- 1スレ主23/10/13(金) 20:01:38
【注意事項】
・ワンピースとBloodborneのクロスオーバーです
・原作ゲームレベルのグロ(R17相当)・ホラー描写があります
・フロムゲーらしいエグい設定がポンポン登場します
・元スレで執筆していたものの増補改訂版となっており、非常に長いです
偉大なる元スレ(初代)↓
【クロス注意】ここだけコラソンがローを治すためにヤーナムに行った世界線|あにまん掲示板どうなるんだろうbbs.animanch.com - 2スレ主23/10/13(金) 20:03:12
- 3スレ主23/10/13(金) 20:10:28
主人公はコラソン、病院巡りの旅の途中にうっかり(?)ローを連れてヤーナムに迷い込んでしまい…
という所から始まる、クソ重い雰囲気のSSになります
設定元のスレの考察量が半端ないので、こちらでは様子を見つつ情報を開示したり解説を載せたりしていく所存
また、スレ主がSSスレ初心者であるため、何か改善点などご指摘いただけると大変助かります
- 4スレ主23/10/13(金) 20:13:16
再会した兄には、妙な癖があった。
例えば朝、顔を合わせたとき。ファミリーの仕事から戻ったとき。
何を言うでもなく、じっとおれの目を覗き込んでくるのだ。
おれをアジトに置くなり押し付けてきたサングラスを取り上げて、前が見えているのか怪しいくらいに暗い色の奥から探るような気配を向けてくる。
疑われているのだと思っていた。
ポッと出のおれを最高幹部に据えるなんて真似をした割には、寄越される仕事は裏方のようなものがほとんどだったから。
その答えが今わかった。
「醜い獣め!」
「全部おまえらのせいだ!!」
狂気に満ちた群衆に取り囲まれて、おれは独りでひどく震えていた。
迫害の記憶からではない。
おれはその瞳孔が半ば蕩けた瞳を、見たことがあったから。
「あにうえは、どうしていつもまっ黒なメガネをかけてるえ?」
「目の病気で、日の光を見たらあぶないって父上がくれたんだえ」
「びょうきなの!?だいじょうぶ?いたい?」
「なんてことないえ!痛くもないし、ほら」
泣き虫ロシーの顔もしっかり見えるえ!
そう言ってサングラスを外した兄の瞳を、聖地の美しいものしか知らずにいたおれは、子供心にきれいだとおもった。
今更になって思い出す。
兄が父を手にかけたあの日。
迫害の中で兄と同じ病気になったらしい父を見て、おれはサングラスを探しに出かけたのだ。
兄と同じ、蕩けた瞳になった父のために。 - 5スレ主23/10/13(金) 20:14:32
路地の方から、子供の叫び声が聞こえた。
この狂った街に足を踏み入れた瞬間に忽然と姿を消してしまったローが、声の限りにおれを呼んでいた。
その声に反応した群衆の何人かが、熱に浮かされ這いずるようにこちらへ向かうローの方を振り向く。
兄のことを考えるのは後回しだ。向けられた銃を奪い取り、何人かを蹴倒しながら負けじと叫んだ。
頼む、こちらを狙ってくれ。
願いも虚しく、いびつな刃物を掲げた一人がローに近づいていく、その時だった。
「伏せろ!」
男の声とともに、群衆が文字通りに蹴散らされた。
「異邦人だな!獣の病の罹患者に通常の武器は効かん!!」
白髪の男は容赦なく大斧を振るいながら、路地から救出したローを抱えて言った。
「灯りを探せ。お前たちは夢を見ることができるはずだ」
「夢?何を言って…」
「急げ!使者たちの見つめる先、青白い灯の夢にその子を連れていけ!」
訳も分からないまま押し付けられたローを抱えなおし、男に殿を任せて街を駆ける。
レバーを操作し梯子を上りきると、たしかにあった。青白い灯が。
「コラさん…」
「大丈夫だ。ロー」
炎も無しに灯を灯して、その場に跪く。
悪夢の始まりを予感しながら。 - 6スレ主23/10/13(金) 20:17:26
夢から覚めたような心地で瞼を押し上げる。
さっきまで街中で追われていたはずのおれたちは、いつの間にか洋館に続く道の上にいた。大きな大きな月が、石畳に影を落としている。
「コラさん、おれ…」
「ロー?」
左腕の中で、ローは小さな両の手をまじまじと見つめていた。すっかり白い痣に覆われたそれを、握っては開いている。
「…どこも痛くねえし熱も引いてる」
どういうことだよと困惑を乗せた声で呟くローに、おれは一人奇妙な納得を覚えていた。
"こんな穏やかな夢に、痛みも病もないだろう"と。
おれは違和感なく、この場所が夢であると理解していた。さっきおれ達を助けてくれた男の言葉があったからじゃない。はじめから脳に刻まれていたかのように、それは事実としてストンと腑に落ちていた。
「行こう」
すっかり元気な様子のローを石畳に下ろして、洋館へと歩を進める。少し間があってついてきた足音を確認して、歩幅を小さく調整した。
と、ひとまずの目的地、洋館の扉に続く坂の手前に人影が現れた。つばの広い帽子に品の良いドレスを身に纏った何者かが、気配もなく静かに佇んでいる。
「…人?」
戸惑うローの疑問は、人影に近づくにつれすぐに解消されることになった。
女性にしてはごく背の高い彼女の指には、球体の関節がはめ込まれている。
人形だ。
「はじめまして、狩人様」
おれは、その声を知っていた。頭の中に、小さな喜びの声の記憶が浮かんでは消えていく。
かわいらしい小さな白い使者たちと、浮上する意識の記憶が。
「―ああ、狩人様を見つけたのですね」 - 7スレ主23/10/13(金) 20:23:59
「狩人?……なあコラさん、ここどこなんだ?おれが急に元気になった理由も人形が動いて喋ってる理由も、何か知ってるんじゃないのか?」
「う〜ん」
じっとりとした目で睨め上げられても、正直おれだってローを納得させられるような答えは持ち合わせていない。
そう、強いて言うなら。
「…勘?」
「なんだよそれ!おれは真面目に聞いてるんだぞ!」
「おれも真面目に答えてんだよなァ」
腕を組んで唸るおれに胡散臭そうな表情を見せたあと、ローは大きく上を向いて人形と視線を合わせた。コテンと首を傾げた人形に、言葉を探しながら問いかける。
「まず…そうだな、あんたは何者なんだ?」
「私は人形。この夢で、狩人様のお世話をする者です」
ローの問いにイマイチ話の進まないような答えを返した人形は、おれの方に向き直って言葉を続けた。
「狩人様、血の遺志を求めてください」
「…遺志を?」
「私がそれを、普く遺志を、あなたの力といたしましょう」
獣を狩り、そして何よりもあなたの意志のために。
人形が目線を下に落としてローを見やった。
おれの意志は、ここにある。ローを病から解放することが、おれの望みだ。
「………わかった」
「コラさん!?」
焦った様子のローに、へらりと笑みで応える。
遺志と聞いて脳裏をよぎったのは、血を満たす死の暖かさ。ずっと前から、おれと共にあったものだ。あの兄の傍らにも、きっとあったものだ。
使者たちの差し出す道具を受け取り、不思議と腕に馴染むノコギリのような武器の振り心地を確認する。
ここならひとまずローは安全だ。
あとはおれが、医療教会の救いと呼ばれるものを調べればいい。
「ちょっとだけ、待っててくれ」
洋館の扉の向こうでは、車椅子の老人がおれの―狩人の訪れを待っていた。 - 8スレ主23/10/13(金) 20:30:01
ローを夢の彼女に任せ、手に入れたノコギリ鉈と短銃を携えて独り街に戻る。
獣。もしかすると白い使者たちに迎えられたおぼろげな記憶の中で、灼け落ちたものがそうだったのかもしれない。ああいったものが、この街には潜んでいるのだろうか。
それに、この街の探索を進めれば兄と父の蕩けた瞳のことが何か分かるかもしれなかった。群衆の様子はとても話し合いの席につけるようなもんじゃなかったが、まだ医療教会という手がかりが失われたわけじゃない。
そんな、地理も何も知らないまま、灯りから離れて街へ戻ろうとした時だった。背後の窓から、重い咳の音が聞こえてきたのは。
「…ああ、獣狩りの方ですね。それに…どうやら、外からの方のようだ」
「あんたは…」
「私はギルバート。あなたと同じ、よそ者です」
「おれは……コラソン。あんたもこの街の人間じゃないんだな」
悲しいかな、大斧を振り回していた男の他にこの街でまともなのは、今のところこの異邦人だけだった。
「色々とご苦労でしょう。この街の住人は、皆…陰気ですから」
「陰気っつーかなんつーか…」
皆おかしくなってんだけど、と思わずこぼすと、何とも言えない沈黙が落ちる。ギルバートだって、街の様子はよく知っているだろう。外じゃ住民がパレードよろしくぞろぞろと道をゆき、人を見つけるなり大声を上げているんだから。
「私は床に伏せり、もう立つこともままなりませんが、それでもお役にたてることがあれば、言ってください」
礼を伝えようとしたおれを遮って、また咳の音が響いた。おれも、何か役にたてりゃいいんだが。
「おい、大丈夫か!?おれもあんたの役にたてりゃ…」
「…この街は呪われています」
「呪われている?」
「あなた、事情もおありでしょうが、できるだけはやく離れた方がいい」
言外におれの申し出を遮ったギルバートが、咳を押し込め暗い声で言う。
「この街で何を得ようとも、私には、それが人に良いものとは思えません…」
「……そうだな」
そのことについては、おれと彼の見解はぴたりと一致している。教会のもたらす奇跡のような医療ってのがどんなものであっても、この街の有様を見た以上ローを診せようなんて気にはもうならなかった。
「ありがとう、ギルバート」
「…お気をつけて」 - 9スレ主23/10/13(金) 20:33:24
ふと、ローだけでも外に出してやれないかという考えが脳をかすめる。
あの夢の中じゃ病気が進行しないとしても、だからってほっときゃ治るわけじゃない。もしもこの奇妙な街に本当に何か珀鉛病を治す手がかりがあったとしても、それはおれが独りで調べればいいだけの話だ。
ある時突然夢が消えて二人で街に放り出されちまったとして、おれはともかく、ただでさえひどい熱を出して朦朧としていたローが生き残れる可能性はそう高くはない。
分からないことだらけの状況でも、そんなことくらいはおれにだって分かるのだ。
こうなったらもう、センゴクさんに保護を頼めないだろうか。
そう思って引っ張り出した電伝虫は、糸が切れたように瞼を閉じてどこにも通じなかった。
ポケットの中で、また紙切れがカサリと軽い音を立てる。気付けばおれの手にあった、自筆の走り書きが。
「青ざめた血」を求めよ。狩りを全うするために - 10スレ主23/10/13(金) 20:38:27
10まで埋めた&キリの良いところまで行ったので今日はとりあえずここまで
もしかして現時点でちょっと1レス長かったりしますかね?
