- 1二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 09:55:54
- 2スレ主23/10/14(土) 09:56:16
広域規制が……にくい
- 3スレ主23/10/14(土) 09:58:09
過去スレ一覧
【悲報】どうして……|あにまん掲示板俺は幸運にも最優のセイバーを引き当てた。さらに幸運な事にとても強力なサーヴァントだ。けれど聖杯戦争で油断は出来ない。まずは他のサーヴァントと戦って各陣営の戦力を測った。真名迄は把握し切れていないけど戦…bbs.animanch.com千年樹を継いで挑む聖杯戦争代2局|あにまん掲示板俺はユグドミレニア再興を賭けて聖杯戦争に挑んだが、特に悪いことをして……して……ないのにいきなりアーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、バーサーカーの5陣営に同盟を組まれてしまい、一気に四面楚歌に…bbs.animanch.com黄金千界樹の未来を背負い挑む聖杯戦争 大3局|あにまん掲示板ユグドミレニア復興を目指して10年の月日を費やし、この聖杯戦争に挑むセイバーのマスターだ。戦いは過酷で、アサシンを墜としたばかりに他の陣営全てからロックオンされてしまう。何度も死にかけるが、キャスター…bbs.animanch.com黄金千界樹の未来を背負い挑む聖杯戦争 第3.5局|あにまん掲示板ユグドミレニア復興を目指して10年の月日を費やし、この聖杯戦争に挑むセイバーのマスターだ戦いの中、突如各陣営を襲撃した正体不明の魔獣共俺達は辛くもそれを退き、その正体と黒幕の調査を行うこととなるーーーbbs.animanch.com黄金千界樹の未来を背負い挑む聖杯戦争第4局|あにまん掲示板キャスターのマスターが仕掛けたイレギュラー。屍神ゴルゴーンをアーチャー、ライダー陣営と手を結び何とか退けたセイバーのマスターだしかし、聖杯戦争なら訪れた脅威を排除したところで俺達なら置かれた状況は変わ…bbs.animanch.com黄金千界樹の未来を背負い挑む聖杯戦争第4.5局|あにまん掲示板あ、ありのまま起こったことを話すぜ突然スマホが異常を吐くわ仕事で変なところに飛ばされるわで更新が途絶えてしまいました突然の事で俺も何がなんだかわからなかったが申し訳ない漸く更新出来るようになった様なの…bbs.animanch.com - 4スレ主23/10/14(土) 10:05:56
ソフトバンクユーザーには辛い世の中であります
取り敢えず何とか完結までは頑張ります - 5二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 10:10:35
建て乙〜
待っとるでよ - 6二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 10:23:30
乙ー
前スレでショッキングな過去が明らかになった凌我の明日はとっちだ…!? - 7二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 10:38:54
建て乙
- 8千界樹の記録23/10/14(土) 10:40:11
あの狩人に遠方から建物の隙間を縫う様に矢を撃たれたらたまったものではない。しかも麗しのアタランテときたら俊足の逸話を持つ。あの機動性を損なう事なく狙撃ができるアーチャーを相手にこんな廃屋で籠城などしようものなら四方八方から蜂の巣にされかねない
更に言えばルーナの奴が本気で探りに来たら隠蔽し切れる自信もない。彼奴は音と言うより振動を利用してコウモリの様に通常の五感とは異なる感覚で周囲の地形や生物の位置を感知する。あれの前には下手な小細工は意味をなさない。そしてこの場所を悟られて仕舞えば最悪令呪で2騎同時に奇襲をかけられる恐れすらある
ライダーにセイバーを抑えさせた一瞬の隙にアーチャーが俺を狙撃する。そんなことになればいよいよ詰みだ
ならば例えハンデを背負ってでも下手な小細工や策が通用しない場所で迎え撃った方が良い。特に比較的矢が通り辛そうな、それなりに障害物ならある地形ならこっちの有利に働くが、そうそう都合のいい場所は無い。差し詰め……湾岸エリアのコンテナ置き場。あそこは開けたエリアだが、同時にコンテナが積まれている分閉所になりやすい。サーヴァント2騎を同時に相手取り、同時にマスター狙いを抑制するにはそれなりに条件は良い場所だ。あそこを戦場に設定して彼女達を迎え撃つ
その為に補給の必要もあるし、一度あの拠点に戻らなくてはならない
「いくぞ。セイバー」
「承知」
今夜、この聖杯戦争に終止符を打つ。そのつもりで準備を整えようーーー
マンションの窓に朝日が差し込む。日差しに照らされる肢体がゆっくりと起き上がり、ルーナは目を覚ました
「んん〜……」
上体を起こしてゆっくりと伸びをする。一糸纏わぬ姿のルーナは見たものは、特に同じ女性にとっては誰もが羨む様な抜群のプロポーションと肌を持ち、そこには何一つ魔術や秘蹟等の神秘は介在していない天性の体である
もしもこの場にマルグリットがいたら、確実に舌打ちか歯軋りをしていたに違いない。最も、昨夜の内に風呂場で目撃していた為にマルグリットは盛大に舌打ちと歯ぎしりをしながら恨めしそうにルーナを暫くの間睨み付けていた事実は消えないのだが
「〜♪」
鼻歌で聖歌を歌いながら修道服に身を包むルーナ。とても戦っている時と獰猛な様子とはかけ離れた年相応の一面を見せていた
扉を開けて、寝室からリビングへ移動すると、そこに朝食を用意していたライダーがいた - 9二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 11:12:03
追いついたー!
ルーナちゃんめっちゃ牙狼で笑った - 10二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 11:42:55
埋めえ!
- 11千界樹の記録23/10/14(土) 18:57:50
ライダーは器用に電子レンジで持ち込んだサンドウィッチを温め直していた。最低限の生活用品だけ用意しているので本格的な料理はできないので、食事は基本的に買ったものを温め直すかインスタントで済ませている
けれども、仮にも大昔の人物がこうして現代機器を普通に扱っているのを見るのは何とも奇妙な光景だ。思わず口角が上がってしまう
「おはようライダー」
「ああ、おはようマスター。もうすぐ用意ができるから座って待っていてくれ」
「フフッ、じゃあお言葉に甘えさせて守らうわね?」
ひと足先にテーブルにつくルーナ。その少し後に、廊下の奥から不貞腐れた様な表情のマルグリットがやってきた。そして、ルーナの顔を見た瞬間、露骨に眉を顰めた。恐らく、目が覚めたら時に無意識に自分と昨日の夜に見たルーナを比べてしまったのだろう
「……」
「おはよう♪マリィちゃん」
「おはようございます……て言うかマリィはやめてください」
げんなりした様子でマルグリットも向かい側の席に着く。彼女のすぐ後ろから、霊体化を解除したアーチャーが現れた
「マスター、見てきたぞ」
「……どうだった?」
マルグリットはアーチャーの報告に耳を傾ける。朝早くから、アーチャーにランサー陣営からセイバー陣営の各拠点を見て回ってもらっていたが、アーチャーの報告内容は概ね予想通りであった
「ランサーの敗退は確実だろう。セイバーはまだ拠点に戻ってはいなかった」
「ありがとうアーチャー」
マルグリットが礼を言うと、アーチャーは頷いて再び霊体化する。いく先は屋上だろう。流石は狩人、狙撃地点や地形状況の確認は怠らないらしい
それにしても、彼がまだ戻っていないと言うことは、やはり追撃を恐れての事だろう。拠点そのものを放棄したとは考え難い。恐らく夜が明けるまで何処かに避難して息を潜めていたに違いない
日が沈む前に炙り出しても良いが……彼のことはよく知っている。此方が自身の居場所を探る事を想定していずれ移動を開始するだろう
何時迄も隠れ潜み続けられる物でもないし、既に拠点の位置は割れている。と言うか少しの間お邪魔したのだから把握していない方がおかしいと言うものあの場所は防衛向きでもないから拠点に籠るとも考え難い - 12二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 23:13:51
ほ
- 13二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 23:42:53
このレスは削除されています
- 14千界樹の記録23/10/14(土) 23:45:06
「じゃ、食事が終わったら少し探しにいきましょうか」
向かいの席に座るマルグリットに話しかけるルーナ。話しかけられた当のマルグリットは眉を顰めたままの表情で、訝しげに尋ねる「探しにいくって、アテでもあるんですか?」
「ある程度は、ね」
ライダーがインスタントスープを運んでくる。うーん、最近のインスタントはバカに出来ないわね。コーンの匂いがしっかりして、美味しそう
「いただきまーす」
「……頂きます」
ライダーが今朝一でコンビニから買ってきたサンドウィッチを食べる4人。アーチャーはいつのまにか自身のマスターの隣に座っており朝食を食べている
「ーーーで、話の続きだけれど」
食事の中で話を切り出したのはマルグリットだ。話を振られたルーナは紅茶を啜ると、カップを置いて微笑む
「ええ、凌我君の居場所について、よね?」
「そう。アテがあるみたいに言ってたけどーーー」
「ええ、彼の事ならひょっとしたら貴方よりも知ってる事、多いから」
両手を顔の前で揃える様に重ねて挑発的に微笑むルーナ。無性に腹が立つが、ぐっと抑えて平静を保つ。大きくため息を吐いて苛立ちを流す
「それは良いから、どの辺にいるのかってあたりはつけてるの?」
尋ねると、ルーナは微笑んで何処に隠し持っていたのか、この周辺の地図帳を取り出して、ペラペラとページを捲り、ある町の一角が書かれたページを開いてテーブルに置く。そのページは住宅街の隅にある、町開発の影に取り残された古い廃屋が多く立ち並ぶ場所であった
「凌我君の性格からして、このエリアにセーブゾーンを構えているわ」
随分アッサリとエリアを選定したものだ。だが、確かに彼の性格なら隠れ易く、そして関係ない人が巻き込まれる可能性を考慮して人の出入りの少ない場所をセーフゾーンに選ぶか……拠点の方はそもそも夜には出ているから、基本的に襲撃を受けることはないだろうし、拠点の位置を把握された状態で、彼のいない間に嫌がらせでもする気がなければそんなこと起きないか
「ふーん……」
「まあ、今から探しても多分いないだろうけど、何かしらの痕跡は見つかるはずよ?」 - 15二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 23:46:46
ああ、こう凌駕のことわかってるわよ的な地味ーなマウントを感じる…いいぞもっとやれ!
- 16二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 08:52:57
聖杯戦争とは別口でバチッてる…
- 17二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 13:24:58
- 18二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 16:51:18
女の恋は男の知らぬ水面下にて…
- 19千界樹の記録23/10/15(日) 18:12:00
「どうせ先輩なら昨日のダメージが残ってても狙い撃ちに遭うよりはマシだと、場所を移動するって?」
「そう言うこと」
地図を閉じて懐に仕舞うルーナ。一体どう言う構造になっているのだろうか。よく見れば普通に体型が出るタイプの修道服を着てるのにどう言う構造で冊子やらあんなでかい戦鎚やらをしまっているのだろうか……
「それじゃあ、食事が終わったら行きましょうか」
サンドウィッチの袋を丸めて隅の方に置いてあるゴミ袋に放り投げる。マルグリットもゴミを丸めて同じ様にゴミ袋に入れた
「アーチャー、先行して様子を見に行ってて」
「了解した」
アーチャーの方はベランダから外へと飛び出す。直前に霊体化してるので誰かに見られる心配は無いだろう
「私、先に行くから」
「あら、マリィちゃんはせっかちね」
「非戦期間なんです。先輩はルール無用の事はしませんし大丈夫ですから」
そう言ってリビングを後にするマルグリット。必要以上に馴れ合う気はないと言わんばかりの塩対応である。ガラスの心に傷が付きそう……
「マスターの心がガラスでは説明がつかないと思うよ?」
「ライダーも、人の心読まない様にね?」
まあちょっと揶揄いすぎた面も無いではない。あの娘、可愛いから仕方ない
「じゃあ、私達もいきましょうか?」
「仰せのままに、マスター」
私と先輩の出会いは、極々普通のものだった
時計塔に入学した私は、自身の家系がまだまだ歴史の浅い何も誇るもののない魔術師である自覚はあった。だから舐められる事は理解していたし、悪ければ貶される事だって覚悟の上だった。それでも、時計塔で学び魔術師としてのレベルを上げなければ、私の様な新参が根源に至るなど、夢のまた夢口が裂けても口に出来ない事だ
入る学科は当然降霊科。召喚科を中心に召喚術や、今のご時世はサーヴァントの事も取り扱うことも多く、ホラーや心霊現象等で多少なりとも信仰が集まりやすく比較的神秘が安定している魔術でもあった
私の家は200年程しか歴史の無い新参者。時計塔への留学が可能になったのも、ある種奇跡の様なものだった
絶対にこのチャンスをモノにする。そう決心して私は時計塔の門を潜る。私自身の降霊術にも磨きをかけ、召喚術の造詣も深めていけば、いずれはサーヴァントを召喚して亜種聖杯戦争に参戦することも夢では無い - 20二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 20:57:28
保守
- 21千界樹の記録23/10/16(月) 07:39:39
そう、サーヴァントだ。亜種聖杯戦争に参加すると言うのも、昨今の魔術師たちの間ではブームとなっている
多くは粗製濫造された力のない欠陥品。偶にある多少は機能する物でも多くの魔術師が戦いの中で命を落としていく。その中で本来ならもっと下の位階にいるはずだった魔術師が一つ上の位階に繰り上がることも多くあったのも、私にとっては追い風にしたい
魔術師としても、時計塔でも新参の私が成り上がる為には、誰が見ても分かり易い結果を残すことが必要だった
「その為には、亜種聖杯戦争に参加して、勝つしか無い……!」
魔術師100人が聞いたら100人が一笑するだろう私の目標。それでもやるしか無いんだと、自分を奮い立たせて、毎日を勉学や研究に費やした
そんな日々を過ごしていたある日のこと、降霊科の授業を受ける為に学部に向かっていた曇り空の日に、後ろから声をかけられた
「落としたぞ」
「ーーーえっ?」
振り返ると、私のネックレスを手渡そうとしていた男が立っていた。濡れた様な艶のある黒い髪に、深い藍色の瞳を持った青年らしき人物。彼は私のことを見て、呆れた様に笑う
「勉学に集中するのもいいが、コミュニケーションもしっかりとった方がいいぞ?人の繋がりはそのまま時計塔内のパイプになるからな」
と、参考書とノートを両手に積み上げていた所にネックレスを置く。初対面でいきなりの言いように、少しカチンと来てしまった
「……余計なお世話です」
「そう言うな。そのネクタイから察するに今期生だろ?先輩の有り難い言葉は聞いておいて損はないぜ?」
何だろうこの男。今両手が塞がってなければ引っ叩いていたと思う
「……ネックレスは有難うございます。急いでいるので、これで」
と軽く会釈だけして足早にその場を後にしようとする。男はその様子を見ながらだろうか、柔らかい声色で一言
「ああ、また後でな」
何が後なのだろうか。もう会うこともないだろうに。そんなふうに頭の片隅で考えていた私がその言葉の意味を知るのは10分後のことであった - 22二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 08:51:02
ほ
- 23二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 20:19:00
保守
更新待ってるぜ - 24千界樹の記録23/10/16(月) 20:54:06
「や、さっき振り」
降霊科、召喚術の授業が始まる直前、学部に入ってきたのはさっきの男であった。そして、態々私の席の隣に座ってきたのだ
「……なんですか」
「他空いてないんだから仕方ないだろ?」
この頃の私は自分の勉学と研鑽に意識を割きすぎていて、新参という自覚も相まって周囲に舐められないように壁を作っていた。だからこの頃の私に学友と呼べる人物すらも居らず、そんな私の隣に好き好んで座る様な人間など殆どいなかった
そんな事は知らないとばかりにこの男は遠慮なく踏み込んできた。と言うより、今回は他に席が無かったから、だがそれでも妙な感覚だったのは言うまでもない
今回だけ、今回だけの辛抱だと自身に言い聞かせて授業を受けることにした
今回の授業では、珍しく降霊科学部長が自ら執り行う為、参加する生徒の数も多かったのだ
曰く、私の抱えていた参考書から、召喚科の授業を持っている生徒だと判断したと言う。そして、少し前までに中東に遠征に出ており、時計塔には久し振りに戻ってい方だと言う。私に取っては至極、どうでも良い事だったが、授業を受けている時のこの男は質問を何度か講師に投げており、その内容もまた鋭いものだったのが、余計に私の神経を逆撫でした
そして授業の終わり頃ーーー
「因みに、そのノートの左上に書いてある術式の理論は正確にはインヴォケーションと言って降霊の中では憑依に該当するから気をつけろ」
そんな事を言って、あの男は立ち去った。改めて見返すと、男の言う通りだった
「一体なんなの、アイツ……」
それがファーストコンタクト。はっきり言って第一印象はお節介で頭の良い不愉快な人、だった
後に召喚科の教授から聞いた話だと、彼はこ10年前に行われた聖杯大戦ーーー今は失われた亜種聖杯戦争の原点とも言うべき大聖杯を巡る戦いで、時計塔と争ったユグドミレニアと言う一族の魔術師であったと言う
あった、と言うのは今はもう事実上解体され、四分五裂となったのだとか
過去のこととは言え、一度は時計塔に弓引いた組織の魔術師。周囲からは良い目で見られる事はあまりないだろうが、それでも彼は時計塔に入ってすぐにその独自の魔術理論と技量を評価されて祭位を受領されていた
噂には聞いた事がある。時計塔に入って半年と経たずに第四階位を獲得した異才の魔術師の話 - 25二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 08:03:35
決して歓迎されない身の上、立場であったのにも関わらず、単純な発明や功績では測れない才能を示した魔術師に贈られる位階。それはユグドミレニアと言う名前を差し引いて尚、時計塔に在籍する多くの魔術師が彼に一目を置かざるを得ないと判断したことの証明だった
そんな時計塔の変わり種の魔術師に少しだけ、興味が湧いてきた。あの人も私と変わらないどころか、始まりは私よりも悪い立場だったのに周囲から注目を浴びる程の頭角を表した、そんな魔術師の正体をーーー
「君、降霊科以外に学科持ってたんだ」
「降霊科だけじゃ視界が狭まるだけなんで。先輩の方こそ講師に思いっきり煙たがられてるのに良く来れますね」
「あの講師は所属してる大体の生徒の事を煙たがってるよ」
問題児ばかり押し付けられてるせいでな
そう笑っている先輩。先輩は普段は現代魔術科と降霊科を行き来している。現代魔術科は異端児や問題児の集まりだと言う噂は本当だったらしい。それでも10年前あたりと比べたらだいぶマシになったんだとか……
「先輩非常識な魔術論理にも納得」
「お前なあ……」
いつの間にか、私は先輩と行動を良く共にしていた。別に、大して先輩が好きとかそう言うわけじゃない。単にまともに話のできる人がこの人以外にいないだけだ
「それ、所謂ボッチじゃねーの?」
「うるさい」
先輩だって現代魔術科以外だと碌に学友とか居ないし私と大した変わらない
私にとっても新参の魔術師であり、周囲からは舐められがちなのもあって他と上手くやれていない為、こうして話のできる人物は稀少、だからこうして会話する機会も集中するだけなのだ
そんな中、私は同じ降霊科の学生達よりもそれなりに優秀な成績を収めた事に因縁をつけられたこともあったーーー
「なあお前さあ、新参の魔術師の分際で最近生意気なんじゃない?」
「……要件は何ですか?」
私に因縁をつけてきた魔術師は500年の歴史を持つそこそこの名家の出身だ。けれど、今回の授業に於ける実技では私の方が優れた結果を残した事が気に食わないらしい。そしてその背後には取り巻きと思しき学生が2人。そんな事を考えてる暇があるなら負けない結果を出すために努力してれば良いのに - 26二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 09:10:41
おやおや、ラブコメですか
- 27二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 20:12:22
保守
- 28千界樹の記録23/10/17(火) 22:31:07
私は今、学室の隅に追い詰められている状態だ。正直こんな連中に絡まれている時間が勿体無いからさっさと解放して欲しいものだ
目の前の女はそんな私の考えを読んでか読まずか、苛立った様に舌打ちする
「お前、今の状況分かってる?」
「わからないから聞いてるんですけど?」
単にちょっと成績が上回っただけで生意気がどうのと、そんなだから新参の魔術師に負けるんじゃないかと思うのだけれど……
「そう言うとこが生意気だって言ってんだよ!!」
唐突にキレ出した女が私の頬を叩く。叩かれた頬が鈍い痛みと共にジリジリと熱を持つ。いきなり叩かれるとは思ってなかったが、随分もヒステリックな女だ。取り巻きの2人の女も何が面白いのかクスクスと笑っているが、こんな事の何が面白いのだろう?
