- 1二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 01:53:51
SS「ウソワスレ」
俺は吾妻道長。現場作業員で、仮面ライダーバッファ。今日は山奥に建てる天文研究所の工事に来ている。いっぱい働いて、いっぱい食って、いっぱい寝る。それが俺の今の生きがいだ。もうすぐ日暮れ、ここを乗り越えたら帰ってメシだ。
「あーあーめんどくせ。なんでこんなとこまで工事しなくちゃなんねぇんだ。」
この人は俺の先輩だ。前バーベキューパーティを開いてくれた。
「まあ、良いじゃないすか。ここなら綺麗に星が見えますよ。」
「そうだけどよぉ…、あっお前知ってっか?この山、出るらしいぜ?」
出るって……まさか幽霊?今どきそんなんでビビるかよ、と思いつつ一応先輩との話を続ける。
「幽霊すか?」
「えっ怖くないのお前?ウソワスレって言うらしいんだけどさ、その幽霊に嘘をついたら、その嘘を忘れてしまうんだってよ?」
「……はっ?」
なんだそりゃ。別に有害そうな幽霊でもなさそうな気がするが。 - 2二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 01:54:59
「おーい、それ持ってきてくれ」
現場監督が俺を呼んでいる。喋ってる場合じゃねえ!早くしねぇと!
「はい!今行き……」
急な斜面だった。俺は湿った石に足を取られ、ズルズルと滑り落ちて行った。思えばこれが、悲劇の始まりだったのかもしれない……。
「……いっててて……ここは……?」
しばらく気を失っていたのか?あたりはすっかり暗くなっていた。これは結構時間が経っているのかもしれない。急いで戻らないと!でもどうやって…?それにここはどこなんだよ……
俺がいたのはさっきの現場に似た場所のようで、全然違う場所にも思える。暗いという理由以上に、この場所は何かがおかしかった。
「そこにいるのは誰じゃ」
「……!!」 - 3二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 01:55:46
近くに爺さんがいた。かなりの年齢だろうか。腰は曲がり、顔はしわくちゃで、やつれている。それでいて目のクマがひどく、でかい目玉がこぼれそうだ。不気味な爺さんだ。とにかく助けてもらえるか聞いてみよう。
「あの、俺足を滑らせてずり落ちちゃったみたいなんです。ここがどこだか分かりますか?」
「お前さん、今いちばんやりたいことはなんじゃ?」
……えっ
「あ、あの、おじいさん?」
「お前さん、今いちばんやりたいことはなんじゃ?」 - 4二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 01:57:08
コイツ、話が通じねぇ……。
とりあえず答えておくか……。
「…帰りたい。元いた場所に。」
「そうかいそうかい。まぁ立ち話もなんだからワシの山小屋にでも来んかね。」
いつの間にかボロい山小屋があった。
俺はこの小屋を見逃していたのか……?まだ意識がぼうっとしていて分からない。
ひとまずお邪魔しよう。それでちゃんと話をするか。話が出来なくても、小屋に何か手がかりがあるかもしれんしな。 - 5二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 01:57:56
ギィィ……
気味の悪い音を上げてドアを開ける。爺さんは椅子に座った。
さて、もう一度会話を試みるか。さっきは耳が遠くて聞こえてなかったのかもしれん。
しかし、先に爺さんが話しかけてきた。
「お前さん、この世でいちばん怖い事はなんだと思うかね?」
急に何を言い出すんだこの爺さん。
「あの、すまないが急いでるんだ。ここがどこだかわかれば教えて欲しいんだが……」
「お前さん、この世でいちばん怖い事はなんだと思うかね?」
……コイツ、やばい。一刻も早くここを立ち去りたかった。爺さんは更に続けた。 - 6二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 02:00:14
「……それは、嘘じゃ。嘘をつく事がいちばん怖い。嘘は人の繋がりを壊してしまう。嘘で壊れた関係は二度と戻らんからの。おお怖い怖い。怖くて思わず拳を握りしめちまうよ。」
爺さんがだんだん近づいてくる。腰が曲がったはずなのに、俺には爺さんがデカく歪んで見えた。それほどまでにこの爺さんには恐怖を感じていた。
すると爺さんは急にスタスタと歩みを早め、俺に一気に迫る。
「……ワシが怖いか?」 - 7二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 02:11:29
怖いに決まってんだろ。でもここで怖いと言ってられるほど、俺は弱くねぇ。何度も恐怖なんて乗り越えて来たはずだ。
至近距離でギロっと目が動く。思わず唾を飲み込んだ。
「怖く……ねぇよ……。」
「……。」
沈黙。永遠にも思える沈黙。爺さんは俯いたまま固まった。
そして……
「……そうか。それは良かった。」
