【何でも許せる人向け】とっても平和なアドステラ 3

  • 1◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 13:31:21

    お久しぶりだね!

    初代スレのあらすじだよ。


    ここはとっても平和なアドステラ!争いのない世界で子どもたちは何一つ憂うことなく心のままに歌い、笑い、遊び、恋をする。

    ――これは希望と喜びに満ちた子どもたちの愛の物語。


    ※男女CP乱立注意

    【CP注意】ここはとってもとっても平和なアドステラ【SS】|あにまん掲示板アドステラの子どもたちみんなが幸せであれ……!と願って書いた男女CP乱立SSを晒す。ダメSS書きなので先に謝っとく!ごめんね!ちなみに時系列君は複雑骨折してる。許せ!bbs.animanch.com
  • 2◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 13:33:26

    ――なんてのは夢物語さ。


    現実のアドステラは人類存続の危機。なにせ子どもたちはみーんな一夜にして醒めない眠りの呪いにかけられちゃった!

    新しく生まれてくる赤ちゃんだって、その呪いからは逃げられない。このままじゃ100年足らずで人類は滅びちゃう……!


    ――これは絶望と苦難に満ちた大人たちの愛の物語。

    もう一度、子どもたちに「おはよう」を伝えるための、戦いの記録だよ。


    【何でも許せる人向け】とっても平和なアドステラ 2【SS】|あにまん掲示板前スレのあらすじだよ。ここはとっても平和なアドステラ!争いのない世界で子どもたちは何一つ憂うことなく心のままに歌い、笑い、遊び、恋をする。――これは希望と喜びに満ちた子どもたちの愛の物語。https:…bbs.animanch.com
  • 3◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 13:33:56

    あ、時系列君は複雑骨折のまま迷子になっちゃった。あっちこっち話飛んだりするけど許してね。

    なんならしばらく世界情勢ばっかりでデリングの名前くらいしか出てこないけど許してね。


    え?前スレの使い回し?

    仕方ないだろう……3日で落とす予定なんてなかったんだから……。

  • 4◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 13:34:42

    というわけで!今更だけど!また立てました!!!

    今度こそ完結させるぞ!!!!!7割は出来てるんだ!!!!!!

  • 5◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 13:38:11

    というわけでSS投下~!
    まずは軽く番外編から。

    ーーーーーーーーーーーーー
    とある老女の通信記録

    まあ10年ぶりね! 画面越しでもまた会えて嬉しいわ!
    ええ、旅を続けているわ。今はニホンよ。
    危険はないか、ですって? 勿論、危険だらけよ!
    凄いものよね、社会が眠って15年しかたっていないのに、どこもかしこも獣だらけ!
    ええ、オオサカは半分水に沈んだわ。ウメダのあたりは汽水域になっているの。あの地下迷宮は魚たちの天国でしょうね。
    コウベは森に呑まれたわ。私はてっきりあそこも海に呑まれると思ってたけど、そういえば山のすぐそばだったものね。鹿に追っかけ回されて大変だったんだから。
    でも仕方ないわよね、ニホンはキョウトの防衛システムに費用の7割を割いたっていうもの。首都より優先される地方都市って、彼らは正気だったのかしら……。

    え?
    あら、そうなの。カタルーニャのギャザリーンも、ジュネーヴのルルーももういないの……。
    ――じゃあもう、地球でずっと起きているのは私だけになるのね。
    ええ、眠らないのか? ですって? 今更?
    冗談でしょう! もう眠るのだってリスクが高いわ。私もう85歳よ?
    覚醒率は7割切っちゃうわ。あとほんの数年よ? そりゃそれなりのスキルは身に付けてますけどね、無理に生きてどうするのよ。
    お若いあなたにはわからないでしょうけどね。
    フフッ、おかしいわね、「お若い」だなんて。あなたの方が20も年上だったのにね、母さん。

    許してちょうだい、だって私たちの世代、いくつになっても「イマドキの若い者」扱いだったんだもの。一度はこういう言葉を使ってみたかったの。
    ごめんなさい、心配してくれてるのね、わかってるわ。母さん、私も愛してる。――でも、自分の人生の終わらせ方は自分で選ぶわ。子どもじゃないんだから。
    父さんと、可愛い妹たちによろしくね。
    さ、私はもう行かなくちゃ、夜が来る前に町へ行きたいの。
    ええ、また、ゆっくり話しましょうね。

    (以降、このIDからの通信は途絶えている)

  • 6二次元好き匿名さん23/11/05(日) 13:38:13

    >>1もエリクトも頑張れよ

  • 7◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 13:45:12

    短編は以上!

