【SS】天高くウマ耳ボサる、秋の皇帝

  • 1二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:17:28

     ──ルドルフのウマ耳を見ると、季節の変わり目を感じるよ。

     そんなことを伝えるときっと彼女はわずかに意表を突かれた顔をしてから、あまり聞き慣れない四字熟語とともに苦笑し、それから微笑みを返してくるに違いない。
     ……あるいは苦笑だけで終わるかもしれない。
     それは自分としては望んでいないものだった。

     一般的なウマ娘よりも毛量が多く、モサッと可愛らしく膨らんだ彼女のウマ耳は愛おしいものであり。
     このトレセン学園、ひいてはレースウマ娘の中で絶対的な皇帝と呼ばれる彼女を身近に感じることのできる、とっかかりの一つなのだから。

     夏から秋へ、夏毛から冬毛に生え変わるタイミングで毛が薄くスリムになり。そして斑に伸び生えるこの季節はそのモサモサ具合、ボサボサ具合がより一層激しくなる。
     ようやく涼しさを感じるようになった日暮れの空気、ほんのわずかに色づき始めた木々の葉っぱ。
     それと調和するような色調の、ややボテッとした鹿毛のウマ耳。
     毎年目にしているはずなのに、未だに飽きることのないものだった。

     そしてその変化で改めて気づくのだ。
     ああ、今年も秋が来たのだな、と。

  • 2二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:17:39

     これを伝えたら彼女はどうするだろうか。
     完璧を、理想を目指す彼女のことだ。
     きっとより一層ウマ耳を整えて、この変化を美しく一定に保ってしまうのかもしれない。

     だから、このことは伝えない。
     皇帝に仕える身としては、忠義が足りないかもしれないけれど。
     それでも。



    「秋が来たなあ」
     彼女のウマ耳から視線をほんの少し反らして、学園の木を見ながら誤魔化し。それだけを伝える。

    「ふふ。そうだね。いつもの、秋だ」
     俺の言葉に呼応するように、ルドルフはどこか満足そうに頷き。
     その魅力的なウマ耳を揺らした。

  • 3二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:17:56

     ──トレーナー君のその視線で、季節の変化を感じことがあるよ。

     そんなことを告げれば、きっと彼は驚いて、己の行為を恥じるだろう。
     そして申し訳無さそうに謝るに違いない。デリカシーが足りなかった、などと。

     彼は同じ失敗を繰り返さないヒトだ。
     トレーナー君から私に向けられる様々な視線の一つ。その一つが、私の何気ない一言で永遠に失われるかもしれない。
     それは私の望むところではなかった。

     ようやく暑さが去った空気の中を、私は自分の耳を泳がせる。
     他のウマ娘に比べて毛量の多く、不揃いになりがちな私のウマ耳は換毛期になるとさらに起伏が激しくなる。
     毎日ブラシで丁寧に整えても、それを抑えられないくらいに。
     もちろん美容院に行ってカットをしてもらえばよい。しかし冬毛が生え揃うまでは我慢するのがセオリーだった。
     そうでなくては何度も美容院を訪れることになるのだから。

     かくしては私は太い冬毛と、まだそれの生えていない薄い部分を初秋の大気に、そして彼の視線の先に晒す。

  • 4二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:18:18

     恥じることなどない。
     ウマ娘にとってはごく普通のことなのだから。
     ……しかし。トレーナー君に自分の毛が目線が毛の薄い場所に向かっているようで。それが恥ずかしく、くすぐったい。
     不快なものではない、心の幸せを感じる場所。そこを刺激する類のもので……こそばゆく、落ち着かなくなる。
     まだまだ自分が未熟であることを思い知らされる。

     思わず私は耳を揺らす。
     その動きを彼の瞳が追う。口元がわずかに緩むのを察する。

     そして改めて思い返すのだ。去年も一昨年も、こんなことがあったなと。
     とうとう秋が来たのだな、と。

  • 5二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:18:34

    「秋が来たなあ」
     トレーナー君が視線を反らし、学園の木々を眺めながらしみじみと言う。
     その言葉が何を発端にして出たものか、私はしっかりと気づいている。

     ……私は、君のことを。君が思っている以上に知っているつもりだよ。
     それをいつかは伝えようと思う。
     でも今はまだそのままで。この甘美な幸せを噛み締めさせてもらうのだ。

    「ふふ。そうだね。いつもの、秋だ」
     そして私は彼の視線を再び奪うべく。
     かすかに残る熱気を弾くように、自分の耳を揺らしてみせた。

  • 6二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:18:56

    おしまい


    ウマ娘には換毛期があって、その時期のウマ耳はボサボサで。

    普段からモサってるルドルフはさらにボサモサになる概念をSSにしたためました。


    発想元はウララちゃんの冬毛が足りてないという話から。

    https://mf-urara.jimdo.com/2023/10/12/%E5%86%AC%E6%AF%9B%E3%81%8C%E8%B6%B3%E3%82%8A%E3%81%AA%E3%81%84/

  • 7二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:42:16

    ルドルフ毛量が多いからこの時期は苦労してそうだねぇ
    でもなんだか幸せそう

  • 8二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 20:34:53

    カイチョーはお耳もかわいいよね

  • 9二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 20:36:44

    カイチョーのもしゃもしゃ耳の可愛さに気付いている同士がいることに加えてこれほどの良概念をお出しして来るとは......このリハクの目にも読めなかった

  • 10二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 21:26:52

    ルドルフのギザ耳いいよね.....

  • 11二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 21:29:16

    うーんナイスSS

  • 12二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 02:52:24

    いじらしい…

  • 13二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 07:34:34

    >>12

    素晴らしいイラスト……

  • 14二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 07:52:09

    耳を注視されるのを許容するって、なんだかえっちぃ感じがします!
    特に恥じらいを持ちながらそれを好ましく思ってるのが、もういくつか大人の階段登った感じがします!
    こういうの好きです!ありがとう!

  • 15二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 08:14:42

    このむずむずする奥ゆかしさがとても良い……。

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