【SS】細い方のミラクルを太くして普通の方のミラクルの細い方にする話

  • 1二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 18:37:45

     暦は10月。殺人的な猛暑も鳴りを潜め、過ごしやすい気候がようやく訪れた。”計画”の頃合いである。
     トレーナー室の机の引き出しから取り出したのは1冊のノート。この1か月であちこちを巡り、かき集めた秘伝のレシピが記されている。
     このレシピは、学園の多くのトレーナーが記録しているような、栄養管理のためのメニューとはまるで異質。むしろ、普通のウマ娘にとっては禁忌ともいえる内容である。

    『絶品バターサンド』
    『鬼カロリーチョコレートバー』
    『菊花賞ウマ娘が唸った!連対100%濃厚バナナムース』

     分量まで事細かく記されたそれらに共通するのは、食べやすく、それでいて本当に、めちゃ美味しいということ。そして――目を疑うほどのカロリーが含まれていること。普通の人間がノートに記された数十種類のメニューを制覇する頃には、きっと見る影もないほどふくよかになっていること間違いなし。
     こんなものが甘党のウマ娘にでも渡ってみろ、彼女らのトレーナーにリンチされても文句は言えない。

    「よし」

     ひとつ気合を入れ、そんな秘密が記されたノートを閉じる。表紙には「ウマ肥ゆる秋大作戦」の文字。世に出たら物議を醸しそうな言葉だが、しかし……。

  • 2二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 18:38:44

     事の発端はこうだ。今年の夏は本当に暑く、担当ウマ娘のケイエスミラクルは食欲を落としていた。
     それだけなら珍しくもないのだが、夏合宿の終わりに計測した彼女の体重を見て、思わず悲鳴を挙げてしまった。具体的な数値は教えられないが、過去最低体重に迫る勢いで痩せてしまっていたのである。

    「ごめんなさい。補食と夕食は食べられたんですけど、朝昼の食事が喉を通らなくて……」

     ミラクルにそう申し訳なさそうに言われてしまっては、責めることもできない。元々そんなつもりはなかったが。
     出会った頃よりは随分健康的になってきたものの、やはり体質はまだまだ弱いウマ娘。過酷なこの夏を乗り越えるには厳しかったのだ。
     なんとかそこから立て直し、スプリンターズステークスは無事に勝利することができたが、来年もこんな調子では困る。ましてや地球温暖化は年々ひどくなっているし、来年は今年よりも痩せてしまうかも。そこで俺は考えた。そして素晴らしい考えが浮かんだ。つまり、今のうちにミラクルを太らせてしまえばいいのだ……と。

     太らせるというのは少し語弊があるが、要は極度の痩せ型である彼女の体重を、来年の春までを目途に標準に近づけていきたいのである。多少増えすぎたところで、減らす分にはいくらでも調整が利くのだから。

  • 3二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 18:39:07

     そこで用意したのが件のノート。インターネットでの情報収集はもちろん、パティシエや栄養士の方々にもごそくろ願い、食べやすく高カロリーの補食の開発を急いだというわけ。飽きが来ないぐらいのレパートリーも揃えたし、あとは少しずつ普段の補食に置き換えていくだけである。
     善は急げ、さっそくその日のトレーニング中に出すことにした。まずはミラクルの好物であるバナナムースから。やはり好きな物なだけあって、食べる手も早い。

    「トレーナーさん、今日のムースはいつもと違いますね。なんというか甘くて濃厚な感じがします」
    「うん、飽きられないように色々変えてみようと思って。美味しい?」
    「はい!……でも、カロリーとか大丈夫ですか?いつもよりきっと高いですよね」
    「そこは心配いらないよ、ちゃんと考えてるから」

     そう言うと、ミラクルは少し安心したようだった。騙しているようで少し心が痛むが、これも彼女の為。どうか許してほしい。
     家に帰り、空っぽになった容器に満足しながら明日のメニューの仕込みを始めるのだった。

    「今日はチョコレートバーですか?でもこれ、結構太りやすいんじゃ……あ、美味しい」
    「トレーナーさん、今日の補食はなんですか?……実は毎朝、楽しみにしてるんです」

     それから数週間、補食のサイクルは極めて順調に回っていた。メニューを変えてもしっかり食べてくれるかという不安はあったが、戻してしまうこともなく、順調にミラクルの血となり、肉となっている。
     そんなある日、朝からミラクルがトレーナー室へやってきた。だが、どうにもその顔は浮かない様子で。

  • 4二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 18:39:44

    「その、しばらく補食を控えたいんです」 
    「えっ」

     カタン、と音がした。おそらく手に持っていたペンが床に落ちた音。拾うこともできずに呆然としていると、申し訳なさそうな顔をしていたミラクルが今度は怪訝そうに眉を顰めた。