叩かれた頬を触る。やっぱり、少し腫れている。こんなくだらない連中に絡まれるとは、付いてない。こんな事に時間を費やすなら、先輩と話していた方が遥かにマシな時間の使い方だろう
「あんたさあ、自分の立場わかってるの?」
「……」
「無名の新人の分際で、私達よりも目立つって身の程を弁えてないバカには理解できないかしら?」
「話はそれで終わりですか?」
速く切り上げてしまおう。そう思い、少々強引に押し除けて退室しようとする。が、それが3人の逆鱗に触れたのか、頭目らしき私を追い込んだ女が金切り声の様な甲高い怒号をあげた
「ふざけんなよテメェ!!」
髪を思い切り引っ張られ、床に倒される。運の悪い事に倒された拍子に頭を打ちつけてしまう
ーーーあぐっ!」
「キャハハ!今の聴いた!?」
「えー?下等な魔術師擬きの声なんて聞こえなーい!」
馬鹿みたいに下品に笑う3人だが、床に打ち付けられた私に、それに反応する余裕はなかった
「っーーーこの!」
頭の痛みを堪えながら立ち上がろうとするが、それをさせまいと後ろから衝撃が奔る
「ーーーああ!」
衝撃の正体は多分ガンドだろう。北欧由来の古い呪いで、指を差した相手に呪いを与える単純なものだ。優れた魔術師が放つガンドは高密度の魔力により物理的な威力を伴う「フィンの一撃」と呼称される程の魔術のなるが、これはそんな大したものではない。精々が突き飛ばすくらいの衝撃と体調が悪くなる程度の呪いを与える程度の物だ。だが、立ちあがろうとした私を今度は前のめりに倒れさせる程度のことは出来たらしい - 29二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 07:41:13
おわぁ…典型的ないじめっ子とその取り巻きか、そんなことしてるから抜かれるのでは(正論パンチ)?
- 30千界樹の記録23/10/18(水) 08:23:37
何とか受け身は取れたが、頭が茹だった様に思考が澱む。貧血と熱中症が同時に襲ってきた様な感覚だった
「木端はそうやって跪いてなさいよ!」
「ホント、生意気なんだけど?お前」
また髪を掴み、無理やり顔を上げさせる女。3人で寄って集ってリンチとは、こんな程度の女が名家の出身とは笑わせる
「その足りない頭でもわかった?アンタみたいな大した歴史もない魔術師は精々私達の顔色を伺って媚びてれば良いんだよ」
等と、何処までも馬鹿らしい世迷言を吠えている女達。けれど、生意気だと思う魔術師1人、正面から成績で上回れば良いだけなのにこうして数の有利を取ってタコ殴りでしか自分の家を誇って見下す事しかできないなんて……
「……私1人にこうまでして誇れることが家柄しかないの?」
「ーーーあん?」
余りにも相手が情けなくて、思わず煽ってしまった。まずい、と思った時には遅く、間も無く目の前のプライドだけは人一倍あるだろう女が沸騰する
「テメーーー」
「そこまでにしておけよ?」
キレた女が何かをする前に、静止の声が掛かる。その声は、私にとっては聞き覚えのある、最近はいつも聴いてきた声。女達が後ろを振り返ると、入り口にもたれかかる様にして男が1人立っていた
「ーーー何だよお前」
「誰でも良いだろ?やかましく騒ぎすぎだ」
隣の部屋にまでキンキン響いて敵わん、と彼ーーー先輩はゆったりとした足取りで学室の中に入ってくる。呆気に取られていた女の中の1人が、思い出した様に口を開いた
「アンタ、確か没落したユグドミレニアだろ」
「だったら?」
先輩がそれを肯定すると、3人は堰を切ったように笑い出した
「キャハハ!所詮2流の魔術師!」
「大した力もないのに、時計塔に刃向かったクズの集まりじゃん!」
「それが?え?なに?私達に歯向かおうっての?」
耳鳴りがするくらいにキャンキャンと笑う3人。至近距離で聞かされるこっちはただでさえ調子が悪いのに頭に響くのは勘弁して欲しい
そして、散々に笑われている先輩は、何も気にする様なそぶりは見せずに、呆れた様な顔をしていた
そして笑い声が漸く収まってきたタイミングを見て、逆に女達を嘲笑う様に口を開く
「なんて言っても別に気にしないけどさ、少しは自分達を省みたらどうだ?」
「ハア?弱小魔術師が何ーーー」
「もう詰んでるぞ」 - 31二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 19:22:25
下に構う暇があるなら自身の魔術を磨くのが生粋の魔術師だものねえ
- 32二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 20:05:02
保守
- 33千界樹の記録23/10/18(水) 23:17:11
彼が言った直後、3人の女は突然バタリと床に倒れ伏した。そして、喉を掻きむしる様に苦しみ出す
「あーーーカーーー」
「う、アアーーーカヒッ」
声が出ない様だ。と言うより、呼吸さえもまともに出来ていないかもしれない。これは、一体ーーー
そんな私の疑問はすぐに解消された。彼女達の側から、小さい蛇の様なものが現れる。の、様な。とは、それが本物の蛇ではなく、水が蛇を形作って、まるで生きているかの様に床を這っているのだ。これが魔術によるものは誰の目にも明らかだった
「魔術師だぞ?何の準備も無しにこんなやかましいところに来るわけないだろ」
苦しむ3人を見下ろして、呆れた様にため息を吐く先輩。恐らくは部屋に入る前に既に魔術でこの蛇を作り出して侵入させていたのだ。そさて、それを悟られない様にあえて声を掛けて注目を集める。そしてまんまとこの3人はそんな簡単な誘導に引っ掛かって、見事に足元を噛まれてしまいこのザマというわけだ
「まあ安心しろ、死にはしないさ」
単に呼吸器官系を一時的に麻痺させただけだからなーーーそう語る先輩の側へと寄っていく3匹の水蛇。先輩の側まで酔ったところで一気に昇華、蒸発して行った
先輩の言葉が本当ならあの3人はしばらく生き地獄を味わうのだろう。もしかしたら、あのまま苦しみ続けるよりは死んだ方がマシかもしれないがーーー
先輩は私の足元に一滴の水を垂らす
「『流れ水 泥を運べ』」
床に落ちた水滴は渦を巻く様に震え、私の中に打ち込まれた呪いの影響を吸い上げていく。水の属性が持つとされる浄化の作用を使った呪詛を吸い上げる魔術だろう
熱病に浮かされた様な感覚が徐々に薄れていく。落ちた水滴が無色透明から真っ黒に染まる頃には呪いの影響は全てその水に吸い上げられていた
「立てるか?」
先輩は私に手を差し伸べる。だけども、それを素直に受け取る気はしなかった
「っ……自分で、立てる!」
魔術師にとって、迂闊に自身の手を差し出す行為は危険なものだ。例え相手が先輩でもそう簡単には出来ない。先輩の手を借りなかった自分の行為に理由を付けて、自力で立つ
「その意気だ。だけどまあまあ無事で何よりだ」
「見てたの?」
「いや?」
余りにも都合の良いタイミングでの乱入。よもや出るタイミングを見計らっていたのではと疑ったが、先輩は苦笑しながら首を振った - 34千界樹の記録23/10/19(木) 08:51:51
「ロッコ先生の元から戻る途中さ。此処はあの人の所から昇降口までの最短距離だよ」
キャンキャンと声は遠くからでもよく聞こえてたけどなーーー先輩はそう言って踵を返す
「まあ無事なら良いんだ。その薬でも塗っときな」
と言われてふと気づく。自分の手にいつの間にか瓶詰めのクリーム状の薬品があった。魔術による解析をかけると、どうやら複数の薬草を混合させた傷薬の様なものの様だった
前を向いた時には、もう先輩の姿は無い
「準備良すぎだし、お節介だし……先輩」
少し顔に熱が残っているが、これはただの呪いの後遺症だろう。そう自分を納得させた
先輩は、よく分からない人物だけれど、とりあえず信用はできる人だった
それが、この日がきっかけとなったのだろう。自然と先輩を目で追うようになった
それからは、まあ多少は見習っても良いかなと先輩の様に周囲との交流も持つ様になり、そのおかげで、自分には無い発想や視点を知ることができたのは……まあ感謝している
それにしても随分と、生意気な後輩だったな、と今でも思う。今もだいぶ生意気な態度をとっていると思うけど
市街地の奥に足を踏み入れる。古い建物が並ぶエリアは、先程までの景色と違って随分寂しい雰囲気を感じる
「この辺の何処かに……先輩が潜伏していた場所が」
『マスター』
マルグリットの側へ先行していたアーチャーが霊体化を解除して姿を現す
「どうだった?アーチャー」
「簡単に建物の中を見て回ったが、今の所それらしき物は見当たらないが……」
と、アーチャーは訝しげな表情を浮かべて上を見上げる。その視線の先を追うと、古いアパートの屋上から飛び降りる代行者の姿があった
「潜伏場所に間違いはないと思うけど、今も居るとは言ってないわよ?」
それでも痕跡から状態とかまではわかると思うけどね、と綺麗に道路に着地する代行者。こんな朝から随分と派手な登場の仕方で結構な事だ
「こんな早い時間から化け物披露して良いんですか?」
「周りに人がいないのは確認済みだから、誰にも見られてはいないわよ?」
修道服を叩き、埃を落とすルーナ。その彼女の後ろにライダーが姿を現したライダーは苦笑している
「ーーーじゃあ、いきましょうか?」 - 35二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 09:07:47
なんというか、魔術師として後輩に抜かれて反撃されることすら想定してないって二流どころか3流じゃねぇか…
- 36二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 20:11:26
- 37千界樹の記録23/10/19(木) 22:45:59
「ーーーとまあ、大方あの2人の考えることはそんな所だろ」
凌我はアイスコーヒーを片手にセイバーに対して自身の予想を語っていた。ルーナとマルグリットの性格を考えて、自分の行動を予測されている事を考慮しての自身の次のアクションを取る。お互いを知っているからこそ裏の裏を読んでこうして動いているのだと
凌我とセイバーは、あれからすぐにセーフゾーンを離れて一度拠点に戻り、また直ぐに電車を使って隣街のカフェで寛いでいた
別にこの行動自体に特に意味はない。日中は戦闘を禁じられているし、神秘の隠匿に密に関わる問題だ。今の時間で彼女達と顔を合わせても何かしら不都合はなかったが、セイバーと自身の回復に少しでも時間を割きたかった。だからこうして至極ゆったりとカフェで英気を養っている、と言うわけだ
リラックスできる時間は、俺はもちろんセイバーにも必要だろう
セイバーも今は現代風の服に身を包み、魔術による認識阻害で周囲の目を引かない様にしている。好奇の視線に晒されるのはセイバーにとっても良い影響はない無いだろうし、俺にとっても面倒ごとはゴメンだった
「マスターの考えは理解しているが……放棄したあの場所は、あのままで良かったのか?」
セイバーの懸念は、速度重視でセーフゾーンを後にした為に残されている霊薬の残りや散乱している各物資等の遺留品だろう。下手をすればそこから俺たちが未だ万全の状態にない事を勘付かれる恐れもあったが……
「残った陣営はあの2人だけ。今更多少の情報戦での有利不利にさしたる意味はないさ」
そう、最早3陣営となり、アーチャーとライダーが手を組んでいる以上、次の戦いがこの聖杯戦争最後の戦いとなるだろう。であれば、多少情報戦で不利になろうとも何も変わることはない。此方が万全な状態では無いとて、戦力差に変わりはない
仮に此方がセーフゾーンを綺麗にしてセイバーの状態を隠匿したとしても次の戦闘時にはバレる。要は遅いか早いかの違いでしか無いし、セイバーの状態に対して何かしらの策を講じる時間もない
このまま逃げ回ってセイバーの回復を待つ手もあるが、それではユグドミレニア復権に相応しい勝利とはならない
どの敵もどの戦いも、逃げず隠れず真っ向叩き潰す。魔術師らしからぬ英雄然とした戦いだが、そうしてこその、誰にも恥じることのない勝利でこそ、我ら黄金樹再興の花火になるのだ - 38二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 07:58:48
保守
- 39千界樹の記録23/10/20(金) 08:50:26
「問題があるとすれば、令呪の数だけ俺達の不利って事くらいだ。これはもうこっちの状態なんて意味は無いからな」
こっちは2つ、向こうは3つと4つ。これが事実上最後の戦いとなる以上向こうは令呪を遠慮なく消費して自身のサーヴァントを強化できる。だが、此方はそうはいかない
「初めに言った通り、俺達が使える令呪は実質残り1画のみだ。切るタイミングはかなり大事になる」
そう。俺の保有する令呪は現在2画だが、この戦いで使えるのは1画迄。つまり実質最後の令呪となる。向こうの様に潤沢に使用できるわけでは無い
何故ならそれはーーー
「他のメンツは兎も角、あの聖杯は俺が復元した。その出所を知っているのも恐らくは俺だけだろう。だからいざという時は、セイバーの力で抹消する必要がある」
あの聖杯は、数多くの聖遺物を複合して製造された模造の聖杯。その力は亜種聖杯とは比べ物にならない完成度であると同時に、あの聖杯の出所が世界大戦末期の、あのナチ共の手によって作られた物だと言う事だ
「当方は今の歴史に対しては大枠でしか知識はないが……それ程にマスターが警戒する程か」
「ああ。世界大戦に敗北した当時のドイツは、それはもう必死になって勝つための手段を模索していたからな。それこそ手段を選ばずに」
あの聖杯の部品をかき集め、復元したのは俺達ユグドミレニアの魔術師達。ダーニックの遺した手記を元に手に入れた当時の設計図を元にほぼ完璧な状態に仕上げた自負がある
「しかし、あれ程の完成度で組み上げるとは、マスターも苦労したのでは無いだろうか?」
「かなりな。ゴルドルフのおっさんには苦労をかけたよ」
ユグドミレニアに属する魔術師、ムジーク家のホムンクルス達には世話になった。家長の不死鳥は何故かホムンクルス達にアレコレと言われながらヒーヒー言いながら率先して手伝ってくれたしな。終わる頃には白目を剥いて気絶してたよ
そのお陰でサーヴァント7騎召喚しての聖杯戦争という、破格の性能を誇る模造聖杯戦争を、こうして行えているのだからな
が、それ故にいみ末の不安要素があったーーー
「だから怖い。設計には無い仕様が、万が一あの聖杯に組み込まれていたとしたら、と考えるとな」
もしも、あの聖杯が一定量の魔力が溜まった瞬間、又はナチ以外の人物がアクセスした瞬間に爆弾とかの機能に突然切り替わりでもされたら全て終わりだ - 40二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 20:13:24
保守
- 41二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 08:00:38
ほ
- 42千界樹の記録23/10/21(土) 09:00:19
その時、対処するだけの余裕と時間があればいいが、無い場合は最悪だ。逃げる事もできずに爆発に巻き込まれて死ぬなど、絶対に御免被る
その時のために、聖杯を一瞬で消滅させるだけの火力が必要となる。それを実現する魔術も礼装も俺の手には無く、セイバーの宝具が不可欠だ。しかし、セイバーの宝具はその破壊力こそ対城宝具として絶対的なものを誇るが、その反面、たとえ竜の炉心を持つセイバーといえども如何しても即時発動とはいかず、多少なりとも溜めの時間を要する。万が一の備えるには可能な限り即応して発動できる様にする必要があった。それには宝具発動のタイムラグを限りなくゼロに近づける為にこの令呪は必要不可欠。だからこそ、俺はその事を召喚した次の日にはセイバーに包み隠さずに話し、それを承諾してもらっていた
幸い俺には聖杯そのものに賭けるほどの願いは無い。セイバーの願いは出来れば叶えさせてやりたいが、そこはもうあの聖杯次第と言える
「もし、そうなれば……」
「ゴットハルトには悪いが、そうなった時は遠慮なく破壊させてもらうさ」
改めてセイバーと擦り合わせを行う。土壇場で意見の食い違いによる対応の遅れで手遅れになるなんて馬鹿等、目も当てられない無様は晒せない。特にセイバーの対魔力の前には令呪の1画の拘束力では、意思次第で耐えられる可能性が高い
1画も無為には出来ないからこそ、お互いの意思を統一させておかなくてはならない
「ところでマスター」
「どうした?」
「差し支えなければだが、君は残り2人のマスター。彼女達についてどう思っているのか、聞かせてほしい」
「どう、か……」
これはまた妙な質問をするな。そう思うが、答えるのは難しくはない
「そうだな。まずマルグリットは生意気な奴だけど、アレは単に気持ちで負けない様に気を張っているだけで本質は淋しがり屋だ。ああやって突っかかって来ることがいい証拠だな」
初めて会った時のことを思い出す。廊下でネックレスを落とした所を拾ったのが始まり
そう言えばあの時から小生意気な態度だったか?
