【SS】半分の芋、その他

  • 1二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:12:32

    「あら、やっぱり。……?」

     日没が急速に早まってゆくこの時期、密かに親しくしているひとのトレーナー室に明かりを認めて立ち寄った。
     やっぱり、と思ったのは、テーブルの上に拡げられた古新聞に鎮座した物に対して。日が落ちる前に三々五々解散するトレーナーと生徒たち、その中の彼が近くを通った時、うっすら彼の息に漂った香りは――焼き芋だ。短い秋が終わりを見せつつあり、急に冷えて来たこの頃にはうってつけと言える。
     奇妙に思ったのは、それが食べかけではなく丸々一本のままである事。今一つは、彼が少々浮かない顔をしている事。

    「ジャンケンの起源は諸説ありますが仏教の『料簡法意(りゃけんほうい)』つまり『御仏の意思をはかる』から来ているとも言われています」
    「どうしました急に」

  • 2二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:13:08

     どういう切っ掛けだったろう、僕達は担当達と共に外周を走っていた。その中でシンコウウインディがいち早く反応する。

    「むっ?この音、この匂い!」
    「どーしたウインディちゃン?お、コイツは……」

     先輩達も気がつき始める。外周コースから少し外れた路肩、石焼き芋の軽トラがすぐ視界に飛び込んで来た。
     担当達をチラリと見れば、皆キラキラと目を輝かせている。あー、これは仕方ないかと腹を括って、先輩とウインディのトレーナーさんにアイコンタクトを送った。

    (大700小500……サイズは倍近ェか)
    (僕の担当、ウインディ、先輩の所は二人で七人だから……)
    (実質一択やん……ほぼ5000円やな)
    「じゃい」「拳」「ポン!」

     ドオォーz_ン――チョキ、チョキ、先輩だけがグー。

    「お先に失礼ッ……鋼の“イシ”で“ハサミ”の挟み撃ちを回避、勝ち抜けだ」
    「ちょお待ちぃな。アタシのハサミは……岩をも砕く!」
    「あだだだだ」
    「コラ!子分、ズルはダメなのだ!」

     ウインディに引き離された女性トレーナーとの二回戦。チョキの連発はなかろうと言うバランス理論の下――繰り出した僕のパーは無残に散る。

    「アタシのハサミは紙をも……」
    「そりゃ切れますよね!?」
    「あのー、なんで跳んだんですか?皆なんで跳んだの?ねぇ?」
    「説明し辛ぇナ……魂が突き動かした、と言うか……そんな事より」
    「ご馳走様!なのだ!」

  • 3二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:13:54

    「まあ、そんな事が。高い焼き芋になってしまいましたね」
    「いやー、ウインディちゃんのトレーナーさんって面白いですよね」
    「でも手付かず……さっきすれ違った時に匂いがしたんですが」
    「あ、それは……落ち込んだ僕を見かねて、担当が一かけ食べさせてくれたんですよ。後は帰ってからって、ジャージに隠して解散です」

     ソファーでとなり胸の奥がチクリ、チクリとする。私の悪癖が顔を覗かせる。
     私以外の女性と仲良くしないで。私の大切なひとに近づかないで。そんな浅ましい感情を、既に相手のいる人や生徒たちにまで向ける自分がいる。
     彼と過ごす時、私はいつも得がたい幸福と安らぎを覚えながらも、その事実が不意に私を苛むのだ。

    「……さん。理子さん?」
    「あ、ごめんなさい」
    「それで、半端な時間にあんまり食べると夕飯がね……。温めますから半分こしませんか。皮は大丈夫ですか?」
    「良いんですか?頂きます」

