無効試合のジンクス 【ss】

  • 1二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:44:59

    「愛してるゲームという遊びが流行っているそうです。」
    「やらないよ?」

     トレーナー室に入って来て開口一番、サトノダイヤモンドがとんでもないことを言い出した。
     目はキラキラと輝き耳はピコピコ、明らかに機嫌がよさそうな彼女はこちらの言葉を完全に聞き流してこちらに接近。
     そしてぐっと前かがみになって目をのぞき込んでくる。

    「ですので……」
    「やらないからね?」

     続く言葉を遮ってハッキリと宣言すると、彼女は少し驚いた反応を返してくる。
     瞬く間に目尻が下がっていって悲しそうな表情になっていく。信じられないといった様子で今にも泣きだしそうな担当ウマ娘をみて謎の罪悪感にかられるが、ここは辛抱だ。

     見つめあう。
     まさか断られるとは思っていなかったのか彼女は数秒フリーズする。

    「……あの」
    「やらないよ。」
     
     彼女の綺麗な瞳がじわりと滲んで大粒の涙がぽろりと零れ落ちた。

  • 2二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:45:32

    「一体全体誰が君にこんな事教え込んだの?」
    「マックイーンさんです‼」

     何故か担当ウマ娘と「愛してるゲーム」をやることになってしまった。我ながら甘すぎる。
     
     若干恨みの籠った質問にサトノダイヤモンドは元気に返事を返してくる。
     おのれメジロマックイーン。なんて面倒なことをダイヤに吹き込んでくれたのだ。

     彼女はゴホンゴホンと咳払いをして、さらにこう続けた。

    「んっ……、えっとですね……『私がトレーナーさんに告白したら、もうお顔が真っ赤っかでしたわ~~っ!!』ってマックイーンさんが言っていました。」

     モノマネがへたくそすぎてカワカミプリンセスになっていたがとにかく概要は理解する。
     どういう話の流れなのかまでは分からないが、おそらくメジロマックイーンはサトノダイヤモンドに「トレーナーと愛してるゲームをした」と自慢したのだろう。それを羨ましくなってダイヤは今こんなことをしているのだ。ひたすらに迷惑な話だ。
     ただ、実際に彼女が本当にトレーナーとゲームをして赤面させたのかどうかまでは不明だ。完全に推測だが相当量の後輩への見栄が入っている気がしてならない。もし機会があったらトレーナーのほうに実際はどうだったのかを確認しておこうと考える。

     軽く現実逃避をしていると目の前ではダイヤが待ちきれないという風に体をぴょこぴょこさせている。普段ならば可愛らしいと思うところだが今日だけはひたすらに怖い。
     彼女はサトノ家のご令嬢で学生な上に担当ウマ娘だ。あらゆる意味でこんな危険な遊びをやりたくない。
     ……一応メジロマックイーンだって似たような立場のはずなのだが彼女は果たして本当にこのゲームをしたのだろうか。

  • 3二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:46:06

    「いいですかトレーナーさん? 互いに『愛してる!!』と言って照れたほうが負けです‼ 準備はいいですか?」
    「……いいよ。」

     いいか悪いかで言えば全くよくないのだがとにかく覚悟を決める。万が一にも負けることなどあってはならない。

     先攻はサトノダイヤモンドだ。

     彼女はまずはグッと体を近づけると、至近距離でこちらを見つめてきた。
     ……普通に『愛してる』というだけではダメなのか? 彼女はこちらが想定していたよりも相当本気のようでどうやら本気で勝ちに来ているらしい。
     パチ、パチとまばたきをする彼女を見つめる。息が吹きかかるほどの距離。
     サトノダイヤモンドの『愛してる』に備え、意識して気持ちを鎮める。

    「私は……」

     一瞬の溜めの後、彼女は小さく、そして僅かに揺れる声でそっと続けた。

    「……ずっと前からトレーナーさんをお慕いしております。」

  • 4二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:46:43

     ……おっと。
     不意打ちだった。内心でかなり動揺する。
     まるで遊びとは思えない、恐ろしく真に迫った演技だった。

     彼女はこちらの反応に気を良くしたのかパッと笑顔になった。

    「ね? ね? どうでしたかトレーナーさん? ダイヤにドキドキしましたか⁇」

     ……照れたかどうかはとにかく、ひどく驚かされたのは事実だった。
     内心で舌を巻く。正直にいって非常に魅力的な告白だった。白状すると彼女はまだまだ子供だと思っていたが、少し認識を改める必要がありそうだ。

     しかし負けを認めるわけには行かなかった。
     どうでしたか?どうでしたか?と聞いてくる彼女の頬も赤いが、ここは容赦をしてはならない。
     ダイヤの質問には敢えて反応せずに、論点をずらしにかかった。
     
    「……ズルじゃないか?」
    「え?」

     ピタリとダイヤが止まる。彼女が何かを言い始める前に畳みかけていく。

  • 5二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:47:24

    「『愛してるゲーム』なのにダイヤは『愛してる』って言ってないよ? ルール違反だよね?」
    「え? え? ち……違います!! ルール違反じゃありません!!」
    「いやいやルール違反だよ。ルール違反したからダイヤの負けです。」
     