「そして同時に素直な奴でもある。授業は真面目だし俺のアドバイスもしっかり聞き入れて自分の糧にしている。そう言ったところは可愛いよな」 - 43千界樹の記録23/10/21(土) 20:44:58
笑って語る凌我の視線は窓の外に向いている
その表情はどこか優しく、あの魔術師の少女を彼なりに大事に思っているのだろう
「アイツの才能は200年程度の歴史しかない家にしては高い。あの負けん気と素直さらがあればアイツは大成する」
その分多くの嫉みを買うことになるだろうが、その頃には多少の火の粉は払える力を手に入れているだろう
あの時の様に、態々助け舟を出す必要も、もう無いかもな
「ルーナはマルグリットと違って見たままの奴だ。聖堂教会所属の代行者で上級の死徒だろうと異端者だろうとあの戦鎚でミンチにするバケモンだ」
彼奴とのファーストコンタクトは最悪の一言。何せ人の管理してる土地に踏み込んで好き放題嗅ぎ回っていたところに、時計塔から一度戻って色々と処理をしていた気不満最悪のタイミングで会ったんだからな
結果は俺のボロ負け。あの死徒の介入が無かったら俺はあの時にバラバラ死体になっていた事だろう
先程までとは打って変わり苦笑する。余程酷い目にあったとだろう。これまで見てきたあのライダーのマスターの違いぶりを見れば大体のことは察しがつく
「アレは良くも悪くも過激かつ敬虔な信徒だよ。あの信仰心は本物だし、でなければあんな超抜級の聖遺物を扱えない」
代行者としての実力も桁が外れている。そもそも時計塔を統べるロードですらあんな膨大な魔力を域を吸う様に生成するなど出来るものがどれだけいるのやら
それに加えてあの身体能力。あれ自体に特別神秘が介在していないんだから顔面蒼白ものだ
「あとは、性格面で言えば裏表は無く、死徒や異端者と認めない限りは誰にも優しい奴でもある。実際、彼女には助けられた所も多い」
セイバーは俺の昔の記憶を見たから言っちまうけど、凪が死んだ……いや、死徒となったアイツを殺した夜も、アイツは何も言わずに寄り添ってくれたのは、感謝しているんだ
凌我は哀しげな笑みを浮かべて言う
「ま、どちらにせよアイツらは今は敵であっても、可愛い後輩と親しい奴であることは変わらない」
初めの頃に言った通り、斃すのはアイツらのサーヴァントに限定するし、何度も言うがマスター狙いで勝ったところで誇れるものではないのだから - 44二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 23:59:47
凌駕も2人のことは憎からず思ってるんだ…
2人共もうちょい押せば堕ちるでしょ! - 45二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 10:50:31
保守
- 46千界樹の記録23/10/22(日) 18:10:30
「ではマスター。一つ尋ねるが………」
「ん?」
アイスコーヒーを飲む凌我に、それまで彼の言葉を聞いていたセイバーが尋ねる
「マスターは彼女達が同時に窮地に陥った た時、どちらか片方のみしか助けられないなら、どちらを助ける?」
「さーて、こっこかなー?」
ルーナは先程から手当たり次第にドアを破っては中を確認して凌我のセーフゾーンを探っている。いくら廃屋や廃アパートと言っても、鍵が掛けられていたり中には鎖等で厳重に施錠されて浮浪者や不良が屯したり勝手に住み着くのを防いでいるはずなのだが、最も簡単に其れ等を足払いの様な動作で蹴破っている。蹴られたドアは歪みながらすごい勢いでこじ開けられていき、そこから中に堂々と侵入して探索をしている
しかもこの女、自分が出す音を同じ周波の振動をぶつけて蹴破った時の音を相殺して遮断している。だからかドアがベコンと凹み、歪んでいるのに音が全くしないと言うのは違和感が凄まじい
しかもやはりと言うかなんと言うか、音はシャットアウトしている癖に、ドアを破壊するのには特に身体強化などをしている様子がない。素の力だけでぶち抜いていると言うわけだ
変わらず怪物の様な膂力を披露する銀髪の女性に、さっきからずっと引いているマルグリットは、アーチャーと顔を見合わせている
「あの女……実はサーヴァントだったりしない?」
「そう思う気持ちも理解できるが、奴は人間だマスター」
「鍛えてるだけでは無いのは確かだね。そもそもの身体が特別なんだろう彼女は」
近くに居たライダーもマルグリット達に同意している。と言うか同盟関係とは言え自身のマスターの側についていなくて良いのだろうか
そんな事を考えながらあの代行者がドアを破壊していくのを見ている。そしてーーー
「あら?」
もう何戸目かの建物のドアを蹴り破ったときにあの代行者の反応に変化があった
「ーーー見つけたわよ」
振り返ると同時に不敵に笑うルーナ。そして、ひと足先にそのまま中へと入っていく。その建物はこの廃墟群の中でも一際古い一軒家。他の建物達と比べても、なんと言うか、不思議なくらい目立たず、存在感も無い影に隠れそうなこじんまりとした佇まいであった
こじ開けられたドアも歪むどころか蹴られたところから二つにへし折られている - 47二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 22:49:47
保守
- 48千界樹の記録23/10/22(日) 22:57:35
「……化け物」
これまでの惨状とへし折られたドアを指してルーナをそう標するマルグリット。その評価にはライダーも後ろで内心頷いてる。一言だけ呟いて、マルグリットも中へ入る。それに少し遅れてライダーも中へと赴き、アーチャーは屋根の上へと見張りに跳び上がって行った
入り口を潜ると蝋燭立てに立てられた使いかけの蝋燭があった。蝋燭は一見大分古臭く風化しかけている様に見えるが、ルーナはその蝋燭にいつかのライダーで銀色の聖火を翳すと、聖火が揺らぎ、蝋燭に微かだが光が灯り、古臭く見えるのは魔術でそう偽装していたのだろう。灯された蝋燭は新品同様の代物であった。つまりこの蝋燭は凌我が此処に置いたと言うことになる
「彼が此処に置いた様ね。灯りでも欲しかったかな?」
そう言いながら奥へと進んでいくルーナ。マルグリットも蝋燭を一瞥すると、すぐに彼女の跡を追う
建物の中は本当に廃屋と言ったあり様で、一応石で基礎部分が作られていたものの、殆ど剥き出しの状態で床は抜け落ち、壁にも剥離の跡が多々存在している
無駄に広い屋敷ではあるが、住む人がいなくなればボロボロに廃れてしまうのも道理だろう
ドアも出入り口を除けば全て取り払われており、隙間風も吹いていた
部屋も所々風化しており、夫々の部屋やトイレ、水場等に蝋燭の跡や木の台、鉄骨が落ちている所もあれば砂が溜まっている所すらあった
「ふんふん……」
コツコツとヒールを鳴らしながら興味深そうに部屋を見て回るルーナ。多分あのヒールで床を叩きながら音波を発して建物の構造自体を調べているのだろう
マルグリット自身も魔術で探知を行いながらルーナの後に続く。しかし、今の所探知の結果は芳しくは無い
「それにしても、良くこんなところに一夜でも過ごそうと考えたわねー」
「先輩ですから、回復するまでの避難所に出来ればいつでも破壊されても良い様に、って所ころじゃ無いですか?」
ルーナの言葉にそう返しながら探査を続けていく。しかし、これでは本当に廃墟そのものではないか
「本当に此処に先輩が居たんですか?」
「間違い無いわよ?此処の入り口を見てすぐにわかったから」
「?」
驚いたのは、魔術的な仕掛けがほとんど施されていない所だ。こんなもの、私たちが差し掛けていたらひとたまりも無い。侵入者感知の結界すらも張っていないなんて、あまりにも無防備な、とても先輩らしくない杜撰な代物だった - 49千界樹の記録23/10/23(月) 08:47:38
ここね」
マルグリットの先を歩いていたルーナが足を止める。其処がこの廃屋の一番奥の部屋だろう。恐らくは寝室だったらしきその部屋もまた例に漏れずボロボロの有様で、しかし他の部屋とは明らかに違う点があった
「の、様ですね。薬草や包帯が散乱している」
「ここで怪我の治療をして、一夜を過ごしたって所かしら?」
ルーナは空の薬瓶を拾い上げ、残っている薬の残り香を嗅ぐと、一気にウゲッとこれまでの涼しい表情を崩して苦々しい顔を見せた
「これ、あの時の薬と同じ匂いしてるわ」
そしてそのまま薬瓶をポイ、と放り投げて私の方向へ振り返る
私は彼が置いて行ったであろうケースを物色していた
「薬の数と、包帯の使用状態から見ても、相当な怪我を負ったのは間違いなさそうですね?」
「ええ、そしてその傷もまだ治療し切れてはいない」
特に、サーヴァントが受けたダメージを一晩で回復させ切るのは難しいだろう。ならば、今も尚セイバーは手負の筈。今夜迄に完全回復するはやはりあのセイバーのルーンをもってしも難しい筈だ。切り傷刺し傷は如何とでもなろうが、片腕の欠損と内部にまで届いた宝具のダメージを抜け切らせることは出来ないだろう
「態々こんな杜撰な対応をするって事は……今夜にでも決着をつけるつもりの様ね」
ルーナは言いながら、部屋の隅に置いてある古びた器を指差した
「アレに霊水が満たされている……」
「見たいですね。何か意味が有るのでしょうか?」
「大いに、ね」
首を傾げるマルグリットに、ルーナはフフ、と笑って彼女の側まで寄る。そして耳元に口を持っていき、口を開いた
「此処も一つの工房よ?」
「……ヒャッ!」
バッ、と驚きの余りその場を飛び退くマルグリット。しかし、ルーナの位 悪戯に憤るよりも先に疑問符が生まれた
「ここが、工房?」
「ええ。精巧に作られた魔術工房。とは言っても、人為的な工程が非常に少ないから、ほとんどの魔術師にはわからないでしょうね」
ルーナの言葉にイラッと来たが我慢する。それよりも、大事なのはここが工房で、しかもその事に気付いたのがよりにもよって目の前のこの女で有ると言う点だ
これが他の魔術師であるならばいざ知らず、聖堂教会の人間に魔術知識で遅れをとったことになる
はっきり言って、メチャクチャ悔しい
しかし、そんな私の感情を置いてけぼりにして、この女は言葉を続けていく - 50二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 19:16:25
ほしゅ
- 51千界樹の記録23/10/23(月) 22:05:58
「入り口には何が置かれてた?」
「……蝋燭」
初めの部屋に置かれていたのは?
「砂の塊」
じゃあ次の部屋は?と聞かれて、其処にあったのは錆びた鉄骨の残骸で、その反対側には木屑が積まれていた。そして彼がいたと思しき部屋には水の器ーーー
「ーーーあ」
「気が付いた?」
微笑むルーナと顔を見合わせて頷く。確かにこれは巧妙な造り方をしてある
「彼の故郷で古くから用いられる五行という概念。木は火を産み、火は土を産み、土は金を産み、そして金は水を産む。これによって世界を形作られていくと言う考え、概念」
「この廃屋を一つの世界と見做して、其々の属性を持つ品を対応する様に配置する。先輩は水属性を持つ魔術師だから最奥に水が来る様に配置する事で効果は高まる」
そして、そうする事で自然と五行概念による陣が作られる
「あとは空気の流れる向きさえ超絶して仕舞えば五行相乗によりマナが活性化して何一つ自発的に魔術を用いる事なく自然に生まれる神秘だけで隠形の効果を持つ工房の出来上がり」
これは実に巧妙かつ精密な構造と技巧を凝らしたものだ
東洋の魔術的概念など、殆どの魔術師は知識すら持っていない。それ以前に西洋魔術と比べて東洋の呪術を始めとする神秘概念は格下とされている為か、その様なものがあったとしても誰も見向きもしないだろう
マルグリットは先輩への対抗心から東洋の魔術的歴史を学んでおり、ルーナは以前より凌我から聞き出していた。だからこそルーナは仕掛けに気づくことができ、このセーフゾーンを見破ることができたのだ
アーチャー見つけられなかったのも道理だろう。何しろ人為的な細工等殆ど無いのだから
知識のないサーヴァントでは、行為のキャスターでも無ければ見つけられなかった筈だ
「一晩避難するくらいなら十分使用に耐えられるヘイヴンね」
「用意周到ですね先輩も」
それ程に、この聖杯戦争にかける想いも強いのだ
「さて、彼の状態もわかった事だし、この辺で調査を切り上げて戻りましょ?」
ルーナはアッサリと調査終了を宣言してその場から離れていく
「もう終わるのかいマスター?」
「ええ。彼がこの場所をこのまま放棄している以上、今夜にでも決戦を仕掛ける気よ。此方も相応の準備をしないとね」
「……ですね」
調査を終え、廃屋を後にする4人
彼女達、そして彼の戦いの終わりも近づいていた - 52二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 07:02:48
保守!
