門出は、青春の輝きと共に【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:12:06

    「只今より、新郎新婦が入場致します。皆様、後ろの扉をご覧下さい」

    厳かな宣言と共に、教会の扉が開く。参列者達の視線が一斉に扉の向こうから放たれた光に集まると、その中から祝福を受ける二人が幸せな未来へ向かってゆっくりと歩み出した。
    右足から、一歩。左足を右足に揃え、また一歩。暖かな光を身に纏い、ゆっくりとヴァージンロードを歩む二人の姿は、ただひたすらに美しかった。例え、表情が緊張の余り新郎新婦共々メイクデビューのターフに立ったウマ娘のようであっても、である。

    「トレーナー、すっごく緊張してる……」
    「……笑っちゃだめ、だよ。二人とも、頑張ってるから」
    「分かってるよ」

    拍手の合間を縫ってひそひそと話し出したトウカイテイオーを、隣に座るハッピーミークが制止する。二人の担当トレーナーでもある新郎新婦は、テイオーとミークが大舞台に挑戦する時も、URAファイナルズ決勝を目前に控えた記者会見においても、凜とした姿勢で記者達の質問に答え、自身が担当するウマ娘の勝利を宣言してきた。
    その姿をずっと側で見続けてきたが故に、普段の姿からは想像できない程緊張した二人のトレーナーの様子は、テイオーにとっては初めて見る姿だった。思わず、顔が綻ぶ。

    「……でも、とても綺麗ですわ」

    反対側に座ったメジロマックイーンが、感嘆の声を零す。瞳に映る純白のウェディングドレスに、自身の姿を重ねているのは想像に難くない。テイオーもまた、美しい純白に瞳を煌めかせながら応える。

    「うん、とても、とっても綺麗だ」

    二人が神父の元へ歩み終えると同時に、周囲の空気が厳かなものに変わる。ステンドグラスから差し込む陽の光に照らされて、現実ではない、どこか神聖な別世界に入り込んだとさえ思えた。
    それまで、二人を心のどこかで普段通りのつもりで見ていたテイオーも、思わず息を呑んだ。ターフに立ったときと同じ緊張が、全身を駆け抜ける。

  • 2二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:13:50

    「新郎、────さん。あなたはここにいる葵さんを最愛のパートナーとし、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、喜びに充ちし時も、悲しみ深い時も、妻として愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、トレーナーとしてウマ娘達の為に切磋琢磨し、その命ある限り真心を尽くして、いつまでもどこまでも支え合う事を誓いますか」
    「誓います」

    力強く、凜とした言葉。ほんの一瞬、彼の口元に笑みを見た。テイオーの表情がふ、と和らいでいく。三冠を、天皇賞を、有馬記念を、URAファイナルズを共に走り続けてきた人の笑顔が、そこにある。笑顔と共に誓いを受け取った桐生院トレーナーの瞳に、想いの宝石が光った。

    「では、新婦、葵さん。あなたはここにいる────さんを最愛のパートナーとし、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、喜びに充ちし時も、悲しみ深い時も、夫として愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、トレーナーとしてウマ娘達の為に切磋琢磨し、その命ある限り真心を尽くして、いつまでも、どこまでも、支え合う事を誓いますか」
    「はい、誓います」

    優しく、柔らかな言葉。桐生院が応えると、神父の導きで二人は手を取り合い、誓いの言葉を述べる。互いの左手薬指に指輪を贈る時、桐生院は、ヴェールの中で優しく微笑んでいた。ミークは小さくため息を零し、静かに目を細めた。

    テイオーとミークの胸に、万感の想いが溢れ出す。結婚証明書に署名した二人は再び手を取り合って、ヴァージンロードを歩み出す。入場した時の緊張した姿はもうどこにもない。大舞台に相応しい勝負服を身に纏い、開かれたゲートから未来へ向かって、力強く歩んで行く。
    テイオーは、二人の姿を見送りながら、そっと瞳を閉じた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:15:44

    「はちみー、はちみー、はっちーみー、はっちーみーを-なめーるとー♪」

    時は、テイオーがシニア級に上がった2月の事。いつものように自作の歌を楽しげに奏でつつ、彼女はトレーナー室へと向かっていた。参戦すら危ぶまれる程の怪我を乗り越えて挑んだ"無敗の三冠ウマ娘"の夢は惜しくも菊の舞台に散ったが、それを引きずるテイオーでは無い。悔しさは、涙と共にターフへと置いてきた。
    新たな夢を目指し、決めた次走は天皇賞(春)。ライバル・マックイーンとの直接対決へ向け、力を付ける日々を送っていた。