保守もかねて、明日からはもう少し短めに区切って書くかもしれません - 11スレ主23/10/13(金) 21:29:59
- 12二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 22:14:30
ありがとうございます!待ってました!保守ぐらいしか出来ませんが、続きを楽しみにしています
- 13二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 02:44:39
新スレ(?)だー!たて乙です
訪れるまでの過程も色々変わっているようですね
更新を楽しみにしております
ご無理だけはなさらないでくださいね - 14スレ主23/10/14(土) 06:38:23
- 15スレ主23/10/14(土) 07:49:30
「…助けてくれたん、だよな」
灯りから梯子を降りてもと来た通りに戻ると、そこにはあの大斧でぶった切られた死体がゴロゴロと無造作に転がされていた。
ああ、そうだった。おれ達を助け、夢へと導いたあの男は、同時に狂った群衆を罹患者と呼んでいた。獣の病に罹った病人だと。
夢を出る前に、ローにはほとんどヤーナムの記憶がないことは確認済みだ。おれの嘘のせいもあって、熱に浮かされていたあいつは単にいつも通り病気のことで追われたのだと信じてる。
それで、きっと良かったんだ。
正気を失った罹患者の間を駆け抜け、時に蹴散らしながら教会があるという聖堂街を目指す。
獣、獣の病。瞳の蕩けた罹患者たち。
もし、もしもそれが、兄と父を蝕んだ病と同じものだとしたら。
ギルバートが、この街は呪われていると言った理由なのだとしたら。
おれが夢に望まれたことを、ローは知らない方がいい。 - 16スレ主23/10/14(土) 08:20:56
おれを獣と呼び追い立てる群衆を避け、炎に焼かれる獣の死体の傍をすり抜けて走り回り、やっとの思いで辿り着いた聖堂街へと続く大橋の上。残された手記には、『助けが必要なら「狩人呼びの鐘」を鳴らせ』と無骨な文字で記されていた。
「…これで味方を呼べるんだよな?」
狩人呼びの鐘は、夢で小さな使者たちにもらった道具のひとつだった。洋館にいた助言者、ゲールマンによれば、内にある"啓蒙"を触媒として、狩人を呼び共に戦うためのものらしい。
「やはり、お前か」
思考が少しぼやけるような感覚とともに現れた男は、おれとローを救った大斧の狩人だった。
「月の狩人よ。貴様には、獣から逃げぬ誠実さはあるか?」
おれを追ってきていた狼のような獣を斬り伏せて、男はおれにそう問いかける。
そいつは、恐ろしい考えに取り憑かれたおれがどうしても殺せずに放置していた獣だった。他の獣や、罹患者と同じように。
「責務を果たせ、狩人。この街では…」
男が閉ざされた門に向かい斧を構える。
見据えるその先に飛び降りてきたのは、鹿のような大角に肉食動物の牙をむき出し、肥大した左腕を振り回す巨大な獣。
「聖職者すらも、恐ろしい獣となるのだ」
人を拒む門の前、聖職者の獣は力任せに聖者の像を払いのけ、つんざく悲鳴を響かせていた。 - 17スレ主23/10/14(土) 12:17:16
「おかえり、コラさん」
「お帰りなさい。狩人様」
「ただいまー…ってロー、どうしたんだ?」
聖職者の獣をやっとのことで狩り、というよりほとんどあの大斧の狩人、ガスコイン神父に倒してもらったおれを迎えたのは、形容しがたい表情のローと相変わらずの人形だった。
「どうもこうもないだろ!……いやまあ、ここが夢みたいな場所だってのはなんとなく分かったけど」
「お!」
「別にコラさんの言葉を鵜呑みにしたわけじゃない!かなりの時間が経ってるのに月は全然動かないし、それに………」
「それに?」
「…ちょっとこっち来てくれ」
口ごもったローは血汚れまできれいに消えたコートの裾を引き、工房と呼ばれるらしい洋館までおれを連れて行った。
あの人形には聞かせられない、あるいは聞かせたくないことなんだろうか。
「コラさんが出ていってから結構時間が経って…あの、人形、急に動かなくなったんだ」
「え!?故障…するようなモンには思えねえけど」
「そういうのじゃねえよ」
頭を捻るおれに、ローはきっぱりと否定の言葉を返した。
「こう、急に頭がボーっとする感じがあって、気が付いたら全然違う場所で動かなくなってた。最初からそこにあったみたいに…」
「んん?ちょっと待てロー。それっておれが戻ってくるちょっと前のことか?」
「!そうだ!やっぱり心当たりあったんだな!」
市街は無茶苦茶で原因を絞り込めるかかなり怪しかったが、ローの言う"頭がボーっとする感じ"には覚えがあった。
あの大橋で、ガスコインを呼んだ時と同じだ。
「たぶんそれ、鐘の効果だわ」
「鐘?ああ、あの白いヘンなのに渡されてたやつか」
「そうそれ」
あれ使ったのか、とまた渋い顔をするローに、湧き上がるのはなんとも微妙な気持ちだ。"あれ"どころか、ノコギリ鉈も短銃もバリバリ使ってんだよな。
「でもすぐまた動き出したろ?」
「…コラさんなにしたんだよ」
「おれのせいじゃ…いやある意味おれのせいか?」
どうにも夢の彼女の存在は、"啓蒙"と呼ばれる力に紐づいているらしい。
鐘でそれを失い、聖職者の獣と出会ってまた取り戻した。取り戻したというより新たに得たという方が正しいのかもしれないが、今のおれにはまだ分からないことだ。 - 18スレ主23/10/14(土) 15:39:31
「あの鐘、不思議パワー使って仲間を呼べるらしいぞ」
「不思議パワー…」
「人形が動かなくなったのはつまり、おれ達の不思議パワー不足だな」
「なんだそれ」
夢に連れてきてから、ローには腑に落ちないとかそういう不満げな顔しかされていない気がする。
とはいえ、あの特別な意味での"啓蒙"が一体全体なにを表しているのかは、やっぱり今のおれには分からないのだから仕方ない。
「そうそう、それで呼び出されたのがおれ達を助けてくれたやつだったんだよな」
「助けてくれた…?」
「覚えてねえか?街からここに来る時、道あけてくれたやつがいたんだ」
「…礼、言ってねえ」
こういう所が、ローのローたる所以だとおれは思う。
根本的な所で、あの兄とは似ていないのだ。もちろん、おれとも。
「大丈夫だ!おれがローの分まで礼言っといたから!」
「ドジって迷惑かけてねえよな?」
「ドジは別の話だろ!」
図星を突かれて焦るおれを見て、ローが少し笑う。
無条件に手を差し伸べられるべき子供であるはずのローに、そうしてくれる人間は悲しいほど少なかった。
なあ、もうそろそろ解放されたっていいだろう。
なんやかんやで戦闘中はドジらねえおれだ。遺志を意志の糧にするのならば、それはきっとこれ以上なく都合がいい。
血の遺志が、病に侵された人々の死から生じるものでさえなければ。
おれはまだ、引き金を引けないでいる。
「あ、それとロー!」
「なんだよ」
「白いヘンなのって使者のことだろ?」
「多分そうだけど、何か気になるのか?」
「結構かわいくねえ?」
おれの言葉にローは沈黙で応え、今度こそあからさまにありえねえって顔を向けてきた。 - 19スレ主23/10/14(土) 19:16:46
「…ガスコイン?」
事切れた獣に幾度も斧を振り下ろす後姿に、慎重に声をかける。
ガスコイン神父。彼の名を知ったのは、二度目の出会いの時だった。
結局聖職者の獣はほとんど倒してもらっちまったようなもんだったが、迷いの見えるおれにそれでも狩りのいろはを教えてくれた。
まだ幼い子供の父親でもあるらしいガスコインは、ローを救いたいと願うおれに思う所があったようだ。
彼は良き父、良き狩人で、おれにとっては良き師でもあった。
ローのこと。おれのこと。何度も何度も感謝を伝えて、思いがけない再会に舞い上がり過ぎてタバコの火で勝手に燃えたおれを呆れながらもまた助けてくれた優しい人だった。
元々異邦人だったという彼は、獣と化した罹患者を狩る、この獣狩りの夜が明けたらおれ達を島の外まで送り届けるとまで言ってくれた。
その人が今、狂ったように遺体に刃を振るっている。
「どこもかしこも、獣ばかりだ…」
「…貴様もどうせ、そうなるのだろう?」 - 20スレ主23/10/14(土) 19:33:14
「おい…うわ!」
問答無用で振るわれた斧をすんでのところで躱しステップで距離をとれば、今度は散弾をお見舞いされる。
「おわ!?」
墓石にドジって引っかかり、仰向けにひっくり返る。
直後眼前に迫った追撃の叩きつけを、転がってなんとか避けてまた逃げる。
この場所には墓が乱立していて、おれの図体で弾除けにするには小さく、そしてなにより躓きやすい。
「ガスコイン!おれだ!コラソンだ!分からねえのか!?」
攻撃をやり過ごしながら必死に声をかけても、その手が止まることはない。
血に酔った狩人の末路は、彼からよくよく聞かされていた。
そうなってしまえば、もう戻ることはないのだとも。
それでもまだ諦められなかった。
せめてすっ転ばないようにと広い場所を探し、階段を駆け上がる。
走った先は行き止まりだ。柵の間から屋根に飛び降りて、墓地に向かう縁に、一人の女性の遺体を見つけた。 - 21スレ主23/10/14(土) 19:44:31
ある女の子と、約束をした。
ガスコインとヴィオラ。夫婦の名が刻まれた思い出のオルゴールを、おれに託してくれた女の子と。
母を探してほしいというその子に特徴を訊けば、真っ赤な宝石のブローチをしていると教えてくれた。
大きくて、すっごく綺麗だから、きっとすぐに分かると。
痛みよりも哀しみの色濃い表情を浮かべた遺体の、分厚い刃物に裂かれた胸元から、真っ赤なブローチを手に取る。
丁寧に手入れされたそれには、ヴィオラの文字。
もう、戻らない。 - 22スレ主23/10/14(土) 20:21:33
水銀弾を短銃に込めて、獣の血がこびりついたノコギリ鉈を構える。
日々を懸命に生きる人々の幸せを守りたくて、いつかの自分のような子供に手を差し伸べたくて海軍に入った。
海兵になった時、掲げた正義を伝えた養父は、誇らしげに笑ってくれた。
潜入任務に志願して、正義のコートを脱いだ時、掲げた正義だけは失わないと誓った。
血に酔ったガスコインが追ってくる。
斧を振りかぶったその胴に、一発、二発と弾を撃ち込んだ。
家族に残され、助けを求めた独りぼっちの少女の声をかき消すように。
聖地へ向かった兄に残され、泣いていた自分に手を差し伸べてくれた優しい海兵のぬくもりを打ち消すように。
おれは今夜、正しさを誓ったこの手で以て、いつか掲げた正義を殺す。 - 23二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 02:08:56
保守
- 24スレ主23/10/15(日) 08:03:48
ヤーナムの街は迷路染みていて、おれみたいなドジっ子の手に余る。
未感染者を探して駆けずり回った大通りでは、酷く獣化し磔にされ、火にかけられた遺体を見た。
おれたち家族をああした人たちには、おれもあんな風に見えていたのかもしれない。
街を病ませ、悍ましい呪いをふりまく厄災。
そしてそれはひとつの事実ですらあったのかもしれないと、今のおれは考えていた。
ガスコインに狩りを教わるにつれて、夢の人形に遺志を力と変えてもらうにつれて、記憶の底に沈んだ血の歓喜を思い出す。
この街の狩人と呼ばれる者達は、あるいは獣の病の罹患者達はぞっとするほど"おれ達"に近い。 - 25スレ主23/10/15(日) 08:19:25
それでも今の自分には、群衆に追い回され、銃弾を浴びせかけられても、生きて守るべき相手がいる。
おれはもうあの頃の、自分の命さえ投げ出してしまいたいと泣いた子どもではないのだ。
さっきも登った梯子を数段飛ばしで駆け上がり、後から追ってきた人の姿と、言葉とを保ったままの患者を撃ち抜く。
バランスを崩したその人が他の患者の上に突っ込んだのを確認して、すぐさま火炎瓶を投げ込んだ。
炎の中から、悲鳴が聞こえて来なくなるまで。
これでようやくまた、話を聞けそうな家を探せる。
手始めにと覗き込んだ窓に映った男の姿は、血を分けた兄によく似ていた。 - 26スレ主23/10/15(日) 11:23:16
今のところ解説も補足もゼロですが、読みたい方おられます…?
ブラボ未プレイの方だと気付きようのないネタもそれなりにありますので、需要があればのっけていきます
なかったらこのまま文だけずらずらっと投下していきたいと思います - 27二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 11:56:07
読みたいです(挙手
- 28二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 12:43:37
私はこのスレを見てからブラボについて調べ始めた読者。解説を読みたいです
- 29スレ主23/10/15(日) 12:55:50
承知です!
ではまず最初の方から補足をば
・「青ざめた血」を求めよ。狩りを全うするために
ゲーム最序盤で発見できる"自筆の”走り書き
異邦人である主人公が、記憶を失う前、すなわち"ヤーナムの血”とやらを受け容れる前に狩を知るはずもない
であればこの自筆の手記は、一体何者によって書かれたものであろうか
・獣狩りの群衆
病の蔓延により、獣狩りに蜂起した群衆のなれの果て。
熱病のような狩りの衝動はそのままに、既に自身が獣の病に侵されている。
だが彼らはそれを知らず、狩り、殺すべき獲物を探し続ける。
彼らの濁り蕩けた瞳には、人こそが獣に映るのだろう。
(公式サイトより)
・瞳孔が半ば蕩けた瞳
瞳孔が崩れ、蕩けており
それは獣の病の特徴でもある
(血に酔った狩人の瞳テキストより)
- 30スレ主23/10/15(日) 13:06:12
更に全体にまつわる補足を投下させていただきます
・記憶のあるコラソン
ゲーム開始時点、つまり"ヤーナムの血"を輸血された時点でプレイヤーキャラクターである月の狩人は記憶を失っている
しかしコラソンは、月の狩人となった後も記憶を保持したままであるようだ
あるいは、それは何者かの願いの形であったろうか
・動く人形
ゲーム開始時点のプレイヤーの啓蒙値は0
人形が動くには最低でも1必要なため、普通はただ狩人の夢に駆け込んだだけでは人形は動かない
また、コラソンとローは啓蒙も夢も共有しているようだが、それはまるで身体を分け合うような、奇妙な徴である - 31スレ主23/10/15(日) 13:27:06
各ボスについての補足も
・聖職者の獣
聖堂街へ続く大橋(閉ざされている)の前に出てくる倒さなくてもよいボス
デカい、硬い、致命を入れにくいの三拍子揃っためんどくさい敵でもある
ルドウイークを端とする医療教会の狩人は
また聖職者であることも多かった
そして、聖職者こそがもっとも恐ろしい獣になる
(剣の狩人証テキスト)
また、ディレクターの宮崎氏によると、ゲームのテーマの一つとして「獣に変態する衝動(=獣性)と人間性の内部衝突」があるという
聖職者の獣は抑圧された獣性の枷が外れた者の末路として、象徴的な役割を果たしているとか
(Future Pressによるインタビュー)
- 32スレ主23/10/15(日) 13:27:33
行数オーバーしたので続きをば
・ガスコイン神父
みんな大好きガスコイン神父
その驚異の突破率は、このボスがいかに鬼門であるかを初見プレイヤーに叩き込む
戦闘開始直後は人語を介し血に酔った狩人らしく暴れているが、第二形態で獣化
なお、序盤にしては強力なボスであるものの、思い出の小さなオルゴールで隙を作ることができる
ヤーナムの少女から預かった、小さなオルゴール
両親の思い出の曲が流れるらしい
蓋の裏の紙片は、どうやら古い手紙のようで
かろうじて2人の名前が読み取れる
それはヴィオラと、そしてガスコインであろうか
(小さなオルゴールテキスト)
女物の真っ赤なブローチ
刻まれたヴィオラの名も見て取れる
その宝石は、誰か狩人の贈ったものだろうか
使用により希少な雫の血晶石となり
工房道具があれば、あらゆる武器を強化できる
(真っ赤なブローチテキスト)
- 33スレ主23/10/15(日) 13:39:28
と、つらつら書いていきましたが、現時点において原作ゲームとの最も大きな違いは"ヤーナムの血"を輸血されていないコラソンが当たり前のようにローを狩人の夢に留守番させて狩人を始めている点にあります
本来狩人の夢(人形やゲールマンがいる所)を拠点とする"月の狩人"に選ばれるためには特別な血が必要であり、それを持たないものには獣狩りの夜参加権はないはずですが…?
また、コラソンの回想よりヤーナムに来る前から"彼ら"が狩人の特徴を有していたことが分かり、それはこのクロスオーバーにおける根幹の設定のひとつを示しています - 34スレ主23/10/15(日) 18:38:09
「だー!!!ちょっと待てこれ突破できるやつか?」
旧市街。かつて医療教会に見捨てられ焼かれたという閉ざされた獣の街を、おれは単身ガトリングの銃撃を受けながら走り回っていた。
事の始まりは夢の助言者、ゲールマンの言葉だ。
今宵は月も近い。獣狩りは、長い夜になるだろう
もし獣が君の手にあまり、大きく恐ろしいのならば、聖杯を求めるとよい
かつて多くの狩人がそうしたものだ
聖杯は神の墓を暴き、その血は狩人の糧になる
…聖体を拝領するのだ…
いつも通りというか、謎かけのような助言である。
あの人形といい、夢の住人ってのは説明をボカさないと喋れねえ呪いかなんかにかかっているのだろうか。
ゲールマンは、聖杯のひとつが谷あいの市街に祀られていると言っていた。最初は場所すら分からなかったが、街での聞き込みと旧市街に関するメモ書きを見つけたことで、ようやくたどり着くことができたのだ。
が、問題はそこからだった。
なんと旧市街では未だ、獣を守る狩人がガトリングを用意して訪問者を出迎えていた。
引き返せと言われたものの、市街で随分獣を狩っていたおれに今更退くという選択肢はない。
例え市街の人間が最後には一人残らず獣になってしまうとしても、それまでおれは獣を狩るだろう。
ガスコインのような人が己の妻を手にかけるなんて、ヴィオラのような母親が娘を遺して逝ってしまうなんて、そんな悲劇を少しでも減らせるように。 - 35スレ主23/10/15(日) 18:56:12
忌々しい狩人の悪夢に囚われ、だが逃れたければ
獣の病蔓延の原因を潰せ。さもなくば、夜はずっと明けない
狩人の夢で見つけた手記が示す通り、この夜は本当に明けないようだった。
時間という概念がなさそうな狩人の夢でローは一度眠ったようだし、おれも間違いなくもう夜明けを迎えるくらいの時間は街を駆けずっている。
なのに、ヤーナムを見下ろすあの大きすぎる月が傾くことは決してなかった。
獣の病の原因を突き止めることがこの夜を終わらせることに通じるなら、それは願ってもないことだ。
ローを救う手掛かりがこの街には存在しないとしても。
これは正義の選択でもなんでもない。ただの、おれのエゴだ。
「…貴公、よい狩人だな」
時計塔の上から、男の声が響く。
「狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。よい狩人だ」
全く褒め言葉には聞こえないが、ほんの少し狩人というものを理解したおれには彼の言うことはよく分かった。
血に酔うって部分だけは、避けて通りたいところだけども。
「だからこそ、私は貴公を狩らねばならん!」 - 36スレ主23/10/15(日) 19:05:15
それで始まったのが、あのガトリングでの狙い撃ちである。
建物を盾に走り抜けてはいるものの、本当に被弾ギリギリだ。正直獣の相手をしている状況でもないので、ここに来る前にギルバートから貰った火炎放射器で怯ませ、可能な限り無視をして進む。
そうしているうちに、いやにひらけた場所に出た。素直に行けば、間違いなくガトリングの餌食だ。
だが土煙の向こうから現れたのは、獣ではなく狩人だった。
「あんた、もしかして時計塔の…」
結論、違った。
無言で殺しにかかってくる狩人から逃げ回っているうちに、再び時計塔から雨あられと弾を浴びせかけられ、トドメに狩人の一撃である。
遺志が血から零れて、ひどく冷えていく。
ああ、"また"か。
「貴公、まだ夢を見るのだろう?」
時計塔から男の声が降る。
"夢"を見る月の狩人だと、ガスコインもおれをそう呼んでいた。狩人皆がそうではないのだとも。
「であれば、あそこでよく考え直すことだな」
暗闇に沈んでいく思考に、ぼんやりと声が聞こえる。
おれはまた、あの白い灯りで目覚めるんだろう。そうしてまた、力を求めてここに来る。
狩りの夜を終わらせるために。
夢から覚めたような心地で瞼を押し上げる。
旧市街に続く扉の前で、失われたはずの命はまだおれの胸の中にあった。
すべてのできことが、まるで悪夢であったかのように。 - 37スレ主23/10/15(日) 20:48:00
補足
・貴公、まだ夢を見るのだろう?
