- 1二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 20:00:24
- 2123/11/17(金) 20:01:05
⚡「たったこれだけの文章書くのにこんなに時間が掛かるとは思わんかったで!小説家ってやっぱすごいなぁ。引退後・ウマウマ要素有やけど、よかったら読んでや」
♢「うーん、私はいいや」
⚡「なんでやねん!!」 - 3123/11/17(金) 20:01:46
秋風が通りを抜ける。
彼誰時の薄闇の中で並んだ街灯が淡く灯っている。
「この間まであんなに暑かったのに……」
オグリキャップはなんだかさびしかった。
蒸されるようだった暑熱は以前を偲ぶよすがもなく、ただ体温を奪ってゆく冷たい空気が彼女の寂寥を誘った。
通りすぎる植込みから虫の音が聞こえてくる。
「タマとあんなにアイスを食べてたのに……」
つい先日のことが遠い昔のことのように思い出される。
タマとスーパーで特売のアイスを冷凍庫に入る限界まで買った。入り切らなかったときは自分が食べた。
いろんなジュースを凍らせてアイスを作った。ぶどう味やりんご味のジュースでラムネ入りのアイスを作ったし、飲むヨーグルトを凍らせるととてもおいしいことがわかった。でも――
「今はとてもアイスを食べる気分にはなれない」
さびしさはすでに寒さとともに膚の下まで食い込んできている。
このさびしさが身体の芯まで届いたら、自分は消えてしまいそうだ。
オグリキャップは帰路を急いだ。 - 4123/11/17(金) 20:02:45
「ただいま」
アパートの暗い玄関に響く自分の声が大きい。
台所でタマが料理を作っている音と熱がここまで伝わってくる。その気配を慕って、オグリの足は台所へと向かった。
「おかえりオグリ。なぁなぁ、粕汁むっちゃおいしくできてん! 味見したってや」
「……! わかった……!」
エプロン姿のタマが差し出した椀の中には、汁と野菜が少しだけ入っていた。
やや褐色がかったクリームシチューか、あるいは泥と栄養に満ちた雨季のメコン川を思わせるような、白濁した、少しとろみのあるスープの見た目からは、濃厚、渾熟、豊沃、混沌、といった印象を受けたが、その白い暈を啜ってみると、鼻に抜ける、酒粕の香り高いが、醇味は軽く、白味噌のまろやかな甘みと塩味があり、それを下から支えるのは食材から溶出した繊細な出汁の旨味だった。
雑味を感じないのは、食材にちょうど火が通るまでしか加熱しないことで、風味や旨味のみを引き出しているからだ。洋食は足し算、和食は引き算と謂う心がここにある。この言葉は一聞しただけでは使用する食材や調味料の数を表したものに思われるかもしれないが、引き算とは余計な味を引くという意味でもあり、またそのために余計な手を加えないということでもあって、双方の味の哲学を端的に表した言葉だ。
洋食では、野菜や果物を丸ごとすりつぶして混ぜ合わせたり、牛肉や玉ねぎなどクセや匂いの強い食材を煮崩れるまで煮込んだりするが、これは一つの食材を一つの要素と捉え、その苦味や渋みなども利用して、複数の食材を足し合わせていくことで複雑な味を構成していくからである。
しかし、この粕汁は違う。複数の食材を使いながらも渾然一体とならずに、それぞれが汁の中で自己を保っている。輪郭も国境も失わず、互いに同化を拒みながらも共生しつつ調和している。こんな料理が作れるのは、食材一つひとつの本当のおいしさを知っているからだ。タマはすでに優れた料理人だ。紆余曲折を経て辿り着くはずの一つの境地に達している。
それを解する鋭敏な舌をもつオグリキャップもまた優れた評論家と言えるだろうか。否。評論家には感覚を巧みに言語化する能力が必要だが、彼女にはそれがない。感じるだけであって、それが頭の中で言葉として結実することはなかった。 - 5123/11/17(金) 20:03:35
「酒粕の香りと、その奥に感じる肉と野菜の旨味――これはすごい……! うまく言えないが……とにかくとてもおいしい……!」
「せやろー! 自信作や! もう一品作ってるから、そっちも楽しみにしといてや!」
粕汁の旨味が舌の上にこだまのように残り続けている。
唾液が溢れ出てくる。腹が鳴った。寝床からむっくり身体を起こした食欲に、空っぽの胃がしぼりあげられる。
「うわぁ!? すごい腹の音やな!? そんなに腹減ってんねやったら先食うてるか?」
「いや……タマと一緒に食べるから、我慢する……」
「ほんなら待っとき。すぐできるからな」
わかったと返事してテーブルに着いたオグリだったが、テレビを観るよりもタマと無性に話していたかった。
台所に立つ小さな背中に「タマ」と呼び掛けてみた。すると、小さな背中は振り返らないままタマの声で「んー?」と答えた。
「今日はとても寒くてさびしかったんだ」
