- 1二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:03:47
カタンカタンと不規則な揺れに身を任せながら、車窓を流れていく茜に染まる街並みを眺めている。
三ヶ日の最終日にも関わらず他の乗客は少なく車内はがらんとしており、トレーナーは寂れていく自身の故郷を思い寂しげに目尻を下げた。
現在トレーナーは帰省していた実家を出て、学園へ戻るためにとある地方線を走る電車の座席に座っていた。
片道うん時間の電車旅。
結構な長旅故に今までは到着があまり遅くなりすぎないように少し早めに実家を出ていたが、今年に限っては両親がギリギリまで引き留めたせいで到着する頃には深夜になってしまいそうだった。
・・・・
全く、そう嬉々と自分ともう一人に構ってくる両親のことを思い出し溜息を吐いたトレーナーは、ことりと自身の肩に走った軽い衝撃によって意識がそちらへ向かう。
「……すぅ……すぅ……ぅ」
そこには可愛らしく寝息を立てるナリタタイシンが、三年間自身と共にトゥウィンクルシリーズを駆け抜けた自慢の愛バがそこにいた。 - 2二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:04:49
リンク警さ……描いたの!?
- 3二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:05:54
『………その…今年、さ。アンタの実家に着いて行って…いい………?』
思い出すのは年末最後のトレーニングの日、例年通りにトレーニングを済ませたタイシンに「じゃあ良いお年を!」と声をかけようとした自分の服の袖を掴んで遠慮がちにそう聞いてきたタイシンの姿。
聞けばタイシンの両親がその年の年始の商店街の福引きでペア温泉旅行チケットを当てていたらしく、期日が割と近かったこともありタイシンが「今年は寮で年越すからこの正月に二人で行ってきたら?」と母親を催したので今年は実家には誰もいないのだとか。
それで両親にも言った通り今年は寮で正月休みを過ごそうとしていたところ、どうやら年末年始に寮の改装工事が入るらしく部屋を出て行かないといけないらしく、年末年始をどこで過ごそうかと困っているとのこと。
“男の自分ではなくウイニングチケットやビワハヤヒデとかに言えばいいのでは?”や“根本的な話学園に言えばホテルを手配してくれるのでは?”など色んな考えが脳裏に過ぎったが、誰かに頼ることが苦手なタイシンが真っ先に自信を頼ってきてくれたことが嬉しかったトレーナーは二つ返事でタイシンの申し出を快諾したのだった。
そして意気揚々とタイシンを連れて実家に帰った日、待っていたのは騒がしい日々だった。
タイシンを一目見て「貴様、こんな幼気な少女を拐かすとは何事かーッ!!」と熱りたち殴りかかる父親に「あらあらまあまあ」とそんな父親の方に気を取られ一瞬目を離した隙にタイシンに詰め寄りマシンガンが如く話し掛ける母親。
初日から騒がし過ぎる我が家を見て丸い目を目を更にパチクリと丸くさせるタイシンに自身の失策を悟ったトレーナーは、この帰省中でタイシンの気を休めることは出来るのかと心配してーーーー - 4二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:09:08
「………ん、ぅ………」
しゅるりとタイシンの尻尾がトレーナーの右手に巻き付けられ、意識が過去から現在へと引き上げられる。
起きてしまったのかとトレーナーが目を向けるとタイシンは未だ眠ったままで、いつも気難しそうに歪められている眉の険は解れた普段以上に幼く見える寝顔は無邪気に微笑みを浮かべていた。
この帰省は本当に疲れたのだろう。
かなりな気遣いしいのタイシンなのだ、トレーナーが居るとはいえ知らない人々に囲まれた生活はストレスだったろうことは想像に難くない。
不幸中の幸いだったのがトレーナーの両親がタイシンのことを大層気に入ったことと、タイシンがなんだかんだでトレーナーの両親に懐いたことか。
実家にいた間のタイシンはいつも騒がしいトレーナー一家の空気に振り回されてはいたもののどこか楽しげで、最終的にはその団欒の輪の中にしっかりと入っていた。
それはまるで家族のようでーーーー
『タイシンちゃんみたいな子がアンタの嫁に来てくれたらねぇ………』 - 5二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:09:37
ーーーー瞬間、実家を出る直前に投下した母親の爆弾発言が脳裏を過り、いやいやいやとトレーナーは首を横に振る。
タイシンが器量良し気立良しの途轍もなく優良物件であることは誰の目から見ても明らかではあるが、それ故に自分みたいに体と声が無駄に大きく騒がしい男など吊り合わないだろうし、それに静かな空間が好きなタイシンからすれば吊り合いとかそんなこと関係なく自分なんてノーセンキューだろうし、そもそも自分の教え子であるタイシンに対してそういう感情を抱くことは教職者としては有るまじきーーーーなどつらつら頭の中で問答をぐるぐる回し、上がった顔の熱を冷ますようにトレーナーはもう一度溜息を吐いた。
