トリック・オア・トリートですよ、

  • 1二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 23:38:18

    先生。

    頭に魔女らしき安物の帽子を乗せただけの、仮装とも言えない仮装。そんなある種ありきたりとも言える恰好をしながら、私は今先生の目の前にいる。


    ”……何を?”

    「先生は大人ですから。今日はお菓子を配る側だったんじゃないですか?ですから、ほら。少しくらい、お菓子をねだってみて下さい」


  • 2二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 23:38:42

    手を伸ばせば触れられる距離よりもっと近く。お互いの吐息を感じる所まで。体温さえ分かってしまうような、そんな間合で。
    今日はいつもと違う。労働後という疲れさえあれど、夜勤明けの時ほど疲労がたまっている訳ではない。
    先生も今日は珍しく徹夜などはしていないことは確認済みだ。

    ”……今日はハロウィンでしょ?カンナ前に言ってたじゃない。「捜査を遅延させる厄介な時期」だって。なのにここにいて大丈夫なの?”
    「私の勤務時間は本日は日中でしたから。流石に四六時中詰めている訳にも行きませんし。それに、部下たちが。今日は少しでも楽しんで欲しいから後は任せろと言ってくれましてね。流石に無碍にする訳には行きません」

    それが、この帽子をかぶっている理由。フブキが若干にやついているというか、からかいを含んだ目線を向けてきたのが少々気になるところではあるが。
    「だから少しだけでもその気分に浸ってみようかと。それでこうして、こちらまで足を運んだわけです」

    言い訳の様に言葉を重ねようとする先生の口を、更に一歩踏み込むことで封じる。
    もう体の正面は重なっていて、私の熱を先生に伝えている事だろう。普段の時とは違い、背後からではなく真正面から感じる体温。
    疲労も眠気も無しに感じる熱さで、逆に頭は冴え渡っていく。
    いつもとは違う。そんなものに頼らず、私の意思で。先生の意思で。線の向こうへと踏み入るのだ。
    そう言う決意を持って、私は今日ここに来た。

  • 3二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 23:38:56

    「さあ、先生。おっしゃって下さい」
    耳元へ口を寄せ、囁くように告げる。いつもとは逆の状態であることが、ひどく新鮮で楽しい。

    "……ッ!"

    普段吸っている私の香りが届いたのだろう、先生の瞳に「色」が灯る。当番の度に行われる、名前の付けられない奇妙で歪な関係。その時の色。
    スイッチが入った。いや、私が入れた。ここから先へ、進むために。
    私の熱が伝わっているだけではない、先生の熱も伝わってくる。お互いの体温が布越しに混ざりあって、別の熱さに変わる。
    ……いつもと違うのは、今日は理性の鎖があること。お互いに。
    ただしそれを、一つ一つ丁寧に解いていく。言い訳などする余地を微塵も残させないために、理性と熱と「色」でもって、溶かしつくす。

    先生の瞳に映る私の、その瞳にも。同じような「色」が。

    あるいは。
    先生のそれより、更に強く灯っていた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/10/31(火) 23:53:11

    新鮮なカンナSS……!

  • 5二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 00:05:24

    詰め寄ったその勢いのまま、先生を椅子へと座らせる。深く腰掛けさせ、その上へ私も。
    お互いに向かい合った状態で、私が膝の上に乗る形。
    普段の二人羽織じみた座り方とはこれもまた真逆で、でも混ざる熱はいつもより熱く。

    座ってしまえば、もう身長差も何もなく、目線が平行に交わる。
    それでも普段より強固な理性が、目線を逸らそう──とする頭を両手で捕まえ、強引に固定する。

    先生の目には私が。
    私の目には先生が。

    お互いにお互いの姿のみを映す。

    ”……言ったら、どうなるの?”
    「それは言ってみない事には分かりません。お菓子を貰えるのか、あるいは」
    流石に私自身がお菓子です、なんてことは口が裂けても言えないが。そんな考えが掠めるくらいには私は私に自信がある……というか、付いた。
    少なくとも、先生限定で。回数が多くないとはいえ、あそこまで執拗に私を求められれば。否が応でもそう思えてしまう。

    この人は、私に夢中なのだと。

    好意の矢印が無数に向けられ、その全てを躱す彼が。そんな人が私にだけ向ける欲。
    普段は意識すらしていない、自分の中の何かを刺激するには十分すぎる。

    「さあ、どうぞ?」
    まだ無駄な抵抗を続ける先生の背を押すように、優しく声を重ねる。
    いつもはいいようにしてやられているせいか、先生が狼狽える様にどこか昏い悦びを覚える。
    そんな思いが私の体温を上げ、気付けば少し汗ばむくらいに。

    つまりそれは、先生への誘惑の追撃に他ならない。

  • 6二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 00:16:44

    案の定、彼の瞳の中の色は更に濃く。
    いつもと同じ状態、されど向きは反対で。お互いがお互いに薪を追加するような現状に。更に。
    疲労も眠気も無い通常通りの理性を焙っていく、交ざった体温。私の匂い。
    それが、普段は曖昧になっている背徳感というスパイスを、彼の理性に叩きつけ、煽っていく。

    ”……ト”
    「……」

    呻き声とも似た掠れ声で呟かれた言葉に、沈黙で返す。ただし、捕まえたままの彼の頭の、口元へ私の耳を寄せ。一言一句聞き漏らさない様に。
    更に近づいた距離、そして彼の鼻孔を擽る匂い。

    それが、恐らく。続きの言葉を引き出す鍵だった。

    ”……トリック・オア・トリート?”

  • 7二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 00:34:22

    「……おや。お菓子か悪戯か、ですか」
    一瞬上ずりそうになった声を強引に修正。いっそわざとらしく聞こえる様に、言葉を紡いでいく。
    震える彼の声。緊張と興奮でのぼせる体から立ち昇る汗の匂い。身にまとう珈琲の香り。

    何のことは無い、興奮しているのは彼だけでなく。私も同じだということ。
    それを自覚し、また暴れそうになる声音を務めて平時の調子を保つように力を傾けながら。


    「全く。困りました。私は勤務明けで生憎、お菓子を持っていません」
    「これはこれはどうしましょうか。問われたにも拘らず、お菓子を渡せたなかった者は──」


    彼の頭を搔き抱き、耳朶を食める程の位置から。明らかに自らで分かる程の艶が入った声色で。普段どおりなんて何処にも無い。

    「──悪戯されても、仕方ないですね?」

    ですから、さあ。どうぞ。ご自由に。

  • 8二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 01:01:02

    ガチリと。
    私の冷静さと熱と理性が。彼の理性の鎖を引き千切った。

    ”カンナ……ッ”

    ようやく。ようやくだ。
    私の力ではない、彼自身の意思で。私の首筋、鎖骨のあたりへと。私に頭を抱かれたまま、その力に逆らわずに、顔を埋(うず)める。

    いつもと同じように。いつもより力強く。
    吸って。吐く。吸って、吐く。
    私の匂いを体中に取り込んでいる。それも。ただ自らの熱の赴くままに。普段の、疲れや眠気に押されている時とは断じて違う。
    今は、100%彼の意思だ。そうなるように、私が仕向けた。

    改めて、匂いを嗅がれる羞恥と。彼の理性を壊せた高揚感に背中を押されて。私自身の躰の感覚が鋭さを増していく。

    首筋に触れる吐息の熱が。一呼吸ごとに上がる。
    零距離で触れ合う鼓動が。激しさを増していく。
    私の掌と重なる彼の掌が。私と彼の汗で交ざる。

    「んっ……」
    自らの口から思わず、息が。声が漏れる。前は無意識の内に押さえつけたそれを。今回は逆に、抑え込もうとする無意識を自身の理性でねじ伏せる。
    もうごまかしは効かないし、そうする必要も無い。
    そう告げる私の思考が、更に興奮を加速させ。

    声を。艶声を喉奥から奏でた。

  • 9二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 01:23:55

    ”カンナ……”
    「ええ、どうぞ?……私は、お菓子を」

    持ち合わせていませんでしたから。
    そんな最早戯言に過ぎない免罪符を手渡して、更に奥へ。
    かつての関係では踏み越えられなかった一線。その先へ。

    存分に「呼吸」した彼が、そのままの位置で。口を開ける。
    そこから漏れる、息になる前の息。体温をそのまま帯びた、熱が。私の首を焼き焦がす。
    当然錯覚だ。人間の息が火傷する程の熱さである訳が無い。
    それでも鋭敏になった私の感覚は、まるで火傷をしたかのように、刺激を私の脳髄へと流し込んでくる。

    その火傷はとても甘く。
    自分では全くもって鎮められないような甘美な味。

    そして、それを分かっているのかいないのか。彼は開けた口を。
    私の首へあてがい。
    呼吸では明確に無い力で。
    大きく、強く。

    吸った。

  • 10二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 01:50:26

    「~~~~ッッ!!」
    瞬間。
    私の躰を駆け巡る未知の刺激。反射的に噛みしめて堪えて、それでも漏れてしまう嬌声。今までとは文字通り次元の違う感覚。そんな私の様子に先生もあてられたのか、より一層ボルテージが上がっている。

    「ひゃうっ……んあっ……ちょ、っちょっとせんせ、まっ……だっ」
    未知の感覚に弄ばれる私の反応を見て、それを愉しむように彼の勢いが増す。
    先程まで主導権を握っていたのは私だった筈なのに、最早逆転してしまっている。……一番の問題は、それを心地よく感じている私がいることだ。

    優位に立ってことを運ぶのも確かに楽しかったが。
    それでも、しっくりくるのは。
    私が。彼に。存分に味合われている状態だ。

  • 11二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 01:50:44

    吸って、噛み。火傷よりより甘く傷がついたそこを丹念に舐めとり。その舌の熱さにまた火傷を重ねて。
    口を離されて浴びる冷気さえ興奮に変換されて。一息もつけない間に同時に反対の首筋へ口を付けられて、冷気と熱気が二重になって襲ってくる。

    冷まされ、嗅がれ、吸われ、噛まれ、這われ、冷まされ。その繰り返し。
    私はもう既に嬌声を上げるだけの楽器になっているといっても差し支えの無い程に乱れてしまっていた。

    彼も息が続かなくなったのか、ようやく私を弄ぶのをやめて、顔を上げる。

    荒い息のまま視線が交わり。瞳を覗けば、お互いに灯った「色」は既に「欲」へと変換されていた。

    次に引き寄せられるのは。

    「先生ぇ……?」
    内側から溢れ出す、抑えきれない衝動。視線が絡まり、熱が交ざり、興奮を共有して。でも。
    私はまだ。

    彼を、味わっていない。

    その思いから自然と引き寄せられる場所へ、彼も同じ思いなのか、同じ動作を。
    それを目の端に捉えて、視界を自ら閉じ。距離が詰まっていくのを鋭敏になった鼻孔が感じ取る。

    そうして、その距離が無になって──。

    今度は、足音なんてどこにも。
    響くことは、無かった。

  • 12二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 01:54:57

    こっから先はR18になってしまうので!!ここで完結!!
    さあこの二人はどこまで言っちゃったんですかねえ!!

    という訳でもうてっぺん回っちゃったけどカンナのハロウィンSSです、欲しい人がいればお納め頂ければと……

    書きたいものかけて満足しました!もう書くこと無いので以下はカンナに劣情をぶつけるスレにでもして貰えればと!!ってかカンナじゃなくてもいいや!!

    俺が誰であろうと見たい!!!書け!!!俺も書いたんだからさ!!!

  • 13二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 01:56:43
  • 14二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 02:08:12

    今日はこれにするか…

  • 15二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 05:26:52

    ごちそうさまでした

  • 16二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 07:10:02

    正直1レス目で誰が立てたスレは分かった
    ごちそうさまでした!

  • 17二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 14:26:26

    このまま落とすには惜しいスレだ
    どうすっぺかなぁ…

  • 18二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 21:05:15

    せっかくなのでスレ画に使おうと思っていた雑コラ供養しよう
    もっとアホSSだったらこっちでよかったんだけどな……ちょっと絵面がマヌケなので見送った

  • 19二次元好きの匿名さん23/11/01(水) 21:05:33

    供養2

  • 20二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 06:21:46

    お茶目なカンナも可愛い

  • 21二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 06:34:58

    ハーメルンとかpixivに投稿してもいいレベル

  • 22二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 16:56:55

    カンナかわいいよなあ
    もっと増えろSS

  • 23二次元好きの匿名さん23/11/02(木) 23:06:04

    自分は深夜のカンナ×先生の密会に脳破壊されるユウカが見たいです…(小声)

  • 24二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 00:01:36

    >>23

    流石に深夜のラーメンに味を占めてしめしめと遊びに行ったら先客がいて、更に自分には向けられない視線を重ねながら二人だけの空間を作ってて全く別の熱をもつコミュニケーション(意味深)に耽っている様を目撃してかつ、耳には普段からはあり得ない音色を帯びた声が入って来て、更には普段のシャーレから感じられない「臭い」を無意識にかぎ取ってしまい、視覚からも聴覚からも嗅覚からも脳が破壊される可哀想なユウカなんて人の心を持つ1には書けないんだ……だから、すまない……


    でもその通りだ。お前が言っているものは、俺も見たい。

    だからお前が書け、>>23アード




    まだ残ってるとは思わなかったけどせっかくなのでIF書くか

    >>1

    から分岐で



    トリック・オア・トリートですよ、先生。


    頭に魔女らしき安物の帽子を乗せただけの、仮装とも言えない仮装。そんなある種ありきたりとも言える恰好をしながら、私は今先生の目の前にいる。


    ”……何て?”