夢を見る狩人こと"月の狩人"最大の特徴は、「目覚めをやり直せる」ことである
彼ら彼女らは、夢見るうちは決して死なず、何度でも目覚めをやり直す
脳裏に刻まれた逆さ吊のルーン。狩人の徴
これを強く思うことで、血の遺志を捨て、狩人は目覚めをやり直す
すべてのできごとが、まるで悪夢であったかのように
(狩人の徴テキストより)
狩人の夢という"夢"から旅立つのだから、それは目覚めに違いない
だが、悪夢のような有様の街で、目覚めは死すらも過去とする
月の狩人にとって、現実とは一体どこにあるものなのだろうか
- 38スレ主23/10/15(日) 21:23:22
今日はここまで
一旦キリの良い所までメモってから投下するやり方なので、次回からはメモ上の一話ごとにタイトルをつけていきたいと思います
ずらずら書いていく方式だと話の区切りが分かりにくいのと、補足や解説を入れる時に地味に困るので… - 39二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 22:14:56
ゲームオーバーになったら「…という夢だったのさ」みたいに狩人の夢の中で目を覚ます感じですか?
それとも「いつの間にか狩人の夢にいた…目を覚ましたら再出発だ」と狩人の夢から出るまでが夢なんですか? - 40スレ主23/10/15(日) 22:54:36
- 41二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 07:30:15
本誌…
もう種族的に狩猟本能が抑えられないとかそういう… - 42スレ主23/10/16(月) 07:46:46
当スレでの天竜人の特性については、もうちょっとである程度開示できそうです
それにしても、元スレの頃からですが重要な部分に限ってネタが被ることが多いのは、スレ民の原作読み込みの深さによるものだったんでしょうか…
- 43スレ主23/10/16(月) 08:56:13
「ドレスローザの聖杯」1
「これだけでも外じゃそれなりに値が付きそうだけどなァ」
「売るのかよ」
旧市街の奥でなかなかとんでもない毒をまき散らす獣を狩って、おれはやっとの思いで狩人の夢に帰った。
そうして手に入れた金の杯を眺め回すおれに、ローの呆れたツッコミが飛ぶ。
ドレスローザ。このヤーナムにほど近い国の名が刻まれた聖杯は、不思議と自分の手にぴったり馴染む形をしていた。
「…気を付けろよ、コラさん」
「いってらっしゃい。狩人様」
ローと人形の声援を受けて向かう先は、神の墓、と呼ばれる場所らしい。
これもゲールマン情報だ。狩人の夢でおれを待つローも度々彼に遭遇しているようだったが、どうやらおれに話すようなことのただひとつも教わってはいないようだった。
それでいい。
この夜のおぞましさを知るのは、おれだけでいい。
聖杯に血を捧げ、首を垂れる。
まるで祈るように。 - 44スレ主23/10/16(月) 09:05:02
「ドレスローザの聖杯」2
目覚めるとそこは、ヤーナムとさして変わらない、陰鬱な空気をまとう遺跡のような場所だった。
それでもどこか漂う匂いに懐かしさを感じるのは、おれが”そう”だからなのか。
この街に来てから匂いにもすっかり敏感になって、まるで――。
頭に浮かんだ考えを打ち消すようにかぶりを振る。
ヤーナムの市街で見た、犬のような獣。燃える旧市街で獣を守っていた、一人の男。
神なんて大層な名前で呼ばれる"おれ達"と獣の境は、一体どこにあるのだろう。
なあロー、おれはお前に沢山嘘を吐いてきたんだ。
ごめんな、お前はおれのこと、海賊だと思ったままだろ。
おれはお前に出会う、そのずっと前から海兵だった。
ごめんな、狩人の夢の外では街を探検して周ってるだなんて言って。
治し方の分からないという獣の病にかかった人たちを、火で炙って、銃で撃って、刃物で切り裂いてきた。
おまえの故郷を滅ぼした者たちと同じように。
おれは地獄に落ちるだろう。
だが、そこにローだけは連れて行きたくない。
深く息を吸い込んで、己と同じ赤い眼の獣と向き合う。
「恨んでくれて、かまわねえよ」
音の鳴らぬ凶弾は、獣の眉間を違わず撃ち抜いた。 - 45スレ主23/10/16(月) 09:15:33
「ドレスローザの聖杯」補足と解説
・ドレスローザ
ご存知ドンキホーテ一族の旧い故郷
当スレにおいて、天竜人の祖は神にほど近いというトゥメル人である…というよりトゥメル人の設定を天竜人に乗っけている
すなわちコラソンは神秘の血を引いており、そのため聖体を拝領する(=ヤーナムの血を受け容れる)ことなく月の狩人となった
狩人に備わる能力をヤーナムに来る以前から使用できたことや、家族に獣の病が発症したこともこの設定から
ちなみに原作ゲームでは、旧市街で手に入るのは"トゥメルの聖杯"となっている
なおトゥメルとは、地下遺跡を築いた古い種族の名であり
神秘の知恵を持った人ならぬ人々であったと言われている
(中央トゥメルの聖杯テキストより) - 46スレ主23/10/16(月) 12:26:59
「炎の涙」
たまらぬ飢えと、血への渇き。
臓腑から炎で焼け爛れているはずなのに、霞んだ心を支配するのは獣としての性ばかり。
一族の墓所の最奥で、死しても夢を忘れられぬ我が身の前に、いつしか、一人の男が音もなく立っていた。
病に侵されたわが身にはもう、過去も未来も無意味なものだ。
それでも今なお確かに解ることは、永遠にも感じたこの悪夢から、解き放たれる時が来たということ。
そして目前に立つ長躯の、透けるような金髪の、瞳に家族を守る覚悟を湛えたこの男が、我らが血族の子であるということ。
ああ、誇り高きドンキホーテの子よ。
この血が我が遺志が、名も知らぬ我らの子とその家族の為に少しでも役に立つのならば、己が首など惜しくもない。
最期に ただ一つ、もしも伝えられるのならば。
わたしのような悍ましく呪われ、醜く病んだ者が父祖ですまな - 47スレ主23/10/16(月) 12:33:42
- 48スレ主23/10/16(月) 20:38:37
「狩人狩り」1
「あんた…狩人でも狩りに来たのかい?」
「狩人は獣を狩るもんだろ?」
おれの答えにその人は、しばし考える素振りを見せてこう言った。
「そうでない狩人もいるのさ。例えば、あたしのようなね」
狩人狩りのアイリーン。おれの、2番目の狩りの師となってくれた人だ。
鴉羽の装束に身を包んだ彼女は、正気を失くした狩人を狩る特殊な立場の狩人だった。
最初は狩人とは関りを持とうとせずそっけない態度を貫いていた彼女だったが、おれのドジっぷりを見て気が変わったらしい。そのうちとんでもない事態を善意で引き起こしそうだからという悲しい理由で、おれはアイリーンに狩りを教わることになったのだ。
彼女は高齢ではあったもののとても強く、なにより人の尊厳というものを忘れない狩人だった。
この夜に、彼女のような人は狩人であってもなくても得難いと思う。その厳しくも気高い様におれはなんとなくおつるさんを思い出してしまって、潜入以降出会った相手に初めて丁寧語をもらしてしまったくらいだ。
それにガスコインとは異なり技量を要求する狩人狩りの業も、案外おれとは相性が良かった。ドジの割には筋がいいと褒められて、複雑な顔を笑われたりもしたのだけれど。 - 49スレ主23/10/16(月) 20:43:57
「狩人狩り」2
「…あんた、余計な助太刀だね…」
聖堂街で再会した彼女の警告をまるっと無視したおれにかけられたのは、そんな厳しいお言葉だった。
ヘンリックという古狩人が、オドンの地下墓で正気を失くしている。だから近付くなと言われたのに、どうしてもヴィオラの、ガスコインの妻の末路が思い出されてしまって気付けば戦闘に乱入していた。
「でもまあ、感謝するよ。お互い生きていてよかった。あんたもやるもんだね」
続いてかけられた言葉に、喜びよりもしょっぱい気持ちが勝つのは許してほしい。
なんたって、おれは彼女の前で相当な回数ドジってはそのフォローをされてきたのである。やるもんだねの中身がどの程度なのか、あまり考えたくはない。
「それに…この場所で、ガスコインを殺ったのもあんただろう?」
「……ああ」
「あいつは正気をなくしていた…自己防衛だったんだろうが…あんまり、手を汚すんじゃあないよ」
「……」
「あんたは狩人。獣を狩ればいいんだ」
「獣を…」
「狩人狩りなど、あたしに任せておけばいいのさ…」
そう言って笑うアイリーンに、勝手に口をついて出てきた言葉があった。
「獣を狩る狩人の手だって、おんなじくらい汚れてる」
血の匂いが満ちる墓地に、沈黙が降りた。
だってあのガスコインすら、最後には獣になっていたんだ。それを狩って手を汚さずにいられるなんて、そんなのおかしいだろう。
「あんたは…随分古い狩人に似た考え方をするんだね」
どこか寂し気にそういった彼女は、どんな顔をしていたのだろうか。鳥のようなマスクに覆われた中で、彼女はまた少し笑っていた。 - 50スレ主23/10/16(月) 20:46:06
「狩人狩り」3
「それと…落とし物だよ」
立ち去ろうとしたおれの背中に、アイリーンはおもむろに鈍く光を反射する石を投げ寄越してきた。
「あんた相当なドジとは思っていたけどね、こういうもんは大事にするんだよ」
折角工房道具が戻ってるんだ、しゃんとしな。
もう夢を見ないという彼女が、仮面の奥で笑う。
「気をつけます」
まさか外れるとは思ってませんでしたとは言えずに血塗れの獲物を拭って、気がついた。
どの石も、外れていない。
「これ、どこで?」
「あんた一度、あたしを庇ったろう。その時に吹っ飛んでいったのが見えたんだ」
それはおれにも見えていた。
斬られた拍子に己の体から小さな何かが零れ落ちても、ブチ込まれた鉛玉―いや、水銀弾だと思って気にも留めなかったのだ。
月明かりに透かしたその石は、ドレスローザの名を冠する神の墓で見つけたそれによく似ていた。 - 51スレ主23/10/16(月) 21:12:55
「狩人狩り」補足と解説
・狩人でも狩りに来たのかい?
本日の意味深台詞
古い狩人であるアイリーンは、コラソンが狩人をターゲットにするタイプの狩人であると認識した。
その血の香りは、一般的な狩人やヤーナムの市民とは異なるもののようだ
だが同時に、彼女はその血に心当たりがあるようだが…
・鈍く光を反射する石
武器の強化に利用される血晶石
地下墓地の敵などが主にドロップする
それは尋常の狩人のものではなく、旧い血を思わせるものである - 52二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 06:25:10
これまで出てきた他の狩人の人達は以前は"月の狩人"として夢を見れた=目覚めをやり直せたのでしょうか?