    ふふふ、プロスペラ周りにの話は全然書けてないのだ……。
    でも時系列的にここらに入れないとホントはいけないのだ……。
    2時まで書いて書き終われそうならすっとばすのだ…………。

  • 8◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 14:17:15

    また別の、とある男親の話(1)


     デリングは深く椅子に腰かけました。大きく溜息を吐いて3秒、そして手に持っていた資料をダストボックスに放り投げます。

    「これも駄目だったか」

     『眠りの呪い』の条件、産声を上げてから20年以内のこどもが眠りに就くこと。それをすり抜ける実験は多々行われましたが、すべてが失敗に終わりました。

     今回失敗に終わったプロジェクトはその中でも最も時間がかかったプロジェクトです。人口子宮で育てた新生児が20歳を迎えるまで人工培養装置の中で眠らせ続け、そして目覚めさせた後に教育する実験は、元々予測されたように失敗に終わりました。受けるべき刺激も教育も何も経験しなかった彼らは、目覚めてから教育を受けても知能指数があまりに低く――社会の構成員、すなわち労働力とするのは不可能でした。

     失意のデリングは執務室の奥、仮眠室へ向かいます。そこにはミオリネが眠っていました。30年の月日を経ても、その容姿はまったく変わりがありません。本来ならばミオリネもまた「箱舟」で眠っていなければいけませんでしたが、デリングの人類存続プロジェクトの総括という立場を利用して強権を発動しました。

     眠る娘のひんやりした頬を一撫でして、デリングは小さなデスクへ向かいます。そこには録画機器がずっと鎮座していました。デリングはそれを操作して、その前の椅子に座ります。遥か未来に置き去りにする娘へのメッセージを残すために。


  • 9◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 14:17:47

    また別の、とある男親の話(2)


    「……」

     遺すべき言葉は幾らでもあります。プロジェクトの進捗状況から導き出される結論、ミオリネが目覚める頃の人類の状況、デリングが個人的に残せる資産、そしてそれらを利用して彼女のなすべきこと。どれから話そうか躊躇って、デリングは重い口を開きました。

    「ミオリネ」

     デリングは娘の名を呼びます。

    「ミオリネ」

     応えはあるはずもありません。

    「ミオリネ……ッ!」

     ポタポタとスラックスの上に水滴が染みていきます。

     デリングはミオリネを愛していました。本当です。

     デリングはミオリネのためなら死んでもいいと思っていました。本当に、本当です。

     ――だけど。

     デリングはミオリネに寄り添ってはあげませんでした。言い訳は幾らでもあります。でももう何の意味もありません。


    (こんなことになると、わかっていたのなら)


     後悔は数えきれないほどデリングを苛みます。だけどもう何もかも無意味です。ミオリネの未来はもうまったくデリングの手の届かないところに取り上げられてしまいました。娘のために今デリングができることは、彼女が少しでも生きやすい未来を準備することだけです。

     小一時間ほどしてから、デリングは録画装置から今のデータを消しました。30年間ずっと試しているけれど、彼は今日も何のメッセージも残せませんでした。


  • 10◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 14:18:43

    以上!

    プロスペラの話を書くといったな。あれは嘘だ。
    デリングはデリングでめちゃめちゃ頑張ってるよ。

  • 11二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 15:01:25

    なんとかできたZE!



