【ss注意】シュヴァルグランと1126days

  • 1二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:02:17

    シュヴァルグランが三年間を共に過ごしたトレーナーに完全に依存してしまい。勇気をだして自らの気持ちを吐露します。

    トレ×ウマなのでそこもご注意ください。

    では、どうぞ

  • 2二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:02:36

    シュヴァルグランと三年間を駆け抜け、今日で契約は終了
    めでたさ半分寂しさ半分で、俺たちは温泉旅館に来ていた。
    トレセンから少し遠く、到着が夕方になってしまったため、直ぐに食事をいただいた。

    「いやー、美味しかったね」
    「そうですね、美味しかったです」
    「もうこんな時間か、温泉行こっか」
    「はい、行きましょう」

    温泉は人一人おらず、それは女湯も同じようであった。三メートル近い竹柵越しに音が聞こえる。

    「そっちはどう?シュヴァル」
    「とってもいい湯で、気持ちいいです。トレーナーさんは?」
    「極楽だよ。大人になると温泉が快適でしょうがないよ」
    「あはは、なんだかおじさんみたいですね」
    「ははっ、確かにおっさんくさいな」

    そんな言葉を交わしつつ温泉を満喫した。
    温泉から上がると、シュヴァルグランが、髪に僅かに水気を持ちながら部屋に戻ってきた。俺は彼女の姿に何処か新鮮で、それでいて懐かしい心持ちになる。

    「なんだか久しぶりに見たな、帽子を取ったシュヴァルの姿」
    「そう、ですか?もっと普段から見てると思いますけど……」
    「いや、なんとなく…そんな気がしたんだ」

    そう、本当になんとなく。見慣れる程では無いが、滅多に見ないという訳でもない光景が、胸懐をコンコンとノックしてきた。

    「……少し、お散歩しませんか」
    「わかった行こうか」
    シュヴァルグランの誘いに乗り、少し肌寒い晩秋の夜空に脚を進めた。"あの日"よりもちょっとだけ近くにいるシュヴァルグランは自身の藍玉に星空を映していた。
    そして、旅館から近くの丘陵の中腹に腰を下ろす。

  • 3二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:02:52

    「今日までありがとうな、シュヴァルグラン」
    「はい、こちらこそ、トレーナーさんのおかげで、僕はここまで頑張れました。……本当に、ありがとうございました」
    「いやいや、シュヴァルの頑張りがあったからだよ」
    「そんな……でも、トレーナーさんと出会ってから、自分に自信が持てました」

    いつものように照れ隠しをしつつ、三年前よりもシュヴァルグランというウマ娘を受け入れられるようになった様子に、嬉しさと懐かしさを覚える。

    「そっか、思い返してみれば、もう出会って三年以上か……早いもんだな」
    「本当に、昨日のことみたいです」
    そう言って俺たちは二人が出会ったスカウトの日を想起した。


    ─────1124日前

    『───4着目はシュヴァルグラン─────』
    模擬レースの着順が淡々と読み上げられ、一着のウマ娘にトレーナーが群がる。

    『ぜひうちのチームに!』
    『いや、うちに来てくれ!』
    『俺が君の夢を叶えてみせる!』

    そこから十メートルばかり離れたターフの上で、帽子をかぶった一人のウマ娘が息を切らしていた。
    『…はぁ、はぁ、はぁ…こんな僕にはスカウト、なんて、ないよね……』

  • 4二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:03:12

    『君、名前は』
    『え、あ、その……シュヴァル…グラン……シュヴァルグランです』
    『そうか、"偉大な者"か、いい名前だなシュヴァルグラン……なぁ、俺に君をスカウトさせてくれないか』
    そう言って俺はシュヴァルグランに専属契約を申し出た。

    その提案に、些か不安そうな表情を浮かべ、直後にそれが驚嘆の色に塗り変わる。
    『えぇ?!……こんな僕じゃ、そんな、スカウトだなんて…それに僕は、"偉大な者"なんかには……とても…』