    「ですから。『お菓子をくれるのか、さもなくば悪戯か』と、そう尋ねているんです。本日はハロウィンでしょう?せっかくですから私も、少しはそれらしいことをしてみようかと思いましてね」

    「……と言いますか、部下達から遠回しに『こういう時だからこそ、少しくらい体を休めて欲しい』と気を回されまして」


    皆から残業は禁止とばかりに、勤務明け丁度にオフィスを蹴りだされるようにして追い出されてしまったので、遠回しでも何でもないのだが。

    思い返しながら、似合わないと自覚できる魔女帽子のつばを撫でる。

    フブキが若干にやついているというか、からかいを含んだ目線を向けてきたのが少々気になるところではあるが。

  • 25二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 01:56:06

    ”そっか。よく似合ってるよ、カンナ”

    そう言う先生は、これから起こることを何も懸念していないかのようで。実際。なににも思い当っていないのだろう。
    前回の『当番』から、私がどんな思いを燻ぶらせていたのか。どのような思いを抱えてここに足を向けたのか。

    どのような決意を持って、先生の前へ訪れたのか。
    分かっていないなら教えるまでだ。

    その骨身に、妬き尽くすほどに。
    もし私が。先生が──貴方が。他の生徒と話しているそのわずかな時でさえ。もし。あなたに吸い尽くされるのを心待ちにして、同時に。『同じ目』に合わせてやりたいのだと。そんな。
    万が一堪え切れない様な、倒錯した劣情を抱いているのだとしたら。それをぶつけたいのが、何もあなたから私へだけでなく。
    私だって既に我慢の限界なのだと知ったのなら。

    一体どんな表情を浮かべるのだろうか。

    さあ。
    あれだけ私を自由気ままに蹂躙しておきながらその癖、私からの気持ちにはまるで無頓着な先生へ、貴方へ。

    教えてあげるとしよう。

  • 26二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 02:09:32

    「私の事情はどうでもいいんです、先生。それで、答えはいかがです?」
    ずいと。
    一歩を大きく踏み出し。パーソナルスペースの内側へ、大きく近づく。
    普段なら、私以外の誰かなら卒なく距離を開けるだろうという密着した近さへ。あの、当番の度に行われる、名前の付けられない奇妙で歪な関係。その当事者である私だからこそ近づける近さ。

    吐息も体温も共有するような、そんな距離。
    惜しげも無く当てた胸で、先生の体温が一段階上がるのを感じる。

    ”──え?”
    白々しい。先生の無意識は、いや、本当の部分では、どちらも分かっている。そんな瞳の様子は、一見してすぐに見分けられる。
    先程の疑問符はただの自らを誤魔化す為だけの浅ましい時間稼ぎだ。

    この至近距離で私の匂いを嗅いだ時点で。
    既に先生の、スイッチは入っている。当たり前の話。

    その執着を、私は私の羞恥と興奮を持って身に刻まれている。

    「トリック・」
    「オア・」
    「トリート、です。」


    「さあ、先生。お菓子の持ち合わせはありますか?」

  • 27二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 02:26:59

    零距離よりさらに近く。近づいた勢いのまま彼の頭をかき抱き、耳朶を食んでしまえるような近さで、訴えかける。

    ……深夜も近いこの時間、最早残弾が尽きていることは承知の上。万が一仮にお菓子(弾)が残っているのだとしても、それを覆す言葉遊びは用意している、が。

    ”……いや。先ほどここへ訪れたユウ──生徒へ。渡したお菓子が全てだよ”

    正直は美徳ではありますが。それを悪用されたら一体どうするのでしょうか?世間は決して、善性だけで成り立っている訳では無いというのに。
    丁度、今の私みたいに。

    言質を引き出し、先生に見えない角度で笑みを浮かべる。
    「おや。それはいけません。ならば、お菓子を持っていないなら。心無い子供に、悪戯をされてしまっても。仕方ありませんね──?」

    殊更に芝居がかった声である自覚はある。
    普段はチンピラを威嚇するに丁度いい私の声も、先生を威圧するには至らず。

    ”……ちょっと、ま──”

    待って。待て。待って欲しい。
    どんな音を発しようとしたのかは、もう私には不明だ。

    彼にその先を紡がせる前に、私の次の行動は決まっていたのだから。

  • 28二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 08:17:55

    期待

  • 29二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 17:02:52

    わくわく

  • 30二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 20:53:21

    机の上に伸ばそうとした右手に指を絡ませ、動きを止めながら問いかける。手袋を脱いだ素肌から伝わってくる他人の体温が心地いい。
    封じたのは物理的な動きと、心理的な抵抗。
    空いた左手は、首筋を撫ぜる動作に使う。じわじわと。焦らすように指を這わせば、なぞった部分だけ跡ができては消えていく。
    その一動作一動作で彼の体が反応する様子に、私のどこかにあった嗜虐心に火を灯す。

    ”ちょっ……カンナ”
    「おや?どうされましたか?普段の私に対する『コト』よりよほど丁寧だと思いますが」

    絡ませた右手も。撫ぜる左手も。お互いの体温の上昇と共に汗ばんでいくのが分かる。一度付いた火は簡単には消えない。むしろそれを燃料にして、更に熱く燃えていく。

    距離を詰めたまま更に一歩進む。当然先生はそれに押されて後ずさり。二歩三歩と繰り返せば、自然と、先程まで座っていたであろう椅子へとたどり着く。
    そのままゆっくりと彼を座らせる。座面の奥までしっかりと。たった一人で座る訳では無いのだから、バランスを崩されてしまうようでは困る。

  • 31二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 23:07:07

    間髪を入れずに彼の上へ、私の腰を滑らせる。お互いに向かい合った状態で、私が膝の上に乗る形。
    不安定な体勢を崩さないようしっかりと。体の全面で接触が無い所が無い様に。

    つまりは。
    嗅覚だけでなく、視覚触覚を使って興奮を煽ろうという、そういう腹積もり。恐らく彼は私の躰の柔らかさを堪能してしまっているだろうし。同時に私も、自分と違うその体に。固いといえばいいのか、筋張っているというのか。それを全身で感じている。
    如実に表れる性差。自分に無いもの、というのはどうしてこう興奮を誘うのだろうか?脳髄に麻薬でも垂らしたかのように、鼓動が撥ねる。

  • 32二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 23:08:04

    ”ッ……”
    「……フフッ」

    そしてそれはどうやら。私だけに効果がある訳では無いようだった。

    ・・・
    撥ねた分だけ座りが悪くなり、もぞもぞと座る位置を調整する。たったそれだけの動きで。興奮が伝播する。
    互いの熱で互いを煽っていき、もう止まることは無い。

    「さて、お菓子が無いのなら悪戯をしないといけませんが──」
    ゆっくりと言葉を紡ぎ、口から漏れる吐息を。先程撫でた首筋にあてるように囁く。そのまま、大きく口を広げ、這わせる様に。

    ──ぬるりと。
    最初に感じたのはしょっぱさ。他人の味。他人の体温。他人の匂い……私の情欲に薪を積み上げる、彼そのもの。
    舌から感じる体の震えで、必死に声をかみ殺している様子が手に取るように分かる。
    そんな反応をされてしまっては私は。元より止まるつもりもないが、益々楽しくなってしまう。

  • 33二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 23:10:11

    空いた左手を彼の太ももに置き、爪先で引っ掻くように撫でる。円を描いてみたり、縦横に走らせてみたり。
    その度に理想通りの反応を示すその様子が、精神的な興奮を満たしていく。

    一度首筋から首を離し、先刻までの私の唾液で艶めくそこに、ふーっと息を吹きかけてみた。
                    ・・・
    温度差による刺激で、彼の体もよく撥ねる。

    目を見れば、もう自分を抑え込む理性は解けて溶けて消えているのが見て取れる。最早数舜の後には、一転攻勢をかけられ、私をいいように味わい尽くすと。そう訴えかけてくる視線。

    これを。私がやったのだ。
    いつもの、眠気と疲れに押されるようなものではなく。
    一つ一つ手順を持って理性と情欲を持って彼の倫理観を粉々にした。その事実に。体の奥深くに言い様の無い甘美な痺れが走る。
    絡ませていた右手を解いて、自由になった両腕で彼の首に手を回す。ただし今度は耳元ではなく、正面から顔を合わせて。言葉を紡ぐ。

    「先生もお菓子が欲しくなってしまったのですか?なら、仕方ありませんね。では、確認してください。ピッタリの言葉が丁度、ほら」

    トリック・オア・トリートですよ、先生。

    私の音を彼がそのまま返す。返答は無言で十分だった。
    お互いだけを視線に捉えたまま、目を閉じ、更に近づく。

    いつか聞いた足音は、脳裏にのみ響き。
    今度こそ止まることは無かった。距離が、零になるまで。

  • 34二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 23:12:12

    という訳でIF終わり!これ以上はBANされてしまう!

    どっちが先にトリックオアトリート言うかだけで大差ないしIFとはいわないか?
    まあいいや満足いくまでえっちなカンナかけたし!たまには攻め攻めカンナも良いよね!

  • 35二次元好きの匿名さん23/11/03(金) 23:31:18

    あざっす…!

  • 362323/11/03(金) 23:47:34

    これは書くっきゃないか……?脳破壊ユウカ概念……

  • 37二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 07:03:15

    >>36

    お前の始めた物語だろ

  • 38二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 14:16:48

    毎度思うがすごい完成度

  • 39二次元好きの匿名さん23/11/04(土) 22:30:06

    とりま保守

  • 40二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 07:51:54

    もうちょっとだけ語りたい

  • 41二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 18:49:37

    怪談、夜の「当番」、飯テロ、ハロウィン……
    この次があるとしたら何が来るのか気になったり

  • 42二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 01:42:13

    ここ良質なSSがいっぱいで助かりますわ〜

  • 43二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 12:26:53

    この先生はカンナにどんな感情を抱いてるんだろうね?
    割とマトモに恋愛的に好きなのか、それとも断り切れずに一夜の過ちをズルズルと引き摺っちゃってる感じなのか
    決して真っ当なお付き合いとは言えない爛れた関係……このまま行く所まで行ってしまったらどうなるのか

  • 44二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 12:53:23

    渾身の誘い受けで言い訳の余地潰された上で手ぇ出してるからワンナイトからの恋愛へ昇華パターンじゃない?

    まあでも永遠に爛れていて欲しい気もする

  • 45二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 19:32:39

    深夜のシャーレに遊びに行ったら

    先生と金髪の女が椅子の上でねっとり絡み合ってました


    ってユウカ脳破壊SSをせっかくなので書いてたんだけど
    なかなか纏まらないんだなこれが……

  • 46二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 00:05:15

    >>45

    書いてある分乗っけてしまうんだ!!

    乗せてしまえば次投稿までに12時間の制限掛かるから否が応でもまとめなきゃいけなくなるぞ!!

  • 47二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 10:12:55

    とりあえず保守

  • 482323/11/07(火) 12:05:33

    言い出しっぺなのでちょっとだけ書いてみます。どうなっても知らんぞ!
    うおおおおおおおおおおおお!

    ~~~

    深夜のシャーレに遊びに行ったら、

    先生が金髪の女と椅子の上でねっとり絡み合ってました。


    ◇◇◇◇◇


    切っ掛けが何だったのかと聞かれれば、ただの気まぐれという他にはないだろう。


    その日は珍しく、本当に珍しくセミナーの仕事が早めに片付いて。

    普段ならモモイとかエンジニア部とかC&Cとか、いつも誰かが何かしらのトラブルを起こしていて、その対処に追われて残業漬け……なんてのが日課なのだけど、その日ばかりは奇跡的に何も起きなくて。
    計算通り、予定通り、今日のうちに終わらせておくべき業務が全てかんぺきに片付いてしまったのだ。

    ……ただ、こんなに早くに仕事が終わるだなんてあまりにも珍しかったものだから、その後のことなんて何も考えていなくって。
    眠りにつくにはちょっとだけ早く、だけど年頃の学生らしく友達と遊んだり、買い物や遊興に耽るには少しばかり遅すぎる時間帯。
    さてどうしたものかと考えて……ふと、書類の山に埋もれて悪戦苦闘する先生の顔が頭に浮かんだ。

    だからほんの気まぐれで、シャーレにでも顔を出してみようかな、って思ったんだ。
    たまにはいつも徹夜続きで仕事に追われている先生のお手伝いでもしてあげようかな、なんて。

    ……それに、この間シャーレに遊びに行った時には、なんだかんだで美味しいラーメンをご馳走になっちゃったし。その恩返しも兼ねて。
    べつに二匹目のドジョウを狙っていたわけじゃ、ない。断じてないけど。

  • 49二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 15:33:33

    >>48

    期待

  • 502323/11/07(火) 18:46:32

    基本的に、シャーレの当番に夜勤というものはない。
    曲がりなりにも私たちは学生であるのだから当然だし。それにいくら教師と生徒とはいえ、年頃の男女が真夜中に一つ屋根の下で二人きりというのも色々と問題があるだろう。
    ……いや、別に私は先生と「そういう仲」になりたいって思ってるわけじゃないけど? 断じて違うのだけど?

    ただ……その日に限っては、ほんのちょっとくらいは期待していたのかも。
    もしかしたら、この間みたいに。普段の「生徒たちのための先生」とは少し違った、私が見たことのない先生が見れるかもしれない。
    いつもと違う真夜中。いつもと違うやり取り。二人っきりで過ごす時間。もしかしたらその中で、「先生」と「生徒」という枠を超えた、一歩先の関係へと踏み出せるんじゃないか……なんて。

    ……後になって思い返せば、それはセミナーの会計を預かる者にあるまじき希望的観測で、まさに捕らぬ狸の皮算用だったのだけど。


    シャーレのビルに向かう途中。
    飾り付けられた街並みを視界の端に捕えて、そういえば今日はハロウィンだったっけと今更ながらに思い出す。
    ハロウィンというお祭りの存在自体を忘れていたわけではないし、現にミレニアムでもハロウィンに託けた催しはいくつか行われていたけど。
    そうしたお祭り騒ぎの類では、セミナーの私は専ら裏方担当で。
    運営側として予算やスケジュールに口を出すことはあっても、私自身が直接お祭りを楽しむような機会なんて訪れないだろうって思っていたから。


    ただ、せっかくのハロウィンなのだし、どうせだからちょっとだけ先生を驚かせちゃえ!なんて悪戯心が芽生えたことは否定できない。
    だから私にしては珍しく、今夜のシャーレには事前に連絡を入れずにサプライズで赴くことにした。
    そもそも、やむにやまれぬ事情でもない限り、先生が自分を訪ねてくる生徒を無下にすることなんて無いのだけど。

    トリック・オア・トリート。突然シャーレに顔を出して「お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ!」なんて子供っぽくせがんだら、この間みたいに何かいいものをプレゼントしてくれるかも……なんてね。
    ……って、そんなくだらないことを妄想するだなんて、私もモモイに毒されたのかしら?
    自分でも可笑しくなって、つい笑みが零れてしまう。

    傍から見れば、その時の私はさぞや緩み切った表情をしていたことだろう。

  • 512323/11/07(火) 20:07:30

    決して自慢するわけではないのだけど。
    このキヴォトスの学生の中で、私より「シャーレの当番」の業務に詳しく、経験豊富な生徒は存在しないだろう。
    私は先生がこのキヴォトスに来たその日からずっと、誰よりも多く先生の仕事を手伝ってきたし、それだけ先生からも信頼されているという自負がある。
    ……決して、自慢するわけではないのだけど。

    だから、今日みたいに特別の予定が無い日でもシャーレのビルへ入館できるIDカードだって、あらかじめ先生から貸し出されている。
    ……これを貰うときに言われた「もしも万が一、私に何かあった時は──」なんて、冗談とも本気ともつかない……できれば冗談であってほしい……洒落にならない文言については、どう受け止めるべきか迷っているけど。

    閑話休題。
    とにもかくにも意気揚々とシャーレのビルへと上がり込んだ私は、うきうきとした気分で階段を上り、先生のオフィスに続く廊下に出る。
    深夜のオフィスには当然のように明かりが灯っていて、先生がまだ中で仕事をしていることは建物の外から確認済みだ。

    ちょっとした悪戯心が顔を出して、先生をびっくりさせちゃおう、だなんて。
    できるだけ足音を立てないように廊下を進んでいく。

    抜き足。

    差し足。

    忍び足。


    ……………………。

  • 522323/11/07(火) 20:13:52

    うっかり閉め忘れたのだろうか。執務室のドアはほんの少しだけ開いたままになっていた。
    その隙間から漏れる明かりへ、ゆっくりと一歩ずつ、近づいていく。

    ──このドアの向こうで、先生は今、何をしているんだろう?

