【クロス?注意】「先生、鳥はなぜ空を飛ぶのだと思う?」

  • 1123/10/02(月) 22:17:17

    最近ベルセリア4周目が終わったので
    一応メインストーリーとサオリメモロビまでは解放してるけど設定間違え&解釈違いがあった時は私とヒヨリが責任を負うからね…

  • 2123/10/02(月) 22:19:33

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    ーーー

    その日の仕事が終わった後、私はキヴォトスの外れにある岬に来ていた。
    柵やベンチなどもない、特に整備もされていない空間。当然人が立ち入った跡もない。
    そんな岬の縁に立ち、ただただ遠くを見る。
    見渡す限りの海と空ーーー羽ばたく鳥が、小さく黒点のように見えた。

    暫くそうしていると、背後に人の気配を感じる。

    “いい場所だね”
    “こんな場所があるなんて、知らなかった”

    “や、サオリ” “元気してた?”


    「…特に変わりはない」
    「先生はどうしてここに?」「それに、それは…」

    先生が突然現れるのはいつものことだったが、その日は特別妙だった。
    …両手いっぱいに、真っ赤な林檎を抱えている。


    “お裾分けでもらっちゃって”
    “せっかくだから、みんなに配ってるんだ”

    そう言って差し出される真っ赤な林檎。
    そして、先生の優しい笑みと、優しい瞳。
    それらを交互に見てーーー思わず、最近ずっと胸に引っかかっていた言葉が、口を衝いて出てきた。

  • 3123/10/02(月) 22:20:09

    「…先生、鳥はなぜ空を飛ぶのだと思う?」

  • 4123/10/02(月) 22:21:26

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    その人に出会ったのは、先生からの教えもあって、ようやく安定して稼げるようになった頃。
    彼女はーーー大きなボロボロの外套と左手の包帯、真っ黒な長い髪、そして意思の強そうな瞳がとても印象的な人だった。
    こと戦闘においては、前線を駆け回り、弾丸だけでなく、時には足も出る常識にない戦い方をする。
    その風貌と戦う姿から、黒い狼を思わせる人だった。

    初対面の時はとてもそっけなく、「よろしく」と一言あっただけで、それ以外に会話などはなかったものの、その後、何度か共に仕事をこなすことが続いた。
    …お互いに、戦闘力を買われたらしく、荒事ばかりだったが。

    何度も同じ時間を共にすれば、当然だが少しずつ会話をするようになった。
    初対面の時と同様、言葉や態度はそっけなく、少し苦手だったが…


    「あんたは何で、こんなところで仕事を?」
    「…正直、わからない」「…お前は?」

    「色んな所を転々としてる。 路銀稼ぎってところかしら」
    「まるで『自分探し』みたいなことを言うのね」

    「……似たようなものなのかもしれないな」

    「…詮索はしないわ」

    ーーそんな他愛のない会話も、新鮮だった。

  • 5123/10/02(月) 22:23:50

    そんな、ある日。
    今日の仕事が終わって、解散直後。突然、話しかけられる。

    「あんた、ちゃんと生活できてるの?」

    「ーーーは?」

    固まる。


    「顔色が悪いわ。何でもかんでも仕事を請けてちゃ、身がもたないわよ」

    困惑することしかできない私をよそに、立て続けに「ご飯はちゃんと食べてるの?」「服の洗濯はちゃんとしてる?裾の汚れが落ちきってないわ」「ちゃんと寝られる場所はある?」と質問が投げかけられる。ーーが、あまりに想定外の事態に、固まり続けることしかできなかった。


    「ちょっと、黙ってちゃわからないわよ」

    「ーーーすまない、何でもない。…生活の術は、訓練で身に付けてある」「なので、問題はない」


    「失礼する」、いつもと違う雰囲気に、足早に去ろうとする…が、

    「…そうね。最低限はできているかもしれないわ」
    「でも、それは戦うためのものでしょう?」
    「何度か一緒に仕事をして分かったけど、本当に戦うためだけに生きてきたのね」