    とある女親の話(4)


    「良いのだな?」

    「ええ、お願いしますわ」


     デリングと話し合った結果、エアリアルは遺されることになりました。発足したばかりの人類存続プロジェクト――スレッタがいつか眠る予定の「箱舟」で、何年も何年もエリーは一人で待つことになるのです。


    「エリー、今までなんか比べ物にならないくらい、凄く寂しい思いをさせるわ。ごめんなさい」


     機体や部品の損耗を最小限にするため、優美さを感じさせる機体が何重にもパッキングされ、空気を全て抜かれます。エアリアルの真空パックの出来上がりです。


    「交換部品もすぐに作成できるよう、データを残しておいた。お前の娘にも権利は遺しておく」

    「ありがとうございます」


     コンテナに詰め込まれていく娘を見送って、プロスペラは目を伏せました。


    「おやすみなさい、エリー。スレッタによろしくね」


  • 12二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 15:01:57

    とある女親の話(5)


     初めての冷凍睡眠から目覚めて数日後、必要な検査を終えてようやく十分な自由時間を得たヴィムはプロスペラとサリウスからメッセージが届いていたことを知りました。


    「何の用だアイツらは全く」


     ――サリウスからのメッセージは、彼がグラスレー名義で、或いは個人名義で寄付した資産の内容、その優先使用権をヴィムにも割り当てたということ。最後に、シャディクを頼むという内容でした。

     ――プロスペラからのメッセージは、彼女が実はヴァナディース機関の生き残りであること、デリングと手を組んでいろいろ企んでいたけどこの騒動であきらめたこと、エアリアルが今は亡き娘の生体コードを取り込んでいてパーメットスコアが上がれば娘と交信できるとそうプロスペラは信じていること、エアリアルのパーメットスコアはスレッタにしか上げられないこと、そしてエアリアルをスレッタのために遺すことでした。


    『どうか、スレッタをよろしくお願いしますわ。ご子息とも親しくさせてもらっているようですし』


     そう頭を下げた素顔のプロスペラは娘にどこか似ている美人でした。ヴィムは美人には昔痛い目に遭わされたのでとても苦手です。

     情報量の多すぎるメッセージに頭を抱え、ヴィムは、二人がもうこの世にいないことを知りました。


    「どいつもこいつも俺にばっかり後始末させおって」


     ぶつぶつと文句を言いながら、ヴィムは立ち上がりました。どうしても、直接グエルとラウダの顔を見たくなったのです。

     変わらない寝顔に安堵し、失望し――そして、その日、ヴィムは時間の許す限りずっと息子たちのそばに座っていました。


  • 13◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 15:03:07

    一旦休憩!
    感想も質問も好きに書くが良い
    スレ主は簡単に調子に乗るぞ!

  • 14二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 15:08:07

    一旦乙~

    親視点は苦しいな……


    >ヴィムは美人には昔痛い目に遭わされたのでとても苦手です。

    いや草

  • 15◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 15:31:08

    再開~

    このまま書き溜め終わるまでガンガン行こうぜ!!!


    -------------------------


    とある男親の話(2)


    「ようこそ、ミスタ・ジェターク。講師を務めますジョン・スミスです」

    「ああ、よろしく頼む」


     CEOを辞めて数日。ヴィムは一人の生徒として学習プログラムを受けていました。

     畑違いの分野ではありますが熱意はあります。若いころに比べて学習の進度が低く癇癪を起すこともありましたが、まあそれはご愛敬。

     講義の合間に、ふとヴィムはまだ若い講師に尋ねました。


    「お前は眠らんのか?」

    「ウチは子どもがいないので」


     講師は静かに答えました。


    「少しでも技術者の増加と、技術の発展に寄与しますよ」

    「そうか」


     ヴィムはじっと画面から目を離さないままつぶやきました。


    「――俺の息子たちを頼むぞ」

    「ええ、勿論」


  • 16◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 15:32:09

    とある男親の話(3)


     そんなこともあったな、とヴィムは半覚醒の意識で思い返します。体中に違和感はありますが、今度も眠りから目を覚ましました。3日間のメディカルチェックは オールグリーン。そして彼の約一か月の勤務が始まりました。もはやヴィムはジェタークCEOではありません。ただのヴィム。ただの一人の技術者でした。