    相変わらず書類仕事に悪戦苦闘しているのだろうか?
    それとも、もしかしたらこの間みたいに宴会の真っ最中?
    あの時食べたラーメンは本当に美味しくって……思い出したら、なんだか急にお腹が空いてきた気がする。
    ……そういえば今日、夕ご飯食べてなかったんだっけ。

    ここまで来たらもう、あからさまに二匹目のドジョウを期待して、くんくんと鼻をひくつかせてみる。
    ……まあ、意地汚いとは自分でも思ったけれど。

    残念なことに、期待していたような鼻孔をくすぐるご馳走の匂いはどこにも嗅ぎ取れず。
    代わりに漂ってきたのは、いつもと変わらない、どことなく男の人の匂いが混ざった無機質なシャーレのオフィスの香り……と、それから、


    「……え?」


    ──不純物。

  • 53二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 20:39:32

    今日はこれにするか

  • 542323/11/07(火) 21:04:31

    ……私はノアほど詩作に秀でていないから、咄嗟に適当な比喩が思い浮かばなかった。
    だから、そう表現するしかない。

    ドアの隙間から漏れ出た室内の空気の中に、慣れ親しんだ先生の……年上の男性が住まう空間特有の香りに混じって、何か、看過できない不純物が混在している。

    おそらくは、香水の匂い。そして……先生以外の「誰か」の体臭。
    間違いなく妙齢の女性のものでありながら、どこか獣じみた「欲」をも孕んだ香り。
    ……あえて表現するなら、そう。雌犬のような「臭い」。

    馴染みのない誰かの臭いが、私が誰よりも知っているはずの居場所を侵食するように、まるで自らの支配権を主張するように蝕んでいて。
    なぜだか、どうしようもなく不快感を覚えた。


    もちろん、女の子の匂いがする、というだけなら別に不自然でもなんでもない。
    シャーレの当番としてこの部屋を訪れる女生徒は沢山いるし、中には香水をつけてる子だって少なくない。
    だけど……今私が感じているこれは、ただの残り香なんかでは絶対にありえない。

    こういう非合理的な表現は、あまり好んで使いたくはなかったけれど。
    「それ」を私に知らしめたのは、私自身の嗅覚と言うよりはむしろ……「女の勘」とでも呼ぶべきものだったのだろう。


    いずれにせよ、確かなことは一つ。

    「誰か」が、いる。

    この「臭い」の主はきっと、今もまだ、このドアを隔てた向こう側にいる。
    深夜のシャーレに、先生と、二人っきりで。

    ──私じゃない、誰かが。

  • 552323/11/07(火) 21:09:58

    (書き溜めが尽きたので今日はこのへんで……)

    (続きはご希望があればまた日を改めてでも……)

  • 56二次元好きの匿名さん23/11/07(火) 21:36:14

    >>55

    おつ

    続き待ってる

  • 572323/11/07(火) 23:10:14

    今更ですがこのスレのユウカSSの内容もリスペクトしてたり

    深夜のシャーレに遊びに行ったら|あにまん掲示板bbs.animanch.com

    まだ書いてる途中なんですが、ユウカの脳ってどの程度まで破壊しても許されるもんですかね?

  • 58123/11/07(火) 23:36:28

    まあそれ書いたの自分だし……
    やるんなら徹底的にじゃないですかね?

    にしてもラーメンの描写にこだわってる時はまさかユウカの脳破壊が破壊される未来なんて考えてなかったなあ……
    今回は誰も傷つかないって書いたのに巡り巡って次回でだなんて……可哀想なユウカ……

  • 592323/11/08(水) 08:27:53

    できる限り音を立てないように注意しながら、そろり、そろりと半開きになったドアへと近づく。

    ちょっとしたサプライズ、なんて浮かれた気持ちは、その時にはもう吹っ飛んでいた。
    今はただ、この部屋の中にいるであろう「誰か」に、私の存在を気取られないために。

    『────────────、────、──────』
    “────────、────────────、────”

    そうしてドアの手前まで辿り着いた時。
    部屋の中から、押し殺したような声が聞こえてくることに気が付いた。

    聞き取れた声は二人分。
    その一方は聞き慣れない……だけど、以前どこかで聞いた気がする女の声。
    少し低めだけど、その声の主は疑いようもなく女性のもので。
    それを認識した瞬間、ちくり、と胸に痛みを覚える。

    そして、もう一方の声は……

    “────────”


    ──先、生。

  • 60二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 09:18:43

    朝っぱらからエッチなのはダメ!死刑!

  • 612323/11/08(水) 12:01:45

    聞き間違えるはずもない。それは確かに、私がよく知る先生の声で。
    だけど……先生とその「誰か」が何を話しているのかまでは、はっきりとは聞き取れなかった。

    ───確かめなきゃ。

    ……もう一歩。
    ぎりぎりまで踏み込んで、ドアの隙間へと耳を近づける。

    盗み聞きなんて不躾だとは思いながら。
    それでも、心の奥底から湧き上がってくる焦燥と、歪んだ衝動には抗えずに。
    部屋の奥から漏れ聞こえてくる声へと、そっと耳を澄ませて──


    『はむ───んっ……、─────────、先……生ぇ──────』
    “──────、───ン───ナ……ッ───、──────!”


    (──────っ!!?)


    その好奇心の先に、
    どんな結末が待ち受けているかなんて、ろくに考えもせずに。

  • 62二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 12:43:58

    昼間にエッチなのは!......!
    ......

  • 632323/11/08(水) 18:16:35

    驚きのあまり、慌ててドアの前から飛び退いた。

    咄嗟に口元を手で押さえられたのは幸いで。叫び声を上げてしまわなかったのは奇跡に近かっただろう。
    ……ううん、逆か。
    きっと、その時の私には、声を上げられるほどの余裕さえ無かったんだと思う。

    心臓がどくどくと脈打っている。堪えきれずに、手近な廊下の壁にもたれかかる。
    ……上手く、息ができない。体に全然力が入らない。胸の奥が、心が、ずきずきと、傷んで、疼いて、くるしくって……
    もう、今ここにいる私が誰なのか分からなくなってしまいそうなほどに……今しがたの出来事は、私を混乱の渦に叩き落していた。


    ──ドアの奥から聞こえてきた「それ」は、もはや会話とすら呼べない音の連なりだった。

    まず聞こえたのは、荒っぽい息遣い。それに交じって、何か柔らかいものに吸い付くような音と、ぴちゃぴちゃと水っぽい音。
    それから……先生と誰かの声。だけどそれは声ではあっても会話ではなく、それどころか意味のある言葉ですらなくって。
    ──隠しようもない「色」に塗れ、耳を塞ぎたくなるほどに理性の蕩けきった、ただの原始的な欲求の発露。

    それは、まるで。
    互いを求めあう男と女とが、
    よからぬことに耽っている時に零れるような、

    (……嘘)

    受け入れられなかった。
    信じられなかった。

    だって、先生が。あの先生が。

    どうして。

  • 642323/11/08(水) 20:36:49

    いろんな想いが、ぐるぐると、頭の中でごちゃまぜになっていく。

    ……そりゃあもちろん、私だって何も知らない子供じゃない。
    「そういうこと」に関する知識が皆無なわけじゃないし、過度に潔癖を気取るつもりもない。……大きな声じゃ言えないけど、興味だって……ある。まあ、人並みくらいには。
    だけどそれは、ただ知識として知っているってだけで。
    ……その、経験、だとか……そもそも他人の「そういう場面」に遭遇したことなんてあるはずもなくて。

    だから……この扉一枚隔てた向こう側で今、何が行われているのか。
    現実だって頭では分かっていても、どこか空想の中での出来事みたいで、実感なんてこれっぽっちも湧いてこなかった。
    ましてや、先生が。
    あの、シャーレの先生が、生徒の誰かとそういう関係を持っているだなんて……信じられなくって。

    だって、先生は……私の知っている先生は、いつだって生徒に優しくって、公平で、どんな生徒だって平等に扱ってくれて。
    だけどそれは、生徒に対して必要以上に踏み込まないってことでもあって。どこまで行ってもあの人と私達は「先生」と「生徒」との関係でしかなくって。その距離感が、時々もどかしくて。
    それなのに。そのはずなのに。どうして。先生はそんなことしないはずなのに。私以外の誰かと、そんなことしてほしくなかったのに。

    うそだといってほしくて。

    ……もしかしたら、そのまま全部見て見ぬふりをして逃げ帰るという選択肢もあったのだろう。
    ただの誤解なのだと。勘違いなのだと。無理矢理自分を納得させて、曖昧なまま誤魔化す道もあったのだろう。
    そうすればまだ、傷は浅くて済んだのかもしれない。

    だけど。
    私の中の、合理的じゃない部分が。
    ……目の前の現実を認めたくない、我儘な少女としての部分が。

    この目で直接「答え」を確かめずには、いられなかった。

  • 652323/11/08(水) 20:41:51

    今日はたぶんここまで。なかなか進まない…
    ユウカの脳破壊はこれからだ!

  • 66二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 20:42:51

    おつ
    楽しみにしてる

  • 67二次元好きの匿名さん23/11/08(水) 21:07:02

    夜にエッチなのはアリ!推奨!

  • 68二次元好きの匿名さん23/11/09(木) 06:17:25

    かわいそうなユウカ…

  • 692323/11/09(木) 12:55:20

    今日はちょっと続き書くの難しいかも…

  • 702323/11/09(木) 19:09:48

    もう一度。
    今度はある種の覚悟を決めて、一度は離れたその扉に、ゆっくりと近づいていく。
    扉との距離が縮まるにつれて……否が応でも聞こえてくる「声」は、耳に入らないふりをして。

    ……そういえば。
    昔、ラブコメ漫画か何かで、これと似たような似た場面を見たことがあったっけ。
    ちょっとしたアクシデントで密室に二人きりで閉じ込められた主人公とヒロインが、何とかして脱出しようとどたばたと大騒ぎして。
    たまたま物音を聞きつけてきた堅物の女の子が、部屋の中で何か不埒なことが行われてるんじゃないかって勘違いしてあたふたするシーン。
    あの時は、ファンタジーの中でしかありえない出来事だって何も考えずに笑ってたけど。

    だからきっと、今のこの状況だって、もしかしたら。
    実は全部、私の勘違いで。
    真相さえ分かったら、ちょっとした笑い話で済ませられるかもしれない。
    ……たぶん、そんな可能性に縋ってたんだと思う。


    おかしくなってしまいそうな感情を、少しでも落ちつけようとして。
    ゆっくりと息を吸い、そして、吐く。

    そうして、開いた扉の隙間から、恐る恐る……部屋の中を覗き込んだ。


    その、向こう側から、

    私の視界に、飛び込んできた、光景は、

  • 712323/11/09(木) 19:17:58

    ……。


    先生が、

    金髪の女と、

    椅子の上でねっとり絡み合ってました。

  • 722323/11/09(木) 20:02:18

    ようやくタイトル回収(?)まで書けました…
    続きはまた終末にでも

  • 73二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 02:34:29

    楽しみ

  • 74二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 11:16:28

    すばらしいのですわ

  • 75二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 11:17:59

    保守がてら、水おじのハロウィンボイスから着想した短編を。

    ハロウィーン。シャーレの窓から見える人々は思い思いの仮装をして街を歩いている。
    「色んな仮装の人がたくさんだぁ」
    そんなことを独りごち、先生の感想も聞いてみようかとちらりと振り返る。目が合う。何その視線?
    「…え、何その視線」
    思わず声に出る。目が合うだけなら別にいいのだが、その意味がよくわからなかった。笑っているような呆れているような。それでいて困ってもいるような。そんな視線の意味が解りかねて。
    なにかおかしなことを言ったかと自分の恰好を見直す。水着だ。
    …………水着?

    「ぅあぁ!?」
    ドクリ、と。心臓が嫌な音を立てた。ハロウィーン。水着。…どの口が。
    (トリック・オア・トリート~!どうかな~、ハロウィーンのお祭とかやったら人が増えるかな~)
    (ハロウィーンって、ただ水着着てるじゃないですか。そもそも砂祭りで手一杯なのに他のお祭りなんて出来るわけ……)

    「ッこれは仮装じゃないってば~」
    咄嗟に口に乗せた言葉は、果たして不自然に聞こえなかっただろうか。きっと大丈夫だ、仮装のつもりじゃなかった。そこに嘘はない。

    "仮装じゃなかったんだ"
    "じゃあ、何で水着を……?"

    「おじさん、久しぶりにあそこでお昼寝をしようと思ったんだけどさ~」
    「流石にお昼寝には肌寒くてさ、それでちょうどいい場所を探してたんだよ~」
    "……そうなんだ"
    "陽射しが当たるように張れば案外平気なのかと思ったけど"
    「動いてなかったら寒いよ~」
    予想外のことを言われて驚き、戸惑っているだけに、見えているだろうか。臆するな、先輩の行動をなぞっていたのはただの無意識、予想外には違いないんだ。

    「じゃあ、おじさんは仮眠室でお昼寝するね~…あ、先生?せっかくだし、先生もおじさんと一緒にお昼寝、しちゃう?」
    私は、ちゃんと笑顔/おじさんを作れているだろうか。

  • 76二次元好きの匿名さん23/11/10(金) 18:32:18

    >>75

    水着おじさんはもっと人生楽しんでいいのよ…?

  • 772323/11/10(金) 21:51:27

    「──────────────」

    壊れていく。
    脳が。

    眼球から視神経を通じて脳髄にインプットされた光景は、私の理性を粉々に破壊するには十分すぎるくらいの衝撃で。

    目に映ったのは、見慣れたシャーレのオフィス。
    この部屋の主であり、いつも通り自分のデスクに腰掛ける先生の姿と。
    そして……その先生の上に跨るようにして身を寄せ合う、金髪の女生徒の姿。

    一脚の椅子の上で絡み合って、互いの手を絡ませ合って、その豊満な胸を誇示するかのように先生の胸板に押しつけて。
    お互いの吐息までが感じられるような距離で。あろうことか、先生はその女の首筋に顔を埋めて……その肌を、味わうように、吸って──

    なにこれ。
    なんだこれ。
    なんなのこれ。

    どうして先生が。どうしてあの女と。やりたいほうだい。やられたいほうだい。
    なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?

    理解できない。
    理解できない。
    理解できない!
    理解できない!!!!


    ……せ、ん、せ、い……?

  • 782323/11/10(金) 21:51:58

    ……みじかいですがとりあえず今日はこれだけ
    終末には完結させたい…

  • 79二次元好きの匿名さん23/11/11(土) 01:12:23

    >>78

    おつ

    ちょいちょい終末もたらそうとしてくるの草

    まあユウカの脳には十分終末来てるけど......

  • 802323/11/11(土) 07:35:54

    よく見たらめっさ誤字ってた…つらい…

  • 812323/11/11(土) 17:38:49

    信じられなかった。
    信じたくなかった。
    何かの誤解だとか勘違いだとか、そんな一縷の望みなんて粉々に打ち砕かれて。
    そこにあったのは言い訳の余地もなく……男女の営みとしか表現しようのない光景で。

    これは、夢だろうか。
    夢だとしたら、とんだ悪夢だ、なんて。その光景が夢でも幻でもないことは、私自身が一番よく分かっていた。

    ……確かに、先生はごくごく稀に、生徒に対して半ばセクハラじみたコミュニケーションを取ることがある。
    聞いた話では、生徒の足を舐め回したとか、頭皮を吸い回したとか、メイド姿での奉仕を強要しただとか……そういう噂の数々を知らないわけじゃない。
    どれもこれも頭を抱えたくなるような話だけど……先生にはそうした一面があるってことも、私だってちゃんと分かっていた。

    ……でも、そうした噂の中でだって、先生が「先生と生徒」という関係性を踏み越えるようなことはなくって。
    あくまで、相手の生徒との間で納得ずくの距離感の中で、そうした悪ふざけをすることがあるってだけで。

    だけど。
    今、目の前で行われている行為は、そんな噂とは明らかに一線を画したもので。

    だって、そこにいるのはもう「先生」でも「生徒」でもなんでもなくて、ただの「欲」に塗れた男と女でしかなくって。
    どれほどありえないって否定しても、目に映るのは一組の男女が交わって互いを求め合う姿。
    現実から目を背けたくて瞳を閉じたって、耳には互いを求め合う二人の喘ぎ声が容赦なく飛び込んでくる。
    それどころか……ただ息を吸うだけで、部屋の中から漂う香水と汗と男と女の臭いが、私の脳を揺さぶり尽くして……

    ……臭い?
    からっぽになった頭の中で、ふいに気付いた。
    漂う男と女の臭いのに、少しだけ趣の違う香りが交じっていた。私にも少なからず馴染みのある、この香ばしい香り。これは……

    ……珈琲の、香り?

