- 1二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:24:15
「おい、この写真に写ってるウマ娘ってもしかして……!」
初めて僕の家へ遊びに来た友人は、立てかけてある写真を見て、目を見開く。
彼が指差す写真の中には、幼い頃の僕の姿と、同じくらいの年齢の、三人のウマ娘が写っていた。
そういえば彼は何年か前に越して来たのだっけ、そう思い出しながら、僕は答える。
「うん、トゥインクルシリーズで有名な、あの三姉妹だよ」
「だよな!? ってことはお前、あの人達と知り合いなの!?」
「知り合いというか幼馴染みって感じ、彼女達の実家ってウチの隣でね、この辺りじゃ有名だよ」
「マジかー!? いいなあー! 俺、ファンなんだよなー! やべえ、隣の家、帰りにでも拝んどこうかなー!?」
「気を付けてね、舐めた真似しようものなら、家から150キロ越えの速球がバンバン飛んでくるぞ」
「えっ、そんな軍事拠点みたいな危険地帯なの? あっ、やっぱ大人しくしておきます……」
友人は青い顔になって、しおしおと大人しくなってしまった。
ちなみに、実際それで追い返されている輩を何度も見ているので、ガチである。
……未だにあの親父さん、僕より良い球投げられるんだよなあ、初めて会った時にはもう現役退いていたはずなんだけど。
「じゃあさ、せめて小さい頃の三姉妹のことを教えてくれよー! 良いだろー!?」
「……仕方ないなあ」
興味津々、といった様子で友人は訴えかけて来る。
僕は少しだけ苦笑を浮かべながらも、僕にとっての大切な思い出を、彼に語ることにした。
ヴィルシーナ姉さん、シュヴァル姉ちゃん、ヴィブロス姉。
記憶に深く刻まれて、僕という人間の根本を形成した、彼女達三姉妹の、懐かしい日々の話を。 - 2二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:24:34
今住む家に、僕ら家族が越して来たのは、僕が小学校に入学する前の頃だった。
父さんの仕事の都合で引っ越すこととなり、全くの新しい環境。
子どもながらに不安を覚えていた中、隣の家へ挨拶に行き、出会ったのが彼女達だった。
『こんにちは、妹共々、仲良くしてね? 私のことを姉だと思ってくれて良いから』
その時のことは、今も昨日のことのように、良く覚えている。
大人びた態度で出迎えてくれたヴィルシーナ姉さん。
後ろの方で少しだけ伏し目がちにこちらを伺っているシュヴァルグラン姉ちゃん。
そして、その横で興味深そうに、目を輝かせているヴィブロス姉。
…………そして、現役時代に大ファンだった選手に会って、大興奮しているウチの父さん。
穏やかで物静かな父さんが、あれだけハシャいでいるのを見るのは、この時だけである。
まあ、最後のことはさておき。
彼女達は、僕にとって、初めて知り合いとして出会ったウマ娘。
好奇心、不安、様々な感情に戸惑いながらも、僕は三姉妹に『仲良くしてください!』と頭を下げた。
彼女達は一瞬きょとんとした表情を浮かべながら、にっこりと微笑んで受け入れてくれた。
────これが、僕と三姉妹との、初めての出会い。
この出会いが、僕の人生を大きく変えることになろうとは、この時の僕は知る由もなかったのである。 - 3二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:25:00
ヴィルシーナ姉さんは少し年が離れているだけとは思えないほど大人びた人だった。
二人の妹に対して心優しく見守りながらも、時には厳しく接する、そんな人である。
彼女は僕に対しても、まるで弟を相手するかのように接してくれた。
『大丈夫? 沁みるけど少し我慢しててね、うん、痛いの我慢して、えらいわよ』
転んで怪我をしてしまった時は、真っ先に駆けつけてくれて、治療をしてくれた。
『こーら、野菜もちゃんと食べなきゃダメなんだから……はい、良く食べました』
嫌いな野菜を残した時は、決してそれを見逃さず、しっかりと叱ってくれた。
そして、ちゃんと我慢したり、やり遂げた時には、頭を撫でながら褒めてくれる。
彼女の柔らかい手で、優しく撫でてもらうのが、当時の僕は大好きだった。
だから、頑張った。
テストではたくさん勉強して、何度も何度も百点を取った。
運動会の時には一生懸命練習して、いっぱいっぱい活躍した。
その都度僕は、家族に方向をする前に、ヴィルシーナ姉さんの所に行って、報告をしていた。
『ふふっ、良く頑張ったわね、えらいえらい……♪』
まるで自分のことのように、嬉しそうに喜んで、ヴィルシーナ姉さんは褒めてくれる。
そして、そんな彼女を見ているのが、僕は何よりうれしかった。
もっともっと、彼女に認めてもらいたい。
もっともっと、彼女に喜んでもらいたい。