    「トレーナー、入る……ん?」
    「……そうだな、ありがとう。ミークならきっと良い相手になってくれると思うよ……」

    扉に手を掛けると、トレーナーの話し声が聞こえて来た。察するに、来客ではなく電話をしているようだ。ミークの名前が出たという事は、相手は彼の同期、桐生院トレーナーだろう。

    ははぁ、さては次の併走相手を探してくれてるんだな。うむ、大義であるぞよ。ミークも年末から調子が上がってるみたいだし、今度はどこかのGⅠで対決するかもね。ま、それでも勝つのはボクだけどね!

    そこまで思いを巡らせた時、脳裏に悪巧みが閃いた。ニヤリとイタズラな笑みを浮かべ、テイオーは音を立てずにトレーナー室へと忍び込む。思った通り、電話をしながらスケジュール帳にペンを走らせているので、自身には気付いていない。

    しめしめ、電話が終わった瞬間ワッと叫んで驚かせちゃおっと!

    ニヤニヤと笑みを浮かべ、ソファーやミーティング用の机の影を器用に潜り抜けつつ、テイオーはトレーナーのすぐ側まで近づいた。話も佳境、後は大声で飛び出すタイミングを見計らうだけだ。が、その時。

    「じゃあ、今週の木曜日で、よろしく。それと……楽しみにしてる、今度のデート」

  • 4二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:17:58

    デート。確かにそう聞こえた。聞き捨てならないキーワードを拾ったテイオーの耳が、レーダーの如くピンと立ち上がる。ニヤニヤとした笑みを収め、真剣な表情で物陰から聞き耳を立てた。

    「ごめんごめん、こうして二人で話してる時でもないと、こういうのは言えないから……うん、うん。分かってる。テイオーとミークにも、タイミングを見て伝えよう。俺達も二人も、今はライバルだからな」

    息を殺し、耳に意識を集中させると同時に、心臓の鼓動が一気にテンポを上げていく。ゴクリ、という喉の音さえも、普段より遙かに力強く耳に届いた。

    「それじゃあ……好きだよ、葵……ありがとう。じゃあ、また」

    彼の言葉が耳を貫くと同時に、全身が沸き立つ感覚と、感情が噴火するような感覚。声にならない叫びをなんとか堪え、溢れ出した感情の奔流を抑え込む。無音のまま大きく深呼吸して心を落ち着かせると、テイオーは目をキラリと光らせた。

    「……嬉しいなぁ、"好き"って言葉」

    電話の向こう側から送られた、優しい声色を思い出す。いつもは凜と締まっている彼の表情が、春風に触れたように緩んだ。

    「……"大好きです"か……ふふ」
    「うんうん。ボクも大好きだよぉー? そ・う・い・う・の♪」

    その瞬間、彼の顔から表情が消え、顔色が一瞬で青ざめた。目線と共にゆっくり、ゆっくりと声のした方へ顔を向ける。そこには、自身の担当ウマ娘であるトウカイテイオーが、びっくりするくらい嬉しそうな笑みを浮かべて立っていた。しまった、いつから、と彼が咄嗟の言葉を選ぶ間も無く、テイオーが口を開く。

    「ちょっとトレーナー! 桐生院さんと付き合ってたのぉ!? もぉ言ってよそういう大事な事はさぁー!! ねぇねぇいつから!? いつからなの!? どっちから告白したの!? 今度でデート何回目!? 手は繋いだ!? あっ、チューは!? チューとかした!? それともこれから!? ねえねえねえ!!」
    「ちょっ、待っ……!」

    凄まじい勢いでまくし立ててくるテイオーを必死に宥めようとするが、興奮した彼女の勢いは如何ともし難く、彼はあえなく圧倒されてしまった。このままでは、馴れ初めから今日までの事を一から十まで余すこと無く白状するまで解放して貰えなくなってしまうだろう。進退維谷まるとはこの事である。