     彼は芋を電子レンジにかけた後、両端の硬い所を少しちぎり、大きな葉巻でも吸うように構える。

    「……?」
    「理子さんはそっちから食べて下さいね。僕はこっちから行きますんで」
    「え?ちょっとコレって……」
    「はむっ」

     ――はむっ。私も続いて、端を咥えた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:14:29

     一本の芋を挟み、やや焦点の合わない距離で見つめ合いながら、咀嚼が始まる。

    「もぐ……もぐ……」
    「んっ……ぐ……」

     彼の歯や舌の動きが芋を通じて伝わって来る。彼もまた、同じように私を感じているのだろう。この奇妙な感覚に嵌まり込みかけたその時。

    「……ッ」
    「……!」

     同時に口を離して手で押さえる。彼が差し出したカップから温くなったコーヒーを少し流し込むと、口の中の芋がサラサラと溶けてゆく。カップを返し、彼もコーヒーで芋を洗い流した。

    「はぁー……危なかったです」
    「やっぱり上手くいきませんね」
    「当たり前でしょう、何故やろうと思ったんですか!?」
    「いや、ノって来ると思わなかったんですよ。理子さん普段、学内ではこういう事してくれないし」

     それは事実だ。以前、その……些細な事から仲直りの証を求めたら、二人きりではなくて……見られていたのがたづなさんで無ければどうなっていたやら。
     あれからは決して行き過ぎの無いよう努めて来た。それが今日に限って何故、と理由をたどれば、つまらない嫉妬ゆえ。彼を繋ぎ止めたい一心だ。
     そんな私の内心を、彼はどこまで知っているだろうか。いや、知る時が来るのか。

    「じゃ、これは半分にしますね。早めに食べきって下さい」

     残った芋と古新聞を割り、私の分を作って持たせてくれた。あいにく週末ならず――どちらかの家に二人で、とはいかない。

    「半分、か。僕らでなんでも半分に出来たら、それは良い事なんでしょうか」
    「例えば生き物は半分に仕様がありませんし……それに、形のない物だってありますからね」
    「感情なら確かに、半分では無いですね」

  • 5二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:15:06

     彼はそう言い、ずいっと迫って来た。

    「感情を共有すれば不幸は半分に、幸せは倍にと言いますからね。理子さんといる時は減りようが無い。
     ……理子さんも同じ気持ちでいてくれると嬉しいですね」

     いつも私を包み込む彼の愛情。その裏表のなさに、私のなんと小さな事だろう。
     もっと彼の言葉を聞きたい。
     聞けば自分を直視せざるを得ない。
     
    「……理子さん?」

     あちらを立てればこちらが立たず。板挟みを打破するため、自ら引いた一線を踏み越える。
     ――私は、お互いの言葉を封じた。

  • 6二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:16:28

     おまけ
    「分かってるだろうけど、戻ったらあいつらと半分ずつだからナ。それとグラウンドでは出すんじゃねェぞ」
    「分かってま~」「了解~」
    「良い返事だ……ほれ、俺の半分を半分ずつ。今食っちまえ、内緒ナ」
    「Wow!やったね!」「トレーナー愛してるぅ!」
    「ハハッ、愛ねェ。十年早く生まれといて欲しかったナ」

     おまけ2
    「芋っ芋~♪焼き芋~♪今日はツイてるのだ~♪」
    「熱いうちに頂こか、牛乳でエエな?」
    「良いのだ、早く食べるのだー!」
     ⏰
    「あー美味しかっキュルルたのだ。……」
    「どないした?」
    「い、いや何でも……へぁ、くしpuっ!」
    「あー、まあ、うん」
    「ち、違うのだ、今のはクシャミ!ただのクシャミなのだ!」
    「そうかそうかクシャミやったか。……負けへんで~?」
    「ちょ、なんで張り合うのだ!?止めるのだネーサン!」
    「うっさい今さら止まるか!ツキも恥も半分こや、アタシの生き様を見とけ!」
    「そんなの要らないのだ~!」

  • 7二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:17:06
  • 8二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:41:32

    焼き芋でポッキーゲーム…?
    上手くいかなかったようだからフライドポテトか何かでリトライしようぜ

  • 9二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 21:43:38

    焼き芋焼き餅理子ちゃん可愛い

  • 10二次元好きの匿名さん23/11/17(金) 22:54:22

    ネーサンご無沙汰!ウインディちゃんこれは恥ずかしい

  • 11二次元好きの匿名さん23/11/18(土) 07:16:37

オススメ

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