    『俺はそんな君だからスカウトしたいんだ。』
    『寡黙に見えても俺には隠せない、瞳が、ケツイをもったその眼が、君というウマ娘を物語っている。』
    『俺が君を"偉大な"にしてみせる』

    『もう一度聞く、シュヴァルグラン。俺に君をスカウトさせてくれないか』
    二度目の提案、シュヴァルグランに対して自身の気持ちを全てぶつけ、その答えを待った。すると、シュヴァルグランは目線を下に逸らしつつ、ぽつりぽつりと話し出した。

    『……僕は、まだ自分がわからないです』
    『僕は誰で、何者かに成れるのか。何になるのか……』
    『自分に対して、自信が持てないです……』

    『そっか、じゃあ────
    自分に自信が持てるようになろう。そう加えようとしたが、その声はシュヴァルグランに遮られる。

  • 5二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:03:33

    『でもっ!……少しだけ、自分を褒めてあげたい。褒められるようなウマ娘になりたいって思えました』
    『だから……よ、よろしくお願いします……トレーナー、さん』

    今度はこちらの顔を、目を見て、掌をギュッと握りながら語りかけてきた。
    『あぁ!よろしくな、シュヴァルグラン!』

    ここから始まった、シュヴァルグランと俺の、二人の軌跡が

    ───────────────


    「今になって思い返すと少し小っ恥ずかしいな」
    「あはは、そうですね」
    自分の口説き文句のような浮ついた言動に羞恥を覚えつつ、やはり懐旧の情を催す。シュヴァルグランの笑い声がそれをよりいっそう強めた

    「あの時はミーティングの時にもオドオドしてたよな」
    「ちょっと!トレーナーさん。恥ずかしくなっちゃうので……」

    「自分から話しかけてくれるようになって嬉しいよ」
    「……ありがとう、ございます」
    少し頬を膨らませ、そっぽを向きながら感謝の言の葉が返ってきた。

  • 6二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:03:56

    「……また、いつか釣りに行こうな」
    「はい…なんだか初めて一緒に釣りに行った事を思い出しますね」
    「そうだね、懐かしいなぁ」
    そうして俺達は二人で初めて海に釣りに行った日を懐古した。


    ─────518日前

    『そういえばシュヴァルってオフの時はいつも何してるんだ?』
    契約を結んでから一年半以上経っても、俺とシュヴァルグランの間には何処か溝のようなものがある様に感じた。俺がシュヴァルグランというウマ娘について、詳しく知る必要があるように思え、趣味を尋ねた。

    『えっ…僕は釣りに行ったり、お買い物に行ったり、してます……よ?』
    『そうか!実は俺も釣りが趣味なんだが、トレーナーになってからなかなか行く機会も無くてな。今度一緒に釣りに行かないか?』
    『……!…はい。行きましょう』
    案外乗り気な返事を聞き、安堵した。そうして俺達は海に釣りをしに向かった。

    ───────────────

    『なかなか釣れないね』
    『二人ともボウズですね』
    ザーッザーッという波の音が聞こえ、風が少し肌寒い。二三時間ほど釣糸を垂らすも、未だ釣果はゼロであった。

    『でもやっぱり、釣りは待ってる時間も醍醐味だもんな』
    『えぇ、そうですね』
    その時、突風がシュヴァルグランのトレードマークと呼べる帽子を掻っ攫った。

  • 7二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:04:12

    『あっ!帽子が!』
    帽子はそのまま海原にポチャリと落ち、ゆらゆらと波に揺れている。それを見て、自然と身体は動き出していた。堤防を勢いよく蹴りつけ、身を宙に放り出す。バシャリと大きな音が鳴り、冷水と泡沫が自身を包んだ。

    『えっ!?トレーナーさん!』
    『よし!捕まえたぞ!』
    『ここまで来ればタモで拾えるか?』
    『えっ、は、はい!』
    シュヴァルグランのもったタモに帽子を預け、梯子を登ると刺すような寒さが襲いかかり、身震いする。

