたころとは違い、チェックの入ったスカートを履いて頭にはシュシュをつけている。
「わたし以外には人がいないってほんとう?」
「ええ、あなた以外の使用人は全員分家に移っていただきました。この屋敷にはあなたと私、そして兄しかおりません」
「世話する人が少ないのはありがたいけど、こんなに広い屋敷を掃除するのに一人っきりじゃなー」
「私どもも手伝いますよ?」
「やめてよー、一人じゃ家事もままならないなんて噂されたらどんだけ恥ずかしいか」
「何が言いたいんです、困るだの恥ずかしいだの」
私につられて、兄がひっそりほほ笑む。
「あーお腹すいた!なんか用意してもいい?」
「おお、ようやくコーヒー以外の調理ができ」
「ない!」
「できてない」
「よろしくお願いします」
「まさかあなたを迎えて初めて口にするのがピザになるとは」
シーフードピザをつまみながらつぶやいた。
「でもジャンクなのもいいじゃん」
「まあ確かに」
そのとき、ずっと無言だった兄が口を開いた。
「リツカは子供の頃から」
「から?」
「虫を標本にすると怒ってましたね」
「そりゃ怒るよー!わたしは生きたままがよかったの!白ジュナはすーぐバラバラにするからね」
「中身が気になったんです」
「シリアルキラーみたいなこと言わない!一番怖かったのはセミのお腹の中は空っぽなんだって見せられた時だったかな。あれがぶっちぎりでトラウマー。あとは蝶のワタの長さ比べとかさ、あんときの白ジュナの顔やばかったよ。黒ジュナも見てないで止めてほしかったのに」
「ふっ。あなたの科学的探究心に火をつけようと思いまして「嘘つけ」命の尊さとか「嘘つけ」」 - 17建て主23/09/30(土) 18:29:26
兄が、
「目はどうしてますか」
___空気が一瞬凍ったように思えたのは、きっと錯覚だ。
「んー?なんでもないよ」
ほら、その証に彼女はなんてことのないように片目にかかった髪をかき上げ___
___真っ赤に染まった目を見せた。
みーんみんみん。みーんみんみん。
蝉が狂ったように鳴いている。輪唱のようだ。
えーんえんえん。えーんえんえん。
リツカが泣いている。いつも笑顔を絶やさなかったリツカが、地面に刺さったスコップの横でぽろぽろと泣いている。涙が赤い血と混ざってキモチノワルイらせんをつくった。
みーんみんみん。みーんみんみん。
それはまるで、セカイがオーブンになってしまった感覚。喉がからからに熱かったのに、手足は冷たく、氷室のよう。
「相変わらず赤いフィルターがかかってるけど、問題なく見えるよ。まーこれのせいで彼氏はできずじまいだったけど」
リツカは苦笑して、本題に移った。
「それよか、手紙に書いてあった珍しいものってなに?写真撮るならカメラ持ってきてるけど、いつ?準備かかるんだ」
何も言えなかった私に代わって、兄が言葉を継いだ。
「二十五時、居間で」 - 18二次元好きの匿名さん23/09/30(土) 21:31:22
ほしゅ
- 19二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 01:44:20
不穏……
- 20二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 09:46:00
この作者さんのぐだ子産みの親と色々確執多い?から
どれだけ不穏でもこの方が幸せなんじゃないかなって思う時ある - 21二次元好きの匿名さん23/10/01(日) 18:26:55
ほしゅ
- 22建て主23/10/01(日) 21:43:28
~リツカサイド~
撮影は居間で行うとのことで、わたしは持ち込んだ三脚とカメラの準備をした。
少し離れたところの窓辺で、二人のアルジュナが立っている。
寄り添い合う姿は長らく連れ添った夫婦のようでいて、双子にしか出せない独特の雰囲気がある。
白ジュナは黒ジュナの方を向いていて、黒ジュナは彼の頬に手を添えている。
・・・まさかと思うけど、キスしだしたりしないよね?カメラを持つ手に力がこもる。
「ねー、撮っていい?もうちょっと時間かかりそう?」
「・・・いいですよ、もう」
___かちり、と古びた時計の秒針が音を立てた。なにか、おぞましい奇跡の始まりを告げるような。
振り向いた白いアルジュナの顔は、その顔は。
空洞だった。まるでスプーンでくり抜かれたかぼちゃだ。顔が、蝶番の外れかかった扉のように引っかかっている。
そしてその中には、一つ目のついた餅に似たナニカが三匹、つらなってこっちを見ていた。
「キャー!」
そのうちの一匹が甲高い悲鳴を上げて奥に潜った。
「・・・あー、びっくりしたあ。もう、会わせてくれるのならそうだと言ってくれれば」
餅が伸びて、わたしにあいさつをする。
「初めましてえ。王子の恋人さん、でしたっけ?私ども、王子の体に居候させてもらってます」
「リツカ、写真はここかでも撮れますか」 - 23二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 00:28:32
期待保守
- 24二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 05:13:12
保守
- 25二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 16:05:43
ほ
- 26二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 22:14:19
これぐだだけじゃなくてアルジュナオルタも人間じゃない?