今となっては流石に、撫でてもらうことも、褒めてもらうことも、なくなってしまったけれど。
彼女との思い出は、僕を突き動かす原動力になっていた。 - 4二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:25:28
シュヴァル姉ちゃんとは、しばらくはあまり話すことはなかった。
ただ、困っている時に何気なく助け船を出してくれたり、貰ったお菓子を僕やヴィブロス姉に多く分けてくれたりしてくれて、とっても優しい人なんだろうな、ということは、僕も知っていた。
彼女との付き合いが大きく変わったのは、出会ってから一年ほど経過した頃。
当時所属していた少年野球チームでの試合の帰り、僕は悔しい想いを噛みしめていた。
相手側にピッチャーにしてやられて、僕のバットはかすりすらしなかったのである。
そして家の近くに辿り着き、三姉妹の家を通り過ぎた時、びゅっ、と鋭い球の音が聞こえた。
彼女達のお父さんかな、と思って覗き込んでみれば、そこにいたのはシュヴァル姉ちゃん。
壁に向けて、のめり込むように集中して、ただただ彼女は球を投げ続けていた。
そのフォームは見惚れるほどに美して────未だに僕の目に強く焼き付いている。
思わず僕は、それを見た瞬間、大きな声で彼女の名前を呼んでしまった。
びくりと身体を震わせて、シュヴァル姉ちゃんは恐る恐るこちらを向け、顔を紅潮させていた。
『みっ、見てたの……?』
僕は興奮気味に頷いて、一緒に野球チームに入ろうと誘った。
今思えば無謀な誘いだったが、当時はそれだけの価値があると、そう思うほどだったのである。
シュヴァル姉ちゃんは困ったように、僕の誘いをやんわりと断った。
けれど、あれだけの投球を、ここで投げるだけで終わらせるのは、どうしても勿体なく感じて。
────だったら、自分にピッチングを教えて欲しい、と頼み込んだ。 - 5二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:25:52
『ぼ、僕なんかの球を……? そんな、他の人から教わった方が、良いと思うよ……?』
シュヴァル姉ちゃんは遠慮がちにそう言った。
けれど僕は彼女のピッチングが良かった、綺麗で、格好良くて、雄大で、そんな彼女の投げ方が良かった。
粘り強く説得すると、ついに彼女も折れて、少しだけ照れた様子で頷いてくれた。
『そっか、僕の球が良いんだ……だったら、教えてあげる……えへへ』
そして、僕とシュヴァル姉ちゃんは、定期的にピッチングの練習をすることになった。
僕が理想としている投球フォームは、今も彼女があの時見せてくれた姿。
今となって彼女の投げる球よりも早く投げられるし、コントロールも多分僕の方が良いと思う。
でも、あの二階から落ちるようなフォークのキレだけは、未だに真似することは出来ない。
僕が、今も専門とているピッチャーというポジションを志したのは、この時から。
彼女との思い出は、僕の人生における指針となっていた。 - 6二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:26:13
ヴィブロス姉は、実はちょっと関係性が特殊だったりする。
まず、そもそも彼女に関しては『姉』ではない。
年齢的は僕と同い年、むしろ誕生日は僕の方が早いので本来ならば僕が兄となる立場なのだけれど。
『やだやだぁ~! 私もお姉ちゃんが良いの~!』
……三姉妹で仲間外れになるのを嫌がって、結果としては僕が折れて弟、ということになった。
思えば、なんとも理不尽なことだとは思うけど、不思議と不快な気分にはならなかった。
彼女は小さい頃から、他人が嬉しくなってしまうような絶妙なラインで甘えるのが、とても上手かったと思う。
ヴィルシーナ姉さんやシュヴァル姉ちゃんが『頼りになる姉』、ならばヴィブロス姉は『やたら面倒事を押し付けてくる姉』であった。
『いいじゃんいいじゃん~! 一緒にやろうよ~! ね、ね?』
やたら距離が近く、人懐っこい笑顔で、僕のことを巻き込んだり、振り回してくる。
そして、なんだかんだでそれが楽しいのだから、不思議である。
そんなヴィブロス姉が大きく変わったのは、小学校の、真ん中あたりの学年になった頃。
彼女達が家族旅行でドバイに行った後、何度も僕に、ドバイの魅力を語った。 - 7二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:26:37
『あそこはすっごいセレブで、キラキラしてて、私も何時かあの国みたくキラキラするの~♪』
それはまるで、いつもの我儘をいうような口振り。
しかし、その目は、彼女が語るドバイのように、キラキラと宝石のように輝いていた。
それから彼女は、トレセン学園の入学を目指して、レースクラブにトレーニングにも熱心に取り組むようになった。