  • 5二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:23:48

    最早彼には、テイオーの大声を聞きつけて誰か、例えばルドルフ会長のようなテイオーに強い助っ人が来てくれる事を祈る事しかできなかった。
    だがその時、切なる願いが天に通じたのか、彼の耳にトレーナー室の扉が勢いよく開く音が飛び込んだ。彼は三女神に感謝しつつ、この窮地を切り抜ける一手を活かすべく、持てる頭脳を総動員しに掛かる。と同時に、音の主が声を上げた。

    「テイオーちゃんだけずるい! マヤもそのお話聞きたーい!」

    現れたのは、マヤノトップガン。テイオーのルームメイトで、大人の女性に憧れる天才少女。勢い付いたテイオーに加え、おませでこの手の話に目が無いマヤノまでもが自身に詰め寄ってくるという状況である。彼は、三女神を少しだけ恨んだ。どう考えても覆せる訳がない。

    そもそもの話、テイオーも、マヤノも、鎬を削る大勢のライバル達だって、トゥインクル・シリーズを駆け抜けスタンドを熱狂させるスターウマ娘である以前に、思春期真っ只中の少女なのである。朝から晩までトレーニングに明け暮れる日々の中、むしろ年相応に恋バナで盛り上がる二人の姿に、一指導者として安心するべきなのかもしれない。
    開き直った末、一周回ってそんな結論に彼が到達したと同時に、テイオーとマヤノが同時に詰め寄った。

    「トレーナー、聞かせて!」
    「桐生院さんとの話!」

    彼は観念した様子で、一度天を仰ぎながら脳内でお付き合いを始めたばかりの恋人に一言ごめんと呟くと、目を輝かせ尻尾をぶんぶん振りながら迫り来る二人のウマ娘に向き合った。
    結局、その日のテイオーとマヤノのトレーニングに、急遽オトナの賢さトレーニングが差し込まれる事と相成ったのであった。

    その後、真面目な彼はテイオーとマヤノにしっかりと口止めし、自分達の関係がテイオーにバレた事をしっかり桐生院に伝え、謝った。いつかは言うつもりでしたから、と桐生院が優しく慰めてくれた為、彼の心にもようやく安堵の想いが灯る。

    とは言え、新人でありがながら無敗で二冠を獲得し、更なる飛躍を目指すトウカイテイオーのトレーナーと、そんな彼に惹かれた名門・桐生院家のご令嬢の恋物語が恋に恋する女の子二人組に知れたとなれば、口止めしようがしまいが大して変わらない。話が学園中を駆け巡るのに半日もかからない。
    そして、彼は桐生院共々、噂を聞きつけた人達への説明に追われる事になるのであった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:25:51

    「それでさ、本当に大変だったのはそれからだよ! ホント、自分の事ももうちょっと考えて欲しいよね」
    「いやぁ、ご両人とも大変真面目な方でしたからなぁ、学園中があんなに盛り上がったのに全然進展しないんだもの」
    「ネイチャちゃん、商店街のみんなと手を組んでヒューヒューしたんでしょ? マヤ知ってるよ」
    「そう言えば……トレーナーが、いつからか、毎日お弁当を作って渡すようになった……愛妻弁当、ネイチャ先生のおかげ?」
    「ふっふっふ、お得意様の確保には常に余念が無いのだよ、我が愛しの商店街様は」

    テイオーのトレーナーと桐生院の結婚式・披露宴が無事に終わり、テイオーを始め参列者達は二次会の会場へ移っていた。披露宴では、生徒会が主体となったお祝いのムービーを流したり、ルドルフ会長や秋川理事長を初めとした関係者達の祝辞、新郎新婦の感謝の手紙、歓談の際は写真撮影やらなんやらでそれぞれ忙しくしていたので、ようやく腰を落ち着けて、思い出話に花を咲かせていた。

    「それにしても、素敵でしたわね、桐生院トレーナー……ああ、もうその名で呼んでは失礼ですわね」
    「そうだマックイーン、桐生院さんのドレス見て、今度は自分が着たいって思ってたでしょ」
    「それは勿論。白無垢も素敵ですが、やはりウェディングドレスには憧れますわ」
    「真っ白なドレス……お色直しのドレスも、とっても、とっても綺麗だった」
    「いいなー、マヤも早くトレーナーちゃんとウェディングフライトしたーい」
    「えっ……マヤノ、アンタトレーナーさんとそういう関係なの?」

  • 7二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:27:10

    口々に式への感想を述べる中、何の前触れも無く突然放たれたマヤノの熱愛報道に驚愕の表情で応えたネイチャに対し、テイオーが思わず笑い声を上げる。マックイーンを始め、テーブルに掛けた全員がどこか困ったような笑みを浮かべていた。