爺さんはニンマリと笑った。
その笑顔は歪んで……
「……ところで、お前さん、見た感じだと大工じゃな?仲間とはぐれたんじゃろ。どれ、ワシが道を教えてやろうか?」
仲間?はぐれた?さっきからこの爺さんは何言ってやがる。会話がマトモにできやしねぇ。まあそんなことよりも……とりあえず……
「……いえ、いいんです。それよりも、もう少しここに居ても良いですか?」
俺はここでのんびりしていたい。椅子に深く腰掛けるのだった。 - 8二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 02:12:23
(今日はここまで 続きは明日)
- 9二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 07:33:57
最近のミッチーはデスゲームに巻き込まれたりトイレの紙がなくなって閉じ込められたり大変なのに今度は怪異に巻き込まれたか…
- 10二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 07:37:05
保守
- 11二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 14:09:35
しばらくぼうっとしていた。爺さんも黙って椅子に座っているし、話しかけてこない。
鈴虫の声が聞こえてくる。そうか……もうそんな季節か。
何かやらなきゃいけなかった気がするが、猛烈な脱力感がそれをかき消す。何となくこのままで良い気がしてきた……。
半月でも満月でもない不細工な月がゆらゆらと南中する頃…
ピクリ、と爺さんが動いた。そして顔をこちらに向けてこう呟いた。
「お前さん、今いちばんやりたいことはなんじゃ?」 - 12二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 21:26:55
そういえばここに来て結構時間がたったのだろうか。腹が減ってきたな。
この爺さんも無害っぽいし、適当に相槌うっとくか。
「腹減ったな。メシが食いてえ。」
「……そうかそうか。」
爺さんはニンマリと笑うのだった。何か作ってくれるのか。爺さんはゆっくりと立ち上がり、山小屋のキッチンに向かった。 - 13二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 01:41:06
スッ……スッ……
金属が擦れる音がする。振り返ると爺さんが包丁を研いでいた。
まな板には川魚が1匹乗っている。
あの小さい魚を捌くのに、こんなに丁寧に研ぐ必要があるのだろうか……
スッ……スッ……
静かに鳴いていた鈴虫の声でさえも聞こえなくなってしまった。
完全なる静寂に、包丁の音だけが無機質に響き渡る。
スッ……
俺はそれが何故だか怖くて、つい目を逸らしてしまった。その瞬間、
包丁を研ぐ手を止めて爺さんがこちらを向いた。
「お前さん……
人を殺めたことはあるか」 - 14二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 01:45:01
吾妻道長は動かない?
- 15二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 01:55:20
「お前さん……
人を殺めたことはあるか」
「なっ……」
俺は動揺した。
この爺さん、俺がパラサイトゲームで犠牲者を出したことを知っているのか……?
イタズラを見抜いた教師が、分かった上で犯人の小学生自身に罪を告白させるため、知らないふりをして問い詰める……
そんな絶対的な圧力に、俺は動揺してしまったのだ。
しかし、冷静になれ。あのあとジャマト化の抑制剤で、人々は元に戻ったし、それに世界ごと書き換えたじゃないか。
この爺さんが知っているハズがない……
俺は犠牲者を一時的とはいえ、出してしまったことは事実だ。その罪から逃れようとは思わない。
ただこの爺さんには、この爺さんにだけは、何故だか言ってはならないような気がしてならない……
「……無い…………。」
知らないはずの人間に、人を手にかけたことなど言ってしまっては混乱を招くはずだ。そう言い聞かせ、俺は嘘をついた。 - 16二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 01:56:26
恐る恐る爺さんの方をむくと、そこに爺さんの姿は無かった。
……あれ、俺は何をしてもらっていたんだっけ……
急に視界がぼやけてきた。
背もたれのない簡単な椅子では、今の俺を支えられなかった。
……眠たくなっ……て……
俺は床に転がり、そのまま目を閉じてしまった……。 - 17二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 02:03:26
静寂─
そういえば…俺はなんでここに来たんだったか……
何かやらなきゃならないはずなんだ……
それに、何故だ……
異常に、力が入らん……
こんな時は、どうするんだっけ……
メ……シ……?