それがもう出来なくなってる? - 53スレ主23/10/17(火) 07:19:45
- 54スレ主23/10/17(火) 08:38:39
「聖堂街」
「あなたみたいな殿方にエスコートしてもらえるなんて、不思議なこともあるものね」
「おれはそう大したもんじゃねえんだが…」
ただの新入り狩人だと言葉を重ねても、聖堂街で出会った女性、アリアンナはおかしそうに笑うだけだった。
おれは今、避難先として使わせてもらっている診療所に向けて、彼女を獣から守りながら歩いている。この辺りの地理は既に頭に入っているし、避難民を連れての移動に問題はない。護送には全く関係のない、ある一点を無視するならば。
なんというか、とても、気まずいのだ。
「私のような女はあまりお好きじゃないのかしら」
「そういうわけじゃなくてだな…」
知り合いに似ているとこぼせば、彼女はややあって小さく頷いた。何か聞き返そうにもしっとりとした眼差しを直視できず、なんとなく目線をさまよわせる。
もうこの街の獣はひと通り狩り尽くしたというのに。
「ねえ、あなた…故郷の名を覚えている?」
「や、おれは孤児だったもんで…」
「あら、そうなの…ごめんなさい…」
そう、そうよね。寂し気に微笑む彼女には、期待していた答えがあったのだろうか。
「私の故郷は、素敵なところだったわ。みんな何不自由なく、いつまでも楽園みたいな生活が続くと信じてた」
夜の女であるはずのアリアンナは、貴族の娘のように品のある手つきで裾を引き上げ、聖堂街の波打った敷石を器用に渡りながらそう呟いた。幸せな思い出を追いかけるように、その頃は家族も一緒だったと付け加えながら。
「そんな私たちを忌み嫌う人が大勢いることに気が付いたのは、もう戻れなくなってからだったわ」
「おれも、似たようなもんだよ」
視界の端で、目を瞬かせた彼女がこちらを振り向く。
「なんでおれたちがこんな目に合わなきゃならねえのか、ガキの頃はいつもぐるぐる考えてた」
「私たち、似た者同士ね」
似た者同士。おれと、彼女が。
「…そうなのかもな」
きっと傍から見ればおれたちは、おれが思うよりもずっと似ているのだろう。 - 55スレ主23/10/17(火) 08:39:01
「聖堂街」2
「ありがとう。またいつか、お話ししましょう」
診療所の前で少女みたいに笑った彼女に、今度は自然と笑顔を返せた。
獣除けの煙を吐き出し、随分と静かになった街を行く。
次に会う時にはもう、似てると言ったのは兄のことなのだと白状してしまおうか。
その兄が、巷を騒がす賞金首の大海賊だってことは、秘密にして。 - 56スレ主23/10/17(火) 08:55:44
「聖堂街」補足と解説
・故郷
アリアンナの血の匂いは、コラソンに兄を思い起こさせた
その血はどうやら、他のヤーナム市民や狩人とは異なる匂いを放つものらしい
そしてアリアンナにとっては、コラソンもそうであったのだ - 57スレ主23/10/17(火) 09:01:47
- 58スレ主23/10/17(火) 13:56:56
「教区長エミーリア」1
結局閉ざさされた大橋の扉を開けられなかったおれは、大回りで聖堂街の探索にあたっていた。
旧市街へ向かう前に出会った男、アルフレートの情報によれば医療教会ってのは"血の救い"の担い手らしい。その源は聖体であり、大聖堂に祀られているという。
なあそれってさ、もしかして地下墓にいたタイプの神様のモンなんじゃねえの。
この世界で、実体を持ちながらも神なんて呼び名を許される存在を、おれはひとつしか知らない。
兄と父の、そして獣の病の罹患者達の蕩けた瞳。トドメとばかりに、地下墓地にも燃える獣なんてのが巣くっていた。医療教会は、"おれ達"に連なる者の血を人間に与えたんじゃないのか。
そう思っていたら案の定ビルゲンワースなる学び舎を紹介され、バッチリ答え合わせまで出来てしまった。
なんでも神の墓地から学徒の何人かが聖体を持ちかえり、医療教会も救いもそこから生まれたとのこと。今は教会の禁域に指定されているそうだが、そこも併せてきな臭すぎる。
そりゃあおれ達は生き血で回復したり、やたら頑丈だったり人間の病気には罹らなかったり人様の遺志を食い物にしたりできるイキモノだ。そう考えればそれなりにメリットらしきものもあるが、デメリットがこれじゃとても救いとは呼べないだろう。
そんなことをつらつらと考えながら、ひと通り獣が狩られた街を歩く。
なんにせよ、獣の病蔓延の原因ってのは案外最初の目的地と同じなのかもしれなかった。 - 59スレ主23/10/17(火) 13:57:44
そんなこんなで大聖堂を目指して歩を進め、山越え谷越えローラー作戦中に迷い込んだヘムウィックの墓地街を越えて秘文字の工房道具を工房に戻し、となかなかの寄り道をすること更に数日分。
月の傾かない街と狩人の夢を行き来しては、嘘で固められた冒険譚をローに話すこと数回分。
おれは満を持して聖堂街の奥、大聖堂を訪れた。
教会に置くにしては大層不気味な像の間を抜けて大扉を押し開ける。階段の先に待っていたのは、祭壇に祈る白いベールの女性だった。
聖血を得よ
祝福を望み、よく祈るのなら、拝領は与えられん
拝領は与えられん
密かなる聖血が、血の乾きだけが我らを満たし、また我らを鎮める
聖血を得よ
だが、人々は注意せよ
君たちは弱く、また幼い
冒涜の獣は蜜を囁き、深みから誘うだろう
だから、人々は注意せよ
君たちは弱く、また幼い
恐れを失くせば、誰一人君を嘆くことはない
「…あんた、」
様子がおかしい。悪寒に跳び退ると、彼女は悲鳴と共にその姿を変貌させていった。
巨大な獣。聖職者の獣だ。
白い体毛に覆われた彼女は、胸に金のペンダントを握りしめたままでこちらを振り向いた。 - 60スレ主23/10/17(火) 14:10:11
「教区長エミーリア」補足と解説
・秘文字の工房道具
圧倒的寄り道感によりエピソードそのものをオミットされた"ヘムウィックの墓地街"で入手可能なアイテム
様々なお助け効果を付け外しできる便利なものだが、その形状から実際に体に焼くことにより効果を得ているのではないかという考察もなされている
そうまるで、竜の蹄や太陽の刻印のように
ビルゲンワースの学徒、筆記者カレルは
人ならぬ上位者の音を記録し、それをカレル文字と称した
この工房道具を取り戻した狩人は
カレル文字を脳裏に焼き、その神秘の力を得ることができる
血によらぬそれは、学長ウィレームの理想に近いものだ
(秘文字の工房道具テキストより)
・教区長エミーリア
医療教会を束ねる教区長…のはずだが思いっきり獣化している
序盤の壁とも言えるボス
獣となってなお、彼女が金のペンダントを手放すことはなかった
教区長エミーリアのペンダント
使用により血晶石となり、武器を強化できる
それは医療教会の長、教区長に代々受け継がれた
警句の象徴でもある
それを知りたければ、祭壇の頭蓋に触れるとよい
(金のペンダントテキストより) - 61スレ主23/10/17(火) 15:12:13
「知らぬ者よ」1
「ウィレーム先生、別れの挨拶をしにきました」
頭蓋の奥で、知らない男の声がする。口を開いているのは、おれだ。
「ああ、知っている」
安楽椅子に揺れる老人の背に想うのは、敬意と、少しばかりの寂しさ。
「君も、裏切るのだろう?」
「…変わらず、頑なですね」
やはり理解は得られないか。
この血があれば、多くの人に救いをもたらすことができるというのに。
「でも、警句は忘れません」
なんだこれは。
思考が溶け合う。遺志の声がおれを呑み込む。
「…我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う」
知っている。おれは"そのこと"をよく知っている。
「知らぬ者よ」
真実を見る瞳を、抗えぬ獣の性を知っている。
「かねて血を恐れたまえ」
壊れた記憶が遠くで叫びを上げた。
そうだおれは、この身に流れるおぞましい血を恐れていた。
「…お世話になりました。先生」
ああ、お別れだ。そうして、私は獣となったのだ。
ウィレーム先生は正しい。
すまない、ゲールマン。すまない、マリア。
「恐れたまえよ、ローレンス」 - 62スレ主23/10/17(火) 15:12:34
「知らぬ者よ」2
暗い底から急激に意識が浮上する。
おれは相変わらず大聖堂の祭壇にいて、祀られた獣の頭蓋に手をかざして呆けていた。
からだの、脳の震えが止まらない。
無意識に後ずさって、横たわる白い獣の骸に引っかかりすっ転んでようやく息ができた。
あれは、頭蓋の主の遺志だ。遠く、果たせなかった誓いの追憶だ。
それならおれの、この遠い記憶はなんだというのだろう。
血まみれのコートを払って、奇妙に弛緩した全身に力を込めて立ち上がる。
ビルゲンワースに、向かわなければ。
血の秘匿の、その先に。 - 63スレ主23/10/17(火) 15:23:50
- 64スレ主23/10/17(火) 21:31:54
「血の赤子」
それは胸騒ぎのするような、赤く輝く満月の夜のことだった。
「ご主人様!元気な男の子です!」
妻との間に初めてもうけた我が子は、産まれてすぐの赤ん坊など見たことがない自分にも、一目で健康と分かる子どもだった。
出産は体に大変な負担がかかるものと緊張に身を固くしていた私だったが、蓋を開けてみればその子はまるでやり方を心得ているかのようにするするとこの天上に産まれ出で、妻の腕に抱かれていた。
聖地と呼ばれるマリージョアにふさわしく、穏やかな笑顔で我が子を見つめる妻。
なんと平穏で、満ち足りた世界だろう。
妻と、父の代から仕えてくれている助産師とに勧められ、柔らかな赤子を抱く。
するとその子は、ゆったりと閉じられていた小さな眼をおもむろに開き、その赤い瞳で私を見つめた。
父と同じ、半ば蕩けた赤い瞳で。 - 65スレ主23/10/17(火) 21:33:44
今日はホーミング聖の過去編その1まで
明日は少しだけドンキホーテ家の過去編をやっていきます - 66二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 07:35:48
- 67スレ主23/10/18(水) 09:18:23
「青ざめた血」を求めよ。狩りを全うするために
この「青ざめた血」が何を意味するのか?
という所に大きな謎が隠されていそうですね
ちなみに英語では“Paleblood“と訳され、これは貴族など高貴な血筋を表す”Blue blood”のもじりとなっております
さて、コラさんはいったい何を狩ることになるのやら…
- 68スレ主23/10/18(水) 09:43:16
「警句」
父は、苛烈な人だった。
そしてそれと同時に、いや、それ以上に聡く、愛情深い人だった。
天上金を納める下々民をわざわざ無下に扱うのは愚か者の所業と教えられ、身の周りには命を懸けて自分を守る気概のある奴隷だけを置くようにと言いつけられた。
過酷に扱われる奴隷たちに憐れみを覚えていた私に、それなら"可哀想"な連中をお前が救ってやればいいと笑い、好きに買い集めさせてくれた。
そんな父はある時から、何か病を得たようだった。
目元を暗く覆い、人前に出ることも少なくなった父。
地上に赴き、魚人たちを買い集めるようになった姿を、寂しく見守る日々。
私を救世主の如くに称える優しい奴隷たちを友人として過ごす毎日に、父だけがいない。
「その時が来たら、使え」
ある日、どれほど願っても決して私を下界に連れて行こうとはしなかった父から、手渡された物がある。
それは常温で固体化する、不思議な水銀の鍵だった。
広大な屋敷を総出で探し回り見つけたのは、鍵と同じ文様が刻まれた扉と、その奥に隠された書庫。
託された鍵の使い方を知ったのは、父が地上で行方不明になってからだった。
私がドンキホーテの家督を継いで、数年が経った後のことだった。
「忘れるな。決して忘れるなよホーミング。合言葉はこうだ」
―かねて血を恐れたまえ - 69スレ主23/10/18(水) 12:24:59
「悪夢の始まり」
なんだ、あれは。
優しかったはずの父が、ゴロゴロと変な息を繰り返す子供の血を啜っている。
嘘だ。こんなのは夢だ。あの愚かなほどに優しい父上が、こんなことするはずがねえ。
ぼやける思考が、己の感覚すべてが現実を拒絶する。
これは、悪夢だ。
その後自分が何をしたのか、よく覚えていない。
気が付いたら知り合いの知り合いらしき連中に銃を握らされていて、王だのなんだの色々言われていた。
どうでもよかった。
あの粗末なボロ屋に戻って、父が優しく弱い男のままであることを知れたらそれだけでよかった。
磔にされてるでもないのに上手く動かない脚を引きずって、外れかけの扉に手をかける。
「ああ!良かった!無事に帰って来てくれて…!」
父上だ。
大げさに喜ぶ様子も、能天気とも思える声も、いつもと変わらない。
よかった。やっぱりあんなのは夢だ。父上が子供を喰うなんてありえねえんだ。
「昨日、穴の開いていない鍋を拾ったんだ。ロシナンテが戻ったら夕食にしよう」
背をかがめておれの顔を覗き込んだその瞳は、歪んで、半ば蕩けていた。 - 70スレ主23/10/18(水) 21:07:14
「狩人の目覚め」
獣の前では、決して大声を出してはならない。
「父上、ロシーひとりじゃ心配だ。おれが探してくる」
「それもそうだ。夕飯の準備をしているから行ってきてくれるかい?」
決して目を離さぬよう後ろ手に扉を開け、店からパンを盗むよりも慎重にしっかりと閉ざす。
じきに、何も知らないロシナンテが帰ってくる。
こんな所にいたらおれも弟もいずれ、いやその前に、あの子供のようにー
どちらに転んでも、取り返しはつかない。
母上は最期に、おれにロシーを守ってと言った。
あの子は優しすぎるからと。
おれには、弟を守る義務がある。
今のおれにあるのは、この銃と、"悪魔"の能力、そして流れるこの血。
故郷のおとぎ話では、獣が恐れるのは、"悪魔"の力と神の血、ただ二つ。
血を吸わせたイトを弾に巻き付け、銃に入るだけ詰め込んでいく。
あれはもう父上じゃない。人の皮を被ったバケモノだ。
あのバケモノの首で、おれは弟を故郷に連れて帰るのだ。 - 71スレ主23/10/18(水) 21:30:56
今日はここまで
「前夜」その1が終わったので、次話からまた「獣狩りの夜」に戻ります
基本淡々とSSや解説を投下していきますが、ご意見ご要望、感想などございましたらお気軽にどうぞ! - 72二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 06:50:44
ドフラミンゴはずっと前から“狩人”だったんですね
- 73スレ主23/10/19(木) 07:06:51
「ヨセフカの診療所」1
ビルゲンワース目指して市街に勝るとも劣らず迷路のような禁域の森を進んでいたはずが、なんやかんやで見知った建物に行きあたっていた。
未発症者の避難所として使わせてもらっている診療所だ。
森には蛇に寄生された人間やキノコのような頭をした人型に近い青白い何かも蠢いているし、そうでなくても裏口から巨大カラスが入ってきそうだが、いろいろ大丈夫なのだろうか。
今はあの、ガスコイン神父の娘さんも避難しているのだ。もしものことがあってはいけない。
おれは、あの子に嘘を吐いてまでこの場所に連れてきたのだから。
それに聖堂街で出会ったアリアンナや、市街で見つけた未発症者の何人かも。
だから、ちょっとばかし立ち寄って、様子を見ていくことにした。
開かずの扉の裏から廊下を通って、顔も知らない女医を探す。
だが、いつも扉の前で話をしていた彼女の姿はなく、その代わりに奇妙な生物がうろついていた。
森の中で倒した、青白いキノコ頭の生物。
そのうちの一体の、青白い手に、あの子の、白いリボンが― - 74スレ主23/10/19(木) 07:10:16
「ヨセフカの診療所」2
ぼんやりと、たばこの煙をくゆらせる。
足元には、撃たれ切られ焼かれ、臓腑を引きずり出されて死んだ女。
周囲には、アリアンナのものに似た血の匂いが満ちている。
別に、放っておいてもいい相手だった。
あの古狩人のように正気を失っていたわけでもなかったし、なんなら今までは物資の支援さえ受けていた。
被験者のことを気に病むなら、今度から、避難先にはオドン教会を勧めればいい。それだけの話だった。
名前も知らない、夜明けと家族を待つ小さな女の子の、あるいは少女のような笑顔を残したアリアンナのことを思い出してしまわなければ。
おれは初めて、感情だけを理由に人を―いや、違う。
獣の病の患者たちも、人には違いなかった。
でなければおれは、ホワイトモンスターと呼ばれたフレバンスの人たちも、ローすらも否定することになる。
虚ろな声で妹を呼ぶ患者から、内臓をぶち抜いて輸血液を奪ってきた。
火炎瓶を買う足しにするために、犬のような姿になってしまった患者を何度も撃った。
神の墓所で、おれや兄によく似た色の瞳から炎の涙を流す獣の首を切り落とした。
自らの手を汚してでも、ローを、ローだけでも、助けてやりたかった。
繋がらない電伝虫に、そっと手を置く。
ああ、センゴクさん。
おれの兄上は、昔おれたちの父上を撃ってその首を切り落としたんです。
もしかすると、自分の身ひとつ守れない、愚図な弟のために。
センゴクさん、今のおれをあなたが見ても、家族と呼んでくれますか。 - 75スレ主23/10/19(木) 08:35:04