    『よし……よいしょ!』
    『大丈夫ですか?!自分から海に飛び込むなんて何考えてるんですか!』
    『ごめんな。でも、大切な物なんだろ?この帽子』
    そう言ってぐっしょりと濡れた帽子を手渡すと、シュヴァルグランは目に涙を浮かべながら、俺の胸に顔を埋めた。

    『帽子も大切ですけど!僕にとってはトレーナーさんは同じかそれ以上に大切なんです!!……ばか!』
    『!……ごめん』
    頭を抱き締めてそう告げると、釣竿がピクピクと動いた。

    『あっ!シュヴァル!』
    『あっ!』

  • 8二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:04:36

    『よし!』
    『トレーナーさん!タモお願いします』
    『任せとけ、いいぞ……よし!』
    『鯛だ!』
    『ありがとうございます!』
    『折角だしこのあと近くのキャンプ場で料理しよっか』
    『そうですね、そうしましょう』

    ───────────────


    「美味しかったよな、あの時の鯛めし」
    「美味しかったですけど、二度とあんなことしないでくださいよ?……本当に心配したんですから、あの後風邪もひいてましたし!」
    フグのようにぷっくりと頬を膨らませて怒るシュヴァルグランに申し訳なさと可愛らしさを感じる。

    「ごめんごめん、もうしないよ」
    「絶対ですからね」
    「もちろん」

    寂寞たる夜、無数の宝石を散りばめた空を見上げる。
    「……星、綺麗ですね」
    「そうだね」
    「なんだか、あの日を思い出します」
    「あの日ね、それも懐かしいなぁ」
    そう、"あの日"は今でもはっきりと覚えている。

  • 9二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:04:57

    ─────331日前

    『あの、トレーナーさん』
    『ん?どうしたシュヴァル』
    『……今日の夜に…イルミネーション、見に行きません、か…?』
    業務を一通り終えた俺は、シュヴァルグランから提案されてハッとした。気づけばクリスマス、彼女などとは縁がないせいですっかり忘れていた。

    『そっか、もうそんな時期かぁ…俺はいいけど、シュヴァルは他の人と行かなくていいのか?』
    『僕は……ト、トレーナーさんと…行きたい、です』
    下を向いたせいで、顔が帽子の鍔に隠れてよく見えないが、震える声は彼女の勇気を物語っていた。ここで突っぱねるのは野暮というものだろう。俺は"お兄ちゃん"や"ファン一号"などとは違う。提案を快諾する。

    『!…そっか、じゃあ行こっか。寒いだろうから、ちゃんと厚着してね』
    『はい!』

    『お待たせしました』
    胡桃色のトレンチコートに身を包んだシュヴァルグランは、探偵のようなかっこよさと、女性らしい美しさ、両方を醸し出していた。

    『今来たとこだよ、そのコートいいね。シュヴァルによく似合ってる』
    『えぇ?!……あ、ありがとうございます…』
    『行こっか』
    『……はい』

  • 10二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:05:16

    ゆっくりと歩みを進める。俺と少しだけ間を開けて
    カツ…カツと軽快なソックスブーツの音が鳴る。
    君の吐息は白くなる。
    ゆっくりと歩みを進める。君と少しだけ間を開けて
    コツ……コツと重厚なワークブーツの音が鳴る。
    俺の吐息も白くなる。
    星を実らせた高木に、四つ足並んで静止する。

    漸く感嘆が漏れ出た。
    『………わぁ…!』
    『綺麗だね』
    『はい!……思っていた通り、とっても綺麗です』
    弾けるような君の笑顔には俺だけの星が二つ輝いていた。

    『来て良かったです、本当に……綺麗でした』
    『シュヴァルの笑顔も綺麗だ』
    『うぇ?!……そ、そそ、そんな!僕は全然…綺麗、なんかじゃ……』
    『綺麗だよ、今日見たイルミネーションよりも』
    『……あ、ありがとう……ござい、ます』