- 27二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 00:10:53
保守
- 28二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 06:13:12
不穏だ・・・
- 29二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 17:16:17
ほ
- 30二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 20:23:51
身体の中の小さいのはアルジュナを「王子」と言ってるし
現パロに見せかけた転生ものか?カルデアでの記憶がある? - 31建て主23/10/03(火) 21:38:00
「あなたにはおよそ信じがたい話であるでしょうが、私たちは3000年前・・・西暦2018年の魂を持って生まれた存在です。魔力で稼働していた私たちにとても親切にしてくださったのがフジマルリツカ、つまるところはあなたの前世です」
コーヒーを淹れながら、黒ジュナは語り出した。
「我々はちょっとしたズルをして時間渡航、に近いことをしたのですがその際に事故が起きて、人の子として母クンティーの胎に宿ることになりました。あなたが私たちに抱いていた早熟した印象は、そのせいでしょう」『見えた?』『見えた見えたはっきり』『えーいいなわたしもー』
角砂糖をそれは景気よく、どぼどぼと入れる。
「兄の体もまた、その余波を受けて変質しました。もとより人でない部分が多かったせいか成長するにつれて内臓も骨も肉も硬質化していって」『順番守ってくださーい』『あっ隙間からみえた』『おさないでよー』
ミルクが夜闇より黒いコーヒーに注がれ、白いらせんを描く。
「ぜんっぜん話に集中できない」
「静かにしなさい『はい』まあそういうことで、彼___兄の体もまたその後遺症で、体という容器に人格が貼り付いてる状態に陥っています。平たく言うなら人間水槽というか人間瓶詰というか。リツカ、甘いコーヒーは好きでしたね?」
こと、と目の前にコーヒーが置かれる。
「あなた、珍しい生き物好きなんでしょう。撮ったらいかがです」
「・・・やだ」
「なぜ」
「いい年こいて王子とかさあ」
「年寄りのすすめは受け入れる者です」 - 32二次元好きの匿名さん23/10/04(水) 03:25:17
ほしゅほしゅ
- 33二次元好きの匿名さん23/10/04(水) 07:34:26
このレスは削除されています
- 34二次元好きの匿名さん23/10/04(水) 17:04:10
保守
- 35建て主23/10/04(水) 18:16:29
「だいいちどうやったらそんなことになっちゃうんだよ・・・仮面ライダーみたいに改造手術したとか?」
白ジュナは黙って頬を掻いた。
「魔力を・・・補うために、ありったけの聖杯と聖晶石・・・まずかったです」
「おつかれした。また明日」
立ち上がって居間から出て行こうとしたわたしの服を白ジュナが掴む。
「待ちなさい。まさか胃酸まで分解するとは思えなくて、事情が事情なだけに周囲に助けを求めるわけにもいかず、まちなさい、リツカ、マスター」
「誰がマスターじゃ、あほ!付き合ってらんねーよ、そんな大道芸に!石とサカズキ食べるなんてさあ」
「これもまた魔術の発展のための尊い犠牲というもので、まこと失敗とは成功の母と呼ぶべきと」
「自分で失敗って言いやがった!」
逃げようとしたが結局振り切れず、そのまま居間で撮影会を開くことになった。
アルジュナは二人とも、いつ着替えたのか見知らぬ衣装に身を包んでいる。白ジュナに至っては半裸だ。浅黒い肌がむき出しで落ち着かない。
「悲しむことはありません、あなたは彼女と同じ魂を持っているというだけで肉体的に異常を抱えてるわけでなし」
「そういうこと言ってんじゃねーし!くそっ、年上の幼馴染が実は純人間じゃなかったとかアニメかよ」
「泣かないでください、私たちは今大変珍しい状態なのですよ?九十七点はかたい」
「まだ生きてたのかよその制度!・・・ちょっと、モデルさん魂しまってください!いかがわしいですよ!」
暗がりにフラッシュがひらめく。
「どうです?見覚えがあるでしょう?」
わたしは首を振って、シャッターを切った。
「子供の頃の友達にしか見えないよ」
ストロボの照らす中で、彼らはどうしてだか残念そうな顔をしている・・・ように見えた。
「___そうですか。残念です、とても」 - 36二次元好きの匿名さん23/10/04(水) 21:49:47
ほしゅ
- 37二次元好きの匿名さん23/10/05(木) 07:27:27
くっそ口の悪いぐだ子ちゃ愛しい
- 38二次元好きの匿名さん23/10/05(木) 17:57:26
保守
- 39建て主23/10/05(木) 19:19:06
「そうだ」
寝る前に呼び止められた。
「なに」
夜明けの逆光が、アルジュナたちの顔を覆い隠している。
「私たちはこの世で二人きりの貴重で珍しいものになってしまいましたから。
・・・さらわれるかもしれません」
「へ?」
「狙われている」
二人は口をつぐみ、寝室へと戻っていった。
▼
およそ仮眠を取れるような状態でもなく、ややぼうっとした頭で職務を果たす。
さらわれる。狙われている。その言葉が、掃除をしている間も、皿洗いをしている最中もずっと頭の中で跳ね回っていた。
きんこーん、と玄関からわたしを呼ぶ音。
そこへ向かっていると、たたた、と階段を小気味よく降りてきた黒いアルジュナと進路がかぶる。 - 40建て主23/10/05(木) 19:43:54
「母上・・・」
「ああ、よかった。今日は休日だからリツカと一緒にいるはずだと思ってたの。
おはようリツカ。昔あなたとは仲が良かったはずですけれど、覚えているかしら?」
浅黒い肌をした、美しい黒髪の女の人はわたしを見て少しぎこちなく首をかしげた。
覚えていないはずがない。彼女の名はクンティーさん。
日本人であるわたしにとても良くしてくれた親切な人で、アルジュナたちのお父さんがわたしをこの家から離すことに最後まで反対してくれていたのだ。
「お久しぶりです、クンティーさま。息災でなによりです」
「”さま”なんて、昔みたいにクンティーさんって呼んでちょうだいな。うふふ。見ないうちにすっかりかわいらしくなったわね」
「母上、何事です。父上と共に分家にいたのでは」
「それがね、相続に関してもう少し話がしたいと言って呼んできてほしいって。今、あの人、お腹壊して動けないの」
「わかりました。兄を連れてすぐ向かいます」
表情こそ平素のそれだったが、眉根が注意しないとわからないくらいかすかに寄せられている。あ、不機嫌そうにしてる。
「ではリツカ、留守を任せます。なにかありましたら電話で」
「戸締りはしっかりするのですよ。チェーンを忘れないで」
「はいはい、わかってるよ」
車が遠くなる。あれは確か、アルジュナのお父さんがこの国で気に入って買ったっていう車だ。 - 41二次元好きの匿名さん23/10/05(木) 21:25:01
ほしゅ
- 42二次元好きの匿名さん23/10/06(金) 07:10:50
hosixyu
- 43二次元好きの匿名さん23/10/06(金) 16:41:57
念の為ほっしゅ
- 44二次元好きの匿名さん23/10/06(金) 21:48:25
ほしゅほしゅ
- 45二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 07:27:53
このレスは削除されています
- 46二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 07:29:17
ほ
- 47二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 16:50:06
保守
- 48建て主23/10/07(土) 19:01:01
三時間くらい時間をかけて部屋を一つ残らず掃除して、そのあとはリビングでひまをつぶした。
テレビで流れてるバラエティはくっだらないのばかりだったから、CDフォルダにしまってある映画を観た。
結構面白かった。一番上のフォルダにしまってあったそれは、おばけになってしまった恋人と添い遂げようと苦心する女のホラーラブコメディ。
CGが残念だしシナリオも適当で、オチも結局恋人とは別の道を選ぶという、ホラーにもラブコメにも振り切れてない微妙なデキだったけど、胸キュンポイントは心得ていたので割と記憶に残った。
CDを戻すと同時に、窓から見覚えのある車が戻ってくるのが見えた。
「おかえり、アルジュナ。何しに行ってたの?」
コートを預かりながら聞くと、アルジュナはただこう言った。
「夜になったら私だけ母上と外食しに行ってきます。リツカは兄を見ていてください」
「ほんとに外食かなー、あやしいなー」
「リツカ、」
「えっ、どうしたの白ジュナ」
振り向くと、絵本の『もうぬげない』みたいにコートに頭から食われた白ジュナが立っていた。
「なにしてんのー?!どうやったらそうなんの!」
「ボタンを外さないで脱げるかどうか試してみたくなって。助けてください」
「ほら、引っ張ってあげるからかがんで!全く唐突にわけわからんことをしだすんだから・・・!」
『おおきなかぶ』めいて引き抜くと、ぼとっとなにか落ちる音がした。
「とれ」
「帽子ですか?それくらいは自分で」
「いや、とれた」
目玉おばけが一匹、下半身がちぎれて落っこちていた。 - 49二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 21:39:18
保守
- 50二次元好きの匿名さん23/10/08(日) 07:31:41
ほし
- 51二次元好きの匿名さん23/10/08(日) 16:34:26
ほっ
- 52二次元好きの匿名さん23/10/08(日) 21:48:36
ほしゅ
- 53二次元好きの匿名さん23/10/08(日) 21:50:06
クンティーさんはどこまで信用していいんだ
不穏さがいい感じに散りばめられてゾクゾクする - 54二次元好きの匿名さん23/10/09(月) 02:37:41
保守
- 55二次元好きの匿名さん23/10/09(月) 08:05:20
ほsぃゆ
- 56二次元好きの匿名さん23/10/09(月) 16:41:14
ほしゅ
- 57建て主23/10/09(月) 20:02:20
~黒ジュナサイド~
橙色の水に、星のような泡が踊っている。
口内に流し込むと星は次々弾け、しゅわしゅわと溶けていく。
「おいしい?」
うなずくと、母は嬉しそうに「そうでしょう、そうでしょう」と言った。
「シャンパンに溶ける真珠は嫌いだったかしら?あなたは昔からきれいな宝石が好きだったから、きっと気に入ると思ったのですけれどね」
「そうですね」
「面白いわよね、エサの種類によって性質の変わる真珠貝なんて。お父さんも日本に来て驚いていたわ」
「確かに」
「研究はまだまだなのに、先が見えないからやめろって、偉い人もひどいこと言うわよね?まったくもう、お父さんもがっかりしてたわ。技術研究を進めていけば人間が深海に住むことも難しくないでしょうに」
黙ってディナーを進める。この食事もシャンパンも、内側にいる魂たちは喜んだ。今日は大漁だ、と。
「ああ、石と言えば。
ねえアルジュナ、むかし石を食べたってほんとう?」
顔を上げて、母のうかがうような視線を受け止めた。
「そんなことしてませんよ・・・私はそこまで考え無しじゃありません」
「ほっ。そうよね。あなたは昔からそこらの大人より大人だったものね。ああ、また一家五人で仲良く暮らしたいわ。リツカと一緒に、あの子はあなたたちと特別仲が良かったものね」
「母上」
「なあに」
「ひょっとして分家でうまくいっていないのでは」
母はしばらく黙って顔を覆った。 - 58二次元好きの匿名さん23/10/10(火) 00:02:17
深海ってまさか深きものどもとか……
- 59二次元好きの匿名さん23/10/10(火) 07:34:52
huonn
- 60二次元好きの匿名さん23/10/10(火) 18:41:05
保守
- 61二次元好きの匿名さん23/10/10(火) 19:10:38
~リツカサイド~
「もー。おかげで仕事ができやしない」
あんぱんを片手に、わたしは本日何度目かのため息をこぼした。
「人間を見張るなんてさー、本業のカメラマンでもあるまいし」
「いいではありませんか、これもまたメイドの仕事だ」