そろそろ決着かあ - 53千界樹の記録23/10/24(火) 08:35:59
そして、日が暮れるーーー
月が上り時刻は23:00
幸いにも今夜は雲が少なく月がよく見える。満月の夜ーーーとまでは行かないが綺麗な月に照らし出される此処はまだまだ暗いものの、十分な視野は確保されている。
コンテナの山に挟まれた特殊車両用の道路
幅広く取られたこの空間は、余計な障害物は無く、風情こそ足りないが決戦の場に丁度いいだろう
凌我はセイバーと共に港のコンテナ置き場に立っていた。魔術回路を暖機運転の様に軽く回しながら、さながら俺は此処にいるぞ、と声高に宣言している様でもある
この聖杯戦争を終わらせる為、彼は残った2人を待つ
あの2人は日中の間には此方が手負いのままである事を掴んでいるだろう。彼方はほぼ回復している事は間違いないだろうし、その上サーヴァントの数と令呪の数で勝っている
これ以上ない程に向こうにとって有利な条件が揃っている。さらに言えば、セイバーの戦力をこれまでも余す事なくこれ迄の戦いで見せつけてきた
だからこそあの2騎のサーヴァント、ライダーとアーチャーもこの機を逃す手はない筈だ
今夜を逃して、セイバーが全快してしまおうものなら勝ちの目はさらに薄くなる。例えこの場が此方が設えた戦場だったとしても、乗り込んでくる
今夜が、彼女達にとって最も勝機のある瞬間なのだから、地の利の不利を呑んででも挑んでくるーーーそう確信を持って今此処に立っている
「マスター。準備はできているな?」
「当然だ」
いつアーチャーからの奇襲が来るともわからない状況の中、警戒を緩めずに待ち人の到来を待つ
「ーーーいい月ね」
コンテナの影から聞こえる聴き慣れた、透き通る様な声に思わず口角が上がる
漸く、この戦争に終止符を打つ時が来た
「決着を付けるには惜しいくらい。今からでも一緒に月見でも行かないかしら?」
「馬鹿なこと言ってないで集中してください。此処はもう先輩の陣地です」
2人揃ってサーヴァントを伴い凌我の前にその姿を見せる
月明かりだけがこの場に集う6人のマスターとサーヴァントを照らし出す
「さて、気の利いた言葉を言っても構わないが……」
そんな言葉は不要だろう
お互い、此処でケリをつけるつもりで此処に集い、サーヴァント達もお互いを牽制する様に武器を握っている。最早状況は嵐の前の静けさを超えて爆発寸前の、秒読みに入った爆弾も同じ
後は石の一つでも投げればあっという間に弾けるだけだ - 54二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 13:47:28
ルーナが想像以上の怪物だった…
- 55二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 22:54:17
保守
- 56千界樹の記録23/10/24(火) 23:33:25
て、あればーーー
「さあ、やろうか……!」
凌我の言葉を契機に、この場の全員が臨戦体勢となる。セイバーは魔剣を構え、ライダーは手にした剣を翳し、アーチャーは矢を番える
そして、示し合わせたかの様にマルグリットとルーナが令呪を刻まれた手を頭上に掲げた
「令呪を以て命じる!アーチャー、全力で勝って!!」
「令呪を二つ重ねて厳命します。ライダー、セイバーを倒しなさい」
彼女達の言葉に呼応して真紅の輝きを放つ令呪。その魔力の全てが其々のサーヴァントに還元され、彼等に力と強い使命感を齎す
令呪とは時に奇跡を起こすもの。強大な魔力に支えられた2騎のサーヴァントの力は、セイバーに届きうる可能性は十分にあるだろう
「マスター」
「ーーーああ」
セイバーの言葉に、此方も頷く
初めからそのつもりさ。どちらにせよ、これが最後の戦いだ。お前を縛るものはーーー最早ない
「勝て、セイバー」
「ーーー委細承知、魔剣起動……!」
聖杯戦争の、最後の夜が始まる
火蓋を切ったのはセイバーの魔剣だ。真っ直ぐにライダーへ目掛けて突撃する。その速度はこれまでのどの攻撃よりも鋭く、重い。ライダーへと駆け抜けるだけでもアスファルト舗装された通路が砕け、セイバーの疾駆する軌道上が綺麗に抉れていく。
判断は刹那、ライダーも反射的に剣を構え、真っ向からセイバーの突撃を を受けに行く
激突するセイバーとライダー。その勢いと衝撃はコンテナ群をカタカタと揺らすほどの突風を吹き荒らす
セイバーの初手から甘さの無い問答無用の突撃に対するライダーもまた、令呪2画を使っての強化を受けている。セイバーを斃すと言う一点に集約されたその命令を遵守する限り、令呪の魔力は全てライダーの強化に費やされる
そんな状態での、セイバーの初撃。ともすればこのままけ決着がつてもなんらおかしく無い魔剣の剣戟を、果たしてライダーは受け止め切って切っていた。幾ら令呪の後歳があるとは言え、のセイバーの攻撃力を受けて揺るがずに立っている
「ーーーっ」
セイバーの破壊圧に負ける事なく、正面から切り結ぶことができていた
「ーーー見事だ。最後の皇帝」
セイバーは相手を惜しみなく賞賛し
「どうも……!」
ライダーは、そんな賞賛を受けとっていた - 57二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 06:56:44
初手令呪使ってるしマイケルに至っては二画重ねられてる…コワー…
- 58千界樹の記録23/10/25(水) 08:42:55
ファーストコンタクトであるセイバーとライダーの正面衝突は互角の結果に終わる。そきて、そのまま互いの剣戟を繰り広げていく
「フッーーーセイッ!!」
「ッ……!何の!」
セイバーは魔剣を縦横無尽に手繰り、令呪によって強化されたライダーの防御を力付くで切り崩しに掛かる。対するライダーは、矢張り令呪2画分の強化は大きく、以前の戦いでは防戦一方であったが、今この瞬間はセイバーと完全に互角に鎬を削る程の力を見せる
さらに、令呪による強化だけに留まらずーーー
「光よ!」
「ヌウーーー」
ライダーの剣先から放たれる眩い光の槍。これは聖堂教会が用いる秘蹟の類にあらず、極めて単純な魔力放出によるもの
ライダーのスキル「終焉特権」は多量魔力消費を伴うが自分自身が本来持ち得ないスキルでも一時的に保有することができる。それにより今ライダーが獲得したスキルは「魔力放出(光)」本来ならば聖人、聖女、聖騎士の類にしか許されないスキルであるが、令呪によって強化されている今であれば、終焉特権による習得に手が届く
その力は単純に武器に纏わせて威力を強化するに留まらず、こうして武器を触媒に文字通り放出する事で魔力自体を攻撃手段にすることも出来るのだ
「ならばーーー」
セイバーは魔剣を片手にライダーの攻撃を捌き、直後に腹へ蹴りを打ち込む。セイバーの膂力から放たれる蹴りはさしものライダーも数mは後ずさる。たかが5m程の距離、サーヴァントにとっては瞬く間に詰められる距離であると同時に、致命的な隙を生む距離でもある
セイバーが片手に虚空に刻むのは原初のルーン。大神オーディンが手ずから刻み、それを継承した戦乙女より授かった現代では再現不能な神代の魔術の一つ
刻まれるは加速、硬化、雪のルーン。現代魔術師が用いれば小さな氷の礫を発射する程度の魔術となるだろうが、神代の人物ーーーそれも大英雄たるシグルドが用いれば、その規模は変わる
「これはーーー!」
ライダーの目の前に展開されたものは透き通る水晶の様な剣。ルーンで作り上げた雪を更に硬化のルーンで氷へと押し固める。その氷の純度によりまるで水晶の様な透明度を誇る
それを剣の様に鋭く形成しているのだ
「どう捌くーーー行け!」 - 59二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 17:58:14
令呪2画+魔力放出で互角かー…
やっと互角なのか - 60二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 17:59:25
まぁ神代の大英雄と最後の皇帝ならこんなもんじゃねって具合な気がする
- 61千界樹の記録23/10/25(水) 22:50:14
セイバーの号令と共に撃ち放たれる氷の剣
その数は裕に50を越える。そして、態々言うまでもないが、その一振り一振り全てが令呪で強化されているライダーを屠るに十分な威力を秘めており、その全てがライダー1騎へと向けられているのだ
これまでセイバーが繰り出してきた魔剣のどの攻撃も必殺の威力を秘めていたが、これは更にその上をいく物である。動かなければ一瞬のうちに全身を引き裂かれて消滅は免れない。かといって、左右前後に避ける道はない。ライダーが何処へ避けようと剣は直撃コースからは外れない様に配置されている
避ける事はほぼ不可能。そして一撃でも直撃を貰えば死が訪れる魔剣の弾幕をさも当然の様に行使するセイバー。幾ら神代英雄であろうとも、サーヴァントとしての規格内で此処までの暴挙は、相当な負荷を霊基に生じている筈ーーー
これが最終決戦だと、大盤振る舞いを敢行するのはどちらも同じと言う事か
更に、これ程の氷剣の弾幕だけでも死がすぐそこに見えていると言うのに、セイバーは更に魔剣を構え此方に突撃をするかの様な姿勢を取っている。その様を見た瞬間、ライダーは悟る
ーーーこれは氷剣とセイバー自身の攻撃による2段構えの攻撃。氷剣による魔の弾幕とセイバーの直接攻撃による屠殺の構え
襲い来る無数の剣を凌ぐ事に意識を割けばセイバーの斬撃が、セイバーの攻撃に意識を向ければ氷剣の弾幕がーーー
対処を僅かでも誤れば終わるし、誤らずともセイバーは此方を逃さないだろう
油断どころか、まるで格上を相手取るかの様な屠殺の布陣に、ライダーは背筋に冷たい物が走るのを止められない
人型の敵1人を斃すには余りにも惨すぎる過剰火力を前に、ライダーはなす術を失いかけたーーー
そう、ライダー1騎ならば
「私を忘れるなセイバー!」
機関銃の様に発射されるアーチャーの矢がライダーは迫る氷の剣を次々と撃ち落としていく
彼女もまた令呪によって霊基が強化されており、セイバーを倒すためならば課せられた命令が彼女に限界を超えた力を発揮させるのだ
アーチャーが撃ち放った矢は、全てがAランクに届きかねない威力を持ってセイバーの剣を破壊していく。アタランテのステータス上の筋力値はDランクと、低い水準であるが、彼女の宝具『天穹の弓』の特性により、山を引き絞る程に威力を増し、限界を超えて引き絞る事でその威力はAランクに届くだろう - 62千界樹の記録23/10/26(木) 08:49:22
だが、それ程の威力を引き出す為には、矢張りそれなりのモノが必要である。間違っても、こうも連続して高威力の矢を撃ち続ける事は無理があるが、令呪で強化されているこの瞬間は、Aランクに届かないものの、それに近しい威力の矢をこうして速射することが可能となっているのだ
次々と砕け散る氷は剣の原型を留める事なく、立ち所に破片となっていき、それでも元の速度を維持したまま降り掛かる
「ーーーフッ」
セイバーは、予めアーチャーの矢に阻止される事を想定していた。砕け散った破片は、破片であろうとも楔の様に鋭く、殺傷力を保持している。剣の時よりは威力は減衰しているが、その規模と密度は大小様々な破片に変わった事により増しており、視界を埋め尽くすほどの雨となって変わらずライダーへ目掛け落ちていくのだ
「だが、これならば!」
それでも剣とその破片では、大きさも重さも異なる。砕けた破片では、ライダーの鎧を貫く事は出来ない
ライダーは砕けた破片が降り注ぐ雨を駆け抜ける。狙いは当然、自身へと突撃を仕掛けようとしていたセイバーだ。ライダーは魔力放出を駆使し、文字通りジェット噴射の如き推力でセイバーは肉薄する。対するセイバーは突撃をする直前で急ブレーキをかける事になり攻撃の出鼻を挫かれる形となってしまい、そこにライダーが魔力放出を上乗せした斬撃が襲い掛かる
「フンッ!」
「ッッ!」
ライダーの振り下ろした斬撃は重く、セイバーが踏み締めるアスファルトが割れて、足が沈み込む。ライダーの狙いはこの場にセイバーを釘付けにする事。一瞬でもこうしてセイバーの動きを止めることが出来たならーーー
「貰ったぞ!」
必ずやアーチャーが、その隙を狙い撃つ
セイバーの死角を取ったアーチャーが放った矢は、今度こそ限界を超えて引き絞られた渾身の一矢。令呪の後押しもありその矢の威力はAランクを超えている。例えランサーの宝具を凌いだセイバーと言えども、Aランクオーバーの攻撃を、無防備な背中から急所を射抜かれればひとたまりもないだろう
矢は真っ直ぐにセイバーを貫かんと迫る
「狙いは良し。だが甘い」
そして、当然セイバーがそれを予期していない筈が無くーーー
アーチャーの矢は、展開されたルーン障壁に激突、貫通するものの、狙いを逸らされてセイバーのすぐ横を掠めていくのみであり、つまりセイバーには全く届いていない - 63二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 17:51:49
保守
- 64千界樹の記録23/10/26(木) 22:03:05
「チッ」
アーチャーは舌打ちし、すぐにその場を飛び退いてコンテナの上に立つ。予想はしていた。相手は北欧が誇る大英雄。この程度で撃ち倒せたなら苦労はないだろう
だからこそ、次の手は既に用意している
それも、必殺のーーー
コンテナから勢い強く跳び上がるアーチャー。強く踏み締めた事で鉄のコンテナが大きな音を立てて凹んでしまうが、アーチャーはそんな瑣末事にら一切頓着しない。月を背に空中を加速しながら跳ぶアーチャーは高速のままセイバーとライダーの上を横切るコースを飛んでいる
その狙いを目敏く察したセイバーは、アーチャーを撃ち落とさんと探検に手をかけようとしたがーーー
「させないさセイバー!」
ライダーが怒涛の攻撃ーーーいや特攻を敢行する。守りの殆どを捨て去った捨て身の攻撃は、本来のライダーであれば、セイバーは難なく捌き返しの剣でライダーの霊核を貫いた事だろう
だが、ここに来てライダーは更に加速する。自身のスキル「終焉特権」で獲得した魔力放出に加えて、更に魔力を消費して新たなるスキル「勇猛」を獲得する。勇猛は自身の与える格闘ダメージを大幅に上昇させるスキル
元来いくら魔力を払おうとも同時に二つのスキルを獲得するなど、無謀も良いところであるが、令呪による後押し、更にそれが2つ重ねて行われたことにより、ライダーは本来なら不可能なレベルの無謀をこうして発揮し得た。これ等の無理無謀の成果により、セイバーのそれに届きかねない攻撃力を発揮するライダーを前に、セイバーは当然、目の前の敵手に集中せざるを得なくなる
当然、それが隙を生むと判っていても、こればかりはどうしようもなければ恥じる必要もない。単純にこの瞬間のみ、ライダー達がセイバーを上回ったのだ
アーチャーはそのままセイバーの頭上を通る様に大きく跳び、そのまま真下にい標的へと矢を射かける。
アーチャーがセイバーの上を通り過ぎたのはほんの一瞬だが、その中でアーチャーは12発の矢を撃ち放った。それぞれ様々な角度から撃たれた矢は真上だけでは無くアーチャーから見てセイバーを中心に反縁を描く様に打ち込んだのだ
「!」
これにはセイバーも想定外だった様子ですぐ様片手で魔剣を支えながら短剣を抜いて、矢へ目掛けて投擲。自身を貫かんとする矢を撃ち落としにかかった - 65千界樹の記録23/10/27(金) 07:56:49
しかし、一瞬の間に撃つことのできた短剣は4本。真上の矢は元々アーチャーの狙撃を警戒して準備していた障壁が押し留めるが、それ以外の矢は必ずしもセイバーの備えの範囲では無く、予め準備していたルーンの防壁、その死角を縫う様に射られた矢も存在している
それ等を瞬時に見極め迎撃の剣を射出したが、此方に届く矢の数は5本。迎撃し切るには1本足りなかった
「ーーーグゥッ……!」
その矢は当然セイバーの身体へと到達する
矢は深々とセイバーの右足に突き刺さる。急所を狙い撃たれた矢であったが、セイバーは何とか致命傷だけは躱してのけた
本来ならば容易く躱す事ができた攻撃だが、令呪で強化されたアーチャーの力は此方の想定以上であった。更に、ライダーが捨て身の猛攻で此方を押し留めていたことも、要因の一つだろう
セイバーは全霊を込めた魔剣の切り上げでライダーの剣を弾き、後ろへ跳躍しコンテナ群の上に着地追撃に放たれるアーチャーの矢を短剣で弾きながら足に刺さった矢を強引に抜く。当然、返の付いた鏃を強引に抜けば痛みは強くなるし傷口も広がるが、その上に治癒のルーンを刻み、応急処置を施す
(ーーー強いな)
今の攻防でセイバーが感じたものは脅威。今宵をけっせんのときと定めているのは此方だけではないと言うことを再認識する。特にライダーは令呪を2画も用いた強化が為されているのも脅威の一つである
手当が終わったところで、コンテナを蹴ってライダーへと突進する。真紅の魔剣が宙を裂き、空気が悲鳴の様な甲高い音を立てて振り下ろした一撃を、ライダーは受け止めてみせる。彼の足元は先ほどのライダーの一撃を受けたセイバーの時よりも、さらに大きく砕け足元の道が大きく陥没する。この威力の前にはさしものライダーも身動きが取れなくなるが、ライダーはそれを魔力放出を用いて対抗する
「おおおおお!!」
「ヌゥン!!」
渾身の力でセイバーの剣を上に弾こうとするライダーの思惑を読み取ったセイバーは、ライダーの剣に力が乗った瞬間を見計らって上に跳躍。ライダーは急に自身への負荷がなくなった分力が空転して剣を想定以上の力で振り上げてしまいタタラを踏む
セイバーは空中にいるまま短剣をアーチャーへと射出、彼女の攻撃を牽制しながら空からライダーへと斬りかかる - 66二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 10:29:29
おお
ガッツリ対抗してる - 67二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 22:10:06
保守
- 68二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 08:23:15
朝保守
- 69千界樹の記録23/10/28(土) 11:42:48
「くっ」
アーチャーは番えていた矢を捨てて弓の鶴で短剣を弾く。その瞬間にセイバーはライダーへ向けて切り掛かっていた
全身を捻り、渦を巻く様に魔剣が薙ぎ払われるーーー
「テェええええええぃ!!」
「ーーーっ」
ライダーは頭上からの斬撃に対してライダーは受け止めるか否かを逡巡ーーーしかし判断は一瞬で、彼は回避を選択
落下と共に振り抜かれるセイバーの回転切りを躱し、セイバーへ向けて即座に剣を構え直す。空振りに終わったセイバーの魔剣は、しかし突風を生みだしその風はアーチャーにまで届く程の勢いでコンテナの通り道を抜けていく
3騎のサーヴァントは其々互いに距離が出来、図らずとも仕切り直す形となり、自然とセイバー、アーチャー、ライダーは互いの出方を窺いつつ一呼吸置く
その流れの中で、セイバーの叡智の結晶が自身の状況が不利に傾きつつある事を分析していた
当然といえば当然だが、相手は令呪で強化されたサーヴァントが2騎。しかも決して弱くないどころか、他の亜種聖杯戦争ならば2騎共に優勝候補筆頭になるであろう程の英霊である。それが令呪、特にライダーは2画も使用しての強化が成されているのだ。これを相手取っても尚、不利程度で収まる様なセイバー、北欧にその英雄ありと謳われる大英雄、シグルドがやはり規格外の存在であると言えるだろう
だが、このままでは自信が斃されかねない状況ではある。マスターの意向で此方が切れる令呪は1画のみ。反対に向こうは残り2画を切ることができる
戦力の格差は広がることはあれ縮まる事はそうないだろう
セイバーはそんな状況の中、自然と剣を持つ手に力が入るのを感じた
今の己は、生前の比べてなんと力の劣る物かと思っていたが、この不自由な身体だからこそ感じるものもある
これが、強敵と対峙する高揚というものかーーー
生前、最大最強の名を欲しいままにしたシグルド。ファヴニールとの戦い以降、彼に並ぶ者は存在せず唯一並び立てた最強の戦乙女にして最愛の女性、ブリュンヒルデすらも全霊で対峙すればシグルドには及ばなかっただろう
その筈の大英雄。一つの神話の頂点たる存在が、この聖杯戦においてその力を駆使してこうも苦戦の連続と言う
これこそが聖杯戦争、英霊達が戦うとはこう言うことかと、これまでの戦いを思い返す
間違いなく生前よりも弱くなっている己であるが、だからこそ滾るーーー!
