- 1二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 17:55:10
私に自由はなかった。
生まれた時からそうだった、理由は単純明快、『美しい』からだ。
他人から見て素晴らしい美しさを持っているらしい私は、物心着いた時には檻の中だった。
おそらく元の親とは物心着く前に引き離されたのだと思う、私の目の前にいたのは若い実業家の男だった。
男は私の事を見つめ続けて私を褒めちぎりながら、私の欲しいものはなんでも買っては大切にしてくれた。
彼はとにかく私を褒めそやした。特にまるで太陽を思わせるような金色の目と澄んだ声がいいらしい、正直顔に関しては自分のを見たことはないのでよく分からないが。
そのおかげ……と言うべきなのかこれまで大した苦労もなく生きてくることが出来た。正直命があり欲しいものが手に入るのならこんな状況でも私は悪くないとさえ思っていた、今にして思えば諦観だったのかもしれないが。
とはいえその男はある時死んでしまった。どうも仕事に失敗したらしく金がなくなり私を手放す事になるくらいならと命を絶ったらしい。
そこから私は競売にかけられ、様々な人に買われた。ある時は物好きな一人ぼっちの老婆に、ある時は私を物珍しそうに見るマフィアの一人息子に、またある時はよく分からない宗教家だったり。
どこも私の事を家に閉じ込めながらも大切に扱ってはくれていたが、皆寿命だったり病気だったりで死んでしまい私は数年間色々な場所を転々とした。
そんな折、私の5人目の主人であった男が急死した、死因はよく分かっていない。
その主人は人付き合いを好まず、家族ともほぼ絶縁状態であった。
そんな状態なものだから、そもそも私という存在がこの家にいると知っている人間はほとんどいなかった。
結局主人の死から数日後、この家に主人が生前ごく稀に関係を持っていた女性が訪れ、私を見つけてくれた。
こうして私は異国の地、日本の藤丸家へと引き取られることになったのだ。 - 2二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 17:57:19
これはゴッフにカルボナーラでトロトロになる流れ・・・?
- 3二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 17:57:32
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- 4二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 17:58:24
藤丸家では檻に入ることはなかった。代わりに名前を貰い、外にも出るようになった。
家族のみんなはただ『気をつけて帰ってきてね』とだけ言われた。それが何故か心地よかった。
これまで生きてくる中で檻の中の世界しか知らなかった私に一つ一つ外の事を教えてくれながら一緒に外へ行ってくれる藤丸家。
決して今までのように裕福に、という訳ではなかったけれど私はこの生活が好きだった。
檻の中で大切に守られながらただ生きるのでなく、自らの足で進みながら生きる。
好きでも嫌いでもない主人たちに愛でられながら不自由以外の全てを好きに享受する。そんな歪な幸せから、私はようやく解き放たれたのだ。 - 5二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 17:59:03
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- 6二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 17:59:19
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- 7二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 17:59:29
でもある時突然、その生活も終わりを告げる。
攫われたのだ、外に出ている時に。
連れてこられた先は『カルデア』というらしい。
白い謎の獣、帽子を被った嫌な感じのする男、終いには今までのと温度の違いから眠くなって寝ている所を甲高い声で叩き起してくる女性。
正直突然攫われ帰れなくなってしまった事もあり今までの場所と比べ印象も気分も最悪、しかし揉め事を起こす訳にもいかず私達は大人しくしていることにした。 - 8二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:01:46
それからは苦難の連続だった。
カルデアという未知の場所でサーヴァントという未知の存在と共に様々な未知の時代や国に行き未知の人々や世界を救う……私にはどうにも窮屈で仕方がなかった。
何度も逃げて家に帰ろうと思ったが、この建物の外はもはや何もないらしい。
巫山戯るな、こんな檻があってたまるか。