かつらをかぶった白ジュナが横でほほ笑む。黒い髪のかつらだと弟のアルジュナによく似ている。
「私は楽しいですよ?深夜の監視任務なんて昔を思い出しますよ」
「白ジュナの楽しいとわたしのたのしいはだいぶ違うから。・・・ていうか、元から人間じゃなかったか」
はあ、と六度目のため息。
物欲しそうな肩にくっついていた目玉お化けに、あんぱんを渡す。
「あっ、全部食べないでよー。わたしの自腹で買ったんだから」
「姫ー、わたしあれ飲みたーい」
「えっ?あれって何。・・・コーヒー?わたし苦いのだめなんだよね」
とはいえあんまり文句を言うと口から脳みそをぐちゃぐちゃにしてきそうなので財布を取り出す。
「あんたにあの缶の飲み口ってめっちゃこわいんだけど。すぱって切れたりしない?昼間切れたときみたいにさー」
「ないないあれは元から取れるすんでで。あっ、砂糖たっぷりのあまあまなやつで」
「これ以上預かりペット太らせるのもなー」
ぶつぶつ言いながらキャラメルマウンテンに指を伸ばすわたしはいい加減甘いんだろうな。
「コーヒーの深い闇色が故郷の遠い夜空を思い出させてくれます。ああ、わがふるさとは遠い。みんなとはぐれてさびしいよう」
「まったくもう、ウソ泣きするほど?黒ジュナ見てなよ」
「やったー」
「そんなにコーヒー好きなの?」
「苦手だったんですけどクセになって」 - 62二次元好きの匿名さん23/10/11(水) 00:32:56
保守
- 63二次元好きの匿名さん23/10/11(水) 07:49:42
ほ
- 64二次元好きの匿名さん23/10/11(水) 16:34:31
ほっしゅ
- 65建て主23/10/11(水) 21:29:43
「ミルク入りのやつにする?」
「それでー」
「深い闇色はどこいったんだよ・・・」
しかしまあ、今のアルジュナたちは過去最高にわけがわからない。
前は浮世離れしているけどかろうじて人間だったのに、今じゃ完全にやめてるし。いや、元から人間じゃなかったのか?人格が変わってるわけでもないからんなこたあどうでもいいが。
どこの誰が狙ってるのか知らないが、さっさと追い詰めてぶっ飛ばしてやらないと仕事に戻れないし。これじゃあわたしはストーカーか、
「スナイパーだ」
カシュッとプルタブを開ける音が暗闇に響いた。
振り向いた月下のレストラン。
そこでアルジュナが、横向きに倒れているのが見えた。 - 66二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 00:28:32
保守
- 67二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 08:11:29
これアルジュナたちがやばいのか家族ぐるみで人間じゃないのか
- 68二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 19:11:28
シャンパンに溶ける真珠ってあれかなクレオパトラだっけ?
お酢に高い真珠溶かすやつ - 69建て主23/10/12(木) 19:29:39
顔面蒼白で飛び込んだわたしと白ジュナを、アルジュナは「ああ」と出迎えた。クンティーさまがぐったりとした様子で、せっかく着てきたドレスにシャンパンのシミがついている。
「一匹減ったでしょう?バランスが悪くて酒をこぼしてしまいました」
「よ、よかった?」
「それで、こっちはやけ酒をあおって酔いつぶれた母上です。昔からお酒には弱かったのに」
「やはり向こうの暮らしが肌に合わないのでしょうか」
「近いうちに父上とも話し合わないといけませんね。リツカとの今後も考えて」
夜も更けたというのに、二人のアルジュナは庭を散策してくると行ってしまった。
くっそおー、クンティーさまの面倒を見ることはどってことないけど、狙われてるご身分のくせになんでそんなふらふらするんだよ。心配する側の身にもなれっての。
酔い覚ましを飲ませたからか母上さまはだいぶよくなられた。さっきよりはましな顔色で、砂糖控えめのチャイをちびちびすすっている。
「おいしいわ。あなたは昔から飲み物だけはじょうずに作れたものね。複雑なスパイスが故郷の土を思い出すわ」
「褒めてるんですかー?それともけなしてるんですかー?」
「ほめてるに決まってるわよぅ。もー。・・・ああ、おいしい」
クンティーさまは昔と何一つ変わらない。柔和な笑みも上品な所作も。
「ねえリツカ。アルジュナたちとは仲良く暮らせてる?」
「まあ、はい」
「お家を継いだあの子たちがあなたを呼び戻したいと言ったときは、『ああ、やっぱり』って思ったわ。子どもの頃からすっごく仲が良かったもの」
「そうですね」
「あの子たちはよくできた子だけれど、大事なものを取られたくないのか時々ひどく突飛なことをするんだもの。石を食べたって噂が立ったのも、そのせいよ。あなたは聞いてるかしら。彼らが携わってるプロジェクト、今年でなくなってしまうの。いろんな人たちがどこに行くか決めて回ったけど、あの子たちがどうなるかだけはどうしても言ってくれなくて」
___わたし、アルジュナたちがこのままどこかに行ってしまうんじゃないかって思うと息ができないの。そう言ってクンティーさまは、心配そうに窓の外を眺めた。 - 70二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 22:54:13
ほ
- 71二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 05:56:28
ほしゅ
- 72二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 10:43:01
保守
- 73建て主23/10/13(金) 19:20:04
アルジュナたちは木の下で、耳から魂を出してぼうっと木の葉の隙間から見える星空に目を凝らしているように見えた。
「この樹、子供の頃よく遊んでたところだよね?」
立香は思い切って声をかけた。びく、と、二人の肩が同時に震える。
湯気の立つホットミルクを持ってきた立香は淡く微笑んだ。カップを二人に渡して、自分の分に「あちちっ」と言いながら舌をつける。
それから夜空を同じように見上げた。
「あーあ、おばけ家族になっちまったなあ」