僕以上に付き合いが長いはずのヴィルシーナ姉さんも驚くほどの、変わりよう。
元々要領が良く、素質もあった彼女はメキメキと頭角を現して、あっという間に地元でも有数のウマ娘となった。
人は夢を見つけると、これほどまでに変わるのかと、僕も驚いたものである。
そして、大きな目標に向けて、真っ直ぐに駆けていく彼女の姿が────とても羨ましい、と思った。
僕は、彼女が夢を追う姿に、強く憧れてしまったのだ。
自分も彼女のように、果てしなく大きな夢に向けて、迷わず走りだせるような人間になりたかった。
そう思った時から、僕は将来の夢を問われた時、迷わずメジャーリーガーだと、答えるようになったのである。
彼女との思い出は、僕の人生における目標となっていた。 - 8二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:27:00
小学校高学年になる頃には、彼女達との付き合いは少なくなった。
男女差の意識、というのも少なからずあったけれど、それ以上にお互いが忙しくなったのが原因。
彼女達はトレセン学園への入学のためにトレーニングに励み、僕は野球に打ち込んでいた。
ヴィルシーナ姉さんは会う度に気にかけてくれて、ヴィブロス姉も見つけると話しかけて来てくれていたけど。
シュヴァル姉ちゃんとはこの時点で割と疎遠だったけど、これはむしろ他二人が例外だったと考えるべきだろう。
一応、僕の野球の成績とかは気にしていてくれたと、他の姉妹から聞いている。
そして、彼女達がトレセン学園に入学した後は────ほとんど話すことはなくなった。
年末とかに帰省した時、たまたま会ったら少し挨拶する程度の関係、といったところ。
勿論、彼女達のレースはチェックしているし、その輝かしい実績には僕も誇らしくなるくらいだった。
「それで、今はどう思ってるんだよ」
「……どうって、何が?」
一通り三姉妹との思い出を語った後、友人は少しばかり意地の悪い笑みを浮かべてそう聞いた。
「誰だったかは覚えてないけど、あの姉妹の誰かがイケメントレーナーと仲良さそうにしてたじゃん」
「ああ、そうだね、彼女の夢を叶えてくれる優秀なトレーナーが着いて、本当に良かったよ」
「……それだけ?」
「どういう反応を期待しているんだよ君は」
「いやほら、脳が破壊されたとか、僕が先に好きだったのにとか、寝取られたとか」
「寝てから言えよって話だろ……いや、寝たことはあるか」
「────詳しく」
「目が怖いよ……小学校入った直後くらい一緒の布団で昼寝しただけだってば」
苦笑を浮かべながら、そういえば自分でも不思議だな、と思う。
あれだけ見目麗しい彼女達に対して、そういった感情は、驚くほどに抱いていなかった。
まあ、小さい頃から一緒にいれば、そういう風になってしまうのかもしれない。 - 9二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:27:23
「いやあ、でもお前が何で彼女作らないのかと思ったけど、納得だわ」
「……えっ?」
「だってお前結構モテるだろ、先週も別のクラスの女子から告白されてたし」
「どこからそういう情報仕入れて来るの……?」
「まあモテるのは、不本意ながら、わかるんだよ」
「不本意なんだ」
「お前は勉強も出来るし、野球だってスカウト来るレベルだし、女の子の扱いも上手いし……多分友達じゃなければ嫌いになってたわ」
「ぶっちゃけるなあ」
思わず苦笑してしまう、まあこういう正直なヤツだから友達をやってるのだけど。
しかしまあ、彼が今並べた僕の良いところ、というのは見事に三姉妹に形成されたものであった。
勉強に関しては、ヴィルシーナ姉さんに褒められたくて頑張ったもの。
野球に関しては、シュヴァル姉さんに教えてもらって身に着けたもの。
女の子の扱いに関しては、まあ、ヴィブロス姉に散々振り回された結果によるもの、かな。
そう考えると、あの三姉妹には本当に頭が上がらないなと思ってしまう、最後はともかく。
「それでどうして彼女作らないのかなと思ってたんだけど、あれだけ美人が近くにいたらなあ」
「……それは姉さん達にも、告白してくれた子にも失礼だと思う」
「…………だな、悪い、すまなかった、だから俺はモテないんだなあ」
「別にそこまで言ってないよ」
少しばかり泣きそうな顔で、遠い目をして彼は嘆いていた。
こうやって素直に謝れるし、気さくだし、男友達としては良いヤツなんだけど、いささか口が軽い。
まあ、女友達は多いタイプだから、そのうち、良い出会いがありそうなものだけれど。
そんなことを考えてると、彼はケロっと楽しそうな表情を浮かべた。 - 10二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:27:44
「それじゃあさ、お前の好みのタイプ教えてくれよ!」