  • 822323/11/11(土) 17:40:20

    ……苦み走った香りが記憶を刺激したのか、今更ながらに思い出す。
    あの金髪の女。どこかで見覚えがあると思っていたけど、何度かシャーレの当番で顔を合わせたことがあったんだ。
    好んでブラックコーヒーばかりを口にしていた彼女。
    確か、ヴァルキューレ公安局の……尾刃カンナ、だっけ。

    ……そういえば。
    最初に会った時も、あの人はこの部屋で先生と、二人っきりで……

    まさか……あの頃から、もう!?
    ……ううん。もしかしたら、それより前から、ずっと。

    私に、皆に隠れて、先生と、こんな関係を……


    ────────。

  • 832323/11/11(土) 18:05:35

    頭の中がぐちゃぐちゃに搔き乱されて……もう、何も考えられなかった。考えたくなんてなかった。
    もうやめて。やめてください。せんせえ。わたし。こんなこと、こんなの、いやです。いやなんです。
    そう思ってるのに。そう叫びたかったのに。……声が、出せなくって。

    目を閉じたくて、耳を塞ぎたくて、呼吸すら止めてしまいたくて。でも、それでも。目の前の現実から目が離せなくて。
    私はただ……その営みを、食い入るように見つめることしか、できなくって。


    そんな中、彼女の首元に顔を埋めていた先生が、顔を上げて。
    ……はじめて、私の視界に、先生の瞳が映った。

    そこには、

    先生として生徒と接する時の優しげな眼差しも、
    趣味に散在して叱られる時の無邪気で子供っぽい眼光も、
    大人としての責任を語る時の毅然とした佇まいも、

    ──私の知っている「先生」の名残なんて、もう影も形も残ってなくて。


    ただ。
    一人の男性が愛する女性へと向ける、静かな……だけど、とてつもなく強い「熱」だけが宿っていて。

    そしてきっと……私に背を向けたままの「彼女」の瞳にも、先生の瞳に映るそれと同じだけの「熱」が宿っていたのだろう。

  • 842323/11/11(土) 18:06:19

    だから。
    それから始まる行為は、きっと二人の中では当然の帰結で。

    息もできずに見守る私の視界の中で、

    私の目に映る男と女は、
    どちらからともなく目を閉じて、顔を寄せ合い、互いの想いを確かめ合うかのように、

    その唇を、重ねて。
    そして──

    ────────────────。

    ────────。

    ──────。

    ──。

  • 85二次元好きの匿名さん23/11/11(土) 22:54:07

    このレスは削除されています

  • 862323/11/11(土) 22:55:29

    ──────────────────。

    ──気が付いた時。
    いつの間にか私は、シャーレから程近い公園のベンチに座り込んで項垂れていた。

    結局、私は……目の前で止め処なく進行していく「行為」に耐えられなくって。
    だからといって、二人を止めたり、割り込んだりする勇気なんて出なくって。

    ただ、逃げ出した。


    ……もう、何も分からない。
    何も信じられない。
    今でもまだ、さっきまで見ていた光景が現実なのか、ただの夢だったのか疑いたくなる。

    でも……瞼の裏に焼き付いた二人の姿が。
    耳の奥に残る艶やかな声が。
    鼻腔を擽る珈琲の香りが。

    何もかもが、その現実から逃げることを許してくれなくって。

    ……自分で自分が、厭になる。

  • 872323/11/11(土) 22:56:06

    今日はここまで
    続きはまた明日にでも…

  • 88二次元好きの匿名さん23/11/12(日) 00:38:05

    脳破壊されたユウカはとても

  • 89二次元好きの匿名さん23/11/12(日) 08:02:29

    どうなることやら

  • 902323/11/12(日) 17:13:28

    ……先生。

    シャーレの先生。
    あの日……前触れもなく私達の前に現れた、この学園都市でただ一人の、私たちの先生。

    どこか頼りなくて、子供っぽくて、見ているこっちが心配になるくらいのお人好しで……
    だけど、いざという時には誰よりもみんなの「先生」であろうとする人で、生徒のためなら自分の身を投げ出すことだって厭わない。

    そんなあの人に呆れたことも、心配させられたことも、助けられたことも、救われたことも、
    たくさん……本当に、たくさんあって。

    慕っていたし、憧れていた。好意だって抱いていた。
    そんな先生が、そんな先生だからこそ、私は、私たちは……大好きで……


    でも。
    それなら「あれ」は……誰だったんだろう?

    だって。あんなの、私の知ってる先生じゃない。
    私の知ってる先生が、生徒に手を出すようなこと……絶対にするはずない。
    だから……こんなこと、現実には起こり得ないはずだった。どう計算したって確率的にありえない。こんなの間違っている。

    ……なら、こういう可能性は?
    あれは先生じゃなくて、先生に化けた別の「誰か」で。
    先生のふりをして私を騙そうと、シャーレのオフィスで待ち構えていた……なんて。
    うん、そうだ。絶対にそう。そうとしか考えられない。
    だって、先生は、先生は……こんな形で、私の気持ちを、裏切るはずなんて……


    ──本当に?

  • 912323/11/12(日) 17:14:26

    頭の中で、嘲るような声がした。
    ……私の中の、合理と理性が。こんな状況の中でも厭になるくらいに冷静なもう一人の私が、私自身へと問いかけてくる。


    ──いい加減にしなさいよ。この期に及んで、そんな愚にもつかない夢物語を信じようっていうの?

    ──そんなこと万に一つもありえないって、アナタが一番よく分かってるでしょう?

    ──第一、アナタなんかにあの人の何が分かるっていうの?

    ──このキヴォトスに来る前のあの人のことなんて何も知らないくせに。

    ──所詮はあの人と「先生と生徒」の関係でしかないアナタが、先生の一番の理解者でも気取っていたの?

    ──本当は、アナタだって、もうとっくに気が付いているんでしょう?


    ──あの人がアナタに見せていたのなんて、ただの上っ面の、「先生」としての一面でしかなかったんだって──


    「──やめて!!!!」

  • 922323/11/12(日) 18:15:00

    「……やめて……よぉ……!」

    耐えきれずに零れた叫びは、もうほとんど悲鳴に近くて。
    意地悪な声なんて聞きたくなくって、両手で頭を抱えて、何度も、何度もかぶりを振った。
    だけど、そんな私の中の理性を、自分自身で否定してしまったら。
    私に残っているのは……もう、ぐちゃぐちゃでどろどろとした、感情の渦だけで。

    「……なんで」

    心の奥底から、どす黒い情動が沸々と沸き上がってくる。
    いけしゃあしゃあと人の居場所へ土足で踏み込んできたあの女への……そして、そんな女を拒絶することなく受け入れたあの人への。

    「なんで……ッ!!!」

    悲しみ、怒り、憎悪、嫉妬、そして失望。
    自分でも吐き気がするような汚い感情が頭の中でぐるぐると渦巻いて、気が狂いそうになる。
    ……でも、どれだけ強く怒ったって、憎悪を燃やしたって……何一つ現実は変わらなくって。
    ただ……何故、何故……と、そんな無意味な自問自答ばかりを繰り返して。


    ……なぜ、あの女だったのだろう。

    どうして、私ではなかったのだろう。

    だって、私が一番最初に先生に出会ったのに。

    私の方がずっと長い間、先生のことを助けてきたのに。


    ──私の方が先に、先生を好きだったのに。

  • 932323/11/12(日) 18:21:23

    ……好き?

    私が?

    先生のことを?


    当然のように頭の中に浮かんだ言葉に、自分でも驚いてしまう。


    先生として?

    大人として?

    ……ううん。きっと、どっちも違う。

    ただ一人の、男性として。


    ああ、ようやく分かった。

    私の中のこの感情は。ずっと先生に抱いてきた、この好意は、ただの信頼でも、尊敬でもなくて──

    この感情に、名前をつけるなら。


    ──それはきっと「初恋」って呼ぶべきもので。

  • 942323/11/12(日) 18:22:15

    ああ。

    そうか。

    私は、


    ──あの人のことが、好きだったんだ。

  • 952323/11/12(日) 18:37:47

    「あ、はは……」

    何だそれ。
    笑ってしまう。
    こんなにも長く一緒にいて。
    こんなにもあの人のことを近くで見続けてきたのに。

    全てが終わった今更になって、そんな単純な「答え」に至るだなんて。


    それに気が付いた瞬間、
    ついさっきまで抱いていた怒りも、悲しみも、失望も……全てが私の中で、急激に冷え切っていくのを感じた。

    なんのことはない。
    最初から私に、あの人たちを責める権利なんてなかったんだ。

    だって、答案用紙に解答すら書き込めなかった生徒に、採点される資格なんてあるはずがない。

    始まる前から、私は……勝負の土俵にすら上がれていなかったんだから。

  • 962323/11/12(日) 18:40:34

    ──ぽたり。

    「……?」

    前触れもなく、
    太腿に何か、温かいものが触れた。
    それが、涙の雫で、
    私自身の瞳から零れ落ちたものだって……しばらく経ってから気が付いた。

    「ぁあ」

    ……ううん、本当は。今までずっと誤魔化してただけで、現実から目を逸らして、自分を騙していただけで。
    それが一度決壊してしまったら、もう自制心なんて何の役にも立たなくって。

    「あああ……」

    心に深く突き刺さった現実という楔は、いつまで経っても抜けなくて、その傷は癒えなくて。
    怒りでもなく、悲しみですらもなく……ただ、痛くて、痛くて、いたくて、いたくて……

    この行き場の無い感情を、何もかも吐き出してしまいたくって。


    「……ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


    ……あとはもう、恥も外聞もなかった。合理も、理性も、どこにもなかった。
    狂って、暴走した、幼い感情のままに。自分の思い通りに行かない現実を前にして、それでも駄々を捏ねる子供みたいに。
    涙が、想いが、溢れて止まらない。止められない。

    わたしは──

  • 972323/11/12(日) 18:42:18

    “おはよう、ユウカ”


    「……せんせい……せんせえぇぇ……ぐすっ……うえっ、う゛あああああぁぁ……」


    “お疲れ様、ユウカ。ゆっくり休んでね”


    「いやだよぉ……わたし、わたし……せんせぇ……! わたしじゃない、なんて、やだあぁぁ……」


    “そっか。ユウカが手伝ってくれるなら安心だね”


    「となりに、いたいの……わたしの、わたしと、わたしだけの……ずっと、ずっと……なのに……」


    “ごめんね。でも、ユウカが無事でよかったよ”


    「どおして! わたしじゃ……いけないんですかぁぁ……っ!」


    “いつもありがとう、ユウカ。頼りにしてるよ”



    「───あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───」

  • 982323/11/12(日) 18:45:28

    ──────────。


    ……こうしている間もきっと、あの人たちは、あの部屋で愛を語り合っているんだろうな。

    3は2で割り切れない。1+1の答えは2で、絶対に3にはならない。子供だって分かる、数学とすら呼べない常識中の常識。

    だから……割り切れずに、溢れた私は、ひとりきり、ひとりぼっちのまま。

    ずっと、ずっと、ずっと……このまま、みっともなく泣きじゃくることしかできないんだ。



    ───綺麗な月明かりが照らす、十月三十一日の夜。

    それが、私の頭の中の何かが壊れてしまった日。

    まだ始まりもしていなかった私の恋が、終わってしまった夜のこと。


    せめて、想いが実った誰かさん達へ、

    ハッピーハロウィン

    ……なんて、ね。

  • 992323/11/12(日) 18:57:55

    ~~~

    ノリで書き進めてたらやたら長ったらしくなってしまった……
    とりあえず考えてたユウカ脳破壊シチュは一通り書き終えたので一旦ここで完結とします。
    脳破壊とかWSSとか書いたのは初なので、こういう感じで良かったのかあまり自信はありませんが……少しでもスレの皆様にお楽しみ頂けたのなら幸いです。

    一応この後にちょっとしたユウカへのフォロー的な後日談とかも考えてたけれど、そちらは需要があればおいおい……

  • 1002323/11/12(日) 21:00:19

    >>85 は単純に投稿ミスで消しちゃったのですが、前後のレスの文脈的にここだけエ駄死判定で検閲されたみたいな流れになって思わぬ演出効果が生まれたのには自分でも笑ってしまう

    まあユウカ的には全然笑えないんですけどね!

  • 101二次元好きの匿名さん23/11/12(日) 21:10:21

    おつ
    仲のいい人の知らなかった一面を垣間見るとまるで別人のように見えてしまうこと、あると思います

    ユウカ......ハロウィンももう2周間前のことにもなろうというのに今更ハロウィンネタで脳破壊されるのかわいそう過ぎんか?
    だがそれがいい

  • 102二次元好きの匿名さん23/11/13(月) 00:10:51

    このユウカはこの一件でコーヒーの香りがお友達ごっこされたナギサ様並みにトラウマになってどうしてもコーヒーが飲めなくなってそうかわいそう

  • 103二次元好きの匿名さん23/11/13(月) 08:24:09

    ハロウィンの悲劇…

  • 104二次元好きの匿名さん23/11/13(月) 09:26:53

    ブラボー・・・おお、ブラボー・・・

  • 105二次元好きの匿名さん23/11/13(月) 09:35:57

    >>101 >>102

    つまりこの一件の数日後、元気のないユウカを心配したノアが「私を元気づけて」という意味の語源があるとされるティラミスを差し入れして、その芳醇なエスプレッソの香りと「ハロウィンには遅すぎますけどね」なんて精一杯のエスプリを効かせたつもりの発言がマジガチのブラックユーモアになってユウカに突き刺さるのか・・・

  • 106二次元好きの匿名さん23/11/13(月) 16:07:34

    なんなら次にシャーレに行った時にいつものように「砂糖は二つで良い?」とか言われながら珈琲出されて、向こうは一切今までどおりなのにその香りである日の光景がフラッシュバックして体調悪くなってる所を純粋に心配されてより一層体調が悪くなる無限ループに陥るユウカ......

  • 1072323/11/13(月) 17:57:56

    >>105

    >>106

    みんな人の心とか無いの…?

  • 108二次元好きの匿名さん23/11/13(月) 18:00:16

    ユウカの脳破壊はなんぼあってもいいですからね

  • 109二次元好きの匿名さん23/11/13(月) 18:07:24

    (ノアと先生には)ありまぁす!