    「いやいや、ネイチャがそれ言っちゃう?」
    「いや、ちょっとアタシ的には意外だったと言うか……って言うか待ってテイオー、アタシは別にそういうんじゃ無いからね?」
    「ううん……ネイチャ大先生、恋愛のプロフェッショナル。結婚、秒読みという噂」
    「ちょっとミーク!?」
    「ふふ、聞きましたわよ? 折り紙で作った、金のトロフィーのお話。素敵ですわね、心を繋ぐ二人だけの……」
    「待って待って! 何で知ってるの!!」
    「もう次の結婚式はネイチャちゃんじゃなーい? トレーナーさんの1着だけは誰にも譲らな」
    「わ゛ーっ!! わ゛ーっ!! うにゃぁああああ!!」

    顔を真っ赤にして自分で自分の耳を塞いで大声を上げるネイチャの様子に、テイオー達のテーブルが楽しげな笑い声に包まれた。ある時はライバルとして共にターフを駆け、あるときはこうして笑い合った、青春の一時。それぞれが、この瞬間を大切に抱きしめて、未来へ持っていきたいと心から思っていた。

  • 8二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:29:08

    「ふー、ちょっと休憩、休憩……」

    一人呟きながら、ミークは火照った身体を夜風に当てていた。すぐ側からは、未だに二次会に参加した参列者達の賑やかな声が聞こえてくる。
    レースとはまた違う、こんなに楽しい時間をもっと一緒に楽しみたいし、二人の幸せを喜び合いたい。大好きなトレーナーの晴れ姿を見届けた日の事は、一生記憶に残しておきたい。
    涼しい夜風の中で深呼吸し、ほうと一息ついて会場に戻ろうとしたミークの視界に、自分と同じように夜風に当たるウマ娘の姿が見えた。
    思わず、口元が動く。スマホの灯りに照らされた表情が、普段の快活な彼女の表情とは真逆の、とても寂しげな顔に見えたから。

    「テイオー……?」
    「お、ミークも休憩?」
    「うん、ちょっと……熱くなっちゃって」

    ミークの声に、テイオーはパッと明るい笑顔で応えた。促されるまま、彼女の隣で二人は夜風に当たり、火照った身体を整える。

    「ようやくここまで来たよ。でも、やったね、ミーク!」
    「うん……トレーナー、とっても嬉しそうだった。でも、これからは……もっと、幸せ」

    テイオーに応えてミークが笑みを浮かべると、彼女もまたニッと口角を上げ、ミークと拳を付き合わせて互いを労った。それからは、二人だけの思い出話に花が咲いた。

  • 9二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:30:22

    「覚えてる? 桐生院トレーナーを食堂で囲んだ日の事!」
    「うん……トレーナー、私のトレーニングを理由に逃げようとしてた……捕まえて良かった」
    「マヤノとネイチャとマックイーンも来てさ、盛り上がったよね!」
    「新しいデートコースの話……テイオーのトレーナーさんが来なかったら……ずっと、聞いてたかも」

    時に、食堂の一角で桐生院トレーナーから二人の進展を根掘り葉掘り聞きまくり、聞きつけたテイオーのトレーナーに解散させられた事。

    「……何かある度に、みんなで二人の所へ押しかけたっけ」
    「デートに行くって聞いて、ボク達みんなこっそりデートプラン作っててさ、結局全員で渡しに行って全部却下されたりとかね!」
    「自分が行く時に取っておいて下さい……って、叫んだ時のトレーナー、顔、真っ赤……可愛かった」

    デートの噂を聞きつけ、各々内緒でデートプランを企画し渡しに行くはずが、誰のデートプランが選ばれるかで期間限定の特製パフェを賭ける流れになり、全員揃ってトレーナー達に提出しに行った日の事。

    「トレーナーがお弁当を渡す瞬間……激写」
    「そーだそーだ! あれは本当にマヤノのファインプレー!」

    桐生院が彼の為に作ったお弁当を渡す現場に居合わせたマヤノがその現場をスマホで撮って拡散し、大騒ぎになった時の事。マヤノと、拡散に一役買ったテイオーとミークも大目玉を食らった。
    二人にとって、どれも、大好きなトレーナーと、大好きな友人達との、大切な思い出だった。どれだけ語っても、語り尽くせない思い出が溢れ出す。普段は無表情なミークも、今日という祝いの日には嬉しそうに笑みを浮かべていた。