「私たちにはもう血がない。それでも家族と呼べるものなのか」
立香は、真っ赤な目を柔らかく細めた。
「そんなこと言わないでよ。わたしの目がさ、治らないって言われたとき思い出したんだよ?アルジュナたちが好きだって言ってくれたこと。大丈夫だって思ったんだ、おばけでも生きていいんだって」
エリートのアルジュナたちの言うことに間違いはないから。そう言われて、二人のアルジュナは胸を突かれたように目を軽く開いた。
「・・・そうですね」
「認めるんかーい。ま、今後のことは気長に考えようよ。ホットミルク飲んだら帰ってきてね、声の届くところにいてよ、見てるからさ」
おお、さむさむ、と大袈裟に肩をすくめて、立香は屋敷に戻っていく。
「見てる、だけか」
黒い髪のアルジュナが、低い声でつぶやいた。
「くそっ」
白い髪のアルジュナがこぼした毒は、誰にも拾われず夜風に溶けて行った。
「見てるだけでいいんですか」
目玉お化けに声をかけられる。
「いいんだ。あの人たち腕っぷしすごいし、不審者が出てきてもわたし足手まといなだけだから」
赤い石を拾う。石なのに、生肉にそっくりだった。
___ああ。あの人たちだなんていうとますます、誰だかわからなくなるよ。 - 74二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 23:02:27
このレスは削除されています
- 75二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 02:06:13
保守
- 76二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 07:43:04
ほしゅ
- 77二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 19:04:30
ほしゅ
- 78建て主23/10/14(土) 19:33:56
翌朝は、冬が近いこともあってかずいぶんと冷えてからりとしていた。
クンティーさまはぐっすり眠っておいでだったので、わたしは洗濯物を干しに外へ出た。
中庭にはアルジュナたちがいて、ふわふわ漂う雪虫をぼうっと眺めながらコーヒーを飲んでいた。
「おはよう。寒いねえ」
「おはようリツカ。母上は起きませんか」
「まだ起きないね」
「彼女は冬場は朝遅いですから・・・あなたたち、もっと身を隠しなさい」
「はーい」
白ジュナのコーヒーへ(勝手に)砂糖とミルクをたっぷりいれていた目玉お化けが引っ込む。
「もうちょっと緊張感持ってくれるといいのに。九十七点として」
「大丈夫ですよ。私たち、これでも人間ドックでもばれたことがないんですよ」
「うそだあ」
わたしはタオルを物干しざおにかけた。
その時、屋敷の角からクンティーさまが寝癖もそのままに顔を出した。寝ぼけ眼をこすりながら、
「子どもたち!大変よ、お父様がやってきたわ」
「「「え」」」
「なんだか話したいことがあるらしいって。アルジュナ、悪いのですけれどどちらか行ってあげられないかしら」
「なら私が行きます。兄上、あなたはリツカを見ていてください」
「わかりました」
黒ジュナがクンティーさまに連れられていなくなる。わたしはさっきの言葉がなんとなくしゃくに触って頬を膨らませた。
「なんだよお、わたしがまるでちっちゃな子どもみたいに。わたしはそんな手間のかかる子どもじゃ___」
ばきん、と、瀬戸物を叩きつけたような音がした。
振り返ると、足元で白ジュナが壊れて打ち捨てられた人形みたいに倒れているのが見えた。
「しっ、白ジュナ!?どうしたの」
「だ、大丈夫です。またバランスが」
「すごい音したよ、ばきんって」
「心配いりません、割れたらその・・・中身が出ますから」
「中身ってそんな」
服の上から全身を触って確かめる。・・・宣言通り、どこも割れてないみたいだ。 - 79建て主23/10/14(土) 19:37:22
「あの・・・リツカ」
恥じらうような声が降る。そこでよーやく、わたしは自分が何をしているのか気が付いた。
「わわあわ。ご、ごめん!」
泡を食って白ジュナの体の上から降りて、わたしはしなくてもいいのにエプロンのすそを伸ばした。
「と、とりあえずこのことを黒ジュナに報告してくるね。アルジュナはそこで待ってて。絶対立っちゃだめだよ!」
わたしは早口にまくしたてると、玄関の方へ駆けた。
「優しくて雑なところ、あの頃から変わりませんね」
アルジュナはつぶやいて、顔を覆った。その頬は赤くなっていて。
「___もっとちゃんと調べなさい」 - 80二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 20:46:59
ほっしゅ
- 81二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 21:24:29
ほしゅほしゅ
- 82二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 02:48:08
保守
- 83二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 10:15:15
ほしゅ
- 84建て主23/10/15(日) 19:50:36
「で、結局なんの話をしていたの?」
朝食を囲みながら聞く。
目玉焼きを食べていた黒ジュナは、こともなげに、
「私たちがあなたと同棲することに反対すると」
「ぶほっ・・・同棲じゃないでしょ、同居でしょ。ていうか雇用?」
「どれも同じです」
「全ては些事」
白ジュナはもっともらしく首を振った。
「全然些事じゃありませんよー・・・」
「ささいなことは気にしなくてよろしい。わたしたちとあなたの仲じゃありませんか」
「そうだけどさあ」
「リツカ、頬に目玉焼きが」
「いやいや小学生じゃあるまいし、そんなはずはあるぇ~~?」
頬に手をやると、目玉焼きのかけらがついていた。いやだ、子どもみたいだ。
ティッシュを取ろうとしたわたしを制して、白ジュナは手を伸ばしてきた。
長い人差し指と親指が、わたしの頬に触れる。
他人のもののその指は、あたたかくてざらざらしていて、およそこの内側が空っぽであるだなんて考えもつかない。
