【水木×ボルキアSS】殺人者の温もり

1二次元好きの匿名さん23/12/02(土) 22:07:43

「達人ボルキアがやられた？」

部下からの連絡を受け、脳裏に浮かぶ褐色の肌の大柄な男の顔。鬼龍に女を寝取られ復讐に燃える俺が雇ったナイフ術の達人だ。その技の切れは近くでみたことがあるのでよく知っている。あの男が負けるなんてことは考えられなかった。つい先日あの鬼龍の息子といわれている少年を相手にも有利に立ち回っていた実力者なのだ。気づけば俺は我を忘れて病院へと走っていた。鬼龍に割られた頭を隠していた前髪が乱れ、痛々しい傷跡が露となっていることだろう、だがそんなことはどうでも良い。

「はあはあっはあはあっ…！」

ボルキアどうか無事でいてくれ。ボディーガードとして俺を守ってくれている時に気付いたんだ。自分の気持ちに。お前の冷徹(つめ)たいナイフを扱う分厚い手に確かに秘められた温もりに。お前が死んでしまったら俺はどうすれば良いんだ。涙目で息を切らせながら、病院に到着した俺は直ぐに病室の番号を聞き、階段をかけのぼる。エレベーターを使った方が体力的にも時間的にも良かったのだろうがそんなことにも気が回らないほど俺は焦っていた。恐れていた。

「はあっ…！はあ！…はあっ…！はあ…ボ、ボル…」

恐る恐る病室の扉を開くと、ボルキアは顔中に包帯を巻きながらも生きており、元気そうにベッドに座り読書をしていた。奴は俺が来ることが意外だったようだ。そんな表情をしている。

「これはこれは、私の見舞いに来てくれたのですか？」

「は、はあ…はあ…っはあ…か、顔…大丈夫なのか？」

「ああ、これですか…鬼龍の息子を名乗る男に挑まれましてね。情けない限りだ」

自嘲したように笑いながら顔の包帯を撫でるボルキア。鬼龍の息子…？ボルキアの言い方からするにあの龍星とかいうガキとは別の男のようだが…。

「そうか……俺が鬼龍を探してると噂を聞いて、ボディーガードのお前を…っ」

胸が痛い。自分の復讐のため、俺は大切な人に大怪我を負わせてしまったというのか。大の大人だというのに嗚咽がとまらない。

「気にすることはない。武術家としては珍しくもないことですから。」

ボルキアはそう言うと視線を手元の本に戻した。馬鹿野郎…！俺は震える足に力を込め歩くと、ボルキアを抱き締めた。夢にまでみたあの温もりが確かにここにあった。二度と失わぬことを願いながら、俺は涙が乾くまでそのままボルキアを感じていたのだった。