  • 10二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:33:28

    「ねえ、ミーク」
    「……うん?」
    「ボクさ、トレーナーの事、好きだったのかも」

    刹那、胸の奥に、衝撃が走る。トレーナー達にちょっかいを出していた時と変わらない、快活でイタズラな笑顔のままに突如放たれた言葉に、ミークは声を失った。あの寂しげな表情の理由を一瞬で理解してしまった為に表情は一瞬で強張ってしまい、何か反応を返そうとして思わず開いた唇からは、何も言葉を出せなかった。目を見開いて固まったミークの様子に、テイオーが困ったように笑う。

    「ゴメンゴメン、驚かせちゃって。勿論、トレーナーが桐生院さんと付き合って結婚した事は、とっても嬉しいよ。正装したトレーナーも、ドレスを着た桐生院さんも、本当に幸せそうだったもんね」

    思い詰めた様子は感じない。目線を遠くの夜空に移して尚、テイオーは晴れやかな笑顔で語っていた。ミークは、テイオーの語りに静かに耳を傾ける。

    「俺達、結婚します……ってトレーナーが桐生院トレーナーと一緒に宣誓した時なんてさ、皆して『遅い!!』ってブーイングしたりなんかして。でも、カイチョーも皆も、学園をあげてお祝いするって張り切ってさ。勿論、ボク達も絶対結婚式を成功させようって、頑張って準備してきた。二人が絶対幸せになれるように、って。でも、それでも……今日、二人の結婚式を後ろで見てて、一瞬思っちゃったんだ。『今までずっと、トレーナーの隣に立ってたのはボクだったのにな』って。入場してきた時のトレーナーの顔も、いつもよりずっとガチガチで、ボクと一緒の時とは全然違ってた。でも……」

    瞳を閉じて思い描くのは、テイオーの側で彼女を導き続けた彼の笑顔。力強く、凜とした言葉が脳裏を過ぎる。

    「『誓います』って言った時のトレーナーを見てさ、思ったんだ。『ああ、良かった。ボクのトレーナーだ。ボクと一緒に、挫けても立ち上がって夢を掴んでくれた、最高のトレーナーだ』ってね!」
    「……うん」

    ターフで何度も見た、天真爛漫、晴れやかで眩しい笑顔。その瞳に、たっぷりと想いの詰まった一等星が光る。ミークの胸に、暖かい想いが溢れ出した。ウェディングドレスを纏い、ベールの向こうで幸せな笑みを浮かべていた、自身のトレーナーを想う。

  • 11二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:35:24

    出会ったその日からずっと、私を見ていてくれた、大好きな人。ゆっくりと、ゆっくりとスピードを上げる私に、笑顔で寄り添い続けてくれた。私の、大好きなトレーナー。
    瞳を閉じて、ゆっくりと深呼吸。そして、瞳をそっと開いて、自身もまた、テイオーに向かって微笑んだ。

    「……私達も、いつか、着たいね。ウェディングドレス」

    いつになるかは分からない。けれど、きっとその日までに、私達もウェディングドレスが似合う素敵な大人のウマ娘になって、大好きな二人に、晴れ姿を見せに行こう。
    テイオーは、瞳に湛えた想いを指で軽く拭うと、不敵な笑みを浮かべてミークに向き合った。

    「じゃあ、ボクが皆の中で最初にウェディングドレス着ちゃうもんね!」
    「……私も、負けないよ。ライバル、だからね」

    ミークもまた、テイオーに不敵な笑みで応える。互いに拳を付き合わせ、二人は次の夢へ向かうゲートへと立ったのだった。

    「あ、いたいた。テイオー、ミーク、デザート来たけど、そろそろ戻るー?」
    「うん! ありがとネイチャ!」
    「それと、マックイーンの一心同体伝説、聞きたくない? 早くしないと話し始めちゃいますよー」
    「何それ、最高じゃん! すぐ行くよ!」

    テイオーが応えると、ネイチャはひらひらと手を振りながらウィンク一つ、会場へと戻っていった。ふう、と一拍おいて、ミークに向き直る。

    「戻ろっか、ミーク。今夜はまだまだ騒いじゃうよ!」
    「むふ、トレーナーに内緒で、たっぷり夜更かししちゃいましょう。えい、えい、おー」
    「おーっ!」