  • 1102323/11/13(月) 23:56:30

    じつは闇堕ちしたユウカがコユキを引っ張り出して先生とカンナの秘密を暴こうとするifも妄想してたけど、巻き込まれただけのコユキがあまりに曇りまくったので没になりました…あしからず

  • 111二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 07:41:46

    当番でカンナと顔を合わせるたびに気まずい思いをするユウカ…

  • 112二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 10:31:45

    >>111

    カンナには思い当たる節が無いからユウカに気まずそうな顔されて「??」を頭に浮かべるんだよね

  • 1132323/11/14(火) 16:36:45

    流石にこのままじゃユウカが可哀相過ぎるので、ちょっとした後日談的なものを。
    ……救いがあるかどうかは分かりませんが。

    ~~~

    「何か、あったんですか? ユウカちゃん」

    顔を上げると、心配そうな表情で私を見つめる親友と目が合った。


    ぱちくりと目を瞬かせれば、そこはいつもと変わらないセミナーの執務室。
    椅子の上で絡み合う男女の姿なんて、私の脳内以外のどこにもなくって。

    ……いけない。少しぼーっとしてたみたい。
    頭の中のもやもやを追い払うべく、ぶんぶんと頭を振る。

    「……別に、何でもないけど。ノアの方こそどうしたのよ。いきなりそんなこと言い出すなんて」
    「いきなりではありませんよ? ただの観察結果です。……この一時間足らずで、計算ミスが三回。書類の作成中に手が止まることが八回。ぼんやりと虚空を見つめる回数が十四回。こんなに上の空なユウカちゃんを見るのは半年と二十日ぶりでしたから」
    「……………………」
    「それ以前に……いくらメイクで誤魔化していても、目の下にそんな大きな隈を作っていたんじゃ、何もなかったって言い張る方が難しいですよ。ユウカちゃん?」

    ……困ったな。
    ノアのことは好きだけど、こういうところは少しだけ苦手。

    相変わらず、半端な強がりなんて通用しないんだから。

  • 114二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 18:04:57

    きた!後日談!これを待ってた
    自分じゃあノアに「大好きな親友のそんな(消沈した)姿見たくないですから」とか言わせたらユウカが「大好きな人のそんな(あられもない)姿」をフラッシュバックしてコンボ伸びちまうぜぐらいしか考えられないダメな大人だから後日談どうなるか楽しみで仕方ない

  • 1152223/11/14(火) 22:42:09

    自分が思いつく限りのユウカ曇らせはもうやりきっちゃったので、後日談は(比較的)マイルドなアフターフォロー的な話になる予定です。はい……

    ~~~

    「……ねえ、ノア」

    経験上、こういう時のノアに下手な嘘や誤魔化しはむしろ逆効果。
    だからあえて、少しだけ打ち明けてみることにした。

    「もしも……忘れてしまいたいような、頭の中から綺麗さっぱり消してしまいたいような思い出があった時……ノアならどうする?」

    もちろん全てを包み隠さず話すなんてできっこない。
    ……そんなことをしたら、誰より私自身があの日にあった出来事を、現実だって認めなくちゃいけなくなっちゃう気がして。
    でも……せめて私の悩みがどんな類のモノかくらいなら、話してもいいかもって思った。
    もうそろそろ、一人で抱え込むのも限界だったから。

    「……難しい質問ですね。ユウカちゃんも知っての通り、私は『忘れる』ということが人より苦手ですから。あまりユウカちゃんの参考になるアドバイスができるかどうか」

    たっぷり十数秒ほどの沈黙を挟んだ後、ノアは深刻な顔でそう口にした。
    ……それはそうだ。彼女にとって『記憶』というものがどれほどの重みを持っているのか、私だってよく知っているから。

    「……そうですね。私だったらそういう時は……『今』を思いっきり楽しく過ごす、でしょうか?」
    「今を、楽しく?」
    「はい。どれだけ悩んでも、過去の出来事はなかったことにはできませんから。そんな忘れたい思い出を塗り潰してしまうくらい鮮烈に、『今』という時間を楽しむことができれば……たとえ忘れられなくたって、気を紛らわせるくらいにはなりますから」

    そう言って微笑むノアの表情は、少しだけ申し訳なさそうに見えた。
    ……きっと、その答えが私の悩みを根本的に解決するものじゃないって、ノア自身が一番よく分かっているのだろう。
    でも……だからこそ。その場しのぎの気休めなんかじゃなくて、ノアが私のことを真剣に考えてくれたんだってことが伝わったから。
    ほんの少しだけ、心が救われた気がした。

  • 1162323/11/14(火) 22:51:24

    >>115 名前打ち間違えた……


    ~~~


    前に打ち明けてくれた、ノアが苦手なもの。


    退屈と、静かで変化の無い時間。

    身の回りの全ての出来事を記憶できる彼女にとって、記録すべき事柄が何一つない『平穏』こそが何よりも耐えがたいことで……だから、いつも賑やかなミレニアムが好きなんだって言ってたっけ。

    ひょっとしたらノアにだって、私にも打ち明けられないような辛い思い出があるのかもしれない。

    ……そこに踏み込めるだけの勇気は、今の私にはないけれど。


    「ありがとう、ノア」


    少なくとも、参考にはなった。

    確かに、もう過ぎてしまったことに対していつまでもうじうじと悩み続けるのは合理的じゃない。

    大事なのは、これから何をするかのはずだ。


    「ユウカちゃん」


    真剣な声色が耳に届く。見ると、ノアが私のことをまっすぐ見つめていた。


    「ユウカちゃんが話したくないことなら、無理に話してくれなくても構いません。でも……悩みがあるならいつでも相談してください。これでも私は、ユウカちゃんの親友なんですから」


    ……まったく。

    本当に、私なんかには勿体ないくらいに良い親友を持ったものだ。

  • 1172323/11/14(火) 23:52:51

    「あ、そうだ。ユウカちゃんと一緒に食べようと思って、いいものを買ってきたんですよ」

    ことり、と。机の上に何かが置かれる音がする。
    視線を向けると、そこには甘くて柔らかそうなお菓子の乗ったお皿があって。

    「これって……ティラミス?」
    「はい。この間、ユウカちゃんが食べたいって言っていたので。……ふふっ、ハロウィンにはちょっとだけ遅いですけど」

    そう言ってノアは悪戯っぽく笑う。……ハロウィン、という言葉を聞いた瞬間、ちくりと胸が痛んだけれど。
    それでもノアが私を気遣ってくれたことは素直に嬉しくって。思わず顔がほころんでしまう。

    「ありがとうノア! それじゃあ遠慮なく頂くわね」

    日頃から冷酷な算術使いだの何だの言われてる私だけど、これでも年頃の女の子だ。甘いものは嫌いじゃない。……体重はちょっと気になるけれど、今だけは考えないことにする。
    早速スプーンを手に取って、ティラミスを一掬いして口に運び、ぺろりと一口。

    ……うん。おいしい。
    甘くて冷たいアイスクリームとスポンジケーキの味わいが口の中をふんわりと包んでいく。
    特に、どこまでも甘ったるい口触りの中でも確かに感じる、苦み走ったエスプレッソの風味が……


    コーヒーの、香りが──

  • 1182323/11/14(火) 23:53:18

    ~~~


    『ひゃうっ……んあっ……ちょ、っちょっとせんせ、まっ……だっ』

    “──カンナ……ッ”


    ~~~

  • 1192323/11/14(火) 23:56:21

    「……ごほっ! げほげほっ! ごほっ!!!!」

    「ゆ、ユウカちゃんっ!!?」

    苦くて、甘ったるくて、吐きそうになる。
    それでも……咳き込む口元を手で覆って、死に物狂いで吐き気を堪えた。
    だって、これは。ノアが私のために買ってきてくれた。嬉しくって。大切な。
    死んでも吐くもんか。

    だけど、気持ちなんかじゃどうにもできないくらい、視界が歪んで。頭がくらくらして平衡感覚が保てない。立っていられない。その場に蹲ってしまう。
    悲しくて、むねがいたくて……瞳から涙が溢れて、止まらなくって。止まってくれなくって。

    ……ああ、迂闊だった。
    嗅覚と記憶には密接な関係があるって、話には聞いていたのに。
    鼻腔を擽るコーヒーの香りが、否が応でも「あの日」の記憶を呼び覚ましてしまう。
    あの、コーヒーと汗と男と女の匂いが。色に塗れた声が。互いの体を求め合う二人の姿が、まるで走馬燈みたいに頭の中をぐるぐると、駆け巡って……


    「ユウカちゃん……ごめんなさい。私の、せいで……ごめん、なさい……!」

    ……違う。
    ノアは何一つ悪くなんてない。
    誰がなんて言おうと、それだけは絶対に確かだ。
    これは全部……ぜんぶ、私のせいで……

    でも、こみ上げてくる嗚咽が、涙ぐむ親友にそんな慰めの言葉を掛けることすら許してくれなくて。
    じんじんと痛む頭を抱えながら、赤子のように震えることしかできなくって。


    ──ただ、親友の心遣いすら踏み躙ってしまった私自身が……無性に情けなかった。

  • 1202323/11/14(火) 23:57:32

    今日はここまで。もうちょっとだけ続くはず……
    後日談はこんな感じで脳破壊展開は心持ち控えめにする予定です

  • 121二次元好きの匿名さん23/11/15(水) 00:20:29

    後日談でもしっかり破壊されてるじゃん

  • 122二次元好きの匿名さん23/11/15(水) 07:26:20

    ティラミスにアイス使うのはあまり一般的ではないのか…?

  • 123二次元好きの匿名さん23/11/15(水) 10:01:06

    アイスティラミス美味しいよね・・・なんかセイアさんがうんちく語ってそうな気がしたので一本

    ティラミスパーティー・ティーパーティー
    「あ、今日はティラミスなんだ。ナギちゃんがロールケーキ以外を持ってくるなんて天変地異の前触れかな?」
    「ほう?ミカさんがお望みというのならば、今から口にねじ込んで差し上げてもいいのですが?」
    「まあまあ、紅茶が冷める前にいただこうじゃないか・・・ふむ?アイスティラミスか、久しぶりに食べるな」
    「おや、その口ぶりだとアイスを使うのは一般的ではないのですか?ティラミスとはこういうものだと思っていましたが」
    「伝統的・・・いや、ティラミスはかなり新しい菓子だから伝統も何もないのだがね?とにかく、一般に知られるティラミスのレシピではマスカルポーネチーズやカスタードを混ぜたクリームが使われているのだよ。だからアイスを使ったものについてはアイスティラミスと呼び分けることもあるのさ」
    「そんなカルボナーラに生クリーム使うか使わないかみたいな話はどうでもいいじゃんね、美味しいが正義だよ」
    「美味しいは正義・・・それは真理をついた発言だな、ミカ。どうにも長話が好きですまない。まったく、これでは君たちのことをとやかく言えないな」
    「それはいいっこなしですよ、セイアさん」

  • 124二次元好きの匿名さん23/11/15(水) 17:19:41

    蘊蓄セイアですまない…

  • 1252323/11/16(木) 00:21:21

    続きは週末あたりまでお待ちを…
    仮にもカンナSSスレでカンナ方面の掘り下げがあまりできてないのが後悔っちや後悔
    ユウカとカンナの絡みってどんな風だろ…?

  • 1262323/11/16(木) 01:00:00

    >>123

    おいしいSSは正義

    ティラミスにも色々あるんですね…勉強になります

  • 127二次元好きの匿名さん23/11/16(木) 07:14:41

    ユウカとカンナだとお互い常識的な応答に終始しそう

  • 1282323/11/16(木) 16:53:49

    こんなSSばっか書いてるけどユウカのことは大好きです
    叶わない恋って美しいよね

  • 129二次元好きの匿名さん23/11/16(木) 21:24:46

    なぜユウカにはWSSが似合ってしまうのか

  • 130二次元好きの匿名さん23/11/16(木) 21:27:25

    真面目な良い子で好きな人に卑しいムーブとか出来ずにヘタレそうだからだろうか…?

  • 1312323/11/16(木) 21:30:52

    ~~~

    ……その日の私は、その場所で、

    「どう、しよう」

    もう、たっぷり五分は立ち往生していた。
    なんとか自分を奮い立たせようとしても、口から零れるのは弱気な言葉ばかりで。
    シャーレの執務室へと通じるドアを目と鼻の先にして……私はまだ、ただの一歩も踏み出せずにいた。

    気が付けば、「あの日」からもう一週間。
    結局、あの日に見たものや聞いたことを他の誰にも打ち明けられないまま。
    とうとう私がシャーレの当番として、先生を手伝いにいく日が巡って来てしまった。

    ……あの日の前までは、あんなに楽しみにしていたはずだったのに。
    今はもう……先生と顔を合わせることを想像するだけで、心が沈んでしまう。

    いっそのことノアやコユキに代わってもらうって手もあったけど……
    ただでさえ、この頃元気がないねって心配されてるのに、これ以上みんなに迷惑は掛けられない。
    もういい加減、私も前を向かなきゃ。

    ……そう思って、ここに来たはずだったのに。
    今更になって、足が竦んでしまう。


    だって、もしも、このドアを開けて。
    あの日みたいな光景が広がっていたらどうしよう。

    また先生が、他の誰かと愛し合っていたら……どうしよう。

  • 132二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 06:22:55

    このレスは削除されています

  • 1332323/11/17(金) 12:02:31

    「……しっかりしなさい、ユウカ」

    ……悩んでいたって仕方ない。情けない自分を自分で叱り飛ばす。
    前を向くって決めたんだろ。過去のことは振り切って、もう一度正面から先生と向き合うって。
    どのみち、このままいつまでもぽけーっと立ってるわけにはいかないんだから。

    そう自分に言い聞かせて。意を決して、ドアの取っ手へと手を伸ばし……


    がちゃり

    ……だけど。
    私が手を触れるよりも先に、ドアはひとりでに内側から開いた。
    そして、その向こう側から現れたのは……

    「おや? 貴女は……」

    ドアの奥から顔を覗かせた「彼女」は、私に気付くと少し驚いた様子を見せる。
    私の方は……驚いた、なんてものじゃなかったけど。

    すらりと背が高くてスタイルの良い、いかにも「デキる女」というオーラを漂わせた獣耳の女性。
    前髪の奥から片方だけ覗いた瞳は、さながら訓練された猟犬のような迫力を放っている。
    ……「狂犬」なんて噂されているのも、むべなるかな。


    忘れわけがない。
    ヴァルキューレ公安局の、尾刃カンナ。

    ──あの日、先生と一緒にいた女。

  • 1342323/11/17(金) 20:57:43

    いいだしっぺの法則で書き始めたSSがこんなに長くなるなんて思わなかったんですゆるしてください…
    土日には完結させたい…(願望)

  • 135二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:38:44

    >>134

    おつ

    気持ちはわかるよ

    スレはいっぱい残ってるしゆっくり書いて行ってね!!

  • 136二次元好きの匿名さん23/11/18(土) 07:35:51

    完結したらpixivとかハーメルンにまとめてみても良いんじゃないか?

  • 137二次元好きの匿名さん23/11/18(土) 14:22:11

    脳破壊ユウカはかわいそかわいい

  • 1382323/11/18(土) 21:03:35

    >>136

    元々1のSSやこのスレとか他のスレでのSSの設定ありきの三次創作?なので、単体作品として投稿するのはちょっと厳しいかなって思ってたり……

  • 1392323/11/18(土) 21:04:59

    「貴女は確かミレニアムの……早瀬ユウカ会計、だったか?」
    「ええ。そういうあなたはヴァルキューレ公安局の尾刃さん、でしたね。お久しぶりです。あなたも今日のシャーレの当番で?」

    努めて隔意を感じさせないように、彼女……尾刃カンナと会話を交わす。
    ……正直、上手く動揺を隠せていたかどうかは分からないけど。

    「その予定だったのだが……今しがた本部から緊急の呼び出しを受けてしまってな。至急現場に向かわなくてはならなくなった。……突然のことで済まないが、今日の当番は貴女一人に頼ってしまうことになりそうだ」
    「……そうだったんですか。でも、大丈夫ですよ。これでも私、シャーレの業務には慣れてますから」

    少しだけ安堵する。
    このまま彼女と先生と三人で過ごして、平静を保ち続けられる自信なんて無かったから。

    「先生の面倒なら私一人でも十分に看れますので、ご心配なく」
    「そうか、助かる。こちらの都合で迷惑を掛けてしまうことを謝罪したい」

    とげとげとした私の内心とは裏腹に、彼女の言葉からは私への敵意や警戒心のようなものは感じ取れなかった。
    ……まあ、それはそうか。私が彼女と先生の関係を知っているということを、彼女は知らないのだから。
    彼女にとって私は、たまにシャーレの当番で一緒になるだけの……ろくに眼中にもない、その他大勢の生徒の一人でしかないのだろう。

    「とはいえ、事件が早めに片付けば夜までには戻って来れると思う。その間は先生のことをお願いしたい。……貴女もよく知っていると思うが、あの人は少し目を離すとすぐに無茶をしてしまう人だから」
    「……ええ。お気遣いなく。先生のことは、私に任せてください」

    ……戻ってなんて来なくていいのに。なんて、流石に言えなかったけど。

    「ありがとう。貴女が来てくれて、助かったよ」

    去り際に投げ掛けられたのは、混じりけのない感謝の言葉で。
    彼女へのドロドロとした嫉妬心を捨てきれない自分自身が、なんだか無性に惨めに思えた。

  • 140二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 03:06:17

    >>138

    そっかぁ、残念…

  • 1412323/11/19(日) 11:00:36

    ~~~

    “やあ、久しぶりユウカ。今日もよろしくね”
    「はい。よろしくお願いします、先生」

    久しぶりに顔を合わせた先生は憎たらしくなるくらいに普段通りだった。人好きのする柔和な笑みを浮かべて、どこか頼りなさげで放っておけない。私が知ってるいつもの先生で。
    ……この先生が「あの日」の彼と同じ人間だなんて、やっぱり信じられなかった。

    「……えっと、今日の当番は私一人、なんですよね」
    “うん。本当はもう一人、カンナって子が手伝ってくれるはずだったんだけど……カンナのことは知ってたっけ?”
    「……はい」

    あなたが思っているよりも、ずっと。
    そんな言葉は心の中だけに仕舞い込んで。

    「何度か当番で一緒になったことがありますし、さっき外でも少しだけお話しました。……先生も彼女のことは、随分と『信頼』されていらっしゃるみたいですね」
    “……そうだね。今まで何度も危ないところを助けて貰ったから。いくらお礼を言っても足りないくらいだよ。カンナには”
    「……そう、ですか」

    その言葉はきっと紛れもない先生の本心なのだろう。だけど、きっとそれだけじゃない。
    他の生徒だったら誤魔化せても……あの日の出来事を知っている私にだけは、それがただの生徒へと向ける親愛ではないことが分かってしまう。

    だって、彼女の名前を呼んだ時の先生の声には、ほんの少しだけ……私の、他の生徒の名前を呼ぶ時には絶対にありえない、一人の男性としての「熱」が込められていたから。
    きっと先生にとって、彼女は……彼女だけが「特別」で。
    分かっていたはずのその事実を改めて突き付けられた瞬間、胸を抉られるような痛みがズキズキと襲ってきて。
    吐きそうになる。

    なんでですか、先生。……私だって、先生のことを何度も助けてきたじゃないですか。
    私とあの人と、何が違ってたって言うんですか。──先生。

  • 1422323/11/19(日) 14:30:19

    胸の奥から、どろどろとした感情が込み上げてきて……抑えられなくなる。

    認められなかった。
    諦められなかった。
    どうしてあの女なの。どうして私じゃないの。理解できない。理解できない。
    なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。

    だったら、私はどうすればいい?