偽女医
通称偽フカ
ヨセフカの診療所の女医になり代わり、避難者をキノコ星人こと“星界からの使者“に変態させているヤバい人
当SSでは、アイテムや所属組織からアリアンナと同じ血筋であると想定
投げつけると痺れる霧を発生させる秘薬
狩人の生きる力、その感覚を鈍らせ、HP回復を阻害する
カインハーストの血の狩人たちが用いたといわれ
その製法も、かの城の貴い一族のみ伝わっている
(感覚麻痺の霧) - 76スレ主23/10/19(木) 11:18:20
「カインハースト」1
「このっ!穢れた教会の仇め!」
どうしてこうなった。
車輪のような、というよりシンプルに車輪そのままな武器をフルスイングされ、四肢を念入りに叩き潰されながら、おれはここまでの経緯を思い出していた。
余裕があるとか悠長だとかではない。今まで受けてきたどの攻撃と比べてもあまりに痛すぎて、ろくすっぽ動けないのだ。
事の始まりはヤーナム市街。
この街には珍しく物腰柔らかで落ち着いたその男は、アルフレートと名乗った。
おれが異邦人であることを知ると親切にいろいろ教えてくれて、おかげで状況の整理も探索も捗ったものだ。
カインハーストなる場所への行き方を探しているようだったが、おれのようなよそ者が知るわけもなく、結局その時は健闘を祈り合うような形で別れたはず。
状況が変わったのは、あの胸糞悪い診療所で一枚の招待状を見つけた時だった。
その宛名を確認して衝動的に破りそうになった手を止められたのは、間違いなくアルフレートのおかげだろう。
ローの治療どころか街の住民ひとり守れない状況に疲弊していたおれは、彼の言っていたカインハーストの話を思い出し、とにかく探索範囲を広げようとこの古城に入り込んだ。
市街や禁域の森でトンデモ現象にはそれなりに慣れたはずのおれだったが、この場所は桁違いにおかしい。
どう見ても生きてはいない女性たちが悲壮感を漂わせながらそこら中を闊歩しているし、召使いらしき男たちは妙に恭しく接してくるし、雪に埋もれた車輪らしき破片には脳が危険信号を出しまくる。
その上辿り着いた屋根の上では、存在を魔法使いの一言で片付けたくなるような相手が待っていたのだ。
本当に、分からないことだらけの場所だった。
何が何だかさっぱり分からないまま戦い、幻のようなそいつが唯一残した王冠に触れた時。どうしておれが、寄生糸にかけられたみたいにそれを被ったのか、どうして行き止まりだったはずの場所に謁見の間が現れたのかも、全く分からないままだった。
結局、強敵との戦いで疲れ果てていたおれは、謁見の間の奥に誰かが控えているのを見て、とりあえず未開封の招待状だけ引っ掴んでとんずらした。
そのあと、気力を振り絞って市街に戻りアルフレートに招待状を渡し、彼は無事にカインハーストへと旅立ったのだった。 - 77スレ主23/10/19(木) 11:21:10
「カインハースト」2
そこまではいい。
問題は、玉座の誰かがどうにも気になったおれが、アルフレートに合流するつもりで謁見の間まで戻った時に起こった。
「あなた…ああ、やはり来たのですね」
何者かが座していた玉座は、既に潰された血肉や臓物にまみれていた。
「その臭い…間違いない」
「穢れた血族…‼︎」
そして、今に至る。
その車輪まじで痛ェよ。勘弁してくれ。
天竜人がタフだってのは知ってるけど、だからってこの仕打ちはひでえんじゃねえかな。
なかなかしぶとく薄れてくれない意識の中だけで、あのふざけた宛名の招待状に中指を立ててやる。
この度はご招待にあずかり恐悦至極に存じます。
僭越ながら私から一言。
王冠被らせるためだけに、馬鹿みたいな敬称なんか使うんじゃねえよ。
ドンキホーテ・ロシナンテ王弟殿下より 愛をこめて - 78スレ主23/10/19(木) 11:27:17
血族狩りアルフレート
穢れた血族を狩る、自称処刑隊の男
なお、謁見の間で叩き潰されているのは血族の女王である
コラソンは奇妙なにおいを不審がられ、下記の台詞の大部分を聞かされていなかった
ああ、あなたにも伝えておきましょう
偉大なるローゲリウス師は言っています
かつてビルゲンワースの学び舎に裏切り者があり
禁断の血を、カインハーストの城に持ちかえった
そこで、人ならぬ穢れた血族が生まれたのです
…血族は、医療教会の血の救いを穢し、侵す、許されない存在です
その血族が、血族の長が、今もまだ生き残っている
だから私は、師の意志を継ぐために探しているのです
カインハーストに至る道を…
かつてローゲリウス師は処刑隊を率い、カインハーストの城で血族を浄化しました
けれど、全ては叶わず、故に救いの重石として殉教者となったのです
偉大なる師が、穢れた血族、その呪われた地に囚われるなど
私は師を解放したい。列聖の殉教者として、正しく師を祀りたいのです
(血族狩りアルフレート台詞より) - 79スレ主23/10/19(木) 19:13:08
「隠し街ヤハグル」1
ちくしょうドジった。
カインハーストの探索を断念したおれを待ち受けていたのは、なんと人攫いだった。
背後からの重たい一撃。アルフレートといい、この街では不意打ちに作法でもあるんだろうか。
まあいざとなれば狩人の夢に帰れるおれだ。奴さんのアジトを突き止めるくらいの心持ちで、麻袋に詰め込まれたまま気絶したふりを決め込んだ。
どのくらい経っただろう。袋から出され、拘束すらされていなかったおれはお返しとばかりに背後から人攫いを狩った。重たい一撃で相手の体勢を崩し、さらに強力な攻撃を叩き込む。なるほど、なかなかいい手かもしれない。
おかげさまで牢の扉は開けっぱなしな上、付近に敵がわんさといる風でもない。地下のように見える場所だが、地理的にはどの辺りなのだろうか。
階段を登ると案の定、おれが連れてこられていた場所は地下牢だったことが分かった。この区画の聖堂らしき場所には、心を引っ掻き回されるような歌声が響いている。
見つけた夢の灯りを灯し、悩むこと数秒。おれは結局、この街の探索を続けることにした。
どう見たってビルゲンワースじゃないことは確かだったが、ヤーナムには上位学派の連中、つまり教会の古い指導者の住む区画があるという。この状況を予測しながらも引き起こした連中がいるのなら、そいつらこそが獣の病蔓延の原因と言ってもいいだろう。そう思えば、探索を怠るわけにはいかなかった。 - 80スレ主23/10/19(木) 19:14:49
「隠し街ヤハグル」2
しかして聖堂から繋がる街らしき場所は、その先どこにも繋がっていなかった。
人攫いやら人喰い豚を狩りながら探索を進めて分かったことは、この街がヤハグルという名であること。それに、外部からは隠された場所であるということだけ。
となれば、あの人攫いはどうやっておれを地下牢まで運んだのか。
抜け道があるとすれば、地下牢の内部くらいしか心当たりがない。
そうして舞い戻った地下牢の奥で、息を殺して潜む生存者を見つけた。
「生存者か!ここから…」
「あ…ああ…殺さないで…」
「落ち着いてくれ。おれは味方だ」
教会の黒い装束を身に纏った女性は、おれと目を合わせようとすらしなかった。それに、単に怯えているという風でもなく、触れたらビョーキが感染するとでも言わんばかりに、嫌悪感も露わに距離を取っていた。
「どうして…カインハーストはもう…」
その言葉で、ようやく合点がいく。
アルフレートは、おれのことを穢れた血族と呼んだ。廃城となって久しいカインハーストに連なる、教会の仇だと。それはきっと、立場や宗教による分類ではなかった。人を狩る狩人。アイリーンがおれをそう目したのは、兄に似た血の匂いを香水の奥に隠したアリアンナが、おれ達を似ていると評したのには、それだけの理由があったのだ。
どうやら”おれ達”は、この街の人間から見てさえバケモノらしい。
全身で拒絶を示す彼女に、おれはもう何も言わなかった。
いいんだ。こういう目には、扱いには慣れてる。ましてや火を放ったり矢を射かけたり、車輪で叩き潰してくるわけでもない。
それに、彼女の恐れは一種の正しささえ帯びていることに、おれももう気づいていた。
「……すぐ戻る。この場を動かないでくれ」
まだ、息をしている人間がいる。
それならもう一つの避難場所、オドン教会までの露払いがおれの仕事だ。
地下牢の細い抜け穴を通りたどり着いた大扉の前には、青い雷光を纏う黒獣が待ち受けていた。
もう少しだけ、あの死に満ちた場所で身を隠して待っていてくれ。
あの獣も、すぐに狩ってみせるから。 - 81スレ主23/10/19(木) 21:29:21
今日はここまで
「カインハースト」で登場した王冠の補足も置いておきます
なお屋根の上で待ち受けていた魔法使いのようなやつが、アルフレートの言うローゲリウス師です
カインハーストの所蔵する秘宝の1つ
かつて幻を視るといわれた古い王の冠は
また秘密を隠す幻を破るカギでもある
故にローゲリウスは、自らこれを被った
もはや誰一人、穢れた秘密に触れぬように
寒々とした玉座から、はたして何が見えていたのだろうか
(幻視の王冠) - 82二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 23:39:22
あぁ…あぁ…ガスコインの娘ちゃんもアリアンナさんもヨセフカ診療所送りルートだったのか…そして偽フカさん討伐ルート…
カインハーストでの突然のフルボッコ事件もあわせてブラボプレイヤーであればあるほどこの惨状に頭を抱えたくなる状況に…が、頑張れコラさん…! - 83二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 06:56:52
言われてみればもうこれエンディング分岐絞られてきてるのか
アリアンナ診療所送りからの偽フカ討伐で詰んでるから最速?
とはいえ初見だとまあこうなる感はあるよな - 848223/10/20(金) 07:35:27
ですです…最速レベルで「3本目の3本目」ルートが完全に潰れてる。まぁでも我々プレイヤー狩人とて前情報無しに手探りで進めてたら大体こういうルートになるよねって感じ。ゲーム準拠で残されてるエンディングルートは「夜明け」か「継承」か…
コラさんがヤハグルで見つけた生存者さんはオドン教会行きになりそうだし生き残りそうですが果たして……
- 85スレ主23/10/20(金) 09:21:47
「オドン教会」1
「悪い、この人のこと頼むわ」
「もちろんいいけど、その、大丈夫なのかい?」
オドン教会を避難場所にと勧めてくれた盲目の男は、ぐったりと動かない気配を指差して尋ねた。ヤハグルから攫うようにして連れ出した尼僧は、旧市街を越える頃には気を失っていたように思う。
「気ィ失ってるだけだ。起きたら説明…聞いてくれりゃいいんだが」
「大丈夫だよ。ここは安全だし、狩人さんはいい人じゃないか」
向けられた笑顔に、おれは沈黙で応えた。もはや正義すら踏み倒してしまったおれがいい人なんて言われるのは、どうにも筋が通らないような気がする。
ついこの間も、”同族”と思しき女をひとり、恐ろしいやり方で手にかけたばかりだというのに。
アイリーンに教えてもらった獣除けのタバコに火をつけて、重たい煙を吐き出した。このオドン教会で焚かれている香とよく似た匂いは、強い香りの中にすぐに溶けて消えていく。
盲目の男の言った通り、獣除けの香が焚かれたこの場所はまだ安全なようだった。あの女医擬きの診療所を頼るくらいなら、皆この場所に連れてきてやるべきだったんだ。たとえちょっとばかし、セキュリティに難があるとしても。
そんなどうしようもない、取り返しのつかない”もしも”は、まだおれを離してくれそうになかった。 - 86スレ主23/10/20(金) 09:27:34
「オドン教会」2
ヤハグルから出て時計塔でガトリング男ことデュラと出会い、おれは彼に旧市街の獣を狩らないという約束をしていた。
本来なら、獣と化した罹患者を放置するなんて危険極まる行為だ。それでもおれがそんな約束を取り付けられたのは、兄の求める悪魔の実を思い出したから。
オペオペの実。奇跡の名で知られるあの実はおそらく、ローが海賊団に入るずっと前から探されていたものだ。獣の病を癒すために。
直前の連絡から、兄はおれ達の足取りを知っている。夜さえ明ければ、そして目当ての実さえ手に入れれば、言い方は悪いが能力の練習台として残された獣を治してくれる可能性は低くないと踏んでいた。
そうすればデュラや元罹患者の情報だって手に入るし、やって損はない。もとより兄は、きっとそれだけのために家名まで掲げて海を荒らしていたのだから。
デュラは、獣はやはり人だと言った。おれだって、そう思う。
おれ達は立派な人殺しで、だけど、だからって人の幸福を願っちゃいけねえ道理なんてないだろう。
まだ、諦められないんだ。 - 87スレ主23/10/20(金) 09:29:15
「オドン教会」3
「狩人さん」
無言でタバコの煙を吐き出し続けるおれのコートの裾を、盲目の男がちょいちょいと引っ張った。
躊躇いがちな様子に、しゃがんで視線の高さを合わせてみる。当然、目が合うことはない。
「ずっと考えてたんだ。狩人さん…この夜が明けたらさ……」
「ああ」
「俺と…友達になってくれないかなあ」
返事に窮したおれに、彼は慌てて取り繕った。
「ご、ごめんよ急に変なこと言って」
「違う、違うんだ…」
「…狩人さん?」
思えば友達なんてのは、海兵になってからも、なる以前にもいなかったように思う。性分なのか、いつも浅い付き合いで済ませる方が楽だった。
この夜に狩りを知って、罹患者を手にかけ続けるおれを、そうと知りながら友達と呼んでくれるのか。
「お前、おれが街で何してきてるか知ってるだろ?」
「もちろん!」
声に涙が混じり始めたおれに、男は曇りのない笑顔を向けた。
「みんなを助けようとしてくれてるんだろ?」
それって、誰にでもできることじゃない。
声には力が、熱がこもっている。
「すごい人だよ、狩人さんは」
そうして差し出された手を、おれは握った。
かつて小さな子供がひとりの海兵に、後に養父となるその人にそうしたように。
「なあ、おれさ、友達になるなら、やっぱり今がいい」
大きすぎる月が教会を照らす、そんな夜のことだった。 - 88スレ主23/10/20(金) 14:42:23
NGワードに阻まれたため、今回はテレグラフに折りたたんでおります
もしや毎度この形式+補足と解説の方が読みやすかったりします?
身を窶した男「わぁっ!な、なんだい、あんた、脅かすなよ。こんな夜に…獣かと思うじゃないか」今度こそはと禁域の森の探索を続けて見つけた、崩れかけの建物の縁にいた男。
振り返り言葉を発したその口元からは、ひどい人の血の臭いがした。
「でも、よかった、あんた、普通だし…あの獣も、始末してくれたんだろう?」
禁域の森に佇む崩れかけた建物の片隅、蛇と獣と人の血と、腐った木の臭いの中でも嫌に存在感を放つ男。
まさに夢中で死体に手を付けていたこいつを、なぜだかおれは知っていた。
記憶のどこにもないはずの嫌悪が、ぼろぼろの黒いファーコートから滴り落ちる血のように、小さく確かにこちらを責めている。
「…あんた、どこかおかしいのかい?それとも、勘がいいのかな」
構えたノコギリ鉈の先で、男が嗤った。
やはりおれは、こいつを知っている。
「狩人など、お前らの方が血塗れだろうが!」
叫びとともに頭部を覆っていた包帯も、かろうじて身に纏っていた衣服も喰い破って現れたのは、おそろしい獣の姿。
血を吸い重く湿った体毛は、雷を帯びて青く光っていた。
「死ねっ、死ねっ、死ねっ、狩人など、この人殺しが!」
おかしくなった狩人たちよりよほど理性的なままで、…telegra.ph - 89スレ主23/10/20(金) 14:59:10
「身を窶した男」補足と解説
・恐ろしい獣
青い雷光を身に纏う獣
下手なボスより強いと噂の強モブである
人語を喋る獣は他にも一体存在するが、常に正気を保ち、かつ獣の姿と行き来可能と思われるのはこの男のみとなっている
・知ってるかい?人は皆、獣なんだぜ…
原作ゲームにおける撃破時のセリフ
bloodborneという作品のテーマの一つとも言える重要セリフである
だがコラソンは、男に同類とみなされ別の言葉をかけられた
兄を止めたかった彼には、命を失うよりもおそろしいことがあったのだ - 90スレ主23/10/20(金) 21:58:09
「月前の湖」
目下には、凪いだ湖。
おれはついに禁域を抜け、ビルゲンワースの奥へとたどり着いていた。魔法のように炎を操る、“おれ達“に似た三人組を狩って。
「頼むぜ先生…おれ本当に飛び降りるからな?」
あらゆる儀式を隠すという蜘蛛の居場所を指し示してくれたのは、ローレンスの記憶にあった、"先生"だった。
悪魔の実の能力者は、大量の水に嫌われる。
普通に考えれば飛び込みなど自殺行為だが、もはや他に、探索できる場所も残されてはいない。
溺れて死んでもまあ、その時はその時だ。
どうせ何があっても、悪い夢のようなものなのだから。
勢いをつけて飛び込んだその先は、白く霧がかかったような湖だった。
飛び込みのフォームからなんとか受け身を取ろうとして、固い湖面の上で派手にすっ転ぶ。
このドジは流石におれのせいじゃないよな。湖の中にさらに湖面があって、しかも地面みたいに立てるって、そんなのを真っ先に想定する奴がいるか?
