- 1二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 18:57:44
- 2二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 18:58:23
これは、わたしが小さな時にに、アビドスのおじさんから聞いたお話です。
昔は、私たちの仮校舎よりもっと西、今では砂漠となっている場所に大きな校舎があって、アビドスは栄えていたそうです。
その砂漠には、昔から死者の魂を司る、「アヌビス」とよばれる神様がいました。
アヌビスは怠惰な神様で、今日もアビドスに吹き荒れる砂嵐を空の上で寝転がりながら眺めていました。
ある、風の強い日のことでした。
アヌビスは今日も今日とて砂漠の一角を眺めていました。
そこはかつてアビドスの中心部があった場所です。
アヌビスは砂嵐の中に誰かが倒れていることに気が付きました。
どうやらまだ生きています。
この程度の砂嵐、アヌビスにとってみては足元に吹くそよ風に過ぎませんが…
矮小な人如きに情けをかける気分にもなれなかったアヌビスは、それからしばらくの間、アビドス繁栄の遺構を何をするでもなく眺めていました。 - 3二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 18:58:50
数日後、アヌビスはまた砂漠を覗いていましました。
また誰かが歩いています──誰かの死骸とその遺品を背負って…。
そこでアヌビスは気が付きました。
その少女が単なる人ではないことに。
そして、彼女が背負っているのが、数日前に砂嵐の中で行き倒れた少女であることに…。
赤く暁く輝くヘイローと、金碧のオッドアイは、彼女が亡きホルスの神秘を強く宿した存在である何よりの証拠でした。
アヌビスは後悔しました。
亡き異母兄によく似たその瞳が、その貌が、幾重の絶望と狂気に染まっていく様に…。
アヌビスは意を決すると、自らの分身を生み出し、アビドスの仮校舎へと送り出しました。
せめて、彼女の支えとなってあげられるようにと願って…。 - 4二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 18:59:10
こうしてホルスを宿したその少女──小鳥遊ホシノに拾われた空っぽの分身は、「砂狼シロコ」と名付けられ、編入生としてアビドスの生徒となりました。
それから数か月の間、シロコは後輩と同級生に囲まれて幸せな時間を過ごしました。
特にシロコはホシノからもらったマフラーをたいそう気に入り、どんなに暑い日でも肌身離さず首に巻いていました。
壊れきってしまったホシノの心も、彼女が2人の後輩を守るという目的を見つけてからは、第に落ち着きを取り戻していきました。
しかし当時、アビドス高校は極めて苦しい状況に置かれていました。
度重なる被災によって財政は破綻、代々の生徒会はなんとかこれを立て直すべく悪名高きカイザーグループの融資を受けてまで財政再建に取り組みましたが…結果は大失敗。
ホシノの代には小さな仮校舎と9億の借金しか残されていませんでした。
当初ホシノ達はシロコを心配させまいとこのことを隠していましたが、そもそも利息の返済に全力を注いでいる状況で隠し通せるわけもなく…
ある日、とうとうホシノはシロコに、今学園が置かれている状況を伝えました。
その翌日のことです、シロコがホシノたちの前から姿を消したのは…。 - 5二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 18:59:38
突然のことにホシノは卒倒し、目を覚ますや否やアビドス中を探し回り、遂には心折れて部屋にこもりきりになってしまいます。
独り残された後輩は、自分だけで借金の利息を返済せねばならないと頭を抱えました。資金を集めるため方々を駆けずり回り、それでも間に合わず、カイザーローンの取り立て屋を震えて待ちました。
利息の支払い日となり、朝日が昇り、頭上を回って、西の砂漠へ沈み……来ませんでした。
その月も、その次の月も、更にその次も…。不思議に思った後輩はやっとのことで二度目の人格崩壊を起こしたホシノを部屋から引きずり出すと、最寄りのATMへと向かいます。
なんと、誰とも知れぬ名義から、アビドス高校の引き下ろし口座へと大量の現金が振り込まれているではないですか。
18度にわたる入金によって既に借金の額は7億にまで減少しています。
ホシノと後輩は奇妙に思いつつも、再び学校再建へと動き始めます────シロコの帰る場所を、アビドスで過ごした短くも濃密な青春の跡を守るために。
既に彼女達には、この資金の出所を探る余裕も勇気も残っていませんでした。 - 6二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 18:59:51
シロコは今日もブラックマーケットを駆けます。カイザーローンの現金輸送車は千を超えるのです。
その全てに目を配ることなど到底不可能。
