- 1二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:44:48
「……! トレーナー、『まんまる』の“LITI”を“摂取”したい……!」
学園から電車で数時間ほど離れた街、俺達は最新のトレーニング器具が見られる展覧会へ来ていた。
そしてたまたま迷い込んで場所にあった出店に向けて、担当ウマ娘のネオユニヴァースはその蒼い瞳を輝かせる。
彼女の視線の先には『プレミアムまんまる焼き(レアチーズ味)』の文字。
確か、このお店の系列店が学園の近くにもあった気がする。
ここのまんまる焼きは基本はあんことクリーム、そしてプレミアムと称する期間限定の味を品揃えしていた。
俺も少し小腹が空いて来たし、久しぶりに食べてみるのもいいかな。
「了解、買って来るから少し待ってて」
「アファーマティブ、ネオユニヴァースはここで“待機”をしているよ」
ユニヴァースは待ち切れないと言わんばかりに尻尾を揺らしていた。
そんな様子を微笑ましく見ながら、俺は売店へと足を運ぶ。
幸い、その時間は周囲に人も少なく、大して並ぶことなく注文をすることが出来た。
「すいません、プレミアムまんまる焼きを二つください」
「はいかしまりまし……あっ、申し訳ありません、プレミアムは残り一つだけで……」
「あー……じゃあ一つだけください」
言ってからあんこかクリームを買えば良かったな、と後悔する。
まあ、そこまでお腹が空いているわけでもないから、ユニヴァースの分だけでいいか。
会計を済ませて、包みに入ったまんまる焼きを受け取る。
出来立て……というわけじゃないだろうか、とても温かくて、それだけで美味しそうな雰囲気を感じた。
これなら満足してくれるかなと、口角を上げながら金髪の少女の下へと戻る。 - 2二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:45:03
「お待たせネオ、はいこれ」
「ありがとう、だね……トレーナーの分の『まんまる』は?」
「一つしかなかったから、気にしないで食べちゃって良いよ」
「……ネガティブ、ネオユニヴァースは“味覚”を“共有”をしたい、“THRF”」
そう言うとユニヴァースはまんまる焼きを取り出して、ぱっくりと二つに割った。
立ち上る湯気と共に、濃厚なチーズの香りが食欲を刺激してくる。
そして、その片割れを俺に差し出して、彼女は微笑む。
「『半分こ』、しよ?」
俺達は二人、ベンチに腰かけて半分にしたまんまる焼きを頬張る。
チーズの酸味をしっかりと感じられる爽やかな味わい。
ふわふわで温かい生地も相まって、とても満足感のある逸品に仕上がっていた。
隣を見れば、ユニヴァースもあまり顔には出さないながらも、満足気に耳を動かしている。
────そういやこの子、良く食べ物を半分こしようとするよなあ。
急に、そんなことを思った。
一緒に食事をするときに、機会があれば半分こにしてこちらに渡そうとしてくる。
最初の頃は遠慮してたけど、受け入れた方が喜んでくれるので、気づけば自然に受け入れていた。
「『ごちそうさま』、とっても“FLG”、ネオユニヴァースは『満足』をしたよ」
「本当に美味しかったね、今度は他の味も食べてみようかな」
「その時はネオユニヴァースも“ランデブー”したい」
「うん……ところでさ、ユニヴァースは食べ物とか半分こするのが好きなの?」 - 3二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:45:16
満腹感からすぐ動く気にもなれず、俺はふと思いついた疑問をそのまま口にした。
ユニヴァースは少し意外そうな表情で耳をピンと立てると、少しだけ考えるように空を見る。
やがてこちらに向き直って、彼女は答えた。
「……“経験”による“共有”は、“言語”による“理解”より“EXES”だから」
「……なるほど」
ユニヴァースの答えは、ストンと心の中に落ちた。
彼女は明晰過ぎる頭脳故に、普通の会話が出来ず、他人とのコミュニケーションが難しいという欠点がある。
それに対して、同じ食ベ物を摂取するなどの経験の共有は、彼女にとってはより直接的で簡単なのだろう。
彼女らしいと思うと同時に────それは少し寂しい、と思ってしまった。
俺は立ち上がって、彼女に声をかける。
「よし、そろそろじっくり見て回ろうか」
「“UNDY”、トレーニングの新しい“IDE”、“観測”できるといいな」
「そのためにもさ、思いついたこと、全部伝えてね、今日の感想、その場でいっぱいお話しよう」