ノコギリ鉈は無事。短銃も無事。ひと安心と胸を撫でおろして、手元にあったスローイングナイフがすっぽ抜けていることに気が付いた。
それと、すっぽ抜けた先で小さなお仲間を呼び出している蜘蛛の存在にも。
間違いなく、怒ってる。
ヤケクソ気味に残りのナイフを投げつけて、銃で小蜘蛛を蹴散らし走る。
「お昼寝中悪ィな!」
ヤスリで鉈を燃え上がらせ、蜘蛛というより目玉と光る苔の怪物のような体を切りつけた。 - 91スレ主23/10/20(金) 22:00:00
「見たまえ!青ざめた血の空だ!」
血の、匂いがする。
どんな仕掛けか、白く燃える隕石を降らすあの蜘蛛からではない。
持てるだけ持ってきた輸血液からでも、水銀製の銃弾からでもない。
いつも腰に提げたままの、父を"狩った"あの銃から。
執念深ささえ読み取れるほどに手入れの行き届いたそれをヴェルゴから手渡されたとき、おれは何を思ったのだったか。
"コラソン"の名を継いだあの日、意図も分からず受け取ったそれに、指先の震えを抑え込みながら手をかける。
恐怖は無かった。
ただただ、体中の血が燃え上がるような、異常な狩りの興奮に包まれていた。
おれの血で作る水銀弾の威力が高いことを教えてくれたのは、共に聖職者の獣を斃した狩りの師だった。
怪訝な顔でこちらを見つめる処刑隊の男に、首をかしげたことがあった。
鴉羽の狩人狩りは、狩道具から外れた血晶石とみなして、血の中からこぼれた石を寄越してきた。
嚙み締めた奥歯の隙間から、己のものとも思えない低い笑い声が漏れ出るのが、聞こえる。
穢れと呼ばれる血が煮え立つ。
行儀のよい振りは、もうやめだ。
殆ど反射のような動きで腕を上げ、頭部を歪ませんばかりにびっしりと並んだ目玉を狙う。
先ほどまで震えていたはずの手元に狂いはなかった。
霧を貫く重い銃声で、瞳の埋め込まれていたそこに5つの穴が開く。
血晶石とも言えぬ赤石の銃弾に貫かれた蜘蛛の体は、白銀の霧となってあっけなくかき消えた。
秘匿が解かれる。
父が祈り、兄が守った血の秘匿が。 - 92スレ主23/10/20(金) 22:07:50
今日はここまで
明日からはまた、過去編こと「前夜」その2に入ります
「月前の湖」と「見たまえ!青ざめた血の空だ!」の補足と解説もその前にちらっと挟みますね - 93二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 02:54:18
- 94スレ主23/10/21(土) 07:23:01
ありがとうございます…!
思えばアリアンナ、アルフレート、アデーラ(ヤハグルにいた尼僧)、身を窶した男など、原作とは大きく対応の異なるキャラクターが増えてきましたね
コラソンは他のNPCからすればボスキャラがその辺をうろついているような異様さがあるイメージなので、出生に対してそれほど思うところのないNPCでも原作とは異なった反応を返してくるよう気を配っております
- 95スレ主23/10/21(土) 07:35:39
「月前の湖」
・先生
ローレンスの記憶のままの姿で上位者化(眷属化?)していると思しき学長ウィレーム
殴ると”瞳”のカレルをドロップする
ビルゲンワースの学徒、筆記者カレルの残した秘文字の1つ
それは見捨てられた上位者の声を表音したもので
「瞳」の意味が与えられ、更なる発見をもたらす
「瞳」はまた、学長ウィレームが追い求めた探求の象徴である
彼は人の思索のあり方に絶望し、高次元思考者たるを目指した
自らの頭、脳の中に、思考の瞳を欲したのだ
(瞳テキストより)
・月前の湖
飛び込むと謎空間に行けるビルゲンワースの湖
なお、湖(=大量の水)は、ブラボにおいては示唆的なモチーフのひとつである
大量の水は、眠りを守る断絶であり、故に神秘の前触れである
求める者よ、その先を目指したまえ
(湖テキストより) - 96スレ主23/10/21(土) 07:45:19
「見たまえ!青ざめた血の空だ!」
・「見たまえ!青ざめた血の空だ!」
原作ゲームではこの話のすぐ後に見ることになる手記の内容
秘匿の蜘蛛を狩ったことで、隠されていた世界の姿が露わになった
・ロマ
NGワードの問題でフルネームを呼べない例のあの蜘蛛
神秘を操る蜘蛛のような何か
それは明らかに今まで狩ってきた獣達とは一線を画する存在であろう
bloodborneの物語は、秘匿の崩壊を境に転調する
獣と人のゴシックホラーから、人と上位者のコズミックホラーへと
上位者に連なる、人ならぬ眷属たちの死血
使用により名状しがたい血の遺志を得る
これよりは人の先、かつてビルゲンワースの見えた神秘である
(眷属の死血) - 97スレ主23/10/21(土) 17:00:52
「嘘つきの獣」1
金の髪に赤い瞳。正義を背負う白いコートに、きっちりと首元まで締めたタイ。
どこからどう見たってドジっ子で有名な、海軍本部所属ロシナンテ中佐だ。それが鏡に映った自分の姿。
上官にはにこやかに、部下たちにはおおらかに。
あまりよろしくない目つきも多少目立つ長躯も、決して相手に威圧感を与えることがないように。
足音をきちんと立てて歩くように。悪意にも嘘にも鈍感に見えるように。
他愛ないことばかりを好んで話すように。書類仕事を片付けていく指先にすら愛嬌があるように。
そうでなければ、息をすることも許されないから。
生まれは?
北の海。孤児だったとこをセンゴクさんに拾ってもらって。
家族の顔は覚えてない。
趣味は?
花を育てること。
昔ドレスローザって国に住んでたんだが、そりゃ見事な花畑があったんだよ。
夢は?
センゴクさんやゼファー先生みたいな海兵になることかな。
流石に海賊を全員生け捕りってのは大変だろうけど。 - 98スレ主23/10/21(土) 17:02:06
「噓つきの獣」2
いい加減こんなこと止めちまおうぜ。頭のどこかで声がする。
うっせえよ。正義の首輪がなけりゃあ立派な海のクズでしかねェ癖して。
例えばきゃらきゃら笑う子供たちの薄い皮膚を追う目を潰したら。
街並みに血の臭いを探す鼻を折ったなら。
地獄の鬼のように内臓を引きずり出すこの腕を焼いてしまったなら。
おれは正しくめでたく、にんげんの仲間入りができるのか。
違うんだろ。
血の一滴でもこの身に流れる限り、おれはなんにも変わりやしない。
それなら手に負えないほどに大きくなっていく嘘の中で溺れそうになりながら、痛みというやつを知る温かなにんげんたちに笑顔を振りまくそんな日々でいい。
そんな穏やかな日々がいい。
正しさを知らないバケモノとして生きるよりは、ずっとずっとマシなはずだから。
せめて罪もない人々の幸せを願えるように、孤独に涙を流す子供たちに手を差し伸べ続けられるように、誓った正義だけは手放さないで生きていけたなら。
それだけでほんの少し、おれだって赦されていいのだと思えるから。
さあ優しいにんげんたちよ。どうか穏やかに笑ってくれ。
おれはあんたらとおんなじ生き物で、まったく無害な同胞だから。
正直で誠実で、ちゃあんと正義を掲げる真っ当な海兵ロシナンテなんだから。
だからどうか、世界の隅の隅でもいいから、静かに息をさせてください。
どうかどうか、お願いします。 - 99スレ主23/10/21(土) 18:47:32
「噓つきの獣」補足と解説
・獣性
神秘を色濃く宿す血により、ロシナンテの各種ステータスはプレイヤーではなくボスレベルの上限値となっている
このあおりを最も受けているのが"獣性"
啓蒙の値が低ければ低いほど高まるこの獣性は、彼に血の温もりを求める獣のごとき衝動をもたらした
またそれは、血の女王、すなわち血族の王に連なる旧い血の持つ一面でもある
人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ
「血の歓び」とは、血の温もりに生の喜びを見出す様であり
狩人の昏い一面、内蔵攻撃によりHPを回復する
この秘文字はまた、血の赤子を抱く女王に仕える者たちに通じる
女王の血に焦がれる者は、その代償を「血の歓び」に見出すのだ
(血の歓びテキストより) - 100二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 19:53:24
- 101スレ主23/10/21(土) 20:51:25
"瞳"はアイテムの発見率を上げるカレルなので、殴る人は殴ってるでしょうね…
一発殴ると消えてしまうのでドロップ品ということになるのですが、それで進行不可になるイベントもないので悲しいかな殴り得という
自分はなんやかんや殴ったことがないのですが、当スレにも殴ってる狩人様がおられるかも?
- 102スレ主23/10/21(土) 21:40:24
とりあえず今日はここまで
過去編その2では、主にドンキホーテ海賊団潜入時代のお話をやっていきます
何がどうなってヤーナムに来ることになったのか?
原作ワンピースとの違いはどのあたりにあるのか?
案外情報量が多い編となりますが、どうぞよろしくお願いいたします - 103二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 00:31:02
- 104二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 07:53:32
ウッ……(良心の呵責に刺さる音)(カレル欲しさに先生を殴っちゃう系一般狩人)
スレ主さんも仰られている通り先生に関しては殴り得なんですよ…イベント進行に絡んでるキャラでもないし…他にも色々理由はありますが長くなるので閑話休題。
「嘘つきの獣」の海兵時代のコラさん…いやロシナンテ中佐は、なんとも生き辛そうだ…『ビターチョコデコレーション』の歌詞を彷彿とさせるような、一種の窮屈さを感じますね。
…またそれ以上に、いっそ悲壮なまでの「にんげん」に対する祈りも。 - 105スレ主23/10/22(日) 09:17:43
感想ありがてえ…!
もう折角なので当スレにおける天竜人(≒穢れた血族≒トゥメル人)の性質について投下しておきます
次あたりの補足にぶっこもうかと思っていたのですが、良いタイミングな気がしてきたので
・月の血族
月の血族の呼び名は元スレから
月は人と獣の境、そして人ならざる者達にも関連の深い概念である
そんな人ならざる旧い血を持つ彼ら彼女らの特性は主に三点
・死や血、暴力に興奮する
・特に他者の苦痛に対する共感能力に乏しい
・身内びいき
他にもゲーム中の描写から、血が時に炎すら纏うほど熱く出血を強いる劇毒であったり、他者の遺志なくしては生きていけなかったり、ちょっと人類との共存が難しい生き物となっております
元スレにて、ロシナンテのドジは飢餓状態によるものでは?という説が立つほど彼ら彼女らにとって遺志は重要なものだったり
なお現存する天竜人の中で、ドンキホーテ兄弟は時計塔のマリアよろしく先祖返りレベルで血が濃い部類に入っています - 106二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 12:05:10
- 107スレ主23/10/22(日) 13:10:34
「凪の男」1
その日は、普段と変わらぬ一日だった。
腕の良い医者を、奇跡の通り名を持つ悪魔の実を求めて仕事をこなし、取引先の名簿と潰した人間屋の商品リストに弟を探して過ぎるだけの日だった。
「新入り?」
「ああ!ウチが最近スカウトした男で、それなり以上に腕が立つ」
「フフ…なら"テスト"でもしてみるか?」
「待ってくれドフィ、本当に入ってすぐの若い奴だぞ?」
「だが他でもねえお前の目に留まった…そうだろう?ディアマンテ」
スパイダーマイルズを拠点にしていた当時、おれたちの海賊団は"多少"特殊な構造をしていた。
そも一般的な、つまり商船や街なんぞを略奪する"だけ"の海賊業には無駄が多い。海賊が海賊を狩ろうとも精々自分の首の値が上がる程度で、それは何の旨みもねえ海軍との接触回数を増やす以上の効果をもたらすことはない。向かってくる連中を皆殺しにするのは気楽なもんだが、死体に良い値がつくことは稀だ。
人間はあらゆる物に価値を見出す。金銀財宝、悪党の首、同族たる人間そのもの。常にタイムリミットに追われるおれには、それら全てを糧に変える必要があった。
宝を奪うには海賊の顔が、海賊を殺すには賞金稼ぎの顔が、人間を売るには奴隷商の顔が、モノを売るには競売屋の顔が、ナワバリを回すには傭兵の顔が要る。
つまり組織を表向き分割し、おれと最高幹部でそれぞれの運営に携わったのだ。
ヴェルゴが海軍に潜り込めたのも、このカラクリがあってこそだった。医者を極秘で抱えるにはどうしてもナワバリが要る。連中には己が挑む難病患者の正体を知ることなく、全身全霊で研究に取り組んでもらわねば困るからだ。
そう、コラソンは、非加盟国のナワバリを守る傭兵組織の長を意味していた。海賊王の死後際限なく襲来する無法者どもを"正義の海兵"に代わって叩きのめしていただけの男に、懸賞金がかけられるはずもない。
そして当然幹部以上の連中でなければ、所属組織に"もっと上"があることなど思いも及ばない。ディアマンテ傘下の新入りだというその男も、己をちょっとした民間企業所属の賞金稼ぎだと認識したまま戦い、いつか死んでいくだろう。
"テスト"に合格するようなら、そのうち幹部に取り立ててやってもいい。海賊稼業が合わねえタイプなら、賞金稼ぎを続けさせればいい。それだけの話だ。
聞き覚えのない新入りの名は、そうして記憶に埋もれていった。 - 108スレ主23/10/22(日) 13:21:02
「凪の男」2
「ドフィ!コイツを見てくれ!!」
数日の後、泡を食ったディアマンテに手渡されたのは例の新入りのテスト結果を示す書類だった。
テストそれ自体は至極単純なものだ。手頃な海賊船に放り込み、わざと応援の到着を遅らせて戦闘力と判断力、そして何より極限状態で発揮される本性を見るというだけの、簡単な適性検査。
その結果は、敵船全戦力の沈黙という形を取って示されていた。
たった数日で救いようのねえドジ野郎の称号を欲しいままにしていたという男は援軍の存在を信じてか、なんと短銃一丁で仕事にあたったらしい。少しして単身敵船に乗り込んだ形になったことに気が付いたその男はしかし、逃げも隠れも、持久戦に持ち込み味方を待つことすらしなかった。
その新入りは弾が切れれば銃を奪い、サーベルにロープ、灰皿に至るまで武器として使えるものは何でも手に取り、狭い船内ではほとんど素手で相手を圧倒した。監督官を担当していた何人かが様子を見に行く頃には、そいつは船長"だったモノ"の傍らで呑気に煙草をくゆらせていたらしい。全身をぐっしょりと濡らす返り血を、拭うこともせずに。
そんなことはどうでもいい。ディアマンテもたったそれだけのことを報告するためにわざわざおれを呼び留めたりはしない。
「報告を受けてこの日中におれも様子を見に行った。そしたらどうだ!」
装備はボロボロ。そのクセ銃創も刀創も残っちゃいねえ。
書類にも、全く同じ内容が記されていた。必要以上に敵に血を流させ返り血を浴びながら戦った男の体には、既に治りきった傷痕が残るのみだったと。
「こいつを、アジトに連れてこい」
書類に添えられた写真には、金の髪に赤い瞳、弟と同じ年頃の若い男が写っていた。 - 109スレ主23/10/22(日) 19:46:58
「凪の男」補足と解説
・治りきった傷痕
ロシナンテはリゲインの仕組みを知っており、味方の目がない潜入時はよく敵の生き血で傷を治している
そのため戦闘は往々にしてダメージ上等肉を切らせて骨を断つ戦法になり、モツ抜きこと内臓攻撃の存在も相まって凄惨なものになりがちである - 110スレ主23/10/22(日) 21:16:49
「修羅と夜叉」1
慣れない北の海の煙を吐き出し、己の中で騒ぎ立てる血から努めて目を逸らす。