    …今度は困惑ではなく、言葉が出なかった。核心を突かれ、呼吸すら止まる。
    アリウスでの生活が、さまざまと思い出される。
    架空の憎しみと、虚しさだけを教えられる日々、ーーー戦うためだけに、必要なものを身につける日々。

  • 6123/10/02(月) 22:24:33

    思わず目線が足元を向くーーーが、頭に、声がかかる。


    「…ちょっと心配だっただけで、あんたの過去はどうでもいい」「…私も酷いさまだったし」

    「でも、いつまでもそれに縛られる必要はないんじゃないかしら」
    「『自分の舵は、自分で取れ』ってね」


    「受け売りだけれど」とそっぽを向きながら、腕を組んで話す彼女。心なしか、顔が赤い。
    …どうやら、気をつかってくれたらしい。……こわばった体が、弛緩する。

    「…なぜ、私にこんな話を?」


    「危なっかしいったらありゃしないのよ」
    「それに、あんたが『自分の生き方』を探してるようだって気づいてから、放っておけなくて」

    「ーーーあの子のことを、思い出してね」

    そう、私を通して温かい記憶に想いを馳せるような顔は、普段の彼女とは全く別のもので。
    …少し、ドギマギしてしまったのを覚えている。

  • 7123/10/02(月) 22:33:55

    それからは、仕事以外の時でも一緒にいることが多くなった。
    「やるからには徹底的にやるわよ」ということで、私生活の指導まで。

    「食材の使い方が雑すぎるわ」
    「そこ!米のとぎ汁を捨てるのはもったいないわ。家事上手になれないわよ」
    「料理はレシピ通りが命よ。後は、『美味しくなあれ』って願いながら作るの」

    …少々手厳しいものもあったが。あと、その願いは何だ。…でも、彼女の家直伝らしい特製キッシュは、信じられないほど美味しかった。…なるほど。
    彼女との…スクワッドの皆や、先生以外との交流は…慣れないわりには、悪くなかった。

    それに彼女は、態度や言葉こそそっけないものの、とても優しい人のようだった。
    厳しくも見守る姿勢は、先生に似ていたかもしれない。

  • 8123/10/02(月) 22:34:35

    お手本ついでに食事を振舞ってくれるようになって暫く経った頃、特製キッシュ以外に、よく彼女が持ってきてくれるものがあった。
    ーーー真っ赤な、赤い林檎。

    「色々思い出すから林檎はあまり好きじゃないのよ」とは言いつつ、料理上手な彼女にしては珍しく、特に手を加えない質素なものだった。

    好きでないならなぜ、と問うてみると、
    「生きてる、って感じるのよ」「生きる勇気をくれる、とでもいうのかしら」

    …よく分からなかったが、そう語る彼女の声と目はーーーとても、優しいものだった。
    その姿を見て…何か込み上げてくるものがあった。思わず、そのまま言葉を吐き出してしまう。

    「…『生きる勇気』か、」
    「『全ては虚しい』私はそう、教えられた」
    「『生きる理由』は、架空の憎しみだった。勇気なんてなかった」
    「……今は、分からない。自分自身のことさえも。…そんな私にも、これは勇気をくれるんだろうか」

    ここまで言い切って我に返る。
    謝罪しようとして彼女を見る。ーーー目が、合った。
    強い意志を宿した目に射抜かれて、何も言えなくなる。
    そんな私を見て、彼女が口を開く。

    「…さっきは、『生きる勇気』なんて言ったけど、そんなもの、必要ないわ」
    「それに、『生きる理由』なんてものも」
    「私は昔、何よりも大事な心(もの)を優先して、それ以外の全て燃やし尽くしたことがある」
    「きっと、他人から見たら災禍そのものだったわ」
    「それでも、後悔はない。…自分の心を燃やせるもの。世界や大義と天秤にかけてでも、たとえ自分が死ぬことになってでも、優先したいもの」
    「それが、一番大事なんだと思う」