なんだ……それ……
ギシ……
なんだ、この音……
ギシ……
だんだん…大きく……? - 18二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 02:15:48
「……この……人殺し……!!」
何かが、来る!
ドスッッッ!!!
「ハッッ……!!」
俺はあと1秒起きるのが遅かったら死んでいたかもしれない……
すんでのところで、爺さんの振り下ろした包丁を、かわすことが出来た。
「……チッ……まだこんなに力が残っていたか……」
爺さんは突き刺さった包丁を逆手に握りしめたまま、俺を睨んだ。
その目は、もはや人の目では無かった。
一体何がどうなってるんだ……
クソ…いつもより頭が回らねぇ……
調子の悪い脳みそを無理やりフル回転させて今の状況を整理する。
コイツはヒトじゃない。でもジャマトでもない。なにかのバケモンだ。
それだけは確信した。
じゃあ何者なのか、それはどうでもいいが、俺はこの存在をどこかで…… - 19二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 02:16:35
……ウソワスレ
誰かがそういうバケモンがいると言っていた。誰かは思い出せない。けどウソワスレで間違いない……!!
「……だがその体で、ワシからは逃れられん!」
爺さんとは思えんスピードで飛びかかってきた。
一般人相手にコイツを使うのは躊躇われるが、この爺さんは間違いなくバケモンだ。
DESIRE DRIVER
久しぶりの出番が、こんなわけの分からん戦いだとはな……
SET
俺はゾンビバックルを握りしめて、体の残り全てのエネルギーを絞り出すように叫ぶ。
「変身!」
ZOMBIE
READY……FIGHT - 20二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 02:31:20
爺さん……ウソワスレの包丁を左腕で受け止める。
「……見せおったな……その憎い姿を…」
弾かれた包丁を持ち替え、間髪入れずに襲いかかるウソワスレ
攻撃の先は、俺の首元か!
ならば……!
REVOLVE ON
頭の位置を動かして攻撃をかわし、脚についた爪でウソワスレを蹴り飛ばす。 - 21二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 02:32:40
ZOMBIE STRIKE
俺の蹴りはコイツの腹をしっかりとらえた。
しかし……
「……クッ……なかなかやるな……」
コイツ……俺の蹴りをマトモに受けて倒れないのか……?
「……だが……」
違う……!俺の蹴りが効かないんじゃないっ……!
「……お前さん、今ので精一杯といったところかの……?」
「ハァ……ハァ……」
俺が弱っているから……全力が出せていないのか……!! - 22二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 03:11:21
確かに体力が限界だった。
いつもならこの何十倍も動けるはずなのに、どうして……
必死に思考を巡らせる
このバケモンと何を話して、何が起きたのか、異変の招待は必ずそこにある。
『お前さん、今いちばんやりたいことはなんじゃ?』
『お前さん、この世でいちばん怖い事はなんだと思うかね?』
アイツは、この言葉を繰り返していた……
俺はなんて答えたのか……それは思い出せないが、同時にひとつの仮説が立った。
『……それは、嘘じゃ』
俺は……嘘をついたんだ。
嘘をついたことでこのバケモンのタブーを犯し、何かを奪われた。
今の俺が、立っているのもやっとなのもきっとそのせいだ。
けれど、それが思考の限界。
もう俺に考える程の余裕はない。 - 23二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 03:11:41
「キエエェエエッ!!」
ウソワスレは包丁を振り下ろす手をやめない。
俺はそれを凌ぐので精一杯だ。しかも体力はとっくに限界だ。やられてしまうのも時間の問題だろう……。
「お前が犠牲を出した事実は、たとえ世界が変わっても消えないぞ!!」
鬼のような形相で俺にのしかかる。もう、振り払うほどの力もない……
俺は……ここまでなのか……?
『死を覚悟するな。必ず勝ち抜けると信じろ』
──ハッ!
そうだ。まだ終わってない。
きっとコイツにも攻略法があるはずだ。それを突き止めて、倒す。 - 24二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 03:12:09
その瞬間、電流が走った。
……もしコイツがウソを言ったらどうなる?
試してみる価値はある。いや、こうしてみるしか他に無い!
REVOLVE ON
再び上半身にアーマーを戻し、
ゾンビブレイカーを取り出す。
「うおおおっ!」
「……何っ!なぜ動ける?!」
ウソワスレを必死に跳ね除けた。
その隙に体勢を立て直す。
どうすればコイツが嘘をつくか。心当たりなら、あった。
POISON CHARGE
足でポンプを踏み込む。
俺はゾンビブレイカーを思い切り振りかぶり、そして── - 25二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 03:12:54
ブオオオッ!!