卵のかけらをティッシュで包んだ白ジュナが、わたしの視線に気づいて優雅に笑んだ。
「こないだのお返しです」
背骨を添うようなむずがゆさに襲われて、わたしは自分の皿を持って洗い場に駆けて行った。
洗い場の戸を閉めてから気づく。
「しまった、しまった。アルジュナたちのぶんも持っていけばよかった。わたしってばほんとドジだなあ」 - 85二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 21:45:23
hossi
- 86二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:36:17
ほしゅ
- 87二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 08:07:54
ほっしゅ
- 88二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 18:24:59
このレスは削除されています
- 89二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 22:25:08
明かに人間どころか生命体としておかしいのにどんどんぐだ子が受け入れるのが怖い
優しくて雑なところってことはこれまでの描写で読者には見えないけどぐだ子には見えてる(認識してないから言葉にしてない)何かがあるってことか? - 90二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 00:13:06
保守
- 91二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 08:10:06
このレスは削除されています
- 92二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 18:36:36
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- 93建て主23/10/17(火) 19:52:29
それは、白ジュナの部屋を掃除していた時に見つけたものだった。
机付きの鏡台になにかきらりと光るものが置いてあったので、誰もいないのをいいことにどれどれと覗き込んだ。
ガーネットの指輪だ、たぶん。つやつやした銀色の輪に、磨き上げられた紅石が嵌っている。
「そうかー。そりゃそうだよな」
少し物寂しく思いながらも納得した。名家の当主なのだから、誰かにあげたかもらうかした贈り物くらい持ってて当然か。片目だけ真っ赤なしがないメイドに、いつまでも執着しはしないだろう。
使用人が勝手に物を動かすのはよくないし、白ジュナは気にしないだろうなという気持ちはあったけど、それは引き出しの指輪箱の中にしまっておいた。なんだかひどく目についてしょうがなかったのだ。
廊下で黒ジュナとすれ違った。彼は意味深にこちらを見つめていたが、わたしの視線に気づくとすぐにそらした。
「姫、姫、」
目玉お化け(アルジュナたちに魂なのだと説明されたが、個人的には目玉お化けのほうがしっくりくる)
「なによー。これから十個以上ある部屋のベッドメイクをしなきゃなんないんですけどー」
「落ち込みました?」
「なにに?」
「王子に人がいることに」
「なあきみ、窓から放り出されるのと、フライパンの上でポップコーンみたいに炒られるのとどっちがいい?」
「きゃー、どっちもカンベン!」
「それなら余計なクチは利かなくてよろしい。まったく、なにが姫、だよ」
「・・・フェアじゃないから言いますけれどね?聞きたいくないなら聞こえないことにしてくださいね」
「はいはい、そーするよ」
「あなたが生まれ変わるのを信じて待ち続けたあの二人の執念を侮っちゃいけませんて。わたしですらちょっとどうなの?って思うくらいの強い気持ちで、自我をよりあわせてきた二人はねちっこくて、すごいですよ」
「・・・なにがどう、すごいの?」
「具体的には今日の夜に、抽象的には秘密の寝台で」
「ポエミーならかっこいいって思ってんでしょ」 - 94二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 00:26:41
保守
- 95二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 07:23:09
ほしゅ
- 96二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 18:20:32
このレスは削除されています
- 97二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 21:38:03
ほ
- 98二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 01:03:57
保守
- 99二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 07:30:43
hosixyu
- 100二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 18:00:43
ほしゅ
- 101二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 21:34:16
ほ
- 102二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 23:06:33
ほしゅしゅ
- 103二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 01:23:15
保守
- 104二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 08:04:40
ほしゅ
- 105二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 18:02:31
指輪に思うところあるあたりぐだにもちょっと好意はある?
