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  • 1二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:25:11

     商店街の最初の路地、その角を一つ曲がったところにその店はある。

     木造平屋の建物には「マザー★メアリー占いの家」という看板があり、特殊な塗料を使っているのか夕日に反射して光輝いている。岬数馬はそのドアの前に立つとドアを蹴破った。
     ドアは掛け金ごと吹っ飛び、目の前の壁に突き刺さる。

    「ばあさんいるかー?」

     数馬はずかずかと店に入り、一歩踏み込むごとに落とし穴にはまっていく。

     薄暗い店内にはオカルト的な装飾が施されていて、特に壁にかけられたターミネーターの腕がなんともそれらしい。部屋の真ん中にはテーブルが一つあり、数馬と向かい合う側に一人の淑女がいた。

     服も、靴も、髪も、爪も、サングラスも、瞳も、口紅もすべてまっ黄色な女だ。

    「あぁ、あんたか。何のようだい?」

     年齢はわからないが、見た目相応のかわいらしい声で言った。数馬は腕をまくるとそれを淑女に見せる。

    「これ直してほしいんだけど?」

     数馬の腕は猫になっていた。恐らく、寝ている間にそうなったのだろう。織女もそれを見破って彼に言った。

    「なるほど、これは後一日放っておけば犬になっているね。一年後はアリゲーターだ」
    「やっぱりな……」

     数馬は呟くと周りを見回す。

    「そういえば、マザー★メアリーは?」
    「奥にいるよ。呼ぶかい?」

     いい、と数馬が言おうとした瞬間、壁に突き刺さったドアのドアノブが回ってガチャリという音がしてゆっくり開いていった。そこから出てきたのは、シースルーのネグリジェを着た幼女だ。

  • 2二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:28:08

    熊のぬいぐるみを床に引きずって、まぶたを眠たそうに擦っている。

    「よんだー?」

     マザー★メアリーは舌足らずな声で淑女に言った。そして、目線を移して数馬を見る。

    「あー、こうこうせいさんだー。おはよー!」
    「こんばんは、だ。マザー★メアリー」

     数馬は少し嫌な顔をしたものの、幼女のネグリジェ姿に興奮していた。織女にいたっては明らかに鼻息を荒くしている。

    「めいそうしてたら、こんなじかんになっちゃったー」
    「瞑想と昼寝は違うと思うが……」
    「あー、ねこさんだーっ!」
    「今頃かよ」
    「かわいいー。なでなで」
    「やめろ」

     数馬は腕の猫とじゃれるマザー★メアリーの頭をアイアンクローして持ち上げると、なぜか腕の猫はもっとじゃれたそうに彼女を見上げている。

     彼女はアイアンクローされたまま数馬に話しかけた。相変わらず丈夫だ。

    「なにしにきたのー?」
    「腕を直してもらいにな」
    「じゃあ、うしろのひとはおつれのかたですかー」

     マザー★メアリーは特に残念たがることもせず、淡々と言った。数馬は何のことかと思って後ろを見る。すると、そこには身長二メートルほどの黒子がいて、次の瞬間、数馬の首が刎ね飛んだ。

    「あ」

  • 3二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:30:51

     数馬の首は床に落ちて転がり、彼は古い木の芳しい匂いが鼻腔をくすぐる。体は崩れ落ちて、見事な正座をした。

     黒子はすぐに踵を返して、落とし穴にはまりながら店から出て行く。それを静かに見ていた淑女は椅子に座りながら床にある数馬の生首に言った。

    「どうする? 直すのかい」
    「いや、いいよ。どうせ死ぬし。だって首が切れてんだぜ? それで、生きてる生物はいねーよ」

     数馬はなんでもなく言う。

    「こうこうせいさん。このこもらってもいい?」

     そんな数馬に、マザー★メアリーは腕の猫を指差した。猫は折り畳まれた膝の辺りでぬくぬくと昼寝をしている。数馬は少しうらやましかったが、それが自分の膝だと気づくと妙にむなしくなった。

  • 4二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:32:48

    「別にいいけど、大切にしてくれよな?」
    「するするー!」

     彼女は大喜びで万歳すると、寝ている猫の体を持って、腕から引っこ抜いた。猫は少し驚いたような顔をしたが、マザー★メアリーに抱きかかえられるとそんなことはどうでもよくなったのか、また気持ちよさそうに目をつむり始める。

     上半身だけの猫をいいこいいこしながら、彼女はふと何か思いついたらしい。

     とてとて、と走って数馬の背中に回りこむと少し前まで彼の頭があった所に上半身だけの猫を置いた。すると見事にくっつき、数馬の体は動きはじめる。しかし、すぐに気持ちよくなったのか、彼女はすぐに猫を引っこ抜いた。

     あの要領で俺の首戻んねーかな、と数馬は微かな希望を抱いたが、世の中そんなに都合よくできてねーな、と考えを改める。

     淑女はしばらく何か考えるような仕草をして、そんな淑女が気になって数馬は話しかけた。

    「どうしたんだ?」
    「あんたさ、ここの番犬やってみない?」
    「……まぁ、確かに店の前に生首があるのは防犯にちょうどいいだろうが、具体的に何すりゃいいんだ?」

     数馬は聞く、そして淑女はなんでもないように言った。

    「怪しい奴がきたら、吠えてくればいいんだよ?」

     聞きながら、チラリ、横を見る。マザー★メアリーは猫と首なしの体を使って遊んでいた。

     次の日、店の前には元気な数馬の姿があった。

    「クック、ドゥウドゥルドゥーッ!」

  • 5二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:33:02

    おしまい

  • 6二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:35:18

    アプサード=理不尽

  • 7二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:36:56

    お、おう……なに、この言葉にできないなにか?
    ツッコミ所多すぎて、何も言えねぇ……。

  • 8二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:45:16

    怪文書(割りとガチめ)じゃん。

  • 9二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:52:16

    >>6

    なるほど、としか……。

  • 10二次元好きの匿名さん21/08/31(火) 21:56:37

    >>6

    不条理の方が正しくないか?

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