普段の物より軽いタバコは、ゴミ山の隅を這いずる小さな虫の気配までを搔き集める冴え過ぎた脳を簡単には痺れさせてくれなかった。
血を流させ臓腑を引きずり出す獄卒もかくやの戦い方は、おそらくおれ"そのもの"に近いものだ。"同族"の悍ましいふるまいを天上で、また海兵として目にしてきた経験から、この悪性が己に流れる血に因るものなのだと、おれももう気付いていた。
感覚を閉じ、タバコを教わった女海兵のみかんの味や、誰よりもだらけた風にふるまいたがる先輩に葉巻派の後輩の顔、養父の声を思い浮かべる。
冷めやらぬ興奮の中にひとらしい思考が戻ったことを確認してから、安い紙巻の先を焦がす火を踏み消した。
死には一握の慈悲を。魂には祈りを、弔いを。
足元でゴミに埋もれなお匂いたつ肉の塊となった男に、心の中で手を合わせてから通りを振り返る。
港街スパイダーマイルズ。ドンキホーテ海賊団のアジトに向かうのだろう不揃いな石畳の道には、咬み殺された馬と、撃ち殺された御者。さて、どうしたものか。 - 111スレ主23/10/22(日) 21:17:31
「修羅と夜叉」2
六式を扱う動物系能力者。たった今おれが殺した男はCP、それもおそらく9番目の組織に属していたのだろうと思われる。
しかも剥いだ上着の裏には、ご丁寧に兄の海賊団のシンボルが縫い付けてあった。
こいつも兄の下に潜入していたのだろう。初っ端からあちらと任務がバッティングするとは、全くもってツイてない。
いつでもおれを事故死させられる立場の兄がわざわざ拠点近くの道端に部下をやっておれを消しに来る意味など無いし、万が一そうであったとしても六式を使ってしまえば今まで潜入のために重ねた努力が水の泡だ。
現状ろくな情報も地位も持たないおれを、正体を明かしてまで消しに来た。
おそらく、兄が弟の存在に気が付いたのだろうこのタイミングで。
ならばきっと、兄の方でも動きがあるはずだ。
今回まず避けたかったのは、兄が直接取りまとめる海賊団に最初に接触してしまうことだった。ここだけは下っ端で入ったが最後、お目当ての情報には未来永劫手が届かないだろう。自ずと目立つ悪党は、いつでも首を切れる便利な消耗品でしかない。
だが早速、そうも言っていられなくなってしまった。
おれは兄と兄を取り巻く環境そのものをインペルダウンにぶち込むために必要な情報を集めなければならないのであって、一足飛びにボスの首だけを取ればいいというわけではないのだ。シンジケートに近い構造を持つ海賊団相手に、それはすなわち任務の失敗を意味する。CPと海軍とが手を取り合えないのは、ひとえにこういった目的意識の違いに原因があるのだろう。
弾倉には残り2発。手持ちの弾薬が残り35発分。ナイフよし。手榴弾よし。
パーカッションロックの短銃に予備の弾薬を詰め直し、人のいない路地を選び走る。
兄のもとに、向かわねばならない。
羽織った上着の臭いが続く先に潜むのだろう、あのおそろしい男のもとに。 - 112スレ主23/10/22(日) 21:18:24
「修羅と夜叉」3
兄だ。
おれと同じ金の髪と暗い色に覆われた両の目、そして、深い深い血の匂い。
手配書の顔を見ていなかったとしても、きっと一目で分かったに違いない。
鋼鉄の硬度を有する糸を自在に操るその男は、アジトの大部屋を飛び回りながら襲撃者3名を相手取ってなお優勢を保っていた。
限られた戦場で動線を紡ぎ、断ち切り、また操る様は、ただ美しいものだった。
磨き上げられた革靴は多少砂埃を被っていたが、長躯にぴったりと合った上等なスーツには血の一滴も滲んではいない。夜叉の名で呼ばれる兄が返り血を浴びない戦い方を選んでいたことを、おれはこの時始めて知った。
だが同時に、それが多大な労力を要するものだということもすぐに分かった。
能力を多用し常に相手との距離を保つその戦い方では、体力の"回復"ができない。普通の"にんげん"にとって不可能なことが当たり前のそれを可能に変える方法が、おれたちにはあるというのに。
人獣型となっている女の背後から、骨を避けてナイフを刺し込む。仲間の匂いを羽織って現れたおれに、一瞬反応が遅れたのだ。鼻が良い者が一体何を不得手とするか、おれはよく知っていた。女の足がたたらを踏む。なんにせよ、もう遅い。
穴さえ開けば、それで終わりだ。
右手で臓腑を引き抜き、癒えた左で首を掻き切ってお仲間のもとに死体を蹴り込む。
巻き添えをくらった残りの二人は張り巡らされた糸に絡め取られ、瞬きほどの間に頸椎を折られて動かなくなった。 - 113スレ主23/10/22(日) 21:19:34
「修羅と夜叉」4
敵の気配が絶えたことを確認し、ナイフを拭ってタバコに火をつける。
短銃はともかく、手榴弾を使うハメにならなくてよかった。初日からアジトを半分爆破したとあっては、流石に潜入捜査どころの話ではない。
「……ロシナンテ」
記憶の中のそれとは違う低い声に、思わずタバコを噴き出した。
先端についたままの火は兄の糸にさらわれて、床へと到達する前にかき消える。
危ねえ。うっかり自分の血でアジトを燃やしちまう所だった。
不思議なことに、おれの血はとってもよく燃えるのだ。以前潜入した敵船をドジって全焼させてから、気を付けるようにしていたのに。
下手に吸い込んだ煙でむせるおれに、何も言わない視線が刺さって痛い。
やっとこさ息を整え顔を上げると、おれより少し上背があるらしい兄が静かにこちらを見下ろしていた。
「名を変えて、生きてきたのか。……おれの言葉を覚えていたのか」
まだ喉に引っかかる返事の代わりに頷きをひとつ。
そりゃあ、まあ。
あの地獄の日々を生き残り、それでも己の素性を簡単に明かせるほど、おれは"にんげん"というものを信頼することができなかった。海兵となり、おれたちが彼らにどうしても受け入れられないその理由も知った。
平たく言って、おれは諦めたのだ。この世界に自分の居場所と呼べるようなものを求めることを。血を求める性は彼らにとって脅威に違いなく、それ故に相容れないものなのだと。
怯むことを知らずその名を掲げ、果てなき戦いを続ける兄には分からないだろうが。
「ついてこい」
右手指の動きとともに、サイズが合わず袖を通せなかった上着がシンボルごと切り刻まれる。襲撃者の血だまりに沈む布切れに、兄が目を向けることはなかった。
ちょっと勿体ねェなと考えていたおれをよそに、踵を返した兄の靴音が遠ざかる。無意識に取り出していたタバコを急いで握り潰し、お高そうなスーツを纏った後姿を数歩分の距離をあけて追いかけた。
兄の住まいたるその場所に、血糊の靴跡を残しながら。 - 114スレ主23/10/22(日) 21:22:20
今日はここまで
流石に一話がこのくらいの長さになってくるとテレグラフに折りたたむべきかとも思いつつ…
どっちの方が見やすいですかね…? - 115二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 02:39:09
特に今のままでも読みやすさに問題はないですが
スレ主さんが複数回貼り付けていくのが手間ならテレグラフを利用して頂いても - 116スレ主23/10/23(月) 07:14:48
- 117二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 08:14:04
スクロールするのがちょっと大変にはなってきたと感じる
- 118スレ主23/10/23(月) 08:36:01
多分スレの最初から最終レスまでのスクロールのお話ですよね?
確かに、1レスがそれぞれかなり長いですもんね…
そういうことであれば、今後はテレグラフに折りたたんでいきます!
ご意見ありがとうございます
- 119スレ主23/10/23(月) 09:44:47
- 120スレ主23/10/23(月) 20:10:31
- 121スレ主23/10/23(月) 20:19:54
「爪痕」補足と解説
・爪痕
人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ
「爪痕」とは、血の温もりを求める獣のごとき衝動であり
狩人の昏い一面、内臓攻撃の威力を高める
筆記者カレルは、「爪痕」と「獣」の違いに言及している
「獣」が、人の内に見出された、望まれずおぞましい本質であれば
「爪痕」は、その気付きの、逃れ得ぬ誘惑の痕跡なのだと
(爪痕テキストより)
・獣狩りの短銃
「見たまえ!青ざめた血の空だ!」にてコラソンが言及していた、ヴェルゴから継いだ銃
ドフラミンゴの血から産み出された血石の弾丸が詰まっている
それは獣と化した王を狩るための武器であり、王の心臓に課せられた役目の象徴であった - 122スレ主23/10/23(月) 21:02:01
とりあえず今日はここまで
改めてになりますが、ドンキホーテ兄弟はクロスオーバーのあおりを直撃で受けているせいで、二人ともびっくりするほど性格が複雑骨折してますね… - 123スレ主23/10/24(火) 07:46:02
- 124スレ主23/10/24(火) 12:43:34
- 125スレ主23/10/24(火) 13:00:35
「ホワイトモンスター」補足と解説
・D
当スレにおけるもう一つの人ならざる血族
天竜人とは異なり、雑多な交配によりほとんどその機能は失われている
ローは珀鉛により、"神の天敵"と呼ばれた旧い血の力を目覚めさせているようだが…
・書類担当
ぼちぼち言及があった、二代目コラソンの主な業務
初代コラソンことヴェルゴの仕事から医療系の部分や実戦を引かれた縮小版
なおロシナンテ本人は知らぬ所だが、センゴク大将仕込みの書類処理術を失ったファミリーは数名体制でその穴を埋める羽目になった - 126スレ主23/10/24(火) 20:15:31
- 127スレ主23/10/25(水) 06:54:32
- 128スレ主23/10/25(水) 17:14:27
- 129スレ主23/10/25(水) 17:31:26
「古都ヤーナム」補足と解説
・月の狩人
過去の記憶を失ったプレイヤーは、とあるエンディングの後にやはり獣狩りの夜を忘れて目覚める
我々の作成したキャラクターは、一夜限りの夢の欠片でしかなかったのだ
という考察を元にしているため、獣狩りの夜以前のロシナンテと月の狩人、コラソンは厳密には別人である
だが、原作ゲームでは全て失われた過去の記憶は、歪な形ではあるが狩人コラソンの中に存在している
それは彼と、彼を愛したもう一つの人ならざる血統の結びつきによるものだろう - 130スレ主23/10/25(水) 21:13:53
ちょっと悩みましたが今日はここまで
また獣狩りの夜に戻りますが、DLC攻略はかなり後に回されるので今度のブロックは短いかもです - 131二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 21:47:05
月の狩人コラソンには海兵ロシナンテとしての記憶が残ってますが
ローに海兵バレはまだしてないんですよね?
元スレからSSは読んでいましたがそういやいつ知ったんだろう? - 132スレ主23/10/26(木) 07:32:19
実は当SSでは、ローはコラさんが海兵であったと知らないままで話が進んでおります
他にも原作における神の天敵の会話イベントをスルーしているため、コラさんがD云々を知っていたことすら知らなかったり
この辺りも相まって、なぜコラさんが自分を助けてくれたのかが大きな謎として残る形になっていきます
- 133二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 07:49:12
おぉ…コラさんの海兵バレ、現在時間軸までローにバレてないんですな…原作に比べてコラさんがあまりにもローに語ってないな…色々と。
しかし少なくとも兄上は頂上戦争編のセンゴクさんとのやり取りからしてロシナンテの養父がセンゴクさんだと知ってるっぽいから多分ロシナンテが海兵であった事を知ってる気はするんだよな… - 134スレ主23/10/26(木) 08:05:32
- 135スレ主23/10/26(木) 15:54:03
- 136スレ主23/10/26(木) 16:02:50
- 137スレ主23/10/26(木) 21:19:12
- 138二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 21:20:00
子供のコラさんがとっても可愛い!
- 139二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 22:55:39
- 140二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 00:09:45
- 141二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 00:23:20
- 142スレ主23/10/27(金) 06:37:28
- 143スレ主23/10/27(金) 12:43:22
- 144スレ主23/10/27(金) 12:57:25
- 145スレ主23/10/27(金) 20:42:22
- 146スレ主23/10/28(土) 06:54:30
「捨てられた古工房」補足と解説
・3本の3本目
エンディング分岐に3本必要な3本目のへその緒
なお作中に最大4本登場するが、コラさんはうち2本を既に手に入れそこねている
別名「瞳のひも」としても知られる偉大なる遺物
上位者でも、赤子ばかりがこれを持ち
「へその緒」とはそれに由来している
全ての上位者は赤子を失い、そして求めている
故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし
それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ
使用により啓蒙を得るが、同時に、内に瞳を得るともいう
だが、実際にそれが何をもたらすものか、皆忘れてしまった
(捨てられた古工房の3本目のへその緒テキストより)
・珀鉛
白く輝く有毒の鉱物であるはずだが、それすらも一つの嘘だった
それはまるで夢の人形のように、あるいは見捨てられた上位者のようにほの白い血を流す者達に似ている - 14714023/10/28(土) 09:51:50
遅れましたがお返事ありがたや…!
成程コラさんの女王ヤーナム戦はエンディング後か…
地底を走るにはヤーナムの隅々まで探索して聖杯なり儀式素材集めないとですもんね、ローの治療に奔走するコラさんだとエンディング前に寄り道してる時間はないよな…とても納得。
個人的には毎エピソード楽しませて頂いてますが、なんというか…作者様が仰られてる事も分かるので…その、苦労が忍ばれますね…いつもありがとうございます…
「原作だとゲーム体験そのものが面白みになるのですが、フロムゲーの核となる『体験』の部分をオミットした状態で物語を面白くするのがとても難しい」…いや本当にそうですよね…でも作者様の物語はとても面白いですよ。
コラさんのヤーナム奮闘記は、初見初周攻略をしてる新米狩人さんを「がんばれー!」って応援するような心持ちでいつも読ませて頂いてます。
『呪われた街』
なんというか…「おあーー!?」って叫びたくなる惨状が広がっててアラマキも生えなんだよ……
色んな人が死んでる…ブラボプレイヤーなら、あの一夜の物語を知るに知り尽くした人であればあるほどダメージがデカくなる…唯一の救いはオドン教会に避難してた人は無事っぽい事…未来の「狩人狩り」ちゃんもひっそり登場してるのも見逃せないポイントですな。
いやしかしエグぅい……
『捨てられた古工房』
あ"ぁ"ーっ"?!このタイミングでの初訪問かよぉ?!