- 106建て主23/10/20(金) 20:56:23
~アルジュナサイド~
その晩は、中秋をとっくに過ぎたとはおもえないほど見事な満月だった。
廊下を進む。窓から切り取られた月明かりが床に落ちている。
扉をノックしようとして、拳が中空で止まる。拒まれてしまえば、私たちは彼女をこの屋敷で一人ぼっちにしてしまう。
もうずいぶん会っていなかったのに、心が今でも同じものであるだろうか。心を通わせなければ、抱きしめ合っても意味がないというのに。
ふっ、と、弟の手が重なる。横を見るとうなずかれた。
拳で扉を叩いてしばらく、蝶番の軋む音が耳に届く。
「二人とも・・・どうしたの?こんな夜更けに」
リツカは、縞柄のパジャマを着ていた。
喉がからからだ。無言で歩み寄る私は、すごい顔をしているのだろう。彼女が数歩後ずさる。
「あ、アルジュナ・・・?顔こわいよ・・・?なにかあった?」
私は大股で歩み寄って、リツカの体を抱きしめた。
彼女は細くて、小さかった。どこもかしこも花の匂いがした。とくん、とくんと鼓動を感じる。
やがて、おずおずと背に回ってきた手も小さかった。
「・・・リツカ、私たちには時間がない。だから気持ちを伝えたかった」
___私たちは、あなたを愛している。そして、抱きしめる先にも行きたい。
重なる声は静謐な空間に溶けて行った。
「やましいことを言ってるのはわかっています。いやならそうだと言ってほしい。私たちはあなたの望むことをします。二度と触れることも、しません、から___」
「やましいことを思ってるのなら」
リツカは私から離れた。
「わたしだって」
ズボンに手をかけ、ゆっくりと下げた。
淡い下生えの茂ったまたぐらが、ほの白く浮かび上がって見えた。 - 107建て主23/10/20(金) 21:00:31
あっけにとられている私たちを見ながら、ズボンを履きなおしたリツカは暗がりでもわかるほど顔を赤くして、私にだきついてきた。
こうしているだけでも、どくどくと急ぐ心臓の音が聞こえてきそう。
「わたしだって、そういうことをしたい気持ちあるんだよ?アルジュナたちに、力いっぱい抱きしめてほしい。どちらかなんて選べなくって、二人ともにどこもかしこも噛み跡だらけにしてほしくて、わざと下着をつけなかった、あさましいメス」
熱い温度が伝わってくる。
「だから、我慢なんてしないで。わたし、そういう経験があるわけじゃないけど、アルジュナたちに気持ちよくなってほしい。わたしでいいのなら」
そのいじらしい態度が、とどめだった。
リツカの顎を押し上げると、唇を重ねた。 - 108二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 22:10:49
ほしゅ
- 109二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 07:01:49
保守
- 110二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 17:42:07
保守
- 111二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 22:02:45
ほ
- 112二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 07:41:33
ほしゅ
- 113二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 17:51:47
保守
- 114建て主23/10/22(日) 20:35:11
- 115二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 00:20:18
めちゃくちゃエロスを感じる……
- 116二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 07:21:41
こってりしすぎてて胸焼けするレベル
いいぞもっとやれ - 117二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 18:15:48
保守
- 118二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 22:04:15
ばちくそにエッチだ・・・
- 119二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 06:35:45
ほしゅ
- 120二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 08:42:52
のうこうなHたまらん
- 121建て主23/10/24(火) 19:42:54
~黒ジュナサイド~
ちらちらと初雪が降っている。
私はそれを、リツカから拝借したカメラで撮影している。
ほわわ、と空に息を吐くと、灰色の空に白く昇った。
屋敷に入って扉を閉める。階段から下ってきた弟と目が合った。
「リツカは?」
「まだ眠っています。疲れ切ったのでしょう」
「それは、そうですね」
台所でお粥を煮たてていると、ふっとリツカの匂いがした。
どうしてなのかと思うと、昨日リツカの中に差し込んで弄りまわした中指と薬指から、その匂いは香っているようだった。
鼻を近づけると、女のにおいがした。
指の間にリツカが棲んでいる。
お粥を持って彼女の部屋に入ると、リツカは布団を体に巻き付け、ぐっすり寝入っていた。
瞼の下には、泣き腫らしたあとがある。昨日あれだけ啼かせたのだから当然か。
___結局兄だけでは飽き足らず、私も彼女を抱いた。今まで経験した女はみな、そういうことをするのが初めてではなかったので気楽だった。未通の乙女の、なんたる手間暇のかかることか。
だが、彼女が純潔でよかったと心から安堵している自分もいる。もしも相手がいたのなら、私はそいつを絞め殺していたはずだろうから。
親指で腫れた目元を優しく撫でると、むにゅむにゅとうなってリツカは顔を伏せてしまった。
子どものようなしぐさが愛おしくて、私たちはその花の香りがする頭に唇を落とした。
「王子」
と、裡にいるものたちから声がした。
「なんですか」
「そろそろ、時間です」
「・・・そうですか」
私たちは名残惜しく部屋を去った。 - 122二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 23:03:38
まあアルジュナたちは経験あるわな
一線超えちゃったけどインド側父はこれ許してくれるのかな - 123二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 08:00:53
ほしゅ
- 124二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 18:47:03
ほしゅ
- 125建て主23/10/25(水) 19:46:19
弟×兄〇
- 126二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 21:31:53
ほsぃゆ
- 127二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 00:31:19
保守
- 128二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 07:29:12
保守
- 129二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 18:54:11
いま保守
- 130二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 22:02:53
ほしゅ
- 131二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 00:37:57