俺の言葉を聞いたユニヴァースは、目を見開いてこちらを見つめた。
そして、嬉しそうに目を細めて、ふにゃりと表情を柔らかくして、彼女は言葉を紡ぐ。
「……うん、いっぱいいっぱい“発信”をするよ、たくさんトレーナーと“CMIN”したい」 - 4二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:45:32
その後の、展覧会の見学はとても有意義なものとなった。
展示されている最新器具もさることながら、ユニヴァースの豊富な知識も一因である。
彼女の特別な視点から繰り出される疑問や新たな着眼点について話をしていると、それに興味を示したメーカーの人達が話しかけて来て、現役のウマ娘とトレーナーということも相まって内容が更に発展していき、今後のトレーニングに活かせそうな新たなアイディアが次々に湧き出してきた。
今日は本当に来て良かった、そう心から思える一日。
……ただ、ちょっとそれによって生まれた弊害もあって。
「トレーナー、“ART”なのかな? ネオユニヴァースには明らかな“過積載”に見えるよ」
「あはは……こっ、これくらいなんともないって……」
心配そうにこちらを見るユニヴァース。
俺の両手には、カタログやちょっとした試供品の入った紙袋が何個もぶら下がっている。
……こちらが現役で、かつ著名なウマ娘の陣営ということもあって、色んな物をメーカーの人から頂いた。
なまじお話して仲良くなったり、時間を取らせてしまった手前、断るのも難しい。
そのため、こんな大荷物になってしまったのである。
「……トレーナー」
ユニヴァースは静かに、俺のことを呼ぶと、その小さな手をこちらに向けて差し出した。
持ってくれる、ということなのだろう、しかし、今回の件はしっかりと断れなかった俺に非がある。
こちらのミスによる不都合を、担当に押し付けるのは、トレーナーとしての矜持が許せなかった。
心配ないよ、と伝えようとした時、先に彼女の言葉が、俺の鼓膜を揺らした。
「『半分こ』させて欲しいな、その“重力”は、今日のわたし達の“軌跡”だから」
そう告げるユニヴァースの目には、僅かながらの不満の色。
……確かに、この両手の重みは二人で過ごした結果なのだから、俺一人が抱えるのはずるいのかもしれない。
いつの間にか、少し意固地になっていたのかもしれない、そう考えて俺は表情を緩めた。
「……じゃあ、半分だけお願い」
「アファーマティブ、ふふっ、ネオユニヴァースは今日の“MERY”を“牽引”するよ」 - 5二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:45:45
とはいえ、この大荷物を持って、電車に乗って数時間揺れるのはちと厳しい。
幸い会場を出てすぐのところに郵便局があったため、荷物は学園の方に直接送ることとなった。
少しばかり名残惜しそうにユニヴァースは荷物を見つめていたけれど、仕方がない。
────だが、本当の問題は、ここからであった。
荷物の梱包などにそれなりの時間を要して、ようやく手続きを終わらせて。
じゃあ帰ろうと思い外を見ると、真っ暗になっていることに気づいた。
ずぶ濡れの慌てた様子で、郵便局に入ってくる数人。
まさか、と思い外を確認してみれば。
「……ビックバン」
「うっわ……なんだこの雨……」
まさしく滝のような、豪雨が降り注いでいた。
遠くからはごろごろと鳴り響く雷の音まで聞こえてきている。
……天気予報で雨なんて一切言ってなかったから、傘なんて持ってきていないな。
「まずいなあ、ユニヴァースは傘持ってる?」
「……“FOUM”なら」
そう言って、ネオは鞄から小さい折り畳み傘を取り出した。
……正直、このサイズだと凌げそうにないがないよりははるかにマシだとは思う。
スマホで改めて天気を確認すると、この雨は明日の朝までずっと降り続ける模様。
このまま郵便局にいるわけにもいかないだろう、そこで俺は一つの決断を下した。 - 6二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:46:20
「良し、このまま急いで駅まで行こう」
「……トレーナーの傘は“NOST”したのかな?」
「今日持ってくるの忘れちゃってね……まあ走ればなんとかなるから」
「ネガティブ、ネオユニヴァースの傘にトレーナーも“合流”した方が良い」
「……いや、その大きさだと二人も入れないでしょ」
「“NPRO”、こうやって『ぎゅー』と“コネクト”する」