     向かった勤務地で彼のバディとなる30半ばの男が待っていました。

    「ジェームズです。よろしくお願いします」

    「おう、俺はヴィムだ」

     休憩時間、ヴィムはグエルとラウダの寝顔を端末に映しました。二人とも変わりなく安らかで――微動だにしません。

    「――それ、息子さん?」

     ジェームズは問いました。

    「おお、自慢の息子たちだ。お前も子どもが寝てるのか?」

    「――いや、俺は嫁さんが」

     そう言って、ジェームズが端末に映したのはうら若い女性でした。

    「学生結婚でさ、俺の方が2か月誕生日早くって」

     愛しげに指があごのラインをなぞります。

    「俺バカだから、必要な資格とれるまでこんなにかかっちゃってさ」

     じわりと涙の滲み始めた声に、ヴィムは目を逸らしました。

    「リサ、アイツ俺のことわかってくれるかな? こんなおっさんになった俺でも。……また夫婦でいてくれるかな?」

     ――誰もかれもが、誰かを失っていました。そうして取り戻したくて、こうしてあがいていました

    「とにかく向こうが目を覚まさんと答えはわからんだろう。……俺たちにできるのは仕事して、生きることだけだ」

    「――そうっすね」

     ぐず、とジェームズは鼻を鳴らします。丁度休憩の終わりだったので、二人は仕事に戻りました。子どもたちを守る、箱舟の整備に。


     割と気難しいヴィムですが、ジェームズとは案外仲良くなれました。

     10年眠って、3日の検診、約1か月の勤務。そして再度3日間の検診の後、また眠る。その繰り返し。ヴィムのバディは決まってジェームズでした。


  • 17◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 15:33:31

    3まん6せん5ひゃくと、2じゅう4どめのあさをこえて


     子どもたちが眠りに就いて100年目の年、箱舟は朗報にわきました。目覚めたばかりのヴィムも、数時間先に起きたジェームズからその知らせを聞きました。


    「――呪いがかからなくなった?」

    「ああ! これで人類は救われる!」


     呪いの有無を確かめるために実験的に一年に一人と決めて人口子宮から産み落とされた赤ん坊。今年生まれたその子は産声を上げ、泣き、眠り――そし翌日も、同じように大声で泣いて目を覚ましたのです!

     それが偶然ではないことを証明するため、研究チームは急ピッチで冷凍受精卵から何人もの赤ん坊を誕生させました。その子どもたちも皆、同じように眠りの呪いに落ちることなく目覚めを繰り返しました。


     人類は滅亡の危機を脱出できたのです!


     勿論、大人の数はすっかり減ってしまっていますし、平均年齢も30を超えています。自然出産だけでは人口を維持することは難しいでしょう。勿論そんなことは箱舟ができた時からわかっていました。冷凍保存された沢山の受精卵子・卵子・精子、そして眠る子どもたちのクローン――リプリチャイルドの元細胞。道理を捻じ曲げてでも人類の命脈を繋ぐために、箱舟に遺されていた遺産の一つ。それを惜しみなく使うことを、箱舟の上層部は決めました。