保守
- 132二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 07:25:13
保守
- 133建て主23/10/27(金) 17:11:17
___たましいがぬけでていく。
私たちを確かに構成していたものたちが、そらに溶けていく。
「さみしくなりますね」
「孤独は星の臨終に立ち会うまでに味わう苦い嗜好品です。さみしいというなら、私たちは姫に会えなくなるのがさみしい」
「私たちの心とあなたたちの心は、鏡合わせのように似ている」
「そりゃあ、私はあなたですからね」
「ふふ」
さみしくはあったが、悲しくはなかった。穏やかな気持ちだ。
「おげんきで、王子。姫によろしく」
「ええ」
最後の一匹が消える。体の重みが急激に増して、私たちはその場にずざっと倒れこんだ。
「白ジュナ?黒ジュナ?どこいったのー? _____え」
ダウンジャケットを着たリツカが、私たちを見つけて文字通り固まった。
「ふっ・・・ふたりとも!?どうしたの!?な、なにが!?」
助け起こそうとするリツカを制止し、私はこっちに来るよう手招きした。そして近づいてきたリツカの唇を奪った。
「んっ___」
カロッと、口の中で何かをやり取りする感覚。唾液の糸を引きながら、リツカは顔を真っ赤にして唇を拭った。
「ちょっ、こ、こんな時になに!?このばか___」
口の中で違和感を感じたのか、せきこむ。そして手の中を見て目を丸くした。
「なに、これ」
「・・・それは、私たちの魂の最後のひとしずく」
リツカ、目を治せますよ。
その言葉に、リツカの目が落ちてしまいそうなほど見開かれた。 - 134二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 21:23:18
ほゅ
- 135二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 06:52:33
保守
- 136二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 16:17:33
ほしゅ
- 137二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 22:04:24
ほしゅ
- 138二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 02:38:15
保守
- 139二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 09:22:42
ほsぃゆ
- 140二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 20:38:36
ほ
- 141二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 00:46:09
保守
- 142二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 08:05:13
ほしゅ
- 143二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 18:27:18
保守
- 144建て主23/10/30(月) 20:17:50
「なんでそんなこと、今になって」
「・・・あの時のことは覚えていますね」
息も絶え絶えに聞くと、彼女は動揺しながらも首を振った。
「あの時、もう少し救急車がくるのが早ければあなたの目は治せたはずなんです。おかしいと思いませんでしたか?なぜそうならなかったのか」
「わかんない・・・わかんないよっ。そんなことより、は、早く病院に」
「聞きなさい、リツカ。すべては、私たちのせいなんだ」
リツカの瞳が揺れた。
私たちは一呼吸おいて、秘密を暴露した。
「あの時私たちはなにもしなかった。救急車を呼んだのは私たちの父だ。だから遅れたんです」
「あなたのあの時の目に」
「涙に」
「みとれて」
「み、とれたって・・・」
何言ってるの、と降る声はかすれていた。
・・・ああ、見なければならなかったものを、見たくないものを見ている。リツカの目は、理解できないものを目にしたように真っ白で___
「・・・前世のあなたは、私たちの前では一度たりとも涙を流さなかった。強い、強い人だった。今のあなたは同じ魂を持っているというだけで彼女とは別人。わかっていたはずなのに、私たちはあの時あなたに彼女を重ねてしまった。許されてはいけない行いだ」
「その真珠を使えばその赤く染まった目を治せます。それからは母上に事情を話して、ここを去っていい。私たちなどに関わり続ける必要なんて、ない、から___」
リツカは、無表情で私の脇に手を通すと、重たそうに担ぎ上げた。 - 145二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 00:37:55
保守
- 146二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 07:58:25
ほしゅ
- 147二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 17:52:49
アルジュナたちの目的はぐだの目を治すこと(罪悪感だった?)
逆にいえばそこまでしないと目は治らない? - 148建て主23/10/31(火) 20:51:19
ふうふう言いながら私たちを屋敷に引っ張り込み、大部屋のベッドに寝かせると額にたたんだ濡れ布巾を置いて、布団をかぶせた。
それから、とても真剣な目で見つめてくる。
「あのね、アルジュナ。抱かれたいと思ったくらいの相手をね、一回抱かれたからもういらないって捨てるなんてこと絶対にしないから。そういうのはこの立香ちゃんのポリシーに反するの。
・・・前世のわたし?に未だに囚われていたことはショックだけどさぁ、それでも千年の恋が冷めることはないんだよ。むしろ傷ついたって言うんなら」
わたしがそんなにやわな人間に見えていたことに対してショックを受けてる。
そう言い切って、リツカは私たちの額に唇を落とした。
「___」
息を呑む。
リツカは頬を薄く染め、唇をとがらせながら不機嫌そうに言った。
「目は治す。体が思うように動かないなら、わたしが二人まとめて面倒を見る。両方やらなくっちゃならないのがメイドのやっかいなところだよね」
しゃれたことを言ったつもりなのか、そう口走ってにっこり笑う。
「ガーネットの宝石言葉、知ってるよ。真実、でしょ?
アルジュナの知ってるわたし、教えて欲しいな」
私はしばらく何も言えなかったが、やがて、はは・・・と笑った。
「どうしたの?」
「いえ、その・・・・
かなわない。と思って」 - 149建て主23/10/31(火) 20:52:00
ジュナジュナサンドイッチぐだはこれにて終了でございます。
長いことお付き合いしていただきありがとうございました。
ご歓談をお楽しみください。 - 150建て主23/10/31(火) 20:54:23
今回のぐだ子ちゃは普通の女の子をイメージして書いたんですが、しかし、前世から自分を追いかけてきた男たちの愛に応える器の深さは果たして普通と言えるんでしょうかね?
- 151二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 08:10:52
相変わらず愛の重いインドぐだありがとうございました
- 152二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 19:48:23
お母さんこれどう思ってるんだろう
- 153二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 02:32:00
重い愛を受け止めるぐだ子が好きなの本当にありがとうございました…