「ならば……!」 - 70千界樹の記録23/10/28(土) 22:03:36
サーヴァント同士の戦いが加速していく中で、自陣の戦闘に巻き込まれない様自然とマスター達からは距離を保つことになる。結果、凌我達3人はその場に残り対峙していた
「さあて、向こうも盛り上がってきたみたいだし、此方も始めましょうか?」
修道服を脱ぎ去り、戦闘服姿を晒すルーナ。やはり彼女の手には白銀の戦鎚。それを軽々と振り回し肩に担いでみせた
「……やる意味は薄いけど、先輩をギャフンと言わせたいのは変わらないし」
マルグリットもボウガンをケースから取り出す。全く、2人とも血の気の多いことで……
「あら?貴方も貴方で準備万端じゃない?その礼装、ロンドンの時にも着てたやつでしょ?」
凌我の羽織っている黒いレザーコートにレザーのズボンは、どちらもが礼装の役割を果たし、サーヴァントでいうところのDランク相当の対魔力と衝撃を拡散する魔術や刃物に強い加工が施された逸品である。彼の濡羽の髪と併せて、月明かりによく映える姿をしていた
「ま、お前がいる以上こうなることは想像できるからな」
そして礼装たる剣を抜く。鏡のように磨き抜かれた諸刃の剣は、倶利伽羅剣をモチーフにした不死殺しの刃。更に薄い水の膜が刀身表面を覆い、超高速で流動する事でダイアモンドカッター宜しくその切れ味を劇的に上昇させている
剣の銘は『水錬』彼の有する最高の礼装であると同時に、これまでも1体の死徒と人を辞めた化生の類を斬って捨てた業物である
徐に下段に構えを取る凌我。同時に彼の瞳から光が消え、まるで水底の様な昏さが差込む
身に纏う雰囲気すらも、一様に変わりこれではまるでーーー
「……せん、ぱい」
まるで人が変わったかのような変化に戸惑うマルグリット。対するルーナも微笑みから、獲物を見定めた猟犬のような顔つきへと変化する
「自己暗示……肉体を戦闘用に作り替える日本固有の技法ね」
静かな闘志が湧き上がる凌我を前に、ゾクゾクと背筋に走る感覚を覚えるルーナ。この彼を見たのはロンドンの時とつい最近だが、こうして対峙するのは初めての事であり、その事実に心地よい寒気が奔る - 71二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 22:14:41
ワーオ侍の自己暗示まで技法として突っ込んでるんか、マジで型月要素マシマシですなぁ、大好き
- 72二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 08:36:22
やっと追いついたぜえ!
- 73二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 09:43:34
保守
凌我侍の技法マスターしてるんか - 74千界樹の記録23/10/29(日) 12:22:43
この彼を見たのはロンドンの時。死徒の森でとつい最近だが、こうして対峙するのは初めての事だ。これまでは魔術師としての彼と戦ってきたが、こうして真正面から戦士としての彼と戦うのは初めてだった
自身のすぐ隣で闘志に当てられて顔が強張っているマルグリットの背中を叩いてやる
「シャキッとする!」
「ーーーっ」
「さ、行くわよ!今度こそ吠え面かかせてやりましょう!」
ルーナの声に、ハッとした様子のマルグリット。そしてすぐに表情は引き締まった
「当然です」
ボウガンを凌我へと向けるマルグリットに戦鎚を担いだまま突撃の為の前傾姿勢を取るルーナ
マスター達の最後の決戦の火蓋が、切って落とされた
「bounds=bolt!」
初めに仕掛けたのはルーナのボウガン。猟犬の霊を憑依させたボルトはまさに猟犬のように機械的な直前軌道ではなく、生物的なうねる軌跡を描きながら凌我へと飛来する
ボルトに憑依した猟犬の霊は、敵に着弾した後もしつこく獲物を食い破ろうと敵の体内を食い込んでいく。一度でも被弾すれば最後、獲物の心臓に到達するまでその牙を剥き続ける矢を.凌我は静かに見据えていた
そしてーーー
「ーーー」
微かな呼吸と共に、繰り出される剣閃。一閃の元にボルトは真ん中から斬り落とされ、彼に命中する事なく明後日の方向へと飛んでいく。あまりにも鮮やかな動きに一瞬呆気に取られたマルグリット。魔術師である凌我の今の動きには、何一つ神秘の類が介在しない、素の身体能力と技量による技であっだからだ
そんな彼女の隣から、風のように駆け抜ける白銀の髪
「ハァアア!」
振り下ろされる戦鎚。こうして軽々しく振り回しているこの戦鎚ではあるが、代行者の一部が死徒に対峙するために大型武器で武装することはままある。しかし、彼女の持つ戦鎚の重量は1.8tに及ぶ極大質量の塊だ。更に言えば、彼女は普段はこの戦鎚に質量低減の秘跡を用いているが、事戦闘においてはその秘跡は解除されている。つまり2トン近い超重量の鉄塊を直接持っていることになるのだが、更にルーナは自陣に対して特別強化の秘跡等も使ってはいない。相手や状況によっては当然使用することもあるが、少なくとも今現在、1.8tの戦鎚を振り回して風のように駆け抜けているのは、一才の神秘が介在しない生まれ持った膂力で行使されているものである。凌我がバケモノと例えるのも納得である - 75千界樹の記録23/10/29(日) 22:31:38
その彼女が繰り出す戦鎚の一撃。当然直撃を受けようものならそれだけで人体はペシャンコどころか汚い花火宜しく弾けてしまうだろう。掠った程度でもそれだけの質量に、振り回す事で速度が乗ればそのエネルギーは凄まじいものとなる
確実に無事で済むはずがない
その破壊の鉄槌に対して、凌我は不動。その破壊力を良く知る彼は確実に焦ったり戦慄していただろう。現に以前戦った際は、バーサーカー陣営との戦闘で消耗していたとは言え、あの破壊力が自分に向くとなった時の反応は確実にここまでの冷静さを保てている筈がないだろう
だが、その一撃に対して凌我ももう一度剣を振り抜く
「ーーーっ!」
「ーーーアハっ!」
鈍く重い金属音と共に激しく火花が散り、足を踏み締めるアスファルトの道が、サーヴァントとの戦闘で発生した物と同じ様に砕け散り、両足が沈み込む。更に空振った戦鎚が起こした風圧で砕けたアスファルトの破片を更に細かく砕き吹き飛ばしていく
魔術も鉄塊も悉く粉砕する超振動を発振している戦鎚の凄まじい破壊力。その源となる玄能を綺麗に避けて比較的振動の影響が少ない柄の部分が刃を打つける事で振動破壊力から巧みに逃がしている
「悪いが、見えてる」
「流石!でもねーーー」
刀身を滑らせる様に戦鎚を弾く。そして半歩後ろに下がり守りを固める凌我に対して戦鎚を縦横無尽に振り回し、凌我を攻め続ける
その速度は正に疾風怒濤を体現したが如く、更にその手数で凌我を上回っている
明らかに小さく軽量、かつ取り回しの良さそうな刀剣に対して背丈を超える長大なポールウェポン、更に言えばハンマーの巨大な玄能により重心も偏っているのだ
リーチと破壊力で上回る代わりに取り回しは劣悪とも言える超大型武器に分類される様な戦鎚で、取り回しで勝る刀剣を優に上回る手数を実現していると言う悪夢である
その差は、凌我が一度剣を振るう度にルーナは3回は振り回している計算になる
一合一合、恐ろしい迄の回転率で激突し続ける刀身と戦鎚。ぶつかる度に火花と微かな水飛沫を撒き散らして2人の攻防は続く
だが、その竜巻の様な攻撃も、続くと言うことは、人体程度を容易くミンチにがある破壊の嵐を前に、その暴威を向ける対象が、未だ健在であることを示している事実の証明でもあった
凌我は護りを固め、必要最小限の動きでルーナの猛攻を捌き続けている - 76千界樹の記録23/10/30(月) 08:53:07
対する凌我は護りを固め、必要最小限の動きでルーナの猛攻を捌き続けている
当然真正面から受け止めれば振動による破壊力によってあっという間にボロクズにされる。そうでなくても膂力に凄まじい差が存在しているのだから押し潰されるのが自然の理
しかし、凌我は力の流れを戦鎚が等身に接触する瞬時に感じ取り、技巧の限りを尽くして力の方向を僅かに変える事で回避し続けている
凌我が自身に施した自己暗示によってこれまでに無い戦闘能力を発揮させている。しかし、代行者の中でも特級の戦闘力を誇るルーナを相手に此処まで立ち回れる程の力を発揮するにも関わらず最後の戦いまで温存してきたのにはもちろん理由がある
それは身体そのものを戦闘用に作り替える自己暗示による強化。生粋の侍であれば特別な事はないが、彼は魔術師であり後天的に身につけたこの技法は身体への負荷が大きく、濫用は出来ない。これが元来対魔の家系であったり武士の血が流れているのならば話は変わるが、彼はそのどちらでもなかった
だが、そうだとしても使うタイミングを見誤る事なければ、こうして強力な勝負札として機能する
「ハア!シッ!ヤァアア!」
「フッ、ハァッ!」
そして、ルーナの持つ戦鎚の破壊振動に幾度とぶつかりながらも剣は刃こぼれの一つ起こさない。そればかりか一度でも接触すれば獲物の体内へと伝播し内側から破壊する筈の波を受けている筈にしては、ものの見事に効果を発揮し得ていない
(ーーーあの剣の仕掛けね)
ルーナは即座にそのカラクリを看破した。刀剣を覆う薄い水のベール。武器同士が激突する時は火花が散る程に対した存在感を見せていないが、火花と同時に飛沫となって散るあの水が、こちらが発振している振動を吸収してたらいるのだろう。刀身から人体に伝わる前に水へと伝播させて、それが飛沫となって拡散する。それによって死徒さえも蹂躙する破壊の鉄槌から体を守っているのだ
絶えず激突する戦鎚と剣の応酬はすでに50を越え、更に白熱、加速していく
それはさながら、2人が踊っている様でーーー - 77二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 10:23:33
ヒェッ
神秘なしで1.8トン振り回すとか人間じゃねえ… - 78二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 10:26:18
- 79二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 20:50:39
ノエル先生の斧槍も1tあるんだよな…
- 80二次元好きの匿名さん23/10/30(月) 23:59:54
保守
- 81千界樹の記録23/10/31(火) 08:06:01
「気に入らない……!」
そう呟くマルグリットは静かに第2矢を装填する。あの2人の戦いが、まるでダンスの様で一瞬だけ見惚れてしまったが、首を振って意識を振り戻す。先輩は限界まであの女に集中している筈、ならば今がチャンスーーー!