「聞いてどうするのさ、それ」
「お前狙いのクラスの女子に売りつける」
「……おい」
「ははっ、冗談冗談、単純に興味本位だよ、あの三姉妹と過ごしたヤツの女の趣味が気になってさ」
彼はけらけらと笑いながら、そんなことを言った。
しかしまあ、女の子の好み、というのは、思えばあまり考えたことはない。
今まで何度か受けた告白は、なんとなく合わないな、と思って断ってしまっていた。
今後のことを思えば、自分の好みというのを具体的に考えることは、有意義なのかもしれない。
僕は目を閉じて、理想の女性というのを想像してみる。
「顔はまあ、そこまで、気にならないかな」
「うわあ、イケメンみたいな答えだわ」
「なんなんだよお前……それで、包容力のある感じの、母性に溢れた、年上の女の人が良い」
「おっ、良いね良いね、そういうのを聞きたかったんだ、良いよなお姉さん、クラスの女子には絶望的な情報だけど」
「それでいて、なんかこう甘え上手な、可愛らしい、小悪魔系? みたいな感じで」
「うんうん……うん?」
「後は野球が上手ければ、他はあんま気にならないかな、こんなもんかな」
「…………」
我ながら、ストンと心の中に落ちるような答えだったと思う。
満足して頷きながら、目を開けると────そこには心底可哀相なものを見る目をした友人がいた。
「……どうしたの?」
「……いや、近くに美人の姉妹がいるってのも難儀なもんだって、思っただけだ」
「はあ?」
憐れむような表情を浮かべる彼に、僕は首を傾げてしまった。 - 11二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:28:27
お わ り
今までこの手のSSは何回か書きましたが長期的に見ると一番深刻なダメージを受けてそう - 12二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:32:05
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- 13二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 02:43:16
これは性癖破壊されてますわ…
トレ以外の男性出てくるSSってあんまり読んだこと無いから、新鮮で面白かった - 14二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 03:46:27
よりによって三姉妹全員がタイプ・・・!
- 15二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 06:22:07
好みのタイプが三姉妹全ミックスとかそりゃ彼女できませんわ……
- 16二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 06:27:19
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- 17二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 06:33:30
ヴィブロスがトレセンってことはこの男の子は少なくとも中学生?
まあそれは良いとして新鮮なネタだった…ありがとう - 18二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 06:36:03
「誰だったかは覚えてないけど、あの姉妹の誰かがイケメントレーナーと仲良さそうにしてたじゃん」
話の展開的にこれ長女や次女と見せかけて三女っぽそう - 19123/11/26(日) 07:16:45
- 20二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 12:15:28
これは一生独り身確定ですね……
- 21二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 14:50:14
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- 22二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 14:57:58
このレスは削除されています
- 23二次元好きの匿名さん23/11/26(日) 14:58:19
三姉妹の誰かが告白しに来ても三姉妹をミックスした性癖なのでダメ
他の子と仮に付き合って三姉妹側がWSS(私が先に好きだったのに)に陥る可能性もある
どれをとっても良いエンドにならないのやばくない? - 24123/11/26(日) 18:37:30