- 1二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:31:01
「むむむ~……一等とか、贅沢言わないからさー……!」
商店街の福引会場。
お正月ほどではないけれど、それなりの品物を狙える機会。
アタシは祈りを捧げながらガラガラのハンドルを握り締める。
固唾を飲んで見守るおじちゃんを尻目に、アタシを力を込めて、ハンドルを回した。
ころんと転がり落ちた玉の色は────緑色。
「ああ~……!」
「さすがはネイチャちゃんというか、その、三等だね」
お馴染みの番号を言い渡されて、アタシはその場でがっくりと項垂れた。
ここ数日、商店街での買い物の頻度を増やして挑戦しているけれど、目当ての品は手に入らない。
アタシはちらりと顔を上げて、景品の置かれている棚を見る。
『二等』と書かれた棚の上に置かれている、ヒーローの変身グッズ、それがアタシの狙い目だ。
弟が良く見ている人気のアニメで、グッズは品切れ続出、なかなか手に入れることが出来ない。
是非とも、弟のためにもここで手に入れてあげたかったんだけど……。
「いやあ、そんなに上手いこと行きませんねえ……」
「三回連続で三等引き当てるのも、なかなかの豪運のはずなんだけどね」 - 2二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:31:14
肩を竦めるアタシに、おじちゃんは呆れたように言った。
おじちゃんの言う通り、アタシの福引の戦績は三回やって全部三等。
もちろん、母数を考えればなかなかの幸運なのだが、そこはもう少し運を集中して欲しい。
小さくため息をつきながら、『三等』と書かれた棚の前に行く。
この福引はそれぞれの棚の上にある、好きな品物を一つ持っていく、という方式になっている。
お米からケースの飲料、おもちゃや本など品物は多種多様。
ちなみに前回貰っていったのは、端の方にひっそりと置いてあるプチプラコスメ。
アタシは詳しくないけど、若い子の間で人気で、お手頃価格ながら入手が難しい品物らしい。
いまいち好みではなかったので ジョーダンさんにあげたら凄い喜ばれたのを覚えている。
とはいえ、同じものを何個も貰っても困るだろう。
「おじちゃーん、ちょっとゆっくり見てても良いかなー?」
「ああ、構わないよ、この時間だった引きに来るのはあの子くらいだろうし……おっ、来た来た」
少し離れた位置から、足音が聞こえる。
振り向いてみると、そこにはトレセン学園の制服に身を包んだウマ娘が一人。
紺色の長髪、正面には特徴的な流星、左耳には青を基調とした耳飾り。
会ったことはない人だけど、なんというか、高貴な感じで、雰囲気を感じる人。
見惚れるほどの綺麗な歩き方で福引会場へと近づくと、彼女はおじちゃんに福引券を差し出した。 - 3二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:31:27
「今日こそ、今日こそは……!」
「頑張ってねお嬢ちゃん、さあ、一回どうぞ」
じっと、真剣な表情でガラガラを見つける女性。
彼女は一呼吸おいて、張り詰めた雰囲気で、ゆっくりとガラガラを回す。
ころりと転がった玉の色は、赤。
アタシはそれを見て思わず、耳をピンと立ててしまう。
それは、アタシが求めてやまない色、すなわち。
「……おめでとうお嬢ちゃん、二等だよ」
────うわ、すごい羨ましいんデスけど!?
しかし、おじちゃんと女性の表情は暗く、やがて彼女は小さくため息をついた。
どうやら、二等は目当ての品ではなかった模様である。
一等目当てだったのだろうか、意外と上昇志向なタイプなのかもしれない。
彼女は、アタシの方の棚を見つめながら、小さな声で呟いた。
「…………どうして三等を当てられないのかしら」
おや?
聞き間違えでなければ、これは利害一致のチャンス、ではないだろうか。
でも、知らない人にいきなりそんなことを言うのも、なんだか。
しばらく悩んだものの、弟の喜ぶ顔を思い浮かべて、アタシは意を決した。
「あの、すいません! もし良かったら、なんですけど」 - 4二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:31:49
「ありがとうネイチャさん、本当に助かったわ」
「いえいえー、こちらこそヴィルシーナさんのおかげで助かりましたよホント」
福引会場から少し離れたベンチ。
アタシと、先ほど二等を引き当てた女性────ヴィルシーナさんは二人並んで座っていた。
笑顔を浮かべる彼女の手の中には、小さいけれど色鮮やかなコスメ。
そしてアタシの手の中には、ずっしり重い変身グッズがあった。
あの時、アタシはヴィルシーナさんに、景品の交換を提案した。
彼女は即座に応じてくれて、今の結果と相成ったのだけれど。
……冷静に考えると、これってアタシが一方的に得し過ぎてない?