ボウガンを構える。憑依させる霊は鷹。猟犬よりも単発の威力は劣るが、このボルトはまた違った力がある
ボウガンを向ける先は、真上ーーー
「Hawks=bolt!」
自身の直上へとボルトを撃つ。放たれたボルトは真っ直ぐに上へ飛び夜の闇へと消える。鷹の霊を憑依させたこのボルトは本当に鷹のように標的の頭上から音もなく襲撃するトップアタックの性質を持つ。当然上は人間の死角、ソナーか何かで周囲を把握できるあのバケモノシスターは兎も角、先輩にそんな芸当はできない。目の前の事に集中してる状態での上からの突然のボルトに対応することなんて
「ーーー悪いがな」
けれど先輩は、私の想像を軽々しく超えて行った。剣ではなく足であの女の手元を蹴り上げる。振り下ろす直前を狙われた女は今までよりも一瞬だけ大きくのけ反った。その一瞬で先輩は上から風切り音も無く飛来するボルトを切り落としてみせたのだ
「何で!?」
疑問は当然、しかしてその疑問は一言で切って捨てられた
「勘だ」
「ハァッ!?」
「アッハハ!」
あの女の愉しそうな笑い声が夜の港に響く。そうで無くては、そうであろうとも。そう言う様に彼女の表情ら更に熱を帯びていく
「そう来なくっちゃ!私が選んだ甲斐がないもの!」
「ハッ、悪いがまだその先を聞く気はないなーーー!」
先輩はあの女の言葉を切って捨て、ほんの一瞬だけ、此方をみた様な気がした
「十四番、開錠!」
開錠……?先輩の言葉の意味、それを理解する前にルーナが声を上げた
「マリィちゃん!飛んで!」
「ーーーっ!?」
気が付いたら時には、すでに仕掛けが作動していた。足元に刻まれた紋様、これはこの場に仕掛けられた魔術トラップーーー
「くぅっ!」
コレを躱せたのは、あの女の声があったから。発動直前に術式を悟った彼女のこえがなければか、今頃は身体の半身が氷に覆われていたことだろう
そうだ。此処は先輩の戦場。「備えあれば憂いなし」と言う日本の諺を体現したかの様な先輩が何の下拵えもなく決戦に挑む事などありはしないのだ - 82スレ主23/10/31(火) 12:53:00
- 83二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 20:51:40
妹さんも出来てたぞ
- 84千界樹の記録23/10/31(火) 23:51:52
「七番、開錠」
凌我が唱えると同時、積み上げられたコンテナ、その中の一つがほんの僅かに光り、その直後に魔力の弾丸がルーナへと目掛けて飛来する。それは予め彼がこの場に仕込んだ魔術の一つで、ガンドに似た術式を用いている。用は物理的な破壊力を伴った呪いを与える魔弾である
命中すれば拳銃弾と同程度の威力の魔力弾丸と強い風邪を引いたのと同じ症状を引き起こす効果を持っている
しかし、そんな魔弾の飛来を感知しながら、ルーナは一切頓着しない。魔弾は狙い誤る事なくルーナに命中するが、物理的な威力を伴う筈の魔弾を受けてもルーナは傷を負うどころか呪いの一つ掛かる事なく凌我へと妄想を加え続けている。これもまた彼女の持つ力。彼女は生まれつき高い対魔力を有しており小手先の魔術では害することはできない。さらにそれに加えて保有している概念武装がルーナの持つ対魔力の力を引き上げている
その耐性は事実上、現代の魔術師では彼女に傷をつけるのは極めて困難であるだろう程だ
「ソラソラ!!」
「ハッーーーまだ!」
ルーナと凌我の攻防は益々激化していく中で、マルグリットもボルトを撃ち放つが、全て回避されるか切り落とされ、反撃の仕込み魔術をなんとか防いでいく
(やっぱり、先輩は凄いなあ……)
恐らくこの時のために相当な準備を積んできていたに違いない。先輩がこの聖杯戦争にかける思いは、当然私よりも強いだろう。私はただ分かりやすい実績を残すことと、先輩の花を明かしてやりたい一心で此処まで来ただけだなのだ。血族の悲願を背負う先輩とは何もかもが違っていた
「けれど……!」
それでもやはり、勝ちたいのだ。あの人に
あの日、助けてくれたあの人に振り向いてもらいたい。振り向かせたい。振り向かせてやるーーーその一心でこんな所にまで来たのだ。来てしまったのだから最後まで諦めない
サーヴァント戦では先輩のサーヴァントが強すぎる。ひょっとしたら敗北もあり得るだろうとマルグリットは考える。彼女の召喚したアーチャーも強力なサーヴァントではあるがこればかりは相手が悪すぎる
やはり、このまま自分が勝つためには、マスター戦を制する他は無い。改めてそう認識した、マルグリットは最後の手段に手を伸ばす
懐から取り出した小さな缶の入れ物。そこに入っているのは、さまざまな色をした飴の様なものであった - 85二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 08:26:10
このレスは削除されています
- 86千界樹の記録23/11/01(水) 08:57:50
それら一つ一つがマルグリット・ザックスが作った消費型の魔術礼装である。その中の一つを手に取って、自身の口に入れる
飴は柔らかく作られており、奥歯で強く噛み締める。此処からが、この礼装の本領だ
「Possession = Werewolf」
魔術詠唱をしたマルグリットは、途端に電池が切れたか人形の様にガクリ、と項垂れる
が、そこから間をおかずにビクンッ、と身体が一瞬震えだしーーー
凌我がルーナと切り結ぶ最中、背筋に悪寒が迸る
ルーナの戦鎚の一撃を受け流し一瞬だけ彼女から視線を外すとそこにいた筈のマルグリット、彼女の姿が忽然と消えていたのだ
「アラ、他の女の子に目移りしてる暇なんてあるのかしら!?」
ルーナは言いながら戦鎚を豪快に振り回す。この一撃は受け止める事も流す事もできない。そう判断した凌我は上に跳ぶ事でその一撃を躱し、頭上からルーナへと斬りかかろうとしてーーー
「後ろか!」
「ーーーッ」
背後から襲いかかる影の一撃を受け止めた。その影の正体はーーー
「これはーーー」
「へぇ、狼男ならぬ狼女って奴?」
金色の毛並を靡かせた人型の狼であった
「チッーーーなんでこれも躱せるの」
その人狼、マルグリットは盛大に喉を唸らせながら舌打ちをする。その姿はどうみても都市伝説やお伽話の類では常連の人狼そのものであった
魔術世界において人狼は獣性魔術により一応の再現が行なわれることがある。だが、マルグリットは降霊術師。獣性魔術とは縁がないはずだがーーー
「先輩の故郷には、「神卸し」って言うものがあるって聞いてね」
「ああ、あるけどなーーー姿形まで変わるのは普通じゃないだろ!」
神卸し
古来より巫女が預言者として振る舞う際に行われる神儀の一つ。御神酒を触媒として神霊を限定的に召喚、自身を霊媒に憑依をさせる事で、神の意思を伝える物
だが、それを行うには強烈な負荷が掛かりそうそう濫りには扱うことの出来ない儀式
マルグリットはコンテナ群を跳ねる様に高速で飛び回り此方に鋭利な爪で攻撃を仕掛けてきている
それらを剣や足で弾きながら同時にルーナの戦鎚にも対処しなくてはならない
「11、19、20番、開錠!」
矢継ぎ早に攻め立てられる中で仕込みを解き放っていく。道路の真ん中、コンテナの隙間。至る所から魔術式が発動し、魔術障壁や魔弾が放たれていく。それらを悠々と回避して更に襲いかかるマルグリット - 87二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 09:04:57
あ〜つまりこれ飴玉に動物霊とかを閉じ込めておいて噛み砕くことで自身に降霊する礼装か。しかもその制度は体内に取り込むっていう一連の流れを踏むことで通常より親和性を高めているのかな?
- 88二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 09:10:57
- 89二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 12:23:16
- 90二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 21:36:57
保守
- 91二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 21:38:24
まあプロトコミカライズのあの人みたいな感じだったんだろうな…いやアポ世界ならある程度情報回ってるか…
- 92千界樹の記録23/11/01(水) 23:58:35
その変化の仕方を見た凌我は舌打ちをして襲いかかる爪から身を屈めて回避しながらすぐさまバク転をする様にして戦鎚の一撃を避ける
「今すぐに憑依を解け!その深度は取り返しがつかなくなるぞ!!」
憑依には深度がある
第一に霊に取り憑かれている状態。これも立派な憑依現象の一つで、憑依先に直接的な害は無く、若しくは取り憑いた霊の性質によって間接的に害が発生する
第二に憑着。霊が憑依先の体の中に入り込む状態。主にイタコの降霊やインヴォケーション。神卸しも大きく分類され箱の段階に入る
そして第三。憑変と呼ばれる最も深刻な憑依状態。これは憑依した霊の性質が憑依先の肉体に変化を及ぼす状態の事だ。こうなると憑依している霊、若しくは魂が肉体と癒着を始め、憑依先の霊魂と融合してしまう恐れもある。こうなると最早元には戻せず、人格や肉体の変貌、最悪は魂の変化に肉体が耐えきれず崩壊する恐れもある
今のマルグリットは明らかに肉体が狼のそれに著しく変化しており、確実に第三段階へと入っていた。一刻も早く憑依を解がなければ手遅れになる。凌我は自身の知識からそう判断したのだ
だがーーー
「舐めないで、そんなものはとっくに克服済み!」
術式を解く気配はないどころか、そもそも肉体が完全に狼のそれになっているにも関わらず、魂の癒着が一切起きている様子すら感じられないと言うのは、どういう事だろうか
「ーーーこれは」
凌我はここへきて明確な困惑を見せる。自身の知識では本来あり得ないことが起きているのだから。肉体の変質まで起きている以上、憑依段階は深い筈なのに、彼女が自らに憑依させたであろう魂との融合は愚か、彼女の体への癒着すら始まっていない
一体なぜ?そんな疑問を抱くが、それを考察している暇は与えられない
「ハァアアア!!」
「考え事してる暇なんてあるのかしら!?」
「チィーーー」
マルグリットの繰り出した想定外のジョーカーの存在は興味深いが、それ以上により深刻になっていく事態。凌我はすぐさま懐から霊筒を取り出して地面に叩きつける。割れた霊筒の中から溢れた霊薬が光り、多量の水を生み出していく
「『汝、這い周りて命を溶かせ!』」
詠唱と共に水が形を作っていく。生み出されたの水の大蛇。彼が以前用いた「蟒蛇」の簡易化した魔術で、呪い殺す力は有していないが、その不死性能は健在だ
完全に破壊しなければ何度でも再生する - 93千界樹の記録23/11/02(木) 08:44:45
「行け!」
凌我の号令により形成された蛇が盾となってマルグリットの攻撃を受け止め、凌我はルーナからの攻撃への対処に集中する
「っ邪魔!」
マルグリットは爪で蛇を引き裂くが、その程度では水の蛇はびくともしない。水の体の中を通り抜けて多少飛沫が散る程度は瞬く間に再生する
「っーーーこの!」
「悪いがしばらくそいつと遊んでろ!」
やはり相性的にはマルグリットにぶつけるのが正解だった。例えルーナにあの蛇を仕向けたとしても一瞬で粉々に粉砕されていただろう。今はまだただの振動破砕しか使っていないが、その気になったら魔力を上乗せして爆砕させることもできるからだ
下手に魔術で応戦するよりも直接殴り合った方がまだマシだとは一体どういうことなのだろう
「あら、可愛い後輩ちゃんにそんな仕打ちをしちゃっていいのかしら?」
「言ってろ。まずはお前からだ!」
再び繰り広げられる戦鎚との剣戟。しかし今度はーーー
「22番、27番解錠!」
本格的に凌我はこの場に施した仕込みを解放し、ルーナを仕留めに掛かる。単純な魔術攻撃はルーナには通用しない。使われるのは閃光や煙幕、足枷と言った足止めを目的としたもの。それらは彼女の対魔力では防げない。ルーナ自身もそれらに対応してはいるが、徐々に後手に回り始める
「15番、25番、6番解錠!」
「っーーーどれだけ仕込んでるの!」
一晩でどうこうできる範囲を優に超えた仕込みの数々。恐らく前々からここを戦場の一つにするつもりで準備をしていたに違いない。これまでセイバー陣営は他全ての陣営に睨まれていた為に迂闊な行動はできなかった。だからこれまで受け身にならざるを得ず、攻めに転じる際も直接相手の陣地に乗り込んできた。所謂、彼はこれまで真っ当なフィールドでの戦闘は序盤以外では対して出来てはいなかったのだ
後手に回れば判断と対処がその分遅れる。遅れた分に漬け込んで更に対応を限定されてゆく。本来、能力で言えば凌我を圧倒しているルーナではあるが、今この瞬間は、入念な仕込みと気迫によって戦場の空気を、流れを掴んでいるのは凌我にあった
それこそ、お互いの実力差を埋めてしまう程に
「ーーーかっこいいなあ」
ルーナは、思わず見惚れてしまった。初めて相対した時はただの魔術師、敵だったのに - 94二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 20:42:34
セーフ!
- 95二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 23:58:34
初めて出会って殺し合って、それからなし崩し的に共闘して、そのまま別れて、二度と会うことはないだろうと思ったらまた会って、また共闘してーーー彼の事を知りたいと願う様になったのは、いつ頃からだろう
(ーーーああ、あの時か)
思い出したのはあの雪の日。たった1人で上級死徒を斃した彼を見つけた時の、あの声の無い慟哭を聞いた時だったかーーー
「ーーー貰った!」
「ーーーぁ」
過去を思い返したのは一瞬、それが悪手。この土壇場で思考のブレ
それが、致命となった
凌我の振るう剣が自身の手元から戦鎚を弾く。振り翳した勢いが残ったままの戦鎚は空中を回転しながらアスファルト舗装を、コンテナを粉砕しながら明後日の方向へ飛んでいく。武器を手放したルーナは瞬間、完全に丸腰となった
「ーーー」
互いに呼吸を忘れて、この一瞬、まるで時間が止まったかな様な感覚を覚える。雷鳴の様な激しい攻防の末に訪れた一瞬の明暗。此処が勝負の分かれ目になるだろう
その最中に凌我は思考する。このまま斬り込むか、或いは剣を引いて降参を促すかーーー
逡巡は刹那の間。答えは決まった
「ーーーハァア!」
一歩踏み込む。このまま斬り込んで決着を付ける
いくら武装を失った所でルーナは代行者。例え戦鎚が無くとも戦う術の一つや二つ、持っていてもおかしくは無い
今この時は勝負の天秤はこちらに傾いているが、あくまで実力差はこちら側が大きく劣っている事に変わりはない
このまま確実に仕留める気で行かなければ、僅かな緩みを見せればそこから此処まで積み上げた勝利への道が崩れかねない
あの一瞬、意識がブレた一瞬を捉えられたのは奇跡に近いのだから、この隙を逃せば勝利からは大きく遠ざかるかもしれないのだ
迷う暇は無いし、どの道殺したところで死ぬようなタマでは無い。それは一度は殺されかけた自身がよく知っている
「終わりだ!」
剣を振り下ろす。ルーナは斬撃から身を護る様に腕をクロスさせるがその程度でこの剣は止まらない。腕がとその身体をバッサリいくのみだ
身に迫る白銀の刃を前に、自身の負けを悟ったのか、ルーナはふと慈しむ様な微笑みを湛えーーー - 96二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 07:35:06
ほっしゅ
- 97二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 08:32:42
その手に握る拳で、刃を弾き飛ばすーーー
「っ!?」
思わぬ反撃にたたらを踏む凌我。幾ら強化の秘蹟を手のグローブに施しとしても、厚い鉄板を切り裂く一閃を防ぐことはできないはず、それを防ぐどころか軽々と弾き返されると言う事実に驚くがそれ以上に、剣を弾いた動きから繰り出される拳の乱打に驚く
それは代行者たる者、主武装がなくなっても戦う術を持っていて当然ではあるが、まさか予備の武器では無く素手の格闘戦を挑んでくるとは思いもよらなかった。しかも武器を無くしての咄嗟の動きにしては余りにも鋭くキレのある動きである
たまらず一度剣を薙ぎ払いながら距離を置く為に後ろに跳ぶ。ルーナは追いかけてはこないが、ゆっくりと構えを取って軽やかにステップを刻む
その両手と足には、灰色の鎧甲があった
「『灰錠』ーーー!」
代行者が用いる標準装備。普段は手袋や靴などに偽装しているが予め設定した紙片を滑らせる事で本来の姿を見せる概念武装
紙片を用いた様子は無かったから、純粋に魔力を奔らせて起動したのだろう。あのグローブと靴が灰錠だったとは驚きだ
さらに、ルーナの構えとステップは明らかにボクシングの動き。先程の反撃と言い恐らく、いや確実にあの戦隊が無い、若しくは使えない場面での戦闘を想定したスタイルの筈
「まさかそんなものまで持っているとはな」
「フフッ。女の子にはいろんな秘密があるの⭐︎」
この状況は非常に不味い。先程まではこちらが場の流れを掴んでいたが、その流れが途絶えてしまった。このまま流れを持っていかれると擦り潰されかねない
(そろそろマルグリットもアレを潰して戻ってくるかもしれないしな)
水の大蛇に追い回されて距離を取ったとは言え、何時迄もあの蛇に時間をかけてはいないだろう。そろそろ攻略してくるはずだ
つまり、此処からがまた正念場という事になる
「それじゃ、第2ラウンド。始めましょうか?」
その言葉と共にルーナのステップが変化する。緩やかに刻まれたものが速く小刻みな鋭いテンポへと
それを見て凌我もまた剣を構え直す
「こい」
「ええ、行くわよ!」
サーヴァントとマスター、其々の戦いが激しさを増していく
「ーーーならば!」
セイバーは決断した
これが最後の戦い。相手はこの時まで残り続けた強大な敵であると認め、自身に課した封を解くべきであると
「ーーー魔剣限定解除!」 - 98二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 19:11:58
クソ重ハンマー振り回す怪力で殴ったら普通に4んじゃう
- 99二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 00:36:36
ルーナさん本当に強いな………
- 100二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 00:37:04
このレスは削除されています
- 101二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 00:37:54
- 102二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 07:18:03
- 103千界樹の記録23/11/04(土) 16:19:08
脈動する魔力。真紅の魔剣が拍動し、魔力が大きく肥大する
紅の刀身から炎の様に魔力の塊が吹き出し、渦を巻いていく。宝具の発動とはまた異なる魔力の燃焼にライダーとアーチャーはセイバーへ対する攻撃を一時中断する。下手な攻撃はどちらにせよセイバーの前には効果はないと判断したからだ
セイバーこ持つ魔剣から吹き出される魔力は高まりと共に赤い炎から碧い炎へと変化していく
「これは……」