     非常に大人げない事をしているが、これもこのゲームを終わらせるためだ。
     彼女が言ったことも殆ど「愛してる」と同義なのだから別にズルでもない気がするが、ここは勢いに任せてゴリ押す選択をする。
     大前提としてトレーナーは生徒に『愛してる』なんて言ってはいけない。それこそ何かの法律に引っ掛かりそうだ。誰かに聞かれたら大問題になる。下手したらダイヤが録音している可能性まである。

    「ルール違反ではありません!! ダイヤはトレーナーさんをドキドキさせたくてっ!!」
    「……分かったよ。ダイヤの勝ちでいいからこれでもうおしまいに……」
    「……っ!! ダメですっ!!」
    「だけどルール違反はルール違反だし……」

     我ながら少し情けなくなってきたが一度始めてしまった以上もう止まれなかった。
     
    「でも……っ!! でも……っ!!」

     ダイヤも必死だ。一生懸命言葉を絞り出そうとする彼女を見て少し後悔し始める。
     彼女はもう半分パニックだったが、それでも何とか言葉を繋げる。
     泣き出す寸前の震え声で、彼女は訴えかけてきた。

  • 6二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:47:48

    「私……トレーナーさんにまだ愛してるって言ってもらってません……!!」

  • 7二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:48:15

     なるほど。それが本題か。

     彼女にとって勝ち負けは最初から問題ではなかったのだろう。
     ただ本当に、彼女は『愛してる』と言われたかっただけなのだ。そのためだけにここまで頑張ってきていたのだ。
     それを目の前で取り上げられて、ダイヤは混乱してしまっていた。
     
     下を向いてこぶしを握り締めて嗚咽を漏らす彼女を見て強烈な罪悪感にかられる。本当に悪いことをした。
     立場がどうとか言っている場合ではなかった。中止など論外だ。
     少なくとも、ゲームを受けた時点でちゃんと最後まで付き合ってあげるべきだったのだった。彼女にだけ告白させて一方的に終了させるなどそれこそ不公平だ。

     ……こうなってしまったらもう取れる選択肢は一つしかない。せめて彼女が頑張った分は返していかないと行けない。

  • 8二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:48:39

     震える彼女をギュッと抱きしめる。
     あ……という小さな声が漏れる。耳が驚いたようにピンと立ち上がる。
     彼女の頭を胸元に抱き寄せて、耳元でそっと囁いた。

    「……『愛してる』よ、ダイヤ。君のことが世界で一番大切だ。」

     ルール違反。だけど本気の愛を込めて。
     返答は無かった。しかし耳と尻尾はパタパタと動きまわって持ち主の感情を雄弁に語っていた。

     しばらくして解放しようと手を緩めるが、今度は彼女がこちらに腕を回してきた。そのままギュッと抱きしめられる。
     密着した彼女の体から火傷しそうなほどの熱が伝わってくる。

    「トレーナーさんだってズルしました……」

     ちょっと拗ねたような声色。しかし彼女は顔を上げずこちらに押し付けたままなのでその表情は確認できなかった。
     それでも立ち直りはしたようでホッと安堵の息をつく。教え子に泣かれるのは非常に心臓に悪い。

    「……ですのでダイヤのお願い聞いてください。」
    「なに?」
     
     聞き逃さないようにしっかりと耳をすます。どんなお願いでもちゃんと聞いてあげようと心の中で決意する。
     彼女は小さな声で呟いた。

  • 9二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:49:00

    「ポッキーゲームという遊びが流行っているそうです。」
    「やらないからね?」

  • 10二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:54:00

    オチで草

  • 11二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 20:59:58

    これはいいss
    ダイヤちゃんは可愛いですね……

  • 12二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:02:19

    オチ好き

  • 13二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:03:51

    メジロマックイーンの真似してカワカミプリンセスになるサトノダイヤモンド本当に好き

  • 14二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:11:53

    ダイヤは調子に乗るとこんな事する

  • 15二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:18:34

    サトノ家になる遊びを流行らせるのも時間の問題ですねこれは

  • 16二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:21:11

    ポッキーゲームもマックちゃんが自慢してたのだろうか……

  • 17二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:37:52

    なんだかんだでめっちゃ甘いなトレーナー……

  • 18二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:37:56

    俺知ってる!なんやかんやポッキーゲームやるやつだ!

  • 19二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:44:07

    距離感バグってるダイヤちゃん概念好き

  • 20二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 21:58:34

    告白スルーされて泣いちゃうダイヤちゃん可愛い

  • 21二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 22:31:08

    無効試合ってそういう事か

  • 22二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 23:10:33

    このレスは削除されています

  • 23二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 23:11:00

    ダイヤちゃんの色んな一面を見れてお得なss

  • 24二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 00:08:41

    トレーナーもだいぶチョロいな

  • 25二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 00:18:19

    サトトレ泣き落としに弱くなーい?

  • 26二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 00:19:22

    サトトレ甘々でいいね

  • 27二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 00:20:19

    前にネイチャさんも書いてなかった?

  • 28二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 00:44:07

    フフッと笑えるいいssでした

  • 29二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 10:37:12

    ダイヤもそれなりに本気だったんだろうな……

オススメ

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