    ……ノアだって言ってたじゃない。
    大事なのは過去じゃなくて『今』だって。

    そうよ。何の行動も起こしていないうちから諦められるもんか。
    たとえ確率論では1パーセントにも満たない、誤差として切り捨てられてしまうような可能性だって。
    まだ私にも、それを掴めるチャンスが残っているなら。


    ──もう、手段なんて選ばない。


    結論は出た。
    そうしたら後は、行動するだけ。

    “それじゃあユウカ、今日の当番についてなんだけど……うわっ!?”

    振り向きざま、先生に急接近。
    よろめいて、足がもつれたふりをして……


    この身体ごと、先生の胸に思いきり飛び込んだ。

  • 1432323/11/19(日) 14:39:13

    “ゆ、ユウカ!?”

    困惑する先生を余所に、
    先生の胸に顔を埋めて、そのありったけを味わい尽くす。

    ──嗚呼。

    見る。聴く。嗅ぐ。舐める。触れる。
    先生の顔。先生の声。先生の匂い。先生の汗。先生の体温。
    その全てが愛おしくて、欲しくて、手放したくなくて。渡したくなくて。

    想いが届かなくたって。
    気持ちを裏切られたって。
    どれほど理性に縋って、何度検算し直したって、唯一無二の「答え」は少しも変わらなかった。


    ああ。

    やっぱり私は。

    この人のことが。

    好きなんだって。

  • 1442323/11/19(日) 14:49:15

    私の全てを、先生に感じて欲しくて。較べて欲しくて。選んで欲しくて。
    先生の胸板に顔を埋める。先生の背中に腕を回して、ぎゅうと抱きしめる。
    そこまで大きいわけじゃないけど決して物足りなくはないはずのふくらみを主張するように押しつけて。散々からかわれてきた太ももだって惜しげなく絡ませて。……こんな破廉恥なこと、絶対できないって思ってたのに。
    だけど、これが……私の、私にできる精一杯で。ううん。先生が求めてくれるなら、もっと、曝け出したって……構わ、ない……から。こわいけど、はずかしいけど、できる、から。だから。
    全部、ぜんぶ。わたしの、わたしは、わたしを、わたしだけを。だから。どうか。おねがい。……おねがい。


    先生。
    せんせえ。
    すきです。だいすきです。あいしています。

    あなたの唇が欲しい。あなたの心が欲しい。あなたの全部が欲しい。
    わたしのぜんぶをあげますから、あなたのぜんぶをわたしにください。
    ……おねがいします、先生。どうか。

    わたしを、みて。


    万感の思いを込めて、顔を上げる。
    上目遣いで先生の顔を見上げて、ターゲットをロックオン。
    ほんの少しだけ背伸びをして……放たれた弾丸のように、先生の唇との距離を詰めていく。


    目を閉じる。

    ほら。あと、ほんの少しで、ゼロになる。
    私とあなたの唇が、重なって、そうしたら、きっと、わたしだって──

  • 1452323/11/19(日) 15:00:48

    ──ぐい、と。

    強い力で肩を掴まれて……押し退けられ、引き剥がされた。

    困惑する。
    何が起こったのか分からなかった。
    少しだけ間を置いてから……先生に拒まれたんだって気がついた。

    ……せん、せい?

    疑った。信じられなかった。だって、先生は、どんなときだって、私のことを、邪険にすることなんてなくって。
    驚きに目を見開いて先生の顔を見上げた。その視線の先に、あったのは……


    眼鏡越しに私に向けられた先生の瞳には、
    私が欲しかった「愛しさ」の色なんて、ほんのひとかけらもなくて、
    あの夜に彼女に向けていた「熱」の気配なんて、ほんの少しも宿っていなくて、

    ただ、優しさと困惑が入り混じった、慈しむような「先生」としての気遣いの色が、
    そして……その隙間から少しだけ垣間見えてしまった、「先生」としてじゃない彼の、本音の色が、


    ──ほんの少しの、だけどはっきりとした「厭しさ」の色が、混ざっていて。

  • 1462323/11/19(日) 15:04:25

    「────ぁ」


    ぽっきりと、
    心が折れた。

    先生の腰から手が離れる。体から力が抜けて、がくりとその場に蹲る。
    心にぽっかりと大穴が開いてしまったみたいで……全ての感情がそこから抜け落ちて、何も考えられなくなって……


    “……大丈夫? 一体どうしたの、ユウカ?”

    遠くから聞こえてきた声に、はっと我に返る。

    顔を上げると、先生が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
    ……その表情には、さっきまでの困惑や「厭しさ」の色なんてどこにもなくって。
    いつも通りの、私が知ってるままの、優しい「先生」の顔で。


    ──ああ、これが大人か。
    感情に振り回されてばっかりの私たち子供なんかとは全然違う。
    どこまで行っても……私は先生にとって、ただの「生徒」でしかなかったんだなって思い知らされる。

    でも。それじゃあ。それって。結局。
    ただの一度でも、先生と生徒の関係から外れてしまったら、私は……先生の「生徒」ですら居られなくなるってことで。
    もしも、そうなってしまったら、私は、

    先生にとって、本当に……「どうでもいいひと」に、なってしまうって、ことで。

  • 1472323/11/19(日) 15:09:52

    「……ごめん、なさい」

    震えていた。
    声も、身体も、心さえも。

    “……ユウカ?”
    「ちょっとだけ、立ち眩みが。……昨日、あんまり眠れていなかったので」

    辛うじて絞り出せたのは、そんな愚にもつかない言い訳だけで。
    ……昨日だけじゃなくて、このごろちっとも眠れていないことだけは本当だったけど。

    “疲れてるなら無理しないでいいよ。仮眠室のベッドは空いてるから、少し休んでくれば”
    「……いえ、大丈夫です。大したことはありません。もう、治りましたから」

    残った気力を振り絞って、無理矢理にでも立ち上がる。これ以上、先生に醜態は晒せない。


    ……何をやっているんだろう、私は。

    焦って、血迷って、先生と生徒の境界を無理矢理に踏み越えようとして。
    その向こう側に行ったら先生が「先生」じゃなくなってしまうんじゃないかって思っただけで、私はもう、耐えられなくて。

    結局、私は……
    今のこの関係さえも失くしてしまうのが、壊れてしまうのが怖くって。

    そこから先へ踏み出す勇気なんて……無かったんだ。

  • 1482323/11/19(日) 15:13:24

    “……ユウカ。その、もしかしてだけど……なにか悩んでる?”

    耳に届いたのは、いつもと変わらない、生徒を気遣う優しげな声。
    普段なら、声を聞くだけで安心できて、幸せになれるような甘い囁き。
    だけど……

    “えっと、よかったら話してみない? 私にできることだったら何でも……”
    「先生」

    その声を遮るように、ぴしゃりと言葉を被せる。
    ……今はもう、聞いているだけで反吐が出るような気分だった。
    だって、そんな甘ったるい慰めが今さら何になるっていうのだろう。私の悩みは先生なんです、とでも相談しろと?

    あなたが。どの口で。それを言うのか。

    「誰にだって、他人には知られたくない秘密の一つや二つ、あるって思うんです」

    口から飛び出たのは、自分でもびっくりするくらいに冷淡な声で。
    先生と目すら合わせずに、吐き捨てるように言う。

    「……先生にも、そういう秘密の一つくらい、あるんじゃないですか?」
    “……………………”

    答えなんて、聞くまでも無かった。


    ……ねえ、先生。
    今の私は、ちゃんといつも通り、上手く笑顔を作れていますか。

  • 1492323/11/19(日) 15:15:00

    「……それじゃ、気を取り直して。さっそく今日の仕事に取り掛かりましょうか、先生」
    “だけど……”

    有無は言わせない。何か言いたげな先生を視線で制し、この話はこれで終わりなのだと言外に訴える。
    もう、これ以上踏み込まないでください……って。

    「私nなら大丈夫ですから。……もう、気にしないでください」
    “……ごめんね”


    ……先生は。
    彼女と先生の関係に、私が気付いていることに、気づいているのだろうか。
    分かっていて、あえて気付かないふりを続けているのだろうか。

    今はもう、どちらでもよかった。
    どのみち問い詰めたってはぐらかされるだけだ。
    きっと先生は、この秘密を自分の墓まで持っていくつもりなのだろう。

    それなら、もう。
    私にできることなんて……ただのひとつもないから。

  • 1502323/11/19(日) 15:21:21

    「──ところで先生、まさかとは思いますけど……私がいない間、また期日間近の書類とか溜め込んだりしてませんよね?」
    “……あはは?”
    「せーんーせーいー? 苦笑いで誤魔化さないでください!」

    思うところは当然ある。
    納得できないことなんて幾つもある。
    それでも……

    先生が私の前で、私の知ってる通りの先生でいてくれるのなら。
    私も、いつも通りの私を装って、いつも通りの軽口を叩いて。
    先生が知ってる、いつもの早瀬ユウカのままでいよう。


    “いつもユウカには迷惑をかけっぱなしで、ごめんね”
    「……はあ。しょうがないですね。まったく先生は……本当に、私がいないとダメなんですから」

    もう、詮索はしない。
    これ以上の深入りもしない。

    だから、せめて、今だけは……
    先生には私が必要なんだって、勘違いさせてください。

  • 1512323/11/19(日) 15:23:25

    ~~~

    ずっと、先生のことが好きだった。

    誰よりも早くから先生のことを知っていた。
    誰よりも長い間、先生のことを手伝ってきた。
    誰にも負けないくらいに……先生のことを慕ってきた。

    ただ、それだけ。


    それだけだったから、私はきっと、先生にとっては。
    特別でも何でもない……「その他大勢」の生徒にしか、なれなかったんだろう。

    先生にとっての「特別」は、私じゃない。
    そんなことはもうとっくに分かってる。分からされた。分かりたくなんてなかったのに。


    でも、今日のシャーレの当番は、私一人で。
    今、ここにいるのは、私と先生のふたりだけだから。

    ……だから。

  • 1522323/11/19(日) 15:25:43

    「あっ先生! なんですかこの領収書!? さてはまたこっそり高い玩具なんかを……」
    “い、いやユウカ、それはその……”

    先生。
    ……せんせい。

    あなたの好きな人は、私じゃなくていい。
    あなたが選ぶのは、私じゃなくてもいいから。

    それでも、
    もうあなたと会えなくなるのは、こうして二人でお話できなくなるのは。
    あなたの隣にいられなくなることだけは……絶対に嫌なんです。

    「ああもう……先生」

    だから、せめて。
    この時間だけは。
    この場所でだけは。
    お願い。
    お願いですから。
    私の、
    私だけの、ために。


    「──ちょっとお時間、いただけますか?」

  • 1532323/11/19(日) 15:26:34

    ~~~

    せめて。

    あなたのことを、これからも。

    だいすきでいることだけは、ゆるしてください。

    ──せんせい。

  • 1542323/11/19(日) 15:37:12

    ~~~

    以上! これで後日談も完結です。例によって長すぎ……
    とりあえず言い訳させて頂くと、最初は確かにユウカが失恋の痛みから立ち直りつつ先生との関係も前向きに受け入れる感じのアフターフォロー的な話になる予定だったんですが、ふたを開けてみればユウカがただひたすら死体蹴りされてるだけだったような……ご、ごめんよユウカ……

    余談ですが、このSS書いてる間ちょうどアリスクの中でヒヨリだけ受け入れできてなかったのでピックアップガチャ引いたら、すり抜けでカンナ局長まで来てくれたので何か運命的なものを感じました。
    これもきっとスレ主のおかげです。かんしゃぁ~!

  • 155123/11/19(日) 19:18:20

    おつ!
    良いモノを見させていただきました

    まさかちょっとえっちなカンナが見たいなと思って書いたSSが巡り巡ってユウカの脳破壊に繋がるとは思わなんだ

    (自分の)脳を回復させるのも欲しくなってきたな……カンナのケモミミを重点的に攻めるみたいなやつ見たい……見たくない?

  • 156二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 20:44:15

    見たい

  • 1572323/11/19(日) 21:26:09

    なんならこのあとユウカには先生といつもの調子で一日仕事してちょっとだけメンタルが回復して帰ろうとしたところで自分の当番終わりと入れ違いで戻ってきたカンナと鉢合わせして
    そのままカンナが先生と夜の当番(意味深)始める光景を幻視しつつも何も言えず負け犬みたいにとぼとぼ帰宅する未来が待ってるんですね…
    というわけでユウカの脳のためにも先生とカンナのさらなるイチャイチャをくださいおなしゃす!

  • 158123/11/19(日) 23:30:23

    >>156

    >>157

    自分も見たい!

    誰かかいて下さい!!

  • 159二次元好きの匿名さん23/11/20(月) 06:53:44

    カンナの耳はいい匂いしそう

  • 160二次元好きの匿名さん23/11/20(月) 12:01:21

    1や23みたいに素敵な文章なんて書けないからさ、ぼろが出ないように前後編ぐらいのサイズで許してくれないかな~、なんて。書いたことないキャラなのに求められる水準が高いよ~
    というわけで一本。カンナSSスレなんだからカンナも書かないとね!

    【Trick or treat. Which does trick?】

    「トリック・オア・トリート?さあ、先生はどちらを選びますか?」

    そう言って、先生の眼をじっと見つめる。
    甘い空気がシャーレの執務室を緩やかに満たしていく。先生の瞳に浮かんでいた、僅かな困惑の色もほどけ、とろりと。蜂蜜のように艶めく甘い色に染めあげられていく。
    それは私の眼に宿る色と同じで。だからこそ、次の言葉は予想外だった。

    "…………そうだね、じゃあトリートにしようかな。ちょっと準備するからソファの方で待っててね"
    「……え?ええ……」

    先生が離れていく。どこか楽しそうな足取りで。
    私は、言われたままにソファに向かうことしかできなくて。座ることも忘れて。ただ、立ち尽くしていた。
    キュ、と帽子のつばを握る。魔女のとんがり帽子。これを被ったときの気恥ずかしさも高揚感も、今はただ物悲しかった。

    "待たせちゃってごめんね"
    「いえッ、何も問題はありません」

    お菓子の入っているだろう缶と、先生の笑顔。稚気に満ちた甘く艶の乗った眼差し。
    そう、何も問題はない。宙ぶらりんに置き去りにされた私の心を除いては。

    "じゃあ、座ろうか、カンナ?"