「この出力、正気か?」
ライダーとアーチャーは目の前で起きている現象に警戒度を更に引き上げる
このまま引き上げていくつもりならば、最終的にどうなるか、それが理解できないセイバーでは無いはず
「貴殿達に、一つ謝罪しなければならない」
セイバーは一体、その仮面の奥に何を思うのか、唐突にそんなことを口にした
「当方はこの聖杯戦争に於いて、唯の一度も戦いの中で手を抜いた事はない」
セイバーの言葉が事実であるのは、これまでの彼の戦いとその戦果が物語っている
「しかしーーー」
魔力が爆ぜ、紅い魔剣を覆う様に碧い炎が収束されていく
「持てる力の全てを出し切っていない事もまた事実。片手落ちであった事も否定はできまい」
収束された魔力が碧い輝きを放つ水晶の様な刀身を形成していく
セイバー、シグルドは今回の聖杯戦争で召喚された英霊の中では間違いなく最大の英雄である。その霊格もまたあらゆるサーヴァントの中では最大級を誇る
それこそ、サーヴァントの規格内に収めるには多くの制約を受ける程に
元来英霊をそのまま召喚する事自体が無理難題な芸当であり、それを召喚可能な位に落とし込んだのがサーヴァント、そしてセイバーやアーチャーの様なクラスになる。皆が大なり小なり制約を持ってこの世界に現界しているわけだが、シグルドのそれは他と比べても大きいのだ
神話に生きる大英雄にはままある事象であるが、北欧最強を誇るシグルドにとっては一層重い制約が課せられている
それこそ、文字通りの全力を発揮しようものならば、サーヴァントとしての肉体に多大な負荷を齎すほどに
故に、セイバーはこれまで、サーヴァント規格の中で安定して発揮できる力の中で全霊を尽くしてきた。しかし、それでは負けるやもしれん。セイバーはそう判断したのだ - 104二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 20:56:15
- 105千界樹の記録23/11/04(土) 23:09:50
サーヴァント、クラスというある一定の段階で均一にならされたパワーバランス。そこに来るマスターと言う存在に加えて令呪によるサポート。そこへ2対1と言う窮状
セイバーは圧倒的な振りの中、相手の数の利を卑怯などと考える思考は持っていない。考えるのは純粋に相手の戦力と自身の取るべき選択のみ
「故に、此処からは当方の持てる全てを尽くす事を宣言しよう!」
魔力の奔流が一気に解き放たれ、その余波により灼熱の突風が巻き起こる。この場に生身の人間がいれば下手をしたら小さくない火傷を負いかねない程の高温の旋風は周囲い崩れているコンテナの残骸を吹き飛ばして大きい音を立てる
魔剣はこれ迄の真紅とは打って変わって蒼天の様な碧い姿を見せ、その魔力はこれ迄の魔剣とも首物にならないほどの力を感じ取れる。これは明らかにこの場に現界可能なサーヴァントとしての限界を超えてしまっている
恐らくそうしている間も相当な過負荷を受けているはずであろうセイバー。表情の窺えない顔を覆う仮面が外れ、幾つもの部品に分割しそれらが段階的に目を覆うフレームへと格納されていく。仮面は顔を引き立てる眼鏡と変化し、その蒼い瞳と精悍な顔立ちが顕になる
これまで宝具発動の一瞬のみに行なった魔剣の限定解除、それを常態で行う
これが最後の戦い、この場で全ての蹴りをつけると言う決意の証明だ
「あれはーーー」
アーチャーは変化した魔剣をに見覚えがあった。その姿は屍神ゴルゴーンを斃した時、宝具の真名解放の瞬間にのみ見せた姿。成程、これがあの魔剣の真の姿という事らしい
「この魔力……!」
ライダーは一度セイバーの宝具を受けている。その時はこの魔剣の解放はされなかったが、それでも現界ギリギリの攻防であったのだ。それの更に上の力を発揮すると言うのだ。警戒どころか最大限の警鐘が頭の中で響いていた
まだ令呪の効力は続いている。セイバーは魔剣の力を解放したことにより恐らく霊核への負荷を考えれば長時間の戦闘は出来ないだろう。此方は最悪時間稼ぎに徹すれば勝てるかもしれないが、それを許すようなセイバーではない
決戦は此処からが本番であると、アタランテとコンスタンティノスは武器を構え直す。セイバーもまたあくまでリラックスした様子で魔剣を構えて姿勢を低くする
顕になったその顔からは何よりも強靭な勝利への意志を感じさせた - 106二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 23:26:16
かっけぇ…、霊基再臨した姿になったってことか
- 107二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 00:34:26
良い落とし所持ってきたな
模造の聖杯だからなのかは分からないけどサーヴァントとしての出力上限振り切っての全力とかロマン溢れちゃう - 108二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 07:28:17
ほ
- 109二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 18:12:17
保守
- 110千界樹の記録23/11/05(日) 22:41:20
「ーーー参る!」
シグルドが地を蹴る。滑る様に低い姿勢のままライダーへと斬りかかって行くが、速度自体は先程までとは変わりはない。だが、圧は丸で異なっている。解放された魔剣から感じ取れる魔力はこれまでよりも更に高い
「ハァッ!」
振り下ろされる魔剣を剣で受けるが、受けた剣の刀身越しにでも伝わるこの圧力。マスターから施された祝福が無ければあっという間に魔剣の破壊量に負けて叩き折られていたであろう程の威力を前にライダーは覚悟していたはずなのに、戦慄を覚えざるを得なかった
全身のバネを使い魔剣を掬い上げる様に跳ね上げてそのままセイバーの懐に入る様に踏み込んで胴を薙ぐ様に剣を振るうが、その剣が振るわれる前にセイバーの膝蹴りが甲冑に叩き込まれる
「ーーーグゥッッ!」
強固な甲冑越しの筈なのに、鎧越しに伝わる衝撃が凄まじい。令呪で総合的な強化を受けていなければ吹き飛ばされていただろう
地面を削る勢いで後退るが、何とか吹き飛ばされるのは堪えてみせた。更に振り抜かれるセイバーの魔剣を全霊で捌いていくが、一振りするたびに霊基を焼かれる様な感覚が襲ってくる。肌が焦げるような灼熱の魔力の余波を常時放っている
これではまるで、太陽の力を持つ剣を振るっているのではなく、剣の形をした太陽其の物を振るっているに等しく、剣を交えるたびに霊核が削られていく様なものだ
これが太陽の魔剣、グラムの真の力ということか
ライダーはこのまま白兵戦で剣を交えるのは危険すぎると判断し、魔力放出を利用して剣から聖光を放つ。セイバーはライダーの剣が光るのを見た瞬間に後ろへ飛び退いて受ける前に退避した。そこにアーチャーからの援護射撃が入る
セイバーは魔剣を縦横に振り翳しては飛来する矢を落としていくが、矢は弾かれる、切り落とされると表現するよりは溶け落ちて行くと読んだ方が相応しい末路を遂げていく
「全く……手に負えんな」
アーチャーは毒付く。アレ程の力を持ったサーヴァントがこの様な場に存在して良いのかと嘆きたくもなるが、それでも勝ち筋がなくなったわけでは無い。セイバーは余りにも強力なサーヴァントではあるが、欠点ーーーでは無いが付け入る隙が全く無いわけでも無い
セイバー、シグルドには無敵や不死に関する逸話、またはそれに準じた強力な防御宝具がない
例えばアタランテの同郷の英雄には、誰もが知る英雄アキレウスが居る - 111千界樹の記録23/11/06(月) 08:43:53
アキレウスは、生まれた時に彼の母親テテュスによって神の火によって灼かれ、不死の力を得たとされている
有名な踵が弱点とされているものの、そこ以外はまさに無敵の力を持ち神性を持つもの以外からのあらゆる攻撃を一切受け付けないという不死の力
そして目の前の大英雄に近しい存在として同じ竜殺しの代名詞たるジークフリートもまた、無敵の逸話を持った存在
共に邪竜ファヴニールを討ち果たした偉業を成し遂げた英雄であるが、その後の顛末が異なっているとされる
シグルドは、邪竜の心臓を喰らった事で尽きることの無い竜の智慧、叡智の結晶を授かった
対してジークフリートは邪竜の血をその身にに浴びた事で無敵の力、竜血の鎧を手にしたと言う。唯一、背に張り付いた菩提樹の葉によって浴びる事のなかった背中を除いて
こうした無敵や不死の力を持つ英雄は多くの場合、攻略する術こそあれど攻略そのものが可能かどうかは大きく変わってしまい、英雄によっては勝ち目が殆ど存在しない様な場合もある
しかし、目の前の英雄シグルドにはそう言った力はない。あらゆる攻撃を受け付けない無敵の鎧も、神の加護もないのだ。奴は唯只管に強力なサーヴァントであるが、此方の攻撃もそのまま通せる以上は倒せる
アーチャーは矢を番えて、コンテナの山を蹴る。一瞬にして自身の有する最高速度へと移行しセイバーへと矢を撃ち放つ。射られた矢はそのどれもがAランクに到達しないものの、それに近い威力を伴ってライダーを避けるようにセイバーへと向かう。ライダーも聖光の魔力放出を大砲の様に扱い、魔力の砲弾を剣先より放つ。10を超える矢と魔力砲撃の波状攻撃を前に、セイバーは不動。それどころか、魔剣グラムを手放しーーー
「フゥンッ!」
聖光の砲弾へ目掛け、魔剣の柄頭を殴りつけて撃ち出した。太陽の魔剣ーーー破滅の黎明は蒼い炎の様な魔力を撒き散らしながらライダーの放った魔力砲弾へ食い込む
魔力砲弾と破滅の黎明の激突は、一瞬拮抗の様相を見せるが、それは文字通り一瞬の出来事であった。聖光を掻き消し、勢いを減衰させる事なくライダーへと牙を剥く
「ーーーっっ!」
ライダーは魔力放出を全開にして魔剣を受け止める令呪による強化の恩恵が無ければたとえ受けたとしてもあっという間に灰になっていただろう程の力。このまま受け続けてもそう遠くなく同じ結末を迎えるだろう - 112二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 19:18:25
あげ、最初から見直してきたけど徹頭徹尾セイバー陣営強い
- 113千界樹の記録23/11/06(月) 23:14:34
ライダー自身も懸命に踏ん張るが地面を削りながら、徐々に後ろに後退し始めている
「ーーーぐ、オオオオオオ!!」
魔力放出の力を限界まで駆動。仕向ける先は魔剣に対して争うのではなく、上にいなす様に魔力の矛先を向ける。同時に剣で上に弾くようにして、ライダーは何とか魔剣の一投から身を守ることができた
対するセイバーは魔剣を殴射した事で両手がフリーになると同時に腰から短剣を引き抜き、高速で駆けながら放たれた矢を迎撃する
逆手に握る短剣もまた、グラムと同じ様に碧く煌く刀身に変化している。まるでバターを切るかの様に全ての矢を斬り落とす様はやはり大英雄。霊基が軋む程に宝具の出力を解放しているのだ。動くだけでも全身に激痛が奔っているのは想像に難くない
にも関わらずその動きは劣化を知らず、減退を知らず。その精悍とした表情もまた変化は無く正に剣のような鋭い目付きで、アーチャーとライダーを見据えている
『ライダー』
アーチャーからの念話が届く。アーチャー自体にそれを行う術は無い為、恐らく彼女のマスターが繋いだのだろう
『どうしたんだいアーチャー?』
『単刀直入に聞く。このまま持久戦に持ち込んで勝てると思うか?』
アーチャーからの問いかけにライダーは逡巡する。目の前ではセイバーが鋭角な軌道を描きながら飛翔し、手元に戻っていく魔剣を掴み取ったところである
間も無くセイバーは此方へ攻め込むだろう。全く、神代の英雄はこうも人間離れをしていると言うのかと、呆れを覚えてしまう
『無理だろう。明らかにこれ迄とは火力が違う』
ライダーは直接剣を交えたからこそはっきりとした確信があった
『このまま耐え忍ぶ前にセイバーの攻撃力が此方を捉えるのは間違いない』
『ならば、奴を倒す手段は一つしかあるまい』
有無を言わさぬ一撃による必殺。あの大英雄を斃すには乾坤一擲に賭けるほかはない。しかし、それには大きすぎるリスクがあった
『セイバーの宝具、アレを防きる自信は私にはもう無い。此方が令呪を切れば向こうも切ってくるだろう』
そうなれば、条件は五部に近い。此方は前もって得られた令呪のバックアップはあるものの、向こうも霊基損耗を覚悟して宝具出力を際限なく上げてくるはずだ - 114二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:15:49
- 115二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:19:25
- 116二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:29:33
- 117二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:33:56
- 118二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:49:19
- 119二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:51:06
- 120二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:54:05
- 121二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:54:52
- 122二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:56:14
- 123スレ主23/11/07(火) 08:19:32
フ……
フフフ………
ふふふふふふ……… - 124千界樹の記録23/11/07(火) 08:20:04
そんな状況になったなら、以前の様に防ぐ自信はライダーには無かった。前回は此方が一方的にセイバーの宝具や真名を把握していると言う情報アドバンテージがあったればこそ。此方の宝具も初見でそれでもギリギリまでリソースを注ぎ込んで何とか凌いだのだ
今は情報のアドバンテージは無く、セイバーも此方の宝具を把握、理解している。もし前回の再現が起きたら、次こそセイバーの太陽は帝国の三重防壁を焼き尽くすだろう
『ああ。だからこそ宝具を使わせずに奴を仕留める』
アーチャーは強い言葉で断言する。何か秘策があるのだろうか。それを尋ねると、アーチャーは応えた
『ライダー。汝には悪いが死んで貰うぞ』
「ーーーッ!」
マルグリットはしつこく追い回してくる水蛇への対処に苦慮していた。身体能力は劇的に上昇しており、その爪の一撃で容易く切り裂くのだが、水の蛇は多少なりとも不死の力を有している。完全に粉砕しない限り復活し続けるのがこの魔術の厄介極まるポイントであった
幾ら人狼化したとは言えど、爪での攻撃では殆ど効果は望めない。かと言ってこの蛇の機動力は無視できない。瞬間的には人狼の機動力と瞬発力で突き放せるが、短時間で詰めてくる
この手の魔術は術師を仕留めれば瓦解するものが常だが、このヘリを無視して先輩に向かっても追いつかれてしまうだろう。幸い、あの時、バーサーカー戦で使った様な死の呪いが付与されていないものの、噛まれでもしたら何が起きるか分からない
(線での攻撃は効かない……)
ならば、確実なのは面攻撃によって文字通り押し潰してしまう事。しかし、そんな攻撃手段はマルグリット自身にはなかった
それに、問題はもう一つ
「リミットも近いし……ああもう!」
蛇の頭を蹴りで粉砕する。しかし所詮は頭のみ。胴体が残っていれば蛇は復活する
そして、彼女に課せられたリミットとは、この憑依術式の限界時間である - 125二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 10:53:47
あげ
- 126二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 12:15:45
改めて見ると💧🐍って中々ヤバげな魔術だな
バーサーカーのマスターは爆薬で吹き飛ばしたけど
逆にそれくらいできないと幾らでも再生するのか - 127二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 12:24:05
面での攻撃がないと対処出来ないのがなかなかいやらしいよね
- 128二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 17:57:01
やっぱり降霊に時間制限あるのか、まぁ術式短縮してるからしゃーなしと言えばしゃーないんだが
- 129千界樹の記録23/11/07(火) 23:04:54
マルグリットの用いた飴、当然これも魔術礼装の一つだが、この礼装を作るきっかけは、嘗て凌我に言われたある一言である
「現代の魔術師なら、護身用に何か一つ持っておけ」
その言葉と、自身の経験、そして彼が普段から用いている礼装から着想を得て、いざ魔術師同士の戦いになった時に対抗する術として考案したものがこの礼装、そして術である
この飴には彼女自身の血を練り込んである。これによって飴を口の中に取り入れることで照応の概念が働き、飴自体が彼女自身であると照応させる事で霊媒となる
そして、照応の概念によりマルグリットとなった飴に降霊させる事が可能となるのだ
飴は柔らかく、強く噛み締める事で先程の照応の概念が反転作用し、宿した霊の力を自分の肉体に反映させる。この工程を踏む事でマルグリットは憑依術式に於ける最大のリスク、憑変による魂の癒着を克服し、その結果肉体の変容による能力の向上のみを掬い上げることに成功した
この礼装を作るにあたり彼女は凌我の出身である日本の呪詛な降霊術に関して深く掘り下げて調べ上げた
日本は古くよりまじないや呪い、占いに関して非常に多様かつ根深い文化、技術が存在していた
その殆どが理論も神秘も定かで無い玉石の石だったが、中には玉も当然存在しいて、それらから多くの技術や理論を学ぶことができた
飴に血を練り込むのも、日本における代表的な呪詛の一つ、藁人形に髪を編み込んで釘を打つそれにヒントを得たものだ
それらの資料をまとめた量は膨大で、何しろその調べた内容をそのまま論文にまとめて発表出来たほどだ。自身の家系とも親和性があった事も研究に拍車をかけた
この礼装の最大の利点は肉体が変容する程の深度の降霊をリスクを排して扱える事
そひて欠点が、制限時間である
この飴は特殊な製造法を用いており、柔らかく噛み締めるのに最適なのだが、解けるのが比較的早いのだ
術式の起点である飴が溶け切ってしまうと、その時点で霊が離れ、憑依が解除されるかと言って硬度を高くして溶けにくくすると、噛み締めた時に割れてしまい、結果霊が抜けてしまうから意味はない
今の飴は試行錯誤を繰り返して溶ける時間と柔らかさのバランスを見極めた結果だが、時間としては凡そ100秒。厳密には99.9秒なのだが、そんなものはもはや誤差である - 130二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 23:12:27
なんか製菓職人としての修行もしないといけなくなってる…魔術師って大変だぁ…
- 131二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 23:37:07
スレ主やっぱ牙狼好きだな?