  • 9123/10/02(月) 22:34:59

    …その真剣な眼差しに、不思議と嘘には思えなかった。

    「自分の心を燃やすもの…か」
    「私にも、そのようなものができるのだろうか」


    「さあね」
    「…ねえ、サオリ」






    「なぜ鳥は、空を飛ぶんだと思う?」

  • 10123/10/02(月) 22:35:33

    いつかを思い出す唐突な問い。…あの時と同じく、答えられなかった。

    「…すぐに答える必要はないわ」
    「今日はこれで帰らしてもらうわ。キッシュも多めに作っておいたから、ラップして取っておくこと」

    「『美味しくなあれ』って、ちゃんと願いながら作ったから、美味しいわよ」と、足早に去っていってしまった。

    ーーーそれが、最後だった。これ以降、彼女はどこかへ行ってしまった。
    それ以来、ずっとこの言葉が胸に引っかかっているーー。

  • 11123/10/02(月) 22:46:46

    ーーー
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    ーーーーーーーー

    「…すまない」
    「妙なことを聞いた。気にしないでくれ、先生」
    「…林檎は、ありがたくいただこう。感謝する」

    心がざわつく。いくら先生に聞いたとしても、答えなんて返ってこないのに。
    足早に立ち去ろうとする…が、

    “…そうだね。正直、分からないや”
    “『餌を取るため』なんて普通の答え、サオリは望んでないよね”

    “でも” “何を思って聞いてくれたかは分からないけど、これだけは言えるよ”
    “サオリ自身が悩み抜いて出した答えなら、正解じゃないなんてありえないってこと!”

    “…だから、焦らないで。自分のことを考える時間は、まだあるのだから”
    “大丈夫。サオリならきっと、できるよ”


    先生の、優しい言葉と、優しい目。
    ーーーあの人もしていた、優しい言葉と優しい目。

    …言葉が、出ない。

    “それに、分からないなら、サオリも飛んでみたらいいんじゃないかな!”
    “なんてね!”と誤魔化す先生。真面目なことを言ったかと思えば…

    ーーーでも、不思議と、胸に引っかかっていたものが、なくなった気がした。

  • 12123/10/02(月) 22:48:02

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    ーーー

    …今日も私は、あの岬に来ている。
    見渡す限りの海と空ーーー羽ばたく鳥が、小さく黒点のように見える。



    「…私も、飛んでみようと思うよ」
    「理由が見つかるかは、分からないが」
    「それが今、私にできることだから」

    ーーー全ては虚しいのかもそれない。死んだらそこで終わりで、残るものなんて何もなく、ただただ生は無価値なのかもしれない。
    …でも。巣(アリウス)から飛び発ったアズサのように…そして、あの人のように。


    自分の意思で、飛べたのなら。

    「私も、何か見つけられるのだろうか」




    「ーーーベルベット」


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    ーー

  • 13123/10/02(月) 22:48:36

    以上駄文でした
    過去ログにでもしまっておいてくれ

  • 14二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 23:19:58

    とても良かった……

  • 15二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 23:29:29

    鳥はなぜ空を飛ぶのか?
    ベルベット→「鳥はね、飛びたいから空を飛ぶの。理由なんてなくても。翼が折れて死ぬかもしれなくても。他人のためなんかじゃない。誰かに命令されたからでもない。鳥はただ、自分が飛びたいから空を飛ぶんだ!」
    アルトリウス→「鳥は飛ばなければならない。強き翼をもつゆえに。」

    先生→「飛んでみたらいいと思うよ」(New!)

  • 16二次元好きの匿名さん23/10/02(月) 23:53:04

    いいSSでした、乙です



    タイトルで某ブラボ動画が脳裏をよぎったせいでノクバハメするサオリスレかと思ったのは秘密だ

  • 17二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 00:19:34

    ベルセリアの小ネタが多いな
    とぎ汁のスキット思い出して笑う

    …精神的幼女のサオリと最初のフィーが被ったんやろな
    あとアイゼンの兄貴はスクワッド達との相性よさそう

  • 18二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 10:37:01

    俺好みのss

    サオリ、お前も家庭的になれ

  • 19二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 13:48:46

    >>15

    スレイ(クロス版)だったらなんて答えてたんだろうなあ…

  • 20二次元好きの匿名さん23/10/03(火) 21:21:58

    続きはないのか

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