“うん、次の乗り換えまでかなり時間があるし自分も寝よう、そうしよう!”とスマホの画面で時間を確認したトレーナーがそう一人呟き、寝る体勢に入る前にチラリとタイシンの寝顔を再度伺うと、そこに変わらずある天使の寝顔。
ああ、こんな風に掛かってしまっているのはタイシンのせいだというのに。
母親のあの言葉を聞いた時、トレーナーはタイシンは「はあ!? 誰がこんな奴と!!」みたいな反応をするものだと思っていた。
きっとそう言う反応ならばここまで掛かることはなかっただろうし、今まで通りトレーナーと担当ウマ娘としての関係でいられただろう。
しかし
『ーーーーそれもいいかもね? トレーナー、“一生でも”なんて言ってくれたしね』
そのあと「なんてね」何て流していたが、薄く微笑みを浮かべ流し目を此方に送りながらそんな風に言われたら、意識するに決まっているだろう。
再び過ぎるトレーナーらしくない考えを振り解くために目を瞑った。
自身もなんだかんだ疲れていたのだろう、すぐに襲ってくる眠気に委ね遠くなっていく意識の中でどこからか「ばーか」と優しい声が聞こえた気がした。 - 6二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:11:30
目を開けて横を見る。
そこには年不相応にあどけない寝顔を晒す、こんな気難しいアタシと三年間共にトゥウィンクルシリーズを走り抜けてくれた愛しい人がいた。
「ふふふ、ばーか」
尻尾を絡ませた右手の上に左手を重ねる。
トレーナーの手のひらは、彼がアタシにくれる言葉みたいにあったかい。
『なら俺が、君の分まで信じる!!』
『君が信じられるまで『大丈夫』って言う!』
『いつまでかかってもいい!』
「………“一生でも”って、言ってくれたからね」
アンタはきっとわかってないのだろう。
あの日アタシにかけてくれたアンタの言葉に、どれだけアタシが救われたのかを。
あの日アタシの背を押してくれたアンタの手が、どれだけアタシに勇気をくれたのか。
がむしゃらに走るしかなかったアタシを導いてくれたアンタの存在が、どれだけアタシの中で大きくなったのかを。
「覚悟してよ、トレーナー?」
アンタがいてくれたから、アタシはアタシを信じてあげることができた。
アンタが教えてくれたから、アタシは本当に走ることが好きだってことに気づくことができた。
アンタはアタシがアタシを信じられるようになれれば、自分の役割は終わりだと考えているみたいだけど、もうそんな未来はアタシが認めない。
「アタシがマジだってこと………教えてあげる」
- 7二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:14:14
はー……
すき…… - 8二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:14:56
- 9二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:15:58
- 10二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:16:12
タイシンがかわいくて高まりに高まった創作欲求を解消するために初スレたて
先に絵を描いてそれに合わせてssを描くのは大変だけど、めちゃくちゃ楽しかった、またやりたい
タイシンのキャラの解釈違い等あると思いますが、ssも初めてなのでどうか許してください
では、お目汚し失礼しました
≫2
描きました! - 11二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:18:33
今までこの才が埋もれていたのか?マジで???
- 12二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:20:21
夕方特有のノスタルジックな空気感とかタイシンのちょっぴり照れくさそうな微笑みとかいろいろ言いたいことはあるけれど俺の語彙力ではまともに表現できない…なので一言に収めるぜ
ありがとう…… - 13二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:28:00
- 14二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 17:50:50
これは不意打ちだったな……
- 15二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 18:03:43
めちゃくちゃいい文章とめちゃくちゃいい絵がぶつかってきて瀕死になった
- 16二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 18:10:34
尊いという感情が「言葉」でなく「心」で理解できた
しゅき…と思ったときにはすでに尊死しているんだね… - 17二次元好きの匿名さん22/01/04(火) 18:22:59