「……なっ……なん……だと……」
あえてウソワスレの顔面の真横にぶっ刺した。
そのままヤツの耳元で、こう言った。
「……お前……俺が怖いか……?」 - 26二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 03:13:27
「なっ……」
ウソワスレは動揺している。
「怖いわけがないだろうが!ワシはずっとお前を……」
「本当にそうか?」
『おお怖い怖い、怖くて拳を握りしめちまうよ。』
「お前……拳を握りしめたな?
お前はたった今、嘘をついたぞ!」
「うぐっ……し、しまったァァァ!!!」 - 27二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 03:37:13
ブラフだったが上手くいった。
その瞬間、俺の頭の中に怒涛の勢いで記憶が流れ込んだ。
俺が事故にあって現場に帰ろうとしていたことも、猛烈に腹が減ってることも!
「思い出したぞ……お前の目的は知らんが、俺はここを一刻も早く立ち去る。追って来たら次は切り刻むぞ。」
俺はゾンビブレイカーを引き抜き、フィーバースロットレイズバックルを装填した。
ランダムでバックルを抽選する扱いづらいバックルだが、ジャマ神となった俺には関係ない。
【???】GOLDEN FEVER
俺はプロペラを装備して、ここから飛び出した。 - 28二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 03:37:48
飛び上がるほど、どんどん小さくなっていく小屋。
そして俺を睨みつけるウソワスレ。
お前を倒すのは何か違うと感じた。アイツは俺を恨んでいた。倒してしまったとしても、結局俺の罪が増えるだけ。それにどこかでまた蘇って、俺に襲いかかるだけだろう。
もう俺はこの山に近づかないと心に違うのだった。
後日、現場の先輩達に事情を話した。
もちろんウソワスレのことは伏せた。怪我をして、何とか自力で自宅に帰れたと説明した。
もう俺は犠牲を出さない。
これまでの罪はもちろん背負うが、今後増やすことは 絶対にない。
……ぐううううっ
やべぇ。もう腹が限界だ。
俺は帰り際、スーパーでちょっといい肉を買った。
ウソワスレ【~完~】 - 29二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 03:38:12
補足
【ウソワスレ】
パラサイトゲームで犠牲になった者の恨みが霊となって小屋に住み着いた。
「犠牲を出してでも終わらせる」という道長の言葉がウソなら許さない、と強く思うことで、この能力を手に入れた。
出会った人間の「欲望」を奪い、エネルギーを蓄えて道長を待っていた。
1時間ごとに欲望を聞き、ウソをつく事に奪っていく。
時間が経てば「食べたい」「寝たい」という欲望でさえも奪えてしまい、最終的には原因も分からず衰弱した人間の「生きたい」という欲望を奪ってしまう。 - 30二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 03:45:56デザイアミリオネアに挑む道長|あにまん掲示板ようこそ、クイズ「デザイアミリオネア」へ。最大で1000万円が手に入るビッグチャンスだ。司会進行はこの俺、スターオブザスターズオブザスターズこと、浮世英寿だ。ルールは簡単。4択の問題を15問出題する。…bbs.animanch.com
⬆️裏話
私はこのスレを書いた者ですが、最後の方にリクエストで「ホラーな村に道長を送り込んで物理で解決してほしい」とあったので思いつきました。
ある程度物理でやりつつも、マジモンの怪異なので根本的に解決は出来ない……というものを書いてみました。楽しんで頂けたら幸いです。
またリクエストなどあればお願いします。時間がかかるかもですが自身の文章力向上のため、挑戦していきたいです。
そしてこのSSの感想も良ければ教えて欲しいです。
改善点などあれば参考にしてより良くしていきたいです。
- 31二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 04:57:46
おつ、面白かったよ!
- 32二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 05:44:27
貴方でしたか!
素晴らしい作品をありがとうございます - 33二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 08:59:20
仮面ライダー本編で、こういうマジで不思議な回が1話だけあるっていうのやらないかな
- 34二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 19:27:23
乙!やっぱデザイアミリオネアの人か!新作に立ち会えて嬉しい限り
読みやすくてスッと入り込んでくる文章作りが好きだ - 35二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 19:32:23
お前かよ!!!!!
乙!めちゃくちゃ面白かった