- 132二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 23:38:10
- 133二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 23:53:59
- 134二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 23:56:45
すげぇー!!元ネタをわかる人にはわかるように、しかも知らん人でも違和感なく入れれてるのすごい、凄くない?
- 135二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 07:31:42
主張しすぎず小ネタ程度にオマージュを入れられるのはすごいと思う
- 136スレ主23/11/08(水) 08:41:00
- 137千界樹の記録23/11/08(水) 08:41:23
そして、憑変による魂の癒着と言う最大のリスクを無視できるこの礼装であるが、当然肉体の変容による自身への負担は軽減できない
何しろ文字通り体が作り替えられるな等しいのだから、その負荷は想像を絶するのは想像も容易だろう。彼女は魔術を駆使してその負荷をある程度ば軽減しているが、それでもこの飴を連続しての使用は相当な無理をせざるを得ないだろう
そのタイムリミット100秒が、差し迫ろうとしているのだ
(時間も残り半分切ったし、面攻撃の方法ーーー!)
背中にゾワッと毛が逆立つ感覚を覚えて反射的に爪を振るう。そこには今まさに噛み付かんと牙を剥く蛇がいた水の蛇は一瞬上顎を砕かれて標的を見失った様に停止する
全く、オチオチ考える暇もない
しかし、本当に厄介極まる魔術である。あの女の様に一撃で粉砕出来る破壊力で殴るか一定以上の火力による面攻撃出ないと無力化出来ないなんて、魔術師によっては詰みに等しい
己自身、そんな芸当が可能な魔術は有しておらず、追い回されている有様だ
狼の霊を憑依させていることで身体能力そのものは爆発的に向上している。その辺のコンテナくらいなら蹴りの一回で軽く吹き飛ばせるくらいにはあるが、所詮は点の攻撃。あの蛇を完全に破壊する事はーーー
「ーーーそうだ」
その手があった!
再生してまたこちらを追い回してくる蛇の噛みつきを躱して、その胴体を爪で引き裂く。真っ二つに割れた蛇はその場で力無く崩れたがどうせまたすぐに再生するだろう。しかし、もう攻略法は発見したーーー!
「ハァアアアアア!!」
渾身の力を込めてコンテナを蹴り上げる。サーヴァントやマスター達の戦闘の余波で此処のコンテナの山が崩れており、丁度蹴り上げるのには最適だった
そして蹴り上げたコンテナがあった場所にはちょうどいい窪みが出来上がる。そこへ続けて周りのコンテナを蹴り抜いてスペースを作る
「初めからこうすれば良かったんだ」
丁度できたコンテナ群の窪みを取り囲む様に蹴ったコンテナが並び、そこへ再生した蛇が侵入してくる。けれどもう既に攻略方法は完成したーーー - 138二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 14:09:56
- 139二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 21:30:22
保守
- 140二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 23:52:23
今し方作り上げた空間の中に水蛇が侵入してくる。だが、此処はもはやキルゾーン
こちらに牙を剥いて襲い掛かる蛇の頭部を蹴り砕く。更にーーー
「ーーーシッ!」
爪で胴体を二つに引き裂く。これで水の蛇は頭を失い更に二つに分かれた事で地面に力無く崩れ落ちる
そして当然だが、破壊状態の度合いが大きい程、再生に掛かる時間も比例して増加する。同時に二箇所の部位を破壊してしまえば当然再生に掛かる時間も増える。とは言っても大した違いはなく、精々が数秒の差になるが、今はそれだけの時間が稼げるなら、こちらの勝ちだ
蛇が再生している間にコンテナの上に向かう。間も無く再生が終わるだろうが此処まで来たら関係ない
「これで、終わり!」
崩れずに残ったコンテナを蹴り落とす。人狼となった事で飛躍した身体能力ならば、鉄の塊であるコンテナも簡単に叩き落とせる
落下するコンテナの先、つまり落下地点には、再生を終えたばかりの水蛇がいるーーー!
「じゃあね」
凄まじい破壊音と共にコンテナがアスファルトを割る。下敷きとなった水蛇の末路は、もはや語るまでもない
人狼の膂力で簡単に落ちたとは言え、貨物運搬用のコンテナはそれこそ鉄の巨大な塊だ。その質量は言うまでもなく巨大であり、容量を確保する為に大きさもまた相応にある
それは正しく、マルグリットが求めていた水蛇を粉々にできる面攻撃を可能にする武器であった
如何に不死の力を持つ蛇を模った魔術だらうと、当然100kgをはるかに上回る様な大きさの塊に潰されて仕舞えば再生も何もない
割れた道とコンテナの間から漏れる四散した水も、二度と動く気配を見せななった
「時間かけさせてーーー!」
お陰でかなり時間を削られた。これ以上この姿を維持するのは難しい。せめて残り時間は有意に使いたい
すぐさま先輩達の戦っている場所へと向かう
「ホラホラ!まだまだァ!」
「ーーーっぐ!チィッ」
戦鎚を喪失したルーナは、両手足に展開した灰錠を駆使したキックボクシングスタイルで、凌我を追い込んでゆく。彼女の得意な戦闘はあくまでも戦鎚による圧殺だ再生する死徒にその隙を与えずにその肉体を破壊する戦鎚を振るうのが本領だが、それを喪失したーーー若しくは使えない戦闘ではこうして小回りを重視した極近接戦闘を主眼とした戦闘方法も確立していたのだ。一撃一撃の威力は戦鎚に比べると遥かに劣るだろう - 141二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 09:25:21
保守
- 142千界樹の記録23/11/09(木) 12:00:54
しかし、手足の灰錠にも当然、魔力振動を載せている。破壊力に劣ると言ってもその手数は超重量武器である戦鎚とは比べ物にならない。何せ戦鎚と比べれば小回りが違うのだから、戦鎚を一度振るう間に拳なら大小含めて4発は繰り出せる
戦鎚を振るってなお凌我の剣に勝る勢いだったのが、こうなればもはや完全に圧倒していた
「チィーーーハァッ!」
「フッーーー甘い!」
距離を置くようにバックステップしながら繰り出される斬撃を片手で受け止める。相当な切れ味を誇る彼の剣だが、此方の灰錠もまた戦鎚と同じように振動を発しており、それによって相殺される
激しい火花を散らせながら剣を弾いてそのまま拳の乱打を披露。凌我はそれをギリギリで躱し続けるが、当然無傷とは行かない。所々拳が掠め、その度に皮膚が弾け赤い飛沫が舞う。本来、振動波は掠めるだけでも接触した時点で伝播し、対象を内側から破壊していくが、凌我は敢えて掠めた時点でその部位を破壊し振動を相殺、伝播を防いでいる
しかし、当然それは苦肉の策で、掠める度に肉体を傷つける行為には変わらない
そして、幾ら羽織っているコートに衝撃や振動を拡散する魔術が施されていると言っても限界はある。一撃ニ撃ならばまだしも、既にルーナの両手足の有効打は10を越える
重さも威力も戦鎚のそれには遠く及ばないが、累積すればあっという間に許容範囲を超えてしまう
まさに塵も積もれば山となる。拡散されてなお残った僅かな振動波も、蓄積され凌我の内側で反響、増幅を繰り返して肥大化していく。当然、それは徐々に凌我の体を蝕んでいく
「あら、顔色がわるい、わねっ!」
「言ってろ。……っ!?」
鉈の様な鋭さと重さで振るわれる回し蹴りをら回避し、反撃に踏み込もうとした時、膝がガクンと落ちる。遂に蓄積した振動が骨格にまでその影響を及ぼしたのだ。何とか姿勢を崩しながらも堪えて斬撃を繰り出すが反撃の剣はあえなく虚空を切り、標的には全く届いていない。攻撃にも牽制にもならない空振りは、つまりは明確な隙となる
「ーーー貰ったよ!」
そして、その隙を彼女が見逃す訳は存在せず、空気を引き裂くような、砲弾の様な拳が凌我に突き刺さる。ねじる様に減り込まれた灰錠からこれまでは掠った程度の振動とは違う暴力的な破の波が肉体を蹂躙し、遥か後方へと吹き飛ばす - 143二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 22:48:58
保守
- 144二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 22:50:26
いやぁ…ルーナさんえっぐい。代行者ってこんなバケモンばっか?バケモンばっかでしたね…
- 145二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 22:59:42
このレスは削除されています
- 146二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 23:02:15
鎧無しでこれはマジもんのバケもん
- 147千界樹の記録23/11/10(金) 08:19:37
此処は海運の要となるコンテナ置き場。となるとその後の運命は当然の帰結としてーーー
「ガハァッ!」
吹き飛ばされた凌我は、受け身も何もできずにコンテナに叩きつけられる。鉄製のコンテナはフレームが歪む程にへこみ、その威力の程を見せつける
「ーーーッッ、ゴプ」
そして、人間の肉体はその大部分が水と言われている。ルーナの一撃により叩き込まれた振動が、体内を駆け巡り一瞬にして大きな波紋となる。自身の体内、決して逃れようのない肉体を構成する筈の水分が振動によって暴走したことで体内の凡ゆる臓器や血管がぐちゃぐちゃに掻き回されるのは言うまでもないだろう
直接的な打撃のダメージに加えて体内に及ぶ破壊を同時に受ければ口から多量の血を吐き出すのも当然の帰結と言える。例え自己暗示によって身体を作り替えていても、こればかりはどうしようもなく生物たしてのの構造上の問題であった
更に、これまで体内で反響蓄積された振動が外から打ち込まれた振動によって一気に増幅、炸裂したことで四肢の骨に亀裂を生み、内側から外側へと振動が突き抜けていく為に身体中の至る所から血が吹き出す有様だった
コートやズボンの下はもはや見る影もないほどに破壊し尽くされており、凌我は力無くめり込んだコンテナから崩れ落ちる
辛うじて意識があるのか、膝をついた姿勢から倒れることは無かったが、逆に意識が残っている方が苦痛に苛まれる事になるだろう
「ーーーさあ、て」
ルーナは軽快なステップを刻みながらボクシングスタイルを維持している。最早勝利は決まったも同然、だと言うのにその表情は晴れることなく、崩れたままの凌我を見据えている
「ーーー嘘」
丁度そこへマルグリットが戻ってきた。人狼の姿の彼女は、目の前の光景に何を思うのか、呆然とした様子で2人を見つめている
「先輩が、負けた……」
その声は微かに震えている。マルグリット自身、この場のマスター3人の力の程を理解していないほど阿呆ではない。いざ戦闘になったら誰が勝つのかくらいの予想は立てられる。しかし、目の前の銀髪の代行者がどれほど強いのかも理解しているつもりだったが、それでもと、思う気持ちがあった
先輩ならば、最後の最後でなんとかしてしまうだろうと言う、信頼にも似た感情がこの結末を信じられない気持ちを作っていた - 148二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 09:13:31
ヒェェ容赦ない
- 149二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 10:22:15
体内で炸裂弾が吹っ飛んでるって考えると恐ろしい威力だな…
- 150二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 14:50:22
- 151二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 19:19:06
一応保守
凌我君ボロボロ過ぎィ - 152二次元好きの匿名さん23/11/11(土) 00:02:35
戦鎚あったら確実にペシャンコからのポーンで弾けるからな
- 153千界樹の記録23/11/11(土) 09:32:49
「まだよ」
呆然と立ち尽くすマルグリットに優しく声をかけるルーナ。彼女は未だファイディグポーズを解かずにステップを刻む。この期に及んで、目の前の代行者は戦闘を続ける気なのだろうか明らかにもう戦闘不能。と言うより、私が来るまでもなく戦いが終わってしまった事に少し唖然とする
先輩を負かすつもりだったのに、本当に負けたところを見ると、胸が締め付けられるような気持ちになってしまう。しかし、目の前の状況に対して、ルーナは毅然と否と唱えた
「凌我君がこの程度で終わるはずないじゃ無い?」
言いながら疾風の様に駆け出す。ステップで勢い付けられたその速さは人狼となったルーナにすら追いきれない速度を叩き出していた
ルーナは右手の拳を強く握り込むギリギリと関節が唸りを上げ、手を覆う灰錠へと魔力が注ぎ込まれる。紫電のような光を纏い始める灰色の鉄甲は、既にかなりの魔力を宿している。この状態での一撃をまともに受ければそれこそ人体など、無事ではすまない。元の原型が多少残れば御の字。確実に殴りつけた部位は消し飛ぶだろう
「終わるなんてーーー」
それ程の破壊力を伴う力を死に体の人間に向けるのは正気を疑うが、彼女にとってはこれが最適解
何故なら、ルーナは知っているからだ
魔術師とはどんな人種なのか。目の前で死にかけているはずの人間が、一体どのような人間なのか
初めて自分と邂逅したあの日ーーー
特級の死徒をただ1人で滅ぼしたあの時ーーー
そして、人を辞めた親友を討ったあの時もーーー
その全てが今、この程度で終わる様な人間には越えられない壁の連続だったのだ
其れらを越えて、時には私の事すら助けてくれた、そんな彼がこれでおしまいなどと、あり得る筈が無い
心音は止まっている。魔術回路も機能を停止、呼吸も今まさに止まろうとしている。けれども、それだけだ。魔術師ならばーーー神水流凌我ならば此処からいくらだって巻き返してしまうだろう
誰よりも彼を評価している自負があればこその全力の一撃。確実に殺し切るつもりで掛からなければ倒せない相手だと、拳を振り抜く
「ーーー無いよねえ!」
振るわれた拳は、真っ直ぐに凌駕へと向かいーーー - 154二次元好きの匿名さん23/11/11(土) 17:21:03
いや止まりなさいよね
心臓止まってるの分かってるなら - 155千界樹の記録23/11/11(土) 21:54:39
「ーーーああ、終わらねえよ」
灰錠の一撃を受け止める暗銀の刃。繰り出された拳は凌我に届く寸前で彼の剣に阻まれる
「終わって、たまるか……!」
崩れ落ちた姿勢のまま、顔を上げる凌我。弾けた額から血が流れて吐血と併せて顔の半分以上の面積が赤黒く染まっているが、それでも尚不敵に嗤い、ルーナの拳を弾き飛ばす
「ーーーアハ」
ルーナもまた、弾かれた拳が痺れる感覚を覚えるが、そんなことはもう知らないとばかりに膝が震え、口元が三日月に割れる
「アッハハハハ!!」
楽しそうに哄笑を上げるルーナ。そうでなくては、そうであろうとも。そう喜悦を無尽蔵に放射する様を見て、マルグリットは思わず後ずさる。此処まで殺し尽くされて動く先輩も、その先輩を此処まで徹底的に身体を破壊し尽くしておいて、動き出した先輩を見て本当に嬉しそうに笑うルーナにも
「何で…あんなに嗤っていられるのよ」
凌我は血塗れになりながら…いや、足元に血溜まりを作りながらもゆっくりと立ち上がる。肩で息をしながらもその眼は未だ死んでいない。心臓も徐々に鼓動を再開しだす。しかし、ルーナからの一撃は間違いなく死んでおかしくは無いダメージを受けた筈で、例え魔術刻印の力があってもこうも立ち上がる事などほぼ出来はしないだろうがーーー
「アハハ!やっぱり、備えていたって事ね」
凌我の胸から微かに盛れる光。そこから感じられる魔力の質、神秘のレベルが圧倒的に現代の魔術師では扱えない代物である事は間違いない
「アレって、まさかーーー」
「ハーーーこれが無ければ終わってたな」
凌我が懐から取り出したものは光る水晶石。当然、唯の水晶石では無く凄まじい神秘が込められている
「セイバーの手腕ね。やっぱり君なら絶対何かしらの準備は整えてるって信じでた」
その正体はーーー原初のルーン
大神オーディンが生み出し、戦乙女から授かりしシグルドが、手ずから刻み込んだ神代の神秘による蘇生のルーンである
「ま、終わってたものが唯の致命傷になっただけだが……」
「当然、それだけじゃ無いんでしょう!?」
自身の攻撃を弾かれ、更に手が痺れているにも関わらずそれを完全に無視し再び凌我へと殴り込む
それに対して凌我の剣は余りにも変わらず、致命的な攻撃を受けた後だろうが何も変わらず剣の動きは些かも翳りは無く正確に剣を振い灰錠を弾く - 156二次元好きの匿名さん23/11/11(土) 22:23:01
おわぁ蘇生のルーンか!確かプリヤでもでてきたルーンだな、死んでも蘇られるっていう化け物みたいなルーン使えるってやっぱシグルドやべぇわ
- 157二次元好きの匿名さん23/11/11(土) 22:34:41
鯖がシグルドだから此処まで強く感じるけど、逆にシグルドじなきゃ詰んでる所が多すぎる