    そうやって。私の心をかき乱して。
    先生の声が、匂いが、体温が。近づいて。

    気づけば、私は座っていた。

  • 161二次元好きの匿名さん23/11/20(月) 12:13:28

    わくわく

  • 162二次元好きの匿名さん23/11/20(月) 13:12:17

    あなたはこの短編がハロウィンの分岐の一つだと思ってもいいし、ハロウィンの甘美な体験が忘れられなかったカンナさんが後日もう一度仕掛けた結果、先生の逆襲を受けた話だと思ってもよい。ってか前後編で終わんなかったんですが!これは中編ということにして夜に書こうと思います!

    【Trick all trick. Witch was tricked.】

    そう、座っていた。先生の、膝の、上に。後ろから、抱きすくめられて。

    なんの抵抗も出来なかった。反応すらも出来ないなど、公安局の局長、狂犬、そう呼ばれているものがこうまで無防備であるなど。何たる失態。部下たちには見せられ、見せられッーーーー!!!??
    混乱した思考が酷く冷静に自分を客観して。直後に、沸騰した。

    「・・・ッ!!せ、せんせ」
    "知ってる?カンナ"

    後ろから。先生が、囁きかける。熱の籠った吐息が、耳をくすぐって。
    鼓動が、響く。体温が、匂いが、脈打つ心臓に鞭を入れて。音が、満ちて。先生に、満たされて。

    「な、にを」
    "トリートっていうのはもてなすって意味なんだよ。魔除けの意味をこめてケーキを渡す風習を、お菓子、とそう訳したんだ"

    だから、ね?、と。囁く声の甘さは、あまりにも濃密で。いっそ暴力的ですらあった。そうだ、お菓子を持ってきた先生の眼差しは。溢れる稚気に交じってはいてもその甘さは何も変わっていなかったことに、今更になって気づかされる。
    思考が、溶ける。力が抜ける。糖蜜のような先生の甘さに絡めとられて蕩かされ。それでも、聴覚だけは鋭敏に研ぎ澄まされていく。

    "今日はカンナを私なりに『もてなして』あげようかなって、ね"
    「そ、な・・・ヒンッ」

    カタリ、と。先生が缶からお菓子を取り出す小さな音すらも、甘美な刺激に感じられて。

    "かぼちゃのフロランタン、カンナと食べようかなって思って買っておいたんだ。はい、あーん"
    「ッ、あ・・・あーーん・・・ンムッ」

    舌の上に硬い感触。キャラメリゼされた糖蜜のほろ苦い甘さに頬を緩めて口を動かした刹那、パキリと、ザクリと。糖蜜のコーティングが、その下のかぼちゃの種が、さらにその下の生地が、砕けて。先生がくれたお菓子が奏でる音楽が、頭蓋を通って、響いて。体の内側から、私の耳を灼きつくした。

  • 163二次元好きの匿名さん23/11/20(月) 18:02:56

    アダルティな先生…

  • 164二次元好きの匿名さん23/11/20(月) 19:31:25

    【Treat and Treat. Switch to sweet】

    咄嗟に手で口を抑える。手が動いたのは、絶叫を抑えられたのは奇跡といってよかった。震える体を叱咤して、どうにか口を動かして嚙み砕き、飲み下す。その動作一つ一つが破滅的なまでの調べを奏でて。私が、私を、狂わせていく。
    ようやっと口の中が空になったときにはもう、息も絶え絶えだった。

    "もう一つ、食べる?"
    「ハッ……ハッ……ハァッ……そんら、そんなの、無理ィ……ッ!」
    "じゃあ、私が食べようかな"

    カロリ、と先生がフロランタンを口に入れる音がして、ザクリ。私と同じで、でも少しだけ違うメロディが耳元で響く。内側から侵されるような凶悪さはないけれど、その分だけ。噛んで含めるように、先生の音を教え込まれるようでッ……ッ!?

    「せ、せんせっっみ、みみっ耳……!」
    "ピコピコ動くから誘っているのかなって。魅力的過ぎてつい、食べてしまいたくなってね"

    おかしくなる、おかしくなる、おかしくなる。ハミハミと耳を食む音が、頭を撫でる手の音が、もだえる私の衣擦れが。際限なく私を燃やしていく。これは、ずるい。

    「ず…………るいっ」
    "ずるい?私が?"

    そうだ。先生は、ずるい。私が、問いかけたのに。私が仕掛ける側だったのに。これではまるで私の方が。

    「これ、で、はッ……私がぁっ、いたずらを、さレッ!?、る側では、なぃ、です、かァ……ッ」
    "ハハ、そうだね。大人はズルをするものさ。そして、好きな子には意地悪をしたくなるんだよ"
    "……だから、カンナは悪い大人の私をずっと捕まえていないといけないね?まあ、カンナ以外に捕まるつもりもないんだけどさ"

    ……先生は……本当にずるい人だ。振り向いて、目を合わせる。宿る色など関係ない。気持ちは、とうに一つなのだから。

    「……そういうところが、本当に……仕方ありません、そういうことなら悪い先生は私がずっと捕まえておくことにしましょう」

    口づける。それはフロランタンのような甘さも激しさもない、優しいキスで。でも、そのキスの味は、唇が触れ合う音は。何よりも甘美に私の心を満たすのだった。

  • 165二次元好きの匿名さん23/11/20(月) 19:38:00

    >>160 >>162 >>164

    以上カンナと先生のハロウィンSSでした!1と23が書いてらしたあれこれに全力で乗っからせていただきました、こんなん自力で書けるわけがないから仕方ないですね!

    前後編の見込みで言葉遊びでタイトルつけたのに中編が生えたことでプラン崩壊して頭抱えましたが、なんとか捻出出来ました。後編も頑張ったんだけどなんか中編のほうがえっちな気がするなあ・・・

    言葉遊びといえば >>145 の愛|お|しさと厭|わ|しさの対比。「お」と「わ」をそれぞれ削ることで音を揃えるとともに、削られた送り仮名で既に終(おわ)った恋であることを、またそれを故意に見て見ぬふりをしたことを、ひいてはユウカの切望と絶望とを暗喩していとても美しいと思いました

  • 1662323/11/20(月) 20:18:22

    うおおお…えっちですね…
    攻め攻めな先生の大人の余裕というか強かさというか、大人びて見えるカンナも先生にかかればまだ子供なんだなって…とにかく素晴らしいです
    こんなの覗き見た日にはユウカが再起不能になっちまう…

    言葉遊びはぶっちゃけそこまで深く考えげふんげふん

  • 167二次元好きの匿名さん23/11/20(月) 20:34:58

    ゆすったら本当に出てきた......!?
    ありがてえ.......!

  • 168二次元好きの匿名さん23/11/20(月) 22:10:57

    最初は先生が膝枕して耳フニフニ責めてく平和な話だったんですけどね、一回気落ちさせることで無防備に膝に座らせることができるなっていう悪魔の発想のせいで聴覚から脳味噌グズグズにすることがメインになってもうたんです。
    だからきっと耳をフニフニする方がメインのイチャイチャは別の人が書いてくれるはず・・・!

  • 169二次元好きの匿名さん23/11/21(火) 05:21:53

    完結したと思ったら新作来てた!

  • 170二次元好きの匿名さん23/11/21(火) 16:47:03

    ユウカとカンナがすれ違うシーンも楽しそうだな・・・

  • 171二次元好きの匿名さん23/11/21(火) 20:23:37

    wktk

  • 172二次元好きの匿名さん23/11/21(火) 20:53:36

    (ハロウィンを)終わりになんてさせません! まだまだ続けていくんです!

  • 173二次元好きの匿名さん23/11/22(水) 01:09:03

    公式でも総決算に次ぐ総決算でアオイに攻め込まれているユウカの明日はどっちだ

  • 174二次元好きの匿名さん23/11/22(水) 01:25:00

    >>172

    無限に終わらないハロウィン…チェーンソーマンかな?

  • 175二次元好きの匿名さん23/11/22(水) 06:01:07

    ハロウィン! ハロウィン!

  • 176二次元好きの匿名さん23/11/22(水) 12:51:52

    【優越と諦観】 Side:ユウカ

    あの日からまた、しばらくの時が経った。今にしてみればやはりあの当時の私はどこかおかしかったのだとわかる。今は計算ミスもしないし書類の作成中に手が止まってしまうようなこともない。睡眠だってしっかりとれている。結局のところ、冷静にさえなれればあんなに思い詰める必要なんてなかった。時間が全てを解決するとはこういうことなのだろう。
    ノアはまだ時々気づかわしげに視線を向けてくるけど。
    私は、もう大丈夫だ。

    「これで急ぎの書類は全部ですね」
    "助かったよユウカ"
    「まったく。ダメだって言ってるのにため込むんですから……」

    先生は、相変わらず優しい。私への対応も変わりはないし、私も完璧な仕事で応えられている。ココアを一口含み、次の仕事へとりかかる。
    最近は領収書の類はしっかり仕分けするようになってくれていてとても助かっている。期日の近い書類をため込むのも改善してくれればなあ。

    「それじゃ、お疲れさまでした先生」
    "うん、今日もありがとうユウカ。またよろしくね"
    「書類、ため込まないようにしてくださいね」
    "アハハ……"
    「まったく先生は……」

    執務室を出て廊下を歩く。行きにここを通った時、尾刃さんとすれ違ったのを思い出す。相変わらず忙しそうで、それでもシャーレの当番には欠かさず来ているみたいだ。

    (どうも、早瀬ユウカ会計。すまないがまた緊急の呼び出しがあってな。当番の作業をよろしく頼む)
    (大丈夫ですよ、任せてください。尾刃さん今日は戻ってこられるんですか?)
    (いや、どうも中々厄介そうでな。解決するころには日をまたいでしまうだろうな。そういうわけで今日は戻れそうにない。たびたびですまないが先生のことをよろしく頼む)

    あの日。尾刃さんは私が帰るタイミングになってようやく戻ってきた。あの後は恋人たちの時間だったのだろうか。私の作業は彼女との時間を捻出するだけだったのだろうか。あの日の私はそんなことを考えながら帰路についたけど。
    そんなのは私とってはどうでもいいのだ。どうせあの人は忙しいからいつもそばにはいられない。今日だってそうだ。私がいなければ期日の近い書類は片付かなかっただろう。あの人がどうかに関わらず、先生には私の力が必要なんだ。
    うん、完璧。

    「先生は、私がいないとダメなんだから」

  • 177二次元好きの匿名さん23/11/22(水) 12:58:52

    ・・・むっずい!ユウカむっっず!!!脳破壊と回復で心理状態が複雑だからバランスがとりづらいのなんの。私は……23みたいには、書けない……
    別視点含めて大筋のイメージは出来てるのに文章に落とし込むのに死ぬほど時間かかった……
    別視点は夜までに書きあがるかな……まあ、がんばって書こ~

  • 178二次元好きの匿名さん23/11/22(水) 13:02:35

    なんかSS来てた…
    ユウカがお仕事頑張れば頑張るほど先生とカンナの夜の時間が増えていくというジレンマ…
    吹っ切ってるように見えるけどどこか痛々しくもあり……別視点楽しみにしてます

  • 179二次元好きの匿名さん23/11/22(水) 19:06:04

    wktk

  • 180二次元好きの匿名さん23/11/22(水) 23:42:36

    【優越と諦観】Side:カンナ

    あの日からしばらくが経過した。私と先生の関係は順調だ。まあ、フブキにはからかうように言葉をかけられたがまあそれぐらいは些細なことだ。
    馴れ合うまま求めるままにズルズルと続いていた関係は、それはそれで甘美だったし居心地は良かった。正直に言えば、その関係を崩してしまうのは怖かった。
    だが、求めなければ得られない幸せが見えていて、そこに届く勝算もあったのだから。やはり、勇気を出して仕掛けてよかった。
    私は、果報者だ。

    「領収書の仕分けと書類の整理はしておきました。ああ、判断が要求される書類はこれとこれです、簡単な計算部分はやってあります」
    "うん、助かるよカンナ。忙しいのにありがとう"
    「いえ、当番の責務として当然です。期日の近い依頼が多いですが大丈夫ですか?」
    "大丈夫、今日はこの後ユウ──もう一人当番が来るから"

    公安局の局長である私がシャーレの当番任務に割ける時間はあまり多くない。なので、最近の当番業務では適切な判断が求められる書類と単純作業で片付く書類の分類や領収書の仕分けなど、他の人が作業をしやすくするための整理をして、公安局にお鉢が回ってくる可能性の高いきな臭い案件から順に処理するようにしている。

    「早瀬ユウカ会計、ですか」
    "あ……うん、やっぱりわかるよね。うん、嫉妬するかなとかね。色々考えちゃって"
    「別に隠さなくても大丈夫ですよ、長い付き合いなのは分かっていますから。いえ、嫉妬は少しだけしていますが。彼女の能力は先生に必要ですし、何より心はここにあるとわかっていますから。それでは失礼します、先生」

    そっとほほに触れるだけの口づけを残して部屋を出る。

  • 181二次元好きの匿名さん23/11/23(木) 00:06:50

    あまあまですなぁ
    ユウカ、完全につごーのいいおんなに……

  • 182二次元好きの匿名さん23/11/23(木) 01:33:01

    【優越と諦観】 続き

    廊下を歩く。前から誰かの足音が聞こえた。まあ早瀬ユウカ会計だろう。違うならなんの目的で訪れたか尋ねるつもりではあったが、現れた姿はやはり早瀬ユウカ会計だった。

    「どうも、早瀬ユウカ会計。すまないがまた緊急の呼び出しがあってな。当番の作業をよろしく頼む」
    「大丈夫ですよ、任せてください。尾刃さんは 今日は 戻ってこられるんですか?」
    「いや、どうも中々厄介そうでな。解決するのは夜も更けた頃合いだろうな。そういうわけで今日は戻れそうにない。たびたびですまないが先生のことをよろしく頼む」
    「はい、先生のことは私が完璧に看ていますから安心してくださいね」

    ふむ。薄々勘づいてはいたが、やはり彼女は私と先生の関係に気づいているな。彼女は隠しているつもりだろうし友人であっても気づけないものがほとんどであろうが、私とて公安局の局長として嗅覚は鋭いつもりだ。おそらくどこかのタイミングで目撃されてしまったのだろう。疑いの目というには彼女の眼に宿る感情は昏すぎた。
    当番のたびに、今回だって、何かやましいことをしているのだろうと、そう咎めたい気持ちがあるのだろう。
    まあ間違いというわけでもないが、それは杞憂というものだ。私も先生も、仕事が片づいていないのにそういうことはしない。まあ、仮にそうしたところで、彼女は傍観することしかできないのだろうが。
    また、ほの暗い感情が私を満たす。独占欲、優越感。これはきっとそういうことなのだろう。これだけ長い時間をかけた彼女とて、先生は見てくれない。

    (嫉妬はある。それでも、早瀬ユウカ会計が来てくれるのはやはり助かるな)

    どのみち、私がずっと先生の傍にいることは不可能だ。書類の手伝い以外でも先生が生徒の手を貸りる必要のある場面などいくらでも訪れるのだから、彼女一人を排除したとて意味はない。
    いや、むしろ早瀬ユウカ会計こそいなくてはならない存在と言っていいだろう。彼女の計算能力・事務能力は極めて優れている。彼女は先生でなければ解決できない案件以外を除けばどの作業もどんどん減らしてくれる人材だ。大変ありがたいことだ、先生とてゆっくりと休む時間は必要だし、自分の仕事にすら忙殺される私には到底出来ない役割なのだから。

    「さて、手早く仕事を終わらせるとするか。屋台が閉まる前に終われれば良いのだが」

  • 183二次元好きの匿名さん23/11/23(木) 05:31:20

    すごい
    読み入ってしまった

  • 184二次元好きの匿名さん23/11/23(木) 05:48:56

    書き上げた時点で限界に達して寝てた・・・カンナ視点はこれでおしまいです!諦めがついて立ち直ったと自分をごまかすユウカと実際に諦めがついているカンナで対比する形で書いてたんだけど文章量伸びたなあ・・・先生もカンナも、先生に一番近しい生徒はユウカだという認識はちゃんとあって、だからこそフルネーム+役職で呼ぶのも嫉妬ゆえに敢えてやってると読み解きました。

    ちなみにカンナが仕事終わった時には屋台は閉まってますが、先生が持ち帰り注文してくれているので今夜はシャーレでおでんパーティーです。よかったね!