ユニヴァースは俺に折りたたみ傘を手渡すと、そのまま腕に抱き着くように密着する。
ふわりと漂う柑橘系の香りと甘い匂い。
腕には柔らかな身体な感触が直接伝わって来て、思わず緊張が走ってしまう。
俺の腕に頬ずりするように顔を寄せながら、彼女は小さく囁いた。
「傘も『半分こ』するべきだよ、トレーナー」 - 7二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:46:39
結局、何を言ってもユニヴァースが離す気配がなかったため、そのまま行くこととなった。
しかしながら雨は時間を追う毎に勢いを増し、傘があったにもかかわらず、駅に着く頃には二人してずぶ濡れ。
コンビニでタオルを購入して、身体を拭いているうちに、改札口に人だかりが出来ていることに気づく。
耳を澄ませば、たくさんの人達の困惑の声が聞こえて来る。
凄まじく嫌な予感がしながらも、コンビニ近くにユニヴァースを待たせて、事情を聞きに行ってみれば。
「……ネオ、今日はもう電車動かないって」
「……“EMGY”、この“カオス”はもう“アンコントローラブル”だね」
「学園に報告、の前に泊まる場所を探した方か良いか……ユニヴァースは宿泊に必要なものを買ってきて」
俺はユニヴァースに財布を手渡すと、彼女はこくりと頷いてコンビニへと向かった。
スマホで周囲のビジネスホテルなどを手当たり次第調べてみるが、誰も考えることは同じのようで満員ばかり。
藁をも掴む思いで、いくつかのホテルに電話をかけてみて、幸運なことに何とか部屋を確保することが出来た。
出来た、のだが。
頭を悩ませていると、ユニヴァースがビニール袋を持って戻ってくる。
「お待たせトレーナー、“MICO”をしたよ」
「ああ、ありがとう……とりあえず、ホテルは確保出来たから向かおうか」
「……? アファーマティブ」
ユニヴァースは、俺の様子に何らかの違和感を読み取ったようだった。
まあ、とりあえず彼女を休めるところに連れて行くのが優先だろう。
その後のことは、それから考えれば良い。
俺は彼女と共に、予約したホテルへと向かうのであった。 - 8二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:46:56
そのホテルは駅から少し遠回りとすれば、殆ど濡れずに行ける位置にあった。
フロントで手続きを行ってカードキーを受け取り、それをユニヴァースに手渡す。
「じゃあ、明日の六時に迎えにくるから。学園と寮には俺から連絡しておくよ」
「……トレーナーはここに“着陸”しないのかな?」
「あはは、実は一部屋しか確保できなくて……」
そう、キャンセルで空いた部屋にギリギリ滑り込んだだけなので、ユニヴァースの分だけしか確保出来なかった。
これから別のホテルの確保は難しいだろうから、ネットカフェ辺りと回ることになるだろう。
……調べてみた感じ、ちょっと駅から遠いんだよなあ。
「俺の方は心配しなくて良いからさ、ゆっくり休んでよ」
俺は笑顔を作って、ユニヴァースに背を向ける。
そしてホテルから出ようとすると、くいっと、服を引っ張られた。
振り返ってみれば、彼女が少し恥ずかしそうに俯いて、俺の服の裾を掴んでいる。
「……ネオユニヴァースは、『孤独』を“DENY”したい」
そう言いながら、ユニヴァースは顔を上げた。
耳は忙しなく動き回り、蒼い瞳は潤みを持ちながらじっとこちらを射抜く。
彼女は寂しそうな表情を浮かべて、声を震わせながら、不安を口にした。
「だから……部屋を『半分こ』、して欲しいな」
しても良い、だったら断ることが出来ただろう。
けれど、懇願するような顔で、して欲しいと告げられたら、断ることが出来ない。
俺は心の中で諦めのため息をついて、フロントへと足を運んだ。 - 9二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:47:11
「シャワーも『半分こ』」
「ダメです」
それは流石に断固拒否である。
ユニヴァースも無理があると判断したのか、不満そうにはしていたがあっさりと引き下がった。
彼女がシャワーを浴びている間、たづなさんと栗東寮に連絡を入れる。
かなり悩んだが、たづなさんには不可抗力で同じ部屋に泊まることになったことも、正直に伝えた。
なお返って来た答えは『そうですか、じゃあ明日は気を付けて帰って来てくださいね』だった。
……色々と思うところはあるが、信用されているのだと考えることにする。
「トレーナー、ネオユニヴァースは『ほかほか』になったよ」