    「あの、そこまで落ち込みます?」
    「うん、ミラクルの食事作るのがライフワークだから……」
    「そ、そんなに?でも、ダメ。ダメですよ!」

     ショックを受けつつも聞いてみた。いったい何がダメなのかと。

    「実はおれ、最近体重が増えてきてるんです」
    「知ってるよ。いいことじゃないか」
    「それはいいかもしれないですけど、腕や脚にも少しですけど余分な肉がついてきてしまって、このままじゃお腹も出てきそうで」
    「そうかなあ……」

     制服姿なので詳しくは分からないが、少し増量した今ですら体型はあまり変わっていないように見える。あ、ほっぺは少し厚くなったかも。

    「ま、走りに影響が出てきたら絞ればいいじゃないか。減量メニューだったらいくらでも考えるよ。今まで減らすことなんて考えてなかったし、なんだか楽しそうだ」
    「そうじゃなくて……一応おれだって、そういう年頃なんです。みっともない姿であなたに会いたくないから……」

     少し頬を赤くして、蚊の鳴くような声でミラクルは言った。無論、一言一句聞き逃しはしなかったが、その意味を理解するのにやや時間が掛かって――少しずつ口角が上がってしまう。

    「な、なんで笑うんですか!?」
    「いやごめん……」

     なるほど、考えてみれば酷い話である。年頃の女の子つかまえて、肥ゆるだのなんだのと。
     ずっと一緒にやってきた相手だ、大事なことは本人と話し合って決めるべきだったか。

  • 5二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 18:40:01

    「実は最近出してた補食ね、前のよりも相当カロリーが多くなってて。今年の夏バテのこともあって、少しミラクルの体重を増やしたかったんだ。内緒にしてたのは悪かった」
    「そうだったんですか。おれの方こそごめんなさい。そんな苦労をしてくれてたのに、勝手に打ち切ろうとしちゃって」
    「いや、そんな……好きでやってることだから」

     正直、体重管理よりも食べさせるのが楽しくなっていたフシはある。ミラクルはだいぶいい方に解釈をしてくれているようだ。
     そんな彼女だからこそ、たとえみっともなくても元気でいてほしいのだが……このジレンマが解消するには、きっと長い時間を要することになるのだろう。気質というものは簡単には変わらない、お互いに。

    「体型が気になるならとりあえずメニューは元に戻そうか?」
    「いえ、体重を増やすのがトレーナーさんの考えならおれは信じます。……でも、もし太ってしまっても笑わないでくださいね?」
    「笑わない笑わない!……あ、でも嬉しくて笑顔になるかもしれないけど」
    「それは……とりあえず、よしとします」

     かくして、「ウマ肥ゆる秋大作戦」は無事成功となった。「ケイちゃんが元気になった」とご両親も喜んでくださっている。
     来年の夏は、きっと大丈夫。その次も、そのまた次の夏もずっと。いつか別れる日は来るだろうが、それまではずっとこうやって、いつも通りに傍で笑っていられるはずなのだ。

  • 6二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 18:40:54

    オワリ。ケイちゃん太らせたいよね…というお話でした。
    未所持の者はすぐに引換券を使用するように

  • 7二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 18:42:40

    良いじゃない
    ケイエスミラクルには毎日エルビスサンド食べさせたい

  • 8二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 18:43:22

    すまねえ、この引換券は太い方のミラクル用なんだ…

  • 9二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 18:48:53

    トレーナーもケイちゃんも可愛い♡食べちゃいたい
    春夏秋冬もっちりほっぺであれ…
    ちなホソミラは50連で入手済

  • 10123/10/07(土) 18:58:08

    >>9

    ワシは天井や

  • 11二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:00:27

    >>10

    SS読ませてもらった上になんか…ごめん…

  • 12二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:06:02

    良いものを読まさせて頂いた
    クラシックはマジで余裕がなかったけどシニア以降はこれくらいやれる余裕はあるよね

  • 13二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:15:49

    菊花賞ウマ娘が唸った!

    どっちだ…?

  • 14二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:16:06

    ケイちゃんにはいっぱい食べさせたいよね
    元が痩せすぎとはいえ太ることには抵抗覚えてしまうのが女の子してて好き
    あと俺も天井でした

  • 15二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:22:34

    >>10

    分かるぞイッチ……作品書いたやつに限って引けないんだよな…………

  • 16二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:22:35

    >>13

    「連帯100%」「バナナムース」なのでおそらくは

  • 17二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:22:56

    >>3

    「トレーナーさん、今日の補食はなんですか?……実は毎朝、楽しみにしてるんです」


    良すぎる

    嬉し涙出る

  • 18二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:25:01

    >>10

    よう兄弟…会いたかったぜ(天井)

  • 19二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 19:29:33

    ミラクルは出てきたけど、ミラクルがでてないやん!

  • 20二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 20:28:22

    >>16

    そういうことか!

    食いしん坊な芦毛2人しか頭に浮かばなかった

  • 21二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 20:31:42

    >>16

    なんかこのレス、モジャ毛が落ちてる…

  • 22二次元好きの匿名さん23/10/07(土) 21:50:39

    いいものを読んだがスレタイがウェカピポの弟みたい

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