     法に阻まれて自分の子を持てない若い夫婦も、実は箱舟の優先枠に入っていました。彼らの使命は2つです。

     一つ、呪いの溶けた後で親を失った子供たちの養い親になること。

     一つ、呪いがかからなくなった後に実子を持つ、または人工的に生み出された子どもたちの養い親になること。

     呪いが溶けたと知った時点で、大半の若夫婦は後者を選びました。


    「とはいっても、そうそう状況は変わらんぞ。育てるにも人が要るし、食料にも限りがあるんだからな」

    「まぁ、それもそうか」


     興奮を落ち着けたジェームズは、画面に映る妻の寝顔をじっと見つめます。


    「呪いが解けるのも、もうじきなのかな?」

    「――さて、どうだろうな」


     ヴィムもまた、子どもたちの寝顔を見つめます。時間が許す限り、ずっと。

     眠る子どもたちのバイタルサイン、計器の示す値は100年経っても殆ど変わらないままでした。


  • 18◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 15:36:58

     それからヴィムが3度眠って目覚めた頃から、箱舟の中を走り回る子どもが増えました。


    「おい廊下を走るな!危ないだろう!」

    「ごめんなさーい!」

    「まったく、躾がなっとらん!」



     ぷりぷり怒りながらも、ヴィムだって嬉しそうです。みんなみんな、大人たちは子どもたちを愛して見守っていました。長じて彼らは箱庭周辺の土地で都市再建プログラムに従事することになるでしょう。――何せ、箱舟の外にはもう文字通り人っ子一人いないのです。人類の生存圏を取り戻すことは、この先の未来のために必要不可欠でした。森に呑み込まれた都市、河川や土砂の下に沈んだ都市、獣たちの楽園となった村々、隕石を撃墜し損ねて大破したコロニーも少なくないのです。


     そこから更に20を超える回数の眠りと覚醒を繰り返したある日、ジェームズはヴィムに真剣な顔で言いました。


    「――おっさん、俺、もう眠らないことにしたよ」


     いつの間にか結婚指輪を外した彼が、休憩時間中に知り合った女性と親しくなったことをヴィムは知っていました。

     15年と、数十か月。――長いか短いかの判断は人によって異なるでしょう。人が寂しさに耐えきれなくなるには十分だと、そうヴィムは思いました。まして、ジェームズはかつて彼の妻リサが愛したその時から随分年を取ってしまいました。――もし、待って待って、そして目覚めた妻に拒絶されたら。そんな臆病風に吹かされたとしても、誰にも責められません。彼のかつての妻以外には誰にも。

  • 19◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 15:38:17

    「俺の代わりに、リサにごめんって伝えて欲しい」

    「おう、最低の浮気者だって伝えてやる」

    「ひでー」


     わざと軽口を叩いて、ヴィムは少し大きな溜息を吐きました。

     かつて彼とMSのシェアを争っていた者たちはもう殆どいません。デリングもサリウスも、ペイル社の4老女も、プロスペラだって、みなとっくの昔に逝ってしまいました。もちろん、知人の何割かはどこかの箱舟に乗っているのはわかっています。それでも少しばかりしんみりした気持ちでヴィムは愚痴りました。


    「まったくどいつもこいつもどうして俺に頼むんだ」

    「だっておっさんしぶとそうだし、執念深そうだし」

    「根気強いと言え!」

    「あはは」


     笑い終わったジェームズが目の端を拭ったのを、ヴィムは見て見ぬふりをしました。


    「おっさん、息子さんらと仲良くな」


     フン!とヴィムは鼻を鳴らしました。


    「言われるまでもないわ」


  • 20二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 15:39:34

    このレスは削除されています

  • 21◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 15:41:20

     次にヴィムが起きた時、ジェームズが妻子を連れて会いに来ました。

     談話室でもきゃあきゃあと沢山の子どもたちが声を上げて笑っています。


    「随分子どもが増えたな」

    「待ちきれなくてリプリチャイルドを作る親も多いから」


     10年足らずのうちに髪に白いものを増やしたジ数ェームズが、小さい子どもを抱えて言いました。

     眠れる我が子を見守っていた親もまた、何割かはもう眠らないことを選びました。子どもの目覚めを待つのではなく、そのリプリチャイルドを育てることを選んだのです。

     彼らの選択をどうして責めることができるでしょう。いつか、いつかと明けない夜を数えて――いつまで、いつまでと待ち続けるのはとっても苦しいのです。ヴィムだってそんなこと、身をもって知っています。彼らを非難できるのは、勝手に諦められた子どもたちだけです。


    「歳食った親だと眠るリスクも高いからなぁ」


     何気ないジェームズの言葉に、ヴィムは少し表情を硬くしました。彼の眠る期間は少しづつ短く、起きている時間は少しづつ長くなっています。それは冷凍睡眠のリスクを減らすために必要なことでした。それでも、眠るたびに表示される覚醒率はコンマ数%づつ低下しているのです。最初は千人に一人だった永眠者が、千人に二人になり、三人になり――それが自分でない保証など、どこにもないのですから。


     希望で満たされた箱舟で、しかし親たちはずっと不安と戦っています。


    (本当に、私たちは間に合うのか?)