しっとりと髪を湿らせたユニヴァースが、ホテル備え付けのパジャマに身を包んで現れた。
顔は上気していて、十分に温まることが出来たと察することが出来る。
元気そうだし、とりあえず風邪を引くことはなさそうで良かった。
「じゃあ俺もシャワー浴びさせてもらうよ、ご飯は先に食べてて良いからね」
「うん、“待機”をしている、トレーナーは“SLLY”で」
「……わかった」
コンビニで購入したお弁当をじっと見つめながら、ユニヴァースは尻尾を揺らしている。
……出来るだけ早く出てあげることにしよう、そう心に誓った。 - 10二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:47:29
シャワーを浴びて、食事を摂って。
明日は早めに帰らなければいけないので、今日はもう就寝することとなった。
案の定ユニヴァースは「ベッドを『半分こ』」と主張してきたものの、それも拒否。
説得には多少骨が折れたものの、何とか納得してベッドに入ってくれた。
有難いことにフロントからは毛布を追加で借りられたので、床でもそれほど寝心地は悪くない。
外から聞こえる雨音は、まだまだ激しい。
いまいち眠りにつけないが、彼女を起こしたくもないので、ただじっと目を瞑り続ける。
ふと、背後ががさごそと騒がしくなる。
やがてそれは足音に変わって、そしてゆっくりと身体を横にするような物音がした。
背中には人の気配と、小さな呼吸の音。
俺は、大きくため息をついた。
「……ネオ、ベッドで寝なさい」
「ネガティブ、こっちの方が“安定”を“獲得”出来そうだから」
「…………じゃあ、俺がベッドに────うわっ!」
突然、背後から拘束するように手足が伸びて来て、声を上げてしまう。
ユニヴァースは後ろから抱き着くような形で腕を回し、足を絡ませてきた。
お互いの毛布を挟んでなお、彼女の華奢ながら女性らしい感触と温かい体温、石鹸の匂いが伝わってくる。
そして、彼女は俺の耳元で、小さく囁いた。
「今日は“流星雨”が“デブリクラウド”になって、“EXAL”の意思を感じないんだ」
「……別の宇宙が、全く見えないってこと」
「アファーマティブ、“交信”が“断絶”されていて、どこか『寂しい』をしているよ」 - 11二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:47:49
少しだけ沈んだ声で、ユニヴァースはそう語った。
彼女は、今生きている宇宙とは別次元の宇宙を観測することが出来る。
それは彼女と他人との距離を離れさせてしまう一因ではあったが、支えの一つでもあったのだろう。
豪雨が降り始めてから妙にくっついたり、離れるのを嫌がったのがそれが原因か。
……とすれば、少し悪いことをしてしまったかもしれない。
そう考えていた矢先、彼女から思わぬ言葉が飛び込んできた。
「でも、とっても大きなスフィーラを感じることもある」
「……そうなのか?」
「確かに今日は“わたし”から他のネオユニヴァースを“観測”出来ない」
「ああ」
「そして、他のネオユニヴァースからも“わたし”を観測することは出来ない、つまり」
言葉を続けるごとに、声の調子を上げていくユニヴァースは、抱き締める力を強くした。
彼女から感じる感触、体温、匂い、全てがより強く感じられて、心臓が高鳴ってしまう。
そのことに気づいているのかいないのか、彼女は嬉しそうに笑いながら告げる。
「えへへ、今日は“わたし”が“あなた”を『独り占め』、だね?」 - 12二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 09:48:26
- 13二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 10:45:00
とっても素敵なお話に"IMPS"……『感動』したよ
この後二人は"MKLV"…『通じ合う』をするのかな。 - 14二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 11:04:47
独占力ヨシ!
ユニヴァースがようやく見つけられた新たな宇宙なんだから存分に甘えちゃうよなぁ - 15二次元好きの匿名さん23/11/14(火) 13:22:50
状況説明が簡潔でわかりやすい。地の文と会話文のバランスも良い。
凝った表現は無いが、読んでいて突っかかる箇所が無く、何度も推敲したのがわかる。 - 16123/11/14(火) 19:21:12