生半可な護衛では運転手ごとのしてしまうその強さ、気づいた時にはもう現金を奪われている神出鬼没な機動力、100人のPMCによる追撃をいとも容易く撒き消える逃走のセンス。
謎の覆面強盗による被害総額は半年にして数億を数え、不安を覚えた市民たちがカイザーバンクに預けたお金をおろし始める有様。
さらには某団体が出所不透明な謎の大金をネフティス社に信託投資したことで市民たちがこれに倣い始める始末。
ここにカイザーグループのアビドス金融支配は崩壊しました。 - 7二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:00:08
カイザーバンクはトカゲのしっぽを切るようにアビドスから撤退。
なおも続く強盗被害にせめて決着をつけるべく、アビドス高校に取引を持ち掛けます。
「強盗の討伐に協力してほしい。前金で残り1億の借金はチャラにするし、成功報酬で周辺の土地も全て返却する。」
ホシノ達もこのころになると、資金提供者が例の銀行強盗であることに薄々勘づいていました。
ちょっとした罪悪感とわずかな興味から、彼女達はこれを了承します。こうしてカイザーとアビドスの提携の下、銀行強盗捕縛作戦が実行に移りました。 - 8二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:00:22
シロコは油断していました。
あるいは安堵していたのかもしれません。
次の襲撃で全てが終わる、やっと先輩たちの下へと帰れる、あの暖かい廃校舎へと────その希望が希望のままに潰えるとも知らずに。
シロコはいつものように狭い路地に入った現金輸送車へと襲撃を仕掛けます。
手榴弾で輸送車両の屋根を吹き飛ばし、直後ドローンの支援射撃と閃光弾を叩き込んで運転手と護衛を即座に無力化、おまけにぶっ放したパンツァーファウストの爆風に逆らいながら、シロコは粉塵漂う廃車の荷台へと身を躍らせます。
彼女が勝利を確信し、両手のバッグに大量の現金を詰め込もうとした、その時でした。
彼女の背後から、戦車すら粉砕する擲弾の爆心地から、誰もいないはずのその空間から、ショットガンのズドンという轟音が響き渡りました。 - 9二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:00:35
シロコはバタリと倒れました。何かが彼女のポケットから零れ落ちます。
銃声の主は巻き上がる土煙の中、悪名高き覆面強盗の無力化を確認するべく足を進めました。
そしてその姿と、彼女の落とした何か────無数の振込明細でパンパンに膨れた手帳を見て、愕然としました。
ショットガンをだらりと垂らし、ホシノは声にならない声を漏らしました。
「シロコちゃん、君だったんだね……いつも立て替えてくれたのは……」
シロコは、ぐったりと倒れ込んだまま、最期の力を振り絞ると右手に持った現金を掴み上げました。
分身体の脆いヘイローにびっしりと走ったひびを目にして、ホシノは最悪を悟ります。
「ん……、ホ……シノ……先………ぱ………ごめ………ん………」
「わた………し………に…マフ………ラーを…………………………巻いて………くれて………」
そして、シロコの頭上の円環は、今際の言葉を待たずして音もなく粉々に砕け散りました。
ホシノはばったりとショットガンを落としました。
暁い煙が、まだ筒口から細く出ていました。
めでたしめでたし - 10二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:04:41
救いはないんか…(震え声)
- 11二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:09:29
寄りにもよってアビドスでごんぎつねパロはやめろぉ!
- 12二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:46:16
こんなんおじさん後追いしちゃうよ…
- 13二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:51:38
また救えなかったんだね
可哀想に - 14二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:53:47
- 15二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:55:07
- 16二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 19:57:36
❌怪文書
⭕壊文書 - 17二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 20:37:17
結末は予想出来た予想通りだった
やっぱつれえわ…… - 18二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 20:46:15
人の心ないんか…?