なんだか申し訳なくなってきて、アタシはおずおずと追加の提案をしてみる。
「あのー、景品の金額に差があり過ぎる気がするので、差額を……」
「気にしないで、私にとって、これには金額以上に価値があるものだったのよ」
「そっ、そうなんですか」
「……その、むしろ、貴女がそれを選んだのが意外というか」
「あー、コレはデスネー、アタシが弟にプレゼントするやつでして」
「あら、だったら私と同じね、私もこのコスメはヴィブロス……私の妹にあげるものなのよ」
ヴィブロス、その名前を口にした瞬間、ヴィルシーナさんはとても優しい表情になった。
きっとアタシにとっての弟のように、彼女にとって、とても大切な存在なのだろう。
……そういや、ヴィブロスって名前は聞いたことがあるような。
たまにヘリオスさんと一緒にいることがある子の名前だったような気がする。
思い浮かべてみれば、なんだか似ているような気がした。 - 5二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:32:05
「あの子のためにも、と思って福引に通ってたのだけど、どうも昔から『2』という数字と悪縁があって」
「……ヴィルシーナさんもなんですか?」
「……『も』?」
「あー、えっと、そのー、アタシも昔から、その『3』って数字に縁があったりなかったり、でして」
思わぬところで、アタシ達の話は盛り上がりを見せた。
お互いの数字に関するエピソードや、鉄板ネタを披露してみたり。
長女という共通点もあって、なんだかヴィルシーナさんには、親近感を覚えてしまう。
だから、なのだろうか。
気が付けば、アタシはレースのことについても、彼女に零していた。
「……アタシの同期には、キラッキラの、主人公みたいな子がいて」
脳裏に浮かぶは、帝王の名前を持つ、不屈のウマ娘の後ろ姿。
アタシが憧れて、いつかは横に並びたくて、そして抜き去りたいと思っている、後ろ姿。
ただ、そんな熱血なことを言うのは恥ずかしくて、アタシはいつものように斜に構えてしまう。
「まったく、強すぎる同期ってのも考えものですなあ」
「……ふふっ、私にも、同期の桜ともいうべき子がいるのよ」
「……ヴィルシーナさんにも?」
「ええ、彼女はとても力強くて、綺麗で、心優しくて、力強くて、高貴で、その、力強くて」
全くイメージは出来なかったが、とりあえずパワフルな人だというのはわかった。
ヴィルシーナさんは遠くを見ながら、彼女のことを語る。 - 6二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:32:20
「私にとって彼女は良き友人であり、大きな壁であり、尊敬する人でもあり」
ヴィルシーナさんの目には、複雑な感情が渦巻いている。
親愛、妬み、憧憬、ことの大小はあれど、その感情は確かに彼女の中に存在するもの。
そして、その瞳の奥には、燃え上がるような熱いものが、溢れていた。
「いつか、必ず越えてみせる相手よ」
はっきりとした声で、ヴィルシーナさんは堂々と宣言してみせた。
ああ、そっか、そうなんだ。
この人は気高くて、強くて、格好良い、きらっきら輝く、主人公だったんだ。
アタシなんかが、親近感を覚えるなんて────。
「つまり、貴女と一緒、ということよ」
「……えっ、いや、アタシは」
思わぬ言葉に困惑していると、ヴィルシーナさんはアタシの頬に手を当てて、顔を近づける。
ヤバッ、超顔が良い、メッチャ良い匂いする……っ!