     ――その答えはまだ誰にもわかりませんでした。


  • 22◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 16:03:59

    ウェイカーの台頭


     それから幾度目かの目覚めのころ――すっかりヴィムの歳を追い抜いたジェームズの訃報を聞き、彼の初孫が成人した頃、ヴィムは箱舟内の空気がギクシャクしていることに気付きました。

     冷凍睡眠を繰り返す親たち――箱舟の守り人たちと、彼らよりもずっと数を増した眠らない人々――かつて生まれた子どもたちの子孫の間に、緊張が走っていました。

     主に、箱庭の遺産――貴重な資源を巡って、ウェイカーと、そう名乗った眠らない人々と守り人たちは対立していました。


    「交渉だと? 俺がか?」

    「はい、かつての総括デリング・レンブランから、こういった際にはヴィム・ジェタークが交渉にあたるようにと指示が残されています」

    「あの独断独裁野郎……」


     悪態を吐きながらしぶしぶヴィムは立ち上がりました。この箱舟内で眠る人員はヴィムもある程度把握しています。確かに交渉事はヴィムが担当するのが妥当でしょう。

     と、いうよりデリングはヴィムに丸投げするつもりで人員を調整したに違いありません。

     

    「あの、あなたが目覚めるまで5年間交渉を棚上げされていたのであちら側は相当お怒りです」

    「おのれデリング!!!」


  • 23◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 16:08:15

     交渉の席でヴィムは相手を睨みつけました。

     ウェイカー達の主張はシンプルです。箱舟の遺産を全て明け渡すこと。勿論、後々使用料を払う条件で。


    「――どうしても譲らんと?」

    「ああ、悪いがね」


     にやにやとウェイカーの代表は笑います。ヴィムは大きく溜息を吐いて、憮然とした表情で告げました。


    「ならば仕方あるまい。――保護者として、グエル・ジェタークおよびラウダ・ニールの夢見放送の公開差し止めを請求する」

    「は?」


     ウェイカーの代表はぽかん、と口を開けました。

     夢見放送――文字通り、眠れる子どもたちが見る夢の映像です。いつでも、自由に、誰の夢でも見られる夢見放送は、実現して以来大人たちに大人気で――まだまだ娯楽産業を発展させるには余裕のないウェイカーたちにも、数少ない娯楽として浸透していました。

     ええ、グエル・ジェタークは中でも大人気コンテンツでした。もともとベネリットグループの上層部の子どもたちはスペーシアンに注目を受けていました。ジェターク関係者は特にグエルの様子を気にしていました。そしてみんな彼の恋心を知って乙女のように悲鳴を上げました。


    『甘酸っぱーーーい!!!!』


     ……ヴィムが気付いた時にはもう手遅れでした。勿論、子どもたちを見世物にしたくない保護者には、子どもの夢見放送の公開差し止め請求が可能です。でもヴィムがそうするにはグエル・ジェタークの恋模様にはスペーシアンのみならず、アーシアンにも多数の熱狂的なファンが付いていました。

     当時、人類存続プロジェクトの総括であったデリングはサクッとヴィムの公開差し止め要求を撥ねつけました。「暴動が起きかねない」というのが理由でした。ヴィムはその時初めて我が子のカリスマ性を恨みました。


  • 24◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 16:08:43

    「は、グエル・ジェタークの保護者ァ!? なんで公開差し止めなんて」

    「俺の息子たちを含めた子どものための資産を掻っ攫おうとする連中に、俺の息子たちを見世物にして楽しませるつもりはない」


     ヴィムの主張は当然と言えば当然のことでした。


    「何もすべての資産に手を付けるなと言ってるわけじゃない。妥協点は幾らでもある」


     ニヤリ、とヴィムは笑いました。その姿には貫禄が備わっていて、ウェイカーの代表は気圧されてしまいました。


    「さて、交渉を始めようか」


     ……ええ、いくらウェイカー達がみんな素晴らしい教育プログラムを受けた高い知能のエリートとはいっても、彼らの社会はいまだ復活途上なのです。大人たちによってたかって大事に大事に守り抜かれて育った彼らが、生まれてこの方ずっと生き馬の目を抜く競争社会を生き抜いてきた海千山千の経験を持つヴィムに勝てようはずもありません。

     ヴィムはしっかり守り抜くべきを守り抜き、そして明け渡すべきを明け渡しました。


    「使われ広められてなんぼの資産もあるからな」


     その仕分けをしたのがデリングなのは気に入りませんが、今更言っても仕方のないことです。誰しも役割があって――デリングはそれを全うしたのですから。

     そうして、子どもたちが眠り続ける間、不平不満の種は燻れど、人類はゆっくりとその繁栄を取り戻していきました。


  • 25◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 16:13:08

    書き溜めここまで!
    続きはしばらく待たれよ

    この話の主役っていつの間にかヴィムになったんですよ……!

  • 26二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 16:39:33

    一旦乙です!

    親の中で一番しぶといのは間違いなくヴィムだしね……

  • 27◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 17:26:22

    なんかもっと書くべきことはある気もするけどひとまず完結するぞオラァァン!!!


    よあけまえがいちばんくらい


     その年、目覚めたヴィムの耳に朗報が飛び込んできました。


    「聞きましたか!? 子どもたちのバイタル値が変化したんです……! もうすぐ、目が覚めるって!」

    「なんだと!?」


     ヴィムのもとにジェームズの沢山いる子孫、律儀にヴィムに毎度顔を見せに来る一族の者たちが顔を見せました。その顔はみんな朗らかな笑顔を浮かべていました。


    「良かったなヴィムのおっさん! もうすぐアンタの息子も目を覚ますってさ。正確な時期はまだわからないけど、3回も寝て起きたら確実だって!」


     口々に降ってくる祝福の中で、ヴィムは宣言しました。


    「俺はもう眠らん!」

    「は?」

    「あいつらが目を覚ますのをこのまま待つ!」

    「はぁ!?」


     ヴィムは固く唇を引き結んでいました。

    (あっこれ面倒くさい奴だ)

     ジェームズの子孫たちは悟りました。


    「ちょ、落ち着けっておっさん。下手すっと30年だぞ!? 起きて迎えられるかどうかわかんないって」

    「ええいうるさい!」


     なだめる一家の家長を振り払い、ヴィムは唸ります。


  • 28◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 17:30:12

    「今度眠ったら、今度こそ目が覚めないかもしれないんだぞ……アイツらが目を覚ますのに、俺は間に合わないかもしれないんだぞ!?」

    「大丈夫、間に合うよ!」


     一家の末っ子が声を上げました。彼は引き取った頃のラウダより少し小さいぐらいの歳でした。


    「俺知ってるよ!ヴィムのおっちゃんはずっとずっと待ってたんだもん。父さんが言ってたもん。だから絶対絶対間に合うよ!」


     まっすぐ自分を見る純粋な目に、ヴィムはふっと息を吐きました。


    「おっさん、気持ちはわかるけど今焦って無茶したら、それこそもう会えないかもしれないんだから」

    「ああ、そうだな。……すまん、息子たちに会いに行ってくる」


     よろよろと力なくヴィムは歩きます。愛する息子たちの元へ。

     

     ヴィムはこの起きている間中、いつもより多くの時間をガラスに包まれた息子たちのベッドのそばで過ごしました。

     縋るように、ずっとずっと、できる限りの時間を息子たちのそばで過ごしました。


     そして、それからヴィムは2回とそれといつもの半分の期間の眠りと目覚めを繰り返しました。


  • 29◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 17:39:44

    .
    .
    .
    そうして、3じゅう6まん5せんと、2ひゃく4じゅう2どめのあさがきて

  • 30◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 17:42:20

     長い、とても長い夜が明けました。子どもたちのバイタル値が通常に戻りました。ようやっと、待ちに待った目覚めの日です。


    「……?」


     目を開いたグエルは状況が理解できませんでした。昨夜はいつものように寮の部屋で眠ったはずです。なのに全く知らない天井が目に入ります。横を向けば自分と同じように不思議そうな顔をしたラウダと――そしてラウダとグエルのベッドの間には、老人がいました。