  • 185二次元好きの匿名さん23/11/23(木) 09:54:12

    乙でした。恋愛って残酷…
    あんまり関係ないけどシャーレの総決算がついに夜間仕様になってて笑いました
    あっちでもこっちでもユウカは脳破壊される運命なのか…

  • 186二次元好きの匿名さん23/11/23(木) 18:02:02

    おでんパーティーw

  • 1872323/11/23(木) 22:41:49

    二週間くらいに渡ってユウカ脳破壊SSを描き続けてたら、なんだか以前にも増してユウカがすっごく可愛く思えるようになってしまいましたどうしよう
    前にどこかで似たような症例を発症してた人を見かけたような気がしますね

    本当に脳を破壊されたのは私の方だったのかもしれん……

  • 188二次元好きの匿名さん23/11/24(金) 03:04:33

    乙乙

  • 189二次元好きの匿名さん23/11/24(金) 09:43:29

    乙やで~

  • 190二次元好きの匿名さん23/11/24(金) 17:25:39

    もうじきハロウィンも終わりですね…

  • 1912323/11/24(金) 21:45:50

    スレも残り少ないので没ネタ供養
    闇堕ちユウカと巻き込まれるコユキのバッドエンドIF的なもの…

    ──────

    「どうしたのコユキ、手が止まってるわよ。あなたはただこのファイルのパスワードロックを解除するだけでいいの。いつもやってることだし簡単でしょう?」
    「……だ、ダメです! ゆ、ユウカ先輩の方こそ……こんなこと絶対にやっちゃいけないって分かってるはずでしょう!?」
    「…………」
    「に、にはは……もうやめましょう? い、今ならまだ、ちょっとした冗談で済ませられます、から……だ、だって、私の知ってるユウカ先輩は、死んでもこんなことするような人じゃ……(パァン!)……ひっ!?」

    「いつから耳が聞こえなくなったのかしら。やるかやらないかを聞いてるんじゃないの。やるのよ。私はただ、先生があの雌犬のことを心の底から愛しているかどうか知りたいだけなの。……分かるわよね?」

    「う、ううっ……うあぁぁ……なんでぇ……せんぱい……私、わたし……やくそく、したのに……ごめんなさい……ごめんなさい……せんせえぇ……あああぁぁぁぁ────」






    「to_kanna」

    ~~~

    ……ってな感じの闇堕ちユウカIFが頭に浮かんできたんですが、流石にユウカが一線超えすぎだし1ミリも関係ないコユキが可哀相過ぎる…ってことでお蔵入りとなりました
    おあとがよろしいようで

    先生とカンナのアダルティで背徳的な関係も、なんかノリで生やしちゃったユウカ脳破壊概念も、全部ひっくるめて楽しいスレでした
    もう11月も終わりだけど、ハッピーハロウィン!

  • 192二次元好きの匿名さん23/11/25(土) 02:25:29

    事に至るまでの描写して、事中(を外から見てた視点での)描写されたと来れば……最後まで書きますか!


    「髪を乾かさせて欲しい……ですか?」
    ・・・
    お互いにシャワーで汗を流した後、パウダールームにて。横を見ずとも正面を見れば、鏡に映る私達。一方は髪にタオルを当てて、もう一方はドライヤーを当てながら。特有の騒音越しに私に向けて、そう声が掛かる。
    自分に熱風を向ける分には頓着していない癖して、私の髪にはご執心とは。
    今までではあり得なく、そしてこれからは日常になりえるだろう光景。それでも初めの一回はどうにも新鮮で、意識を緩めると口元が緩みそうになってしまう。

    ”うん。前々から一度で良いからその髪、手入れさせて貰いたかったんだよね。あ、もちろん無理にとは言わないから”
    「こほん……。はあ、まあ特にこだわりはありませんから、お好きにしてくだされば」

    もちろん必要な身だしなみとして整えることは前提として、私自身はそこまで頓着しているものでもない。
    それで先生が喜ぶのであれば。こういう関係になった以上、やぶさかではない。
    その思いから返答を返すと、響くように打ち返される喜びの声。

    ”ありがとう!実は色々準備してたんだよね……”
    そう言って取り出されたのは、普段の私では購入の検討にすら及ばないヘアトリートメント剤の数々。
    「……あの、先生、」
    ”いやー、何の気なしに雑誌を読んでたら使わないのに欲しくなっちゃってさ。でもこれ、カンナの綺麗な金髪に使ったらきっと今よりもっと素敵になると思うんだ!”

    何を考えてこんなものを。
    呆れと共に続けようとした言葉は、あまりにストレートな物言いに出鼻を挫かれる。
    まったく。ずるい人だ。そんな笑顔を向けられて、真正面から「素敵」などと。よくもまあ躊躇いも無く。

    風呂上がりだというのに、頬と耳まで、全く別の理由で赤くなっていることが気づかれない様に願いって。
    声に押されて、こくりと。思わず顔を背けながら頷く。

    無意識に頬に当てた掌にはしっかりと。熱を持っている事が伝わって来た。

  • 193123/11/25(土) 03:03:28

    ”じゃあ始めるね”
    所はシャーレの執務室、ではなく。その奥にある居住スペース。その一角にあるソファに腰掛ける私と、その後ろに立つ先生。

    「……お願いします」
    誰かに髪を、頭を預けるだなんて経験、美容院以外では久しい。そういった「経験不足故の緊張」と「女の命である(頓着しないとはいえそれでも)髪を誰かに預ける故の緊張」。それらがない交ぜになる私へ、その頭にふわりと。解きほぐすかのように優しくタオルが当てられる。

    ”髪を痛めたりしない様に勉強はしたんだけど。もし何か間違ってたりしたらすぐ教えてね”
    言葉ではそう確認を取りつつも、その手つきは迷いが無い。
    頭頂から毛先まで、まずは表面を。擦らずに、柔らかく押さえつけて余計な水分を取り除いていく。
    上が一通り済めば、次は裏面、というか、うなじから頭頂までを遡るように。そしてまた、順番に毛先へと。……途中、声が漏れてしまいそうになるくらいには心地よく、またスムーズだった。

    そして最後は頭頂の耳。
    タオルを手の形に沿わせて、簡易な手袋の様にして。布越しに触れられる。……右耳。反射的にぴくん、と震えたそれを宥める様に。ゆっくりと。
    初めは根元を。こちらは二度三度と擦るように。頭へ与えられる刺激とはひと味違うその感触が、マッサージのような快感をもたらしてきた。
    そのまま中腹も撫で上げ、水分を飛ばす。耳のてっぺんは擽るように撫でられて、そのくすぐったさに思わず身が震える。
    そうして裏面が終われば最後は耳の表面。つまりは、内側。
    先程よりも慎重になった先生の手つき。タオルの繊維が触れるその一本一本までが分かってしまうかのように敏感になってしまっている私の耳へ、丁寧に触れられる。

    「ん゛っ……」
    ”あっごめん、痛かったかな?”
    「いえ、そういう訳ではありませんので……続けて頂いて」
    ”……そう?問題あったらすぐ言ってね?”

  • 194123/11/25(土) 03:20:09

    思わず漏れ出た声を手で押さえつけて、その中で軽く息を付く。その間にも先生の手つきは止まらず、私の耳を揉み解す。
    手で触れられる時とは違い、繊維越しの肌触りもまた気持ち良い。

    右耳が終われば、当然次は左耳。
    同じようなマッサージ、もといタオルドライを受けながら、ぼんやりと思い至る。
    恐らくこれは、物理的なマッサージとしての気持ち良さもさることながら、信頼できる相手に「頭」を。つまりは急所を預けている事そのものへの心地よさを感じているのだと。
    言い換えれば、安心感。

    そんなとりとめのない思考を中断するように、右耳からタオルが離れていく。……せっかく気持ちよくなって来ていたところだったのに。そんな名残惜しさが無いとは言えないが。

    ”よしっ。だいぶ水分も取れたから……次は、軽く櫛を通していくね”

    先生の声と共に、私の内心は。当初の気恥ずかしさは薄れて、一抹の甘さを持つ安心感を味わうかのように、次の手を心待ちにしていた。

  • 195二次元好きの匿名さん23/11/25(土) 10:48:47

    健全なはずなのになんともドキドキするな
    (このスレ書き込んでいいのか? 1がまだ書くならレス消費しない方がいいのか?)

  • 196二次元好きの匿名さん23/11/25(土) 13:03:43

    このレスは削除されています

  • 197123/11/25(土) 13:58:30

    うおお痛恨のミス......!スレ少ないのに誤投稿はマジヤバイって!

    大きめの櫛が頭部に当てられ滑らせるように。少し毛先が絡まっている部分は一度櫛を止め、手でそれを解いてくれる。その手付きには先刻までと違い、優しさが込められていて。そんな些細な所で「ああ、本当に関係が変わってしまったんだな」と実感してしまう。
    ......その、先程までが優しく無かった訳ではなく。情熱が先に来ていたというか。ただそうなるように仕向けたのは他ならぬ私な訳で。こほん。

    ”ドライヤーを当てる前は、こうして絡まってる髪を解くといいんだって。でもやり過ぎは良くないみたいで、中々加減が難しいよね”
    言葉通りこのタイミングではブラッシングに長い時間はかけないのか、思いの外短く終わってしまった。

    ”じゃあ次はトリートメントを塗っていくんだけど、香りの希望はあるかな?結構色々種類が......”
    などと言いつつ、目の前に結構な種類の瓶が並べられていく。
    オイル、ミルク、クリーム、ete......思わず半眼を先生へと向け、言葉が溢れる。
    「......どれだけ買い込んでいるんですか?」
    ”いやあ、買ったのもあるしクラフトチェンバーで作ったのもそれなりに.....ってほら、そんなことより。どれ使うか選んでよ”

    ふむ。と少しの時間逡巡する。別段香りに対してこれと言ったこだわりは無い。しかし選んでと言われた手前.....と思考を巡らせて閃く。
    特別なこだわりは無いが、こだわるようになりたい。その思いを込めて。
    「では、先生のお好きな香りのものをお願いします。それを私も、私の好みにしたいです」

    そう、伝えた。
    ......筈なのだが。しばらく待っても反応が無く。振り返って見上げてみれば顔を抑えている先生の姿が見える。
    「? どうかしましたか?」
    ”いや、別に......。結構そういうことさらっと言うよねカンナ......”
    別に、以降は小声で聞き取れはしなかったものの。何故か心にはやり返してやった感が登ってきている。

    先程のお返しです先生。でも、本心ですよ。

  • 198二次元好きの匿名さん23/11/25(土) 17:07:13

    ”じゃあ、これなんてどうかな”
    そう言って先生が渡してくれた瓶を開ける。そうすればすぐに、さわやかな清涼感を感じさせる柑橘系の香りが華やいだ。
    「これは......シトラス、ですか?」
    ”うん。花の香りやフルーティな香りも好きではあるけどね。私の好みはどちらかと言うとこっちかな。そして、カンナに一番ぴったりだとも思ったから”

    私に似合う香り。そんなこと考えたことも無かったが。でもきっと、あなたがそう言ってくれるのであれば。
    ”それにさ。アップするらしいよ?”
    「何がです?」
    ”親しみやすさ”
    「あの.....先生?」

    私の声にはカラカラとした笑い声で返して。
    ”なら、今回はこれを使ってみるね”
    私の手の内から瓶を取り、自らの掌へとオイルを広げた。
    すると体温で揮発したのか、より一層鮮明になるシトラスの香りが、私へと近づいてくる。
    ”量は少なめに、足りなければ足せばいいくらいにしてっと。そして根元へは軽く中間地点を中心に......”
    私の髪を軽く一さじ分掬い、オイルをなじませる。
    くしくしと。髪と掌が絡む音と、更に広まる柑橘系の香りが支配する空間。その私達だけの「場」を、しばしの間堪能する。

    しばらく楽しんでいたら。
    ”よし。オイルはこんな感じかな。どうカンナ?問題無さそうならドライヤーかけていくけど”
    そう声がかかる。勿論、問題ある筈もない。

    「はい。ドライヤー、お願いします」
    そうして、この私の髪が手入れされるという、なんともむずがゆい時間も最終盤に差し掛かる。

  • 199二次元好きの匿名さん23/11/25(土) 19:14:20

    始めは高温の温風を。しっかりと髪との距離を開けて。
    風と共に通される手ぐしがなんとも心地よく、またヘアオイルの香りも、ドライヤーの風に乗って拡散されていく。
    根元、中間、毛先。ある程度の水分が飛ばされた所で、風が冷風に切り替わる。

    手ぐしから通常の櫛へと替わり、ドライヤーの風に合わせて髪が梳かされていく。
    その髪を通る感触で分かる、いつもとは別物と呼べる程の櫛の通り。それに他人事のように感心しつつ。
    カチッ。ドライヤーのスイッチを切る音。同時に風と騒音も収まり、この時間が終わりであることを告げてくる。
    ”さ、どうカンナ?我ながら結構上手く出来たと思うんだけど”

    改めて鏡を注視する。反射された私の姿。特に髪を見れば一目瞭然。
    明らかに普段より滑らかで、艶もある。手入れ一つでここまで変わるものなのか。
    少し首を振れば、ふわりと広がるシトラス。
    あなたが好きな香りを、身に纏って。
    好きな人に、頭を預けて手入れされるこのひととき。
    早くも、次が待ち遠しくなってしまい。
    「はい、ありがとうございます......。正直自分でも驚きです。......あの、先生」
    ”ん?”
    「また、お願いしても良いでしょうか?その、お時間がある時で構いませんので」
    ”......!もちろん、こちらからお願いしたいくらいだよ。私も楽しかった!”

    私の趣味爛へ一つ項目が追加された。
    最も、恥ずかしくて誰にも言うことは出来ないけれど。
    身に纏うシトラスの香りが、新たな趣味の。無言の証明だった。

  • 200二次元好きの匿名さん23/11/25(土) 19:23:33

    ヒュウ!という訳で駆け足になったけどこれで終わり!
    翌日ヴァルキューレ警察学校へ出勤したモブ生徒、ネムガキ、キリノが目撃したものは!
    物理的にも精神的にも毛並みがつやっつや(Inシトラスフレーバー)になった局長(狂犬のすがた)が!!

    モブ生徒にはきゃいきゃいはしゃがれるしキリノには「なぜか今日の局長は一段と輝いている気がします!!」とか言われるしネムガキからはいつもの3割増のニヤニヤ顔が向けられてるぜ!

    なんの気なしに書いたハロウィンネタで完走するとは思わなかったし沢山SSも投稿されたしで超楽しかったです!また何か書いたらお付き合いください!

    本当に、本当にありがとうございました!

オススメ

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