    『……少し…星を見に、行きませんか?』
    『いいよ、行こうか』

    ───────────────

    「あの日の、星空を覚えていますか」
    「忘れるわけないだろ、星も、イルミネーションもシュヴァルの笑顔も、全て脳裏に焼き付いているよ」

  • 11二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:05:33

    シュヴァルグランはモジモジと目線を逸らして返事した。
    「……変わらないんですね、今も」
    「もちろん」

    「そろそろ戻りましょうか」
    「そうだね」

    「おやすみ、シュヴァル」
    「おやすみなさい、トレーナーさん」
    旅館に戻ればもう亥の刻、それぞれの床に着き、目を瞑った。

    ───────────────

    いったい、今は何時だろう。暗晦の中、腕の妙な重さと啜り泣く様な嗚咽に覚醒する。

    「……ひぐっ………えぐっ…………」
    「シュヴァ…ル……?」
    気づくのにさほど時間は要さなかった。シュヴァルグランが俺の腕をぐっしょりと濡らして抱き着いていた。

    「……捨でないで……トレーナーざん………行がないで…………」
    「よしよし、大丈夫だよ。俺はどこにも行かないよ」
    悪夢でも見たのだろうか、頭をぽんぽんと撫でてやるとシュヴァルグランは言葉を続けた。

    「ずっど……僕の……隣に……居でくだざい」
    「……!」

    わかった、そう言承けしようとしたが、直ぐに息を呑んだ。恐らくシュヴァルグランの言う"隣"と俺の思う"隣"は違う。それを易々と受け入れてしまっていいのか。分からなくなった。
    僕の隣に居てくれますか、その問い掛を反芻する。

  • 12二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:05:50

    「トレーナーさんの……おかげで…自分に……自信が持てたんです…………こんな僕を受け入れてくれた、"偉大な者"にしてくれた、トレーナーさんのおかげで」
    「だから……我儘ですけど……大好きな、トレーナーさんと離れたく…ない……です」

    ここまで勇壮なシュヴァルグランは久々に見た。"大好き"そんな言葉を口にしたのは初めてだ。俺も内心、それが恋慕である事はわかっている。だからこそ、応えていいのか逡巡してしまう。

    「俺は…………」
    「トレーナーとして働き続けるつもりだ」
    「そんな……!」
    シュヴァルグランは半ば絶望したような表情で目を潤ませる。

    「でも、シュヴァルと出会って、三年以上の年月を共にして……その1000日以上の間、シュヴァルの事を考えなかった日はなくて……今迄も、これからも、シュヴァルの事を考え続けると思う」
    「君の隣にいられるのなら、俺にとってそれ以上に幸せな事はないよ」
    「だからこれからも、隣にいさせてくれ。俺の誇りのウマ娘、シュヴァルグラン」

    言ってしまった。だが、これで良かったんだと思う。後悔の念は無い。

    「……はいっ!」
    未だ目は潤んでいる。でも、彼女の表情は、歓喜の色に塗り変わっていた。

    「今日はもう寝よう、まだ怖いか?」
    「もう、怖くはないです。……でも、今日だけは……この儘、寝てしまいたい…です」

    「そうか、わかったよ。我儘なシュヴァルもかわいいからな。おやすみ、シュヴァルグラン」
    「か、かわいくなんて……ありがとうございます……今度こそおやすみなさい、トレーナーさん」

    腕の中にシュヴァルグランを抱きながら、長い夜を過ごした。

    東雲に目を覚ますとシュヴァルグランが俺の指先をモグモグと咥えていたのは、本人も知らない、俺だけの秘密だ。

  • 13二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:06:42

    おしまい。結構長くなってしまった……

    一つ一つの回想が少し薄くなってしまったのが反省点かも

    見てくれてありがとうございます。

  • 14二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:50:18

    シュヴァルちゃんはガチ泣きしたらヤバそう(小並感)

  • 15二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 21:05:01

    シュヴァルの涙はいずれがんに効くようになる

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています