【SS】メジロマックイーンをつい抱きしめてしまうお話

11◆5zKzYAW6bI23/11/11(土) 02:33:11

　たしか、今日はマックイーンとソファに座って、テレビで野球観戦をしていたのだ。
　贔屓チームの勝利(マックイーンは「アレ」という要領を得ない言い方をしていたがよくわからない)に諸手を挙げて大はしゃぎする姿は、稀代の名ステイヤーの一面からは想像もつかないほど子供っぽい。背中越しに見つめながら、年頃の女の子なのだと再認識させられていた。
　普段は頼もしいその背中が、なんだか今日だけはとても小さく──守らなければならないものに見えて。
　気がついたら、両肩に腕を回し、ぎゅっと抱き寄せてしまっていたのだった。

　細い身体は、自分の腕の中にすっぽりと収まってしまった。まるで、最初からそうあるべきだったピースがぴったりと嵌まるように。
　この手に触れるワンピースもブラウスも、至福の触り心地だった。その下の肌も同じように滑らかなのだろうと思わせるほどに。
　その下にある、スレンダーの極地ともいうべき肢体は、存外にどこも柔らかい。彼女が大人へと進化する最中の乙女なのだと、否応にも意識させられた。
　そのさらに奥、彼女の身体の中心から湧き起こる熱が、腕を通して伝わってきた。少し高めの体温をもっと感じたくて、更に強く抱きしめる。
　意外と背が高いマックイーンの頭が、自分の顔の目の前にあった。最近変えたというコンディショナーの花のような香りに、柑橘類のような甘酸っぱい香りが混ざっている。抱く力を強めるたびに香りが増し、頭がくらくらするような感覚がした。

21◆5zKzYAW6bI23/11/11(土) 02:33:27

「……待って」
　口元だけで放つ、消え入るような声だったが、ゼロ距離の体勢で聞き逃すことは許されなかった。
　熱に浮かされていた脳味噌に、冷水を浴びせられた。目が泳ぐ。息が止まる。お前は一体何をしているのだと、理性が本能を責め立てる。慌てて腕を開き飛び退いたが、体の震えはなおも止まらない。
　マックイーンの顔を見られない。謝らなければ、そして一秒でも早くここからいなくならなければ、どうにかなってしまいそうだ。
「ご、ごめんっ！」
　謝罪の言葉もそこそこに、部屋を飛び出そうとした次の瞬間。
「……待って」
　片腕に力がかかる感触。袖の端をつままれたのだと気づいたのは、マックイーンの方を振り返ってからだった。
「待ってくださいまし……！」
　滑らかなキャンディボイスが、少しだけ震えていた。けれど怯えている声音ではない。何年も隣に立ち続けた経験がそう教えていた。
「ズルいですわ、トレーナーさんばかり」
「……ズ、ルい？」
「そうです！貴方の情熱的なところが見られて、これはこれで幸せな気持ちになりましたが、それでもズルいものはズルいですわ！」
　我がパートナーは、明らかにスネていた。少しだけ唇を尖らせて。
「私からも、貴方に手を伸ばしたいんですのに」
　マックイーンの手が頬に寄せられる。温かい手から熱が伝播するように、自分の顔も熱くなるのがわかる。
「私の気持ちがもっと伝わればと、いつも思っておりますのに」
　マックイーンの腕が首に回される。顔が至近距離へ迫る。
「ほら……ね？お互いに触れ合えるほうが、私は好きですわ」
　背中に腕を回すと、マックイーンは安心したように身を委ねてきた。鼻先が触れそうなほどに近づく。一心同体のパートナーには一瞬の遠慮すら無粋だと、眼前の微笑みが告げていた。
　マックイーンの息遣いを肌に感じる。きっと、自分の息も。
　どちらからともなく、ふたりでゆっくり目を閉じた。