檻、そう檻だ。ここは正しく檻だった。今までの様な平和を享受してくれる檻ではない、文字通り逃がさないための檻、私にはそうとしか思えなかった。
様々な場所に行くとはいえ、そこに行く目的は結局のところ同じ。そんなものは自由とは言わない。
私達が跳んでいくのは、竜飛び交う場所、海に囲まれた場所、霧に包まれた場所、終いには人間を閉じ込め永遠に保管する場所まであった。
そしてその全ての空に、まるで世界を閉じ込めるかのような光の輪があった。
だからこそ私は、その世界がどうしようもなく閉じたものに思えてしまったのだ。 - 9二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:03:54
私は何度も何度も隣にいる彼女に訴えた。『もう逃げてしまおう、もう諦めてしまおう』と。
この場所で唯一の救いである彼女、彼女が傷ついてしまうのが嫌で嫌で、私はただナいたのだ。
それでも彼女は、その首を終ぞ縦に振ることはなかった。
何故か?彼女は知っていた、否、私も心の何処かで気づいていたのだ。
今逃げても、今諦めても、何も変わらない。昔の私のような、ただ檻の中で守られるだけの存在になってしまうのだと。
これは彼女がしなければならない事、昔の私のように檻に閉じこもったままでは、いられないのだ。 - 10二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:06:26
私は腹を括り、『彼女』と共に進むことにした。
そうしているうち、私はこのカルデアに檻とは別の感情を抱くようになっていった。
知らないサーヴァント達を知っていくうちに人との関わりを覚え、彼らを心強い仲間だと思えるようになった。
知らない場所で過ごすうちに、その場所に込められた想いを受け取り、その尊さに気づけるようになっていた。
世界を知るうちに、そこで生きる人々を、世界を救いたいと、思えるようになっていた。
未知が既知に、恐怖が喜びに変わっていく。『私』という存在が前に進めていける、そんなふうに思えた。
カルデアはまさしく、私にとって『道』だったのだ。
そして遂に、旅の終わりが訪れた。
『彼女』が、世界を救ったのだ。 - 11二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:08:51
見てるよー
- 12二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:11:20
世界を救った後、私達はカルデアの外へ出てみることになった。
胡散臭くも私を気遣ってくれていた医者ロマニ、随分と雰囲気の変わってしまった白い獣フォウ、他にも失ったものは多く、私も決して幸福な気持ちという訳ではなかった。
しかし私はこの旅を通して知っている。彼らは寂しい追悼など望んではいない、私達は私達が救ったこの世界に、晴れやかな気持ちで踏み込むべきなのだ。
それがきっと、彼らの望む事。
『彼女』と彼女のパートナーと共に、私は外へ出る。 - 13二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:15:22
───────────。
それは群青だった、白嶺だった、ヒカリだった。空に浮かぶ光輪は既になく、私達が今見ているソレはまさしく、ソラだったのだ。
私は思わず『飛んだ』、ソラに手を伸ばすように。
あのソラへ、あのソラへ。
そうしてふと、下を見やった。
────そこにはただ、自由があった。
そして私の中にひとつの欲が生まれた。
私は『彼女』の元へ戻るとただ一言『行ってくる』とだけ伝えた。
正直伝わるか不安だったが、『彼女』はまるで分かっていたように『気をつけて、帰ってくるんだよ?』と言ってくれた。
それは大丈夫、その約束だけは……絶対に守るとも。
そうして私は再び飛んだ、今度は振り返る事無く。
私の中にある『世界を見る』という願望を果たすために。
まぁ1年後くらいには顔を見せに来よう、大切な家族との約束だ。
今はただ、ソラへ。 - 14二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:18:13
photolibrary(迫真)
- 15二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:19:40
面白かった いい文章
語り手は藤丸立香かと思ってたけど、違ったってオチで合っているかな? - 16二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:21:12
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- 17二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 18:38:28
- 18二次元好きの匿名さん22/01/03(月) 21:40:34
最後の最後に語り手の正体がわかるやつ好きです
面白かった!