…と初見読破時に天を仰ぎました……じーざす…
3本目の3本目……コラさんの天啓は正しい。
でも「3本目の3本目」に至る道筋は、とっくの昔に閉ざされてしまってるんだよ…他ならぬ貴方の手によって…
…いやでも3本目の「3本目」をゲットする為の道程があまりにもノーヒント過ぎるから仕方がないんだけどさ…
ただでさえブラボのNPCのイベントフラグの管理は難しいからなぁ…
その絶望に彼が気付くのは何時になるのか、或いは気付かずにこの夜を走り切るのか……
- 148スレ主23/10/28(土) 12:31:46
ありがとうございます!そう言っていただけると大変励みになります…!
自分も書き進める際には、夜明けを迎えた初回クリア時のことを思い出しつつでやっております
ということで、今回は珍しいロー視点のお話
それは灰のような髪色にこそ、静かに映えることだろう
姉様「ロー、狩人様がお戻りです」「コラさんが?分かった」
このやり取りも、もう何回目だろう。不思議な夢で出会った"姉様"と一緒にコラさんを待つ日々は、おれにとってすっかりお馴染みのものになっていた。
「ロー!悪いな待たせて」
「いいよ別に…おれが外を探索できるわけでもねえし」
外に出たらきっと、おれはまた死にかけの病人に逆戻りだ。だから夢の外を冒険するのはずっとコラさんの仕事だった。
「そうだ、これ…あんたのだろ?」
そう言うと、コラさんは少しだけ身をかがめて手を開いた。背伸びして覗き込めば、手袋をはめた大きな手には小さな髪飾りが乗っかっていた。
コラさんはよく夢にあれこれ物を持ち込むけれど、今回はどこからどう見たってただの髪飾りだ。でも、たしかに姉様の灰色の髪によく似合うと思った。
「これは…なんでしょうか?」
いつも凪いだ湖のような姉様の声が、揺れている。
「私、私には何もありません、分からない、分からないのですが」
「姉様?」
「…温かさを感じます…こんなことは、はじめてです…」
「…ああ」
「私は、おかしいのでしょうか?」
髪飾りを胸に抱き込んだ姉様を、コラさんは静かに見守っていた。夢にしか居ないはず…telegra.ph - 149二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 12:33:20
ロシナンテとローがヤーナムにいる間、ドフラミンゴはどうしてるんだろう
- 150スレ主23/10/28(土) 14:47:43
獣狩りの夜は参加者の体感時間に関わらずたった一夜の物語なので、ドフラミンゴはいつも通り自身の仕事をこなしています
また後ほど具体的に何をしていたのかも出てきますが、それは獣狩りの夜とは無関係な所でのお話になります
- 151スレ主23/10/28(土) 20:30:15
- 152スレ主23/10/28(土) 20:35:08
- 153スレ主23/10/28(土) 20:45:38
- 154スレ主23/10/29(日) 07:33:22
「悪夢の主」補足と解説
・悪夢の主、ミコラーシュ
全台詞名言というトチ狂った男
台詞難易度がアラバスタ基準のルフィ並みに高く、筆者の心を折りかけた
彼の言葉は重要ワードの煮凝りだが、当SSにおいては前提条件の違いで内容が大きく異なっている
・メンシス学派
メンシスはラテン語で「月」を意味する
それは、悪夢と上位者を呼ぶ儀式により赤月をもたらした彼らの思想を直球で表していると言えるだろう
彼らの祈りはついに、感応する精神へと触れ得たのだ
ビルゲンワースの学徒、筆記者カレルの残した秘文字の1つ
それは悪夢に住まう上位者の声を表音したもので
「月」の意味が与えられ、更なる血の遺志をもたらす
悪夢の上位者とは、いわば感応する精神であり
故に呼ぶ者の声に応えることも多い
(月テキストより) - 155スレ主23/10/29(日) 09:06:49
- 156二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 12:30:35
- 157スレ主23/10/29(日) 15:41:04
感想ありがたや…それにしても雛鳥は言い得て妙ですね
ずっと月に見降ろされた狩人の夢には、安寧はあれど未来はない…
そろそろDLC除く獣狩りの夜編も一旦区切りということで、少しロー視点が続きます
待ち人今日はきっと、コラさんが帰ってくる。ずっと月夜が続くこの狩人の夢に、日にちという概念があるかは分からない。
それでも眠ったり起きたりはするんだから、おれはそれを一日とよんでいた。
あの日、工房が燃え上がったときには姉様の手を引いて外へと飛び出したけれど、あれから何日もたった今では平気で炎の中で眠ったりもしている。
夢の中の炎は、ちっとも熱くなんてなかったから。
繰り返し謝りながら燃える工房の外におれと姉様を待たせていたコラさんは、炎の中で談笑しているおれたちを見て腰をぬかさんばかりに驚いて、おれにも、姉様にも笑われていた。
夢は夢なのだから、普通を求めるほうが間違っているとおれは思う。
ほとんどの時間を夢の外での冒険に充てているコラさんには、痛みも苦しみもない夢の中はまだまだ奇妙に映るみたいだ。
そんなコラさんが、もうじききっと帰ってくる。
最近少し表情が豊かになった姉様は、そわそわと落ち着かないおれを微笑みながら見つめていた。
コラさんに、伝えたいことがたくさんあった。
だってもう、白い痣は消えたのだから。telegra.ph - 158スレ主23/10/29(日) 15:48:35
- 159スレ主23/10/29(日) 20:19:55
- 160スレ主23/10/29(日) 21:57:26
ちょっと悩みましたが今日はここまで
明日には一旦、獣狩りの夜のお話は区切りとなる予定です
しかし増補改訂版とは言ったものの、獣狩りの夜のエピソードが元スレ版から2倍の長さになるとは…恐ろしや… - 161二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 09:03:55
保守
- 162スレ主23/10/30(月) 09:27:23
- 163スレ主23/10/30(月) 09:32:26
「夜を越えて」補足と解説
・ヤーナムの夜明け
ローが迎えたエンディングは、原作ゲームにおける「ヤーナムの夜明け」エンド
このエンディングには助言者ゲールマンの介錯を受け容れることにより分岐し、主人公は夢を忘れ朝に目覚める
ローは月の狩人ではないが故に記憶はそのままだが、もう狩人の夢を見ることはないだろう
・遺志を継ぐ者
ゲールマンと戦い、彼を撃破することで分岐するエンディング
月の狩人、コラソンが選んだエンディング
DLCの最奥まで踏破した彼は、ゲールマンに代わり夢に留まることを選んだ - 164スレ主23/10/30(月) 09:45:22
- 165二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 20:21:07
保守
- 166スレ主23/10/30(月) 20:29:00
- 167スレ主23/10/30(月) 20:37:08
「秘密は甘いものだ」補足と解説
・秘密は甘いものだ
DLCパッケージボス、時計塔のマリアの台詞より
啓蒙値がプレイヤー狩人の限界を超えるレベルでべらぼうに高いドフラミンゴには常に世界が「超越的真実に近い形」で見えている
白い琥珀の卵に白い赤子、彼の新しい秘匿のひとつである
・"それ"は、断絶から滴り落ちる天啓に似ていた
〇断絶=大量の水=深海=上位者の眠り
〇滴り落ちる天啓=上位者の死血=啓蒙的真実=実験棟患者の台詞にもある海の音
つまりドフラミンゴは深海から現れる海の音を聞き「宇宙(=高次元暗黒)」の所在を見たのであり、上位者の眠りから赤子へと流れ出す死血の甘さを知ったのであり、大量の水に沈む啓蒙的真実を得たということになる
作中で複数の意味を持つ言葉から成り立っており、上位者にまみえた者の感覚を表している
なお狂わずにいられるのは、ドフラミンゴ自身も血族であるが故
・懐かしい母の子守歌
特定のバージョンでのみ聞ける、夢の人形の子守歌。
元ネタ(というかまんま)は某国の子守歌"Баю-баюшки-баю"
天竜人に伝わる獣除けの歌が、血族にも伝わっているという想定
なぜ人形が血族の歌を知っているのかという点については、DLCボスである時計塔のマリアに関係している - 168二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 07:05:47
保守
- 169スレ主23/10/31(火) 08:01:36
- 170二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 08:09:18
へーエピソード数も元スレ版から二倍の量に…二倍の量に?!と衝撃を受けてたら一日経ってました。
ヤーナムでの一夜を超えて…ローは夜明けに導かれ、コラさんは遺志を継ぐ道を選んだ。
ローは夢から解放されてしまったから、もう狩人の夢を見ることは出来ないのか…狩人ではないから記憶を失う事はないとはいえ…
でも目覚めた夜明けの姿は…街は…と思わずにはいられない… - 171スレ主23/10/31(火) 09:04:43
書きながらヘムウィックも聖堂街上層もまるっと飛ばしたのに二倍…となっていました
とはいえやっと要補足ゾーンを越えたので、しばらくは新規エピソードより加筆やおまけの追加が多くなりそうです
なぜか夜明けからがクソ長い弊SS、よろしければお付き合いくださいませ…!
- 172スレ主23/10/31(火) 12:31:29
- 173スレ主23/10/31(火) 21:36:47
- 174二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 07:04:21
保守
- 175スレ主23/11/01(水) 08:39:20
- 176二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 12:07:59
- 177スレ主23/11/01(水) 17:49:53
この世界線の本誌なら、ローの登場はもう少し後になりそうですね
ルフィ達視点での明確な登場タイミングがあるので、初登場はそっちになりそうです
ということで、引き続きドラム編のお話をば
「まったく!!!!いい人生だった!!!!」
ヒルルクの桜ドクトリーヌ、Dr.くれははおれの4番目の師だった。物心ついたころから、医学の基礎を教えてくれた父様。
ファミリーがかき集めた世界中の知識を、惜しげもなく与えてくれたドフラミンゴ。
長いあの夢の中で、希少な症例や治験の話を沢山伝えてくれたお爺様。
奇跡を起こすために、託された意思を決して取りこぼさないと、この心臓に誓って生きてきた。
浮上した甲板から臨むのは、変わらない雪景色に佇むドラムロッキー。
だがその中に、見慣れぬものが二つあった。
この国を病ませた大馬鹿野郎の船ともう一隻、見慣れぬ旗の海賊船が。
念のため何人かに艦を任せて上陸し、城を目指してひた走る。
二人とも、無事でいてくれ。
「ねえキャプテン、あれ…」
山の麓に辿り着いたころ、ついてきていたベポがおもむろに空を指さした。
月を背に、魔女のそりが駆けていく。
チョッパーだ。
あるヤブ医者が死んだあと、もう一人の弟子として医者見習いをしていたあいつが、ドクトリーヌではない誰かを、人間たちを乗せてそりを引いている。
そして、直後何度も続いた砲撃音に城の方を仰ぎ見て、目を疑った。
ピンク色の雪が、降っていた。
あの口だけは一丁前だったヤブ医者がい…telegra.ph - 178スレ主23/11/01(水) 18:11:37
ドラム編おまけ
「ちょっとした症状でも油断が死を招く。この船に少しでも医学をかじっている人はいないの?」
ナミさんの病状を診ていた私の問いに、ウソップさんが指差したのはルフィさんだった。
「友だちに教えてもらったことあるだけだぞ!」
「診療所の手伝いしてたって言ってたろーが!」
「おれ本全然読めなかったからなー。やって覚えろって言われたんだ」
「やっぱ経験あるんじゃねえか」
「傷の手当だけは手際が良い理由はそれか…」
「なはは」
ちょっとした思い出話をするみたいに言ってのけたルフィさんは、体温計を取り上げて表情を取り落とした。
サンジさんが制止する暇もなく、ナミさんの服をあちこちまくり上げてぴたりと止まる。
「医者探すぞ」
布に覆われていた腹部には、いつの間にか爛れたようなひどい痣が広がっていた。 - 179スレ主23/11/01(水) 21:02:41
- 180スレ主23/11/02(木) 06:36:05
- 181スレ主23/11/02(木) 11:59:27
- 182二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 12:08:13
- 183二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 13:29:20
- 184二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 13:52:22
- 185二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 15:50:56
- 186スレ主23/11/02(木) 16:32:03
- 187スレ主23/11/02(木) 21:55:46
- 188二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 05:19:30
- 189スレ主23/11/03(金) 09:08:09
描いててめちゃめちゃ感じました
後半の方がデザインの被りに留意しないとなので当然なのかもしれませんが…
ということで、アルバーナの戦い最終盤
人は皆、獣なんだぜ?
越えて行くなぜ、止まらない。皆絶望の悪夢に取り込まれ、己の牙を剥き出して、血に酔いただ殺していた。
仲間の死体を踏み越えて雄叫びを上げる老兵を見た。
すでに事切れた王国兵に、何度も何度も剣を振り下ろす若い男を見た。
人間には、どんな人格者にも、血を見て興奮する"残虐性"が眠ってる。
ロー…知ってるか?人は皆―
いつか聞いたドフラミンゴの言葉が脳裏をよぎる。
コラさんもしかして、あの夜のあんたは、こんなものと戦っていたのか。
人の内に潜む獣の狂気に、たった独りで立ち向かっていたのか。
崩れそうな脚で瓦礫から這い出し、重たい腕で鬼哭を担ぎ直した。
噎せ返る血の匂いと熱の中から、獣のような咆哮が絶え間なく聞こえてくる。
悪夢よ、どうか覚めてくれ。
「あれは…」
鳥の男の声に耳から流れる血を拭い、平衡感覚を失いかけた頭を上げた。
地響きとともに、広場の建物が崩れていく。何かが地の底から近付いてきている。
獣じみた声たちをかき消す轟音の中、血と死の熱狂の中心地に、砂煙を巻き上げる影が見えた。
黒い影はそのまま重力に負けて、広場に落下していく。
「…クロコダイル」
勝ったのか。
あいつが、ルフィが、王下"七武海"の一角を落とした。…telegra.ph - 190スレ主23/11/03(金) 12:04:20
- 191スレ主23/11/03(金) 22:08:49
- 192二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 02:46:41
ローが能力者だと隠してるってことはドフラミンゴはオペオペの実を誰にも食わせず実のまま所持してると思われてんのかな?
黒ひげとかに狙われそうだな - 193二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 11:41:46
保守
- 194スレ主23/11/04(土) 11:52:32
- 195スレ主23/11/04(土) 13:27:39
「月の王女」補足と解説
・月の王女
エルデンリングより、魔女ラニの別名
冷たい海の血を引く月の王女ということで、タイトルに即採用
受け継がれる意志は千年の旅の果てに、冷たい月へと旧い遺志を運んだ
・泡立つ血
上位者の血の遺志を宿した遺物
使用により宇宙悪夢的な血の遺志を得る
それは天啓にも似て、だが到底理解などできぬものだ
(上位者の死血テキスト)
・感謝と敬意
夢に依る狩人は、血の遺志を自らの力とする
死者に感謝と敬意のあらんことを
(死血の雫テキスト) - 196二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 13:34:26
- 197スレ主23/11/04(土) 14:02:25
承知です!
そしてとりあえず次スレ建てさせていただきました
10レスまでは爆速で落ちるので、どなたかおられましたらレスのご協力をいただけると大変助かります…!
【SS・イラスト】獣狩りの夜が始まる part2【クロス・閲覧注意】|あにまん掲示板【注意事項】・ワンピースとBloodborne+αのクロスオーバーです・原作ゲームレベルのグロ(R17相当)・ホラー描写があります・フロムゲーらしいエグい設定がポンポン登場します・元スレで執筆していた…bbs.animanch.com - 198二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 15:18:49
埋め
- 199二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 20:11:57
うめ
- 200二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 21:59:14
200