     瞬きを数回、グエルはもしやと思い至りました。


    「父さん……?」


     半ば半信半疑でグエルは呟きました。だってヴィムは、グエルの知る姿からすっかり様変わりしていたのです。

     ヴィムの豊かだった体つきはすっかり肉が落ちてしまいました。まっすぐ伸びていた腰も曲がって、草臥れた印象です。髪だって、すっかり白くなってしまいました。

     なにより、ヴィムはボロボロと泣いていたのです。。グエルとラウダが知る父は、こどもに涙を見せるような人ではありません。彼の涙を見たのは一回だけ――二人の母がそれぞれ去っていった時だけです。

     グエルはとても申し訳ない気持ちに襲われました。グエルには何が起きたのか全くわかりません。でも、何かが起きたことだけはわかります。それに自分が巻き込まれたのはわかります。――そして、ヴィムにとんでもない心労をかけたことも。


  • 31二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 17:50:25

    「とうさん、ごめんなさい。俺、なにか」

    「俺は……俺は、もう間に合わないかと」


     ――いいえ、ヴィムはグッと唇を引き結びます。そんな泣き言が言いたくて、ヴィムはこの日を待っていたわけではありません。

     すっかり骨ばった手を伸ばして、二人の息子たちを抱き締めました。


    「おはよう、グエル、ラウダ」

    「とうさん、おれ」

    「ぼく、ぼくは、とうさん」


     父のすっかり頼りなくなった腕の中で、兄弟もまた涙を零しました。沢山の親と、子どもたちが涙とともに再会しました。

     親を既に失った子どもたちは、また別室でウェイカーの医療従事者から説明を受けました。


     まだまだ人類には課題がたくさん残っています。

     昨日までとはすっかり変わってしまった今日に戸惑い、不安な子どもたち。知らないうちに愛する親を亡くしてしまった子どもたちだって沢山います。

     ウェイカーとの摩擦や、社会が急速に増えた人口を養いきれない可能性だってあります。



     でもきっと、大丈夫。

     だって人類は千年ぶりの朝を迎えることができたのですから。


     長い長い夜を乗り越えた人類に、どうか祝福のあらんことを。


  • 32◆xMNDkv7Lvwzu23/11/05(日) 17:53:14

    完結!

    まさかのラスト1レスでWiFiがホスト規制されてしまった……。
    つら……。

    目覚めた子どもたちの話も書きたいですね!
    それでは、また!

  • 33二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 18:10:21

    おつかれ!
    今回も楽しく、というかしんみり読ませてもらったよ
    優しい語り口でシビアな現実も淡々と語るのが好き
    良いものを読ませてもらった

  • 34二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 22:53:38

    お疲れ様でした!いやあSFでしたねえ

    ……さて、詳しく見せてもらおうか大人気コンテンツとやらを

  • 35二次元好きの匿名さん23/11/05(日) 23:27:13

    面白かったです!
    子ども達の夢の内容が気になりますw

  • 36◆xMNDkv7Lvwzu23/11/06(月) 06:35:39

    ありがとう…!
    規制解けるまでちょっと諸々投下は無理そうですね……。


    なんなら夢の中の子どもたちの様子はみんなが書いてくれてもええんやで

  • 37二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 17:56:03

    目覚めた子供達の後日談が気になる

  • 38二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 18:16:10

    大人気コンテンツが見たいので保守

  • 39二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 20:32:43

    ヴィムが最後まで残る側なの凄いな執念を感じるし解釈一致だ
    それで親子で感動の再会でしょ?最高じゃん

  • 40二次元好きの匿名さん23/11/06(月) 23:09:20

    お疲れ様です!見事なジェターク家大団円?に嬉しくなっちゃった…
    大人たちが頑張るお話良かったです!後半がほぼヴィムが主人公になってしまったのは笑ってしまいましたがwww でもしぶとくて生命力が高そうわかる……
    良いSSをありがとうございました!!

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