彼女は楽しそうな笑みを浮かべて、アタシの目元を優しく撫でながら、囁くように言った。
「ネイチャさんの目、諦めないって想いが、隠せてないわよ」
「あう」
「ふふっ、シニカルに構えてるみたいだけど、可愛らしいところもあるのね?」
全てを見透かして、目を細めるヴィルシーナさんから、アタシは目を逸らしてしまうのであった。 - 7二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:32:33
「諦めなければ、一着のチャンスは回ってくるわ、必ずね」
「……そういうもんでしょうか」
「ええ、そうよ、例えば」
そう言いながら、ヴィルシーナさんは鞄の中身をがさごぞの探し出した。
何事かと思いつつも待ってみると、突然彼女は耳をピンと立ち上げて、鞄から手を出した。
細長い、綺麗な指先には、一枚の紙。
それは、商店街の福引券だった。
「さっき失くしたと思ったけど、諦めずに探したからこそ、チャンスを拾うことが出来たのよ」
「……あの、ヴィルシーナさん、ひじょーに、言いづらいんですが」
「なにかしら?」
「…………福引は、三枚で一回デス」
「……そうだったわね」
微かに顔を赤くするヴィルシーナさん。
すごい大人の女性だと思っていたけれど、実のところはあまり変わらないのかもしれない。
でも、彼女が伝えたかったことは、アタシの胸の奥に強く響いた。
「でもヴィルシーナさんの言う通りだと思います、だからアタシも諦めません」
アタシは、持っていた鞄の中に手を突っ込む。。
商店街では頻繁に買い物をしていて、福引券を失くした覚えもあった。
中身をひっくり返すような勢いで漁り、やがて、目的をものを見つけ出す。
手の中には、二枚の福引券。
「それじゃあ────二人で一着、狙ってみませんか?」 - 8二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:32:48
アタシ達は、福引会場へと戻り、二人で手を合わせてガラガラを回した。
ヴィルシーナさんと力を合わせた、渾身の一発である。
そして、その結果は。
「……まあ、そんな漫画みたいにはいかないデスヨネー」
「おかしいわね、こういうのはゴールドシップの持ちネタだと思うのだけど」
結果は、五等だった。
まあ、ある意味はこっちの方が漫画らしいかもしれない。
景品は、お菓子かアイスを、いずれか一個。
お菓子は個包装の小さいヤツだったり、アイスも箱アイスの一本だったりと正直ちょっとショボイ。
ヴィルシーナさんは物珍しそうにお菓子を眺めながら、困ったような表情を浮かべていた。
「えっと、ネイチャさんにお任せしても良いかしら」
「……良いんですか?」
「ええ、実は私、この手のお菓子は殆ど食べたことがなくて」
恥ずかしそうに頬に手を当てて、ヴィルシーナさんは言う。
……セレブだ、マックイーンもそうだけど、この学園セレブが多すぎんか?
しかしながら、シェアをするには小さいのばかりで、なかなか難しい。
それならば、とアタシはアイスの冷凍ケースを開けて、ぴったりなものを見つけた。 - 9二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:33:06
「おっ、良いもんあんじゃーん……ヴィルシーナさん、これで良いですか?」
「えっ、ええ、ところでそれは、どうやって食べるのかしら」
「これはですねー、よっと」
アタシは取り出した棒状のアイスを、真ん中でへし折った。
いわゆる、ポッキンアイスとか、チューペットとか呼ばれるアレである。
片割れをヴィルシーナさんに手渡すと、彼女は興味深そうに四方八方から眺めた。
食べ方は実演して説明すればいいか……あっ、そうだ。
「あの、乾杯しませんか? この『にいさん同盟』の結成に」
「『にいさん同盟』?」
「アハハ……勝手に付けちゃったんですけど、どうですかね?」
「ふふっ、私達は姉さんだけど、なかなか素敵な響きね、悪くないと思うわ」
「では採用ということで……せっかくだから、色んなものに乾杯やっときましょー」
「そうね、じゃあ私達の出会いと、妹達や貴女の弟さんのこれからに」
「アタシ達のこれからのレースと、良き好敵手に」
乾杯、アタシ達は声を合わせると、アイスをコツンと重ねるのであった。 - 10二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:35:05
お わ り
キャラがまだわからない内に色々書いておきます - 11二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:36:55
空気が良すぎる…よく眠れそうだ…ありがとう…
- 12二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:39:14
スレ画見て「そう来たか!」ってなった
2のお姉ちゃんと3のお姉ちゃんいいね… - 13二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 01:41:32
少ない情報から(あるいは少ないからこそ?)これだけのものを作れるなんて……! 以外ながらも説得力のある組み合わせで、内容も素晴らしいです。
- 14二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 02:33:27
後輩ネイチャいいね…
- 15123/11/19(日) 08:07:20
- 16二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 12:03:06
2+3で五等でダメだった
- 17123/11/19(日) 20:01:04
ずっとやりたかったネタだったりします
- 18二次元好きの匿名さん23/11/19(日) 20:27:02
- 19123/11/19(日) 20:59:30
明日が楽しみのような不安のような