    二人は手を突き上げ、そのまま両手でハイタッチした。爽やかな笑顔と弾けるような音が、辺りに心地よく響く。大好きな人の門出を見送って、思春期の少女はまた一つ、大人になった。いつか自身がヴァージンロードを歩く日に、きっとこの日の事を思い出すに違いない。
    いつか来るその日を、大好きな人に自身の門出を見せる日を楽しみに、テイオーとミークは愛すべきライバルであり、親友達の待つ賑やかな会場へと駆けて行くのであった。

  • 12二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:39:20

    以上です、ありがとうございました。


    えっ……トレーナーって桐生院さんと付き合ってるの!?|あにまん掲示板えっえっいつから!?いつから!?ねぇチューした!?チューとかしたの!?デートは!?結婚とかするの!?ねえねえねえねえねえ!!!身近な大人と身近な大人が付き合ってると聞いて好奇心丸出しにする女子中学生テ…bbs.animanch.com

    古いスレではありますが、こちらのスレの197にて投げっぱなしにし、いつか書きたいなぁと思いつつ忘れていた簡易的なプロットを思い出し、改めてお話として形に致しました。トゥインクル・シリーズを駆け抜けるスターとして活躍するウマ娘達ですが、等身大の少女の一面からしか得られない栄養素があると思います。この栄養素はDNAに素早く届く。

  • 13二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 22:50:59

    おつ 例の概念は俺も好きだから書いてくれる人がいて良かった

  • 14二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 23:09:48

    トレと葵ちゃんがくっつく概念は初めて読んだから新鮮
    テイオーゆかりのウマ娘出しつつも、きちんとまとめてるのしゅごい

  • 15二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 23:41:11

    どこかで見たことあると思ったら懐かしの概念スレだった
    恋バナで盛り上がるウマ娘からしか得られない栄養素を久しぶりに摂取できて満足

  • 16二次元好きの匿名さん23/11/30(木) 23:54:46

    この概念好きだったから深掘りしたSSすごく嬉しい
    ガキんちょしてたテイオーがちょっとだけ大人になってるの好き

  • 17二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 07:20:56

    >「……私達も、いつか、着たいね。ウェディングドレス」

    SSになった事でミークのこの台詞がすごくすごい深みを増してて好き。青春って良いよね……

  • 18二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 10:46:05

    貴重なトレ院助かる。
    女子中学生全開テイオーが大人の階段を一段登るのも大変良き。

  • 19二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 20:50:33

    面白かったです

  • 20二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 21:03:54

    皆様、読んで頂きありがとうございます。


    >>13

    良い概念ですよね、スレタイの第一印象から良い意味で裏切られました。

    と同時にテイオー他がトレーナーの恋路にキャーキャーする様子が一瞬で想像できたので凄く楽しいスレでした。


    >>14

    担当ウマ娘との関係性がフューチャーされがちですが、お出かけイベントとか改めてじっくり眺めるとトレ葵も想像が広がる良い概念だと思います。SSR桐生院とか実装されませんかね。

    テイオーとミークを中心にわちゃわちゃするメンバーはなるべく多めに出したかったので、上手くまとめる事ができて良かったです。


    >>15

    スレ立ってから1年半経ってました。時が経つのは早いですね(白目)。

    なかなか摂取出来ない栄養素(多分)なので、満足頂けて嬉しいです。


    >>16

    何度も見返すくらい好きなスレでした。SSを書くのは遅くなってしまいましたが、嬉しいとのお言葉、恐縮です。

    中等部全開のテイオーも良いですが、こういった経験を経て一回り大人になるテイオーも絶対に魅力的だと思う次第です。


    >>17

    SSをしっかり書くに当たり、この台詞がより魅力的になるように自分なりに考えておりました。

    印象に残る台詞になったのなら幸いです。青春良いよね!


    >>18

    トレ院の魅力がもっと広まると良いなーと思う次第です。

    子供が大人の階段を上るその時にしか見せない魅力的な表情、良いですよね……。

  • 211(20も1です)23/12/01(金) 21:10:38

    >>19

    ウワーッ!金曜日の神絵師様!!いつもお疲れ様です!そして、ありがとうございます!!

    FAの方、ありがたく保存させて頂きます。ウェディングドレス姿の桐生院トレーナー、すごくすごい美しいです……!

オススメ

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