- 19二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 21:20:19
これがキヴォトスに伝わる童話かぁ
- 20二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 21:54:35
後輩が先輩に恩返しするいい話だなぁ
- 21二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 22:10:32
ん…
- 22二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 22:41:54
(思ったより好評なので後日譚書いてみます。)
「ん、今年も読み聞かせ、ありがとう。」
そう言って目の前で笑う少女は、このアビドス孤児院の院長だ。
今日もその灰色のヘイローが鈍く輝いている。
「いえいえ、またいつでも呼んでくださいね。
この娘たちが、アビドスの未来なんですから。」
あの日、砂狼シロコのヘイローが灰色の塵に帰った日、小鳥遊ホシノは完全に壊れてしまった。
後になってわかったことだが、彼女の身体はとてつもない神秘を宿し、またその神秘に蝕まれていた。
『暁のホルス』と呼称されるそれは、シロコの亡骸を抱えると一直線に歩き始めた。
────煌々とヘイローを輝かせ、とてつもない熱量でブラックマーケットを焼き尽くしながら…。
自らの命すら燃やし尽くさんとするその感情の内実は、如何程であったことだろうか。
長き歩みの末、彼女はアビドスの廃校舎の一角へとたどり着いた。
既に彼女の纏っていた灼熱は消え去り、ヘイローの輝きも目をこすらねば見えぬほどに弱弱しくなっていた。
「────────シロコちゃん、おじさん、私、もう、疲れたよ………」
不意に零したその言葉に、私は何を言えばいいのかわからなかった。
小鳥遊ホシノはボロボロになった体で校庭を掘り返し、何時間もかけて作った窪みにシロコの骸を横たえた。
土を戻し、折れたスコップの柄を地面に突き立てて、そこにそっとマフラーを巻いた。
そうだ、この場所は、あの日先輩と私がシロコと会ったあの場所じゃないか…。
小鳥遊ホシノ──ホシノ先輩は不意に振り返り、私に満面の笑みを見せ…
「ごめんね」
そうとだけ言って倒れ込んだ。
そして、二度と目を覚まさなかった。 - 23二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 22:42:35
何の奇蹟か神秘か存ぜぬが、その後アビドスの砂害は嘘のように収まった。
メフティスグループは総力をあげて砂の去った廃虚の再開発を始める。
今、アビドスは立ち直りつつあるのだ。
「『すなおおかみ』、悲しいお話だよね…。」
背後から院長の声がした。
「はい、どうしようもないすれ違いの末の悲劇ですから…
でも、本当にこのお話でよかったんですか?
子供達にはもっと、ハッピーエンドな冒険譚とかでも…」
「ん……、そうなんだけど、すごく悲しいお話なんだけど…
なんだか、無性に懐かしくて…このお話を選んだのも、実は私のわがまま。」
そう語りながら、院長の灰色のアホ毛がぴょこぴょこと揺れる。
私は辛気臭い空気を紛らわすように言った。
「砂祭り、もうすぐですね。」
「ん、子供たちも楽しみにしてた。
私も…昔のポスターを見ると、ちょっと興奮しちゃって…
……………………
どうしたの、ノノミ先輩?」
そう言われて、私は初めて頬を伝う涙に気づいた。
「わ、わかりません、砂塵が目に入ったのかも…」
苦しい言い訳をしながら、私は院長の──かつての先輩の頭をそっと撫でた。
目覚めたホシノ先輩のヘイローや髪は燃え尽きた灰のように変色し、何より彼女は小鳥遊ホシノとしての記憶を喪っていた。
抜け殻となった先輩をそのまま復帰させるわけにもいかず、私は彼女に別の名前を与え、1年生として再入学させることにした。
その後紆余曲折ありつつも、私たちは今の形に落ち着いている。
「砂祭り、楽しみですね、シラホシちゃん。」
私は似たような言葉を繰り返し、砂漠へと目をやった。
────先輩の見たかったもの、シロコちゃんの譲れなかった想い、私が守りますから…。
────だからどうか、安らかに。
END - 24二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 22:45:03
白星…
勝ち(負けた) - 25二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 22:45:19
燃え尽きた暁のホルス……
- 26二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 22:46:17
シロコがホシノの神秘で蘇ったのかと思いきやシロコの口癖が無意識に移って再誕したホシノかあ
- 27二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 22:49:24
ホシノ…
そりゃ心壊れるよ… - 28二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 22:58:07
いい話だなぁ
もう一回読も
(再読中)
イイハナシカナー? - 29二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 23:50:24
妹みたいな子を殺してしまったホシノ…
- 30二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 23:57:52
これホルスの生き写しが死んで髪まで分身の自分そっくりになったアヌビス曇らせでもある
- 31二次元好きの匿名さん23/12/01(金) 23:59:53
ユメ先輩を見ておきながら助けなかったのが悪い
生徒になる前は推定イシスでしょうに先輩 - 32二次元好きの匿名さん23/12/02(土) 00:13:27
(絵本になる過程で創作したものでなければ)不自然に砂嵐が消えた理由は……
- 33二次元好きの匿名さん23/12/02(土) 08:33:33
一度、壊れてしまった、人の心は、二度と、二度とは……!
- 34二次元好きの匿名さん23/12/02(土) 13:44:09
ハッピーエンドになってよかったですね(白目)