「せやから一枚羽織ったほうがええ言うたやろ。なのにアンタは「寒くないから大丈夫だ」言うて出ていくし。上着、箪笥から出して掛けたままにしたるから明日から着てくんやで」
「うん。ありがとう」
世話を焼いてもらえるのがうれしい。叱られるのもうれしい。
何か大切な、何かぬくいものに、オグリキャップは包み込まれてゆく。 - 6123/11/17(金) 20:04:47
「タマと居るとなんだか心がぽかぽかしてくる。まるで故郷のことを思い出してる時みたいだ」
「っ、なんやねん急に。アンタはホンマ……そういうことをさらっと言えるのが時々うらやましいわ」
「そうか……? うらやましいのなら、タマも言えばいい」
「恥ずかしいっちゅーねん!」
ツッコまれてしまった。なにが恥ずかしいのだろうか。
「……まあでも、素直にうれしいわ。それってウチのこと故郷と同じくらい大切に思ってくれとるってことやろ?」
「そう、だな。うん、タマの言うとおりだ」
こんなに大切な存在ができるなんて、笠松に居た頃は思ってもみなかった。
後ろ姿だから表情はわからなかったが、小さな背中は耳をぱたぱたさせて「へへ」と照れくさそうに笑った。
「そろそろ出来んで。ご飯とお皿用意してくれるか」
お茶碗にほかほかの白いご飯をよそう。自分のは山盛りに。タマのは少なめに。
粕汁はタマがお盆に載せて運んできた。
そしてテーブルの中心に置かれた大皿に、タマが直接フライパンから本日の主菜を盛り付ける。
「じゃーん! 厚揚げと野菜の甘酢あんかけや!」
「おお! いただきます」
「いや早いな!」 - 7123/11/17(金) 20:06:25
待ちに待った時が来た。
細切りにされた野菜のあんがよく絡んだ厚揚げを頬張り、ご飯をかきこむ。
潤いを求めて粕汁を啜ると、口の中に滋味が広がり、飲み下してふうと息をつくと、酒粕と味噌の香りが鼻腔に熱い霧のようにたちこめ、いつまでも鼻先をただよった。
「お椀に注ぐ前にな、酒粕と味噌をもっかいちょっとだけ溶かしてん。香りがええしあったまるやろ?」
心遣いがやさしい。高い料理ほど良い料理というわけではない。そうしみじみ感じる。
この料理は、食べる相手への――私への思いやりに溢れている。
「ああ。どちらもすごくおいしい……! あんかけの野菜がシャキシャキしているな。それにご飯もいつもよりおいしく感じる」
「おっ、さすがやな! それ新米やで」
秋も悪くない。タマがいてくれれば。
明日も白い風が吹く。
でも、ここに帰ってこれるなら自分は大丈夫だと思えた。
ogtm*同棲
終 - 8二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 20:32:16
ええやん
もしや少し前にSS悩んでたタマか? - 9123/11/17(金) 20:36:05
- 10二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 20:36:42
好き
オグタマ同棲ものとか大好物だしメシテロものも好きだしで最高ですわ - 11123/11/17(金) 20:45:03
- 12二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 20:47:07
めちゃくちゃいいオグタマ……なんだが味覚描写濃すぎて海原雄山憑依したかと思った
- 13二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 20:58:21
このレスは削除されています
- 14123/11/17(金) 21:02:07
書いてみてわかったんやけど、ウチは話を展開させるのが苦手みたいや。その代わり、五感で捉えたことを描写するのは好きみたいやねん
- 15二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:04:40
メコン川見たことないけどすごい腹減ったよ
すき - 16123/11/17(金) 21:26:54
ベトナムあたりを流れとる下流の濁ったメコン川のイメージや。粕汁ってホンマこんな色やねん
- 17二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 22:01:05
オグタマはどうしてボロアパートで同棲してる画が浮かぶんだろうか
- 18二次元好きの匿名さん23/11/18(土) 09:59:35
いい…
- 19二次元好きの匿名さん23/11/18(土) 10:12:04
2人とも稼ぎが増えても生活レベル上げそうにないからな
- 20二次元好きの匿名さん23/11/18(土) 17:14:00
オグリのせいでエンゲル係数がとんでもないことになりそう